JP2012103050A - 遠隔乱気流検知方法及びそれを実施する装置 - Google Patents

遠隔乱気流検知方法及びそれを実施する装置 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の目的は、遠距離領域の計測であっても計測信頼性の劣化を抑えてより遠距離まで計測を可能にするとともに、近距離領域においても計測精度の向上を実現することが可能な小型省電力の遠隔乱気流検知装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の遠隔乱気流検知方法は、レーザ光を送信信号として大気中に放射(送信)して、該レーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を受信信号として受信し、該送信信号と該受信信号との間の周波数のドップラーシフト量に基づき遠隔領域の気流の風速を計測する光学式遠隔気流計測において、受信したレンジビン内における散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線でカーブフィッティングすることにより風速幅を求め、該風速幅により乱気流を高精度に検知するものとした。
【選択図】図1

Description

本発明は、遠隔乱気流検知方法に関し、特にレーザ光を大気中に放射して、そのレーザ光の大気中での散乱光を受信することにより、数100mから10km程度までの遠隔領域の風速をドップラー効果に基づき計測し乱気流を検知する遠隔乱気流検知方法及びそれを実施する装置に関するものである。
航空機事故の主要因として近年乱気流が注目されており、航空機に搭載して乱気流を事前に検知する装置として、レーザ光を利用したドップラーライダーが研究開発されている(例えば、非特許文献1を参照)。なお、ライダー(LIDAR)とは、光を利用した検知手法で「Light Detection And Ranging」を略したものである。また、照射された光線が、大気中に浮遊する微小なエアロゾルによって散乱され、そのレーザ散乱光を受信してドップラー効果による周波数変化量(波長変化量)を測定することによって風速を測定することからドップラーライダーと呼ばれている。一般的なドップラーライダーは、パルス状のレーザ光を放射して、そのレーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を前記ドップラーライダーで受信することにより、ドップラー効果に基づき遠隔領域の風速を計測するものであり、地上に設置して上空の気流を観測する装置は既に実用化されている。
本発明者は先に特許文献1の「風擾乱予知システム」を提示した。この発明は、3次元的な風擾乱を計測することができ、従来のウインドシア警告システムのような予告なしの突然の警告ではなく、信頼できる警告かどうかを事前に確認することができ、どのような対処をするべきか判断しやすい形態で検知でき、そして、航空機に搭載する際、空気力学的及び構造的な影響が少なく、更に、ピト一管では計測出来ない20〜30m/s以下の速度、さらに気流方向が機体軸線と大きく異なる場合でも測定が可能で位置誤差を生じない計測システムを提供することを目的としたもので、この風擾乱予知システムは、ヘテロダイン受信器を内蔵したコヒーレント方式のレーザ風速計を航空機に搭載し、レーザ光を円錐状に走査しながら照射して、飛行中の機体前方の風擾乱領域からの散乱光を受光することにより、遠方の三次元的な気流の速度を計測する方式を採用した。また、計測した3次元の気流情報を上下風および前後風が機体に及ぼす影響を考慮して、上下風のみに換算して2次元に簡易化表示し、風擾乱について乱流強度および平均風に分解して表現するようにした。また、計測した気流情報を操縦者に伝達する際、擾乱の位置を距離ではなく、その擾乱に遭遇するまでの時間を基準として表示するようにし、風計測ライダの円筒状の光学系を一部切欠いて搭載性を向上させるようにしたものである。
ドップラーライダーで観測された気流は、特許文献2の「乱気流の検知方法」に示されるFh−ファクタを用いて、乱気流の強度を判定することができる。ただし、Fh−ファクタでは2回の計測値の差分を計算する関係上、2回の計測値のどちらか一方あるいは両方が計測不良である場合には不正な数値が算出されてしまう。
この種のドップラーライダーで検出するレーザ散乱光の受信強度は装置と計測領域との距離の2乗にほぼ反比例するために、一般的に近距離の計測では受信信号強度が高く、計測精度も高くなるが、遠距離になるに従い内部ノイズ成分に対して受信信号強度が低くなり、徐々に不正計測値が増加して計測信頼性が低下するという性質(特性)がある。したがって、Fh−ファクタによる乱気流判定では、遠距離で不正な計測となる確率が高くなる。従来の技術で遠距離の計測性能の向上を図ろうとする場合、送信出力を増加させる方法及び受光面積を増大させる方法があるが、いずれも装置の大型化や消費エネルギー増大によるコスト増加が避けられない。特に航空機に搭載する場合には、搭載用に利用することができる空間や装置を駆動する電力に制限があり、かつ、旅客機の巡航する高高度では大気中のエアロゾル量が減少するために、性能低下は避けられず、送信出力を増加させる方法等で計測性能を向上させることには限界がある。
また、乱気流による航空機の動揺の程度は一般的に操縦士の感覚により報告されている。航空機の加速度を測っていても後で修正することはないし、加速度の周波数によって危険性の度合いが異なるため、単純に加速度のみで動揺の程度を表すことは適当ではない。
特開2003−14845号公報(特許第3740525号公報)「風擾乱予知システム」 平成15年1月15日公開 特開2007−232695号公報 「乱気流の検知方法」 平成19年9月13日公開
H.Inokuchi, H.Tanaka, and T.Ando, " Development of an Onboard Doppler LIDAR for Flight Safety," Journal of Aircraft,Vol. 46, No. 4, pp. 1411-1415, July-August 2009.
