JP2011219845A - 耐食性に優れたプレス加工用Sn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

耐食性に優れたプレス加工用Sn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、優れた耐二次加工脆性および優れたシーム溶接部低温靭性、更には優れた耐食性を有する340MPa以上の引張強度のSn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.0005〜0.0050%、Si:0.3超〜1.0%、Mn:0.70〜2.0%、P:0.05%以下、Ti:0.010〜0.050%、Nb:0.010〜0.040%、B:0.0005〜0.0030%、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.30%、N:0.0010〜0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分の熱延鋼板の酸洗時に仕上圧延温度に対応する酸洗時間で酸洗し、Si表面濃度が0.3超〜1.5%以下とした後に、冷延、焼鈍、Sn−Znめっきを施すことを特徴とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動車および家電等の分野に適用されるプレス加工用Sn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法に関し、特に、自動車の燃料タンク用途に好適な耐食性に優れたプレス加工用Sn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法に関する。
近年、自動車用鋼板においては、車体重量軽減による燃費向上を目的として、高強度化が進んでいる。燃料タンク用鋼板でも同様に、タンクの軽量化および車体デザインの複雑化、更には燃料タンクの収納設置場所の関係から、燃料タンク形状の複雑化が進み、優れた成形性および高強度化が要求されている。従来、このような成形性と高強度との両立の要望を満足させるために、極低炭素鋼にTiおよびNbのような炭窒化物形成元素を添加したIF(Interstitial Free)鋼に、P、SiおよびMn等の固溶強化元素を添加した高強度IF鋼が開発されてきた。
しかしながら、燃料タンクに高強度鋼板を使用した場合、拝み状シーム溶接部の引張強度が低温で低いという問題や、成形後に粒界破壊によって二次加工脆化が発生しやすくなるという問題点があった。すなわち鋼板を高強度化しても、溶接継手強度が鋼板の高強度化に見合ったように高くならないという問題やIF鋼の粒界強度の低下という問題があった。これらは、タンクのシーム溶接部は拝み状形状となっており、特に高強度鋼板の場合には応力が集中し易く、靭性が低下して引張強度が低くなるといった原因や、IF鋼はCおよびN等がNbまたはTiを炭化物または窒化物として析出固定するため、結晶粒界が非常に清浄になり、成形後に粒界破壊し易くなるということに起因する。これらは重要保安部品である燃料タンクが、低温地域において衝突による衝撃を受けた場合の耐破壊性に対しての懸念となる。
更に、ガソリンおよびアルコールまたはガソリンが劣化して生じる有機酸に対して、フィルターの目詰まりの原因となる腐食生成物が生成せず、孔あき腐食が生じない鋼板も求められている。この要求に対しては、従来、鋼板表面にPb−Sn合金、Al−Si合金、Sn−Zn合金およびZn−Al合金めっきを施すことが提案され、適用されている。このため、基体となる鋼板には、これらの合金のめっき性が良好であることが必要である。
これらの問題点のうち、二次加工脆化については、発生を回避するためのいくつかの方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。例えば、特許文献1では、粒界偏析による耐二次加工脆化の劣化を回避するため、Ti添加IF鋼をベースに、P含有量をできるだけ低減させ、その分、Mn、Siをバランスよく多量に添加することで、耐二次加工脆性に優れた高張力鋼板を得る技術が提案されている。また、特許文献2では、極低炭素鋼板を使用し、TiおよびNbに加えてBを添加することで、粒界強度を上昇させ、耐二次加工脆性を高める技術が提案されている。この特許文献2に記載の技術では、耐二次加工脆性の向上およびオーステナイト粒の再結晶の遅れに伴う熱間圧延時の負荷の増大防止を目的として、B含有量を最適化している。
また、溶接性を改善する目的でもいくつかの提案がなされている(例えば、特許文献3〜5参照。)。例えば、特許文献3に記載の技術は、Tiおよび/またはNbを添加した極低炭素鋼板を焼鈍時に浸炭し、表層にマルテンサイトおよびベイナイト組織を形成し、スポット溶接性を向上しようとするものである。また、特許文献4に記載の技術は、極低炭素鋼にCuを添加し、溶接時の熱影響部を広くすることにより、スポット溶接継手強度を高めようとするものである。更に、特許文献5に記載の技術は、鋼にMgを添加して鋼板中にMg酸化物および/またはMg硫化物を生成させることにより、ピニング効果により、溶接部、熱影響部の細粒化を図り、溶接部の疲労強度の劣化を防止する技術であり非特許文献1には、厚鋼板でTiNを微細分散させて溶接部熱影響部の靭性を改善する技術が開示されている。
更に、高強度鋼板の溶融めっき性を改善する目的の技術もいくつか提案されている(例えば、特許文献6、7参照)。例えば、特許文献6に記載の溶融亜鉛めっき高強度冷延鋼板では、溶融めっき性を阻害するSの含有量を0.03質量%以下およびPの含有量を0.01〜0.12%に制限する一方で、強化元素としてMnおよびCrを積極的に添加している。また、特許文献7に記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板では、Si含有量とMn含有量との相互関係を特定の範囲内とすることにより、溶融合金Znめっき性の改善を図っている。
耐二次加工脆性改善のため、B添加しMn−Pの添加バランスを最適化することにより高強度で耐二次加工脆性の優れた鋼板を提供するものもある(例えば、特許文献7参照)。また、耐二次加工脆性改善のため、B,Ti,Nbを添加する技術も開示されている(たとえば、特許文献8参照)。
更に、タンク特有の拝み状溶接部の引張強度改善のための溶接方法に関する技術(特許文献9)や深絞り用、プレス加工用高強度鋼板に関する技術(例えば、特許文献10、特許文献11、特許文献12参照)も開示されており、加えて、めっき外観確保のための技術が開示されている。
