JP2012007205A - 粉末冶金用金属粉末および焼結体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の粉末冶金用金属粉末は、ZrおよびSiを以下の(A)および(B)の条件を満たすように含み、その残部が、Fe、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料および不可避元素で構成されていることを特徴とする粉末冶金用金属粉末。(A)Zrの含有率をa[質量%]とし、Siの含有率をb[質量%]としたとき、a/bは0.03以上0.3以下である。(B)bは0.35質量%以上1.5質量%以下である。
【選択図】なし
Description
例えば、特許文献1には、ステンレス鋼粉末と熱可塑性バインダーとを混合・混練してなる混合物を、射出成形して成形体を得た後、この成形体を脱脂・焼結して焼結体を得るステンレス鋼粉末の焼結方法が開示されている。
ところが、金属粉末の組成によっては、粒子間における原子拡散の速度が遅い場合がある。このような場合、焼結性が著しく低下し、焼結体の緻密化が十分に進行しないおそれがある。
本発明の粉末冶金用金属粉末は、
ZrおよびSiを以下の(A)および(B)の条件を満たすように含み、その残部が、Fe、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料および不可避元素で構成されていることを特徴とする。
(A)Zrの含有率をa[質量%]とし、Siの含有率をb[質量%]としたとき、a/bは0.03以上0.3以下である
(B)bは0.35質量%以上1.5質量%以下である
これにより、焼結性に劣る組成であっても、または、低温領域で焼成した場合でも、高密度で機械的特性に優れた焼結体を容易に製造することができる粉末冶金用金属粉末が得られる。
これにより、Zrの絶対的な量が最適化されるため、ZrとSiとの相乗的な作用はもちろん、Zr単体による作用も得られる。
本発明の粉末冶金用金属粉末では、さらに、C(炭素)を含み、Cの含有率をc[質量%]としたとき、
c/bは0.001以上3以下であることが好ましい。
これにより、金属材料の緻密化が進行する。また、Cの含有量を前記範囲内にすることにより、ZrやSiに対するCの相対的な量が最適化され、ZrおよびSiによる相乗効果をより確実に得ることができる。
これにより、Cの絶対的な量が最適化されるため、C、ZrおよびSiによる相乗効果がより確実に発揮される。
本発明の粉末冶金用金属粉末では、前記金属材料は、Fe基合金であり、かつ、
aは0.03質量%以上0.1質量%以下であり、かつ、
bは0.5質量%以上0.8質量%以下であり、かつ、
cは0.1質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。
これにより、Zr、SiおよびCの量がそれぞれ最適化されるため、最も優れた相乗効果が得られ、特に緻密な焼結体を製造可能な粉末冶金用金属粉末が得られる。
これにより、とりわけ機械的特性および化学的特性に優れたステンレス鋼焼結体を製造可能な粉末冶金用金属粉末が得られる。
本発明の粉末冶金用金属粉末では、前記金属材料の組成は、焼結温度において原子配列が面心立方格子になる組成であることが好ましい。
これにより、原子の充填率が高くなるため、機械的特性および化学的特性に優れた焼結体を製造可能な粉末冶金用金属粉末が得られる。
これにより、金属粉末の各粒子において、金属材料と添加物(ZrおよびSi)とが均一に分布したものが得られる。その結果、添加物の作用が金属粉末全体で均等に発揮されることとなり、最終的に、焼結ムラの発生を防止することができる。
これにより、成形時の圧縮性の低下を避けつつ、最終的に十分に緻密な焼結体を製造可能な粉末冶金用金属粉末が得られる。
本発明の粉末冶金用金属粉末では、当該粉末冶金用金属粉末は、アトマイズ法により製造されたものであることが好ましい。
これにより、粒径の揃った粉末冶金用金属粉末を得ることができる。また、真球に比較的近い球形状をなしている粒子が得られるため、バインダーに対する分散性や流動性に優れたものとなる。このため、このような金属粉末を含む組成物を成形型に充填して成形する際に、その充填性を高めることができ、最終的により緻密な焼結体を得ることができる。
これにより、焼結性に劣る組成であっても、または、低温領域で焼成した場合でも、高密度で機械的特性に優れた焼結体が得られる。
本発明の焼結体では、相対密度が96%以上であることが好ましい。
これにより、目的とする形状に限りなく近い形状を有するにもかかわらず、溶製材に匹敵する優れた機械的特性を有し、後加工を施すことなく各種の機械部品等に適用可能な焼結体が得られる。
(粉末冶金用金属粉末)
まず、本発明の粉末冶金用金属粉末について説明する。
