しかしながら、非常に大きな逆入力が働いて、回生電力消費回路の能力(熱変換能力)を超える回生電力が電動モータで発生した場合には、ECU内のモータ駆動系電源電圧がモータ駆動系回路の耐電圧を越えてしまい回路破損が生じるおそれがある。
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、電動モータで発生した回生電力により、モータ駆動系回路が破損しないようにすることにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ステアリング機構(10)に設けられて操舵アシストトルクを発生する電動モータ(20)と、複数のスイッチング素子を備えて前記電動モータを駆動するモータ駆動回路(120)と、操舵トルクを表す情報を取得して、前記操舵トルクに基づいて前記電動モータを制御するモータ制御量を算出し、前記モータ制御量に応じたモータ制御信号を出力するマイクロコンピュータ(110)と、前記マイクロコンピュータから出力されたモータ制御信号に基づいて前記モータ駆動回路のスイッチング素子を駆動するスイッチ駆動回路(131)と、車載高圧バッテリ(300)の出力電圧を降圧して、降圧したモータ駆動電源を前記モータ駆動回路および前記スイッチ駆動回路に供給する降圧回路(210)とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータ駆動電源の電圧を検出し、前記検出した電圧と過電圧検出用の設定電圧とを比較する電圧比較回路(133)と、前記電圧比較回路により前記モータ駆動電源の電圧が前記設定電圧よりも大きいと判定されたとき、前記電動モータに制動ブレーキが働くように前記スイッチ駆動回路のスイッチング素子の駆動パターンを変更する駆動パターン変更回路(132)とを備えたことにある。
本発明においては、ステアリング機構に電動モータが設けられ、この電動モータを駆動することにより操舵アシストトルクを発生する。電動モータの発生する操舵アシストトルクは、マイクロコンピュータにより制御される。また、電動モータは、モータ駆動回路(例えば、インバータ回路)により駆動制御される。マイクロコンピュータは、操舵トルクを表す情報を取得してモータ制御量(例えば、目標電流)を算出し、このモータ制御量に応じたモータ制御信号を出力する。スイッチ駆動回路は、マイクロコンピュータから出力されたモータ制御信号に基づいてモータ駆動回路のスイッチング素子を駆動する。つまり、スイッチング素子にゲート信号を出力して、スイッチング素子の開閉を制御する。こうして、電動モータが駆動されて所望の操舵アシストトルクが発生する。
本発明においては、モータ駆動系電源として、車載高圧バッテリが利用される。車載高圧バッテリは、一般の12V系の車載バッテリよりも出力電圧が高いバッテリを意味する。本発明においては、車載高圧バッテリの出力電圧を降圧回路により降圧し、その降圧した電圧をモータ駆動電源として、モータ駆動回路およびスイッチ駆動回路に供給する。
車両の走行中において、例えば、タイヤが縁石に衝突したケースなど、タイヤからステアリング機構に大きな逆入力が働くと、電動モータで大きな逆起電力が発生し、モータ駆動電源の電圧がモータ駆動系回路(例えば、スイッチ駆動回路)の耐電圧を越えるほど上昇するおそれがある。この場合、車載高圧バッテリに回生電流を流して電力回生できればモータ駆動電源の電圧上昇を抑えることができるが、車載高圧バッテリに電力回生するためには、降圧回路側に戻された電力(回生電力と呼ぶ)を昇圧する必要がある。このため、降圧回路とは別に昇圧回路が必要となりシステム構成上好ましくない。そこで、本発明においては、電圧比較回路と駆動パターン変更回路とを備えることにより、モータ駆動電源の電圧上昇を抑制する。
電圧比較回路は、モータ駆動電源の電圧を検出し、検出した電圧と過電圧検出用の設定電圧とを比較する。この過電圧検出用の設定電圧は、ステアリング機構に逆入力が働いていない通常時におけるモータ駆動電源の電圧より高く、かつ、モータ駆動電源により作動する回路(モータ駆動系回路、例えば、スイッチ駆動回路)の耐電圧以下に設定されるものである。駆動パターン変更回路は、電圧比較回路によりモータ駆動電源の電圧が設定電圧よりも大きいと判定されたとき、電動モータに制動ブレーキが働くようにスイッチ駆動回路のスイッチング素子の駆動パターンを変更する。例えば、電動モータの通電端子間を短絡(相間短絡)するようにスイッチング素子の駆動パターンを変更する。従って、電動モータの回転速度が低下して、電動モータで発生する逆起電力を低下させることができる。これにより、電動モータから電源側に戻ろうとする回生電力が減少してモータ駆動電源の電圧上昇が抑えられる。従って、モータ駆動系回路を過電圧から保護することができる。
