JP2011192320A - 垂直磁気記録媒体 - Google Patents

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敏彰 橘
Masafumi Ishiyama
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Abstract

【課題】 保護層の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもスクラッチ等の諸問題を回避可能な、垂直磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 基体110上に少なくとも、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層122と、磁気記録層より上に設けられた非磁性のバリア層124と、バリア層より上に設けられ基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層126と、補助記録層より上に設けられカーボンを主体とする保護層128と、保護層の上に設けられた潤滑層130と、を備え、保護層は、ラマンスペクトルのDピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関するものである。
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、1枚あたり200GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり400GBを超える情報記録密度を実現することが求められる。
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式の垂直磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
また、このような情報記録密度の増加に伴い、円周方向の線記録密度(BPI:Bit Per Inch)、半径方向のトラック記録密度(TPI:Track Per Inch)のいずれも増加の一途を辿っている。さらに、磁気ディスクの磁性層と、磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を狭くしてS/N比を向上させる技術も検討されている。近年望まれる磁気ヘッドの浮上量は10nm以下である。
このような、磁気的スペーシングを小さくするための1つの技術として、磁気ヘッド素子の動作時に、ヘッド素子を発熱させ、その熱によって磁気ヘッドを熱膨張させ、ABS(The air bearing surface)方向にわずかに突出させるDFH(Dynamic Flying Height)ヘッドが提案されている。これにより、磁気ヘッドと磁気ディスクとの間隙を調節し、常に安定して狭い磁気的スペーシングで磁気ヘッドを飛行させることができる。
垂直磁気記録ディスクでは、磁気ヘッドが垂直磁気記録ディスクに衝突した際、磁気記録層の表面が傷つかないように保護する保護層が設けられる。保護層は、カーボンオーバーコート(COC)、即ち、カーボン皮膜によって高硬度な皮膜を形成する。保護層には、カーボンの硬いダイヤモンドライク結合(アモルファス結合)と、柔らかいグラファイト結合とが混在しているものもある(例えば、特許文献1)。また、ダイヤモンドライク結合保護層を、CVD(Chemical Vapour Deposition)法によって製造する技術も開示されている(例えば、特許文献2)。
また保護層の上には、磁気ヘッドが衝突した際に保護層および磁気ヘッドを保護するために、潤滑層が形成される。潤滑層は、例えばパーフルオロポリエーテルを塗布して焼結することにより形成される。
一方、垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、CoCrPt−SiO垂直磁気記録媒体(非特許文献1参照)が提案されている。これは磁気記録層において、Coのhcp構造(六方最密結晶格子)の結晶が柱状に連続して成長した磁性粒子の間に、SiOが偏析した非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造を構成し、磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上をあわせて図るものである。
ところで磁気記録層に強い磁界を印加すると、隣接トラックへの漏れ磁場も大きくなることから、WATE(Wide Area Track Erasure)、すなわち、書込みの対象となるトラックを中心に数μmにわたって記録情報が消失する現象が問題となる。WATEを低減させる手法として、磁気記録層の逆磁区核形成磁界Hnを負とし、さらにその絶対値を大きくすることが重要である。高い(絶対値の大きい)Hnを得るために、グラニュラー構造を有する磁気記録層の上方又は下方に高い垂直磁気異方性を示す薄膜(補助記録層)を形成することが知られている。
また補助記録層は、飽和磁化Msを向上させることにより、書き込みやすさ、すなわちオーバーライト特性を向上させる役割も有している。言い換えれば、磁気記録層の上に補助記録層を設ける目的は、逆磁区核形成磁界Hnを向上させてノイズを低減し、飽和磁化Msを向上させてオーバーライト特性も向上させることである。なお補助記録層は連続層またはキャップ層とも呼ばれる場合もある。
特開平10−11734号公報 特開2006−114182号公報 T. Oikawa et. al.、 IEEE Trans. Magn、 vol.38、 1976-1978(2002)
上述したような例えば10nm以下の磁気的スペーシングを達成するために、垂直磁気記録ディスクの保護層に対して3nm以下の薄膜化が求められている。しかし、単に保護層を薄膜化すると、保護層自体の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性が劣化することとなる。
従来から保護層の様々な形成方法が知られているが、従来の保護層は十分な耐久性を有していないため、LUL(Load Unload)方式の垂直磁気記録ディスク装置において、磁気記録ヘッドが垂直磁気記録ディスク上にロードされた時の衝撃で、垂直磁気記録ディスク上に微少なスクラッチ等が発生し、再生信号が低下する問題が起こっている。