粉末冶金では、粉末冶金用金属粉末とバインダーとを含む組成物を、所望の形状に成形した後、脱脂・焼結することにより、所望の形状の焼結体を得ることができる。このような粉末冶金技術によれば、その他の冶金技術に比べ、複雑で微細な形状の焼結体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができるという利点を有する。
上記のような問題に鑑み、本発明者は、焼結性が低い組成であっても、または、低温領域で焼成した場合でも、優れた焼結性を示し、良好な焼結体を得るための条件について鋭意検討した。その結果、本発明の粉末冶金用金属粉末を完成するに至った。
本発明の粉末冶金用金属粉末の主成分である金属材料は、Fe、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料である。このような金属材料から得られる焼結体は、機械的特性および電磁気的特性に優れていることから、種々の構造部品や電磁気用部品等に広範囲にわたって好適に用いられるものである。したがって、これらの金属材料を主成分とする粉末冶金用金属粉末は、緻密であり機械的特性や電磁気的特性が特に良好な構造部品や電磁気用部品を製造するための原料粉末として好適である。
このうち、オーステナイト系ステンレス鋼としては、JIS G 4303〜4309等に規定のステンレス鋼のうち、例えば、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS309、SUS310、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347、SUS384等が挙げられる。
また、オーステナイト系耐熱鋼としては、JIS G 4311〜4312等に規定の耐熱鋼のうち、例えば、SUH31、SUH35、SUH36、SUH37、SUH38、SUH309、SUH310、SUH330、SUH660、SUH661等が挙げられる。
さらに、マルテンサイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS416、SUS420、SUS431、SUS440等が挙げられる。
このようなステンレス鋼および耐熱鋼の高密度焼結体は、いずれも構造部品等として優れた性能を発揮し得るものとなる。
また、ニッケルクロムモリブデン鋼としては、例えば、JIS G 4053等に規定の機械構造用合金鋼鋼材等が挙げられる。
また、低合金鋼としては、例えば、Fe2Ni、Fe2NiC、Fe8Ni、Fe8NiC等が挙げられる。
また、パーマロイとしては、例えば、JIS C 2531等に規定の鉄ニッケル軟質磁性材料等が挙げられ、インコネルとしては、例えば、JIS G 4901、4902に規定の耐食耐熱超合金等が挙げられる。
Co−Cr−Mo系合金は、CrとMoとを含むCo基合金であるが、具体的には、Crの含有率は、26質量%以上30質量%以下程度であるのが好ましく、27質量%以上29質量%以下程度であるのがより好ましい。また、Moの含有率は、4.5質量%以上7質量%以下程度であるのが好ましく、5質量%以上6.5質量%以下程度であるのがより好ましい。このような組成のCo−Cr−Mo系合金は、機械的強度に優れたものとなるため、前述したような医療用デバイスの構成材料として、特に好適に用いられるものとなる。
なお、粉末冶金用金属粉末における上記金属材料および上記不可避元素の含有率は、後述する添加物の残部であるが、金属材料の含有率は、好ましくは95質量%以上とされ、より好ましくは97質量%以上とされる。含有率が前記範囲内であれば、粉末冶金用金属粉末において、金属材料が有する特性が十分に支配的となる。
このような添加物は、その含有率を、前述した(A)および(B)の条件で規定される含有率とすることにより、添加物が主成分の特性を損なうことなく、粉末冶金用金属粉末の焼結性を十分に高めるよう作用する。
(I)Zrは、金属材料との間で固溶し低融点相を形成するが、この低融点相は焼結工程における速やかな原子拡散をもたらす。そして、この原子拡散が駆動力となって金属粉末の粒子間距離が急速に縮まり、粒子間にネックを形成する。その結果、成形体の緻密化が進行し、速やかに焼結する。
ここで、2元系の固溶体において、鉄族元素の原子半径をαとし、Zrの原子半径をβとする場合、|α−β|/αが15%を超えると、主成分と副成分とは固溶し難いことが一般的に示唆されている(ヒューム・ロザリーの法則)。
また、金属材料が鉄族元素を含む合金である場合も、上記のメカニズムがほぼ変わらず、焼結性が向上する。
以上のような(I)〜(III)の少なくとも1つの作用により、粉末冶金用金属粉末の焼結性が向上すると考えられる。
Siは、フェライト生成元素であり、かつ脱酸剤としても作用する。このため、Zrと同様に、体心立方格子相を析出させ、かつ、焼結の阻害要因である酸化物を除去し、粉末冶金用金属粉末の焼結性を向上させる。
