JP5433146B2 - 多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池 - Google Patents

多孔質電極基材、その製造方法、膜−電極接合体、および固体高分子型燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、液体燃料を用いた固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材およびその製造方法、ならびにその多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体および固体高分子型燃料電池に関するものである。
固体高分子型燃料電池はプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いることを特徴としており、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを電気化学的に反応させることにより起電力を得る装置である。固体高分子型燃料電池は、自家発電装置や、自動車等の移動体用の発電装置として利用可能である。
このような固体高分子型燃料電池は、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層とガス拡散電極基材とを有するガス拡散電極が、触媒層側を内側にして、高分子電解質膜の両面に接合された構造となっている。
このような高分子電解質膜と2枚のガス拡散電極からなる接合体は膜−電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。またMEAの両外側には燃料ガスまたは酸化ガスを供給し、かつ生成ガスおよび過剰ガスを排出することを目的としたガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
多孔質電極基材は電気的な接触抵抗を低減し、かつ、セパレーターより供給される燃料ガスまたは酸化ガスがセル外へ漏出することを抑制することを目的として、セパレーターによって数MPaの荷重で締結されるため、機械的強度が必要となる。
さらに、多孔質電極基材は主に次の3つの機能を持つ必要がある。第1に多孔質電極基材の外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路より触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガスまたは酸化ガスを供給する機能である。第2に触媒層で反応により生成した水を排出する機能である。第3に触媒層での反応に必要な電子または生成される電子をセパレーターへ導電する機能である。これらの機能を付与するため、多孔質電極基材は一般的に炭素質材料を用いることが有効とされている。
従来は、機械強度を強くするために、炭素短繊維を抄造後有機高分子で結着させ、高温で焼成し有機高分子を炭素化させたペーパー状の炭素/炭素複合体か成る多孔質電極基材を得ていたが、製造プロセスが複雑であり、高コストであるという問題があった。また、低コスト化を目的として、酸化短繊維を抄造後有機高分子で結着させずに、高温で焼成し酸化短繊維を炭素化させた多孔質電極基材が提案されているが、焼成時の酸化短繊維の収縮により寸法安定性、表面精度に問題があった。さらに低コスト化を目的として、炭素化可能なアクリルパルプを炭素短繊維と混合後、硬化、炭素化する多孔質電極基材が提案されているが、高温で硬化が必要であり、低コスト化への障害となってしまうという問題があった。
特許文献1には、厚みが0.05〜0.5mmで嵩密度が0.3〜0.8g/cmであり、かつ、歪み速度10mm/min、支点間距離2cmおよび試験片幅1cmの条件での3点曲げ試験において曲げ強度が10MPa以上でかつ曲げの際のたわみが1.5mm以上であることを特徴とする燃料電池用多孔質炭素電極基材が記載されている。しかし、この多孔質電極基材は、機械的強度、表面平滑性が高く、十分なガス透気度、導電性は有しているもの、高コストであるという問題があった。
特許文献2には、厚さ0.15〜1.0mm、嵩密度0.15〜0.45g/cm、炭素繊維含有率95質量%以上、圧縮変形率10〜35%、電気抵抗値6mΩ以下、風合度5〜70gの炭素繊維シートが記載されている。この多孔質電極基材は、低コスト化は可能であるものの、焼成時の収縮が大きく厚みムラが大きいことや表面精度が低いといった問題があった。
特許文献3には、複数の炭素繊維を含んで成るマット;及び該炭素繊維マットに組み込まれた複数のアクリルパルプ繊維を含んでなり、該アクリルパルプ繊維は、炭素繊維マットに組み込まれた後に硬化され炭化される燃料電池用ガス拡散層が記載されている。この多孔質電極基材は250℃までの温度で1〜2分間硬化させる必要があり、十分な低コスト化が困難であるという問題があった。
国際公開第2002/042534号パンフレット 国際公開第2001/056103号パンフレット 特開2007−273466号公報
本発明は、上記のような問題点を克服し、安価でありながら、機械的強度、厚み精度、表面平滑性が高く、かつ十分なガス透気度、導電性を持った多孔質電極基材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は以下のとおりである。
(1)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。但し、前記前駆体シートに熱硬化性樹脂の含浸処理を行う場合を除く。
(2)前駆体シートを作製する工程と炭素化処理する工程との間に、前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程、を有する前記(1)に記載の多孔質電極基材の製造方法。
(3)前記(1)または(2)に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。
(4)2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている前記(3)に記載の多孔質電極基材。
(5)前記(3)または(4)に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
(6)前記(5)に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
本発明によれば、安価でありながら、機械的強度、厚み精度、表面平滑性が高く、かつ十分なガス透気度、導電性を持った多孔質電極基材を得ることができる。また、本発明の多孔質電極基材の製造方法によれば、前記多孔質電極基材を低コストで生産することができる。
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度を比較的高くすることができることから、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみからなることが好ましい。
