JP5560977B2 - 多孔質炭素電極基材の製造方法 - Google Patents

多孔質炭素電極基材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、多孔質炭素電極基材の製造方法に関する。
燃料電池に設置されるガス拡散電極基材は、従来、高いガス透過能を持たせるため、ガス拡散電極基材を多孔質構造体とし、その空孔率を高めることが行われてきた。また、電子導電性に関しては、カーボン材料や金属材料を用いてセパレーターと触媒層との間の電気抵抗を低減させることが行われてきた。そのため、ガス拡散電極基材として、炭素材料からなる多孔質炭素電極基材を用いることが有効とされている。
またガス拡散電極基材は、電気的な接触抵抗を低減し、かつ、セパレーターから供給される燃料ガス又は酸化ガスの燃料電池外への漏出の抑制を目的として、セパレーターによって数MPaの荷重で締結されるため、機械的強度が必要とされる。このためガス拡散電極基材としては、炭素繊維を用いて紙状にした炭素材料からなる多孔質炭素電極基材が主流となっている。このようなガス拡散電極基材として、例えば特許文献1には、ガス透過性、導電性、さらに機械的強度を改善する技術として、実質的に二次元平面内においてランダムに分散した炭素短繊維を炭素により結着させた多孔質炭素板において、少なくとも一方の面の中心線平均粗さRa(JIS B 0601)が15μm以下であり、かつ、切断レベルが20μmのときの負荷長さ率tpが50%以上であることを特徴とする多孔質炭素板が記載されている。
また特許文献2には、炭化樹脂とこれを含浸させた炭素繊維紙からなる燃料電池用の電極基材であって、前記炭素繊維紙が2枚以上の炭素繊維紙を積層してなり、積層する炭素繊維紙が同種のものからなり、その同一面が表側となるように積層されてなる、ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用の電極基材が記載されている。
さらには特許文献3には、炭素短繊維と熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂からなる炭素繊維シートにおいて、フーリエ変換型赤外吸光分析−ATR法により得られる、一方の面の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のピーク面積をそれぞれA、Bとしたときの、次の式で示す熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のピーク面積強度比C、C=B/Aと、他方の面の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のピーク面積をそれぞれD、Eとしたときの次の式で示すピーク面積強度比F、F=E/Dとが次の式、0.7<F/C(ただし、C>Fとする)を満たすことを特徴とする炭素繊維シートが記載されている。
特開2003−286085号公報 特開2003−151568号公報 特開2005−297547号公報
しかしながら、特許文献1に開示されている多孔質炭素板は、熱硬化性樹脂溶液を炭素繊維紙に含浸させ、加熱乾燥後、加熱加圧成型している。フェノール樹脂に代表される熱硬化性樹脂は炭素繊維紙に含浸させた際、表と裏で樹脂の付着状態が異なる場合があり、多孔質炭素電極基材とすると樹脂付着斑による反りや局所機械強度低減による多孔質炭素電極基材の破壊が生じる場合がある。また、特許文献2、3に開示されている電極基材では、抄紙時の炭素繊維紙の下面を上にして樹脂含浸、乾燥したり、炭素繊維紙を2枚重ねることで樹脂含浸、乾燥させても反らないようにしたりしている。しかしながら、表層と内層で樹脂の付着状態が異なる場合がある。そのため、樹脂の多い面を外側にすると厚み方向に荷重をかけた際、層間剥離が生じ易く、樹脂の少ない面を外側にすると繊維が毛羽立ち易くなる場合があり、更なる改善が望まれる。
前記問題点は、多孔質炭素電極基材中の炭素化したフェノール樹脂に代表される熱硬化性樹脂の厚み方向、面内方向の目付け斑に原因があることが分かった。また該目付け斑の発生は、炭素繊維紙中での熱硬化性樹脂の付着斑だけでなく、成型時における熱硬化性樹脂の流動性の差による熱硬化性樹脂の厚み、面内方向の目付け斑が大きな要因であることが分かった。
本発明は前記課題を克服し、機械的強度、表面平滑性が高く、十分なガス透過度、導電性を持ち、反りがなくかつ電池に組み込む条件である厚み方向への荷重をかけた際の層間剥離の発生を抑制できる多孔質炭素電極基材を提供することを目的とする。
本発明に係る多孔質炭素電極基材の製造方法は、
炭素短繊維を二次元平面内において分散せしめた連続した抄紙体にフェノール樹脂を含浸させて樹脂含浸紙を連続的に製造する工程と、
前記連続した樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ加熱プレス硬化した後、更に炭素化する工程と、
を含む連続した多孔質炭素電極基材の製造方法であって、
前記加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の前記フェノール樹脂の硬化進行度が5%以下である。
本発明によれば、機械的強度、表面平滑性が高く、十分なガス透過度、導電性を持ち、反りがなくかつ電池に組み込む条件である厚み方向への荷重をかけた際の層間剥離の発生を抑制できる多孔質炭素電極基材を提供することができる。
本発明における剥離強さの測定手段を示す概略図である。
本発明に係る多孔質炭素電極基材の製造方法では、炭素短繊維を二次元平面内において分散せしめた抄紙体にフェノール樹脂を含浸させて樹脂含浸紙を製造する工程と、前記樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ加熱プレス硬化した後、更に炭素化する工程と、を含む多孔質炭素電極基材の製造方法であって、前記加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の前記フェノール樹脂の硬化進行度が5%以下である。
