以下、本発明に係る燃料供給ポンプの一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る燃料供給ポンプは、例えば自動車などの内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)などを対象としたコモンレール式燃料噴射システム1に搭載されている。図1は、コモンレール式燃料噴射システム1の概略構成を示している。はじめに、図1に基づきコモンレール式燃料噴射システム1について説明する。なお、本実施形態では、エンジンとしては、四輪自動車用の四気筒エンジンを想定している。
(コモンレール式燃料噴射システム)
コモンレール式燃料噴射システム1は、燃料タンク16内に溜められている燃料を汲み上げ、そして、汲み上げた燃料を加圧するサプライポンプ10、サプライポンプ10にて加圧された燃料を一時的に蓄積するコモンレール11、コモンレール11にて蓄積した燃料を各気筒の燃焼室に供給するインジェクタ14、および各部を制御する電子制御ユニット(以下、ECU:Electronic Control Unitという)(図示略)を備えている。
サプライポンプ10は、エンジンのクランク軸の回転運動と連動して回転駆動され、吸入側に接続された燃料配管20を介して燃料タンク16内に溜められている燃料を汲み上げ、そして、汲み上げた燃料を加圧し、コモンレール11に向けて吐出するポンプである。燃料配管20途中には、サプライポンプ10が汲み上げる燃料中に含まれる異物を除去する燃料フィルタ15が設けられている。サプライポンプ10は、ECUと電気的に接続されており、ECUからの制御信号によって、サプライポンプ10にて加圧された高圧燃料のコモンレール11への吐出量が制御される。
コモンレール11は、インジェクタ14に供給すべきサプライポンプ10にて加圧された高圧燃料を一時的に蓄積する蓄積装置である。コモンレール11は、高圧燃料配管21によりサプライポンプ10と接続され、供給配管22によりそれぞれのインジェクタ14と接続されている。さらに、コモンレール11には、コモンレール11内の燃料圧力が予め定められた上限値を超えたときに開弁してコモンレール11内の燃料圧力を逃がすプレッシャリミッタ12が取付けられている。プレッシャリミッタ12には、燃料タンク16に通じている第一リターン配管23が接続されており、プレッシャリミッタ12より排出された燃料は第一リターン配管23を通じて燃料タンク16に戻される。加えて、コモンレール11には、コモンレール11内の燃料圧力を計測し、計測した圧力値に応じた圧力信号を発生する圧力センサ13が取付けられている。圧力センサ13は、ECUと電気的に接続されており、上記圧力信号をECUに送信する。
コモンレール11内の燃料圧力は、ECUにて定めた目標レール圧となるように制御される。目標レール圧は、例えば、アクセル開度信号、エンジン回転速度信号といったエンジンの運転状態に基づいて定められるものである。ECUは、コモンレール11内の燃料圧力が上記目標レール圧となるようにサプライポンプ10から吐出される高圧燃料の吐出量を制御する。開弁することによりコモンレール11内の燃料を燃料タンク16へ戻すことが可能なプレッシャディスチャージバルブをコモンレール11に設け、ECUにてサプライポンプ10の吐出量を制御するとともに、プレッシャディスチャージバルブを開閉制御することにより、コモンレール11内の燃料圧力を制御するようにしても良い。
インジェクタ14は、コモンレール11内の高圧燃料を各気筒の燃焼室に供給する燃料噴射装置である。インジェクタ14には、供給配管22を介して高圧燃料が供給される。インジェクタ14には、ECUにて開閉制御される図示しない電磁弁が設けられている。ECUにてこの電磁弁を開閉制御することにより、インジェクタ14より噴射される燃料の噴射時期および噴射量が制御される。インジェクタ14に供給された高圧燃料のうち、噴射されなかった余剰燃料は、インジェクタ14に接続されている第二リターン配管24を通じて燃料タンク16に戻される。
(サプライポンプ)
以下、サプライポンプ10の構造について説明する。サプライポンプ10は、フィードポンプ部33、調量弁40、高圧ポンプ部50などから構成されている。フィードポンプ部33および高圧ポンプ部50は、図1に示すようにクランク軸の回転運動に連動して回転する駆動軸75にて駆動される。
