JP5530673B2 - 垂直磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体に関するものである。
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径の磁気記録媒体にして、1枚あたり200GByteを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり400GBitを超える情報記録密度を実現することが求められる。
HDD等に用いられる磁気記録媒体において高記録密度を達成するために、近年、垂直磁気記録方式が提案されている。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、磁気記録層の磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は従来の面内記録方式に比べて、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
垂直磁気記録方式に用いる磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、CoCrPt−SiO垂直磁気記録媒体(非特許文献1参照)が提案されている。これは磁気記録層において、Coのhcp構造(六方最密結晶格子)の結晶が柱状に連続して成長した磁性粒子の間に、SiOが偏析した非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造を構成し、磁性粒子の微細化と保磁力Hcの向上をあわせて図るものである。非磁性の粒界(磁性粒子間の非磁性部分)には酸化物を用いることが知られており、例えばSiO、Cr、TiO、TiO、Taのいずれか1つを用いることが提案されている(特許文献1)。
T. Oikawa et. al.、 IEEE Trans. Magn、 vol.38、 1976-1978(2002)
特開2006−024346号公報
上記の如く高記録密度化している磁気記録媒体であるが、今後さらなる記録密度の向上が要請されている。高記録密度化のために重要な要素としては、保磁力Hcや逆磁区核形成磁界Hnなどの静磁気特性の向上と、オーバーライト特性(OW特性)やSNR(Signal to Noise Ratio:シグナルノイズ比)、トラック幅の狭小化などの電磁変換特性の向上がある。その中でも保磁力Hcの向上とSNRの向上は、面積の小さな記録ビットにおいても正確に且つ高速に読み書きするために重要である。
保磁力Hcの向上は、主に磁気記録層の膜厚を厚くすることと、結晶配向性の向上によって行われる。膜厚を厚くすることは手段として容易ではあるが、磁気ヘッドから軟磁性層までの磁気的スペーシングが厚くなるために磁束が拡散し、高記録密度化が難しくなる。そのため、磁気記録層の結晶配向性を向上させることにより、垂直磁気異方性を向上させ、保磁力Hcを向上させるための様々な工夫がなされている。
例えば磁気記録層の下にはCoと格子間隔が近似するhcp構造(六方最密充填構造)を有するRu(ルテニウム)からなる下地層を形成し、Ru結晶からCo結晶をエピタキシャル成長させることによってCoの結晶配向性を向上させている。さらにRu下地層の下にbcc構造(面心立方格子構造)の原子からなる配向制御層を成膜し、Ru結晶の配向性を向上させている。
また保磁力Hcを向上させるとしても、磁気ディスクの主表面の中で保磁力のバラつきが生じると、低い部分にあわせた性能しか発揮することができない。そのため、磁気ディスクの全面において限りなく均等に高い保磁力を有していなくてはならない。
そこで本発明は、このような課題に鑑み、磁気ディスクの全面において均等に磁気記録層の結晶配向性を向上させて保磁力Hcを向上させ、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、磁気記録層の成分分析を行うと、酸化物として含有されているはずの酸素の分量が少ないことに着目した。ここで、酸化物がスパッタリングの際にSiやTi等の元素と酸素に分解されているのか、当初からターゲット内で酸素が欠損しているのかは不明である。ともあれ成膜された磁気記録層に酸素が欠損しているとなると、余剰の元素が単体の原子として存在することになる。そして単体で存在する原子は、Coが結晶化する際に吐き出されず、磁性粒子の中に取り込まれると考えられる。その結果として磁性粒子の結晶配向性が低下し、保磁力Hcが低下している可能性があると考えた。そしてさらに研究を重ねることにより、欠損した酸素を付加して補うことにより、単体で存在する元素を酸化物にし、予定通り粒界に偏析させることができることを見出した。
さらにしかし、酸素を付加するにあたり、磁気ディスクの全面に亘って均等に酸素を付加する必要がある。酸素を付加する手段としてはスパッタリング中の雰囲気ガス(Ar)に酸素を混入するリアクティブスパッタが考えられるが、酸素が極めて希薄であるために面内分布の均一性が悪く(チャンバ内の酸素の濃度分布が不均一である)、また酸素の付加量の制御が極めて難しい。そこで、均等に酸素を付加する手段について検討した結果、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明の代表的な構成は、基体上に少なくとも、柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を備える垂直磁気記録媒体において、磁気記録層の磁性粒子はCo、Cr、Ptを含み、ディスク面内の保磁力Hcが4500〜5500[Oe]であって、ディスク面内の保磁力Hcの最大値と最小値の差が150[Oe]以下であり、磁気異方性定数Ku、粒子体積V、ボルツマン定数k、絶対温度TがKuV/kT=60〜100を満たし、かつ、(KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たすことを特徴とする。
上記構成とすることにより、保磁力が必要十分であり、また保磁力の面内分布が均一であって、磁気異方性に起因する熱安定性が高い垂直磁気記録媒体とすることができる。保磁力が4500[Oe]未満では信号を記録するのに不十分となり、5500[Oe]より大きくなると記録(オーバーライト)できなくなってしまうためである。また面内分布の最大値と最小値の差が150[Oe]より大きいと、面内のいずれかの箇所で上記の保磁力の範囲を逸脱してしまうためである。またKuV/kTが60未満であると磁気記録媒体としての熱安定性が確保できなくなるが、一方、SNRを高めるためには粒子体積Vを小さくする必要があるため、KuV/kTが高ければよいというものではなく、100以下であることが好ましい。
