JP2011205956A - ナマコ素材製造方法、ナマコ素材および乾燥ナマコ戻し品様食品 - Google Patents

ナマコ素材製造方法、ナマコ素材および乾燥ナマコ戻し品様食品 Download PDF

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孝朗 白板
Tatsumichi Yamabi
達道 山日
Hisashi Oyachi
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Abstract

【課題】 簡便で製造上の労力軽減でき、かつ使用時の長時間の戻し工程が不要な、乾燥ナマコ戻し品様食品製造方法を提供すること。
【解決手段】 事前の煮熟処理過程P0により収縮したナマコ5を加熱処理過程P10によって膨潤させる。加熱処理過程P10では、水または水溶液を用いたナマコ5の煮熟処理がなされる。加熱処理過程P10後の膨潤ナマコ15は、必要に応じて冷凍または冷蔵により保存される。なお、水と同梱して凍結する凍結保存過程P20を設け、凍結ナマコ素材30を得ることもできる。
【選択図】 図1

Description

本発明はナマコ素材製造方法、ナマコ素材および乾燥ナマコ戻し品様食品に係り、特に従来と比較して製造上の労力を軽減でき、使用時の長時間の戻し工程を不要とすることのできる、ナマコ素材製造方法等に関する。
青森県の陸奥湾海域において、ナマコはホタテガイに次ぐ重要な水産資源の一つとなっており、これを乾燥処理してなる乾燥ナマコは青森県の特色ある水産加工品の一つである。近年は中国等での乾燥ナマコの需要増加により、全国的にもナマコの漁獲量、金額および単価は増加の傾向にある。
乾燥ナマコは、原料のナマコを海水等で煮熟した後、10日間から1ヶ月程度乾燥させたものであり、中華料理では高級食材として珍重されている。しかし、非常に高価であることや日本人の食生活における馴染みが薄いことから一般消費者への浸透度は必ずしも高いとはいえない。また、乾燥ナマコは食す際の戻しの工程にも1週間から3週間程度と長時間を要することから、製造時や使用時のコストや労力が非常に大きな負担となっている。
従来、乾燥ナマコについては若干の技術的提案もなされている。このうち後掲特許文献1は、乾燥ナマコの製造日数短縮および使用時の負担軽減を目的として、110℃以上の加熱によりナマコを軟化させ、さらに細かく砕いた木炭を入れた圧力鍋で30分間程度加熱処理するという技術を開示している。
特開2001−61447号公報「加熱処理した加工および料理素材としてのナマコの製造法」
さて、中華商材を目的としたナマコ加工に携わる事業者は限定されており、またその加工方法も従来、乾燥ナマコや塩蔵ナマコに限定されている。もっとも近年は、製品の主体は乾燥ナマコから塩蔵ナマコへと移行しており、塩蔵ナマコは中国等へ輸出され、輸出先で塩抜きされて膨潤させるための加熱処理がなされたり、再び高価な乾燥ナマコに加工処理されているのが実態である。このような国内におけるナマコ加工の低次化進行による収益の減少が、懸念されている。
したがって従来からのナマコ加工事業者にとっても、特別に新たな装置や加工技術の導入をすることなく、乾燥ナマコ、またはこれと同等の経済効果を生み出せる食品を製造できるようになれば、大いにメリットがあり、我が国におけるナマコ加工の高次化、収益増加を図ることができる。もっとも従来の乾燥ナマコには、製造時のみならず使用時においても労力が大きいという問題点があることに鑑みれば、上記特許文献1に開示されたような乾燥ナマコ戻し品様の食品には、製造上および使用上の観点から、従来の乾燥ナマコにはない新たな利用価値があるといえる。
しかし、特許文献1開示の乾燥ナマコ戻し品様食品製造技術は、相当の高温による加熱処理や、圧力をかける処理、さらに非食材である木炭を添加して行う加熱処理、最後には木炭臭を完全に抜くための晒し処理まで必要である。かかる装置や処理技術は、中小・零細規模が主であるナマコ加工事業者が容易に導入できるものとはいえない。もちろん新規参入する場合であっても、中小・零細規模の事業者にとっては同様である。かかる事業者においても導入容易な、かつより簡便な製造技術による乾燥ナマコ戻し品様食品の提供が求められている状況である。