また、上述したDFHヘッドを用いた場合においても、磁気ヘッドが磁気ディスクに接触したとき、潤滑層の固着力が弱い場合には、潤滑層が磁気ヘッドに移着してしまう場合がある。すると磁気ヘッドが覆われることによってリードライトに不良を生じたり、磁気ヘッドの浮上が不安定となってハイフライライト現象を生じたりするおそれがある。ハイフライライト現象とは、磁気ヘッドが磁気ディスクから離れてしまったことにより書き込んだはずのデータが書き込まれていない現象であり、必ずしもハードウェアは故障していなくても読み出しエラーを生じてしまう。
ここで、CVD法によるカーボン保護層は、基板温度を高くすることによって緻密で硬い被膜を形成できることが知られている。このため、従前の面内記録方式の磁気ディスクにおいては、保護層を成膜する前に加熱するプロセスが採用されている場合が多かった。しかし垂直磁気ディスクにおいては加熱すると保磁力Hcなどの特性が著しく低下してしまうため、加熱プロセスを採用することができず、所望の硬さの保護層を得ることが難しかった。ここで、加熱によって垂直記録方式のどの層が損傷を受けているのかわかっていなかったのが現状である。
本発明は、従来の保護層の構成が有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、保護層の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもスクラッチ等の諸問題を回避可能な、垂直磁気記録媒体およびその製造方法を提供することである。
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、垂直磁気記録媒体の加熱による特性の劣化は、補助記録層のCrの量に依存することがわかった。そして補助記録層のCrが磁気記録層に影響を及ぼしているために特性が劣化していることを突き止め、この影響を排除することで保護層成膜前に加熱しても特性の劣化を防止できることを見出し、さらに研究を重ねることにより、本発明を完成するに到った。
すなわち本発明に係る垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、基体上に少なくとも、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層と、磁気記録層より上に設けられた非磁性のバリア層と、バリア層より上に設けられ基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層と、補助記録層より上に設けられカーボンを主体とする保護層と、保護層の上に設けられた潤滑層と、を備え、保護層は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによって該保護層を励起してラマンスペクトルを測定し、そのラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲の内、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、1350cm−1付近に現れるDピークと1520cm−1付近に現れるGピークとをガウス関数により波形分離したときの、Dピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下であることを特徴とする。
上記のように、磁気記録層と補助記録層の間に非磁性のバリア層を設けることにより、保護層成膜前に加熱しても保磁力Hcが低下することを防止することができる。すなわちバリア層を設ければラマンスペクトルによるピーク比Dh/Ghを0.70〜0.95とすることができ、耐衝撃性や耐摩耗性、耐食性等の耐久性を向上することができる。
磁気記録層および補助記録層は、Crを含有するCo合金であってもよい。かかる構成により、磁気記録層および補助記録層に垂直磁気異方性の高い磁性膜を得ることができる。したがって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性を向上することが可能である。また、磁気記録層の上に補助記録層を備えることにより、垂直磁気記録媒体に更に高熱ゆらぎ耐性を付加することができる。
ここで、バリア層を設けない場合に保護層成膜前に加熱を行うと保磁力が低下してしまうのは、補助記録層に含まれるCrが磁気記録層に拡散し、磁性粒子の結晶配向性が低下してしまうためと考えられる。これに対し上記構成のようにバリア層を設けることにより保持力の低下を低減できるのは、Crの拡散を防止できるためと考えられる。すなわち、バリア層を設けることによって、高熱に加熱しても保磁力を維持しうると共に、上記のように緻密で硬度の高い保護層を成膜することが可能となる。
バリア層は、RuまたはRu合金であってもよい。Ruは磁性粒子を構成するCoと同様の結晶形態(hcp)を有する為、磁性層の間に介在させてもCo結晶粒子のエピタキシャル成長を阻害しにくいためである。
またバリア層は、RuまたはRu合金にW(タングステン)を含有させてもよい。Wを含有させると、特に高温加熱時に保磁力Hcの低下が少ない。これは、Wが高融点材料であるために、加熱しても結晶構成がくずれにくく、補助記録層と磁気記録層の間のCrの拡散を防止できるためと考えられる。
バリア層は、Crを含まないことが好ましい。バリア層にCrを含んでいると、加熱によって保磁力Hcの低下が見られるためである。これは、バリア層のCrが磁気記録層に拡散して結晶配向性に影響を与えるためと考えられる。
保護層は炭素を主成分とする被膜に窒素を含有してなり、該保護層の最表面の窒素と炭素の原子量比(N/C)が0.050以上0.150以下であってもよい。このように窒素と炭素の原子量比(N/C)を0.050〜0.150とすることで、潤滑層の付着率を高めることができ、ハイフライライトの問題や磁気ヘッドとのクラッシュを回避することが可能となる。