なお、図1では、上記駆動軸75を紙面垂直方向となるように模式的に図示しているが、実際には、駆動軸75は、フィードポンプ部33を駆動する部分と高圧ポンプ部50を駆動する部分のそれぞれの部分の中心軸が同軸上に配置されるように構成されている。また、フィードポンプ部33、調量弁40および高圧ポンプ部50は、本体部31およびシリンダヘッド32a、32bからなるポンプハウジング30に組み込まれている。なお、本実施形態の高圧ポンプ部50は、本発明に係る燃料供給ポンプに相当する。
フィードポンプ部33は、吸入側に接続されている燃料配管20を介して燃料タンク16から燃料を汲み上げ、汲み上げた燃料を加圧した後、高圧ポンプ部50に向けて吐出するポンプである。本実施形態では、フィードポンプ部33は、インナロータ34およびアウタロータ35を有するトロコイド式のポンプであり、本体部31に組み込まれている。
インナロータ34とアウタロータ35との間には、インナロータ34の回転駆動に伴い周方向に移動し、その移動とともに容積が小さい状態から一旦大きくなり、その後再び小さい状態に変化する空間が形成される。フィードポンプ部33には、燃料配管20に接続される吸入通路90と、調量弁40に接続される吐出通路91と、が接続されている。吸入通路90は、両ロータ34、35間に形成される上記空間のうち、容積が小さい状態のときの空間と連通する位置に接続されており、吐出通路91は、上記空間のうち、容積が一旦大きくなり再び小さくなったときの空間と連通する位置に接続されている。このように構成されているフィードポンプ部33によれば、両ロータ34、35の間に形成される空間の容積がインナロータ34により変化することで、燃料タンク16内の燃料が吸入通路90を介して上記空間に吸入され、圧力が高められた後、吐出通路91より吐出される。
フィードポンプ部33には、吐出通路91より吐出される燃料の圧力を一定圧力以下とするためのレギュレートバルブ36が吸入通路90と吐出通路91との間に設けられている。さらにフィードポンプ部33には、上記空間にて加圧された燃料の一部を高圧ポンプ部50のカム室71に供給する供給通路92が接続されている。この供給通路92の途中には、この通路92の通路径よりも径の小さいカムオリフィス93が設けられている。これにより、必要以上の燃料がカム室71に供給されることを防ぐことができる。
調量弁40は、ソレノイド式の電磁弁であり、高圧ポンプ部50にて加圧する燃料の量を予め調整するためのものである。調量弁40の入口側には、上述の吐出通路91が接続され、出口側には、高圧ポンプ部50に通じる供給通路95が接続されている。調量弁40は、両通路91、95を連通する燃料通路41、軸方向に変位することにより当該燃料通路41の通路面積を調整するスプール42、およびスプール42の軸方向位置を調整するソレノイド43を有している。スプール42はソレノイド43に供給する電流量に応じてその軸方向位置が調整される。ソレノイド43への供給電流量は、ECUにて制御される。ECUがソレノイド43への供給電流量を制御することによって、高圧ポンプ部50が吸引する燃料量が制御される。
高圧ポンプ部50は、調量弁40にて量が調整された低圧側の燃料を加圧し、高圧側のコモンレール11に向けて吐出するポンプである。本実施形態にて使用する高圧ポンプ部50は、フィードポンプ部33より圧送され、調量弁40にて量が調整された燃料の圧力を、約220MPaまで高める。なお、本実施形態では、高圧ポンプ部50が加圧し、吐出した燃料が流通する燃料系を高圧燃料系といい、高圧ポンプ部50が加圧した高圧燃料の圧力よりも低い燃料が流通する燃料系を低圧燃料系ということとする。
次に、高圧ポンプ部50の構造について詳細に説明する。高圧ポンプ部50は、第一高圧ポンプ51a、第二高圧ポンプ51b、およびカム機構70などから構成されており、これらは本体部31およびシリンダヘッド32a、32bに組み込まれている。
第一高圧ポンプ51aおよび第二高圧ポンプ51bは、一つのカム機構70にて駆動され、調量弁40にて調量された燃料の圧力を高めるものである。第一高圧ポンプ51aは、プランジャ52a、吸入弁53a、吐出弁57aなどから構成されている。プランジャ52aは、シリンダヘッド32aに形成されている円筒状のシリンダ63aに対して、シリンダ63aの内壁面に接しながら軸方向に往復直線運動可能に支持されている。プランジャ52aの一方の端部側には、カム機構70が設けられ、他方の端部側には、プランジャ52aおよびシリンダ63aにて形成される加圧室62aが設けられている。