例えば、駆動パターン変更回路として、ソフトウエア処理を行わないロジック回路を用いるとよい。この場合、駆動パターン変更回路(ロジック回路)は、電圧比較回路の出力する比較判定信号と、マイクロコンピュータの出力するモータ制御信号とを入力し、比較判定信号が設定電圧以下であることを表す信号の場合には、モータ制御信号をそのままスイッチ駆動回路に出力し、比較判定信号が設定電圧を越えていることを表す信号の場合には、マイクロコンピュータの出力するモータ制御信号に関わらず、電動モータに制動ブレーキが働くような(例えば、モータ端子間を短絡する)モータ制御信号をスイッチ駆動回路に出力すればよい。これにより、タイムラグを最小限に抑えることができる。
本発明の他の特徴は、前記モータ駆動回路から前記電動モータへの電力供給路に設けられる開閉リレー(RU,RV,RW)と、前記電動モータに制動ブレーキが働くように前記スイッチ駆動回路のスイッチング素子の駆動パターンが変更された後、前記開閉リレーをオフにして前記電動モータの通電路を遮断するリレー制御手段(110)とを備えたことにある。
本発明においては、モータ駆動回路から電動モータへの電力供給路に開閉リレーが設けられている。この開閉リレーは、リレー制御手段に開閉制御されるもので、通常のモータ駆動時においてはオン、つまり、接点が閉じられた状態となっている。リレー制御手段は、電動モータに制動ブレーキが働くようにスイッチ駆動回路のスイッチング素子の駆動パターンが変更された後、開閉リレーをオフにして(接点を開いて)電動モータの電力供給路を遮断する。これにより、電動モータに発電電流が流れないようになり、モータ駆動電源の電圧は、降圧回路の出力電圧に維持される。従って、確実にモータ駆動電源の電圧上昇を防止して、モータ駆動系回路を過電圧から保護することができる。
また、開閉リレーを開くタイミングは、電動モータに制動ブレーキが働くようにスイッチング素子の駆動パターンが変更された後であるため、開閉リレーに流れる電流が低下しており、開閉リレーの接点溶着を回避することができる。尚、例えば、電動モータに流れる電流を検出する電流センサを設け、検出した電流が設定電流(溶着防止用の設定電流)より低下したときに開閉リレーの接点を開くようにすれば、確実に開閉リレーの接点溶着を防止することができる。
尚、上記説明において、括弧内に示した符号は、発明の理解を助けるものであり、発明の各構成要件を前記符号によって規定される実施形態に限定させるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る車両の電動パワーステアリング装置の概略構成を表している。
この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を転舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動制御するアシスト用電子制御装置100と、降圧DC−DCコンバータ200とを備えている。以下、アシスト用電子制御装置100をアシストECU100と呼ぶ。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して操舵操作をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
電動モータ20にはモータ回転角θmに応じた信号を出力する回転角センサ21が設けられている。回転角センサ21により検出されモータ回転角θmは、電動モータ20の電気角の検出に利用される。また、モータ回転角θmを時間微分することにより電動モータ20の回転速度(角速度)が得られるため、モータ回転角θmはモータ回転速度ωの検出にも利用される。
また、ステアリングシャフト12には操舵トルクセンサ22が組みつけられている。操舵トルクセンサ22は、ステアリングシャフト12の中間部に介装されたトーションバー(図示略)の捩れ角度をレゾルバ等により検出し、この捩れ角に基づいてステアリングシャフト12に働いた操舵トルクTrを検出する。操舵トルクTrは、その符号(正負)により操舵トルクの方向が判別され、その絶対値により大きさが判別される。
アシストECU100は、マイクロコンピュータを主要部として構成したマイコン部110(以下、CPU110と呼ぶ)と、電動モータ20を駆動するためのモータ駆動回路120と、モータ駆動回路120に駆動信号を出力する駆動IC130と、各種センサ等の外部装置を接続するインタフェース140とを備えている。