また、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、基体上に、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を成膜し、磁気記録層より上に非磁性のバリア層を成膜し、バリア層より上に基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層を成膜し、後に形成される保護層の、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによって該保護層を励起してラマンスペクトルを測定し、そのラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲の内、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、1350cm−1付近に現れるDピークと1520cm−1付近に現れるGピークとをガウス関数により波形分離したときの、Dピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下となるように当該垂直磁気記録媒体を加熱し、保護層をCVD法により成膜することを特徴とする。
上記のように、磁気記録層と補助記録層の間に非磁性のバリア層を設け、保護層成膜前に加熱してから保護層を成膜することにより、高い保持力Hcを維持したまま保護層の耐衝撃性や耐摩耗性、耐食性等の耐久性を向上することができる。
加熱は、250℃以上350℃以下の温度で為されていてもよい。保護層成膜直前に加熱処理した場合、プラズマで分解された炭素原子が高エネルギーを維持したまま基板まで到達できる。この高エネルギーを維持した炭素原子が磁性膜上の基板に成膜されることから、緻密で耐久性のある保護層が成膜できる。また、磁性層を高温で加熱することにより、磁性層と保護層との密着性も向上する。
保護層を成膜した後、さらに、流量が100sccm以上350sccm以下の窒素雰囲気下に曝し、該保護層の表面の窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050〜0.150となるように処理を行ってもよい。流量が100〜350sccmの窒素雰囲気下に曝すことで窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)を0.050〜0.150とすることができ、保護層と潤滑層との密着性と硬度が好適になる。
さらに、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑層を形成してもよい。パーフルオロポリエーテルは、直鎖構造を備え、垂直磁気記録媒体用に適度な潤滑性能を発揮するとともに、末端基に水酸基(OH)を備えることで、保護層に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、保護層の表面に窒素を含有する表面処理層を備える本発明の構成では、(N)と(OH)とが高い親和性を奏するので、高い潤滑層密着率を得ることができる。
本発明によれば、保護層の耐摩耗性や耐衝撃性等の耐久性を向上し、保護層の膜厚が3nm以下に制限されたとしてもスクラッチ等の諸問題を回避可能な、垂直磁気記録媒体およびその製造方法を提供することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(実施形態)
本実施形態では、まず本発明にかかる垂直磁気記録媒体の実施形態について説明した後に、磁気記録層と補助記録層の間に設けたバリア層、および保護層について詳細に説明する。
[垂直磁気記録媒体]
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、バリア層124、補助記録層126、保護層128、潤滑層130で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から補助記録層126まで順次成膜を行い、保護層128はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層130をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成について説明する。
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造を取る合金としてはNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、下層側の第1下地層118aを形成する際にはArのガス圧を所定圧力、すなわち低圧にし、上層側の第2下地層118bを形成する際には、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする、すなわち高圧にする。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
また、ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの平均自由行程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、皮膜が粗になるため、Ruの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、Coの微細化も可能となる。
さらに、下地層118のRuに酸素を微少量含有させてもよい。これによりさらにRuの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、磁気記録層のさらなる孤立化と微細化を図ることができる。なお酸素はリアクティブスパッタによって含有させてもよいが、スパッタリング成膜する際に酸素を含有するターゲットを用いることが好ましい。
非磁性グラニュラー層120はグラニュラー構造を有する非磁性の層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122a(または磁気記録層122)のグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。これにより、磁気記録層122の磁性粒子の孤立化を促進することができる。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。
本実施形態においては、かかる非磁性グラニュラー層120にCoCr−SiOを用いる。これにより、Co系合金(非磁性の結晶粒子)の間にSiO(非磁性物質)が偏析して粒界を形成し、非磁性グラニュラー層120がグラニュラー構造となる。なお、CoCr−SiOは一例であり、これに限定されるものではない。他には、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
