JP2011246764A - 高強度薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高強度薄鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Cuの添加量を少なくしつつ、冷延鋼板として十分な耐水素脆性を有する高強度薄鋼板を提供する。
【解決手段】本発明に係る高強度薄鋼板は、引張強度が570MPa以上である高強度薄鋼板であって、化学成分が、全体として、C:0.10〜0.30質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:1.0〜3.5質量%、Cu:0.016〜0.09質量%、Ni:前記Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度が0.10質量%以上である。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車構造部材や補強部材に用いられる高強度薄鋼板およびその製造方法に関する。
近年、自動車軽量化と衝突安全性の両立のため、自動車構造材や補強部材用の薄鋼板が高強度化され、実用化が進んでいる。鋼板の高強度化に伴い、遅れ破壊(水素脆性)が発生する懸念が高まるため、組織因子や成分因子を改良することにより、耐遅れ破壊性(耐水素脆性)に優れた高強度薄鋼板を具現していた。例えば、CuやNiは冷延鋼板としての耐食性および耐水素脆性を改善する効果があるため、厚板分野の耐食鋼や耐候性鋼と同様、薄鋼板においても添加されている。
このような薄鋼板として、例えば、特許文献1には、耐食性等を向上させる目的で、Cuを0.1〜2質量%添加した高張力薄鋼板、およびCuを0.1〜2質量%添加するとともにNiをCuの添加量/3[質量%]以上添加した高張力薄鋼板が記載されている。
特開平5−271857号公報
しかしながら、特許文献1には、高価なCuを多く添加しなければ耐水素脆性を十分に向上させることができないという問題があった。
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、Cuの添加量を少なくしつつ、冷延鋼板として十分な耐水素脆性を有する高強度薄鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
薄鋼板の冷間圧延後に行う熱処理工程(焼鈍工程)において、従来は化成処理性確保、あるいは溶融亜鉛めっきを施す場合にはめっき密着性確保のために、主として還元性雰囲気(もしくは無酸化性雰囲気と還元性雰囲気の組み合わせ)にて焼鈍を行っていた。
これに対し、本発明者は、前記熱処理工程において、酸素分圧を所定の分圧よりも高めることにより、酸化皮膜(スケール)の形成を促進し、酸化皮膜直下の地鋼板表層付近にCuの濃化を促進させることが可能となる結果、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
前記課題を解決した本発明に係る高強度薄鋼板は、引張強度が570MPa以上である高強度薄鋼板であって、化学成分が、全体として、C:0.10〜0.30質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:1.0〜3.5質量%、Cu:0.016〜0.09質量%、Ni:前記Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度が0.10質量%以上であることを特徴としている。
このようにすれば、表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度が高いため、耐水素脆性を向上させることができる。また、Niを所定量添加しているため、これによっても耐水素脆性や強度を向上させることができる。さらに、Niを所定量添加することにより、高強度鋼板として必要な強度を確保しつつ、Cuの添加量を少なくすることができるので、多量のCuが粒界に析出して製品としての機械的特性(強度や曲げ特性)が悪化するのを防ぐことができる。
本発明に係る高強度薄鋼板は、前記化学成分が、さらに、Al:0.01〜3.0質量%、Mo:0.01〜1.0質量%、B:0.0005〜0.01質量%、Ti:0.005〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.5質量%、Cr:0.03〜1.0質量%、V:0.003〜1.0質量%、Co:0.005〜0.2質量%、Ca:0.0005〜0.005質量%、Mg:0.0005〜0.01質量%のうちの少なくとも1つを含有するのが好ましい。