また、Si含有鋼のめっき性を向上させるために、凹凸を付与したロールで残留応力を生じさせる方法や(例えば、特許文献13参照)、表面粗度を抑制することにより、均一にめっきでき、めっき性が向上する技術がある(例えば、特許文献14参照)開示されている。また、酸洗後に0.3〜5μmの研削を行った後に、NiあるいはNi基合金めっきを施し、めっき性を改善させる技術がある(例えば、特許文献15参照)。さらに、熱延鋼板で粒界酸化等の内部酸化を生成させ、焼鈍時のSiの外方拡散抑制により、めっき性を改善する技術がある(例えば、特許文献16参照)。
以上のように、高強度鋼板の加工性、溶接性、拝み状溶接部の引張強度、耐二次加工脆性、めっき性に関する技術がある。
特開平5−59491号公報 特開平6−57373号公報 特開平7−188777号公報 特開平8−291364号公報 特開2001−288534号公報 特開平5−255807号公報 特開平7−278745号公報 特開2000−192188号公報 特開平6−256900号公報 特開2007−119808号公報 特開2007−169739号公報 特開2007−277714号公報 特開平7−126747号公報 特開2003−183796号公報 特開平3−24255号公報 特許第3020846号公報
「鉄と鋼」第65号(1979)第8号1232頁
しかしながら、前述した従来の技術には以下に示す問題点がある。
即ち、特許文献1に記載の方法で製作された鋼板は、加工性や耐二次加工は良好であるが、条件によっては、水素焼鈍炉のような特別に露点の低い炉で焼鈍しないとめっき性が確保できず、十分な耐食性を得ることが困難である。特許文献2に記載の方法で作製された鋼板は、加工性や耐二次加工脆性について留意しているが、めっき性や耐食性については留意されておらず、めっき不良につながる。また、特許文献3に記載の方法は、焼鈍中に浸炭するが、実際の製造設備では通板速度、雰囲気ガス組成および温度が一定でないため、浸炭量が変化し、製造される鋼板の間で材質のバラツキが大きくなり、安定した鋼板の製造が困難であるという問題点がある。更に、特許文献4に記載の方法はCuを多量に添加するため、Cuによる表面欠陥が多発し、歩留まりが低下するという問題点がある。
更にまた、特許文献5や非特許文献1に記載の方法は、比較的溶接後の冷却速度が遅いアーク溶接等では効果があるが、冷却速度が速いシーム溶接等ではその効果が認められないという問題点があり、また、特許文献5や特許文献1に記載の厚鋼板と燃料タンクに使用する薄鋼板とでは成分も異なり、更には溶接部の形状も異なるため即適用できる技術とは言えない。更にまた、特許文献6は溶融亜鉛めっき性を考慮し、Siを0.03%以下に制限して、強化元素としてPやMnを活用しているが、PやMnの多量添加は溶接性および耐二次加工脆性が不十分であるという問題点がある。特許文献7は、その点は考慮して、溶融亜鉛めっき性は確保しているものの、タンク用の耐食性には不十分である。
特許文献8は、強度確保のためPを多量に添加していることとPとBのバランスが最適でないため、十分な低温靭性を得られないという欠点があることに加え、めっき性に関して十分な対策が検討されていないため、耐食性に劣る。特許文献9は、成形性向上のため多量のTiを使用しており、溶接部の強度や靭性を十分確保することができなく、また、Tiの添加量が適当でもNbが少ないため加工性を十分確保できない問題があることに加えめっき性については考慮されておらず、更にSiも0.5を上限に制限している。特許文献10はレーザー溶接を用いて改善する技術であり、燃料タンク製造に使用されているシーム溶接では適用困難であり、また、母材特性改善による溶接部特性改善技術には言及されていない。
特許文献11は、母材特性改善のための技術ではあるが、耐食性が低く、加えて条件によっては拝み状シーム溶接部の靭性が低く、製鋼コストが高く加工性が低いという問題がある。また、特許文献12は条件によっては拝み状シーム溶接部の靭性が低く、加えて加工性の低下を招くといった問題もある。これらの特許文献10や特許文献12ではタンク特有の拝み状溶接部の引張強度改善やめっき外観は確保されるものの、条件によっては耐食性が低下するといった問題があった。
特許文献13では、鋼板に残留応力を生じさせるために、凹凸を付与したロールを使用する必要があり、また耐食性は評価されていない。一方、特許文献14では、逆に表面粗度が大きいことがめっき不良の原因となるとしている。特許文献15で開示されている技術は、酸洗後の表面を研削するものであるが、酸洗板を全長全幅均一に研削するには追加設備が必要であり、また均一性に課題が残る。特許文献16の技術だけでは、熱延後に表層に残存したSi酸化物を除去することはできない。
以上のように従来知見には耐二次加工脆性を向上させるものや、厚鋼板分野での溶接部靭性改善技術はある。しかしながら、燃料タンクは、製造工程において、プレスといった加工工程があり、シーム溶接といった熱処理工程があるため、母材の特性のみならず、加工後、熱処理後の特性も重要となる。すなわち高強度鋼を用いた場合、一般的に靭性は低下するため、耐二次加工脆性と溶接部靭性が同時に重要となる。更に表面はめっきして製品となるため、めっき性や耐食性も重要となるが、高強度鋼板にはめっきが付きにくく、耐食性が十分でないという問題がある。特に高強度化による軽量化、すなわち鋼板の薄肉化が進む中、更に耐食性が重要となる状況下で、例えば960時間のSSTという厳しい試験において、赤錆発生率を50%以下に抑制する技術は見当たらない。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、優れた耐二次加工脆性および優れたシーム溶接部低温靭性を有する、340MPa以上の高強度鋼板に耐食性向上のために溶融Sn−Znめっきを施したSn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前述の課題を解決するために、Sn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法ついて鋭意検討し、SSTでの耐食性試験で赤錆が発生するメカニズムを研究した。
その結果、焼鈍工程で濃化するSiやMnの酸化物によるめっき濡れ性の低下に加え、熱延工程でのスケール生成に伴い、スケール/地鉄界面に濃化するSi酸化物の残存が原因で、冷延、焼鈍後に、粉砕された微細なSi酸化物が残存し、これが溶融Sn−Znめっきの濡れ性を低下し、その結果耐食性を低下させる原因であることが判明した。
