以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
本実施の形態においては、本発明に係る車両の制御装置を、例えばエンジンなどの内燃機関と変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが搭載された車両に適用した場合について説明する。なお、本発明に係る車両の制御装置は、エンジンに加えてモータなどの駆動力源をさらに備えたいわゆるハイブリッド車両にも適用可能である。また、本実施の形態では、変速機として無段変速機(Continuously Variable Transmission:以下、単にCVTという)を採用した例について説明するが、変速機は無段変速機に限らず、有段変速機であってもよい。
まず、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る制御装置が搭載された車両のパワートレーンについて説明する。
図1に示すように、パワートレーン10は、内燃機関としてのエンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切換装置3と、CVT4と、デファレンシャルギヤ5と、油圧制御部100と、電子制御ユニット(Electronic Control Unit:以下、単にECUという)200とを備えている。
エンジン1としては、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しないシリンダの燃焼室内において燃焼させることにより動力を出力する公知の動力装置が用いられる。このエンジン1は、燃焼室内で混合気の吸気、圧縮、燃焼および排気の一連の工程を繰り返し行うことにより、シリンダ内のピストンを往復動させて、ピストンと動力伝達可能に連結された出力軸としての図示しないクランクシャフトを回転させるようになっている。エンジン1が有するクランクシャフトは、トルクコンバータ2の入力軸に接続されている。そして、エンジン1の出力は、クランクシャフト、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、入力軸4a、CVT4を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、図示しない左右の駆動輪に分配される。
トルクコンバータ2は、エンジン1のクランクシャフトに連結されたポンプ翼車21pおよびタービン軸2aを介して前後進切換装置3に連結されたタービン翼車21tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。
また、トルクコンバータ2のポンプ翼車21pとタービン翼車21tの間にはロックアップクラッチ22が設けられている。また、トルクコンバータ2の内部には、ピストン23により分割された係合側油室24および解放側油室25が形成されている。ロックアップクラッチ22は、後述する油圧制御部100の切換弁等によって係合側油室24および解放側油室25に対する油圧供給が切換えられることにより、係合または解放されるようになっている。具体的には、係合側油室24内の油圧から解放側油室25内の油圧を減じた値を油圧差ΔPとすると、ピストン23は、係合側油室24への油圧の供給に応じて油圧差ΔPが増圧されることにより係合側に移動する。これにより、ロックアップクラッチ22は、ポンプ翼車21p側に押圧されて完全係合される。その結果、入力軸側のポンプ翼車21pと出力軸側のタービン翼車21tとが直結された状態となる。すなわち、エンジン1のクランクシャフトとタービン軸2aとが直結される。このとき、エンジン1から出力された動力は、トルクコンバータ2内の流体を介さず、直接CVT4に伝達される。
一方で、油圧差ΔPが負の値とされると、ピストン23が解放側に移動する。これにより、ロックアップクラッチ22は、解放される。このとき、エンジン1から出力された動力は、流体を介してCVT4に伝達される。
また、油圧差ΔPが直結時の値と解放時の値との間の範囲である場合には、ロックアップクラッチ22がスリップ状態となる。このスリップ状態では、トルクコンバータ2が伝達するトルクとロックアップクラッチ22が伝達するトルクとの和のトルクが出力軸側のタービン翼車21tに伝達される。
また、ポンプ翼車21pには、ポンプ翼車21pの回転に応じて作動するオイルポンプ26が設けられている。オイルポンプ26は、例えばギヤポンプなどの機械式のオイルポンプにより構成されており、油圧制御部100の各種ソレノイドに油圧を供給するようになっている。
前後進切換装置3は、トルクコンバータ2とCVT4との間の動力伝達経路に設けられ、ダブルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。また、前後進切換装置3は、油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置で構成された前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1を有している。前後進切換装置3は、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が解放されることにより、一体回転状態とされる。このとき、前進用動力伝達経路が成立され、前進方向の駆動力がCVT4側に伝達される。一方、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置3は、入力軸4aをタービン軸2aに対して逆方向に回転させる後進用動力伝達経路を成立させる。これにより、後進方向の駆動力がCVT4側に伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は、動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)状態とされる。
CVT4は、有効径が可変の入力側のプライマリプーリ41と、有効径が可変の出力側のセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に巻き掛けられた金属製の伝動ベルト43とを備えている。CVT4は、入力軸4aに設けられたプライマリプーリ41および出力軸4bに設けられたセカンダリプーリ42と伝動ベルト43との間の摩擦力を介して動力伝達を行う。
プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、入力軸4aおよび出力軸4bにそれぞれ固定された固定シーブ41aおよび固定シーブ42aと、入力軸4aおよび出力軸4bに対して軸心周り相対回転不能かつ軸線方向に移動可能に設けられた可動シーブ41bおよび可動シーブ42bとを備えている。伝動ベルト43は、これら固定シーブおよび可動シーブにより形成されたV字形状のプーリ溝に巻き掛けられる。また、プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、可動シーブ41b、42bをそれぞれ軸線方向に移動させるための油圧アクチュエータ(図示省略)を有している。プライマリプーリ41およびセカンダリプーリ42は、油圧アクチュエータに供給される油圧が制御されることにより上記プーリ溝の幅を連続的に変化させる。これにより、伝動ベルト43の巻き掛け半径が変更され、変速比が連続的に変化させられる。
油圧制御部100は、変速速度制御部110と、ベルト挟圧力制御部120と、ライン圧制御部130と、ロックアップ係合圧制御部140と、クラッチ圧制御部150と、マニュアルバルブ160とを有している。
変速速度制御部110は、変速制御用第1ソレノイド111および変速制御用第2ソレノイド112から出力される油圧に応じてプライマリプーリ41の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。つまり、変速速度制御部110は、油圧の制御を通じてCVT4の変速比を制御する。
ベルト挟圧力制御部120は、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド121から出力される油圧に応じてセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。つまり、ベルト挟圧力制御部120は、油圧の制御を通じてベルト挟圧力を制御する。
ライン圧制御部130は、ライン圧制御用リニアソレノイド131から出力される油圧に応じてライン圧を制御する。ライン圧とは、オイルポンプ26により供給され、図示しないレギュレータバルブにより調圧された油圧を指す。
ロックアップ係合圧制御部140は、ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141から出力される油圧に応じて上述した油圧差ΔPを制御することにより、ロックアップクラッチ22の係合力、すなわち伝達トルクを制御する。ロックアップクラッチ22は、その伝達トルクの大きさに応じて解放状態、係合状態、スリップ状態(解放状態と係合状態との中間の状態)のいずれかの状態に制御される。ロックアップクラッチ22の伝達トルクは、解放状態のときに最小値となり、スリップ状態のときには油圧差ΔPが増圧されるほど大きくなり、係合状態のときに最大値となる。
マニュアルバルブ160は、運転者によるシフトレバーの操作に連動して作動し、油路を切換えるようになっている。
クラッチ圧制御部150は、ライン圧制御用リニアソレノイド131から出力される油圧に応じて、マニュアルバルブ160から入力クラッチC1またはリバースブレーキB1に供給される油圧を制御する。
ECU200には、車速Vを検出する車速センサ201、アクセルペダルの操作量、すなわちアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ202、エンジン1の回転が伝達されるポンプ翼車21pの回転速度をエンジン回転速度として検出するエンジン回転速度センサ203、トルクコンバータ2のタービン軸の回転速度、すなわちタービン回転速度Ntを検出するタービン回転速度センサ204、プライマリプーリ回転速度センサ205およびセカンダリプーリ回転速度センサ206などの各種センサ類がハーネスなどを介して接続されている。プライマリプーリ回転速度センサ205は、プライマリプーリ41の回転速度、すなわちプライマリプーリ回転速度Ninを検出する。セカンダリプーリ回転速度センサ206は、セカンダリプーリ42の回転速度、すなわちセカンダリプーリ回転速度Noutを検出する。これら各センサの検出結果を示す検出信号は、各センサからECU200に入力される。本実施の形態におけるエンジン回転速度センサ203は、本発明に係る実回転速度検出部を構成している。
ECU200は、上記各センサから入力された検出信号に基づいて、油圧制御部100の各ソレノイドに対してそれぞれ制御信号(油圧指令値)を出力する。これにより、各ソレノイドから出力される油圧が調整される。特に、ECU200は、後述するフィードフォワード制御およびフィードバック制御によりスリップスタート制御時のロックアップクラッチ22を所望の伝達トルクとするため、ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを算出し、これを出力するようになっている。
また、本実施の形態において、ECU200は、車両の走行状態に応じて、ロックアップクラッチ22の状態を係合状態、解放状態、スリップ状態のいずれかの状態となるよう制御する。具体的には、ECU200は、記憶部230に予め記憶されたアクセル開度Accと車速Vとの関係を示すLU領域マップ(図3参照)に基づき、車両の走行状態がいずれの領域にあるかを判定し、その領域に応じてロックアップクラッチ22を係合状態、解放状態およびスリップ状態のいずれかに制御する。なお、車両の走行状態がいずれの領域にあるかの判定は、スロットル開度θthと車速Vとの関係を示すマップを用いて行ってもよい。
また、ECU200は、ロックアップクラッチ22をスリップ状態とするスリップ制御を実行するようになっている。このスリップ制御は、フレックスロックアップ制御などとも呼ばれ、運転性を損なうことなく燃費を可及的に向上させることを目的として実行される制御である。また、上記スリップ制御は、上記LU領域マップ(図3参照)に基づき、車両の走行状態がスリップ領域にあるときのみ実行されるものであり、本実施の形態では特に車両発進時に実行される。したがって、以下の説明では、主として車両発進時のスリップ制御(以下、スリップスタート制御という)について説明する。
スリップスタート制御中は、ロックアップクラッチ22の係合時の値と解放時の値との間の範囲で上述した油圧差ΔPを増減させるようECU200がロックアップ係合圧制御部140を制御することにより、ロックアップクラッチ22がスリップ状態に制御される。
次いで、図2を参照して、スリップスタート制御を実行するECU200の詳細について説明する。図2に示す各機能ブロックは、スリップスタート制御の実行時に機能するもののみを示したものである。