このようにすれば、添加する元素によってさらなる耐水素脆性の向上、強度の向上、加工性の向上、靱性の確保、防錆性の向上など種々の特性を向上させることができる。例えば、Mo、B、Coは、耐水素脆性を向上させ、Crは、強度を向上させ、Ca、Mgは加工性を向上させ、Ti、Nbは、靱性を損なうことなく強度を向上させ、Vは、防錆性を向上させることができる。
本発明に係る高強度薄鋼板の製造方法は、前記した引張強度が570MPa以上である高強度薄鋼板を製造する高強度薄鋼板の製造方法であって、前記した化学成分を有する冷間圧延板を冷間圧延工程で製造し、前記冷間圧延工程後の熱処理工程において、酸素分圧Poが下記式(1)を満たす雰囲気条件下、前記冷間圧延板を850〜950℃で150秒以上加熱して前記高強度薄鋼板とすることを特徴としている。
Po>0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(1)
但し、前記式(1)において、{Cu}は、母材の平均Cu濃度(質量%)を表し、Poは、酸素分圧(MPa)を表す。
このように、特定の化学成分を有する冷延鋼板を製造し、製造した冷延鋼板を酸素分圧を前記式(1)の条件を満たす雰囲気条件下で所定の加熱温度および加熱時間で冷間圧延板を熱処理することにより、表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度を0.10質量%以上に濃化させることができる。
本発明によれば、Cuの添加量を少なくしつつ、冷延鋼板として十分な耐水素脆性を有する高強度薄鋼板を提供することができる。
また、本発明によれば、そのような高強度薄鋼板を製造することのできる製造方法を提供することができる。
本発明に係る高強度薄鋼板の構成を説明する模式断面図である。 鋼種Aについて酸素分圧0.10MPa(1.0atm)の雰囲気条件下、950℃で300秒の熱処理(焼鈍)を行った場合の深さ(μm)と、Cu濃度(質量%)と、Fe濃度(質量%)との関係を示すグラフである。 鋼種Sについて酸素分圧0.020MPa(0.2atm)の雰囲気条件下、930℃で220秒の熱処理(焼鈍)を行った場合の深さ(μm)と、Cu濃度(質量%)と、Fe濃度(質量%)との関係を示すグラフである。
本発明の要旨は、薄鋼板の表層部分にCuを濃化させることにより、全体としてCu濃度が低い場合でも十分な耐水素脆性を有するようにしたことにある。
以下、本発明に係る高強度薄鋼板について詳細に説明する。
本発明に係る薄鋼板は、引張強度が570MPa以上の鋼板であって、化学成分が、全体として、C:0.10〜0.30質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:1.0〜3.5質量%、Cu:0.016〜0.09質量%、Ni:前記Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ、図1に示すように、高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度が0.10質量%以上となっている。
(C:0.10〜0.30質量%)
Cは、薄鋼板の強度を確保するために必要な元素である。そのため、C濃度は、0.10質量%以上とする必要がある。C濃度が0.10質量%未満になると薄鋼板の強度を確保することが困難となる。C濃度は、0.12質量%以上とするのがより好ましい。一方、C濃度が過剰になると溶接性が劣化するため、C濃度は、0.30質量%以下とする必要がある。なお、C濃度は、0.25質量%以下とするのがより好ましい。
(Si:1.0〜2.5質量%)
Siは、材質を大きく硬質化する置換型固溶体強化元素である。そのため、Si濃度は1.0質量%以上とする必要がある。Si濃度が1.0質量%未満になると硬質化する効果が不十分となる。一方、Siを多量に含有させると靭性が劣化する。そのため、Si濃度は2.5質量%以下とする必要がある。
(Mn:1.0〜3.5質量%)
Mnは、薄鋼板の強度を確保するのに有効な元素である。そのため、Mn濃度は、1.0質量%以上とする必要がある。Mn濃度が1.0質量%未満になると薄鋼板の強度の確保が不十分となる。Mn濃度は、1.5質量%以上とするのがより好ましい。一方、Mnを多量に含有させると偏析が顕著になり加工性が低下し、さらに溶接性が劣化する。そのため、Mn濃度は、3.5質量%以下とする必要がある。なお、Mn濃度は、3.0質量%以下とするのがより好ましい。
(Cu:0.016〜0.09質量%)
Cuは、薄鋼板の耐水素脆性を向上させることができる。また、Cuは、固溶強化元素であり、薄鋼板の強度を向上させるのに寄与する。
