JP2011065926A - 多孔質炭素電極基材およびその製造方法 - Google Patents

多孔質炭素電極基材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】貫通孔の形成が抑制された多孔質炭素電極基材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】(a)炭素短繊維から炭素繊維紙を得る工程と、(b)前記炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸紙を得る工程と、(c)前記樹脂含浸紙を加熱プレス成形して、樹脂硬化シートを得る工程と、(d)前記樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させて、前記樹脂硬化シートを焼成する工程とを有し、前記焼成炉の幅に対する樹脂硬化シートの幅の比率(シート幅比率)が、90%以下である方法で、多孔質炭素電極基材を製造する。得られた多孔質炭素電極基材は、シート状の多孔質炭素電極基材であって、1mm以上の長径を有する貫通孔の個数が、1m2あたり0.2個以下である。
【選択図】なし

Description

本発明は、固体高分子型燃料電池に用いる多孔質炭素電極基材およびその製造方法に関する。
固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質炭素電極基材は、電極反応に関わる物質の拡散性、高い導電性といった特性が求められている。また、これら機能の他に電極部材の加工性を高めるために、長尺のロール形態の多孔質炭素電極基材が求められている。このような多孔質炭素電極基材の製造方法としては、特許文献1および2に、炭素短繊維を主成分とする炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させ、得られた樹脂含浸紙を連続で加熱プレス成型し、焼成する方法が開示されている。
国際公開第01/056103号パンフレット 国際公開第02/006032号パンフレット
しかしながら、特許文献1および2に開示されている製造方法により多孔質炭素電極基材を製造した場合、焼成工程において多孔質炭素電極基材に貫通孔が形成される。このような貫通孔を含む多孔質炭素電極基材は、撥水処理などの後加工で斑が形成される問題が発生する。さらに、貫通孔を含む多孔質炭素電極基材を燃料電池に組み込んだ場合、面内で不均一な発電が生じる。面内の不均一な発電は、電解質膜の劣化を促進するため、燃料電池の耐久性にも悪影響を与えてしまう。すなわち、貫通孔が存在する箇所を燃料電池用の多孔質炭素電極基材として使用することは避けざるを得ないが、製造した多孔質炭素電極基材に多数の貫通孔があると、歩留まりが低下する。
本発明の目的は、貫通孔の形成が抑制された多孔質炭素電極基材およびその製造方法を提供することにある。
本発明は、(a)炭素短繊維から炭素繊維紙を得る工程と、
(b)前記炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸紙を得る工程と、
(c)前記樹脂含浸紙を加熱プレス成形して、樹脂硬化シートを得る工程と、
(d)前記樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させて、前記樹脂硬化シートを焼成する工程と
を有し、前記焼成炉の幅に対する樹脂硬化シートの幅の比率(シート幅比率)が、90%以下である多孔質炭素電極基材の製造方法である。
本発明は、シート状の多孔質炭素電極基材であって、1mm以上の長径を有する貫通孔の個数が、1m2あたり0.2個以下である多孔質炭素電極基材である。
本発明によれば、貫通孔の形成が抑制された多孔質炭素電極基材およびその製造方法が提供される。この多孔質炭素電極基材は、電池発電特性や後加工の生産性向上に寄与する。
<多孔質炭素電極基材の製造方法>
本発明では、以下の工程を有する方法により多孔質炭素電極基材を製造するが、このとき、焼成炉の幅に対する樹脂硬化シートの幅の比率(シート幅比率)が、90%以下であることが必須である。
工程(a):炭素短繊維から炭素繊維紙を得る。
工程(b):前記炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸紙を得る。
工程(c):前記樹脂含浸紙を加熱プレス成形して、樹脂硬化シートを得る。
工程(d):前記樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させて、前記樹脂硬化シートを焼成する。
(工程(a):炭素繊維紙の製造)