したがって、高強度鋼板について溶融Sn−Znめっきの濡れ性を低下させないためには、酸洗以降に残存するめっきの濡れ性の低下の原因となるSi酸化物を低減させればよく、このためには熱延でのスケール生成量の低減により達成できることを知見した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、その発明の要旨は次の通りである。
(1) 質量%で、
C:0.0005〜0.0050%、
Si:0.3超〜1.0%、
Mn:0.70〜2.0%、
P:0.05%以下、
Ti:0.010〜0.050%、
Nb:0.010〜0.040%、
B:0.0005〜0.0030%、
S:0.010%以下、
Al:0.01〜0.30%、
N:0.0010〜0.01%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の高強度鋼板で、かつ、Si表層濃度が0.3%超〜1.5%、表面のSi含有酸化物の面積率が全表面に対して3%以下、かつ、Si含有酸化物1個の大きさが1μm以下である高強度鋼板に、面積率で97%以上のFeSn合金層上に、1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からなり、その付着量が片面当り10〜150g/mである溶融Sn−Znめっきを設けたことを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板。
(2) 上記(1)に記載の成分組成の溶鋼を連続鋳造してスラブを得る工程と、該スラブを1000℃以上1300℃以下で加熱する工程と、仕上げ温度がAr温度以上1000℃以下の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る工程と、該熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程と、該酸洗した鋼板を50%以上の冷延率で冷間圧延して所定の厚さの冷延鋼板とする工程と、該冷延鋼板を再結晶温度以上の温度で焼鈍する工程と、その後焼鈍鋼板表面に1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からな溶融Sn−Znめっきを施す工程とを有することを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
(3) 前記熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程が、熱間圧延の仕上げ温度を[FT]℃としたときに、[FT]×0.6−500(sec.)以上の時間で酸洗を行なうことを特徴とする上記(2)記載のSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
(4) 上記(2)または(3)に記載の焼鈍する工程に引き続き、焼鈍鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程と、その後鋼板表面に1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からな溶融Sn−Znめっきを施す工程とを有することを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
(5) 前記熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程または前記焼鈍鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程が、20〜400g/lの硫酸水溶液中に硝酸塩、硫酸塩、フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩の1種または2種以上を混合した酸洗溶液で電解酸洗する工程であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
本発明の鋼板は、優れた耐食性を有する340MPa以上のSn−Znめっき高強度鋼板であり、更に優れたプレス成形性、耐二次加工脆性、拝み状溶接部の引張強度をも有するため、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能な優れたSn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法を提供することができる。これにより、鋼板の高強度化が可能となり、自動車の車体重量軽減による燃費向上が可能となり、とりわけ、燃料タンクの軽量化、車体デザインの複雑化が可能となる。
更に、本発明の鋼板で製造した燃料タンクは、自動車燃料の中で、特にバイオ燃料を用いた時に大きな効果を発揮する。
鋼板表面に濃化したSi含有酸化物が形成されるメカニズムを説明するための模式図である。 熱間仕上温度FT(℃)と酸洗時間(sec)との関係によるSi表面濃化の変化を示す図である。 耐二次加工脆性評価試験方法を示す図である。 ピール試験方法を示す断面図である。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、組成における質量%は、単に%と記載する。
本願発明者は、従来技術では極めて困難であった優れたプレス成形性、耐二次加工脆性と拝み状溶接部の引張強度、更には優れためっき性、耐食性を有する高強度鋼板を得るため、鋭意検討を重ねた。
その結果、熱延工程でのスケール生成に伴い、スケール/地鉄界面に濃化するSi酸化物を低減させることで、340MPa以上の引張り強度の高強度鋼板で、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、かつ、優れた耐二次加工脆性と拝み状溶接部の引張強度を有し、更に優れためっき性、耐食性を有することを実現できる高強度鋼板を見出し本発明に至った。
先ず、本発明の高強度鋼板における成分の数値限定理由について説明する。なお、成分についての%は、質量%を意味する。
C:0.0005〜0.0050%
