JP2011004738A - 改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】以下の(a)または(b)のタンパク質。(a)特定な配列からなるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(b)特定な配列からなるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【選択図】なし
Description
特許文献12には、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheBの変異体18種類が記載されている。これらのうちのいくつかの変異体については、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンからの生成物であるハロゲン化物イオンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼより向上したことが示されている。
4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造を目的とする場合、基質となる1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンが反応終了時に残存すると不純物となる。よって反応終了時、系内におけるこれら基質の残存濃度が低く、不純物低減されるようなハロヒドリンエポキシダーゼが望まれる。
(1) 以下の (a )または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(2) 以下の (a) または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(3) 第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、(1) に記載のタンパク質。
(4) 第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、(1) に記載のタンパク質。
(5) 第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、(2) に記載のタンパク質。
(6) 第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、(2) に記載のタンパク質。
(7) 前記タンパク質が、コリネバクテリウム (Corynebacterium) 属細菌またはマイコバクテリウム (Mycobacterium) 属細菌由来のものである、(1) または (2) に記載のタンパク質。
(8) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(9) 前記 (8) に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(10) 前記 (9) に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体または形質導入体。
(11) 前記 (10) に記載の形質転換体または形質導入体を培養して得られる培養物。
(12) 前記 (11) に記載の培養物から改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することを特徴とする、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの製造方法。
(13) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質及び/または前記 (11) に記載の培養物を、1,3-ジハロ-2-プロパノールと接触させることによりエピハロヒドリンを生成させることを特徴とする、エピハロヒドリンの製造方法。
(14) 前記 (1)〜(7) のいずれか1項に記載のタンパク質及び/または前記 (11) に記載の培養物を、シアン化合物存在下、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンと接触させることにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させることを特徴とする、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
(15) 以下の (a) または (b) のタンパク質の結晶。
(a) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(1) 結晶の作製
本発明において結晶構造解析に使用するハロヒドリンエポキシダーゼ (以下「Hhe」ともいう) は野生型のものであり、遺伝子工学的手法を用いて、ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子を細菌や動物細胞等により発現させて大量生産することにより得ることができる。例えば、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が組み込まれた組換えDNAを、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が発現し得るように大腸菌、酵母、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞等の宿主中に導入して形質転換体を得、その形質転換体を培養することによりハロヒドリンエポキシダーゼを得ることができる。
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えDNAが細胞中で自律複製可能であることが必要である。また、転写プロモーター、リボゾームRNA結合領域としてのSD配列等が連結されていてもよい。転写ターミネーター等を適宜挿入することもできる。宿主への組換えベクターの導入は、市販のキットを使用する方法等により容易に導入することができる。
ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体自体、または細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。培養方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
培養後、ハロヒドリンエポキシダーゼが菌体内または細胞内に生産される場合には、ホモジナイザー処理等を施して菌体または細胞を破砕することにより目的のハロヒドリンエポキシダーゼを採取する。その後、前記培養物からゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ等の各種クロマトグラフ等を適宜組み合わせて用いてハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製し調製試料とする。
本発明の結晶調製に用いたハロヒドリンエポキシダーゼ (野生型) のアミノ酸配列を配列番号2に示す。但し、これらのアミノ酸配列に限定されるものではなく、上記アミノ酸配列において1個または数個 (例えば2個〜10個) のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異が生じ、かつ、Hhe活性を有するものも、本発明に使用することができる。Hhe活性の定義は後述する。なお、上記アミノ酸の変異は、当業者に周知の部位特異的突然変異誘発法により変異させることができ、そのためのキットを使用することができる。
次いで、ハロヒドリンエポキシダーゼの結晶を調製する。タンパク質を結晶化する方法としては、蒸気拡散法、バッチ法、透析法等の一般的なタンパク質結晶化手法を用いることができる。また、タンパク質の結晶化においては、タンパク質濃度、塩濃度、pH、沈殿剤の種類、温度等の物理的及び化学的因子の決定が重要であり、これらの因子の決定については当業者に一般的に知られている。一旦結晶が析出した後は、さらにパラメーターを細かく変えて最良の結晶が出現する条件を精密化する。本発明においては、結晶化及びその最適条件を決定するために、市販のキット (例えばJBScreen Classic Kit (JENA Bioscience)) を用いることも可能である。
タンパク質の三次元構造を明らかにするために最も一般的に行われている方法は、X線結晶構造解析の手法である。即ち、タンパク質を結晶化し、その結晶に単色化されたX線を当て、得られたX線の回折像をもとに、タンパク質の三次元構造を明らかにしていくものである。構造解析の手法には類似タンパク質の構造を利用した分子置換法と、多波長異常分散法 (MAD法) があるが、本発明のHheBハロヒドリンエポキシダーゼは他のタンパク質との相同性も低く、新規な構造であるため、結晶の構造解析はいわゆる多波長異常分散法 (MAD法) に従って行うことができる。本発明では、放射光を使って、入射X線波長を変えて結晶の回折データを測定する。MAD法に使うことのできる放射光は、例えばBeam Line NW12 (AR) により発生させることができる。
タンパク質結晶はX線照射により損傷を受け、回折能が劣化する場合が多いため、低温測定により高分解能のX線回折を行うことが好ましい。低温測定とは、結晶を急激に-173℃程度に冷却凍結して、その状態で回折データを収集する方法である。一般に、タンパク質結晶の凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、グリセロール等の保護剤を含む溶液で処理される。凍結結晶は、例えば保護剤を添加した保存液に浸漬した結晶を、液体窒素に直接浸漬して瞬時に凍結させることにより調製することができる。
