JP2011019209A - 信号処理装置、信号処理方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】MFBのためのアナログの検出信号をデルタシグマ変調処理によって所定のサンプリング周波数と量子化ビット数によるデジタル信号に変換し、信号処理手段は、この信号形式でのデジタルの検出信号を入力してデジタルの帰還信号を生成し、入力デジタルオーディオ信号に対して負帰還のために合成する。そして、この合成後のサンプリング周波数f1で量子化ビット数aのオーディオ信号をアナログ信号に変換する際には、サンプリング周波数f1で量子化ビット数b(b<a)に変換するデルタシグマ変調処理が行われるようにする。
【選択図】図4
Description
MFBによる効果が有効に得られるようにするためには、スピーカ振動板の動きをセンサ、回路などにより検出して得られる検出信号と、この検出信号がフィードバックされたオーディオ信号により駆動されるスピーカからの再生音との位相差を一定以内に納めることが必要になる。この位相差が一定以内に収まらずに許容範囲を越えれば、例えば発振などが生じやすくなり、実用はほぼ不可能である。
しかし、MFBの信号処理系をデジタル回路により構成しようとすると、検出信号の入力段と、帰還後のオーディオ信号の出力段に、それぞれA/Dコンバータ、D/Aコンバータを備えることになる。現状で広く用いられるA/Dコンバータ、D/Aコンバータの処理時間では、MFB信号処理系としての採用を考えた場合には遅延が相当に大きく、有効な制御効果を得ることが難しい。例えば、軍事用、産業用などの分野では、サンプリング周波数が相当に高いうえで遅延の少ないA/Dコンバータ、D/Aコンバータが存在するが、これらは著しく高価であり、民生機器で採用することは現実的ではない。現状において、MFB信号処理系をデジタル回路により構成せずに、アナログ回路により構成しているのは、このような理由による。
つまり、スピーカの振動板の動きを検出して得られたアナログの検出信号を入力して、第1のデルタシグマ変調処理を行うことで、所定のサンプリング周波数と1ビット以上の所定の量子化ビット数によるデジタル信号に変換して出力するアナログ−デジタル変換手段と、上記アナログ−デジタル変換手段から出力されたデジタルの検出信号を入力して、デジタルの帰還信号を生成して出力する信号処理手段と、上記スピーカにより音として再生すべきデジタルの入力オーディオ信号に対して上記帰還信号を負帰還により合成するもので、合成段階においては、上記入力オーディオ信号について、上記帰還信号と同じサンプリング周波数と量子化ビット数としたうえで合成する、合成手段と、上記合成手段から出力される帰還信号合成後の、所定のサンプリング周波数f1と量子化ビット数aによるデジタルのオーディオ信号を入力してアナログ信号への変換を行うもので、上記帰還信号合成後のデジタルのオーディオ信号を入力して、サンプリング周波数f1で、量子化ビット数b(b < a)によるデジタル信号に変換する第2のデルタシグマ変調処理の実行部位を少なくとも有して形成される、デジタル−アナログ変換手段とを備えることとした。
このような信号処理系の構成は、例えばA/D変換処理におけるデシメーション処理、また、D/A変換処理におけるオーバーサンプリング処理が省略されているものとしてみることができる。これらの処理は相応の処理時間を要する。従って、本願発明の信号処理系の構成では、これらの処理を実行しないことにより、その信号伝搬時間が短縮されることになる。
<1.アナログMFB信号処理系の構成例>
<2.デジタルMFB信号処理系:基本構成例>
<3.デジタルMFB信号処理系:現状で考え得る具体構成例>
<4.デジタルMFB信号処理系:第1実施形態>
<5.デジタルMFB信号処理系:第2実施形態>
<6.デジタルMFB信号処理系:第3実施形態>
<7.ヘッドフォンへの適用例>
スピーカなどの音響デバイスは、信号により可動する物理的な機構部を有しているために、例えば電気回路のみのシステムと比較して歪みが大きい。この結果、システムとして入力音声信号に対する追従性能が充分ではなく、これが音質劣化の大きな一要因であるとして捉えられている。
そこで、スピーカによりオーディオ信号を再生する系に対して、スピーカの振動挙動であるとか、空間に放出された音圧など、実際のスピーカの駆動状態を電気信号に変換してフィードバックする系を組み込むことで、上記の歪みを低減し、再生音声の品質向上を図ろうとする技術が以前から提案されている。これがMFB(Motional FeedBack : モーショナルフィードバック)といわれる。より具体的には、MFBをかけることで、例えば低域共振周波数f0近辺における、スピーカユニット振動板の不要な振動が抑制されて、いわゆる「ボンつき」といわれる、低域の好ましくない響きが抑えられた音が得られる。