本発明に係る方法では、樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度が5%以下の状態で、加熱プレス硬化、炭素化を行う。硬化進行度が5%以下の状態では、フェノール樹脂の流動性が高いため、加熱プレス硬化工程においてフェノール樹脂の付着状態の均一性を向上させることができる。これにより、厚み方向に荷重をかけた際に層間剥離を抑制可能な多孔質炭素電極基材を提供できる。
[樹脂含浸紙製造工程]
本発明に係る方法においては、まず、炭素短繊維を二次元平面内において分散せしめた抄紙体にフェノール樹脂を含浸させて樹脂含浸紙を製造する。
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度を比較的高くすることができることから、炭素繊維がポリアクリロニトリル系炭素繊維のみからなることが好ましい。
炭素短繊維の直径は、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から、3〜9μmであることが好ましい。最終的に得られる多孔質炭素電極基材の平滑性の面から、4〜8μmであることがより好ましい。また、異なる平均直径の炭素短繊維を2種類以上用いることも、表面平滑性、導電性の両立の観点からに好ましい。炭素短繊維の繊維長は、分散性の観点から2〜12mmが好ましい。
<分散>
本発明において、「二次元平面内において分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっている状態を示す。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。二次元平面内での炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
<抄紙体>
炭素短繊維を二次元平面内において分散させて抄紙体を作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維と後述するバインダー短繊維とを分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維とバインダー短繊維とを分散させて降り積もらせる乾式法が適用できる。この中でも湿式法が好ましく、炭素短繊維が単繊維に分散するのを補助し、分散した単繊維が再び収束するのを防ぐことができる。
炭素短繊維とバインダー短繊維とを混合する方法としては、炭素短繊維とともに水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。このようにバインダー短繊維を混合することにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。また、抄紙体中に高分子短繊維や高分子パルプ状物を同時に混ぜることが、炭素短繊維の抄紙体中での再集束抑制や、抄紙体のシート強度の点で好ましい。
また、抄紙体の作製は連続で行う方法やバッチ式で行う方法があるが、本発明において行う抄紙体の作製は、特に目付のコントロールが容易であるという点と生産性及び機械的強度の観点から連続で行う方法が好ましい。抄紙体の目付けは、10〜200g/mとすることが好ましい。
<バインダー短繊維>
バインダー短繊維は、炭素短繊維を含む抄紙体中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。バインダー短繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは抄紙体作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。
抄紙後、抄紙体中のバインダー繊維の質量比率は、繊維の脱落を防止するためには5質量%以上であることが好ましく、シワなど外観不良発生を抑制するためには30質量%以下であることが好ましい。
<高分子短繊維>
前記高分子短繊維としては、ビニロン繊維、PET繊維、セルロース繊維などが挙げられるが、抄紙体中での炭素短繊維の再集束抑制や、抄紙体のシート強度を改善できる観点からビニロン繊維が好ましい。ビニロン繊維とは、ポリビニルアルコール繊維を熱処理やホルムアルデヒドでアセタール化することにより耐熱性、耐水性を高めた繊維である。ビニロン繊維は炭素化により分解してなくなるが、その周りに付着したフェノール樹脂の形状はそのまま残り、多孔質炭素電極基材中でそのフェノール樹脂がフィラメント状炭化物を形成する。
ビニロン繊維の繊度は、特に限定されないが、0.05〜1.5dtexであることが好ましい。繊度を0.05dtex以上とすることにより、ビニロン繊維一本あたりのフェノール樹脂の付着を十分なものとし、炭素化後、多孔質炭素電極基材からフィラメント状樹脂炭化物が剥離することを防ぐことができる。繊度を1.5dtex以下とすることにより、多孔質炭素電極基材表面が粗くなることを防ぎ、燃料電池を作製した際に多孔質炭素電極基材と周辺部材との接触を良好なものとすることができる。
ビニロン繊維の長さは、特に限定されないが、同時に用いる炭素短繊維と同程度のものが好ましい。バインダーとの結着性や分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
ビニロン繊維は、炭素短繊維と一緒に分散することで、炭素短繊維の再収束を防止する役割も果たす。そのため、水との親和性にも優れているものが好ましい。
抄紙体中のビニロン繊維の質量比率は、10〜60質量%であることが好ましい。抄紙体中のビニロン繊維の質量比率を10質量%以上とすることにより、ビニロン繊維由来のフィラメント状炭化物による補強効果が十分となる。一方、60質量%以下であれば、フィラメント状炭化物とその他の炭化物のバランスがよく、多孔質炭素電極基材の形態を満足させることができる。
<高分子パルプ状物>
