実施例1の可変容量オイルポンプ(以下、ポンプVPという。)は、容量可変のベーンポンプであり、自動車の内燃機関(以下、機関という。)に用いられる。ポンプVPは、機関のシリンダブロックの前端部などに設けられ、機関の各摺動部や、機関の弁の作動特性を可変制御する可変動弁装置(バルブタイミング制御装置等)に、潤滑その他の機能を果たす流体(作動油)を供給する。
(ポンプの構成)
図1は、ポンプVPの分解斜視図である。ポンプVPは、ハウジング本体1と、リアカバー2と、フロントカバー3と、カムリング4と、ロータ5と、複数のベーン6と、一対のベーンリング7と、付勢部材8と、駆動軸9とを有している。説明のため、駆動軸9の中心軸Oが延びる方向にz軸を設け、リアカバー2に対してフロントカバー3の側を正方向とする。
ハウジング本体1、リアカバー2、及びフロントカバー3により、ポンプVPのハウジングHSGが構成されている。ハウジング本体1は中空筒状のハウジング部材であり、その内周にカムリング4やロータ5等のポンプ部品を収容する。リアカバー2及びフロントカバー3は、板状のハウジング部材であり、ハウジング本体1の両開口端を閉塞する側壁(プレート)である。リアカバー2の略中央には軸受部2bが設けられており、軸受部2bの内周に軸受孔20がz軸方向に貫通形成されている。フロントカバー3の略中央には軸受部3bが設けられており、軸受部3bに軸受孔30がz軸方向に貫通形成されている。軸受孔30と軸受孔20は略同軸O上に設置される。ハウジング本体1、リアカバー2、及びフロントカバー3は、アルミ系金属材料(アルミニウム合金)でダイキャストにより成形されている。
z軸方向から見て、ハウジング本体1、リアカバー2、及びフロントカバー3の外周の形状は略同一に設けられている。ハウジング本体1には、その外周面から外径方向に突出する複数(6つ)のボルト孔形成部11a〜11fが設けられており、ボルト孔形成部11a〜11fにはそれぞれボルト孔110a〜110fがz軸方向に貫通形成されている。リアカバー2及びフロントカバー3にも、ハウジング本体1のボルト孔110a〜110fと対応する位置に、ボルト孔21a〜21f,31a〜31fがそれぞれ貫通形成されている。リアカバー2のボルト孔21a〜21fの内周には雌ねじが形成されている。複数(6つ)のボルトb1〜b6が、z軸正方向側からフロントカバー3のボルト孔31a〜31f及びハウジング本体1のボルト孔110a〜110fにそれぞれ挿通され、リアカバー2のボルト孔21a〜21fの雌ねじにボルトb1〜b6の先端の雄ねじが螺着することで、これらのハウジング部材が一体に締結され、ハウジングHSGが構成される。ハウジングHSGにはポンプVPの吸入部と吐出部が設けられている。
駆動軸9は、リアカバー2の軸受孔20及びフロントカバー3の軸受孔30を貫通して設置され、軸受部2b,3bにより回転自在に支持されている。駆動軸9の外周にはロータ5が結合されており、ロータ5は駆動軸9と一体に回転する。駆動軸9のz軸正方向側の端は、機関のクランクシャフトに連結されている。駆動軸9は、クランクシャフトから伝達される回転力によって回転駆動され、z軸正方向側から見て時計回り方向に回転する。
ロータ5は、駆動軸9によって、すなわち機関によって回転駆動される。ロータ5の外周には、複数のベーン6a〜6gが出没自在に設けられている。カムリング4は、ロータ5及びベーン6a〜6gを内周に収容し、z軸方向両側面にリアカバー2及びフロントカバー3が配置されることにより複数の作動油室を隔成する。カムリング4が吐出圧力に応じて移動し、揺動支点Qを中心に揺動することにより、ロータ5の回転中心Oとカムリング4の内周面400の中心Pとの偏心量が変化する(図2参照)。付勢部材8は、上記偏心量が大きくなる方向にカムリング4を付勢する。
図2及び図6は、フロントカバー3を外した状態のポンプVPをz軸正方向側から見た正面図である。図3は、駆動軸9の中心軸Oを通る平面でポンプVPを切った断面図であり、図2のA−A視断面に相当する。以下、説明のため、中心Oを原点とする直交座標を設定し、付勢部材8の軸に対して垂直にx軸を設け、付勢部材8の軸と平行にy軸を設ける。y軸(中心O)に対して吐出孔25が設けられている側をx軸正方向とし、x軸(中心O)に対して付勢部材8が設置されている側をy軸負方向とする。駆動軸9(ロータ5)は図2の中心Oの周りに時計回り方向に回転する。
図2は、カムリング4の偏心量(ロータ5の回転中心Oに対するカムリング内周面400の中心Pの変位量、すなわちOP間の距離)が最大であり、カムリング4の揺動量(揺動角)が最小値ゼロであるポンプVPの初期セット状態(最大偏心状態)を示す。図6は、カムリング4の揺動量が最大であり、偏心量が最小、すなわちPとOが一致して相対変位量がゼロであるポンプVPの作動状態(最小偏心状態)を示す。以下、初期セット状態におけるカムリング4の位置を初期セット位置といい、図6の作動状態におけるカムリング4の位置を最小偏心位置という。
(ハウジングの構成)
ハウジング本体1は、ボルト孔形成部11a〜11fが所定間隔で設けられた周壁からなり、周壁の所定位置にカムリング本体収容部12と、吐出孔形成部13と、突起部14と、絞り形成部15と、アーム収容部16と、付勢部材収容部17とを有している。これら各部11〜17におけるz軸方向幅は、略同一の大きさHに設けられている。
カムリング本体収容部12は、カムリング4の本体部40を収容する略円筒状の部分である。カムリング本体収容部12の内周面120は、z軸方向から見て、中心Oを原点とする略円形状であり、y軸負方向側の内周面121とy軸正方向側の内周面122とからなる。y軸負方向側の内周面121の半径は略等しい。一方、y軸正方向側の内周面122の半径は、y軸正方向に向かうにつれて徐々に、内周面121の半径よりも僅かに大きくなる。
吐出孔形成部13は、ハウジング本体1のx軸正方向側かつy軸正方向側に外径方向へ突出するように設けられている。z軸方向から見て、吐出孔形成部13のx軸正方向側の内周面131は、y軸に略平行な直線状に形成されている。吐出孔形成部13のy軸正方向側は、ボルト孔形成部11a,11bに挟まれて略x軸方向に延びるとともに、その内周面132は、リアカバー2に設けられた吐出孔25の外周に沿って円弧状に形成されている。
内周面131には、x軸と重なる位置にピボット設置部133が形成されている。ピボット設置部133は、ハウジング本体1のz軸方向全範囲にわたって設けられており、z軸方向から見て、点Qを中心とする略半円状に設けられた凹部である。その半径はボルト孔110a〜110fよりも僅かに小さい。点Qのx軸方向位置は吐出孔形成部13のy軸負方向側の内周面131と略一致しており、点Qのy軸方向位置は中心Oと略同じ(x軸上)である。尚、吐出孔形成部13は、ピボット設置部133に対してy軸正方向側よりもy軸負方向側のほうが若干厚く設けられている。
突起部14は、吐出孔形成部13に連続して、ハウジング本体1のy軸正方向側、かつ中心O(y軸)に対して僅かにx軸正方向側に形成されている。突起部14は、ボルト孔形成部11a(ボルト孔110a)の内径側(以下、中心Oに向かう側ないし方向を、内径側ないし内径方向という。また、中心Oから離れる側ないし方向を、外径側ないし外径方向という。)に設けられ、内径方向に突出するストッパ形成部であり、z軸方向から見て、内径側に頂点Sを有する略三角形状に設けられている。突起部14のx軸正方向側(上記三角形のx軸正方向側の辺)は、なだらかな曲面を介して吐出孔形成部13の内周面132に連続しており、突起部14のx軸負方向側(上記三角形のx軸負方向側の辺)には当接面140が形成されている。
