JP2011084666A - 熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、(C)オルガノシロキサン重合体であって、25℃で固体状態にあるもの0.1〜20重量部及び(D)アンチモン化合物0.01〜30重量部を含み、ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度が2000ppm以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(R1、R2及びR5〜R7は炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を、R3及びR4は炭素数1〜10のアルキレン基、アリーレン基又はこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を、nは0〜4の整数をそれぞれ独立に表す。)。

【選択図】なし

Description

本発明は、高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた成形体に関する。具体的には、ハロゲン系難燃剤を含有しなくても優れた難燃性を有し、同時に金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた成形体に関する。
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた特性から電気および電子機器部品、並びに自動車部品などに広く用いられている。従来からこの樹脂に関しては、要求特性を満足させるべく様々な処方が開発され、それにより高機能化と高性能化を実現してきた。
しかし近年、熱可塑性ポリエステル樹脂に対する要求物性は益々高度化してきており、従来の処方では対応が困難になってきている。例えば、最近はコネクターなどの電子部品の軽量小型化が進み、成形品の肉厚が薄くなってきている。従って成形に用いる樹脂組成物にも、これに対応すべく、従来以上に難燃性に優れていることが要求される場合がある。
従来、熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃性を向上させるために、塩素原子や臭素原子を含む化合物からなる難燃剤、いわゆるハロゲン系難燃剤が主に用いられていた。しかしハロゲン系難燃剤を含有する樹脂組成物は、使用済み成形品を焼却処分する際にダイオキシンを発生する場合があり、非ハロゲン系難燃剤を用いることが求められている。この要求に応える方法の一つとして、リン系の化合物、中でもアニオン部分が下記式(1)または(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム塩またはアルミニウム塩を難燃剤として用いることが検討されている。
(式中、R1、R2およびR5〜R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、またはこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
特許文献1には、ポリエステル樹脂の難燃剤として、このホスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩を用いる方法が記載されている。しかし、特許文献1に記載の方法では、軽量小型化したときに十分良好な難燃性を得る為には、非常に多量の難燃剤を添加することが必要であり、軽量小型化しつつ難燃性を高めることは難しかった。
これに対し、特許文献2には、熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃剤としてホスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩を用い、メラミンシアヌレートなどの有機窒素化合物を難燃助剤として併用する方法が記載されている。しかし、特許文献2に記載の方法では、成形時のガス発生が著しく多い為に金型汚染が多いという問題があった。
この問題に対して、特許文献3には、熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃剤としてホスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩を用い、メラミンシアヌレートに加えてさらにホウ酸金属塩を特定の比率で配合すると成形時のガス発生の問題が改善されることが記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法でも、分解開始温度が低いメラミンシアヌレートのような窒素系難燃剤を配合するだけでは成形時のガス発生が著しく改善されることはなく、依然として金型汚染の改善(以下、モールドデポジットの低減とも言う)と難燃性の向上を両立するという問題は解決していなかった。
一方、特許文献4には、熱可塑性ポリエステル樹脂の難燃剤として特殊な有機リン化合物を用い、これに難燃助剤を配合することが記載されている。難燃助剤としては多種類のものが挙げられており、そのなかにはそれ自体で難燃剤として知られているものも含まれている。この文献に記載されている難燃助剤は、有機物から無機物まで広範囲にわたっており、数多の難燃助剤の一例としてアンチモン化合物も記載されている。しかしながら、実際上、樹脂組成物においては各成分のバランスが重要であり、単に、難燃助剤だけを入れ替えた場合、同じような効果や性能を奏するか否かは全く不明である。また、アンチモン化合物を含む樹脂組成物の特性を検討した例も開示されていない。
また、特許文献5には、メタクリル樹脂組成物にリン系難燃剤と特定の粒径を規定した三酸化アンチモンを配合することで、難燃剤が本来有している難燃化効果を損なうことなく、優れた光拡散性能を付与できることが記載されている。しかしながら、特許文献5では、三酸化アンチモンの主たる効果は光拡散剤であるとしている。また、特許文献5には、三酸化アンチモンは一般にハロゲン系難燃剤との併用で難燃性向上について相乗効果を発揮することが記載されている。そのため、ハロゲン系以外の難燃剤に対してアンチモン化合物を難燃助剤として用いても、難燃性向上への寄与は小さいことが同文献から示唆される。また、同文献の実施例では実際にメタクリル樹脂組成物100質量部に対して三酸化アンチモンを0.45〜2.65配合した実施例が開示されているが、これらの実施例の耐燃性を測定した結果を同文献の比較例1の結果と比較すると、三酸化アンチモンの添加による難燃化向上効果はほとんど読み取ることができなかった。
近年、成形物の用途に応じ、各種の性能にバランスよく優れた樹脂組成物が求められている。一般的に、樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体は、各種機械等の部品として組み立てられるが、部品種名、製造会社、製造ロットナンバー等を明示するための印字が施され、その多くは印字速度の速いレーザーマーキングが用いられている。そして昨今では、部品の小型化などから、より鮮明な印字特性が要求され、且つ印字速度の向上による生産性向上の観点からレーザー印字性に優れた樹脂組成物が求められており、特に、高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、かつ、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が求められている。しかしながら、上述したとおり、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に何らかの添加剤を添加して、何らかの性能を向上させようとすると、他の性能に問題が起こってしまう場合が多い。また、従来難燃剤として用いられていた添加剤のうち、レーザー印字性を改善できることが知られている添加剤はなかった。そのため、上記性能を全て満たすような熱可塑性ポリエステル樹脂組成物はいまだ得られていないのが実情であった。
特開平8−73720号公報 特開平11−60924号公報 特開2006−117722号公報 国際公開WO2004/061008号公報 特公平8−16185号公報
上述のとおり、従来、種々の熱可塑性樹脂組成物が開示されているが、難燃性を有し、かつ、各種性能にバランスよく優れた組成物を構成することは困難であった。
本発明の目的は、上記課題を全て解決した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。すなわち、本発明で解決しようとする課題は、高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
かかる状況のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、熱可塑性ポリエステル樹脂に、特定のホスフィン酸塩系難燃剤を添加し、かつ、オルガノシロキサン重合体と、アンチモン化合物を特定の割合で添加することにより、高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、本発明では、アンチモン化合物の添加により、樹脂組成物の物性バランスを崩すことなく、レーザー印字性にも優れた組成物を得られることを見出した点に技術的意義がある。
具体的には、以下の手段により、上記課題は解決された。
