JP2012200190A - 清澄性の高い水溶性大豆多糖類及びそれを用いた乳化組成物 - Google Patents

清澄性の高い水溶性大豆多糖類及びそれを用いた乳化組成物 Download PDF

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靖彦 吉田
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Abstract

【課題】
長期保存や冷却保存の過程においても浮遊物或いは沈殿物の生成が抑制され、かつ、乳化力や分散安定力といった機能性も保持する水溶性大豆多糖類の提供及びこれを用いて安定性の高い乳化香料を提供する。
【解決手段】
大豆原料より抽出された水溶性大豆多糖類を含む溶液に、澱粉分解酵素を作用させ澱粉を分解する工程と蛋白質を凝集除去する工程を含み、該蛋白質を凝集除去する工程が、水溶性大豆多糖類溶液のpHをpH6〜8とpH2〜6未満の2つのpH域に調整後、それぞれ凝集除去することにより、清澄性、乳化力が高く、特に乳化香料用途に適した水溶性大豆多糖類が得られる。

【選択図】なし

Description

本発明は、清澄性の高い水溶性大豆多糖類及びこれを用いる、乳化性・安定性の高い乳化香料、特にアルコール飲料用に適正の高い、乳化香料及びこの乳化香料を用いたアルコール飲料に関する。
食品への着香の目的で種々の香料・製剤が用いられるが、油溶性の香料成分を飲料に使用する場合、そのままでは食品への添加が困難であるため、保護コロイド物質や乳化剤を用いて水中油型の乳化香料製剤として用いるのが一般的である。
保護コロイド成分としてアラビアガムや大豆多糖類(特許文献1)が知られているが、長期保存の際に、沈殿を生じたり乳化の安定性に問題を生じることがあり、さらに優れた保護コロイド成分が望まれていた。特に、対象とする飲料がアルコール飲料の場合、従来の保護コロイド成分では耐アルコール性が強いとは言えず、アルコール飲料用に適した、乳化力が高く、安定性にも優れた乳化香料及び香料に用いる、改良された保護コロイド成分が望まれている。
乳化香料についての研究で特にアルコール飲料用への改良として、酵素分解レシチンを含ませた低分子の合成乳化剤の配合剤による技術(特許文献2)が開示されているが低分子成分のみでは保護コロイド機能が不充分であるし、合成乳化剤の使用は消費者に忌避される等の問題が残っている。また、保護コロイド成分を用いる乳化香料において、油溶性香料と油溶性成分比を特定の割合に設定し、乳化粒子径を0.5μm以下にするという方法(特許文献3)も開示されているが、保護コロイド成分自体の乳化性は改良されていないし、乳化粒子径を非常に小さくしなければならない、という限定があり簡便に採用できるものとは言えない。
一方保護コロイド成分である大豆多糖類について、精製処理により品質を高め乳化力の向上や、製品に用いた場合の濁りや沈殿を少なくする工夫も種々行われており、活性炭処理、アミラーゼ処理、プロテアーゼ処理(特許文献4,5)などの技術が開示されている。しかし、実用性まで考えた場合に、溶液の清澄性や乳化性が両立されるものではなく、必ずしも満足できるものが得られていないのが現状である。
特開平7-107927号公報 特開2008-136487号公報 特開2006-257246号公報 特開2001-252092号公報 特開平10-36405号公報
本発明は、清澄性及び乳化性が高い水溶性大豆多糖類及びその製造方法を提供し、さらにこれを用いて、各種の乳化組成物、なかでも乳化性、保存安定性の高い乳化香料を提供するものであり、特にアルコール飲料用に適した乳化香料及びこれにより得られる香料成分の安定性の高いアルコール飲料を提供することである。
本発明者らは、上記の課題の解決に対し、乳化香料の保護コロイド成分である水溶性大豆多糖類の機能向上に鋭意取組み、不純物としての澱粉や蛋白質を除去する澱粉分解酵素処理と、特定のpHにおいて凝集処理を行うという製造方法により得られる水溶性大豆多糖類が、溶液での清澄性が高く、沈殿を生じず、乳化性・乳化安定性に優れること、さらにこの多糖類が特に乳化香料に好適であることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)10重量%水溶液とした場合の、濁度(OD610)が0.1以下であり、該水溶液を凝集処理後、遠心分離することにより得られる不溶性成分の量が全固形分に対して0.8重量%以下であることを特徴とする水溶性大豆多糖類。
