上記の如く高記録密度化している磁気記録媒体であるが、今後さらなる記録密度の向上が要請されている。高記録密度化のために重要な要素としては、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnなどの静磁気特性の向上と、オーバーライト特性(OW特性)やSNRなどの電磁変換特性の向上、トラック幅の狭小化など様々なものがある。その中でもSNRの向上は、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。
SNRの向上は、主に磁気記録層の磁化遷移領域ノイズの低減により行われる。ノイズ低減のために有効な要素としては、磁気記録層の結晶配向性の向上、磁性粒子の粒径の微細化、および磁性粒子の孤立化が挙げられる。中でも、磁性粒子の孤立化が促進されるとその交換相互作用が遮断されるため、ノイズを大幅に低減することができ、SNRを著しく向上させることが可能となる。
したがって、SNRを向上するために、上述した特許文献2および3のように磁気記録媒体への下地層の導入や改良が従来から行われてきた。特にチャンバー内の雰囲気ガスの圧力を従来よりも高く設定した状態で下地層を成膜する手法により、成膜速度を低下させ皮膜に微細な空孔を形成することで、下地層におけるルテニウム(以下「Ru」と称する。)の結晶粒子の微細化および孤立化を図り、下地層上に成膜される磁気記録層の磁性粒子の微細化および孤立化を促進していた。
しかし、皮膜に空孔が存在することにより、皮膜は粗な状態となる。その結果、皮膜強度が低下してしまい、磁気ヘッドとの接触による損傷や欠損が生じやすくなり、磁気記録媒体の信頼性低下を招いていた。
しかしながら、信頼性を向上するために皮膜を高密度化すると、下地層のRuの結晶粒子の孤立化が阻害されるため、磁気記録層の磁性粒子の孤立化を図ることができず、SNRが低下してしまう。したがって、現状では磁気記録媒体におけるSNRと信頼性はトレードオフの関係にあり、両性能を共に高めることは困難であった。このため、高いSNRを確保しつつ信頼性を向上する手法の確立が課題となっていた。
本発明は、このような課題に鑑み、下地層の皮膜の強度を高めることで信頼性を向上しつつ、高いSNRを確保することが可能な垂直磁気記録媒体および垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
上述したように、成膜速度を調節すると、スパッタによる飛散粒子の運動エネルギーが変化し、堆積した膜の状態が変化することは明らかである。すなわち、下地層の成膜速度を速くすると、ディスク基体上に堆積した原子がその上を不規則に移動するマイグレーションが促進され皮膜が密な状態(高密度)となる。しかし、皮膜を高密度とすることにより、結晶粒子の孤立化が阻害されてしまう。逆に成膜速度を遅くすると、皮膜を粗な状態とし、結晶粒子の孤立化を促進できるが、磁気記録媒体の信頼性が低下してしまう。
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、下地層の膜構成に着目した。すなわち、従来は一定の速度で成膜していた下地層を、成膜速度を変化させながら成膜することで、1つの下地層を、状態の異なる2つの皮膜から構成することが可能であると考えた。そして、さらに研究を重ねることにより、その成膜速度を調節することで2つの皮膜の状態を最適化することができ、下地層上に成膜する磁気記録層の高SNRを確保しつつ、当該垂直磁気記録媒体の信頼性を向上するという課題の解決に有効であることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の代表的な構成は、ディスク基体上に少なくとも、ルテニウムからなる下地層と、Co系合金からなり結晶粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を有するグラニュラー層を備える垂直磁気記録媒体において、下地層は、ディスク基体に成膜速度を、低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて成膜したことを特徴とする。
下地層成膜時の成膜速度を低速度とすることで、成膜後の皮膜(下地層)は、従来の成膜速度(以下「中速度」と称する。)で成膜した皮膜よりも密度が低い(以下「低密度」と称する。)皮膜となり、従来の皮膜よりも結晶粒子の孤立化が促進された皮膜となる。したがって、かかる低密度の皮膜を下地層に設けることにより、当該下地層上に成膜されるグラニュラー層の結晶粒子の孤立化を促進し、高SNRの維持が可能となる。
また下地層成膜時の成膜速度を高速度とすることで、成膜後の皮膜の密度は、従来の成膜速度(中速度)で成膜した皮膜よりも密度が高い(以下「高密度」と称する。)皮膜となり、従来の成膜速度(中速度)で成膜した皮膜(以下、「中密度の皮膜」と称する。)よりも皮膜強度が向上した皮膜となる。したがって、下地層にかかる高密度の皮膜を設けることにより、磁気記録媒体の信頼性を向上することができる。