さらに、本発明によって定義する(KuV/kT)/Hcは、SNRが高いほど粒子体積Vが小さくなるため、分子であるKuV/kTが小さくなり、全体としても小さくなる傾向を示す。また分母であるHcが高く(大きく)なるほど、全体は小さくなる傾向を示す。すなわち、(KuV/kT)/Hcが小さいほど、SNRと保磁力Hcが高い垂直磁気記録媒体とすることができる。そして、保磁力Hcとその面内分布、およびKuV/kTが上記の条件(良好な垂直磁気記録媒体として成立する条件)を満たした上で、(KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たす垂直磁気記録媒体とすることで、磁気ディスクの全面において均等に磁気記録層の結晶配向性を向上させて保磁力Hcを向上させ、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することができる。
本発明の他の代表的な構成は、基体上に少なくとも、柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を形成した垂直磁気記録媒体において、磁気記録層は、Co系合金と、CoO、Co、CuO、AgO、WO、GeOからなるA群から選択される少なくとも1つの酸化物と、A群よりもギブスの自由エネルギーΔGが小さい酸化物からなるB群の酸化物から選択される少なくとも1つの酸化物とを含むことを特徴とする。
換言すれば、磁気記録層の粒界部に含有される酸化物(B群)よりも、ギブスの自由エネルギーΔGが大きい酸化物(A群)を含有させて、磁気記録層の成膜を行う。これによりB群の酸化物において酸素欠損が生じても、A群の酸化物から分離した酸素によって補われて酸化物となり、B群の酸化物の元素を磁性粒子から確実に排斥する(粒界に析出させる)ことによって結晶配向性の低下を防止し、保磁力HcおよびSNRの向上を図ることができる。
一方、A群の酸化物の元素は、A群の酸化物の元素をCo、Cu、Ag、W、Geのいずれかとすることにより、磁性粒子の中に取り込まれても結晶配向性が低下することがない。
また酸化物に酸素を供給する手段として、リアクティブスパッタではなくターゲットに酸化物を含有させることにより、全体的に酸素を含有させられるため、上記のように酸素の面内分布を均一にすることができる。
A群の酸化物の含有量は、B群の酸化物の含有量の30%以下であることが好ましい。A群の酸化物はB群の酸化物の30%程度あれば足り、これ以上含有させても酸素補充による特性向上は見られないばかりか、却って保磁力Hcの低下を招いてしまうためである。
A群の酸化物の含有量は、磁気記録層全体の4mol%以下であることが好ましい。4mol%以上となると、B群の酸化物による磁気記録層の特性向上が図れなくなってしまうためである。
B群の酸化物は、SiO、TiO、Cr、Taを含んでいてもよい。SiOは磁性粒子の微細化および孤立化を促進し、TiOは電磁変換特性(特にSNR)を向上させる特性がある。そしてこれらの酸化物を複合させて磁気記録層の粒界に偏析させることにより、双方の利益を享受することができる。
磁気記録層は、粒界部を構成する酸化物を5mol%以上含んでいることが好ましい。5mol%以上であるとき高い静磁気特性と電磁変換特性とを得ることができるためである。
本発明の他の代表的な構成は、基体上に少なくとも、柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を備える垂直磁気記録媒体において、磁気記録層は、Co酸化物を含まない第1主記録層と、第1主記録層の上に設けられ少なくともCo酸化物を含む第2主記録層と、を有することを特徴とする。
上述したように、磁気記録層では、磁性粒子間に粒界部を有するグラニュラ構造が形成されており、粒界部は、磁気記録層に含有させた酸化物を析出させることで形成されている。このように酸化物を含有させた磁気記録層では、かかる酸化物の酸素が脱離することにより単体となった元素が磁性粒子に取り込まれる(酸素欠損が生じる)傾向がある。これのような現象が起きると、磁性粒子の結晶性および結晶配向性が低下し、保磁力Hcの低下を招いてしまう。
そこで、粒界部を構成する酸化物にCoの酸化物(Co酸化物)を含ませることができる。Co酸化物はギブスの自由化エネルギーΔGが大きく、Coイオンと酸素イオンが分離しやすい。このため、Co酸化物から優先的に酸素が脱離し、磁気記録層に含まれる酸化物において生じた酸素欠損を補うことができる。したがって、その酸化物を構成する元素の磁性粒子への混入を防ぎ、磁性粒子の結晶性および結晶配向性を向上させることが可能となる。
しかし、磁気記録層全体にCo酸化物を含有させると、SNRの低下が生じてしまう。したがって、上記構成では、磁気記録層を第1主記録層と第2主記録層の2層で構成し、第2主記録層のみにCo酸化物を含有させる。これにより、第1主記録層により高SNRを確保しつつ、第2主記録層により高い保磁力Hcを得ることが可能となる。なお、上述したようにCo酸化物から酸素が脱離するとCoイオンが発生するが、磁性粒子がCo合金であるため、かかるCoイオンが磁性粒子に混入しても磁気特性の低下を招くことはない。
本発明の更に他の代表的な構成は、基体上に少なくとも、柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を備える垂直磁気記録媒体において、磁気記録層は、基体より上に設けられ粒界部を形成する酸化物を含む第1磁気記録層と、第1磁気記録層の上に設けられ粒界部を形成する酸化物を第1磁気記録層よりも多く含む第2磁気記録層と、を有し、第2磁気記録層は、第1磁気記録層の上に設けられCo酸化物を含まない第1主記録層と、第1主記録層の上に設けられ少なくともCo酸化物を含む第2主記録層と、を有することを特徴とする。
かかる構成の垂直磁気記録媒体においても、上述した利点を得ることができ、更なる高記録密度化の達成が可能となる。また第2磁気記録層に含まれる酸化物の量を第1磁気記録層よりも多くすることで、第1磁気記録層から第2磁気記録層にかけて、磁性粒子の連続的な成長が促進される。