しかしながら、これらの元素は、それぞれ単独では十分な効果をもたらさないことが明らかになってきた。特に金属材料が焼結温度において面心立方格子相を析出するような材料である場合は、その傾向が顕著である。また、鉄族元素を多く含む金属材料を焼結する場合、高温での焼成が必要であり、寸法精度の向上や焼成にかかるコストを低減する観点から、焼結温度を下げることが求められていた。
これらの課題に対し、本発明者は、ZrおよびSiからなる添加物を以下の条件(A)および(B)を満たすように添加し、残部を前記金属材料および前記不可避元素とする粉末冶金用金属粉末であれば、その焼結性を飛躍的に向上させ得ることを見出した。
(B)bは0.35質量%以上1.5質量%以下である
このような粉末冶金用金属粉末によれば、ZrおよびSiが金属材料の焼結性を高めるよう相乗的に作用する。このため、本発明の粉末冶金用金属粉末とバインダーとを含む組成物を成形した後、脱脂・焼結してなる焼結体は、緻密化が十分に進行したものとなる。そして、得られた焼結体は、相対密度や機械的特性、化学的特性等に優れたものとなる。
このような理由に基づき、両者を所定の割合で含むことにより、焼結に至る温度が特に低下して、低温での焼成であっても焼結密度を十分に高めることができる。
また、bが前記下限値を下回る場合、粉末冶金用金属粉末中におけるSiの量が絶対的に少なくなるため、ZrとSiとによる相乗的な作用が失われてしまう。一方、bが前記上限値を上回る場合、Siの量が絶対的に多くなり、特に焼結体の靭性等の機械的特性が低下する。
なお、条件(A)において、a/bは好ましくは0.05以上0.25以下程度とされ、より好ましくは0.1以上0.2以下程度とされる。
また、aは、0.015質量%以上0.3質量%以下であるのが好ましく、0.03質量%以上0.1質量%以下であるのがより好ましい。aが前記下限値を下回る場合、粉末冶金用金属粉末中におけるZrの量が絶対的に少なくなるため、ZrとSiとの相乗的な作用はもちろん、Zr単体による作用も失われてしまうおそれがある。一方、aが前記上限値を上回る場合、余剰のZrが生じるため、かえって良好な焼結を阻害するおそれがある。
粉末冶金用金属粉末におけるCの含有率をc[質量%]としたとき、c/bは0.001以上3以下程度であるのが好ましく、0.05以上2以下程度であるのがより好ましく、0.1以上1以下程度であるのがさらに好ましい。このような粉末冶金用金属粉末は、ZrやSiに対するCの相対的な量が最適化され、前述した相乗効果をより確実に得ることができる。
なお、c/bが前記下限値を下回る場合、ZrおよびSiに対するCの相対的な量が著しく少なくなるため、相乗効果が得られないおそれがある。一方、c/bが前記上限値を上回る場合、Cの相対的な量が多くなり過ぎて、やはり相乗効果が得られないおそれがある。
なお、cが前記下限値を下回る場合、粉末冶金用金属粉末中におけるCの量が絶対的に少なくなるため、前述したCによる作用が発現しないおそれがある。一方、cが前記上限値を上回る場合、Cの量が絶対的に多くなるため、粉末冶金用金属粉末において金属材料の特性が低下し、焼結体の各種特性が損なわれるおそれがある。
なお、平均粒径が前記下限値未満である場合、粉末冶金用金属粉末が凝集し易くなり、成形時の圧縮性が著しく低下するおそれがある。一方、平均粒径が前記上限値を超える場合、粉末の粒子間の隙間が大きくなり過ぎて、最終的に得られる焼結体の緻密化が不十分になるおそれがある。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末の比表面積は、特に限定されないが、0.1m2/g以上であるのが好ましく、0.2m2/g以上であるのがより好ましい。このように比表面積の広い粉末冶金用金属粉末であれば、表面の活性(表面エネルギー)が高くなるため、より少ないエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、成形体を焼結する際に、より低温でかつ短時間で焼結することができる。
このような粉末冶金用金属粉末は、例えば、いかなる方法で製造されたものでもよいが、例えば、アトマイズ法(水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の方法により製造されたものを用いることができる。
また、アトマイズ法で製造された粉末冶金用金属粉末は、真球に比較的近い球形状をなしているため、バインダーに対する分散性や流動性に優れたものとなる。このため、このような金属粉末を含む組成物を成形型に充填して成形する際に、その充填性を高めることができ、最終的により緻密な焼結体を得ることができる。
さらには、各金属粒子間で、組成のバラツキが少なくなるという利点もある。
