JP2010227955A - 溶接金属および溶接材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】短時間の溶接後熱処理で高強度が得られ、かつ、優れた耐溶接割れ性をも具備する溶接金属を提供すること。
【解決手段】C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:50〜68%、Cr:20〜30%、Al:2.0〜7.0%、Nb:0.55〜1.50%およびN:0.04〜0.15%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下である溶接金属。この溶接金属のビッカース硬さは320以上であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、溶接金属および溶接材料に関する。詳しくは、エネルギー輸送機器における高圧ガス配管など各種部材の素材として好適な高強度材の溶接に使用され、高強度および溶接性としての「耐溶接割れ性」に優れた溶接金属を得ることができる溶接材料および上記溶接された部材の溶接金属に関する。
近年、水素や天然ガスなどをエネルギーとして利用する輸送機器の実用化研究が活発に進められている。その実用化に際しては、これらのガスを高圧で貯蔵、輸送できる使用環境の整備が併せて必要であり、使用される材料には、高強度を有することが求められるため、高強度化の取り組みがなされている。
例えば、母材については、高Mn化することでNの溶解度を高め、Vを添加したうえで必要に応じて適切な熱処理を施すことにより高強度化を試みたオーステナイト系材料の提案がなされている。具体的には、特許文献1および特許文献2に、ガスの高圧での貯蔵および輸送用部材の素材として使用可能な引張強さで1GPa以上の高強度材料が開示されている。
なお、一般に、構造物として使用する場合には上述した高強度オーステナイト系材料は溶接により組み立てられる。そして、溶接の際の溶接材料としては、母材をそのまま使用することが考えられる。
しかしながら、オーステナイト系材料の溶接金属は一般的に溶接時の高温割れ感受性が高い。このため、溶接金属には高温割れの防止が求められることになる。加えて、母材の場合、溶製後の圧延・熱処理による組織の調整を受けて高温強度の確保が図られるのに対し、溶接金属はほとんどの場合、凝固ままの組織で使用される。
したがって、母材をそのまま溶接材料として使用する場合には、耐高温割れ性が十分でないばかりか、母材と同等の高い強度を得ることは極めて困難になる。このため、溶接後に「後熱処理」を実施することによって微細な粒子を析出させ、少なくとも母材と同じかそれ以上に、溶接金属を強化する必要が生じる。
なお、1GPa以上の引張強さを有する溶接材料としては、例えば、AWS A5.14−2005のERNiFeCr−2が既に実用化されている。また、特許文献3および特許文献4には、Al、TiおよびNbを積極活用することによって、800MPaを超える引張強さを有する溶接材料(溶接金属)が提案されている。上記特許文献4には、Tiおよび/またはAlを適正量含有させることで凝固割れを防止できることも併せて示されている。
しかしながら、これらの溶接材料についても、高強度化を果たすためには、溶接後に少なくとも120min以上の「後熱処理」を行うことが必要である。したがって、実際の大型構造物を考えた場合、上記のような長時間の溶接後熱処理の実施は、その適用に大きな制約を受けるとともに、製造コストも極度に増大する。
WO2004/083476号公報 WO2004/083477号公報 特開平5−192785号公報 WO2004/110695号公報
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、短時間の溶接後熱処理で高強度が得られ、かつ、優れた耐溶接割れ性をも具備する溶接金属とそのような溶接金属を形成するための溶接材料とを提供することを目的とするものであり、特に、近年開発が進みつつある引張強さが1GPa以上の高強度材料を母材とする溶接構造物における溶接金属と上記母材の溶接に用いる溶接材料を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、種々の検討を実施した。その結果、下記(a)の知見を得た。
(a)溶接金属において、高強度を達成するためには、CrおよびNiの含有量を所定の範囲に規制するとともにAlを含有させ、溶接後熱処理を施すことにより、Ni3Alによる析出強化を活用することが有効である。しかしながら、Alを単独で多量に含有させた場合においても高強度化を果たすためには、長時間の溶接後熱処理が必要となる。
そこで、本発明者らは、短時間、特に、120min以下の短時間での溶接後熱処理での高強度化および溶接性としての「耐溶接割れ性」を両立させるために、先ず、Alの含有量を種々に変化させて調査、検討を行った。なお、この際の溶接金属については質量%で、50〜68%のNiを含むとともに、質量%で、20〜30%のCrを含むものとした。