(2)(1)に記載の水溶性大豆多糖類を含有する乳化組成物。
(3)乳化組成物が乳化香料である、(2)に記載の乳化組成物。
(4)(2)又は(3)の乳化組成物を含有する飲料。
(5)飲料がアルコール飲料である、(4)に記載の飲料。
(6)(2)又は(3)の乳化組成物を配合することを特徴とする飲料の製造方法。
(7)飲料がアルコール飲料である、(6)に記載の飲料の製造方法。
(8)大豆原料より抽出された水溶性大豆多糖類を含む溶液に、澱粉分解酵素を作用させ澱粉を分解する工程と蛋白質を凝集除去する工程を含み、該蛋白質を凝集除去する工程が、水溶性大豆多糖類溶液のpHをpH6〜8とpH2〜6未満の2つのpH域に調整後、それぞれ凝集除去することを特徴とする、(1)に記載の水溶性大豆多糖類の製造方法。
(9)2つのpH域のpHが1以上の差があるように選択する、(8)に記載の水溶性大豆多糖類の製造方法。
である。
水溶性大豆多糖類に対し、澱粉分解酵素処理及びpH6〜8とpH2〜6未満の2つのpH域での凝集処理を組み合わせた製造方法で、清澄性が高く、かつ乳化性・保存安定性の高い多糖類素材が得られるようになり、これを用いて各種の乳化組成物の品質向上の効果が得られることはもとより、乳化香料とすることにより、合成の乳化剤類の添加なしでアルコール飲料において長期保存しても安定性の高い高品質の乳化香料及び、香料成分の安定性が高く、優れた品質のアルコール飲料が得られる。
本発明により得られる水溶性大豆多糖類は従来品に比べ著しく清澄性が高く、10重量%水溶液にしたときの濁度(OD610)が0.1以下となっていることが特徴である。
また、凝集処理により蛋白質が減少しており、本明細書後記の凝集処理により生じる不溶性成分の量が、全固形分中の0.8重量%以下となっている。
本発明における水溶性大豆多糖類原料は、例えば大豆から豆腐を製造した際や脱脂大豆から大豆蛋白を抽出した際に副生するオカラから公知の方法で抽出して得ることができる。例えば、大豆蛋白質の等電点付近のpHで、80℃以上、好ましくは100℃〜150℃にて加熱し、抽出される水溶性画分を分画した後、そのまま乾燥するか、例えば活性炭処理或いは樹脂処理或いはエタノール沈殿処理して疎水性物質或いは低分子物質を除去し乾燥することによって、得ることができる。また、高純度のセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼを単独乃至併用して抽出しても良い。さらに市販の水溶性大豆多糖類を使用することもできる。
(澱粉分解酵素処理)
本発明において、大豆原料から多糖類の抽出を行った場合は、抽出液に対して、澱粉分解酵素処理を行う。かかる処理をpH調整による凝集処理と組み合わせることによって、さらに安定に清澄化された水溶性大豆多糖類を得ることができる。また市販の水溶性大豆多糖類のように乾燥品を用いる場合は改めて水溶液の状態として澱粉分解酵素処理をすればよい。
澱粉分解酵素処理の条件は特に限定されず、使用する澱粉分解酵素を適切な条件下で反応させれば良い。澱粉分解酵素の量は、処理対象の水溶性大豆多糖類中の澱粉を分解出来る量を用いる。通常、水溶性大豆多糖類には2重量%程度の澱粉が含まれている。そのため、澱粉が完全に分解できる量として、好ましくは水溶性大豆多糖類100gに対して0.4U程度となるよう添加すれば良い。ここでの1Uは1時間あたりに5.25gの澱粉を完全に分解する量と定義され、澱粉の完全な分解とは、ヨウ素液での呈色を示さなくなることで判断される。なお澱粉分解酵素を、高濃度で添加すると酵素そのものの蛋白質が原因で白濁が生じる場合があるので、あまり高濃度での添加は好ましくない。反応度合いは、澱粉分解酵素の濃度、反応温度、pHによって大きく左右される。また、市販の澱粉分解酵素には、プロテアーゼや他の酵素が含まれるため、他の酵素の影響が出ないようにするため、0.004U程度に添加量を著しく少なくする場合や、240U程度にまで添加量を増やして、短時間で分解することも可能であるが、その時の最適条件に合わせて添加量を調整する事ができる。
また、これらの処理は、水溶性大豆多糖類の抽出前である原料段階、原料から多糖類を抽出する工程及び抽出後のいずれかの液に添加することができる。
澱粉分解酵素としては、β−アミラーゼ、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等が例示でき、これらは市販されていて容易に入手することができるので、これらの澱粉分解酵素を適宜使用すれば良い。
