JP5132983B2 - 生細胞を含有しないタンパク質含有溶液の製造方法 - Google Patents

生細胞を含有しないタンパク質含有溶液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去して生細胞を含有しないタンパク質含有溶液を製造する方法に関する。
化学品や食品分野における物質変換反応等への利用を目的とし、有用タンパク質を生産する細胞からタンパク質含有溶液を製造する場合において、タンパク質含有溶液への生細胞の混入は避けなければならない。タンパク質含有溶液へ混入した生細胞は、物質変換反応等を経て得られる最終製品中にまで混入することがあり、品質上および安全上の観点から問題となりうるからである。特に、生細胞が遺伝子組換え体である場合には、生細胞の混入を避けることが必要である。
タンパク質含有溶液を得るためには、通常、物理的又は化学的手段により細胞を破砕して(細胞破砕処理)、細胞破砕液を得る必要がある。一定量の細胞から多くのタンパク質を回収しようとすれば、できるだけ多くの細胞を破砕することが望ましい。従って、通常は、細胞破砕処理によって大半の生細胞が死滅することになる。しかし、一部の生細胞は死滅することなく残存する。例えば、高圧ホモジナイザーを用いて100MPaの圧力で大腸菌を破砕した場合、1回の破砕で死滅する大腸菌は90〜99.9%程度である(非特許文献1参照)。すなわち、高い圧力を用いたとしても、高圧による破砕処理のみで大腸菌を完全に死滅させる(以下、「不活化する」ということがある)ことは困難である。
細胞破砕処理を行った後、通常、細胞破砕片を除去する操作を行う。この除去操作によって、細胞破砕片のみならず、残存する生細胞も除去されうるが、完全に除去することは難しい。例えば、細胞破砕片を除去する手段として遠心分離が挙げられるが、その原理上、上清と沈殿物を完全に分離することは困難である。すなわち、生細胞が残存している場合には、上清への生細胞の混入を完全に避けることは困難である。より大きな遠心力を加えて上清への生細胞の混入を避けようとすると、高性能、高価な遠心分離機が必要となり、製品のコストアップ要因となる。これらの問題点を解決する方法として、例えば、細胞破砕液にカチオン系高分子凝集剤を添加し、沈殿効率を高める方法が報告されている(特許文献1参照)。しかし、当該文献における凝集剤の効果は細胞破砕片や核酸の沈殿効率向上であり、遠心分離上清への生細胞の混入の程度の変化や上清中の生細胞数等については言及がない。また、当該凝集剤の添加によって、目的タンパク質自体が細胞破砕片と共に沈殿したり、目的タンパク質が酵素である場合にはその酵素活性が消失する場合がある。
また、細胞破砕片を除去する他の手段として、ろ過が挙げられる。ろ過を行うためのろ材として、細胞径より小さい孔径(例えば、0.2μm)を有する膜等を用いれば、原理的には生細胞の混入を避けることができる。しかしながら、そのような微細な孔径を有する膜を用い、細胞破砕片を高濃度含有する細胞破砕液のろ過を工業的スケールで行うことは一般には困難である。細胞破砕片による膜の目詰まりやファウリングが生じ、効率的にろ液を得ることが難しいからである。そこで、孔径が数μmであるろ紙やろ布をろ材として用い、微細な孔構造を有する珪藻土等のろ過助剤を併用する手法を用いることが現実的である。しかし、この手法を採った場合には、ろ材の孔径が細胞径よりも大きいため、少なからず生細胞が混入してしまう可能性がある。
J. Food Prot. 70(4), 1007-1010, 2007
本発明は、目的タンパク質の沈殿や機能消失を引き起こさずに残存する生細胞を効率的に不活化したうえで、遠心分離やろ過等の手段によって細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために誠意研究を行った結果、両性界面活性剤を細胞破砕液に添加することにより、目的タンパク質の沈殿や機能消失を引き起こさずに残存する生細胞を効率的に不活化し、さらに、遠心分離やろ過等の手段によって細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去して生細胞を含有しないタンパク質含有溶液を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)以下(A)〜(D)の工程から成る、生細胞を含有しないタンパク質含有溶液の製造方法。
(A) 細胞を培養する工程
細胞を破砕する工程
両性界面活性剤を添加する工程
細胞破砕片を除去する工程
本発明によれば、目的タンパク質の沈殿や機能消失を引き起こさずに残存する生細胞を効率的に不活化し、さらに、遠心分離やろ過等の手段によって細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去して生細胞を含有しないタンパク質含有溶液を製造することができる。
以下に本発明の実施の形態について説明するが、本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
本発明は、以下のとおりである。
以下(A)〜(D)の工程から成る、生細胞を含有しないタンパク質含有溶液の製造方法。
(A) 細胞を培養する工程
細胞を破砕する工程
両性界面活性剤を添加する工程
細胞破砕片を除去する工程
工程(A)において、細胞とは、その生死を問わず、外界を隔離する膜構造に囲まれ、内部に自己再生能を備えた遺伝情報とその発現機構を持つ(あるいは持っていた)生命体を言う。本発明における細胞の具体的な例としては、微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等が挙げられる。微生物の具体的な例としては、例えば、細菌、酵母、糸状菌、放線菌等が挙げられ、これらの具体例として、バチルス・ステアロサ−モフイルス、バチルス・ズブチリス、バチルス・セレウス・バチルス・ブレビス、バチルス・サーキユランス、バチルス・コアギユランス、バチルス・リケニホーミス、バチルス・メガテリウム、バチルス・ポリミキサ等のバチルス属の細菌、エシエリシア・コリ、エシエリシア・アデカルボキシラタ、エシエリシア・アネロジーネス、エシエリシア・アニンドリツカ等の大腸菌群類の細菌、シユードモナス・アエルギノーザ、シユードモナス・アセリス、シユードモナス・アシドボランス、シユードモナス・プチダ、シユードモナス・フルオレツセンス、シユードモナス・マルトフイリア等のシユードモナス属の細菌、ラクトバチルス・カゼイ、ストレプトコツカス・ラクチス、ラクトバチルス・アシドフイルス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブルガリカス等の乳酸菌、アセトバクター・アセチ、アセトバクター・オキシダンス、アセトバクター・ランセンス、アセトバクターロゼウム、アセトバクター・キシリニウム等の酢酸菌、サツカロミセス・セレビシエ、サツカロミセス・カールスベルゲンシス、ビヒア・フアーメンタス、ピヒア・メンブランアエフアシエンス、ハンゼヌラ・アノマーラ、ハンゼヌラ・サチユラナス、チゾサツカロミセス・ポンベ、チゾサツカロミセス・オクトスポラス、エンドミコプシス・フイブリガー等の酵母、ムコール・ラセモサス、ムコール・ジヤバニカス、リゾプス・ジヤポニカス、リゾプス・ジヤパニカス、アスパラギラス・ニガー等の糸状菌、ストレプトマイセス・グリセウス、ストレプトマイセス・アルバン、ストレプトマイセス・バルガー、ノカルデイア・オパカ、アクチノプラネス・ウタヘンシス、アクチノプラネス・ミリウリエンシス等の放線菌、ロドコッカス・ロドクロウス、ロドコッカス・グロベルルス、ロドコッカス・ルテウス、ロドコッカス ・エリスロポリス、ロドコッカス ・エクイ等のロドコッカス属細菌等が挙げられる。さらに、大腸菌(エシエリシア・コリ)のより具体的な例としては、例えば、K12株やB株等の野生株、あるいはそれら野生株由来の派生株であるC600株、W3110株、JM109株、XL1-Blue株、BL21(DE3)株等が挙げられる。また、ロドコッカス属細菌のより具体的な例としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウスATCC999株、ATCC12674株、ATCC17895株、ATCC15998株、ATCC33275株、ATCC184、ATCC4001株、ATCC4273株、ATCC4276株、ATCC9356株、ATCC12483株、ATCC14341株、ATCC14347株、ATCC14350株、ATCC15905株、ATCC15998株、ATCC17041株、ATCC19149株、ATCC19150株、ATCC21243株、 ATCC29670株、ATCC29672株、ATCC29675株、ATCC33258株、ATCC13808株、ATCC17043株、ATCC19067株、ATCC21999株、ATCC21291株、ATCC21785株、ATCC21924株、 IFO14894株、IFO3338株、NCIMB11215株、NCIMB11216株、JCM3202株、ロドコッカス・ロドクロウスJ1株(FERM BP-1478)、ロドコッカス ・グロベルルスIFO14531株、ロドコッカス ・ルテウスJCM6162株、JCM6164株、ロドコッカス ・エリスロポリスIFO12538株、IFO12320株、ロドコッカス ・エクイIFO3730株、JCM1313株等が挙げられる。これらの微生物は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)や、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター微生物材料開発室等の分譲機関からそれぞれ入手可能である。なお、本発明において、細胞が微生物である場合には、細胞を「菌」または「菌体」と称することがある。
動物細胞の具体的な例としては、例えば、サル細胞COS-7、Vero細胞、CHO細胞、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が挙げられる。昆虫細胞の具体的な例としては、例えば、Sf9細胞、Sf21細胞等が挙げられる。植物細胞の具体的な例としては、タバコBY-2細胞等が挙げられる。
また、上記細胞に加え、上記細胞に対して遺伝子操作が行われた細胞も、本発明における細胞の範囲に含まれる。遺伝子操作の種類に特段の限定はないが、例えば、細胞にベクターを導入する操作等が挙げられる。以下、本発明においては、このような操作を「形質転換」と呼ぶことがあり、形質転換がなされた細胞を「形質転換体」と呼ぶことがある。形質転換の一つの態様として、目的タンパク質を細胞で発現させるために、目的タンパク質をコードする遺伝子の上流に転写プロモーターを、必要に応じて下流にターミネーターを配置した発現ベクターを構築し、該発現ベクターを細胞に導入する操作が挙げられる。ベクターは、それぞれの細胞に適したものを使用することができ、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、人工染色体DNA等が挙げられる。例えば、大腸菌細胞に適したベクターとしては、大腸菌中での自律複製可能な領域を有しているpTrc99A(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)、pUC19(タカラバイオ、日本)、pKK233-2(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)、pET-12(Novagen社、ドイツ)、pET-26b(Novagen社、ドイツ)等を用いることができる。また、必要に応じてこれらベクターを改変したものも用いることができる。発現ベクターの構築に伴うDNAの切断および結合はいかなる方法でもよく、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法等を利用できる。その際、必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。
プロモーターの種類は細胞において適切な発現を可能にするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌において利用できるのものとしては、トリプトファンオペロンのtrpプロモーター、ラクトースオペロンのlacプロモーター、ラムダファージ由来のPLプロモーターおよびPRプロモーター等が挙げられ、tacプロモーター、trcプロモーターのように改変、設計された配列も利用できる。枯草菌細胞において利用できるものとしては、グルコン酸合成酵素プロモーター(gnt)、アルカリプロテアーゼプロモーター(apr)、中性プロテアーゼプロモーター(npr)、α−アミラーゼプロモーター(amy)等が挙げられる。ロドコッカス属細菌細胞において利用できるものとしては、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) SK92-B1株由来のニトリラーゼ発現調節遺伝子に係るプロモーター等が挙げられる。一方、ターミネーターは必ずしも必要ではないが、その種類も特段限定されるものではなく、例えばρ因子非依存性のもの、例えばリポプロテインターミネーター、trpオペロンターミネーター、rrnBターミネーター等が挙げられる。