本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、従来よりも導入容易な簡便な製造技術によって、製造上の労力を軽減でき、かつ使用時の長時間の戻し工程を不要とすることのできる、実用性の高いナマコ素材製造方法、ナマコ素材および乾燥ナマコ戻し品様食品を提供することである。
本願発明者は、従来のナマコ加工において行われている煮熟処理の後に、さらに所定条件での煮熟処理過程を設けることなどによって上述課題を解決できることに想到し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下のとおりである。
(1) 事前煮熟処理を経て収縮したナマコを加熱処理過程により膨潤させるナマコ素材製造方法であって、該加熱処理過程では水または水溶液を用いたナマコの煮熟処理がなされ、前記加熱処理過程後は必要に応じて冷凍または冷蔵により保存される、ナマコ素材製造方法。
(2) 前記加熱処理過程では、60℃以上80℃以下で煮熟処理がなされることを特徴とする、(1)に記載のナマコ素材製造方法。
(3) 前記加熱処理過程では、下記測定条件〔A〕による処理後の破断強度が30g以上80g以下となる程度の温度および処理時間の条件にて煮熟処理がなされることを特徴とする、(1)または(2)に記載のナマコ素材製造方法。
〔A〕測定装置:レオメーター、プランジャー:直径3mmの球形、進入速度:6cm/min
(4) 前記加熱処理過程では、温度および加熱時間を軸とする座標平面上において、加熱条件を示す(温度(℃),加熱時間(時間))が、(60,37)、(70,24)、(80,11)、(80,14)、(70,34)、および(60,40)の各点を順に結んでなる領域以内にあることを特徴とする、(1)に記載のナマコ素材製造方法。
(5) 前記加熱処理過程を経たナマコを水または水溶液と同梱して冷凍する凍結保存過程を備えることを特徴とする、(1)ないし(4)のいずれかに記載のナマコ素材製造方法。
(6) 前記凍結保存過程の保存温度は−20℃以下であることを特徴とする、(5)に記載のナマコ素材製造方法。
(7) (1)ないし(6)のいずれかに記載のナマコ素材製造方法による、乾燥ナマコ戻し品様食品。
(8) 容器中に膨潤したナマコが水または水溶液と同梱されて凍結した状態となっている、ナマコ素材。
(9)原料ナマコに対する歩留まりが20重量%以上であることを特徴とする、(8)に記載のナマコ素材。
本発明のナマコ素材製造方法、ナマコ素材および乾燥ナマコ戻し品様食品は上述のように構成されるため、その簡便さと実用性の高さにより、たとえ中小・零細規模の事業者であっても容易に導入することができ、本発明のナマコ素材を容易に得ることができる。もちろん、本発明における製造工程の簡便さ、労力の軽減は事業規模の如何に関わらず製造上の利点である。
また、本発明のナマコ素材、乾燥ナマコ戻し品様食品は、生鮮ナマコから直接製造できるものであり、中華料理その他での使用時における長時間の戻し工程が不要である。したがって、中華料理店等にとっては来客者の要望に即座に対応可能となる。また、一般消費者用、家庭用としても実用性が高い。本発明の乾燥ナマコ戻し品様食品が、正に乾燥ナマコを戻したもののような品質を備えるものであることは、いうまでもない。
また、従来の塩蔵ナマコは、乾燥ナマコに比べると収益性が低い上に、中間業者あるいは最終需要者側における塩抜き処理や膨潤処理、乾燥処理を要する。しかし本発明の凍結状態のナマコ素材は、凍結状態で流通・保存・保管可能であるため、使用時に解凍するだけで、他の処理に時間を要することなくすぐに食材として用いることができる。
本発明のナマコ素材製造方法の構成を示すフロー図である。 本発明の乾燥ナマコ戻し品様食品の例を示す写真である。 本発明の凍結ナマコ素材の構成を示す概念図である。 本実施例Iにおける重量増加率の経時的変化を示すグラフである。 本実施例Iにおける体積増加率を示すグラフである。 本実施例Iにおける加熱後試料の経時的な水分の変化を示すグラフである。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の重量増加率と水分の関係について示すグラフである(60℃)。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の重量増加率と水分の関係について示すグラフである(70℃)。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の重量増加率と水分の関係について示すグラフである(80℃)。 本実施例Iにおける加熱後試料の破断強度を示すグラフである。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の物性と水分の関係について示すグラフである(60℃)。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の物性と水分の関係について示すグラフである(70℃)。 本実施例Iにおける加熱温度・時間別の物性と水分の関係について示すグラフである(80℃)。 実施例における加熱温度と加熱時間の関係を示すグラフである。
