JP2010270093A - トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法及び高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル - Google Patents

トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法及び高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル Download PDF

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Abstract

【課題】効率よく純度が高いトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを得ることができる製造方法及び高純度のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを提供する。
【解決手段】シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、又は、シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを異性化反応触媒により異性化する工程(I)及び前記工程(I)によって得られた混合物を晶析する工程(II)を有するトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法及び高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルに関するものである。
トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、「t−HDMT」と記す)は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂原料として有用な化合物である。t−HDMTを原料として使用した樹脂は、透明性、耐熱性、耐候性、物性的強度において優れた性質を有する。
t−HDMTの製造方法としては、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、「c−HDMT」と称する)を異性化して得る製造方法が公知である(特許文献1〜4、非特許文献1)。
特許文献1には、ZrO、TiO、Al及びHfOから選ばれる金属酸化物をHPOメタタングステン酸アンモニウムで処理してなる固体酸触媒を用いて、220〜265℃の範囲で反応させる方法が記載されている。
特許文献2には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を触媒として、200〜300℃の範囲で反応させる方法が記載されている。
特許文献3には、シリカゲルや変性アルミナ等の担体にケイタングステン酸やリンモリブデン酸を担持した固体酸やシリカ−アルミナ複合金属酸化物を固体酸として用い、200〜265℃の範囲で反応を行う方法が開示されている。
特許文献4には、塩基性複合酸化物を触媒として240〜300℃で反応を行う方法が記載されている。
非特許文献1には、塩化リチウムを触媒として280℃にて反応を行う方法が記載されている。
しかし、このような製造方法においては、一定割合でシクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルといった一官能基型の副生物が生成してしまう。このような一官能基型の副生物は、重縮合反応において反応点を1つしか有さないため、末端基となってしまい、重合反応において高分子量の重合体を得る妨げとなってしまう。よって、このような問題点を改善し、より純度が高いt−HDMTを得ることが要求されている。
特許文献5には、酢酸型触媒の存在下に200〜300℃でトランス体60〜70%に異性化させ、蒸留によってトランス体リッチなt−HDMTを取り出した後に晶析してトランス体純度92%のt−HDMTを得る方法が記載されている。しかし、このような方法は、高エネルギーコストとなる製造方法であることから、工業的に有利ではない。
特許文献6には、t−HDMTが20〜40%である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、「HDMT」と記す)のシストランス混合物を晶析した後で結晶を水で洗浄し、トランス体98%以上のt−HDMTを得る方法が記載されている。しかし、これらの方法も、効率よく安価に純度が高いt−HDMTを得る方法ではない。
米国特許第5231218号明細書 米国防衛出願公告第T911020号 米国防衛出願公告第T892024号 特開2000−191602号公報 特開平08−157419号公報 韓国特許出願公開第2007−49891号明細書
Makromol. Chem., 188, 1281(1987)
本発明は、上記に鑑み、効率よく純度が高いt−HDMTを得ることができる製造方法及び高純度のt−HDMTを提供することを目的とするものである。
本発明は、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、又は、シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを異性化触媒により異性化する工程(I)及び前記工程(I)によって得られた混合物を晶析する工程(II)を有することを特徴とするトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法である。
異性化触媒は、強塩基性3級アミン化合物であることが好ましい。
上記強塩基性3級アミン化合物は、1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕ノナン−5−エン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデカ−7−エン、4−ジメチルアミノピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
上記工程(II)は、異性化後の反応物を炭素数5〜8の炭化水素系溶媒で晶析することで純度95%以上に精製する工程であることが好ましい。
上記製造方法は、工程(II)によって得られた濾液を再度工程(I)において使用することが好ましい。
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法においては、異性化工程(I)の後に、異性化触媒を除去する工程(III)を有することが好ましい。
シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルは、シス体/トランス体の比率が99/1〜35/65の範囲であることが好ましい。