また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列等のリボソーム結合配列が知られており、これらの配列を変異遺伝子の上流に挿入することもできる。原核生物を細胞に用いるときにはSD配列を、真核細胞を細胞に用いるときにはKozak配列をPCR法等により付加してもよい。SD配列としては、大腸菌由来または枯草菌由来の配列等が挙げられるが、大腸菌や枯草菌等の所望の細胞内で機能する配列であれば特に限定されるものではない。たとえば、16SリボゾームRNAの3’末端領域に相補的な配列が4塩基以上連続したコンセンサス配列をDNA合成により作製して利用してもよい。
ベクターには目的とする形質転換体を選別するための因子(選択マーカー)を含んでもよい。選択マーカーとしては、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子、資化性付与遺伝子等が挙げられ、目的や細胞に応じて選択されうる。例えば大腸菌で選択マーカーとして用いられる薬剤耐性遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
細胞へのベクターの導入方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。細胞が細菌である場合には、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、プロトプラスト法等が挙げられる。細胞が酵母である場合には、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。細胞が糸状菌である場合には、例えば、プロトプラスト法、パーティクルガン法等が挙げられる。細胞が動物細胞である場合には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。細胞が昆虫細胞である場合には、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が用いられる。細胞が植物細胞である場合には、例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
上述の細胞を培養するに際し、使用する培地は、細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、細胞を効率的に培養することができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。細胞が微生物である場合に用いられる炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物等が挙げられる。その他、ペプトン(牛乳、獣肉、魚肉あるいは大豆タンパク質由来)、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、必要に応じ、培養中の発泡を防ぐために消泡剤を添加してもよい。また、ビタミン等を必要に応じて適宜添加してもよい。また、培養中、ベクターおよび目的遺伝子の脱落を防ぐために選択圧を掛けた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合に相当する薬剤を培地に添加してもよく、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合に相当する栄養因子を培地から除いてもよい。また、選択マーカーが資化性付与遺伝子である場合は、相当する資化因子を必要に応じて唯一因子として添加することができる。例えば、アンピシリン耐性遺伝子を含むベクターで形質転換した大腸菌を培養する場合、培養中に、必要に応じてアンピシリンを培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときには、IAA等を培地に添加することができる。培地の滅菌方法は、培地を増殖能力のある微生物等が存在しない無菌状態にすることができる方法であればいかなる方法でもよく、例えば、加圧滅菌(オートクレーブ; 例えば121℃で20分間の加熱滅菌)やろ過滅菌(例えば孔径0.45μmまたは0.2μmのフィルターによるろ過)等が挙げられる。なお、加熱滅菌の際に培地成分同士の反応が懸念される場合等は、一またはそれ以上の培地成分を、それ以外の培地成分とは別個に滅菌し、滅菌後に混合してもよい。
細胞を培養する条件(培養条件)は、細胞の生育が妨げられず、かつ、目的タンパク質がその機能を有した形で適切に生産される条件であれば、特段限定されるものではない。培養温度は、例えば、10℃〜45℃、好ましくは10℃〜40℃、さらに好ましくは15℃〜40℃、さらにより好ましくは20℃〜37℃で行い、必要に応じて、培養中に温度を変更してもよい。培養時間は、例えば、5〜120時間、好ましくは5〜100時間、さらに好ましくは10〜100時間、さらにより好ましくは15〜80時間程度行う。培養前または培養中の培地のpHは、細胞の生育に適した値であればよく、必要に応じてpHの調整を行いながら培養することができる。例えば、細胞が大腸菌であればpH6〜9に調整する。pH調整剤としては無機または有機酸、アルカリ溶液等を用ることができる。
培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養等が挙げられ、細胞の生育に適した方法が選択される。例えば、大腸菌を培養する場合、培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄若しくは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン、抗生物質、誘導剤等を添加したものが用いられる。培地の初発pHは7〜9に調整するのが適当である。培養は、固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培養するのが好ましく、さらには、振盪培養または通気攪拌培養(ジャーファーメンター)による好気的条件下での培養が好ましい。通気攪拌培養を行う場合、その操作方式は限定されることなく、回分式(batch culture)、半回分式(fed-batch culture, semi-batch culture)および連続式(continuous culture)のいずれで行ってもよい。特に、高濃度培養により、装置あたり、時間あたり、費用あたり、または操作あたりの生産を高めたい場合には、半回分式培養を行うことができる。半回分式で用いられる流加(fed)培地成分は、初発(batch)培地成分と同一の組成のものを用いても、組成を変更してもよいが、初発培地と比較して培地成分濃度はより高濃度であることが好ましい。流加培地の体積は特段限定されることはないが、例えば、初発培地の1/2以下の体積を添加させることができる。流加培地を添加していく方法(feeding mode)としては、例えば、定流的流加法(constant)、指数的流加法(exponential)、段階的増加流加法(stepwise increase)、比増殖速度制御流加法(specific growth-rate control)、pHスタット流加法(pH-stat)、DOスタット流加法(DO-stat)、グルコース濃度制御流加法(glucose concentration control)、酢酸濃度モニタリング流加法(acetate concentration monitoring)、ファジー神経回路流加法(fuzzy neural network)等が挙げられるが、所望の細胞生育およびタンパク質生産が達成されるものであれば特段限定されるものではない。半回分式培養実施時の培養終了時期は、流加培地の投入終了後に限定される必要はなく、必要に応じて培養を継続し、所望の細胞生育およびタンパク質生産が達成される時点で培養終了とすることができる。
動物細胞を細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地またはこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。形質転換体が植物細胞または植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えばMS基本培地、LS基本培地等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法、液体培養法のいずれをも採用することができる。
培養によって得られた細胞は、必要に応じ、遠心分離や膜ろ過等の手段によって洗浄または濃縮を行うことができる。遠心分離は、細胞を沈降させる遠心力が供給できるものであれば特段限定されることはなく、円筒型や分離板型等を利用することができる。遠心力としては、例えば、500G〜20,000G程度で行うことができる。また、膜ろ過行う場合において利用できる膜としては、目的とする洗浄または濃縮を達成できれば、精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜いずれでもよいが、通常、精密ろ過(MF)膜を用いることが好ましい。精密ろ過は、例えば流動方向に基づけば、デッドエンド方式やクロスフロー(タンジェンシャルフロー)方式に分類でき、圧力の加え方に基づけば、重力式、加圧式、真空式、遠心力式等に分類でき、操作様式に基づけば、回分式と連続式等に分類することができるが、そのいずれをも利用することができる。MF膜の材質としては、高分子膜、セラミック膜、金属膜、およびそれらの複合型に大別でき、細胞または目的タンパク質の回収率(目的タンパク質が酵素である場合には、併せて活性回収率)を低下させるものでなければ特段限定されるものではないが、特に高分子膜、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、混合セルロースエステル、銅アンモニア法再生セルロースエステル、ポリイミド、ナイロン、テフロン(登録商標)等の使用が好ましい。膜の孔径としては、細胞を捕捉し、洗浄または濃縮操作が可能であればよく、通常、0.1〜0.5μm程度のものを用いることができる。
上記の洗浄または濃縮時には、水、または必要に応じて緩衝液、等張液を添加して希釈洗浄を行うこともできる。用いられる緩衝液は、細胞の適切な状態を維持し、目的タンパク質の回収率(目的タンパク質が酵素である場合には、併せて活性回収率)を低下させないものであれば特段限定されるものではなく、例えば、緩衝液成分濃度5〜500mM、好ましくは5〜150mM程度、pHとしては5〜9程度が挙げられる。緩衝液成分としては、緩衝能を期待するpH範囲によって異なるが、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、リン酸ナトリウムまたはカリウム塩、クエン酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。具体的には、例えば、20mMTris−硫酸緩衝液(pH8)、20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)等が挙げられる。また、等張液としては例えば、0.7〜0.9 %塩化ナトリウム溶液等が挙げられる。目的タンパク質を安定しうる物質等があればそれらを添加してもよい。
工程Bにおいては、上記のようにして得られた細胞を破砕して、タンパク質および細胞破砕片を含有する細胞破砕液を調製する。ここで、工程Bを実施する機会は、工程Cを行う前でも行った後でもよい。すなわち、細胞に両性界面活性剤を添加する前でも添加した後でも、細胞破砕処理を行うことができる。また、目的タンパク質の機能を消失させず、工程D、すなわち細胞破砕液からの細胞破砕片の除去を効率よく達成しうる限り、工程B行う回数は限定されない。すなわち、少なくとも1回以上の細胞破砕処理を行えばよい。
細胞の破砕方法としては、超音波処理、フレンチプレスやホモジナイザーによる高圧処理、ビーズミルによる磨砕処理、衝撃破砕装置による衝突処理、リゾチーム、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等が挙げられ、いずれかの方法を単独または必要に応じ組み合わせて利用することができる。細胞からの目的タンパク質回収率(目的タンパク質が酵素である場合には、タンパク質回収率に併せて活性回収率も含む。以下、同様。)が十分高いものであれば、破砕処理の種類は特段限定されることはない。十分高い目的タンパク質回収率あるいは活性回収率とは、例えば、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%、もっとも好ましくは99%以上である。工業的規模で細胞の破砕を行う場合は、操作性、回収率、コスト等を勘案し、例えば、高圧処理や磨砕処理、衝突処理あるいはこれら処理に酵素処理等を組み合わせた処理を行うことが好ましい。