当接面140は、ハウジング本体1の内周面に、z軸方向全範囲にわたって形成されている。当接面140は、z軸に平行であり、かつx軸負方向側かつy軸負方向側に面する平面で構成されており、y軸に対してなす角度がαである(0°<α<90°)。点Qを通る直線を当接面140のy軸負方向側の端(頂点S)に重ねたとき、当接面140は直線QSに対して(点Qを中心として)反時計回り方向側に僅かな角度をもって傾斜している。
絞り形成部15は、突起部14に隣接して設けられており、突起部14及びカムリング本体収容部12(のy軸正方向側の部分)のx軸正方向側に挟まれている。絞り形成部15の内周側には、絞り形成面150が形成されている。絞り形成面150は、z軸方向から見て、点Qを中心とする緩やかな円弧状の曲面である。絞り形成面150と当接面140は隣接し、互いに角度をもって配置されている。z軸方向から見て、絞り形成面150と当接面140は、外径側に頂点を有する略三角形状に配置されており、両面140,150がなす角度はβである(β≒90°)。
当接面140と絞り形成面150との境界に、当接面140のy軸正方向側(x軸負方向側)の端Tに隣接して、切り欠き溝18が設けられている。切り欠き溝18は、当接面140からx軸正方向側かつy軸正方向側に向かって穿たれた凹部であり、ハウジング本体1の内周面にz軸方向全範囲にわたって形成されている。切り欠き溝18のx軸負方向側は絞り形成面150に滑らかに(大きな角度を持たずに)連続し、x軸正方向側は角度をもって当接面140に連続している。
アーム収容部16と付勢部材収容部17は、中空の略直方体状に一体に形成されており、ハウジング本体1(カムリング本体収容部12)のx軸負方向側かつy軸負方向側に外径方向へ膨出して設けられている。アーム収容部16はx軸に跨って設けられており、その内周には、カムリング4のアーム部42を収容するアーム部収容室160が設けられている。アーム部収容室160は、z軸方向から見て横長の略長方形であり、x軸に略平行な面161とy軸に略平行な面162により二方を囲まれると共に、x軸正方向側でカムリング本体収容部12の内周側に開口し、y軸負方向側で下記ばね室170に開口している。
付勢部材収容部17は、カムリング本体収容部12(のy軸負方向側の部分)のx軸負方向側に連続して設けられており、その内周には、付勢部材8を収容するばね室170が設けられている。ばね室170は、z軸方向から見て縦長の略長方形であり、x軸に略平行な底面171とy軸に略平行な2側面172,173により三方を囲まれるとともに、y軸正方向側でアーム部収容室160に開口している。アーム部収容室160への開口部は、x軸方向で対向する係止部174,175により形成されている。係止部174,175は、ハウジング本体1のz軸方向全範囲に延びて形成されている。x軸負方向側の係止部174は、ばね室170の側面172のy軸正方向側の端からx軸正方向側に向かって所定量だけ突出している。x軸正方向側の係止部175は、側面173のy軸正方向側の端からx軸負方向側に向かって所定量だけ突出している。すなわち、上記開口部のx軸方向幅(係止部174,175の間のx軸方向距離)は、ばね室170のx軸方向幅よりも短く設けられている。
図4は、リアカバー2をz軸正方向側から見た正面図である。リアカバー2には、軸受孔20とボルト孔21のほか、吸入孔22、吸入ポート23、吐出ポート24、吐出孔25、及び軸受給油溝26が形成されている。
カムリング4の揺動時、リアカバー2のz軸正方向側の面2aに沿って、カムリング4のz軸負方向側の面4bが摺動する(図3参照)。よって、カムリング4の摺動範囲で、面2aは、平面度や表面粗さなどの精度を高くして機械加工されている。尚、本明細書において、摺動ないし摺接とは、2つの部材(面)同士が直接接した状態で相対移動することだけでなく、2つの部材(面)の間に油膜が形成された状態で両者が接しつつ相対移動することも含む。
吸入ポート23は、面2aに所定深さで形成された溝であり、所定幅で形成された三日月状の溝23aと、この三日月状溝23aのx軸負方向側かつy軸負方向寄りに、三日月状溝23aと連続して形成された矩形状の溝23bとからなる。z軸方向から見て、矩形溝23bのy軸正方向側の辺231は、x軸方向に延び、ハウジング本体1のアーム収容部16の内周面161と略重なる位置に設けられている。矩形溝23bのx軸負方向側の辺232は、y軸方向に延び、アーム収容部16の内周面162と略重なる位置に設けられている。矩形溝23bのy軸負方向側の辺233は、x軸方向に延び、ハウジング本体1のばね室170内を横切る位置に設けられている。
z軸方向から見て、三日月状溝23aの内径側の辺である内周縁234は、所定の角度(∠DOE)にわたり、Oを中心とした円弧状に設けられている。三日月状溝23aの外径側の辺である外周縁は、円弧状に設けられている。y軸負方向側における外周縁235は、z軸方向から見て、ハウジング本体1のカムリング本体収容部12の(y軸負方向側の)内周面121と略一致する位置に設けられている。y軸正方向側における外周縁236は、カムリング本体収容部12の(y軸正方向側の)内周面122から内径側へ若干の距離をおいて、中心Oを中心とする円弧を描くように設けられている。矩形溝17dのy軸負方向側に連続する三日月状溝23aの径方向幅は、矩形溝17dのy軸正方向側に連続する三日月状溝23aの径方向幅よりも大きい。三日月状溝23aのy軸正方向側の端Dと中心Oとを結ぶ直線がx軸(負方向)に対してなす角度はγであり(0°<γ<90°)、三日月状溝23aのy軸負方向側の端Eと中心Oとを結ぶ直線がx軸(負方向)に対してなす角度はδである(0°<δ<γ)。
吸入孔22は、リアカバー2をz軸方向に貫通する円筒状の開口部であり、軸受孔20よりも僅かに大径に設けられている。吸入孔22は、吸入ポート23内のy軸負方向寄りの位置、具体的には矩形溝17dのx軸正方向側、かつx軸に対して若干y軸負方向側の位置に、三日月状溝23aに部分的に跨って開口している。吸入孔22は、吸入ポート23と連通するとともに、吸入ポート23を介してハウジング本体1の内部と連通し、作動油をポンプVPの内部に吸入する際の通路となる。
図2に示すように、z軸方向から見て、吸入孔22のy軸負方向側は係止部175と部分的に重なる位置にあり、吸入孔22のx軸正方向側はカムリング4と部分的に重なる位置にある。また、三日月状溝23aの内周縁234はカムリング4の内周側に位置し、y軸正方向側の外周縁236は、カムリング4と重なる位置にある。すなわち、三日月状溝23aの内径側がカムリング4の内周側(ポンプ室r1〜r4)に開口している。吸入ポート23の他の部分(矩形溝17d、三日月状溝23aのy軸負方向側の一部)及び吸入孔22は、カムリング4の外周側(背圧室R2)に開口している。
吐出ポート24は、面2aに所定深さで形成された溝であり、三日月状の溝24aと雨滴状の溝24bとからなる。三日月状溝24aの内周縁241は、中心Oを中心とした円弧状であり、吸入ポート23の三日月状溝23aの内周縁234と略同じ半径で、所定の角度(∠FOG)にわたって設けられている。三日月状溝24aの外周縁242は、中心Oを中心とした円弧状に設けられており、y軸正方向に向かうにつれて徐々に僅かに半径が大きくなる。すなわち、三日月状溝24aの幅は、y軸負方向側からy軸正方向側に向かうにつれて僅かに幅が広くなるように設けられている。三日月状溝24aのy軸正方向側の端Fと中心Oとを結ぶ直線がx軸(正方向)に対してなす角度はεであり(0°<ε<δ)、三日月状溝24aのy軸負方向側の端Gと中心Oとを結ぶ直線がx軸(正方向)に対してなす角度はζである(ε<ζ<γ)。