(1) (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)下記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、(C)オルガノシロキサン重合体であって、25℃で固体状態にあるもの0.1〜20重量部および(D)アンチモン化合物0.01〜30重量部を含み、ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度が2000ppm以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(式中、R1、R2およびR5〜R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、またはこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
(2) 前記(C)オルガノシロキサン重合体が、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン重合体であることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3) 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、前記(C)オルガノシロキサン重合体の配合量が、0.1〜17重量部であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4) 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、前記(D)アンチモン化合物の配合量が、3〜27重量部であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(5) さらに、(E)強化充填材を、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、150重量部以下の割合で含むことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(6) 前記(C)オルガノシロキサン重合体の重量平均分子量が200〜10000であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(7) 前記(C)オルガノシロキサン重合体が、RSiO1.5(Rは有機基を示す。)で表される構造単位を含み、かつ前記(C)オルガノシロキサン重合体中の水酸基の含有量が1〜10重量%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(8) 前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(9) 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(10) (1)〜(9)のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形することを特徴とする成形体の製造方法。
(11) (10)に記載の成形体の製造方法で製造されたことを特徴とする成形体。
(12) (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(C)オルガノシロキサン重合体0.1〜20重量部および(D)アンチモン化合物0.01〜30重量部を配合してなるレーザー印字性の改良された樹脂組成物。
(13) (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(D)アンチモン化合物0.01〜30重量部を配合してなるレーザー印字性の改良された樹脂組成物。
本発明により、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚れが少なく、レーザー印字性に優れた組成物を得ることが可能になった。特に本発明では、これらの特性にバランスよく優れている点できわめて好ましい。
スパイラルフロー長さの測定で作成した渦巻き状長尺樹脂成形体の概略図を表す。
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
[熱可塑性ポリエステル樹脂組成物]
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(以下、本発明の樹脂組成物とも言う)は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)下記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、(C)オルガノシロキサン重合体であって、25℃で固体状態にあるもの0.1〜20重量部および(D)アンチモン化合物0.01〜30重量部を含み、ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度が2000ppm以下であることを特徴とする。
(式中、R1、R2およびR5〜R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、またはこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
このような樹脂組成物を採用することにより、ハロゲン系難燃剤を実質的に使用しなくても難燃性を確保しつつ、金型汚れが少なく、レーザー印字性に優れた樹脂成形品が得られる。
以下、該本発明の樹脂組成物について詳細に説明する。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂:
本発明の樹脂組成物の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合、又はこれらの化合物の混合物の重縮合などによって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステルなどのエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。オキシカルボン酸としてはパラオキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ジフェニレンオキシカルボン酸などが挙げられる。これらは単独で重縮合させることもできるが、ジカルボン酸化合物に少量併用することが多い。
ジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリオキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールが主として用いられるが、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどの芳香族ジオールやシクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールも用いることができる。
またこのような二官能性化合物以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三官能以上の多官能化合物や、分子量調節のための脂肪酸などの単官能化合物を少量併用することもできる。
本発明の樹脂組成物に用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物とからなる重縮合物、すなわち計算上、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物のエステルである構造単位が、樹脂全体の好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上を占めるものを用いる。ジカルボン酸化合物としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、ジヒドロキシ化合物としては脂肪族ジオールが好ましい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂として、このなかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95モル%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートであり、本発明では、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。これらはホモエステルに近いもの、すなわち樹脂全体の95重量%以上がテレフタル酸成分および1,4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物に用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリブチレンテレフタレートに、ポリエチレンテレフタレートを添加したものを用いることによって、本発明の好ましい態様の一つでは、電気絶縁特性を低下させずにグローワイヤー特性を向上させることができる。
本発明の樹脂組成物に用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は適宜選択して決定すればよいが、通常0.5〜2dl/gであることが好ましく、中でも樹脂組成物の成形性および機械的特性の観点から0.6〜1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が0.5dl/g以上のものを用いると、樹脂組成物から得られる成形品の機械的強度が十分高くなる傾向にあり、2dl/g以下であると樹脂組成物の流動性が向上し、成形性が向上する傾向にある。
