JP2011140695A - 伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】引張強度が980MPa以上で、伸び12%以上と伸びフランジ性100%以上をともに満たす、成形性に優れた高強度冷延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:3.0%以下(0%を含む)、Mn:0.5〜5.0%、P:0.1%以下、S:0.005%以下、N:0.01%以下、Al:0.01〜1.00%を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、面積率で、フェライトが10%以上80%以下、マルテンサイトと残留オーステナイトの合計が5%未満(0%を含む)、残部が硬さ320Hv以上450Hv以下の焼戻しマルテンサイトからなる組織を有し、50μm×50μmの視野において観察される全フェライトの合計面積に対する、隣接する焼戻しマルテンサイトとの結晶方位差が5度以下であるフェライトの合計面積の割合が30%以上である高強度冷延鋼板。
【選択図】なし
Description
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含む)
Mn:0.5〜5.0%、
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
面積率で、フェライトが10%以上80%以下、マルテンサイトと残留オーステナイトの合計が5%未満(0%を含む)、残部が硬さ320Hv以上450Hv以下の焼戻しマルテンサイトからなる組織を有し、
50μm×50μmの視野において観察される全フェライトの合計面積に対する、隣接する焼戻しマルテンサイトとの結晶方位差が5度以下であるフェライトの合計面積の割合が30%以上である
ことを特徴とする、伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%
の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1または2に記載の伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
上述したとおり、本発明鋼板は、上記特許文献2、3の鋼板と近似の、主としてフェライトと焼戻しマルテンサイトからなる複相組織鋼をベースとするものであるが、特に、該焼戻しマルテンサイトの硬さが320Hv以上450Hv以下に制御されているとともに、フェライトとその周囲の焼戻しマルテンサイトの結晶方位差が適正に制御されている点で、上記特許文献2、3の鋼板とは相違している。
フェライトは伸びの確保に必須であり、適正量のフェライトと焼戻しマルテンサイトを主要組織とする複相組織にすることで、引張強度と伸びの両立が可能になる。一方で、フェライトの面積率が高すぎると、伸びフランジ性の低下に繋がるため好ましくない。
焼戻しマルテンサイトを一定以上の硬さにすることで引張強度を確保しつつ、一定以下の硬さに制限して該焼戻しマルテンサイトの変形能を高めることで、フェライトと該焼戻しマルテンサイトの界面への応力集中を抑制し、該界面で亀裂が発生し難くすることで伸びフランジ性を向上させる。
上述のように焼戻しマルテンサイトの硬さを一定以下の所定範囲に制御することによって、フェライトと焼戻しマルテンサイトの界面への応力集中を抑制することが可能になり、亀裂の発生防止や伸びフランジ性の向上に繋がる。しかしながら、この効果だけでは本発明で目指す高い伸びフランジ性を獲得するには不十分であり、フェライトとそれに隣接する焼戻しマルテンサイトの結晶方位差を適正に制御することによってはじめて所望の伸びフランジ性が得られる。
まず、フェライトの面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率2000倍で5視野観察し、画像解析によってセメンタイトを含まず等軸状の領域をフェライトとし、全組織に対するフェライト領域の面積比率よりフェライトの面積率を算出した。
次に、焼戻しマルテンサイトの硬さについては、JIS Z 2244の試験方法に従って各供試鋼板表面のビッカース硬さ(98.07N)Hvを測定し、下記式(1)を用いてマルテンサイトの硬さHvMに換算を行った。なお、下記式(1)は、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの硬さは焼戻しマルテンサイトの硬さに等しいと仮定して導出したものである。
ただし、HvF=102+209[%P]+27[%Si]+10[%Mn]+4[%Mo]−10[%Cr]+12[%Cu](藤田利夫ら訳:「鉄鋼材料の設計と理論」(丸善株式会社)、昭和56年9月30日発行、p.10の図2.1から、低Cフェライト鋼の降伏応力の変化に及ぼす各合金元素量の影響の度合い(直線の傾き)を読み取って定式化を行った。なお、Al、Nなどその他の元素はフェライトの硬さに影響しないとした。)
ここに、HvF:フェライトの硬さ、VF:フェライトの面積率(%)、[%X]:成分元素Xの含有量(質量%)である。
50μm×50μmの視野内を1万倍のSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察し、同視野内で観察される全フェライト粒のそれぞれについて、隣接する焼戻しマルテンサイト粒との結晶方位差を電子線後方散乱回折(EBSD)法で測定し、測定された結晶方位差が5度以下のフェライト粒の合計面積を、上記全フェライト粒の合計面積で除することにより、隣接する焼戻しマルテンサイトとの結晶方位差が5度以下のフェライトの割合を算出した。
C:0.03〜0.30%
Cは、マルテンサイトの面積率およびその硬さに影響し、引張強度および伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.03%未満ではマルテンサイトの面積率が不足するため引張強度が確保できず、一方、0.30%超ではマルテンサイトの硬さが高くなりすぎて伸びフランジ性が確保できない。C含有量の範囲は、好ましくは0.05〜0.25%、さらに好ましくは0.07〜0.20%である。
Siは、固溶強化により伸びと伸びフランジ性を低下させずに引張強度を高められる有用な元素である。3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.3〜2.5%、さらに好ましくは0.5〜2.0%である。