この図において、アナログのオーディオ信号は、先ず、低域補正イコライザ101により、後述する低域補償が行われて合成器102に対して出力される。
合成器102は、低域補正イコライザ101からのオーディオ信号に、反転した帰還信号を合成する。つまり、オーディオ信号に対して帰還信号により負帰還をかけて出力する。
検出/増幅回路106は、スピーカユニット104におけるボイスコイルにおいて発生する逆起電力を検出して得られる信号を増幅して信号処理回路107内のローパスフィルタ(LPF : Low Pass Filter)に出力する。なお、ブリッジ回路105により検出される逆起電力は、そのままでは、スピーカユニット104の振動板の動きとして、その速度を検出していることに相当する。
これにより、MFBの制御系は、スピーカユニット104を、入力オーディオ信号波形に対して忠実に振動するようにして制御することになる。これは、例えば低域共振周波数f0を中心にしてダンピングを与えるという動作となり、その結果、例えば先にも述べたように、低域の不要な響きが抑制され、再生音が改善される。
低域補正イコライザ101は、この低域のパワーの減少を補償するものとして設けられている。つまり、この低域補正イコライザ101は、入力オーディオ信号について、予め、MFBにより減衰する低域を補正(帯域補償)して、最終的な再生音声について目標とする周波数特性が得られるように、イコライジングを行う。
上記図10に示すMFB信号処理系はアナログであるが、このシステムをデジタルにより構成することとすれば、例えば下記のような多くの利点が得られる。
先ずは、フィードバック(帰還)のプロセスは、例えばデジタルフィルタなどによりデジタル演算となるので、原理上、周辺若しくは外部からにノイズの影響を受けることがなく、高い精度での処理結果が期待できる。
また、アナログ回路による場合は、電子部品素子の製造ばらつきがあることから、充分に高い精度を得ることが難しいが、デジタル演算であれば、このようなばらつきにより計算結果に誤差が生じることはない。これにより、例えば製品として、設計したとおりの性能での制御が見込める。また、ばらつきを考慮した振幅や位相等についての制御設計マージンを設定する必要が無く、シビアに設定できるので、大きなフィードバックを獲得可能であり、高性能化が期待できる。
また、デジタルフィルタによる演算であることで、アナログフィルタでは設計不可能な複雑なフィルタ特性も得ることができ、例えばより細かい制御が可能になる。また、この際に、例えばDSPなどの演算処理部のリソースが不足しない範囲でありさえすれば、コストアップなしに、ソフトウェアによって複雑な特性も設定できる。
さらに、デジタル回路であればソフトウェアによる制御が可能なことで、フィードバック量などの帰還のかけかたを適宜変更することが容易になる。これにより、例えば接続されるスピーカの特性に適合させて制御を変更設定するなど、応用範囲の広い制御が可能になる。
図1は、デジタル回路を採用してMFB信号処理系を構成することとした場合の基本構成例を示している。
この図に示されるMFB信号処理系は、大きくは、DSP11、DAC12、パワーアンプ13、スピーカユニット14、ブリッジ回路15、検出/増幅回路16、ADC17から成るものとしている。
DSP11においては、デジタルイコライザ11a、合成器11b、及びMFB対応デジタル信号処理部11cの信号処理部を形成する。なお、DSP11におけるこれらの信号処理機能は、DSP11に与える、例えばインストラクションなどといわれるプログラムによって実現される。
合成器11bは、入力オーディオ信号に対して負帰還を与えるための部位であり、入力されたデジタルオーディオ信号に対して、MFB対応デジタル信号処理部11cから出力される帰還信号を反転させて合成する。
DAC12は、入力されるデジタルオーディオ信号をアナログオーディオ信号に変換する。
図2は、ブリッジ回路15により速度比例の検出信号が得られている場合を前提としたMFB対応デジタル信号処理部11cの構成として、3例を示している。
MFBにおける帰還制御方式としては、速度制御、加速度制御、変位制御などが知られているが、ここでは、ブリッジ回路15が備えられることに対応して、速度制御・加速度制御、若しくは、速度制御と加速度制御の併用型を採用した場合に対応した構成を、図2(a)(b)(c)により示す。