故に上記構成によれば、下地層の成膜時に成膜速度を低速度から高速度で変化させた場合には、ディスク基体側に低密度の皮膜が、その上に高密度の皮膜が形成される。また、成膜速度を高速度から低速度で変化させた場合には、ディスク基体側に高密度の皮膜が、その上に低密度の皮膜が形成される。したがって、いずれの場合においても下地層は、低密度の皮膜および高密度の皮膜で構成されることとなる。これにより、下地層に、低密度の皮膜を設けることで高SNRを確保し、高密度の皮膜を設けることで当該垂直磁気記録媒体の信頼性を向上することができ、当該垂直磁気記録媒体を、高SNRが確保されつつ信頼性が向上した垂直磁気記録媒体とすることが可能となる。
なお上述の如く、下地層における低密度および高密度の皮膜の上下の位置関係は限定されない。これは、高SNRを確保しつつ信頼性を向上するという本発明の課題を解決するためには、下地層が低密度の皮膜および高密度の皮膜からなる2層構成であることが重要であり、その上下の位置関係、すなわち低密度の皮膜および高密度の皮膜の成膜順序は本発明の課題を解決するための要素ではないからである。
また、下地層を高密度の皮膜または低密度の皮膜のどちらか一方のみで構成するのは好ましくない。例えば、下地層を高密度の皮膜のみで構成した場合、皮膜強度が向上するため、信頼性が著しく増大する。しかし、下地層の結晶粒子の孤立化が阻害されてしまい、その上に成膜されるグラニュラー層の結晶粒子の孤立化に悪影響を与え、SNRが低下してしまう。また、下地層を低密度の皮膜のみで構成した場合、下地層のRuの結晶粒子の孤立化は促進されているため、その上に成膜されるグラニュラー層の結晶粒子の孤立化は促進され、高SNRは確保される。しかし、低密度の皮膜は従来の皮膜よりも祖な状態のため、当該垂直磁気記録媒体の信頼性を向上させることができない。したがって、高SNRを確保しつつ信頼性を向上するためには、上記構成の如く下地層を高密度の皮膜および低密度の皮膜の2層で構成するべきである。
なお、下地層成膜時の成膜速度を変化させるための手法としては、成膜時の基板に印加する電圧であるバイアス電圧の調整、成膜時のターゲットに印加する電圧である成膜パワーの調整、成膜時のチャンバー内の雰囲気ガスの圧力の調整等を例示することができる。これらの群から1または複数を選択し、下地層の成膜時にこれらを調整することにより、成膜速度を所望の速度に変化させることが可能となる。
上記のバイアス電圧により成膜速度を変化させる場合、バイアス電圧を高くすることにより成膜速度を高速度に、バイアス電圧を低くすることにより成膜速度を低速度にすることができる。また成膜パワーにより成膜速度を変化させる場合、成膜パワーを高パワーとすることにより成膜速度を高速度に、成膜パワーを低パワーとすることにより成膜速度を低速度にすることができる。雰囲気ガスの圧力により成膜速度を変化させる場合、雰囲気ガスの圧力を高ガス圧とすることにより成膜速度を低速度に、雰囲気ガスの圧力を低ガス圧とすることにより成膜速度を高速度にすることができる。したがって、これらの手法により成膜速度を変化させ、成膜速度を高速度とすることで高密度の皮膜を、成膜速度を低速度とすることで低密度の皮膜を得ることができる。
上記の低速度の範囲は0.5〜2.0nm/secであり、高速度の範囲は4.0〜6.0nm/secであるとよい。成膜速度の低速度および高速度の値をかかる範囲内とすることで、上述した効果を最も効率的に得ることができる。
上記下地層は、スパッタリングによるルテニウム膜成膜時のガス圧が相異なる第1下地層および第2下地層でこの順に構成され、少なくとも第2下地層は、ディスク基体に成膜速度を、低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて成膜するとよい。
下地層が2層で構成される場合、グラニュラー層の直下に存在するのは第2下地層となる。したがって、上記構成によれば、グラニュラー層の直下に存在する第2下地層のRuの結晶粒子の孤立化を維持し、グラニュラー層の結晶粒子の孤立化を促進しつつ、皮膜強度を向上させることができ、上述した利点を最も効率的に得ることが可能となる。
また下地層を上記のような第1下地層および第2下地層の2層で構成することで、従来から知られているように、第1下地層においては低ガス圧によってRuの結晶配向性を向上し、第2下地層においては高ガス圧によってRuの結晶の微細化を図ることができる。したがって、相乗効果によりグラニュラー層の結晶粒子の微細化と孤立化を促進することができる。
上記の第1下地層成膜時のガス圧の範囲は0.6〜0.7Paであり、第2下地層成膜時のガス圧の範囲は4.5〜7.0Paであるとよい。第1下地層成膜時および第2下地層成膜時のガス圧をかかる範囲内とすることで、第1下地層および第2下地層の2層で構成される下地層の利点を最も効率的に得ることができる。