通常、これらの効果を発揮させるためには、母材の平均Cu濃度を0.1質量%程度以上とすることが望ましい。しかし、本発明においては、後記する製造方法によって、高強度薄鋼板1の表面1aから少なくとも4μm以内の領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上とさせることにより、母材の平均Cu濃度(全体としてのCu濃度)が0.016〜0.09質量%である場合でも耐水素脆性を十分に発揮させることができる。
母材の平均Cu濃度が0.016質量%未満になると、後記する製造方法によっても、高強度薄鋼板1の表面1aから少なくとも4μm以内の領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上とさせることができない。一方、母材の平均Cu濃度が0.09質量%を超えると、粒界にCuが多量に析出し、製品としての機械的特性(引張強度や曲げ加工性など)を劣化させるおそれがある。なお、Cu濃度は0.1〜0.5質量%とするのが好ましく、0.2〜0.4質量%とするのがより好ましい。
(Ni:Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下)
NiもCuと同様、薄鋼板の耐水素脆性を向上させることができるだけでなく、Cuと同様に固溶強化元素であるため薄鋼板の強度を向上させるのに寄与する。
ここで、Cu濃度が0.3質量%を超える薄鋼板には、熱間圧延時に疵や割れが発生したり(これを赤熱脆性という。)、製品の引張強度や曲げ加工性などの機械的特性が劣化したりする場合があるが、NiはCuに固溶して融点を高め、赤熱脆性を抑制する効果を持つ。高強度薄鋼板は、一般的にCu濃度は低く、赤熱脆性は問題になり難いが、本発明のように高強度薄鋼板1の表層部分にCuを濃化させる場合には、熱間圧延中の疵や割れはないにしても、Cuを濃化したことにより、製品の機械的特性が劣化する可能性がある。したがって、製品の機械的特性の劣化を防止するため、Niを、添加したCu濃度の1/2以上添加する必要がある。Ni濃度が添加したCu濃度の1/2未満では、前記した製品の機械的特性の劣化を防止することができないおそれがある。一方、Ni濃度を高くし過ぎても製品の機械的特性の劣化防止効果が飽和するばかりか、コストが高くなってしまう。そのため、Ni濃度は0.20質量%以下とする。
(残部:鉄および不可避不純物)
残部は、鉄(Fe)および不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば、P、Sなどを挙げることができる。
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため、0.1質量%以下とするのが好ましく、0.05質量%以下とするのがより好ましい。
また、Sは、過剰に含有されると硫化物系介在物が増大して薄鋼板の強度が劣化するため、0.01質量%とするのが好ましく、0.005質量%以下とするのがより好ましい。
これらの不可避不純物はそれぞれ、前記した濃度以下であれば本発明の効果を阻害しないので許容することができる。
このような化学成分からなる鋼板としては、後記する熱処理工程を含む方法で製造されるものであればよく、例えば、TBF鋼(TRIP型ベイニティックフェライト鋼)などが含まれる。
本発明に係る高強度薄鋼板1は、前記した化学成分に、さらに、Al:0.01〜3.0質量%、Mo:0.01〜1.0質量%、B:0.0005〜0.01質量%、Ti:0.005〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.5質量%、Cr:0.03〜1.0質量%、V:0.003〜1.0質量%、Co:0.005〜0.2質量%、Ca:0.0005〜0.005質量%、Mg:0.0005〜0.01質量%のうちの少なくとも1つを含有するのが好ましい。これらの中から選択される元素を添加することによって、脱酸や、さらなる耐水素脆性の向上、強度の向上、加工性の向上、靱性の確保、防錆性の向上など、種々の特性を向上させることができる。
(Al:0.01〜3.0質量%)
Alは、脱酸に有効な元素である。そのため、Al濃度は、0.01質量%以上とするのが好ましい。Al濃度が0.01質量%未満であると、脱酸が不十分となるおそれがある。一方、Al濃度が高くなり過ぎると延性の低下や鋼の脆化を招く。そのため、Al濃度は3.0質量%以下とする必要がある。Al濃度は、2.5質量%以下とするのがより好ましい。
(Mo:0.01〜1.0質量%)
(B:0.0005〜0.01質量%)