加圧室62aは、プランジャ52aが往復直線運動することによりその容積が変化する。プランジャ52aが加圧室62a側に移動すると、加圧室62aの容積が小さくなるので、加圧室62a内に流入した燃料の圧力が高まる。プランジャ52aがカム機構70a側に移動すると、加圧室62aの容積が大きくなので、加圧室62a内の燃料圧力が低圧燃料系の燃料圧力よりも低くなり、低圧燃料系の燃料が加圧室62a内に吸入される。加圧室62aは、吸入弁53aを介して供給通路95と接続されるとともに、吐出弁57aを介して第一吐出通路96とも接続されている。
吸入弁53aは、加圧室62aへの燃料の流入を許容するとともに、加圧室62aから供給通路95への逆流を妨げる弁である。吸入弁53aは、加圧室62aと供給通路95との間に設けられる弁座54a、弁座54aに離着座することにより、供給通路95と加圧室62aとを連通または遮断する弁体55a、および弁体55aを弁座54aに向けて付勢するスプリング56aを有する。弁体55aは、弁座54aに対して加圧室62a側に設けられ、かつ、加圧室62aおよび供給通路95内の燃料圧力が作用するように構成されている。
加圧室62a内の燃料圧力が供給通路95内の燃料圧力よりも低くなることにより弁体55aに発生する離座方向(加圧室62a側に向う方向)の推力が、スプリング56aの付勢力よりも上回ったとき、弁体55aは弁座54aから離座し、吸入弁53aが開弁する。
吐出弁57aは、コモンレール11への燃料の吐出を許容するとともに、コモンレール11側から加圧室62aへの逆流を妨げる弁である。吐出弁57aは、内壁面に弁座59aを有するとともに、加圧室62aと第一吐出通路96とを連通する弁室58a、弁室58aに収容され、弁座59aに離着座することにより加圧室62aと第一吐出通路96とを連通または遮断する弁体60a、および弁体60aを弁座59aに向けて付勢するスプリング61aを有する。第一吐出通路96には、コモンレール11に接続される高圧燃料配管21が接続されている。
弁体60aは、弁座59aに対してコモンレール11側に設けられ、かつ、弁室58aおよび加圧室62a内の燃料圧力が作用するように構成されている。加圧室62a内の燃料圧力が弁室58a内の燃料圧力よりも高くなることにより弁体60aに発生する離座方向(コモンレール11側に向う方向)の推力が、スプリング61aの付勢力よりも上回ったとき、弁体60aは弁座59aから離座し、吐出弁57aが開弁する。
第二高圧ポンプ51bは、カム機構70に対して周方向に第一高圧ポンプ51aと並んで設置されている。第二高圧ポンプ51bは、図1に示すように、カム機構70を挟んで第一高圧ポンプ51aとは反対側に設けられている。第一高圧ポンプ51aと第二高圧ポンプ51bの加圧行程期間はずれている。
第二高圧ポンプ51bも第一高圧ポンプ51aと同様、プランジャ52b、吸入弁53b、吐出弁57bなどから構成されている。プランジャ52bは、シリンダヘッド32bに形成されている円筒状のシリンダ63bに対して、シリンダ63bの内壁面に接しながら軸方向に往復直線運動可能に支持されている。プランジャ52bの一方の端部側には、カム機構70が設けられ、他方の端部側には、プランジャ52bおよびシリンダ63bにて形成される加圧室62bが設けられている。加圧室62bは、吸入弁53bを介して供給通路95と接続されるとともに、吐出弁57bを介して第二吐出通路97とも接続されている。
吸入弁53bは、加圧室62bへの燃料の流入を許容するとともに、加圧室62bから供給通路95への逆流を妨げる弁である。
吸入弁53bは、加圧室62bと供給通路95との間に設けられる弁座54b、弁座54bに離着座することにより、供給通路95と加圧室62bとを連通または遮断する弁体55b、および弁体55bを弁座54bに向けて付勢するスプリング56bを有する。
弁体55bは、弁座54bに対して加圧室62b側に設けられ、かつ、加圧室62bおよび供給通路95内の燃料圧力が作用するように構成されている。加圧室62b内の燃料圧力が供給通路95内の燃料圧力よりも低くなることにより弁体55bに発生する離座方向(加圧室62b側に向う方向)の推力が、スプリング56bの付勢力よりも上回ったとき、弁体55bは弁座54bから離座し、吸入弁53bが開弁する。
吐出弁57bは、コモンレール11への燃料の吐出を許容するとともに、コモンレール11側から加圧室62aへの逆流を妨げる弁である。吐出弁57bは、内壁面に弁座59bを有するとともに、加圧室62bと第二吐出通路97とを連通する弁室58b、弁室58bに収容され、弁座59bに離着座することにより加圧室62bと第二吐出通路97とを連通または遮断する弁体60b、および弁体60bを弁座59bに向けて付勢するスプリング61bを有する。第二吐出通路97は、シリンダヘッド32aに設けられている合流部98にて第一吐出通路96と合流している。これにより、第二吐出通路97に吐出された燃料は、合流部98、第一吐出通路96を経て、コモンレール11に接続される高圧燃料配管21に吐出される。
