以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸を酸成分に、エチレングリコールをグリコール成分に用いて重縮合した重合体を指すが、この他に酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、シュウ酸などを、グリコール成分として、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなど、あるいは分子量400〜6000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを20モル%以下共重合することもできる。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、o−クロロフェノール溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.36〜1.60、特に0.45〜1.15の範囲にあるものが得られる組成物の衝撃強度、射出成形性の点から好適であり、固有粘度の異なる同種のポリエチレンテレフタレート樹脂を併用しても良い。さらに、これら(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めたCOOH末端基量が1〜50eq/t(ポリマー1トン当りの末端基量)の範囲にあるものが耐久性の点から好ましく使用できる。特に、COOH末端基が45eq/t以下のもの、さらには好ましくは30eq/t以下、さらに好ましくは20eq/t以下のものが耐加水分解性に優れるため好ましく使用できる。
また、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂に対し、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート樹脂、およびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、全芳香族液晶ポリエステル、および半芳香族液晶ポリエステルなどのポリエステル樹脂を1種以上配合してもよく、配合量は本発明の効果が大きく低下しない範囲の量である。
本発明の(B)金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩における金属酸化物としては、シリカ、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化チタン、および酸化スズなどの金属酸化物の一種以上であり、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩の粒子表面に前記の金属酸化物を固着させることによって表面処理される。
また、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩を表面処理する方法としては、金属酸化物以外にポリビニルアルコールやセルロースエーテル類を添加する方法、水溶性ポリマーにより表面処理する方法、および非イオン界面活性剤などで表面処理することも知られているが、いずれも難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の加水分解性低下や着色し易いなどの課題がある。
また、金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩におけるトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩としては、シアヌール酸またはイソシアヌール酸とトリアジン系化合物との付加物が好ましく、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有する付加物であり、トリアジン系化合物のうち、シアヌール酸またはイソシアヌール酸と塩を形成しないものは除外される。また、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩のうち、とくにメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミンの塩が好ましく、とりわけメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンの塩が好ましく、公知の方法で製造されるが、例えば、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の混合物を水スラリーとし、良く混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後に金属酸化物ゾルを混合して、このスラリーを濾過、乾燥後に一般には粉末状で得られる。また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、多少未反応のトリアジン系化合物ないしシアヌール酸、イソシアヌール酸が残存していても良い。
また、樹脂に配合される前の塩の平均粒径は、成形品の難燃性、機械的強度や耐湿熱特性、滞留安定性、表面性の点から50〜0.01μmが好ましく、更に好ましくは45〜1μmである。また、上記の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤などを併用してもかまわない。前記の粒径とは、レーザーミクロンサイザー法による累積分布50%粒子径で測定される平均粒径である。
また、(B)金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を配合することにより、ポリエチレンテレフタレートの示差熱量計で測定される約180℃の結晶化温度を高くすることができ、かつ約20μmの球晶サイズを小さくすることができる。ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度が高い程、球晶は小さい程、結晶化速度が速いため射出成形性に優れる。射出成形性に優れるポリエチレンテレフタレートの示差熱量計で測定される結晶化温度はとくに200℃以上、さらには210℃以上であることが好ましい。また、球晶の大きさ(サイズ)は、とくに5μm以下、さらには3μm以下が好ましい。200℃未満の結晶化温度や5μmを越す球晶サイズのポリエチレンテレフタレート樹脂は、肉厚の射出成形品の場合、成形品に変形が生じたり、表面が透明で内部が白濁するなどの成形外観の不具合が生じ易い。つぎに前記の結晶化温度と球晶サイズの測定方法について述べる。示差熱量計で測定される結晶化温度の測定方法は、示差熱量計としてパーキンエルマー社DSC−7を用い、昇温スピード20℃/分で290℃まで昇温させて5分間その温度を保ち組成物を溶融させた後、降温スピード20℃/分で室温まで降温させ測定することにより求める。降温途中に組成物の結晶化に伴うピークが生じ、このピーク温度が本発明の結晶化温度である。また、球晶サイズの測定方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の射出成形品内部を切削加工し、さらにミクロトームで薄い試料として200倍の偏光顕微鏡を用いて球晶を観察・写真に撮影した。この時、観察されるのは、ポリエチレンテレフタレートの球晶であり、同じ倍率で観察・写真撮影したスケールから球晶のサイズが求められる。
また、(B)金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩の配合量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、難燃性と機械特性の点から、1〜70重量部、好ましくは2〜65重量部、特に好ましくは3〜60重量部である。
