JP2011251475A - インクジェット記録用シートの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のインクジェット記録用シートの製造方法は、基材の少なくとも片面に、25℃におけるpHが9.0以上のアルカリ性溶液を塗布してアルカリ処理基材を得るアルカリ処理工程と、前記アルカリ処理基材の、アルカリ性溶液を塗布した面に、少なくとも顔料、ポリビニルアルコール、ホウ素化合物および有機酸を含有する定着層形成用塗工液を塗布、乾燥して定着層を形成する定着層形成工程とを有する。本発明のインクジェット記録用シートの製造方法においては、有機酸がカルボキシ基を有する有機化合物であることが好ましい。
【選択図】なし
Description
インクジェット記録用シートに対しては、インクジェットプリンタの高速化に対応するために、高いインク吸収性が求められている。インクジェット記録用シートにおいて高いインク吸収性を得る方法としては、定着層の塗工量を増やす方法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、定着層の塗工量を増やすと、乾燥時にひび割れが生じることがあった。
定着層のひび割れは、乾燥後も残るため、白紙部分とインクが付着した部分、また、インクの打ち込み量の多い部分と少ない部分とで光沢感に違いを生じることがあった。また、顔料系インクで印字した場合には、インク中の顔料粒子がひび割れの中に落ち込み、充分な記録濃度が得られなかった。
特許文献3では、水溶性樹脂とホウ素化合物を含む層(第1の層)を塗工すると同時にまたは第1の層が乾燥する途中にまたは乾燥した後に、第1の層の上にpH8以上の塩基性溶液(第2の層)を塗工して、得られる定着層のひび割れを抑えることが提案されている。しかし、この方法では、2つの層の混合を抑制するために同時多層塗工を適用しなければならず、第1の層と第2の層の塗料粘度を適切な範囲内に収め、かつ第2の層を付与する速度を制御しなければならないため、簡便ではなかった。
特許文献4では、ホウ素化合物を含む定着層を基材上に設け、これが減率乾燥を示した後にpH7.1以上のアルカリ性溶液を付与することが提案されている。しかし、この方法では、充分に定着層のひび割れを防止できなかった。
特に、特許文献6では、塗工液の保存安定性が低く、特に数立方メートル程度の大容量の塗料タンク内に塗工液を保存した場合には、タンク内部が不均一になりやすいため、部分的な増粘が発生した。塗工液が増粘すると、塗工ムラ等の塗工欠陥を生じやすくなる。部分的な増粘を防ぐために塗工液を攪拌して均一化した場合には、塗料温度の上昇や泡立ち等の別の問題が発生した。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、乾燥後の定着層のひび割れを防止できる上に、塗工前の定着層形成用塗工液の保存安定性を高くできるインクジェット記録用シートを簡便に製造できるインクジェット記録用シートの製造方法を提供することを目的とする。
H3BO3 + H2O ⇔ [H4BO4]− + [H]+
そして、塗工前の定着層形成用塗工液におけるホウ酸イオンの生成を抑制する方法について検討して、以下のインクジェット記録用シートの製造方法を発明した。
[2]有機酸がカルボキシ基を有する有機化合物である、[1]に記載のインクジェット記録用シートの製造方法。
<インクジェット記録用シート>
本実施形態で製造されるインクジェット記録用シートは、基材と、基材の少なくとも片面側に設けられた定着層とを有する。
基材としては、紙基材、樹脂フィルムまたは各種シート材を使用することができる。また、基材は、紙基材、樹脂フィルム、シート材の表面に、インクの溶媒の遮蔽および平滑性の向上を目的とした下塗り層が設けられたものであってもよい。
上記紙基材としては、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、クラフト紙、バライタ紙、板紙、含浸紙、蒸着紙、酸性紙、中性紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル等のフィルムが挙げられる。
シート材としては、金属箔、ラミネート紙、合成紙、不織布などが挙げられる。
紙基材、樹脂フィルム、シート材のなかでは、取り扱い易さおよび廃棄の容易さ等の面から紙基材が好ましい。
以下、紙基材について説明する。
紙基材は、木材パルプを主成分とし、必要に応じて填料、各種助剤等を含有する。
木材パルプとしては、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができるが、いずれのパルプでも、針葉樹および広葉樹のクラフトパルプ、あるいはこれらクラフトパルプを漂白した針葉樹晒クラフトパルプ(以下、「NBKP」と表記する。)、広葉樹晒クラフトパルプ(以下、「LBKP」と表記する。)が好ましい。
また、環境への負荷低減の点から、木材パルプにおいては、その漂白工程で塩素の影響を取り除いた塩素フリーパルプが好ましい。塩素フリーパルプとしては、例えば、塩素そのものを使わずに塩素化合物を使って漂白したECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、塩素元素が一切入っていない漂白剤を用いて漂白したTCF(Total Chlorine Free)パルプが挙げられる。