X線回折データは、三次元構造を詳細に解析できるように、少なくとも3.0Å以下の分解能、好ましくは2.4Å以下の分解能に回折する結晶で収集する。
本発明において野生型ハロヒドリンエポキシダーゼの構造を解析した結果、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するハロヒドリンエポキシダーゼの結晶は、晶系C2221に属するものであり、単位格子としてa軸、b軸及びc軸の方向にa=121.484Å、b=216.380Å及びc=104.517Åの大きさを有する。更に、結晶構造解析の手法により、ハロヒドリンエポキシダーゼの三次元構造座標 (各原子の空間的な位置関係を示す値) が得られる。
本発明においては、上記野性型HheBの結晶構造解析を行い、基質認識や立体選択性に関わるアミノ酸残基を特定した。その結果、HheBのアミノ酸配列のうち、71番目のPhe及び125番目のGlnが立体選択性を決定する残基であることが判明した。
(1) 野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ
本発明者は、上記結晶構造解析結果から、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第71番目のアミノ酸残基 (Phe) 及び第125番目のアミノ酸残基 (Gln) がHheBの立体選択性及び基質認識に重要である点を見出し、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼの変異導入部位を特定した。すなわち、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において第71番目のアミノ酸残基 (Phe) 及び第125番目のアミノ酸残基 (Gln) に変異を導入することによって改良したものである。
ここで、「野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ」とは、自然界の生物より分離され得るハロヒドリンエポキシダーゼを有する酵素を指し、由来は限定されるものではない。また、当該酵素を構成するアミノ酸配列において、意図的または非意図的なアミノ酸の欠失または他のアミノ酸による置換もしくは挿入がなく、天然由来の属性を保持したままのハロヒドリンエポキシダーゼを意味する。
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼは、公共の配列データベース、例えば、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein) においてハロヒドリンエポキシダーゼとして登録されているものを検索し、該当したもののアミノ酸配列を調べればよい。必要に応じて、遺伝子情報解析用ソフトウェアを用いて検索を行うことができる。また、公知文献で野生型ハロヒドリンエポキシダーゼアミノ酸配列について記載されているものがあればそれを参考にしてもよい。
B型に分類されるハロヒドリンエポキシダーゼ (「HheB」ともいう) としては、コリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheB (Biosci. Biotechnol. Biochem., 58 (8), 1451, 1994)、マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1 (J. Bacteriology, 183 (17), 5058-5066, 2001)、アースロバクター エリシー (Arthrobacter erithii) H10a株由来のDehA (Enz. Microbiol. Technol., 22, 568-574, 1998) 等が挙げられる。
これらハロヒドリンエポキシダーゼのうち、アミノ酸配列が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein) において、以下のAccession No.により登録されている。
「Accession No. AAK73175」: マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1のアミノ酸配列
本発明における「改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ」は、主として遺伝子組換え技術を利用して、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列に対して第71番目及び125番目 (HheB (2nd)) 並びに第79番目及び133番目 (HheB (1st)) のうち少なくとも1つのアミノ酸について置換変異が導入されたアミノ酸配列からなるものであり、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能等が向上したハロヒドリンエポキシダーゼである。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも高いものが含まれる。ここで言う形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性の向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよく、例えば、酵素タンパク質あたり比活性自体の向上、活性型コンフォメーション形成能の向上、形質転換体内における発現量増加、形質転換体内における酵素の安定性向上、対基質耐性の向上、生成物阻害感受性の低下等が挙げられる。
菌体比活性またはタンパク比活性は、液活性を、その溶液の菌濃度あるいは可溶性タンパク質濃度で除することにより算出することができる。「液活性」とは、単位溶液量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味する。該溶液としては、ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する形質転換体を培養して得られる「培養物」から得ることができるものを含有する溶液が挙げられる。具体的には、培養液、培養液上清、細胞若しくは菌体懸濁液、細胞若しくは菌体破砕液、粗酵素液及びこれらの処理物等が挙げられる。また、本発明において「活性回収率」とは、一定の操作前の活性を100%として、操作後に回収された活性の相対比 (%) を意味する。
光学純度≒鏡像異性体過剰率=100×(|[R]-[S]|)/([R]+[S]) (%e.e.)
ここで、[R]及び[S]は試料中の鏡像異性体のそれぞれの濃度を示す。また、本発明において、「立体選択性」とは、ハロヒドリンエポキシダーゼが、基質から生成物を生成する際に、いずれか一方の鏡像異性体が生成する反応を優先的に触媒する性質を言う。
また、本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、基質1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させる場合に、生成物を高濃度生成及び蓄積させることができるという属性を有するもの、すなわち生成物蓄積能が向上したものが含まれる。生成物蓄積能向上の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、基質1,3-ジハロ-2-プロパノール又はエピハロヒドリンから、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させる場合に、反応終了後の系内残存基質濃度が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも低減しているもの、すなわち不純物低減能が向上したものが含まれる。
不純物低減能の本質的な原因としては、アミノ酸置換変異に起因するものであれば如何なるものでもよい。
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(c) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(d) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
(e) 配列番号2に示されるアミノ酸配列の第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(f) 配列番号2に示されるアミノ酸配列の第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(g) 上記 (e) 及び (f) のアミノ酸置換が組み合わされたアミノ酸配列からなるタンパク質
(h) 配列番号4に示されるアミノ酸配列の第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(i) 配列番号4に示されるアミノ酸配列の第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質。
(j) 上記 (h) 及び (i) のアミノ酸置換が組み合わされたアミノ酸配列からなるタンパク質
本発明において、「1個もしくは数個」とは、例えば1個〜10個程度、好ましくは1個〜5個程度を指す。