澱粉分解酵素処理後に処理液中の不溶物を除去することは、清澄性の向上に有効である。また、澱粉分解酵素や澱粉分解酵素中に一部含まれる蛋白分解酵素により低分子化した澱粉加水分解物や蛋白加水分解物を、限外ろ過(UF)や精密ろ過(MF)、半透膜や逆浸透膜(RO)等ポアサイズの小さいろ過膜を利用して処理すると長期保存時での安定性向上に効果がある。
(pH調整による蛋白質等の凝集処理)
pH調整による蛋白質等の凝集処理は、大豆原料由来の蛋白質のうち、水溶性大豆多糖類の清澄性を阻害する蛋白質を凝集させ、これを除去することによって多糖類の清澄性を大きく向上させることができる。10重量%という高濃度の水溶液であっても清澄性を保つことが可能となる。
蛋白質等の凝集処理は、水溶性大豆多糖類溶液のpHをpH6〜8に調整後とpH2〜6未満に調整後にそれぞれ凝集除去することにより行う。
例えば、先ず、水溶性大豆多糖類溶液を20%水酸化ナトリウム溶液でpH6〜8の中性領域、好ましくはpH7にする事で、凝集させる。凝集にかける時間、温度に特に限定は無いが、例えば60℃で30分、十分に凝集させた後、遠心分離(1500×g,20分)により、凝集物を除去する。
次に、凝集物を除去した上澄み液を、塩酸でpH2〜6未満、好ましくは、大豆蛋白成分の等電点付近のpHである、pH4〜6未満にする事で、凝集させる。凝集にかける時間、温度に特に限定は無いが、例えば60℃で30分、十分に凝集させた後、遠心分離(1500×g、20分)により、凝集物を除去する。
なお、凝集処理に関して、凝集温度が高くなり過ぎると微細な不溶物が充分に凝集しないことがあり、100℃以下で行うことが好ましい。また遠心分離の条件として1000×g未満だと微細不溶物が十分に除去できず、清澄性が充分には出ない場合もある。2度行う凝集処理のpHについて、2つのpH間でpH1以上の差があるようにpHを選択することが好ましい。
(水溶液の濁度)
本発明における濁度は、該多糖類を水に溶解して10重量%濃度の水溶液を調製し、分光光度計(日本分光株式会社製: JASCO U-best55)を用いて610nmの波長における吸収度(OD610、セル長:1cm)を測定した値である。即ち、値の高いものほど水溶液の清澄性が低く、値の低いものほど清澄性が高くなる。ちなみに、濁度は水溶液の濃度によって変動し、水溶液の濃度が高くなるほど濁度が上昇する傾向にある。したがって、本発明における濁度の規定は、例えば3重量%濃度程度の薄い水溶液の濁度の規定と比較して、より清澄性評価の精度が高いものである。
本発明の水溶性大豆多糖類は、該多糖類を10重量%水溶液としたときのOD610の値としての濁度は0.1以下、好ましくは0.07以下という極めて低値であることが特徴である。そのため、長期保存や冷却保存の過程においても浮遊物或いは沈殿物の生成が有効に低減されており、保存時の褐変現象の発生も低減されたものである。
また本発明の水溶性大豆多糖類は、澱粉分解酵素処理により澱粉含有量が非常に少なくなっているという特徴も有する。
(澱粉量)
本発明の水溶性大豆多糖類は澱粉含量が非常に少ない、通常固形分中0.1重量%未満の含有量となっている。澱粉が含まれない事により、低温保存時での白濁が極めて発生しにくい。なお澱粉量の測定はヨウ素呈色法により求める。
本発明の水溶性大豆多糖類は以下に示すように蛋白性の凝集物である不溶性成分が極めて少ない特長をも有している。
(水溶性大豆多糖類中の不溶性成分)
本発明の水溶性大豆多糖類の不溶性成分とは、10重量%水溶液に対し、異なったpHにおいて、蛋白質を凝集除去した時に生ずる凝集物のことであり、その量は、全固形分中0.8重量%以下である。
本発明の水溶性大豆多糖類は、効率的な凝集処理が行われており長時間経過後に蛋白質等が再凝集物を形成することも殆どない。なお、粗蛋白質含量はケルダール法により求める。
(水溶性大豆多糖類中の不溶性成分量の測定方法)
水溶性大豆多糖類の10重量%水溶液を20重量%水酸化ナトリウム溶液でpH7にし、30分、60℃で十分に凝集させた後、遠心分離(1500×g、20分)により、凝集物を回収する。次に、凝集物を回収した上澄み液を、塩酸で蛋白成分の等電点付近のpH5にし、30分、60℃で十分に凝集させた後、遠心分離(1500×g、20分)により、凝集物を回収する。それぞれ回収した凝集物を混合し、凍結乾燥した後、重量を測定し、全体の固形分重量に対する割合を求める。