MoおよびBはともに、薄鋼板の焼入れ性を高めるために有効な元素である。さらに、Moは、水素の侵入を抑制するとともに、粒界を強化して耐水素脆性を向上させる効果を有する。これらの効果を有効に発揮させるため、Mo濃度は0.01質量%以上とするのが好ましい。しかし、Moを過剰に含有させると効果が飽和するばかりか高価な元素であるためコストアップするのに加えて、熱間圧延板の強度が非常に高まり、圧延し難くなるなどの問題が生じる。そのため、Mo濃度は1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%とする。
また、Bは、粒界を強化して耐水素脆性を向上させる効果を持つ。この効果を十分に発揮させるため、B濃度を0.0010質量%以上とするのが好ましく、0.0015質量%以上とするのがより好ましい。しかし、Bを過剰に含有させると熱間加工性が劣化する。そのため、B濃度は0.01質量%以下とするのが好ましく、0.005質量%以下とするのがより好ましい。
(Ti:0.005〜0.5質量%)
(Nb:0.005〜0.5質量%)
TiおよびNbは、結晶粒を微細化する元素であり、靱性を損なうことなく薄鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。そのため、Ti濃度およびNb濃度は、それぞれ0.005質量%以上とするのが好ましく、0.03質量%以上とするのがより好ましい。しかし、TiやNbを過剰に含有させてもその効果が飽和するだけでなくコスト的にも不利になる。そのため、Ti濃度およびNb濃度は、それぞれ0.5質量%以下とするのが好ましく、0.3質量%以下とするのがより好ましい。なお、Ti、Nbは各々単独で添加してもよいし、両方添加してもよい。
(Cr:0.03〜1.0質量%)
Crは、焼入れ性の向上と、組織制御によりフェライトの過剰な生成を抑制するため薄鋼板の強度を確保することができる。また、Crの添加により鋼材自体の耐食性が向上するため、使用環境中に生じる可能性のある腐食による水素発生を十分に抑えることができる。この効果は、Cu、Niと共存することによってさらに有効に作用する。なお、これらの効果を発揮させるには、Cr濃度を0.03質量%以上とするのが好ましく、0.1質量%以上とするのがより好ましい。また、Crを過剰に添加するとその効果が飽和するばかりでなく、加工性が劣化するためCr濃度は1.0質量%以下とするのが好ましい。
(V:0.003〜1.0質量%)
Vは、保護性さびの形成に寄与する。特に、Ti、Vを複合添加することで保護性さびの形成が促進される。また、Vは、薄鋼板の強度上昇、細粒化にも有効な元素である。さらに、Tiと同様鋼中のCやNと結合して微細な炭窒化物を形成し、引張強度が980MPaを超える高強度鋼板で懸念される水素脆化の原因となる水素のトラップサイトとしても有効である。これらの効果を発揮するためには、V濃度は0.003質量%以上とするのが好ましく、0.01質量%以上とするのがより好ましい。しかし、Vを過剰に添加すると析出物が多くなり、加工性の低下を招く。このため、V濃度は1.0質量%以下とするのが好ましく、0.5質量%以下とするのがより好ましい。
(Co:0.005〜0.2質量%)
CoもNiと同様の効果を持つ。その効果を発揮するため、Co濃度は0.005質量%以上とするのが好ましい。しかし、Coを添加し過ぎると加工性が劣化する上、Coは高価な元素であるため、コスト的に不利になる。そのため、Co濃度は0.2質量%以下とするのが好ましい。
(Ca:0.0005〜0.005質量%)
(Mg:0.0005〜0.01質量%)
CaおよびMgは、鋼中硫化物の形態を制御するため、加工性向上に有効である。また、CaおよびMgは、薄鋼板の表面の腐食に伴う界面雰囲気の水素イオン濃度の上昇を抑制する。これらの効果を十分に発揮するため、Ca濃度およびMg濃度はそれぞれ、0.0005質量%以上とすることが好ましい。しかし、CaやMgを過剰に添加すると加工性が劣化する。そのため、Ca濃度は0.005質量%以下、Mg濃度は0.01質量%以下とするのが好ましい。
(高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度が0.10質量%以上)
そして、本発明に係る高強度薄鋼板1においては、図1に示すように、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度が0.10質量%以上であることを要する。
前記したように、Cuは耐水素脆性を向上させることができるが、本発明では、高強度薄鋼板1の表層部分、つまり、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上に濃化させることにより、全体として少ないCu濃度であっても、十分な耐水素脆性を獲得したものである。
