JP2009117325A - 多孔質電極基材及びそれを用いた燃料電池 - Google Patents

多孔質電極基材及びそれを用いた燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】ガス透気度を高めコンパクトでセルスタックを組むのに最適な固体高分子型燃料電池用の多孔質電極基材及びこの多孔質電極基材の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素短繊維と有機高分子短繊維と有機高分子化合物とを二次元平面内において分散して、前駆体シートを作製する工程;前記前駆体シートを、前記有機高分子短繊維は溶解するが前記有機高分子化合物は溶解しない溶剤で洗浄する工程;洗浄後の前記前駆体シートに炭素化可能な樹脂を含浸する工程;炭素化可能な樹脂を含浸された前記前駆体シートを1000℃以上の温度で炭素化する工程を有する多孔質電極基材の製造方法で達成される。
【選択図】なし

Description

本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材及びその製造方法とそれを用いた燃料電池等に関するものである。
固体高分子型燃料電池はプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いることを特徴としており、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを電気化学的に反応させることにより起電力を得る装置である。固体高分子型燃料電池は、自家発電装置や自動車等の移動体用の発電装置として利用可能である。
このような固体高分子型燃料電池は、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層とガス拡散電極基材とを有するガス拡散電極が、触媒層側を内側にして、高分子電解質膜の両面に接合された構造となっている。
このような高分子電解質膜と2枚のガス拡散電極からなる接合体は膜電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。またMEAの両外側には燃料ガス又は酸化ガスを供給し、かつ生成ガス及び過剰ガスを排出することを目的としたガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
多孔質電極基材は電気的な接触抵抗を低減し、かつ、セパレーターより供給される燃料ガス又は酸化ガスがセル外へ漏出することを抑制することを目的として、セパレーターによって数MPaの荷重で締結されるため、機械的強度が必要となる。
さらに、多孔質電極基材は主に次の3つの機能を持つ必要がある。第1に多孔質電極基材の外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路より触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガス又は酸化ガスを供給する機能である。第2に触媒層で反応により生成した水を排出する機能である。第3に触媒層での反応に必要な電子又は生成される電子をセパレーターへ導電する機能である。したがって、多孔質電極基材には高い反応ガス及び酸化ガス透過能と水の排出性、電子導電性が必要である。これらの機能を付与するため、多孔質電極基材は一般的に炭素質材料を用いることが有効とされている。
発電時の生成水の排水不良によって反応ガス及び酸化ガスの拡散が阻害される発電性能が低下するフラッディングを抑制するには、多孔質炭素電極基材のガス透気度を高くすることが有効である。
従来は、炭素短繊維を抄造後、樹脂で結着させた後、高温で焼成し樹脂を炭素化させたペーパー状の炭素/炭素複合体から成る多孔質炭素電極基材の機械強度を強くするために、炭素短繊維と樹脂炭化物とを密に結着させるなどの方法がとられていたが、嵩密度が高くなることによりガス透気度が小さくなり、フラッディングよって発電性能が低下してしまうことが多かった。一方、嵩密度を下げ、ガス透気度を大きくしようとすると機械強度が弱くなり、取り扱い方法に制限があるものとなった。
特許文献1には、実質的に二次元平面内においてランダムな方向に分散せしめられた炭素短繊維を炭素によって互いに結着してなる多孔質炭素板であって、曲げ強さが14.7MPa以上、厚さ方向の圧縮強さが0.49MPa以上、厚さ方向の圧縮弾性率が11.8MPa以下、厚さ方向の比抵抗が0.01Ωm以下であり、かつ空気による厚さ方向の気体透過性が3000ml・mm/cm2/hr/mmAq以上であることを特徴とする多孔質炭素板が記載されている。しかし、この方法で得られる多孔質電極基材は、高いガス透気度は有しているもの、炭化樹脂量を低減しているため、機械強度が弱くなるという問題があった。
特開平9−157052号公報
本発明は、上記のような問題点を克服し、ガス透気度を高めコンパクトでセルスタックを組むのに最適な固体高分子型燃料電池用の多孔質電極基材及びこの多孔質電極基材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の通りである。
(1)炭素短繊維と有機高分子短繊維と有機高分子化合物とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;
前記前駆体シートを、前記有機高分子短繊維は溶解するが前記有機高分子化合物は溶解しない溶剤で洗浄する工程;
洗浄後の前記前駆体シートに炭素化可能な樹脂を含浸する工程;
炭素化可能な樹脂を含浸させた前記前駆体シートを1000℃以上の温度で炭素化する工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。
(2)前記有機高分子短繊維が、ポリメタクリル酸メチル短繊維である請求項1記載の多孔質電極基材の製造方法。