前記高分子パルプ状物としては、ポリエチレンパルプ、セルロースパルプ、麻パルプなどが挙げられるが、抄紙体中での炭素短繊維の再集束抑制や、抄紙体のシート強度を改善できる点、炭素短繊維との親和性、取り扱い性、コストの点でポリエチレンパルプが好ましい。ポリエチレンパルプは、炭素短繊維と一緒に分散し、炭素短繊維の再収束を防止する役割を果たす。また、フェノール樹脂は硬化の際に縮合水を生成するが、ポリエチレンパルプにはその水を吸収、排出する役割も期待できる。
さらに、多孔質炭素電極基材中で、炭素からなる架橋構造を効率的に形成するという点からポリエチレンパルプが好ましい。ポリエチレンパルプの表面自由エネルギーは炭素短繊維より大きいため、含浸樹脂が繊維に優先的に付着し、炭素化後、網状の架橋構造が形成されやすくなる。
抄紙体中のポリエチレンパルプの質量比率は、10〜70質量%であることが好ましい。ポリエチレンパルプを10質量%以上含有することで、多孔質炭素電極基材に十分な機械強度とガス透過度を付与できる。また、ポリエチレンパルプは、フェノール樹脂を押圧下で硬化する際に生じるうねりやシワ等の外力に打ち勝つための補強材としても働くため、10質量%以上であることが好ましい。一方、ポリエチレンパルプを70質量%以下とすることにより、炭素短繊維に付着するフェノール樹脂の不足により多孔質炭素電極基材が崩れやすくなったり、厚み制御が困難となることを防ぐことができる。なお、ビニロン繊維、ポリエチレンパルプは、その一方の使用に限らず、双方を使用しても良い。
<フェノール樹脂>
本発明で用いるフェノール樹脂としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を挙げることができる。該レゾールタイプフェノール樹脂には、公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできる。この場合、フェノール樹脂は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した自己架橋タイプのものが好ましい。
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシレノール等が用いられる。前記アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。なお、フェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
<フェノール樹脂の含浸方法>
抄紙体にフェノール樹脂を含浸する方法としては、抄紙体にフェノール樹脂を含浸させることができればよく、特に限定されない。しかしながら、コーターを用いて抄紙体表面にフェノール樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、若しくは抄紙体とフェノール樹脂フィルムを重ねて、フェノール樹脂を抄紙体に転写する方法が、連続的に行うことができ、生産性及び長尺ものも製造できる点で好ましい。
<フェノール樹脂の含浸量>
多孔質炭素電極基材に機械的強度、表面平滑性が高く、十分なガス透過度、導電性持たせるためにはフェノール樹脂を炭化した炭素が、炭素短繊維100質量部に対し20〜50質量部であることが好ましい。この場合、抄紙体に含浸させるフェノール樹脂の樹脂量は、炭素短繊維100質量部に対し、70〜120質量部含浸させることが好ましい。
[加熱プレス硬化、炭素化工程]
次に、前記樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ加熱プレス硬化した後、更に炭素化する。これにより、多孔質炭素電極基材を製造する。ここで前記樹脂含浸紙製造工程の後、続く加熱プレス硬化、炭素化工程へは、連続的に運転することが効率的である。しかし、通常、樹脂含浸紙製造工程における抄紙速度は加熱プレス硬化及び炭素化工程における処理速度より早く、樹脂含浸紙は加熱プレス硬化及び炭素化工程前に一時的に滞留(保存)した状態となる。そこで、加熱プレス硬化工程においては、樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度の管理が重要となる。
<フェノール樹脂の硬化進行度>
本発明においては、加熱プレス硬化する前の樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度が5%以下である。
フェノール樹脂は加熱により流動性が向上し、さらに加熱を続けると架橋反応により硬化反応が進行する。多孔質炭素電極基材が機械的強度、表面平滑性が高く、十分なガス透過度、導電性を有し、さらに反りがなくかつ電池に組み込む条件である厚み方向への荷重をかけた際の層間剥離を抑制するためには、後述する加熱プレス硬化後における抄紙体へのフェノール樹脂の付着状態の均一性を高める必要がある。このためには、樹脂含浸後に生じるフェノール樹脂の付着斑を加熱プレス硬化工程において均一とすることが必要となり、そのためにはフェノール樹脂の流動性が高いことが必須となる。本発明においては、加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度を5%以下とする。硬化進行度が5%を超えると、加熱プレス硬化工程でのフェノール樹脂の流動性が低下し、2枚の樹脂含浸紙の重ね合わせ面におけるフェノール樹脂による炭素短繊維結着不足に起因する多孔質炭素電極基材の剥離現象や、多孔質炭素電極基材表面の炭素短繊維の毛羽立ち現象が確認されるためである。加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度としては2%以下が好ましい。なお、硬化進行度は低ければ低い方が好ましい。
フェノール樹脂は常温においても反応速度が遅いものの硬化反応が進行するため、硬化進行度を5%以下とするためには、樹脂含浸後の樹脂含浸紙を10℃以下の温度で保存することが好ましい。10℃以下で保存することにより170日以内の保存であれば硬化進行度を5%以下で維持することができる。一方、10℃を超える温度で保存した場合には短期間で硬化進行度が5%をこえるため、製造プロセスに制約が生じ製造コストが上昇する。