(用途)
本発明の水溶性大豆多糖類は、従来は除去が困難であった多糖類の水溶液中に混在する浮遊物あるいは不溶物が極めて有効に除去されているため、液体形態の製品に使用されて流通される場合に、保存中の製品に浮遊物や沈殿が極めて生じにくいものである。また高濃度の水溶液であっても大豆多糖類由来の白濁がなく清澄性が極めて高いため、視覚的なイメージが損なわれにくい。さらに、本発明の水溶性大豆多糖類は、分散安定能や乳化能等の機能性が向上するため、食品や非食品に添加した場合に従来と同等以上の効果を発揮する。食品用途としては、酸性蛋白飲料等の飲料、乳化香料等の乳化組成物に分散安定剤あるいは乳化剤として用いることができ、小麦粉製品や米飯には老化防止剤等としても用いることができる。また非食品用途としては、化粧品、医薬品、医薬部外品、化成品、インク、塗料、繊維、樹脂、石油製品などにも用いることができる。
(乳化香料)
本発明の水溶性大豆多糖類の特に有利な用途として、乳化香料への使用が例示される。乳化香料は、精製した精油や調合香料を植物油に溶解し、これをアラビアガムや水溶性大豆多糖類等の乳化剤を用いて乳化した水中油型エマルジョンである。
(乳化香料に使用する材料:水及び/又は多価アルコール類)
本発明において使用する水及び/又は多価アルコール類において、水は特に限定されるものではなく、食品製造で使用される程度の処理をしたものならよい。また、多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、マルチトール、デキストリン、水飴、グルコース、ショ糖、乳糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、オリゴ糖、トレハロース、マルトースなどの糖類及びこれらの2種以上の混合物を例示することができる。
(乳化香料に使用する可食性油性材料:油性着香料)
本発明において使用する油性着香料としては、例えばオレンジ、グレープフルーツ、夏みかん、ベルガモット、ライム、レモン、ユズ等の柑橘類精油、花精油、スペアミント油、ペパーミント油等の植物精油、オニオン、ガーリック、カルダモン、クミン、クローブ、ジンジャー、セロリ、ナツメグ、バジル、パセリ、パプリカ、ブラックペッパー、ローズマリー、ローレル等のスパイス類の精油またはオレオレジン類、コーラナッツエキストラクト、コーヒーエキストラクト、ココアエキストラクト、紅茶エキストラクト、スパイス類エキストラクト、ワニラエキストラクト等の油性のエキストラクト及びこれらのオレオレジン類、オイゲノール、ゲラニオール、酢酸、ジアセチル、シトラール、バニリン、プロピオン酸エチル、メントール、酪酸、リモネン等のフレーバー物質、合成香料化合物、油性調合香料組成物及びこれらの任意の混合物等が挙げられる。
(乳化香料に使用する可食性油性材料:動植物油脂類)
本発明において使用する動植物油脂類としては、例えば、オリーブ油、カカオ脂、コーン油、胡麻油、小麦胚芽油、米油、米糠油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、菜種油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、ヤシ油、落花生油、牛脂、豚脂、鶏油、魚油、乳脂等が挙げられる。
(乳化香料に使用する可食性油性材料:中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド)
本発明において使用する中鎖飽和脂肪酸トリグリセライドとしては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸等の炭素数6〜10の脂肪酸から組成されるトリグリセリドで、加工食用油として用いられるものが挙げられる
(乳化香料に使用する可食性油性材料:油溶性色素類)
本発明において使用する油溶性色素類としては、例えば、アナトー色素、クロロフィル、β−カロチン、パプリカ色素等の油溶性天然色素類等が挙げられる。
(乳化香料に使用する可食性油性材料:油溶性ビタミン類)
本発明において使用する油溶性ビタミン類としては、例えば、肝油、ビタミンA、ビタミンA油、ビタミンB2酪酸エステル、ビタミンD3、天然ビタミンE混合物等が挙げられる。
(乳化香料に使用する可食性油性材料:天然樹脂)