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、その目的は、遠距離領域の計測であっても計測信頼性の劣化を抑えてより遠距離まで計測を可能にするとともに、近距離領域においても計測精度の向上を実現することが可能な小型省電力の遠隔乱気流検知装置を提供することにある。
前記目的を達成するために本発明の遠隔乱気流検知方法は、レーザ光を送信信号として大気中に放射(送信)して、該レーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を受信信号として受信し、該送信信号と該受信信号との間の周波数のドップラーシフト量に基づき遠隔領域の気流の風速を計測する光学式遠隔気流計測において、受信したレンジビン内における散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線でカーブフィッティングすることにより風速幅を求め、該風速幅により乱気流を高精度に検知するものとした。
また、本発明の遠隔乱気流検知方法の1形態では、上記構成に加え、乱気流の強度を遠隔領域の進行方向風速幅に比例する数値で表すものとした。
また、本発明の遠隔乱気流検知方法の他の形態では、上記構成に加え、航空機の動揺の程度を航空機の垂直加速度から周波数の低い成分と高い成分を除去した上で、一定時間連続する最大垂直加速度で定義するものとした。
本発明の遠隔乱気流検知装置は、レーザ光を送信信号として大気中に放射(送信)する手段と、該放射レーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を受信信号として受信する手段と、該送信信号と該受信信号とを混合処理して得られる両信号間の周波数のドップラーシフト量に基づき遠隔領域の気流の風速を演算計測する信号処理手段とを備えた光学式遠隔気流計測装置において、前記信号処理手段は、レンジビン内における散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線でカーブフィッティングすることにより風速幅を求め、該風速幅により乱気流を検知する演算機能を備えるものとした。
本発明の遠隔乱気流検知方法及びそれを実施する装置は、従来のレーザ送信出力を増加させる方式または受光面積を増大させる方式には依らずに、それに代わり計測信号をカーブフィッティング処理することにより、計測レンジの拡大を実現しながら同時に遠距離領域の計測精度劣化を防止するとともに、近距離領域においても計測精度向上を実現することが可能となる。またその装置は、航空機に搭載可能な小型省電力の装置として構成することが可能となる。
本発明装置が航空機に搭載されることによって、パイロットが飛行前方の乱気流の危険性を事前に余裕を持って容易かつ確実に検知し、危険を回避するための適切な措置を取ることが出来るようになる。従って、本遠隔乱気流検知装置は、航空機の乱気流事故を防止することが好適に期待でき、空の安全性を高めることに大きな貢献ができる。
本発明の光学式遠隔気流計測装置としてのドップラーライダーを示す構成説明図である。 本発明のフィッティング処理による計測距離(Detectability)に対する残差2乗和特性、収束特性及びフィッティングの一例を示す図である。 本発明に係るフィッティング処理の適用結果の一例(弱い乱気流に遭遇)を示す図である。 本発明に係るフィッティング処理の適用結果の一例(やや乱れた気流中を飛行)を示す図である。 本発明に係る風速幅と垂直加速度との相関関係を示す図である。 本発明に係る航空機の動揺指標の算出を説明する図で、(a)は機体の垂直加速度、(b)はそのスペクトルである。 本発明に係る航空機の動揺指標の算出を説明する図で、(a)はフィルタ特性、(b)はフィルタで補正後の垂直加速度である。
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の光学式遠隔気流計測装置としてのドップラーライダー100の基本構成をを示す図である。このドップラーライダー100は、大気中に浮遊するエアロゾルに対しレーザ光を送信光として照射して、エアロゾルからのレーザ散乱光を受信光として受信する光学系10と、その受信光と送信光との波長変化量(ドップラーシフト量)に基づいて風速を計測する計測器本体20とからブロック構成されている。
