JP5433146B2 - 多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Description
(1)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。但し、前記前駆体シートに熱硬化性樹脂の含浸処理を行う場合を除く。
(2)前駆体シートを作製する工程と炭素化処理する工程との間に、前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程、を有する前記(1)に記載の多孔質電極基材の製造方法。
(3)前記(1)または(2)に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。
(4)2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている前記(3)に記載の多孔質電極基材。
(5)前記(3)または(4)に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
(6)前記(5)に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度を比較的高くすることができることから、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが好ましい。
本発明では、多孔質電極基材中の炭素短繊維同士は、直接接合しておらず、フィブリル状炭素によって接合している。フィブリル状炭素とは、フィブリル状繊維を炭素化してできた、炭素短繊維同士を接合する物質である。このフィブリル状繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などいずれであっても良いが、低温から高温にかけて炭素短繊維同士を接合させることができ、炭素化した際の残存質量が大きいポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維がより好ましい。ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などのフィブリル状繊維は、その種類や炭素短繊維との混合比、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理の有無によって、最終的に得られる多孔質電極基材中にフィブリル状炭素として残る割合が異なる。
本発明において、「二次元平面内において分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。二次元平面内での炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、以下に示す方法である。上記の多孔質電極基材は、例えば以下の方法により好適に製造することができる。
(1)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製し、その前駆体シートを酸化処理せずに1000℃以上の温度で炭素化処理する。
(2)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製し、その前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型し、加熱加圧成型した前駆体シートを酸化処理せずに1000℃以上の温度で炭素化処理する。
本発明の製造方法では、炭素化可能なフィブリル状繊維を用いることが必要である。フィブリル状繊維とは、繊維状の幹より直径が数μm以下(例えば0.1〜3μm)のフィブリルが多数分岐した構造を有する。このフィブリル状繊維を用いることにより、前駆体シート中で炭素短繊維とフィブリル状繊維が良く絡み合い、機械的強度の優れた前駆体シートを得ることが容易となる。フィブリル状繊維の濾水度は特に限定されないが、一般的に濾水度が高いフィブリル状繊維を用いると機械的強度が向上するが、多孔質電極基材のガス透気度が低下する。
有機高分子化合物は、炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シート中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シートの作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて降り積もらせる乾式法などの抄紙方法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐためにも、適切な量のフィブリル状繊維を、必要に応じてバインダーとして適切な量の有機高分子化合物と共に、湿式抄紙することが好ましい。
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維を含む前駆体シートは、酸化処理(200℃以上300℃未満の温度での処理)をせずに、そのまま炭素化処理することができる。酸化処理をしないことにより、その工程にかかるコストを低減できるほか、細いフィブリル状繊維により多孔質電極基材が微細な空間を有するのでガス透気度が向上する。その他、前駆体シートを加熱加圧成型後に酸化処理をせずに、炭素化処理することが可能である。前駆体シートの炭素化処理は、炭素短繊維をフィブリル状繊維で融着させ、かつフィブリル状繊維を炭素化することより、多孔質電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維を含む前駆体シートは、炭素化処理の前に、200℃未満の温度で加熱加圧成型することが、炭素短繊維をフィブリル状繊維で融着させ、かつ、多孔質電極基材の厚みムラを低減できるという点で好ましい。加熱加圧成型は、前駆体シートを均等に加熱加圧成型できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
本発明の多孔質電極基材の厚みは、50〜300μmであることが好ましい。
以上のような本発明の多孔質電極基材は、膜−電極接合体に好適に用いることができる。そして、本発明の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体は、固体高分子型燃料電池に好適に用いることができる。
JIS規格P−8117に準拠し、ガーレーデンソメーターを使用して200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、ガス透気度を算出した。
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(商品名、ミツトヨ製)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
(4)フィブリル状炭素の質量比
フィブリル状炭素の質量比は、得られた多孔質電極基材の目付と、使用した炭素短繊維の目付とから、次式より算出した。
(実施例1)
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用意した。また、炭素化可能なフィブリル状繊維として、噴射凝固によって作製したポリアクリロニトリル系パルプを用意した。
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を270質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが56g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は50質量%であった。結果を表1に示した。
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を20質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが18g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、実施例2で得られた多孔質電極基材と比較して機械的強度がやや劣るものの、ハンドリングには問題がなく、炭素化処理時における面内の収縮もほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は10質量%であった。結果を表1に示した。
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を630質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが87g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、実施例2で得られた多孔質電極基材と比較して機械的強度がやや劣るもののハンドリングには問題がなく、炭素化処理時における面内の収縮もほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は68質量%であった。結果を表1に示した。
炭素化処理時の温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は27質量%であった。結果を表1に示した。
炭素化処理時の温度を1200℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は26質量%であった。結果を表1に示した。
炭素化処理時の温度を1400℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は24質量%であった。結果を表1に示した。
(1)MEAの作製
実施例1で得られた多孔質炭素電極基材をカソード用、アノード用に2組用意した。両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm2、Pt付着量:0.3mg/cm2)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚:30μm)を、カソード用、アノード用の多孔質炭素電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
前記(1)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
ポリアクリロニトリル系パルプの代わりに、有機高分子化合物としてポリビニルアルコール(PVA)(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)35質量部を用い、得られる前駆体シートの目付けが27g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、PVAがほとんど炭素化しないため炭素短繊維同士が接合されておらず、シート状の多孔質電極基材として構造を維持することができなかった。
炭素短繊維を用いず、ポリアクリロニトリル系パルプのみを用いて、得られる前駆体シートの目付けが40g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、ポリアクリロニトリル系パルプが炭素化する際の収縮により、シート状の多孔質電極基材として構造を維持することができなかった。
炭素化処理時の温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮はほとんどなく、またフィブリル状炭素の質量比は32質量%であったが、貫通方向抵抗が実施例1で得られた多孔質電極基材と比較して非常に大きい結果となった。結果を表1に示した。
比較例1で得られた前駆体シートに、フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学株式会社製)のメタノール溶液を含浸させ、室温でメタノールを十分に乾燥させ、炭素短繊維100質量部に対しフェノール樹脂の不揮発分を100質量部付着させたフェノール樹脂含浸前駆体シートを得た。
加熱加圧成型した前駆体シートをバッチ熱風炉で、空気中、250℃の条件下で2分間酸化処理した以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であり、またフィブリル状炭素の質量比は36質量%であったが、酸化処理が必要となるため、実施例1で得られた多孔質電極基材と比較して高コストとなった。結果を表1に示した。
Claims (6)
- 炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。但し、前記前駆体シートに熱硬化性樹脂の含浸処理を行う場合を除く。
- 前駆体シートを作製する工程と炭素化処理する工程との間に、前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程、を有する請求項1に記載の多孔質電極基材の製造方法。
- 請求項1または2に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。
- 2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている請求項3に記載の多孔質電極基材。
- 請求項3または4に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
- 請求項5に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
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