工程(a)で炭素繊維紙を製造する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。工程(a)は、連続的に行われる。
炭素繊維紙に含まれる炭素短繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、機械的強度が比較的高いポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。なお、ポリアクリロニトリル系炭素繊維とは、原料としてアクリロニトリルを主成分とするポリマーを用いて製造されるものである。具体的には、アクリロニトリル系繊維を紡糸する製糸工程;200〜400℃の空気雰囲気中でアクリロニトリル系繊維を加熱焼成して酸化繊維に転換する耐炎化工程;窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中でさらに300〜2500℃に加熱して炭化する炭化工程;を経て得られる炭素繊維であり、複合材料強化繊維として好適に使用できるものである。そのため、他の炭素繊維に比べて強度が強く、機械的強度の強い炭素繊維紙を形成することができる。ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、多孔質炭素電極基材の機械特性維持の観点から、炭素繊維紙中に50質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましい。特に、用いる炭素単繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維のみであることが好ましい。
炭素短繊維の平均繊維長は、多孔質炭素電極基材の強度や均一な分散性の観点から、2〜18mmにすることが好ましく、2〜10mmとすることがより好ましく、3〜6mmとすることがさらに好ましい。炭素短繊維の平均繊維長を2mm以上とすることで、炭素短繊維同士の絡み合いが起こるようになり、多孔質炭素電極基材の強度が強くなる。また、炭素短繊維の平均繊維長を18mm以下とすることで、炭素短繊維の分散媒体中への分散性が良好となり、炭素繊維紙における分散斑が少なくなる。
炭素短繊維を分散させる液体の媒体としては、工業的に安価に使用できる水が好ましい。
炭素短繊維から炭素繊維紙は、バインダーとして有機高分子化合物を含むことが好ましい。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂やフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化樹脂の他、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロースなどを用いることができる。有機高分子化合物は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上併用することもできる。
有機高分子化合物の形態としては、パルプ状物や短繊維が適している。ここでいうパルプ状物とは、繊維状の幹から直径が数μm以下のフィブリルを多数分岐した構造で、このパルプ状物を用いたシート状物は繊維同士の絡み合いが効率よく形成されており、薄いシート状物であってもその取り扱い性に優れているという特徴を有している。また、短繊維とは、繊維糸または繊維のトウを所定の長さにカットして得られるものである。短繊維の長さは、バインダーとしての結着性や分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セルロースまたはポリ酢酸ビニルのパルプ状物または短繊維が好ましい。これらの有機高分子化合物は抄紙工程での結着力に優れるため、これらの有機高分子化合物を用いることで炭素短繊維の脱落が少なくなる。また、これら有機高分子化合物は、多孔質炭素電極基材を製造する最終段階の炭素化過程で大部分が分解・揮発してしまい、空孔を形成する。この空孔の存在により、水およびガスの透過性が向上する。
炭素繊維紙における有機高分子化合物の含有率は、5〜60質量%とすることが好ましく、10〜50質量%とすることがより好ましい。炭素繊維紙に後述する熱硬化性樹脂を含浸し、焼成して得られる多孔質炭素電極基材の電気抵抗を低くするためには、有機高分子化合物の含有量は少ない方がよいことから、炭素繊維紙における有機高分子化合物の含有率は60質量%以下が好ましい。炭素繊維紙の強度および形状を保つという観点から、炭素繊維紙における有機高分子化合物の含有率は5質量%以上が好ましい。
(工程(b):含浸)