(3)(1)の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
(4)(3)の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
本発明によれば、導電性、機械的強度、厚み精度、表面平滑性を保ったまま、ガス透気度を高めコンパクトでセルスタックを組むのに最適な固体高分子型燃料電池用の多孔質電極基材及びこの多孔質電極基材の製造方法を得ることができる。
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであって良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましく、特に用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが多孔質炭素電極基材の機械的強度が比較的高くすることができるので好ましい。
炭素短繊維の直径は、3〜9μmであることが、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から好ましい。4〜8μmであることが最終多孔質電極基材の平滑性の面からさらに好ましい。
炭素短繊維の繊維長は、2〜12mmが好ましい。この範囲内であると分散性が良い。
<有機高分子短繊維>
本発明で用いる有機高分子短繊維は、前駆体シートの洗浄によって溶解することにより、前駆体シート中に有機高分子短繊維が消失した空間を形成させる。そのため機械強度を維持したまま、高いガス透過性を有する多孔質電極基材を製造することができる。有機高分子短繊維の種類は、特に限定されないが、後述するバインダーとして用いる有機高分子化合物とは異なる溶剤に可溶であることが必須となる。また、炭素短繊維や有機高分子化合物などと同時に前駆体シートを作製するときに、分散媒である液体に不要であることも必要である。
有機高分子短繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、1〜30μmのものが好ましく、5〜25μmがより好ましく、5〜15μmが特に好ましい。この範囲内であると有機高分子短繊維の溶解後の前駆体シートの空間を有効に形成することができ、多孔質電極基材の表面が粗くなることを防ぐことができる。
有機高分子短繊維の繊度は、特に限定されないが、0.1〜2.0dtexのものが好ましい。繊度を0.1dtex以上とすることにより、有機高分子短繊維の溶解後の前駆体シートの空間を有効に形成することができる。また、繊度を2.0dtex以下とすることにより、溶出後の前駆体シート、及び多孔質電極基材の表面が粗くなることを防ぎ、燃料電池としたときに多孔質電極基材と周辺部材との接触を良好なものとすることができ、かつ前駆体シート及び多孔質電極基材の機械強度を維持することができる。
有機高分子短繊維の長さは、特に限定されないが、同時に用いる炭素短繊維と同程度のものが好ましく、2〜12mmがより好ましい。この範囲内であると分散性が良い。
有機高分子短繊維は、炭素短繊維と一緒に分散することで、炭素短繊維の再収束を防止する役割も果たす。そのため、水との親和性にも優れているものが好ましい。
本発明に用いる有機高分子短繊維としてはアクリル繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など挙げられるが、前駆体シート作製後の洗浄での溶出が容易なポリメタクリル酸メチル短繊維が特に好ましい。
前記ポリメタクリル酸メチル短繊維は、例えば以下の方法で製造することができる。すなわち、ジメチルアセトアミドと水の混合液中に、複数のホールを有するノズルより、ポリメタクリル酸メチルのジメチルアセトアミド溶液を吐出し、凝固させながら、引き取り、これを沸水中で延伸後、乾燥させる湿式紡糸法によって、ポリメタクリル酸メチル長繊維を得た後、これをギロチンカッターにて切断し、ポリメタクリル酸メチル短繊維を得る製造方法である。
前駆体シート中の有機高分子短繊維の質量比率は、10〜50質量%であることが好ましい。この範囲内であると有機高分子短繊維を溶解後、形成される空間が多く、ガス透気度の増加効果が得やすい。さらには、有機高分子短繊維を溶解後の前駆体シートの機械強度が低下せず、多孔質電極基材の形態を維持することができる。
<前駆体シートを作製する工程>
炭素短繊維と有機高分子短繊維から成る前駆体シートの作製方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維と有機高分子短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維と有機高分子短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。有機高分子短繊維を上記量、バインダーとして適切な量の有機高分子化合物と共に湿式法により前駆体シートを作製することが好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐことができる。
炭素短繊維と有機高分子短繊維、必要に応じて有機高分子化合物を混合する方法としては、炭素短繊維とともに水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。このように有機高分子化合物を混ぜることにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。
また、前駆体シートの作製は連続で行なう方法やバッチ式で行なう方法があるが、特に目付のコントロールが容易であるという点と生産性及び機械的強度の観点から連続で行うことが好ましい。
本発明での前駆体シート、及び多孔質電極基材では、炭素短繊維が二次元平面内において分散していることが好ましい。「二次元平面内において分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。二次元平面内での炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