上記のグラニュラー層は、非磁性グラニュラー層または磁気記録層であるとよい。
非磁性グラニュラー層および磁気記録層は、Co系合金からなり結晶粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を有する層、すなわちグラニュラー層である。故に、非磁性グラニュラー層および磁気記録層は、下地層上に成膜される層である。したがって、下地層を上述の如く成膜することで、下地層の結晶粒子の孤立化の維持により、下地層上に成膜される非磁性グラニュラー層の結晶粒子または磁気記録層の磁性粒子の孤立化を促進することが可能となり、高SNRを確保することができる。
なお、グラニュラー層を磁気記録層とした場合、下地層の結晶粒子の孤立化の影響を受けるのは磁気記録層となる。したがって、かかる場合では、下地層の結晶粒子の孤立化を維持することで、磁気記録層の結晶粒子(磁性粒子)の孤立化を直接的に促進し、且つ下地層の強度を向上することができる。また、グラニュラー層を非磁性グラニュラー層とした場合、下地層の結晶粒子の孤立化の影響を受けるのは非磁性グラニュラー層となる。したがって、かかる場合では、下地層の結晶粒子の孤立化を維持することで、非磁性グラニュラー層の結晶粒子の孤立化が促進され、その結晶粒子の上に磁気記録層の結晶粒子(磁性粒子)が成長するため、磁気記録層の結晶粒子の孤立化を間接的に促進し、且つ下地層の強度を向上することができる。したがって、いずれにおいても磁気記録媒体の高SNRを確保し、且つ信頼性を向上することが可能となる。
上記課題を解決するために、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法の代表的な構成は、ディスク基体上にルテニウムを所定圧力の雰囲気ガス下でスパッタリングする第1下地層成膜工程と、第1下地層の上にルテニウムを所定圧力より高圧の雰囲気ガス下でスパッタリングする第2下地層成膜工程と、第2下地層の上にCo系合金からなり結晶粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を有するグラニュラー層を形成するグラニュラー層成膜工程とを含み、第2下地層の成膜時に、ディスク基体に成膜速度を低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて成膜することを特徴とする。
上述した、垂直磁気記録媒体の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該垂直磁気記録媒体の製造方法にも適用可能である。
本発明によれば、下地層の皮膜の強度を高めることで信頼性を向上しつつ、高いSNRを確保することが可能な垂直磁気記録媒体および垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(実施形態)
本実施形態では、まず本発明にかかる垂直磁気記録媒体およびその製造方法の実施形態について説明した後に、本発明の特徴である下地層における膜構成について詳細に説明する。
[垂直磁気記録媒体およびその製造方法]
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、補助記録層124、媒体保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行い、媒体保護層126はCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成および製造方法について説明する。
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
前下地層116は非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造としてはNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、下層側の第1下地層118aを形成する際にはArのガス圧を所定圧力、すなわち低圧にし、上層側の第2下地層118bを形成する際には、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする、すなわち高圧にする。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
また、ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの平均自由行程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、皮膜が粗になるため、Ruの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、Coの結晶粒子の微細化も可能となる。