本発明における(C)燐酸エステルとは、限定されるものではないが、一般に市販されているものや合成した燐酸エステルが使用できる。具体例としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス・イソプロピルビフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、オルトフェニルフェノール系燐酸エステル、ペンタエリスリトール系燐酸エステル、ネオペチルグリコール系燐酸エステル、置換ネオペチルグリコールホスホネート、含窒素系燐酸エステル、および下記(1)式の芳香族燐酸エステルなどが挙げられ、とくに下記(1)式の芳香族燐酸エステルが好ましく用いられる。
(上式において、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4は、同一または相異なる、ハロゲンを含有しない芳香族基を表す。また、Xは下記の(2)〜(4)式から選択される構造を示し、下記(2)〜(4)式中、R1〜R8は同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、Yは直接結合、O、S、SO2、C(CH3)2、CH2、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。また、(1)式のnは0以上の整数である。また、(1)式のk、mはそれぞれ0以上2以下の整数であり、かつ(k+m)は0以上2以下の整数である。)なお、かかる芳香族燐酸エステルは、異なるnや、異なる構造を有する芳香族燐酸エステルの混合物であってもよい。
前記式(1)の式中nは0以上の整数であり、上限は難燃性の点から40以下が好ましい。好ましくは0〜10、特に好ましくは0〜5である。
またk、mは、それぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは、0以上2以下の整数であるが、好ましくはk、mはそれぞれ0以上1以下の整数、特に好ましくはk、mはそれぞれ1である。
また前記式(2)〜(4)の式中、R1〜R8は同一または相異なる水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す。ここで炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−イソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、2ーイソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、3−イソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基、ネオイソプロピル、ネオペンチル、tert−ペンチル基などが挙げられるが、水素、メチル基、エチル基が好ましく、とりわけ水素が好ましい。
またAr1、Ar2、Ar3、Ar4は同一または相異なる、ハロゲンを含有しない芳香族基を表す。かかる芳香族基としては、ベンゼン骨格、ナフタレン骨格、インデン骨格、アントラセン骨格を有する芳香族基が挙げられ、なかでもベンゼン骨格、あるいはナフタレン骨格を有するものが好ましい。これらはハロゲンを含有しない有機残基(好ましくは炭素数1〜8の有機残基)で置換されていてもよく、置換基の数にも特に制限はないが、1〜3個であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、インデニル基、アントリル基などの芳香族基が挙げられるが、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基が好ましく、特にフェニル基、トリル基、キシリル基が好ましい。
なかでも下記化合物(5)、(6)が好ましく、特に(5)化合物が好ましい。
市販の燐酸エステルとしては、大八化学工業(株)社製PX−200、PX−201、PX−130、PX−202、CR−733S、TPP、CR−741、CR747、TCP、TXP、CDP、SH−0890から選ばれる1種または2種以上が使用することができ、好ましくはPX−200、PX−202、TPP、CR−733S、CR−741、CR747から選ばれる1種または2種以上、特にPX−200、PX−202、CR−733S、CR−741を使用することが得られる成形品の加水分解性や金属汚染性の観点から好ましく用いられる。
また、(C)燐酸エステルの添加量は、難燃性、加水分解性、および金属汚染の点から、本発明の(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。
本発明における(D)繊維強化材とは、ガラス繊維、アラミド繊維、および炭素繊維などが挙げられる。上記のガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維でありアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。また、上記のシランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液で使用されていても良い。
また、(D)繊維強化材は本発明の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の機械強度を向上させるのに大きな効果があり、その配合量は、射出成形時の流動性と射出成形機や金型の耐久性の点から、本発明の(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、1〜150重量部、好ましくは2〜140重量部、より好ましくは3〜130重量部である。
また、本発明においては、さらに繊維強化材以外の無機充填剤を配合することができ、本発明の成形品の結晶化特性、耐アーク性、異方性、機械強度、難燃性あるいは熱変形温度などの一部を改良するものであり、とくに、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。かかる繊維強化材以外の無機充填剤としては、限定されるものではないが針状、粒状、粉末状および層状の無機充填剤が挙げられ、具体例としては、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、チタン酸カリウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられ、一種以上で用いられる。とくに、ガラスビーズ、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。
また、上記の繊維強化材以外の無機充填剤には、カップリング剤処理、エポキシ化合物、あるいはイオン化処理などの表面処理が行われていても良い。また、粒状、粉末状および層状の無機充填剤の平均粒径は衝撃強度の点から0.1〜20μmであることが好ましく、特に0.2〜10μmであることが好ましい。また、繊維強化材以外の無機充填剤の配合量は、成形時の流動性と成形機や金型の耐久性の点から繊維強化剤の配合量と合わせて1〜150重量部を越えない量が好ましい。
本発明における(E)エポキシ化合物とは、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物、およびグリシジルエステルエーテル化合物が挙げられ、これらは一種以上で用いることができる。
また、前記のグリシジルエステル化合物としては、限定されるものではないが、具体例として、安息香酸グリシジルエステル、tBu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
また、前記のグリシジルエ−テル化合物としては、限定されるものではないが、具体例として、フェニルグリシジルエ−テル、P−フェニルフェニルグリシジルエ−テル、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ブタン、1,6−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ヘキサン、1,4−ビス(β,γ−エポキシプロポキシ)ベンゼン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−エトキシエタン、1−(β,γ−エポキシプロポキシ)−2−ベンジルオキシエタン、2,2−ビス−[р−(β,γ−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパンおよびビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのその他のビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応で得られるジグリシジルエーテルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