弁体60bは、弁座59bに対してコモンレール11側に設けられ、かつ、弁室58bおよび加圧室62b内の燃料圧力が作用するように構成されている。加圧室62b内の燃料圧力が弁室58b内の燃料圧力よりも高くなることにより弁体60bに発生する離座方向(コモンレール11側に向う方向)の推力が、スプリング61bの付勢力よりも上回ったとき、弁体60bは弁座59bから離座し、吐出弁57bが開弁する。
カム機構70は、駆動軸75により回転駆動されることにより、駆動軸75の回転運動を往復直線運動に変換し、その運動をプランジャ52a、52bに伝達する機構である。第一高圧ポンプ51aと第二高圧ポンプ51bとの間に設けられるカム機構70は、偏心カム72およびカムリング73を有する。カム機構70は、本体部31に設けられているカム室71に収容されている。偏心カム72は円柱状に形成され、駆動軸75とともに回転するように駆動軸75と一体的に設けられている。偏心カム72の中心軸は、駆動軸75の中心軸に対して偏心している。偏心カム72の外周には、駆動軸75の周りを自転せずに公転するカムリング73が設けられている。カムリング73は外形が四角柱形状で、円筒状の貫通孔74を有している。貫通孔74には、偏心カム72が、偏心カム72の外壁面と貫通孔74の内壁面とが接しながらカムリング73と周方向に相対移動可能に挿入されている。
図1に示すように、プランジャ52aのカム機構70側の端部は、図示しない付勢手段にて、カムリング73における駆動軸75の軸方向と直交する方向に形成されている四平面うちの一面に常に押付けられる。プランジャ52bのカム機構70側の端部も上記プランジャ52aと同様に、図示しない付勢手段にて、駆動軸75の中心軸を挟んで上記一面と対向する一面に常に押付けられている。このようにカムリング73はプランジャ52a、52bにて挟まれているため、偏心カム72が回転駆動すると、カムリング73は偏心カム72の中心軸周りを自転せずに、駆動軸75の中心軸周りを公転する。このようにカムリング73が公転運動することにより、プランジャ52a、52bはそれぞれシリンダ63a、63b内を往復直線運動する。プランジャ52a、52bのストローク(上死点から下死点までの移動量)は、偏心カム72の中心軸と駆動軸75の中心軸との偏心量と一致する。偏心量が大きいと、プランジャ52a、52bのストロークが長くなり、第一、第二高圧ポンプ51a、51bの吐出容量が大きくなる。
本実施形態では、第一高圧ポンプ51aおよび第二高圧ポンプ51bが、カム機構70を挟んで対向するように設置されているので、カムリング73が最も第一高圧ポンプ51a側に位置しているとき、プランジャ52aの頂面は上死点に位置し、プランジャ52bの頂面は下死点に位置することとなり、カムリング73が最も第二高圧ポンプ51b側に位置しているとき、プランジャ52aの頂面は下死点に位置し、プランジャ52bの頂面は上死点に位置することとなる。よって、本実施形態では、上述したように第一高圧ポンプ51aおよび第二高圧ポンプ51bがカム機構70を挟んで対向するように設置されているので、第一高圧ポンプ51aが加圧行程にあるとき、第二高圧ポンプ51bは吸入行程となる。
次に、第一高圧ポンプ51aの加圧室62a付近の構造について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、加圧室62a付近の構造を模式的に示している。なお、ここでは、第一高圧ポンプ51aについてのみ説明する。第二高圧ポンプ51bの加圧室62b付近の構造については、第一高圧ポンプ51aと構造が同じであるため、説明を省略する。図2中、シリンダ63a内に収容されている実線で示すプランジャ52aは、プランジャ52aが下死点に位置している状態を示しており、一点鎖線で示すプランジャ52aは、プランジャ52aが上死点に位置している状態を示している。また、実線で示す吸入弁53aの弁体55aはプランジャ52aが下死点に位置しているときの状態を示しており、一点鎖線で示す弁体55aはプランジャ52aが上死点に位置しているときの状態を示している。
シリンダ63aは、小径部83と、小径部83よりも内径が大きい大径部81とを有している。大径部81は、小径部83よりも吸入弁53a側に位置している。小径部83の内径は、プランジャ52aの径方向側壁面(以下、単に側壁面という)86と接しながら、プランジャ52aを往復直線運動させることが可能な大きさとなっている。シリンダ63aの内壁面80には、小径部83と大径部81との間に、小径部83から大径部81に向って内径が徐々に大きくなるような段差部85が形成されている。この段差部85は、図2に示すように、プランジャ52aの上死点と下死点との間に設けられている。
