JP2011004738A - 改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ - Google Patents

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Abstract

【課題】ハロヒドリンエポキシダーゼの結晶、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及びその製造方法の提供。
【解決手段】以下の(a)または(b)のタンパク質。(a)特定な配列からなるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定な配列からなるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【選択図】なし

Description

本発明は、ハロヒドリンエポキシダーゼの結晶、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及びその製造方法等に関する。
ハロヒドリンエポキシダーゼは、ハロヒドリンハイドロゲンハライドリアーゼ、ハロヒドリンデハロゲナーゼまたはハロアルコールデハロゲナーゼとも称され、1,3-ジハロ-2-プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性及びその逆反応を触媒する活性を有する酵素 (EC number: 4.5.1.-) である。ハロヒドリンエポキシダーゼは、アミノ酸配列の相同性等から、3つのアイソザイム (A型、B型、C型) が存在することが知られている (非特許文献1: J. Bacteriology, 183 (17), 5058-5066, 2001)。A型ハロヒドリンエポキシダーゼとして、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheA (非特許文献2: Biosci. Biotechnol. Biochem., 58 (8), 1451-1457, 1994)、アースロバクター属 (Arthrobacter sp.) AD2株由来のHheA AD2 (非特許文献1)、アースロバクター属 (Arthrobacter sp.) PY1株由来のDeh-PY1 (非特許文献3: J. Health. Sci., 50 (6), 605-612, 2004) 等が知られている。また、B型ハロヒドリンエポキシダーゼとして、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheB (非特許文献2)、マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1 (非特許文献1)、アースロバクター エリシー (Arthrobacter erithii) H10a株由来のDehA (非特許文献4: Enz. Microbiol. Technol., 22, 568-574, 1998) 等が知られている。そして、C型ハロヒドリンエポキシダーゼとして、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) DH094株由来のHheC (特許文献1: 特開平10-210981号公報)、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheC (非特許文献1)、アグロバクテリウム チュメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalB (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=protein&val=4960076#feature4960076) (非特許文献5: Thesis (1996) University of Wales, Cardiff, United Kingdom) 等が知られている。
エピハロヒドリンは種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質である。例えば、(R)-エピハロヒドリンの開環シアノ化によって得られる(R)- -4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルは、L-カルニチンの合成原料として有用であることが知られている (特許文献2: 特開昭57-165352号公報)。少なくとも一部のハロヒドリンエポキシダーゼについては、上述した1,3-ジハロ-2-プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性及びその逆反応を触媒する活性に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリンを開環シアノ化して4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒することが明らかになっており、その反応を利用した例として、1,3-ジハロ-2-プロパノールから光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法 (特許文献3: 特開平3-053889号公報、特許文献4: 特開2001-25397号公報) 及びエピハロヒドリンから光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法 (特許文献5: 特開平3-053890号公報) が知られている。
ところで、自然界より分離された微生物の菌体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、工業的利用の見地からは必ずしも十分に高いものではない。この課題を解決すべく、遺伝子組み換え技術を利用して形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を向上させる試みが行われている。例えば、コリネバクテリウム エスピー (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のハロヒドリンエポキシダーゼHheBをコードする遺伝子をクローン化した種々発現プラスミドを導入することによって得られる種々の形質転換体を用いて、効率よく光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造できることが示されている (特許文献6: 特開平4-278089号公報、特許文献7: 特開平5-317066号公報、及び特許文献8: 特開2007-049932号公報)。これらの形質転換体では、菌体内にハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を多コピー保有させることによって、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を大きく向上させることに成功している。
一方、近年の遺伝子工学技術の進歩により、酵素タンパク質の構成アミノ酸の1個以上を欠失、付加または挿入させるか、あるいは他のアミノ酸で置換した変異体を意図的に作製することが可能となっている。これら変異体は、該変異の種類によっては、変異の導入されていない酵素と比較して、活性、安定性、有機溶媒耐性、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、基質特異性等の性能が向上することが知られている。これら性能の向上は、活性あたりの酵素触媒製造コスト低減、酵素触媒の安定化、反応工程の簡略化、反応収率の向上等を通じて、酵素反応を利用した工業的生産における大幅な生産コスト低減をもたらすことがある。従って、多くの酵素において様々な性能が向上した有用な改良酵素の創製が行われている。ハロヒドリンエポキシダーゼにおいても、構成アミノ酸の1個以上を欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸で置換した変異体の報告がなされている。例えば、特許文献9 (国際公開第2005/017141号パンフレット) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体369種及びコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBの変異体1種類が記載されている。また、特許文献10 (米国特許出願公開第2005/0272064号明細書) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体570種類及びコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBの変異体1種類が記載されている。さらに、特許文献11 (米国特許出願公開第2006/0099700号明細書) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体1422種類及びコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBの変異体1種類が記載されている。これらのうちのいくつかの変異体については、エチル (R)-4-クロロ-3-ヒドロキシブチレイトからエチル (S)-4-シアノ-3-ヒドロキシブチレイトへの変換反応における活性が向上したことが示されている。また、非特許文献6 (J. Bacteriol., 183 (17), 5058-5066, 2001) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体Ser132Ala、Ser132Cys、Tyr145Phe、Arg149Lys、Arg149Glu及びArg149Glnが記載されている。非特許文献7 (Enz.Microbiol. Technol., 30,251-258, 2002) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体C30A、C153S、C229A及びC153S/C229Aが記載されており、変異体C30A及びC153Sは野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも安定性が向上したことが示されている。非特許文献8 (EMBO J., 22 (19), 4933-4944, 2003) には、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体Asp80Asn及びAsp80Alaが記載されている。非特許文献9 (Biochemistry, 42 (47), 14057-14065, 2003) には、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体W139F、W192F、W238F及びW249Fが記載されている。非特許文献10 (Biochemistry, 44 (17), 6609-6618, 2005) には、アグロバクテリウム ラジオバクター (Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCの変異体N176A、N176D及びY187Fが記載されている。これらはいずれもアグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のハロヒドリンエポキシダーゼHheCの変異体に関するものである。
特許文献12には、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBの変異体18種類が記載されている。これらのうちのいくつかの変異体については、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンからの生成物であるハロゲン化物イオンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼより向上したことが示されている。
特開平10-210981号公報 特開昭57-165352号公報 特開平3-053889号公報 特開2001-25397号公報 特開平3-053890号公報 特開平4-278089号公報 特開平5-317066号公報 特開2007-049932号公報 国際公開第2005/017141号パンフレット 米国特許出願公開第2005/0272064号明細書 米国特許出願公開第2006/0099700号明細書 国際公開第2008/108466号パンフレット
J.Bacteriol., 183 (17), 5058-5066, 2001 Biosci. Biotechnol. Biochem., 58 (8), 1451-1457, 1994 J. Health. Sci., 50 (6), 605-612, 2004 Enz. Microbiol. Technol., 22, 568-574, 1998 Thesis (1996) University of Wales, Cardiff, United Kingdom J. Bacteriol., 183 (17), 5058-5066, 2001 Enz. Microbiol., Technol. 30, 251-258,2002 EMBO J., 22 (19), 4933-4944, 2003 Biochemistry, 42 (47), 14057-14065, 2003 Biochemistry, 44 (17), 6609-6618, 2005
ハロヒドリンエポキシダーゼを工業的に利用する場合には、酵素触媒として更なる高度化が望まれる。例えば、上述したように形質転換体内におけるハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の高コピー化により、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性をある程度まで高めることができるが、経済性・実用性の見地から、さらなる活性向上が望まれる。従って、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性の向上をもたらすようなハロヒドリンエポキシダーゼが望まれる。また、光学活性な4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造を目的とする場合、既知のハロヒドリンエポキシダーゼにより製造される4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの光学純度は必ずしも十分に高いものではない。従って、より光学純度の高い4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成するような、立体選択性が向上したハロヒドリンエポキシダーゼが望まれる。
4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造を目的とする場合、基質となる1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンが反応終了時に残存すると不純物となる。よって反応終了時、系内におけるこれら基質の残存濃度が低く、不純物低減されるようなハロヒドリンエポキシダーゼが望まれる。
そこで、本発明の目的は、これら課題を解決しうるハロヒドリンエポキシダーゼ、及びその製造方法、ならびにそれを用いたエピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列、特にB型アイソザイムに分類される野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において、結晶構造解析を行った結果、ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列のうち、所定位置のアミノ酸残基のいずれかまたは全部を他のアミノ酸に置換することにより、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能等の属性が向上した改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを創出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) 以下の (a )または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(2) 以下の (a) または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(3) 第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、(1) に記載のタンパク質。
(4) 第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、(1) に記載のタンパク質。
(5) 第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、(2) に記載のタンパク質。
(6) 第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、(2) に記載のタンパク質。
(7) 前記タンパク質が、コリネバクテリウム (Corynebacterium) 属細菌またはマイコバクテリウム (Mycobacterium) 属細菌由来のものである、(1) または (2) に記載のタンパク質。
(8) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(9) 前記 (8) に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(10) 前記 (9) に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体または形質導入体。
(11) 前記 (10) に記載の形質転換体または形質導入体を培養して得られる培養物。
(12) 前記 (11) に記載の培養物から改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することを特徴とする、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの製造方法。
(13) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質及び/または前記 (11) に記載の培養物を、1,3-ジハロ-2-プロパノールと接触させることによりエピハロヒドリンを生成させることを特徴とする、エピハロヒドリンの製造方法。
(14) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質及び/または前記 (11) に記載の培養物を、シアン化合物存在下、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンと接触させることにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させることを特徴とする、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
(15) 以下の (a) または (b) のタンパク質の結晶。
(a) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
本発明によれば、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能等が向上した改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ得ることができるとともに、これらを利用してエピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを効率よく製造することができる。
HheBの精製及び結晶化を示す図である。 HheBの結晶学的データを示す図である。 HheBの4量体構造を示す図である。 HheBのモノマー構造及び活性部位を示す図である。 HheB、HheA及びHheCの構造比較を示す図である。 HheBとDiCNとの複合体の全体構造を示す図である。 野生型HheBとHheB/DiCN複合体との重ね合わせを示す図である。 HheBの活性部位を示す図である。 プラスミドpSTT002を示す図である。
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
1. ハロヒドリンエポキシダーゼの結晶
(1) 結晶の作製
本発明において結晶構造解析に使用するハロヒドリンエポキシダーゼ (以下「Hhe」ともいう) は野生型のものであり、遺伝子工学的手法を用いて、ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子を細菌や動物細胞等により発現させて大量生産することにより得ることができる。例えば、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が組み込まれた組換えDNAを、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が発現し得るように大腸菌、酵母、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞等の宿主中に導入して形質転換体を得、その形質転換体を培養することによりハロヒドリンエポキシダーゼを得ることができる。
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えDNAが細胞中で自律複製可能であることが必要である。また、転写プロモーター、リボゾームRNA結合領域としてのSD配列等が連結されていてもよい。転写ターミネーター等を適宜挿入することもできる。宿主への組換えベクターの導入は、市販のキットを使用する方法等により容易に導入することができる。
ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体自体、または細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。培養方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
培養後、ハロヒドリンエポキシダーゼが菌体内または細胞内に生産される場合には、ホモジナイザー処理等を施して菌体または細胞を破砕することにより目的のハロヒドリンエポキシダーゼを採取する。その後、前記培養物からゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ等の各種クロマトグラフ等を適宜組み合わせて用いてハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製し調製試料とする。
本発明の結晶調製に用いたハロヒドリンエポキシダーゼ (野生型) のアミノ酸配列を配列番号2に示す。但し、これらのアミノ酸配列に限定されるものではなく、上記アミノ酸配列において1個または数個 (例えば2個〜10個) のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異が生じ、かつ、Hhe活性を有するものも、本発明に使用することができる。Hhe活性の定義は後述する。なお、上記アミノ酸の変異は、当業者に周知の部位特異的突然変異誘発法により変異させることができ、そのためのキットを使用することができる。
次いで、ハロヒドリンエポキシダーゼの結晶を調製する。タンパク質を結晶化する方法としては、蒸気拡散法、バッチ法、透析法等の一般的なタンパク質結晶化手法を用いることができる。また、タンパク質の結晶化においては、タンパク質濃度、塩濃度、pH、沈殿剤の種類、温度等の物理的及び化学的因子の決定が重要であり、これらの因子の決定については当業者に一般的に知られている。一旦結晶が析出した後は、さらにパラメーターを細かく変えて最良の結晶が出現する条件を精密化する。本発明においては、結晶化及びその最適条件を決定するために、市販のキット (例えばJBScreen Classic Kit (JENA Bioscience)) を用いることも可能である。
(2) 結晶のX線結晶回折
タンパク質の三次元構造を明らかにするために最も一般的に行われている方法は、X線結晶構造解析の手法である。即ち、タンパク質を結晶化し、その結晶に単色化されたX線を当て、得られたX線の回折像をもとに、タンパク質の三次元構造を明らかにしていくものである。構造解析の手法には類似タンパク質の構造を利用した分子置換法と、多波長異常分散法 (MAD法) があるが、本発明のHheBハロヒドリンエポキシダーゼは他のタンパク質との相同性も低く、新規な構造であるため、結晶の構造解析はいわゆる多波長異常分散法 (MAD法) に従って行うことができる。本発明では、放射光を使って、入射X線波長を変えて結晶の回折データを測定する。MAD法に使うことのできる放射光は、例えばBeam Line NW12 (AR) により発生させることができる。
タンパク質結晶はX線照射により損傷を受け、回折能が劣化する場合が多いため、低温測定により高分解能のX線回折を行うことが好ましい。低温測定とは、結晶を急激に-173℃程度に冷却凍結して、その状態で回折データを収集する方法である。一般に、タンパク質結晶の凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、グリセロール等の保護剤を含む溶液で処理される。凍結結晶は、例えば保護剤を添加した保存液に浸漬した結晶を、液体窒素に直接浸漬して瞬時に凍結させることにより調製することができる。
X線回折データは、三次元構造を詳細に解析できるように、少なくとも3.0Å以下の分解能、好ましくは2.4Å以下の分解能に回折する結晶で収集する。
本発明において野生型ハロヒドリンエポキシダーゼの構造を解析した結果、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するハロヒドリンエポキシダーゼの結晶は、晶系C2221に属するものであり、単位格子としてa軸、b軸及びc軸の方向にa=121.484Å、b=216.380Å及びc=104.517Åの大きさを有する。更に、結晶構造解析の手法により、ハロヒドリンエポキシダーゼの三次元構造座標 (各原子の空間的な位置関係を示す値) が得られる。
本発明においては、上記野性型HheBの結晶構造解析を行い、基質認識や立体選択性に関わるアミノ酸残基を特定した。その結果、HheBのアミノ酸配列のうち、71番目のPhe及び125番目のGlnが立体選択性を決定する残基であることが判明した。
2. ハロヒドリンエポキシダーゼ
(1) 野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ
本発明者は、上記結晶構造解析結果から、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第71番目のアミノ酸残基 (Phe) 及び第125番目のアミノ酸残基 (Gln) がHheBの立体選択性及び基質認識に重要である点を見出し、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの変異導入部位を特定した。すなわち、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において第71番目のアミノ酸残基 (Phe) 及び第125番目のアミノ酸残基 (Gln) に変異を導入することによって改良したものである。
ここで、「野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ」とは、自然界の生物より分離され得るハロヒドリンエポキシダーゼを有する酵素を指し、由来は限定されるものではない。また、当該酵素を構成するアミノ酸配列において、意図的または非意図的なアミノ酸の欠失または他のアミノ酸による置換もしくは挿入がなく、天然由来の属性を保持したままのハロヒドリンエポキシダーゼを意味する。
本発明において用いる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼは、配列番号2または4で表わされるアミノ酸配列からなる。
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼは、公共の配列データベース、例えば、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein) においてハロヒドリンエポキシダーゼとして登録されているものを検索し、該当したもののアミノ酸配列を調べればよい。必要に応じて、遺伝子情報解析用ソフトウェアを用いて検索を行うことができる。また、公知文献で野生型ハロヒドリンエポキシダーゼアミノ酸配列について記載されているものがあればそれを参考にしてもよい。
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼは、アミノ酸配列の相同性等から、3つのアイソザイム (A型、B型、C型) に大別されることが知られている(J. Bacteriology, 183 (17), 5058-5066, 2001)。本発明において用いる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼは、B型に属するものである。
B型に分類されるハロヒドリンエポキシダーゼ (「HheB」ともいう) としては、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheB (Biosci. Biotechnol. Biochem., 58 (8), 1451, 1994)、マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1 (J. Bacteriology, 183 (17), 5058-5066, 2001)、アースロバクター エリシー (Arthrobacter erithii) H10a株由来のDehA (Enz. Microbiol. Technol., 22, 568-574, 1998) 等が挙げられる。
これらハロヒドリンエポキシダーゼのうち、アミノ酸配列が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein) において、以下のAccession No.により登録されている。
「Accession No. BAA14362」: コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBのアミノ酸配列
「Accession No. AAK73175」: マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1のアミノ酸配列
本発明において、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のハロヒドリンエポキシダーゼHheBについては、その遺伝子 (HheB) が2つの開始コドンを有するため、結果的に、N末端近傍の8アミノ酸残基の有無のみが異なる2種のハロヒドリンエポキシダーゼが存在することが報告されている (Biosci. Biotechnol. Biochem., 58 (8), 1451-1457, 1994)。本発明において、両者 (上記2種のハロヒドリンエポキシダーゼ) を区別して称するときは、最初の開始コドンから翻訳されたアミノ酸配列 (配列番号4) からなるHheBを「HheB (1st)」と称し、2番目の開始コドン (次に登場するメチオニン) から翻訳されたアミノ酸配列 (配列番号2) からなるHheBを「HheB (2nd)」と称することとし、これらはいずれも野生型ハロヒドリンエポキシダーゼであるものとする。
本明細書においては、主にコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来の野生型ハロヒドリンエポキシダーゼHheBを例に挙げて説明するが、前述のように、ハロヒドリンエポキシダーゼの由来は限定されず、また、本発明で示した変異の位置または変異するアミノ酸種若しくは塩基配列を操作することによって、いずれの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを得ることもできる。なお、本発明において、「高い相同性」というときは、例えば60%以上の相同性をいい、好ましくは75%以上の相同性であり、特に好ましくは90%以上の相同性である。
(2) 改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ
本発明における「改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ」は、主として遺伝子組換え技術を利用して、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列に対して第71番目及び125番目 (HheB (2nd)) 並びに第79番目及び133番目 (HheB (1st)) のうち少なくとも1つのアミノ酸について置換変異が導入されたアミノ酸配列からなるものであり、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能等が向上したハロヒドリンエポキシダーゼである。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも高いものが含まれる。ここで言う形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性の向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよく、例えば、酵素タンパク質あたり比活性自体の向上、活性型コンフォメーション形成能の向上、形質転換体内における発現量増加、形質転換体内における酵素の安定性向上、対基質耐性の向上、生成物阻害感受性の低下等が挙げられる。
なお、「形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、形質転換体乾燥菌体単位重量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味し、「菌体比活性」とも称するものとする (なお、本明細書中、乾燥菌体を「DC」と称することがある)。また、「可溶性タンパク質あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、可溶性タンパク質単位重量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味し、「タンパク比活性」とも称するものとする。さらに、本発明においては、便宜的に、一定量の形質転換体からは一定量の可溶性タンパク質を得ることができるものとし、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (「菌体比活性」) は可溶性タンパク質あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (「タンパク比活性」) に比例するものとする。すなわち、タンパク比活性が高ければ (または低ければ)、菌体比活性が高い (または低い) ものとする。
菌体比活性またはタンパク比活性は、液活性を、その溶液の菌濃度あるいは可溶性タンパク質濃度で除することにより算出することができる。「液活性」とは、単位溶液量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味する。該溶液としては、ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する形質転換体を培養して得られる「培養物」から得ることができるものを含有する溶液が挙げられる。具体的には、培養液、培養液上清、細胞若しくは菌体懸濁液、細胞若しくは菌体破砕液、粗酵素液及びこれらの処理物等が挙げられる。また、本発明において「活性回収率」とは、一定の操作前の活性を100%として、操作後に回収された活性の相対比 (%) を意味する。
また、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、基質1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させた場合の該生成物の光学純度が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより同基質から同生成物を生成させた場合の該生成物の光学純度よりも高くなるという属性を有するものが含まれる。すなわち、基質である1,3-ジハロ-2-プロパノール及び/またはエピハロヒドリンに対する立体選択性が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上しているものが含まれる。立体選択性向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
本発明において、「光学活性」とは、一方の鏡像異性体が他方の鏡像異性体よりも多く含まれている物質の状態、またはいずれか一方の鏡像異性体のみから成っている物質の状態を言う。また、「光学純度」とは、「鏡像異性体過剰率 (%ee)」にほぼ等しいものであるとし、次式で定義する。
光学純度≒鏡像異性体過剰率=100×(|[R]-[S]|)/([R]+[S]) (%e.e.)
ここで、[R]及び[S]は試料中の鏡像異性体のそれぞれの濃度を示す。また、本発明において、「立体選択性」とは、ハロヒドリンエポキシダーゼが、基質から生成物を生成する際に、いずれか一方の鏡像異性体が生成する反応を優先的に触媒する性質を言う。
また、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンからの生成物であるハロゲン化物イオンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上しているもの、すなわち生成物阻害耐性が向上したものが含まれる。生成物阻害耐性向上向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
また、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、基質1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させる場合に、生成物を高濃度生成及び蓄積させることができるという属性を有するもの、すなわち生成物蓄積能が向上したものが含まれる。生成物蓄積能向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、基質1,3-ジハロ-2-プロパノール又はエピハロヒドリンから、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させる場合に、反応終了後の系内残存基質濃度が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも低減しているもの、すなわち不純物低減能が向上したものが含まれる。
不純物低減能の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、具体的には、配列番号2または4に示されるアミノ酸配列を含む野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列に対して以下のアミノ酸変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質である。
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(c) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(d) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
上記タンパク質のアミノ酸変異は、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において最もN末端側に位置する開始アミノ酸残基 (通常はメチオニン残基) を1番目と定義したときに、当該開始アミノ酸残基からC末端側に向かって何番目のアミノ酸残基におけるアミノ酸変異であるかによっても特定することができる。しかし、HheB (2nd) は、HheB (1st) のアミノ酸配列におけるN末端近傍の8アミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなるタンパク質に過ぎず、HheB (1st) 及びHheB (2nd) の両アミノ酸配列における各アミノ酸残基の絶対的役割は実質的に同一である。
本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの好ましい態様としては、例えば、以下の (e)〜(j) より選択されるいずれかまたは複数のアミノ酸変異が導入されたアミノ酸配列からなるものが挙げられる。
(e) 配列番号2に示されるアミノ酸配列の第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(f) 配列番号2に示されるアミノ酸配列の第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(g) 上記 (e) 及び (f) のアミノ酸置換が組み合わされたアミノ酸配列からなるタンパク質
(h) 配列番号4に示されるアミノ酸配列の第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(i) 配列番号4に示されるアミノ酸配列の第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(j) 上記 (h) 及び (i) のアミノ酸置換が組み合わされたアミノ酸配列からなるタンパク質
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記 (a)〜(d)、好ましくは (e)〜(j) より選択されるアミノ酸変異を有するアミノ酸配列からなるものであればよい。
本発明において、「1個もしくは数個」とは、例えば1個〜10個程度、好ましくは1個〜5個程度を指す。
なお、本発明において、アミノ酸の種類を3文字または1文字のアルファベット表記で表すことがある。さらに、数字の前または前後に、3文字または1文字のアルファベットを配して表記することがあり、この場合は、アミノ酸残基の箇所及び置換前後のアミノ酸の種類を表す。すなわち、数字は、特に断りがない限り、上述したように、翻訳開始コドンによりコードされるアミノ酸残基 (通常はメチオニン) を1番目と定義した場合に、何番目のアミノ酸残基であるかを示すものである。また、数字の前に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換前のアミノ酸の3文字または1文字表記を表し、数字の後に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換が生じた場合の置換後のアミノ酸の3文字または1文字表記を表すものとする。例えば、125番目のグルタミン残基は「Gln125」または「Q125」と表記し、71番目のフェニルアラニン残基がトリプトファンに置換された場合は「Phe71Trp」または「F71W」と表記することがある。
3. ハロヒドリンエポキシダーゼ活性
本発明において、「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、1,3-ジハロ-2-プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性及びその逆反応を触媒する活性を意味する。1,3-ジハロ-2-プロパノールは、下記一般式 (1) で示される化合物である。