なお、本発明において、アミノ酸の種類を3文字または1文字のアルファベット表記で表すことがある。さらに、数字の前または前後に、3文字または1文字のアルファベットを配して表記することがあり、この場合は、アミノ酸残基の箇所及び置換前後のアミノ酸の種類を表す。すなわち、数字は、特に断りがない限り、上述したように、翻訳開始コドンによりコードされるアミノ酸残基 (通常はメチオニン) を1番目と定義した場合に、何番目のアミノ酸残基であるかを示すものである。また、数字の前に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換前のアミノ酸の3文字または1文字表記を表し、数字の後に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換が生じた場合の置換後のアミノ酸の3文字または1文字表記を表すものとする。例えば、125番目のグルタミン残基は「Gln125」または「Q125」と表記し、71番目のフェニルアラニン残基がトリプトファンに置換された場合は「Phe71Trp」または「F71W」と表記することがある。
本発明において、「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、1,3-ジハロ-2-プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性及びその逆反応を触媒する活性を意味する。1,3-ジハロ-2-プロパノールは、下記一般式 (1) で示される化合物である。
(式中、X1及びX2は、それぞれ独立して同一のまたは異なるハロゲン原子を表す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール (以下、「DCP」と称することがある)、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、1,3-ジヨード-2-プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノールである。
(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン (以下、「ECH」と称することがある)、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
(1) 野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのうち、その遺伝子配列 (塩基配列) が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide) において、以下のAccession No. により登録されている。
「Accession No. AY044094」: マイコバクテリウム属 (Mycobacterium sp.) GP1株由来のHheB GP1をコードする遺伝子の塩基配列
「Accession No. AF149769」: アグロバクテリウム チュメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalBをコードする遺伝子の塩基配列
また、公知の遺伝子配列情報を基に、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法 (assembly PCR) 等を利用して、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の全長を化学的に合成することも可能である。例えば、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子をいくつかの領域 (例えば、50塩基程度) に分割し、隣り合う領域とのオーバーラップ (例えば、20塩基程度) を両端に有する複数のオリゴヌクレオチドを設計及び合成する。該オリゴヌクレオチドをPCR法で互いにアニールさせることにより野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を増幅することができる。
本発明における改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子とは、前記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ酵素タンパク質をコードする遺伝子を意味する。本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子とは、例えば、配列番号2または4に示されるアミノ酸配列からなる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼに対して前記2. (2) の項に記載のアミノ酸変異が導入されたアミノ酸配列を有する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子である。
野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子及び上記アミノ酸変異導入後のアミノ酸残基を構成する塩基配列は、形質転換体宿主において利用可能なコドンをコードするものであればよく、必ずしも由来生物ゲノムDNA上にコードされている野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の塩基配列に限定されない。なお、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにおいて述べたHheB (1st) をコードする野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子であるHheB (1st) (配列番号3)、及びHheB (2nd) をコードする野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子であるHheB (2nd) (配列番号1) は、いずれも、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を得るためのベースとなる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子としても用いることができる。
本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子のさらに具体的かつ好ましい態様としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するコリネバクテリウム属 (Corynebacterium sp.) N-1074株由来のHheB (2nd) である場合は、配列番号1に示される塩基配列に前記変異後のアミノ酸配列をコードするように改変した改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が挙げられる。
さらに、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子としては、前記 (a)〜(j) より選択されるいずれかのアミノ酸変異が導入された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。
このようなDNAは、例えば、上記 (a)〜(j) より選択されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子DNA若しくはその相補配列、またはこれらの断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用することができ、また市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを利用することもできる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)) 等を参照することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、例えば、前記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対して、少なくとも40%以上、好ましくは60%、さらに好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAまたはその部分断片が挙げられる。
また、目的とする変異導入箇所が、対象遺伝子配列において消化・連結が容易な制限酵素部位の近隣に存在する場合、目的変異を導入したプライマー (合成オリゴDNA) を用いてPCRを行うことで、目的変異が導入された遺伝子DNA断片を容易に得ることができる。さらには、合成オリゴDNAを組み合わせたPCR法 (assembly PCR) で伸長させて合成遺伝子として得ることもできる。また、ハイドロキシルアミンや亜硝酸等の変異源となる薬剤を接触・作用させる方法、紫外線照射により変異を誘発する方法、PCR (ポリメラーゼ連鎖反応) を用いてランダムに変異を導入する方法等のランダムな変異導入法によっても、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子から改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を得ることができる。
(1) 組換えベクター