本発明について、さらに詳細に説明する。
図1は、本発明のナマコ素材製造方法の構成を示すフロー図である。図示するように本製造方法は、事前の煮熟処理過程P0により収縮したナマコ5を加熱処理過程P10によって膨潤させるものであって、加熱処理過程P10では、水または水溶液を用いたナマコ5の煮熟処理がなされることを、基本的な構成とする。煮熟処理に用いる液体は水で何ら問題はないが、塩水でもよいし、またたとえば、何らかの添加物が意図的に添加または混合された水溶液、あるいは混合液を用いて行う場合であっても、本発明の範囲内である。なお、加熱処理過程P10後のナマコ(膨潤ナマコ)15は、必要に応じて冷凍または冷蔵により保存される。
かかる構成により本製造方法によれば、原料ナマコ1は事前の煮熟処理過程P0における煮熟処理によって収縮して収縮ナマコ5となり、収縮ナマコ5は加熱処理過程P10における水または水溶液を用いたナマコ5の煮熟処理によって膨潤して膨潤ナマコ15となる。なお、加熱処理過程P10後の膨潤ナマコ15は、必要に応じて冷凍または冷蔵により保存される(図示せず)。事前に収縮済みの状態の収縮ナマコ5を、加熱処理過程P10によって膨潤させることで、本発明が目的とする乾燥ナマコを戻したような状態を得ることができる。つまり本発明製造方法によって、実に容易に乾燥ナマコ戻し品様食品を提供することができる。
図において加熱処理過程P10では、60℃以上80℃以下で煮熟処理を行うものとすることができる。これ以外の条件が本発明から排除されるわけではないが、特にかかる温度範囲内の処理とすることによって、目的とする乾燥ナマコ戻し品様の状態を効果的、効率的、良好に得ることができるからである。
なお図1−2は、本発明の乾燥ナマコ戻し品様食品の例を示す写真である。
また加熱処理過程P10では、前記加熱処理過程では、所定の測定条件による処理後の破断強度が、30g以上80g以下となる程度の温度および処理時間の条件にて煮熟処理を行うものとすることができる。これ以外のものであっても本発明の範囲内ではあるが、30g以上80g以下程度の破断強度が、本発明目的である乾燥ナマコ戻し品様の状態として、利用上も保存上も特に良好だからである。
なお、所定の測定条件とは、次のとおりである。
測定装置:レオメーター、
プランジャー:直径3mmの球形、
進入速度:6cm/min
実施例に詳述するが、加熱処理過程P10においては、温度および加熱時間を軸とする座標平面上において、(温度(℃),加熱時間(時間))座標が、(60,37)、(70,24)、(80,11)、(80,14)、(70,34)、および(60,40)の各点を順に結んでなる領域以内にあるような加熱処理条件とすることができる。いくつかの加熱条件座標のプロットにより、かかる範囲内の処理によって、より良好な結果を得ることができるからである。
図示するように本発明製造方法においては、加熱処理過程P10を経た膨潤ナマコ15を水または水溶液と同梱して冷凍する凍結保存過程P20を備えてもよい。かかる構成により、凍結保存過程P20において膨潤ナマコ15は水または水溶液と同梱されて冷凍され、凍結ナマコ素材30となる。凍結保存過程P20に用いる液体は水で何ら問題はないが、塩水でもよいし、またたとえば、何らかの添加物その他の物質が添加された、または混合している状態の水溶液や混合液を用いて行う場合であっても、本発明の範囲内である。
なお、凍結保存過程P20における保存温度は、−20℃以下とすることが望ましい。実施例に述べるようにかかる温度範囲とすることによって、凍結ナマコ素材30の品質を高い状態で維持することができるからである。なお、膨潤ナマコ15の状態であるよりも凍結ナマコ素材30とすることによって、原料ナマコ1に対する歩留まりを20重量%以上と高くすることができる。