炭素短繊維の直径は、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から、3〜9μmであることが好ましい。最終的に得られる多孔質電極基材の平滑性の面から、4μm以上、8μm以下であることがさらに好ましい。
炭素短繊維の繊維長は、分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
<フィブリル状炭素>
本発明では、多孔質電極基材中の炭素短繊維同士は、直接接合しておらず、フィブリル状炭素によって接合している。フィブリル状炭素とは、フィブリル状繊維を炭素化してできた、炭素短繊維同士を接合する物質である。このフィブリル状繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などいずれであっても良いが、低温から高温にかけて炭素短繊維同士を接合させることができ、炭素化した際の残存質量が大きいポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維がより好ましい。ポリアクリロニトリル(PAN)系フィブリル状繊維、セルロース系フィブリル状繊維などのフィブリル状繊維は、その種類や炭素短繊維との混合比、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理の有無によって、最終的に得られる多孔質電極基材中にフィブリル状炭素として残る割合が異なる。
多孔質電極基材を100質量%としたときに、その中に含まれるフィブリル状炭素の量は、10〜90質量%であることが好ましい。多孔質電極基材の機械的強度を十分なものに保つため、20質量%以上、60質量%以下がさらに好ましい。
<分散>
本発明において、「二次元平面内において分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。二次元平面内での炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
<製造方法>
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、以下に示す方法である。上記の多孔質電極基材は、例えば以下の方法により好適に製造することができる。
(1)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製し、その前駆体シートを酸化処理せずに1000℃以上の温度で炭素化処理する。
(2)炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製し、その前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型し、加熱加圧成型した前駆体シートを酸化処理せずに1000℃以上の温度で炭素化処理する。
<フィブリル状繊維>
本発明の製造方法では、炭素化可能なフィブリル状繊維を用いることが必要である。フィブリル状繊維とは、繊維状の幹より直径が数μm以下(例えば0.1〜3μm)のフィブリルが多数分岐した構造を有する。このフィブリル状繊維を用いることにより、前駆体シート中で炭素短繊維とフィブリル状繊維が良く絡み合い、機械的強度の優れた前駆体シートを得ることが容易となる。フィブリル状繊維の濾水度は特に限定されないが、一般的に濾水度が高いフィブリル状繊維を用いると機械的強度が向上するが、多孔質電極基材のガス透気度が低下する。
<有機高分子化合物>
有機高分子化合物は、炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シート中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シートの作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。本発明では、有機高分子化合物を繊維状として用いることも可能である。
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを含む前駆体シートでは、フィブリル状繊維が、炭素短繊維またはフィブリル状繊維同士と絡み合うことによって、前駆体シート中の各成分をつなぎとめるバインダーとしても機能するため、一般的な炭素繊維前駆体シートで用いられるバインダーとしての有機高分子化合物を使用の有無は特に限定されないが、低コスト化の観点からは、有機高分子化合物を使用しないことが好ましい。
<前駆体シートを作製する工程>
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維およびフィブリル状繊維を分散させて降り積もらせる乾式法などの抄紙方法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐためにも、適切な量のフィブリル状繊維を、必要に応じてバインダーとして適切な量の有機高分子化合物と共に、湿式抄紙することが好ましい。
炭素短繊維と、フィブリル状繊維と、必要に応じて有機高分子化合物とを混合する方法としては、水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で攪拌分散させる方法が好ましい。炭素短繊維と、フィブリル状繊維と、必要に応じて有機高分子化合物とを同時に抄紙して前駆体シートを作製することにより、前駆体シートの強度が向上し、その製造途中で前駆体シートから炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。
また、前駆体シートの作製は連続で行う方法やバッチ式で行う方法があるが、本発明では特に限定されない。生産性および機械的強度の観点からは連続で行うことが好ましい。
前駆体シートの目付けは、10〜200g/mとすることが好ましい。
<炭素化処理>
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維を含む前駆体シートは、酸化処理(200℃以上300℃未満の温度での処理)をせずに、そのまま炭素化処理することができる。酸化処理をしないことにより、その工程にかかるコストを低減できるほか、細いフィブリル状繊維により多孔質電極基材が微細な空間を有するのでガス透気度が向上する。その他、前駆体シートを加熱加圧成型後に酸化処理をせずに、炭素化処理することが可能である。前駆体シートの炭素化処理は、炭素短繊維をフィブリル状繊維で融着させ、かつフィブリル状繊維を炭素化することより、多孔質電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。
炭素化処理は、多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で行うことが好ましい。炭素化処理は、1000℃以上の温度で行う。1000〜3000℃の温度範囲で炭素化処理することが好ましく、1000〜2200℃の温度範囲がより好ましい。1000℃未満の温度で炭素化処理して得られた多孔質電極基材は、導電性が十分ではない。炭素化処理の前に300℃〜800℃程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