本発明によれば、磁気ディスクの全面において均等に磁気記録層の結晶配向性を向上させて保磁力Hcを向上させ、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することができる。
垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。 酸化物の自由エネルギーを示すエリンガム図である。 A群の酸化物の検討結果を説明する図である。 A群の酸化物の量の検討結果を説明する図である。 (Kuv/kT)/Hcと記録密度との関係を説明する図である。 第2実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(第1実施形態)
本実施形態では、まず本発明にかかる垂直磁気記録媒体の第1実施形態について説明した後に、磁気記録層の酸化物について詳細に説明する。
[垂直磁気記録媒体]
図1は、第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100の構成を説明する図である。図1に示す垂直磁気記録媒体100は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第2磁気記録層122b、補助記録層124、保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1磁気記録層122aと第2磁気記録層122bとはあわせて磁気記録層122を構成する。
ディスク基体110は、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクを用いることができる。なおガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。ガラスディスクの材質としては、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、又は、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどが挙げられる。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体110を得ることができる。
ディスク基体110上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行い、保護層126はCVD法により成膜することができる。この後、潤滑層128をディップコート法により形成することができる。なお、生産性が高いという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。以下、各層の構成について説明する。
付着層112はディスク基体110に接して形成され、この上に成膜される軟磁性層114とディスク基体110との剥離強度を高める機能と、この上に成膜される各層の結晶グレインを微細化及び均一化させる機能を備えている。付着層112は、ディスク基体110がアモルファスガラスからなる場合、そのアモルファスガラス表面に対応させる為にアモルファス(非晶質)の合金膜とすることが好ましい。
付着層112としては、例えばCrTi系非晶質層、CoW系非晶質層、CrW系非晶質層、CrTa系非晶質層、CrNb系非晶質層から選択することができる。中でもCoW系合金膜は、微結晶を含むアモルファス金属膜を形成するので特に好ましい。付着層112は単一材料からなる単層でも良いが、複数層を積層して形成してもよい。例えばCrTi層の上にCoW層またはCrW層を形成してもよい。またこれらの付着層112は、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、又は酸素を含む材料によってスパッタを行うか、もしくは表面層をこれらのガスで暴露したものであることが好ましい。
軟磁性層114は、垂直磁気記録方式において磁気記録層122に垂直方向に磁束を通過させるために、記録時に一時的に磁路を形成する層である。軟磁性層114は第1軟磁性層114aと第2軟磁性層114cの間に非磁性のスペーサ層114bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することができる。これにより軟磁性層114の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、磁化方向の垂直成分が極めて少なくなるため、軟磁性層114から生じるノイズを低減することができる。第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成としては、CoTaZrなどのコバルト系合金、CoCrFeB、CoFeTaZrなどのCo−Fe系合金、[Ni−Fe/Sn]n多層構造のようなNi−Fe系合金などを用いることができる。
前下地層116は、非磁性の合金層であり、軟磁性層114を防護する作用と、この上に成膜される下地層118に含まれる六方最密充填構造(hcp構造)の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させる機能を備える。前下地層116は面心立方構造(fcc構造)の(111)面がディスク基体110の主表面と平行となっていることが好ましい。また前下地層116は、これらの結晶構造とアモルファスとが混在した構成としてもよい。前下地層116の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nb、Taから選択することができる。さらにこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばfcc構造を取る合金としてはNiW、CuW、CuCrを好適に選択することができる。
下地層118はhcp構造であって、磁気記録層122のCoのhcp構造の結晶をグラニュラー構造として成長させる作用を有している。したがって、下地層118の結晶配向性が高いほど、すなわち下地層118の結晶の(0001)面がディスク基体110の主表面と平行になっているほど、磁気記録層122の配向性を向上させることができる。下地層118の材質としてはRuが代表的であるが、その他に、RuCr、RuCoから選択することができる。Ruはhcp構造をとり、また結晶の格子間隔がCoと近いため、Coを主成分とする磁気記録層122を良好に配向させることができる。