大径部81の内壁面82には、吐出弁57aの弁室58aと連通する開口部87が形成されている。図2に示すように、プランジャ52aが上死点に位置しているとき、大径部81の内壁面82とプランジャ52aの側壁面86との間には、加圧室62aにて加圧された高圧燃料が流通可能な隙間が形成される。これにより、開口部87がプランジャ52aの側壁面86と軸方向で重なっていても、高圧燃料をコモンレール11に向けて吐出することができる。
加圧室62aのプランジャ52aの頂面と対向する部分には、外縁部に吸入弁53aの弁座54aを有するとともに供給通路95と連通する開口部88が形成されている。吸入弁53aの弁体55aは、プランジャ52aが上死点に位置しているときにその頂面と弁体55aとが接触しないように弁座54aよりも加圧室62a側に設置されている。
次に、サプライポンプ10の作動を、図1〜図3を用いて説明する。ここでは、サプライポンプ10が正常に作動している場合について説明する。図3は、プランジャ52aの位置と加圧室62a内の圧力状態との関係、およびプランジャ52bをの位置と加圧室62b内の圧力状態との関係を模式的に示している。図3では、プランジャ52aの位置および加圧室62a内の圧力状態は、実線で表し、プランジャ52bの位置および加圧室62b内の圧力状態は、一点鎖線で表している。ここでは、コモンレール11内の燃料圧力を200MPaに調整する場合について説明する。
図中、横軸は、駆動軸75の回転角を示している。ここでは、プランジャ52aが下死点(BDC)に位置しているときの駆動軸75を0度(deg)としている。縦軸のうち上段は、加圧室62a、62b内の燃料圧力を示しており、下段は、下死点(BDC)から上死点(TDC)までのプランジャ52a、52bの位置を示している。
駆動軸75がエンジンにて駆動されて回転駆動すると、駆動軸75の回転動作によってフィードポンプ部33が駆動される。フィードポンプ部33は燃料タンク16より燃料を汲み上げ、加圧して調量弁40に向けて燃料を吐出する。またこのとき、駆動軸75の回転に伴い偏心カム72も回転するため、カムリング73が公転運動する。カムリング73の公転運動に伴い、第一高圧ポンプ51a、第二高圧ポンプ51bが駆動される。
カムリング73が公転運動すると、図3に示すように、第一高圧ポンプ51aのプランジャ52aは下死点から上死点に向けて移動するとともに、第二高圧ポンプ51bのプランジャ52bは上死点から下死点に向けて移動する(図3中の0〜180degを参照)。この期間では、加圧室62b内の燃料圧力はプランジャ52bの下死点への移動に伴い低下する。加圧室62b内の燃料圧力が低下し、上述した吸入弁53bの開弁条件が成立すると、吸入弁53bが開弁し、調量弁40にて調量された燃料が供給通路95を介して加圧室62bに流入する。このとき、加圧室62b内の燃料圧力は、コモンレール11側の燃料圧力よりも低くなっているため、吐出弁57bは閉弁している。
一方、加圧室62a内の燃料圧力はプランジャ52aの上死点への移動に伴い上昇する。加圧室62a内の燃料圧力が上昇し、吐出最大圧力である220MPa以上となり、上述した吐出弁57aの開弁条件が成立すると、吐出弁57aが開弁し、加圧室62aにて加圧された高圧燃料が吐出弁57aより吐出され、第一吐出通路96および高圧燃料配管21を介してコモンレール11に供給される。このとき、加圧室62a内の燃料圧力は、供給通路95内の燃料圧力よりも高くなっているため、吸入弁53aは閉弁している。
第二吐出通路97は、合流部98にて第一吐出通路96と接続されているため、第二吐出通路97を流れる燃料が加圧室62aより吐出される高圧燃料の影響を受けることとなる。しかしながら、第二吐出通路97と加圧室62bとの間には、吐出弁57bが設けられているので、加圧室62aから吐出された高圧燃料は加圧室62bに逆流せずにコモンレール11に向って進行することとなる。その後、駆動軸75がさらに回転すると、プランジャ52aは上死点から下死点に向けて移動するとともに、プランジャ52bは下死点から上死点に向けて移動することとなる(図3中の180deg以降を参照)。この期間では、加圧室62b内の燃料圧力はプランジャ52bの上死点への移動に伴い上昇する。