好ましく用いられる(E)エポキシ化合物としては、単官能のグリシジルエステル化合物とグリシジルエーテル化合物を併用したエポキシ化合物あるいは単官能のグリシジルエステル化合物、さらに好ましくは、単官能のグリシジルエステル化合物が得られる組成物の粘度安定性と耐加水分解性のバランスに優れている。 また、(E)エポキシ化合物のエポキシ当量は、500未満のエポキシ化合物が好ましく、さらにはエポキシ当量400未満のエポキシ化合物が特に好ましい。ここで、エポキシ当量とは、1グラム当量のエポキシ基を含むエポキシ化合物のグラム数が500未満のエポキシ化合物であり、エポキシ当量は、エポキシ化合物をピリジンに溶解し、0.05N塩酸を加え45℃で加熱後、指示薬にチモールブルーとクレゾールレツドの混合液を用い、0.05N苛性ソーダで逆滴定する方法により求めることができる。
また、(E)エポキシ化合物は本発明の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の加水分解性を向上させることに大きな効果があり、(E)エポキシ化合物の配合量は機械特性と耐加水分解性の面から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜9重量部、より好ましくは0.3〜8重量部である。
本発明における(F)アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム、およびバリウムなどのアルカリ土類金属の化合物が好ましく挙げられる。 また、前記のアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびモンタン酸などの有機酸塩が挙げられる。また、前記のアルカリ土類金属化合物具体例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、さらにはオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびモンタン酸などの有機酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、およびバリウム塩などが挙げられる。この中で、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩が好ましく用いられ、特に、水酸化マグネシウムおよび炭酸カルシウムが好ましく用いられ、より好ましくは炭酸カルシウムが用いられる。かかるアルカリ土類金属は1種または2種以上で用いることができる。また、上記の炭酸カルシウムは製造方法により、コロライド炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、湿式粉砕微粉重質炭酸カルシウム、湿式重質炭酸カルシウム(白亜)などが知られており、いずれも本発明に包含される。これらのアルカリ土類金属化合物は、シランカップリング剤、有機物および無機物などの一種以上の表面処理剤で処理されていても良く、形状は粉末状、板状あるいは繊維状であっても構わないが、10μm以下の粉末状で用いることが分散性などから好ましい。さらに粒径が細かいと加水分解性の向上効果が大きく好ましい。
また、(F)アルカリ土類金属化合物を配合する効果としては、非ハロゲン難燃剤として有効な(C)燐酸エステルの燐酸エステル結合が加水分解され易いため、耐加水分解性に劣るという欠点を有しているが、(F)アルカリ土類金属化合物を添加することにより、前記の加水分解された燐酸エステル結合から生じる酸をトラップすることによって加水分解性を向上しているものと推定される。一般に、ポリエステルの加水分解は酸やアルカリが触媒となって加速されることが知られている。アルカリ金属化合物は、アルカリ性を有する場合が多く通常はポリエステルの加水分解を促進するため、その添加は好ましくない。従って、本発明のアルカリ土類金属化合物は、中性状態では水に難溶性であり、燐酸エステルが分解して系が酸性になった場合に酸性環境下で溶解し中和作用を示すものが好ましく用いられる。中性状態の溶解度は、例えば化学便覧、丸善株式会社発行(昭和41年)等の便覧に記載されており、水への溶解度が1g/100g水以下が好ましく、さらに好ましくは10−1g/100g水以下、特に好ましくは10−2g/100g水以下である。ちなみに最も好ましく用いられる炭酸カルシウムの水に対する溶解度は5.2×10−3g/100g水以下である。
さらには、(E)エポキシ化合物と(F)アルカリ土類金属化合物を併用して用いることで極めて高い耐加水分解性向上と金属汚染性の改良効果が得られる。
また、(F)アルカリ土類金属化合物の配合量は、機械特性と耐加水分解性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜9重量部、より好ましくは0.3〜8重量部である。
本発明における(G)フッ素系化合物とは、物質分子中にフッ素を含有する化合物であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、(ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体が好ましい。
また、(G)フッ素系化合物を配合する効果として、燃焼時の難燃性樹脂組成物が溶融落下することを抑制し、さらに難燃性を向上させることができる。また、(G)フッ素系化合物を配合する場合の配合量は、難燃性と機械特性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜9重量部、より好ましくは0.2〜8重量部である。 本発明においては、さらにポリカーボネート樹脂を配合することにより、さらに難燃性を向上させることができる。上記のポリカーボネート樹脂としては、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン、または炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる芳香族ホモまたはコポリカーボネートが挙げられる。該芳香族ホモまたはコポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量が、10000〜1100000の範囲のものであり、ガラス転移温度が約150℃、重量平均分子量が10000〜1000000の範囲であれば、重量平均分子量の異なるポリカーボネート樹脂を併用しても良い。重量平均分子量60000〜1100000の範囲のポリカーボネート樹脂がとくに好ましく用いられる。重量平均分子量とは、溶媒にテトラヒドロフランを用い、ゲル透過クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で測定して得られるものであり、重量平均分子量が10000以下では、本発明の優れた機械特性が損なわれるため好ましくなく、重量平均分子量が110000以上では、成形時の流動性が損なわれるため好ましくない。
また、300℃の温度で荷重1.2kgの条件でASTM D1238に準じてメルトインデキサーで測定した溶融粘度指数(メルトフローインデックス)が1〜100g/10分の範囲のものであり、とくに機械特性の点から1〜15g/10分のポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。
また、前記の芳香族二価フェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することができる。しかし、ポリカーボネート樹脂を50重量部を越す量を配合すると耐トラッキング性が大きく低下するため好ましくない。好ましいポリカーボネート樹脂の配合量は、前記の加水分解性と難燃性から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。