(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して同一のまたは異なるハロゲン原子を表す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール (以下、「DCP」と称することがある)、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、1,3-ジヨード-2-プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノールである。
エピハロヒドリンは、下記一般式 (2) で示される化合物である。

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン (以下、「ECH」と称することがある)、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
本発明においては、「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」は、時間あたりの1,3-ジハロ-2-プロパノールからのエピハロヒドリン生成量またはハロゲン化物イオン生成量を測定することにより求めることができる。エピハロヒドリン生成量は、例えば、液体クロマトグラフィやガスクロマトグラフィ等によって定量することができる。また、ハロゲン化物イオン生成量は、例えば、そのハロゲン化物イオンの生成に伴って低下するpHをある一定の値に保つように、連続的または断続的にアルカリ溶液を添加し、時間あたりに要したアルカリの量から便宜的に求めることができる。この方法により算出されるハロヒドリンエポキシダーゼ活性を特に「脱クロル活性」と呼ぶことがある。また、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼに対する抗体を作製し、ウェスタンブロットやELISA法等の免疫学的手法によっても算出することが可能である。その他、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が形質転換体内における発現量と比例すると仮定する場合は、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が既知であるサンプルと比較すること等により、SDS-PAGE等の分析手段によっても間接的に求めることができる。SDS-PAGEは当業者であれば公知の方法を用いて行うことができる。
なお、少なくとも一部のハロヒドリンエポキシダーゼについては、上述の「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリンを開環シアノ化して4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒する活性を有する。この場合におけるシアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム (以下、「KCN」と称することがある)、シアン化ナトリウム、シアン酸またはアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン (CN-) またはシアン化水素を生じる化合物またはその溶液等が挙げられる。また、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルは、下記一般式 (3) で示される化合物である。