なお、本明細書中において、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
(B)ホスフィン酸塩:
本発明の樹脂組成物に用いられるホスフィン酸塩は、アニオン部分が下記式(1)または(2)で表される塩である。また、本発明の樹脂組成物に用いられるホスフィン酸塩は、カチオン部分が、好ましくは、カルシウム又はアルミニウムであるものである。
式中、R1、R2およびR5〜R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、またはこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を表す。nは0〜4の整数を表す。
1、R2およびR5〜R7が表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、ペンチル基などが挙げられるが、炭素数1〜4のアルキル基、特にメチル基又はエチル基が好ましい。アリール基としては、フェニル基やナフチル基が挙げられ、これらに結合する置換基としてはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が挙げられる。
置換基の結合数は通常1〜2個である。アリール基はフェニル基又はこれに炭素数1〜2のアルキル基が1〜2個結合したものであるのが好ましい。
3およびR4が表すアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など直鎖状のもの、及び2−エチルヘキシレン基など分岐鎖状のものなどが挙げられる。
これらのなかでも好ましいのは炭素数1〜4のアルキレン基、とくにメチレン基又はエチレン基である。
3およびR4が表す置換されていてもよいアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられ、これに結合する置換基としては、上述のものと同様のものが挙げられる。置換基の結合数は通常は一個である。前記アリーレン基としてはフェニレン基又はこれに炭素数1〜2のアルキル基が結合したものが好ましい。これらの2つ以上の組み合わせからなる基としては、メチレン基とフェニレン基が結合したもの、メチレン基に2個のフェニレン基が結合したもの、フェニレン基に2個のメチレン基が結合したものなどが挙げられる。
前記nは0〜4の整数を表し、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0である。
前記ホスフィン酸塩は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、5〜60重量部配合する。配合量が5重量部以上であれば本発明の樹脂組成物の難燃性を十分に高くすることができ、逆に60重量部以下であれば樹脂組成物の機械的特性が低下し難く、モールドデポジットを少なくすることができる。難燃性とモールドデポジットを少なくすることを両立させる点からして、配合量は好ましくは10〜50重量部、より好ましくは15〜45重量部、特に好ましくは20〜45重量部である。
本発明で好ましく用いられるアニオン部分が前記式(1)で表されるホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n―プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジイソブチルホスフィン酸アルミニウムなどが挙げられる。
また、本発明で好ましく用いられるアニオン部分が前記式(2)で表されるホスフィン酸塩としては、メチレンビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、フェニレン−1、4−ビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、フェニレン−1,4―ビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム等などが挙げられ、前記式(2)においてn=0のものが好ましい。
本発明に用いるホスフィン酸塩は、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよく、アニオン部分が前記式(1)であらわされるホスフィン酸塩と(2)で表されるホスフィン酸塩とを併用してもよい。具体的には例えば、難燃性および電気特性を向上させる観点から、ホスフィン酸塩としては上述した中でもアニオン部分が(1)で表されるものが好ましく、特にジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩や、カルシウム塩が好ましい。また本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形体の機械的強度や外観の観点から、本発明に用いるホスフィン酸塩は、その90重量%以上が粒径100μm以下、特に50μm以下である粉末を用いるのが好ましい。中でも90重量%以上が粒径0.5〜20μmの粉末を用いることで、高い難燃性を発現し、かつ成形体の靭性が著しく高くなるので特に好ましい。なお、ここでの粒径とは、レーザー回折法により得られる値である。
(C)オルガノシロキサン重合体:
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、オルガノシロキサン重合体であって、25℃で固体状態にあるものを、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1〜20重量部の割合で含む。このように、本発明では、オルガノシロキサン重合体を含有することが必要である。このオルガノシロキサン重合体は、前述したホスフィン酸塩と組み合わせて用いることにより、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に高度な難燃性を付与する難燃剤として作用する。
その作用機序の一つは、樹脂組成物の燃焼に際し、オルガノシロキサン重合体が気化して樹脂組成物中に微小な気泡が多数生じ、この気泡の断熱作用により樹脂組成物がそれ以上燃焼するのが阻害されるものと推察される。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン重合体であることが好ましい。
具体的には、本発明で用いるオルガノシロキサン重合体は、有機シラノールないしはその重合体であって、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基、即ちSi−C又はSi−O−C結合を形成している有機基の40モル%以上がアリール基であることが好ましく、50モル%以上がアリール基であることがより好ましい。前記アリール基としてはフェニル基やナフチル基が挙げられ、これらの基にはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基など炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が1〜2個置換していてもよい。前記アリール基としては、中でもフェニル基が好ましい。
オルガノシロキサン重合体を含有するポリエステル樹脂組成物は、一般に燃焼時に滴下を起こし易いが、有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン重合体を含有する樹脂組成物は燃焼時に滴下し難く、かつ燃焼が大幅に抑制される。オルガノシロキサン重合体のこれらの作用は、一般に有機基に占めるアリール基の割合が高いほど大きい。従ってオルガノシロキサン重合体としては有機基の80モル%以上、さらには全て(100%)がアリール基、特にフェニル基であるものを用いるのが、特に好ましい。
オルガノシロキサン重合体としては、トリフェニルシラノールの様なモノマー、その環状4量体であるオクタフェニルテトラシクロシロキサンの様なオリゴマー、さらにはポリジフェニルシロキサンの様なポリマーの、いずれをも用いることができる。またこれらのフェニル基の一部は、メチル基やその他のアルキル基、メトキシ基やその他のアルコキシ基、フェノキシ基やその他のアリールオキシ基等に置換されていてもよい。
前記フェニル基は、その一部が水酸基に置換されていてもよいが、オルガノシロキサン重合体における水酸基の含有量が多過ぎると、高温多湿下において加水分解し易い。そのため、前記(C)オルガノシロキサン重合体中の水酸基の含有量は1〜10重量%であることが好ましい。
なお、上述したように、オルガノシロキサン重合体としてはモノマーやオリゴマーも用い得るが、重量平均分子量が200以上のポリマーを用いるのがモールドデポジットを低減する観点から好ましく、特に1000以上のポリマーを用いるのがより好ましい。オルガンシロキサン化合物の重量平均分子量としては10000以下であることが、前記熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性を向上させて均一な樹脂組成物の調整を容易にする観点から好ましく、中でも5000以下がより好ましい。ここで重量平均分子量とは、ゲル・パーメーション・クロマトグラフィー法(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