炭素繊維紙に含浸させる熱硬化性樹脂としては、常温において粘着性または流動性を示す樹脂で、かつ炭素化後も導電性物質として残存する物質が好ましく、フェノール樹脂、フラン樹脂等を用いることができる。フェノール樹脂としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプのフェノール樹脂を用いることができる。また、レゾールタイプの流動性フェノール樹脂に、公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできる。ただし、この場合、硬化剤として例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプとすることが好ましい。フェノール樹脂として、市販品を利用することも可能である。なお、フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロール等が用いられる。アルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。
炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて得られる樹脂含浸紙における熱硬化性樹脂の含有率は、30〜70質量%であることが好ましい。熱硬化性樹脂の含有率を30質量%以上とすることで、得られる多孔質炭素電極基材の構造が密になり、強度が高くなる。また、熱硬化性樹脂の含有率を70質量%以下とすることで、得られる多孔質炭素電極基材の空孔率およびガス透過性を良好に保つことができる。なお、樹脂含浸紙とは、加熱加圧前の、炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸したものをいうが、樹脂含浸の際に溶媒を用いた場合には溶媒を除去したものをいう。
熱硬化性樹脂と導電性物質の混合物を炭素繊維紙に含浸させてもよい。導電性物質としては、炭素質ミルド繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、等方性黒鉛粉などが挙げられる。導電性物質の混合量は、熱硬化性樹脂に対して1〜10質量%が好ましい。導電性物質の混合量を1質量%以上とすることで、導電性改善の効果が十分になる。また、導電性物質の混合量が10質量%を超えても導電性改善の効果が飽和する傾向にあるので、導電性物質の混合量が10質量%以下とすることでコストアップを抑制することができる。
熱硬化性樹脂と場合により導電性物質とを含む溶液を炭素繊維紙に含浸する方法としては、絞り装置を用いる方法、または別途作製した熱硬化性樹脂フィルムを炭素繊維紙に重ねる方法が好ましい。絞り装置を用いる方法では、含浸溶液に炭素繊維紙を含浸し、絞り装置で取り込み液が炭素繊維紙全体に均一に塗布されるようにし、液量は絞り装置のロール間隔を変えることで調節する方法である。溶液の粘度が比較的低い場合は、スプレー法等を用いることもできる。熱硬化樹脂フィルムを炭素繊維紙に重ねる方法では、まず熱硬化性樹脂と場合により導電性物質とを含む溶液を離型紙にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルムとする。その後、炭素繊維紙に熱硬化性樹脂フィルムを積層して、加熱加圧処理を行い、熱硬化性樹脂を炭素繊維紙に含浸させる方法である。
(工程(c):加熱プレス成形)
工程(c)では、樹脂含浸紙中の熱硬化性樹脂を硬化して、シート厚みを制御する重要な工程である。工程(c)は、生産性の観点から、連続的に行われる。
使用するプレス装置としては、連続式加熱ロールプレス装置または一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱プレス装置(ダブルベルトプレス装置)を用いることが好ましい。加熱ロールプレス装置では、1組または2組以上の多段プレスを採用することができる。ダブルベルトプレス装置では、予熱段階で熱硬化性樹脂が軟化したところで樹脂含浸紙にほとんど張力をかけずにベルトで搬送することができるので、製造中の樹脂硬化シートの破壊が生じにくく、工程通過性に優れる。したがって、ダブルベルトプレス装置を用いることがより好ましい。
加熱プレス前に予熱処理を行うことが好ましい。加熱プレス前に樹脂含浸紙に熱を加えて熱硬化性樹脂を一旦軟化させることで、炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を良くなじませることができる。その上で加熱プレスを行うと、炭素短繊維同士の結着が効果的に行われ、機械特性に優れ、ハンドリング性の高い多孔質炭素電極基材を製造することができる。予熱処理において採用される加熱手段は、加熱ロールなどの伝熱加熱、加熱領域を設けた対流加熱、遠赤外線等の放射加熱のいずれか、またはそれらの組み合わせでも良いが、熱ロス低減の観点から、加熱ロール等を使用した伝熱加熱であることが好ましい。