その結果、下記(b)および(c)の事項が明らかになった。
(b)質量%で、Alを2.0〜7.0%含有させた場合、溶接後熱処理を実施すると、Ni3Alがマトリックスに微細に析出して強度が増大する。
(c)Alを単独で含有させただけの場合には、上記したNi3Alによる析出強化効果を得るには、長時間の熱処理が必要である。しかも、溶接金属に「凝固割れ」および「延性低下割れ」が発生しやすい。
そこでさらに、質量%で、Alを2.0〜7.0%含有させた場合における各種元素の影響について種々の調査、検討を行った。その結果、下記(d)の重要な知見を得た。
(d)質量%で、50〜68%のNiおよび20〜30%のCrを含む溶接金属について、短時間の溶接後熱処理での高強度化および溶接性としての「耐溶接割れ性」を両立させるためには、質量%で、Alを2.0〜7.0%含有させたうえで、CおよびNbの含有量をそれぞれ、質量%で、C:0.06〜0.18%およびNb:0.55〜1.50%とする必要がある。
なお、上記(d)の理由は次の<1>〜<7>のように考えられる。
<1>質量%で、0.55%以上のNbを含有させた場合に溶接後熱処理を実施すると、Ni3Al中のAlとNbがわずかに置換し、Ni3(Al、Nb)となることで、その析出の駆動力が増大し、短時間で析出する。
<2>しかし、上記した量のNbだけを含有させた場合には、Nbは溶接金属の凝固時に凝固偏析しやすい元素であることから、凝固割れ感受性が大きく増大する。
<3>CをNbと複合して含有させることによって、溶接金属の凝固過程でNbCとオーステナイトの共晶凝固を生じさせ、液相中に凝固偏析して融点を降下させる有害なNbの量を軽減することになるので、凝固割れを防止することができる。
<4>しかしながら、Cの含有量が過剰になった場合、逆に、液相中に凝固偏析して融点を降下させる有害なCの量が多くなって、凝固割れ感受性を高めることになる。
<5>凝固中に晶出したNbCは、凝固後にはデンドライト境界にオーステナイトとラメラ状組織を形成して存在する。このため、最終凝固界面積を増大させて、不純物元素の偏析を軽減する。加えて、特定面への応力集中も軽減することになるため、不純物元素が偏析して弱化した粒界に応力が作用して生じる延性低下割れの防止にも効果を有する。
<6>CおよびNbを多量に含有させた場合、凝固割れおよび延性低下割れの防止は可能となるものの、多量のNbCが粒界に形成されることになる。このNbCは、マトリックスであるオーステナイト相に比べて延性に乏しいため、溶接金属における延性の低下が生じる。特に、質量%で、2.0〜7.0%のAlを含む場合には、Ni3(Al、Nb)によって粒内が強化されているため、熱応力や外部応力が粒界面に集中して溶接金属における延性の低下が顕著になる。
<7>上述した観点から、CおよびNbの含有量を特定の範囲、つまり、質量%で、C:0.06〜0.18%およびNb:0.55〜1.50%の範囲に調整する必要がある。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)に示す溶接金属および(2)に示す溶接材料にある。
(1)質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:50〜68%、Cr:20〜30%、Al:2.0〜7.0%、Nb:0.55〜1.50%およびN:0.04〜0.15%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接金属。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、金属材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、その他種々の要因によって混入するものを指す。
上記の溶接金属は、ビッカース硬さ(以下、「HV硬さ」という。)が320以上であることが望ましい。
なお、「溶接金属」とは、溶接中に母材の一部と溶接材料が溶融混合し、凝固した部分を指す。
(2)質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:50〜68%、Cr:20〜30%、2.0〜7.0%、Nb:0.55〜1.50%およびN:0.04〜0.15%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接材料。
ここで、上記(2)の「溶接材料」を使用して溶接が施される部材(換言すれば、「溶接構造物」の母材)、または、「溶接構造物」の母材に溶接が施されて上記(1)の「溶接金属」が形成される際のその母材は、1GPa以上の引張強さを有する高強度材料が好適であり、その形状は、板状、棒状や管状など溶接接合に供することができさえすればどのような形状でも構わない。
本発明の溶接金属は、短時間の溶接後熱処理で高強度が確保でき、かつ、優れた耐溶接割れ性も具備するものであるので、本発明の溶接金属を有する溶接構造物は、エネルギー輸送機器における高圧ガス配管など各種の溶接部材として好適に用いることができる。なお、本発明の溶接金属は、本発明の溶接材料を使用して溶接することによって得ることができる。