また、木材パルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度が調整されていることが好ましく、叩解度(フリーネス(CSF:カナディアンスタンダードフリーネス)は250〜550ml(JIS P8121)にされていることが好ましい。叩解度が前記下限値以上であれば、印刷した際のコックリング(吸収ジワ)を軽減でき、上限値以下であれば、紙基材の平滑性が向上する。
紙基材中の填料の含有率(灰分)は1〜20質量%が好ましい。この範囲であれば、平滑度、透気度、紙力および剛性のバランスが良くなり、光沢度や写像性、剛性のバランスに優れる。
サイズ剤としては、例えば、強化ロジン、アルケニル無水コハク酸等の公知のサイズ剤を用いることができ、定着剤としては、硫酸バンドを用いることができ、定着歩留まり向上剤としては澱粉を用いることができる。
また、紙基材に含まれてもよい助剤としては、紙力増強剤、カチオン化剤、染料、蛍光増白剤等を用いることもできる。
サイズプレス処理された紙基材のステキヒトサイズ度(JIS P8122)は1〜300秒が好ましく、4〜200秒がより好ましい。ステキヒトサイズ度が前記下限値以上であれば、塗工時の皺発生を防止でき、前記上限値以下であれば、インク吸収性が高くなる。
紙基材の厚さは、特に限定されないが、用途に応じて40〜500μmの範囲で適宜選択される。
定着層は、顔料と、活性化された架橋剤によって架橋されたポリビニルアルコールと有機酸とを含有する層である。
定着層は単層であってもよいし、多層(2層以上)であってもよい。定着層が多層で構成される場合には、各層に含まれる顔料および架橋されたポリビニルアルコールは同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
顔料としては、2次粒子の平均粒子径が10nm〜3μmの顔料が用いられる。本明細書における平均粒子径とは、動的光散乱法を利用した粒子径測定装置を使用して測定した粒子径分布のメジアン径のことである。なお、本発明者らは、動的光散乱法を利用した粒子径測定装置として、「動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500型(株式会社堀場製作所製)」を使用したが、同じ測定原理のものであれば、別の粒子径測定装置であっても、ほぼ同じ平均粒子径が得られる。
顔料の2次粒子の平均粒子径が前記下限値以上であれば、インク吸収性が高くなり、前記上限値以下であれば、定着層の光沢を高くできる。
顔料としては、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、カオリン(含クレー)、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、コロイダルシリカ、酸化アルミニウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられる。これらは単独或いは2種以上を組み合わせて用いられる。
上記顔料の中でも、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が好ましく、シリカがより好ましく、1次粒子径5nm〜50nm、2次粒子径10nm〜300nmの気相法シリカがより好ましい。
ポリビニルアルコールは、顔料を保持するための接着剤として機能する。また、ポリビニルアルコールは、容易に架橋させることができ、定着層の表面強度を容易に高くできるという利点を有する。
ポリビニルアルコールとしては、無変性のポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
ポリビニルアルコールは、そのケン化度によって性状が異なるため、目的に応じてそのケン化度を選択することが好ましい。
ケン化度が95%以上、特には98%以上のポリビニルアルコールを使用すると、定着層を形成する際に使用する定着層形成用塗工液を調製する際の泡立ちを防止でき、作業性が良好になる上に、定着層の強度が高くなる。
ケン化度が75〜90%の部分ケン化ポリビニルアルコールを使用すると、定着層の可撓性に優れる。
これらケン化度の異なるポリビニルアルコールは、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。
定着層には、接着剤として、ポリビニルアルコール以外の接着剤を含有してもよい。ポリビニルアルコール以外の接着剤としては、各種の水分散系接着剤、水溶性接着剤が挙げられる。
水分散系接着剤はエマルジョン状またはスラリー状の接着剤である。水分散系接着剤の樹脂成分としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂等が挙げられる。この中でも、定着層のインク吸収性および透明性の面で、アクリル系樹脂およびウレタン系樹脂が好ましい。上記の水分散系接着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
水溶性接着剤としては、例えば、カゼイン、大豆蛋白、ゼラチン、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、キチン、キトサン等の各種多糖類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等が挙げられる。上記の水溶性接着剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