この速度対応の帰還信号により入力オーディオ信号に対して帰還がかけられることで、MFBとしては、検出された速度に応じてスピーカユニット14の振動板を制動する動作が得られる。つまり、速度制御によるMFBの動作が得られる。
微分処理部34bは、入力される検出信号について微分演算して出力する。上記したようにブリッジ回路15から得られる検出信号は、スピーカ振動板の速度を示している。従って、この速度対応の検出信号を微分演算することによっては、スピーカ振動板の加速度を示す信号を求めたことになる。つまり、微分処理部34bにより、速度対応の検出信号から加速度対応の検出信号が得られる。
デジタルフィルタ34cは、微分処理部34bから出力される信号について、例えば図2(a)と同様の信号処理を施し、加速度制御に対応する帰還信号として出力する。
この帰還信号により入力オーディオ信号に対して帰還がかけられることで、加速度制御としてのMFBの動作が得られる。
この場合、検出信号は、デジタルフィルタ34aの系と、微分処理部34b及びデジタルフィルタ34cから成る系とに対して分岐して入力される。デジタルフィルタ34aからは速度制御に対応する帰還信号が出力され、微分処理部34b−デジタルフィルタ34cの信号処理によっては、加速度制御に対応する帰還信号が出力される。
合成器34dは、これらの速度制御と加速度制御のそれぞれに対応する帰還信号を合成して出力する。つまり、この場合においてMFB対応デジタル信号処理部11cから出力される帰還信号は、速度制御成分と加速度制御成分とが合成されたものとなる。
この帰還信号により入力オーディオ信号に対する帰還がかけられることで、MFBの動作としては、速度に応じた制御と加速度に応じた制御とが複合して得られることになる。
MFBによるセンサ構成は他にも考えられる。例えば、速度検出のためのセンサとして、スピーカユニットのボイスコイルとは別体のセンサコイルを設け、このセンサコイルにて得られる電流を検出することができる。
また、マイクロフォンによりスピーカユニットから発せられる音圧を検出して、この検出された音圧に応じた検出信号を、スピーカユニット振動板の加速度として扱うことができる。
さらに、スピーカユニットの振動板に対して物理的な加速度センサを設けて加速度を検出することもできる。
さらに、スピーカユニットの振動板の動きを静電容量の変化により検出することで、スピーカユニット振動板の変位に応じた検出信号を得るようにすることも考えられる。
そして、図1のようにしてMFB信号処理系をデジタル回路により構成しようとする場合においても、センサ構成については、特に制限されることなく、何れを採用してもかまわない。この点は、後述する本実施形態のMFB信号処理系を構成する場合においても同様である。
図3は、上記図1、図2に示した基本構成のもとで、実際に、現状において知られているデジタルデバイスを用いてMFB信号処理系を構築したとする場合において、順当に考えられる1つの具体的な構成例を示している。
なお、以降の説明において、Fs(1Fs)で示される基準のサンプリング周波数は、ヘッドフォン装置により本来聴こうとするデジタルオーディオソースとしてのデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数を示しているものとする。ここでのデジタルオーディオソースの具体例としては、CD(コンパクトディスク)に記録されるデジタルオーディオ信号などのようにして、Fs=44.1kHzで、量子化ビット数が16ビットのものを挙げることができる。
また、この図において図1と同一とされる部分には、同一符号を付している。この図に示される全体構成、及びアナログにより形成される部分については、図1の説明と重複するのでここでは省略する。
この場合のADC17は、例えば実際には1つの部品、デバイスとされるもので、検出/増幅回路16から出力されるアナログの検出信号を入力し、後述するデジタルオーディオソースと同じ、サンプリング周波数が1Fsで、16ビットの量子化ビット数([1Fs,16bit])によりデジタル信号化(量子化)したデジタル信号(PCM信号)に変換して出力する。
ADC17に入力されたアナログオーディオ信号は、先ず、デルタシグマ変調器17aにより[64Fs(=2.8224MHz),1bit]のデジタル信号に変換される。この[64Fs,1bit]のデジタル信号は、例えばFIR(Finite Impulse Response)のデシメーションフィルタ17bを通過することにより、[1Fs,16bit]のデジタル信号に変換され、さらに出力バッファ17cによりデジタル信号段階での増幅が行われる。この出力バッファ17cの出力が、ADC17の出力として、この場合には、DSP11のMFB対応デジタル信号処理部11cに対して入力される。