光学系10は、送信光となる微弱なレーザ光(参照光)を発生する基準光源1と、その微弱なレーザ光を増幅して送信光とする光ファイバアンプ2と、該光ファイバアンプ2を励起するポンプ光としてのレーザ光を発生する励起光源3と、送信光を遠方に放射すると共に遠方からの散乱光を集光する光学望遠鏡4とから成る。なお、送信光としては、例えば波長1.5μm帯の近赤外線レーザ光を、励起光源としては高効率のレーザダイオードを各々使用することが可能である。また、上記ドップラーライダー100のような、ファイバアンプ式のドップラーライダーは、小型、軽量、省電力、低電磁ノイズ、レイアウトの高い自由度、耐振動性、高い防塵性、加工容易性を備え、液体冷却機構の省略を可能にする等、枚挙に暇がない程の多項目にわたり航空機搭載用として優れた利点を備えている。
計測器本体20は、レーザ散乱光を受信し参照光と合成しビート信号を出力する光受信機5と、そのビート信号を処理し機体前方の気流の風速を計測する信号処理器6と、風速の計測結果を表示する表示器7とから構成されている。なお、後述するように、信号処理器6では、散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線にカーブフィッティング処理して風速幅を求めることにより、受信強度が低下する遠距離に係る計測精度の劣化防止や近距離領域に係る計測精度の向上を実現している。
このように、上記ドップラーライダー100は、パルス状のレーザ光(送信光)を大気中に放射してそのレーザ光の大気中でのレーザ散乱光(受信光)を受信することにより、ドップラー効果に基づき遠隔領域の風速を計測する装置である。そして、受信光を時系列に分割することにより、距離方向の計測領域を特定(特定された計測領域をレンジビンと称する)して、同時に複数領域の風速を計測することが可能である。しかしながら、このドップラーライダー100において、送信光については光線が収束されているために空間伝搬損失は少ないが、受信光は散乱光が拡散するために距離の2乗にほぼ反比例して受信強度が低下する。このため、遠方領域の計測では内部ノイズ成分の比率が卓越し、不正な計測値が増加することとなる。また、近距離であっても特異な大気状態により一時的に受信強度が低下するという現象が生じることもある。
本発明では、ドップラーライダー100が受信した散乱光のパワースペクトルに対し、ガウス分布曲線へのカーブフィッティング処理を行い、受信強度の低下などによる計測精度の劣化を改善する。まず、計測する風速の平均値や分散値(標準偏差)は、受信した散乱光のパワースペクトルからモーメント法を用いて算出する。一般的に、パワースペクトルS(f)のk次モーメントE(fk)は、以下で与えられる。
ここで、fはドップラー周波数、Sn(f)は正規化されたパワースペクトルで、以下で与えられる。
例えば、ドップラー周波数の分散σf 2(σfを周波数幅と呼ぶ)は、散乱光パワースペクトルS(f)の2次モーメントとして、以下で算出される。
この式(3)の周波数幅σfから、風速の標準偏差(風速幅と呼ぶ)σvは、以下で与えられる。
ここで、λはレーザ光の波長である。
上記の考え方に基づき、信号処理器6では、以下のようにして風速幅を算出する。まず、各レンジビン番号nにおけるドップラー周波数f(=kΔfd, Δfd:ドップラー分解能)に対応したドップラービン番号k=0〜NFFT/2−1(NFFT:FFTポイント数)のパワースペクトルS(n,k)に対し、パワースペクトルのピーク位置Pk(n)の左右演算範囲内における2次モーメントを求めることにより、各レンジビン番号nにおけるドップラー周波数の分散σ2(n)(ドップラービン数)を算出する。
なお、GW1は演算処理範囲を決定するパラメータであり、Ks=Pk(n)−GW1、Ke=Pk(n)+GW1である。また、Fd(n)は平均ドップラー周波数に対応したドップラービン番号であり、以下で算出される。
式(5)より、風速幅σvは、以下のようにして算出される。
ただし、fsは受信信号のサンプリング周波数である。
この風速幅は、乱気流に起因する風速の変動に対応しており、乱気流検知のための指標に適用することが可能である。