加圧室62b内の燃料圧力が上昇し、吐出最大圧力である220MPa以上となり、上述した吐出弁57bの開弁条件が成立すると、吐出弁57bが開弁し、加圧室62bにて加圧された高圧燃料が吐出弁57bより吐出され、第二吐出通路97、合流部98、第一吐出通路96および高圧燃料配管21を介してコモンレール11に供給される。このとき、加圧室62b内の燃料圧力は、供給通路95内の燃料圧力よりも高くなっているため、吸入弁53bは閉弁している。一方、加圧室62a内の燃料圧力はプランジャ52aの下死点への移動に伴い低下する。加圧室62a内の燃料圧力が低下し、上述した吸入弁53aの開弁条件が成立すると、吸入弁53aが開弁し、調量弁40にて調量された燃料が供給通路95を介して加圧室62aに流入する。このとき、加圧室62a内の燃料圧力は、コモンレール11側の燃料圧力よりも低くなっているため、吐出弁57aは閉弁している。
第一高圧ポンプ51aが吸入行程であって、第二高圧ポンプ51bが加圧行程の場合、上述した場合とは反対に、第一吐出通路96を流れる燃料が、加圧室62bより吐出される高圧燃料の圧力の影響を受けることとなる。しかしながら、第一吐出通路96と加圧室62aとの間には吐出弁57aが設けられているため、加圧室62bから吐出された高圧燃料は加圧室62aに逆流せずにコモンレール11に向って進行することとなる。
(特徴部分)
次に、本実施形態の特徴部分の構成を、図1および図2を用いて説明する。本実施形態では、上記の開口部87、88に加えて、小径部83の内壁面84に加圧室62aとカム室71とを連通する連通路99の開口部89が形成されている。
図2に示すように、開口部89は、プランジャ52aの上死点と下死点との間に位置するシリンダ63aにおける小径部83の内壁面84であって、プランジャ52aが往復直線運動することにより、プランジャ52aの側壁面86にて当該開口部89が塞がれる位置に形成されている。つまり、少なくともプランジャ52aが下死点の位置にあるとき、開口部89は開放されていることとなる。
図1に示すように、さらに、本実施形態では、上記連通路99の途中に、安全弁100が設けられている。安全弁100は、高圧ポンプ部50の正常作動時には発生し得ない加圧室62a、62b内の異常高圧状態時に、加圧室62a、62b内の燃料圧力を低圧燃料系であるカム室71に逃がすための逃がし手段である。安全弁100は、加圧室62a、62bからカム室71への燃料の流出を許容するとともに、カム室71から加圧室62a、62bへの燃料の流入を妨げる弁である。
この安全弁100は、構造が簡単な逆止弁であり、内壁面に弁座102を有する弁室101、弁室101に収容され、弁座102に離着座することにより、連通路99を連通または遮断する弁体103、および弁体103を弁座102に向けて付勢するスプリング104などから構成されている。
弁座102は、弁室101の加圧室62a、62b側の端部に設けられている。本実施形態では、弁体103としては球体のものを使用している。そして、スプリング104は弁体103よりも加圧室62a、62b側に常に弁体103に対して付勢力を付与するように設置されている。弁体103は、加圧室62a、62bおよびカム室71内の燃料圧力が作用するように構成されている。加圧室62a、62b内の燃料圧力がカム室71内の燃料圧力よりも大きくなることにより弁体103に発生する離座方向(カム室71側に向う方向)の推力が、スプリング104の付勢力よりも上回ったとき、弁体103は弁座102から離座し、安全弁100が開弁する。
本実施形態では、このときの加圧室62a内の燃料圧力を安全弁100の開弁圧とする。この開弁圧は、スプリング104の付勢力、および弁体103が受ける加圧室62a、62bおよびカム室71内の燃料圧力の受圧面積を調整することにより自由に設定できる。本実施形態では、安全弁100の開弁圧は、フィードポンプ部33が吐出する燃料の燃料圧力以上に設定されている。
さらに、本実施形態では、安全弁100の開弁圧は、供給通路95内の燃料圧力(よりも高く、高圧ポンプ部50がコモンレール11に向けて吐出する最大圧力である吐出最大圧力(本実施形態では220MPa)よりも低く設定されている(図3を参照)。
また、本実施形態では、プランジャ52aが下死点から上死点に向うにしたがい高められる加圧室62a内の燃料圧力が安全弁100の開弁圧となるときには、既にプランジャ52aの側壁面86にて開口部89が塞がれる位置に、開口部89が形成されている(図3を参照)。加圧室62b側の開口部89も図3と実質的に同じ位置に形成されている。