なお本実施形態では、下地層1188(第2下地層1188b)の上に非磁性グラニュラー層120を設けているが、これに限定されるものではなく、非磁性グラニュラー層120を設けずに垂直磁気記録媒体100を構成することも可能である。
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有している。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。磁気記録層122は単層でもよいが、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。これにより、第1磁気記録層122aの結晶粒子から継続して第2磁気記録層122bの小さな結晶粒子が成長し、主記録層たる第2磁気記録層122bの微細化を図ることができ、SNRの向上が可能となる。
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−Crを用いる。CoCrPt−Crは、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に、非磁性物質であるCrおよびCr(酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
また第2磁気記録層122bには、CoCrPt−SiO−TiOを用いる。第2磁気記録層122bにおいても、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に非磁性物質であるCrおよびSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。
なお、上記に示した第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bに用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bで異なる材料(ターゲット)であるが、これに限定されず組成や種類が同じ材料であってもよい。非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて1種類の、第2磁気記録層122bにおいて2種類の非磁性物質(酸化物)を用いているが、これに限定されるものではなく、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方において2種類以上の非磁性物質を複合して用いることも可能である。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、本実施形態の如く特にSiOおよびTiOを含むことが好ましい。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO−TiOからなることが好ましい。
バリア層124は、磁気記録層122(第2磁気記録層122b)と補助記録層126との間に設けられた非磁性の層である。本実施形態においてバリア層124は、RuまたはRu合金からなる薄膜である。バリア層124を設けることにより、基体を加熱しても磁気記録層122と補助記録層126との間でのCrの拡散を防止し、保磁力Hcの低下を抑制することができる。すなわち、バリア層124を設けることによって保護層成膜前の加熱を可能とすることができる。
またバリア層124に酸素を含むことにより、多量の酸化物を含む磁気記録層122の上にバリア層124を成膜し、さらにその上に酸素を含まない補助記録層126を成膜した場合の磁気的、構造的な橋渡しとなるため、補助記録層に起因すると考えられるノイズを低減させてSNRの向上を図ることができる。
補助記録層126は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層126は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層126の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層126は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層126は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層126全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層126に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層126の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラ磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラ磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラ磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
保護層128は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。保護層128は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
また保護層128は、保護層成膜前に加熱を行うことにより、Dh/Ghを高めて、緻密で硬い保護層128を形成し、媒体の耐衝撃性や耐摩耗性、耐食性等の耐久性を向上することができる。そして、上記のように磁気記録層122と補助記録層126の間にバリア層124を設けることにより、保磁力Hcを低下させることなく加熱を行うことができるため、保磁力Hcと耐久性を両立させた垂直磁気記録媒体とすることができる。
潤滑層130は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、保護層128表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層130の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、保護層128の損傷や欠損を防止することができる。
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得ることができた。次に、本発明の特徴であるバリア層124と保護層128についてさらに詳述する。