ビーズミルによる磨砕処理を行う場合、用いられるビーズは、例えば、密度2.5〜6.0g/cm3、サイズ0.1〜1.0mmのものを通常80〜85%程度充填することにより破砕を行うことができ、運転方式としては回分式、連続式いずれをも採用することができる。細胞濃度は特段限定されないが、例えば、細菌であれば6〜12%程度、酵母であれば14〜18%程度とすればよい。
高圧処理を行う場合、処理圧力は、細胞からの目的タンパク質回収率が十分高いものであれば特段限定されないが、例えば、40〜200MPa程度、好ましくは60-150MPa程度、より好ましくは80-120MPa程度の圧力で破砕を行うことができる。細胞濃度は特段限定されないが、例えば、20%以下程度であればよい。必要に応じて、装置を直列に配置したり、複数ステージ構造の装置を用いたりすることにより、多段階処理を行い、破砕および操作効率を向上させることも可能である。通常、処理圧力10MPaあたり2〜3℃の温度上昇が生じることから、必要に応じて冷却処理を行うことが好ましい。
衝突処理の場合、例えば、細胞スラリーを予め噴霧急速凍結処理(凍結速度:例えば1分間当たり数千℃)等によって凍結微細粒子(例えば50μm以下)にしておき、これを高速(例えば約300m/s)の搬送ガスによって衝突板に衝突させることで効率的に細胞を破砕することができる。
上記のような処理を行うことで、細胞は破砕され、目的タンパク質を含む細胞内タンパク質が漏出し、細胞破砕片(破砕処理によって生じた細胞の一部)を含む細胞破砕液を得ることができる。なお、目的タンパク質と共に、細胞内の核酸も漏出し得る。漏出した核酸が原因で、処理液の粘度が上昇してハンドリングが困難になる場合、あるいは、後段の細胞破砕片除去工程において目的タンパク質回収率が低下する場合には、必要に応じて、核酸除去処理または核酸分解処理を行うことができる。細胞破砕液中の核酸を除去または分解する方法としては、目的タンパク質回収率を低下させず、かつ、核酸を除去または分解することができる方法であればいかなる方法でも良く、例えば、生化学実験講座5巻200〜201頁に記載されているように、細胞破砕液にプロタミン硫酸あるいはストレプトマイシンを添加することにより核酸を沈澱させる方法、核酸分解酵素で核酸を分解する方法、デキストラン−ポリエチレングリコールを用い液々分離を行う方法等が挙げられる。また、物理的破砕処理をさらに追加することも有効である場合がある。 これら方法のうち、特に、工程の煩雑化を避けつつ迅速に核酸を分解したい場合には、核酸分解酵素で核酸を分解する方法を採ることができる。核酸分解酵素処理に用いる核酸分解酵素は、少なくともデオキシリボ核酸(DNA)に作用し、核酸分解反応触媒能力を有し、DNA重合度を下げるものであればいかなるものでもよく、該形質転換体細胞内に本来存在する核酸分解酵素を利用してもよいが、別途、外因性の核酸分解酵素を添加してもよい。別途添加する核酸分解酵素としては、例えば、ウシ脾臓由来DNaseI(タカラバイオ、日本)、ブタ脾臓由来DNaseII(和光純薬、日本)、Serratia marcescens由来核酸分解酵素Benzonase Nuclease(タカラバイオ、日本)、Nuclease from Staphylococcus aureus(和光純薬、日本)等が挙げられる。添加する酵素量は酵素の種類やユニット数(U)の定義により異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。必要に応じて、核酸分解酵素に要求されるマグネシウム等の補因子を添加しても良い。処理温度は用いる核酸分解酵素によって異なるが、常温生物種由来の核酸分解酵素であれば、例えば、20〜40℃の温度が用いられる。
工程Cにおいては、両性界面活性剤を添加する。ここで、両性界面活性剤を添加する対象は、工程Bで得られた細胞破砕液でも、工程Aで得られた細胞でもよい。すなわち、工程Bと工程Cを実施する順序はいずれが先でもよい。また、目的タンパク質の機能を消失させず、工程D、すなわち細胞破砕液からの細胞破砕片の除去を効率よく達成しうるものであれば、工程Cを行う回数は限定されない。すなわち、一定量の両性界面活性剤を一度に添加しても、複数回に分けて添加してもよい。
一般に、界面活性剤とは、少量で界面または表面の性質を変化させる物質であり、両性界面活性剤とは、界面活性剤のうち、水に溶解してイオンに解離し、分子内に陽イオン性官能基と陰イオン性官能基を一つ以上有する界面活性物質を言う。両性界面活性剤は、塩基性条件下は陰イオン性を、酸性条件下では陽イオン性を示す。本発明において用いる両性界面活性剤は、目的タンパク質の機能(目的タンパク質が酵素である場合にはその活性をいう。以下、同様。)を消失させずに工程D、すなわち細胞破砕液からの細胞破砕片除去を効率よく達成しうるものであれば如何なるものでもよいが、分子内の陰イオン性官能基がカルボン酸またはスルホン酸であることが好ましく、その分子量は1000以下であることが好ましい。本発明において用いることが好ましい両性界面活性剤の具体的な態様としては、例えば、アルキルアミノ脂肪酸またはその塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドが挙げられ、より好ましくはアルキルジアミノエチルグリシンおよびその塩が挙げられ、さらに具体的には塩酸アルキルジアミノエチルグリシンおよびアルキルジアミノエチルグリシンナトリウムが挙げられる。
これらの両性界面活性剤は、単独若しくは二種類以上を組み合わせて用いることができ、さらには他の物質、例えば高分子凝集剤等と組み合わせて用いることを妨げない。細胞破砕液または細胞への両性界面活性剤の添加量は、その種類や細胞濃度によって異なり、目的タンパク質の機能を消失させずに工程D、すなわち細胞破砕液からの細胞破砕片の除去を効率よく達成しうる濃度であれば限定されるものではない。例えば、大腸菌細胞破砕液に対して塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加する場合、破砕した大腸菌細胞の乾燥質量100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは2〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部、さらに好ましくは10〜20質量部を添加すればよい。細胞破砕液または細胞に両性界面活性剤を添加した後は、両性界面活性剤が均一に溶解するように撹拌を行う。 例えば、1分間から24時間、好ましくは3分間から12時間、より好ましくは5分間から1時間程度撹拌する。両性界面活性剤が均一に溶解した後は、静置することもできる。細胞破砕液または細胞に両性界面活性剤を添加する際または添加後の温度およびpHは、目的タンパク質の機能を消失させずに工程D、すなわち細胞破砕液からの細胞破砕片除去を効率よく達成しうる濃度であれば限定されるものではない。例えば、温度は0℃〜50℃、好ましくは0〜30℃、さらに好ましくは0〜10℃とすればよく、pHは4〜10、好ましくは5〜9、さらに好ましくは6〜8とすればよい。pHの調整が必要な場合には、酸またはアルカリを添加したり、緩衝液を加えたりしてもよい。また、目的タンパク質を安定化するような物質を添加してもよい。
両性界面活性剤の添加後に細胞または細胞破砕片に見かけ上の変化が生じることは必ずしも必要ではないが、例えば、細胞破砕液に両性界面活性剤を添加した場合は、細胞破砕液中の細胞破砕片の大きさが変化することが好ましい。例えば、細胞の培養条件や保存状態、破砕方法にもよるが、大腸菌細胞破砕片を高圧(100MPa)で2回破砕して得られる細胞破砕液に含まれる細胞破砕片の平均粒径は、通常、0.5μm〜1μm程度であるが、本発明に従って両性界面活性剤を添加すると、平均粒径は1.5μm以上になり得る。細胞破砕片の平均粒径は、例えば、画像解析法、コールター法、遠心沈降法、レーザー回折散乱法などにより求めることができる。
工程Dにおいては、工程Bおよび工程Cを実施した細胞破砕液から細胞破砕片を除去する(工程D)。
細胞破砕片を除去する方法としては、自然沈降、遠心分離、ろ過等の方法を用いることができる。好ましくは、遠心分離またはろ過である。
遠心分離は前述のとおり行うことができる。すなわち、細胞を沈降させる遠心力が供給できるものであれば特段限定されることはなく、円筒型や分離板型等を利用することができる。遠心力としては、例えば、500G〜20,000G程度で行うことができる。本発明に従い、細胞破砕液に両性界面活性剤をすることにより、細胞破砕片は沈殿しやすくなり、効率よく分離を行うことができる。
ろ過は、MF膜またはUF膜を用いたろ過は前述の通り行うことができる。本発明における好ましい態様の一つとして、ろ過助剤を併用したろ紙またはろ布による加圧ろ過が挙げられる。ろ紙は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除去でいるものであれば如何なるものでもよく、精製した綿繊維(セルロース)主体としたものあるいはガラス繊維ろ紙等が挙げられ、例えば、JIS P3801の規定による定性分析用(1〜4種)および定量分析用(5種A〜Cおよび6種)のいずれかを用いることができる。好ましくは、3種、5種A、5種B、6種、7種等を用いることができる。また、ろ布も、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除去でいるものであれば如何なるものでもよい。ろ布の材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、塩化ビニリデン、ビニロン、綿等のものを用いることができる。ろ布の糸の形態としては、例えば、スパン糸(短繊維糸) 、マルチフィラメント糸(長繊維糸) 、モノフィラメント糸(長単繊維糸) 、分割型極細繊維糸等のものを用いることができる。ろ布の組織としては、平織、綾織、二重織、フェルト、朱子織等が挙げられる。ろ布の通気性としては、例えば、0.01〜50(cm3/cm2・sec)ものを用いることができる。なお、工業的スケールでの加圧ろ過の具体的な型式としては、フィルタープレス(圧搾ろ過)、加圧葉状ろ過機、連続加圧式ドラムフィルター、スクリュープレス、ベルトプレス等が挙げられる。例えば、フィルタープレスを用いて行うことができる。
ろ紙またはろ布と併用するろ過助剤は、細胞破砕液から細胞破砕片を効率よく除去できるものであれば如何なるものでもよい。例えば、珪藻土、パーライト(真珠岩)のほか、活性炭、セルロース系ろ過助剤等も用いることができる。珪藻土の具体的な例としては、例えば、ラジオライト#100、#200、#300、#500、#500S、#600、#700、#800、#800S、#900、#2000、#3000、ファインフローA、ファインフローB、スパークルフローおよびスペシャルフロー(昭和化学工業(株)、日本)、セライトFilter Cel、#577、Standard Super Cel、#512、Hyflo Super Cel、#503、#535、#545および#560(ワールドミネラルズ社、米国)、ダイカライト#215、Superaid、UF、Speedflow、#231、Speedplus、#375、SpeedEX(グレフコ社、米国)等を挙げられる。パーライトの具体的な例としては、トプコ#31、#34、#36および#38(昭和化学工業(株)、日本)、ロカヘルプ#419、#429、#439、#479、#4109、#4159および#4189(三井金属鉱業(株)、日本)等が挙げられる。活性炭の具体的な例としては、白鷺C、白鷺M、白鷺A、白鷺P、カルボラフィン、強力白鷺、精製白鷺および特製白鷺(日本エンバイロケミカルズ(株)、日本)、クラレコールPW、PKおよびPDX(クラレケミカル(株)、日本)等が挙げられる。セルロース系ろ過助剤の具体的な例としては、KCフロックW-50、W-100G、W-200G、W-300GおよびW-400G(日本製紙ケミカルス(株)、日本)、セラ・フロックおよびアルボセル(昭和化学工業(株)、日本)等が挙げられる。
ろ過助剤は、プリコートまたはボディーフィードのいずれかの方法により用いることができる。プリコートとは、ろ材面にろ過助剤の薄い皮膜を形成する工程または方法をいう。プリコートを行うことにより、ろ過の初期から清澄度の高いろ液を得ることができる。また、細胞破砕片が含まれたろ過ケーキの剥離を容易にし、ろ材の目詰まりを防止することができる。プリコートに用いるろ過助剤を懸濁する液は、細胞破砕液の一部を用いてもよい。また、単に水または緩衝液を用いてもよい。プリコートに用いるろ過助剤量としては、例えば、0.5kg/m2〜2kg/m2が挙げられる。
