JP4801354B2 - 固体高分子型燃料電池用電極基材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
炭素繊維紙を作製する抄紙方法としては、液体の媒体中に炭素繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、強度の観点からポリアクリロニトリル系炭素繊維であることが必須である。ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを使用して電極基材を製造した場合、繊維同士の絡みが弱くなることにより弱い荷重でも破断するため好ましくない。また本製造にて炭素短繊維と混抄する低炭化収率繊維の繊維径が直径30〜150μmと太いため、抄紙後炭素繊維が起毛しやすくなる。プレス成型時に起毛した炭素短繊維を押さえつけるが、このときにポリアクリロニトリル系炭素繊維を使用した場合は、強度が強いため繊維を破断することなく面方向に寝かせることができる。
本発明においては、炭素繊維紙を抄紙する際に炭化収率20%以下の繊維が炭素繊維紙に含まれていなければならない。本発明における炭化収率とは、不活性ガス雰囲気下、2000℃で焼成したときの焼成後の質量を焼成前の質量で割った値である。炭化収率20%以下の繊維は炭素化時に分解されるため、炭素化後、該繊維が存在していた部分に空孔が形成される。炭化収率が20%より大きい場合は、炭素化後に形成される孔があまり大きくないため、ガスを十分に面方向に拡散させるのが困難である。より大きな孔を形成するためには、炭素化時に分解してなくなる繊維の炭化収率は18%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。
本発明で使用する炭化収率20%以下の繊維の直径は30〜150μmであることが必須である。本発明における繊維直径とは、断面の一端から他端を直線で結んだとき、その面でとりうることができる最大距離のことである。例えば、楕円形状の場合は、長径がその直径であると定義する。繊維直径が30μmより小さい場合は製造される電極基材の孔が大きくないため、反応ガスを電極基材全面に拡散させるのが困難となるため好ましくない。一方、繊維直径が150μmより大きい場合は、電極基材の表面が非常に粗くなり、とくに接合する際、イオン交換膜などの固体高分子電解質膜にダメージを与えやすくなるため好ましくない。
炭化収率20%以下の繊維の中でもビニロン繊維は、耐熱性・吸湿性に優れている点で好ましい。ビニロン繊維はフェノール樹脂を熱硬化させる際、熱によって変形しないだけでなく、発生する水を一時的に吸収している役目も果たしており、他の繊維を混抄した場合より成型加工性にも優れている。また、フェノール樹脂との親和性が炭素繊維より高いため、ビニロン繊維の回りに優先的に樹脂が付着する。炭素化によりビニロン繊維は分解してなくなるが、ビニロン繊維の周りに付着したフェノール樹脂の形状はそのまま残り、樹脂炭化物がネット構造を形成する。
本発明で使用する低炭化収率繊維の混合比は炭素繊維100質量部に対し、150〜250質量部含まれていることが好ましい。本発明に使用している低炭化収率繊維は炭素繊維と比較して繊維直径が大きいため、低炭化収率繊維の比率が大きいほど大きな孔を形成することができる。低炭化収率繊維の混合比が150質量部より少ない場合は、反応ガスを電極基材全面に拡散させるのが困難となる場合があり、好ましくない。一方、低炭化収率繊維の混合比が250質量部より多く含まれた場合は、大きな孔を形成することができるが、炭素繊維不足により、セルを形成するのに十分な機械強度を発現することができなくなる場合があり、好ましくない。
本発明で使用する炭素短繊維のカット長は3〜12mmであることが好ましい。カット長が3mmより短くなると、製造後、基材の表面から繊維が脱落しやすくなる傾向がある。脱落した繊維は、燃料電池セルを組む際に接合される固体高分子電解質膜(イオン交換膜)に突き刺さり、セル性能を著しく低下させるため好ましくない。カット長が12mmより長くなると、炭素短繊維の分散が困難となり、反応ガスの均一な分配ができず、反応ガスが供給されない部分が発生する場合がある。またガスの分配を安定させるため、電極基材には厚みムラが小さいものが求められているが、分散が悪いと厚みムラが極端に大きくなることからも好ましくない。