本発明の特性を損なわない範囲の量であれば、ポリカーボネート樹脂オリゴマーを配合しても良い。
また、前記のポリカーボネート樹脂を配合する際に、さらに酸性燐酸エステルを少量配合することによって、(A)ポリエチレンテレフタレートとポリカーボネート樹脂のエステル交換防止に有用であり、とくに熱変形温度などの低下を防止する。前記の酸性燐酸エステルとは、アルコール類と燐酸との部分エステル化合物の総称で、低分子量のものは無色液体、高分子量のものは白色ロウ状、フレーク状固体であり、燐酸の水素をアルキル基やアリル基などで置換した前記の(C)燐酸エステルとは区別して用いられる。
前記の酸性燐酸エステルの具体例としては、限定されるものではないが、モノメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノイソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノラウリルアシッドホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノベヘニルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジベヘニルアシッドホスフェート、トリメチルアシッドホスフェート、トリエチルアシッドホスフェート、および前記のモノとジの混合物、モノ、ジおよびトリとの混合物や前記化合物の一種以上の混合物であっても良い。好ましく用いられる酸性燐酸エステルとしては、モノおよびジステアリルアシッドホスフェートの混合物などの長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられ、旭電化(株)社から“アデカスタブ”AX−71の名称で市販され、融点を持つフレーク状固体である。
また、前記の酸性燐酸エステルの配合量は、熱変形温度と機械特性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜4重量部、より好ましくは0.03〜3重量部である。
本発明においては、さらにシリコーン化合物、フェノール樹脂、ホスホニトリル化合物、ポリ燐酸アンモニウム、およびポリ燐酸メラミンなどの難燃性を向上させる難燃助剤を配合でき、1種以上で用いられる。
また、上記の難燃助剤を配合する場合の配合量は、難燃性と機械特性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。
上記のシリコーン化合物としては、シリコーン樹脂、シリコーンオイルおよびシリコーンパウダーが挙げられる。
上記のシリコーン樹脂としては、飽和または不飽和一価炭化水素基、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリール基、ビニルまたはアリル基から選ばれる基とシロキサンが化学的に結合されたポリオルガノシロキサンが挙げられ、室温で約200〜300000000センチポイズの粘度を有するものが好ましいが、上記のシリコーン樹脂である限り、それに限定されるものではなく、製品形状がオイル状、パウダー状およびガム状であっても良く、官能基としてエポキシ基、メタクリル基およびアミノ基が導入されていても良く、2種以上のシリコーン樹脂との混合物であっても良い。
また、シリコーンオイルとしては、飽和または不飽和一価炭化水素基、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリール基、ビニルまたはアリル基から選ばれる基とシロキサンが化学的に結合されたポリオルガノシロキサンが挙げられ、室温で約0.65〜100000センチストークスの粘度を有するものが好ましいが、上記のシリコーンオイル樹脂である限り、それに限定されるものではなく、製品形状がオイル状、パウダー状およびガム状であっても良く、官能基としてエポキシ基、メタクリル基およびアミノ基が導入されていても良く、2種以上のシリコーンオイルあるいはシリコーン樹脂との混合物であっても良い。
また、シリコーンパウダーとしては、上記のシリコーン樹脂および/またはシリコーンオイルに無機充填剤を配合したものが挙げられ、無機充填剤としてはシリカなどが好ましく用いられる。
また、前記のフェノール樹脂としては、フェノール性水酸基を複数有する高分子であれば任意であり、例えばノボラック型、レゾール型および熱反応型の樹脂、あるいはこれらを変性した樹脂が挙げられる。これらは硬化剤未添加の未硬化樹脂、半硬化樹脂、あるいは硬化樹脂であってもよい。中でも、硬化剤未添加で、非熱反応性であるノボラック型フェノール樹脂またはメラミン変性ノボラック型フェノール樹脂が難燃性、機械特性、経済性の点で好ましい。
また、形状は特に制限されず、粉砕品、粒状、フレーク状、粉末状、針状、液状などいずれも使用でき、必要に応じ、1種または2種以上使用することができる。また、フェノール系樹脂は特に限定するものではなく市販されているものなどが用いられる。例えば、ノボラック型フェノール樹脂の場合、フェノール類とアルデヒド類のモル比を1:0.7〜1:0.9となるような比率で反応槽に仕込み、更にシュウ酸、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸等の触媒を加えた後、加熱し、所定の時間還流反応を行う。生成した水を除去するため真空脱水あるいは静置脱水し、更に残っている水と未反応のフェノール類を除去する方法により得ることができる。これらの樹脂あるいは複数の原料成分を用いることにより得られる共縮合フェノール樹脂は単独あるいは二種以上用いることができる。
また、レゾール型フェノール樹脂の場合、フェノール類とアルデヒド類のモル比を1:1〜1:2となるような比率で反応槽に仕込み、水酸化ナトリウム、アンモニア水、その他の塩基性物質などの触媒を加えた後、ノボラック型フェノール樹脂と同様の反応および処理をして得ることができる。
ここで、フェノール類としてはフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−tert−ブチルフェノール、tert−ブチルカテコール、カテコール、イソオイゲノール、o−メトキシフェノール、4,4’−ジヒドロキシフェニル−2,2−プロパン、サルチル酸イソアミル、サルチル酸ベンジル、サルチル酸メチル、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等が挙げられる。これらのフェノール類は一種または二種以上用いることができる。一方、アルデヒド類としてはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、トリオキサン等が挙げられる。これらのアルデヒド類は必要に応じて一種または二種以上用いることができる。
フェノール系樹脂の分子量は、特に限定されないが好ましくは数平均分子量で200〜2,000であり、特に400〜1,500の範囲のものが機械的物性、流動性、経済性に優れ好ましい。なおフェノール系樹脂の分子量は、テトラヒドラフラン溶液、ポリスチレン標準サンプルを使用することによりゲルパーミエションクロマトグラフィ法で測定できる。
また、前記のホスホニトリル化合物としては、ホスホニトリル線状ポリマー及び/または環状ポリマーを主成分とするホスホニトリル化合物が挙げられ、直鎖状、環状のいずれかあるいは混合物であってもかまわない。前記ホスホニトリル線状ポリマー及び/または環状ポリマーは、著者梶原『ホスファゼン化合物の合成と応用』などに記載されている公知の方法で合成することができ、例えば、リン源として五塩化リンあるいは三塩化リン、窒素源として塩化アンモニウムあるいはアンモニアガスを公知の方法で反応させて(環状物を精製してもよい)、得られた物質をアルコール、フェノールおよびアミン類で置換することで合成することができる。