図2に示すように、ECU200は、入力I/F210と、演算処理部220と、記憶部230と、出力I/F240とを含んでいる。
入力I/F210には、各センサからの検出信号が入力される。そして、入力I/F210は、入力された検出信号を演算処理部220に出力する。
記憶部230は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成されており、各種情報、プログラム、フィードフォワード制御およびフィーバック制御の中断、再開の判定に用いられる第1の閾値th1、第2の閾値th2などの各種閾値、LU領域マップおよび最適燃費マップなどの各種マップを記憶するようになっている。また、記憶部230は、必要に応じて演算処理部220からデータが読み出されたり、格納されたりする。
演算処理部220は、いわゆるCPU(Central Processing Unit)で構成されており、記憶部230のRAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。
また、演算処理部220は、条件判定部221と、目標回転速度算出部222と、目標回転速度初期値設定部223と、回転速度比較部224と、FF・FB制御判定部225と、ロックアップ油圧制御部226とを有している。本実施の形態において、上記演算処理部220を有するECU200は、本発明に係るロックアップ制御部を構成している。
条件判定部221は、スリップスタート制御の開始条件および終了条件が成立したか否かを判定するようになっている。具体的には、条件判定部221は、図3に示すLU領域マップに基づき、現在の車両の走行状態が係合領域、解放領域、スリップ領域のいずれの領域に含まれるか否かを判定するようになっている。ここで、条件判定部221は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつアクセルがオンされるとともにタービン回転速度Ntが所定の閾値よりも小さい値から大きい値に変化した場合すなわち車両発進時である場合、スリップスタート制御の開始条件が成立したものと判定するようになっている。なお、条件判定部221は、アクセル開度Accやスロットル開度θthなどが零から増加したことを検出した場合に車両発進時であると判定するようにしてもよい。
一方、条件判定部221は、LU領域マップに基づき、スリップスタート制御中の車両の走行状態がスリップ領域から係合領域あるいは解放領域に移行した場合、スリップスタート制御の終了条件が成立したものと判定するようになっている。ここで、上記係合領域に移行する例としては、スリップスタート制御中に、タービン回転速度Ntが所定の閾値を越えた状態でタービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとがほぼ同期した場合などが挙げられる。また、上記解放領域に移行する例としては、車両が停止されている場合あるいは停止される直前の状態である場合、すなわち車速Vが所定の閾値よりも小さくなった場合などが挙げられる。
目標回転速度算出部222は、車速Vとアクセル開度Accとに応じて、燃費を考慮した目標エンジン回転速度(以下、最適目標エンジン回転速度Netgt0という)を算出し、設定するようになっている。すなわち、目標回転速度算出部222は、燃費最適ラインを示す最適燃費マップ(図4参照)を用いて最適目標エンジン回転速度Netgt0を設定するようになっている。図4において、縦軸はエンジントルクTe、横軸はエンジン回転速度Neを示し、燃費最適ラインL2は、燃費が最適となるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの組合せを予め実験的に求めて繋いだ線である。最適目標エンジン回転速度Netgt0の具体的な設定方法は、以下の通りである。
まず、目標回転速度算出部222は、車速Vとアクセル開度Accとに基づいて運転者が必要とする目標エンジン出力を算出する。このとき、目標エンジン出力は、車速Vが同一であればアクセル開度Accが大きいほど、大きい値として算出される。次いで、目標回転速度算出部222は、その目標エンジン出力を最適燃費で達成する目標エンジン回転速度を算出する。具体的には、最適燃費マップ上に、設定された目標エンジン出力(エンジン回転速度Ne×エンジントルクTe)を一定とする等出力線L1を設定する。したがって、等出力線L1は、目標エンジン出力が大きいほど図4の右上側に移動し、目標エンジン出力が小さいほど図4の左下側に移動する。そして、目標回転速度算出部222は、最適燃費マップ上において、等出力線L1と燃費最適ラインL2との交点Aを求め、この交点Aに対応するエンジン回転速度Neを最適目標エンジン回転速度Netgt0として算出する。なお、最適目標エンジン回転速度Netgt0を他の手法で算出するようにしてもよい。
目標回転速度初期値設定部223は、図6に示すように、スリップスタート制御の開始条件が成立し、ロックアップクラッチ22がスリップ状態に移行したとき(時間t2時点)の実際のエンジン回転速度(以下、実エンジン回転速度Nerという)を目標エンジン回転速度Netgt1の初期値として設定するようになっている。ここで、目標エンジン回転速度Netgt1は、最適目標エンジン回転速度Netgt0と実エンジン回転速度Nerとの偏差が大きい場合にフィードバック制御の出力が大きくなることを防止するために設けられた目標エンジン回転速度である。そして、目標エンジン回転速度Netgt1は、初期値が設定された後、最適目標エンジン回転速度Netgt0に近づくよう制御される。したがって、目標エンジン回転速度Netgt1は、最終的には最適目標エンジン回転速度Netgt0と一致する。最適目標エンジン回転速度Netgt0に一致した後は、目標エンジン回転速度Netgt1=最適目標エンジン回転速度Netgt0となる。本実施の形態における目標エンジン回転速度Netgt1は、本発明における内燃機関の回転速度の目標値を示す目標回転速度に相当する。また、本実施の形態における実エンジン回転速度Nerは、本発明における実回転速度に相当する。