ボディーフィードとは、原液(細胞破砕液)にろ過助剤を添加しながらろ過を行う方法をいう。ボディーフィードを行うことにより、圧縮性粒子の抵抗が小さくなり、時間当たりのろ過量が増大し、かつろ材が目詰まりを起こすまでの時間も延長することができる。ボディーフィードに用いるろ過助剤の量は、ろ過を効率よく行いうる量であれば限定されるものではなく、また、細胞の種類やその培養条件あるいは破砕方法、添加する両性界面活性剤の種類や濃度、ろ過助剤の種類等によって適宜選択される。例えば、破砕した大腸菌細胞の乾燥質量100質量部に対し、50〜500質量部、好ましくは100〜500質量部、より好ましくは150〜500質量部の量を用いることができる。
ろ過時の圧力は、ろ過を効率よく行いうる圧力であれば限定されるものではなく、ろ材の耐圧等を考慮して定めればよい。例えば、0.05MPa〜1MPa、好ましくは0.1MPa〜1MPa程度、より好ましくは0.2MPa〜1MPa程度の圧力で行うことができる。
得られたろ液は、目的タンパク質を含むタンパク質含有溶液とすることができる。タンパク質含有溶液は、必要に応じ、酸、アルカリあるいは緩衝液成分を添加してpHを調整したり、目的タンパク質を安定化するような物質を添加したりすることもできる。該タンパク質溶液は、その用途に供するまでの間、目的タンパク質の機能(目的タンパク質が酵素である場合にはその活性)が消失しない条件において、保存することができる。保存時の温度は、冷蔵保存を行う場合には、例えば、0℃〜50℃、好ましくは0〜30℃、さらに好ましくは0〜10℃とすればよく、冷凍保存を行う場合には、例えば、-80℃〜0℃とすればよい。保存時のpHは、例えば、4〜10、好ましくは5〜9、さらに好ましくは6〜8とすればよい。
また、該タンパク質含有溶液は、必要に応じ、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィー(例えばゲル濾過クロマトグラフィー(例えばSephadexカラム)、イオン交換クロマトグラフィー(例えばDEAE-Toyopearl)、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー(例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィー(例えばMonoQカラム)等)、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等等の処理に供し、目的タンパク質を濃縮、単離または精製することもできる。
かくして得られたタンパク質含有溶液は、タンパク質の機能に従い、目的とする用途に使用することができる。目的タンパク質が酵素である場合には、適切な基質と接触させることにより、酵素反応の触媒として利用することができる。また、必要に応じ、目的タンパク質を固定化して酵素反応の触媒としてもよい。固定化の方法および固定化担体としては、例えば、担体結合法による多糖(セルロース,アガロース)や無機物質(多孔質ガラス,金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド,ポリスチレン樹脂)等への固定化、架橋法によるグルタルアルデヒド等への固定化、包括法による多糖(アルギン酸,カラギーナン)、ポリアクリルアミド、ナイロン等への固定化等が挙げられる。
ここで、本発明におけるタンパク質の具体的な態様の一つとして、ハロヒドリンエポキシダーゼについて詳細に説明する。
ハロヒドリンエポキシダーゼは、ハロヒドリンハイドロゲンハライドリアーゼ、ハロヒドリンデハロゲナーゼまたはハロアルコールデハロゲナーゼとも称され、後述するように、1,3−ジハロ−2−プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性およびその逆反応を触媒する活性を有する酵素(EC number: 4.5.1.-)である。ハロヒドリンエポキシダーゼは、アミノ酸配列の相同性などから、3つのグループ(グループA, グループB、グループC)に大別される(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)。グループAに属するハロヒドリンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheA(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451-1457, 1994)、アースロバクター属(Arthrobacter sp.)AD2株由来のHheAAD2(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)、アースロバクター属(Arthrobacter sp.)PY1株由来のDeh-PY1(J. Health. Sci.50 (6), 605-612, 2004)などが挙げられる。グループBに属するハロヒドリンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheB(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451 (1994))、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheBGP1(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)、アースロバクター エリシー(Arthrobacter erithii)H10a株由来のDehA(Enz. Microbiol. Technol. 22, 568-574, 1998)などが挙げられる。グループCに属するハロヒドリンエポキシダーゼとしては、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheC(J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001)、アグロバクテリウム チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalB(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=protein&val=4960076#feature_4960076)などが挙げられる。
ここで、上記のハロヒドリンエポキシダーゼは、いわゆる野生型ハロヒドリンエポキシダーゼである。野生型ハロヒドリンエポキシダーゼとは、自然界の生物より分離されうるハロヒドリンエポキシダーゼを指し、該酵素を構成するアミノ酸配列において、意図的または非意図的なアミノ酸の欠失、付加、挿入、もしくは他のアミノ酸への置換がなく、天然由来の属性を保持したままのハロヒドリンエポキシダーゼを意味する。
上述した野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのうち、アミノ酸配列が明らかにされているものについては、米国生物工学情報センター (NCBI; National Center for Biotechnology Information) により提供されるGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein)において、以下のAccession No.により登録されている。
Accession No. BAA14361(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheAのアミノ酸配列)
Accession No. AAK92100(アースロバクター属(Arthrobacter sp.)AD2株由来のHheAAD2のアミノ酸配列)
Accession No. BAA14362(コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のHheBのアミノ酸配列)
Accession No. AAK73175(マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)GP1株由来のHheBGP1のアミノ酸配列)
Accession No. AAK92099(アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株由来のHheCのアミノ酸配列)
Accession No. AAD34609(アグロバクテリウム チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) 由来のHalBのアミノ酸配列)
本発明で例示するハロヒドリンエポキシダーゼには、上記野生型ハロヒドリンエポキシダーゼに加え、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または他のアミノ酸残基への置換が生じたハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、ハロヒドリンエポキシダーゼ変異体と称することがある)をも含む。特に、ハロヒドリンエポキシダーゼ変異体のうち、酵素としての性能が向上したもの(改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ)は、本発明の方法により製造される好適なタンパク質の一例である。
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼとしては、例えば、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能などが向上したもの等が挙げらる。これら改良型ハロヒドリンエポキシダーゼには、例えば、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも高くなる属性を有するもの、基質1,3−ジハロ−2−プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成させた場合の該生成物の光学純度が、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼにより同基質から同生成物を生成させた場合の該生成物の光学純度よりも高くなるという属性を有するもの、1,3−ジハロ−2−プロパノールまたはエピハロヒドリンからの生成物である塩化物イオンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルによる反応阻害に対する耐性が野生型ハロヒドリンエポキシダーゼよりも向上しているもの、基質1,3−ジハロ−2−プロパノールまたはエピハロヒドリンから、エピハロヒドリンまたは4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成させる場合に、生成物を高濃度生成および蓄積させることができるという属性を有するものなどが含まれる。
1,3−ジハロ−2−プロパノールとは、以下に示す化合物である。
Figure 0005132983
(式中、X1、X2はハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以下、「DCP」と称することがある)、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード−2−プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。
エピハロヒドリンとは、以下に示す化合物である。
Figure 0005132983
(式中、Xはハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン(以下、「ECH」と称することがある)、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、以下に示す化合物である。
Figure 0005132983
(式中、Xはハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(以下、「CHBN」と称することがある)、4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリル等が挙げられ、好ましくは、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリルである。
エピハロヒドリンは種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質である。例えば、(R)−エピハロヒドリンの開環シアノ化によって得られる(R)−(−)−4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、L−カルニチンの合成原料として有用であることが知られている(特開昭57−165352号公報)。