また、前記のポリ燐酸アンモニウムとしては、ポリ燐酸アンモニウム、メラミン変性ポリ燐酸アンモニウム、およびカルバミルポリ燐酸アンモニウムなどが挙げられ、熱硬化性を示すフェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂などによって被覆されていても良く、1種で用いても2種以上で用いても良い。
また、前記のポリ燐酸メラミンとしては、燐酸メラミンやピロ燐酸メラミンなどのポリ燐酸メラミンが挙げられ、1種で用いても2種以上で用いても良い。
本発明においては、さらに本発明組成物の衝撃強度などの靱性を改良する目的でエチレン(共)重合体を配合することができ、かかるエチレン(共)重合体としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなどのエチレン重合体および/またはエチレン共重合体が挙げられ、上記のエチレン共重合体とは、エチレンおよびそれと共重合可能なモノマーを共重合して得られるものであり、共重合可能なモノマーとしてはプロピレン、ブテン−1、酢酸ビニル、イソプレン、ブタジエンあるいはアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸類あるいはこれらのエステル酸類、マレイン酸、フマル酸あるいはイタコン酸等のジカルボン酸類等が挙げられる。エチレン共重合体は通常公知の方法で製造することが可能である。エチレン共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン、エチレン/ブテン1、エチレン/酢酸ビニル、エチレン/エチルアクリレート、エチレン/メチルアクリレートおよびエチレン/メタクリル酸エチルアクリレートなどが挙げられる。また、上記のエチレン(共)重合体に酸無水物あるいはグリシジルメタクリレートをグラフトもしくは共重合された共重合体も好ましく用いられる。これらは一種または二種以上で使用され、上記のエチレン(共)重合体の一種以上と混合して用いても良い。また、エチレン(共)重合体のなかでもポリエチレンに酸無水物あるいはグリシジルメタクリレートがグラフトもしくは重合された共重合体が(A)ポリエチレンテレフタレートとの相溶性が良く好ましく用いられる。
また、エチレン(共)重合体を配合する場合の配合量は、得られる組成物の難燃性と衝撃強度の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。なお、ここで「/」は、共重合を意味する。
本発明において、さらにビニル系樹脂を配合することができ、ゴム成分を含有するビニル系樹脂は衝撃強度に改善効果があり、ゴム成分を含有しないビニル系樹脂は機械強度に改善効果がある。かかる、ビニル系樹脂としては、スチレン/ブタジエン樹脂、スチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン/イソプレン/スチレン樹脂、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン樹脂、ハイインパクトスチレン樹脂、スチレン/アクリロニトリル樹脂(AS樹脂)、ポリメタクリル酸メチルアクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン樹脂、アクリロニトリル/エチレン系ゴム/スチレン樹脂および前記のAS樹脂やPMMA樹脂などのビル系樹脂をシェル層にしてアクリルゴムなどのゴムをコア層としたコアシェルゴムなどが挙げられ、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合されたビニル系樹脂およびエポキシ化剤でエポキシ変性されたビニル系樹脂でも良い。エポキシ変性されたビニル系樹脂の中では、グリシジルメタクリレートを共重合されたビニル系樹脂が好ましく用いられ、グリシジルメタクリレートの好ましい共重合量は、(A)ポリエチレンテレフタレートとの相溶性と難燃性を向上させるのに有効な量が好ましく、ビニル系樹脂に対して0.1重量%以上であることが好ましい。多量に共重合すると流動性低下やゲル化の問題があり、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。グリシジルメタクリレートを共重合されたビニル系樹脂の中では、AS樹脂、スチレン/ブタジエン樹脂、およびスチレン/ブタジエン/スチレン樹脂が好ましく用いられる。
また、ビニル系樹脂の添加量は、得られる難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の難燃性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。
本発明においては、さらに耐加水分解性改良材のフェノキシ樹脂、オキサゾリン化合物、およびカルボジイミド化合物などを配合でき、特にフェノキシ樹脂、が好ましく用いられる。また、上記の耐加水分解性改良材を配合する場合の配合量は、得られる組成物の耐加水分解性と難燃性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、より好ましくは3〜40重量部である。
また、前記のフェノキシ樹脂としては、芳香族二価フェノール系化合物とエピクロルヒドリンとを各種の配合割合で反応させることにより得られるフェノキシ樹脂が挙げられる。フェノキシ樹脂の分子量は特に制限はないが、粘度平均分子量が1000〜100000の範囲のものが好ましい。ここで、芳香族二価フェノール系化合物の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン等が使用でき、これら単独あるいは混合物として使用することができる。また、形状は特に制限されず、粉砕品、粒状、フレーク状、粉末状、液状などいずれも使用できる。これらのフェノキシ樹脂は必要に応じて一種または二種以上用いることができる。
本発明においては、さらに本発明の組成物が長期間高温にさらされても極めて良好な耐熱エージング性を与える安定剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはホスファイト系酸化防止剤を配合でき、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはホスファイト系酸化防止剤を配合する場合の配合量は、耐熱エージング性と難燃性の点から、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜4重量部、より好ましくは0.03〜3重量部である。
また、前記のヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビスもしくはトリス(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、N,N’−トリメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)などが挙げられる。
また、前記のホスファイト系安定剤との例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルオスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、アルキルアリル系ホスファイト、トリアルキルホスファイト、トリアリルホスファイト、ペンタエリスリトール系ホスファイト化合物などが挙げられる。
本発明においては、さらに滑剤を一種以上添加することにより成形時の流動性や離型性を改良することが可能である。かかる滑剤としては、ステアリン酸カルウシム、ステアリン酸バリウムなどの金属石鹸、脂肪酸エステル、脂肪酸エステルの塩(一部を塩にした物も含む)、エチレンビスステアロアマイドなどの脂肪酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸からなる重縮合物あるいはフェニレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸の重縮合物からなる脂肪酸アミド、ポリアルキレンワックス、酸無水物変性ポリアルキレンワックスおよび上記の滑剤とフッ素系樹脂やフッ素系化合物の混合物が挙げられるがこれに限定されるものではない。滑剤を配合する場合の添加量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜4重量部、より好ましくは0.03〜3重量部である。