次に、アシストECU100への電源供給について説明する。アシストECU100は、車両に搭載された高圧バッテリ300と低圧バッテリ(図示略)とから電源供給される。本実施形態の電動パワーステアリング装置の適用される車両は、車両走行用の内燃機関であるエンジンと、車両走行用の電気アクチュエータである主機モータとを有するハイブリッドシステム(図示略)を備えた車両である。この車両には、ハイブリッドシステムの走行駆動用電源として使用される高圧バッテリ(主機バッテリ)300と、一般の車両制御システムで使用される低圧バッテリ(図示略)とを備えている。本実施形態における電動パワーステアリング装置は、電動モータ20の駆動用電源として高圧バッテリ300を使用し、CPU110等の制御系電源として低圧バッテリを使用する。高圧バッテリ300の出力電圧は、例えば、288Vに設定されている。
降圧DC−DCコンバータ200は、降圧回路210と回生電力消費回路220とを備えている。降圧回路210は、高圧バッテリ300の出力電圧を入力し、入力した直流電圧をトランジスタブリッジ回路でいったん交流に変換し、巻線トランスにて低電圧に降圧した後、整流処理および平滑化を行って所定電圧の直流電圧を生成する回路である。降圧回路210は、その出力ラインである降圧電源ライン211の電圧をモニタして出力電圧が目標電圧(例えば、42〜46V)となるように作動する。
回生電力消費回路220は、スイッチング素子221と抵抗素子222とを直列に設けた回路で、降圧電源ライン211とグランドとの間に設けられる。回生電力消費回路220は、図示しないスイッチ制御回路により、降圧電源ライン211の電圧をモニタして、モニタ電圧が設定電圧を超えていない通常時においてはスイッチング素子221をオフ状態に維持し、モニタ電圧が設定電圧を越えた回生電力発生時においてスイッチング素子221をオン状態に切り替える。これにより、電動モータ20で発生した回生電力を抵抗素子222の発熱により消費できるように構成されている。
降圧DC−DCコンバータ200の出力電圧は、電動モータ20の駆動用電源としてアシストECU100に供給される。以下、降圧DC−DCコンバータ200からアシストECU100に供給された直流電源をモータ駆動電源と呼び、その電源ラインをモータ電源ライン150と呼ぶ。またモータ駆動電源の電圧をモータ電源電圧Vmと呼ぶ。
モータ駆動回路120は、モータ電源ライン150とグランドライン160とのあいだに設けられ、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)からなる6個のスイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLにより3相インバータ回路を構成したものである。具体的には、U相上スイッチング素子SUHとV相上スイッチング素子SVHとW相上スイッチング素子SWHとを並列接続した上アームSHと、U相下スイッチング素子SULとV相下スイッチング素子SVLとW相下スイッチング素子SWLとを並列接続した下アームSLとを直列に接続し、上アームSHと下アームSLとの間から、電動モータ20への電力供給ライン121U,121V,121Wを引き出した構成を採用している。
モータ駆動回路120には、電動モータ20に流れる電流を検出する電流センサ122が設けられる。この電流センサ122は、各相(U相,V相,W相)ごとに流れる電流をそれぞれ検出し、その検出した電流値に対応した検出信号をインタフェース140を介してCPU110に出力する。以下、この測定された3相の電流値をモータ電流Imと総称する。
インタフェース140には、回転角センサ21、操舵トルクセンサ22、車速センサ23、電流センサ122が接続される。インタフェース140は、これらのセンサからモータ回転角θm、操舵トルクTr、車速v、モータ電流Imを表す信号を入力し、CPU110で読み取り可能な信号に変換する。
CPU110は、インタフェース140から入力した操舵トルクTrおよび車速vに基づいて運転者の操舵操作に応じた目標操舵アシストトルク(操舵トルクTrが大きいほど大きく、車速vが大きいほど小さくなる目標操舵アシストトルク)を設定し、目標操舵アシストトルクをトルク定数で除算して目標電流値(モータ制御量)を算出する。そして、CPU110は、モータ電流Imをフィードバックして、目標電流値で表される電流が電動モータ20に流れるように目標電圧を設定し、駆動IC130に目標電圧に応じたデューティ比のPWM制御信号を出力する。尚、CPU110は、電動モータ20を2相回転磁束座標系(d−q座標系)を用いた電流ベクトル制御を行うため、モータ回転角θmからモータ電気角を算出し、このモータ電気角を使ってd−q座標軸を検出する。