雨滴状溝24bは、三日月状溝24aに連続して、三日月状溝24aのx軸正方向側かつy軸正方向側に形成されている。雨滴状溝24bのy軸正方向側の辺243は円弧状に設けられており、僅かな幅を介して吐出孔25の外周を取り囲んでいる。辺243は、z軸方向から見て、ハウジング本体1の吐出孔形成部13の内周面132と略重なる位置に設けられている。雨滴状溝24bは、y軸負方向側の先端に向かうにつれて徐々に幅が狭くなるように設けられている。雨滴状溝24bのx軸正方向側の辺244は、直線状であり、z軸方向から見て、吐出孔形成部13の内周面131と略重なる位置に設けられている。雨滴状溝24bのx軸負方向側の辺245は、直線状であり、y軸負方向側で三日月状溝24aに連続している。
吐出孔25は、リアカバー2をz軸方向に貫通する円筒状の開口部であり、軸受孔20よりも僅かに小径であって、リアカバー2のx軸正方向側かつy軸正方向側に設けられている。吐出孔25は、吐出ポート24と連通するとともに、吐出ポート24を介してハウジング本体1の内部と連通している。吐出孔25は、作動油をポンプVPの外部に吐出する際の通路となり、機関のメインオイルギャラリーに接続され、機関の各摺動部及び可変動弁装置に連通している。
図2に示すように、三日月状溝24aの内周縁241はカムリング4の内周側に位置し、外周縁242はカムリング4と略重なる位置にある。すなわち、三日月状溝24aの内径側がカムリング4の内周側(ポンプ室r5〜r7)に開口している。吐出孔25は、カムリング4の外周側に配置されており、z軸方向から見て、カムリング4と重ならない。カムリング4の外周側(制御室R1)には、吐出孔25のほか、雨滴状溝24bが開口している。
図5は、図4のB−B断面を模式的に表した図であり、軸受給油溝26の断面を示す。軸受給油溝26は、リアカバー2の面2aに所定深さまで形成された横溝26a(オイル供給溝)と、軸受部2b(軸受孔20)の内周面に形成された縦溝26b(オイル流出溝)とを有している。軸受給油溝26は、吐出ポート24と軸受孔20とを連通し、作動油を吐出ポート24から軸受孔20へ供給することで、駆動軸9の潤滑性を確保する。軸受給油溝26は、リアカバー2をアルミダイキャストにより型成形する際に同時に成形される。
横溝26aは、z軸正方向から見て折れ曲がった「く」の字状に形成されており、第1溝261と第2溝262とを有している。第1溝261は、三日月状溝24aのy軸正方向側の端に接続する端部Hからx軸負方向かつy軸負方向に直線状に延びてx軸上の端部Iに至る溝である。第2溝262は、端部Iからx軸負方向に直線状に延びて軸受孔20(縦溝26b)に接続する端部Jに至る溝である。第1溝261は第2溝262よりも長く設けられており、端部Hと端部Iの間の距離は端部Iと端部Jの間の距離よりも長い。
言い換えると、第2溝262は、軸受孔20側の端部Jから所定位置(端部I)まで(駆動軸9の)半径方向に延び、第1溝261は、上記所定位置から(駆動軸9の)半径方向に対して傾斜して吐出ポート24(三日月状溝24a)側の端部Hまで延びる。第2溝262の上記端部Iは、後述するベーン6の(内径側の)基端部よりも内径側に位置するように設けられている。言い換えると、横溝26aにおいて第1溝261は、リアカバー2(面2a)におけるベーン6の摺動範囲で、駆動軸9の回転方向に対して傾斜した部分である。
第1溝261は、第2溝262(駆動軸9の半径方向ないしベーン6の出没方向)に対して、駆動軸9の回転方向と反対側に傾斜している。「駆動軸9の回転方向と反対側」とは、駆動軸9の逆回転方向側(図4の反時計回り方向側)を意味する。ここで第1溝261は、吐出ポート24(三日月状溝24a)と軸受孔20との間で、ベーン6が摺動する範囲である吐出ポート24側(第2溝262よりも外径側)に設けられている。よって、この第1溝261が「駆動軸9の回転方向と反対側に傾斜する」とは、駆動軸9の半径方向に沿って外径側へ向かい、軸受孔20(中心O)から遠ざかるにつれて、第1溝261が、駆動軸9の半径方向に対し、駆動軸9の逆回転方向側にオフセットするように傾斜することをいう。言い換えると、第1溝261は、第2溝262に対して、駆動軸9の逆回転方向側に所定の角度ηが付けられている(0°<η<90°)。第1溝261と第2溝262は、中心Oの周りの回転方向で見たとき、駆動軸9が回転する方向(時計回り方向)に凸の横溝26aを構成している。
また、吐出ポート24(三日月状溝24a)と連続する第1溝261の端部Hに対して駆動軸9の回転方向側で隣接するリアカバー2の部分は、縁部27である。縁部27が第1溝261と三日月状溝24aの内周縁241とに挟まれてなす角ρは鋭角(0°<ρ<90°)である。
縦溝26bは、軸受部2b(軸受孔20)の内周に、横溝26aの端部Jからz軸負方向に直線状に延びて穿たれた溝であり、z軸方向における所定範囲に設けられている。縦溝26bのz軸負方向側の端部である底部263は、リアカバー2のz軸方向厚さの半分よりも若干z軸負方向側の深さに設けられている。縦溝26bは、横溝26aからの作動油を軸受孔20の内周(ないし駆動軸9の外周)に導く。一方、軸受孔20のz軸負方向側(リアカバー2のz軸負方向側の面2cに開口する側)の端部は、ハウジングHSGの外部に連通し、大気圧に開放されている。吐出ポート24から横溝26aを介して縦溝26bの底部263まで供給された作動油は、軸受部2b(軸受孔20)を潤滑したのち、駆動軸9と軸受孔20との間の隙間を通って、略大気圧であるポンプ外部へ放出される。
フロントカバー3の軸受孔30は、図3に示すように、x軸正方向側に突出するボス部(軸受部3b)の内周に設けられている。フロントカバー3のz軸負方向側の面3aは、リアカバー2の面2aと同様、カムリング4の摺動範囲で、平面度等の精度を高くして機械加工されている。
(カムリングの構成)
カムリング4は、ロータ5を内部に収容しつつ、リアカバー2及びフロントカバー3に対して摺動自在に配置される可動部材である。カムリング4は、加工容易な焼結金属、例えば鉄系金属材料によって一体に成形されている。カムリング4は、本体部40と、ピボット部41と、アーム部42と、突起部43とを有している。カムリング4のz軸方向幅は、上記各部40〜43で略同一に設けられており、ハウジング本体1のz軸方向幅と略同じ大きさHである。
本体部40は円筒状(リング状)の部分であり、その内周にロータ5を収容する。本体部40の径方向幅は全周にわたって略同一に設けられており、その内周面400及び外周面401は、z軸方向から見て略円形に設けられている。以下、内周面400(及び外周面401)の中心軸をPとする。
ピボット部41は、本体部40の外周面401から突出して、本体部40と一体に形成された突起部分である。ピボット部41は、カムリング4のz軸方向全範囲にわたって設けられており、その先端部分は、z軸方向から見て、ハウジング本体1のピボット設置部133と同様の曲率(半径)を有する略半円状の曲面に形成されている。カムリング4は、ピボット設置部133にピボット部41が設置された状態で、ハウジング本体1の内部に収容されている。この設置状態で、ピボット設置部133及びピボット部41の半円の中心は略一致しており、この中心をQとする。
ピボット部41の略半円状の先端部分は、ピボット設置部133に(z軸方向全範囲にわたり)面接触するとともに、ピボット設置部133に対して(Qを中心とする回転方向で)摺動可能に設置されている。カムリング4は、ハウジング本体1に対して、点Q(ピボット部41ないしピボット設置部133)を中心としてxy平面内で回転自在に支持されており、点Qは、カムリング4の揺動支点となる。この回転(揺動)により、カムリング4(本体部40)の内周面400の中心軸Pは、駆動軸9の中心軸Oに対して、平行を保ったままオフセットする。すなわち、中心Pが中心Oに対して偏心可能に設けられている。