図2は、本発明の凍結ナマコ素材の構成を示す概念図である。図示するように、容器80中に膨潤して凍結した状態の凍結ナマコ素材30が、水または水溶液50と同梱されて凍結した状態で、凍結ナマコ梱包体100が形成されている。凍結ナマコ素材30は、流通を通して本発明による乾燥ナマコ戻し品様食品を広く提供する上で、非常に有益である。
以下、本発明を実施例によってさらに説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明に到る実験の経過を述べ、本発明の実施例とする。
<実施例I 加熱処理条件の検討試験>
1.試料および試料の調製
青森県陸奥湾産の生鮮マナマコを使用した。マナマコは開腹し、体壁内側の内臓、縦走筋および石灰環を除去した後、水道水で洗浄した。マナマコ体壁は、適当量の水を加熱してこれに投入し、沸騰で一定時間煮熟した後、水で急冷した。煮熟加熱により収縮したマナマコを2cm角程度に切り分け、−50℃で急速凍結した後−30℃で保管し、必要に応じて流水解凍して試験に供した。
2.製造条件の検討
乾燥ナマコを戻す(膨潤させる)方法としては、乾燥ナマコを水に一晩浸漬した後、水もしくはかん水を用いて弱火で加熱して微沸騰状態で数十分保持し、火を止めそのまま一日放冷を行い、さらに水を取り換えてこの作業を何度か繰り返す、というのが一般的である。この乾燥ナマコの膨潤には、加熱中あるいは放冷途中の温度が影響しているものと考えられる。そこで、凍結試料を流水解凍後、約15倍量の水道水とともに耐熱性包装材に封入し、60℃、70℃および80℃の水浴中で定温加熱を行い、経時的変化を観察した。
3.分析方法
(1)水分
105℃常圧加熱乾燥法により分析した。1区分当たり20個の試料について分析した。
(2)物性
不動工業(株)社製レオメーターNRM−2010J−CWを使用し、直径3mmの球形プランジャーで破断強度を測定した。進入速度は6cm/minとした。1区分当たり20個の試料から2〜6回測定した。
(3)膨潤率
膨潤率は重量増加率および体積増加率により求めた。体積増加率については、一定量の水を入れたメスシリンダーに試料を投入し、増加した量を体積とした。1区分当たり20個の試料について測定した。
4.結果および考察
(1)試料調製における歩留りの変化
試料を調製した際の歩留りの変化を表1に示した。マナマコの内臓、縦走筋、石灰環除去後の歩留りは43.4%となった。その後、前述した試料調製方法で煮熟処理を行ったところ、マナマコ原料からの歩留りは11.3%となった。また、マナマコ体壁からの煮熟後の歩留りは26.1%となった。
(2)膨潤率
凍結試料を流水解凍後、約20倍量の水道水とともに耐熱性包装材に封入し、恒温水槽で60℃、70℃、80℃で加熱を行った際の試料の経時的な重量および体積の変化を測定した。
図3Aは、本実施例Iにおける重量増加率の経時的変化を示すグラフ、また図3Bは体積増加率を示すグラフである。なお、凍結試料を流水解凍することにより、試料重量は1.02±0.02倍、体積は0.95±0.05倍となった。 これらに示すように、総じて重量増加率と体積増加率はほぼ同じ値を示し、また両者間には正の相関が認められたことから、以後は重量増加率のみを検討した。
また、図示するように、加熱時間の経過に伴い重量増加率は大きくなり、また加熱温度が高いほど重量増加率は大きくなる傾向を示した。60℃加熱では24時間後に1.25倍、40時間後に1.52倍となった。70℃加熱では10時間後に1.19倍、24時間後に1.49倍、40時間後に1.98倍となった。80℃加熱では10時間後に1.30倍、24時間後に2.05倍と、試験区の中で最も大きな上昇を示した。
(3)水分
図4は、本実施例Iにおける加熱後試料の経時的な水分の変化を示すグラフである。重量増加率の変化と同様、水分も加熱時間の経過に伴い増加した。また、加熱温度が高いほど水分が急激に増加する傾向を示した。なお、流水解凍後の試料水分は82.90%であった。
60℃加熱では24時間後に87.62%、40時間後には90.11%となった。70℃加熱では10時間後に87.60%、24時間後に90.01%、40時間後に93.76%となった。80℃加熱では10時間後に88.98%、24時間後に93.79%であり、試験区の中で最も急激に増加した。