なおかかるガス圧の範囲は、第1下地層118a成膜時は0.6〜0.7Pa、第2下地層118b成膜時は4.5〜7.0Paとするとよい。これにより、第1下地層118aおよび第2下地層118bの2層で構成される下地層118の利点を最も効率的に得ることができるからである。
更に本実施形態においては、第2下地層118b成膜時に、成膜速度を低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させる。かかる低速度の範囲は0.5〜2.0nm/secであり、高速度の範囲は4.0〜6.0nm/secである。これにより、第2下地層118bを低密度の皮膜および高密度の皮膜からなる2層の皮膜で構成することができる。したがって、低密度の皮膜により高SNRの維持を、高密度の皮膜により当該垂直磁気記録媒体100の信頼性の向上を図ることができ、高SNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能となる。
なお、上記のように成膜速度を変化させるために、本実施形態においては、第2下地層118b成膜時にターゲットに印加する電圧である成膜パワーを調整した。かかる成膜パワーの範囲については、用いるスパッタリング装置により異なるため、成膜速度が上記の範囲内になるよう、スパッタリング装置ごとに適した範囲にするとよい。
また、本実施形態では上述した如く成膜パワーを調整することによって成膜速度を変化させたが、これに限定されるものではなく、成膜時の基板に印加する電圧であるバイアス電圧の調整、成膜時のチャンバー内の雰囲気ガスの圧力の調整等によっても成膜速度を所望の速度に変化させることが可能である。
非磁性グラニュラー層120はグラニュラー構造を有する非磁性の層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122a(または磁気記録層122)のグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。これにより、磁気記録層122の磁性粒子の孤立化を促進することができる。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。
本実施形態においては、かかる非磁性グラニュラー層120にCoCr−SiO2を用いる。これにより、Co系合金(非磁性の結晶粒子)の間にSiO2(非磁性物質)が偏析して粒界を形成し、非磁性グラニュラー層120がグラニュラー構造となる。なお、CoCr−SiO2は一例であり、これに限定されるものではない。他には、CoCrRu−SiO2を好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒子(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒子の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO2、Cr2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコン(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)を例示できる。
なお本実施形態では、下地層188(第2下地層188b)の上に非磁性グラニュラー層120を設けているが、これに限定されるものではなく、非磁性グラニュラー層120を設けずに垂直磁気記録媒体100を構成することも可能である。
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒子の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有している。この磁性粒子は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。磁気記録層122は単層でもよいが、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。これにより、第1磁気記録層122aの結晶粒子から継続して第2磁気記録層122bの小さな結晶粒子が成長し、主記録層たる第2磁気記録層122bの微細化を図ることができ、SNRの向上が可能となる。
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−Cr2O3を用いる。CoCrPt−Cr2O3は、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に、非磁性物質であるCrおよびCr2O3(酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。この磁性粒子は、非磁性グラニュラー層120のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