<硬化進行度の測定>
フェノール樹脂の硬化反応は縮合水が生成する縮合反応であるため、フェノール樹脂の硬化に伴い重量が減少する特徴を示す。このため、本発明においてはフェノール樹脂の重量減少を測定することにより、加熱プレス硬化工程前における樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度を測定する。
硬化進行度の測定は示差熱熱重量同時測定装置(EXSTAR TG/DTA:セイコーインスツルメント製)を用いて、昇温速度2℃/minで200℃における樹脂含浸紙の重量減少を測定し、以下の式を用いて算出した。
硬化進行度(%)=
(((加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の200℃におけるTG(%))−(樹脂含浸工程直後の樹脂含浸紙の200℃におけるTG(%)))/(100−(樹脂含浸工程直後の樹脂含浸浸紙の200℃におけるTG(%))))×100。
なお、樹脂含浸紙を2枚重ねる工程と加熱プレス硬化工程は連続して行われ、樹脂含浸紙を2枚重ねる工程の前後において硬化進行度は実質的に変化しない。このため、本発明では樹脂含浸紙を2枚重ねる直前の1枚の樹脂含浸紙について前記式により硬化進行度を算出し、これを加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙のフェノール樹脂の硬化進行度とする。
<樹脂含浸紙の重ね合わせ>
樹脂含浸紙を2枚重ね合わせる方法としては、抄紙時における下面が表面にくるように2枚の樹脂含浸紙を積層することが、表面の炭素短繊維の毛羽立ちを抑制できる観点から好ましい。
<加熱プレス硬化>
フェノール樹脂を含浸した2枚重ね合わせた樹脂含浸紙を、炭素化処理の前に加熱プレス硬化する。該樹脂含浸紙を加熱プレス硬化することで、炭素短繊維をフェノール樹脂で結着させ、かつ、多孔質炭素電極基材の厚み斑を低減できる。加熱プレス硬化は、樹脂含浸紙を均等に加熱加圧成型できる技術であればいかなる技術も適用できる。その例としては、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
連続製造によるフェノール樹脂を含浸した2枚重ね合わせた樹脂含浸紙を加熱プレス硬化する場合は、連続ベルトプレス装置を用いて行う方法が長尺の多孔質炭素電極基材を製造できる点で好ましい。多孔質炭素電極基材が長尺であれば、多孔質炭素電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質炭素電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質炭素電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質炭素電極基材が得られる点で好ましい。
加熱プレス硬化における加熱温度は、効果的に表面を平滑にするために200℃以下が好ましく、120〜190℃がより好ましい。加熱プレス硬化におけるプレス圧力は特に限定されないが、フェノール樹脂の比率が多い場合は、成型圧が低くても加熱プレス硬化後の樹脂含浸紙の表面を平滑にすることが容易である。一方、必要以上にプレス圧を高くすることは、成型時に炭素短繊維を破壊する、多孔質炭素電極基材としたときその組織が緻密になりすぎる場合がある。例えば、20kPa〜10MPaの圧力で加圧することができる。加熱プレス硬化の時間は、例えば30秒〜10分とすることができる。
剛板に挟んで、又は連続ベルト装置で抄紙体の加熱プレス硬化を行う時は、剛板やベルトにフェノール樹脂が付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、樹脂含浸紙と剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行うことが好ましい。
<炭素化処理>
抄紙体にフェノール樹脂を含浸させた樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ、加熱プレス硬化されたフェノール樹脂含浸紙は、続いて炭素化される。この炭素化処理は、炭素短繊維をフェノール樹脂で結着させ、かつフェノール樹脂組成物を炭素化することより、多孔質炭素電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。
炭素化処理は、多孔質炭素電極基材の導電性を高めるために不活性ガス中で行うことが好ましい。炭素化処理は1000℃以上の温度で行うことが好ましい。1000〜3000℃の温度範囲で炭素化処理することがより好ましく、1000〜2200℃の温度範囲が更に好ましい。1000℃未満の温度で炭素化処理して得られた多孔質炭素電極基材は、導電性が十分ではない場合がある。炭素化処理の前に300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。炭素化処理の時間は、例えば10分〜1時間とすることができる。
抄紙体にフェノール樹脂を含浸させた樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ、加熱プレス硬化されたフェノール樹脂含浸紙を連続製造により炭素化処理する場合は、加熱プレス硬化されたフェノール樹脂含浸紙の全長にわたって連続で炭素化処理を行うことが低コスト化の観点から好ましい。多孔質炭素電極基材が長尺であれば、多孔質炭素電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減に大きく寄与することができる。また、本発明の多孔質炭素電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質炭素電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。
<剥離強さ>
本発明に係る多孔質炭素電極基材は、両面をテープで固定し、垂直方向に引き剥がしたときの層間の剥離強さが10N/4cm2以上であることが好ましい。