(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には4-フルオロ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル (以下、「CHBN」と称することがある)、4-ブロモ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-ヨード-3-ヒドロキシブチロニトリル等が挙げられ、好ましくは、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-ブロモ-3-ヒドロキシブチロニトリルである。
4. ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子
(1) 野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのうち、その遺伝子配列 (塩基配列) が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide) において、以下のAccession No. により登録されている。
「Accession No. D90350」: コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBをコードする遺伝子の塩基配列
「Accession No. AY044094」: マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1をコードする遺伝子の塩基配列
「Accession No. AF149769」: アグロバクテリウム チュメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalBをコードする遺伝子の塩基配列
本発明においては、これらを「野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子」と呼ぶものとする。ここで、当該野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子における「野生型」の語は、「ハロヒドリンエポキシダーゼ」に係る語であり、ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列が野生型であることを意味する。本発明における野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を構成する塩基配列は、形質転換体宿主において利用可能なコドンをコードするものであればよく、必ずしも由来生物ゲノムDNA上にコードされている野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の塩基配列に限定はされない。なお、HheB (1st) をコードする野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子をHheB (1st) と称し、HheB (2nd) をコードする遺伝子をHheB (2nd) と称するものとする。HheB (1st) の塩基配列は配列番号3に示され、HheB (2nd) の塩基配列は配列番号1に示される。
塩基配列が明らかになっている野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を取得する方法としては、由来生物からゲノムDNAを調製し、明らかにされている野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子配列情報をもとにプライマーを設計し、該プライマーを用いてPCR法でハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子を増幅する方法が挙げられる。由来生物として、例えば、N-1074株が挙げられ、当該株は、受託番号「FERM BP-2643」として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター (茨城県つくば市東1-1-1 中央第6 (以下、本明細書において同様)) に昭和63 (1988) 年11月10日付で寄託されている。
また、公知の遺伝子配列情報を基に、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法 (assembly PCR) 等を利用して、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の全長を化学的に合成することも可能である。例えば、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子をいくつかの領域 (例えば、50塩基程度) に分割し、隣り合う領域とのオーバーラップ (例えば、20塩基程度) を両端に有する複数のオリゴヌクレオチドを設計及び合成する。該オリゴヌクレオチドをPCR法で互いにアニールさせることにより野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を増幅することができる。
また、必要に応じて、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子のコドンを変更してもよい。コドンを変更する手段としては、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997) 等に記載の部位特異的変位誘発法や、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット (例えばQuickChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit (ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System (インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System (Mutan-K、Mutan-Super Express Km等: タカラバイオ社製))等を用いて行うことができる。この他、上述したように、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法 (assembly PCR) を行う際に、コドンを変更したプライマーを用いることでコドンを変更することも可能である。
(2) 改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子とは、前記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ酵素タンパク質をコードする遺伝子を意味する。本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子とは、例えば、配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼに対して前記2. (2) の項に記載のアミノ酸変異が導入されたアミノ酸配列を有する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子である。
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子及び上記アミノ酸変異導入後のアミノ酸残基を構成する塩基配列は、形質転換体宿主において利用可能なコドンをコードするものであればよく、必ずしも由来生物ゲノムDNA上にコードされている野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の塩基配列に限定されない。なお、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにおいて述べたHheB (1st) をコードする野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子であるHheB (1st) (配列番号3)、及びHheB (2nd) をコードする野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子であるHheB (2nd) (配列番号1) は、いずれも、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を得るためのベースとなる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子としても用いることができる。
本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子のさらに具体的かつ好ましい態様としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheB (2nd) である場合は、配列番号1に示される塩基配列に前記変異後のアミノ酸配列をコードするように改変した改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が挙げられる。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子は、前記2. (2) の項に記載のアミノ酸変異が導入された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子であればよく、従って、前記2. (2) の項に記載の (a)〜(j) の特徴を有する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子も含まれる。
さらに、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子としては、前記 (a)〜(j) より選択されるいずれかのアミノ酸変異が導入された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
このようなDNAは、例えば、上記 (a)〜(j) より選択されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子DNA若しくはその相補配列、またはこれらの断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用することができ、また市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを利用することもできる。
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって塩濃度が300 mM〜2000 mM、温度が40℃〜75℃、好ましくは塩濃度が600 mM〜900 mM、温度が65℃の条件を意味する。例えば、2×SSCで50℃等の条件を挙げることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、前記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得るための条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)) 等を参照することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、例えば、前記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対して、少なくとも40%以上、好ましくは60%、さらに好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAまたはその部分断片が挙げられる。
本発明において、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の調製を行う方法は、変異を導入する既知の如何なる方法でもよく、通常は、公知の方法で行うことができる。例えば、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を基に、市販のキットを利用して部位特異的な置換を生じさせる方法や、遺伝子DNAを選択的に開裂し、次いで選択されたオリゴヌクレオチドを除去・付加し連結する方法等が挙げられる。これらの部位特異的変異誘発法は「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press (1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons (1987-1997))、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82: 488-492 (1985), Kramer and Fritz Method. Enzymol., 154: 350-367(1987)、Kunkel, Method. Enzymol., 85: 2763-2766 (1988) 等に記載されている。近年では、Kunkel法や Gapped duplex法を基にした部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit (ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System (インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System (Mutan-K、Mutan-Super Express Km等: タカラバイオ社製) 等を用いて行うことができる。
また、目的とする変異導入箇所が、対象遺伝子配列において消化・連結が容易な制限酵素部位の近隣に存在する場合、目的変異を導入したプライマー (合成オリゴDNA) を用いてPCRを行うことで、目的変異が導入された遺伝子DNA断片を容易に得ることができる。さらには、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法 (assembly PCR) で伸長させて合成遺伝子として得ることもできる。また、ハイドロキシルアミンや亜硝酸等の変異源となる薬剤を接触・作用させる方法、紫外線照射により変異を誘発する方法、PCR (ポリメラーゼ連鎖反応) を用いてランダムに変異を導入する方法等のランダムな変異導入法によっても、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子から改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を得ることができる。
5. 組換えベクター、形質転換体
(1) 組換えベクター
上記の方法によって得た本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を宿主で発現させるために、遺伝子の上流に転写プロモーターを、下流にターミネーターを挿入して発現カセットを構築し、このカセットを発現ベクターに挿入することができる。あるいは、当該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を導入する発現ベクターに転写プロモーターとターミネーターがすでに存在する場合には、発現カセットを構築することなく、ベクター中のプロモーターとターミネーターを利用してその間に当該変異遺伝子を挿入すればよい。ベクターに当該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を挿入するには、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法等を利用することができる。また、挿入の際に必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。なお、本発明においては、このような組み込み操作を、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の調製操作と兼ねて行うこともできる。すなわち、他のアミノ酸をコードする塩基配列に置換した塩基配列を有するプライマーを用い、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子がクローニングされた組換えベクターを鋳型としてPCRを行い、得られた増幅産物をベクターに組み込むことができる。
プロモーターの種類は宿主において適切な発現を可能にするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌宿主において利用できるのものとしては、トリプトファンオペロンのtrpプロモーター、ラクトースオペロンのlacプロモーター、ラムダファージ由来のPLプロモーター及びPRプロモーター等が挙げられ、tacプロモーター、trcプロモーターのように改変、設計された配列も利用できる。枯草菌宿主において利用できるものとしては、グルコン酸合成酵素プロモーター (gnt)、アルカリプロテアーゼプロモーター (apr)、中性プロテアーゼプロモーター (npr)、a-アミラーゼプロモーター (amy) 等が挙げられる。ロドコッカス属細菌宿主において利用できるものとしては、発現ベクターpSJ034に含まれるロドコッカス・エリスロポリス (Rhodococcus erythropolis) SK92-B1株由来のニトリラーゼ発現調節遺伝子に係るプロモーターが挙げられる。pSJ034はロドコッカス (Rhodococcus) 属細菌においてニトリルヒドラターゼを発現するプラスミドであり、特開平10-337185号公報に示す方法でpSJ023より作製することができる。なお、pSJ023は、形質転換体ATCC12674/pSJ023 (受託番号「FERM BP-6232」) として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (茨城県つくば市東1-1-1 中央第6) に平成9 (1997) 年3月4日付けで寄託されている。
ターミネーターは必ずしも必要ではなく、その種類も特に限定されるものではなく、例えばr因子非依存性のもの、例えばリポプロテインターミネーター、trpオペロンターミネーター、rrnBターミネーター等が挙げられる。
また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列等のリボソーム結合配列が知られており、これらの配列を変異遺伝子の上流に挿入することもできる。原核生物を宿主に用いるときにはSD配列を、真核細胞を宿主に用いるときにはKozak配列をPCR法等により付加してもよい。SD配列としては、大腸菌由来または枯草菌由来の配列等が挙げられるが、大腸菌や枯草菌等の所望の宿主内で機能する配列であれば特に限定されるものではない。たとえば、16SリボゾームRNAの3’末端領域に相補的な配列が4塩基以上連続したコンセンサス配列をDNA合成により作製して利用してもよい。
一般に、ベクターには目的とする形質転換体を選別するための因子 (選択マーカー) が含まれる。選択マーカーとしては、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子、資化性付与遺伝子等が挙げられ、目的や宿主に応じて選択されうる。例えば大腸菌で選択マーカーとして用いられる薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
本発明において使用されるベクターは、上記の変異遺伝子を保持するものであれば特に限定されず、それぞれの宿主に適したベクターを使用することができる。ベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、人工染色体DNA等が挙げられる。例えば、大腸菌を宿主とする場合には、大腸菌内での自律複製可能な領域を有するpTrc99A (Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ; http://www.cbs.knaw.nl/)、pUC19 (タカラバイオ、日本)、pKK233-2 (Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ; http://www.cbs.knaw.nl/)、pET-12 (Novagen社、ドイツ)、pET-26b (Novagen社、ドイツ) 等を用いることができる。また、必要に応じてこれらベクターを改変したものも用いることができる。また、発現効率の高い発現ベクター、例えばtrcプロモーター、lacオペレーターを有する発現ベクターpTrc99AまたはpKK233-2等を用いることもできる。
上記の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターは、本発明の範囲に含まれる。改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターの具体的なものとしては、例えば、pSTT002、pSTT030、pSTT090、pSTT100、pSTT115、pSTT116、pSTT118、pSTT119、pSTT120、pSTT125、pSTT126、pSTT201、pSTT202等が挙げられる。
(2) 形質転換体
本発明の組換えベクターを宿主に形質転換または形質導入することで、形質転換体または形質導入体 (以下、これらをまとめて「形質転換体」という) を作製する。当該形質転換体も本発明の範囲に含まれる。
本発明において使用する宿主は、上記組換えベクターが導入された後、目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現することができる限り特に限定されるものではない。宿主としては、例えば大腸菌、枯草菌、ロドコッカス属細菌等の細菌、酵母 (Pichia、Saccharomyces)、カビ (Aspergillus)、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等が挙げられる。
細菌を宿主とする場合、本発明においては、大腸菌、ロドコッカス属細菌を好ましい宿主として用いることができる。大腸菌としては、例えば、大腸菌K12株やB株、あるいはそれら野生株由来の派生株であるJM109株、XL1-Blue株、C600株等を挙げることができる。特に、上述したようなラクトースオペロンのlacプロモーター及びその派生プロモーターを発現プロモーターとして用いる場合、lacIレプレッサー遺伝子を有する宿主を用いれば発現が誘導型となり (IPTG等で誘導)、lacIレプレッサー遺伝子を有しない宿主を用いれば発現は構成型となるので、必要に応じた宿主を利用することができる。これら菌株は、例えば、アメリカン・タイプカルチャー・コレクション (ATCC) 等から容易に入手可能である。枯草菌としては、例えば、バチルス ズブチリス (Bacillus subtilis) 等が挙げられる。ロドコッカス (Rhodococcus) 属細菌としては、例えば、ロドコッカス ロドクロウス (Rhodococcus rhodochrous) ATCC999株、ATCC12674株、ATCC17895株、ATCC15998株、ATCC33275株、ATCC184、ATCC4001株、ATCC4273株、ATCC4276株、ATCC9356株、ATCC12483株、ATCC14341株、ATCC14347株、ATCC14350株、ATCC15905株、ATCC15998株、ATCC17041株、ATCC19149株、ATCC19150株、ATCC21243株、 ATCC29670株、ATCC29672株、ATCC29675株、ATCC33258株、ATCC13808株、ATCC17043株、ATCC19067株、ATCC21999株、ATCC21291株、ATCC21785株、ATCC21924株、 IFO14894株、IFO3338株、NCIMB11215株、NCIMB11216株、JCM3202株、ロドコッカス ロドクロウス (Rhodococcus rhodochrous) J1株 (受託番号「FERM BP-1478」)、ロドコッカス グロベルルス (Rhodococcus globerulus) IFO14531株、ロドコッカス ルテウス (Rhodococcus luteus) JCM6162株、JCM6164株、ロドコッカス エリスロポリス (Rhodococcus erythropolis) IFO12538株、IFO12320株、ロドコッカス エクイ (Rhodococcus equi) IFO3730株、JCM1313株が挙げられる。好ましくはロドコッカス ロドクロウス (Rhodococcus rhodochrous) J1株 (受託番号「FERM BP-1478」) が挙げられる。なお、上記ATCC株はアメリカンタイプカルチャーコレクションから、IFO株は独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門 (NBRC) から、JCM株は、独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター微生物材料開発室から、FERM株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターからそれぞれ入手可能である。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス セレビシエ (Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス ポンベ (Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア パストリス (Pichia pastoris) 等が用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、CHO細胞、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞、Sf21細胞等が用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が用いられる。植物細胞を宿主とする場合は、タバコBY-2細胞等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法等が用いられる。
上記の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターにより得られる形質転換体は、本発明の範囲に含まれる。改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターによる形質転換体の具体的なものとしては、例えば、本発明で例示するJM109/pSTT115、JM109/pSTT116、JM109/pSTT118、JM109/pSTT119、JM109/pSTT120、JM109/pSTT125、JM109/pSTT126等が挙げられる。
6. 改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの製造方法
本発明において、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記形質転換体を培養して得られる培養物自体として、または培養物から採取することにより製造することができる。本発明において、「培養物」とは、培養液、培養液上清、細胞または菌体、細胞または菌体の懸濁液、細胞または菌体の破砕液、粗酵素液及びこれらの処理物等、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する形質転換体を培養することによって得られるもの及びそれらに起因するもののいずれをも含む意味である。本発明の形質転換体を培養して得られる培養物は、本発明の範囲に含まれる。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記培養物中のいずれかに蓄積される。
本発明の形質転換体を培養する培地は、宿主が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物が挙げられる。その他、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、必要に応じ、培養中の発泡を防ぐために消泡剤を添加してもよい。また、ビタミン等を必要に応じて適宜添加してもよい。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養中、ベクター及び目的遺伝子の脱落を防ぐために選択圧を掛けた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合には、対応する薬剤を培地に添加してもよく、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合には、対応する栄養因子を培地から除いてもよい。また、選択マーカーが資化性付与遺伝子である場合は、対応する資化因子を必要に応じて唯一因子として添加することができる。例えば、アンピシリン耐性遺伝子を含むベクターで形質転換した大腸菌を培養する場合、培養中に、必要に応じてアンピシリンを培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル-b-D-チオガラクトシド (IPTG) で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸 (IAA) で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IAA等を培地に添加することができる。
形質転換体の培養条件は、目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの生産性及び宿主の生育が妨げられない条件であれば特に限定されるものではないが、通常、培養温度は10℃〜45℃、好ましくは10℃〜40℃、さらに好ましくは15℃〜40℃、さらにより好ましくは20℃〜37℃で行い、必要に応じて、培養中に温度を変更してもよい。培養時間は5時間〜120時間、好ましくは5時間〜100時間、さらに好ましくは10時間〜100時間、さらにより好ましくは15時間〜80時間程度行う。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行い、大腸菌であれば通常6〜9に調整する。培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養等が挙げられる。
特に大腸菌形質転換体を培養する場合には、振盪培養または通気攪拌培養 (ジャーファーメンター) により好気的条件下で培養することが好ましく、この場合、通常の固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培養するのが好ましい。培養に用いる培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、及び大豆または小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄若しくは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。なお、培地の初発pHは7〜9に調整するのが適当である。また、培養は、5℃〜40℃、好ましくは10℃〜37℃で5時間〜100時間行う。通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養、流加培養等により実施するのが好ましい。特に、工業的規模での改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ生産を行う場合は、通気攪拌培養を利用することができる。さらに、通気攪拌培養の操作方式としては限定されることなく、回分式 (batch culture)、半回分式 (fed-batch culture, semi-batch culture) 及び連続式 (continuous culture) のいずれで行ってもよい。特に、高濃度培養により、装置あたり、時間あたり、費用あたり、または操作あたりの生産性を高めたい場合には、半回分式培養を行うことができる。半回分式で用いられる流加 (fed) 培地成分は、初発 (batch) 培地成分と同一の組成のものを用いても、組成を変更してもよいが、初発培地と比較して培地成分濃度はより高濃度であることが好ましい。流加培地の体積は特に限定されることはないが、通常、初発培地の1/2以下の体積を添加させることができる。
流加培地を添加していく方法 (feeding mode) としては、例えば、定流的流加法 (constant)、指数的流加法 (exponential)、段階的増加流加法 (stepwise increase)、比増殖速度制御流加法 (specific growth-rate control)、pHスタット流加法 (pH-stat)、DOスタット流加法 (DO-stat)、グルコース濃度制御流加法 (glucose concentration control)、酢酸濃度モニタリング流加法 (acetate concentration monitoring)、ファジー神経回路流加法 (fuzzy neural network) 等が挙げられるが (Trends in Biotechnology (1996), 14, 98-105)、所望のハロヒドリンエポキシダーゼ活性が得られれば特に限定されるものではない。なお、半回分式培養実施時の培養終了時期は、流加培地の投入終了後に限定される必要はなく、必要に応じて培養を継続し、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性が最も高い時点で培養終了とすることができる。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地またはこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1日〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン及びペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。形質転換 (導入) 体が植物細胞または植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地、LS基本培地等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法、液体培養法のいずれをも採用することができる。
形質転換体が植物細胞または植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地、LS基本培地等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法、液体培養法のいずれをも採用することができる。
上記培養条件で培養すると、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを上記培養物中、すなわち、培養液、培養上清、細胞、菌体、または細胞若しくは菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積させることができる。
培養後、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼが菌体内または細胞内に生産される場合には、菌体または細胞のまま物質生産における触媒として用いることもできるし、あるいは菌体または細胞を破砕することにより、目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することもできる。いずれの場合にも、必要であれば、遠心分離や膜濾過等の固液分離操作により、培地除去及び洗浄を行うことができる。遠心分離は、菌体または細胞を沈降させる遠心力が供給できるものであれば特に限定されることはなく、円筒型や分離板型等を利用することができる。遠心力としては、例えば、500G〜20,000G程度で行うことができる。