なお、このような粉末や、例えばアトマイズ法により製造することができる。アトマイズ法では、前述した金属材料および添加物を溶解して溶融金属とした後、この溶融金属を、高速で噴射させた流体(液体または気体)に衝突させることにより、溶融金属を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する。このため、金属材料および添加物は合金化または金属間化合物を形成し易く、均質な粒子が得られる。
次に、このような本発明の粉末冶金用金属粉末を焼結してなる焼結体(本発明の焼結体)について説明する。
焼結体を製造する方法は、[A]焼結体製造用の組成物を用意する組成物調製工程と、[B]成形体を製造する成形工程と、[C]脱脂処理を施す脱脂工程と、[D]焼成を行う焼成工程とを有する。以下、各工程について順次説明する。
まず、本発明の粉末冶金用金属粉末と、バインダーとを用意し、これらを混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。
この混練物(コンパウンド)中では、粉末冶金用金属粉末が均一に分散している。
バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
このうち、バインダーとしては、ポリオレフィンを主成分とするものが好ましい。ポリオレフィンは、還元性ガスによる分解性が比較的高い。このため、ポリオレフィンをバインダーの主成分として用いた場合、より短時間で確実に成形体の脱脂を行うことができる。
さらに、混練物中には、粉末冶金用金属粉末、バインダー、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、混練物に代えて、造粒粉末を製造するようにしてもよい。
次に、混練物を成形して、目的の焼結体と同形状の成形体を製造する。
成形体の製造方法(成型方法)としては、特に限定されず、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種成形法を用いることができる。
このうち、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いる粉末冶金用金属粉末の組成や粒径、バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200MPa以上1000MPa以下(2t/cm2以上10t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、押出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
このようにして得られた成形体は、金属粉末の複数の粒子の間隙に、バインダーが一様に分布した状態となる。
なお、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分を見込んで決定される。
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、バインダーを分解することにより、成形体中からバインダーを除去して、脱脂処理がなされる。
この脱脂処理は、例えば、成形体を加熱する方法、バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。
また、成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、大気のような酸化性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
なお、このような脱脂工程は、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うことにより、成形体中のバインダーをより速やかに、そして、成形体に残存させないように分解・除去することができる。
また、必要に応じて、脱脂体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。脱脂体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、脱脂体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高い焼結体を容易に得ることができる。
前記工程[C]で得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。
この焼結により、粉末冶金用金属粉末は、粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。この際、前述したようなメカニズムによって、脱脂体が速やかに焼結される。その結果、全体的に緻密な高密度の焼結体が得られる。