一方、上記のモーメント法のみによる風速幅の計測では、前述したように、遠方領域において内部ノイズ成分の比率が卓越し不正な計測値が増加したり、近距離であっても特異な大気状態により一時的に受信強度が低下するなどの現象が生じることもあるため、事前に知られた特性を利用し性能劣化を改善する方法の適用が考えられる。例えば、ドップラーライダー100が受信した散乱光のパワースペクトルは、一般的にガウス分布の特性に従うことが知られている。すなわち、受信強度の低下や雑音レベルの増大などの要因により計測されたスペクトルの形状が歪んだ状態になったとしても、その計測スペクトルがガウス分布となることを利用し、計測スペクトルをガウス分布曲線にフィッティングさせてスペクトル形状の歪みを除去した後に風速幅などを算出することにより、前述したモーメント法のみによる計測値と比較して、その計測精度を向上することができる。このスペクトルフィッティング処理の具体的な手順を以下に示す。
まず、観測された散乱光のパワースペクトルをフィッティングさせるガウス分布型のモデル関数SG(n,k;x)を以下のように定義する。
ここで、n は演算処理を行うレンジのレンジビン番号、kはドップラービン番号、S(n,Pk(n))はパワースペクトルのピーク位置Pk(n)におけるピーク値、v(n,k)は風速、vd(n)は風速v(n,k)の平均値(平均風速)、σ(n)は風速幅である。また、xはフィッティングにより推定を行うパラメータのベクトルで、その要素は{S(n,Pk(n)),vd(n),σ(n)}であり、x={S(n,Pk(n)),vd(n),σ(n)}≡{x1,x2,x3}である。
式(8)のガウス分布型のモデル関数SG(n,k;x)は非線形関数であるため、フィッティングは非線形最小2乗法により行う。非線形最小2乗法の原理は、モデル関数と観測値との残差2乗和を最小にするパラメータの値を決定するものであり、残差2乗和ε(n;x)は以下で与えられる。
ここで、SG(n,k;x)は式(8)で与えられるモデル関数であり、y(n,k)はドップラーライダー100において観測されたパワースペクトルの観測値である。なお、K1=Pk(n)−GW2、K2=Pk(n)+GW2で、GW2は残差2乗和の演算処理範囲を決定するパラメータであり、本発明では、この設定されたゲート内でのみ演算処理を行うため、大幅な処理量の削減が可能となる。
ここでは、以下の2種類の非線形最小2乗法を示す。
(a)Gauss-Newton法(方式1)
Gauss-Newton法(方式1)では、まず、式(9)が最小となるための必要条件から、以下の式を導出する。
ここで、SG(n,k;x)を適当な初期値x(0)のまわりにテイラー展開し、その1次の項までを考慮することにより、以下のように線形化を行う。
式(11)を式(10)に代入して整理すると以下となる。
なお、aki(n)は行列Aの各要素、bk(n)はベクトルbの各要素を示す。また、行列の右肩のtは行列の縦横を並べ換えた転置行列を意味する。
式(12)から修正量δx(0)は以下のように求められる。
式(13)より算出された修正量δx(0)を用いてx(1)=x(0)+αδx(0)を算出し、このx(1)を初期値x(0)に置き換えて式(13)の計算過程を繰り返す処理を行い、x(m)=x(m-1)+αδx(m-1)(m=1,2,3,…)を順次算出する。なお、α(0<α≦1)は縮小因子と呼ばれ、収束を安定化するためのパラメータである。
(b)Levenberg-Marquardt法(方式2)
Levenberg-Marquardt法(方式2)では、式(12)の改良として、行列AtAに対角付加項を追加した以下の式を導出する。
ここで、Iは単位行列、γは行列AtAの対角項に加算する係数であり、ここでは観測データから算出されたDetectabilityの逆数に相当する値を係数γとする。なお、DetectabilityとはSNR×N1/2で算出される数値で、計測値の確からしさを表す指標であり、SNRは受信光1パルスの信号対雑音電力比、Nは受信パルスの積分数(インコヒーレント積分数)を表す。
式(14)から修正量δx(0)は以下のように求められる。
式(15)より算出された修正量δx(0)を用いてx(1)=x(0)+δx(0)を算出し、このx(1)を初期値x(0)に置き換えて式(15)の計算過程を繰り返す処理を行い、x(m)=x(m-1)+δx(m-1)(m=1,2,3,…)を順次算出する。