回転速度比較部224は、エンジン回転速度センサ203で検出された実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgt1とを比較し、その比較結果である偏差ΔNe(=|Ner−Netgt1|)をロックアップ油圧制御部226に出力するようになっている。偏差ΔNeは、スリップスタート制御中のフィードバック制御に用いられる。また、回転速度比較部224は、実エンジン回転速度Nerから目標エンジン回転速度Netgt1を減じた値を判定値Nj(=Ner−Netgt1)として算出し、これをFF・FB制御判定部225に出力するようになっている。判定値Njは、FF・FB制御判定部225で実行されるスリップスタート中のフィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断するか否かの判定、ならびに中断しているフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開するか否かの判定に用いられる。なお、上記判定値Njは、上記偏差ΔNe(=|Ner−Netgt1|)の算出の過程で得られるものを用いてもよい。
FF・FB制御判定部225は、目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが所定値以上乖離したか否か、特に目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが所定値以上下回ったか否かを判定するようになっている。具体的には、FF・FB制御判定部225は、回転速度比較部224から入力された判定値Njと予め実験的に求めて記憶された第1の閾値th1とを比較し、判定値Njが第1の閾値th1よりも小さいか否かを判定するようになっている。ここで、第1の閾値th1は、スリップスタート制御時におけるロックアップクラッチ22の係合力が必要以上に大きくなったと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を下回ったときの回転速度の差であり、例えば−100rpm程度の値とされる。FF・FB制御判定部225は、判定値Njが第1の閾値th1よりも大きいと判定した場合にはフィードフォワード制御およびフィードバック制御の中断を指示する信号をロックアップ油圧制御部226に出力するようになっている。
また、FF・FB制御判定部225は、判定値Njと予め実験的に求めて記憶された第2の閾値th2とを比較し、判定値Njが第2の閾値th2以上となったか否かを判定するようになっている。ここで、第2の閾値th2は、中断しているフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開してもスリップスタート制御時のドライバビリティに影響を与えないと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を上回ったときの回転速度の差である。FF・FB制御判定部225は、判定値Njが第2の閾値th2以上であると判定した場合には中断しているフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開するようになっている。
ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の開始条件が成立からスリップスタート制御の終了条件が成立するまで、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1に一致(追従)させるよう、後述するフィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御するようになっている。
一般に、実エンジン回転速度を目標エンジン回転速度に追従させる制御としては、目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差に基づくフィードバック制御が挙げられる。ただし、このフィードバック制御では、偏差に所定のゲインをかけて制御量を算出するため偏差が生じることによって実行され、偏差の発生を前提とするので、不可避的な制御の遅れがある。このような遅れを是正するため、ゲインを大きくすることも考えられるが、ゲインを大きくし過ぎるとハンチングが生じたり、収束性が損なわれるなどの不都合が生ずる。そこで、本実施の形態においては、フィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を併用している。フィードフォワード制御は、目標値に基づいて制御量を算出するため、偏差の検出を待つことなく制御を実行でき、応答性の点で優れている。
具体的には、ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の開始条件が成立すると、エンジントルクTeおよび車速Vに基づき、予め実験的に求めて記憶された図示しないマップおよび演算式を用いてフィードフォワード制御量(以下、単にFF制御量という)ΔPFFを算出する。これと同時に、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgt1との偏差ΔNeに所定のフィードバックゲインKを乗ずることにより、フィードバック制御量(以下、単にFB制御量という)ΔPFB(=K×ΔNe)を算出する。ここで、上記フィードバックゲインKは、正の定数である。FB制御量ΔPFBの算出方法としては、例えばPIDフィードバック制御式を用いて行う方法が挙げられる。そして、ロックアップ油圧制御部226は、算出されたFF制御量ΔPFFとFB制御量ΔPFBとを加算した値に基づき、ロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御する。本実施の形態においては、前述の油圧指令値Pluが増加させられるとロックアップクラッチ22の油圧差ΔPが増加し、逆に油圧指令値Pluが減少させられるとロックアップクラッチ22の油圧差ΔPが減少するようになっている。
例えば、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも低い場合には、油圧差ΔPを減圧するために油圧指令値Pluを所定値だけ減少させる。油圧指令値Pluを所定値だけ減少させることにより、ロックアップクラッチ22の伝達トルクが小さくなりエンジン1にかかる負荷が低下するため、実エンジン回転速度Nerが上昇して目標エンジン回転速度Netgt1に近づくこととなる。一方で、ロックアップ油圧制御部226は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも高い場合には、油圧差ΔPを増圧するために油圧指令値Pluを所定値だけ増加させる。油圧指令値Pluを所定値だけ増加させることにより、ロックアップクラッチ22の伝達トルクが大きくなりエンジン1にかかる負荷が増加するために、実エンジン回転速度Nerが低下して目標エンジン回転速度Netgt1に近づくこととなる。