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法は、工程(I)及び/又は工程(II)の各工程を連続的に行うものであることが好ましい。
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法は、更に工程(III)の工程を連続的に行うことが好ましい。
本発明は、シクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量が1%未満であり、純度が95%以上である上述した製造方法で製造された高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルであることが好ましい。
本発明の高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルは、異性化触媒の含量が1ppm以下であることが好ましい。
本発明の製造方法によって、効率よく純度が高いt−HDMTを得ることができる。得られたt−HDMTは、高純度であることから、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂原料として使用した場合に、高分子量の樹脂を得ることができ、優れた物性を得ることができる。
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法の一例を示す図である。 本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法の一例を示す図である。 本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法の一例を示す図である。 本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法の一例を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
第1の本発明は、t−HDMTの製造方法である。本発明によって製造されるt−HDMTは、下記一般式(1)で表される化合物である。
本発明によるt−HDMTの製造方法は、c−HDMT、又は、シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、c/t−HDMT混合物と記す)を異性化反応触媒により異性化する工程(I)及び上記工程(I)によって得られた混合物を晶析する工程(II)を有するものである。以下、これらの工程について詳細に説明する。上記反応の原料となるc−HDMTは、下記一般式(2)で表されるt−HDMTのシス異性体である。
上記一般式(1)で示される化合物は、その製造に際していくつかの種類の副生物を生成する。そのなかでも特に問題となるのは、シクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルといった一官能基型の副生物である。一官能基型の副生物が多く含まれると、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂の重合を行う際に重合反応が停止し、十分な分子量が得られないという致命的な弊害を生じる。本発明においては、上述した異性化反応で一官能基の副生物を抑制し、その後で晶析することで、上記一般式(2)で示される原料のc−HDMTを除去すると同時に、これらの一官能基型の副生物を除去することによって、高純度のt−HDMTを得ることができる。また、異性化反応に金属アルコキシドを触媒に用いた場合、触媒に由来する金属が製品に残存すると、重合したポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂の電気特性に悪影響を及ぼし電子デバイス分野への使用が制限される。本発明において、上述した異性化反応の後で異性化触媒を除去することによって、金属含量が極めて少ない高純度のt−HDMTを得ることができる。更に、上述した製造方法は、連続的方法による製造にも適しており、設備やランニングとしても低コストであることから、連続的生産方法によって低コストで高純度のt−HDMTを得る方法としても優れたものである。
本発明における工程(I)は、HDMTをシス体からトランス体に異性化する反応である。すなわち、シス体であるc−HDMT又はシス/トランス混合であるc/t−HDMT混合物に対して異性化することで、t−HDMTを得る工程である。上記工程において、原料がc/t−HDMT混合物である場合は、(シス/トランス比)は、99/1〜35/65の範囲内であることが好ましい。上述したように、c−HDMTとt−HDMTとの間の反応は平衡反応で、平衡組成はt−HDMT65%程度である。よって、シス比が35%以下である原料を用いても、異性化反応によってトランス体比が高いc/t−HDMT混合物に変換することが困難である。
本発明における工程(I)においては、異性化触媒を使用することが必要である。上記異性化触媒としては、塩基性触媒を使用することが好ましい。塩基性触媒としては、強塩基性3級アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物又は金属アルコキシドを使用することがより好ましい。塩基性触媒を使用することで、副反応が起こりにくく、反応装置の腐食が少ないため、高純度のt−HDMTを得るという点では特に好ましい。更に、系中からの除去も容易であることから、連続生産を行う場合に触媒を再利用することが容易となるため、低コストでのt−HDMT製造に適しているという利点がある。
上記強塩基性3級アミン化合物は、c−HDMTの異性化反応に対して触媒活性を示す化合物であれば特に限定されないが、塩基解離定数(pKa)が、9.0以上である3級アミン化合物を使用することが好ましい。上記塩基解離定数は、9.5以上であることがさらに好ましく、11.0以上であることが特に好ましい。上記強塩基性3級アミン化合物を使用すると、副反応が起こりにくく、反応装置の腐食を生じにくく、金属イオンが混入しにくいという利点を有する。
上記強塩基性3級アミン化合物は、上記塩基解離定数が9.0未満であると、異性化率が小さくなる場合があると共に、異性化反応を高温で行わなければならないので、副反応が起こり易く、その結果、副生成物が多量に生成して生産性に劣る場合がある。つまり、塩基解離定数が9.0未満であると、経済的ではないので、工業的に実用性が低くなるおそれがある。
上記強塩基性3級アミン化合物は、一種類の化合物のみを用いてもよく、複数種類の化合物を併用してもよい。複数種類の化合物を併用する場合において、それらの混合比や混合方法は、特に限定されるものではない。但し、複数種類の化合物を併用する場合において、互いの塩基解離常数に大きな差がある場合には、塩基解離定数がより大きい化合物が主に触媒として作用し、塩基解離定数がより小さい化合物は触媒として機能しない場合がある。従って、複数種類の化合物を併用する場合には、互いの塩基解離常数の差が少ない化合物を組み合わせることが望ましい。