<有機高分子化合物>
有機高分子化合物は、炭素繊維紙中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)としてはたらく。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、などを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シート作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。
<洗浄>
本発明においては、次に、得られた前駆体シートを洗浄する。洗浄は前駆体シート中の有機高分子短繊維を選択的に除去することを目的に行う。前駆体シートの洗浄に用いる溶剤は、洗浄後の前駆体シートの形態を保持するため、有機高分子短繊維が溶解し、バインダーとして用いる有機高分子化合物は溶解しないものを用いる必要がある。洗浄に用いる溶剤としては上記条件を満足するものであれば特に限定されないが、有機高分子短繊維にポリメタクリル酸短繊維を用い、バインダーである有機高分子化合物としてポリビニルアルコールを用いた場合には、アセトン、クロロホルム、トルエン等の有機溶剤を用いることができる。
<有機高分子短繊維、有機高分子化合物と溶剤の組み合わせ>
本願発明における有機高分子短繊維、有機高分子化合物と溶剤の好ましい組み合わせを下記に挙げる。これに限定されるものではない。
有機高分子短繊維/有機高分子化合物/溶剤
・ポリメタクリル酸メチル/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/アセトン
・ポリメタクリル酸メチル/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/トルエン
・ポリメタクリル酸メチル/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/クロロホルム
・ポリスチレン/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/トルエン
・ポリスチレン/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/クロロホルム
・アセテート/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/塩化メチレン
・アセテート/ポリビニルアルコール(PVA)繊維/メタノール
・ビニロン/ポリエチレンパルプ/温水
・ポリビニルアルコール/ポリエチレンパルプ/温水
・アクリル繊維/ポリエチレンパルプ/DMSO
・アクリル繊維/ポリエチレンパルプ/DMF
・ポリメタクリル酸メチル/ポリエチレンパルプ/トルエン
・ポリメタクリル酸メチル/ポリエチレンパルプ/クロロホルム
・ポリスチレン/ポリエチレンパルプ/トルエン
・ポリスチレン/ポリエチレンパルプ/クロロホルム
・ポリエステル/ポリエチレンパルプ/酸又はアルカリ
・アセテート繊維/ポリエチレンパルプ/塩化メチレン
・アセテート繊維/ポリエチレンパルプ/メタノール。
<樹脂>
本発明で樹脂として用いる樹脂組成物は、炭素化後も導電性物質として残存する物質であり、常温において粘着性、あるいは流動性を示すものが好ましい。フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂、アラミド樹脂、ピッチ等を単体若しくは混合物として用いることができ、用いる樹脂の種類、後述する樹脂の含浸の際の含浸量、硬化、炭素化温度によって残存する炭素化量が異なる。フェノール樹脂の好ましいものとして、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を挙げることができる。
レゾールタイプのフェノール樹脂は、公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできるが、この場合は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプのものが好ましい。
フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシロール等が用いられる。アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。これらはフェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
<樹脂の含浸方法>
洗浄後の前駆体シートに樹脂を含浸する方法としては、前駆体シートに樹脂を含浸させることができればよく、特に限定されないが、コーターを用いて前駆体シート表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、若しくは前駆体シートと樹脂フィルムを重ねて、樹脂を前駆体シートに転写する方法が、連続的に行なうことができ、生産性及び長尺ものも製造できるという点で好ましい。
<樹脂の硬化、炭素化>
樹脂を含浸された前駆体シートは、そのまま炭素化することも可能である。しかし、炭素化する前に樹脂を硬化することが樹脂の炭素化時の気化を抑制し、多孔質電極基材の強度向上のために好ましい。硬化は、樹脂を含浸された前駆体シートを均等に加熱できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、樹脂を含浸された前駆体シートの上下両面から剛板を重ね、加熱する方法や上下両面から熱風を吹き付ける方法、また連続ベルト装置や連続熱風炉を用いる方法が挙げられる。