また、上記の水分散系接着剤および水溶性接着剤は、各々、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤はホウ素化合物を含む。本発明において、ホウ素化合物とは、ホウ素原子を中心原子とする酸素酸及びその塩である。このホウ素化合物は、イオン化されていない状態ではポリビニルアルコールの架橋に対して不活性であるが、イオン化された状態では架橋に対して活性、すなわち架橋反応を開始させることができる。
ホウ素化合物の具体例としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、定着層形成用塗工液を適度に増粘できることから、オルトホウ酸と四ホウ酸二ナトリウムが好ましく、オルトホウ酸がより好ましい。
オルトホウ酸は、pH9.0未満では、ホウ酸イオン([H4BO4]−)を殆ど生じず、ポリビニルアルコールの架橋に対して不活性であるが、pH9.0以上の環境下では、ホウ酸イオンをとりわけ生じやすく、ポリビニルアルコールの架橋に対して活性化状態になる。
架橋剤中のホウ素化合物の含有割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。架橋剤におけるホウ素化合物の含有割合が前記下限値以上であれば、定着層のひび割れをより防止できる。
有機酸とは、酸性基(カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基)を有する有機化合物のことである。有機酸の中でも、反応性が穏やかなため、塗工液中に共存する他の物質への影響が少ないことから、カルボキシ基を有する有機化合物が好ましい。
カルボキシ基を有する有機化合物としては、蟻酸、酢酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸等が挙げられる。これらの中でも、適度な酸性であるため、定着層を形成するための塗工液の調製作業および塗工作業を簡便にでき、しかも臭気が少ないことから、乳酸、リンゴ酸、クエン酸が好ましい。
また、定着層は、インクジェット記録用インク中の染料色素を定着する作用を有するインク定着剤を含有してもよい。インク定着剤を含有すれば、印字画像の耐水性を向上させることができる。
インク定着剤としては、カチオン性樹脂や低分子カチオン性化合物(例えばカチオン性界面活性剤等)などのカチオン性化合物が用いられる。インク定着剤は1種を単独に使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
カチオン性樹脂としては、例えば、(a)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、(b)第2級または第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、またはそれらのアクリルアミドの共重合体、(c)ポリビニルアミンおよびポリビニルアミジン類、(d)ジシアンジアミド−ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物、(e)ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、(f)エピクロルヒドリン−ジメチルアミン共重合体、(g)ジアリルジメチルアンモニウム−SO2重縮合体、(h)ジアリルアミン塩−SO2重縮合体、(i)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、(j)アリルアミン塩の共重合体、(k)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、(l)アクリルアミド−ジアリルアミン共重合体、(m)5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂等が挙げられる。
定着層が気相法シリカとカチオン性化合物を含有する場合には、気相法シリカとカチオン性化合物とが混合、凝集した凝集体微粒子の形態で含有することが好ましい。シリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子の形態で含有すると、定着層の透明性、表面強度、平滑性、インクの吸収性、発色性、耐候性、耐水性等を向上させることができる。
シリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
気相法シリカ分散液へのカチオン性化合物の添加量としては、気相法シリカ固形分100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。カチオン性化合物の添加量が前記下限値以上であれば、凝集体水分散液の粘度が安定し、操業性が良好となり、前記上限値以下であれば、カチオン性樹脂の過多によるインク吸収性の不足を防止できる。
粉砕方法としては、機械的手段で強い力を与えるブレーキング・ダウン法(塊状原料を細分化する方法)が採られる。
機械的手段としては、超音波、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体撹拌ミル、ジェットミル、擂解機、サンドグラインダ、ナノマイザ(商品名)、ホモミキサ等が挙げられる。