樹脂含浸紙を2枚積層した樹脂含浸紙積層体を加熱プレス成形することが好ましい。積層する樹脂含浸紙の枚数が多くなるほど、1枚の炭素繊維紙の坪量を小さくすることができ、炭素繊維紙の表面状態は良好になる。ただし、3枚以上の樹脂含浸紙を積層すると、炭素繊維紙の生産性が低下するだけでなく、プレスミスが多くなる場合がある。
得られる樹脂硬化シートは、ケイ素含有量が300ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。樹脂硬化シートのケイ素含有量を300ppm以下にすることで、樹脂硬化シートを次の工程で焼成炉内に走行させた際に焼成炉壁にケイ素化合物が付着することを抑制することができる。なお、焼成炉壁にケイ素化合物が付着すると、走行している樹脂硬化シートの上にケイ素化合物が落ち、さらに高温で処理されることにより樹脂硬化シート中の炭素短繊維と反応し貫通孔が形成される。したがって、貫通孔の形成を抑制するためには、焼成炉内に持ち込むケイ素化合物の量を低減することが有効である。
(工程(d):焼成)
工程(d)では、樹脂硬化シートを焼成する。具体的には、樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させる。工程(d)は、連続的に行われる。
最終的に得られる多孔質炭素電極基材の機械特性や導電性の観点から、工程(d)は、最高温度が少なくとも600℃以上(好ましくは700℃以上)である熱処理する工程(予備炭素化工程)と、最高温度が少なくとも1500℃以上(好ましくは1600℃以上)である熱処理する工程(炭素化工程)とから構成されることが好ましい。
工程(d)において、焼成炉の幅に対する樹脂硬化シートの幅の比率(シート幅比率)が、90%以下であることが必須である。これは、焼成炉内の不活性気体が滞留することなくスムーズに排気される必要があるためである。シート幅比率が90%を超えると、樹脂硬化シートを挟んで上側と下側の不活性気体の循環が妨げられることになり、焼成炉内を浮遊しているケイ素含有化合物などの不純物が排気されずに濃縮してしまい、貫通孔が形成される要因となってしまう。
また、シート幅比率が45%以下の樹脂硬化シートの少なくとも2枚を並べて、焼成炉内に走行させることがより好ましい。この方法であれば、焼成炉内の不活性気体が樹脂硬化シートの上側にも下側にも滞留することなく、不活性気体の置換がスムーズに行われ、ケイ素含有化合物の浮遊を抑制することができる。
工程(d)において、前記焼成炉におけるシート走行路の上方に、炭素材料で構成されるカバーシートを配置しておいて、その下方を樹脂硬化シートが連続的に走行して、焼成されることが好ましい。炭素材料としては、例えば、別途作製した多孔質炭素電極基材を用いることができる。走行させる樹脂硬化シートをカバーシートで覆うことで、ケイ素含有化合物の付着を防止することができ、貫通孔の形成を抑制することができる。
工程(d)では、炭素化炉の排気が下部排気であることが好ましい。上部排気では、排ガスダクトへ固形分および有機物が付着し、これが樹脂硬化シートに落下することで、貫通孔が形成される場合がある。
得られた多孔質炭素電極基材は、所望する幅にスリットして使用することもできる。その場合、加熱プレス成形工程を行った後の樹脂硬化シート、または焼成工程を経た後の多孔質炭素電極基材を、所望の幅にスリットすることが好ましい。回転ローラに設けられた受け刃と、円盤形状のスリット刃との協働によって、シートを切断する方式が好ましい。さらに、スリット直後に発生する切粉を吸引除去することが好ましい。
<多孔質炭素電極基材>
(貫通孔について)
本発明の多孔質炭素電極基材は、連続したシート状であって、1mm以上の長径を有する貫通孔の個数が、1m2あたり0.2個以下であることが必須である。本発明においては、後加工で連続加工できるように、15m2以上の面積を有する連続したシート状であることが重要である。
貫通孔を含む多孔質炭素電極基材は、撥水処理などの後加工で斑が形成される問題が発生する。さらに、貫通孔を含む多孔質炭素電極基材を燃料電池に組み込んだ場合、面内で不均一な発電が生じる。面内の不均一な発電は、電解質膜の劣化を促進するため、燃料電池の耐久性にも悪影響を与えてしまう。したがって、貫通孔が存在する箇所を燃料電池用の多孔質炭素電極基材として使用することは避けざるを得ない。ただし、貫通孔が平均で0.2個/m2を越えて存在すると、燃料電池用の多孔質炭素電極基材の歩留まりが低下する。したがって、1mm以上の長径を有する貫通孔は、平均で0.2個/m2以下であることが必須であり、平均で0.1個/m2以下であることが好ましい。