上記の方法によって得た本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を宿主で発現させるために、遺伝子の上流に転写プロモーターを、下流にターミネーターを挿入して発現カセットを構築し、このカセットを発現ベクターに挿入することができる。あるいは、当該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を導入する発現ベクターに転写プロモーターとターミネーターがすでに存在する場合には、発現カセットを構築することなく、ベクター中のプロモーターとターミネーターを利用してその間に当該変異遺伝子を挿入すればよい。ベクターに当該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を挿入するには、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法等を利用することができる。また、挿入の際に必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。なお、本発明においては、このような組み込み操作を、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子の調製操作と兼ねて行うこともできる。すなわち、他のアミノ酸をコードする塩基配列に置換した塩基配列を有するプライマーを用い、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子がクローニングされた組換えベクターを鋳型としてPCRを行い、得られた増幅産物をベクターに組み込むことができる。
また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列等のリボソーム結合配列が知られており、これらの配列を変異遺伝子の上流に挿入することもできる。原核生物を宿主に用いるときにはSD配列を、真核細胞を宿主に用いるときにはKozak配列をPCR法等により付加してもよい。SD配列としては、大腸菌由来または枯草菌由来の配列等が挙げられるが、大腸菌や枯草菌等の所望の宿主内で機能する配列であれば特に限定されるものではない。たとえば、16SリボゾームRNAの3’末端領域に相補的な配列が4塩基以上連続したコンセンサス配列をDNA合成により作製して利用してもよい。
一般に、ベクターには目的とする形質転換体を選別するための因子 (選択マーカー) が含まれる。選択マーカーとしては、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子、資化性付与遺伝子等が挙げられ、目的や宿主に応じて選択されうる。例えば大腸菌で選択マーカーとして用いられる薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
本発明の組換えベクターを宿主に形質転換または形質導入することで、形質転換体または形質導入体 (以下、これらをまとめて「形質転換体」という) を作製する。当該形質転換体も本発明の範囲に含まれる。
本発明において使用する宿主は、上記組換えベクターが導入された後、目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現することができる限り特に限定されるものではない。宿主としては、例えば大腸菌、枯草菌、ロドコッカス属細菌等の細菌、酵母 (Pichia、Saccharomyces)、カビ (Aspergillus)、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等が挙げられる。
本発明において、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記形質転換体を培養して得られる培養物自体として、または培養物から採取することにより製造することができる。本発明において、「培養物」とは、培養液、培養液上清、細胞または菌体、細胞または菌体の懸濁液、細胞または菌体の破砕液、粗酵素液及びこれらの処理物等、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する形質転換体を培養することによって得られるもの及びそれらに起因するもののいずれをも含む意味である。本発明の形質転換体を培養して得られる培養物は、本発明の範囲に含まれる。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。目的の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記培養物中のいずれかに蓄積される。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル-b-D-チオガラクトシド (IPTG) で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸 (IAA) で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IAA等を培地に添加することができる。
流加培地を添加していく方法 (feeding mode) としては、例えば、定流的流加法 (constant)、指数的流加法 (exponential)、段階的増加流加法 (stepwise increase)、比増殖速度制御流加法 (specific growth-rate control)、pHスタット流加法 (pH-stat)、DOスタット流加法 (DO-stat)、グルコース濃度制御流加法 (glucose concentration control)、酢酸濃度モニタリング流加法 (acetate concentration monitoring)、ファジー神経回路流加法 (fuzzy neural network) 等が挙げられるが (Trends in Biotechnology (1996), 14, 98-105)、所望のハロヒドリンエポキシダーゼ活性が得られれば特に限定されるものではない。なお、半回分式培養実施時の培養終了時期は、流加培地の投入終了後に限定される必要はなく、必要に応じて培養を継続し、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性が最も高い時点で培養終了とすることができる。
形質転換体が植物細胞または植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地、LS基本培地等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法、液体培養法のいずれをも採用することができる。
上記培養条件で培養すると、本発明の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを上記培養物中、すなわち、培養液、培養上清、細胞、菌体、または細胞若しくは菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積させることができる。
また、本工程に利用し得る膜濾過は、目的とする固液分離を達成できれば、精密濾過 (MF) 膜、限外濾過 (UF) 膜いずれでもよいが、通常、精密濾過 (MF) 膜を用いることが好ましい。精密濾過は、例えば、流動方向に基づけば、デッドエンド方式やクロスフロー (タンジェンシャルフロー) 方式に分類することができ、圧力の加え方に基づけば、重力式、加圧式、真空式、遠心力式等に分類することができ、操作様式に基づけば、回分式と連続式等に分類することができるが、固液分離操作を行うことができるものであれば、そのいずれを利用することもできる。MF膜の材質としては、高分子膜、セラミック膜、金属膜、及びそれらの複合型に大別でき、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性及び固液分離操作時の該活性回収率を低下させるものでなければ特に限定はされないが、特に高分子膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、混合セルロースエステル、銅アンモニア法再生セルロースエステル、ポリイミド、ナイロン、テフロン (登録商標) 等が好ましい。膜の孔径としては、菌体または細胞を捕捉し、濃縮操作が可能であればよく、通常、0.1 mm〜0.5 mm程度のものを用いることができる。
高圧処理を行う場合、処理圧力は、菌体または細胞からの改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ回収率が十分高いものであれば特に限定されないが、例えば、40 MPa〜150 MPa程度の圧力で破砕を行うことができる。菌体または細胞濃度も特に限定されないが、例えば、20%以下程度であればよい。必要に応じて、装置を直列に配置したり、複数ステージ構造の装置を用いたりすることにより、多段階処理を行い、破砕及び操作効率を向上させることも可能である。通常、処理圧力10 MPaあたり2℃〜3℃の温度上昇が生じることから、必要に応じて冷却処理を行うことが好ましい。
衝突処理の場合、例えば、被破砕菌体または細胞スラリーを予め噴霧急速凍結処理 (凍結速度: 例えば1分間当たり数千℃) 等によって凍結微細粒子 (例えば50 mm以下) にしておき、これを高速 (例えば約300 m/s) の搬送ガスによって衝突板に衝突させることで菌体または細胞を破砕することができる。
これら方法のうち、特に、工程の煩雑化を避けつつ迅速に核酸を分解したい場合には、核酸分解酵素で核酸を分解する方法を採ることができる。核酸分解酵素処理に用いる核酸分解酵素は、少なくともデオキシリボ核酸 (DNA) に作用し、核酸分解反応触媒能力を有し、DNA重合度を下げるものであればいかなるものでもよく、該形質転換体細胞内に本来存在する核酸分解酵素を利用してもよいが、別途、外因性の核酸分解酵素を添加してもよい。別途添加する核酸分解酵素としては、例えば、ウシ脾臓由来DNaseI (タカラバイオ、日本)、ブタ脾臓由来DNaseII (和光純薬、日本)、Serratia marcescens由来核酸分解酵素Benzonase (登録商標) Nuclease (タカラバイオ、日本)、Nuclease from Staphylococcus aureus (和光純薬、日本) 等が挙げられる。添加する酵素量は、酵素の種類やユニット数 (U) の定義により異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。必要に応じて、核酸分解酵素に要求されるマグネシウム等の補因子を該酵素溶液に添加してもよい。処理温度は、用いる核酸分解酵素によって異なるが、常温生物種由来の核酸分解酵素であれば、通常20℃〜40℃の温度に設定すればよい。