焼成温度は、成形体および脱脂体の製造に用いた粉末冶金用金属粉末の組成や粒径等によって異なるが、本発明では、金属材料の融点の70%以上95%以下の温度に設定する。このような温度は、従来の焼成温度に比べてかなり低い温度である。このため、従来の粉末冶金用金属粉末では、このような低温領域で焼成したとしても、焼結が十分に進行せず、焼結体の密度を高めることができなかった。
また、焼成温度は、好ましくは主成分の融点の75%以上90%以下程度とされる。
例えば、金属材料としてオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS316Lを用いた場合、粉末冶金用金属粉末の脱脂体の焼成温度は、SUS316Lの融点が約1400℃であることから、980℃以上1330℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1260℃以下程度とされる。
また、焼成時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上4時間以下程度とされる。
また、焼成温度が比較的低温であることから、焼成炉による加熱温度を一定に制御し易く、したがって、脱脂体の温度も一定になり易い。その結果、より均質な焼結体を製造することができる。
さらには、前述したような焼成温度は、一般的な焼成炉で十分に実現可能な焼成温度であるため、安価な焼成炉が利用可能であるとともに、ランニングコストも抑えることができる。換言すれば、前記焼成温度を超える場合には、特殊な耐熱材料を用いた高価な焼成炉を利用する必要があり、しかもランニングコストも高くなるおそれがある。
このようにして得られた焼結体は、比較的低温で焼成したにもかかわらず、相対密度の高いものとなる。
その結果、得られた焼結体の相対密度は、96%以上になることが期待できる(好ましくは97%以上)。このような範囲の相対密度を有する焼結体は、粉末冶金技術を利用することで目的とする形状に限りなく近い形状を有するものであるにもかかわらず、溶製材に匹敵する優れた機械的特性を有するものとなるため、後加工を施すことなく各種の機械部品等に適用可能なものとなる。
以上のことから、本発明の粉末冶金用金属粉末を用いることにより、この金属粉末が焼結性に劣る組成であっても、または、低温領域で焼成した場合であっても、焼結における緻密化を図ることができる。その結果、高密度で機械的特性に優れた焼結体を容易に製造することができるようになる。
以上、本発明の粉末冶金用金属粉末および焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.SUS316L系ステンレス鋼の焼結体の製造
(実施例1A)
[1]まず、水アトマイズ法により製造された表1に示す組成のSUS316L系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、このSUS316L系粉末の平均粒径は9.87μm、タップ密度は4.38g/cm3、比表面積は0.24m2/gであった。また、SUS316L材料の融点は、約1400℃である。
また、表1に示す粉末の組成は、誘導結合高周波プラズマ発光分析法(ICP法)により同定した。また、ICP分析には、(株)リガク製、ICP装置(CIROS120型)を用いた。
なお、バインダー溶液における有機バインダーの量は、金属粉末1kg当たり10gとした。また、バインダー溶液における水の量は、有機バインダー1g当たり50gとした。
[3]次に、金属粉末を、造粒装置の処理容器内に投入した。そして、処理容器内の金属粉末に向けて、造粒装置のスプレーノズルからバインダー溶液を噴霧しつつ、金属粉末を転動・造粒し、造粒粉末を得た。
<成形条件>
・成形方法:圧粉成形
・成形圧力:600MPa(6t/cm2)
[5]次に、この成形体を以下の脱脂条件で脱脂し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :470℃
・加熱時間 :1時間
・加熱雰囲気:アルゴン雰囲気
<焼成条件>
・加熱温度 :1100℃(融点の79%)
・加熱時間 :3時間
・加熱雰囲気:アルゴン雰囲気
粉末冶金用金属粉末の組成を、表1に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Aと同様にして焼結体を得た。
(比較例1A〜4A)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表1に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Aと同様にして焼結体を得た。
(実施例1B)