(曲げ強度、曲げたわみについて)
本発明の多孔質炭素電極基材の厚みは、抵抗値の観点から、0.05〜0.4mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであることがより好ましい。多孔質炭素電極基材の厚みを0.05mm以上とすることで、厚み方向の強度が高くなり、セルスタックを組んだときのハンドリングに耐えられるようになる。また、多孔質炭素電極基材の厚みを0.4mm以下とすることで、その電気抵抗が低くなり、スタックを積層した際のトータルの厚みが小さくなる。
本発明の多孔質炭素電極基材の嵩密度は、0.3〜0.8g/cm3であることが好ましく、0.4〜0.7g/cm3であることがより好ましい。多孔質炭素電極基材の嵩密度を0.3g/cm3以上とすることで、電気抵抗が低くなり、かつ満足できる柔軟性も得られる。また、多孔質炭素電極基材の嵩密度を0.8g/cm3以下とすることで、ガス透過性が良好になり、燃料電池の性能が向上する。
本発明の多孔質炭素電極基材の曲げ強度は、歪み速度10mm/min、支点間距離2cm、試験片幅1cmの条件において、30MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがより好ましい。多孔質炭素電極基材の曲げ強度を30MPa以上とすることで、取り扱いが容易になり、例えばロールに巻き取る際に割れにくくなるだけでなく、多孔質炭素電極基材の曲げの際に亀裂が生じないものとすることができる。
本発明の多孔質炭素電極基材の曲げのたわみは、上記曲げ強度と同じ条件において、1.5mm以上であることが好ましく、2.0mm以上であることがより好ましい。多孔質炭素電極基材の曲げたわみが1.5mm以上とすることで、連続的にロールに巻き取る際に、割れにくく、長尺の多孔質炭素電極基材を作製・取り扱うことが容易になる。
(紙管直径について)
本発明の多孔質炭素電極基材は、長さが50m以上であって、外径が180mmを超えない紙管に巻き取られていることが好ましい。多孔質炭素電極基材が長尺でロール状に巻き取ることができれば、その生産性が高くなるだけでなく、その後工程のMEA(Membrane/Electrode Assembly:膜電極集合体)製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。このためにも、外径が180mmを超えない紙管に巻き取り可能な程度に柔軟であることが好ましい。さらに、外径が180mmを超えない紙管に巻き取ることができれば、多孔質炭素電極基材としての製品形態をコンパクトにでき、梱包や輸送コストの面でも有利である。
(熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率について)
本発明の多孔質炭素電極基材は、炭素短繊維と、熱硬化性樹脂由来の炭化物とから構成されており、炭素短繊維同士が熱硬化性樹脂由来の炭化物により結着されている構造であることが好ましい。炭化物は、熱硬化性樹脂由来であるが、熱硬化性樹脂の種類や炭素繊維紙への含浸量により、最終的に多孔質炭素電極基材に炭化物として残る割合が異なってくる。多孔質炭素電極基材を100質量%とした場合に、炭素短繊維分を除いた熱硬化樹脂由来の炭化物の含有率は、多孔質炭素電極基材中の炭素短繊維の結着や多孔質炭素電極基材柔軟性発現の観点から、20〜60質量%であることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例で行った評価・検査の方法は、以下の通りである。
1)多孔質炭素電極基材の貫通孔の数
光源(京都電機器株式会社製、商品名:LST−40)の上方150mmの位置に多孔質炭素電極基材を通し、その透過光から目視で貫通孔を確認した。そして、確認された貫通孔のサイズを定規で測定し、最も長い径(長径)が1mm以上の貫通孔をカウントした。
2)多孔質炭素電極基材のケイ素含有量
多孔質電極基材2〜3gを投入したルツボにNa2CO3粉体0.2gを加え、ガスバーナーで溶融させた。そして、目視で溶融が全体に行き渡ったことを確認後、少なくとも5分以上加熱した。次いで、純水(Siが入っていないもの)を10ml加えて溶解させた後、50mlポリ製フラスコに移す作業を数回繰り返し、ポリ製メスフラスコで50mlに定容した。そして、ICP発光分析によりケイ素分析を行った。
3)厚み
マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製、商品名:MDC−25MJ)により、幅方向に5点測定し、その平均厚みを算出した。
4)嵩密度
200mm×300mmサイズのサンプルを5枚切り出し、電子天秤にて秤量した。そして、3)で測定した平均厚みを使用して、嵩密度を算出した。