前記オルガノシロキサン重合体の中でも、特に好ましいのは、いわゆるシリコーンレジンである。シリコーンレジンは、通常は下記一般式(4)〜(6)で表されるD単位、T単位、Q単位などからなる重合体であり、末端は下記一般式(3)で表されるM単位で封止されていてもよい。
本発明に用いるシリコーンレジンとしては、RSiO1.5(Rは有機基を示す)で示されるT単位を含有するものが好ましく、特にT単位を多く含有するもの、具体的には50モル%以上、中でも80モル%以上含有するものが好ましく、特に末端封止基を除き全てがT単位からなるものが好ましい。
一般的に、T単位の含有量が少ないシリコーンレジンは、それ自体の耐熱性が低く、かつ樹脂組成物中での分散性も低い。ここでT単位の含有率は、29Si−NMRで測定した値、即ちこの測定でT単位に帰属するピーク面積比からその含有率を算出した値である。
前記一般式(3)〜(6)において、Rは、有機基を表し、好ましくは炭素数1〜12の一価の炭化水素基を表す。なお、各Rは同じでも異なっていてもよく、通常は、炭素数が1〜12のアルキル基、炭素数が2〜12のアルケニル基又は、炭素数が6〜12のアリール基のいずれかである。
前記炭素数が1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
前記炭素数が2〜12のアルケニル基としては、ビニル基、ブテニル基等が挙げられる。
前記炭素数が6〜12のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。なお、アリール基にはメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルキル基やアルコキシ基が1〜2個結合していてもよい。
また前記一般式(3)〜(6)において、Si−O−の酸素原子は、水素原子や炭化水素基と結合して水酸基や炭化水素オキシ基を形成するか、または2個のSi−O−が結合してSi−O−Si結合を形成している。酸素原子に結合する炭化水素基としては、前記一般式(3)〜(6)にRの好ましい範囲として示した炭素数1〜12の一価の炭化水素基と同様のものが挙げられる。
本発明では前記シリコーンレジンのうち、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基、即ちSi−CまたはSi−O−C結合を形成している有機基のうち40モル%以上が置換されていてもよいアリール基であるシリコーンレジンを用いることが好ましく、50モル%以上が、置換されていてもよいアリール基であるシリコーンレジンを用いることがより好ましい。また、前記アリール基は、好ましくはフェニル基である。
珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基のうちのアリール基の含有量が40モル%以上のシリコーンレジンは、熱可塑性ポリエステル樹脂への相溶性が高く、得られる樹脂組成物が所望の高い難燃性を示す。よってアリール基の含有量は該有機基の80モル%以上、中でも100%であることが好ましい。なお、アリール基の含有率も29Si−NMRによって測定可能であり、アリール−SiおよびSi−O−アリールに帰属するピーク面積比から含有率を算出できる。
また前記シリコーンレジンは、水酸基を少量含有することで難燃性が向上する場合がある。水酸基の含有量はシリコーンレジンの1〜10重量%であることが好ましく、中でも2〜8重量%であることがより好ましい。なお、シリコーンレジンは単独で、または2種以上を任意の割合で併用してもよい。
前記オルガノシロキサン重合体は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部配合する。また、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して0.5〜17重量部配合することが好ましく、0.5〜10重量部配合することがより好ましく、1.5〜10重量部配合することが特に好ましく、2〜7重量部配合することがより特に好ましい。
配合量が熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上であれば所望の難燃性を示すことができる。配合量が熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、20重量部以下であれば難燃性が向上する。これは樹脂組成物中のオルガノシロキサン重合体の量が多くなりすぎなければ、樹脂組成物の燃焼に際し気化したオルガノシロキサン重合体自体が燃焼してしまうことが少なく、かえって難燃性を低下させてしまうことが減るためと考えられる。
さらに、前記オルガノシロキサン重合体は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、多量(例えば10〜20質量部)添加した場合は電気絶縁特性(CTI)が一般的に低下してしまう傾向にある。一方、本発明の樹脂組成物の好ましい態様の一つでは、アンチモン化合物を本発明の範囲で添加することで、前記オルガノシロキサン重合体を熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、多量(例えば10〜20質量部)添加した場合であっても電気絶縁特性を向上させることができる。
(D)アンチモン化合物:
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、アンチモン化合物を、熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.01〜30重量部の割合で含む。アンチモン化合物を含むことにより、驚くべきことに、ホスフィン酸塩系難燃剤とオルガノシロキサン重合体だけでは発現されなかった難燃性の向上が認められた。また、同時にレーザー印字性が著しく向上する。これまでも、樹脂組成物の難燃性機能の付与には、ハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物を添加することは知られていたが、特定のホスフィン酸塩系難燃剤と特定のオルガノシロキサン重合体とアンチモン化合物を添加することにより、良好なレーザー印字特性を併せ持ち、かつ難燃性が向上することは全く予測されていなかった。
特に、樹脂組成物では、添加剤を追加することにより、流動性等の物性バランスが崩れやすいことが公知であるが、本発明の樹脂組成物は、アンチモン化合物を添加しても、そのような物性バランスが保たれている点で極めて好ましい。さらに、本発明者らの検討により、アンチモン化合物を添加することにより流動性やグローワイヤー性(特に、グロ−ワイヤー特性のうちの総燃焼時間の評価)が向上することも見出した。
本発明に用いるアンチモン化合物は、酸化アンチモンまたは酸化アンチモンと他の金属の複塩を使用するものであり、具体例としては、三酸化アンチモン(Sb23)、四酸化アンチモン(Sb24)、五酸化アンチモン(Sb25)等の酸化物或いはアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン酸塩が挙げられる。好ましくは三酸化アンチモン、五酸化アンチモンまたは五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩が使用される。五酸化アンチモンと他の金属酸化物との複塩として使用する態様としては、下記一般式(7)又は(8)で示されるアンチモン化合物を好ましい例として挙げることができる。
n1(X2O)・Sb25・m1(H2O) ・・・・・(7)
n2(YO)・Sb25・m2(H2O) ・・・・・(8)
(但し、Xは1価のアルカリ金属元素を表し、Yは2価のアルカリ土類金属元素を表し、n1およびn2は0〜1.5の数を表し、m1およびm2は0〜4の数を表す。m1、m2、n1およびn2は前記一般式(7)および一般式(8)においてそれぞれ独立して決定される。)
また、本発明に用いるアンチモン化合物は、下記一般式(9)で示されることがより好ましい。
n3(Na2O)・Sb25 ・・・・・(9)
(但し、n3は0.65〜1.5の数を示す。)
上記一般式(7)〜(9)中、Xとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられ、Yとしてはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。前記n1およびn2は、0〜1.5であり、0より大きいことが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.65〜1.5の範囲であることが特に好ましい。前記n1〜n3が0.65以上であると、吸着水の脱離速度が十分に大きいために、溶融粘度が変化しにくく好ましい。n1〜n3が1.5以下であると相対的なアンチモンの量が十分な量となり難燃助剤としての効果が十分に発揮される。前記m1〜m3は0〜4の数であり、好ましくは0〜2である。前記m1〜m3が4以下であればPBTがほとんど加水分解されないため好ましい。特に、耐加水分解性の点からNa2O・Sb25(n3=1)で表される酸化ナトリウムと五酸化アンチモンの1対1の複塩が好ましく、例えば日産化学社よりNA−1070L等の商品名で市販されているものが好ましいアンチモン化合物の例として挙げられる。