本発明において使用する天然樹脂としては、例えば、エレミ、エステルガム、コーバル、ダンマル、ロジン等の植物性樹脂類が挙げられる。これら、可食性油性材料はそれぞれ単独で使用することができ、あるいは2種以上の混合物の形で用いることができる。
(乳化香料に使用する材料:水溶性大豆多糖類)
本発明において乳化組成物を得るために使用する水溶性大豆多糖類は、水溶液での濃度として通常0.1〜50重量%の範囲で用いられ、また配合量としては、可食性油性材料の合計1重量部に対し、通常0.5〜4重量部の範囲内を例示することができる。
本発明の乳化香料の調製法の例として、前述した油性材料に対し、例として水溶性大豆多糖類の水溶液及び多価アルコールを混合し、ホモミキサー、高圧ホモゲナイザー等を用いて乳化処理する事により、粒子径約0.2〜約1.0ミクロンの極めて微細で安定性の優れた乳化液が作成可能である。
目的とするものにより乳化前の混合物にポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の親水性界面活性剤、アラビアガム、キサンタンガム、CMC、トラガントガム等の天然及び合成糊料、カゼイン、ゼラチン等の蛋白質、更には保存性を向上させる目的でクエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸等の有機酸を配合する事もできる。また一方、前記油性材料に予め、オクテニルコハク酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンの如き親油性の乳化剤を添加混合する事もできる。
さらに、本発明の乳化香料を飲料、例えば果汁飲料、炭酸飲料、発酵乳飲料、アルコール飲料等に使用する場合、飲料中で安定な乳化粒子を得るために、油性材料に予め、シュークロース・ジアセテート・ヘキサイソブチレート(SAIB)等の比重調整剤を添加して乳化後の組成物を添加しようとする飲料の比重に合致するようにすることもできる。なお、乳化香料には従来アラビアガムが良く用いられてきたが、本発明の水溶性大豆多糖類はこの乳化用途においては、酸性糖飲料に空気を吹き込んだ場合にその濁度を保持する機能を有すると共に、アラビアガムよりも少量の添加量で乳化粒子を安定化させることが可能である。このような乳化能の高さは従来の水溶性大豆多糖類でも得られなかったものであり、添加量を減らせることによる原料コストの低減にも有利である。例えば、乳化香料に本発明の水溶性大豆多糖類を使用する場合、その添加量は乳化香料の液中3〜10重量%程度で足りる。これに対して従来の水溶性大豆多糖類やアラビアガムでは10重量%を超える量を添加しなければ乳化粒子径が増大し、長期の乳化安定性が損なわれる傾向にある。
アルコール飲料は、例えば、74重量%酸性糖液に、アルコール濃度が25重量%となるよう高濃度アルコールを混合した液に本発明の乳化香料を1重量%添加することで、乳化香料が配合されたアルコール飲料が製造できる。本発明の水溶性大豆多糖類を含有する乳化香料は、乳化粒子径はそのままで乳化能を有する。これに対して従来の水溶性大豆多糖類やアラビアガムでは、同じ1重量%を添加すると、乳化粒子径が増大し、乳化安定性が損なわれる傾向にある。
(乳化物の粒子径測定方法)
乳化物の粒子径(メジアン径)は、レーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(株式
会社島津製作所製)で測定する。
以下、実施例及び比較例を例示して本発明をより具体的に説明するが、これは例示であって本発明の精神がこれらの例示によって制限されるものではない。尚、例中、「%」は何れも重量基準を意味する。
(実施例1) 澱粉分解酵素処理及びpH7調整、pH5調整による凝集処理
分離大豆蛋白製造工程において得られた生オカラの乾燥粉末に11.5倍量の水を加え、長期保存時に沈殿の出やすい抽出条件、すなわち、塩酸にてpHを5.0に調整し、120℃で1.5時間加圧加熱抽出した。これを50℃まで冷却後、遠心分離(10000×g,30分)して上清部と沈殿部に分離し、上清部を回収して4%濃度の水溶性大豆多糖類抽出液(抽出液α)を得た。この多糖類抽出液を20%水酸化ナトリウム溶液でpH7にし、澱粉分解酵素(BAN480L、Novozymes社製)を水溶性大豆多糖類の固形分100gに対して130U(1Uは1時間あたりに5.25gの澱粉を分解する量と定義する)となるよう添加し、50℃で1時間反応させた。反応後は、抽出液のpHは7(中性)のまま、100℃、20分加熱処理し、凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離を行い、凝集物を除去した。次に凝集物を除去した上澄み液を60℃まで冷却し、塩酸で蛋白成分の等電点付近のpH5にし、30分、十分に凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離し、凝集物を除去した。