剥離強さが10N/4cm2より小さい場合は、燃料電池に組み込んだ際、多孔質炭素電極基材が2枚に剥がれ、そこに反応により発生した生成水が溜まり、電池性能が著しく低下する、さらには、2枚の間の接触抵抗増大による起電力低下の要因となる場合がある。なお、燃料電池に組み込んだ際、多孔質炭素電極基材にかかる圧力が高いほど剥がれやすくなるため、より高い剥離強さが必要となる。
本発明において多孔質炭素電極基材の剥離強度は、図1に示すように多孔質炭素電極基材1(縦2cm×横2cm)の上下に両面テープ2を張り、上下の両面テープ2と金属治具3を貼り付ける。さらに上下の金属治具3をそれぞれフック4に引っ掛けた後、上のフック4を引っ張り試験装置にて持ち上げる(下のフックは固定)方法で測定する。
この際、多孔質炭素電極基材に荷重がかかり、その界面がはがれ、2枚に分かれる。そのときの強度を多孔質炭素電極基材の剥離強度とする。なお、引き剥がすときの引っ張り速度は、30mm/minで行う。
〔実施例1〕
表1に示す配合で平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素短繊維(7μm径CF)、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素短繊維(4μm径CF)、ポリビニルアルコール(PVA)及びビニロン繊維を、水を分散媒体として均一に分散させた。これを湿式連続抄紙装置により連続的に抄紙した。その後、熱ロールに接触させて乾燥し、炭素短繊維の目付が約13g/m2の長尺の抄紙体を得てロール状に巻き取った。
この抄紙体にフェノール樹脂(商品名:「フェノライトJ−325」、DIC(株)製)の23質量%メタノール溶液を連続的に両面からコートし、最高温度90℃で1分間乾燥することにより、フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙を得てロール状に巻き取った。
このフェノール樹脂を含む樹脂含浸紙を温度が10℃に調整された冷蔵庫で1日保管した。その後、抄紙時における下面が表面にくるように2枚の樹脂含浸紙を積層し、離型剤コーティング基材で挟み、ダブルベルトプレス装置にて連続的に加熱プレス硬化(プレス時最大荷重:20MPa)した。これにより、フェノール樹脂が硬化した樹脂含浸紙を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は0.1%以下であった。続いて、このフェノール樹脂が硬化した樹脂含浸紙を窒素ガス雰囲気中にて最高温度800℃の連続焼成炉に10分間通した後、最高温度1900℃の連続焼成炉において10分間加熱し、炭素化することで長さ100mの多孔質炭素電極基材を連続的に得た。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは75N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。この多孔質炭素電極基材について厚み、目付、厚さ方向ガス透過度、貫通抵抗を測定及び算出した結果を表1に示す。
〔実施例2〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を30日としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は0.3%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは68N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例3〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を60日としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は1.1%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは52N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例4〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を120日としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は3.3%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは32N/4cm2であり、実施例1と比較すると剥離強さは低下しているものの、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例5〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を170日としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は4.6%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは21N/4cm2であり、実施例1と比較すると剥離強さは低下しているものの、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例6〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管温度を25℃としたこと以外は実施例2と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は4.2%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは24N/4cm2であり、実施例1と比較すると剥離強さは低下しているものの、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例7〕