前駆体シートに樹脂を付着した後、加熱により樹脂を硬化させると共に、前駆体シート表面を平滑にする工程を含んでいることが多孔質電極基材の表面精度の向上のために好ましい。表面を平滑にする工程がない場合も良好な強度とガス透過度とをともに有する多孔質電極基材が得られるが、多孔質電極基材の大きな起伏を低減し、セルを組んだとき多孔質電極基材と周辺基材との接触を充分するためには、樹脂を硬化させると共に前駆体シート表面を平滑することが好ましい。特に限定されないが、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法がある。中でも連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法が、長尺の多孔質電極基材ができるという点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEMBRANE ELECTRODE ASSEMBLY(MEA)製造も連続で行なうことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。
連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。効果的に表面を平滑にするためには、樹脂が最も軟化する温度でプレスし、その後加熱又は冷却により樹脂を固定する方法が特に好ましい。前駆体シートに含浸される樹脂の比率が多い場合は、プレス圧が低くても平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、多孔質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎる、激しく変形するなどの問題が生じるのであまり好ましくない。プレス圧が高く緻密になりすぎた場合は、焼成時に発生するガスがうまく排出されず多孔質電極基材の組織を壊してしまうこともある。剛板に挟んで、又、連続ベルト装置で前駆体シートに含浸した樹脂の硬化を行う時は、剛板やベルトに樹脂が付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、炭素繊維紙と剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行なうことが好ましい。
硬化された樹脂は、続いて炭素化される。多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で炭素化する。炭素化は、バッチ式で炭素化することも可能であるが、生産性という点において、前駆体シートの全長にわたって連続で行なうことが好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後工程のMembrane Electrode Assembly(MEA)製造も連続で行なうことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。
炭素化は、主に樹脂を炭素化することを目的に行われ、不活性処理雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で、前駆体シートの全長にわたって連続して焼成処理することが好ましい。本発明の炭素化においては、不活性雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で焼成する炭素化処理の前に行われる、300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
<製造方法>
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、たとえば以下の方法による。すなわち、炭素短繊維と有機高分子短繊維と有機高分子化合物とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製した後、得られた前駆体シートを、前記有機高分子短繊維は溶解するが前記有機高分子化合物は溶解しない溶剤で洗浄し、この前駆体シートに炭素化可能な樹脂を含浸後、1000℃以上の温度で炭素化する多孔質電極基材の製造方法である。
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。
実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
(1)ガス透過度
JIS規格P−8117に準拠しガーレーデンソメーターを使用し、200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、算出した。
(2)厚み
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(ミツトヨ製)を使用し、測定した。このときの測定子の大きさは、直径10mmで測定圧力は1.5kPaで行った。
(3)貫通方向抵抗
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を金メッキした銅板にはさみ、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
貫通抵抗(mΩ・cm2)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2
[実施例1]
室温に保温した水中にホール数1000のノズルより、十分に溶解後、室温に保温した12.5質量%ポリメタクリル酸メチルのジメチルアセトアミド溶液を吐出量10cc/minで吐出し、凝固させながら、線速8m/minで引き取り、これを沸水中で2倍延伸することによって、平均繊維径10μm、繊度が0.93dtexのポリメタクリル酸メチル繊維を得た。これをギロチンカッターにて平均繊維長が3mmとなるように切断し、ポリメタクリル酸メチル短繊維を得た。
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用意した。