遠心分離操作は、前述の通り行うことができる。菌体または細胞破砕残渣が微細であり、容易に沈降し難い場合は、必要に応じて、凝集剤を使用して残渣沈殿効率を上げることもできる。有機高分子凝集剤は、イオン性に基づけば、カチオン系凝集剤、アニオン系凝集剤、両性系凝集剤、ノニオン系凝集剤を挙げることができ、成分に基づけば、アクリル系、ポリエチレンイミン、縮合系ポリカチオン (ポリアミン)、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、キトサン等を挙げることができるが、本発明において使用する凝集剤は、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ活性または該活性回収率を低下させず、かつ、残渣分離効率を向上させることができるものであればいずれの凝集剤でもよい。
形質転換体が植物細胞または植物組織である場合は、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素を用いた細胞溶解処理、超音波破砕処理、磨砕処理等により細胞を破壊する。その後、必要であれば、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィ (例えばゲル濾過クロマトグラフィ (例えばSephadexカラム)、イオン交換クロマトグラフィ (例えばDEAE-Toyopearl)、アフィニティクロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ (例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィ (例えばMonoQカラム) 等)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製することができる。単離したハロヒドリンエポキシダーゼは、上述の細胞または菌体と同様に、適当な担体に保持し固定化酵素として使用することもできる。
また、本発明においては、上記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子または改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を含む組換えベクターから改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを採取することも可能である。すなわち、本発明においては、生細胞を全く使用することなく無細胞タンパク質合成系を採用して、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを産生することが可能である。無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管等の人工容器内でタンパク質を合成する系である。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。この場合、上記の宿主に対応する生物は、下記の細胞抽出液の由来する生物に相当する。ここで、上記細胞抽出液は、真核細胞由来または原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、大腸菌等の抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されないものであってもよい。細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール (PEG) 沈殿等によって得ることができる。さらに本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM (東洋紡)、TNTTM System (プロメガ)、合成装置のPG-MateTM (東洋紡)、RTS (ロシュ・ダイアグノスティクス) 等が挙げられる。
上記のように無細胞タンパク質合成によって得られる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、例えば前述のように適宜クロマトグラフィを選択して、精製することができる。
上述のようにして製造された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、酵素触媒として物質生産に利用することができる。すなわち、以下の (1)〜(3) に示す反応に供することができる。
本変換反応は、1,3-ジハロ-2-プロパノールを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行うことができる。「接触」とは、1,3-ジハロ-2-プロパノールと上記改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または培養物とを同一の反応系または培養系に存在させること等が挙げられる。具体的には、細胞培養器に1,3-ジハロ-2-プロパノールを添加すること、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上記培養物と1,3-ジハロ-2-プロパノールとを混合すること、あるいは細胞を1,3-ジハロ-2-プロパノールの存在下で培養すること等が挙げられる。
基質である1,3-ジハロ-2-プロパノールは、前述した一般式 (1) で示される化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3-ジフルオロ-2-プロパノール、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、1,3-ジヨード-2-プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノールである。
変換反応液中の基質濃度は、0.01%〜15 (W/V) %が好ましい。この範囲内であると酵素安定性の観点から好ましく、0.01%〜10%が特に好ましい。基質は反応液に一括添加あるいは分割添加することができる。分割添加により基質濃度を一定にすることが蓄積性の観点から望ましい。
反応温度は、5℃〜50℃、反応pHは4〜10の範囲で行うことが好ましい。
反応温度は、より好ましくは10℃〜40℃である。反応pHは、より好ましくはpH6〜9である。反応時間は基質等の濃度、菌体濃度あるいはその他の反応条件等によって適時選択するが、1時間〜120時間で終了するように条件を設定するのが好ましい。尚、本反応においては、反応の進行に伴い生成する塩素イオンを反応系内から取り除くことにより、光学純度をより一層向上させることができる。この塩素イオンの除去は、硝酸銀等の添加によって行うことが好ましい。
反応液中に生成、蓄積したエピハロヒドリンは公知の方法を用いて採取及び精製することができる。例えば、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することによりエピハロヒドリンのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
本変換反応は、1,3-ジハロ-2-プロパノールを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行うことができる。
基質である1,3-ジハロ-2-プロパノールは、前述した一般式 (1) で示される化合物であり、好ましくは1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール等である。
また、シアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸またはアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン (CN-) またはシアン化水素を生じる化合物またはその溶液を用いることができる。反応液中の基質濃度は、酵素安定性の観点から0.01%〜15 (W/V) %が好ましく、0.01%〜10%が特に好ましい。
反応条件は、上記 (1) と同様に行うことができる。
反応液中に生成、蓄積した4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルは、公知の方法を用いて採取及び精製することができる。例えば、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
本変換反応は、エピハロヒドリンを、上述の改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び/または上述の培養により得られる培養物と接触させることにより行う。
基質であるエピハロヒドリンは、前述した一般式 (2) で示される化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
また、シアン化合物はシアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸またはアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン (CN-) またはシアン化水素を生じる化合物またはその溶液を用いることができる。
反応条件、採取及び精製方法は、上記 (2) と同様に行うことができる。
(1) HheAの結晶構造解析