得られた上澄み液の一部を採取し、沃素液(KI 2%、I2 0.2%水溶液)を滴下し、澱粉の呈色反応がないことを確認した。
得られた上澄み液は一旦凍結乾燥し、「水溶性大豆多糖類A」を得た。
この10%水溶液を作成し、分光光度計を用いて溶液の濁度(OD610)を測定した。更に、これらの溶液について室温または5℃で1晩静置し、沈殿の生成状態を観察した。また、得られた水溶性大豆多糖類について、固形分中の粗蛋白質含量、不溶性成分量を測定した。
(比較例1)澱粉分解酵素処理なし、pH7調整による凝集処理
比較例として、澱粉分解酵素処理を行わず、pH7調整による凝集処理を行った例を示す。
実施例1と同様の方法で調製した抽出液αを、20%水酸化ナトリウム溶液でpH7にし、蒸留水を実施例1で添加した澱粉分解酵素と等量となるよう添加し、50℃で1時間維持した後、抽出液を100℃、20分加熱処理し凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離を行い、凝集物を除去した。次に凝集物を除去した上澄み液を60℃まで冷却し、さらに蒸留水を実施例1で蛋白成分の等電点付近のpH5の調整に使用した塩酸と等量を添加し、攪拌した後、1500×g、20分間遠心分離を行い、上澄み液を分取した。次いでこれを凍結乾燥し、「水溶性大豆多糖類B」を得た。これについて実施例1と同様にして品質を評価した。
(比較例2) 澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理
比較例として、澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理を行った例を示す。
実施例1と同様の方法で調製した抽出液αを、20%水酸化ナトリウム溶液でpH7にし、同様に澱粉分解酵素処理を行った。反応後は、抽出液のpHは7(中性)のまま、100℃、20分加熱処理し、凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離を行い、凝集物を除去した。次に凝集物を除去した上澄み液を60℃まで冷却し、さらに蒸留水を実施例1で蛋白成分の等電点付近のpH5の調整に使用した塩酸と等量を添加し、攪拌した後、1500×gで20分間遠心分離を行い、上澄み液を分取した。次いでこれを凍結乾燥し、「水溶性大豆多糖類C」を得た。これについて実施例1と同様にして品質を評価した。
(比較例3) pH7調整、pH5調整による凝集処理のみ
比較例として、pH7調整、pH5調整による凝集処理のみを行った例を示す。
実施例1と同様の方法で調製した抽出液αを、20%水酸化ナトリウム溶液でpH7にし、蒸留水を実施例1で添加した澱粉分解酵素と等量となるよう添加し、50℃で1時間維持した。反応後は、抽出液のpHは7(中性)のまま、100℃、20分加熱処理し、凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離を行い、凝集物を除去した。次に凝集物を除去した上澄み液を60℃まで冷却し、塩酸で蛋白成分の等電点付近のpH5にし、30分、十分に凝集させた後、1500×gで20分間遠心分離を行い、上澄み液を分取した。次いでこれを凍結乾燥し、「水溶性大豆多糖類D」を得た。
これについて実施例1と同様にして品質を評価した。
実施例1及び比較例1、2、3で得られた水溶性大豆多糖類溶液の品質評価の結果を表1に示した。
(表1)それぞれの反応処理液の濁度と保存後の沈殿生成状態
Figure 2012200190