本発明において、「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、1,3−ジハロ−2−プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性およびその逆反応を触媒する活性を意味する。「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」は、時間あたりの1,3−ジハロ−2−プロパノールからのエピハロヒドリン生成量または塩化物イオン生成量を測定することにより求めることができる。エピハロヒドリン生成量は、例えば、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどによって定量することができる。また、塩化物イオン生成量は、例えば、その塩化物イオンの生成に伴って低下するpHをある一定の値に保つように連続的または断続的にアルカリ溶液を添加し、時間あたりに要したアルカリの量から便宜的に求めることができる。この方法により算出されるハロヒドリンエポキシダーゼ活性を、特に「脱クロル活性」あるいは単に「活性」と呼ぶことがある。また、改良型ハロヒドリンエポキシダーゼに対する抗体を作製し、ウェスタンブロットやELISA法などの免疫学的手法によっても算出することが可能である。その他、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が形質転換体内における発現量と比例すると仮定する場合は、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性が既知であるサンプルと比較することなどにより、SDS-PAGEなどの分析手段によっても間接的に求めることができる。SDS-PAGEは当業者であれば公知の方法を用いて行うことができる。
なお、少なくとも一部のハロヒドリンエポキシダーゼについては、上述の「ハロヒドリンエポキシダーゼ活性」に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリンを開環シアノ化して4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒する活性を有する。すなわち、上述した1,3−ジハロ−2−プロパノールをエピハロヒドリンに変換する活性およびその逆反応を触媒する活性に加え、シアン化合物の存在下にエピハロヒドリンを開環シアノ化して4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを生成する反応を触媒することが明らかになっている。
その反応を利用した例として、1,3−ジハロ−2−プロパノールから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特開平03−053889号公報、特開2001−25397号公報)およびエピハロヒドリンから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特開平03−053890号公報)が知られている。この場合におけるシアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム(以下、「KCN」と称することがある)、シアン化ナトリウム、シアン酸又はアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN)又はシアン化水素を生じる化合物又はその溶液等が挙げられる。
本発明おいて、「形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、「形質転換体乾燥菌体単位質量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」を意味し、「菌体比活性」とも称する(なお、本明細書中、乾燥菌体を「DC」と称することがある)。また、「可溶性タンパク質あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」とは、「可溶性タンパク質単位質量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性」を意味し、「タンパク比活性」とも称する。さらに、本発明においては、便宜的に、一定量の形質転換体からは一定量の可溶性タンパク質を得ることができるものとし、「菌体比活性」は「タンパク比活性」に比例するものとする。すなわち、「タンパク比活性」が高ければ(低ければ)、「菌体比活性」が高い(低い)ものとする。また、本発明において、「液活性」とは、単位溶液量あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性を意味する。「液活性」を、その溶液の菌濃度あるいは可溶性タンパク質濃度で除することにより、「菌体比活性」あるいは「タンパク比活性」を算出することができる。また、本発明において「活性回収率」とは、一定の操作前の活性を100%として、操作後に回収された活性の相対比(%)を意味する。また、「光学活性」なる語は、一方の鏡像異性体が他方の鏡像異性体よりも多く含まれている物質の状態、またはいずれか一方の鏡像異性体のみから成っている物質の状態を言う。また、「光学純度」とは、「鏡像異性体過剰率(%ee)」にほぼ等しいものであるとし、次式で定義するものとする。
光学純度≒鏡像異性体過剰率=100×(|[R]-[S]|)/([R]+[S]) (%ee)
ここで[R]と[S]は資料中の鏡像異性体のそれぞれの濃度を示す。また、「立体選択性」とは、ハロヒドリンエポキシダーゼが、基質から生成物を生成する際に、いずれか一方の鏡像異性体が生成する反応を優先的に触媒する性質を言うものとする。
前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製は、疎水クロマトグラフィー(例えばbutyl Toyopearl)、陰イオンクロマトグラフィー(例えばMonoQカラム)等、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動等を単独でまたは適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からハロヒドリンエポキシダーゼを単離精製することができる。単離したハロヒドリンエポキシダーゼは、上述の細胞または菌体と同様に、適当な担体に保持し固定化酵素として使用することもできる。
上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼは、酵素触媒として物質生産に利用することができる。すなわち、以下(1)〜(3)に示す変換反応に供することができる。
(1)1,3−ジハロ−2−プロパノールのエピハロヒドリンへの変換
本変換反応は、1,3−ジハロ−2−プロパノールを上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接触させることにより行う。基質である1,3−ジハロ−2−プロパノールは、式(1)に示す化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード−2−プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。
変換反応液中の基質濃度は、 0.01〜15(W/V) %が好ましい。この範囲内であると酵素安定性の観点から好ましく、0.01〜10%が特に好ましい。基質は反応液に一括添加あるいは分割添加することができる。分割添加により基質濃度を一定にすることが蓄積性の観点から望ましい。
反応液の溶媒としては、酵素活性の最適pH4〜10の付近である水または緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o-フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、Tris緩衝液あるいはグッド緩衝液等が好ましい。
反応温度は、5〜50℃、反応 pH は4〜10の範囲で行うことが好ましい。
反応温度は、より好ましくは10〜40℃である。反応 pHは、より好ましくはpH6〜9である。反応時間は基質等の濃度、菌体濃度あるいはその他の反応条件等によって適時選択するが、1〜120 時間で終了するように条件を設定するのが好ましい。尚、本反応においては、反応の進行に伴い生成する塩素イオンを反応系内から取り除くことにより、光学純度をより一層向上させることができる。この塩素イオンの除去は、硝酸銀等の添加によって行うことが好ましい。
反応液中に生成、蓄積したエピハロヒドリンは公知の方法を用いて採取および精製することができる。例えば、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することによりエピハロヒドリンのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
(2)1,3−ジハロ−2−プロパノールの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルへの変換
本変換反応は、1,3−ジハロ−2−プロパノールを上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接触させることにより行う。
基質である1,3−ジハロ−2−プロパノールは、式(1)に示す化合物である。
好ましくは1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール等である。
また、シアン化合物としては、シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸又はアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN−)又はシアン化水素を生じる化合物又はその溶液を用いることができる。反応液中の基質濃度は、 酵素安定性の観点から0.01〜15(W/V) %が好ましく、0.01〜10%が特に好ましい。
また、シアン化合物の使用量は、酵素安定性の観点から基質の1〜3倍量(モル)が好ましい。
反応条件は、上記(1)と同様に行うことができる。
反応液中に生成、蓄積した4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは公知の方法を用いて採取および精製することができる。例えば、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチル等の溶媒で抽出を行い、減圧下に溶媒を除去することにより4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
(3)エピハロヒドリンの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルへの変換
本変換反応は、エピハロヒドリンを上述のようにして製造されたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液またはそれに含まれるハロヒドリンエポキシダーゼと接触させることにより行う。
基質であるエピハロヒドリンは、式(2)に示す化合物である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
また、シアン化合物はシアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸又はアセトンシアンヒドリン等の反応液中に添加した際にシアンイオン(CN−)又はシアン化水素を生じる化合物又はその溶液を用いることができる。
反応条件、採取および精製方法は、上記(2)と同様に行うことができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
発現プラスミドおよび形質転換体の作製
コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)N-1074株由来のハロヒドリンエポキシダーゼHheB(Biosci. Biotechnol. Biochem. 58 (8), 1451 (1994))であって、2番目の開始コドンから翻訳されるHheB(2nd)のアミノ酸配列(配列番号1)において、
(1) N末端から2番目のアラニン残基がリジン(A2Kと称す)に、199番目のアスパラギン酸残基がヒスチジン(D199Hと称す)にそれぞれ置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、HheB(2nd)-D199Hと呼ぶことがあり、そのアミノ酸配列は配列番号2で示される)を発現する発現プラスミドpSTK002-D199H、
(2) N末端から2番目のアラニン残基がリジンに、133番目のスレオニン残基アラニン(T133Aと称す)に、199番目のアスパラギン酸残基がヒスチジンにそれぞれ置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、HheB(2nd)-T133A+D199Hと呼ぶことがあり、そのアミノ酸配列は配列番号3で示される)を発現する発現プラスミドpSTK002-T133A+D199H、