上記強塩基性3級アミン化合物としては、具体的には、例えば、1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕ノナン−5−エン(pKa=12.7;以下、「DBN」と表記する)、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデカ−7−エン(pKa=12.5;以下、「DBU」と表記する)、4−ジメチルアミノピリジン(pKa=9.65;以下、「4−DMAP」と表記する)等が挙げられる。上記例示のなかでもビシクロ構造を有する3級アミン化合物がより好適である。強塩基性3級アミン化合物は、重合反応や縮合反応の触媒等として一般的に使用されており、容易に入手することができる。
上記異性化触媒としての金属アルコキシドとしては、金属メトキシドを特に好適に使用することができる。金属メトキシドは、工業的に安価であり、かつ、HDMTとの間にエステル交換反応を生じた場合であっても、他の化合物に変換されることがない点で好ましいものである。更に、比較的低温で上記トランス体への変換反応を行うことができる点でも好ましい。上記金属メトキシドの金属は、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属を好適に使用することができるが、安価なことからナトリウムであることがもっとも好ましい。
従来の上記トランス体への変換反応は、多くの場合200℃以上という高温で行うことが必要であった。それに対して、ナトリウムメトキシドを使用した場合には、0〜100℃という低温で反応を行うことができる点で好ましい。低温で反応を行うことができることにより、加熱のコストが低くなる点と、製造における安全性が改善される点において好ましい。
上記金属アルコキシドは、メタノール溶液として使用することができる。メタノール不存在下では、異性化反応が充分に進行しない場合がある。上記ナトリウムメトキシドのメタノール溶液を使用した場合は、工程(I)の反応終了の前又は後に、メタノールを留去等の方法によって系外に除去してもよい。メタノールの添加量は、上記金属アルコキシドに対して、0.5〜10倍量の割合であることが好ましい。
上記異性化触媒は、原料となるHDMTに対して、1質量ppm以上、10質量%以下の範囲内がより好ましく、現実的には反応系内の水分の影響もあることから、0.1質量%以上、5質量%以下の範囲内がさらに好ましい。上記使用量が0.05質量%未満であると、反応速度が非常に遅くなるので効率的ではない。一方、上記使用量を10質量%より多くしても、反応速度はそれほど向上しないので合理的ではない。
本発明に係る製造方法における、c−HDMTからt−HDMTへの異性化反応は、溶媒を用いなくても進行するが、必要に応じて溶媒を用いてもよい。上記溶媒は、HDMTを溶解するものであれば任意に使用することができるが、有機溶媒であることがより好ましく、HDMTとエステル交換反応を行わない有機溶媒がさらに好ましい。特に、t−HDMTをより効率的に製造するには、異性化反応後、以下で詳述する工程(II)の晶析によってt−HDMTからc−HDMT及び強塩基性3級アミン化合物を除去することが必要である。よって、上記工程(II)を好適に行う上で良好な性質を有する溶媒を特に好ましく使用することができる。このような溶媒については、以下、工程(II)について詳述する際に言及する。
本発明に係る製造方法においては、原料となるHDMTと、異性化反応触媒と、必要に応じて溶媒とを混合して加熱するだけで、異性化反応を進行させることができる。従って、副反応が起こり難く、反応装置の腐食が少なく、かつ、反応容器から金属イオンが混入することがない。上記HDMT、強塩基性3級アミン化合物又は金属アルコキシド、及び、溶媒(必要に応じて)の混合順序は、特に制限されるものではない。上記製造方法の形態は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
強塩基性3級アミン化合物を触媒に用いる場合、反応温度は150〜300℃が好ましく、180〜250℃がより好ましい。反応温度が150℃未満であると、反応速度が非常に遅くなるので効率的ではない。一方、反応温度が300℃を超えると、HDMTの熱安定性が低下して副反応が顕著に起こるため、副生成物が多くなり、収率が低下する。また、反応装置の耐熱性及び耐圧性を向上させる必要があるので装置の負荷が大きくなり、工業的に不利である。金属アルコキシドを触媒に用いる場合、反応温度は0〜100℃が好ましく、50〜80℃が特に好ましい。
反応時間は、反応温度に依存するが、通常、1〜10時間である。反応時間が1時間未満であると、異性化反応が充分に進行しないおそれがある。一方、反応時間を10時間より長くしても、異性化反応が平衡に達するとt−HDMTの比率がそれ以上高くならないので合理的ではない。
上記異性化反応は、加熱下で進行させるので、HDMT、強塩基性3級アミン化合物、金属アルコキシド及び必要に応じて使用する溶媒の酸化反応(劣化)を防止するために、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で実施することが好ましい。また、HDMTや必要に応じて使用する溶媒に水が混入していると、強塩基性3級アミン化合物、金属アルコキシド及びHDMTの加水分解が起こって異性化触媒の使用量が多くなり、収率を低下させる。従って、異性化反応を進行させるのに先立ち、反応装置内から水を除去することが好ましい。水の除去方法としては、例えば、水と共沸する性質を有する溶媒を用いて、異性化反応を進行させる温度よりも低い温度である共沸温度に反応液を加熱し、溶媒の一部を抜き出す(留去する)操作を行えばよい。これにより、共沸組成物として水を除去することができる。より具体的には、例えば、上記溶媒として好適に使用することができるアルカンは、水と共沸する性質を有していることから、これによって溶媒の一部を留去することが好ましい。
異性化反応は、常圧(大気圧)で行うことができるが、必要に応じて加圧してもよい。例えば、低沸点溶媒を用いて当該溶媒の沸点よりも高い反応温度で異性化反応を進行させる場合には、耐圧性の反応装置を用い、当該装置を加圧すればよい。反応装置を加圧する場合には、装置を密閉するか、或いは、窒素ガス等の不活性ガスを装置内に導入すればよい。