図5A、5B、5Cは、本実施例Iにおける加熱温度・時間別の重量増加率と水分の関係について示すグラフであり、順に、60℃、70℃、80℃である。前述したとおり、加熱時間が経過するとともに重量および水分が増加する傾向が認められた。個体差が大きいものの、両者間には正の相関関係が認められた。
(4)物性
図6は、本実施例Iにおける加熱後試料の破断強度を示すグラフである。加熱時間の経過に伴い破断強度は低下し、また加熱温度が高いほど破断強度は急激に低下する傾向を示した。なお、流水解凍後の試料の破断強度は665gであった。
60℃加熱では直線的に破断強度が低下し、24時間後では276g、40時間後には35gとなった。70℃加熱では60℃加熱に比べると、加熱の初期における破断強度の低下が大きくなっており、10時間後には既に311g、24時間後には83g、24時間以降は緩やかに低下し、40時間後には17gとなった。80℃加熱ではさらに破断強度の低下は大きくなり、10時間後で既に93gとなり、一部溶解している個体もみられ、24時間後には形態を維持できないほどの状態となっていた。
図7A、7B、7Cは、本実施例Iにおける加熱温度・時間別の物性と水分の関係について示すグラフであり、順に、60℃、70℃、80℃である。前述したとおり、加熱時間が経過するとともに破断強度の低下および水分の増加の傾向が認められた。個体差が大きいものの、両者間には正の相関関係が認められた。
5.製造条件の検討
生鮮マナマコから直接、戻した乾燥ナマコのような中間素材(以下、「中間素材」)を製造する技術開発に当たり、その中間素材は適度の物性を有していることが最も重要であり、また、膨潤率(歩留り)も重要な要素である。本実施例試験の結果から、中間素材の性状については、手に持った際の感触、試料の溶解度合から、破断強度測定データ値で30〜80g前後が適当であると判断された。かかる適度な破断強度を有する試料を調製するためには、前掲図6に示した破断強度の測定結果から、およそ、60℃加熱で37〜40時間、70℃加熱で24〜34時間、80℃加熱で11〜14時間の各条件が適していると判断された。これらの条件下での重量増加率、水分について、前掲図3A、3Bおよび図4から算出した結果を表2に示す。
この結果、60℃加熱条件では、最も長い加熱時間を要すること、および重量増加率は70℃加熱条件に比べて低いことがわかった。また80℃加熱条件では、加熱時間の短縮は図られるものの重量増加率の割合が最も低く、膨潤率が低いことがわかった。以上のことから、ナマコ中間素材の製造に当たっては、70℃程度の温度による24〜34時間程度の加熱処理条件が最も適当であると判断された。
<実施例II 冷凍保存条件の検討試験>
1.試験方法
実施例Iにて加熱処理条件を検討したナマコ中間素材について、冷凍保存性を検討した。なお特に記さない試験条件については、実施例Iと同様とした。
(1)試料:生鮮マナマコ
(2)試料調製:内臓等を除去し、7倍量水道水で煮熟した。流水中で急冷後、−50℃で急速凍結、−30℃で冷凍保管した。
(3)加熱条件:耐熱袋に流水解凍した原料と約15倍量の水道水を入れて包装し、恒温水槽を用いて70℃28時間加熱した。
(4)凍結条件:加熱した試料を半分に裁割し、半分を5倍量の水道水とともに耐熱の袋に入れ、各温度下(−10℃,−20℃,−30℃)で保存し、一定期間(0,1,2,6ヶ月)保存した。
(5)分析項目:加熱後の試料および流水中で3時間解凍した凍結保存後の試料について、膨潤率(重量・体積)、物性、水分を測定するとともに、画像撮影を行った。
2.試験結果
(1)試料調製による歩留りの変化を表3に示した。口、肛門、内臓除去後の体壁に対する煮熟後の歩留は20.7%であった。
(2)加工工程中、および凍結保存後の歩留の変化を表4に示した。流水解凍による歩留の変化は同じであったが、70℃28時間加熱による歩留は1.45〜1.73倍となり、個体差が大きかった。凍結保存解凍した試料の歩留は加熱後試料の1.12〜1.16倍となった。
(3)加熱後および凍結保存後の試料の水分および物性について、表5、6に示した。凍結保存後は、保存温度に関わらず、水分・破断強度ともに増加する傾向が認められた。ただし、破断強度の増加は低いレベルでの増加であり、凍結保存による食感を損ねるものとはならず、ナマコ中間素材の品質上、何ら問題がないものと判断された。