まず、水アトマイズ法により製造された表2に示す組成のSCM415系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、このSCM415系粉末の平均粒径は9.74μmであった。
次に、実施例1Bと同様にして焼結体を得た。なお、焼成時の加熱温度は、SCM415材料の融点の87%とした。
粉末冶金用金属粉末の組成を、表2に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Bと同様にして焼結体を得た。
(比較例1B〜4B)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表2に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Bと同様にして焼結体を得た。
(実施例1C)
まず、水アトマイズ法により製造された表3に示す組成のSNCM439系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、このSNCM439系粉末の平均粒径は10.12μmであった。
次に、実施例1Cと同様にして焼結体を得た。なお、焼成時の加熱温度は、SNCM439材料の融点の85%とした。
粉末冶金用金属粉末の組成を、表3に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Cと同様にして焼結体を得た。
(比較例1C〜4C)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表3に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Cと同様にして焼結体を得た。
(実施例1D)
まず、水アトマイズ法により製造された表4に示す組成の2%Ni−Fe系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、この2%Ni−Fe系粉末の平均粒径は9.74μmであった。
次に、実施例1Dと同様にして焼結体を得た。なお、焼成時の加熱温度は、2%Ni−Fe材料の融点の81%とした。
粉末冶金用金属粉末の組成を、表4に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Dと同様にして焼結体を得た。
(比較例1D〜7D)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表4に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Dと同様にして焼結体を得た。
(実施例1E)
まず、水アトマイズ法により製造された表5に示す組成の8%Ni−Fe系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、この8%Ni−Fe系粉末の平均粒径は9.84μmであった。
次に、実施例1Eと同様にして焼結体を得た。なお、焼成時の加熱温度は、8%Ni−Fe材料の融点の84%とした。
粉末冶金用金属粉末の組成を、表5に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Eと同様にして焼結体を得た。
(比較例1E〜5E)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表5に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Eと同様にして焼結体を得た。
(実施例1F)
まず、水アトマイズ法により製造された表6に示す組成のCo−Cr−Mo系粉末(エプソンアトミックス社製)を用意した。なお、このCo−Cr−Mo系粉末の平均粒径は9.93μmであった。
次に、実施例1Fと同様にして焼結体を得た。なお、焼成時の加熱温度は、Co−Cr−Mo材料の融点の72%とした。
粉末冶金用金属粉末の組成を、表6に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Fと同様にして焼結体を得た。
(比較例1F〜3F)
粉末冶金用金属粉末の組成を、表6に示すように変更した以外は、それぞれ前記実施例1Fと同様にして焼結体を得た。
7.1 焼結密度の測定
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、それぞれの焼結密度を測定した。なお、焼結密度の測定は、アルキメデス法(JIS Z 2501に規定)に準じた方法により行った。
また、測定された焼結密度と、各実施例および各比較例で用いた金属材料の真密度とから、各実施例および各比較例で得られた焼結体の相対密度を算出した。
各実施例および各比較例で得られた焼結体の一部について、それぞれの引張強さを測定した。なお、引張強さの測定は、JIS Z 2241に規定の方法に準じて行った。