(3) N末端から2番目のアラニン残基がリジンに、133番目のスレオニン残基アラニンに、136番目のフェニルアラニン残基がセリン(F136Sと称す)に、199番目のアスパラギン酸残基がヒスチジンにそれぞれ置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ(以下、HheB(2nd)-T133A+F136S+D199Hと呼ぶことがあり、そのアミノ酸配列は配列番号4で示される)を発現する発現プラスミドpSTK002-T133A+F136S+D199H、
をそれぞれ以下のように作製した。発現ベクターとしてpKK233-2(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)を、宿主として大腸菌W3110株を用いた。
まず、発現プラスミドpSTK002を鋳型とし、プライマーMDH-09およびMDH-10を用いて、D199H部位特異的変異の導入を行った。なお、プラスミドpSK002は、以下のように調製した。
まずは、翻訳開始コドンによりコードされるアミノ酸残基の1残基下流のアミノ酸残基(2番目のアミノ酸残基)がリジンに置換された改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する発現プラスミド(発現ベクターpKK233-2)を以下のように作製した。
まず、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子hheB(2nd)をPCRにより増幅した。PCR反応液組成(全量50μl)は表1の通りである。
<表1>
Figure 0005132983
プライマーとして用いたオリゴヌクレオチドの配列は以下の通りである。

DH-09:GATCATGAAAAACGGAAGACTGGCAGGCAAGCG(配列番号5:33ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素BspHI認識部位(TCATGA)およびハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子hheB(2nd)の翻訳開始コドン以降を有し、2番目のアミノ酸に対応するコドンはAAAでリジンをコードする)
DH-07:CGCCTGCAGGCTACAACGACGACGAGCGCCTG (配列番号6:32ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素Sse8387I兼PstI認識部位(CCTGCAGG)およびハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子hheB(2nd)終止コドン下流領域を有する)
また、鋳型として用いたpST111は、特公平5−317066公報に記載されており、pST111を含む組換えベクターによる大腸菌形質転換体JM109/pST111は、受託番号「FERM P-12065」として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3年3月1日付けで寄託されている。
調製した50μlのPCR反応液をそれぞれ表2の熱サイクル処理に供した。
<表2>
Figure 0005132983
熱サイクル処理を行ったのPCR反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(GEヘルスケアバイオサイエンス)により精製した後、制限酵素BspHIとPstIで、二重消化を行った。消化産物をアガロースゲル電気泳動で分離後、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むバンド(約0.8kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)で精製した。一方、pKK233-2(Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS)、オランダ;http://www.cbs.knaw.nl/)の誘導体であり、WO2006/041226号に記載の方法により調製することができる発現ベクターpKK233-2(+Sse)を、制限酵素NcoIとPstIで消化後、フェノール抽出・クロロホルム抽出・エタノール沈殿(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)))により精製した。これを、上述のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むPCR増幅産物と混合した後、該混合液にSolution I(DNA Ligation Kit ver.2(タカラバイオ)を添加してライゲーション混合物を作った。この混合物を12時間、16℃でインキュベートすることでPCR増幅産物と発現ベクターpKK233-2(+Sse)を結合した。
予め調製しておいた大腸菌JM109株コンピテントセル(大腸菌 JM109株をLB培地(1% バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1mlに接種し37℃、5時間好気的に前培養した後、前培養液 0.4mlをSOB培地 40ml(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl 、2.5mM KCl 、1mM MgSO4 、1mM MgCl2 ) に加え、18℃で20時間培養し、得られた培養物を遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)により集菌した後、冷TF溶液 (20 mM PIPES−KOH (pH 6.0)、200 mM KCl 、10 mM CaCl2 、40mM MnCl2)を13 ml加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)して上清を除いき、得られた大腸菌菌体を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて-80℃にて保存しておいたもの)200μlを、上記ライゲーション産物10μlに加え、0℃で30分放置した。続いて、当該コンピテントセルに42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC 培地 (20 mM グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl、2.5 mM KCl、1 mM MgSO4、1mM MgCl2)を1ml添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液200μlを、LB Amp寒天培地(アンピシリン 100mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地)に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を、1.5mlのLB Amp培地(アンピシリン 100mg/Lを含有するLB培地)にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて組換えプラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000(ベックマン・コールター)を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされているPCR増幅産物の塩基配列を解析し、PCR反応におけるエラー変異が生じていないことを確認した。PCR増幅由来DNA断片がクローニングされたプラスミドをpSTK002と命名し、また、そのプラスミドを含む大腸菌JM109株形質転換体を、JM109/pSTK002と命名した。
上記プラスミドpSTK002の特徴は以下の通りである。
2番目のアミノ酸残基(アラニン残基)がリジンに置換されている改良型ハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)をコードする改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子が発現ベクターpKK233-2上にクローニングされている。
次に、T133A、F136SおよびD199Hの各アミノ酸残基置換を生じさせるプライマーとして、以下のものを作製した。
・MDH-09:CGACTGCCCGAGAGCACGCGCTGCTCGCG(配列番号7:29ヌクレオチドからなり、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の199番目のアスパラギン酸残基をコードするコドン(GAC)がヒスチジンをコードするコドン(CAC)に変更されているセンスプライマー)
・MDH-10:CGCGAGCAGCGCGTGCTCTCGGGCAGTCG(配列番号8:29ヌクレオチドからなり、MDH-09の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
・MDH-05:CGCTGGCCTACAGCGCGGCGCGTTTCGCT(配列番号9:29ヌクレオチドからなり、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の133番目のスレオニン残基をコードするコドン(ACG)がアラニンをコードするコドン(GCG)に変更されているセンスプライマー)
・MDH-06:AGCGAAACGCGCCGCGCTGTAGGCCAGCG(配列番号10:29ヌクレオチドからなり、MDH-06の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
・MDH-28:CGCTGGCCTACAGCGCGGCGCGTTCCGCT(配列番号11:29ヌクレオチドからなり、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるハロヒドリンエポキシダーゼHheB(2nd)の133番目のスレオニン残基をコードするコドン(ACG)がアラニンをコードするコドン(GCG)に、136番目のフェニルアラニン残基をコードするコドン(TTC)がセリンをコードするコドン(TCC)にぞれぞれ変更されているセンスプライマー)
・MDH-29:AGCGGAACGCGCCGCGCTGTAGGCCAGCG(配列番号12:29ヌクレオチドからなり、MDH-28の相補配列を有するアンチセンスプライマー)
部位特異的変異導入はQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (STRATAGENE社)によって行った。反応液組成(全量50ul)は表3のとおりとした。
<表3>
Figure 0005132983
上記組成の各反応液について、表4の熱サイクル処理を行った。
<表4>
Figure 0005132983
添付のマニュアルに従い、熱サイクル処理を行った各反応液にDpnIを1ul添加し、37℃で1時間インキュベートした。
大腸菌W3110株コンピテントセルは、大腸菌 W3110株をLB培地(1% バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5% NaCl) 1mlに接種し、37℃、5時間好気的に前培養した後、前培養液 0.4mlをSOB培地 40ml(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl 、2.5mM KCl 、1mM MgSO4 、1mM MgCl2 ) に加え、18℃で20時間培養し、得られた培養物を遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)により集菌した後、冷TF溶液 (20 mM PIPES−KOH (pH 6.0)、200 mM KCl 、10 mM CaCl2 、40mM MnCl2)を13 ml加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離(3,700×g、10分間、4℃)して上清を除き、得られた大腸菌菌体を冷TF溶液 3.2 mlに懸濁し、0.22 mlのジメチルスルホキシドを加え0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて-80℃にて保存しておいたものを使用した。