Cは、本発明において極めて重要な元素である。具体的には、Cは、NbおよびTiと結合して炭化物を形成し、高強度化を達成するために極めて有効な元素である。しかしながら、C含有量が0.0050%を超えると、Cの固定に必要なTiおよびNbを添加したとしても加工性が低下すると共に、シーム溶接およびレーザ溶接における拝み状シーム溶接部靭性が低下する。一方、本発明の鋼板においては、C含有量が低くても、他の強化方法で補うことができるが、C含有量が0.0005%未満の場合、強度確保が困難になると共に、製鋼時の脱炭コストが上昇する。よって、C含有量は0.0005〜0.0050%とする。また、極めて高い加工性および溶接部靭性が要求される場合には、C含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。
Si:0.3超〜1.0%
Siは固溶強化元素として、高強度化するために有効な元素である。340MPa以上の引張強度と優れた耐二次加工脆性や拝み状シーム溶接部靭性を確保するためには0.3%超が必要である。一方で、Si含有量が過多になると、具体的には、Si含有量が1.0%を超えると、その他の条件は本発明の範囲内であったとしても溶融めっき性が損なわれる。よって、Si含有量の0.3超〜1.0%とする。
Mn:0.70〜2.0%
Mnは、Siと同様に固溶強化により鋼板強度を高める元素であり、耐二次加工脆性、溶接部靭性およびめっき性、耐食性の向上を目的とした本発明の鋼板を高強度化するために重要な元素の1つである。Mnには、組織を微細化して高強度化する機構と、固溶強化による高強度化機構とがあるが、Mn含有量が0.70%未満の場合、その添加効果が得られず、また他の元素で補完した場合は、耐二次加工脆性、溶接部靭性およびめっき性の全ての項目で目標を達成することができない。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、深絞り性の指標であるr値の面内異方性が大きくなり、プレス成形性が損なわれると共に、鋼板の表面にMn酸化物が生成し、めっき性が損なわれる。よって、Mn含有量は0.70〜2.0%とする。また、Mn含有量を1.0%以上とすることにより、熱延仕上げ温度を910℃以下にしても鋼板の組織を維持することができるのでMn含有量は1.0〜2.0%が好ましい。
P:0.05%以下
Pは、添加しても加工性の劣化が少なく、固溶強化で高強度化に有効な元素である。しかしながら、Pは、粒界に偏析して耐二次加工脆性を劣化させると共に、溶接部に凝固偏析を生じ、拝み状シーム溶接部靭性を劣化させる元素でもある。また、Pは、めっき時までの熱履歴により、鋼板の表面に偏析し、めっき性も劣化させる。具体的には、P含有量が0.05%を超えると、これらの特性が低下する。よって、P含有量は0.05%以下に規制する。なお、P含有量の下限値は特に規定する必要はないが、P含有量を0.005%未満にすると、精錬コストが高くなるのでP含有量は0.005%以上とすることが好ましい。また、強度確保の観点からは0.02%以上が好ましい。
Ti:0.010〜0.050%
Tiは、CおよびNとの親和力が強く、凝固時または熱間圧延時に炭窒化物を形成し、鋼中に固溶しているCおよびNを低減して、加工性を高める効果がある。しかしながら、Ti含有量が0.010%未満では、この効果が得られない。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、溶接継手の溶接部の強度および靭性、即ち、拝み状シーム溶接部靭性が劣化する。よって、Ti含有量は0.010〜0.050%とする。
Nb:0.010〜0.040%
Nbは、Tiと同様にCおよびNとの親和力が強く、凝固時または熱間圧延時に炭窒化物を形成し、鋼中に固溶しているCおよびNを低減して、加工性を高める効果がある。しかしながら、Nb含有量が0.010%未満の場合、この効果が得られない。一方、Nb含有量が0.040%を超えると、再結晶温度が高くなり、高温焼鈍が必要になると共に、溶接継手の溶接部の靭性が劣化する。よって、Nb含有量は0.010〜0.040%とする。
B:0.0005〜0.0030%
Bは、粒界に偏析することにより、粒界強度を高め、耐二次加工脆性を良好にする元素である。しかしながら、B含有量が0.0005%未満の場合、その効果が得られない。
一方、B含有量が0.0030%を超えると、溶接時にBがγ粒界に偏析してフェライト変態を抑制し、溶接部およびその熱影響部の組織が低温変態生成組織となるため、この溶接部および熱影響部が硬質化すると共に靭性が劣化し、その結果、拝み状シーム溶接部靭性が劣化する。
また、多量にBを添加すると、熱間圧延時におけるフェライト変態も抑制され、低温変態生成組織の熱延鋼板となるため、熱延鋼板の強度が高くなり、冷間圧延時の負荷が高くなる。更に、B含有量が0.0030%を超えると、再結晶温度が高くなり、高温での焼鈍が必要となるため、製造コストの上昇を招くと共に、深絞り性の指標であるr値の面内異方性が大きくなり、プレス成形性が劣化する。よって、B含有量は0.0005〜0.0030%とする。なお、B含有量の好ましい範囲は、前述した理由から0.0005〜0.0015%である。
S:0.010%以下
Sは、鋼の精錬時に不可避的に混入する不純物であり、MnおよびTiと結合して析出物を形成し、加工性を劣化させるため、S含有量は0.010%以下に規制する。なお、S含有量を0.0001%未満に低減するには製造コストが高くなるため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.30%
Alは、鋼の精錬時に脱酸材として使用される元素であるが、Al含有量が0.01%未満では脱酸効果が得られない。しかしながら、Al含有量が0.30%を超えると、拝み状シーム溶接部の靭性の低下や加工性の低下を招く。よって、Al含有量は0.01〜0.30%とする。
N:0.0010〜0.01%
Nは、鋼の精錬時に不可避的に混入する元素である。また、Nは、Ti、AlおよびNbの窒化物を形成し、加工性には悪影響を及ぼさないが、溶接部靭性を劣化させる。このため、N含有量は0.01%以下に規制する必要がある。一方、N含有量を0.0010%未満に低減するには、製造コストが高くなる。よって、N含有量は0.0010〜0.01%とする。
なお、本発明の鋼板における残部、即ち、上述した各元素以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明の高強度鋼板においては、以上のように元素含有量を特定範囲内にすることにより、340MPa以上の引張強度で、自動車分野、特に燃料タンク用途に適用可能なプレス成形性を有し、低温靭性、めっき性、耐食性に優れたSn−Znめっき高強度鋼板およびその製造方法を提供することができる。これらの効果により、鋼板の高強度化が可能となり、自動車の車体重量軽減による燃費向上が可能となり、とりわけ、燃料タンクの軽量化、車体デザインの複雑化が可能となる。この効果は工業的には極めて大きい。