本発明においては、さらに、カーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料を1種以上配合することにより種々の色に樹脂を調色、耐候(光)性、および導電性を改良することも可能であり、顔料や染料の配合量は、(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜4重量部、より好ましくは0.03〜3重量部である。
また、前記のカーボンブラックとしては、限定されるものではないが、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられ、平均粒径500nm以下、ジブチルフタレート吸油量50〜400cm3/100gのカーボンブラックが好ましく用いられ、処理剤として酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていても良い。
また、上記の酸化チタンとしては、ルチル形、あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒子径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられ、処理剤として酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていても良い。また、上記のカーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料は、本発明の難燃性樹脂組成物との分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いても良い。とくに、前記の熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、(A)ポリエチレンテレフタレートがとくに好ましく用いられる。
本発明においては、さらに本発明以外の公知の非ハロゲン難燃剤を一種以上添加することが可能であり、燃焼時の燃焼時間短縮もしくは燃焼時の発生ガスの低減が期待できる。かかる公知の非ハロゲン難燃剤としては、限定されるものではないが、例えば、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、硼酸、硼酸カルシウム、硼酸カルシウム水和物、硼酸亜鉛、硼酸亜鉛水和物、水酸化亜鉛、水酸化亜鉛水和物、亜鉛錫水酸化物、亜鉛錫水酸化物水和物、赤リン、加熱膨張黒鉛およびドーソナイトなどが挙げられ、熱硬化性メラミン樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が混合あるいは表面に被覆されていても良い。また、カップリング剤、エポキシ化合物、あるいはステアリン酸などの油脂類などが混合あるいは表面に被覆されていても良い。
さらに、本発明の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品に対して本発明の目的を損なわない範囲で、イオウ系酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、および帯電防止剤などの公知の添加剤や前記以外の熱可塑性樹脂を1種以上配合された材料も用いることができる。ただし、前記の熱可塑性樹脂中では、耐トラッキング性、流動性、色調、および色調変化の観点からポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂は配合しない方が好ましいが、配合する場合は、本発明の特定の難燃性樹脂組成物100重量部に対し、5重量部を越えないようにすることが好ましい。
本発明の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなる機械機構部品、電気電子部品または自動車部品の成形品とは、本発明の難燃性、機械特性、および射出成形性に優れる特徴を活かした成形品であり、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品の具体的な成形品としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品、レーザーディスクなどの音声部品、照明部品、電信・電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などの成形品が挙げられる。
本発明の特定の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)ポリエチレンテレフタレート、と(B)金属酸化物によって表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、必要に応じて(C)燐酸エステル、(D)繊維強化材、(E)エポキシ化合物、(E)アルカリ土類金属化合物、および(F)フッ素系化合物、さらに必要に応じて繊維強化材以外の無機充填剤、ポリカーボネート樹脂、種々の難燃助剤、エチレン(共)重合体、ビニル系樹脂、耐加水分解性改良材、ヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはホスファイト系酸化防止剤、およびさらに必要に応じてその他の必要な添加剤や顔料や染料などの着色剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより本発明の難燃性樹脂組成物が調製される。
上記の予備混合の例として、ドライブレンドするだけでも可能であるが、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合することが挙げられる。また、繊維強化材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィダーを設置して添加する方法であっても良い。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や元込め部などから定量ポンプで供給する方法などであっても良い。
また、難燃性樹脂組成物を製造するに際し、限定されるものではないが、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。
かくして得られる難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、通常公知の方法で射出成形することによって本発明の成形品が得られる。前記の射出成形方法としては、通常の射出成形方法以外にガスアシスト法、2色成形法、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
また、射出成形機の構造を簡単に述べると、プラスチックスを加熱溶融混練後、溶融プラスチックスを高圧で射出する部分と射出された溶融プラスチックスを所定の形状(成形品)に冷却固化させる金型から構成されている。
また、一般的な射出成形に用いられる金型構造と金型を温調する方法について簡単に述べると、金型は得られる成形品形状の部分とその成形品を冷却固化させるための媒体を通す管および成形品を離型させる突き出しピンなどから構成されている。媒体を通す管は複数本設けられ、金型内の成形品を温調できる構造になっている。さらに、金型を温調する方法としては、前記の媒体を通す管に水を媒体として金型温調器で温度制御して、媒体を通す管に循環させて温調させる方法が一般的な手法であり、低温金型と言われ、90℃前後まで温調可能である。一方、高温金型とは、前記の90℃を越す温度でも温調可能な金型であり、熱電対を備えた金属製ヒータ棒を金型に挿入して温度制御する方法、あるいはオイルや加圧水などの媒体を用いて温調させる方法である。しかし、高温であるため、金型に断熱板の設置、高温仕様の金型温調器、および循環設備に高温に耐える設備が必要であり、特殊な設備が必要となる。一般にポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形の場合は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を完全に結晶化させるため、通常は120℃〜140℃の金型温度で成形される。なお、30℃〜90℃低温金型で成形した場合は、急冷される成形品の外側は透明で内部は除冷されるため結晶化が進み不透明になることが知られている。