下地層118をRuとした場合において、スパッタ時のガス圧を変更することによりRuからなる2層構造とすることができる。具体的には、下層側の第1下地層118aを形成する際にはArのガス圧を所定圧力、すなわち低圧にし、上層側の第2下地層118bを形成する際には、下層側の第1下地層118aを形成するときよりもArのガス圧を高くする、すなわち高圧にする。これにより、第1下地層118aによる磁気記録層122の結晶配向性の向上、および第2下地層118bによる磁気記録層122の磁性粒子の粒径の微細化が可能となる。
また、ガス圧を高くするとスパッタリングされるプラズマイオンの平均自由行程が短くなるため、成膜速度が遅くなり、皮膜が粗になるため、Ruの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、Coの結晶粒子の微細化も可能となる。
さらに、下地層118のRuに酸素を微少量含有させてもよい。これによりさらにRuの結晶粒子の分離微細化を促進することができ、磁気記録層122のさらなる孤立化と微細化を図ることができる。なお酸素はリアクティブスパッタによって含有させてもよいが、スパッタリング成膜する際に酸素を含有するターゲットを用いることが好ましい。
非磁性グラニュラー層120はグラニュラー構造を有する非磁性の層である。下地層118のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第1磁気記録層122a(または磁気記録層122)のグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。これにより、磁気記録層122の磁性粒子の孤立化を促進することができる。非磁性グラニュラー層120の組成は、Co系合金からなる非磁性の結晶粒子の間に、非磁性物質を偏析させて粒界を形成することにより、グラニュラー構造とすることができる。
本実施形態においては、かかる非磁性グラニュラー層120にCoCr−SiOを用いる。これにより、Co系合金(非磁性の結晶粒子)の間にSiO(非磁性物質)が偏析して粒界を形成し、非磁性グラニュラー層120がグラニュラー構造となる。なお、CoCr−SiOは一例であり、これに限定されるものではない。他には、CoCrRu−SiOを好適に用いることができ、さらにRuに代えてRh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)も利用することができる。また非磁性物質とは、磁性粒(磁性グレイン)間の交換相互作用が抑制、または、遮断されるように、磁性粒の周囲に粒界部を形成しうる物質であって、コバルト(Co)と固溶しない非磁性物質であればよい。例えば酸化珪素(SiOx)、クロム(Cr)、酸化クロム(CrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)を例示できる。
なお本実施形態では、下地層188(第2下地層188b)の上に非磁性グラニュラー層120を設けているが、これに限定されるものではなく、非磁性グラニュラー層120を設けずに垂直磁気記録媒体100を構成することも可能である。
磁気記録層122は、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金から選択される硬磁性体の磁性粒の周囲に非磁性物質を偏析させて粒界を形成した柱状のグラニュラー構造を有している。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層120を設けることにより、そのグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長することができる。磁気記録層122は単層でもよいが、本実施形態では組成および膜厚の異なる第1磁気記録層122aと、第2磁気記録層122bとから構成されている。第1磁気記録層122aは膜厚は薄いが酸化物を少なめにして磁性粒子を大きくすることにより保磁力Hcを獲得し、主記録層たる第2磁気記録層122bでは膜厚を厚くして保磁力Hcを確保すると共に酸化物を多めにして磁性粒子の孤立微細化を図ることによりSNRの向上を図っている。
本実施形態では、第1磁気記録層122aにCoCrPt−Crを用いる。CoCrPt−Crは、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に、非磁性物質であるCrおよびCr(酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、非磁性グラニュラー層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。第1磁気記録層122aの非磁性領域を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
また第2磁気記録層122bには、後述するように、非磁性物質として、CoO、Co、CuO、AgO、WO、GeOからなるA群から選択される少なくとも1つの酸化物と、A群よりもギブスの自由エネルギーΔGが小さい酸化物からなるB群の酸化物から選択される少なくとも1つの酸化物とを含む。具体例としては、CoCrPt−SiO−TiO−CoOを用いることができる。第2磁気記録層122bにおいても、CoCrPtからなる磁性粒(グレイン)の周囲に非磁性物質であるCrおよびSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒が柱状に成長したグラニュラー構造を形成した。またA群の酸化物であるCoOはCoとOに分離し、Coは磁性粒子に入り込み(磁性粒子から排出されず)、OはB群の酸化物であるSiO、TiOの酸素欠損を補填する。
図2は酸化物の自由エネルギーを示すエリンガム図である。図に示すように、磁気記録層122の粒界を構成するために有益な酸化物(B群)であるSiO、TiO、ZrO、Ta、Bよりも、A群の酸化物は自由エネルギーΔGが大きい必要がある。一方、A群の酸化物の元素は単体の原子として排出され、磁性粒子の中に取り込まれる可能性がある。このためA群の酸化物は、酸化物として磁気記録層の特性を向上する必要はないが、単体の元素が磁性粒子の中に取り込まれても結晶配向性が低下しないものを選択する必要がある。そして種々の酸化物を検討した結果、A群の酸化物の元素をCo、Cu、Ag、W、Geのいずれかとすることができることがわかった。