HheA発現プラスミド (pST001) を大腸菌DH5aに形質転換後、IPTGによる誘導を行い、37℃で一晩培養した。菌体を超音波により破砕後、陰イオン交換 (SuperQ)、疎水 (Butyl)、陰イオン交換 (ResourceQ) の順にカラムクロマトグラフィを行い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで精製した。得られた精製酵素を20 mg/mLまで濃縮し、JBScreen Classic kit (JENA Bioscience) を用いて結晶化条件を探索した結果、最終的に温度20℃、1週間程度で再現性良く結晶が得られる条件を決定した。
得られた結晶の反射データの測定はつくばの放射光施設 (PF, Beam Line 5A) で行い、最大分解能1.8Åの反射データを得た。HheAの初期位相の決定はArthrobacter sp. AD2 由来HheA (PDB ID; 1ZMO) を用いた分子置換法で行い、最終的なR-factor: 20.7% (Rfree; 24.5%) の構造を得ることができた。得られた構造は4量体構造をしており、活性部位はそれぞれ独立に存在していた。なお、HheAが水溶液中でも4量体を形成していることはGelpermeation chromatography-mauti-angle light scattering (GPC-MALS) による分子量測定で確認されている。
HheBを大量発現する組換え体大腸菌の菌体破砕液からHheBの精製を行った。精製は3種の陰イオン交換カラム (DEAE, SuperQ, ResourceQ) を用いて行い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで行った。得られた精製HheBを14 mg/mLまで濃縮しJBScreen Classic kit (JENA Bioscience) を用いて結晶化条件の探索を行なった。最終的に温度20℃、3日程度で結晶が得られる条件を決定した。本条件で得られた結晶は非常に脆く、また安定性が悪いため、結晶が析出して速やかに構造解析を実施する事が重要である。得られた結晶の反射データの測定はつくばの放射光施設 (AR、Beam Line NW12) で行い、最大分解能1.7ÅでNative HheBの反射データを得た。HheBに関しては分子置換法による構造決定が困難であったため、セレノメチオニン置換体HheB (SeMet HheB) を作製した。HheB発現プラスミド (pST002) をメチオニン要求性大腸菌 (B834) に導入後、セレノメチオニンを含む培地中で培養した。セレノメチオニン置換体HheBの精製、結晶化はNative HheBと同様の方法で行った (図1)。
初期位相の決定はSAD (Single Anomalous Dispersion) 法で行った。反射データの収集はつくばの放射光施設 (PF、Beam Line 6A) で行い、最大分解能2.0Åの反射データを得た。初期位相決定後、Native HheBの反射データを用いて位相拡張を行い、分解能1.7Å、最終的なR-factor; 0.186 (R-free; 0.210) で構造を決定した。
HheBの結晶学的データを図2に示す。
得られた構造は非対称単位中に6分子 (4量体+2量体) 存在していたが、2量体部分は結晶学的対称操作により4量体の構造をしており、HheBは結晶中で4量体構造を形成していた。HheBに関してもGPC-MALSを用いた分子量測定を行い、水溶液中で4量体を形成していることを確認した。
4量体の構造についてみてみると、HheBの活性部位はそれぞれ独立に存在しておりHheAと同様の構成、構造をしている。各分子について重ね合わせるとほぼ一致しており、4量体の各分子は等価な環境にあるといえる (図3)。
モノマー構造についてみてみると、SDR familyに共通して見られるRossman foldを形成しており、活性部位はRossman foldの上部に位置している。活性部位では3つの触媒残基 (Ser118, Tyr131, Arg135) が近傍に位置しており、triadを形成している。また、活性部位のハロゲン結合部位にはClイオンが結合していた (図4)。
得られたHheAの構造と既知構造であるAgrobacterium radiobacter AD1由来HheC (PDB ID; 1ZMT) の比較を行った。全体構造は大変類似しており、C末端のループ領域が異なっている程度であった。触媒残基の位置関係は同じであった。
HheA、HheB及びHheCの3種のアイソザイムの活性部位の構造については、活性部位の形状、大きさはどれもほぼ同じであり、触媒残基の位置関係は同じであった (図5)。しかしながら、活性部位を形成するアミノ酸にHheBのみが異なる箇所が数箇所みられた。
本実施例では、Hhe B型 (HheB) の立体選択性、触媒機構を構造生物学的に解明することを目標とし、HheBと基質アナログである1,3-ジニトリル-2-プロパノール (DiCN) との複合体の結晶構造解析を行った。
HheBを大量発現する組換え体大腸菌の菌体破砕液からHheBの精製を行った。精製は3種の陰イオン交換カラム (DEAE-Toyopearl, SuperQ-Toyopearl, ResourceQ) を用い、SDS-PAGEで単一バンドになるまで行った。得られた精製HheBを14 mg/mLまで濃縮し、基質アナログであるDiCNを終濃度5 mMになるように精製HheB溶液に添加し結晶化に用いた。結晶化は野生型HheBと同じ条件で行った。
得られた結晶を用い、つくばの放射光施設 (PF、Beam Line BL5A) X線反射データの収集を行い、最大分解能2.2ÅでNative HheB/DiCN複合体の反射データを得ることに成功した。複合体の初期位相の決定はNative HheBを用いた分子置換法で行い、最終的にR-factor: 19.9% (Rfree; 24.7%) の構造を得ることに成功した。DiCNはHheBの4量体すべての活性部位に結合していることが確認され、いずれも同じ結合様式であった (図6)。
活性部位に結合したDiCNの電子密度はいずれの4量体中の分子においても明瞭に観測されていた。DiCNの水酸基は触媒残基の一つであるSer118と水素結合を形成しており、3つの触媒残基に対する立体配置を明らかにすることができた。
野生型HheBとHheB/DiCN複合体の構造を重ね合わせたところ、活性部位においてGln125ならびにHis162の側鎖が構造変化していた。特にGln125はDiCNの結合に伴い、立体衝突を避けるように構造変化を起こし、His162と新たに水素結合を形成していた。このことからGln125は基質認識、立体選択に関わるアミノ酸残基である可能性が示唆された (図7)。
複合体結晶構造から立体選択性について考察を行った。
活性部位の形状についてHheCと比較したところ、HheBではHheCに比べて、活性ポッケトが狭くなっていた。特にHheBの65-77で構成されるループ領域は活性部位に大きく張り出してきており、活性部位を狭くしている。このことからHheBは (S)-2-クロロ-1,3-プロパンジオール結合領域の活性ポケットを狭くすることでS体選択性を示さず、R体選択的に活性部位に取り込むことを可能にしていると考えらえる。中でも、HheBに特徴的なPhe71のアミノ酸を置換することで選びR体選択性を上げることが可能になると予測された。
また、119-129で形成されるループ領域も同様に活性部位に張り出している。この領域には先に述べたGln125が存在しており、DiCNの結合に伴い立体衝突を避けるように構造変化を起こしている。そのため、このGln125のアミノ酸を置換することで、R体の基質を取り込みやすくなりR体選択性が向上するものと考えられた (図8)。
以上の結果から、Phe71 及びGln125が立体選択性に関わるする残基であると考えられた。
実施例1の構造解析結果に基づき、Q125変異酵素の精製を試みた。
ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する組換え菌はJM109/pSTT002を使用した。pSTT002 (図9) の作製は以下の通り行った。
まず、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) をPCRにより増幅した。PCR反応液組成 (全量50 ml) は以下の表1の通りとした。
DH-09: GATCATGAAAAACGGAAGACTGGCAGGCAAGCG (配列番号5)
DH-09は33ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素BspHI認識部位 (TCATGA) 及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) の翻訳開始コドン以降を有し、2番目のアミノ酸に対応するコドンはAAAでリジンをコードする。
DH-07は32ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素Sse8387I兼PstI認識部位 (CCTGCAGG) 及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HheB (2nd) 終止コドン下流領域を有する。
調製した50 mlのPCR反応液をそれぞれ以下 (表2) の熱サイクル処理に供した。
尚、pTrc99AはCentraalbureau voor Schimmelcultures (http://www.cbs.knaw.nl) から購入できる。