本発明で使用する炭素短繊維の繊維直径は6〜8μmであることが好ましい。本発明における繊維直径は、製造に使用される炭素短繊維の平均径のことである。炭素短繊維の繊維直径が6μmより小さくなると、炭素短繊維の分散が困難になる場合がある。また製造した電極基材の細孔径が小さくなる傾向にあるため、ガス分散能が低下してしまい好ましくない。また炭素短繊維の製造コストは、繊維直径が8μmより大きくなると急に高くなるため、8μm以下のものを使用するのがコスト的には有利である。
湿式法で抄紙する場合、炭素繊維同士を結着させるバインダーとして、少量混ぜるだけで紙の形状を保持できる点でポリビニルアルコール繊維を混合することが好ましい。本発明で使用するポリビニルアルコールは、ビニロンのアセタール化を省略した水溶性ビニロンのことであり、先述したビニロン繊維とは異なる。本発明で使用するポリビニルアルコールは炭素繊維100質量部に対し、50〜80質量部含まれていることが好ましい。ポリビニルアルコールが多いほど、抄紙後の強度は強くなるが、一方で孔を小さくし、ガスの分配能を低下させる原因となる。ポリビニルアルコールの混合比が50質量部より小さい場合は、抄紙後炭素繊維が脱落しやすくなり、添加する効果が得られず、80質量部より多く含まれるとガスの分配能が低下するため好ましくない。
本発明の途中段階で得られる炭素繊維紙の紙目付は75〜130g/m2で、その紙に含まれる炭素繊維目付は25〜35g/m2であることが好ましい。炭素繊維紙の目付が大きいほど、貫通方向のガスの透過性は悪くなるが、面全体にガスが広がるようになる。紙目付が75g/m2より小さいかまたは炭素繊維目付が25g/m2より小さい場合は、ガスを面全体に広げるには目付が小さすぎるため好ましくない。また、紙目付が130g/m2より大きいかまたは炭素繊維目付が35g/m2より大きい場合は、各工程において巻き取りが困難となるため好ましくない。
<フェノール樹脂・量>
フェノール樹脂は、常温において粘着性、或いは流動性を示す物でかつ炭素化後も導電性物質として残存する物質であり、炭素前駆体樹脂として最適である。特にアンモニア系触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂が燃料電池の耐久性を著しく下げる金属分を含まない点で好ましい。フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロール等が用いられる。アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。これらはフェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
樹脂を含浸した炭素繊維紙が2枚以上重ねられて樹脂硬化されることは好ましい。炭素繊維紙が1枚である場合、薄膜型の電極基材が得られるが、炭素繊維紙の表面と裏面の地合の差異が影響して焼成後の収縮に差が生じ、反りが生じる場合があり、好ましくない。また、2枚以上重ねることで、それぞれの炭素繊維紙の分散性を良好なものにすることができ、均一性に優れた基材を得ることができる。炭素化前の基材の厚みとしては、無加圧で0.3〜0.8mmが好ましい。基材が0.3mmより薄い場合は、最終製品も厚みが薄いため、面全体にガスが広がりにくくなる傾向がある。一方、0.8mmより厚い場合は、貫通方向の抵抗が高くなり発電特性の低下につながる。炭素化前の基材の厚みを上記厚みに制御するためには炭素繊維紙の積層枚数を2〜4枚程度にすることがより好ましい。積層枚数が多すぎる場合は製造工程が複雑になりすぎる、または炭素繊維紙1枚の強度が弱くなるなどの問題がある。
本発明においては、熱硬化性樹脂を炭化させ、ガス拡散層の導電性を高めるために、不活性ガス中で炭素化することが必要である。炭素化は、炭素繊維紙の全長にわたって連続で行うことが好ましい。電極基材が長尺であれば、電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後工程の電解質膜電極接合体(MEA)製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。
このようにして得た炭素電極基材2枚を使用して、炭素電極基材−触媒層−高分子電解質膜−触媒層−炭素電極基材をこの順序になるよう層状に配置して高分子電解質膜を両側から挟み込み、熱プレスを行う。これによりMEAを得ることができる。触媒層としては、公知のものが使用でき、例えば、白金触媒とカーボンブラックを混練してペーストを調製し、このペーストを炭素電極基材に塗布するなどの方法で形成すればよい。
実施例中の各物性等は以下の方法で測定した。