CPU110の出力するPWM制御信号は、モータ駆動回路120の各スイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLをオン,オフするために駆動IC130に出力されるパルス信号である。図2、図3においては、CPU110の出力する各スイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLに対応するPWM制御信号をU,/U,V,/V,W,/Wという符号を使って表している。
駆動IC130は、スイッチ駆動回路131とロジック回路132と電圧比較器133とを備えている。電圧比較器133は、降圧DC−DCコンバータ200の出力電圧であるモータ電源電圧Vmと予め設定した過電圧検出用の設定電圧とを比較し、モータ電源電圧Vmが設定電圧を越えていないときに出力信号がローレベルとなり、モータ電源電圧Vmが設定電圧を越えているときに出力信号がハイレベルとなるように構成されている。CPU110には、車載低圧バッテリ(図示略)から供給された12V電源をレギュレータ(図示略)にて一定電圧(例えば、5V)にした制御系電源(安定電源)が供給されている。電圧比較器133は、モータ電源電圧Vmを分圧した電圧と、制御系電源電圧Vcを分圧した電圧とを比較することにより、モータ電源電圧Vmと設定電圧との比較結果を出力する。本実施形態においては、電圧比較器133は、デファレンシャルが設定されており、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHを越えると出力信号がローレベルからハイレベルとなり、その後、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHより低いオフ設定電圧VrefLにまで低下すると出力信号がハイレベルからローレベルに戻るように構成されている。以下、電圧比較器133の出力信号を比較判定信号と呼ぶ。
ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wと電圧比較器133の出力する比較判定信号を入力する。そして、比較判定信号がローレベルである場合は、CPU110のPWM制御信号をそのままスイッチ駆動回路131に出力する。スイッチ駆動回路131は、ロジック回路132から出力された信号を増幅してモータ駆動回路120の各スイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLのゲートに出力する。従って、スイッチ駆動回路131は、CPU110のPWM制御信号を増幅したゲート信号UH,UL,VH,VL,WH,WLを各スイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLに出力する。
一方、比較判定信号がハイレベルである場合は、ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wのうち、モータ駆動回路120の上アームSHに係るPWM制御信号U,V,Wをローレベルに固定した信号に変換し、モータ駆動回路120の下アームSLに係るPWM制御信号/U,/V,/Wをハイレベルに固定した信号に変換し、それら変換した信号をスイッチ駆動回路131に出力する。つまり、ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wに関わらず、ローレベルに固定したPWM制御信号U,V,Wとハイレベルに固定したPWM制御信号/U,/V,/Wをスイッチ駆動回路131に出力する。従って、スイッチ駆動回路131は、ローレベルに固定したゲート信号UH,VH,WHをスイッチング素子SUH,SVH,SWHに出力し、ハイレベルに固定したゲート信号UL,VL,WLをスイッチング素子SUL,SVL,SWLに出力する。
次に、ステアリング機構10に逆入力が働いたときに発生する逆起電力の処理について説明する。車両の走行中において、例えば、タイヤが縁石に衝突したケースなど、タイヤからステアリング機構10に大きな逆入力が働くと、電動モータ20の回転子が回され、電動モータ20が発電機として作用し逆起電力により電源側に電流が戻される。本明細書においては、電動モータ20が発電した逆起電力により電動モータ20から電源側に戻される電力あるいは電流を回生電力あるいは回生電流と呼ぶが、実際に高圧バッテリ300に電力回生されるものではない。