なお、ここでは、方式1及び方式2の両方式とも初期値x(0)としては前述したモーメント法により算出した値を使用するが、これ以外の方法で算出した値を初期値としてもよい。また、この計算過程を繰り返して以下の収束判定条件(反復の打ち切り基準)を満足した時点におけるx(opt)を最適解とみなし、繰り返し処理を終了する。
ここで、ε0は収束判定値である。
この最適解x(opt)における風速幅σ(n)を乱気流検知のための指標として使用する。
ただし、この算出された前記風速幅を乱気流検知のための指標として活用することは可能であるが、そのままでは乱気流の程度を表すわけではないので、飛行実験データに基づき、乱気流の強度に比例する数値に換算する。この比例定数等は航空機の特性により異なるため、航空機ごとに比例定数等を特定する必要がある。
航空機の動揺の程度は国際的に以下に示す表1のごとく定義されており、操縦者はSevere以上の動揺を体感したときにはパイロットレポートにより報告する義務が課されている。この表は乱気流遭遇時の航空機の動揺の程度を説明する表となっている。
近年の旅客機のほとんどすべてに加速度計が搭載されており、事後に記録データを再生することは可能であるが、パイロットレポートを加速度計のデータに基づき書き換えることはないし、加速度の周波数によって体感される動揺の程度は異なる。このため、加速度の垂直成分をフーリエ変換し、ハイカットフィルターとローカットフィルターを掛けたうえで、その波形がある値a以上となる時間を計算したとき、この時間がt秒となるようなaを求める。このaの対数値を動揺の危険度として定義する。
図2は、実際の飛行実験により計測された散乱光のパワースペクトルに対し、本発明の方式1(Gauss-Newton法)及び方式2(Levenberg-Marquardt法)によるフィッティング処理を行った場合の計測距離(Detectability)に対する残差2乗和特性、収束特性、及び、フィッティングの一例を示した図である。
図2(a)は、方式1及び方式2のフィッティング処理を行った場合のピーク電力で正規化した残差2乗和ε(n;x)とDetectabilityの関係を計測距離毎に示したものである。なお、飛行実験データは、やや乱れた気流中を飛行した時に取得したデータで、プロットした各点は1秒毎に観測した237個のデータに対する平均値を示している。図2(a)から、方式1で縮小因子αの値を0.5とした場合は残差2乗和が大きくなる計測距離が多く、Detectabilityが良好な5km付近であっても残差2乗和が大きくなるなどフィッティング処理が不安定となっている。一方、方式1でαの値を0.1、0.05とした場合は計測距離が12km付近までは方式2とほぼ同等の特性が得られているが、12kmを超えると方式2の方が残差2乗和が小さくなる傾向がみられ、方式2によるフィッティングの方が方式1と比較して良好な特性が得られていることがわかる。なお、ごく近距離については、送信信号の装置内部における回り込みが発生しているため、正しい値ではない。
図2(b)は、図2(a)の計測距離9kmにおける、ある時刻の残差2乗和の収束特性を方式1と方式2で比較したものである。図2(b)から、方式1では縮小因子αの値を大きくすることにより収束が速くなり、α=0.5とした方式1と方式2の収束特性がほぼ一致する結果となっている。
すなわち、図2(a)、(b)の結果から、方式1の場合は、計測距離(Detectability)に対する残差2乗和を小さくするためにはα=0.1や0.05とする必要があるが、収束を速くするためにはα=0.5とする必要があり、両特性を良好にするαの値を見出すことは困難であるが、方式2の場合は両特性を良好にする結果が得られており、方式2の方が方式1と比較してフィッティング性能が優れていることがわかる。これらの結果から、これ以降では方式2による結果を示す。
図2(c)は、フィッティング処理前のライダーが実測したスペクトルと、方式2により残差2乗和が収束判定値(ε0=10-4)以下に収束したフィッティング処理完了後のスペクトルを示している。図2(c)から、計測距離が大きくなるほど受信強度の低下によると思われるスペクトルの歪みが発生しているが、フィッティング処理により本来のガウス分布に修正されている様子が確認できる。