炭素化処理の時間は、例えば10分〜1時間とすることができる。
連続的に作製された前駆体シートを炭素化処理する場合は、前駆体シートの全長にわたって連続で炭素化処理を行うことが、低コスト化という観点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。
<加熱加圧成型>
炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維を含む前駆体シートは、炭素化処理の前に、200℃未満の温度で加熱加圧成型することが、炭素短繊維をフィブリル状繊維で融着させ、かつ、多孔質電極基材の厚みムラを低減できるという点で好ましい。加熱加圧成型は、前駆体シートを均等に加熱加圧成型できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
連続的に作製された前駆体シートを加熱加圧成型する場合は、連続ベルトプレス装置を用いて行う方法が、長尺の多孔質電極基材ができるという点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。
加熱温度は、効果的に表面を平滑にするために、200℃未満が好ましく、120〜190℃がより好ましい。
成型圧力は特に限定されないが、フィブリル状繊維の比率が多い場合は、成型圧力が低くても前駆体シートの表面を平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、成型時に炭素短繊維を破壊する、多孔質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎるなどの問題が生じる場合がある。例えば20kPa〜10MPaの圧力で加圧することができる。
加熱加圧成型の時間は、例えば30秒〜10分とすることができる。
剛板に挟んで、又連続ベルト装置で前駆体シートの加熱加圧成型を行う時は、剛板やベルトにフィブリル状繊維などが付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、前駆体シートと剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行うことが好ましい。
<多孔質電極基材>
本発明の多孔質電極基材の厚みは、50〜300μmであることが好ましい。
<膜−電極接合体(MEA)、固体高分子型燃料電池>
以上のような本発明の多孔質電極基材は、膜−電極接合体に好適に用いることができる。そして、本発明の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体は、固体高分子型燃料電池に好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
(1)ガス透気度
JIS規格P−8117に準拠し、ガーレーデンソメーターを使用して200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、ガス透気度を算出した。
(2)厚み
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ7321(商品名、ミツトヨ製)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
(3)貫通方向抵抗
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
貫通抵抗(mΩ・cm2)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2
(4)フィブリル状炭素の質量比
フィブリル状炭素の質量比は、得られた多孔質電極基材の目付と、使用した炭素短繊維の目付とから、次式より算出した。
フィブリル状炭素の質量比(質量%)=[多孔質電極基材目付(g/m)−炭素短繊維目付(g/m)]÷多孔質電極基材目付(g/m)×100
(実施例1)
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用意した。また、炭素化可能なフィブリル状繊維として、噴射凝固によって作製したポリアクリロニトリル系パルプを用意した。
炭素短繊維100質量部を水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところに、ポリアクリロニトリル系パルプ100質量部を均一に分散し、標準角型シートマシン(熊谷理機工業(株)製、商品名:No.2555 標準角型シートマシン)を用いてJIS P−8209法に準拠して手動で抄紙を行い、乾燥させて、目付けが30g/mの前駆体シートを得た。炭素短繊維およびポリアクリロニトリル系パルプの分散状態は良好であった。
次に、この前駆体シートを2枚重ね合わせ、その両面をシリコーン系離型剤をコートした紙で挟んだ後、バッチプレス装置にて180℃、3MPaの条件下で3分間加熱加圧成型した。さらに、この加熱加圧成型した前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化処理することで、多孔質電極基材を得た。
得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は31質量%であった。結果を表1に示した。なお、多孔質電極基材の表面SEM写真を図1に示す。2次元平面内に分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されていることが確認できた。
(実施例2)
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を270質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが56g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は50質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例3)
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を20質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが18g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、実施例2で得られた多孔質電極基材と比較して機械的強度がやや劣るものの、ハンドリングには問題がなく、炭素化処理時における面内の収縮もほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は10質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例4)