その大腸菌W3110株コンピテントセルを融解した溶液200ul に、上記DpnI処理液に加え、0℃で30分放置した。続いて、42℃で30秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC 培地 (20 mM グルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10 mM NaCl 、2.5 mM KCl 、1 mM MgSO4 、1mM MgCl2) 1mlを添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液を各200ulずつ、 LB Amp寒天培地(アンピシリン 100mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地)に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を 1.5mlのLB Amp培地(アンピシリン 100mg/Lを含有するLB培地)にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep(GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いて組換えプラスミドを回収した。
キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000(ベックマン・コールター)を用いて、添付のマニュアルに従って塩基配列を解析し、HheB(2nd)遺伝子にD199H部位特異的変異が導入されていることを確認した。該プラスミド、該プラスミドを含む大腸菌W3110株形質転換体、該形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキシダーゼタンパク質をそれぞれpSTK002-D199H、W3110/pSTK002-D199HおよびHheB(2nd)-D199Hと命名した。
続いて、T133A部位特異的変異の導入を行った。鋳型としてpSTK002-D199Hを、センスプライマーとしてMDH-05を、アンチセンスプライマーとしてMDH-06を用いること以外は、上述したD199H部位特異的変異の場合と同様に、部位特異的変異導入、大腸菌W3110株形質転換、プラスミド抽出および配列確認行った。得られたプラスミド、該プラスミドを含む大腸菌W3110株形質転換体および該形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキシダーゼタンパク質をそれぞれpSTK002-T133A+D199H、W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびHheB(2nd)-T133A+D199Hと命名した。
さらに、F136S部位特異的変異の導入を行った。鋳型としてpSTK002-T133A+D199Hを、センスプライマーとしてMDH-28を、アンチセンスプライマーとしてMDH-29を用いること以外は、上述したD199H部位特異的変異の場合と同様に、部位特異的変異導入、大腸菌W3110株形質転換、プラスミド抽出および配列確認行った。得られたプラスミド、該プラスミドを含む大腸菌W3110株形質転換体および該形質転換体により生産されるハロヒドリンエポキシダーゼタンパク質をそれぞれpSTK002-T133A+F136S+D199H、W3110/pSTK002-T133A+F136S+D199HおよびHheB(2nd)-T133A+F136S+D199Hと命名した。
細胞の培養および細胞破砕液の調製
実施例1で得られた大腸菌形質転換体W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199Hの培養を以下のように行った。
W3110/pSTK002-T133A+D199HおよびW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199Hのコロニーをそれぞれ、500mlフラスコ中に調製した100mlの前培養培地(ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス 5g/L、リン酸二水素カリウム 1.5g/L、アンピシリンナトリウム0.1g/L;pH7.2)に植菌し、温度37℃、回転数210rpmにて、6時間振とう培養を行った。前培養培地は、アンピシリンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して100mlにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を無菌条件下にて100ul添加して調製した。得られた各前培養液20mlを、3Lジャーファーメンター中に調製した1.6Lの本培養初発培地(フルクトース 40g/L、ポリペプトンN 20g/L、酵母エキス 5g/L、リン酸水素二カリウム 1.5g/L、硫酸マグネシウム七水和物 2.375g/L、硫酸マンガン五水和物 0.2g/L、塩化カルシウム二水和物 0.02g/L、硫酸亜鉛七水和物 0.02g/L、アンピシリンナトリウム 0.1g/L、プルロニックL-61(株式会社ADEKA、日本) 0.5g/L)に2本ずつぞれぞれ植菌し、温度37℃、回転数750rpm、通気量2L/min、常圧、pH6.8-7.2制御(水酸化ナトリウム25%水溶液および硫酸24%水溶液を使用)で培養を行った。本培養初発培地は、必要量のフルクトースを水に溶解して400mlにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものと、フルクトースおよびアンピシリンナトリウム以外の各成分必要量を水に溶解して1.2Lにメスアップした後に加熱滅菌(121℃、20分間)したものとを無菌条件下で混合し、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を1.6ml添加して調製した。培養開始約16時間後より、約15ml/hrの一定速度で本培養流加培地(フルクトース 300g/L、ポリペプトンN 187.5g/L、アンピシリンナトリウム 0.3g/L、プルロニックL-61 1.25g/L)の添加を開始した。本培養流加培地は、アンピシリンナトリウム以外の各成分の必要量を水に溶解して上記濃度となるようにメスアップした後、温度50℃程度に加熱し、別途予め加熱滅菌しておいた0.45μm混合セルロース製フィルター(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器を用いて無菌条件下で加圧ろ過(0.2MPa)を行い、室温に冷却後、予め0.45μmのフィルターでろ過除菌しておいたアンピシリンナトリウム水溶液(100g/L)を0.3g/Lの終濃度となるよう添加して調製した。培養中は適時サンプリングを行いながら、計約71時間培養を行った。培養の溶存酸素濃度は、培養開始約10時間前後において1ppm前後にまで低下したのち7ppm前後に回復した。流加培地を添加してからは再度低下して、大部分の時間帯は1ppmから5ppmの間で推移した。培養終了後、菌体の集菌、洗浄を行った。W3110/pSTK002-T133A+D199H については、2本のジャーファーメンター培養液を混合したものから3076g(OD630=111)を採り、12,000rpm(141,000G)で10分間遠心分離を行い、湿菌体370gを得た。該湿菌体に水1625gを加え、均一になるよう再懸濁して菌体懸濁液(OD630=161)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を行った。再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液(細胞破砕液)を得た。また、W3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H については、1本のジャーファーメンター培養液より1821g(OD630=154)を採り、12,000rpm(141,000G)で10分間遠心分離を行い、湿菌体367gを得た。該湿菌体に水1305gを加え、均一になるよう再懸濁して菌体懸濁液(OD630=155)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を行った。再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液(細胞破砕液; OD630=8.3、pH6.8)を得た。
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からの遠心分離による細胞破砕片の効率的除去
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液1mlを6系列準備し、各系列に、水0.1ml(対照とする)、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン(10%溶液)0.1ml、カチオン系凝集剤K-403B(10%溶液)0.1ml、カチオン系凝集剤K-408(10%溶液)0.1ml、カチオン系凝集剤K-409(10%溶液)0.1mlおよびカチオン系凝集剤K-415(10%溶液)0.1mlをそれぞれ添加した。K-403B、K-408、K-409およびK-415はカチオン系高分子凝集剤であり、ダイヤニトリックス(日本)より入手した。懸濁後、室温で20分間静置した後、4,500rpmでの1分間の遠心分離を行った。得られた上清について、それぞれ吸光度および脱クロル活性を測定し、活性については各系列の液活性相対値を算出した(水を添加した系列の液活性値を100%とした)。吸光度の測定は、試料を適宜希釈し、波長630nmで測定した。脱クロル活性の測定は、以下のように測定した。
100mlの活性測定用反応液(50mM DCP、50mM Tris−硫酸(pH8))を調製して、温度を20℃に調整した。該反応液に、希釈した各形質転換体由来の粗酵素液添加し、反応を開始した。ハロヒドリンエポキシダーゼ活性による塩化物イオンの遊離に伴うpHの低下を、pH自動コントローラーを用い、0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを8に保つよう連続的に調整した。10分間の反応の間に、pHを8に保つために投入された0.01規定の水酸化ナトリウム水溶液の量から、塩化物イオン生成量を算出し、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活性)(U)を算出した。1Uは上記条件下でDCPから1分間あたり1μmol塩化物イオンの脱離する酵素量に相当するものと定義した。結果を表5に示す。
<表5>
Figure 0005132983
水を添加した系列の遠心上清の吸光度は5以上であり、細胞破砕片が十分に沈殿除去されていないことが認められた。カチオン系高分子凝集剤K-403B、K-408、K-409およびK-415を添加した系列の遠心上清の吸光度は0.01〜0.02であり、細胞破砕片が沈殿除去されていることが確認されたが、その活性は大きく低下しており、該凝集剤の添加によって、ハロヒドリンエポキシダーゼが失活しているか、または細胞破砕片と共に沈殿しているものと考えられた。一方、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加した系列は、活性を保持したまま、細胞破砕片が十分に沈殿除去されている(吸光度0.01)ことが確認された。
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その1)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液30mlを4系列準備し、各系列にそれぞれ、水3ml、7.4%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終濃度0.67%となる)、8.4%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終濃度0.76%となる)および10%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液3ml(終濃度0.91%となる)を添加した。それぞれ約10分間撹拌した後、3gのラジオライトクリアフロー(昭和化学工業(株)、日本)を加え、さらに約5分間撹拌した。予め1gのラジオライトクリアフローをプリコートしておいたろ過面積約12cm2のNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、20分後に得られたろ液量および該ろ液のハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活性)を測定した。結果を表6に示す。
<表6>
Figure 0005132983
塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加していない試料(0w/v%)に比べ、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加した試料は、その濃度に依存してろ過性が向上し、一定時間に多くのろ液が得られることが確認された。また、細胞破砕液と比較して、活性は低下することなく保持されていることが確認された。