全体としてのCu濃度が0.016〜0.09質量%である鋼板において、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上とするには、薄鋼板の冷間圧延工程後の熱処理工程を特定の条件で加熱することが必要となる。詳しくは後記する。
高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度が0.10質量%未満であると、Cu濃度が低いため、十分な耐水素脆性を有することができない。なお、高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度があまりに高いと、粒界にCuが多量に析出する可能性があり、製品としての機械的特性、例えば、強度や曲げ特性などを悪化させる可能性がある。高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度は0.5質量%以下とするのが好ましい。
高強度薄鋼板1の表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度は、市販の表面分析装置(深さ方向元素分析装置)を用いることによって分析することができる。
次に、本発明に係る高強度薄鋼板1の製造方法について説明する。
本発明に係る高強度薄鋼板1は、はじめに、前記した化学成分、つまり、全体として、C:0.10〜0.30質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:1.0〜3.5質量%、Cu:0.016〜0.09質量%、Ni:前記Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下、残部が鉄および不可避不純物からなる鋳塊(スラブ)、または、前記した化学成分に対し、さらに、Al:0.01〜3.0質量%、Mo:0.01〜1.0質量%、B:0.0005〜0.01質量%、Ti:0.005〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.5質量%、Cr:0.03〜1.0質量%、V:0.003〜1.0質量%、Co:0.005〜0.2質量%、Ca:0.0005〜0.005質量%、Mg:0.0005〜0.01質量%のうちの少なくとも1つを含有させてなる鋳塊(スラブ)を、冷延鋼板を製造するために行われる通常の条件で鋳造工程と、熱間圧延工程と、焼鈍工程と、酸洗工程と、冷間圧延工程と、を行って冷延鋼板を得る。
そして、本発明では、得られた冷延鋼板に対して、後記する所定の条件の熱処理工程(焼鈍工程)を行うことにより、引張強度を570MPa以上とし、かつ、全体のCu濃度が0.016〜0.09質量%でありながら、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bについてはCu濃度を濃化させて0.10質量%以上とした高強度薄鋼板1を製造している。
(冷間圧延工程後の熱処理工程)
冷間圧延工程後の熱処理工程(焼鈍工程)は、酸素分圧Poが下記式(1)を満たす雰囲気条件下、冷間圧延工程で冷間圧延した冷間圧延板を850〜950℃で150秒以上加熱する。
Po>0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(1)
但し、前記式(1)において、{Cu}は、母材の平均Cu濃度(質量%)を表し、Poは、酸素分圧(MPa)を表す。
かかる条件で冷間圧延工程後の熱処理工程を行えば、全体としてのCu濃度が0.016〜0.09質量%である鋼板において、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上とすることができ、冷延鋼板として十分な耐水素脆性を有する高強度薄鋼板1を製造することができる。
なお、加熱温度が850℃未満ではCuを十分に濃化させることはできない。また950℃を超えると酸化皮膜形成速度が速く、剥離が起こって均一性が損なわれるなど、表面性状が劣化する。よって、加熱温度は850〜950℃とする。
加熱時間については前記式(1)の条件であれば、850℃で150秒行うことで十分である。酸化性雰囲気における加熱時間が長過ぎると酸化層を過剰に形成するため鋼板が損失するだけでなく生産性が悪くなる。そのため、加熱時間は500秒程度以下とするのが好ましい。他方、加熱時間は、製品の特性を損なわない範囲で短縮してもよい。例えば900℃で280秒の熱処理において、200秒を超えてから前記式(1)の雰囲気条件に切り替えるなどしても問題はない。