このデジタルオーディオソースの信号を入力するデジタルイコライザ11aも、MFB対応デジタル信号処理部11cと同様に、例えばFIRフィルタとしての構成で、量子化ビット数が16ビットの信号を入力して、16ビットによる係数を乗算する演算回路として形成される。これにより、デジタルイコライザ11aから出力される周波数特性補正後のデジタルオーディオ信号としても、[1Fs,16bit]の形式となる。
デルタシグマ変調器12bは、入力されたデジタル信号について1ビット化する。つまり、[64Fs,1bit]の形式のデジタル信号に変換して出力する。そして、このデルタシグマ変調器12bの出力である[64Fs,1bit]のデジタル信号をアナログLPF12cに通過させることで、その出力としては、アナログのオーディオ信号が得られることになる。つまり、DAC12に入力された[1Fs,16bit]のデジタルオーディオ信号がアナログオーディオ信号に変換されるものであり、これがDAC12の出力として、パワーアンプ13に入力される。
つまり、これらのデバイスを使用して構成したMFB信号処理系全体としても、ブリッジ回路15からの出力により検出/増幅回路16にて検出信号が得られてから、帰還がかけられたオーディオ信号がスピーカユニット14から音として再生出力されるまでの時間(応答速度)に大きな遅延が生じることになる。この遅延により、MFBとしての帰還の動作が相当に遅くなって、現実には良好な制御結果が得られない。例えばADC17だけでも、サンプリング周波数が44.1KHzのもとでの遅延が40サンプル分とすれば、それだけで約550Hz以上の信号の位相遅延は180°以上になる。このようにして、A/D変換だけでも、これだけの位相回転を生じるわけであり、これに対してさらにLPF(Low Pass Filter),BPF(Band Pass Filter)などのフィルタ処理を追加していけば、さらに位相回転は大きくなる。この程度にまで遅延が大きくなってしまうと、MFBによる制御効果が得られないばかりか、例えばハウリングなどの現象も生じやすい。そこで系としての安定性を保とうとした場合には、MFBの制御対象となる周波数帯域が相当に狭くなっていってしまう。
つまり、図3に示したままの構成では、実用に足るまでのMFBの効果を得ることができない。このことが、これまでにおいて、アナログ方式によるMFBしか実用化されていないことの理由である。
そこで、本実施形態としては、以降説明していくようにして、MFB信号処理系について、デジタル方式を採用しながら上記の遅延の問題を解消して実用化を図るための構成を提案する。
図4は、第1の実施形態としてのMFB信号処理系の構成例を示している。なお、この図において、図3と同一部分は同一符号を付して説明を省略する、或いは簡略な説明にとどめることとする。
この図に示す構成においては、先ず、図3のADC17に代えて、ADC20を備える。
このADC20は例えば1つのチップ部品とされ、図示するようにして、デルタシグマ変調器21のみを備えるものとされる。このデルタシグマ変調器21により、入力されたアナログ信号は、[64Fs(=2.8224MHz),1bit]の形式のデジタル信号に変換される。そして、このデルタシグマ変調器21の出力を、ADC20の出力として、DSP30に入力させる。
ただし、図3のDSP11のMFB対応デジタル信号処理部11cでは、入出力されるデジタルオーディオ信号の形式が、[1Fs,16bit]とされていた。これに対して、図4におけるMFB対応デジタル信号処理部34では、入力が[64Fs,1bit]とされたうえで、16ビットの係数による演算を行うことで、出力が[64Fs,16bit]とされている。MFB対応デジタル信号処理部34は、例えばFIRのデジタルフィルタにより形成できるもので、従って、その出力としてはマルチビット化されることになるのであるが、そのマルチビットとしての量子化ビット数を、ここでは16ビットとしているものである。このようにして、MFB対応デジタル信号処理部34から出力される帰還信号の形式を[64Fs,16bit]としたのは、次の説明から理解されるように、合成段階でのデジタルオーディオ信号の形式である[64Fs,16bit]と一致させるためである。
このデルタシグマ変調器41の出力としてのデジタル信号は、アナログLPF42を介してアナログのオーディオ信号に変換され、これがDAC40の出力となる。