ステアリング機構10に逆入力が働いていないときは、電動モータ20において回生電力が発生しない。電圧比較器133では、モータ電源電圧Vmと設定電圧VrefHとを比較することにより、回生電力の発生を常時検出している。この設定電圧VrefHは、回生電力が発生していない通常時においては、モータ電源電圧Vmよりも大きくなるような値に設定されている。ステアリング機構10に逆入力が働くと、電動モータ20の回転子が強制的に回されて電動モータ20で回生電力が発生する。これによりモータ電源ライン150の電圧、つまり、モータ電源電圧Vmが上昇する。このとき、降圧DC−DCコンバータ200に設けられた回生電力消費回路220においては、スイッチング素子221がオンして、回生電流を抵抗素子222に流して回生電力を消費する。従って、モータ電源電圧Vmの上昇を抑えることができる。しかし、回生電力が回生電力消費回路220の内部電力消費能力を超えるほど大きい場合には、モータ電源電圧Vmが更に上昇してしまう。そうした場合には、モータ電源電圧Vmが、モータ電源ライン150から電源供給を受ける駆動IC130の耐電圧を越えてしまうおそれがある。
そこで、本実施形態においては、駆動IC130内に電圧比較器133とロジック回路132とを備え、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefH(駆動IC130の耐電圧以下に設定されている)を超えたときに、モータ駆動回路120に対して、電動モータ20に制動ブレーキが働くような通電パターンのゲート信号を出力するようにする。この場合、CPU100のソフトウエア処理を用いずに、ロジック回路132による信号処理にてモータ駆動回路120へ出力するゲート信号を生成する。
図3に示すように、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefH以下である場合には、電圧比較器133の出力する比較判定信号はローレベルを維持する。この場合、ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wをそのままスイッチ駆動回路131に出力する。また、スイッチ駆動回路131は、PWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wを増幅したゲート信号UH,UL,VH,VL,WH,WLをモータ駆動回路120に出力する。従って、各スイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLが所定のデューティ比でオンオフして、指令された電流が電動モータ20に流れる。こうして、所望の操舵アシストが得られる。
図4の時刻t1に示すように、ステアリング機構10に逆入力が働くと、電動モータ20の回転子が回されて回生電力を発生し、この回生電力によりモータ電源電圧Vmが上昇し始める。そして、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHを越えると(時刻t2)、電圧比較器133の出力する比較判定信号はローレベルからハイレベルに切り替わる。この場合、CPU110は、図3に示すように、そのまま目標電圧に応じたデューティ比のPWM制御信号を出力するが、ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wのうち、モータ駆動回路120の上アームSHに係るPWM制御信号U,V,Wをローレベルに固定した信号に変換し、モータ駆動回路120の下アームSLに係るPWM制御信号/U,/V,/Wをハイレベルに固定した信号に変換し、それら変換した信号をスイッチ駆動回路131に出力する。従って、スイッチ駆動回路131は、図3に示すように、上アームSHのスイッチング素子SUH,SVH,SWHに対しては、ローレベルのゲート信号UH,VH,WHを出力し、下アームSLのスイッチング素子SUL,SVL,SWLに対しては、ハイレベルのゲート信号UL,VL,WLを出力する。これにより、図4に示すように、上アームSHのスイッチング素子SUH,SVH,SWHがオフ固定状態(デューティ比0%)となり、下アームSLのスイッチング素子SUL,SVL,SWLがオン固定状態(デューティ比100%)となる。