有機高分子化合物として、平均繊維長が3mmのポリビニルアルコール(PVA)短繊維(商品名:「VBP105−1」、クラレ株式会社製)を用意した。
炭素短繊維を水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところにポリメタクリル酸メチル短繊維とPVA短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ25質量部、35質量部となるように均一に分散した。標準角型シートマシン(熊谷理機工業(株)製 No .2555 標準角型シートマシン)を用いてJIS P−8209法に準拠して手動により前駆体シートを作製し、乾燥後、目付けが32g/m2の前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。
次に、得られた前駆体シートをアセトンで4回洗浄した。乾燥後の前駆体シートの目付けは28g/m2であり、ポリメタクリル酸メチル短繊維が前駆体シートより除去されていることが確認できた。
続いて、洗浄後の前駆体シートに、フェノール樹脂(大日本インキ化学株式会社製フェノライトJ−325)を11質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を含浸させ、室温にて8時間乾燥した。目付けが49g/m2のフェノール樹脂含浸前駆体シートを得た。これは、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂を103質量部付着させたことになる。
次に、2枚重ね合わせたこの前駆体シートを2枚のシリコーン系離型剤をコートした紙に挟んだ後、バッチプレス装置にて180℃、30kPaの条件下で3分間加圧加熱成型した。
フェノール樹脂を硬化させた前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化することで多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材はハンドリング性に優れ、ガス透気度が、6600ml/hr/cm2/mmAqと高いガス透気度を示し、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
各実施例、比較例における評価結果を表1に示した。
[実施例2]
ポリメタクリル酸メチル短繊維とPVA短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ50質量部、35質量部とし、目付けが35g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。また、実施例1と同様の洗浄方法にて前駆体シートを洗浄し、乾燥後の前駆体シートの目付けは28g/m2であり、ポリメタクリル酸メチル短繊維が前駆体シートより除去されていることが確認できた。
次に、フェノール樹脂を10質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが47g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が96質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材はハンドリング性に優れ、ガス透気度が、6500ml/hr/cm2/mmAqと高いガス透気度を示し、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
[実施例3]
ポリメタクリル酸メチル短繊維とPVA短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ75質量部、50質量部とし、目付けが42g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。また、実施例1と同様の洗浄方法にて前駆体シートを洗浄し、乾燥後の前駆体シートの目付けは30g/m2であり、ポリメタクリル酸メチル短繊維が前駆体シートより除去されていることが確認できた。
次に、フェノール樹脂を10質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが50g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が101質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材はハンドリング性に優れ、ガス透気度が、6400ml/hr/cm2/mmAqと高いガス透気度を示し、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
[実施例4]
ポリメタクリル酸メチル短繊維とPVA短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ50質量部、44質量部とし、目付けが30g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。また、実施例1と同様の洗浄方法にて前駆体シートを洗浄し、乾燥後の前駆体シートの目付けは24g/m2であり、ポリメタクリル酸メチル短繊維が前駆体シートより除去されていることが確認できた。
次に、フェノール樹脂を11質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが40g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が103質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材はハンドリング性に優れ、ガス透気度が、7000ml/hr/cm2/mmAqと高いガス透気度を示し、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