カムリング4のz軸正方向側の面4aは、フロントカバー3のz軸負方向側の面3aに対向し、カムリング4のz軸負方向側の面4bは、リアカバー20のz軸正方向側の面2aに対向して設置されている。すなわち、カムリング4の両側面4a,4bに対向して、リアカバー2及びフロントカバー3が、側壁として設けられている。カムリング4は、この両側壁の間で、上記対向面2a,3aに摺接しつつ、揺動支点Qを中心に揺動可能に設けられている。
アーム部42は、本体部40の外周面401から突出して、本体部40と一体に形成されたアーム部分である。アーム部42は、アーム本体420と受け部421を有している。アーム本体420は、点Pに関して点Q(ピボット部41)と略対称位置における外周面401からx軸負方向に延び、受け部421は、アーム本体420のx軸負方向側の端からy軸負方向に延びて設けられている。図2の初期セット状態で、アーム本体420のy軸正方向側の面422は、アーム収容部16の面161と僅かな隙間を介して対向しており、互いに接触しない。アーム本体420のy軸負方向側の面と、対向する係止部175のy軸正方向側の面との間にも、所定の隙間が設けられている。
受け部421のy軸負方向側の端面423は曲面であり、z軸方向から見て、y軸負方向に凸の緩やかな曲線状に形成されている。図2の初期セット状態で、端面423は、係止部175のx軸負方向側の面とz軸方向において重なる位置となるように設けられている。また、x軸方向において、受け部421の中心は、ばね室170の中心と略一致する位置に設けられている。受け部421のx軸方向幅は、ばね室170の開口部のx軸方向幅(係止部174,175の間の距離)よりも小さく設けられている。
突起部43は、本体部40の外周面401から突出し、外径方向に向かうにつれて幅が狭くなる略三角形状の突起部分であり、本体部40と一体に形成されている。突起部43は、本体部40のy軸正方向側端であってx軸方向で略中央位置(y軸と重なる位置)に設けられている。突起部43は、x軸正方向側に当接部43aを有し、x軸負方向側に絞り形成部43bを有している。すなわち、カムリング4における揺動支点Qに近い側に当接部43aが設けられ、揺動支点Qから離れた側に絞り形成部43bが設けられている。
当接部43aは、当接面430を有している。当接面430は、突起部43のx軸正方向側の側面に形成されたz軸に平行な平面であり、カムリング4のz軸方向全範囲にわたって形成され、カムリング4(本体部40)の外周面401の一部をなしている。z軸方向から見て、本体部40から当接部43aが隆起し始める境界点Uにおける外周面401の接線と当接面430とがなす角度は略45°である。カムリング4がハウジングHSGに設置された状態で、当接面430は、x軸正方向側かつy軸正方向側に面している。
z軸正方向から見て、点Qを通る直線を点Uに重ねたとき、当接面430は直線QUに対して、(点Qを中心として)反時計回り方向側に、ハウジング本体1の当接面140が直線QSに対してなす角度と略同じ微小角度をもって傾斜している。よって、図2に示すように、当接部43aがハウジング本体1の突起部14と当接するとき、面140と面430が略重なり、面140,430同士で接触するように設けられている。
絞り形成部43bは、絞り形成面431を有している。絞り形成面431は、突起部43のx軸負方向側の側面に形成された曲面であり、カムリング4のz軸方向全範囲にわたって形成され、カムリング4の外周面401の一部をなしている。絞り形成面431は、当接部43a(当接面430)のx軸負方向側に隣接し、z軸方向から見て、揺動支点Qを中心とする緩やかな円弧状であり、カムリング4の揺動時に略同一の曲線上を移動する。すなわち、絞り形成面431は、カムリング4の揺動軌跡に沿った形状を有している。また、絞り形成面431は、ハウジング本体1の絞り形成面150と略同一の曲率(半径)を有している。
カムリング4がハウジングHSGに設置された状態で、絞り形成面431は、x軸負方向側かつy軸正方向側に面している。z軸方向から見て、絞り形成面431の延長線がカムリング4の内周面400より外周側に向かうように構成されており、本体部40から絞り形成部43bが隆起し始める境界点Wにおける外周面401の接線と絞り形成面431とがなす角度は略45°である。また、z軸方向から見て、当接面430と絞り形成面431とがなす角度は、ハウジング本体1の当接面140と絞り形成面150とがなす角度と略同じβである。
当接面430と絞り形成面431との境界部位Vには、z軸方向から見てアールが設けられている。すなわち、当接面430と絞り形成面431は、なだらかな曲面を介して連続している。境界部位Vにおける上記曲面は、当接面430が属する平面よりも内側(突起部43の側)に落込んでいる。
(当接部と絞り部の詳細)
図7、図8は、ハウジング本体1の突起部14と絞り形成部15の内周側にカムリング4の突起部43が収容された部分を示す。図7は図2における上記部分の拡大図であり、図8は図6における上記部分の拡大図である。図9は、図7及び図8のC−C断面図であり、点Qを通りかつ絞り形成面150に略垂直な直線lで切った断面を示す。
図7に示すように、初期セット状態、すなわち中心Pが中心Oに対して最大に偏心した状態で、平面で構成されたハウジング本体1の当接面140は、同じく平面で構成されたカムリング4の当接面430とz軸方向全範囲にわたって面接触する。このように、初期セット状態では、当接部43aが突起部14と当接することで、中心Oに対する中心Pの偏心量がそれ以上大きくなることが規制され、偏心量が大きくなる方向でのカムリング4の揺動が規制される。すなわち、当接部43aと突起部14はストッパ部として機能する。
また、カムリング4の外周側とハウジング本体1の内周側との間で、当接面140と当接面430とが面接触する部位を境界として、x軸正方向側の空間(後述する制御室R1)とx軸負方向側の空間(後述する背圧室R2)とが液密に隔成される。すなわち、当接部43aと突起部14は、初期セット状態において、シール部として機能する。当接面140のカムリング4の周方向における長さ(STの長さ)は、所定値Dcに設定されている。一方、当接面140のz軸方向長さはHである。よって、ストッパ部の当接面積(両当接面140,430の接触面積)は、Dc×Hである。
ハウジング本体1の絞り形成部15(絞り形成面150)とカムリング4の絞り形成部43b(絞り形成面431)との間には、僅かな隙間CLが設けられている。図9に示すように、直線lが延びる方向における隙間CLの幅は、所定値Lに設定されている。値Lは十分に小さく、隙間CLは十分に狭い。このため、カムリング4の揺動時、例えば図8に示す状態で、カムリング4の外周側とハウジング本体1の内周側との間において、絞り形成面150と絞り形成面431とが対向し、隙間CLが形成される部位を境界として、x軸正方向側の空間(後述する制御室R1)とx軸負方向側の空間(後述する背圧室R2)との間の作動油の流通が制限される。すなわち、直線lの方向から見て絞り形成面150と絞り形成面431が重なる範囲で、両絞り形成部15,43b(により形成される隙間CL)は、絞り部(シール部)として機能する。
絞り形成面150と絞り形成面431は、ともに揺動支点Qを中心とした略同一の曲率(半径)を有する円弧状である。よって、カムリング4の揺動中、隙間CLの幅は所定値Lのままほとんど変化しない。言い換えると、絞り部における作動油の流路断面積(作動油の流通方向に対して略垂直な面で切った隙間CLの断面積。すなわち図9における隙間CLの面積)は、カムリング4が揺動したとしてもL×Hのままであり、ほとんど変化しない。