以上の結果から、実施例1のように水溶性大豆多糖類溶液に対して澱粉分解酵素処理と、pH7調整による蛋白質の凝集処理とpH5調整による蛋白質の凝集処理とを組み合わせることにより、比較例2の澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理に比較して、水溶性大豆多糖類溶液の清澄性が顕著に向上した。実施例1の水溶性大豆多糖類水溶液は室温だけでなく5℃の冷蔵下においても沈殿が生じることはなく、極めて安定性が高いことが示された。また、比較例1、比較例3は実施例1と同様に溶液のpHを7に調整後、50℃の加熱処理を水溶性大豆多糖類溶液に対して行ったものであるが、澱粉分解酵素処理をしていない場合、実施例1に相当するレベルの清澄化効果は得られないことが示された。
(乳化香料の調製)
(応用例1〜6)
実施例1及び比較例1、2の方法でそれぞれ得られた水溶性大豆多糖類A〜Cを使用し、下記手順により各乳化香料を調製した。
蒸留水60gにグリセリン8gを加え、攪拌しながら、水溶性大豆多糖類(澱粉分解酵素処理及びpH調整による凝集処理)16gを溶解させ、50%クエン酸溶液でpH4.0に調整した。次に、レモンオイル3.2g、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)4.8g及びSucrose diacetate hexaisobutyrate(ショ糖二酢酸六イソ酪酸エステル)(SAIB)8.0gを20:30:50の重量比となるよう予め混合したもの(比重1.010)を水溶性大豆多糖類溶液に添加し、45℃で保温した。保温した溶液をホモゲナイザー「Polytron」(KINEMATICA社製)で、10000rpmの条件下で10分間予備攪拌し、さらに高圧ホモゲナイザー「ミニラボ8.30H型」(RANNIE社製)を用い、圧力150kgf/cm2(14.71MPa)で2回均質化を行い、乳化香料を得た(応用例1〜3)。また、水溶性大豆多糖類の配合量を16gから5.3gに変更し、代わりに蒸留水10.7gを添加し、その他の処方は上記と同様にして乳化香料を得た(応用例4〜6)。さらに、水溶性大豆多糖類の配合量を16gから10.7gに変更し、代わりに蒸留水5.3gを添加し、その他の処方は上記と同様にして乳化香料を得た(応用例7〜9)。参考として、応用例1、4、7の水溶性大豆多糖類をアラビアガムに置換し、同様にして乳化香料を得た(参考例1、2、3)。
応用例1〜6、参考例1、2の乳化香料について、酸性糖飲料中での評価を行った。グラニュー糖87g、クエン酸3gを適量の水に溶解し、全体を1Lとした。このシロップを200mlに分け、各乳化香料0.2gを添加し、粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(株式会社島津製作所製)で測定した。また、各乳化香料を5℃で1ヶ月間保管し、外観について目視観察し、沈殿の発生状況を調べた。まとめた結果を表2に示す。
(表2)
Figure 2012200190
表2から明らかなように、水溶性大豆多糖類の添加量を16%にした応用例1〜3の場合、乳化特性は、澱粉分解酵素処理、pH調整による凝集処理の有無に関係なく、いずれも良好な乳化力を有していた。しかしながら、乳化香料を長期で冷蔵保管すると、水溶性大豆多糖類B(澱粉分解酵素処理なし、pH7調整による凝集処理)を使用した応用例2では沈殿が多量に発生してしまい、水溶性大豆多糖類C(澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理)を使用した応用例3でも沈殿が生じた。一方、水溶性大豆多糖類A(澱粉分解酵素処理及びpH7調整、pH5調整による凝集処理)を使用した応用例1では全く沈殿が生じなかった。
次に、水溶性大豆多糖類の添加量を5.3%に減らした応用例4〜6の場合、乳化特性は、澱粉分解酵素処理、pH調整による凝集処理の有無の違いにより、乳化力が大きく変化した。すなわち、水溶性大豆多糖類B(澱粉分解酵素処理なし、pH7調整による凝集処理)を使用した応用例5では乳化粒子径が顕著に大きくなり、さらに沈殿も発生し、水溶性大豆多糖類C(澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理)を使用した応用例6でも乳化粒子径が大きくなり、沈殿が生じた。一方、水溶性大豆多糖類A(澱粉分解酵素処理及びpH7調整、pH5調整による凝集処理)を使用した応用例4では、乳化粒子径も変化せず、沈殿も生じることはなく、極めて安定性が高いことが示された。なお、沈殿量について、水溶性大豆多糖類の添加量が少ない応用例5、6でやや減少しているが、このことは応用例2、3の水溶性大豆多糖類では、多糖類そのものが沈殿の原因となっていることを示している。