このようにして得られたアナログのオーディオ信号は、パワーアンプ13により増幅を行ってスピーカユニット14を駆動する。
すると、このデジタル信号処理系は、デルタシグマ変調器21、MFB対応デジタル信号処理部34、合成器33、デルタシグマ変調器41、アナログLPF42の順でデジタル信号処理を実行するものとみることができる。
このことは、図1との比較でいえば、A/D変換側のデシメーションフィルタと、D/A変換側のオーバーサンプリングフィルタを経由していないものとしてみることができる。
本実施形態としては、このことに着目した。つまり、MFBのデジタル信号処理系において、A/D変換側のデシメーションフィルタと、D/A変換側のオーバーサンプリングフィルタによる遅延の影響を排除するために、DSP30におけるMFB対応デジタル信号処理部34の入出力を、デルタシグマ変調器21(ADC21)、デルタシグマ変調器41(DAC40内)のそれぞれと直接的に接続させる態様としたものである。
このようにして、MFB信号処理系において、D/A変換側及びA/D変換側の支配的遅延要因が排除されることで、MFBのための信号処理の遅延は大幅に短縮される。これに応じて、先に述べた位相回転も小さくなり、この結果、実用上充分とされるMFBの制御効果が得られることになる。つまり、デジタル方式でありながら、実用化が実現可能なMFBシステムが得られる。
遅延の少ないMFB対応デジタル信号処理部34を構成するためには、例えば次に説明するような構成とすることが考えられる。
先ず、通常にMFB対応デジタル信号処理部34として、FIRのデジタルフィルタ(FIRフィルタ)を採用することとした場合には、図5(a)に示すような構成を採ることになる。
つまり、MFB対応デジタル信号処理部34を8タップのFIRフィルタにより構成するものとすれば、図示するようにして、先ずは、遅延器D1〜D7の7つの遅延器を直列に接続してシフトレジスタを形成する。そして、このシフトレジスタからの出力となる、遅延器D1の入力データと、遅延器D1〜D7の出力データとのそれぞれを入力し、所定の係数により乗算を行う係数器h0〜h7と、これら係数器h0〜h7の出力を加算する加算器Pとを設ける。この場合において、入力されるデジタル信号は[64Fs,1bit]の形式とされているので、遅延器D1〜D7及び係数器h0〜h7は、1ビットの信号を入力する。そのうえで、出力としては、[64Fs,16bit]の形式とすべきことに対応して、係数器h0〜h7にて設定される係数については、マルチビットとして16ビットとすることで、係数器h0〜h7の出力が16ビットとなるようにして、これを加算器Pにて加算することとしている。
図5(b)では、シフトレジスタの出力としてみなされる、同じタイミングでの1ビットの遅延器D1の入力データと、各1ビットの遅延器D1〜D7の出力データの各々とにより、8ビットのデータを形成することとして、この8ビットのデータにより、ROM60のアドレス(address)を指定させるようにする。8ビットにより表現できるビットパターンは256通りとなるので、ROM60のアドレスとしては、0〜255までを設定することになる。そして、ROM60においては、アドレス0〜255ごとに対応させて、しかるべき16ビットのビットパターンを記憶させておくようにする。
このような構成により、1サンプルごとのタイミングでROM60に対してアドレス0〜255を指定し、この指定したアドレスに対応した16ビットのビットパターンのデータをROM60から読み出すという動作が得られることになる。このようにして読み出される16ビットのデータを、本実施形態のMFB対応デジタル信号処理部34の出力とするものである。
このような構成では、図5(a)におけるような係数器h0〜h7及び加算器Pが省略され、これらの処理は、指定されたアドレスからのROM60に対する読み出しとして実現されることになり、回路規模は簡易なものとなる。
先ず、この場合のDSP30は、デジタルオーディオソースの信号(デジタルオーディオ信号)については、[1Fs,16bit]として入力し、オーバーサンプリングフィルタ32によるオーバーサンプリング処理により、 [64Fs,16bit]の形式に変換することとしている。合成器33については入出力の形式に変化はない。つまり、オーバーサンプリングを経てDSP30から出力すべきデジタルオーディオ信号のサンプリング周波数としては64Fsを設定している。
そのうえで、本実施形態では、MFB対応デジタル信号処理部34から出力させる帰還信号を、合成器33に対して入力させるようにして、オーバーサンプリングフィルタは経由させないようにしている。