(4)なお、−10℃保存では、同梱した保存液(水道水)が若干濁っており、ナマコ体壁表面の一部溶解が認められた。−20℃、−30℃保存ではこれらの現象は観察されなかった。以上の試験結果から、加熱膨潤させたナマコ体壁は水道水と同梱し、−20℃以下で凍結保存することにより、品質を充分に維持できるものと判断された。また、原料に対する歩留まりは20重量%以上となり、凍結保存により歩留が向上した。
(5)ところで、原料ナマコの品質は乾燥ナマコ等の加工品の品質に大きく影響するが、これは本発明においても同様と考えられる。したがって、ナマコは鮮度が良好なうちに内臓、縦走筋等を除去し、従来の乾燥ナマコ製造工程と同様に水もしくは塩水中で加熱し、放冷後、冷凍したものを一次加工原料(事前煮熟処理済みの収縮ナマコ)とすることが望ましい。この一次加工原料を解凍し、本発明製造方法にしたがってナマコ素材を製造すればよい。
図8は、実施例における加熱温度と加熱時間の関係を示すグラフである。表2に示したナマコ中間素材製造条件例中の値をプロットしたものである。図中、ハッチングした領域以内の温度および時間の条件で加熱することにより、ナマコを適度に膨潤させ、適度な物性を備えたナマコ中間素材を製造することができる。とりわけ70℃付近の温度帯は、最も膨潤率が高く歩留も良好となる。
本発明のナマコ素材製造方法は、簡便で実用性が高いことにより、中小・零細規模の事業者であっても容易に導入でき、本発明のナマコ素材、乾燥ナマコ戻し品様食品を容易に得ることができる。また本発明によれば、中華料理その他で乾燥ナマコを使用する場合に生じる長時間の戻し工程を経ることなく、乾燥ナマコ戻し品と同等の食品・食材を得ることができる。したがって、中華料理店等だけでなく、一般消費者用、家庭用としても実用性が高い。したがって、水産加工業、食品加工業、飲食関連産業など、関連する産業分野において利用性の高い発明である。
本発明の実施には特別な装置も、高度な加工技術も必要なく、恒温運転が可能な煮熟水槽や冷凍設備があればよい。また使用時の労力も、乾燥ナマコと比べて大幅に低減できるため、付加価値の高い商品とすることができる。本発明によれば、塩蔵ナマコへのシフトにより低次化・低収化が懸念されている産地のナマコ加工を高次化し、収益増を図ることができる。つまり、産地における産業振興上も利用性の高い発明である。
1…原料ナマコ
5…収縮ナマコ
15…膨潤ナマコ
30…凍結ナマコ素材
50…水または水溶液
80…容器
100…凍結ナマコ梱包体
P0…事前の煮熟処理過程
P10…加熱処理過程
P20…凍結保存過程

Claims (9)

  1. 事前煮熟処理を経て収縮したナマコを加熱処理過程により膨潤させるナマコ素材製造方法であって、該加熱処理過程では水または水溶液を用いたナマコの煮熟処理がなされ、前記加熱処理過程後は必要に応じて冷凍または冷蔵により保存される、ナマコ素材製造方法。
  2. 前記加熱処理過程では、60℃以上80℃以下で煮熟処理がなされることを特徴とする、請求項1に記載のナマコ素材製造方法。
  3. 前記加熱処理過程では、下記測定条件〔A〕による処理後の破断強度が30g以上80g以下となる程度の温度および処理時間の条件にて煮熟処理がなされることを特徴とする、請求項1または2に記載のナマコ素材製造方法。
    〔A〕測定装置:レオメーター、プランジャー:直径3mmの球形、進入速度:6cm/min
  4. 前記加熱処理過程では、温度および加熱時間を軸とする座標平面上において、加熱条件を示す(温度(℃),加熱時間(時間))が、(60,37)、(70,24)、(80,11)、(80,14)、(70,34)、および(60,40)の各点を順に結んでなる領域以内にあることを特徴とする、請求項1に記載のナマコ素材製造方法。
  5. 前記加熱処理過程を経たナマコを水または水溶液と同梱して冷凍する凍結保存過程を備えることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のナマコ素材製造方法。
  6. 前記凍結保存過程の保存温度は−20℃以下であることを特徴とする、請求項5に記載のナマコ素材製造方法。
  7. 請求項1ないし6のいずれかに記載のナマコ素材製造方法による、乾燥ナマコ戻し品様食品。
  8. 容器中に膨潤したナマコが水または水溶液と同梱されて凍結した状態となっている、ナマコ素材。
  9. 原料ナマコに対する歩留まりが20重量%以上であることを特徴とする、請求項8に記載のナマコ素材。
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