これにより、電動モータ20の3相の通電端子がモータ駆動電源から切り離されるとともに、通電端子が互いに短絡される。従って、図5に示すように、電動モータ20のコイルに回生電流(発電電流)が還流し、電動モータ20にブレーキ制動力が発生する。この結果、電動モータ20の回転速度が低下して電動モータ20で発生する回生電力(逆起電力)が低下する。このように電動モータ20にブレーキ制動力が発生するようにモータ駆動回路120のスイッチング素子を駆動するパターンをモータブレーキ通電パターンと呼び、通常時においてモータ駆動回路120のスイッチング素子を駆動するパターンを通常通電パターンと呼ぶ。こうして、モータ電源電圧Vmが低下してオフ設定電圧VrefLを下回ると(図4の時刻t3)、電圧比較器133の出力する比較判定信号がハイレベルからローレベルに切り替わる。これにより、ロジック回路132は、モータ駆動回路120の通電パターンを、モータブレーキ通電パターンから通常通電パターンに切り替える。つまり、CPU110から出力されるPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wをそのままスイッチ駆動回路131に出力するパターンに切り替える。従って、スイッチ駆動回路131は、PWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wを増幅したゲート信号UH,UL,VH,VL,WH,WLをモータ駆動回路120に出力する。こうして、電動モータ20は、ブレーキ制動用の通電が解除されて通常状態に戻る。
電動モータ20は、モータブレーキ通電が解除されたとき、まだ逆入力が働いている場合には、その力により再び回転速度が増加していく。従って、回生電力の増加によりモータ電源電圧Vmが上昇する(図4の時刻t3〜t4参照)。そして、時刻4において、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHを越えると、再び、駆動IC130は、モータ駆動回路120に対して上述したモータブレーキ通電パターンに切り替える。こうして、電動モータ20の回転速度が低下して電動モータ20で発生する回生電力(逆起電力)が低下する。そして、時刻t5において、モータ電源電圧Vmが低下してオフ設定電圧VrefLを下回ると、駆動IC130は、モータブレーキ通電パターンから通常通電パターンに切り替える。
この結果、モータ電源電圧Vmの上昇が抑えられ、モータ電源電圧Vmが駆動IC130の耐電圧を越えてしまうといった不具合を防止することができる。また、本実施形態においては、モータブレーキ通電パターンと通常通電パターンとの切替は、CPU110のソフトウエア処理で行わずに、全てロジック回路132にて行うようにしているため、ソフトウエア処理の負担がないためタイムラグを最小限に抑えることができる。従って、逆入力により回生電力消費回路220の内部電力消費能力を超える回生電力が発生しても、駆動IC130を適切に保護することができる。
次に、変形例に係る電動パワーステアリング装置について説明する。上述した実施形態の電動パワーステアリング装置においては、ステアリング機構10に大きな逆入力が働いているあいだ、モータブレーキ通電パターンと通常通電パターンとが交互に繰り返される。つまり、モータ駆動回路120の通電パターンがハンチングする。そこで、この変形例においては、大きな逆入力が働いている期間が長い場合であっても、通電パターンのハンチングを抑制する構成を採用している。
変形例の電動パワーステアリング装置は、図6に示すように、アシストECU100内に、電力供給ライン121U,121V,121Wを開閉するリレーRU,RV,RWを備えるとともに、このリレーRU,RV,RWを駆動するリレー駆動回路170を備えている。リレー駆動回路170は、CPU110に接続され、CPU110から出力されるリレー制御信号に基づいてリレーRU,RV,RWを開閉駆動する。具体的には、リレー制御信号がハイレベル信号(以下、リレーオン信号と呼ぶ)の場合には、リレーRU,RV,RWをオン状態(接点を閉状態)にして電動モータ20の通電回路を形成し、リレー制御信号がローレベル信号(以下、リレーオフ信号と呼ぶ)の場合には、リレーRU,RV,RWをオフ状態(接点を開状態)にして電動モータ20の通電回路を遮断する。
このリレー制御信号は、ロジック回路132にも出力される。また、CPU110は、電圧比較器133の出力する比較判定信号を入力するように構成されている。この変形例においては、上述した実施形態に、リレーRU,RV,RW、および、リレー駆動回路170を追加するとともに、以下に説明するロジック回路132の機能およびCPU110の処理を追加したものであり、他の構成については、上述した実施形態のものと同じである。