また第2磁気記録層122bには、CoCrPt−SiO2−TiO2を用いる。第2磁気記録層122bにおいても、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に非磁性物質であるCrおよびSiO2、TiO2(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。
なお、上記に示した第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122bに用いた物質は一例であり、これに限定されるものではない。また、本実施形態では、第1磁気記録層22aと第2磁気記録層22bで異なる材料(ターゲット)であるが、これに限定されず組成や種類が同じ材料であってもよい。非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrXOY)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコン(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化ボロン(B2O3)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B4C3等の炭化物も好適に用いることができる。
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて1種類の、第2磁気記録層122bにおいて2種類の非磁性物質(酸化物)を用いているが、これに限定されるものではなく、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方において2種類以上の非磁性物質を複合して用いることも可能である。このとき含有する非磁性物質の種類には限定がないが、本実施形態の如く特にSiO2およびTiO2を含むことが好ましい。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO2−TiO2からなることが好ましい。
なお、上記に説明したように、非磁性グラニュラー層120および磁気記録層122は、Co系合金からなり結晶粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を有する層である。したがって、本発明が示すグラニュラー層とは、かかる非磁性グラニュラー層120および磁気記録層122であることは言うまでもない。故に、垂直磁気記録媒体100が非磁性グラニュラー層120を備える場合には非磁性グラニュラー層120を成膜する工程が、非磁性グラニュラー層120を備えない場合には磁気記録層122を成膜する工程が、本発明におけるグラニュラー層成膜工程である。
補助記録層124は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層124は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層124の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層124は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層124は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層124は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層124全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層124に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層124の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラー磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラー磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラー磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
媒体保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。媒体保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得ることができた。次に、本発明の特徴である下地層118における膜構成について説明する。
[下地層118における膜構成]