大腸菌 JM109株をLB培地 (1% バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1 mlに接種し、37℃、5時間好気的に前培養した。次に、前培養液 0.4 mlをSOB培地 40 ml (2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl 、2.5 mM KCl 、1 mM MgSO4、1 mM MgCl2) に加え、18℃で20時間培養した。得られた培養物を遠心分離 (3,700×g、10分間、4℃) により集菌した後、冷TF溶液 (20 mM PIPES-KOH (pH6.0), 200 mM KCl, 10 mM CaCl2, 40 mM MnCl2) を13 ml加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離 (3,700×g, 10分間、4℃) して上清を除いた。得られた大腸菌菌体を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え、0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて-80℃にて保存した。
上記の通り調製した大腸菌JM109株コンピテントセル200 mlを、上記ライゲーション産物10 mlに加え、0℃で30分放置した。
続いて、前記コンピテントセルに42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC 培地 (20 mM グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl, 2.5 mM KCl, 1 mM MgSO4, 1 mM MgCl2) を1 ml添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液を各200 mlずつ、LB Amp寒天培地 (アンピシリン100 mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地) に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を、1.5 mlのLB Amp培地 (アンピシリン100 mg/Lを含有するLB培地) にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep (GEヘルスケアバイオサイエンス) を用いて組換えプラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000 (ベックマン・コールター) を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされているPCR増幅産物の塩基配列を解析し、PCR反応におけるエラー変異が生じていないことを確認した。PCR増幅由来DNA断片がクローニングされたプラスミドをpSTT002と命名し、当該プラスミドを含む大腸菌JM109株形質転換体をJM109/pSTT002と命名した。
表3に示すQ125変異酵素を作製した。
(反応液組成)
pSTT002 1 ml
10 mM Forward-プライマー 1 ml
10 mM Reverse-プライマー 1 ml
DW 7 ml
PrimeSTAR Max DNA Polymerase 10 ml
(反応サイクル)
98℃で10秒、55℃で15秒及び72℃で30秒を1サイクルとしてこれを30サイクル。
使用したプライマーの配列を、表4に示す。
(1) 粗酵素液の調製
取得された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼによって合成した(R)-CHBNの光学純度を調べるため、まず、各改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体より粗酵素液を調製した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する7株の形質転換体株 (JM109/pSTT115, JM109/pSTT116, JM109/pSTT118, JM109/pSTT119, JM109/pSTT120, JM109/pSTT125, JM109/pSTT126) 及び対照とするJM109/pSTT002を使用した。
上記組換え菌のコロニーを1 mlのLB Amp培地に植菌し、37℃、210rpmで約8時間培養した後、得られた各培養液100 mlを、IPTGを終濃度として1 mM含むLB Amp培地 (500 ml容三角フラスコ中の100 ml) に植菌し、37℃、210 rpmで16時間培養した。得られた各培養液100 mlから遠心分離 (3,700×g, 10分間、4℃) により各菌体を回収し、20 mM Tris-硫酸緩衝液 (pH8.0) で洗浄した後、菌濃度が12.5 gDC/Lとなるように同緩衝液に懸濁した。得られた菌体懸濁液の3 mlを、超音波破砕機VP-300 (タイテック、日本) を用いて、氷冷しながら破砕した。破砕した菌体懸濁液を遠心分離 (23,000×g, 5分間、4℃) に供し、上清を粗酵素液として採取した。
続いて、上記粗酵素液を用い、以下の方法によりハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。100 mlの活性測定用反応液 (50 mM DCP, 50 mM Tris-硫酸 (pH8.0)) を調製して、温度を20℃に調整した。該反応液に、希釈した各形質転換体由来の粗酵素液添加し、反応を開始した。ハロヒドリンエポキシダーゼ活性による塩化物イオンの遊離に伴うpHの低下を、pH自動コントローラーを用い、0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを8に保つよう連続的に調整した。10分間の反応の間に、pHを8に保つために投入された0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液の量から、塩化物イオン生成量を算出し、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) (U) を算出した。1 Uは上記条件下でDCPから1分間あたり1 mmol塩化物イオンの脱離する酵素量に相当するものと定義し、活性測定に用いた各粗酵素液の活性、及び該活性を活性測定に用いた各粗酵素液の液量で除することにより各粗酵素溶液の液活性を算出した。
後述する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼによる(R)-CHBNの合成反応において実施する反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析及び生成CHBNの光学純度分析は、以下のように行った。
<反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析>
反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度分析は、逆相系HPLCにより行った。逆相系HPLC分析条件を下記に示す。
カラム: Inertsil ODS-3V (GLサイエンス社)
移動相: 0.1% (v/v) リン酸、10%アセトニトリル
流速: 1 ml/min
温度: カラム40℃、示差屈折計セル35℃
検出: 示差屈折率
反応終了液100 mlを、上表記載の移動層400 mlにより希釈混合した後、上表記載の分析条件により分析を行った。予め、濃度既知のDCP, ECH及びCHBN溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP, ECH及びCHBN濃度を求めた。
<生成CHBNの光学純度分析>
生成CHBNの光学純度分析は、CHBNをエステル化後、順相系HPLCにより行った。順相系HPLC分析条件を下記に示す。
カラム: Partsil-5 (GLサイエンス社)
移動相: n-ヘキサン: 2-プロパノール=99:1
流速: 1 ml/min
温度: カラム40℃
検出: UV (波長254 nm)
反応終了液約400 mlに等量のジイソプロピルエーテル (以下、IPEと称することがある) を加えて抽出を行った。IPE層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した。IPE層を100 ml分取し、10 mlの (R)-a-メトキシ-a-(トリフルオロメチル) フェニルアセチルクロライド (以下、(R)-MTPAと称する) 及び40 mlのピリジンを添加した。室温で一晩反応させた後、IPEを添加して約400 mlとした。1規定の塩酸を400 ml加えて抽出を2回行った後、分取したIPE層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を400 ml加えて抽出を2回行った。分取したIPE層に少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した後、アスピレーターによりIPE層を揮発させた。残存物を上表記載の移動層により懸濁した後、上表記載の分析条件により分析を行った。(R)-CHBN-(R)-MTPAエステル及び(S)-CHBN-(R)-MTPAエステルのエリア面積比から各濃度を算出し、本明細書において説明した要領 (前述) でCHBNの光学純度を算出した。
本実施例 (1) で調製した各改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換体由来粗酵素液を用い、シアン化カリウム存在下、DCPからのCHBN合成反応を行った。反応液基本組成は表5のように調製し、反応スケールは0.5 mlで行った。
実施例3と同様の方法を用い、F71変異酵素を発現するプラスミド (表7) を構築した。
(1) 多重変異酵素の作製
実施例3と同様の方法を用い、下記の変異酵素を発現するプラスミド (表10) を構築した。