アンチモン化合物の添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは3〜27重量部であり、より好ましくは4〜27重量部であり、中でも好ましくは4〜25重量部であり、特に好ましくは4〜15重量部である。このような範囲とすることにより、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の難燃性、流動性、およびレーザー印字性が向上する。
アンチモンの平均粒径は、0.3〜50μmであることが好ましく、中でも0.4〜20μm、特に0.4〜10μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることがより特に好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の柔軟性等の諸物性や、難燃性が向上する傾向にある。
なお、上述したアンチモン化合物の平均粒径とは、セディグラフ(X線透過式粒度分布測定装置)により測定して得られた粒度分布において、積算重量分布が50%となる粒径を示す。セディグラフは、沈降中の懸濁液にX線を照射し、そのX線透過量から粒度分布を測定する装置である。
本発明に用いるアンチモン化合物は、乾式粉砕法、湿式粉砕法等の、従来公知の任意の方法を用いて粉砕し、所定の粒径に調整することができる。粉砕手段としては、ボールミル、ローラーミル、ジェットミル、振動ミル、遊星ミル、撹枠ミル等の粉砕手段が挙げられる。
また、本発明に用いるアンチモン化合物は、シランカップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いてもよい。表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には例えばシランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等の表面処理剤が挙げられる。
これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましい。アミノシラン系カップリング剤としては、具体的には例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが、好ましい例として挙げられる。
本発明の効果を損ねない範囲であれば、前記アンチモン化合物の表面処理に用いるシランカップリング剤等の表面処理剤には、他の成分、具体的には例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤及び撥水剤等を含んでいてもよい。
このような表面処理剤による表面処理方法としては、具体的には例えば、特開2001−172055号公報、特開昭53−106749号公報等に記載の方法のように、表面処理剤により予め表面処理してもよく、または本発明のポリエステル樹脂組成物を調製の際に、未処理のアンチモン化合物とは別に、表面処理剤を添加して表面処理することもできる。
(E)強化充填材:
熱可塑性樹脂組成物には、その成形品の剛性を高めるため、ガラス繊維などの強化充填材を配合することが行われているが、強化充填材を配合した樹脂組成物で成形した製品は、燃焼時に強化充填材が蝋燭の芯のように作用するので、燃焼し易いという問題があった。
従って、強化充填材を配合した樹脂組成物を、ホスフィン酸のカルシウムまたはアルミニウム塩で難燃化するには、格別の工夫が必要である。しかしながら、本発明者らが検討した結果、本発明の樹脂組成物の好ましい態様の一つとして、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、150重量部以下の割合で添加することにより、難燃性を低下させずに、機械的強度を高めた樹脂組成物を得ることが可能であることを見出した。
本発明で用いることのできる強化充填材とは、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物の機械的性質を向上させる効果を有するものであり、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、常用のプラスチック用無機充填材を用いることができる。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維などの繊維状の充填材を用いることができる。なかでも機械的強度、剛性および耐熱性の点からガラス繊維を用いるのが好ましい。また炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、カーボンブラック、ガラスビーズなどの粒状または無定形の充填材;タルクなどの板状の充填材;ガラスフレーク、マイカ、グラファイトなどの鱗片状の充填材を用いることもできる。
前記(E)強化充填材の配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、好ましくは150重量部以下、より好ましくは5〜120重量部である。5重量部以上とすることにより、補強効果を十分に奏し、また150重量部以下とすることにより、流動性を良好に保ちつつ、機械的特性(特に靱性)を高くすることが可能になる。
従来から、強化充填材を添加すると、流動性が低下することが知られているが、本発明の樹脂組成物の好ましい態様では強化充填材を添加しても流動性が低下しないという点で有益である。
(ホウ酸金属塩)
本発明においては、上述した成分に加えて更に、ホウ酸金属塩を用いてもよい。ホウ酸金属塩を形成するホウ酸としては、オルトホウ酸、メタホウ酸等の非縮合ホウ酸;ピロホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸及び八ホウ酸等の縮合ホウ酸;並びに塩基性ホウ酸等が好ましい。これらと塩を形成する金属はアルカリ金属でもよいが、中でもアルカリ土類金属、遷移金属、周期律表2B族金属等の多価金属が好ましい。またホウ酸金属塩は水和物であってもよい。
前記ホウ酸金属塩としては、非縮合ホウ酸金属塩と、縮合ホウ酸金属塩とがある。非縮合ホウ酸金属塩としては、オルトホウ酸カルシウム、メタホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;オルトホウ酸マンガン、メタホウ酸銅等の遷移金属ホウ酸塩;メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩などが挙げられる。これらのなかではメタホウ酸塩が好ましい。
前記縮合ホウ酸塩としては、四ホウ酸三マグネシウム、ピロホウ酸カルシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩;四ホウ酸マンガン、二ホウ酸ニッケル等の遷移金属ホウ酸塩;四ホウ酸亜鉛、四ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属のホウ酸塩等が挙げられる。塩基性ホウ酸塩としては塩基性ホウ酸亜鉛、塩基性ホウ酸カドミウム等の周期律表2B族金属の塩基性ホウ酸塩等が挙げられる。またこれらのホウ酸塩に対応するホウ酸水素塩(例えばオルトホウ酸水素マンガン等)も使用できる。
本発明に用いることができるホウ酸金属塩としては、アルカリ土類金属または周期律表2B族金属塩、例えばホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類を用いるのが好ましい。ホウ酸亜鉛類には、ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B23)やホウ酸亜鉛・3.5水和物(2ZnO・3B23・3.5H2O)等が含まれ、ホウ酸カルシウム類にはホウ酸カルシウム無水物(2CaO・3B23)や焼成物等が含まれる。これらホウ酸亜鉛類やホウ酸カルシウム類の中でも特に水和物が好ましい。
ホウ酸金属塩の配合により、樹脂組成物の燃焼阻止作用が向上する。現象的には、燃焼に際し発泡して未燃焼部分を炎から遮断する。ホウ酸金属塩の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して通常は0〜20重量部であるが、配合効果を発現させるためには1重量部以上配合することが好ましい。また、過剰に配合しても添加量増加に見合う効果の向上は頭打ちとなるので、ホウ酸金属塩の配合量は熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して1〜10重量部、中でも1〜5重量部であることが好ましい。
(添加剤)
更に本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨に反しない限りの範囲において、熱可塑性樹脂組成物に常用されている種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、耐加水分解抑制剤(エポキシ化合物、カルボジイミド化合物など)、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤などが挙げられる。特に酸化防止剤及び離型剤の添加は効果的である。これらの添加剤の添加量は、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、通常、10重量部以下であり、好ましくは5重量部以下である。
また、乳化重合法で得られたポリテトラフルオロエチレンやヒュームドコロイダルシリカなどを添加して、燃焼時の滴下防止をより確実にすることもできる。
(その他の樹脂)