5)多孔質炭素電極基材の曲げ強度
曲げ強度試験装置を用いて測定した。支点間距離2cm、歪み速度10mm/minで10mm幅のサンプルに荷重をかけていき、荷重がかかり始めた点から試験片が破断したときの加圧くさびの破断荷重を測定して、次式より求めた。
Figure 2011065926
P=破断荷重(N)、L=支点間距離(mm)、W=サンプル幅(mm)、h=サンプル厚み(mm)
なお、連続サンプルについては、長手方向の値を測定した。
6)多孔質炭素電極基材の曲げたわみ
曲げ強度試験装置を用いて測定した。支点間距離2cm、歪み速度10mm/minで10mm幅のサンプルに荷重をかけていき、荷重がかかり始めた点から試験片が破断したときの加圧くさびの移動距離を測定して、その値を曲げたわみとした。
7)熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率
多孔質炭素電極基材を100質量%としたときに、炭素繊維分を除いた熱硬化樹脂由来の炭化物の含有率であり、以下の式により算出した。
Figure 2011065926
C:多孔質炭素電極基材中の熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率(質量%)
Gw:多孔質炭素電極基材の目付(g/m2
Pw:炭素繊維紙の目付(g/m2
F:炭素繊維紙中の炭素繊維の割合(質量%)
〔実施例1〕
平均繊維長3mmにカットしたポリアクリロニトリル系炭素短繊維(三菱レイヨン株式会社製、商品名:パイロフィルTR50S、平均単繊維径:7μm)、ポリビニルアルコール(PVA)短繊維(クラレ株式会社製、商品名:VBP105−1、繊維長3mm)、ポリエチレンパルプ(三井化学株式会社製、商品名:SWP)を用意した。ポリアクリロニトリル系炭素短繊維を湿式短網連続抄紙装置のスラリータンクで水中に均一に分散解繊し、十分に分散したところにPVA短繊維およびポリエチレンパルプを表1の組成になるように均一に分散し、送り出した。送り出されたウェブを短網板に通し、ドライヤー乾燥後、幅1000mm、坪量43g/m2のロール形態の炭素繊維紙を得た。
次に、炭素繊維紙をフェノール樹脂(DIC株式会社製、商品名:フェノライトJ−325)のメタノール溶液に浸漬し、炭素繊維紙100質量部に対し53質量部付着させ、さらに幅850mmにスリットして、フェノール樹脂を付着させた樹脂含浸紙を得た。この樹脂含浸紙をダブルベルトプレス装置を用いてプレス成形した。その際の条件としては、予熱条件を熱風温度150℃、予熱ロール温度を230℃、プレスロール温度を260℃、線圧を8×104N/mとした。その結果、幅850mm×長さ100mの樹脂硬化シートを得た。
得られた樹脂硬化シートを、窒素ガス雰囲気下の焼成炉(幅:1m)内を走行させて、140℃/minの昇温速度条件にて最高温度800℃で熱処理を行った。その後、さらに窒素ガス雰囲気下の焼成炉内を走行させて、最高温度2000℃で熱処理を行った。なお、樹脂硬化シートのシート幅比率は85%であった。こうして得られた長さ100mの多孔質炭素電極基材を幅400mmにスリットした後、外径172mmの紙管に巻き取った。得られた多孔質炭素電極基材の検査結果を表1および2に示した。また、多孔質炭素電極基材に含まれる熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率は、31質量%であった。
〔実施例2〕
実施例1と同様の方法で、幅1000mm、坪量34g/m2のロール形態の炭素繊維紙を得た。
次に、炭素繊維紙をフェノール樹脂(DIC株式会社製、商品名:フェノライトJ−325)のメタノール溶液に浸漬し、炭素繊維紙100質量部に対し53質量部付着させさらに幅650mmにスリットして、フェノール樹脂を付着させた樹脂含浸紙を得た。この樹脂含浸紙をダブルベルトプレス装置を用いてプレスを行った。その際の条件としては、予熱条件として熱風温度を150℃、予熱ロール温度を230℃とし、プレスロール温度を260℃、線圧を8×104N/mとした。その結果、幅650mm×長さ100mの樹脂硬化シートを得た。
得られた樹脂硬化シートを、窒素ガス雰囲気下の焼成炉(幅:1m)内を走行させて、140℃/minの昇温速度条件にて最高温度800℃で熱処理を行った。その後、さらに窒素ガス雰囲気下の焼成炉内を走行させて、最高温度2000℃で熱処理を行った。なお、樹脂硬化シートのシート幅比率は65%であった。こうして得られた長さ100mの多孔質炭素電極基材を幅300mmにスリットした後、外径172mmの紙管に巻き取った。得られた多孔質炭素電極基材の検査結果を表2に示した。また、多孔質炭素電極基材に含まれる熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率は、45質量%であった。