また、酸素分圧Poが、前記式(1)において右辺以下(つまり、Po≦0.019×(0.10−{Cu})/{Cu})であると、表面1aから0.4μmの深さまでの領域1bにおけるCu濃度を0.10質量%以上とすることができない。なお、酸素分圧Poが高ければ高いほどCuの濃化は促進される傾向にあるが、酸化皮膜を必要以上に形成させるため酸洗性、生産性が低下する。また、0.10MPa(1atm)よりも高い圧力で行うことも設備の制約上あまり現実的ではない。このため、酸素分圧Poの上限は、0.10MPaもしくは母材Cu濃度に応じて臨界酸素分圧Pcに近い値とするのが好ましい。
なお、臨界酸素分圧Pcは、母材中の平均Cu濃度(質量%)を{Cu}として、下記式(2)で表される。
Pc=0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(2)
次に、本発明の高強度薄鋼板およびその製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを対比して具体的に説明する。
[第1実施例]
下記表1に示す化学成分(質量%)からなる鋼種A〜AHに係るスラブを作製した。なお、表1に示すように、不可避不純物としてPを0.1質量%未満で含有するとともに、Sを0.01質量%未満で含有している。なお、表1中における「−」は、含有していないことを示し、下線および太字で記載したものは、本発明の要件を満たさないことを示す。また、各鋼種は、残部がFeである。
Figure 2011246764
表1に示す鋼種A〜AHに係るスラブを1250℃に加熱して熱間圧延し、700℃で焼鈍し、酸洗した後、冷間圧延を経て厚さ1.6mmの冷延鋼板とした。
その後、かかる冷延鋼板を下記条件にて焼鈍し、酸洗した。なお、各鋼種に対して行った具体的な焼鈍条件を下記表2〜5に示した。
加熱温度 :820〜950℃
加熱時間 :120〜300秒
雰囲気条件:N2−O2混合ガス(酸素分圧:0.0050〜0.10MPa(0.05〜1.0atm))
なお、酸洗は、5〜10%塩酸と市販のインヒビターを用いて、80℃、5分間という条件で行った。
そして、次のようにして表層付近におけるCuおよびNiの厚み方向の濃度分布と耐水素脆性試験を行った。
(CuおよびNiの厚み方向の濃度分布の分析)
焼鈍後、酸洗した冷延鋼板の表層付近におけるCuおよびNiの厚み方向の濃度分布を、マーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(堀場製作所製rf−GD−OES)を用いて分析した。なお、かかる分析装置によって母材中のCu濃度(質量%)およびNi濃度(質量%)も分析することができる。
(耐水素脆性試験)
焼鈍後、酸洗した冷延鋼板(厚さ1.6mm)を幅300mm、長さ150mmに加工して曲げ加工を行い、U曲げ試験片を作製した。これをボルトの締め付けによって曲げ応力を付加した状態で5%塩酸(質量%)浸漬試験を行い(浸漬温度30℃、浸漬時間100時間)、割れ発生の有無による耐水素脆性評価を行った。なお、かかる5%塩酸(質量%)浸漬試験は、耐水素脆性試験として用いられる方法の一つである。
鋼種と母材中のCu濃度(質量%)および母材中のNi濃度(質量%)、Cu濃度とNi濃度の比率、鋼板の母材Cu濃度に応じて決まる臨界酸素分圧Pc(MPa)、焼鈍温度(℃)、焼鈍時間(秒)、Cu濃度が0.10質量%以上である冷延鋼板の表面からの領域厚み(μm)、および耐水素脆性試験の結果を表2〜5に示す。
ここで、臨界酸素分圧Pcは、母材中の平均Cu濃度(質量%)を{Cu}として、下記式(2)で表される。
Pc=0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(2)
この式(2)で表される臨界酸素分圧Pcは、{Cu}が0.10質量%に比べて少ないほど、十分なCu濃化層を確保するためにより高い酸素分圧Poで熱処理(焼鈍)を行う必要があることを示しており、実験的に検討して求めた式である。
なお、鋼種と母材中のCu濃度(質量%)および母材中のNi濃度(質量%)は表2〜5においてそれぞれ「[Cu]」、「[Ni]」と表示し、Cu濃度とNi濃度の比率は表2および表3において「[Cu]/[Ni]」と表示し、鋼板の母材Cu濃度に応じて決まる臨界酸素分圧(MPa)は表2〜5において「Pc」と表示し、Cu濃度が0.10質量%以上である冷延鋼板の表面からの領域厚み(μm)は表2〜5において「Cu濃度≧0.10%の領域厚み(μm)」と表示し、耐水素脆性試験の結果は表2〜5において「酸浸漬による割れの有無」と表示した。