このことから、帰還信号としては、デルタシグマ変調器41の入力(合成器33を経由したオーバーサンプリングフィルタの出力に相当する)が対応する[サンプリング周波数,量子化ビット数]の形式とすべきことになる。このために、図2におけるMFB対応デジタル信号処理部34から出力される帰還信号の形式は、[64Fs,16bit]としている。また、サンプリング周波数のみについてみれば、MFB対応デジタル信号処理部34から出力される帰還信号は、デルタシグマ変調器41の出力の信号と同じとなるように設定すべきであることになる。
なお、ここではオーバーサンプリング後のサンプリング周波数、つまり、本実施形態におけるMFB対応デジタル信号処理部34の出力信号(帰還信号)のサンプリング周波数について64Fsとしているが、これに限定されるものではない。つまり、ここで扱うデジタルオーディオソースとしてのデジタルオーディオ信号(PCM(Pulse Code Modulation)信号)のサンプリング周波数である1Fsよりも大きいこととしたうえで、例えば一定以上の品位の再生音が得られるのに足るとされる程度の周波数値を設定すればよい。より具体的には、デジタルオーディオソースとしてのPCM信号のサンプリング周波数Fsに対して、例えば2Fsを下限としてFsの係数が2のべき乗で表される帰還信号のサンプリング周波数(オーバーサンプリング後のサンプリング周波数)を設定することになる。現実においては、4Fs以上を設定することが好ましい。
次に、図6を参照して、第2の実施形態としてのMFB信号処理系の構成例について説明する。なお、この図において、図4と同一部分については、同一符号を付して説明を省略する。
先ず、第2の実施形態としての基本構成について説明する。
この図に示されるDAC40は、大きくは、オーバーサンプリングフィルタ44、合成器45、デルタシグマ変調器41、PWM(Pulse Width Modulation)変調器43、及びアナログLPF42から成るものとしている。
この構成は、図4に示したDAC40において、デルタシグマ変調器41とアナログLPF42の間にPWM変調器43を挿入したものとなっている。
この場合のオーバーサンプリングフィルタ44によっては、上記[1Fs,16bit]によるデジタル信号を入力して、 [16Fs,16bit]の形式に変換して出力するようにされている。
そこで、この場合のMFB対応デジタル信号処理部34において、サンプリング周波数に関しては、64Fsの入力を16Fsにより出力させるデシメーションの処理を含めるべきことになる。つまり、本来の帰還信号生成の機能とともに、デシメーションフィルタ34eとしての機能も有するように構成する。このような構成としては、いくつか考えられるが、最も効率的なものの1つとしては、MFB対応デジタル信号処理部34におけるデジタルフィルタ34a,34cの構成がLPFの特性を有することを利用して、これらのデジタルフィルタをそのままデシメーションフィルタとして兼用させることが考えられる。デシメーションフィルタも,同じく、LPFとしての特性を有する。
なお、第2の実施形態においては、MFB対応デジタル信号処理部34は、帰還信号を予め位相反転させたうえで出力させるものとする。従って、この場合の合成器45では、入力信号を単に加算する合成処理とすればよい。
例えば、オーバーサンプリングフィルタ44について、図示するようにして、アップサンプル回路46a〜46dを直列に多段接続させたものとして形成する。ここでは、アップサンプル回路46a〜46dのそれぞれは、サンプリング周波数を2倍に変換するものとされており、このようなアップサンプル回路を4段接続することで、[1Fs,16bit]の入力信号を、[16(=2×2×2×2)Fs,16bit]の形式により出力できるようにされている。
そのうえで、MFB対応デジタル信号処理部34によっては、デシメーションフィルタ34eにより、64Fsのサンプリング周波数による入力信号を、16Fsよりも低い、8Fs、4Fs、あるいは2Fsによる16ビットの信号に変換して出力する。そして、この信号を、そのサンプリング周波数に応じて、オーバーサンプリングフィルタ44における所定のアップサンプル回路に入力させるようにして構成する。
あるいは、MFB対応デジタル信号処理部34からの帰還信号出力を[2Fs,16bit]の信号としたのであれば、オーバーサンプリングフィルタ44においてアップサンプル回路46bの前段に合成器47aを挿入し、ここで、MFB対応デジタル信号処理部34の出力信号と、アップサンプル回路46bの出力とを合成して、アップサンプル回路47bに出力させるように構成する。