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その2)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H由来細胞破砕液より470ml(系列1)および467ml(系列2)の2系列を準備し、各系列にそれぞれ、10%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液を47.4mlおよび46.5ml添加した(それぞれ終濃度0.91%となる)。それぞれ約10分間撹拌した後、系列1には47.0gのセライトHyflo Super Cel(ワールドミネラルズ社、米国)を、系列2には46.7gのラジオライトスペシャルフロー(昭和化学工業(株)、日本)を加え、さらに約5分間撹拌した。予め9gのろ過助剤(系列1はセライトHyflo Super Cel、系列2はラジオライトスペシャルフロー)をプリコートしておいたろ過面積約163cm2のNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行った。得られた系列1および系列2の両ろ液、および対象として実施例2の細胞破砕液について、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活性)、乾燥残分濃度、糖濃度およびタンパク質濃度を測定した。乾燥残分濃度は、各試料を120℃で恒量となるまで乾燥し、残分の質量を測定して求めた。糖濃度は、フェノール硫酸法の原理により、水で100倍希釈した試料溶液0.5mlに5w/w%フェノール溶液を0.5ml加えた後、濃硫酸2.5mlを添加・混和し、室温で1時間静置、冷却後、波長490nmの吸光度を測定することにより求めた(既知濃度のグルコース溶液を用いて得られる検量線から試料の糖濃度を算出)。タンパク質濃度はバイオラッド・プロテインアッセイ(Bio-Rad社、米国)を用い、添付のプロトコールに従って求めた。結果を表7に示す。
<表7>
Figure 0005132983
細胞破砕液に比べ、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加してろ過を行った系列1および系列2のろ液は、脱クロル活性を保持したまま、乾燥残分濃度、糖濃度、およびタンパク質濃度が低くなっていることが認められた。すなわち、塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加したろ過により、細胞破砕片を含むと考えられる乾燥残分や糖が効率よく除去されていることが確認された。
両性界面活性剤を添加した細胞破砕液からのろ過による細胞破砕片の効率的除去(その3)
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+D199H由来細胞破砕液より1845mlを採り、10%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン水溶液を185ml添加した(終濃度0.91%となる)。約30分間撹拌した後、185gのセライトHyflo Super Cel(ワールドミネラルズ社、米国)を加え、さらに約15分間撹拌した。予め9gのろ過助剤(系列1はセライトHyflo Super Cel、系列2はラジオライトスペシャルフロー)をプリコートしておいたろ過面積約163cm2のNo.5Aろ紙(アドバンテック(株)、日本)および加圧ろ過器(アドバンテック(株)、日本)を用い、圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、1623mlのろ液(=「ろ液」)を得た。続いて、水186gをろ過ケークが残っている加圧ろ過器に入れ、再度圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、173mlの洗浄液(=「水洗浄液1」)を得た。さらに、水186gをろ過ケークが残っている加圧ろ過器に入れ、再度圧力0.2MPaで加圧ろ過を行い、163mlの洗浄液(=「水洗浄液2」)を得た。ろ液、水洗浄液1および水洗浄液2のうち微量を採取しておき、残りのろ液、水洗浄液1および水洗浄液2を混合して混合ろ液1937mlを得た。細胞破砕液、ろ液、水洗浄液1、水洗浄液2および混合ろ液について、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性(脱クロル活性)を測定し、液活性値および総活性値(液活性値と液量の積で表される)を求めた。結果を表8に示す。
<表8>
Figure 0005132983
ろ過ケークを水で洗浄することで、ケーク中に残っている活性を回収することができ、最終的に細胞破砕液の総活性の9割弱を回収できることが確認された。
両性界面活性剤を添加して細胞破砕片を除去して得られたハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液を用いた、1,3−ジハロ−2−プロパノールおよびシアン化合物からの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199H細胞破砕液(=「細胞破砕液」とする)および実施例5で得られた該細胞破砕液由来の系列1のろ液(=「ろ液」とする)を、シアン化カリウム(KCN)存在下、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)と接触させることにより、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(CHBN)を以下のように製造した。
反応液基本組成は表9のようにし、反応スケールは2mlで行った。
<表9>
Figure 0005132983
反応は20℃にて3時間行った。反応終了後、以下に示す分析条件により、反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度および生成R−CHBNの光学純度を分析した。
<反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度分析>
反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度分析は、逆相系HPLCにより行った。逆相系HPLC分析条件を表10に示す。
<表10>
Figure 0005132983
反応終了液100μlを、上表記載の移動層400μlにより希釈混合した後、上表記載の分析条件により分析を行った。予め、濃度既知のDCP、ECHおよびCHBN溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP、ECHおよびCHBN濃度を求めた。
<生成CHBNの光学純度分析>
生成CHBNの光学純度分析は、CHBNをエステル化後、順相系HPLCにより行った。順相系HPLC分析条件を表11に示す。
<表11>
Figure 0005132983
反応終了液約400μlに等量のジイソプロピルエーテル(以下、IPEと称することがある)を加えて抽出を行った。IPE層を分取し、少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した。IPE層を100μl分取し、10μlの(R)−α−メトキシ―α―(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(以下、(R)−MTPAと称することがある)および40μlのピリジンを添加した。室温で一晩反応させた後、IPEを添加して約400μlとした。1規定の塩酸を400μl加えて抽出を2回行った後、分取したIPE層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を400μl加えて抽出を2回行った。分取したIPE層に少量の無水硫酸ナトリウムを加えて撹拌した後、アスピレーターによりIPE層を揮発させた。残存物を上表記載の移動層により懸濁した後、上表記載の分析条件により分析を行った。(R)−CHBN−(R)−MTPAエステルおよび(S)-CHBN−(R)−MTPAエステルのエリア面積比から各濃度を算出し、CHBNの光学純度を算出した。
結果を表12に示す。
<表12>
Figure 0005132983
ろ液を用いた場合でも、細胞破砕液を用いた場合と遜色ない反応成績が得られることが確認された。
両性界面活性剤添加前および添加後の細胞破砕片の粒径測定
実施例2の方法により、大腸菌W3110株のジャーファーメンター培養を行った。得られた培養液を12,000rpm(141,000G)で10分間遠心分離を行い、上清を除いて湿菌体を得た。除いた上清と等量の水を該湿菌体に加え、均一になるよう再懸濁して菌体懸濁液(OD630=約150)を得た。得られた菌体懸濁液を約10℃に冷却した後、高圧ホモジナイザーPA2K(NiroSoavi社、イタリア)を用いて約100MPaで破砕処理を行った。再び約10℃まで冷却した後、再度約100MPaで破砕処理を行い、菌体破砕液(細胞破砕液)を得た。該細胞破砕液の一部を採り、終濃度0.91w/v%となるよう塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加して、常温で30分間撹拌を行ったものを「細胞破砕液(両性界面活性剤添加)」とした。得られた細胞破砕液および細胞破砕液(両性界面活性剤添加)について、Multisizer3(ベックマン・コールター、米国)を用い、以下の条件により、電気抵抗法により粒度分布を測定した。
アパチャー径:30、50μm
分散剤:0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム
超音波:3分
試料は、ISOTONII(ベックマン・コールター、米国)で、Multisizer3の適正濃度となるように定量希釈して測定を行った。結果を表13に示す。
<表13>
Figure 0005132983
塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを添加することにより、細胞破砕片の平均径、中位径が1μm未満から2μm以上に大きくなっていることが確認された。
各工程における生菌濃度(生細胞濃度)の測定
実施例2で得られたW3110/pSTK002-T133A+F136S+D199Hの培養液および細胞破砕液(100MPaで2回破砕した後のもの)、実施例5の系列1において該細胞破砕液に塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを終濃度0.91%となるよう添加したもの(以下、「細胞破砕液(両性界面活性剤添加)」という)およびそのろ液(以下、「ろ液」という)について、各溶液中の生菌濃度(生細胞濃度)を調べた。生菌濃度の測定は、次のように行った。各溶液を表14に記載の希釈倍率で希釈した後、100μlをLB Amp寒天培地(アンピシリン 100mg/L 、1.5%寒天を含有するLB培地)に塗布し、37℃で一晩培養した。生育したコロニー数を計測し、希釈倍率を乗じて、もとの各溶液の生菌濃度を算出した。さらに、培養液生菌濃度を基準(0%)として、各溶液(細胞破砕液、細胞破砕液(両性界面活性剤添加)およびろ液)の死滅率を算出した。死滅率の算出は以下のように行った。
死滅率[%]=100×(各溶液の生菌濃度−培養液の生菌濃度)/ 培養液の生菌濃度
結果を表14に示す。
<表14>
Figure 0005132983
100MPaの高圧破砕によって大部分の生細胞が死滅するが、なお48700000CFU/mlの生細胞が残存しており、死滅率としては99.7%であった(細胞破砕液)。該細胞破砕液に両性界面活性剤添加を添加すると、上記実験条件下で際行くコロニーは観察されず、少なくとも生菌濃度1000CFU/ml以下、死滅率として99.999995%以上となることが確認され(細胞破砕液(両性界面活性剤添加))、ろ液と同等の結果であった。すなわち、両性界面活性剤を細胞破砕液に添加することにより、目的タンパク質の沈殿や機能消失を引き起こさずに細胞破砕液中に残存する生細胞を効率的に不活化し、さらに、遠心分離やろ過等の手段によって細胞破砕液から細胞破砕片を効率的に除去して生細胞を含有しないタンパク質含有溶液を得られることが確認された。
配列番号2〜4:変異ペプチド
配列番号5〜12:合成DNA

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  1. 以下(A)〜(D)の工程を含む、生細胞を含有しないハロヒドリンエポキシダーゼ含有溶液の製造方法。
    (A)細胞を培養する工程
    (B)細胞を破砕する工程
    (C)アルキルジアミノエチルグリシンまたはその塩を添加する工程
    (D)細胞破砕片を除去する工程
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