なお、本実施例では、FFTポイント数NFFTを512としており、通常の演算処理を行うドップラービン範囲はk=0〜255となるが、本発明では、パワースペクトルにおけるピーク位置Pk(n)の左右ゲート範囲内(Pk(n)−GW2〜Pk(n)+GW2)のみでの演算処理とし、この実施例ではGW2=5としているため、演算処理を行うドップラービン範囲は11(=2×GW2+1)となり、演算量の大幅な削減を実現している。
図3は本発明に係るカーブフィッティングの適用結果の一例(弱い乱気流に遭遇)を示す図であり、実際の飛行実験により得られたデータを用いたもので、(a−1)がフィッティング処理なしの風速幅、(a−2)がフィッティング処理ありの風速幅の適用結果であり、(b)は機体の垂直加速度を示している。図3(a−1)、(a−2)では、機体が縦軸上向き方向に速度70m/sで飛行しており、小さな四角形1マスの縦の長さは150mで、1秒間で縦の1列のデータが同時に計測でき、それを時系列に横に並べている。また、四角形1マスの色の濃淡は風速幅の大きさを示しており、白に近いほど風速幅の値が大きいことを示している。また、1マス毎に前述した図2(c)に示すような散乱光のパワースペクトルが得られるため、この1マス毎に得られた散乱光のパワースペクトルに対してフィッティング処理を行い、フィッティング処理により補正された風速幅を算出している。この図から、静穏な大気の中を飛行中に機体の前方に乱気流が現れること、そして、その乱気流が時間の経過とともに機体に近づいてくる様子がよく捉えられており、その乱気流が機体に到達した220〜280秒付近で機体の動揺が激しくなっているのがわかるが、図3の(a−1)と(a−2)の比較より、散乱光のパワースペクトルに対してフィッティング処理を行った方がより乱気流の状況を検知できており、フィッティング処理の有効性を確認することができる。また、この改善効果は、遠距離領域だけでなく近距離領域にも見られ、遠距離領域における計測精度の劣化を防止しながら近距離領域においても計測精度の向上を実現していることがわかる。なお、ごく近距離の計測については、送信信号の装置内部における回り込みが発生しているため、正しい計測値ではない。
図4も図3と同様に本発明に係るカーブフィッティングの適用結果の一例(やや乱れた気流中を飛行)を示す図であり、実際の飛行実験により得られたデータを用いたもので、(a−1)がフィッティング処理なしの風速幅、(a−2)がフィッティング処理ありの風速幅の適用結果であり、(b)は機体の垂直加速度を示している。図4の(a−1)、(a−2)では、機体が縦軸上向き方向に速度130m/sで飛行しており、小さな四角形1マスの縦の長さは300mで、その他は図3と同様である。この図から、飛行している所々に風速の変化している領域が確認できるが、図4(a−1)と(a−2)の比較より、フィッティング処理を行った方がより遠距離までその風速の変化を検知できており、フィッティング処理の有効性を確認することができる。
また、以下の表は、図3及び図4で評価した1秒毎にライダー装置から出力される80レンジビンのスペクトルデータに対して、方式2のフィッティング処理に要した時間を計測したものである。なお、計測で使用したPCは商品名:NECMate(Intel® CoreTM2 Duo2.93GHz,992MB RAM:E7500)である。表から平均処理時間は30ms程度で最大でも219ms程度であり、今回評価したライダーの計測データ出力間隔は1秒であることから、実時間でフィッティング処理することが可能であることがわかる。
このように、本発明の遠隔乱気流検知装置は、従来のレーザ送信出力を増加させる方式または受光面積を増大させる方式には依らずに、航空機に搭載可能な小型省電力を実現しながら、乱気流の検知性能を向上することができる。なお、本実施例では、乱気流検知のために風速幅を使用したが、Fh−ファクタにおいて風速の差分によりその変化量を算出していたのと同様に、風速幅の差分によりその変化量を算出し、その変化量を乱気流検知のための指標とすることも可能である。