図2は、バリア層を設けない場合における、補助記録層126のCr含有量による保磁力Hcの温度依存を説明する図である。図2では、補助記録層をCoCrPtBとし、Crが17mol%、18mol%、19mol%の場合について、温度を150℃〜400℃まで変化させて保磁力Hcを測定している。図2からわかるように、より高温で加熱するほど、および、より多くのCrを含有するほど、保磁力Hcが低下していることがわかる。これは、磁気記録層122と補助記録層126との間でCrが拡散し、磁気記録層122の結晶配向性を見出すためと考えられる。
これに対し、上述したバリア層124は磁気記録層122と補助記録層126の間に設けた、Ruと酸素を含む非磁性の層である。このようなバリア層124を設けることにより、磁気記録層122と補助記録層126との間でのCrの拡散を防止し、保護層成膜前に基体を加熱しても保磁力Hcの低下を抑制することができる。すなわち、バリア層124を設けることによって保護層成膜前の加熱を可能とすることができる。これにより保護層128のラマンスペクトルによるピーク比Dh/Ghを0.70〜0.95とすることができ、耐衝撃性や耐摩耗性、耐食性等の耐久性を向上することができる。
すなわち本実施形態に係る垂直磁気記録媒体は、基体上に少なくとも、柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層と、磁気記録層より上に設けられた非磁性のバリア層と、バリア層より上に設けられ基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層と、補助記録層より上に設けられカーボンを主体とする保護層と、保護層の上に設けられた潤滑層と、を備え、保護層は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによって該保護層を励起してラマンスペクトルを測定し、そのラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲の内、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、1350cm−1付近に現れるDピークと1520cm−1付近に現れるGピークとをガウス関数により波形分離したときの、Dピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下である。
また逆説的ではあるが、バリア層124を設けることにより、磁気記録層122および補助記録層126がCrを含有するCo合金であっても、加熱による保磁力Hcの低下を防止することができる。これらをCrを含有するCo合金とすることにより、磁気記録層122および補助記録層126に垂直磁気異方性の高い磁性膜を得ることができる。したがって、磁気記録層122の高密度記録性と低ノイズ性を向上することが可能である。また、磁気記録層122の上に補助記録層126を備えることにより、垂直磁気記録媒体100に更に高熱ゆらぎ耐性を付加することができる。
バリア層124は、RuまたはRu合金であってもよい。Ruは磁性粒子を構成するCoと同様の結晶形態(hcp)を有する為、磁気記録層122と補助記録層126の間に介在させてもCo結晶粒子のエピタキシャル成長を阻害しにくいためである。
またバリア層124は、RuまたはRu合金にW(タングステン)を含有させてもよい。Wを含有させると、特に高温加熱時に保磁力Hcの低下が少ない。これは、Wが高融点材料であるために、加熱しても結晶構成がくずれにくく、補助記録層126と磁気記録層122の間のCrの拡散を防止できるためと考えられる。バリア層をRuと酸化物とによって構成する場合、酸化物としては様々なものが考えられるが、特にW、Ti、Ruの酸化物を用いることにより、電磁変換特性(SNR)を向上させることができる。中でも、WOは高い効果を得ることができる。これは、WOが、不安定な酸化物であるので、スパッタ中に酸素が解離され、解離された酸素が、酸素添加の効果も示すためであると考えられる。酸化物の他の例としては、酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
また、上記のバリア層124に酸素を含むことにより、補助記録層に起因すると考えられるノイズを低減させてSNRの向上を図ることができる。これは、補助記録層126が結晶成長する際に磁気記録層122から継承する微細構造を調整できるため、すなわちバリア層124に磁気記録層122に含まれる酸化物よりも少ない割合で酸素を含ませることにより、多量の酸素を含む磁気記録層122の粒界と、酸素を含まない補助記録層126との橋渡しをすることが可能になったためと推察される。バリア層124のうち磁気記録層122の磁性粒子の上に位置する部分は、Ruが磁気記録層122のCoの結晶構造を補助記録層126のCoまで継承させる。バリア層124のうち磁気記録層122の粒界の上に位置する部分は、粒界を形成する酸化物とRuの格子定数が大きく異なることから結晶配向性の継承は存在せず、Ruと酸素原子は自由にマイグレーションを生じながら皮膜(結晶)を形成する。そしてこのRuの結晶の上に補助記録層126が成膜されることにより、補助記録層126のCo粒子は、より分離が促進され、低ノイズ化が達成される。したがって、全体として補助記録層126の結晶配向性が向上する。
バリア層124においてRuに酸素を含有させる場合、ターゲットにあらかじめ酸素を含有させる方法と、スパッタリングの際に雰囲気ガスに酸素を添加するリアクティブスパッタ法がある。中でも、バリア層124をRuと酸化物からなるターゲットを用いてスパッタリングを行う方が、膜全体に均一に酸素を含有させられるために好ましい。
一方、バリア層124は、Crを含まないことが好ましい。バリア層124にCrを含んでいると、加熱によって保磁力Hcの低下が見られるためである。これは、バリア層124のCrが磁気記録層122に拡散して結晶配向性に影響を与えるためと考えられる。
図3はバリア層124の材質を変化させた場合の補助記録層126のCr含有量による保磁力Hcの温度依存を説明する図である。補助記録層126は、いずれもCo61Cr19Pt15としている。図3ではバリア層124の材質について、バリア層なし、Ru、Ru+W、Ru+WO、Ru+Cr、Ru+CrOの場合について、温度を150℃〜400℃まで変化させて保磁力Hcを測定している。