定着層には、さらに、一般塗工紙の塗工層に含まれる分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜含まれてもよい。また、定着層には、蛍光染料、着色剤が含まれてもよい。
上記インクジェット記録用シートを製造する方法は、基材の少なくとも片面にアルカリ性溶液を塗工してアルカリ処理基材を得るアルカリ処理工程と、前記アルカリ処理基材の、アルカリ性溶液を塗工した面に定着層形成用塗工液を塗工、乾燥して定着層を形成する定着層形成工程とを有する。
アルカリ処理工程にて基材に塗工するアルカリ性溶液は、25℃におけるpHが9.0以上、好ましくは10.0以上の溶液である。アルカリ性溶液のpHが9.0未満であると、定着層にひび割れが生じやすくなる。
アルカリ性溶液のpHは13以下であることが好ましい。アルカリ性溶液のpHが前記上限値以下であれば、アルカリ性溶液を容易に調製できる。
アルカリ性溶液の溶媒としては、水、または、水に水溶性有機溶剤が少量添加された水系溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のエーテルが挙げられる。
有機溶剤を含有する場合、その含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。有機溶剤の含有量が前記上限値以下であれば、pHを容易に調整できる。
アルカリ性物質の中でも、インクジェット記録用シートの白紙の保存性の点から、エタノールアミン類、アルカリ土類金属の塩が好ましく、特にエタノールアミン類は画像の鮮明性に優れるので好ましい。
アルカリ性溶液における顔料の含有量としては、定着層の剥離防止の点から、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち顔料を含まない)ことが特に好ましい。
アルカリ性溶液における接着剤の含有量としては、アルカリ性物質や水酸イオンの定着層への移動のしやすさの点から、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち接着剤を含まない)ことが特に好ましい。
また、アルカリ性溶液には、濡れ剤、消泡剤、粘度調整剤などの添加剤が含まれてもよい。
アルカリ性溶液の乾燥固形分塗工量は0.3〜5g/m2であることが好ましく、0.5〜3g/m2であることがより好ましい。塗工量が前記下限値以上であれば、定着層のひび割れをより防止でき、塗工量が前記上限値以下であれば、塗工速度の低下を防止できる。
アルカリ性溶液は塗工後、乾燥することが好ましい。アルカリ性溶液を乾燥すれば、定着層形成用塗工液を塗工した際に、ポリビニルアルコールの架橋を基材側から容易に進ませることができる。
定着層形成用塗工液は、少なくとも顔料、ポリビニルアルコール、ホウ素化合物および有機酸を含有する。定着層形成用塗工液の溶媒としては、アルカリ性溶液の溶媒と同様に、水、または、水に水溶性有機溶剤が少量添加された水系溶媒が使用される。
定着層形成用塗工液のpHを上記範囲に調整するためには、有機酸の添加量を調整すればよい。また、定着層形成用塗工液にカチオン性化合物を添加する場合には、その添加量によって調整してもよい。カチオン性化合物の添加量が多い程、pHは低くなる。
接着剤に含まれるポリビニルアルコールの割合は、定着層の塗膜強度が高くなることから、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
定着層形成用塗工液における有機酸の含有量は、定着層形成用塗工液の25℃におけるpHが3.0〜4.0未満になる量が好ましい。
定着層形成用塗工液の乾燥固形分塗工量は2〜100g/m2であることが好ましく、5〜50g/m2であることがより好ましい。塗工量が前記下限値以上であれば、定着層のインク吸収性が充分なものとなり、塗工量が前記上限値以下であれば、定着層のひび割れをより防止できる。
定着層形成用塗工液を塗工した後の乾燥方法としては特に制限されず、例えば、熱風による加熱乾燥、赤外線照射による加熱乾燥等を適用できる。
上記のように、有機酸を含む定着層形成用塗工液では、水素イオン濃度が高くなっているため、下記反応式の平衡を左方向にずらすことができ、ホウ酸イオン量を減らすことができる。したがって、塗工前の保存時のホウ酸イオンによるポリビニルアルコールの架橋を抑制できるため、定着層形成用塗工液の保存安定性を向上させることができる。
H3BO3 + H2O ⇔ [H4BO4]− + [H]+
これにより、保存時の部分的な増粘を抑制でき、塗工した際の塗工ムラ等の塗工欠陥を防止できる。
また、有機酸は酸性の度合いが適度であるため、酸を取り扱うにもかかわらず、塗工液の調製が容易になる。
以上のように、基材をアルカリ処理してから定着層形成用塗工液を塗工することにより、得られる定着層の歪みを小さくできるため、ひび割れを防止できると考えられる。
さらに、上記製造方法は、基材に、アルカリ性溶液、定着層形成用塗工液を順次塗工する方法であるから、汎用的な塗工装置を適用でき、粘度の調整も通常行う程度で済むため、簡便である。
なお、本発明においては、定着層の露出面に光沢発現層を形成してもよい。光沢発現層の形成方法としては、光沢発現層形成用塗工液を定着層上に塗工し、キャスト加工を施す方法が挙げられる。
光沢発現層形成用塗工液には、微粒子および接着剤と、必要に応じてカチオン性化合物、離型剤が含まれる。