カム室71が形成されている本体部31には、フィードポンプ部33とカム室71とを連通する供給通路92およびカム室71と燃料タンク16に接続されている排出配管25とを連通する排出通路94が形成されている。このため、カム室71内の燃料圧力は、フィードポンプ部33よりも低い圧力となっている。本実施形態では、このようにカム室71内の燃料圧力も高圧ポンプ部50における燃料圧力よりも低い圧力となっているため、カム室71内も低圧燃料系の一部となる。
以下、第一高圧ポンプ51a側の吐出弁57aに異物が侵入した場合の問題と、安全弁100の作用効果について詳細に説明する。サプライポンプ10よりも上流には異物を捕捉する燃料フィルタ15が設けられてはいるが、燃料フィルタ15のフィルタエレメントの目よりも細かい異物や、燃料フィルタ15よりも下流側に設けられている部品同士が擦れるなどして発生した摩耗粉(異物)などが、高圧ポンプ部50に侵入することがあり、以下に記すような問題が発生することがある。
侵入した異物が、例えば、高圧ポンプ部50の吐出弁57a、57bのうち、吐出弁57aの弁体60aと弁座59aとの間に異物などが噛み込むと、吐出弁57aが閉弁時であっても、これらの間に隙間が形成されてしまう。これらの間に隙間が形成されると、吐出弁57aの逆流防止効果が低下するのでコモンレール11内の高圧燃料や加圧室62bから吐出される高圧燃料が加圧室62aに逆流することとなる。この結果、加圧室62a内の燃料圧力は、吸入行程期間であるにも係らず、加圧行程期間と同等の圧力となってしまう。つまり、加圧室62a内の燃料圧力は、常に加圧行程期間と同等の圧力が維持されることとなる。
ここで、カム機構70にてプランジャ52a、52bを往復直線運動させることにより、加圧室62a、62bの容積を変化させ、加圧室62a、62b内の燃料を加圧し、その加圧した燃料を吐出するという形式のポンプでは、加圧行程時にカム機構70におけるプランジャ52a、52bとの接触部分において、プランジャ52a、52bのスラスト力が作用するという特徴がある。
このスラスト力は、カム機構70とプランジャ52a、52bとの間の燃料を排除し、ひいては油膜切れを発生させる要因となる。油膜切れが発生すると、この部分において、貧潤滑が発生し、焼付きが発生する可能性が非常に高くなる。
なお、ポンプの正常動作時であれば、このスラスト力の発生期間は加圧行程期間に限られるため、当該接触部分における貧潤滑は発生しない。吸入行程期間中にスラスト力が低下し、当該接触部分に再び燃料が供給され、油膜が形成されるからである。
本実施形態では、サプライポンプ10に上述した安全弁100を設けているため、上述した問題の発生を回避することができる。すなわち、吐出弁57aに異物噛み込み異常が発生した場合、加圧室62bまたはコモンレール11からの高圧燃料が加圧行程・吸入行程に係らず常に加圧室62aに流入することとなり、スラスト力が常にカム機構70のプランジャ52aとの接触部分に作用することとなるが、加圧室62a内の燃料圧力が上述した安全弁100の開弁圧に達すると、安全弁100は開弁し、加圧室62aとカム室71とが連通する。
これにより、加圧室62a内の燃料圧力は低圧燃料系であるカム室71に逃げるため、特に吸入期間中の異常高圧状態を回避することができる。これによれば、吸入行程期間中のカム機構70におけるプランジャ52aとの接触部分に作用するスラスト力を低下させることができる。吸入行程期間中の当該接触部分におけるスラスト力を低下させることができるので、当該接触部分における貧潤滑の発生を抑制でき、カム機構70とプランジャ52aとの焼付きを抑制することができる。
上述したように、加圧室62aとカム室71との間に安全弁100を設ければ、加圧室62a内の燃料圧力が安全弁100の開弁圧を超えた場合に加圧室62a内の燃料圧力をカム室71に逃がすことができるので、吸入行程期間中のスラスト力を低下させることができる。しかしながら、安全弁100は、常に加圧室62aと通じているため、加圧行程期間中に加圧室62a内の燃料圧力が高まり、その圧力が安全弁100の開弁圧を超えると、加圧された燃料は、吐出弁57aからではなく安全弁100を介してカム室71に排出されてしまうおそれがある。これでは、燃料供給ポンプとしての機能を十分に発揮することができなくなる。
これに対して、本実施形態では、安全弁100に通じる連通路99の開口部89の形成位置を、プランジャ52aの上死点と下死点との間に位置する小径部83の内壁面84としているので、加圧行程途中において、当該開口部89をプランジャ52aの側壁面86にて塞ぐことが可能となる。側壁面86にて開口部89を塞ぐという構成によれば、加圧行程時における加圧室62a内の高圧燃料の安全弁100への流入を極力阻止することができる。よって、少なくともプランジャ52aが開口部89を塞いだ後に加圧された高圧燃料を、吐出弁57aを介してコモンレール11に向けて吐出させることができる。