既に述べたように、本実施形態において、下地層118は第1下地層118aおよび第2下地層118bの2層から構成されており、Co系合金からなり結晶粒子が柱状に成長したグラニュラー構造を有する層は、非磁性グラニュラー層120、および磁気記録層122(第1磁気記録層122aおよび第2磁気記録層122b)である。かかるグラニュラー構造を有する層の中でも、下地層118(第2下地層118b)上に設けられている層は非磁性グラニュラー層120であることから、本実施形態におけるグラニュラー層は非磁性グラニュラー層120となる。したがって、以下の説明では、グラニュラー層として非磁性グラニュラー層120を例に挙げて説明する。
上記の垂直磁気記録媒体100の製造方法において述べたように、本実施形態において下地層118は第1下地層118aおよび第2下地層118bの2層から構成されており、下層側の第1下地層118aは、Ruを所定圧力(低ガス圧)の雰囲気ガス下でスパッタリングして成膜され(第1下地層成膜工程)、上層側の第2下地層118bは、第1下地層の上にRuを所定圧力より高圧(高ガス圧)の雰囲気ガス下でスパッタリング成膜される(第2下地層成膜工程)。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化の促進という利点を得ることができる。
なお、上記の第1下地層118a成膜時のガス圧(低ガス圧)の範囲は0.6〜0.7Pa、第2下地層118b成膜時のガス圧(高ガス圧)の範囲は4.5〜7.0Paとするとよい。これにより、上記の利点を最も効率的に得ることが可能となる。
更に本実施形態では、下地層118の成膜時にディスク基体110に成膜速度を、低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて印加する。なお、低速度の範囲は0.5〜2.0nm/secとし、高速度の範囲は4.0〜6.0nm/secとするとよい。このような成膜速度を変化させる、すなわち本実施形態においては成膜パワーを変化させる成膜工程を、本実施形態の如く第2下地層118bを成膜する工程のみにおいて行ってもよいし、第1下地層118aおよび第2下地層118bの両方を成膜する工程において行ってもよい。また、2段または多段で成膜パワーを切り替えてもよいし、徐々に成膜パワーを変化させてもよい。
下地層118を低速度(遅い成膜速度)で成膜した場合、すなわち低い成膜パワー(低パワー)において成膜した場合、成膜後の皮膜は、低密度(従来の中速度で成膜した中密度の皮膜よりも低い密度)の皮膜となり、Ruの結晶粒子の孤立化が促進される。したがって、下地層118にかかる皮膜を設けることで、当該下地層118上に成膜されるグラニュラー層(本実施形態においては非磁性グラニュラー層120)の結晶粒子の孤立化を促進し、高SNRの維持が可能となる。また、下地層118を高速度(速い成膜速度)で成膜した場合、すなわち高い成膜パワー(高パワー)において成膜した場合、成膜後の皮膜は、高密度(従来の中速度で成膜した中密度の皮膜よりも高い密度)の皮膜となり、皮膜強度が著しく向上する。故に、下地層118にかかる皮膜を設けることで垂直磁気記録媒体100の信頼性を向上することができる。
したがって、成膜速度を低速度から高速度で変化させた場合には、下地層118は、ディスク基体110側の低密度の皮膜、およびその上の高密度の皮膜からなる2層の皮膜で構成され、高速度から低速度で変化させた場合には、下地層118は、ディスク基体110側の高密度の皮膜、およびその上の低密度の皮膜からなる2層の皮膜で構成されることとなる。すなわち、いずれの場合においても下地層118は、低密度の皮膜および高密度の皮膜で構成される。これにより、下地層118の、低密度の皮膜による高SNRの維持、高密度の皮膜による当該垂直磁気記録媒体100の信頼性の向上を図ることができ、従来ではトレードオフの関係であった両性能を共に高めることが可能となる。
上記の高SNRの維持は、本実施形態の如く下地層118上のグラニュラー層が非磁性グラニュラー層120であった場合には、下地層118の結晶粒子の孤立化を維持することで、その影響を受け非磁性グラニュラー層120の結晶粒子の孤立化が促進される。そして、非磁性グラニュラー層120の結晶粒子の上に磁気記録層122の結晶粒子が成長するため、磁気記録層122の結晶粒子の孤立化を間接的に促進し、且つ下地層118の強度を向上することができる。なお、本実施形態とは異なり、垂直磁気記録媒体100が非磁性グラニュラー層120を備えない場合、下地層118上のグラニュラー層は磁気記録層122となる。この場合、下地層118の結晶粒子の孤立化を維持することで、その影響により磁気記録層122の結晶粒子の孤立化を直接的に促進し、且つ下地層118の強度を向上することができる。したがって、いずれにおいても垂直磁気記録媒体100の高SNRの確保および信頼性の向上が可能となる。
更に、本実施形態の如く下地層118が第1下地層118aおよび第2下地層118bから構成される場合には、少なくとも第2下地層118bは、ディスク基体110に成膜速度を低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて成膜するとよい。これにより、第2下地層118bを低密度の皮膜および高密度の皮膜の2層構成とし、第2下地層118bの結晶粒子を孤立化させた状態とし且つ皮膜強度を向上することができる。したがって、高SNRを確保しつつ信頼性を向上することが可能となる。