図3からわかるように、バリア層なしの場合に比べて、バリア層124を設けた場合には飛躍的に保磁力Hcを4800[Oe]以上に維持できていることがわかる。なお現状において、垂直磁気記録媒体として成立するためには保磁力Hcが4800[Oe]以上必要であるとされている。これは、磁気記録層122と補助記録層126の間のCrの拡散を防止できたためと考えられる。
しかし、バリア層124を設けた中でも、Ru+CrまたはRu+CrOのようにCrを含むものは、保磁力Hcの低下が大きい。これはバリア層124の中のCrが磁気記録層122に拡散してしまうためと考えられる。
Crを含まないものはいずれも同程度に保磁力Hcを維持できており、400℃に加熱した場合であっても4850[Oe]以上の保磁力を保っている。また、中ではWを含むものが保磁力Hcを高く維持できている。これはWが高融点材料であるために、加熱しても結晶構成がくずれにくく、補助記録層126と磁気記録層122の間のCrの拡散を防止できるためと考えられる。
バリア層124は、膜厚が2Å以上〜10Å以下(0.2nm以上〜1nm以下)であってもよい。このような薄膜とすることによりバリア層124は完全な膜を形成せず、磁気記録層122の結晶粒子から補助記録層126へと続く結晶配向性の継承は阻害されない。バリア層124の膜厚を10Å以上とすると、磁気記録層122と補助記録層126とが磁気的に完全に分断されて、所望の電磁気特性を得られない。一方、膜厚が2Å以下では皮膜を形成できなくなってしまう。
保護層128は炭素を主成分とする被膜に窒素を含有してなり、該保護層128の最表面の窒素と炭素の原子量比(N/C)が0.050以上0.150以下であってもよい。このように窒素と炭素の原子量比(N/C)を0.050〜0.150とすることで、潤滑層130の付着率を高めることができ、ハイフライライトの問題や磁気ヘッドとのクラッシュを回避することが可能となる。
保護層成膜前の加熱は、250℃以上350℃以下の温度で為されていてもよい。保護層成膜直前に加熱処理した場合、プラズマで分解された炭素原子が高エネルギーを維持したまま基板まで到達できる。この高エネルギーを維持した炭素原子が補助記録層126上の基板に成膜されることから、緻密で耐久性のある保護層128が成膜できる。また、補助記録層126を高温で加熱することにより、補助記録層126と保護層128との密着性も向上する。
保護層128を成膜した後、さらに、流量が100sccm以上350sccm以下の窒素雰囲気下に曝し、該保護層128の表面の窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050〜0.150となるように処理を行ってもよい。流量が100〜350sccmの窒素雰囲気下に曝すことで窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)を0.050〜0.150とすることができ、保護層128と潤滑層130との密着性と硬度が好適になる。
さらに、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑層130を形成してもよい。パーフルオロポリエーテルは、直鎖構造を備え、垂直磁気記録媒体用に適度な潤滑性能を発揮するとともに、末端基に水酸基(OH)を備えることで、保護層128に対して高い密着性能を発揮することができる。特に、保護層128の表面に窒素を含有する表面処理層を備える本発明の構成では、(N)と(OH)とが高い親和性を奏するので、高い潤滑層密着率を得ることができる。
(実施例)
図4は、実施例と比較例のパラメータおよび有効性を示した説明図である。ここでは、13の実施例と8の比較例を挙げ、それぞれに対してLUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験を実行し、その有効性を評価している。
まず、実施例1の構成について説明する。
ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から補助記録層126まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoFeTaZrとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。第1下地層118aは所定圧力(低圧:例えば0.6〜0.7Pa)のAr雰囲気下でRu膜を成膜した。第2下地層118bは、酸素が含まれているターゲットを用いて所定圧力より高い圧力(高圧:例えば4.5〜7Pa)のAr雰囲気下で、酸素を含有するRu膜を成膜した。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。第1磁気記録層122aは粒界部に酸化物の例としてCrを含有し、CoCrPt−Crのhcp結晶構造を形成した。第2磁気記録層122bは、粒界部に複合酸化物(複数の種類の酸化物)の例としてSiOとTiOを含有し、CoCrPt−SiO−TiOのhcp結晶構造を形成した。
バリア層124は膜厚を3Åとし、その組成はRu+WOとした。補助記録層126の組成はCoCrPtBとした。
そして、補助記録層126形成後の垂直磁気記録ディスク100表面を加熱した。加熱にはPTCヒーターを用いた。加熱時間は約5秒である。なお、垂直磁気記録ディスク100の基板温度は磁性層成膜直後にチャンバーの窓より放射温度計を用いて確認した。
保護層128はCVD法によりCおよびCNを用いて成膜し、潤滑層130はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
また、磁気記録層122まで形成したディスク上に、エチレンガス250sccmを導入し、真空度を1Paの圧力下で、バイアスを−300Vと−400Vに切り換えて印加させながらプラズマCVD法で保護層128を形成した。保護層128形成時の成膜速度は1nm/secであった。
さらに、保護層128を形成後、プラズマ中に窒素ガスのみを250sccm導入して3Paの真空度に調整した圧力下で保護層128を窒素雰囲気下に曝した。こうして、保護層128の表面に窒素を含浸させる処理が行われた。
保護層128まで成膜した後、当該保護層128の膜厚を、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定した。すると、保護層128の膜厚は3.0nmであった。