なお、A群の酸化物としてはCoO、Co、CuO、AgO、WO、GeOから選択することができるが、1つとは限らず、複数の酸化物を選択することができる。B群の酸化物は、第1磁気記録層122aの酸化物と同様に、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコン(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。中でもSiO、TiO、Crを含んでいることが好ましい。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
さらに本実施形態では、第1磁気記録層122aにおいて1種類の酸化物、第2磁気記録層122bにおいてA群およびB群の酸化物を用いているが、これに限定されるものではなく、第1磁気記録層122aまたは第2磁気記録層122bのいずれかまたは両方においてA群およびB群の酸化物を用いる(従来のB群のみの酸化物に、A群の酸化物を含有させる)ことも可能である。したがって、本実施形態とは異なり、磁気記録層122が1層のみで構成される場合、かかる磁気記録層122はCoCrPt−SiO−TiO−CoOからなることが好ましい。
補助記録層124は基体主表面の面内方向に磁気的にほぼ連続した磁性層である。補助記録層124は磁気記録層122に対して磁気的相互作用を有するように、隣接または近接している必要がある。補助記録層124の材質としては、例えばCoCrPt、CoCrPtB、またはこれらに微少量の酸化物を含有させて構成することができる。補助記録層124は逆磁区核形成磁界Hnの調整、保磁力Hcの調整を行い、これにより耐熱揺らぎ特性、OW特性、およびSNRの改善を図ることを目的としている。この目的を達成するために、補助記録層は垂直磁気異方性Kuおよび飽和磁化Msが高いことが望ましい。なお本実施形態において補助記録層124は磁気記録層122の上方に設けているが、下方に設けてもよい。
なお、「磁気的に連続している」とは磁性が連続していることを意味している。「ほぼ連続している」とは、補助記録層124全体で観察すれば一つの磁石ではなく、結晶粒子の粒界などによって磁性が不連続となっていてもよいことを意味している。粒界は結晶の不連続のみではなく、Crが偏析していてもよく、さらに微少量の酸化物を含有させて偏析させても良い。ただし補助記録層124に酸化物を含有する粒界を形成した場合であっても、磁気記録層122の粒界よりも面積が小さい(酸化物の含有量が少ない)ことが好ましい。補助記録層124の機能と作用については必ずしも明確ではないが、磁気記録層122のグラニュラ磁性粒と磁気的相互作用を有する(交換結合を行う)ことによってHnおよびHcを調整することができ、耐熱揺らぎ特性およびSNRを向上させていると考えられる。またグラニュラ磁性粒と接続する結晶粒子(磁気的相互作用を有する結晶粒子)がグラニュラ磁性粒の断面よりも広面積となるため磁気ヘッドから多くの磁束を受けて磁化反転しやすくなり、全体のOW特性を向上させるものと考えられる。
保護層126は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成することができる。保護層126は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録媒体100を防護するための層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録媒体100を防護することができる。
潤滑層128は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜することができる。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、保護層126表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層128の作用により、垂直磁気記録媒体100の表面に磁気ヘッドが接触しても、保護層126の損傷や欠損を防止することができる。
以上の製造工程により、垂直磁気記録媒体100を得ることができた。次に、本発明の特徴である磁気記録層122についてさらに詳述する。
上記のように、磁気記録層122(第2磁気記録層122b)は、Co系合金と、CoO、Co、CuO、AgO、WO、GeOからなるA群から選択される少なくとも1つの酸化物と、A群よりもギブスの自由エネルギーΔGが小さい酸化物からなるB群の酸化物から選択される少なくとも1つの酸化物とを含んで構成されている。
換言すれば、磁気記録層122の粒界部に含有される酸化物(B群)よりも、ギブスの自由エネルギーΔGが大きい酸化物(A群)を含有させて、磁気記録層122の成膜を行う。ΔGが大きいほど元素と酸素が分離しやすく、ΔGが小さいと安定な酸化物になりやすいことを意味している。このため、A群とB群を混在させてスパッタリングを行うと、B群の酸化物はA群の酸化物よりも酸化されやすいため、A群の酸化物は還元され、B群の酸化物が酸化される。つまり、A群の酸化物から分離した酸素が、B群の酸化物の元素と結合して酸化物を構成する。すなわちA群の酸化物の元素はB群の酸化物の元素に対して酸素を供給する担体として機能する。これによりB群の酸化物において酸素欠損が生じていても、A群の酸化物から分離した酸素によって補われて酸化物となり、B群の酸化物は粒界に偏析して析出する。したがって、B群の酸化物を用いて磁性粒子の孤立化や微細化などの効果を得ると共に、B群の酸化物の元素を磁性粒子から確実に排斥する(粒界に析出させる)ことによって結晶配向性の低下を防止し、保磁力HcおよびSNRの向上を図ることができる。
一方、A群の酸化物においては、より大きな酸素欠損が生じることになり、A群の酸化物の元素が単体の原子として排出される。このA群の酸化物の元素は磁性粒子の中に取り込まれる可能性があるが、A群の酸化物の元素をCo、Cu、Ag、W、Geのいずれかとすることにより、磁性粒子の中に取り込まれても結晶配向性が低下することがない。