ところで、従来のスリップスタート制御では、タービン回転速度Ntを用いて目標スリップ量を算出して、トルクコンバータ2のスリップ量をその目標スリップ量に追従させていた。しかし、タービン回転速度Ntは、ノイズなどによる検出誤差の影響や運転者の操作(ブレーキ、変速)、あるいは走行路面などの走行環境の変化による影響を大きく受けるため、目標スリップ量が本来目標とすべき値からずれてしまう。その結果、トルクコンバータ2のスリップ量も本来目標とすべき値からずれてしまうおそれがあった。
これに対し、本実施の形態に係るECU200は、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgt1とを直接比較し、その比較結果に基づいて実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1に追従させるように油圧指令値Pluをフィードバック制御する。したがって、本実施の形態では、制御精度を悪化させる一要因となり得るタービン回転速度Ntを用いることなく、油圧指令値Pluのフィードバック制御を行っているので、従来と比較して実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1へより精度よく追従させることができる。
また、ロックアップ油圧制御部226は、スリップスタート制御の終了条件が成立すると、車両の走行状態に応じてロックアップクラッチ22を解放状態および係合状態のいずれかの状態に制御する通常制御を行うようになっている。具体的には、ロックアップ油圧制御部226は、図3に示すLU領域マップに基づき、車両の走行状態が係合領域に含まれる場合、油圧指令値Pluを最大値に設定する。油圧指令値Pluを最大値に設定することにより、油圧差ΔPが最大となり、ロックアップクラッチ22が係合状態とされる。一方、ロックアップ油圧制御部226は、LU領域マップに基づき、車両の走行状態が解放領域に含まれる場合、油圧指令値Pluを最小値に設定する。油圧指令値Pluを最小値に設定することにより、油圧差ΔPが負の値となり、ロックアップクラッチ22が解放状態とされる。
なお、ロックアップ油圧制御部226は、目標エンジン回転速度Netgt1に実エンジン回転速度Nerを一致させるために必要なロックアップクラッチ22の伝達トルクを算出して、予め実験的に求めて記憶された伝達トルクと油圧指令値Pluとの関係を示すマップあるいは関係式から、算出された伝達トルクに応じて油圧指令値Pluを制御するようにしてもよい。
次に、図5および図6を参照して、ECU200で実行されるスリップスタート制御について説明する。
図5に示す処理フローは、予め定められたサイクルタイムで繰り返し実行される。また、各処理は、実際にはECU200の演算処理部220に含まれる条件判定部221、目標回転速度算出部222、目標回転速度初期値設定部223、回転速度比較部224、FF・FB制御判定部225、ロックアップ油圧制御部226のいずれかにより実行されるが、以下においては説明の便宜上、各処理の主体をECU200として説明を行う。
まず、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、ECU200は、車速V、アクセル開度Accおよび図3に示すLU領域マップに基づき、現在の車両の走行状態が係合領域、解放領域、スリップ領域のいずれの領域に含まれるか否かを判定する。同時に、ECU200は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつアクセルがオンされるとともにタービン回転速度Ntが所定の閾値よりも小さい値から大きい値に変化した場合すなわち車両発進時であるか否かを判定する。このとき、ECU200は、現在の車両の走行状態がスリップ領域にあり、かつ車両発進時であると判定した場合にはスリップスタート制御の開始条件が成立したものと判定する。
なお、ECU200は、車速センサ201から入力される車速Vに代わって、セカンダリプーリ回転速度センサ206から入力されたセカンダリプーリ回転速度Noutに基づき、車速Vを検出してもよい。
スリップスタート制御の開始条件が成立していないと判定した場合、ECU200は、処理をステップS9に移し、ロックアップクラッチ22の通常制御を実行する。例えば、現在の車両の走行状態が係合領域にあるときには、ロックアップクラッチ22を係合状態とし、現在の車両の走行状態が解放領域にあるときには、ロックアップクラッチ22を解放状態とする。
一方、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定した場合、ECU200は、車速センサ201、アクセル開度センサ202およびエンジン回転速度センサ203から入力された各検出信号に基づき、車速V、アクセル開度Accおよび実エンジン回転速度Nerを検出する(ステップS2)。すなわち、ECU200は、図6に示す時間t2における車速V、アクセル開度Accおよび実エンジン回転速度Nerを検出する。
次いで、ECU200は、ステップS2で検出したアクセル開度Accおよび車速Vに基づき、最適目標エンジン回転速度Netgt0を算出し、設定する(ステップS3)。最適目標エンジン回転速度Netgt0の具体的な設定方法は、上述した通りであり、ここではその説明を省略する。
次に、ECU200は、スリップスタート制御開始後、実際に実エンジン回転速度Nerを追従させるべき目標エンジン回転速度Netgt1の初期値を設定する(ステップS4)。具体的には、ECU200は、ステップS2で検出した図6に示す時間t2における実エンジン回転速度Ner、すなわちスリップスタート制御の開始条件が成立したときの実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1の初期値として設定する。目標エンジン回転速度Netgt1は、初期値が設定された後、最適目標エンジン回転速度Netgt0に近づくよう制御される。