本発明における工程(II)は、上記工程(I)によって得られた混合物を晶析する工程である。晶析工程を行う前に、上記工程(I)によって得られた混合物に対して蒸留等の公知の方法でt−HDMTの純度を高めるための精製処理をあらかじめ行ってもよい。また、異性化反応液中に混入する異物を取り除くために濾過を行ってもよいし、濾過の際には活性炭等の助剤を用いてもよい。t−HDMTは、c−HDMTと比較してより結晶化しやすいことから、反応混合物を冷却することによって、t−HDMTのみを結晶化させ、これを遠心分離や濾過等の分離操作を行うことによって高純度のt−HDMTを得るものである。これによって、系中に存在するシクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルといった一官能基型の副生物も除去することができる。
上記工程(II)は、有機溶媒存在下で行うものであってもよい。有機溶媒存在下で工程(II)を行うと、シス体、強塩基性3級アミン化合物及び一官能基型の副生物は有機溶媒に対する溶解度が高いことから、トランス体純度を向上させることができ、HDMTの純度を向上させることができる、という利点がある。有機溶媒の添加は、工程(I)終了後に添加してもよいし、工程(I)自体を上記有機溶媒存在下で行うものであってもよい。
上記有機溶媒としては、工程(II)を効率よく行うことができるような溶媒を選択して使用することが望ましい。即ち、t−HDMTの溶解度に温度依存性があって当該t−HDMTを晶析させ易く(回収し易く)、かつ、c−HDMTの溶解度に温度依存性があまりなく容易に溶解させることができる溶媒が最適である。
上記異性化触媒として強塩基性3級アミン化合物を使用し、かつ、有機溶媒を使用する場合は、強塩基性3級アミン化合物も晶析によって除去することができる溶媒を選択することが好ましい。これにより、c−HDMTと共に分離した強塩基性3級アミン化合物を再利用することができるので、当該強塩基性3級アミン化合物を有効に活用することができる。
上記溶媒としては、以上の観点から炭化水素系溶媒が好適であり、炭素数5〜8の炭化水素系溶媒がより好ましい。具体的には、例えば、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、ジメチルシクロヘキサン類等の、炭素数5〜8の直鎖状、分枝状又は環状のアルカンが挙げられる。これら溶媒は、一種類だけを用いてもよく、複数種類を適宜混合して用いてもよい。上記溶媒としては、メチルシクロヘキサンがt−HDMTとc−HDMT及び一官能基型の副生物との分離を効率よく行うことができる点で、特に好ましい。
上記溶媒の使用量は、原料となるHDMTに対して、0.5質量倍以上、10質量倍以下の範囲内で使用することが好ましい。上記使用量が0.5質量倍未満であると、c−HDMTに対するt−HDMTの溶解度が高いことに加えて、冷却時に析出するスラリーの濃度が高くなりすぎるので、晶析によってt−HDMTからc−HDMT及び強塩基性3級アミン化合物を除去することが難しくなるおそれがある。一方、上記使用量を10質量倍より多くすると、溶媒にt−HDMTが多く溶解することになるので、当該t−HDMTの晶析が難しくなり、生産性が低下するので合理的ではない。
上記異性化反応において、溶媒を用いた場合には、異性化反応後、反応液を冷却して固体を析出させる。そして、遠心分離や濾過等の分離操作を行って、析出してきた固体を溶液から分離する。即ち、晶析を行った後、分離操作を行うことによって、t−HDMTと、c−HDMT(及び強塩基性3級アミン化合物を触媒に用いる場合は、強塩基性3級アミン化合物)とを分離する。これにより、シクロヘキサンカルボン酸メチル及びメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量が1%未満であり、純度95%以上のt−HDMTが得られる。
分離操作後の濾液には、c−HDMTとt−HDMTとの混合物(通常、シス体が多く含まれている)が含まれている。この様にして回収されたc−HDMTとt−HDMTとの混合物に必要な場合は原料となるHDMTと異性化触媒を加えて再度、異性化反応を行うことができる。上記異性化触媒として強塩基性3級アミン化合物を使用した場合、分離操作後の濾液には、c−HDMTとt−HDMTとの混合物及び強塩基性3級アミン化合物が含まれている。従って、この溶液に原料となるHDMTを加えて再度、異性化反応を行うことにより、溶液に含まれているHDMT及び強塩基性3級アミン化合物を再利用することができる。つまり、t−HDMTを効率的に得ることができる。
上記工程(II)は複数回行ってもよい。すなわち、2回以上上記工程(II)を行うことによって、より高い純度のt−HDMTを得るができる。複数回上記工程(II)を行う場合、同一の条件での晶析を繰り返してもよいし、条件を変更して複数回晶析を行ってもよい。
分離操作を有機溶媒存在下で行った場合、分離操作後の濾液には、有機溶剤も存在している。必要に応じて、c−HDMTとt−HDMTとの混合物の有機溶媒溶液を分留することによって、HDMTと有機溶媒とに分離して、それぞれを使用する工程において再利用することもできる。このように、最終目的物以外の成分を前工程に戻して使用することによって、廃棄物の量を低減でき、コストダウンにも寄与することができる点で好ましい。
上述したように、分離操作後の濾液を再利用する場合、上記濾液中に含まれる一官能の副生物を除去してから再利用することが好ましい。すなわち、再利用に際して不純物を除去しながら行わなければ、系中に一官能の副生物が蓄積されて、最終的に得られるt−HDMTの純度が低下しやすくなる。このため、再利用をする前に一官能の副生物を除去することが好ましい。上記一官能の副生物は、溶媒より高沸点でHDMTより低沸点であることから、分留において除去することができる。
本発明のt−HDMTの製造方法は、上記工程(I)の後に異性化触媒を除去する工程(III)を有するものであってもよい。異性化触媒は、最終生成物中に存在しないことが好ましいから、工程(I)の後で除去してもよい。
上記異性化触媒は、例えば、工程(I)を行った後の反応混合物に対して水で抽出処理することによって容易に取り除くことができる。抽出操作は回分式でも良いが、例えばセトラー−ミキサー型の連続抽出機を用いることもできる。
また、上記異性化触媒は固体型吸着剤で中和して除去することも出来る。
一方、ナトリウムメトキシドは異性化反応後メタノールを留去すると析出してくることから、メタノールの留去を行った後で濾過を行うことによっても容易に取り除くことができる。
本発明のt−HDMTの製造方法は、連続的生産方法によって製造を行うこともできる。上述した各工程を連続的工程によって行うことにより、効率よく低コストでt−HDMTを製造することができる。
上記工程(I)を連続的生産方法によって行う方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、直列した2以上の反応器へ連続的に導入する方法、連続したパイプ中で反応を行う方法等を挙げることができる。