また、本工程に利用し得る膜濾過は、目的とする固液分離を達成できれば、精密濾過 (MF) 膜、限外濾過 (UF) 膜いずれでもよいが、通常、精密濾過 (MF) 膜を用いることが好ましい。精密濾過は、例えば、流動方向に基づけば、デッドエンド方式やクロスフロー (タンジェンシャルフロー) 方式に分類することができ、圧力の加え方に基づけば、重力式、加圧式、真空式、遠心力式等に分類することができ、操作様式に基づけば、回分式と連続式等に分類することができるが、固液分離操作を行うことができるものであれば、そのいずれを利用することもできる。MF膜の材質としては、高分子膜、セラミック膜、金属膜、及びそれらの複合型に大別でき、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性及び固液分離操作時の該活性回収率を低下させるものでなければ特に限定はされないが、特に高分子膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、混合セルロースエステル、銅アンモニア法再生セルロースエステル、ポリイミド、ナイロン、テフロン (登録商標) 等が好ましい。膜の孔径としては、菌体または細胞を捕捉し、濃縮操作が可能であればよく、通常、0.1 mm〜0.5 mm程度のものを用いることができる。
上記の遠心分離及び膜濾過による固液分離操作時には、水、または必要に応じて緩衝液、等張液を添加して希釈洗浄を行うこともできる。用いられる緩衝液は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性及び固液分離操作時の該活性回収率を低下させるものでなければ特に限定はされず、例えば、塩濃度は5 mM〜500 mM、好ましくは5 mM〜150 mM程度であり、pHは5〜9程度のものであればよい。緩衝液成分としては、例えば、トリス (ヒドロキシメチル) アミノメタン (Tris)、リン酸ナトリウムまたはカリウム塩、クエン酸塩、酢酸塩、等を挙げることができる。具体的には、例えば、20 mM Tris-硫酸緩衝液 (pH8)、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液 (pH7) 等が挙げられる。また、等張液としては例えば、0.7〜0.9%塩化ナトリウム溶液等が挙げられる。その他、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを安定しうる物質等があればそれらを添加してもよい。
上記の培地除去及び洗浄操作を行った後、菌体または細胞を再度水、あるいは必要に応じて緩衝液、等張液に懸濁し、菌体または細胞懸濁液を調製することができる。菌体または細胞懸濁液は、そのまま物質生産における触媒として用いることもできるが、必要に応じ、処理を行った後に用いることができる。処理方法としては、例えば、上述の培養から得られる培養物に界面活性剤が終濃度0.01%〜10%になるように加え、ハロヒドリンエポキシダーゼが失活しない温度で攪拌すればよい。界面活性剤の終濃度は、0.05%〜1%とすることが好ましく、0.1%〜0.5%とすることが特に好ましい。処理温度は、0℃〜40℃とすることが好ましく、4℃〜20℃とすることが特に好ましい。処理時間は菌体処理の効果が認められる時間内であればよく、15分〜24時間とすることが好ましく、30分〜2時間とすることが特に好ましい。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を用いることができる。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム等を用いることができる。陽イオン性界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム等を用いることができる。ノニオン性界面活性剤としては、トリトンX100等を用いることができる。界面活性剤で処理した菌は、バッファーで洗浄して用いてもよいし、洗浄せずそのまま用いてもよい。また、上述した培地除去及び洗浄操作を行わずに、直接、菌体または細胞の界面活性剤等による処理を行うこともできる。また、菌体または細胞は、固定化して用いることもできる。具体的には、例えば、培養後の細胞または菌体をアクリルアミド等のゲルで包含したもの、アルミナ、シリカ、ゼオライト、珪藻土等の無機担体に担持したもの等が挙げられる。
一方、菌体または細胞を破砕することにより、目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することもできる。菌体または細胞の破砕方法としては、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等が挙げられ、いずれかの方法を単独または必要に応じ組み合わせて利用することができる。工業的規模で菌体または細胞の破砕を行う場合は、操作性、回収率、コスト等を勘案し、主に高圧処理や磨砕処理、衝突処理を利用することが好ましく、場合によってはこれら物理的破砕操作に酵素処理等を組み合わせてもよい。各破砕処理方法において、菌体または細胞からの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ回収率が十分高いものであれば、操作条件は特に限定されることはない。十分高い改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ回収率とは、例えば、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%、最も好ましくは99%以上である。
ビーズミルによる磨砕処理を行う場合、用いられるビーズは、例えば、密度2.5 g/cm3〜6.0 g/cm3、サイズ0.1 mm〜1.0 mmのものを通常80%〜85%程度充填することにより破砕を行うことができ、運転方式としては回分式、連続式いずれをも採用することができる。菌体または細胞濃度も特に限定されないが、例えば、細菌であれば6%〜12%程度、酵母であれば14%〜18%程度とすればよい。
高圧処理を行う場合、処理圧力は、菌体または細胞からの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ回収率が十分高いものであれば特に限定されないが、例えば、40 MPa〜150 MPa程度の圧力で破砕を行うことができる。菌体または細胞濃度も特に限定されないが、例えば、20%以下程度であればよい。必要に応じて、装置を直列に配置したり、複数ステージ構造の装置を用いたりすることにより、多段階処理を行い、破砕及び操作効率を向上させることも可能である。通常、処理圧力10 MPaあたり2℃〜3℃の温度上昇が生じることから、必要に応じて冷却処理を行うことが好ましい。
衝突処理の場合、例えば、被破砕菌体または細胞スラリーを予め噴霧急速凍結処理 (凍結速度: 例えば1分間当たり数千℃) 等によって凍結微細粒子 (例えば50 mm以下) にしておき、これを高速 (例えば約300 m/s) の搬送ガスによって衝突板に衝突させることで菌体または細胞を破砕することができる。
上記のような菌体または細胞破砕処理の結果、細胞内の核酸が流出することにより、処理液の粘度が上昇してハンドリングが困難になる場合、あるいは、後段の残渣分離工程での活性回収率向上に効果がある場合は、必要に応じて、核酸除去または核酸分解により、処理液の粘度低減や残渣分離工程での活性回収率の向上を期待することができる。細胞破砕液中の核酸を除去または分解する方法としては、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、核酸を除去または分解することができる方法であればいかなる方法でもよいが、例えば、生化学実験講座5巻200〜201頁に記載されているように、細胞破砕液にプロタミン硫酸あるいはストレプトマイシンを添加することにより核酸を沈澱させる方法、核酸分解酵素で核酸を分解する方法、デキストラン-ポリエチレングリコールを用い液々分離を行う方法等が挙げられる。また、物理的破砕処理をさらに追加することも有効な場合がある。
これら方法のうち、特に、工程の煩雑化を避けつつ迅速に核酸を分解したい場合には、核酸分解酵素で核酸を分解する方法を採ることができる。核酸分解酵素処理に用いる核酸分解酵素は、少なくともデオキシリボ核酸 (DNA) に作用し、核酸分解反応触媒能力を有し、DNA重合度を下げるものであればいかなるものでもよく、該形質転換体細胞内に本来存在する核酸分解酵素を利用してもよいが、別途、外因性の核酸分解酵素を添加してもよい。別途添加する核酸分解酵素としては、例えば、ウシ脾臓由来DNaseI (タカラバイオ、日本)、ブタ脾臓由来DNaseII (和光純薬、日本)、Serratia marcescens由来核酸分解酵素Benzonase (登録商標) Nuclease (タカラバイオ、日本)、Nuclease from Staphylococcus aureus (和光純薬、日本) 等が挙げられる。添加する酵素量は、酵素の種類やユニット数 (U) の定義により異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。必要に応じて、核酸分解酵素に要求されるマグネシウム等の補因子を該酵素溶液に添加してもよい。処理温度は、用いる核酸分解酵素によって異なるが、常温生物種由来の核酸分解酵素であれば、通常20℃〜40℃の温度に設定すればよい。
得られた破砕液から菌体または細胞破砕残渣を除去する必要がある場合は、例えば、遠心分離や濾過 (デッドエンド方式あるいはクロスフロー方式) 等により除去することができる。
遠心分離操作は、前述の通り行うことができる。菌体または細胞破砕残渣が微細であり、容易に沈降し難い場合は、必要に応じて、凝集剤を使用して残渣沈殿効率を上げることもできる。有機高分子凝集剤は、イオン性に基づけば、カチオン系凝集剤、アニオン系凝集剤、両性系凝集剤、ノニオン系凝集剤を挙げることができ、成分に基づけば、アクリル系、ポリエチレンイミン、縮合系ポリカチオン (ポリアミン)、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、キトサン等を挙げることができるが、本発明において使用する凝集剤は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、残渣分離効率を向上させることができるものであればいずれの凝集剤でもよい。
アクリル系凝集剤の成分となるアクリル系水溶性モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、アクリルアミド2メチル-プロパンスルホン酸ナトリウム、ジメチルアミノエチル-メタクリレート、メタクリロイロキシエチル-トリメチルアンモニウム-クロライド、メタクリロイロキシエチル-ベンジルジメチル-アンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチル-アクリレート、アクリロイロキシエチル-トリメチルアンモニウム-クロライド、ジメチルアミノプロピル-アクリルアミド、アクリルアミドプロピル-トリメチルアンモニウム-クロライド、ポリアミジン-クロライド等が挙げられ、これらモノマーの単一重合物、多様な組成による共重合物または高分子変性物がアクリル系凝集剤として挙げられる。
特に代表的なカチオン系高分子凝集剤としては、ポリアミノアルキルメタアクリレート類,ポリアムノアルキルメタアクリレートとアクリルアミドの共重合物類,ポリアクリルアミドのマンニツヒ変性物類,ポリジメチルジアリルアンモニウム塩類,ポリビニルイミダゾリン類,ポリアクリルアミド類,アミン系重縮合物類等があげられ、すでに多くの商品が市販されている。その主なものとしては,例えば,サンポリ-K-601,K-602 (主成分: ポリアミン、三共化成)、クリフロツクLC-599 (主成分: ポリアミン及びポリアミド、栗田工業)、ハイモロツクM-166, M-566, M-966 (主成分: アクリルアミド変性物、協立有機工業),ユニフロツカーUF-301, UF-304, UF-305 (主成分: ポリアクリルアミド、ユニチカ)、UF-330, UF-340 (主成分: アミノメタアクリル酸エステル、ユニチカ)、UF-505 (主成分: ジシアンアミン、ユニチカ)、リユーフロツクC-110 (主成分: ポリアミン、大日本インキ化学)、ピユリフロツクC-31 (主成分: ポリアミン、ダウケミカル) が挙げられる。また、ダイヤニトリックス社 (日本) 製 K-400シリーズ、KM-200シリーズ、KM-1200シリーズ、KAM-200シリーズ、KD-200シリーズ、KP-000シリーズ、KP-100シリーズ、KP-200シリーズ、KP-300シリーズ、KP-500シリーズ、KP-1200シリーズ、KA-000シリーズ、KA-200シリーズ、KA-300シリーズ、KA-400シリーズ、KA-600シリーズ、KA-700シリーズ、KA-800シリーズ等も挙げられる。これら凝集剤は単独でまたは2種以上を併用して使用できる。
本発明において使用する凝集剤は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、残渣分離効率を向上させることができるものであれば上述のいずれの凝集剤でもよいが、具体的には、例えば、ダイヤニトリックス社 (日本) 製K-403B、K-408、K-415等が挙げられる。凝集剤の添加量としては、凝集剤の種類や菌体または破砕液の液状によっても異なるが、例えば、破砕した微生物乾燥重量%濃度の1/200〜1/5の濃度、好ましくは1/100〜1/10濃度である。添加方法としては、例えば、凝集剤を予め水に溶解した後、菌体または細胞破砕液に添加して少なくとも5分〜24時間、好ましくは30分〜10時間程度、静置または撹拌すればよい。そのときの温度としては、例えば、0℃〜60℃、特に0℃〜50℃、さらに0℃〜40℃が好ましい。また、pHの調整が必要な場合には、適宜、無機塩終濃度が5 mM〜200 mMとなるよう添加して緩衝液化することもできるし、必要に応じて、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを安定化する物質を添加してもよい。
濾過により残渣分離を行う場合、目的とする残渣分離を達成できれば、精密濾過 (MF) 膜、限外濾過 (UF) 膜いずれの膜を使用してもよいが、通常、精密濾過 (MF) 膜を用いることが好ましい。精密濾過膜は、前述の通り、残渣分離操作を行うことができるものであれば、いずれをも利用することができる。膜の孔径としては、菌体または細胞残渣を捕捉し、かつ、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が濾液側に回収できるものであればよく、例えば、0.1 mm〜0.5 mm程度のものを用いることができる。さらに、濾過助剤、必要に応じて凝集剤を用いれば、孔径0.5 mm以上の膜あるいはろ紙を利用することもできる。濾過助剤としては、珪藻土やセルロースパウダー、活性炭等が挙げられる。凝集剤は上述の通りである。
残渣を除去した後に得られた上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを含む粗酵素溶液とすることができる。その後、必要に応じて、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィ (例えばゲル濾過クロマトグラフィ (例えばSephadexカラム)、イオン交換クロマトグラフィ (例えばDEAE-Toyopearl)、アフィニティクロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ (例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィ (例えばMonoQカラム)等)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製することができる。
本発明の形質転換体が遺伝子組換え体であり、かつ、製造工程での形質転換体の環境への漏出、製品への混入、または使用後の取り扱い等で、二次的に微生物汚染を引き起こす可能性を危惧する場合には、必要に応じて不活化処理を行うことができる。不活化方法としては、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、形質転換体を不活化できる方法であればいかなる方法でも良く、例えば、熱処理、菌体破砕処理、薬剤処理等の方法を単独または組み合わせて利用できる。例えば、菌体破砕処理の前または後に、薬剤処理を行うことで、不活化を行うことができる。使用する薬剤としては、形質転換体の宿主種類により異なるが、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化メチルステアロイル、臭化セチルトリメチルアンモニウム等の陽イオン系界面活性剤、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等の両性イオン系界面活性剤等が挙げられる。また、エタノール等のアルコール類、2-メルカプトエタノール等のチオール類、エチレンジアミン等のアミン類、システイン、オルニチン、シトルリン等のアミノ酸類等も挙げられる。薬剤の濃度は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、不活化できる濃度であればよいが、例えば、微生物乾燥重量%濃度の1/100〜1/2の濃度、好ましくは1/10〜1/5濃度程度が好ましい。処理温度は、0℃〜50℃、好ましくは0℃〜40℃で行われる。また、pHは、5〜9程度、好ましくは6〜8程度で行われる。
一方、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼが菌体外または細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、上述したような遠心分離や濾過等により菌体または細胞を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により前記培養物中から改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィ (ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ等) を単独または適宜組み合わせて用いることにより、精製することもできる。
形質転換体が植物細胞または植物組織である場合は、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素を用いた細胞溶解処理、超音波破砕処理、磨砕処理等により細胞を破壊する。その後、必要であれば、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィ (例えばゲル濾過クロマトグラフィ (例えばSephadexカラム)、イオン交換クロマトグラフィ (例えばDEAE-Toyopearl)、アフィニティクロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ (例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィ (例えばMonoQカラム) 等)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製することができる。単離したハロヒドリンエポキシダーゼは、上述の細胞または菌体と同様に、適当な担体に保持し固定化酵素として使用することもできる。
以上のようにして得られる培養物及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、本発明の範囲に含まれる。得られる培養物及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの生産収率は、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を測定し、培養装置あたり、培養液あたり、菌体 (形質転換体) 湿重量または乾燥重量あたり、酵素液中タンパク質重量あたり等の活性算出することにより求めることができる。
また、本発明においては、上記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子または改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターから改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することも可能である。すなわち、本発明においては、生細胞を全く使用することなく無細胞タンパク質合成系を採用して、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを産生することが可能である。無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管等の人工容器内でタンパク質を合成する系である。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。この場合、上記の宿主に対応する生物は、下記の細胞抽出液の由来する生物に相当する。ここで、上記細胞抽出液は、真核細胞由来または原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、大腸菌等の抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されないものであってもよい。細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール (PEG) 沈殿等によって得ることができる。さらに本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM (東洋紡)、TNTTM System (プロメガ)、合成装置のPG-MateTM (東洋紡)、RTS (ロシュ・ダイアグノスティクス) 等が挙げられる。
上記のように無細胞タンパク質合成によって得られる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、例えば前述のように適宜クロマトグラフィを選択して、精製することができる。
7. エピハロヒドリン及び4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法
上述のようにして製造された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、酵素触媒として物質生産に利用することができる。すなわち、以下の (1)〜(3) に示す反応に供することができる。
(1) 1,3-ジハロ-2-プロパノールのエピハロヒドリンへの変換
本変換反応は、1,3-ジハロ-2-プロパノールを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行うことができる。「接触」とは、1,3-ジハロ-2-プロパノールと上記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または培養物とを同一の反応系または培養系に存在させること等が挙げられる。具体的には、細胞培養器に1,3-ジハロ-2-プロパノールを添加すること、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上記培養物と1,3-ジハロ-2-プロパノールとを混合すること、あるいは細胞を1,3-ジハロ-2-プロパノールの存在下で培養すること等が挙げられる。
基質である1,3-ジハロ-2-プロパノールは、前述した一般式 (1) で示される化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、1,3-ジヨード-2-プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノールである。
変換反応液中の基質濃度は、0.01%〜15 (W/V) %が好ましい。この範囲内であると酵素安定性の観点から好ましく、0.01%〜10%が特に好ましい。基質は反応液に一括添加あるいは分割添加することができる。分割添加により基質濃度を一定にすることが蓄積性の観点から望ましい。
反応液の溶媒としては、酵素活性の最適pH4〜10の付近である水または緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o-フタル酸、コハク酸または酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、Tris緩衝液あるいはグッド緩衝液等が好ましい。
反応温度は、5℃〜50℃、反応pHは4〜10の範囲で行うことが好ましい。
反応温度は、より好ましくは10℃〜40℃である。反応pHは、より好ましくはpH6〜9である。反応時間は基質等の濃度、菌体濃度あるいはその他の反応条件等によって適時選択するが、1時間〜120時間で終了するように条件を設定するのが好ましい。尚、本反応においては、反応の進行に伴い生成する塩素イオンを反応系内から取り除くことにより、光学純度をより一層向上させることができる。この塩素イオンの除去は、硝酸銀等の添加によって行うことが好ましい。
反応液中に生成、蓄積したエピハロヒドリンは公知の方法を用いて採取及び精製することができる。例えば、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することによりエピハロヒドリンのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
(2) 1,3-ジハロ-2-プロパノールの4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルへの変換
本変換反応は、1,3-ジハロ-2-プロパノールを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行うことができる。
基質である1,3-ジハロ-2-プロパノールは、前述した一般式 (1) で示される化合物であり、好ましくは1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール等である。
また、シアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸またはアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン (CN-) またはシアン化水素を生じる化合物またはその溶液を用いることができる。反応液中の基質濃度は、酵素安定性の観点から0.01%〜15 (W/V) %が好ましく、0.01%〜10%が特に好ましい。
また、シアン化合物の使用量は、酵素安定性の観点から基質の1倍量〜3倍量 (モル) が好ましい。
反応条件は、上記 (1) と同様に行うことができる。
反応液中に生成、蓄積した4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルは、公知の方法を用いて採取及び精製することができる。例えば、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
(3) エピハロヒドリンの4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルへの変換
本変換反応は、エピハロヒドリンを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行う。
基質であるエピハロヒドリンは、前述した一般式 (2) で示される化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
また、シアン化合物はシアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸またはアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン (CN-) またはシアン化水素を生じる化合物またはその溶液を用いることができる。
反応条件、採取及び精製方法は、上記 (2) と同様に行うことができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
HheB及びHheAの結晶構造解析
(1) HheAの結晶構造解析
HheA発現プラスミド (pST001) を大腸菌DH5aに形質転換後、IPTGによる誘導を行い、37℃で一晩培養した。菌体を超音波により破砕後、陰イオン交換 (SuperQ)、疎水 (Butyl)、陰イオン交換 (ResourceQ) の順にカラムクロマトグラフィを行い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで精製した。得られた精製酵素を20 mg/mLまで濃縮し、JBScreen Classic kit (JENA Bioscience) を用いて結晶化条件を探索した結果、最終的に温度20℃、1週間程度で再現性良く結晶が得られる条件を決定した。
得られた結晶の反射データの測定はつくばの放射光施設 (PF, Beam Line 5A) で行い、最大分解能1.8Åの反射データを得た。HheAの初期位相の決定はArthrobacter sp. AD2 由来HheA (PDB ID; 1ZMO) を用いた分子置換法で行い、最終的なR-factor: 20.7% (Rfree; 24.5%) の構造を得ることができた。得られた構造は4量体構造をしており、活性部位はそれぞれ独立に存在していた。なお、HheAが水溶液中でも4量体を形成していることはGelpermeation chromatography-mauti-angle light scattering (GPC-MALS) による分子量測定で確認されている。
(2) HheBの結晶構造解析
HheBを大量発現する組換え体大腸菌の菌体破砕液からHheBの精製を行った。精製は3種の陰イオン交換カラム (DEAE, SuperQ, ResourceQ) を用いて行い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで行った。得られた精製HheBを14 mg/mLまで濃縮しJBScreen Classic kit (JENA Bioscience) を用いて結晶化条件の探索を行なった。最終的に温度20℃、3日程度で結晶が得られる条件を決定した。本条件で得られた結晶は非常に脆く、また安定性が悪いため、結晶が析出して速やかに構造解析を実施する事が重要である。得られた結晶の反射データの測定はつくばの放射光施設 (AR、Beam Line NW12) で行い、最大分解能1.7ÅでNative HheBの反射データを得た。HheBに関しては分子置換法による構造決定が困難であったため、セレノメチオニン置換体HheB (SeMet HheB) を作製した。HheB発現プラスミド (pST002) をメチオニン要求性大腸菌 (B834) に導入後、セレノメチオニンを含む培地中で培養した。セレノメチオニン置換体HheBの精製、結晶化はNative HheBと同様の方法で行った (図1)。
初期位相の決定はSAD (Single Anomalous Dispersion) 法で行った。反射データの収集はつくばの放射光施設 (PF、Beam Line 6A) で行い、最大分解能2.0Åの反射データを得た。初期位相決定後、Native HheBの反射データを用いて位相拡張を行い、分解能1.7Å、最終的なR-factor; 0.186 (R-free; 0.210) で構造を決定した。
HheBの結晶学的データを図2に示す。
得られた構造は非対称単位中に6分子 (4量体+2量体) 存在していたが、2量体部分は結晶学的対称操作により4量体の構造をしており、HheBは結晶中で4量体構造を形成していた。HheBに関してもGPC-MALSを用いた分子量測定を行い、水溶液中で4量体を形成していることを確認した。
4量体の構造についてみてみると、HheBの活性部位はそれぞれ独立に存在しておりHheAと同様の構成、構造をしている。各分子について重ね合わせるとほぼ一致しており、4量体の各分子は等価な環境にあるといえる (図3)。
モノマー構造についてみてみると、SDR familyに共通して見られるRossman foldを形成しており、活性部位はRossman foldの上部に位置している。活性部位では3つの触媒残基 (Ser118, Tyr131, Arg135) が近傍に位置しており、triadを形成している。また、活性部位のハロゲン結合部位にはClイオンが結合していた (図4)。
(3) HheA, HheBと既知のアイソザイム構造との比較
得られたHheAの構造と既知構造であるAgrobacterium radiobacter AD1由来HheC (PDB ID; 1ZMT) の比較を行った。全体構造は大変類似しており、C末端のループ領域が異なっている程度であった。触媒残基の位置関係は同じであった。
HheA、HheB及びHheCの3種のアイソザイムの活性部位の構造については、活性部位の形状、大きさはどれもほぼ同じであり、触媒残基の位置関係は同じであった (図5)。しかしながら、活性部位を形成するアミノ酸にHheBのみが異なる箇所が数箇所みられた。
HheB/DiCN複合体の結晶構造解析
本実施例では、Hhe B型 (HheB) の立体選択性、触媒機構を構造生物学的に解明することを目標とし、HheBと基質アナログである1,3-ジニトリル-2-プロパノール (DiCN) との複合体の結晶構造解析を行った。
1. HheB/DiCN複合体の結晶構造解析
HheBを大量発現する組換え体大腸菌の菌体破砕液からHheBの精製を行った。精製は3種の陰イオン交換カラム (DEAE-Toyopearl, SuperQ-Toyopearl, ResourceQ) を用い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで行った。得られた精製HheBを14 mg/mLまで濃縮し、基質アナログであるDiCNを終濃度5 mMになるように精製HheB溶液に添加し結晶化に用いた。結晶化は野生型HheBと同じ条件で行った。
得られた結晶を用い、つくばの放射光施設 (PF、Beam Line BL5A) X線反射データの収集を行い、最大分解能2.2ÅでNative HheB/DiCN複合体の反射データを得ることに成功した。複合体の初期位相の決定はNative HheBを用いた分子置換法で行い、最終的にR-factor: 19.9% (Rfree; 24.7%) の構造を得ることに成功した。DiCNはHheBの4量体すべての活性部位に結合していることが確認され、いずれも同じ結合様式であった (図6)。
活性部位に結合したDiCNの電子密度はいずれの4量体中の分子においても明瞭に観測されていた。DiCNの水酸基は触媒残基の一つであるSer118と水素結合を形成しており、3つの触媒残基に対する立体配置を明らかにすることができた。
野生型HheBとHheB/DiCN複合体の構造を重ね合わせたところ、活性部位においてGln125ならびにHis162の側鎖が構造変化していた。特にGln125はDiCNの結合に伴い、立体衝突を避けるように構造変化を起こし、His162と新たに水素結合を形成していた。このことからGln125は基質認識、立体選択に関わるアミノ酸残基である可能性が示唆された (図7)。
2. HheBの立体選択性
複合体結晶構造から立体選択性について考察を行った。
活性部位の形状についてHheCと比較したところ、HheBではHheCに比べて、活性ポッケトが狭くなっていた。特にHheBの65-77で構成されるループ領域は活性部位に大きく張り出してきており、活性部位を狭くしている。このことからHheBは (S)-2-クロロ-1,3-プロパンジオール結合領域の活性ポケットを狭くすることでS体選択性を示さず、R体選択的に活性部位に取り込むことを可能にしていると考えらえる。中でも、HheBに特徴的なPhe71のアミノ酸を置換することで選びR体選択性を上げることが可能になると予測された。
また、119-129で形成されるループ領域も同様に活性部位に張り出している。この領域には先に述べたGln125が存在しており、DiCNの結合に伴い立体衝突を避けるように構造変化を起こしている。そのため、このGln125のアミノ酸を置換することで、R体の基質を取り込みやすくなりR体選択性が向上するものと考えられた (図8)。
以上の結果から、Phe71 及びGln125が立体選択性に関わるする残基であると考えられた。
Q125変異酵素の作製
実施例1の構造解析結果に基づき、Q125変異酵素の精製を試みた。
ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する組換え菌はJM109/pSTT002を使用した。pSTT002 (図9) の作製は以下の通り行った。
まず、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) をPCRにより増幅した。PCR反応液組成 (全量50 ml) は以下の表1の通りとした。
プライマーとして用いたオリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである。