なお、表2〜5中における下線および太字で記載したものは、本発明の要件を満たさないことを示す。
Figure 2011246764
Figure 2011246764
Figure 2011246764
Figure 2011246764
酸洗後の鋼板表層付近におけるCuおよびNiの厚み方向の濃度分布の結果の一例を図2および図3に示す。
なお、図2は、鋼種Aについて酸素分圧0.10MPa(1.0atm)の雰囲気条件下、950℃で300秒の熱処理(焼鈍)を行った場合の深さ(μm)と、Cu濃度(質量%)と、Fe濃度(質量%)との関係を示すグラフである。
図3は、鋼種Sについて酸素分圧0.020MPa(0.2atm)の雰囲気条件下、930℃で220秒の熱処理(焼鈍)を行った場合の深さ(μm)と、Cu濃度(質量%)と、Fe濃度(質量%)との関係を示すグラフである。
図2および図3に示すように、鋼種Aおよび鋼種Sのいずれにおいても、表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度が0.10質量%以上となっていることがわかった。なお、その他の鋼種においても同様に、表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度の濃化が確認された(図示省略)。
耐水素脆性試験の結果は、表2〜5の「酸浸漬による割れの有無」の欄に示すような結果となった。
そして、この耐水素脆性試験の結果と、鋼種A〜AHに含まれるCu濃度([Cu])、Ni濃度([Ni])、Cu濃度とNi濃度の比率([Cu]/[Ni])、Pc、酸素分圧(Po)、焼鈍温度、焼鈍時間およびCu濃度が0.10質量%以上である冷延鋼板の表面からの領域厚み(Cu濃度≧0.10%の領域厚み)と、から次のようなことがわかった。
表2〜5に示されるように、Ni濃度をCu濃度の1/2以上(つまり、Cu/Ni≦2)、0.20質量%以下添加することが必要であることがわかった。
表2〜5に示されるように、臨界酸素分圧Pcと酸素分圧Poとは、Po>Pcの関係、つまり、下記式(1)の関係でなければならないことがわかった。
Po>0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(1)
但し、前記式(1)において、{Cu}は、母材の平均Cu濃度(質量%)を表し、Poは、酸素分圧(MPa)を表す。
なお、鋼種A〜AHはいずれも引張強度は580MPa以上であった。
1 高強度薄鋼板
1a 表面
1b 表面から0.4μmの深さまでの領域

Claims (3)

  1. 引張強度が570MPa以上である高強度薄鋼板であって、
    化学成分が、全体として、C:0.10〜0.30質量%、Si:1.0〜2.5質量%、Mn:1.0〜3.5質量%、Cu:0.016〜0.09質量%、Ni:前記Cuの濃度の1/2以上0.20質量%以下、残部が鉄および不可避不純物からなり、かつ
    表面から0.4μmの深さまでの領域におけるCu濃度が0.10質量%以上である
    ことを特徴とする高強度薄鋼板。
  2. 前記化学成分が、さらに、Al:0.01〜3.0質量%、Mo:0.01〜1.0質量%、B:0.0005〜0.01質量%、Ti:0.005〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.5質量%、Cr:0.03〜1.0質量%、V:0.003〜1.0質量%、Co:0.005〜0.2質量%、Ca:0.0005〜0.005質量%、Mg:0.0005〜0.01質量%のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度薄鋼板。
  3. 請求項1または請求項2に記載の引張強度が570MPa以上である高強度薄鋼板を製造する高強度薄鋼板の製造方法であって、
    請求項1または請求項2に記載の化学成分を有する冷間圧延板を冷間圧延工程で製造し、
    前記冷間圧延工程後の熱処理工程において、酸素分圧Poが下記式(1)を満たす雰囲気条件下、前記冷間圧延板を850〜950℃で150秒以上加熱して前記高強度薄鋼板とする
    ことを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
    Po>0.019×(0.10−{Cu})/{Cu}・・・式(1)
    (但し、前記式(1)において、{Cu}は、母材の平均Cu濃度(質量%)を表し、Poは、酸素分圧(MPa)を表す。)
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