本発明の特定の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、低温金型で容易に射出成形可能である。前記の低温金型の温度としては、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがとくに好ましい。また、50℃未満の場合は、成形品の肉厚によっては熱変形温度の低下を招く。
前記の本発明の難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物が低温金型で容易に射出成形可能である理由は、金属酸化物によって表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩をポリエチレンテレフタレートに配合することにより、ポリエチレンテレフタレートの球晶の大きさ(サイズ)が5μm以下で、示差熱量計で測定した結晶化温度が200℃以上であることが達成でき、その結果として50℃以上の型温であれば球晶が細かく成長して結晶化が容易に進み、結晶化速度が速いため50℃以上の低温金型で容易に射出成形できるものと推察している。
以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで%および部とはすべて重量%および重量部をあらわし、参考例の樹脂名中の「/」は、共重合を意味する。また、各特性の測定方法は以下の通りである。
参考例1
(A)ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略す)
<A−1>三井PET“J005”(三井ぺット樹脂(株)社製)固有粘度が0.63のPETを用いた。
参考例2
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBTと略す)
<A−2>“トレコン”1401−X31(東レ(株)社製)固有粘度が0.80のPBTを用いた。
参考例3
(B)金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(以下、金属酸化物処理MC塩と略す)
<B−1>同じ重量のメラミン粉末(三菱化学(株)社製)とシアヌール酸粉末(四国化成(株)社製シアヌル酸)の混合物100重量部に対し、シリカヒドロゾル(日産化学工業(株)社製スノーテックスC)10重量部と500重量部の水を入れ水スラリーとし、90℃で1時間、加温・混合して微粒子状に形成させた。このスラリーを濾過、乾燥、粉砕し、平均粒径約10μmの金属酸化物で表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を得た。
参考例4
トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(以下、MC塩と略す)
<B−2>同じ重量のメラミン粉末(三菱化学社製)とシアヌール酸粉末(四国化成社製シアヌル酸)の混合物100重量部に対し、500重量部の水を入れ水スラリーとし、90℃で1時間、加温・混合して微粒子状に形成させた。このスラリーを濾過、乾燥、粉砕し、平均粒径約10μmのトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を得た。
参考例5
ポリビニルアルコールで表面処理されたトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩(以下、PVA処理MC塩と略す)
<B−3>同じ重量のメラミン粉末(三菱化学(株)社製)とシアヌール酸粉末(四国化成社製シアヌル酸)の混合物100重量部に対し、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)社製試薬)2重量部と500重量部の水を入れ水スラリーとし、90℃で1時間、加温・混合して微粒子状に形成させた。このスラリーを濾過、乾燥、粉砕し、平均粒径約10μmのトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩を得た。
参考例6
(C)燐酸エステル
<C−1>下記の(5)式の芳香族燐酸エステル“PX−200”(大八化学工業(株)社製)を用いた。
<C−2>下記の(6)式の芳香族燐酸エステル“CR741”(大八化学工業(株)社製)を用いた。
参考例7
(D)繊維強化材
<D−1>繊維径約10μmのチョップドストランド状のガラス繊維“CS3J948”(日東紡績(株)社製)を用いた(以下、GFと略す)。
参考例8
(E)エポキシ化合物
<E−1>バーサティク酸グリシジルエステル“カージュラーE10”(ジャパンエポキシレジン社製)
<E−2>バーサティク酸グリシジルエステル“カージュラーE10”(ジャパンエポキシレジン(株)社製)30重量%とビスフェノールAジグリシジルエーテル“エピコート828”(ジャパンエポキシレジン(株)社製)70重量%の混合物。
参考例9
(F)アルカリ土類金属化合物
<F−1>水酸化マグネシウム“キスマ6E”(共和化学工業(株)社製)
<F−2>炭酸カルシウム“KSS1000”(同和カルファイン(株)社製)。
参考例10
(G)フッ素系化合物
<G−1>ポリテトラフルオロエチレン“テフロン(登録商標)6−J”(三井・デュポンフロロケミカル(株)社製)を用いた(以下、テフロン(登録商標)と略す)。
参考例11
ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略す)
<H−1>出光石油化学(株)社製“A−1900”を使用した。
参考例12
ホスホニトリル化合物
<H−2>ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(環状3量体)とフェノール をトリエチルアミンの存在下、THF中で反応させた。得られた反応液を蒸発・乾固させ、水で洗浄して塩を除去した。収率95%。このようにして得られたホスホニトリル環状ポリマーをアセトンにより再結晶精製し使用した。なお、数平均重合度nに変化はなくn=3であった。
参考例13
ビニル系樹脂
<H−3>スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート=70/29.5/0.5重量%のエポキシ変性AS樹脂。
参考例14
<H−4>ポリフェニレンエーテル樹脂“YPX−100L”(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)(以下、PPEと略す)。
参考例15
<H−5>ポリフェニレンスルフィド“トレリナ”M2588(東レ(株)社製)(以下、PPSと略す)。
<H−6>無機充填剤
タルク“LMS−100”(富士タルク社製)(以下、タルクと略す)。
[測定方法]
本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
(1)結晶化温度
示差熱量計としてパーキンエルマー社DSC−7を用い、昇温スピード20℃/分で290℃まで昇温させて5分間その温度を保ち、降温スピード20℃/分で室温まで降温させた。その降温途中に組成物の結晶化に伴うピーク温度を結晶化温度として測定した。
(2)ポリエチレンテレフタレート樹脂の球晶のサイズ
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で3mm厚みのASTM1号ダンベルの射出成形を行い、肉厚中心部を切削し、さらにミクロトームで薄い試料とし、200倍の偏光顕微鏡を用いて球晶を観察・写真に撮影した。この時、観察されるのは、ポリエチレンテレフタレートの球晶であり、同じ倍率で観察・写真撮影したスケールから球晶のサイズを測定した。なお、測定数は10個で、その平均値を求め、小数点以下の数値は四捨五入した。