なお、少なくとも第2下地層118bの成膜時に成膜速度を変化させるとしたのは、グラニュラー層(本実施形態においては非磁性グラニュラー層120)の直下に存在する第2下地層118bの結晶粒子が孤立化した状態を維持することが、グラニュラー層の結晶粒子の孤立化に効果的だからである。例えば、第1下地層118aのみを成膜速度を変化させて成膜した場合、第1下地層118aとグラニュラー層の間に第2下地層118bが存在するため、第1下地層118aの結晶粒子の孤立化がグラニュラー層の結晶粒子の孤立化に与える作用は低減してしまう。
また、第1下地層118aのみを成膜速度を変化させて成膜することで第1下地層118aの強度を上げることができたとしても、第1下地層118a上に存在する第2下地層118bを防護することはできないが、第2下地層118bの強度を向上すれば、その直下の第1下地層118aを防護することができるため、信頼性向上の観点からも、少なくとも第2下地層118b成膜時に成膜速度を変化させることが適切である。
したがって、下地層118が第1下地層118aおよび第2下地層118bから構成される場合には、少なくとも第2下地層118bを成膜する際に成膜速度を変化させることで、第2下地層118bの結晶粒子が孤立化した状態を維持しつつ、その皮膜強度を向上することができ、垂直磁気記録媒体100の高SNRの維持および信頼性の向上の両方において有効である。しかし、これに限定されるものではなく、第1下地層118aおよび第2下地層118bの両層の成膜時に成膜速度を変化させてもよい。
なお、上述した如く下地層118における低密度の皮膜および高密度の皮膜の成膜順序、すなわち上下の位置関係は限定されない。これは、下地層118が低密度の皮膜および高密度の皮膜からなる2層構成であれば、高SNRを確保しつつ信頼性を向上するという課題を解決できるからである。
また、下地層118を高密度の皮膜または低密度の皮膜のどちらか一方でのみで構成するのは好ましくない。下地層118を高密度の皮膜のみで構成すると、皮膜強度の向上により信頼性が著しく増大するが、下地層118の結晶粒子の孤立化の阻害により、その上に成膜されるグラニュラー層(本実施形態においては非磁性グラニュラー層120)の結晶粒子の孤立化に悪影響を与え、SNRが低下してしまう。下地層118を低密度の皮膜のみで構成すると、下地層118の結晶粒子の孤立化の維持により、その上に成膜されるグラニュラー層の結晶粒子の孤立化も促進され、高SNRは確保されるが、皮膜強度の不足により信頼性の確保がなされない。したがって、高SNRを確保しつつ信頼性を向上するためには、上記構成の如く下地層118は高密度の皮膜および低密度の皮膜からなる2層構成とするべきである。
更に、本実施形態では下地層118が第1下地層118aと第2下地層118bからなる2層構造であるが、これに限定されるものではない。例えば下地層118が単層で構成される場合には、単層の下地層の成膜時に成膜速度を変化させればよいし、例えば下地層118が3層以上で構成される場合には、少なくとも最上位の下地層、またはすべての下地層の成膜時に成膜速度を変化させればよい。
(実施例)
ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoFeTaZrとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。第1下地層118aは、所定圧力(低圧:例えば0.6〜0.7Pa)のAr雰囲気下でRu膜を成膜した。第2下地層118bは、所定圧力より高い圧力(高圧:例えば4.5〜7.0Pa)のAr雰囲気下で、ターゲットに印加する電圧である成膜パワーを、低パワーから高パワーまたは高パワーから低パワーのいずれかで変化させることにより、成膜速度を、低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて、Ru膜を成膜した。なお、低速度の範囲は0.5〜2.0nm/secであり、高速度の範囲は4.0〜6.0nm/secである。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiO2とした。第1磁気記録層122aは粒界部に酸化物の例としてCr2O3を含有し、CoCrPt−Cr2O3のhcp結晶構造を形成した。第2磁気記録層122bは、粒界部に複合酸化物(複数の種類の酸化物)の例としてSiO2とTiO2を含有し、CoCrPt−SiO2−TiO2のhcp結晶構造を形成した。補助記録層124の組成はCoCrPtBとした。媒体保護層126はCVD法によりC2H4およびCNを用いて成膜し、潤滑層128はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