また、絞り部における作動油の流路長についてみると、絞り形成面150と絞り形成面431が重なる(隙間CLを形成する)範囲のカムリング周方向における寸法(絞り部の流路長D)は、図7の初期セット状態から図8の状態(揺動量が最大の状態)へカムリング4が揺動するにつれて、すなわち揺動量が増大するにつれて、減少する。流路長Dは、図7ではDa、図8ではDb(<Da)であり、Da:Db≒27:19である。言い換えると、絞り形成面150,431は、カムリング4の揺動量が最大となっても、カムリング4の周方向で、初期セット状態に対して略70%の範囲で重なるように設定されている。
両絞り形成部15,43bのz軸方向幅はHである。よって、絞り部における対向面積、すなわち絞り形成面150と絞り形成面431が対向して重なる範囲の面積は、約Da×Hから約Db×Hまでの間で変化し、初期セット状態から揺動量が増大するにつれて小さくなる。一方、Da及びDbは、ストッパ部(ハウジング本体1の当接面140)のカムリング周方向における長さDcよりも大きく設定されている。Da:Dc≒27:17であり、Db:Dc≒19:17である。よって、図7の初期セット状態で、ストッパ部の当接面積Dc×Hよりも、絞り部の対向面積Da×Hの方が大きく、図8の状態でも、絞り部の対向面積Db×Hの方が、(初期セット状態での)上記当接面積Dc×Hよりも大きい。
(制御室)
ハウジングHSGの内部では、カムリング4の外周面401とハウジング本体1の内周面との間で、低圧の背圧室R2と高圧となる制御室R1の2室が液密に隔成されている。制御室R1は、カムリング4の外周側において、x軸正方向側かつy軸正方向側、すなわち中心Pが中心Oに対して偏心する方向側であって、吐出孔25が開口する領域に設けられている。背圧室R2は、吸入孔22が開口する領域に設けられており、吸入孔22を介してオイルパンと連通し、低圧(大気圧)に保たれている。背圧室R2には、カムリング4を揺動可能とする隙間が設けられている。
図2の初期セット状態では、揺動支点Qの位置でピボット部41とピボット設置部133が当接し、またストッパ部の位置で当接部43aと突起部14が当接することによって、カムリング4の外周側で制御室R1と背圧室R2が隔成されている。一方、揺動量がゼロより大きくなり、カムリング4が揺動している状態、例えば図6の状態では、制御室R1と背圧室R2は、揺動支点Qの位置でピボット部41とピボット設置部133が当接し、また絞り部の位置で作動油の流通が制限されることによって、隔成されている。
すなわち、カムリング4の外周側には、制御室R1と背圧室R2を隔成するためのシール部材等が一切設置されておらず、初期セット状態ではストッパ部(互いに当接する当接部43aと突起部14)により、カムリング4の揺動状態では絞り部(絞り形成部15,43bの間の隙間CL)により、両室R1,R2が隔成されている。尚、カムリング4の外周面は、当接部43a(当接面430)とピボット部41以外の部位では、ハウジング本体1の内周面と接触しないように設けられている。
ロータ5は、円柱を基本形状とし、円柱の両底面から小径の円板を円柱と同軸に刳り抜いた形状を有している。図3に示すように、ロータ5の中心軸(駆動軸9の中心O)を通る平面で切ったときのロータ5の断面は略I字状であり、ロータ5は、z軸方向で肉薄の内周部51と、肉厚の外周部52とを有している。内周部51の略中央には嵌合孔50がz軸方向に貫通形成されており、嵌合孔50には駆動軸9が一体に結合されている。ロータ5は、ハウジングHSGの内部に回転自在に収容されており、駆動軸9とともに機関によって回転駆動され、クランクシャフトに同期して回転する。
ロータ5には、ロータ5の周方向で略等間隔に、7本のスリット5a〜5gが放射状に形成されている。スリット5a〜5gは、ロータ5の周方向に所定幅を有しており、z軸方向から見て、ロータ5の外周面53から中心Oに向かって、嵌合孔50までは達しない所定の深さまで内径方向に切り込まれることで形成されている。各スリット5a〜5gの内径側の基端部には、z軸方向から見た断面が略円形の背圧室50a〜50gが、それぞれ形成されている。
ベーン6は、7枚のベーン6a〜6gからなる。ベーン6a〜6gは薄い板状であり、そのz軸方向幅は、ロータ5(外周部52)のz軸方向長さと略同じ(H)である。ベーン6aは、スリット5a内に挿入されており、ロータ5の径方向に摺動自在に設置されている。他のベーン5b〜5gも同様に、スリット5b〜5gにそれぞれ設置されている。ロータ5の径方向におけるベーン6a〜6gの長さは、背圧室50a〜50gを含めたスリット5a〜5gの深さと略等しく設けられている。ベーン6a〜6gは、ロータ5の外周面53からカムリング4(本体部40)の内周面400に向けて出没自在に設けられており、ロータ5の回転に伴い、各ベーン6のz軸負方向側がリアカバー2の面2aに対して摺動し、z軸正方向側がフロントカバー3の面3aに対して摺動する。
一対のベーンリング7a,7bは、ロータ5の内周部51の直径よりも小径に設けられたリング状部材であり、それぞれz軸正方向側及びz軸負方向側から、ロータ5の内周部51に設置されている。ベーンリング7aのz軸方向幅は、ロータ5の外周部52のz軸正方向側の面と内周部51のz軸正方向側の面との間の距離より僅かに小さい。ベーンリング7bのz軸方向幅も同様に設けられている。ベーンリング7aは、内周部51のz軸正方向側の面に対して摺動自在に配置され、ベーンリング7bは、内周部51のz軸負方向側の面に対して摺動自在に配置されている。ベーンリング7a,7bの内周側には駆動軸9が貫通するとともに、ベーンリング7a,7bの各外周面70a,70bには、ベーン6a〜6gの内径側の基端部が当接している。
ベーンリング7a,7bは、z軸方向で見ると、図3に示すように、上記当接により各ベーン6a〜6gを2点支持しており、ベーン6a〜6gを放射外方、すなわちロータ5の外径方向へ押し出す機能を有している。上記押し出されたベーン6a〜6gのロータ外径側の先端部は、カムリング4の内周面400に当接している。
すなわち、ベーンリング7a,7bの中心をカムリング4の内周面400の中心Pと一致させたとき、内周面400とベーンリング7a,7bの外周面70a,70bとの間の距離は、ベーン6a〜6gの(ロータ径方向での)長さと略同じになるように設けられている。よって、ロータ5の回転に伴い、ベーン6a〜6gは、その基端部がベーンリング7a,7bの外周面70a,70bに摺接するとともに、その先端部がカムリング4の内周面400に摺接する。言い換えると、ベーン6a〜6gの基端部がベーンリング7a,7bの外周面70a,70bに当接することで、ベーンリング7a,7bは、その中心がカムリング4の中心Pと一致するように自動的に位置決めされる。
リアカバー2の面2aに対するベーン6a〜6gの摺動範囲は、z軸正方向から見て、ベーンリング7aの外周面70aとカムリング4の内周面400との間のリング状の範囲であり、カムリング4の偏心(揺動)状態に応じて全体が若干移動する。カムリング4の偏心状態に関わらず、上記リング状の摺動範囲の内周(すなわちベーン6の基端部の摺動軌跡)は、面2aに形成された第2溝262の外径側端部(すなわち第1溝261の内径側端部)Iよりも若干外径側に位置するように設けられている。言い換えると、面2aに対する摺動範囲内で、ベーン6a〜6gが第2溝262と可及的に重ならないように設けられている。
(ポンプ室の構成)
ロータ5、カムリング4、吸入ポート23、吐出ポート24、ベーン6a〜6g等のポンプ構成体によって、ポンプ作動室が構成されている。すなわち、ベーン6a〜6gと、フロントカバー3の面3a及びリアカバー2の面2aと、ロータ外周面53と、カムリング内周面400とで囲まれた空間により、7つのポンプ室r1〜r7が液密に隔成されている。隣り合う2つのベーン6の間に、1つのポンプ室が形成されている。吸入孔22はリアカバー2から開口し、吸入ポート23を介して、吸入室であるポンプ室r1〜r3に連通している。吐入孔25はリアカバー2から開口し、吐出ポート24を介して、吐出室であるポンプ室r5〜r7に連通している。