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、前記熱可塑性ポリエステル樹脂以外のその他の熱可塑性樹脂を補助的に用いてもよく、高温において安定な樹脂であることが好ましい。前記その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイドエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等が挙げられる。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記熱可塑性ポリエステル樹脂の割合は、全樹脂成分中、30〜100%であることが好ましく、40〜100%であることがより好ましい。
(ハロゲン系難燃剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物全体におけるハロゲン系難燃剤由来の塩素原子及び臭素原子(以下、これらを個別に又は併せてハロゲン原子という。)の濃度は2000ppm以下である。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物やそれを用いた成形体を燃焼した時のダイオキシン類の発生をできるだけ少なくする観点から、ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度は1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、検出されないことが最も好ましい。本発明でいうハロゲン系難燃剤とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物を燃焼させたときにダイオキシン類の発生を引き起こす難燃剤であって、ハロゲン原子を有しているものを意味する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤由来であるか否かを問わず、ハロゲン濃度が2000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、500ppm以下であることがさらに好ましく、100ppm以下であることがさらにより好ましく、検出されないことが最も好ましい。
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物におけるハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度は、一般的に蛍光X線測定によって測定することができる。
(熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の調製は、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フイーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする。
前記射出成形する方法としては特に制限はなく、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、公知の方法を用いることができる。
また、本発明の成形体の好ましい態様としては、例えば、特許第4262774号公報に記載の態様を挙げることができるが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(測定方法、評価方法)
樹脂組成物の評価は、以下の方法により行った。
曲げ強度:
厚さ1.6mmのアンダーライターズラボラトリーズのサブジェクト94(以下、UL94と記す。)の燃焼試験片を射出成形し、これを用いてスパン間40mm、試験速度2mm/minの条件にて曲げ試験を実施した。
この曲げ試験は、数値が大きいほど、機械的特性に優れることを表し、20MPa以上であることが好ましい。
難燃性テスト:
UL94の方法に準じ、5本の試験片(厚さ0.4mmまたは0.8mm)を用いて難燃性テストを行い、UL94記載の評価方法に従い、V−0、V−1、V−2、HBに分類した(V−0が最も難燃性が高いことを示す)。総燃焼時間(total燃焼時間)は、5本の合計燃焼時間(第一接炎時、第二接炎時の燃焼時間を含む)である。
また、前記総燃焼時間は、30秒以下であることが好ましい。
赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature)試験(略称:GWIT試験):
厚み0.75mm平板試験片について、IEC60695−2−13に定める試験法に従って行った。具体的には、所定形状の赤熱棒(外形4mmのニッケル/クロム(80/20)線をループ形状にしたもの)を30秒間接触させ、着火しない先端の最高温度より25℃高い温度として定義される。
この試験には、以下の背景がある。近年、電気電子部品における電気安全性に対する要求が、以前にも増して厳しくなりつつある。例えば、最近改定された国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、略称IEC)のIEC60335−1規格によると、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品のうち、通常の動作中に0.2Aを超える定格電流が流れる接続部を支持している電気絶縁部品、およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁部品(プリント回路基板、端子台、プラグなど)の材料は、赤熱棒着火温度(Glow−wire Ignition Temperature、略称:GWIT)が0.75mm厚みで775℃以上であることを満足させることが要求されている。
比較トラッキング指数試験(略称:CTI試験):
試験片(厚さ3mmの平板)について、国際規格IEC60112に定める試験法によりCTIを決定した。CTIは固体電気絶縁材料の表面に電界が加わった状態で湿潤汚染されたとき、100Vから600Vの間の25V刻みの電圧におけるトラッキングに対する対抗性を示すものであり、数値が高いほど良好であることを意味する。CTIは500V以上であるのが電気絶縁特性として好ましい。
ガス評価として以下の二つの試験を行い評価した。
1)モールドデポジット:
射出成形機として住友重機械(株)製SE50を用い、射出圧力50MPa射出速度80mm/sec、シリンダー温度270℃、射出時間3sec、冷却8sec、金型温度80℃、ザックバック3mmの条件で、長さ35mm、幅14mm、厚さ2mmの樹脂成形品を、ピンゲート金型を用いて製造した。
この条件で連続的に射出成形し、1000ショット実施後、金型に付着しているモールドデポジットの状態(金型汚染性)を肉眼で観察し、次の判定基準に従って評価した。
◎:モールドデポジットがほとんど認められない。
○:モールドデポジットがうっすらと認められる。
△:モールドデポジットがはっきりと認められる。
×:モールドデポジットが金型全面に厚く付着している。
2)発生ガス総量(GC−MS)(単位:μg/g樹脂=ppm):
試料樹脂を約0.02g秤量し、サンプル管に入れ、島津製作所社製のTD−20、カラムUA1701を使用し、ヘリウム30ml/minの気流下、270℃で10分間熱処理し、−20℃に冷却したクライオトラップで発生ガス総量を捕集した。
条件としては、カラムUA1701(50℃・2min保持後、260℃(10℃/10min)昇温後、さらに300℃(5℃/10min))を使用し、注入口温度270℃で捕集したガスをGCに導入し、発生ガスのトータルイオンクロマトグラムを測定し、n−デカンを内部標準として検出量を作成して定量した(単位:μg/g樹脂=ppm)。
この発生ガス総量は、数値が小さいほど、モールドデポジットに優れることを表し、300ppm以下であることが好ましい。
流動性:
樹脂組成物のスパイラルフロー長さを、射出成形機として住友重機械(株)製SE50を用いて評価した。射出圧力170MPa、射出速度100mm/sec、シリンダー温度270℃、射出時間2sec、冷却7sec、金型温度80℃、ザックバック1mmの条件とした。また評価した樹脂成形品の形状は、断面が肉厚1mm、幅1.5mmの、長尺状樹脂成形品であり、渦巻き状となったものである。この渦巻き状長尺樹脂成形品を図1に示す。図1中、中央の部材はゲート1を表し、この渦巻き状長尺樹脂成形品の大きさは、長尺状樹脂成形品の中心間距離として、(長軸方向の寸法h1)×(短軸方向の寸法h2)=90mm×105mmである。
このスパイラルフロー長さは、数値が大きいほど、流動性に優れることを表し、180mm以上であることが好ましい。
離型性:
樹脂温度270℃、金型温度80℃、サイクル25秒の条件で、ファナック製射出成形機(α−100iA)を用いて、浅いコップ形状(肉厚3mm、外径100mm、深さ20mm)の成形品を連続射出成形し、突き出しピンの痕の有無を目視観察することにより離型性を測定した。ピンの痕がはっきりと認められるものを×、かすかに認められるものを○、認められないものを◎とした。
レーザー印字性:
(1)レーザーマーキング性評価方法:
射出成形機(住友重機械工業社製 型式SE100)を用い、樹脂温度260℃、金型温度80℃で、縦横それぞれ100mm、厚さ3mmの平板試験片を製造した。
上記テストピースに次の条件でNd−YAGレーザーにより、レーザーマーキングを行い、評価した。