実施例で用いた溶接母材用合金板の長手方向に施した開先形状を説明する図である。
以下、本発明の溶接金属および溶接材料に含まれる各成分元素の作用効果とその含有量の限定理由について、溶接金属と溶接材料とを区別せずに説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
C:0.06〜0.18%
Cは、Al、Nbとともに本発明の根幹に係る元素で、凝固割れおよび延性低下割れを防止する作用を有する。すなわち、Cは、凝固中にNbと結合して、溶接金属が凝固する際に共晶炭化物を生成して、液相の消失を早めるとともに、最終凝固部の組織をNbCとオーステナイトのラメラ状組織とする。その結果、液相の残存形態を面状から点状に変化するとともに、特定面への応力集中が抑制され、また、不純物の偏析サイトとなる最終凝固界面積が増大するので、凝固割れおよび延性低下割れを防止することができる。
上記のCの効果を十分に得るためには、0.06%以上のC含有量が必要である。しかしながら、Cの含有量が過剰になり、特に、0.18%を超えると、凝固の際に炭化物とならないCが増加し、却って液相の融点が低下して凝固割れ感受性が増大する。そのため、Cの含有量は0.06〜0.18%とする。なお、C含有量の望ましい下限は0.07%であり、望ましい上限は0.14%である。
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として添加される。しかしながら、Siの含有量が多くなって0.5%を超えると、溶接金属の凝固時に柱状晶粒界に偏析し、液相の融点を下げ、凝固割れ感受性を増大させる。そのため、Siの含有量を0.5%以下とする。Si含有量は、望ましくは、0.4%以下で、さらに望ましくは、0.3%以下である。
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Si含有量の望ましい下限は0.01%である。少なくともSiを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。
Mn:2.0%以下
Mnは、Siと同様、脱酸剤として添加される。しかしながら、Mnの含有量が多くなって2.0%を超えると、延性および靱性の低下を招く。そのため、Mnの含有量を2.0%以下とする。Mn含有量は、望ましくは、1.8%以下で、さらに望ましくは、1.6%以下である。
なお、Mnの含有量について特に下限を設ける必要はないが、過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Mn含有量の望ましい下限は0.01%である。少なくともMnを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。
Ni:50〜68%
Niは、安定なオーステナイト組織を得るために必須の元素であるばかりでなく、Ni3(Al、Nb)として微細に分散し、溶接金属の強度を大きく向上させる作用を有する。上記の効果を十分に得るためには、50%以上のNi含有量が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であるため多量の添加はコストの増大を招き、特に、Niの含有量が68%を超えると、コストの増大が著しくなる。したがって、Niの含有量を50〜68%とする。なお、Ni含有量の望ましい下限は55%であり、望ましい上限は65%である。
Cr:20〜30%
Crは、使用環境下での耐食性を確保するために必須の元素であり、その効果を十分得るためには、20%以上の含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が過剰になって30%を超えると、オーステナイト組織を不安定とするとともに、接ガス環境の種類によっては脆化を招く。したがって、Crの含有量は20〜30%とする。なお、Cr含有量の望ましい下限は22%であり、望ましい上限は28%である。
Al:2.0〜7.0%
Alは、Nb等とともに本発明の根幹に係る元素である。すなわち、AlはNiと結合し、微細な析出相として析出し、溶接金属の強度を増大させるのに必須の元素である。その効果を短時間の溶接後熱処理で得るためには、Nbと複合して含有させるとともに、少なくとも2.0%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、Alの含有量が過剰になって7.0%を超えると、溶接中に酸化スラグとして浮上してしまうため、その効果は飽和するばかりか、溶接ビードの美観や溶接作業性を損なうことになる。そのため、Alの含有量は2.0〜7.0%とする。なお、Al含有量の望ましい下限は3.0%であり、望ましい上限は6.0%である。
Nb:0.55〜1.50%