本発明者らは、高強度鋼板の鋼板成分および溶融Sn−Znめっきの濡れ性について鋭意検討し、SSTでの耐食性試験で赤錆が発生するメカニズムを研究した。その結果、溶融Sn−Znめっきにおいては、焼鈍工程で濃化するSiやMnの酸化物によるめっき濡れ性の低下に加え、熱延工程でのスケール生成に伴い、スケール/地鉄界面に濃化するSi含有酸化物の残存が原因で、冷延、焼鈍後に、粉砕された微細なSi含有酸化物が残存し、これがめっき濡れ性を低下し、その結果耐食性を低下させる原因であることが判明した。
すなわち、鋼板表面にSiが濃化したSi含有酸化物が存在する鋼板に、Sn−Znめっきを行なうと、Si酸化物が存在している部分でめっき不良が生じ、めっきが抜けた部分が形成される。このために、Sn−Znめっきをしたにも拘らず、耐食性が低下するものである。
本発明では、Sn−Znめっき処理前の鋼板のSi表面濃度を0.3超〜1.5%以下、表面のSi含有酸化物の面積率が全表面に対して3%以下、かつ、Si含有酸化物1個の大きさを1μm以下に制御することにより、高強度の鋼板かつ耐食性を確保できることを知見した。上述した通り340MPa以上の引張強度と優れた耐二次加工脆性や拝み状シーム溶接部靭性を確保するためには、鋼板(地鉄)中に0.3%超Siが含有されていることから、鋼板のSi表面濃度の下限は0.3%超とした。一方、Si表面濃度が1.5%を超えると、上述した通りめっきが抜けたSn−Znめっき不良部分が多くなりすぎて、耐食性が低下する。よって、Si表面濃度を0.3超〜1.5%とする。Si表面濃度の測定は、CMA(Computer−aided Micro Analyzer)等元素濃度を定量的に測定できる装置で行う。
また、Si含有酸化物は、鋼板表面に存在させれば、Sn−Znめっき不良を生じさせる。しかし、めっき不良が生じても耐食性に悪影響を与えないSi酸化物の存在状態としては、鋼板表面のSi含有酸化物の面積率が全表面に対して3%以下、かつ、Si含有酸化物1個の大きさを1μm以下に制御することが重要であることがわかった。すなわち、鋼板表面のSi含有酸化物の面積率が全表面に対して3%以下、かつ、Si含有酸化物1個の大きさが1μm以下であれば、Sn−Znめっきの際にめっきが抜けた不良部が生じるとしても、めっき不良部の大きさが小さくて少ないから、そのめっき不良部はめっきで覆われためっき層となり、耐食性に悪影響を与えないからである。なお、Si酸化物の存在状態は、SEM(Scanning Electron Microscope)等の高倍で観察可能な装置で行う。
このように鋼板表面に残存するSi含有酸化物の存在状態を制御する手段について説明する。
まず、鋼板表面に濃化したSi含有酸化物が形成されるメカニズムについて考察する。図1(a)に示すように、鋼板地鉄1中には固溶Si(Fe+固溶Si)が存在している。この鋼板を加熱すると、図1(b)に示すように、鋼板地鉄表面にスケール(Fe酸化物)2が生成する。地鉄中のSiはスケール中に取り込まれずにスケールと地鉄との界面に濃化してSi含有酸化物3となって存在する。デスケーリングを行なって、スケールを削除しても地鉄表面にはSi含有酸化物が残存する。このSi含有酸化物は、熱間圧延や焼鈍中に生成する。
本発明では、Si含有酸化物を低減させるには、熱間圧延のスケール生成量の低減と酸洗時間の適正化により達成でき、熱間圧延のスケール生成量(スケール厚み)の低減のためには、熱間圧延の仕上温度を800〜925℃の低温にすることが重要である。そして、熱間圧延の仕上温度を低温としたことによって生成したスケールおよび表面濃化したSiは、酸洗によって除去することができ、特に、熱間圧延の仕上温度と酸洗時間とを制御することにより、本発明が目的とするSi表面濃化、鋼板表面に残存するSi含有酸化物の存在状態を制御できることを見出した。
図2は、熱間仕上温度FT(℃)と酸洗時間(sec)との関係によるSi表面濃化が1.5%以下になる条件を示す図で、Si表面濃化が1.5%となった場合を◇、Si表面濃化が1.3%となった場合を○、そしてSi表面濃化が1.1%となった場合を△で示してある。なお、熱延スケール除去のための酸洗には、鉄鋼業で一般的に用いられている5〜20%の塩酸を用いる。
図2に示すように、熱間仕上温度FT(℃)が高くなるにしたがって、スケール生成量が増加し、酸洗時間を長くしなければSi表面濃化を1.5%以下とすることができない。ここで、Si表面濃化を1.5%以下とすることができる領域で酸洗を行なえばよく、その領域は、熱間圧延仕上げ温度を[FT]℃としたときに、[FT]×0.6−500(sec.)以上の時間で熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗を行なえば良いことが分かる。
したがって、本発明における酸洗時間は、熱間圧延仕上げ温度を[FT]℃としたときに、[FT]×0.6−500(sec.)以上の時間と限定した。なお、上限は特に限定されるものではなく、適宜定めればよい。
なお、酸洗は常法通りの酸洗を行なえばよく、酸洗では、塩酸、硫酸、硝酸水溶液やこれらの混合水溶液の使用が例示されるが、酸洗速度が大きい塩酸水溶液が好適である。例えば、塩酸濃度は5〜20mass%、液温は80〜95℃、酸洗時間は20〜100秒とすることができる。また、酸洗前に、熱延スケールにクラックを発生させ(スケールブレーキング)、脱スケール性を向上させて、脱スケールすることが好ましい。
また、酸洗した熱延鋼板に50%以上の冷延率で冷間圧延して所定の厚さの冷延鋼板とし、再結晶温度以上の温度で焼鈍した後に、酸洗、特に、電解酸洗することによっても、本発明が目的とするSi表面濃化、鋼板表面に残存するSi含有酸化物の存在状態を制御することができる。
この場合の電解酸洗は、焼鈍鋼板を20〜400g/lの硫酸水溶液中に硝酸塩、硫酸塩、フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩の1種または2種以上を混合した酸洗溶液で電解酸洗する。なお、この電解酸洗は、本発明の熱間圧延後の酸洗にも適用できる。