DH-09: GATCATGAAAAACGGAAGACTGGCAGGCAAGCG (配列番号5)
DH-09は33ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素BspHI認識部位 (TCATGA) 及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) の翻訳開始コドン以降を有し、2番目のアミノ酸に対応するコドンはAAAでリジンをコードする。
DH-07: CGCCTGCAGGCTACAACGACGACGAGCGCCTG (配列番号6)
DH-07は32ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素Sse8387I兼PstI認識部位 (CCTGCAGG) 及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) 終止コドン下流領域を有する。
また、鋳型として用いたpST111は、特公平5-317066公報に記載されており、pST111を含む組換えベクターによる大腸菌形質転換体JM109/pST111は、受託番号「FERM BP-10922」として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3 (1991) 年3月1日付けで寄託されている。
調製した50 mlのPCR反応液をそれぞれ以下 (表2) の熱サイクル処理に供した。
熱サイクル処理を行ったPCR反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit (GEヘルスケアバイオサイエンス) により精製した後、PCR増幅産物について制限酵素BspHIとPstIで二重消化を行った。消化産物をアガロースゲル電気泳動で分離後、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むバンド (約0.8kb) をQIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN) で精製した。一方、発現ベクターpTrc99Aを制限酵素NcoIとPstIで消化後、フェノール抽出・クロロホルム抽出・エタノール沈殿 (Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))) により精製した。これを、上述のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むPCR増幅産物と混合した後、該混合液にSolution I (DNA Ligation Kit ver.2 (タカラバイオ)) を添加してライゲーション混合物を作った。この混合物を12時間、16℃でインキュベートすることでPCR増幅産物と発現ベクターpTrc99Aを結合した。
尚、pTrc99AはCentraalbureau voor Schimmelcultures (http://www.cbs.knaw.nl) から購入できる。
コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来の野生型ハロヒドリンエポキシダーゼであるHheB (2nd) において、開始アミノ酸残基より1残基C末端側のアミノ酸残基 (2番目のアミノ酸残基) がそれぞれリジン及びアスパラギンに置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する発現プラスミド (発現ベクターpTrc99A) 及び該発現プラスミドを含む改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換体を作製した。
大腸菌 JM109株をLB培地 (1% バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1 mlに接種し、37℃、5時間好気的に前培養した。次に、前培養液 0.4 mlをSOB培地 40 ml (2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl 、2.5 mM KCl 、1 mM MgSO4、1 mM MgCl2) に加え、18℃で20時間培養した。得られた培養物を遠心分離 (3,700×g、10分間、4℃) により集菌した後、冷TF溶液 (20 mM PIPES-KOH (pH6.0), 200 mM KCl, 10 mM CaCl2, 40 mM MnCl2) を13 ml加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離 (3,700×g, 10分間、4℃) して上清を除いた。得られた大腸菌菌体を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え、0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて-80℃にて保存した。
上記の通り調製した大腸菌JM109株コンピテントセル200 mlを、上記ライゲーション産物10 mlに加え、0℃で30分放置した。
続いて、前記コンピテントセルに42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC 培地 (20 mM グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl, 2.5 mM KCl, 1 mM MgSO4, 1 mM MgCl2) を1 ml添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液を各200 mlずつ、LB Amp寒天培地 (アンピシリン100 mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地) に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を、1.5 mlのLB Amp培地 (アンピシリン100 mg/Lを含有するLB培地) にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep (GEヘルスケアバイオサイエンス) を用いて組換えプラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000 (ベックマン・コールター) を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされているPCR増幅産物の塩基配列を解析し、PCR反応におけるエラー変異が生じていないことを確認した。PCR増幅由来DNA断片がクローニングされたプラスミドをpSTT002と命名し、当該プラスミドを含む大腸菌JM109株形質転換体をJM109/pSTT002と命名した。
pSTT002は、ベクターpTrc99AのNcoI-PstI部位に配列番号1記載のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を挿入したものである。
(形質転換体の作製)
表3に示すQ125変異酵素を作製した。
プラスミドを作製するため、下記の条件でPCRを行った。
(反応液組成)
pSTT002 1 ml
10 mM Forward-プライマー 1 ml
10 mM Reverse-プライマー 1 ml
DW 7 ml
PrimeSTAR Max DNA Polymerase 10 ml
(反応サイクル)
98℃で10秒、55℃で15秒及び72℃で30秒を1サイクルとしてこれを30サイクル。