微粒子としては特に限定されないが、コロイダルシリカ、気相法シリカ、アルミナ酸化物などが挙げられ、より高光沢になる点では、コロイダルシリカが好ましい。
微粒子の平均粒子径は、光沢発現性の点から、1μm以下であることが好ましく、1次粒子の場合には3〜100nm、2次粒子の場合には700nm以下であることが好ましい。
接着剤、カチオン性化合物としては、各々、上記定着層に含まれる接着剤、カチオン性化合物と同様のものを使用することができる。
離型剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸類、およびそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、アンモニウム等の塩類、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドおよびメチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素類、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ロート油、レシチン等の油脂類や脂質類、含フッ素界面活性剤等の各種界面活性剤、四フッ化エチレンポリマーやエチレン−四フッ化エチレンポリマー等のフッ素系ポリマー等が例示される。
これらのうち、鏡面ドラムに対する離型性の点から、脂肪族炭化水素またはその誘導体や変性物、脂肪酸またはその塩、脂質類が好ましく、中でも、脂肪族炭化水素としてはポリエチレンワックスが、脂肪酸としてはステアリン酸またはオレイン酸が、脂質としてはレシチンの使用がより好ましい。
また、離型剤の添加量は、その種類や鏡面ドラムに応じて適宜選択されるが、通常、微粒子100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内にされる。
キャスト加工としては、光沢発現層形成用塗工液を塗工後直ちに、または、塗工しながら、鏡面ドラムによる圧着を行った後、乾燥する方法が挙げられる。
また、以下に示す実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ水を除く固形分の「質量部」および「質量%」を示す。
以下の例における平均粒子径は、動的光散乱式粒径分布測定装置(LB−500型、株式会社堀場製作所製)を使用して測定した。pHは、pH計(アズワン(株)、卓上型pH計 PH510型)により測定した。
[紙基材]
木材パルプ(LBKP;叩解度400mlCSF)100質量部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス)5質量部、サイズ剤(荒川化学(株)製、サイズパインE)0.05質量部、硫酸バンド1.5質量部、湿潤紙力剤(荒川化学(株)製、ポリストロン386)0.5質量部、澱粉0.75質量部よりなる製紙材料を原料とし、長網抄紙機を用いて抄紙して、坪量180g/m2の紙基材を得た。
水にジエタノールアミン(キシダ化学(株)製、試薬)を100部、濡れ剤(ライオン(株)製、商品名:レオックス2160C)を0.2部、消泡剤(サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ1407K)を0.05部添加・分散して、pH10.5(25℃)、固形分濃度5%のアルカリ性溶液を調製した。
平均粒子径1.0μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:エアロジルA300、平均1次粒子径 約8nm)を用い、ホモミキサにより分散した後、平均粒子径が50nmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散して、10質量%のシリカの水分散液を調製した。
前記10質量%のシリカ水分散液100質量部に、5員環アミジン構造を有するカチオン性化合物(ハイモ(株)製、商品名:ハイマックスSC700M、分子量30万)10質量部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.10μmのシリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子10質量%水分散液を調製した。
シリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子100部に、ホウ酸(キシダ化学(株)製、試薬)を1.5部、接着剤としてポリビニルアルコール((株)クラレ製、商品名:PVA−145、重合度4500、ケン化度99%)を20部、リンゴ酸(キシダ化学(株)製、試薬)を0.1部、濡れ材(花王(株)製、商品名:エマルゲン709)を0.5部、消泡剤(サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777)を0.1部混合・攪拌して、pH3.8で固形分濃度12%の定着層形成用塗工液を調製した。
定着層形成用塗工液の粘度を、25℃においてB型粘度計により測定したところ、200mPa・sであった。
作製した紙基材の一方の表面に、アルカリ性溶液を乾燥塗工量が1g/m2になるようにバーコータにより塗工し、乾燥させた後、定着層形成用塗工液を乾燥塗工量が10g/m2になるようにダイコータにより塗工し、乾燥させて、インクジェット記録用シートを得た。