以下に、上記製造方法により得た垂直磁気記録媒体100を用いて、本発明の有効性を評価する。図2は、実施例および比較例の垂直磁気記録媒体100の性能評価を説明する図である。なお、実施例1は、成膜速度を低速度から高速度で変化させて第2下地層118bを成膜した垂直磁気記録媒体100であり、実施例2は、成膜速度を高速度から低速度で変化させて第2下地層118bを成膜した垂直磁気記録媒体100である。比較例は、成膜速度を変化させず、従来と同様に中速度一定で第2下地層118bを成膜した垂直磁気記録媒体である。ここで、成膜速度の高速度とは4.0〜6.0nm/sec、中速度とは2.0〜4.0nm/sec、低速度とは0.5〜2.0nm/secの範囲である。
また、図2に示す信頼性は、信頼性試験の一つである腐食性試験(コロージョンテスト)により評価した。かかる腐食性試験では、温度90℃、湿度95%の環境下にて3日間経過後の実施例および比較例の垂直磁気記録媒体を、光学式表面欠陥解析装置(OSA:Optical Surface Analyzer)にて観測し、その表面の欠陥数を計数した。
図2に示すように、実施例1における下地層118は、第2下地層118bのうち、第1下地層118a側(ディスク基体110側)に低密度の皮膜、その上に高密度の皮膜という構成になる。また実施例2における下地層118は、第2下地層118bのうち、第1下地層118a側(ディスク基体110側)に高密度の皮膜、その上に低密度の皮膜という構成になる。そして、比較例は、従来と同様に中密度の皮膜のみから構成される。
実施例および比較例のSNRの評価を参照すると、実施例1、実施例2、比較例の順にSNRの評価が高くなる。また、実施例および比較例の信頼性の評価を参照すると、比較例、実施例2、実施例1の順に高評価となる。
図3は、図2の評価の詳細を説明する図である。図3(a)は、実施例および比較例におけるSNRとトラック幅を示しており、図3(b)は、実施例および比較例における腐食性試験の結果を示している。なお、上記のトラック幅とは、垂直磁気記録媒体100の実際のトラック幅ではなく、記憶可能幅試験において求められたトラックプロファイルが所定の割合を示すトラックの幅である。
図3(a)に示すように、全体的に、実施例1および2は比較例よりもSNRが若干低下しているものの、実施例のすべての系列において垂直磁気記録媒体100の高記録密度化を図るには十分なSNRを得ている。実施例1と実施例2において生じたSNRの差は、実施例2は、低密度の皮膜すなわち高密度の皮膜よりも結晶粒子の孤立化が促進されている皮膜が上層にあるため、第2下地層118b上に存在する非磁性グラニュラー層120の結晶粒子の孤立化をより効果的に促進することができ、ひいては非磁性グラニュラー層120上に存在する磁気記録層122の磁性粒子の孤立化に間接的に寄与し、実施例1よりも高いSNRを確保することができたからだと考えられる。
また図3(a)から、トラック幅においても、実施例および比較例のトラック幅はほぼ130nmから132nm付近に分布しているため、実施例と比較例では、高記録密度化を妨げるほどの差は生じていない。
図3(b)に示すように、実施例1、実施例2、比較例の順にコロージョンスポット数が増えている。このことから、実施例の如く成膜速度を変化させて第2下地層118bを成膜することで、第2下地層118bの皮膜強度を増大させることができ、これにより、コロージョンの発生を低下させ、垂直磁気記録媒体100の信頼性を向上させることが可能であることが理解できる。なお、実施例1は、高密度の皮膜、すなわち低密度の皮膜よりも強度が高い皮膜が上層にあるため、実施例2よりも高い信頼性を得ることができたためと考えられる。
上記説明した如く、本発明によれば成膜速度を、低速度から高速度または高速度から低速度のいずれかで変化させて下地層118を成膜することで、下地層118を低密度の皮膜および高密度の皮膜の2つの皮膜で構成することができる。これにより、下地層118の、低密度の皮膜によりRuの結晶粒子の孤立化を図ることでグラニュラー層(非磁性グラニュラー層120および磁気記録層122)の結晶粒子の孤立化を促進し高SNRの維持を、高密度の皮膜により皮膜強度を向上することで信頼性の向上を達成することが可能となる。したがって、垂直磁気記録媒体100の高記録密度化をはかりつつ、その品質を更に向上することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
100…垂直磁気記録媒体、110…ディスク基体、112…付着層、114…軟磁性層、114a…第1軟磁性層、114b…スペーサ層、114c…第2軟磁性層、116…前下地層、118…下地層、118a…第1下地層、118b…第2下地層、120…非磁性グラニュラー層、122…磁気記録層、122a…第1磁気記録層、122b…第2磁気記録層、124…補助記録層、126…媒体保護層、128…潤滑層