本発明の電解酸洗液に於いて主剤として使用する硫酸は酸化謨の溶解作用、通電性向上のために添加するものであるが、他の溶剤と共存する場合、20g/l未満の濃度では酸洗効率が著しく悪く400g/l超の濃度では過酸洗となり表面外観を害する。従って、本発明に於いては、硫酸は20〜400g/lで使用する。そして、硫酸水溶液中に酸化膜の除去適度を大巾に向上させるために、フルオロケイ酸ソーダ、フルオロケイ酸カリウムの如きフルオロケイ酸塩やフルオロホウ酸ソーダ、フルオロホウ酸アンモニウムの如さフルオロホウ酸塩の1種または2種以上を、それぞれ10〜100g/l添加する。フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩は、それぞれ10g/l未満の添加量であると酸化膜の除去適度の向上に寄与しなく、100g/l超の添加量では効果が飽和してしまうので、10〜100g/lとした。
また、硝酸塩は酸化膜の除去速度を向上させるが、過酸洗を抑制する効果がある。硝酸塩としては硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等を用いることができ、50〜200g/lとする。50g/l未満では効果が得られず、一方200g/l超では効果が飽和してしまう。
また、硫酸ナトリュウムに代表される硫酸塩は、電解酸洗における過酸洗を抑制する効果があるが、50g/l未満では効果が得られず、一方200g/l超では効果が飽和してしまうので、50〜200g/lとした。
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
本発明の鋼板を製造する際は、先ず上述した鋼組成となるように調整した原料を転炉または電気炉に投入し、真空脱ガス処理を行ってスラブにする。次に、このスラブを、加熱温度が1000℃以上1300℃以下、仕上げ温度がAr温度以上1000℃以下の条件で熱間圧延し、熱延鋼板を得る。熱間圧延の加熱は、圧延温度確保のために1000℃以上が必要であり、靭性低下の要因となる粗大TiN生成を抑制するためやオーステナイト粒粗大化を抑制するために、更には加熱コスト抑制のために1300℃以下とする。特に粗大なTiNは拝み状シーム溶接部の靭性低下につながる。また、熱間圧延の仕上温度がAr温度未満であると、鋼板の加工性が損なわれるため、熱間圧延の仕上温度はAr温度以上とする。また、熱間圧延で1000℃を超える仕上げ温度は、確保することが難しく、また、本発明の特徴である酸洗後のSi表面濃度を1.5%以下に低減することが困難となる。よって、仕上げ温度はAr温度以上1000℃以下とした。
次に、上述の方法で作製した熱延鋼板を、必要に応じて脱スケールした後、50%以上の冷間圧延率で冷間圧延して、所定の板厚の冷延鋼板を得る。このとき、冷間圧延率が50%未満の場合、焼鈍後の鋼板の強度が低下すると共に、深絞り加工性が劣化する。なお、この冷間圧延率は65〜85%とすることが好ましく、これにより、強度および深絞り加工性がより優れた鋼板が得られる。
その後、冷延鋼板を再結晶温度以上の温度で焼鈍する。その際、焼鈍温度が再結晶温度未満の場合は、良好な集合組織が発達せず、深絞り加工性が劣化する。一方、焼鈍温度が高くなると鋼板の強度が低下するため、焼鈍は850℃以下の温度で実施することが好ましい。
次に、焼鈍後鋼板の表面に溶融Sn−Znめっきを施し、めっき鋼板とする。このめっきは、耐食性の観点からは、面積率で97%以上のFeSn合金層上に、1〜8.8%のZnと残部がSn:91.2〜99%および不可避的不純物および/または付随的成分からなり、その付着量が片面10〜150g/mであるめっきを施すことが好ましい。
これらの限定理由は以下のとおりである。
まず、FeSn合金層の面積率が97%以上としたのは、面積率が97%未満である場合、その上のSn−Znめっきが十分に生成しない可能性が生じるため、FeSn合金層の面積率で97%を下限とした。上限は100%であることが好ましいが、実操業では99.5%を上限とすることが好ましい。FeSn合金層は、溶融めっき浴中に浸漬させることによって生成し、浸漬時間を長くすれば多く生成する。
めっき組成のZnの限定理由であるが、燃料タンク内面と外面における耐食性のバランスにより限定したものである。燃料タンク外面は、完璧な防錆能力が必要とされるため燃料タンク成形後に塗装される。したがって、塗装厚みが防錆能力を決定するが、素材としてはめっき層のもつ防食効果により赤錆を防止する。特に、塗装のつきまわりの悪い部位ではこのめっき層のもつ防食効果は極めて重要となる。Sn基めっきにZnの添加でめっき層の電位を下げ、犠牲防食能を付与する。そのためには1質量%以上のZnの添加が必要である。Sn−Zn二元共晶点である8.8%を超える過剰なZnの添加は、粗大なZn結晶の成長を促進する、融点上昇をひきおこし、めっき下層の金属間化合物層(いわゆる合金層)の過剰な成長につながる等の理由で8.8%以下でなくてはならない。粗大なZn結晶はZnの有する犠牲防食能が発現する点は問題ないが、一方で粗大なZn結晶部で選択腐食をおこしやすくなる。また、めっき下層の金属間化合物層の成長は金属間化合物自体が非常に脆いため、プレス成形時にめっき割れが生じやすくなり、めっき層の防食効果が低下する。
一方、燃料タンク内面での腐食は、正常なガソリンのみの場合には問題とならないが、水の混入・塩素イオンの混入・ガソリンの酸化劣化による有機カルボン酸の生成等により、激しい腐食環境が出現する可能性がある。もし、穿孔腐食によりガソリンが燃料タンク外部に漏れた場合、重大事故につながる恐れがあり、これらの腐食は完全に防止されねばならない。上記の腐食促進成分を含む劣化ガソリンを作製し、各種条件下での性能を調べたところ、Znを8.8%以下含有するSn−Zn合金めっきは極めて優れた耐食性を発揮することが確認された。
Znを全く含まない純SnまたはZn含有量が1%未満の場合、腐食環境中に暴露された初期より、めっき金属が地鉄に対し犠牲防食能を持たないため、燃料タンク内面ではめっきピンホール部での孔食、タンク外面では早期の赤錆発生が問題となる。一方、Znが8.8%を超えて多量に含まれる場合、Znが優先的に溶解し、腐食生成物が短期間に多量に発生するため、キャブレターの目詰まりを起こしやすい問題がある。
また、耐食性以外の性能面では、Zn含有量が多くなることによってめっき層の加工性も低下し、Sn基めっきの特長である良プレス成形性を損なう。さらに、Zn含有量が多くなることによってめっき層の融点上昇とZn酸化物に起因し、はんだ性が大幅に低下する。
したがって、本発明におけるSn−Zn合金めっきにおけるZn含有量は、1〜8.8%の範囲、更により十分な犠牲防食作用を得るには3.0〜8.8%の範囲にすることが望ましい。