使用したプライマーの配列を、表4に示す。
各反応液にDpnIを1 ml添加し、37℃で1時間インキュベートし、DpnI処理液を用いて大腸菌JM109に形質転換を行った。得られた形質転換体はDNA配列を確認し、変異酵素を有する組換え菌とした。
Q125変異酵素の評価
(1) 粗酵素液の調製
取得された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼによって合成した(R)-CHBNの光学純度を調べるため、まず、各改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体より粗酵素液を調製した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する7株の形質転換体株 (JM109/pSTT115, JM109/pSTT116, JM109/pSTT118, JM109/pSTT119, JM109/pSTT120, JM109/pSTT125, JM109/pSTT126) 及び対照とするJM109/pSTT002を使用した。
上記組換え菌のコロニーを1 mlのLB Amp培地に植菌し、37℃、210rpmで約8時間培養した後、得られた各培養液100 mlを、IPTGを終濃度として1 mM含むLB Amp培地 (500 ml容三角フラスコ中の100 ml) に植菌し、37℃、210 rpmで16時間培養した。得られた各培養液100 mlから遠心分離 (3,700×g, 10分間、4℃) により各菌体を回収し、20 mM Tris-硫酸緩衝液 (pH8.0) で洗浄した後、菌濃度が12.5 gDC/Lとなるように同緩衝液に懸濁した。得られた菌体懸濁液の3 mlを、超音波破砕機VP-300 (タイテック、日本) を用いて、氷冷しながら破砕した。破砕した菌体懸濁液を遠心分離 (23,000×g, 5分間、4℃) に供し、上清を粗酵素液として採取した。
続いて、上記粗酵素液を用い、以下の方法によりハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。100 mlの活性測定用反応液 (50 mM DCP, 50 mM Tris-硫酸 (pH8.0)) を調製して、温度を20℃に調整した。該反応液に、希釈した各形質転換体由来の粗酵素液添加し、反応を開始した。ハロヒドリンエポキシダーゼ活性による塩化物イオンの遊離に伴うpHの低下を、pH自動コントローラーを用い、0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを8に保つよう連続的に調整した。10分間の反応の間に、pHを8に保つために投入された0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液の量から、塩化物イオン生成量を算出し、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) (U) を算出した。1 Uは上記条件下でDCPから1分間あたり1 mmol塩化物イオンの脱離する酵素量に相当するものと定義し、活性測定に用いた各粗酵素液の活性、及び該活性を活性測定に用いた各粗酵素液の液量で除することにより各粗酵素溶液の液活性を算出した。
(2) 分析方法
後述する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼによる(R)-CHBNの合成反応において実施する反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析及び生成CHBNの光学純度分析は、以下のように行った。
<反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析>
反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析は、逆相系HPLCにより行った。逆相系HPLC分析条件を下記に示す。
カラム: Inertsil ODS-3V (GLサイエンス社)
移動相: 0.1% (v/v) リン酸、10%アセトニトリル
流速: 1 ml/min
温度: カラム40℃、示差屈折計セル35℃
検出: 示差屈折率
反応終了液100 mlを、上表記載の移動層400 mlにより希釈混合した後、上表記載の分析条件により分析を行った。予め、濃度既知のDCP, ECH及びCHBN溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度を求めた。