次に、変形例におけるアシストECU100の動作について説明する。ロジック回路132は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wとリレー制御信号と、電圧比較器133の出力する比較判定信号を入力する。そして、比較判定信号がローレベル信号であり、かつ、リレー制御信号がリレーオン信号である場合は、CPU110のPWM制御信号をそのままスイッチ駆動回路131に出力する。従って、この場合には、上述した通常通電パターンにより電動モータ20が駆動制御される。
また、ロジック回路132は、比較判定信号がハイレベル信号であり、かつ、リレー制御信号がリレーオン信号である場合は、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wのうち、モータ駆動回路120の上アームSHに係るPWM制御信号U,V,Wをローレベルに固定した信号に変換し、モータ駆動回路120の下アームSLに係るPWM制御信号/U,/V,/Wをハイレベルに固定した信号に変換し、それら変換した信号をスイッチ駆動回路131に出力する。従って、この場合には、上述したモータブレーキ通電パターンにより電動モータ20にブレーキ制動が働く。
また、ロジック回路132は、リレー制御信号がリレーオフ信号である場合は、比較判定信号のレベルに関わらず、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wを全てローレベルに固定した信号に変換してスイッチ駆動回路131に出力する。従って、この場合には、モータ駆動回路120の全てのスイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLがオフ状態になる。
次に、CPU110のリレー制御処理について説明する。図8は、CPU110の実行するリレー制御ルーチンを表す。リレー制御ルーチンは、操舵アシスト制御と並行してイグニッションスイッチがオンしているあいだ実行される。
リレー制御ルーチンが起動すると、CPU110は、ステップS11において、リレー制御信号としてリレーオン信号を出力する。従って、リレー駆動回路170がリレーRU,RV,RWをオン状態にして、電動モータ20の通電回路が形成される。続いて、ステップS12において、電圧比較器133の出力する比較判定信号を読み込み、ステップS13において、比較判定信号がハイレベルになっているか否かを判断する。ハイレベルになっていない場合(S13:No)、つまり、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHを超えていない場合には、その処理をステップS12に戻す。従って、電動モータ20で大きな回生電力が発生していない状況においては、こうした処理が繰り返される。
逆入力が働いて電動モータ20が強制的に回されると、回生電力が増加してモータ電源電圧Vmが上昇する。そして、図7の時刻t11に示すように、モータ電源電圧Vmが設定電圧VrefHを越えると、電圧比較器133の出力する比較判定信号がハイレベルになり、ステップS13の判断が「Yes」となる。
この場合、ロジック回路132は、スイッチ駆動回路131への通電を通常通電パターンからモータブレーキ通電パターンに切り替えるため、モータ駆動回路120の上アームSHのスイッチング素子SUH,SVH,SWHがオフ固定状態(デューティ比0%)となり、下アームSLのスイッチング素子SUL,SVL,SWLがオン固定状態(デューティ比100%)となる。従って、電動モータ20の端子間が短絡されてモータコイルに回生電流が還流し、電動モータ20に制動ブレーキが働いて回転速度が低下する。
モータブレーキ通電が開始されると、CPU110は、その処理をステップS14に進めてモータ電流Imを検出する。リレー制御ルーチンは、操舵アシスト制御と並行して行われるため、CPU110は、操舵アシスト制御で検出するモータ電流Imを読み込む。そして、ステップS15において、モータ電流Imが設定電流Iref未満になっているか否かを判断する。モータ電流Imが設定電流Iref以上である場合には、その処理をステップS14に戻す。モータコイルを還流する回生電流は、モータブレーキ通電が開始された時点(時刻t11)においては大きく、モータ回転速度の低下とともに減少する。従って、モータブレーキ通電が開始された当初においては、ステップS14,S15の処理が繰り返される。