また、保護層128を形成後、ESCAにて保護層128の窒素/炭素の原子量比(N/C)を確認したところ、その値は0.107であった。かかるESCA分析の測定条件は以下の通りである。
装置: アルバックファイ社製 Quantum2000
X線励起源: Al−Kα線(1486.6eV)
X線源 20W
分析室真空度 <2×10−7 Pa
パスエネルギー 117.5eV
光電子検出角 45°
測定対象ピーク C1s、N1s
分析領域100umφ
積算回数10回
また、保護層128を形成後、ラマン分光分析を行なったところ、Dh/Ghは0.80であった。
なお、ラマン分光分析は、保護層128の表面に、波長が514.5nmのArイオンレーザーを照射し、900cm−1〜1800cm−1の波数帯に表れるラマン散乱によるラマンスペクトルを観察することで為された。
図5は、ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。ここでは、ラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲内において、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、DピークとGピークのピーク高さの比をDh/Ghとして求めた。
ラマン分光分析は通常、潤滑層130塗布前に行うが、潤滑剤塗布後に測定しても構わない。潤滑剤塗布前後でラマン分光分析を行ったところ、Dh/Gh値は前後どちらにおいても全く同じ値を示しており、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑層のラマン分光分析への影響はないことが明らかとなった。
保護層128を形成後、70℃の純水中で400秒間浸漬洗浄を行い、その後、更にIPAにて400秒洗浄し、仕上げ乾燥としてIPAベーパーにて乾燥を行った。
次に、超純水及びIPA洗浄後の保護層128の上に、デップ法を用いてPFPE(パーフルオロポリエーテル)化合物からなる潤滑層130を形成した。具体的には、アウジモント社製のアルコール変性フォンプリンゼット誘導体を用いた。この化合物はPFPEの主鎖の両末端にそれぞれ1個〜2個、即ち、1分子当たり2個〜4個の水酸基を末端基に備えている。潤滑層130の膜厚は1.4nmであった。
以上のように、生成された垂直磁気記録ディスク100について、表面粗さをAFMで観察したところ、Rmaxが2.30nm、Raが0.22nmの平滑な表面であることを確認した。また、グライドハイトを測定したところ3.2nmであった。磁気ヘッドの浮上量を安定的に10nm以下とする場合、垂直磁気記録ディスク100のグライドハイトは4.0nm以下とすることが望ましい。
このようにして得られた垂直磁気記録ディスク100の各種性能を以下のようにして評価分析した。
(LUL耐久性試験)
LUL耐久性試験は、5400rpmで回転する2.5インチ型HDDと、浮上量が10nmの磁気ヘッドを用いて行なった。なお、磁気ヘッドのスライダはNPAB(負圧型)スライダを用い、再生素子はDFH機構を搭載したTMR型素子を用いた。垂直磁気記録ディスク100をこのHDDに搭載し、上述の磁気ヘッドによりLUL動作を連続して行なった。
そして、HDDが故障することなく耐久したLUL回数を測定することにより、垂直磁気記録ディスク100のLUL耐久性を評価した。また、試験環境は70℃/80%RHの環境下で行った。これは通常のHDD運転環境よりも、過酷な条件であり、カーナビゲーション等の用途に使用されるHDDを想定した環境下で行うことにより、垂直磁気記録ディスク100の耐久信頼性をより的確に判断するためである。
かかるLUL耐久性試験において、実施例1〜13の垂直磁気記録ディスク100は、その故障を生じることなくLUL回数が100万回を超えた。通常、LUL耐久性試験では、故障無くLUL回数が連続して40万回を超えることが必要とされている。かかるLUL回数40万回は、通常のHDDの使用環境における10年程度の利用に匹敵する。
(ピンオンディスク試験)
ピンオンディスク試験は次のようにして行った。即ち、保護層128の耐久性及び耐磨耗性を評価するために、Al−TiCからなる直径2mmの球を15g荷重で垂直磁気記録媒体の半径22mm位置の当該保護層128上に押し付けながら、この垂直磁気記録ディスク100を回転させることにより、Al−TiC球と保護層128とを2m/secの速度で相対的に回転摺動させ、この摺動により保護層128が破壊に至るまでの摺動回数を測定した。
このピンオンディスク試験では、保護層128が破壊に至るまでの摺動回数が300回以上であれば合格とする。なお、通常磁気記録ヘッドは垂直磁気記録ディスク100に接触しないので、このピンオン試験は、実際の使用環境に比べて過酷な環境での耐久試験である。例えば、実施例1の垂直磁気記録ディスク100は、摺動回数が501回となり、他の実施例においても軒並み、300回を超える値となった。
(ハイフライライト試験)
ハイフライライト試験は次のようにして行った。5400rpmで回転する2.5インチ型HDDと、浮上量が10nmの磁気ヘッドを用いる。また、磁気ヘッドのスライダはNPAB(負圧型)スライダを用い、再生素子はDFH機構を搭載したTMR型素子を用いた。垂直磁気記録ディスク100をこのHDDに搭載し、DFH機構を動作させ、ヘッド素子を発熱させた。その熱によって磁気ヘッドが熱膨張し、ABS方向に2nm突出させた状態にして、その状態で記録再生を1000時間行い、エラー障害発生の有無を調べた。その結果、実施例1〜13における1000時間の記録再生において、エラーは発生しなかった。
上述した実施例と同様に比較例にも、それぞれ、LUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験を実行した。
例えば、比較例1では、保護層128に曝す窒素ガスを90sccmとしたこと以外は、実施例1と同様に垂直磁気記録ディスクを形成した。しかし、窒素導入量が少なすぎたため、ハイフライライト試験において12時間後に記録再生できない障害が発生した。
また、比較例2では、360sccmの窒素ガスに曝しているので、窒素導入量が多すぎ、ピンオン試験ディスク試験にて規格の300回に到達せず、さらにLUL試験にて垂直磁気記録ディスクにスクラッチが生じ30万回でクラッシュした。その他の比較例においても実施例と1または複数のパラメータを相違させ、所定範囲外とすることで、上記LUL耐久性試験、ピンオンディスク試験、ハイフライライト試験の1または複数の合格値を満たさないことが理解できる。