Mnは、固溶強化によって鋼板の引張強度を高くするとともに、鋼板の焼入れ性を向上させ、低温変態相の生成を促進する効果を有し、マルテンサイトの面積率を確保するために有用な元素である。0.5%未満では十分な焼入れ性が確保できず急冷時に十分なマルテンサイトの面積率を確保できないため、引張強度が得られない。一方、5.0%超とするとオーステナイトが多量に残存し、伸びフランジ性を低下させる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.7〜4.0%、さらに好ましくは1.0〜3.0%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により引張強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.005%以下とする。より好ましくは0.003%以下である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、ひずみ時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
AlはNと結合してAlNを形成し、ひずみ時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びフランジ性の劣化を防止するとともに、固溶強化により引張強度向上に寄与する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、ひずみ時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.00%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%
の1種または2種以上
これらの元素は、固溶強化により伸びと伸びフランジ性を低下させずに引張強度を高められる有用な元素である。各元素とも、上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加では焼入れ時にオーステナイトが多量に残存し、伸びフランジ性を低下させる。
Mg:0.0005〜0.01%
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0005%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行なう。熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、450〜700℃の範囲で巻き取る。熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率は30%程度以上とするのがよい。
焼鈍条件としては、加熱温度(焼鈍加熱温度)T1:Ac3〜1000℃に加熱し、保持時間(焼鈍保持時間)t1:3600s以下保持した後、該加熱温度T1からMf点以上Ms点以下の冷却停止温度(焼鈍冷却停止温度)T2まで 50℃/s以上の冷却速度R1で急冷する。
焼鈍時における加熱・保持の工程で完全にオーステナイトに変態させることで、その後の焼鈍時における冷却、再焼鈍時における再加熱・保持、再冷却の工程で所望の結晶方位関係を有するフェライトおよびマルテンサイトを得ることが可能になる。
冷却中にオーステナイトからパーライトやベイナイト組織が形成されることを抑制し、オーステナイトと所望の結晶方位関係を持つマルテンサイト組織を得るためである。なお、本急冷工程の終了時の所望組織は、オーステナイトとマルテンサイトの二相組織である。
再焼鈍条件としては、Ac1以上Ac3以下の加熱温度(再焼鈍加熱温度)T3に再加熱し、保持時間(再焼鈍保持温度)t3:600s以下保持した後、該加熱温度T3からMf点以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度R2で急冷する。ここで、上記焼鈍時において冷却停止温度T2まで急冷した後に当該再焼鈍時において加熱温度T4に再加熱する際には、冷却停止温度T2への急冷後直ちに(すなわち、t2=0)再加熱を開始してもよいし、一定時間t2保持した後に再加熱を開始してもよい。
焼鈍ままのマルテンサイトは非常に硬質であり、伸びフランジ性が低下する。引張強度を確保しつつ伸びフランジ性を確保するためにはマルテンサイト硬さを320Hv以上450Hv以下にする必要があり、そのためには加熱温度(焼戻し加熱温度)T4:300〜550℃の温度範囲に保持時間(焼戻し保持時間)t4:60s以上1200s以下保持するような焼戻し(再加熱処理)を行う必要がある。
Ac3(℃)=910-203・√[C]-15.2・[Ni]+44.7・[Si]+31.5・[Mo]-30・[Mn]-11・[Cr]-20・[Cu]+700・[P]+400[Al] …式(3)
Ms(℃)=550-361・[C]-39・[Mn]-20・[Cr]-17・[Ni]-10・[Cu]-5・[Mo]+30・[Al] …式(4)
ただし、[C]、[Ni]、[Si]、[Mo]、[Mn]、[Cr]、[Cu]、[P]、[Al]は、それぞれC、Ni、Si、Mo、Mn、Cr、Cu、P、Alの含有量(質量%)を示す。
鋼No.35は、焼戻し時の加熱温度T4が低すぎたことにより、焼戻しマルテンサイト硬さが高くなりすぎたために、伸びElおよび伸びフランジ性λが不足し、不合格となった。
鋼No.38は、焼戻し時の保持時間t4が短すぎたことにより、焼戻しマルテンサイト硬さが高くなりすぎたために、伸びElおよび伸びフランジ性λが不足し、不合格となった。
Claims (3)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含む)
Mn:0.5〜5.0%、
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
面積率で、フェライトが10%以上80%以下、マルテンサイトと残留オーステナイトの合計が5%未満(0%を含む)、残部が硬さ320Hv以上450Hv以下の焼戻しマルテンサイトからなる組織を有し、
50μm×50μmの視野において観察される全フェライトの合計面積に対する、隣接する焼戻しマルテンサイトとの結晶方位差が5度以下であるフェライトの合計面積の割合が30%以上である
ことを特徴とする、伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%
の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1または2に記載の伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。
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