上記工程(II)を連続的生産方法によって行う方法としては、公知の晶析方法を挙げることができる。更に、工程(II)によって高純度のt−HDMTを得ることによって除去されたc/t−HDMT混合物を再度工程(I)に連続的に供することによって、トータルでの高純度のt−HDMTの収率を高くすることができ、これによって更にコストを低減することができる。
以下、図面を用いて更に詳細に本発明を連続的製造方法によって行う場合の例を説明する。
図1は、本発明の製造方法を連続的製造方法によって実施する場合の一例を示す模式図である。図1は、異性化触媒として強塩基性3級アミン化合物を使用した場合に使用することができる連続的製造方法の一例を示したものである。
図1の本発明の製造方法は、図3の本発明の製造方法において、固液分離を行った後の液相の回収・再利用を行わない場合の模式図である。なお、図1の製造方法については、以下実施例において詳述する。
図2は、本発明の製造方法を連続的製造方法によって実施する場合のその他の例を示す模式図である。図2は、異性化触媒として強塩基性3級アミン化合物を使用した場合に使用することができる連続的製造方法の一例を示したものである。
図2中のHDMTタンク1は、原料となるc−HDMTを保存するタンクである。上記HDMTタンク1中に保存されたc−HDMTをt−HDMT製造装置へ連続的に供給する。上記HDMTタンク1にかえて、HDMT製造装置を直接連結し、製造されたHDMTを直接t−HDMT製造装置に供給するものであってもよい。
図2中の異性化反応器2は、c−HDMT及び異性化触媒を混合し、加熱することによって反応を開始するための反応器である。上記異性化反応器2は、タンク状の形状を有し、一定割合で原料と触媒を添加しつつ、一定割合で槽中の反応溶液を排出するものであってもよいし、管状の反応器で一定速度で反応溶液を移動させながら反応を行うものであってもよいし、その他の形状のものであってもよい。
図2に示した態様では、本発明の工程(II)においてt−HDMTの析出を促進させるために、有機溶媒を添加している。このような工程(II)において使用する有機溶媒を有機溶媒タンク5に保存し、工程(I)を行った後の反応混合物に添加し、混合器6において充分混合する。
図2に示した態様では、抽出によって異性化触媒除去を行う工程(III)を有している。すなわち、連続抽出装置7により、水による抽出操作を行い、系中の異性化触媒を除去する。これによって、最終生成物であるt−HDMT中に強塩基性3級アミン化合物が残存することを防ぐことができる。連続抽出装置7においては、水注入ライン8より水を注入し、廃液排出ライン9より強塩基性3級アミン化合物分を含有する廃液を排出する。連続抽出装置の形状、サイズ、抽出方法等は限定されず、公知の連続抽出装置を適用することができる。
抽出後の反応混合物は、晶析器10において冷却されることによって、t−HDMTが高純度の結晶として析出する。晶析器10を経た反応混合物は、一定の割合で連続固液分離器11に流入させて、液相と固相とを分離する。固相は目的とする高純度t−HDMTからなるものであり、液相中にはc/t−HDMT混合物及び有機溶媒が存在している。上記連続固液分離器11は、連続遠心分離機等の公知の装置を使用することができる。
上記連続固液分離器11によって分離された結晶状のt−HDMTは、その後必要に応じて連続乾燥器12による処理等の処理を行った上で最終製品となる。
一方、上記連続固液分離器11によって分離された液相は、連続蒸留塔13に移液され、c/t−HDMT混合物,有機溶媒及び一官能基型の副生物に分離されることが好ましい。このように分離されたc/t−HDMT混合物と有機溶媒は、それぞれ再利用することができる。これらを再利用することによって、原料からの収率を高くすることができ、コスト低減という点でも利点を有する。連続蒸留塔13は、c/t−HDMT混合物よりも高沸点である高沸点物を廃棄するための高沸不純物廃棄ライン17を有することが好ましい。このような副生物も系中に残存した場合には、得られるt−HDMTの純度が低くなる原因になることから、除去しつつ製造を行うことが好ましい。
上記連続蒸留塔13は、公知の任意の蒸留塔を使用することができる。このような連続蒸留塔においては、低沸点成分として有機溶媒を得ることができ、高沸点成分としてc/t−HDMT混合物及び強塩基性3級アミン化合物の混合物を得ることができる。連続蒸留塔13によって除去される一官能基型の副生物は、これらの中間的な沸点の留分として得ることができる。
図2中では、連続蒸留塔13によって分離されたc/t−HDMT混合物を、HDMTライン15によって異性化反応器2に加え、有機溶媒を有機溶媒ライン14によって混合器6に移液するものである。更に、モノエステル不純物は、モノエステル不純物排出ライン16によって廃棄される。
図3は、本発明の製造方法を連続的製造方法によって実施する場合のその他の例を示す模式図である。図3に示した製造方法は、工程(I)の異性化反応を無溶媒条件下で異性化触媒として強塩基性3級アミン化合物を使用して行い、工程(II)の晶析を有機溶媒存在下で行う場合の製造方法の一例を示したものである。更に、強塩基性3級アミン化合物を再利用することができる製造方法を示す。
図3の本発明の製造方法は、図2の製造方法と比べて、連続抽出装置7を有さない点で相違している。上記連続抽出装置7が存在せず、工程(I)終了後の反応混合物を直接晶析させていることから、連続固液分離器11によって分離された液相中には、異性化触媒が存在する。このような異性化触媒は、高沸点であることから、連続蒸留塔13によって分離されたHDMT中に混合された状態で得ることができる。このようにして得られたHDMTと異性化触媒との混合をHDMTラインによって混合器6に移液するものである。これによって、HDMT、有機溶媒だけではなく、異性化触媒をも再利用することができるため、コストの低減や廃棄物量の低減という観点で好ましい方法となる。
図4の本発明の製造方法は、異性化触媒として金属メトキシドを使用する場合の製造方法の一例を示す図である。図2の本発明の製造方法と対比した場合の相違点は、メタノール除去装置4を有する点にある。すなわち、異性化触媒として金属メトキシドを使用した場合は、反応を進行させるために、メタノールを添加することが好ましい。しかし、メタノールが系中に存在すると、連続抽出装置7によって異性化触媒の除去を行う場合にメタノールと共にHDMTが水相に溶解して収率を低下してしまう。このため、メタノール除去装置4によってメタノールの除去を行い、その後に異性化触媒を除去するものである。
上述したような図1〜4に示した連続的生産方法以外にも、使用する異性化触媒の種類、溶媒の使用の有無、その添加の時機等にあわせて適宜変更を加えて、本発明のt−HDMTの製造を連続的に行うことができる。
このような連続生産方法によって、効率よく低コストで高純度のt−HDMTを得ることができる。