このSn−Znめっきの付着量は、片面10g/m未満では良好な耐食性が確保できず、150g/mを超えて付着するにはコストが上昇することに加え、厚みがまだらになり模様欠陥となったり、溶接性を低下させたりする。よって、Sn−Znめっきの付着量は片面10〜150g/mとした。
更にめっき性を向上させるためには、めっきの前にFe−Niのプレめっきを施すことがSn−Znめっきの濡れ性と初晶Snを微細化させて耐食性を向上させるために有効である。この付着量は、めっきの濡れ性の点で0.2g/m以上、Niの割合は、初晶Snを微細化の点から10〜70質量%が望ましい。そして、上述の方法により作製された鋼板は、更に、必要に応じて表面に電気めっきを施してもよい。
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
本実施例においては、下記表1に示す組成の鋼を溶製し、1000〜1300℃に加熱保持した後、表2の通り熱延仕上温度を840〜975℃、巻き取り温度が580〜750℃の条件で熱間圧延し、板厚が3.5mmの熱延板にした。次に、この熱延板を酸洗した後で冷間圧延して、厚さが1.0mmの冷延板にした。
更に、この冷延板に対して、760〜840℃で60秒間保持するサイクルの焼鈍を行い、焼鈍鋼板を得た。この鋼板を表2に示す酸洗液で表面を電解酸洗し、Fe−Niめっきを1g/m施した後、フラックス法でSn−Znめっきを行った。Fe−Ni合金めっき浴はNiめっきのワット浴に対して、硫酸鉄を100g/L添加したものを使用した。フラックスはZnCl2―NH4Cl水溶液をロール塗布して使用し、めっき浴のZnの組成は表2のように実施した。浴温は280℃とし、めっき後ガスワイピングによりめっき付着量を表2のように調整した。更に、溶融めっき処理後の鋼板に、Cr3+主体の処理を施し、実施例および比較例の高強度鋼板とした。なお、下記表1に示す鋼組成における残部は、Feおよび不可避的不純物である。また、下記表1における下線は、本発明の範囲外であることを示す。
Figure 2011219845
Figure 2011219845
次に、上述の方法で作製した実施例および比較例の各高強度鋼板について、引張り特性、深絞り加工の指標であるr値、耐二次加工脆性、拝み状シーム溶接部低温靭性および耐食性について評価した。以下、その評価方法について説明する。
引張り特性は、各溶融めっき鋼板から引張り方向が圧延方向と並行になるようにして採取したJIS5号試験片を使用して引張り試験を行い、その引張り強さTSおよび伸びElにより評価した。そして、引張り強さTSが440MPa以上で、伸びElが33%以上のものを合格とした。
r値の評価は、各溶融めっき鋼板から圧延方向に平行方向、45°方向、直角方向の3方向について夫々JIS5号引張り試験片を採取し、各試験片のr値を測定した。そして、圧延方向に平行なr値をr、45°方向のr値をr45、直角方向のr値をr90としたとき、下記(C)式により求められる各方向のr値の平均値raveにより評価した。なお、本実施例においてはraveが1.40以上のものを合格とした。
ave=(r+2×r45+r90)/4 ・・・・(C)
耐二次加工脆性は、溶融めっき鋼板を直径95mmにブランキングした後、外径が50mmのポンチで円筒絞りを行い、図3に示すように、その絞りカップ4を、30°の円錐台5に載せ、種々の温度条件下で、高さ1m位置から重さ5kgの錘6を落下させて、カップに割れが発生しない最低の温度(耐二次加工脆性温度)を求めた。この耐二次加工脆性温度は、鋼板の板厚および試験方法により変化するが、冷延鋼板の板厚が1.0mmである本実施例においては、−50℃以下を合格とした。
拝み状シーム溶接部7の靭性評価は図4に示す試験片形状にフランジを曲げ加工し、各試験片(鋼板)8a部、8b部をチャックで固定して200mm/min.の速度で引張試験を種々の温度で行ない、破断後の破面を調査し、脆性破面と延性破面が50%ずつとなる温度を延性脆性遷移温度として求めた。本実施例においては、−40℃以下のものを合格とした。
また、耐食性はSST960時間での赤錆発生率で評価し、50%以下のものを合格とした。以上の評価結果を表3にまとめて示す。
Figure 2011219845
上記表3に示すように、本発明の範囲内の実施例のNo.1の鋼板は、耐食性の指標であるSST960時間での赤錆発生率が9.9%と良好であり、伸びElも36.6%、r値の平均値raveが1.65と優れた加工特性を有し、耐二次加工脆性温度、拝み状シーム溶接部の延性脆性遷移温度共に低温で良好であった。本発明の範囲内の実施例のNo.2の鋼板も、SST960時間での赤錆発生率が13.0%と耐食性が良好であり、加工性の指標である伸びElが36.3%、raveが1.64と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性にも優れていた。本発明の範囲内の実施例のNo.3の鋼板も、SST赤錆発生率が9.6%と耐食性に優れており、加工性の指標である伸びElが35.6%、raveが1.67と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性も優れた特性を有していた。
本発明の範囲内の実施例のNo.4の鋼板は、SST赤錆発生率が11.3%と耐食性に優れており、伸びElが37.1%、r値の平均値raveが1.69と優れた加工特性を有し、耐二次加工脆性温度、拝み状シーム溶接部の延性脆性遷移温度共に低温で良好であった。本発明の範囲内の実施例のNo.5の鋼板も、SST赤錆発生率が5.0%と耐食性に優れており、加工性の指標である伸びElが36.4%、raveが1.67と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性にも優れていた。本発明の範囲内の実施例のNo.6の鋼板も、SST赤錆発生率が9.6%と耐食性に優れており、加工性の指標である伸びElが35.5%、raveが1.64と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性も優れた特性を有していた。