こうして、モータ電流Imが減少して設定電流Iref未満となると(図7:時刻t12)、CPU110は、ステップS16において、リレー制御信号をリレーオフ信号に切り替える。従って、リレー駆動回路170がリレーRU,RV,RWをオフ状態にして電動モータ20の通電回路を遮断する。これにより、モータコイルに回生電流が流れないようになる。また、リレーオフ信号はロジック回路132にも出力される。このため、モータ駆動回路120の全てのスイッチング素子SUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLがオフ状態になる。この状態においては、電動モータ20は、逆入力に対して自由に回転できるようになる。このため、逆入力が働いている間は、電動モータ20の回転速度が増加する。尚、ステップS14,S15でモータ電流Imが設定電流Iref未満になるまで待つ理由は、リレーRU,RV,RWの溶着を防止するためである。従って、設定電流Irefは、予め設定されたリレー溶着防止用の電圧である。
CPU110は、ステップS16でリレー制御信号をリレーオフ信号に切り替えると、続くステップS17において、モータ回転速度ωを検出する。モータ回転速度ωは、回転角センサ21により検出されるモータ回転角θmを時間微分することにより求められる。続いて、ステップS18においてモータ回転速度ωが減少しているか否かを判断する。この判断は、モータ回転速度ωの時間微分値、つまり、モータ回転加速度を算出することにより行われる。逆入力が継続中であれば、モータ回転速度ωは増加していくため「No」と判断される。CPU110は、モータ回転速度ωが減少していない場合は、その処理をステップS17に戻して同様の処理を繰り返す。従って、モータ回転速度ωが減少し始めるまで待機することになる。尚、モータ回転速度ωは、モータ回転方向を区別するものではなく、モータ回転速度の大きさを表すものである。
モータ回転速度ωが減少し始めると、CPU110は、ステップS18において「Yes」と判定し、ステップS19において、モータ回転速度ωが設定速度ωref未満になっているか否かを判断する。CPU110は、モータ回転速度ωが設定速度ωref以上であれば、その処理をステップS17に戻して同様の処理を繰り返す。従って、モータ回転速度ωが設定速度ωref未満になるまで待機することになる。
図7の時刻13に示すように、モータ回転速度ωが低下して設定速度ωref未満になると、CPU110は、ステップS19において「Yes」と判断し、その処理をステップS11に戻す。つまり、逆入力が終了したと判断して、リレーオン信号を出力し、リレーRU,RV,RWをオン状態に戻す。この場合、モータ電源電圧Vmは、設定電圧VRefLよりも低下しているため、電圧比較器133の出力する比較判定信号はローレベルとなっている。従って、ロジック回路132は、リレーオン信号により、CPU110の出力するPWM制御信号U,/U,V,/V,W,/Wをそのままスイッチ駆動回路131に出力する通常通電パターンに戻す。
この変形例によれば、モータ駆動回路120への通電パターンのハンチングを抑制することができる。また、リレーRU,RV,RWの溶着を防止することができる。
以上、本実施形態の電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態では、駆動IC130内にロジック回路132と電圧比較器133とを内蔵しているが、これらを駆動IC130の外部にディスクリートで構成するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、モータブレーキ通電を行う場合、モータ駆動回路120の上アームSHのスイッチング素子SUH,SVH,SWHをオフ固定状態、下アームSLのスイッチング素子SUL,SVL,SWLをオン固定状態にしているが、上アームSHのスイッチング素子SUH,SVH,SWHをオン固定状態、下アームSLのスイッチング素子SUL,SVL,SWLをオフ固定状態にしてもよい。
また、本実施形態においては、降圧DC−DCコンバータ200内に回生電力消費回路220を設けているが、回生電力消費回路220を省略した構成であってもよい。
また、本実施形態においては、モータ20の発生するトルクをラックバー14に付与するラックアシスト式の電動パワーステアリング装置について説明したが、モータの発生するトルクをステアリングシャフト12に付与するコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置であってもよい。