実施例1において、リンゴ酸(キシダ化学(株)製、試薬)の添加量を0.5部に変更した以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
実施例2において、アルカリ性溶液のジエタノールアミンを水酸化カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬)に変更した以外は実施例2と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
水に、コロイド状粒子としてコロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名:スノーテックスAK−L、平均粒子径:45nm、1次粒子)100部、接着剤としてポリビニルアルコール((株)クラレ製、クラレポバールPVA117)10部、染料定着剤としてカチオン性樹脂(ハイモ(株)製、商品名:ハイマックスSC700M)10部を含有する組成液を混合した。また、濡れ剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル(ライオン(株)製、商品名:レオックス2008C)5部、水分散性離型剤としてワックスエマルジョン(共栄社化学(株)製、商品名:ライトピールOK−1)5部、水溶性物質としてベヘニルアミン酢酸塩5部を添加・混合して、固形分濃度5%の光沢発現層用塗工液を調製した。
実施例1において、リンゴ酸(キシダ化学(株)製、試薬)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
比較例1において、シリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子を調製する際のカチオン性化合物の使用量を8部に変更した以外は比較例1と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
比較例1において、シリカ−カチオン性化合物凝集体微粒子を調製する際のカチオン性化合物の使用量を6部に変更した以外は比較例1と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
実施例2において、アルカリ性溶液のpHを8.5に変更した以外は実施例2と同様にして、インクジェット記録用シートを得た。
各実施例および各比較例のインクジェット記録用シートの定着層の塗工欠陥およびひび割れについて、下記に示す方法で評価した。その評価結果を表1に示す。
インクジェット記録用シートの定着層表面を目視で観察し、塗工欠陥(塗工ムラ)の程度を下記の5段階で評価した。塗工ムラが少ない程、塗工前の定着層形成用塗工液の保存安定性に優れていたことを意味する。
5:定着層表面に塗工ムラがまったく認められない。
4:定着層表面に、わずかに塗工ムラが認められる(1m2あたり1箇所程度)。
3:定着層表面に、若干の塗工ムラが認められる(1m2あたり2〜3箇所)。
2:定着層表面の所々に、塗工ムラが認められる(1m2あたり4〜5箇所)。
1:定着層表面のあちこちに、塗工ムラが認められる(1m2あたり6箇所以上)。
インクジェット記録用シートの定着層表面を光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、ひび割れの有無を調べ、下記の5段階で評価した。
5:定着層表面にひび割れがまったく認められない。
4:定着層表面に、わずかにひび割れが認められる。
3:定着層表面の所々に、若干ひび割れが認められる。
2:定着層表面のかなりの部分に、ひび割れが認められる。
1:定着層表面のほぼ全面に、ひび割れが認められる。
インクジェット記録用シートの定着層の全面を黒印字し、その色濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製、Gretag Macbeth RD−19)により測定した。
なお、インクジェットプリンタには、染色系インクを使用するプリンタとしてキヤノン社製iP−4300(印字モード:高品位専用紙、きれいモード)を、顔料系インクを使用するプリンタとしてエプソン社製PX−G920(印字モード:EPSON写真用紙、推奨モード)を用いた。
これに対し、定着層形成用塗工液に有機酸を含有させなかった比較例1〜3では、塗工前の保存安定性が低く、粘度が高くなり、塗工欠陥が見られた。また、塗工欠陥は、カチオン性化合物の使用量が少なく、定着層形成用塗工液のpHが高くなる程、顕著に見られた。
アルカリ性溶液のpHを9.0未満とした比較例4では、得られた定着層にひび割れが生じた。
Claims (2)
- 基材の少なくとも片面に、25℃におけるpHが9.0以上のアルカリ性溶液を塗布してアルカリ処理基材を得るアルカリ処理工程と、
前記アルカリ処理基材の、アルカリ性溶液を塗布した面に、少なくとも顔料、ポリビニルアルコール、ホウ素化合物および有機酸を含有する定着層形成用塗工液を塗布、乾燥して定着層を形成する定着層形成工程とを有することを特徴とするインクジェット記録用シートの製造方法。 - 有機酸がカルボキシ基を有する有機化合物である、請求項1に記載のインクジェット記録用シートの製造方法。
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