Nbは、CおよびAlとともに本発明の根幹に係る元素である。すなわち、NbはNi3Al中にAlと置換して固溶し、Ni3(Al、Nb)となることで、その析出の駆動力を大きくし、短時間の溶接後熱処理で溶接金属の強度を増大させる作用を有する元素である。Nbは、微細な炭窒化物として粒内に析出することによっても、溶接金属の強化に少なからず寄与する。加えて、Cと複合して含有させることにより、凝固時にCと共晶炭化物を形成し、凝固時の液相の消失を早め、しかも、最終凝固部の組織をNbCとオーステナイトのラメラ状組織とすることによって、液相の残存形態を変化させるとともに偏析サイトを増大させ、凝固割れおよび延性低下割れの防止を可能にする。
上述したNbの効果を得るためには、0.55%以上のNb含有量が必要である。しかしながら、Nbの含有量が過剰になって1.50%を超えると、NbCの生成量が増加することに起因した溶接金属の延性の劣化を招く。そのため、Nbの含有量は0.55〜1.50%とする。なお、Nb含有量の望ましい下限は0.70%であり、また、望ましい上限は1.40%である。
N:0.04〜0.15%
Nは、マトリックスに固溶するとともに微細な窒化物を形成し、溶接金属の強度を確保するのに有効な元素である。この効果を十分に得るためにはNの含有量を0.04%以上とする必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.15%を超えると、AlNとして析出し、高強度化に必要なNi3(Al、Nb)の析出を抑制してしまうとともに脆化の原因となる。したがって、Nの含有量を0.04〜0.15%とする。
本発明の溶接金属は、以上に述べた元素のほか、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。また、本発明の溶接材料も、以上に述べた元素のほか、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するものである。
なお、本発明の溶接金属および溶接材料においては、不純物中のO、PおよびSの含有量をそれぞれ、下記のとおりに規制する必要がある。
O:0.02%以下
Oは、不純物として存在し、多量に含まれると、溶接材料の加工性や溶接金属の延性を劣化させる。そのため、Oの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、0.02%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Oの含有量を0.02%以下とする。
P:0.01%以下
Pは、不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を著しく増大させてしまう。さらに、結晶粒界に偏析して延性低下割れ感受性をも高めてしまう。そのため、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、P含有量の極度の低減は製鋼コストの増大を招くし、0.01%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Pの含有量を0.01%以下とする。
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を著しく増大させてしまう。さらに、結晶粒界に偏析して延性低下割れ感受性をも高めてしまう。そのため、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、Pの場合と同様に、S含有量の極度の低減は製鋼コストの増大を招くし、0.01%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Sの含有量を0.01%以下とする。
なお、溶接構造物としては、母材の一部と溶接材料が溶融混合した結果得られた「溶接金属」の化学組成が上述した要件を満たしておればよい。このため、「溶接材料」の化学組成については、用いる「母材」の化学組成に応じて選ぶ必要はあるが、「溶接金属の組成における母材組成の割合」として定義される「母材希釈率」は開先形状や溶接方法・溶接条件により異なるが、一般的には30〜60%程度である。したがって、前述の(2)に記載した溶接材料の化学組成範囲において、母材による希釈を考慮した上で、溶接材料の組成を選定することが望ましい。
なお、母材としては、1GPa以上の引張強さを有する高強度材料が好適であり、その形状は、板状、棒状や管状など溶接接合に供することができさえすればどのような形状でも構わないことは既に述べたとおりである。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する材料を実験室溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工により、板厚10mm、幅50mm、長さ100mmの合金板を溶接母材用として作製した。
また、同じインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延および機械加工により、外径1.2mm、長さ1000mmの溶接ワイヤ(溶接材料)を作製した。
Figure 2010227955