表1に示す配合で平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素短繊維(7μm径CF)、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリエチレンパルプ(PEパルプ)を、水を分散媒体として均一に分散させた。これを湿式連続抄紙装置により連続的に抄紙した。その後、熱ロールに接触させて乾燥し、炭素短繊維の目付が約21g/m2の長尺の炭素繊維紙を得て、ロール状に巻き取った。その後、実施例1同様にフェノール樹脂を含浸させ、加熱プレス硬化工程、炭素化工程を行うことで、長さ100mの多孔質炭素電極基材を連続的に得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は0.1%以下であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは62N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔実施例8〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を170日としたこと以外は実施例7と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は4.3%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは16N/4cm2であり、実施例7と比較すると剥離強さは低下しているものの、層間剥離が生じにくい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔比較例1〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を180日としたこと以外は実施例1と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は5.2%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは9N/4cm2であり、実施例1と比較すると剥離強さが大きく低下し、層間剥離が生じやすい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔比較例2〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を40日としたこと以外は実施例6と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は5.8%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは6N/4cm2であり、実施例1と比較すると剥離強さが大きく低下し、層間剥離が生じやすい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
〔比較例3〕
フェノール樹脂を含む樹脂含浸紙の保管日数を180日としたこと以外は実施例7と同様にして多孔質炭素電極基材を得た。このとき加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の硬化進行度は5.1%であった。該多孔質炭素電極基材の剥離強さは8N/4cm2であり、実施例7と比較すると剥離強さが大きく低下し、層間剥離が生じやすい多孔質炭素電極基材が得られた。また実施例1同様、物性値を測定した。測定結果を表1に示す。
尚、本発明の実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
<厚み測定方法>
多孔質炭素電極基材の厚みは、厚み測定装置(商品名:「ダイヤルシックネスゲージ7321」、ミツトヨ製)を使用し、測定した。このときの測定子の大きさは直径10mmであり、測定圧力は1.5kPaで行った。
<ガス透過度測定方法>
JIS規格P−8117に準拠した方法によって測定した。多孔質炭素電極基材の試験片を0.645cm2の透過面積の孔を有するセルに挟み、孔から304Paの圧力で300mLのガスを流し、ガスが透過するのにかかった時間を測定した。ガス透過度は以下の式より算出した。
ガス透過度(ml/(cm2・hr・Pa))
=気体透過量(ml)/(気体透過孔面積(cm2)・透過時間(hr)・透過圧(Pa))。
<貫通抵抗測定方法>
多孔質炭素電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通抵抗)の測定は、まず試料36mmφを金メッキした銅板にはさみ、金メッキした銅板の上下から1.6MPaで2回加圧した。その後、1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定した。貫通抵抗は次式より求めた。
貫通抵抗(Ω・cm2)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2
Figure 0005560977
1 多孔質炭素電極基材
2 両面テープ
3 金属治具
4 フック

Claims (3)

  1. 炭素短繊維を二次元平面内において分散せしめた連続した抄紙体にフェノール樹脂を含浸させて樹脂含浸紙を連続的に製造する工程と、
    前記連続した樹脂含浸紙を2枚重ね合わせ加熱プレス硬化した後、更に炭素化する工程と、
    を含む連続した多孔質炭素電極基材の製造方法であって、
    前記加熱プレス硬化前の樹脂含浸紙の前記フェノール樹脂の硬化進行度が5%以下である多孔質炭素電極基材の製造方法。
  2. 前記多孔質炭素電極基材の厚み方向の剥離強度が10N/4cm2以上である請求項1に記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の方法により製造される多孔質炭素電極基材。
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