また、この変形例の構成においては、帰還信号が、DAC40においてオーバーサンプリングフィルタ44の一部を通過することになり、例えばオーバーサンプリングフィルタ44を全く経由しない場合と比較すれば、その分の遅延は生じる。しかしながら、図3のようにしてオーバーサンプリングフィルタ12aを完全に通過する場合と比較すれば、DAC40においても遅延量が低減されるという効果が得られているものである。
図7は、第3の実施形態としての構成例を示している。なお、この図において、図4などと同一とされる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
これまでの実施形態では、デジタルオーディオソースとしては、例えばCDなどの[1Fs,16bit]によるPCM形式のデジタルオーディオ信号であることとしていた。この[1Fs,16bit]によるデジタルオーディオ信号形式は、現在においても主流の1つとされている。しかし、このほかに、例えばSACD(Super Audio CD)などに記録される[64Fs,1bit]の形式によるデジタルオーディオ信号のようにして、デルタシグマ変調後に相当するままの、DSD(Direct Stream Digital)などといわれる形式の信号をオーディオコンテンツの実体として扱うことが行われるようになってきている。
第3の実施形態としては、デジタルオーディオソースを、このようなDSD形式の信号とした場合の構成例を示している。
また、DAC40とADC20は、図4と同じ構成である。
つまり、図7の例のように、デジタルオーディオ信号が[64Fs,1bit]の形式である場合には、サンプリング周波数自体は、既にDSP30への入力段階で、64Fsのままとしておけばよいので、オーバーサンプリングフィルタ32は省略できることになる。これに代えて、ビット拡張により、オーディオ信号の量子化ビット数については、帰還信号と同じ16ビットでそろえておくようにしたうえで、デジタルイコライザ31について、入出力信号の形式を[64Fs,16bit]に対応させるようにしている。
また、本実施形態としての構成は、上記のようにしてスピーカと音声信号処理回路とが備えられる単体の機器以外にも、例えばオーディオコンポーネントシステムなどに適用できる。例えば、スピーカユニットとアンプリファイアから成るオーディオコンポーネントシステムであれば、先ず、スピーカユニット側に対しては、ブリッジ回路15などのセンサを設ける。また、アンプリファイア側では、センサからの信号を入力する端子を設けて、この端子からの信号を検出/増幅回路16に入力させる。さらに、例えばこれまでの実施形態に示したADC20、DSP30、DAC40等を備えるようにする。
また、ヘッドフォンにも、一般にはドライバといわれる、スピーカと同等の構成により音声信号を音響に変換する部位が備えられる。この点からすれば、本実施形態のMFB信号処理系の構成を、ヘッドフォンにも適用することが考えられる。
図8は、本実施形態のMFB信号処理系の構成を、オーバーヘッド型ヘッドフォンに適用した場合を示している。
この図においては、オーバーヘッド型ヘッドフォン100として、その片側の耳(チャンネル)対応するイヤーパッドが示されている。このオーバーヘッド型ヘッドフォン100において、これまでの実施形態におけるスピーカユニット14に相当する、ドライバ101が備えられている。
そして、この図において、上記ドライバをMFB制御により駆動するMFB信号処理系としては、図4に示した第1の実施形態と同様の構成を示している。なお、第1実施形態の構成に代えて、例えば図6,図7に示した第2,第3の構成を適用してもよい。
このようにしてヘッドフォンにも本実施形態のMFB信号処理系の構成を適用することで、デジタル回路によるMFB信号処理系の利点を、ヘッドフォンでのリスニング環境で享受できる。
図8の例は、このような構成を想定している。つまり、図8においては、オーディオプレーヤ19にて再生したアナログのオーディオ信号を、ADC18によりデジタル信号に変換したうえで、DSP30に入力させている。ADC18は、例えばヘッドフォン側に設けるとよい。
この構成では、例えばオーディオプレーヤ19のアナログオーディオ信号出力端子にヘッドフォン100のプラグを接続する。これにより、オーディオプレーヤ19からのアナログのオーディオ信号は、ヘッドフォン100側のADCに入力されることになる。