初期セット位置で、カムリング内周面400の中心Pは、ロータ5の回転中心Oに対してy軸正方向側にオフセット(偏心)している。よって、中心Oに対してx軸負方向側の半分では、ロータ5の回転方向(図2の時計回り方向)、すなわちy軸負方向側からy軸正方向側に向かうにつれて、ポンプ室r1、r2、r3、r4の順に、ポンプ室の容積が増大する。中心Oに対してx軸正方向側の半分では、ロータ5の回転方向、すなわちy軸正方向側からy軸負方向側に向かうにつれて、ポンプ室r4、r5、r6、r7の順に、ポンプ室の容積が減少する。よって、ロータ5の回転に伴い、各ポンプ室r1、r2、r3の容積はそれぞれ増大し、各ポンプ室r4、r5、r6、r7の容積はそれぞれ減少する。
x軸負方向側のポンプ室r1、r2、r3(ロータ5が図2の位置から時計回り方向に若干回転するまでは、ポンプ室r4も含む。)は、z軸方向から見て吸入ポート23(三日月状溝23a)と重なり、吸入ポート23と連通する位置に設けられている。一方、x軸正方向側のポンプ室r5、r6、r7は、z軸方向から見て吐出ポート24(三日月状溝24a)と重なり、吐出ポート24と連通する位置に設けられている。尚、z軸方向から見て、隣り合うベーン6の対向する2つの面が中心Pに対してなす角度は、∠DOF及び∠EOG(図3参照)よりも小さく設けられている。よって、1つのポンプ室が同時に吸入ポート23と吐出ポート24の両方に連通することはない。中心Oと中心Pとの偏心によるズレは微小であるため、カムリング4の揺動量に関わらず上記のことが言える。
よって、ロータ5が回転すると、回転中心Oに対してx軸負方向側では、吸入ポート23からポンプ室r1、r2、r3に作動油が吸入される吸入行程となる。すなわち、ポンプ室r1〜r3は吸入室である。一方、中心Oに対してx軸正方向側では、ポンプ室r5、r6、r7から吐出ポート24に作動油が吐出される吐出行程となる。すなわち、ポンプ室r5〜r7は、吐出室である。吸入室r1〜r3及び吐出室r5〜r7の容積がロータ5の回転方向で変化する割合(容積変化率)は、初期セット位置からカムリング4が揺動するにつれてそれぞれ変化(増減)する。すなわち、ポンプVPの一回転当たりの吐出流量(ポンプ容量)は可変に設けられている。
尚、吐出ポート24に吐出された作動油は、制御室R1に導入されるとともに、ロータ5の背圧室50a〜50gにも導入され、ベーン6a〜6gを放射外方へ押し出す。加えて、ベーン6a〜6gそれ自身に作用する遠心力によって、ベーン6a〜6gは放射外方へ押し出される。これにより、機関の作動時、ベーン6a〜6gの先端部がカムリング4の内周面400に摺接する。機関の停止時、ポンプVPが回転していないときは、ベーンリング7a,7bが、ベーン6a〜6gを放射外方へ押し出すように保持している。これにより、機関作動開始時にもポンプ室の液密性が素早く確保され、ポンプ吐出圧の応答性を向上できる。また、ポンプ回転開始時にベーン6a〜6gが放射外方へ飛び出してカムリング内周面400に衝突する際の衝突音を抑制できる。
(付勢部材の構成)
付勢部材8は、小径の第1コイルばね8aと大径の第2コイルばね8bからなり、背圧室R2内、具体的にはハウジング本体1のばね室170に収納されている。付勢部材8は、全体として2重ばねとして構成されており、第2コイルばね8bの内周側に、第2コイルばね8bと略同軸に、第1コイルばね8aが配置されている。第1コイルばね8aは、その巻き方向が第2コイルばね8bの巻き方向と逆向きになるように設置されている。
図2に示すように、第1コイルばね8aの外径(外周面の直径)は、受け部421のx軸方向幅よりも若干大きく、かつばね室170の開口部のx軸方向幅(係止部174,175の間の距離)よりも僅かに小さく設けられている。第2コイルばね8bの外径は、ばね室170の開口部のx軸方向幅よりも大きく、かつ、受け部421(及びばね室170の係止部174,175)のz軸方向長さよりも小さく設けられている。
第1,第2コイルばね8a,8bのy軸負方向側の端は、ばね室170の底面171に設置されている。第1コイルばね8aのy軸正方向側の端は、係止部174,175で係止されておらず、ばね室170の開口部を通って、受け部421のy軸負方向側の下端面423に当接して設置されている。具体的には、第1コイルばね8aのy軸正方向側の端部における径方向(z軸方向)両端が受け部421の下端面423に当接している。第1コイルばね8aは、ハウジング本体1(ばね室170の底面171)とカムリング4のアーム部42(受け部421)との間で押し縮められ、初期セット荷重W1が付加された状態で、ばね室170に収納されている。
一方、第2コイルばね8bのy軸正方向側の端は、係止部174,175で係止されている。具体的には、第2コイルばね8bのy軸正方向側の端部における径方向(x軸方向)両端が、係止部174,175のy軸負方向側の下端に当接するように設置されている。第2コイルばね8bは、ばね室170の底面171と係止部174,175の間で押し縮められ、初期セット荷重W3が付加された状態で、ばね室170に収納されている。
(ポンプの作用)
背圧室R2において、付勢部材8はアーム部42を一方向(y軸正方向)に付勢する付勢力Fsを常時発生し、カムリング4を支点Qの周りに、中心Pが中心Oから離間して偏心量が増大する方向、すなわち図2の時計回り方向に回転(揺動)させる力のモーメントMbを発生させる。言い換えると、付勢部材8は、ポンプ室r1〜r7のうち、容積が最も大きいポンプ室(図2ではr4)と最も小さいポンプ室(図2ではr1,r7)の容積差が大きくなる方向、すなわちポンプ室r1〜r7の容積変化率が増大する方向に、カムリング4を付勢している。カムリング4の外周面401(当接面430)は、上記方向に揺動することによって、ハウジング本体1の内周面(当接面140)と当接する。以下、第1コイルばね8aが発生する力のモーメントをMb1、第2コイルばね8bが発生する力のモーメントをMb2という。
ポンプ作動時であっても、背圧室R2に面するカムリング4の外周面には(制御室R1ないし吐出ポート24の圧力よりも)低い背圧室R2の圧力(具体的には大気圧)しか作用しない。よって、背圧室R2からは、Qを支点としてカムリング4を揺動させようとする力はほとんど作用しない。また、カムリング内周面400が各ポンプ室から受ける液圧は、直線QPに関して略対称であるため、この液圧により、カムリング4を支点Qの周りに揺動させる力のモーメントはほとんど発生しない。
一方、付勢部材8によって付勢されて偏心する方向側に設けられた制御室R1内には、吐出ポート24から作動油が供給される。これにより、制御室R1に面するカムリング4(本体部40)の外周面401には高い制御室R1の液圧(大気圧よりも高い吐出圧)が作用して、カムリング4を押圧付勢する。この液圧(以下、制御圧という。)による付勢力Flは、ポンプ回転数(吐出圧)の増加に応じて増大し、カムリング4を支点Qの周りに、中心Pが中心Oに近づき偏心量が減少する方向、すなわち図2の反時計回り方向に回転(揺動)させる力のモーメントMaを発生する。これにより、制御室R1は、カムリング4を付勢部材8の付勢力に抗して揺動させ、ポンプ室rの容積変化率すなわちポンプ容量を減少させる。
ポンプ回転数が小さい時には、図2の初期セット状態である。すなわち、吐出ポート24の圧力(制御圧)が低く、制御室R1からカムリング4に作用する付勢力Flが小さい。このため、制御圧による反時計回り方向のモーメントMaよりも、付勢部材8(第1コイルばね8a)による時計回り方向のモーメントMb(Mb1)のほうが大きい。よって、カムリング4は最大偏心した図2の初期セット位置となる。