加圧部の外形が30mmφ、ガス流通部の径が10mmφの円筒状の圧縮治具(圧縮部面積6.28cm2)に36mmφに切り出した電極基材を挟み、1MPaの加圧を加える。円筒の上方から200ml/minの流速でガスを流したときの基材内側と基材外側の圧力差を測定し、以下の式より算出した。
ガス透過度(ml/min/Pa)
=流速(ml/min)/基材内側と基材外側の圧力差(Pa)
面方向のガス透過度と同様の方法で電極基材を挟み、ガス流路を変え、円筒の上方から200ml/minの流速でガスを流したときの基材上部と基材下部の圧力差を測定し、以下の式より算出した。
ガス透過度(ml/min/Pa)
=流速(ml/min)/基材上部と基材下部の圧力差(Pa)
平均繊維径が7μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の繊維束を切断し、平均繊維長が3mmの短繊維を得た。次にこの短繊維束100質量部に対し、ビニロン繊維200質量部を水中で解繊し(解繊後のビニロン繊維の直径は100μm)、十分に分散したところにバインダーであるポリビニルアルコール(PVA)の短繊維を60質量部となるように均一に分散させ、標準角形シートマシンを用いてJIS P−8222法に準拠して抄紙を行った。得られた炭素繊維紙は単位面積当たりの質量が90g/m2であった。
実施例1と同じ方法にて炭素繊維紙を得た後、フェノール樹脂(「フェノライトJ−325」、商品名、大日本インキ化学(株)製)の15質量%メタノール溶液に浸漬し、引き上げて炭素繊維100質量部に対し、フェノール樹脂を300質量部付着させ、熱風で乾燥した後、2枚の炭素繊維紙を重ねて離型紙に挟んで、バッチプレス装置にて180℃、0.65MPaの条件下に5分間置き、フェノール樹脂を硬化させた。
実施例1では、炭素繊維の短繊維束100質量部に対し、直径100μmのビニロン繊維200質量部を混ぜて抄紙したが、これを混ぜず、炭素繊維とポリビニルアルコールのみで抄紙した。それ以外、すなわち炭素繊維目付、樹脂目付、プレス条件、炭素化条件は実施例1と同じになるように調整して電極基材を作製した。表1に示すように、貫通方向のガス透過度に比べて面方向のガス透過度が小さく、ガスを電極基材全面に広げることができない。
実施例1で炭素繊維の短繊維束100質量部に対し、直径100μmのビニロン繊維200質量部を混ぜて抄紙したが、直径100μmのビニロン繊維の代わりに直径9μmのビニロン繊維を200質量部混ぜて抄紙した。それ以外、すなわち炭素繊維目付、樹脂目付、プレス条件、炭素化条件は実施例1と同じになるように調整して電極基材を作製した。表1に示すように、貫通方向のガス透過度に比べて面方向のガス透過度が小さい。
実施例1で炭素繊維の短繊維束100質量部に対し、直径100μmのビニロン繊維200質量部を混ぜて抄紙したが、直径100μmのビニロン繊維の代わりに直径200μmのポリエステル繊維を200質量部混ぜて抄紙した。繊維が太すぎるため、ポリエステル繊維同士が重なったところに大きな空洞が形成された。基材として最後まで製作することができなかった。
Claims (6)
- ポリアクリロニトリル系炭素短繊維を含む炭素繊維紙を抄紙したのち、フェノール樹脂を含浸し、得られた炭素繊維紙を2枚以上張り合わせて加熱プレスによりフェノール樹脂を硬化し、さらにこれを焼成して多孔質電極基材を製造する方法において、抄紙された炭素繊維紙が直径30〜150μmで炭化収率20%以下のビニロン繊維を含むことを特徴とする炭素質多孔質電極基材の製造方法。
- 炭素繊維紙を抄紙する際に混合する直径30〜150μmのビニロン繊維が、炭素短繊維100質量部に対し、150〜250質量部含まれている請求項1記載の炭素質多孔質電極基材の製造方法。
- 炭素繊維紙を抄紙する際に使用されるポリアクリロニトリル系炭素短繊維は、繊維直径が6〜8μmで、カット長が3〜12mmである請求項1又は2記載の炭素質多孔質電極基材の製造方法。
- 抄紙により得られる炭素繊維紙の炭素繊維目付が25〜35g/m2、紙目付が75〜130g/m2である請求項1〜3いずれか1項記載の炭素質多孔質電極基材の製造方法。
- フェノール樹脂を炭素繊維紙に含浸させる際、炭素繊維100質量部に対しフェノール樹脂150〜350質量部を含浸させる請求項1〜4いずれか1項記載の炭素質多孔質電極基材の製造方法。
- 加熱プレスによるフェノール樹脂の硬化を、炭素繊維紙の全長にわたって連続して行う請求項1〜5いずれか1項記載の炭素質多孔質電極基材の製造方法。
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