図5は、本発明に係るカーブフィッティング処理で得られた風速幅と機体の垂直加速度とを比較した図であり、(a)は機体の垂直加速度(絶対値)、(b)は風速幅、(c)は風速幅と垂直加速度(絶対値)のそれぞれの平均値に対する相関関係を示した図である。なお、風速幅は遠隔計測値(機体進行方向の27秒前方の計測値)であるため、機体が前進して風速幅の計測領域に入った時点の垂直加速度実測値と比較している。図5から乱気流による機体の揺れを示す垂直加速度とライダーで計測した風速幅には相関があることがわかる。また、フィッティング処理を行う方がフィッティング処理を行わない場合に比べて垂直加速度の変化に対する風速幅の変化量が大きいことがわかる。すなわち、図5に示すように、遠隔領域の風速幅を事前に計測すれば機体の垂直加速度を事前に予測することができ、風速幅を指標とする乱気流の検知を実現することが可能となるが、フィッティング処理を行うことにより検知性能を高めることができるのがわかる。例えば、図5(c)のフィッティング処理を行った場合の風速幅と垂直加速度(絶対値)の相関における直線近似から、風速幅と垂直加速度(絶対値)は、以下のように関係付けることができる。
垂直加速度(絶対値)[m/s2]=1.38×風速幅[m/s]−0.56 (17)
本結果はドルニエ式Do228型機を用いた実際の飛行実験により得られたデータを示すものであるが、今後のデータ蓄積により比例定数等の数値は適切に修正される可能性がある。
図6(a)は、ドルニエ式Do228型機を用いた実際の飛行実験により得られた垂直加速度データであり、この垂直加速度は通常の重力加速度1G(=9.8m/s2)からの変化分を示している。まず、この加速度の垂直成分をフーリエ変換し図6(b)に示す周波数スペクトルを求める。次に、動揺による危険性を考慮した図7(a)に示すフィルタを掛ける。その後、逆フーリエ変換を行い、加速度を時系列の波形(図7(b))に戻す。加速度の絶対値の波形がある値a[cm/s2]以上となる時間を計算したとき、この時間が0.3秒となるようなaを求める。動揺強度Iは、式(18)により定義することとする。
I=2loga+0.94 (18)
図7の例では、aの値は220cm/s2となり、動揺強度Iの値は5.62となる。
なお、本実施例の具体的な数値は地震の震度を算出する際に用いる数値を参考にして決定したが、航空機の動揺指標に適用する際には充分なデータにより調整する必要がある。
本発明の遠隔乱気流検知装置は、航空機の前方の乱気流を検知する危険回避手段または危険予知手段として好適に適用することが出来る。また、地上に設置して上空の乱気流を検知するドップラーライダーにも適用可能である。
1 基準光源 2 光ファイバアンプ
3 励起光源 4 光学望遠鏡
5 光受信機 6 信号処理器
7 表示器 10 光学系
20 計測器本体 100 ドップラーライダー

Claims (4)

  1. レーザ光を送信信号として大気中に放射して、該レーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を受信信号として受信し、該送信信号と該受信信号との間の周波数のドップラーシフト量に基づき遠隔領域の気流の風速を計測する光学式遠隔気流計測において、受信したレンジビン内における散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線でカーブフィッティングすることにより風速幅を求め、該風速幅により乱気流を高精度に検知することを特徴とする遠隔乱気流検知方法。
  2. 乱気流の強度を遠隔領域の進行方向風速幅に比例する数値で表すことを特徴とする請求項1に記載の遠隔乱気流検知方法。
  3. 航空機の動揺の程度を航空機の垂直加速度から周波数の低い成分と高い成分を除去した上で、一定時間連続する最大垂直加速度で定義することを特徴とする請求項1に記載の遠隔乱気流検知方法。
  4. レーザ光を送信信号として大気中に放射する手段と、該放射レーザ光の大気中のエアロゾルによるレーザ散乱光を受信信号として受信する手段と、該送信信号と該受信信号とを混合処理して得られる両信号間の周波数のドップラーシフト量に基づき遠隔領域の気流の風速を演算計測する信号処理手段とを備えた光学式遠隔気流計測装置において、前記信号処理手段は、レンジビン内における散乱光のパワースペクトルをガウス分布曲線でカーブフィッティングすることにより風速幅を求め、該風速幅により乱気流を検知する演算機能を備えていることを特徴とする遠隔乱気流検知装置。
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