ここで、実際には、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定したタイミングと、時間t2に示す実エンジン回転速度Nerの低下開始のタイミングとの間には時間差がある。したがって、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件が成立したと判定したタイミングで検出した実エンジン回転速度Nerに基づいて時間t2における実エンジン回転速度Nerを推定するのが好ましい。具体的には、ECU200は、スリップスタート制御の開始条件成立から実際にロックアップクラッチ22がスリップ状態となり実エンジン回転速度Nerが低下し始めるまでの所定時間Tを予め実験的に求めて記憶しておき、スリップスタート制御の開始条件成立時における実エンジン回転速度Nerの変化量を示す微分値dNer/dTと所定時間Tとの積に基づき、時間t2における実エンジン回転速度Nerを推定する。また、上述した推定方法の他、ECU200は、随時算出される微分値dNer/dTの値が正の値から負の値に転じたときの実エンジン回転速度Nerを時間t2における実エンジン回転速度Nerとして検出し、これをステップS4で用いるようにしてもよい。
なお、本実施の形態においては、スリップスタート制御の開始条件成立時に検出された実エンジン回転速度Nerに基づき時間t2における実エンジン回転速度Nerを推定するようにしたが、これに限らず、例えばスリップスタート制御の開始条件成立から上記所定時間Tを経過したタイミングで再度、実エンジン回転速度Nerを検出してもよい。
次いで、ECU200は、実エンジン回転速度Nerから目標エンジン回転速度Netgt1を減じた値を判定値Nj(=Ner−Netgt1)として算出する(ステップS5)。なお、ECU200は、このステップにおいて実エンジン回転速度Nerを検出するようになっているが、ステップS2で検出した値を代用してもよい。
次に、ECU200は、ステップS5で算出した判定値Njと上述した第1の閾値th1とを比較し、判定値Njが第1の閾値th1よりも小さいか否かを判定する(ステップS6)。すなわち、ECU200は、スリップスタート制御時におけるロックアップクラッチ22の係合力が必要以上に大きくなったと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を下回ったか否かを判定する。ECU200は、本ステップにおいて判定値Njが第1の閾値th1よりも小さいと判定した場合には、スリップスタート制御の終了条件が成立する(ステップS8でYES)まで、実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1に追従させるよう、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluを制御する(ステップS7)。このステップS7のフィードフォワード制御およびフィードバック制御は、本処理フローのサイクルタイムとは別のサイクルタイムで、スリップスタート制御の終了条件が成立するまで繰り返し実行される。
具体的には、ECU200は、上述した算出方法を用いてFF制御量ΔPFFおよびFB制御量ΔPFBを算出する。そして、ECU200は、算出されたFF制御量ΔPFFとFB制御量ΔPFBとを加算した値に基づき、油圧指令値Pluを制御する。特に、フィードバック制御においては、ECU200は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも低いか否かを判定する。この判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも低い場合には、ECU200は、油圧指令値Pluの減少補正を行う。すなわち、ECU200は、今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)を前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)に対して、K×ΔNeで算出されるFB制御量ΔPFBに基づく値だけ減少させる。換言すれば、ECU200は、Plu(n)=Plu(n−1)−K×ΔNeとして算出する。
一方、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも低くない場合(Ner=Netgt1の場合を含む)には、ECU200は、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも高いか否かを判定する。この判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも高い場合には、ECU200は、油圧指令値Pluの増加補正を行う。すなわち、ECU200は、今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)を前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)に対して、K×ΔNeで算出されるFB制御量ΔPFBに基づく値だけ増加させる。換言すれば、ECU200は、Plu(n)=Plu(n−1)+K×ΔNeとして算出する。他方、上記判定の結果、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1よりも高くない場合には、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgt1とが一致していると判断できるため、上記のような減少補正あるいは増加補正を行うことなく、前回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n−1)を今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)として算出する。
そして、ECU200は、今回のサイクルタイムで算出された油圧指令値Plu(n)を油圧指令値Pluに設定してロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141に出力する。
次いで、ECU200は、スリップスタート制御の終了条件が成立したか否かを判定する(ステップS8)。スリップスタート制御の終了条件が成立したと判定した場合には、ECU200は、車両の走行状態に応じてロックアップクラッチ22を解放状態および係合状態のいずれかの状態に制御する通常制御を実行して(ステップS9)、一連の処理を終了する。一方、スリップスタート制御の終了条件が成立していないと判定した場合には、ECU200は、ステップS5に戻り、ステップS5〜ステップS8の処理を繰り返し実行する。