<生成CHBNの光学純度分析>
生成CHBNの光学純度分析は、CHBNをエステル化後、順相系HPLCにより行った。順相系HPLC分析条件を下記に示す。
カラム: Partsil-5 (GLサイエンス社)
移動相: n-ヘキサン: 2-プロパノール=99:1
流速: 1 ml/min
温度: カラム40℃
検出: UV (波長254 nm)
反応終了液約400 mlに等量のジイソプロピルエーテル (以下、IPEと称することがある) を加えて抽出を行った。IPE層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した。IPE層を100 ml分取し、10 mlの (R)-a-メトキシ-a-(トリフルオロメチル) フェニルアセチルクロライド (以下、(R)-MTPAと称する) 及び40 mlのピリジンを添加した。室温で一晩反応させた後、IPEを添加して約400 mlとした。1規定の塩酸を400 ml加えて抽出を2回行った後、分取したIPE層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を400 ml加えて抽出を2回行った。分取したIPE層に少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した後、アスピレーターによりIPE層を揮発させた。残存物を上表記載の移動層により懸濁した後、上表記載の分析条件により分析を行った。(R)-CHBN-(R)-MTPAエステル及び(S)-CHBN-(R)-MTPAエステルのエリア面積比から各濃度を算出し、本明細書において説明した要領 (前述) でCHBNの光学純度を算出した。
(3) 改良型ハロヒドリエポキシダーゼによる(R)-CHBNの合成
本実施例 (1) で調製した各改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換体由来粗酵素液を用い、シアン化カリウム存在下、DCPからのCHBN合成反応を行った。反応液基本組成は表5のように調製し、反応スケールは0.5 mlで行った。
反応は20℃にて3時間行った。反応終了後、本実施例 (2) 記載の分析条件により、反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度及び生成CHBNの光学純度を分析した。CHBNの光学純度を表6に示す。
以上の結果より、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体株JM109/pSTT002由来粗酵素液を用いて合成された(R)-CHBNの光学純度が91.6%e.e.であったのに対し、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体株 (JM109/pSTT115, JM109/pSTT116, JM109/pSTT118, JM109/pSTT119, JM109/pSTT120, JM109/pSTT125, JM109/pSTT126) 由来粗酵素液を用いて合成された(R)-CHBNの光学純度は93.1%e.e.〜96.1%e.e.であり、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNは、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNよりも光学純度が高いことが確認された。従って、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、DCP及び/または中間体ECHに対する立体選択性が向上していると言える。
F71変異酵素の評価
実施例3と同様の方法を用い、F71変異酵素を発現するプラスミド (表7) を構築した。
プラスミドの構築には下記のプライマー (表8) を使用する事を除いて実施例3と同様の方法でおこなった。
変異酵素の評価は実施例4と同様に行った。結果を表9に示す。
以上の結果より、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体株 (JM109/pSTT100) 由来粗酵素液を用いて合成された(R)-CHBNの光学純度は93.8〜96.1%e.e.であり、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNは、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNよりも光学純度が高いことが確認された。従って、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、DCP及び/または中間体ECHに対する立体選択性が向上していると言える。
多重変異酵素の評価
(1) 多重変異酵素の作製
実施例3と同様の方法を用い、下記の変異酵素を発現するプラスミド (表10) を構築した。
プラスミドの構築には鋳型プラスミドにpSTT030を使用し、実施例3 (表4) と実施例5 (表8) のプライマーを使用する事を除いて実施例3と同様の方法でおこなった。
(2) 多重変異酵素の評価
変異酵素の評価は実施例2と同様に行った。結果を表11に示す。
以上の結果より、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する8種の形質転換体株 (JM109/pSTT201, JM109/pSTT202, JM109/pSTT205, JM109/pSTT206, JM109/pSTT207, JM109/pSTT208, JM109/pSTT209, JM109/pSTT210) 由来粗酵素液を用いて合成された(R)-CHBNの光学純度は93.9〜98.5%e.e.であり、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNは、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより合成される(R)-CHBNよりも光学純度が高いことが確認された。従って、これらの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、DCP及び/または中間体ECHに対する立体選択性が向上していると言える。
塩化物イオン存在下での改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性確認
塩化物イオンは、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアン化合物からハロヒドリンエポキシダーゼによって4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを合成する際の生成物であり、ハロヒドリンエポキシダーゼによる該合成反応を阻害しうる。
高濃度の塩化物イオン存在下における、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を調べ、比較した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、並びに対照とするJM109/pSTT002由来粗酵素液、及びJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、実施例4に記載の方法、及び実施例4に記載の方法において塩化ナトリウムを終濃度270 mMとなるように添加した反応液を用いた方法により、塩化ナトリウム非存在下 (0 mM) 及び存在下 (270 mM) におけるハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。
各形質転換体由来粗酵素液の塩化ナトリウム非存在下 (0 mM) における該活性を100 %として相対活性値を算出した。結果を表12に示す。