ポリアクリロニトリル系パルプの使用量を630質量部とし、得られる前駆体シートの目付けが87g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、実施例2で得られた多孔質電極基材と比較して機械的強度がやや劣るもののハンドリングには問題がなく、炭素化処理時における面内の収縮もほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は68質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例5)
炭素化処理時の温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は27質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例6)
炭素化処理時の温度を1200℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は26質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例7)
炭素化処理時の温度を1400℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。また、フィブリル状炭素の質量比は24質量%であった。結果を表1に示した。
(実施例8)
(1)MEAの作製
実施例1で得られた多孔質炭素電極基材をカソード用、アノード用に2組用意した。両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm2、Pt付着量:0.3mg/cm2)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚:30μm)を、カソード用、アノード用の多孔質炭素電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
(2)MEAの燃料電池特性評価
前記(1)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
この単セルの電流密度−電圧特性を測定することによって、燃料電池特性評価を行った。燃料ガスとしては水素ガスを用い、酸化ガスとしては空気を用いた。セル温度を80℃、燃料ガス利用率を60%、酸化ガス利用率を40%とした。また、ガス加湿は80℃のバブラーにそれぞれ燃料ガスと酸化ガスを通すことによって行った。その結果、電流密度が0.8A/cm2のときの燃料電池セルのセル電圧が0.618V、セルの内部抵抗が3.5mΩであり、良好な特性を示した。
(比較例1)
ポリアクリロニトリル系パルプの代わりに、有機高分子化合物としてポリビニルアルコール(PVA)(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)35質量部を用い、得られる前駆体シートの目付けが27g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、PVAがほとんど炭素化しないため炭素短繊維同士が接合されておらず、シート状の多孔質電極基材として構造を維持することができなかった。
(比較例2)
炭素短繊維を用いず、ポリアクリロニトリル系パルプのみを用いて、得られる前駆体シートの目付けが40g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、ポリアクリロニトリル系パルプが炭素化する際の収縮により、シート状の多孔質電極基材として構造を維持することができなかった。
(比較例3)
炭素化処理時の温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮はほとんどなく、またフィブリル状炭素の質量比は32質量%であったが、貫通方向抵抗が実施例1で得られた多孔質電極基材と比較して非常に大きい結果となった。結果を表1に示した。
(比較例4)
比較例1で得られた前駆体シートに、フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学株式会社製)のメタノール溶液を含浸させ、室温でメタノールを十分に乾燥させ、炭素短繊維100質量部に対しフェノール樹脂の不揮発分を100質量部付着させたフェノール樹脂含浸前駆体シートを得た。
このフェノール樹脂含浸前駆体シートを2枚重ね合わせ、その両面をシリコーン系離型剤をコートした紙で挟み、バッチプレス装置にて180℃、3MPaの条件下で3分間加熱加圧成型してフェノール樹脂を硬化させた後、実施例1と同様の条件で炭素化処理することで多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であったが、製造プロセスが複雑であり高コストとなった。結果を表1に示した。
(比較例5)
加熱加圧成型した前駆体シートをバッチ熱風炉で、空気中、250℃の条件下で2分間酸化処理した以外は、実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、炭素化処理時における面内の収縮がほとんどなく、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であり、またフィブリル状炭素の質量比は36質量%であったが、酸化処理が必要となるため、実施例1で得られた多孔質電極基材と比較して高コストとなった。結果を表1に示した。
多孔質電極基材の表面SEM像である。

Claims (6)

  1. 炭素短繊維と、炭素化可能なフィブリル状繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する工程;および前記前駆体シートを、200℃以上300℃未満の温度での酸化処理をせずに、1000℃以上の温度で炭素化処理する工程;を有する多孔質電極基材の製造方法。但し、前記前駆体シートに熱硬化性樹脂の含浸処理を行う場合を除く。
  2. 前駆体シートを作製する工程と炭素化処理する工程との間に、前記前駆体シートを200℃未満の温度で加熱加圧成型する工程、を有する請求項1に記載の多孔質電極基材の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の多孔質電極基材の製造方法で製造される多孔質電極基材。
  4. 2次元平面内において分散した炭素短繊維同士が、フィブリル状炭素によって接合されている請求項3に記載の多孔質電極基材。
  5. 請求項3または4に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
  6. 請求項5に記載の膜−電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。
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