また、ECU200は、上述したステップS6において、判定値Njが第1の閾値th1よりも小さくない、すなわち第1の閾値th1以上であると判定した場合(ステップS6でNO)には、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断する(ステップS10)。具体的には、図6に示すように、ECU200は、ロックアップクラッチ22の係合力が必要以上に大きくなったと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を下回った時点(時間t3)で、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断する。このとき、ECU200は、今回のサイクルタイムにおける油圧指令値Plu(n)を前回のサイクルタイムで算出された油圧指令値Plu(n−1)とする。つまり、フィードフォワード制御およびフィードバック制御が中断している間(図6に示す時間t3〜時間t4)は、前回のサイクルタイムで算出された油圧指令値Plu(n−1)が保持される。ここで、図6に示すように、特に車両の発進時のようにタービン回転速度Ntが目標の値に収束するまでの過渡的な状態にあっては、タービン回転速度Ntの上昇に伴い実エンジン回転速度Nerも上昇するため、上記の通り前回の油圧指令値Plu(n−1)を保持することでロックアップクラッチ22の係合力が必要以上に大きくなることがない。
次いで、ECU200は、フィードフォワード制御およびフィードバック制御の中断中における判定値Njを算出する(ステップS11)。すなわち、ECU200は、本ステップにおいてもステップS5と同様、実エンジン回転速度Nerを検出すると、この実エンジン回転速度Nerから目標エンジン回転速度Netgt1を減じた値を判定値Nj(=Ner−Netgt1)として算出する。
そして、ECU200は、ステップS11で算出した判定値Njと上述した第2の閾値th2とを比較し、判定値Njが第2の閾値th2以上となったか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、ECU200は、中断しているフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開してもスリップスタート制御時のドライバビリティに影響を与えないと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を上回ったか否かを判定する。ECU200は、本ステップにおいて判定値Njが第2の閾値th2以上でない、すなわち第2の閾値th2よりも小さいと判定した場合には、ステップS10に戻り、フィードフォワード制御およびフィードバック制御の中断を維持する。
一方、ECU200は、判定値Njが第2の閾値th2以上であると判定した場合(ステップS12でYES)には、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理を繰り返し実行する。具体的には、図6に示すように、ECU200は、中断しているフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開してもスリップスタート制御時のドライバビリティに影響を与えないと判断できる程度まで実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を上回った時点(時間t4)で、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開する。このとき、目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが大きく乖離はしていないが、例えば図6に示すように、多少上回っている場合には、ECU200は、時間t4における実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1の初期値として再設定される。また、図6において時間t4以降は、フィードフォワード制御およびフィードバック制御が再開される。このため、それまで保持されていた前回の油圧指令値Plu(n−1)は、再開されたフィードフォワード制御およびフィードバック制御から算出される新たな油圧指令値Pluに変更される。なお、図6においては、油圧指令値Pluをフィードフォワード制御による油圧指令値とフィードバック制御による油圧指令値とに分けて表示したが、実際にはこれら両制御の油圧指令値を足し合わせた値が油圧指令値Pluとして出力される。
このように、本実施の形態に係るスリップスタート制御においては、必要に応じてフィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断する制御を実行することで、ロックアップクラッチ22の係合力が必要以上に大きくなってしまうことを回避している。
これに対して、従来のスリップスタート制御では、スリップスタート制御時に必要に応じてフィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断する制御を実行していないため、以下のような問題を生ずる。
例えば、スリップスタート制御時にフィードフォワード制御のみを実行するものにあっては、図7に示すように、スリップスタート制御開始時点(時間t2)で、実エンジン回転速度Nerと目標エンジン回転速度Netgt1との偏差ΔNeを検出することなく所定の目標値に基づいたFF制御量ΔPFFを算出する。しかし、実際にはロックアップクラッチやロックアップ係合圧制御用リニアソレノイドの個体差に起因したばらつきにより、必要以上に大きな油圧指令値Pluが出力されてしまうことがある。このため、スリップスタート制御時にロックアップクラッチ油圧が必要以上に高められ、実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を大きく下回ってしまうおそれがある。その結果、スリップスタート制御時のフィードフォワード制御にあっては、ロックアップクラッチ油圧の超過に伴う係合ショックや実エンジン回転速度Nerの低下に伴うエンジンストールなどの不具合を生じさせ、ドライバビリティを悪化させるという問題があった。