[実施例5]
ポリメタクリル酸メチル短繊維とPVA短繊維を炭素短繊維100質量部に対して、それぞれ133質量部、58質量部とし、目付けが31g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。また、実施例1と同様の洗浄方法にて前駆体シートを洗浄し、乾燥後の前駆体シートの目付けは19g/m2であり、ポリメタクリル酸メチル短繊維が前駆体シートより除去されていることが確認できた。
次に、フェノール樹脂を11質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが32g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が110質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材はハンドリング性に優れ、ガス透気度が、10200ml/hr/cm2/mmAqと高いガス透気度を示し、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
[比較例1]
ポリメタクリル酸メチル短繊維を用いず、PVA短繊維が炭素短繊維100質量部に対して、35質量部とし、目付けが28g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして前駆体シートを得た。炭素短繊維の分散状態は良好であった。また、実施例1と同様の洗浄方法にて前駆体シートを洗浄したが、乾燥後の前駆体シートの目付けは28g/m2と変わらず、炭素短繊維、PVA短繊維の溶出がないことが確認できた。
次に、フェノール樹脂を12質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが50g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が106質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は優れたハンドリング性を示したが、ガス透気度が6000ml/hr/cm2/mmAqであり、実施例1〜5と比較し低いガス透気度を示した。厚み、貫通方向抵抗はそれぞれ良好な結果であった。
[比較例2]
アセトンによる前駆体シートの洗浄を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして、目付けが32g/m2の前駆体シートを得た。炭素短繊維及びポリメタクリル酸メチル短繊維の分散状態は良好であった。
次に、フェノール樹脂を11質量%含むフェノール樹脂のメタノール溶液を用い、目付けが53g/m2とし、炭素短繊維100質量部に対し、フェノール樹脂が103質量部付着させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は優れたハンドリング性を示したが、ガス透気度が5400ml/hr/cm2/mmAqであり、実施例1〜5と比較し低いガス透気度を示した。厚み、貫通方向抵抗はそれぞれ良好な結果であった。
Figure 2009117325
[実施例6]
(1)MEAの作製
実施例4で得られた多孔質炭素電極基材をカソード用、アノード用に2組用意した。両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量50質量%)からなる触媒層(触媒層面積25cm2、Pt付量0.3mg/cm2)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚30μm)を、この2組の多孔質炭素電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
(2)MEAの燃料電池特性評価
前記(1)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
この単セルについて、電流密度−電圧特性を測定することによって燃料電池特性評価を行った。燃料ガスとして水素ガスを用い、酸化ガスとしては空気を用いた。セル温度80℃、燃料ガス利用率60%、酸化ガス利用率40%とした。また、ガス加湿は80℃のバブラーにそれぞれ燃料ガスと酸化ガスを通すことによって行った。電流密度が0.8A/cm2のときの燃料電池セルのセル電圧が0.652V、セルの内部抵抗が3.2mΩであり、良好な特性を示した。
[比較例3]
比較例2で得られた多孔質電極基材を用いた点を除いて、実施例6と同様にして燃料電池特性評価を行った。
電流密度が0.8A/cm2のときの燃料電池セルのセル電圧が0.581V、セルの内部抵抗が3.4mΩであり、実施例6と比較し、ガス拡散不良による発電特性の低下が見られた。

Claims (4)

  1. 炭素短繊維と有機高分子短繊維と有機高分子化合物とを二次元平面内において分散して、前駆体シートを作製する工程;
    前記前駆体シートを、前記有機高分子短繊維は溶解するが前記有機高分子化合物は溶解しない溶剤で洗浄する工程;
    洗浄後の前記前駆体シートに炭素化可能な樹脂を含浸する工程;
    炭素化可能な樹脂を含浸された前記前駆体シートを1000℃以上の温度で炭素化する工程;
    を有する多孔質電極基材の製造方法。
  2. 前記有機高分子短繊維が、ポリメタクリル酸メチル短繊維である請求項1記載の多孔質電極基材の製造方法。
  3. 請求項1の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
  4. 請求項3記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
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