ところが、プランジャ52aの側壁面86にて開口部89を塞ぐことができるような構成のものであっても、仮に開口部89の形成位置を図3に示す開口部89形成位置の範囲よりも上死点側とした場合には、加圧室62a内の燃料圧力が安全弁100の開弁圧を超えてからプランジャ52aが開口部89を塞ぐまでの間、加圧された高圧燃料が安全弁100を介してカム室71に排出されてしまう可能性がある。
これに対し、本実施形態では、開口部89の形成位置を、プランジャ52aが下死点から上死点に向けて移動し、加圧室62a内の燃料圧力が安全弁100の開弁圧にまで高まったときには既にプランジャ52aの側壁面86にて開口部89が塞がれる位置としている(図3中の開口部形成位置の範囲内)。このことによれば、加圧室62a内の加圧された全ての高圧燃料を、開口部89を介して安全弁100に流入させずに、吐出弁57aを介してコモンレール11に向けて吐出させることができる。
以上、吐出弁57a側に異物が侵入した場合の問題と、第一高圧ポンプ51aに設けられた安全弁100の作用効果について説明した。吐出弁57b側に異物が侵入した場合についても、第二高圧ポンプ51bに設けられている安全弁100は上記の場合と同じ作用効果を奏する。このため、ここでは、第二高圧ポンプ51bに設けられた安全弁100の作用効果の説明は省略する。
なお、本実施形態では、プランジャ52a、シリンダヘッド32a、吐出弁57aおよび安全弁100にて特許請求の範囲に記載の一つのポンプ機構を構成し、プランジャ52b、シリンダヘッド32b、吐出弁57bおよび安全弁100にてもう一つの特許請求の範囲に記載のポンプ機構を構成している。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
上記実施形態において、連通路99の接続先をカム室71とはせずに、燃料タンク16に通じる排出管に直接接続させても良い。また、上記実施形態では、大径部81、小径部83を有するシリンダ63a、63bを採用しているが、小径部83のみを有するシリンダを採用しても良い。この場合、安全弁100に通じる開口部89はプランジャ52a、52bの上死点と下死点との間に形成し、吐出弁57a、57bに通じる開口部87はプランジャ52a、52bの上死点位置よりも天井側に形成する必要がある。安全弁100に通じる開口部89は、上記実施形態と同様、プランジャ52a、52bが下死点から上死点に向けて移動し、加圧室62a、62b内の燃料圧力が安全弁100の開弁圧にまで高まったときには既にプランジャ52a、52bにて開口部89が塞がれるような位置に形成するのが最も好ましい。
さらに、上記実施形態では、逃がし手段として構造が簡単な逆止弁構造を有する安全弁100を採用しているが、電気的に作動する例えば電磁弁を採用しても良い。電磁弁を採用する場合、加圧室62a、62b内の燃料圧力を検出する圧力センサが必要となる。圧力センサからの検出信号に基づいて電磁弁の開閉が制御される。
また、電磁弁を採用する場合、圧力センサに加え、第一高圧ポンプ51a、第二高圧ポンプ51bの加圧・吸入行程を検出するために駆動軸75の回転位置を検出する回転位置センサを設け、回転位置センサからの検出信号に基づき、各ポンプ51a、51bの状態を算出し、吸入行程時に加圧室62a、62b内の燃料圧力が所定の圧力を超えたときのみ電磁弁を開弁制御するようにしても良い。このように回転位置センサを設けることにより、確実に吸入行程期間中の異常高圧状態を回避することができる。
上記実施形態では、燃料供給ポンプに相当する高圧ポンプ部50は、フィードポンプ部33を有するサプライポンプ10に組み込まれているが、高圧ポンプ部50は、フィードポンプ部33とは独立したポンプであっても良い。このような形態のポンプを備えるシステムである場合、フィードポンプ部33は燃料タンク16内に収容される電動式のポンプであっても良い。
上記実施形態では、高圧ポンプ部50に二つの高圧ポンプ51a、51bを備える形式のもので説明しているが、高圧ポンプを一つのみ有するものであっても、三つ以上の高圧ポンプを有するものであっても良い。
上記実施形態では、コモンレール式燃料噴射システム1はディーゼルエンジンを対象としたものであるが、ガソリンエンジンを対象としても良い。また、エンジンに供給する燃料はガソリンだけでなく、ガソリンにアルコール燃料を混入させたものであっても良いし、アルコール燃料のみであっても良い。