変異酵素の評価は実施例2と同様に行った。結果を表11に示す。
塩化物イオンは、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアン化合物からハロヒドリンエポキシダーゼによって4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを合成する際の生成物であり、ハロヒドリンエポキシダーゼによる該合成反応を阻害しうる。
高濃度の塩化物イオン存在下における、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を調べ、比較した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、並びに対照とするJM109/pSTT002由来粗酵素液、及びJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、実施例4に記載の方法、及び実施例4に記載の方法において塩化ナトリウムを終濃度270 mMとなるように添加した反応液を用いた方法により、塩化ナトリウム非存在下 (0 mM) 及び存在下 (270 mM) におけるハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。
各形質転換体由来粗酵素液の塩化ナトリウム非存在下 (0 mM) における該活性を100 %として相対活性値を算出した。結果を表12に示す。
またJM109/pSTT030由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は塩化物イオン270 mMの存在下で活性14 %に低下した。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、塩化物イオン270 mMの存在下で活性54 %を示した。
従って、該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、塩化物イオンによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上していることが確認された。
(R)-CHBNは、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアン化合物からハロヒドリンエポキシダーゼによって4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを合成する際の生成物であり、ハロヒドリンエポキシダーゼによる該合成反応を阻害しうる。
高濃度の(R)-CHBN存在下における、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ及び改良型ハロヒドリンエポキシダーゼのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を調べ、比較した。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、並びに対照とするJM109/pSTT002由来粗酵素液、及びJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、実施例4に記載の方法、及び実施例4に記載の方法において(R)-CHBNを終濃度180 mMとなるように添加した反応液を用いた方法により、(R)-CHBN非存在下 (0 mM) 及び存在下 (180 mM) におけるハロヒドリンエポキシダーゼ活性 (脱クロル活性) を測定した。
各形質転換体由来粗酵素液の(R)-CHBN非存在下 (0 mM) における該活性を100 %として相対活性値を算出した。結果を表13に示す。
またJM109/pSTT030由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は(R)-CHBN 180 mMの存在下で活性12 %に低下した。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性は、(R)-CHBN 180 mMの存在下で活性18 %を示した。
従って、該改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、(R)-CHBNによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上していることが確認された。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する形質転換体JM109/pSTT206由来粗酵素液、及び対照とするJM109/pSTT030由来粗酵素液を使用し、シアン化カリウム存在下、DCPからのCHBN合成反応を行った。
反応液は表14のように調製し、反応スケールは0.5 mlで行った。
ブランクとして、表14に記載の反応液において粗酵素液を添加せずに調製した反応液を使用した。
反応3時間後、及び反応終了後に反応液をサンプリングし、実施例4に記載の分析条件により、反応液中のDCP、ECH及びCHBN濃度を分析した。
結果を表15に示す。
これに対し、JM109/pSTT206由来粗酵素液を用いた反応では3時間後のDCP転化率100%、CHBN蓄積589mM、6時間後のDCP転化率100%、CHBN蓄積598 mMであった。
従って、形質転換体株JM109/pSTT206由来改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、反応終了後の不純物となるDCP及びECHの系内濃度を低減できることが示された。
pSJ023:形質転換体ATCC12674/pSJ023 (受託番号「FERM BP-6232」) として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター (茨城県つくば市東1-1-1 中央第6) に平成9 (1997) 年3月4日付けで寄託されている。
pST111: 形質転換体JM109/pST111 (受託番号「FERM BP-10922」) として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3(1991)年3月1日付けで寄託されている。
Rhodococcus rhodochrous J1株 (受託番号「FERM BP-1478」)
Claims (13)
- 以下の (a) または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2で表わされるアミノ酸配列の第71番目のPhe及び125番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第71番目及び125番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質 - 以下の (a) または (b) のタンパク質。
(a) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列の第79番目のPhe及び133番目のGlnの少なくとも一方のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列であって前記第79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質 - 第71番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、請求項1に記載のタンパク質。
- 第125番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、請求項1に記載のタンパク質。
- 第79番目のPheがLeu、MetまたはTrpに置換された、請求項2に記載のタンパク質。
- 第133番目のGlnがVal、Ser、Thr、Ala、Tyr、His、CysまたはTrpに置換された、請求項2に記載のタンパク質。
- 前記タンパク質が、コリネバクテリウム (Corynebacterium) 属細菌またはマイコバクテリウム (Mycobacterium) 属細菌由来のものである、請求項1または2に記載のタンパク質。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
- 請求項8に記載の遺伝子を含む組換えベクター。
- 請求項9に記載の組換えベクターを宿主に導入してなる形質転換体または形質導入体。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質を、1,3-ジハロ-2-プロパノールと接触させることによりエピハロヒドリンを生成させることを特徴とする、エピハロヒドリンの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質を、シアン化合物存在下、1,3-ジハロ-2-プロパノールまたはエピハロヒドリンと接触させることにより4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを生成させることを特徴とする、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
- 以下の (a) または (b) のタンパク質の結晶。
(a) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b) 配列番号2若しくは4で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
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