このようなインナーイヤー型ヘッドフォン101に対しても、図8と同様に、本実施形態のMFB信号処理系を適用することが可能である。
Claims (6)
- スピーカの振動板の動きを検出して得られたアナログの検出信号を入力して、第1のデルタシグマ変調処理を行うことで、所定のサンプリング周波数と1ビット以上の所定の量子化ビット数によるデジタル信号に変換して出力するアナログ−デジタル変換手段と、
上記アナログ−デジタル変換手段から出力されたデジタルの検出信号を入力して、デジタルの帰還信号を生成して出力する信号処理手段と、
上記スピーカにより音として再生すべきデジタルの入力オーディオ信号に対して上記帰還信号を負帰還により合成するもので、合成段階においては、上記入力オーディオ信号について、上記帰還信号と同じサンプリング周波数としたうえで合成する、合成手段と、
上記合成手段から出力される帰還信号合成後の、所定のサンプリング周波数f1と量子化ビット数aによるデジタルのオーディオ信号を入力してアナログ信号への変換を行うもので、上記帰還信号合成後のデジタルのオーディオ信号を入力して、サンプリング周波数f1で、量子化ビット数b(b < a)によるデジタル信号に変換する第2のデルタシグマ変調処理の実行部位を少なくとも有して形成される、デジタル−アナログ変換手段と、
を備える信号処理装置。 - 上記信号処理手段は、上記帰還信号生成のためのデジタルフィルタを有し、
上記デジタルフィルタは、
このデジタルフィルタに入力すべきデジタル信号のサンプルデータが入力される、所定タップ数のシフトレジスタと、
アドレスごとに対応させて、デジタルフィルタの出力信号としての量子化ビット数に対応するビット数による出力データを所定の記憶領域に保持するとともに、上記シフトレジスタの出力により指定されるアドレスに対応する出力データを上記記憶領域から読み出して、上記デジタルフィルタの出力とする、データ処理手段とを備える、
請求項1に記載の信号処理装置。 - 上記信号処理手段において、
上記デジタルフィルタは、デシメーションフィルタとしての機能を有するようにして構成するとともに、
上記デジタルフィルタから出力される上記帰還信号が合成された上記入力オーディオ信号のサンプリング周波数を、上記第2のデルタシグマ変調処理の実行部位に入力すべきサンプリング周波数にまで引き上げる、アップサンプル手段を備える、
請求項2に記載の信号処理装置。 - 上記デジタル−アナログ変換手段においては、上記オーディオ信号について、直列的に所定段数が接続されたアップサンプル回路によりオーバーサンプリングを行って、上記第2のデルタシグマ変調処理の実行部位に対して入力させるオーバーサンプリングフィルタを備え、
上記アップサンプル回路は、引き上げるべきサンプリング周波数に適合した少なくとも1段の上記アップサンプル回路を用いることで形成する、
請求項3に記載の信号処理装置。 - 上記合成手段は、複数段の上記アップサンプル回路における特定のアップサンプル回路から出力されるデジタルオーディオ信号に対して、上記帰還信号を合成するものとされ、
上記デジタルフィルタの上記デシメーションフィルタは、特定のアップサンプル回路から出力されるデジタルオーディオ信号と同じサンプリング周波数となるようにして、ダウンサンプリングを実行する、
請求項4に記載の信号処理装置。 - スピーカの振動板の動きを検出して得られたアナログの検出信号を入力して、第1のデルタシグマ変調処理を行うことで、所定のサンプリング周波数と1ビット以上の所定の量子化ビット数によるデジタル信号に変換して出力するアナログ−デジタル変換手順と、
上記アナログ−デジタル変換手順により出力されたデジタルの検出信号を入力して、デジタルの帰還信号を生成して出力する信号処理手順と、
上記スピーカにより音として再生すべきデジタルの入力オーディオ信号に対して上記帰還信号を負帰還により合成するもので、合成段階においては、上記入力オーディオ信号について、上記帰還信号と同じサンプリング周波数と量子化ビット数としたうえで合成する、合成手順と、
上記合成手順により出力される帰還信号合成後の、所定のサンプリング周波数f1と量子化ビット数aによるデジタルのオーディオ信号を入力してアナログ信号への変換を行うもので、上記帰還信号合成後のデジタルのオーディオ信号を入力して、サンプリング周波数f1で、量子化ビット数b(b < a)によるデジタル信号に変換する第2のデルタシグマ変調処理の実行部位を少なくとも有して形成される、デジタル−アナログ変換手順と、
を実行する信号処理方法。
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