装置は、日本電気社製 マーカーエンジン SL475H/HFを用い、大出力:50W以上、レーザーマーキングの出力電流値:10Aまたは15A、発振波長:1060nm、超音波Qスイッチ:2KHz、スキャニング速度:200mm/secとした。マーキング図柄は、2枚のプレートに各々、異なるマーキングを施した。1枚のプレートには20×20mmの正方形を塗りつぶす様にマーキングさせ、別の1枚には計10文字のアルファベット(ABCDEFGHIJ)を、フォント5mmでマーキングした。
レーザーマーキング性の判定は、レーザーマーキング処理を施した2枚のプレートを目視にて観察し、総合的に判断し、次の判断基準に基づき◎、○、△、×のランクに分けた。
◎:極めて、鮮明なマーキングがなされており、良好に認識が可能。
○:鮮明なマーキングがなされており、容易に認識が可能。
△:マーキングの図柄の認識は可能である。
×:全くマーキングがなされてない、もしくは図柄の認識が困難である。
また、レーザーマーキング性評価(レーザ−マーキング部の認識度合い)は、元々の素材から、レーザーマーキング処理によって、どの程度色が変わったかを数値化して判断した。具体的には、20×20mmの正方形を塗り潰すようにレーザーマーキング処理し、レーザーマーキング前後の盛り上がり発泡高さを、3Dレーザー顕微鏡(キーエンス社製:VK−8700)を用いて観察し、印字部の盛り上がり発泡高さを評価した。この盛り上がり発泡高さは、数値が大きいほど、光の乱反射により、レーザー印字部の視認性に優れる傾向があることが明白となる。
(原料)
実施例および比較例で使用した原料は、以下の通りである。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂:
(A−1)PBT:三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン(登録商標)5020、固有粘度1.20dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂。
(A−2)PBT:三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン(登録商標)5008、固有粘度0.85dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂。
(A−3)PBT:三菱化学(株)製、ノバペット(登録商標)PBK1、固有粘度0.64dl/g(フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定)。
(A−4)PTMG共重合体PBT(ポリエステルエーテル共重合体):三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン(登録商標)5510、ポリテトラメチレンエーテルグリコールユニット(数平均分子量=約1016)含量20重量%を共重合したポリブチレンテレフタレート樹脂。Tg=22℃ 固有粘度=1.3dl/g(フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの1:1(重量比)の混合溶媒中、30℃で測定)。
(B)ホスフィン酸塩:
(B−1)ジエチルホスフィン酸アルミニウム:クラリアント社製 OP1240(商品名)。
(C)オルガノシロキサン化合物:
(C−1)シリコーン化合物−1:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 217Flake(商品名)、重量平均分子量(Mw):2000、水酸基含有量:7重量%、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合しているフェニル基の含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/2)0.57。
(C−2)シリコーン化合物−2:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 TMS217(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:2重量%、フェニル基含有量:100モル%、(C−1)のシリコーン化合物にトリメチルシリル基で末端封止処理を施したシリコーンレジン。
(C−3)シリコーン化合物−3:小西化学工業製 SR−21(商品名)、Mw:3800、水酸基含有量:6重量%、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.48
(C−4)シリコーン化合物−4:小西化学工業製 SR−20(商品名)、Mw:6700、水酸基含有量:3重量%、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:(PhSiO3/21.0(HO1/20.24
(C−5)シリコーン化合物−5:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH6018(商品名)、Mw:2000、水酸基含有量:6重量%、フェニル基含有量:70モル%、プロピル基30モル%、平均分子式:(PhSiO3/20.7(ProSiO3/20.3(HO1/20.48
(C−6)シリコーン化合物−6:信越化学工業社製 X40−9805(商品名)、メチルフェニル系オルガノシロキサン、フェニル基含有量:50モル%。
(C−7)シリコーン化合物−7:東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 Z6800(商品名)、トリフェニルシラノール、フェニル基含有量:100モル%、平均分子式:Ph3SiOH。
(C−8)シリコーン化合物−8:信越化学工業社製、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、Mw:793、水酸基含有量:0重量%、フェニル基含有量100モル%、平均分子式:以下の一般式(10)。
(C−9)東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 DC4 7081 シリカ担持シリコンパウダ−メタクリル基を有するポリジメチルシロキサン60重量%を、シリカ40重量%に担持させて粉末化したもの、水酸基含有量:0重量%、フェニル基含有量0モル%。
なお、前記ホスフィン酸塩(C−1)〜(C−9)は、全て、25℃で固体状態を示す。
(C−10)東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH200(商品名)、ポリジメチルシロキサン、Mw:4×104、水酸基含有量0重量%、フェニル基含有量重量0モル%、粘度60000センチストークス、25℃で固体状態にない。
(D−1)硼酸亜鉛:BORAX社製、2ZnO・3B23・3.5H2O、平均粒径:9μm。
(D−2)アンチモン化合物−1:日産化学社製、NA1070L(商品名)無水アンチモン酸ナトリウム、Sb含有量63.2%、構造式=Sb25・Na2O又はNaSbO3、平均粒径:1μm。
(D−3)アンチモン化合物−2:鈴祐化学社製、AT−3CN(商品名)三酸化アンチモン、Sb含有量83.5%、構造式=Sb23、平均粒径:0.9μm。
(E−1)ガラス繊維:オーエンス・コーニング社製 03JA−FT592(商品名)、直径10.5μm。
(F−1)シアヌル酸メラミン:サンケミカル社製、MCA(商品名)、平均粒径:5μm。
(F−2)ポリリン酸メラミン:チバ・スペシャル社製、melapur200/70(商品名)、平均粒径:8μm。
(G)フッ素系樹脂:住友3M社製 TF1750(商品名)。
(H−1)酸化防止剤:チバ・スペシャリティーケミカルズ社製 フェノール系酸化防止
剤 イルガノックス1010(商品名)。
(H−2)リン系安定剤:旭電化社製 アデカスタブPEP36(商品名)。
(H−3)リン系安定剤:モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物(ADEKA製「アデカスタブAX−71」)。
(H−4)離型剤:日本精鑞社製 パラフィンワックス FT100(商品名)。
(H−5)滑剤:ステアリン酸カルシウム、日本油脂社製。
(H−6)顔料:カーボンブラック、三菱化学社製、MCF #960、粒子径:16nm。
[実施例1〜22、比較例1〜14]
下記表1および2に示す重量比で、ガラス繊維以外の成分を一括してスーパーミキサー(新栄機械社製SK−350型)で混合した。得られた混合物をL/D=42の2軸押出機(日本製鋼所社製、TEX30HSST)のホッパーに投入し、ガラス繊維を添加する場合はガラス繊維をサイドフィードして、吐出量20kg/h、スクリュー回転数250rpm、バレル温度260℃の条件下で押出して、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを上記評価方法に応じた試験片に成形した。尚、使用した原料は全て、塩素原子や臭素原子を含まない構造の物質であり、実施例および比較例では「ハロゲン系難燃剤」を用いていないので、得られる樹脂組成物の「ハロゲン濃度」は0ppmである。
上記表1および2の結果から、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に比べ、高い難燃性を有し、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れていることがわかった。
また、実施例3〜22より、強化充填剤を添加することで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は高い難燃性を有し、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れた性質を全て維持したまま、さらに機械的強度も向上できることができることがわかった。