以上、7.1の測定結果を表1〜6に示す。また、7.2の測定結果を表4に示す。
表1〜6から明らかなように、各実施例では、いずれも、比較例に比べて高密度の焼結体が得られた。これにより、ZrおよびSiを所定の割合で含む粉末冶金用金属粉末は、その焼結性を高め得ることが明らかとなった。
特に、ZrおよびSiに対して、さらにCを所定の割合で添加することにより、粉末冶金用金属粉末の焼結性をさらに高め得ることが認められた。
また、各実施例で得られた焼結体は、比較例で得られた焼結体に比べて引張強さが高く、機械的特性に優れていることが認められた。
次に、実施例3Dおよび各比較例2D〜7Dで得られた粉末冶金用金属粉末について、それぞれ焼成温度1100℃および焼成温度1300℃において焼結体を製造した。なお、焼成時間はそれぞれ3時間とし、焼成雰囲気はそれぞれアルゴン雰囲気とした。
次いで、得られた焼結体の焼結密度をそれぞれ測定した。測定した焼結密度から算出した相対密度を表7に示す。
図1から明らかなように、実施例で得られた粉末冶金用金属粉末を用いた場合、1100℃という低温で焼成しても、96.5%以上の高密度の焼結体を得ることができた。このような低温での焼成でも十分な密度が得られれば、特殊な耐熱材料を用いない安価な焼成炉でも高品質の焼結体を製造することができる。また、熱による寸法変化が抑えられるため、焼結体の寸法精度が高くなる。その結果、後加工が不要になり、製造工程の簡略化および低コスト化が図られる。
なお、2%Ni−Feの粉末冶金用金属粉末については、平均粒径3μm、5μm、15μm、25μmの粉末についても、表4と同様の組成の粉末を用いて焼結体の評価を行った。その結果、粒径を変えても焼結性の傾向は表4の場合と変わらなかった。一方、粒径が小さいほど、相対密度が高くなる傾向が認められた。
一方、各比較例で得られた粉末冶金用金属粉末を用いた場合、焼成温度1100℃では、十分な焼結密度を得ることができなかった。また、1300℃で焼成しても、実施例で得られた粉末冶金用金属粉末を1100℃で焼成して得られた焼結体の密度さえ上回ることはできなかった。
Claims (12)
- ZrおよびSiを以下の(A)および(B)の条件を満たすように含み、その残部が、Fe、CoおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属材料および不可避元素で構成されていることを特徴とする粉末冶金用金属粉末。
(A)Zrの含有率をa[質量%]とし、Siの含有率をb[質量%]としたとき、a/bは0.03以上0.3以下である
(B)bは0.35質量%以上1.5質量%以下である - 前記Zrの含有率aは0.015質量%以上0.3質量%以下である請求項1に記載の粉末冶金用金属粉末。
- さらに、C(炭素)を含み、Cの含有率をc[質量%]としたとき、
c/bは0.001以上3以下である請求項1または2に記載の粉末冶金用金属粉末。 - 前記Cの含有率cは0.001質量%以上2.5質量%以下である請求項3に記載の粉末冶金用金属粉末。
- 前記金属材料は、Fe基合金であり、かつ、
aは0.03質量%以上0.1質量%以下であり、かつ、
bは0.5質量%以上0.8質量%以下であり、かつ、
cは0.1質量%以上0.7質量%以下である請求項3または4に記載の粉末冶金用金属粉末。 - 前記金属材料は、オーステナイト系ステンレス鋼である請求項1ないし5のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末。
- 前記金属材料の組成は、焼結温度において原子配列が面心立方格子になる組成である請求項1ないし6のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末。
- 前記金属材料と、前記ZrおよびSiとは、合金または金属間化合物を形成している請求項1ないし7のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末。
- 平均粒径が1μm以上30μm以下である請求項1ないし8のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末。
- 当該粉末冶金用金属粉末は、アトマイズ法により製造されたものである請求項1ないし9のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末。
- 請求項1ないし10のいずれかに記載の粉末冶金用金属粉末を所定の形状に成形し、得られた成形体を焼結してなることを特徴とする焼結体。
- 相対密度が96%以上である請求項11に記載の焼結体。
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