なお、酸化物に酸素を供給する手段として、リアクティブスパッタによって含有させることも考えられる。リアクティブスパッタ法は、スパッタリングを行うチャンバ内に供給する雰囲気ガスに活性ガスとして酸素を添加し、ターゲットの原子と活性ガスの原子との化合物膜または混合膜を成膜する方法である。しかしリアクティブスパッタ法は、雰囲気ガスに添加する酸素ガスの量が少量であるため、磁気記録層122に含有される酸素の量が所望する量になるよう調整することが非常に困難である。また雰囲気ガス中において活性ガスが均一に分布するよう調節することが難しいため、磁気記録層122における酸素の分布が不均一になってしまう。更には、磁気記録層122の成膜の際に層内に混入した酸素ガスを完全に脱気することが困難であるため、チャンバ内に残留した酸素ガスが、磁気記録層より後の層を成膜するチャンバに入り込んでしまう。そこで磁気記録層122にA群の酸化物からなるターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより、全体的に酸素を含有させられるため、上記のように酸素の面内分布を均一にすることができる。
A群の酸化物の含有量は、B群の酸化物の含有量の30%以下であることが好ましい。A群の酸化物は、上記のように、B群の酸化物に対する酸素担体として機能する。このため、B群の酸化物において生じる酸素欠損を補える量があれば充分である。そして、A群の酸化物はB群の酸化物の30%程度あれば足り、これ以上含有させても酸素補充による特性向上は見られないばかりか、却って保磁力Hcの低下を招いてしまう。一方、A群の酸化物がいかにギブスの自由エネルギーΔGが大きいとはいえ、全ての酸素がB群の酸素欠損を生じた元素に移動するわけではない。そこで、B群の酸化物で欠損した酸素を補充するために、A群の酸化物を0.5%程度以上含有させることが好ましい。
A群の酸化物の含有量は、Co系合金等を含めた磁気記録層全体の4mol%以下であることが好ましい。A群の酸化物は、上記のように、B群の酸化物に対する酸素担体として機能し、それ自体が磁気記録層122の特性を向上させられるものとは限らない。そのため、A群の酸化物を4mol%より多く含有させるとB群の酸化物の割合が減少し、これによる磁気記録層122の機能向上が図れなくなるため、A群の酸化物の含有量は、磁気記録層全体の4mol%以下であることが好ましい。
B群の酸化物は、SiO、TiO、Crを含んでいてもよい。SiOは磁性粒子の微細化および孤立化を促進し、TiOは電磁変換特性(特にSNR)を向上させる特性がある。そしてこれらの酸化物を複合させて磁気記録層122の粒界に偏析させることにより、双方の利益を享受することができる。
磁気記録層122は、粒界部を構成する酸化物を5mol%以上含んでいることが好ましい。5mol%以上であるとき高い静磁気特性と電磁変換特性とを得ることができるためである。
上記のようにして製造することにより、磁気記録層の磁性粒子はCo、Cr、Ptを含み、ディスク面内の保磁力Hcが4500〜5500[Oe]であって、保磁力Hcの最大値と最小値の差が150[Oe]以下であり、磁気異方性定数Ku、粒子体積V、ボルツマン定数k、絶対温度TがKuV/kT=60〜100を満たし、かつ、(KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たす磁気記録媒体を得ることができる。
上記構成とすることにより、保磁力が必要充分であり、また保磁力の面内分布が均一であって、磁気異方性に起因する熱安定性が高い垂直磁気記録媒体100とすることができる。ここで、保磁力は信号を記憶するために4500以上必要であるが、高すぎると記録(オーバーライト)できなくなってしまうために、5500以下である必要がある。また面内分布が均一でない場合、保磁力の低い部分に合わせなくてはならなくなってしまうために、所望の性能を発揮させることができなくなってしまう。またKuV/kTは磁気記録媒体としての熱安定性を確保するために60以上必要であるが、SNRを高めるためには粒子体積Vを小さくする必要があるため、KuV/kTが高ければよいというものではなく、100以下であることが好ましい。
さらに、本発明によって定義する(KuV/kT)/Hcは、SNRが高いほど粒子体積Vが小さくなるため、分子であるKuV/kTが小さくなり、全体としても小さくなる傾向を示す。また分母であるHcが高く(大きく)なるほど、全体は小さくなる傾向を示す。すなわち、(KuV/kT)/Hcが小さいほどSNRと保磁力Hcが高い垂直磁気記録媒体とすることができる。そして、保磁力Hcとその面内分布、およびKuV/kTが上記の条件(良好な垂直磁気記録媒体として成立する条件)を満たした上で、(KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たす垂直磁気記録媒体とすることで、磁気ディスクの全面において均等に磁気記録層の結晶配向性を向上させて保磁力Hcを向上させ、更なる高記録密度化を達成することが可能な垂直磁気記録媒体を提供することができる。
(実施例)
ディスク基体110上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、付着層112から補助記録層124まで順次成膜を行った。付着層112は、CrTiとした。軟磁性層114は、第1軟磁性層114a、第2軟磁性層114cの組成はCoFeZrTaとし、スペーサ層114bの組成はRuとした。前下地層116の組成はfcc構造のNiW合金とした。第1下地層118aは所定圧力(低圧:例えば0.6〜0.7Pa)のAr雰囲気下でRu膜を成膜した。第2下地層118bは、酸素が含まれているターゲットを用いて所定圧力より高い圧力(高圧:例えば4.5〜7Pa)のAr雰囲気下で、酸素を含有するRu膜を成膜した。非磁性グラニュラー層120の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。第1磁気記録層122aは粒界部に酸化物の例としてCrを含有し、CoCrPt−Crのhcp結晶構造を形成した。第2磁気記録層122bは、粒界部にA群からなる酸化物とB群からなる酸化物とを含有させ、その組成および有無を下記のように様々に変えて実施例と比較例を作成した。補助記録層124の組成はCoCrPtBとした。保護層126はCVD法によりCおよびCNを用いて成膜し、潤滑層128はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