本発明は、シクロヘキサンカルボン酸メチル及びメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量が1質量%未満であり、純度が95%以上であるトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルでもある。すなわち、上述したような本発明の方法によって製造することができる高純度のt−HDMTである。本発明のt−HDMTは、高純度であることから、ポリエステルやポリアミドの樹脂原料として使用した場合に、優れた物性を維持することができるという利点を有するものである。
上記シクロヘキサンカルボン酸メチル及びメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量は、0.5質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることが更に好ましい。t−HDMTの純度は、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましい。
本発明のt−HDMTは、異性化触媒の含量が1ppm以下であることが好ましい。異性化触媒の含量を低減することによって、樹脂原料として使用した重合反応における副反応の発生を低減させることができ、良好な性能を有する樹脂を得ることができる点で好ましい。
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、トランス体比率はHDMT(シスとトランスの合計量)に対するt−HDMTの割合を、また、シス体比率はHDMT(シスとトランスの合計量)に対するc−HDMTの割合をいう。なお、実施例におけるHDMT純度及びHDMTのシス/トランス比率は、GC−FID法によって測定した。
一官能基型の副生物であるシクロヘキサンカルボン酸メチル及びメチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量も同様にGC−FIDによって測定した。
(調製例1)
コンデンサー、攪拌機および温度計を備えた容量3Lの3つ口フラスコに、原料である純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)1.5kgと、強塩基性3級アミン化合物(異性化触媒)であるDBU60gとを仕込み、フラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら窒素気流下、200℃で4時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度99.3%(トランス体比率66.4%、シス体比率33.6%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で0.7%含まれていた。
上記結果より、強塩基性3級アミン化合物であるDBUが、異性化触媒として有効であることが判った。
(実施例1)
調整例1の反応物1.0kgに、溶媒であるメチルシクロヘキサン1.5kgを仕込み、70℃で攪拌して均一な溶液とした。続いて、攪拌しながら10℃まで冷却してトランス体を析出させた後、遠心分離を行って白色結晶を回収した。回収した白色結晶を、1kPa以下の減圧下、50℃で4時間、減圧乾燥させた。その結果、HDMT純度100.0%、トランス体純度99.4%、シス体純度0.6%の白色結晶0.5kgを得ることができた。白色結晶には、一官能基型副生物は確認されなかった。上記結晶の融点は67.0℃であった。また、仕込んだHDMTに対する結晶の収率は53.5%であった。
上記結果より、メチルシクロヘキサンを溶媒に用いて晶析することで、一官能基型副生物を含まない高純度のt−HDMTを製造できることが判った。
一方、遠心分離を行って回収した濾液は1.9kgであり、当該濾液には、21.5%のHDMT(トランス体比率25.6%、シス体比率74.4%)が含まれていた。また、濾液にはDBUが含まれていた。
(実施例2)
電磁攪拌機および温度計を備えた内容積200mlのSUS316製オートクレーブに、実施例1で回収した濾液(HDMT21.5%を含む、トランス体比率25.6%、シス体比率74.4%)100gを仕込んだ。そして、圧力0.5MPaの窒素ガスを用いてオートクレーブ内を5回ガス置換した後、200℃で4時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度97.4%(トランス体比率65.3%、シス体比率34.7%)、であった。また、一官能基型の副生物は、総量で1.4%含まれていた。
上記実施例2の結果から明らかなように、実施例1で回収した濾液中に含まれるDBUだけで異性化反応が進行しており、従って、異性化は溶媒を使用しても可能であり、また、濾液中に含まれる強塩基性3級アミン化合物を異性化触媒として繰り返し使用できることが判った。
(調製例2)
コンデンサー、攪拌機及び温度計を備えた容量30Lのステンレス製反応器に、原料である純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)8.0kgと、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(異性化触媒)380gとを仕込み、フラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら60℃で2時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度99.3%(トランス体比率73.0%、シス体比率27.0%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で0.7%含まれていた。
上記結果より、ナトリウムメトキシドが異性化触媒として有効であることが判った。
(実施例3)
調製例2の反応物を、反応器温度を60℃に保持したまま20kPaまで減圧して異性化触媒に含まれるメタノールを留去した後で大気圧に戻した。続いて、メチルシクロヘキサン10.7kgを加えて溶解した。このメチルシクロヘキサン溶液を2.0kgのイオン交換水で3回洗浄し、反応液に含まれるナトリウム分を水相へと抽出した。
次いで、上記反応液を10℃まで冷却してトランス体結晶を析出させた後、遠心分離して白色結晶を回収した。回収した白色結晶を、1kPa以下の減圧下、50℃で4時間乾燥させた。その結果、HDMT純度100.0%(トランス体比率99.3%、シス体比率0.7%)の白色結晶4.7kgを得た。この白色結晶には、一官能基型副生物は確認されなかった。上記結晶の融点は67.0℃であった。上記結晶中のナトリウム分をICP−MSで測定したところ、検出限界(1質量ppm)以下であった。また、仕込んだHDMTに対する結晶の収率は58.3%であった。