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で、坪量43g/m2のロール形態の1000mm幅の炭素繊維紙を得た。
次に、炭素繊維紙を、フェノール樹脂(DIC株式会社製、商品名フェノライトJ−325)のメタノール溶液に浸漬し、炭素繊維紙100質量部に対し53質量部付着させ、さらに幅950mmにスリットして、フェノール樹脂を付着させた樹脂含浸紙を得た。この樹脂含浸紙をダブルベルトプレス装置を用いてプレスを行った。その際の条件としては、予熱条件として熱風温度を150℃、予熱ロール温度を230℃とし、プレスロール温度を260℃、線圧を8×104N/mとした。その結果、幅950mm×長さ100mの樹脂硬化シートを得た。
得られた樹脂硬化シートを、窒素ガス雰囲気下の焼成炉(幅:1m)内を走行させて、140℃/minの昇温速度条件にて最高温度800℃で熱処理を行った。その後、さらに窒素ガス雰囲気下の焼成炉内を走行させて、最高温度2000℃で熱処理を行った。なお、樹脂硬化シートのシート幅比率は95%であった。こうして得られた長さ100mの多孔質炭素電極基材を幅400mmにスリットした後、外径172mmの紙管に巻き取った。得られた多孔質炭素電極基材の検査結果を表2に示した。また、多孔質炭素電極基材に含まれる熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率は、32質量%であった。
Figure 2011065926
Figure 2011065926

Claims (11)

  1. (a)炭素短繊維から炭素繊維紙を得る工程と、
    (b)前記炭素繊維紙に熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸紙を得る工程と、
    (c)前記樹脂含浸紙を加熱プレス成形して、樹脂硬化シートを得る工程と、
    (d)前記樹脂硬化シートを不活性雰囲気下の焼成炉内に走行させて、前記樹脂硬化シートを焼成する工程と
    を有し、前記焼成炉の幅に対する樹脂硬化シートの幅の比率(シート幅比率)が、90%以下である多孔質炭素電極基材の製造方法。
  2. 前記工程(d)において、前記シート幅比率が45%以下の樹脂硬化シートの少なくとも2枚を並べて、前記焼成炉内に走行させる請求項1に記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  3. 前記工程(d)において、前記焼成炉におけるシート走行路の上方に、炭素材料で構成されるカバーシートが配置されている請求項1または2に記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  4. 前記工程(c)において、前記樹脂含浸紙の2枚を積層した樹脂含浸紙積層体を、加熱プレス成形する請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  5. 前記工程(d)において下部排気を行う請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  6. 前記樹脂硬化シートのケイ素含有率が、300ppm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  7. シート状の多孔質炭素電極基材であって、1mm以上の長径を有する貫通孔の個数が、1m2あたり0.2個以下である多孔質炭素電極基材。
  8. 厚みが0.05〜0.4mmであり、嵩密度が0.3〜0.8g/cm3であり、曲げ強度が30MPa以上であり、曲げたわみが1.5mm以上である請求項7に記載の多孔質炭素電極基材。
  9. 15m2以上の面積を有する請求項7または8に記載の多孔質炭素電極基材。
  10. 長さが50m以上であり、外径が180mmを超えない紙管に巻き取られている請求項7〜9のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材。
  11. 炭素短繊維と、前記炭素短繊維同士を結着させている、熱硬化性樹脂由来の炭化物とから構成されており、前記熱硬化性樹脂由来の炭化物の含有率が、20〜60質量%である請求項7〜10のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材。
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