図3はA群の酸化物の検討結果を説明する図である。静磁気特性である保磁力Hcは、Polar−Kerr効果測定装置によって測定した。1つの保磁力Hcを測定する場合は、4点を測定して平均値を算出した。保磁力Hcの最大値と最小値の差は、トラック方向に20ポイントを測定し、その分布から取得した。
A群の酸化物として、実施例1はCoO、実施例2はCuO、実施例3はAgOとした。比較例1はA群の酸化物なし(酸素の添加なし)としたもの、比較例2はリアクティブスパッタであってチャンバ内の雰囲気ガス(Ar)に酸素ガスを添加したもの、比較例3はA群の酸化物としてAlを添加したものである。これらの実施例と比較例のそれぞれについて、Hc、Hcの最大値と最小値の差(Hc(max)−Hc(min))、SNRを測定し、KuV/kT、(KuV/kT)/Hcを求めた。
図3において実施例と比較例を比べると、ギブスの自由エネルギーΔGが、B群の酸化物であるSiO、TiOよりも大きい場合に、保磁力Hcが向上していることがわかる。特に比較例3を見ると、A群の酸化物としてΔGが小さいものを含有させたために、かえって保磁力は低下してしまっている。これは、A群の酸化物が酸素担体となり、A群の酸化物から分離した酸素がB群の酸化物に生じた酸素欠損を補うために、B群の酸化物の元素が磁性粒子に入り込むことを防止できるためと考えられる。
なお、実施例1〜実施例3を比較すれば、かならずしもΔGの大きい順に保磁力が向上しているわけではない。これは、A群の酸化物から酸素が分離した後に、A群の元素が担体の金属となって磁性粒子に入り込むために、その元素が磁性層に与える影響によるものと考えられる。このため、磁性粒子の主成分はCoであるから、実施例1のCoOが最もよい特性を示したものと考えられる。
また比較例2のリアクティブスパッタによる酸素添加の場合には、保磁力Hcの値(平均値)は高くなっているが、最大値と最小値の差が大きく、保磁力の面内分布の均一性が著しく悪いことがわかる。これは、チャンバ内に添加する酸素が極めて希薄であるために、酸素の濃度分布が不均一になってしまうため、酸素欠損の補填も不均一になってしまうためと考えられる。このことから、あらかじめターゲットに酸化物を含有させることにより、全体的に酸素を含有させることができ、酸素の面内分布を均一にすることができることがわかる。
図4はA群の酸化物の量の検討結果を説明する図である。B群の酸化物としてSiO(4.5mol)、TiO(4.5mol)としている。そしてCoOの含有率を、0mol%〜7mol%まで変化させている。なお0mol%の場合は比較例1(従来品)に相当し、2mol%の場合は実施例1に相当する。
図4を参照すれば、CoOの含有率が2mol%(A群とB群の酸化物の合計量が11mol%)である場合にピークを有し、さらにCoOの含有率を高くすると保磁力が低下していくことがわかる。そして保磁力の所要量である4700[Oe]を満たすためには、CoOが少なくとも1mol%〜4mol%以下であるであることが好ましい。1mol%未満ではCoOが担体となって供給する酸素の量が不十分であり、4mol%より多く含有させるとB群の酸化物の割合が減少し、これによる磁気記録層122の機能向上が図れなくなるためと考えられる。
図5は(Kuv/kT)/Hcと記録密度との関係を説明する図である。図5は2.5インチの垂直磁気記録媒体の(Kuv/kT)/Hcと、80GB/プラッタ、160GB/プラッタ、250GB/プラッタを比較する図である。
図5からわかるように、(Kuv/kT)/Hcを小さくするほどに、高記録密度の媒体とできることがわかる。そして、(Kuv/kT)/Hcを0.01〜0.02とすることにより、250GB/プラッタを実現することが可能となることがわかる。
なお、(KuV/kT)/Hcは、SNRが高いほど粒子体積Vが小さくなるため、分子であるKuV/kTが小さくなり、全体としても小さくなる傾向を示す。また分母であるHcが高く(大きく)なるほど、全体は小さくなる傾向を示す。すなわち、(KuV/kT)/Hcが小さいほど、SNRと保磁力Hcが高い垂直磁気記録媒体とすることができる。そして、上記のように(KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たす垂直磁気記録媒体とすることで、更なる高記録密度化を達成することができる。
上記説明した如く、第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100によれば、磁気ディスクの全面において均等に磁気記録層の結晶配向性を向上させて保磁力Hcを向上させることができた。
(第2実施形態)
以下に、本発明にかかる垂直磁気記録媒体の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100では、第2磁気記録層122bが1層で構成されていたのに対し、第2実施形態にかかる垂直磁気記録媒体は、第2磁気記録層が2層で構成される。なお、第1実施形態と同一の機能、構成を有する要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[垂直磁気記録媒体]
図6は、第2実施形態にかかる垂直磁気記録媒体200の構成を説明する図である。図6に示す垂直磁気記録媒体200は、ディスク基体110、付着層112、第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114c、前下地層116、第1下地層118a、第2下地層118b、非磁性グラニュラー層120、第1磁気記録層122a、第1主記録層222c、第2主記録層222d、補助記録層124、保護層126、潤滑層128で構成されている。なお第1軟磁性層114a、スペーサ層114b、第2軟磁性層114cは、あわせて軟磁性層114を構成する。第1下地層118aと第2下地層118bはあわせて下地層118を構成する。第1主記録層222cと第2主記録層222dはあわせて第2磁気記録層222aを構成し、第1磁気記録層122aと第2磁気記録層222aとはあわせて磁気記録層222を構成する。
本実施形態において、第2磁気記録層222aは、第1磁気記録層122a上(ディスク基体110側)に設けられる第1主記録層222cと、第1主記録層222c上(当該垂直磁気記録媒体200の主表面側)に設けられる第2主記録層222dとから構成される。