(3)射出成形性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の温度条件、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒で難燃性評価用試験片の射出成形を行い、不具合が生じないで射出成形できる材料を射出成形性の判定を○(優れる)とした。また、成形品を取り出す際、金型から成形品が取り出せなかったり(離型性不良)、固化速度が遅く突きだしピンで成形品が変形を起こした(結晶化不十分)材料については、射出成形性の判定を×(劣る)とした。
(4)難燃性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で難燃性評価用試験片の射出成形を行い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV−0>V−1>V−2の順に低下しランク付けされる。また、試験片の厚みは1/32インチ(約0.79mm)(以下、約0.8mmと略す)厚みと1/64インチ(約0.40mm)(以下、約0.4mmと略す)厚みを用い、厚みが薄いほど難燃性は厳しい判定となる。また、燃焼性に劣り上記のV−2に達せず、上記の難燃性ランクに該当しなかった材料は規格外とした。
(5)機械特性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で3mm厚みのASTM1号ダンベルの射出成形を行い、ASTMD638に従い、引張強度を測定した。
(6)熱変形温度(耐熱性)
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で3mm厚みのASTM1号ダンベルの射出成形を行い、ASTMD648に従い、高荷重の熱変形温度を測定した。
(7)加水分解性
前記(6)で得られたASTM1号ダンベルを121℃×100%RHの温度と湿度に設定されたプレッシャークッカー試験器に200h投入し、ASTMD638に従い、引張強度を測定し、処理前の引張強度に対する保持率(%)を求めた。
(8)異方性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で縦80mm、横80mm、厚み3mmの角板の射出成形を行い、溶融樹脂の流動方向と流動に垂直方向の成形収縮率を測定した。流動に垂直方向成形収縮率から流動方向の成形収縮率を引いた値、つまり異なる方向の成形収縮率の差を異方性とした。前記の溶融樹脂の流動方向と流動に垂直方向の成形収縮率の測定方法は、得られた角板の縦(流動方向)と横(流動に垂直方向)の寸法を日本光学(株)製ニコンプロフィルプロジェクターV−12万能投影器で測定し、角板の縦と横の金型寸法より次式で成形収縮率を求めた。
成形収縮率(%)=(金型寸法−成形品の寸法)÷金型寸法×100
熱可塑性樹脂の中で結晶性ポリマーは、とくに溶融樹脂の流動方向は成形収縮率が小さく、流動に垂直方向の成形収縮率は大きくなり、繊維強化材を配合した材料はさらに異方性が大きくなることが知られている。また、異方性の差が大きくなると成形品にソリが生じ、所望する形状の成形品が得られないこともある。例えば、異方性の値が1以上の材料の縦80mm、横80mm、厚み1mm角板の場合、ソリによる変形のため、平面に形状を保つことが困難である。
[実施例1〜19]、[比較例1〜6]
スクリュ径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30α)を用いて、(A)PET、(B)金属酸化物処理MC塩、(C)燐酸エステル、(E)エポキシ化合物、(F)アルカリ土類金属化合物、(G)フッ素系化合物およびその他の添加剤<H−1>〜<H−6>を表1〜表2に示した配合組成で混合し、元込め部から添加した。<D>GFは、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。
さらに、混練温度270℃、スクリュ回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
得られたペレットを130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥後、東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度270℃、金型温度80℃の条件で3mm厚みのASTM1号ダンベルの射出成形を行い、肉厚中心部を切削し、さらにミクロトームで薄い試料とし、200倍の偏光顕微鏡を用いて球晶を観察・写真に撮影した。また、示差熱量計としてパーキンエルマー社DSC−7を用い、昇温スピード20℃/分で290℃まで昇温させて5分間その温度を保ち、降温スピード20℃/分で室温まで降温させた。その降温途中に組成物の結晶化に伴うピーク温度を結晶化温度として結晶化温度を求めた。
さらに、前記の測定方法に記載した条件で諸物性を測定し、同じく表1〜表2にその結果を示した。
表1の実施例1〜実施例7から、本発明の示差熱量計で測定した結晶化温度が200℃以上、かつポリエチレンテレフタレート樹脂の球晶の大きさが5μm以下となる難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、射出成形性、難燃性、引張り強度および熱変形温度(耐熱性)に優れていると言える。
表1の比較例1〜比較例3から、金属酸化物で表面処理されたMC塩を配合しない場合は、示差熱量計で測定した結晶化温度が200℃以上、かつポリエチレンテレフタレート樹脂の球晶の大きさが5μm以下となる難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物が得られないため、射出成形性、難燃性および熱変形温度(耐熱性)に課題を持つ組成物であることが明らかになった。
表1の比較例4は、ポリエステル樹脂の結晶性を改良する無機充填剤として一般的に知られているタルクを配合した組成物であるが、実施例1と比較すると
射出成形性、難燃性および熱変形温度(耐熱性)に課題を持つ組成物であることが明らかになった。
表1の比較例5〜比較例6から、特定量を越す、本発明の金属酸化物で表面処理されたMC塩および金属酸化物で表面処理されたMC塩が未配合で燐酸エステルを配合した組成物は、射出成形性、引張強度および熱変形温度(耐熱性)のいずれかあるいは複数に課題を持つ組成物であることが明らかになった。
表2の実施例8〜実施例9から、燐酸エステルを併用すると高い性能を維持しながら、難燃性V−0まで大きく向上すると言える。
表2の実施例15〜実施例19から、さらにポリカーボネート樹脂、ホスホニトリル化合物、ビニル系樹(エポキシ変性AS樹脂脂)、PPE、およびPPSを併用すると高い性能を維持しながら、難燃性約0.4mm厚みV−0まで大きく向上すると言える。とくに、前記の中で、ビニル系樹脂(エポキシ変性AS樹脂)はポリエチレンテレフタレート樹脂よりも極端に燃えやすい材料として知られており、難燃性が大きく向上することは予想できなかった。
表2の実施例8〜実施例14から、エポキシ化合物および/またはアルカリ土類金属塩を配合すると、高い性能を維持しながら、加水分解性が向上すると言え、とくにエポキシ化合物とアルカリ土類金属塩を併用配合した組成物は飛躍的に加水分解性が向上すると言える。
[実施例20]
実施例14の本発明の難燃性樹脂組成物と同様の組成にさらにマイカ(山口雲母工業所(株)製、A−21)を10重量部配合して難燃性樹脂組成物を作製した。本実施例の難燃性樹脂組成物の結晶化温度、球晶サイズについては実施例14と同等であり、射出成形性、難燃性、引張強度、熱変形温度についても同様であった。また、この難燃性樹脂組成物の異方性を測定したところ、実施例14の異方性0.72に対し、異方性0.38を示し、異方性が大きく改善されており、ソリの少ない難燃性ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品と言える。