また、実施例21、22のような、芳香環濃度が高い樹脂を採用することにより、グローワイヤー特性(GWIT)が改善していることが認められる。さらに、このような樹脂を採用することにより、電気絶縁特性(CTI)が低下することが周知であるが、本発明では驚くべきことに、低下が認められなかった。
比較例1および2から、ホスフィン酸塩およびオルガノシロキサン重合体を含まない場合、アンチモン化合物を添加しても難燃性は低いことがわかった。また、比較例3から、ホスフィン酸塩のみを含まない場合でも、オルガノシロキサン重合体およびアンチモン化合物を添加しても難燃性は依然として低いことがわかった。
比較例4から、オルガノシロキサン重合体およびアンチモン化合物を含まない場合、ホスフィン酸塩のみを添加しても難燃性は十分に改善できず、さらにレーザー印字性も悪いことがわかった。また、比較例5から、オルガノシロキサン重合体のみを含まない場合でも、ホスフィン酸塩およびアンチモン化合物を添加しても難燃性は依然として低いことがわかった。
さらに、比較例6から、ホスフィン酸塩の添加量が本発明の範囲を下回る場合、オルガノシロキサン重合体およびアンチモン化合物を添加しても難燃性は十分に改善できないことがわかった。
比較例7から、アンチモン化合物を含まない場合、ホスフィン酸塩およびオルガノシロキサン重合体を添加してもレーザー印字性が低いことがわかった。なお、この場合はスパイラル流動長も小さく、流動性も悪かった。また、実施例7と比較例7を比較すると、アンチモン化合物を添加することで、驚くべきことに難燃性がさらに向上し、流動性が大幅に向上し、レーザー印字性が顕著に改善されることがわかった。
比較例8から、アンチモン化合物を含まない場合、熱可塑性ポリエステル樹脂の種類を変更し、ホスフィン酸塩およびオルガノシロキサン重合体の添加量を増加させても、レーザー印字性は依然として改善しなかった上、逆に難燃性までもが低下することがわかった。また、比較例11、13および14より、アンチモン化合物を含まない場合において、ホスフィン酸塩およびオルガノシロキサン重合体の添加量を大幅に変動させても、レーザー印字性も難燃性も改善しないことがわかった。
比較例9および10から、シアヌル酸メラミンやポリリン酸メラミンといった含窒素化合物を用いた場合、モールドデポジットが発生してしまうことがわかった。
比較例12より、本発明の範囲外の25℃で液体であるオルガノシロキサン重合体(C−10)を用いた場合、難燃性が不十分であることがわかった。さらに、実施例4、5、7等と、比較例12との比較から、同じ量のアンチモン化合物を添加しても、オルガノシロキサン重合体として、本発明の範囲内のものを採用する方が、レーザー印字性がより優れる傾向にあることがわかった。
また、比較例14と実施例20の比較から、オルガノシロキサン重合体の配合量を高くした場合であっても、アンチモン化合物を添加することで、電気絶縁特性と難燃性を同時に顕著に向上させることができることがわかった。
また、通常、フィラーを比較的多く含む組成物においては、該フィラーが結晶性樹脂であるPBTの結晶核となり結晶化を促進してしまい流動性が低下することが知られているが、フィラーの一種であるアンチモン化合物を含んでいても、本発明の組成物では、流動性が低下しないばかりか、向上する傾向にあることが認められた。
[実施例101〜122]
さらに、実施例1〜22のブロム濃度を、本明細書中に上述した方法を用いて測定したところ、いずれも500ppm以下であることを確認した。すなわち、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は焼却時にダイオキシンの発生量も少ない。
以上より、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は高い難燃性を有し、焼却時にダイオキシンの発生量が少なく、金型汚染が少なく、レーザー印字性に優れることがわかった。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、次のような特徴を有するものとすることができる。
(1)厚さ1mm以下の成形品とした場合でも優れた難燃性を有する。
(2)ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度を2000ppm以下とでき、全く含有せずとも、難燃性を十分に確保できるので、焼却時にダイオキシンを発生せず、環境汚染が少ない。
(3)金型汚れ(モールドデポジット)が極めて少ないので成形に際しての生産性を向上させることができる。
(4)射出成形品へのレーザー印字が可能であり、銘柄等の表記が可能であり利用価値が高い。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のより好ましい態様では、次のような特徴を有するものとすることもできる。
(5)離型性に優れたものとすることができるので、成形に際し、変形などの恐れを減少させることができる。
(6)流動性に優れたものとすることができるので、薄肉成形加工や多数個取りが可能であり、生産性に優れたものとすることができる。
(7)耐トラッキング性に優れたものとすることができるので、広範囲の電気電子分野の用途に利用が可能である。
(8)グローワイヤー特性に優れたものとすることができるので、最近改定された国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、略称IEC)のIEC60335−1規格によると、冷蔵庫、全自動洗濯機などの家庭用電気製品において、オペレータが付かない状態で動作する機器の部品のうち、通常の動作中に0.2Aを超える電流が流れる接続部を支持している絶縁材料部品、およびこれらの接続部から3mm以内の距離にある電気絶縁材料部品用途に利用が可能である。
1 ゲート
h1 スパイラルフロー長さの測定で作成した渦巻き状長尺樹脂成形体の長軸方向の寸法
h2 スパイラルフロー長さの測定で作成した渦巻き状長尺樹脂成形体の短軸方向の寸法

Claims (11)

  1. (A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、
    (B)下記一般式(1)または(2)で表されるホスフィン酸塩5〜60重量部、
    (C)オルガノシロキサン重合体であって、25℃で固体状態にあるもの0.1〜20重量部および
    (D)アンチモン化合物0.01〜30重量部
    を含み、ハロゲン系難燃剤由来のハロゲン濃度が2000ppm以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
    (式中、R1、R2およびR5〜R7は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、またはこれらの2つ以上の組み合わせからなる基を表す。nは0〜4の整数を表す。)
  2. 前記(C)オルガノシロキサン重合体が、珪素原子に直接または酸素原子を介して結合している有機基の40モル%以上がアリール基であるオルガノシロキサン重合体であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  3. 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、前記(C)オルガノシロキサン重合体の配合量が、0.1〜17重量部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  4. 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、前記(D)アンチモン化合物の配合量が、3〜27重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  5. さらに、(E)強化充填材を、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、150重量部以下の割合で含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  6. 前記(C)オルガノシロキサン重合体の重量平均分子量が200〜10000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  7. 前記(C)オルガノシロキサン重合体が、RSiO1.5(Rは有機基を示す。)で表される構造単位を含み、かつ前記(C)オルガノシロキサン重合体中の水酸基の含有量が1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  8. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂(A)が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  9. 前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形することを特徴とする成形体の製造方法。
  11. 請求項10に記載の成形体の製造方法で製造されたことを特徴とする成形体。
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