第1主記録層222cはCoCrPt−SiO−TiOを用いる。これにより、第1主記録層222cにおいて、CoCrPtからなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiO、TiO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成した。
第2主記録層222dは第1主記録層222cと連続しているが、組成および膜厚が異なっている。第2主記録層222dはCoCrPt−SiO−TiO−CoOを用いる。これにより、第2主記録層222dにおいても、CoCrPtからなる磁性粒子(グレイン)の周囲に非磁性物質であるSiO、TiO、CoO(複合酸化物)が偏析して粒界を形成し、磁性粒子が柱状に成長したグラニュラ構造を形成した。
上記のように本実施形態では、第2主記録層222dにCoO(Coの酸化物)を含有させ、第2主記録層222dが第1主記録層222cよりも多くの酸化物を含む構成としている。これにより、第1主記録層222cから第2主記録層222dにかけて、結晶粒子の分離を段階的に促進することができる。
また上記のように第2主記録層222dにCo酸化物を含有させることにより、酸素欠損による磁性粒子の結晶性および結晶配向性の低下を防ぐことができる。詳細には、SiOやTiO等の酸化物を磁気記録層222に混入すると、酸素欠損が生じる事実があり、SiイオンやTiイオンが磁性粒子に混入して結晶配向性が乱れ、保磁力Hcが低下してしまう。そこでCo酸化物を含有させることにより、この酸素欠損を補うための酸素担持体として機能させることができる。Co酸化物としてはCoOを例示するが、Coでもよい。
Co酸化物はSiOやTiOよりもギブスの自由化エネルギーΔGが大きく、Coイオンと酸素イオンが分離しやすい。したがって、Co酸化物から優先的に酸素が分離し、SiOやTiOにおいて生じた酸素欠損を補って、SiやTiのイオンを酸化物として完成させ、粒界に析出させることができる。これにより、SiやTiなどの異物が磁性粒子に混入することを防止し、その混入によって磁性粒子の結晶性を乱すことを防止することができる。このとき余剰となったCoイオンは磁性粒子に混入すると考えられるが、そもそも磁性粒子がCo合金であるために、磁気特性を損なうことはない。したがって磁性粒子の結晶性および結晶配向性が向上し、保磁力Hcを増大させることが可能となる。また、飽和磁化Msが向上することから、オーバーライト特性も向上するという利点を有している。
ただし、磁気記録層222全体にCo酸化物を混入すると、SNRが低下するという問題がある。そこで、上記のようにCo酸化物を混入しない第1主記録層222cを設けることにより、第1主記録層222cで高いSNRを確保しつつ、第2主記録層222dで高い保磁力Hcおよびオーバーライト特性を得ることが可能となる。なお第1主記録層222cの膜厚よりも第2主記録層222dの膜厚が厚いことが好ましく、好適な一例として第1主記録層222cを2nm、第2主記録層222dを8nmとすることができる。
なお、上記に示した第1主記録層222cおよび第2主記録層222dに用いた物質は一例であり、これに限定するものではない。粒界を形成するための非磁性物質としては、例えば酸化珪素(SiO)、クロム(Cr)、酸化クロム(Cr)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、酸化鉄(Fe)、酸化ボロン(B)等の酸化物を例示できる。また、BN等の窒化物、B等の炭化物も好適に用いることができる。
また本実施形態においては、第2磁気記録層222aを第1主記録層222cおよび第2主記録層222dの2層、すなわち磁気記録層222を第1磁気記録層122a、第1主記録層222cおよび第2主記録層222d(第2磁気記録層222a)の3層で構成し、第2主記録層222cにCo酸化物を含有させたがこれに限定するものではない。例えば、第1実施形態にかかる垂直磁気記録媒体100のように磁気記録層を第1磁気記録層および第2磁気記録層の2層で構成し、いずれか1層にCo酸化物を含有させることも可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
100…垂直磁気記録媒体、110…ディスク基体、112…付着層、114…軟磁性層、114a…第1軟磁性層、114b…スペーサ層、114c…第2軟磁性層、116…前下地層、118…下地層、118a…第1下地層、118b…第2下地層、120…非磁性グラニュラー層、122…磁気記録層、122a…第1磁気記録層、122b…第2磁気記録層、124…分断層、126…補助記録層、128…保護層、130…潤滑層、200…垂直磁気記録媒体、222…磁気記録層、222a…第2磁気記録層、222c…第1主記録層、222d…第2主記録層

Claims (5)

  1. 基体上に少なくとも、柱状に連続して成長した磁性粒子の間に非磁性の粒界部を形成したグラニュラー構造の磁気記録層を備える垂直磁気記録媒体において、
    前記磁気記録層の磁性粒子はCo、Cr、Ptを含み、
    保磁力Hcが4500〜5500[Oe]であって、ディスク面内の保磁力Hcの最大値と最小値の差が150[Oe]以下であり、
    磁気異方性定数Ku、粒子体積V、ボルツマン定数k、絶対温度TがKuV/kT=60〜100を満たし、かつ、
    (KuV/kT)/Hc=0.01〜0.02を満たし、
    前記磁気記録層は、
    Co系合金と、
    CoO、Co 、CuO、Ag O、WO 、GeO からなるA群から選択される少なくとも1つの酸化物と、
    A群よりもギブスの自由エネルギーΔGが小さい酸化物からなるB群の酸化物から選択される少なくとも1つの酸化物とを含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
  2. 前記A群の酸化物の含有量は、前記B群の酸化物の含有量の30%以下であることを特徴とする請求項に記載の垂直磁気記録媒体。
  3. 前記A群の酸化物の含有量は、磁気記録層全体の4mol%以下であることを特徴とする請求項に記載の垂直磁気記録媒体。
  4. 前記B群の酸化物は、SiO2、TiO2、Cr2O3を含むことを特徴とする請求項に記載の垂直磁気記録媒体。
  5. 前記磁気記録層は、前記粒界部を構成する酸化物を5mol%以上含むことを特徴とする請求項に記載の垂直磁気記録媒体。
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