上記の溶接母材用合金板の長手方向に、図1に示す開先加工を施して、厚さ25mm、幅200mm、長さ200mmの市販のSM400A鋼板上に、JIS Z 3224(1999)に記載された「DNiCrFe−3」の被覆アーク溶接棒を用いて四周を拘束溶接した。
次いで、上記の溶接母材用合金板に施した開先内に、この溶接母材用合金板と同じ化学組成を有する前述の外径1.2mmの溶接ワイヤを用いて、TIG溶接により平均入熱を約10kJ/cmとして多層溶接を行った。なお、このTIG溶接の際には拘束されているために、溶接による熱応力が生じて割れが発生しやすくなる。
溶接施工後、溶接金属部を中央部に有するミクロ試験片、側曲げ試験片および時効硬さ試験片を採取し、それぞれの試験に供した。
ミクロ試験片は、バフ研磨にて鏡面仕上げした後、光学顕微鏡にて100〜500倍の倍率にて溶接金属部を全て観察し、「凝固割れ」および「延性低下割れ」の発生有無を観察した。なお、「凝固割れ」および「延性低下割れ」の双方ともが発生しないことを目標とした。
側曲げ試験片は、板厚の2倍の曲げ半径で180゜曲げを行い、溶接金属の割れ発生有無および延性を調べた。なお、割れ発生がないことを目標とした。
加えて、時効硬さ試験片を用いて溶接後熱処理を模擬した時効熱処理を行い、試験力98Nとして、HV硬さ試験を行った。なお、時効熱処理は750℃での時間が1〜180minの範囲で行い、ASTM E140に記載の換算式から溶接金属の目標引張強さである1GPaに相当するHV硬さ320に到達するのに必要な時効時間を調査した。そして、時効時間が120min以下であることを目標とした。
表2に、ミクロ試験片における「凝固割れ」および「延性低下割れ」の発生有無の観察結果、側曲げ試験片における割れ発生有無の観察結果ならびに750℃で時効熱処理した場合のHV硬さ320に到達するのに必要な時間を示す。
なお、表2における試験番号8の場合、ミクロ試験片の観察では「凝固割れ」か「延性低下割れ」かの判別がつかなかったので、「凝固割れ」欄に「有り」と記載し、「延性低下割れ」欄には「−」と記載した。
また、試験番号4〜7について、側曲げ試験で「微割れ」が生じたので、その割れ欄に「有り」と記載した。
Figure 2010227955
表2から、試験番号1および試験番号2における化学組成が本発明で規定する範囲にある合金の場合、凝固割れおよび延性低下割れのない健全な溶接継手が得られ、かつ、十分な曲げ延性も有することが明らかである。加えて、60min以下という短時間の時効熱処理によって溶接金属のHV硬さが320以上となり、短時間の溶接後熱処理で溶接金属の強化が可能であることがわかる。
これに対して、試験番号3におけるCおよびNbの含有量がいずれも本発明で規定する範囲の上限から外れた合金の場合、過剰のNbCが生成するため、溶接金属の延性に乏しく、側曲げ試験片に割れが生じて曲げ延性に劣っていた。
一方、試験番号4〜7の、CおよびNbの含有量がいずれも本発明で規定する範囲の下限を下回る合金の場合、NbCの生成量が少なく、偏析サイトの増大による不純物元素の分散が十分でないため、延性低下割れが発生した。さらに、Nbの含有量が十分でないため、Ni3(Al、Nb)の析出の駆動力が小さく、180minの時効熱処理を行っても溶接金属はHV320という目標硬さが得られなかった。
試験番号8の合金の場合には、Cの含有量が本発明で規定する範囲の下限を下回り、Nbの含有量が本発明で規定する範囲の上限を下回るため、凝固割れが発生し、また、Alの含有量が本発明で規定する範囲の下限を下回るため、180minの時効熱処理を行っても溶接金属はHV320という目標硬さも得られなかった。
本発明の溶接金属は、短時間の溶接後熱処理で高強度が確保でき、かつ、優れた耐溶接割れ性も具備するものである。このため、本発明の溶接金属を有する溶接構造物は、エネルギー輸送機器における高圧ガス配管など各種の溶接部材として好適に用いることができる。なお、本発明の溶接金属は、本発明の溶接材料を使用して溶接することによって得ることができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:50〜68%、Cr:20〜30%、Al:2.0〜7.0%、Nb:0.55〜1.50%およびN:0.04〜0.15%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接金属。
  2. ビッカース硬さが320以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接金属。
  3. 質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:50〜68%、Cr:20〜30%、Al:2.0〜7.0%、Nb:0.55〜1.50%およびN:0.04〜0.15%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接材料。
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