一方、遠心分離して回収した濾液は12.1kgであり、当該濾液には24.5%のHDMT(トランス体比率29.4%、シス体比率70.6%)が含まれていた。
上記結果より、異性化反応液をメチルシクロヘキサン溶液として水で抽出することで、ナトリウム含量が極めて少ない高純度のt−HDMTを製造できることが判った。また、メチルシクロヘキサンを溶媒に用いて晶析することで、一官能基型副生物を含まない高純度のt−HDMTを製造できることが判った。
(実施例4)
コンデンサー、攪拌機及び温度計を備えた容量30Lのステンレス製反応器に、実施例3で回収した濾液12.1kgと純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)5.1kg、メチルシクロヘキサン1.6kg及び28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液380gを加えてフラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら60℃で2時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度98.7%(トランス体比率73.6%、シス体比率26.4%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で1.3%含まれていた。
従って、異性化は溶媒を使用しても可能であり、また、濾液を繰り返し使用できることが判った。
(調製例3)
コンデンサー、攪拌機及び温度計を備えた容量30Lのステンレス製反応器に、原料である純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)8.0kgと、ナトリウムエトキシド(異性化触媒)140g、及び脱水メタノール500gを仕込み、フラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら60℃で2時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度96.7%(トランス体比率72.1%、シス体比率27.9%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で0.8%含まれていた。
反応生成物には2.5%のシクロヘキサンジカルボン酸ジエチルが含まれていたが、ナトリウムエトキシドも優れた触媒作用を有しており、異性化触媒として使用できることが判った。
(調製例4)
コンデンサー、攪拌機及び温度計を備えた容量300mLの3つ口フラスコに、原料である純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)80gと、カリウムターシャリーブトキシド(異性化触媒)2.2g、及び脱水メタノール5gを仕込み、フラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら60℃で2時間、異性化反応を行った。反応終了後、得られた生成物を分析した結果、HDMT純度97.5%(トランス体比率73.1%、シス体比率26.9%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で0.7%含まれていた。
反応性生物には1.8%のエステル交換体(シクロヘキサンジカルボン酸ジターシャリーブチル及びシクロヘキサンジカルボン酸メチルターシャリーブチル)が含まれていたが、ナトリウムエトキシドも優れた触媒作用を有しており、異性化触媒として使用できることが判った。
(実施例5)
調製例1の反応物100gを攪拌機、窒素導入管を備えた容量200mlの3つ口フラスコに取り、45℃で晶析した。結析出した結晶を濾過、乾燥して分析した結果、HDMT純度99.5%(トランス体比率91.8%、シス体比率8.2%)であった。また、一官能基型の副生物は、総量で0.5%含まれていた。従って、溶媒を使用せずに晶析を行った場合、一官能基型の副生物を十分取り除くことは出来ないが、トランス体比率をある程度まで高められることが判った。
(実施例6)
調整例1の反応物100gとノルマルヘプタン150gを攪拌機、窒素導入管を備えた容量500mlの3つ口フラスコに取り、70℃で攪拌して均一な溶液とした。続いて、攪拌しながら10℃まで冷却してトランス体を析出させた後、遠心分離を行って白色結晶を回収した。白色結晶を乾燥して分析した結果、HDMT純度100.0%(トランス体比率97.2%、シス体比率2.8%)であった。また、一官能基型の副生物は、検出されなかった。従って、ノルマルヘプタンを溶媒に用いて晶析することで、一官能基型副生物を含まない高純度のt−HDMTを製造できることが判った。
(実施例7)
調整例1の反応物100gとイソオクタン150gを攪拌機、窒素導入管を備えた容量500mlの3つ口フラスコに取り、70℃で攪拌して均一な溶液とした。続いて、攪拌しながら10℃まで冷却してトランス体を析出させた後、遠心分離を行って白色結晶を回収した。白色結晶を乾燥して分析した結果、HDMT純度100.0%(トランス体比率96.7%、シス体比率3.3%)であった。また、一官能基型の副生物は、検出されなかった。従って、イソオクタンを溶媒に用いて晶析することで、一官能基型副生物を含まない高純度のt−HDMTを製造できることが判った。
(比較例1)
コンデンサー、攪拌機及び温度計を備えた容量30Lのステンレス製反応器に、原料である純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)8.0kgと、ナトリウムメトキシド110gとを仕込み、フラスコ内を窒素ガスで置換した。その後、攪拌しながら60℃で2時間、異性化反応を行った。反応物を分析したところ、異性化反応が進行していなかったために更に100℃まで反応温度を上げて反応したが、異性化反応の進行は見られなかった。100℃で2時間保持した後の反応液を分析した結果、HDMT純度98.5%(トランス体比率18.5%、シス体比率81.5%)であった。
従って、ナトリウムメトキシドによる異性化にはメタノールが必須であることが判った。
(実施例8)
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法を図4に示した連続生産方法によって行った場合の実施例を示す。本実施例において使用した製造装置は図4の模式図に示したものである。連続重合時の各成分の流量及び濾液成分の組成については、図中に示したが、以下に簡単に概略を説明する。
HDMTタンク1から毎時38.6kgの速度で連続的に供給される純度99.4%のHDMT混合物(トランス体比率17.6%、シス体比率82.4%)と触媒タンク3から毎時1.5kgの速度で連続的に供給されるDBUを、混合器18で均一に混合した。混合液は毎時40.1kgの速度で連続的に熱交換器19と加熱器20を通り、反応温度である200℃に加熱した。加熱後の混合液は異性化反応器2(内容積187Lの多管式熱交換器)において200℃で4時間滞留し異性化反応させた。