JM109/pSTT002由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、塩化物イオン270 mMの存在下では検出されなかった。
またJM109/pSTT030由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は塩化物イオン270 mMの存在下で活性14 %に低下した。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、塩化物イオン270 mMの存在下で活性54 %を示した。
従って、該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、塩化物イオンによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上していることが確認された。
(R)-CHBN存在下での改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性確認
(R)-CHBNは、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアン化合物からハロヒドリンエポキシダーゼによって4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを合成する際の生成物であり、ハロヒドリンエポキシダーゼによる該合成反応を阻害しうる。
高濃度の(R)-CHBN存在下における、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を調べ、比較した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、並びに対照とするJM109/pSTT002由来粗酵素液、及びJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、実施例4に記載の方法、及び実施例4に記載の方法において(R)-CHBNを終濃度180 mMとなるように添加した反応液を用いた方法により、(R)-CHBN非存在下 (0 mM) 及び存在下 (180 mM) におけるハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。
各形質転換体由来粗酵素液の(R)-CHBN非存在下 (0 mM) における該活性を100 %として相対活性値を算出した。結果を表13に示す。

JM109/pSTT002由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、(R)-CHBN 180 mMの存在下では活性9 %に低下した。
またJM109/pSTT030由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は(R)-CHBN 180 mMの存在下で活性12 %に低下した。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、(R)-CHBN 180 mMの存在下で活性18 %を示した。
従って、該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、(R)-CHBNによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上していることが確認された。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼによる (R)-CHBN合成反応における不純物
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、及び対照とするJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、シアン化カリウム存在下、DCPからのCHBN合成反応を行った。
反応液は表14のように調製し、反応スケールは0.5 mlで行った。
ブランクとして、表14に記載の反応液において粗酵素液を添加せずに調製した反応液を使用した。
反応は20℃にて6時間行った。
反応3時間後、及び反応終了後に反応液をサンプリングし、実施例4に記載の分析条件により、反応液中のDCP、ECH及びCHBN濃度を分析した。
結果を表15に示す。
JM109/pSTT030由来粗酵素液を用いた反応では、3時間後のDCP転化率94.6%、CHBN蓄積530mM、6時間後のDCP転化率94.3%、CHBN蓄積499 mMであった。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液を用いた反応では3時間後のDCP転化率100%、CHBN蓄積589mM、6時間後のDCP転化率100%、CHBN蓄積598 mMであった。
従って、形質転換体株JM109/pSTT206由来改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、反応終了後の不純物となるDCP及びECHの系内濃度を低減できることが示された。
本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能、不純物低減能等に優れており、本発明の酵素を利用することにより、エピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを効率よく製造することができる。
N-1074株: 受託番号「FERM BP-2643」として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター (茨城県つくば市東1-1-1 中央第6に昭和63 (1988) 年11月10日付で寄託されている。
pSJ023:形質転換体ATCC12674/pSJ023 (受託番号「FERM BP-6232」) として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (茨城県つくば市東1-1-1 中央第6) に平成9 (1997) 年3月4日付けで寄託されている。
pST111: 形質転換体JM109/pST111 (受託番号「FERM BP-10922」) として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3(1991)年3月1日付けで寄託されている。
Rhodococcus rhodochrous J1株 (受託番号「FERM BP-1478」)
配列番号5〜26:合成DNA

Claims (13)

  1. 以下の (a) または (b) のタンパク質。
    (a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
  2. 以下の (a) または (b) のタンパク質。
    (a) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
  3. 第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、請求項1に記載のタンパク質。
  4. 第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、請求項1に記載のタンパク質。
  5. 第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、請求項2に記載のタンパク質。
  6. 第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、請求項2に記載のタンパク質。
  7. 前記タンパク質が、コリネバクテリウム (Corynebacterium) 属細菌またはマイコバクテリウム (Mycobacterium) 属細菌由来のものである、請求項1または2に記載のタンパク質。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  9. 請求項8に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
  10. 請求項9に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体または形質導入体。
  11. 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質を、1,3-ジハロ-2-プロパノールと接触させることによりエピハロヒドリンを生成させることを特徴とする、エピハロヒドリンの製造方法。
  12. 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質を、シアン化合物存在下、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンと接触させることにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させることを特徴とする、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
  13. 以下の (a) または (b) のタンパク質の結晶。
    (a) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
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JPN6014028970; VAN HYLCKAMA, J.E.T. et al.: '"Halohydrin dehalogenases are structurally and mechanistically related to short-chain dehydrogenases' J. BACTERIOL. Vol.183, No.17, 200109, P.5058-5066 *
JPN6014028972; DE JONG, R.M. et al.: '"Structure and mechanism of a bacterial haloalcohol dehalogenase: a new variation of the short-chain' EMBO J. Vol.22, No.19, 20031001, P.4933-4944 *

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