ポンプ回転数が増大し、制御圧が高くなるに従って、付勢部材8の付勢力に抗してカムリング4を揺動させる付勢力Flが増大する。制御圧が所定値に達すると、制御圧によるモーメントMaの大きさが、付勢部材8(第1コイルばね8a)によるモーメントMb1と略等しくなる。制御圧が上記所定値よりも高くなると、MaのほうがMb1よりも大きくなるため、カムリング4は図2の最大偏心位置から反時計回り方向に揺動を始める。このときカムリング4の当接面430はハウジングの当接面140から離れ、アーム部42は第1コイルばね8aを圧縮しつつy軸負方向側へ移動する。受け部421は、第1コイルばね8aを圧縮しながら、ばね室170の開口部に向かって移動する。
ポンプ回転数(制御圧)が所定値になると、受け部421の端面423は、係止部174,175で係止された状態でばね室170に収納されている第2コイルばね8bのy軸正方向側の端に当接する。このとき、カムリング4の偏心量(OP間の距離)は、最大値(図2)と最小値(図6)の間の所定値となっている。ポンプ回転数(制御圧)が所定範囲内にあるときは、制御圧によるモーメントMaの大きさが、第1コイルばね8aによるモーメントMb1と第2コイルばね8bによるモーメントMb2との合計以下に留まる。このとき、カムリング4は揺動せず、所定位置に留まる。この状態を保持状態といい、保持状態におけるカムリング4の位置を保持位置という。保持状態におけるポンプ室r1〜r7の容積変化率は、初期セット状態におけるよりも小さく、最小偏心状態におけるよりも大きい。
ポンプ回転数(制御圧)が上記所定範囲を超えて高くなると、MaのほうがMb(=Mb1+Mb2)よりも大きくなるため、カムリング4は保持位置から反時計回り方向への揺動を再開する。このとき、受け部421の端面423は、ばね室170の内部に入り、第1コイルばね8aと第2コイルばね8bの両方を圧縮しつつ、y軸負方向側へ移動する。
ポンプ回転数(制御圧)が所定値に達すると、図6に示すように、中心Pは中心Oと一致し、カムリング4の偏心量(OP間の距離)は最小値ゼロとなる。このときMaとMbの大きさが略同じとなり、釣り合うように設定されているため、カムリング4を揺動させる力のモーメントは時計回り方向にも反時計回り方向にも発生せず、カムリング4はいずれの方向にもそれ以上揺動しなくなる。この最小偏心状態では、y軸正方向側のポンプ室r4等とy軸負方向側のポンプ室r1,r7等の容積差は最小(略ゼロ)である。尚、最小偏心状態でのカムリング4の偏心量は、必ずゼロでなければならないわけではなく、中心Pが中心Oに対して所定量オフセットしていてもよい。
以下、付勢部材8の変位量と荷重Wとの関係を説明する。変位量は、第1,第2コイルばね8a,8bの変形量(ばね変位)であり、カムリング4の反時計回り方向の揺動量(揺動角)に相当する。荷重Wは、第1,第2コイルばね8a,8bのばね荷重であり、第1,第2コイルばね8a,8bの付勢力Fs、言い換えるとモーメントMb(Mb1,Mb2)に相当する。
カムリング4の初期セット位置(図2)では、ばね荷重は、第1コイルばね8aの初期セット荷重W1となる。初期セット位置から保持位置までカムリング4が揺動する間、第1コイルばね8aのみが圧縮変形する。よって、この間、ばね荷重は、第1コイルばね8aの(初期セット状態からの)変位量に比例し、第1コイルばね8aのばね定数に応じた傾きで増大する。保持位置となる直前、ばね荷重は、そのときの第1コイルばね8aの変位量に応じた荷重W2(>W1)となる。初期セット位置から保持位置までの間、付勢部材8によるモーメントMbは、第1コイルばね8aのばね荷重に応じた大きさとなる。
カムリング4が保持位置まで揺動すると、第1コイルばね8aに加え、第2コイルばね8bも圧縮変形可能となる。よって、保持位置において揺動量が微小に増大すると、ばね変位はほとんど変化しないまま、ばね荷重はW2から、第2コイルばね8bの初期セット荷重W3をW2に加えた大きさW4(=W2+W3)へ急激かつ不連続的に増大し、付勢部材8によるモーメントMbも不連続的に増大する。
保持位置から最小偏心位置(図6)までの間、第1コイルばね8a及び第2コイルばね8bの両方が圧縮変形する。このため、ばね荷重は、第1,第2コイルばね8a,8bの荷重の合計となり、第1,第2コイルばね8a,8bの(保持位置からの)変位量に比例して、第1,第2コイルばね8a,8bのばね定数の和に応じた傾きで増大する。最小偏心位置になると、ばね荷重は、そのときの第1,第2コイルばね8a,8bの変位量に応じた荷重W5(>W4)となる。保持位置から最小偏心位置までの間は、付勢部材8によるモーメントMbは、第1,第2コイルばね8a,8bのばね荷重の合計に応じた大きさ(Mb1+Mb2)となる。
以上のように、付勢部材8の特性は非線形に設けられており、カムリング4の揺動量が大きくなるにつれて荷重Wが非連続的に大きくなる。すなわち、保持位置においてばね荷重が階段状に(非連続的に)増大する。また、付勢部材8の弾性率、すなわち単位変位量当たりの荷重(付勢力)は、初期セット位置から保持位置までの揺動範囲では第1コイルばね8aのばね定数と等しく、保持位置から最小偏心位置までの揺動範囲では第1,第2コイルばね8a,8bのばね定数の合計となる。すなわち付勢部材8の弾性率は、保持位置で非連続的に大きくなる。
このような非線形特性は、揺動量に関わらずカムリング4を常に付勢する第1コイルばね8aと、カムリング4が所定量以上揺動したときにのみ付勢力を作用させる第2コイルばね8bとを設けたことにより得られる。すなわち、カムリング4の揺動量が少ないときには1つのばね(第1コイルばね8a)によって付勢し、カムリング4の揺動量が大きくなると複数のばね(第1,第2コイルばね8a,8b)によって付勢する構成により得られる。
図10は、機関の回転数(ポンプ回転数)との関係におけるポンプVPの吐出圧の特性(油圧特性)を示すグラフである。実線(a)は、本実施例1のポンプVPの油圧特性を示し、破線(b)(c)は、一般に機関で必要とされる油圧特性を示す。
機関で必要とされる油圧は、主としてクランクシャフトの軸受部の潤滑に必要な油圧により決定される。よって、破線(c)で示すように、機関回転数とともに増加する傾向になる。また、燃費の向上や排気エミッション低減等のために可変動弁装置を用いた場合は、この装置の作動源としてポンプの吐出圧が用いられる。よって、この装置の作動応答性を確保するため、機関低回転の時点から、ポンプ吐出圧は破線(b)に示すように、所定の大きさP1*が要求される。よって、機関全体に必要な油圧特性は、破線(b)(c)を結んだものとなる。
本実施例1のポンプVPは、機関回転数に応じて容量を可変とすることで、動力損失を抑制して燃費を向上する。その際、付勢部材8の上記非線形特性により、実線(a)に示すような油圧特性を実現している。以下、図10の回転数領域(ア)〜(エ)に分節して説明する。
機関の始動後、機関回転数が低い領域(ア)では、ポンプVPの吐出圧(制御圧)によるモーメントMaよりも、付勢部材8(第1コイルばね8a)の初期セット荷重W1によるモーメントMb1のほうが大きく、カムリング4は図2の初期セット位置にある。カムリング4の偏心量が最大であるため、ポンプ容量が最大となり、機関回転数の上昇に伴って吐出圧が急速に立ち上がる特性となる。領域(ア)では、吐出圧が、P1からP2まで急上昇する。P2は、カムリング4が第1コイルばね8aの付勢力に抗して揺動を開始する吐出圧である。
P2は、可変動弁装置の作動応答性を確保できるポンプ吐出圧P1*(例えば、油圧によりロック状態を解除する機構を有するバルブタイミング制御装置において、ロック状態が解除される吐出圧)よりも高い値に設定されている。言い換えると、P1*は回転数領域(ア)で実現され、時間的にはイグニッションキーをオンして約2〜3秒経過後に実現される。