図6は、実施例と比較例とのN/CおよびDh/Ghをプロットしたプロット図である。図中実線の四角で示された、N/C=0.050〜0.150およびDh/Gh=0.70〜0.95の範囲内における実施例と、範囲外の比較例とを参照して分かるように、本実施形態における垂直磁気記録ディスク100は、DFHヘッドにも適用可能であり、かつ、3nm以下の保護層膜厚であっても、ハイフライライト障害を回避でき、さらに耐摩耗性、摺動特性に好適である。また、本実施形態の垂直磁気記録ディスク100は、LUL方式のHDDにも適用できることは言うまでもない。
上記説明した如く、本発明によれば、補助記録層に起因すると考えられるノイズを低減させてSNRの向上を図ることができる。これにより、垂直磁気記録媒体100の更なる高記録密度化を達成することが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。 バリア層を設けない場合における、補助記録層のCr含有量による保磁力Hcの温度依存を説明する図である。 バリア層の材質を変化させた場合の補助記録層のCr含有量による保磁力Hcの温度依存を説明する図である。 実施例と比較例のパラメータおよび有効性を示した説明図である。 ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。 実施例と比較例とのN/CおよびDh/Ghをプロットしたプロット図である。
符号の説明
100…垂直磁気記録媒体、110…ディスク基体、112…付着層、114…軟磁性層、114a…第1軟磁性層、114b…スペーサ層、114c…第2軟磁性層、116…前下地層、118…下地層、118a…第1下地層、118b…第2下地層、120…非磁性グラニュラー層、122…磁気記録層、122a…第1磁気記録層、122b…第2磁気記録層、124…バリア層、126…補助記録層、128…保護層、130…潤滑層

Claims (9)

  1. 基体上に少なくとも、
    柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層と、
    前記磁気記録層より上に設けられた非磁性のバリア層と、
    前記バリア層より上に設けられ基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層と、
    前記補助記録層より上に設けられカーボンを主体とする保護層と、
    前記保護層の上に設けられた潤滑層と、を備え、
    前記保護層は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによって該保護層を励起してラマンスペクトルを測定し、そのラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲の内、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、1350cm−1付近に現れるDピークと1520cm−1付近に現れるGピークとをガウス関数により波形分離したときの、Dピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下であることを特徴とする垂直磁気ディスク。
  2. 前記磁気記録層および前記補助記録層は、Crを含有するCo合金であることを特徴とする、請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
  3. 前記バリア層は、RuまたはRu合金であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
  4. 前記バリア層は、Crを含まないことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
  5. 前記保護層は炭素を主成分とする被膜に窒素を含有してなり、該保護層の最表面の窒素と炭素の原子量比(N/C)が0.050以上0.150以下であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気ディスク。
  6. 基体上に、
    柱状に成長した結晶粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を成膜し、
    前記磁気記録層より上に非磁性のバリア層を成膜し、
    前記バリア層より上に基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した補助記録層を成膜し、
    後に形成される保護層の、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザーによって該保護層を励起してラマンスペクトルを測定し、そのラマンスペクトルの波数900cm−1から1800cm−1の範囲の内、蛍光によるバックグランドを直線近似で補正し、1350cm−1付近に現れるDピークと1520cm−1付近に現れるGピークとをガウス関数により波形分離したときの、Dピークの高さ(Dh)とGピークの高さ(Gh)の比(Dh/Gh)が0.70以上0.95以下となるように当該垂直磁気記録媒体を加熱し、
    前記保護層をCVD法により成膜することを特徴とする、垂直磁気記録媒体の製造方法。
  7. 前記加熱は、250℃以上350℃以下の温度で為されることを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
  8. 前記保護層を成膜した後、さらに、流量が100sccm以上350sccm以下の窒素雰囲気下に曝し、該保護層の表面の窒素(N)と炭素(C)の原子量比(N/C)が0.050〜0.150となるように処理を行うことを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
  9. さらに、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を含有する潤滑層を形成することを特徴とする、請求項6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
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