また、スリップスタート制御時にフィードフォワード制御とフィードバック制御とを併用するものにあっては、図8に示すように、スリップスタート制御時、ロックアップクラッチの係合力が大きいために実エンジン回転速度Nerが目標エンジン回転速度Netgt1を下回ると、実エンジン回転速度Nerを上昇させるためロックアップクラッチの係合力を小さくするべくフィードバック制御によりロックアップクラッチ油圧を減少させる。しかし、スリップスタート制御を実行する車両発進時にあっては、タービン回転速度Ntが上昇するため、これに伴い実エンジン回転速度Nerも上昇する。このため、車両発進時の実エンジン回転速度Nerは、タービン回転速度Ntにつられて上昇するため、これを考慮せずにさらにフィードバック制御によりロックアップクラッチの係合力が小さくされると、目標エンジン回転速度Netgt1を越えて必要以上に上昇してしまう。このように実エンジン回転速度Nerが吹け上がると、今度は必要以上に上昇した実エンジン回転速度Nerを低下させるべくフィードバック制御が実行される。この結果、スリップスタート制御時、実エンジン回転速度Nerのハンチングが生じてドライバビリティが悪化するという問題があった。
このように、図7および図8に示した従来のスリップスタート制御は、いずれも車両発進時に目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが大きく乖離する、特に目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが大きく下回ることによりドライバビリティを悪化させていた。
これに対して、本実施の形態に係るスリップスタート制御では、目標エンジン回転速度Netgt1に対して実エンジン回転速度Nerが大きく乖離する前にフィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断することで、従来生じていた問題を回避するようにしている。
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置は、スリップスタート制御の実行時、ECU200が実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1に一致させるようフィードフォワード制御およびフィードバック制御を実行し、実エンジン回転速度Nerから目標エンジン回転速度Netgt1を減じた値を判定値Njが第1の閾値th1を下回った場合、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断するので、スリップスタート制御の実行時、ロックアップクラッチ22の係合力がフィードフォワード制御により必要以上に高められてしまうことを防止することができる。このため、本実施の形態に係る車両の制御装置は、フィードフォワード制御の実行時におけるロックアップクラッチ22の係合ショックや実エンジン回転速度Nerの必要以上な低下に伴うエンジンストールなどの不具合を防止することができる。一方で、本実施の形態に係る車両の制御装置は、上記の通りフィードバック制御も中断するので、スリップスタート制御の実行時、実エンジン回転速度Nerが必要以上に吹け上がることがなく、フィードバック制御による実エンジン回転速度Nerのハンチングを防止することができる。したがって、本実施の形態に係る車両の制御装置は、スリップスタート制御時のドライバビリティを向上させることができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、車両の発進時に実行されるスリップスタート制御において、上述の通り必要に応じてフィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断するので、車両発進時のスリップスタート制御時に顕著に現れる実エンジン回転速度Nerの必要以上な低下や実エンジン回転速度Nerの吹け上がりを防止することができる。
また、本実施の形態に係る車両の制御装置は、フィードフォワード制御およびフィードバック制御において油圧指令値Pluを算出するとともに、ECU200がフィードフォワード制御およびフィードバック制御の中断時、前回算出された油圧指令値Plu(n−1)を保持するので、ロックアップクラッチ22の係合力が変化することを抑制できる。
さらに、本実施の形態に係る車両の制御装置は、実エンジン回転速度Nerから目標エンジン回転速度Netgt1を減じた判定値Njが第2の閾値th2以上となった場合、ECU200が中断していたフィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開するので、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を再開してもスリップスタート制御時のドライバビリティに影響を与えないと判断できる場合には、フィードフォワード制御およびフィードバック制御により実エンジン回転速度Nerを目標エンジン回転速度Netgt1に精度よく追従させることができる。
なお、本実施の形態においては、ECU200は、スリップスタート制御開始時の実エンジン回転速度Nerを初期値とする目標エンジン回転速度Netgt1に基づき、ロックアップクラッチ22のスリップスタート制御を実行するようにしたが、これに限らず、例えば目標エンジン回転速度Netgt1を設定せずに、最適目標エンジン回転速度Netgt0に基づきスリップスタート制御を実行するようにしてもよい。この場合、実エンジン回転速度Nerが最適目標エンジン回転速度Netgt0に追従するように、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を用いてロックアップ係合圧制御用リニアソレノイド141の油圧指令値Pluが制御される。この場合、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を中断するか否かの判断に用いられる判定値Njは、実エンジン回転速度Nerから最適目標エンジン回転速度Netgt0を減じた値となる。
また、本実施の形態および上記変形例においては、ECU200がフィードバック制御に加えてフィードフォワード制御を併用する例について説明したが、これに限らず、フィードバック制御のみを実行するものであってもよいし、フィードフォワード制御のみを実行するものであってもよい。
以上説明したように、本発明に係る車両の制御装置は、車両発進時のロックアップクラッチのスリップ制御時のドライバビリティを向上させることができ、内燃機関と変速機との間にロックアップクラッチ付きのトルクコンバータが設けられた車両の制御装置に有用である。