異性化反応後の反応混合液は、熱交換器19で120℃に冷却された後、有機溶媒槽5から毎時57.9kgの速度で連続的に供給されるメチルシクロヘキサンと混合器6で均一に混合した。異性化反応液とメチルシクロヘキサンの混合溶液は、晶析器10(冷却ジャケット付きスクリューフィーダー)において10℃まで冷却することによって晶析された。晶析器10を経た反応混合物は、連続固液分離器11(スクリューデカンター)に流入し、液相と固相を分離した。
分離された固相は、連続乾燥器で乾燥された後に毎時19.3kgの速度で連続的に製品として取出した。取出された製品をガスクロマトグラフで分析したところ、HDMT純度99.9%(トランス体比率98.7%、シス体比率1.3%)であった。一方、スクリューデカンターで分離された液相は毎時77.7kgの速度で連続的に抜き出される。液相にはHDMT、DBU、メチルシクロヘキサンが含まれていた。
上述したような連続製造工程によって、24時間連続的にトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造を行ったが、一定の速度で品質上も変動を生じることなく安定してトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの生産を行うことができた。
更に、スクリューデカンターにより分離された液相は、精留により分離することができ、分離された留分は原料、触媒及び溶媒として使用することができた。
以上の実験結果より、上記実施例によって、高純度で金属含量の少ないt−HDMTを得ることができることは明らかである。
本発明のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法は、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の原料モノマーとして好適に使用できるトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを安定的に高純度で、かつ、低コストで得ることがきる製造方法を提供するものである。
1 HDMTタンク
2 異性化反応器
3 触媒タンク
4 メタノール除去装置
5 有機溶媒タンク
6 混合器
7 連続抽出装置
8 水注入ライン
9 廃水排出ライン
10 晶析器
11 連続固液分離器
12 連続乾燥器
13 連続蒸留塔
14 有機溶媒ライン
15 HDMTライン
16 モノエステル不純物排出ライン
17 高沸不純物排出ライン
18 原料混合器
19 熱交換器
20 加熱器

Claims (12)

  1. シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、又は、シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを異性化触媒により異性化する工程(I)及び前記工程(I)によって得られた混合物を晶析する工程(II)を有することを特徴とするトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  2. 異性化触媒が、強塩基性3級アミン化合物である請求項1記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  3. 強塩基性3級アミン化合物が、1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕ノナン−5−エン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕ウンデカ−7−エン、4−ジメチルアミノピリジンからなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項2記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  4. 工程(II)は、異性化後の反応物を炭素数5〜8の炭化水素系溶媒で晶析することで純度95%以上に精製する工程である請求項1〜3いずれか1記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  5. 工程(II)によって得られた濾液を再度工程(I)において使用する請求項1〜4いずれか1記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  6. 異性化工程(I)の後に、異性化触媒を除去する工程(III)を有する請求項1〜5いずれか1記載の高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  7. シス/トランス混合−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルは、シス体/トランス体の比率が99/1〜35/65の範囲である請求項1〜6のいずれか1記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  8. 工程(I)及び/又は工程(II)の各工程を連続的に行うものである請求項1~7のいずれか1記載のトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  9. 工程(I)、(II)及び工程(III)の各工程のうちの少なくとも1工程を連続的に行う請求項1〜7いずれか1記載の高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルの製造方法。
  10. シクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量が1%未満であり、純度が95%以上である請求項1〜9のいずれか1記載の製造方法で製造された高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル。
  11. 異性化触媒の含量が1ppm以下である請求項1〜9のいずれか1記載の製造方法で製造された高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル。
  12. 異性化触媒の含量が1ppm以下であり、且つ、シクロヘキサンカルボン酸メチル、メチルシクロヘキサンカルボン酸メチルの総量が1%未満であり、純度が95%以上である請求項1〜9の製造方法で製造された高純度トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル。

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