また水溶性多糖類としてアラビアガムを用いた場合、添加量を16%にした参考例1では良好な乳化力を有し、沈殿も生じなかったが、添加量を5.3%に減らした参考例2では、沈殿は見られなかったものの、乳化粒子径が増大し、乳化安定性が顕著に悪くなる傾向が見られた。
以上の結果より、水溶性大豆多糖類Aは、水溶性大豆多糖類B,Cやアラビアガムと比較してより少量の添加量で乳化力を発揮することが可能であることが示された。
(アルコール飲料の評価)
応用例4〜9、参考例2、3の乳化香料について、酸度とアルコール濃度が高い条件で、アルコール飲料のシロップ段階での評価を行った。酸性糖液(グラニュー糖43.5g、クエン酸1.5g、水29.0g)74.0g、乳化香料1.0gを予め混合した後、エタノール25.0gを添加し、全体を100gとした。このシロップを各経過時間反応後(直前、直後、3時間、6時間、24時間)、粒子径をレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD2000A」(株式会社島津製作所製)で測定した。また、外観について目視観察し、凝集の発生状況を調べた。まとめた結果を表3に示した。
(表3)
Figure 2012200190
表3から明らかなように、水溶性大豆多糖類の添加量を5.3%にした応用例4〜6の場合、乳化特性は、水溶性大豆多糖類B(澱粉分解酵素処理なし、pH7調整による凝集処理)を使用した応用例5、水溶性大豆多糖類C(澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理)を使用した応用例6では添加直後から乳化粒子径が増大し、24時間後には、凝集が生じ、乳化安定性が顕著に悪くなる傾向が見られた。
一方、水溶性大豆多糖類A(澱粉分解酵素処理及びpH7調整、pH5調整による凝集処理)を使用した応用例4では添加直後から乳化粒子径が増大するものの、24時間後の凝集が少なかった。
次に、水溶性大豆多糖類の添加量を10.7%にした応用例7〜9の場合、乳化特性は、水溶性大豆多糖類B(澱粉分解酵素処理なし、pH7調整による凝集処理)を使用した応用例8では添加直後から乳化粒子径が増大し、24時間後には凝集が生じ、水溶性大豆多糖類C(澱粉分解酵素処理及びpH7調整による凝集処理)を使用した応用例9では添加直後から乳化粒子径が増大するものの、24時間後の凝集が少なかった。
一方、水溶性大豆多糖類A(澱粉分解酵素処理及びpH7調整、pH5調整による凝集処理)を使用した応用例7では添加直後から乳化粒子径に変化が見られず、さらに24時間経過後も凝集も見られず、極めて安定性が高いことが示された。
また水溶性多糖類としてアラビアガムを用いた場合、添加量を5.3%にした参考例2では添加直後から乳化粒子径が増大し、24時間後には凝集が生じ、添加量を10.7%に増やした参考例3では、添加直後から乳化粒子径が増大するものの、24時間後の凝集が少なかった。以上の結果より、水溶性大豆多糖類Aは、水溶性大豆多糖類B,Cやアラビアガムと比較してより少量の添加量で乳化力を発揮することが可能であることが示された。

Claims (9)

  1. 10重量%水溶液とした場合の、濁度(OD610)が0.1以下であり、該水溶液を凝集処理後、遠心分離することにより得られる不溶性成分の量が全固形分に対して0.8重量%以下であることを特徴とする水溶性大豆多糖類。
  2. 請求項1に記載の水溶性大豆多糖類を含有する乳化組成物。
  3. 乳化組成物が乳化香料である、請求項2に記載の乳化組成物。
  4. 請求項2又は3の乳化組成物を含有する飲料。
  5. 飲料がアルコール飲料である、請求項4に記載の飲料。
  6. 請求項2又は請求項3の乳化組成物を配合することを特徴とする飲料の製造方法。
  7. 飲料がアルコール飲料である、請求項6に記載の飲料の製造方法。
  8. 大豆原料より抽出された水溶性大豆多糖類を含む溶液に、澱粉分解酵素を作用させ澱粉を分解する工程と蛋白質を凝集除去する工程を含み、該蛋白質を凝集除去する工程が、水溶性大豆多糖類溶液のpHをpH6〜8とpH2〜6未満の2つのpH域に調整後、それぞれ凝集除去することを特徴とする、請求項1に記載の水溶性大豆多糖類の製造方法。
  9. 2つのpH域のpHが1以上の差があるように選択する、請求項8に記載の水溶性大豆多糖類の製造方法。
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