本発明の範囲内の実施例のNo.7の鋼板も、SST赤錆発生率が43.6%と耐食性に優れており、加工性の指標である伸びElが34.3%、raveが1.58と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性も優れていた。本発明の範囲内の実施例のNo.8の鋼板も、SST赤錆発生率が8.4%と耐食性に優れており、加工性の指標である伸びElが37.6%、raveが1.72と優れた特性を有すると共に、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性も優れていた。同様にNo.9〜No.14も優れた耐食性、加工性、耐二次加工脆性および優れた拝み状シーム溶接部靭性を有していた。
これらに対して、熱延後の酸洗時間が[FT]×0.6−500(sec.)未満であったNo.15、No.16、No.17、No.18、No.19、No.20、No.22、No.23、No.26の鋼板は酸洗後のSi表面濃度も1.5%を超えて、SST赤錆発生率が50%を超え耐食性に劣っていた。また、C含有量が本発明の範囲から外れた比較例のNo.21の鋼板は、加工性の指標である伸びElが30.2%、r値が1.14と低く、加工性が前述の実施例の鋼板に比べて劣っており、更に、拝み状シーム溶接部靭性も劣っていた。
No.23の鋼板は、Mn含有量が本発明の上限を超え、加工性の指標である伸びElおよびr値が前述の実施例の鋼板に比べて低く、加工性が劣っていた。No.24の鋼板は、P含有量が本発明の範囲から外れた比較例であり、耐二次加工脆性および拝み状シーム溶接部靭性が前述の実施例の鋼板よりも劣っていた。No.25の鋼板は、Ti含有量が本発明の範囲未満である比較例である。この鋼板は、伸びElおよびr値が低く、加工性が劣っていた。No.26の鋼板はTi含有量が本発明の上限を超えている比較例である。この鋼板は、伸びElおよびr値が低く、更に拝み状シーム溶接部靭性も前述の実施例の鋼板よりも劣っていた。No.27の鋼板は、Nb含有量が本発明の範囲未満である比較例である。この溶融めっき鋼板は、r値および伸びElが低く、本発明の優れた加工性を有する目的に合致しない。
No.28の鋼板は、B含有量が0.0003%と本発明の下限値に満たない比較例である。この鋼板は、耐二次加工脆性温度が−20℃であり、前述の実施例の鋼板と比較して劣っていた。また、めっきのZn質量%が低いために、十分な犠牲防食効果を有しておらず外面耐食性に劣る。No.29の鋼板は、B含有量が本発明の範囲を超えている比較例である。この鋼板は、加工性の指標である伸びElおよびr値が低く、また拝み状シーム溶接部の延性脆性遷移温度も高く、溶接部靭性が劣っていた。更に、めっきのZn質量%が高く、Sn初晶が現れずに共晶セル粒界のZn偏析および粗大Zn結晶の成長が助長されるため耐食性も低下した。
1 鋼板地金
2 スケール(Fe酸化物)
3 Si酸化物
4 絞りカップ
5 円錐台
6 錘
7 拝み状シーム溶接部
8a、8b 試験片(鋼板)

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.0005〜0.0050%、
    Si:0.3超〜1.0%、
    Mn:0.70〜2.0%、
    P:0.05%以下、
    Ti:0.010〜0.050%、
    Nb:0.010〜0.040%、
    B:0.0005〜0.0030%、
    S:0.010%以下、
    Al:0.01〜0.30%、
    N:0.0010〜0.01%
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の高強度鋼板で、かつ、Si表層濃度が0.3%超〜1.5%、表面のSi含有酸化物の面積率が全表面に対して3%以下、かつ、Si含有酸化物1個の大きさが1μm以下である高強度鋼板に、面積率で97%以上のFeSn合金層上に、1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からなり、その付着量が片面当り10〜150g/mである溶融Sn−Znめっきを設けたことを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板。
  2. 請求項1に記載の成分組成の溶鋼を連続鋳造してスラブを得る工程と、該スラブを1000℃以上1300℃以下で加熱する工程と、仕上げ温度がAr温度以上1000℃以下の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る工程と、該熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程と、該酸洗した鋼板を50%以上の冷延率で冷間圧延して所定の厚さの冷延鋼板とする工程と、該冷延鋼板を再結晶温度以上の温度で焼鈍する工程と、その後焼鈍鋼板表面に1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からな溶融Sn−Znめっきを施す工程とを有することを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
  3. 前記熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程が、熱間圧延の仕上げ温度を[FT]℃としたときに、[FT]×0.6−500(sec.)以上の時間で酸洗を行なうことを特徴とする請求項2記載のSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
  4. 前記請求項2または3に記載の焼鈍する工程に引き続き、焼鈍鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程と、その後鋼板表面に1〜8.8%のZnと残部がSnおよび不可避的不純物からな溶融Sn−Znめっきを施す工程とを有することを特徴とするSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
  5. 前記熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程または前記焼鈍鋼板の表面スケールを除去する酸洗工程が、20〜400g/lの硫酸水溶液中に硝酸塩、硫酸塩、フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩の1種または2種以上を混合した酸洗溶液で電解酸洗する工程であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のSn−Znめっき高強度鋼板の製造方法。
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