吐出圧が上昇してP2以上になると、制御圧によるモーメントMaのほうが、付勢部材8(第1コイルばね8a)の初期セット荷重W1によるモーメントMb1よりも大きくなるため、カムリング4は偏心量が小さくなる方向に揺動を開始する。領域(イ)では、機関回転数の上昇に伴って吐出圧がP2からP3まで上昇する。P3は、カムリング4が保持位置に保持され始める吐出圧である。P2からP3までの間、制御圧によるモーメントMaのほうが、押し縮められる付勢部材8(第1コイルばね8a)の荷重(W1〜W2)によるモーメントMb1よりも大きくなれば、カムリング4は上記方向に揺動を続ける。この揺動中、機関回転数(ポンプ回転数)の上昇による吐出圧の増大は、ポンプ容量の減少による吐出圧の減少によって相殺される。このため、(イ)では、機関回転数の上昇に対して吐出圧の上昇勾配が(ア)よりも小さく、吐出圧が緩やかに上昇する特性となる。
吐出圧が上昇してP3になると、制御圧によるモーメントMaが、付勢部材8(第1コイルばね8a)の荷重W2によるモーメントMb1と等しくなる。領域(ウ)では、機関回転数の上昇に伴って吐出圧がP3からP4まで上昇する。P4は、カムリング4が第1,第2コイルばね8a,8bの付勢力に抗して揺動を再開する吐出圧である。P3からP4までの間、制御圧によるモーメントMaは、第1,第2コイルばね8a,8bを合わせたばね荷重W2〜W4によるモーメントMbと釣り合っている。よって、カムリング4は揺動せず、保持位置に保持された状態となる。保持位置におけるポンプ室r1〜r7の容積変化率は、初期セット位置における変化率よりも小さい。よって、(ウ)では、ポンプ容量が(ア)よりも小さい。一方、揺動中の(イ)とは異なり、ポンプ容量は減少せずに固定値となる。このため、機関回転数の上昇に対する吐出圧の上昇勾配は(ア)よりも小さいが(イ)よりも大きい、すなわち吐出圧が中程度の勾配で上昇する特性となる。
吐出圧がさらに上昇してP4以上になると、制御圧によるモーメントMaのほうが、ばね荷重W4によるモーメントMbよりも大きくなるため、カムリング4は偏心量が小さくなる方向に揺動を再開する。領域(エ)では、機関回転数の上昇に伴って吐出圧がP4からP5まで上昇する。その間、制御圧によるモーメントMaのほうが、押し縮められる付勢部材8(第1,第2コイルばね8a,8b)の荷重(W4〜W5)によるモーメントMbよりも大きくなれば、カムリング4は上記方向に揺動を続ける。よって、(エ)では、(イ)と同様、機関回転数の上昇に対して吐出圧の上昇勾配が(ア)及び(ウ)よりも小さく、吐出圧が緩やかに上昇する特性となる。
以上の回転数領域(ア)〜(エ)を合わせた全体としての油圧特性(a)の形は、一般に機関で必要とされる特性である破線(b)(c)の形に近似している。機関の中回転域、すなわち領域(イ)(ウ)では、ポンプVPの吐出圧が、機関回転数の上昇に応じて上昇するとともに、破線(b)(c)よりも若干高い値に維持される特性となっているため、機関を十分に潤滑できる。機関回転数が最大となったときの吐出圧P5は、そのときに機関の潤滑に必要とされる油圧P2*よりも若干高く設定されている。
本実施例1では、可変動弁装置の作動応答性を確保することと、ポンプを作動させることによる機関の動力損失を減少させることとを両立できる。すなわち、本実施例1のポンプVPは、(ア)の領域の勾配Δを大きく(急峻に)することで初期の吐出圧の立ち上がりを良好にしていることから、機関始動後、可変動弁装置に必要な作動油圧を供給できるまでの時間を短縮でき、該装置の作動応答性を向上できる。また、付勢部材8を非線形特性とすることで、ポンプVPの吐出圧の特性(実線(a))を、最低限必要とされる油圧特性(破線(b)(c))に可及的に近づけ、吐出圧を全体的に抑制している。よって、不必要な吐出圧上昇による動力損失(消費エネルギ)を効果的に低減し、燃費性能を向上できる。
(ストッパ部の作用)
初期セット状態では、カムリング4が付勢部材8によって付勢され、カムリング4の外周面401(当接面430)がハウジング本体1の当接面140と当接する。これにより、カムリング4が初期セット位置(最大偏心位置)に位置決めされると同時に、制御室R1が隔成される。上記当接により十分なシール性が保持されるので、シール部材などを用いてシールすることなく、制御室R1の液密性が確保される。このように、初期セット状態におけるシール性を確保することで、初期(回転数領域(ア))の吐出圧の立ち上がりをより確実に向上し、機関始動後、可変動弁装置に必要な作動油圧を供給できるまでの時間をより効果的に短縮できる。すなわち、高い容積効率が必要な最大偏心時(最大理論吐出量時)には、シール部材と同等のシール性能によって流量を確保するため、初期のポンプ効率が下がらず、要求されるポンプ性能を実現できる。
ここで、カムリング4の当接面430とハウジング本体1の当接面140は互いに面接触するため、接触面積を増やしてシール性能を向上できる。また、当接面430,140はともに平面で構成されているため、例えば曲面で構成した場合よりも作成が容易であり、加工コストを低減できる。また、当接面140,430は制御室R1のz軸方向全範囲にわたって当接するため、制御室R1のシール性をより向上できる。同様に、ピボット設置部133、ピボット部41はz軸方向全範囲にわたって設けられているため、支点Qにおける液密性を向上して、制御室R1のシール性を向上できる。
当接面140は、ハウジング本体1の内周面(突起部14の側面)に形成されている。よって、ストッパ部のために別部材を設ける必要がないだけでなく、作成が簡単であり、コストを低減し、組付性を向上できる。
ハウジング本体1の突起部14が当接するカムリング4側の部分として、カムリング4の外周側に突起部43(当接部43a)を突出させ、この突起部43(当接部43a)が突起部14と当接することとした。よって、ストッパ部のために別部材を設ける必要がないだけでなく、作成が簡単であり、コストを低減し、組付性を向上できる。
ハウジング本体1の当接面140は、カムリング4の当接部43aよりも柔らかい材料で形成されている。具体的には、ハウジング本体1はアルミ系金属材料で成形されており、ハウジング本体1の内周面に形成された当接面140も上記アルミ系金属材料から作られている。一方、カムリング4は、鉄系金属材料で成形されており、カムリング4に形成された当接部43a(当接面430)も上記鉄系金属材料から作られている。よって、各部品の製造時や組付け時に若干誤差があった場合でも、ポンプVPを使用するに従って(ストッパ部で両者が当接する回数が増えるに従って)、当接部43a(当接面430)の形状に合わせて当接面140の形状が変化し、これにより両者の密着度が向上する。よって、初期セット状態におけるストッパ部でのシール性をより向上できる。
(絞り部の作用)
絞り部(絞り形成部15,43b)は、カムリング4の外周側であって、付勢部材8によりカムリング4が付勢されて偏心する方向側(y軸正方向側)に形成されており、カムリング4が揺動を開始した後も、制御室R1と背圧室R2との間の作動油の流通を制限する。この絞り効果により絞り部がシール機能を発揮することで、制御室R1が隔成され、制御室R1内の圧力が所定値に維持されて、ポンプ回転数に応じた制御圧の発生が確保される。よって、カムリング4が揺動しても、制御圧によりポンプ容量を可変としつつ、ポンプVPを作動させることができる。
すなわち、カムリング4が揺動を開始した後は、カムリング4の当接面430がハウジング本体1の当接面140から離間し、ストッパ部がシール機能を発揮しなくなるとともに、(高圧の)制御室R1から(低圧の)背圧室R2へ、絞り部(隙間CL)を通って少量の作動油が流出(リーク)するようになる。しかし、この流出量は、制御圧に特段の影響を与えるものではなく、絞り部が上記流出量を制限する(制御室R1をいわばシールする)ことで、制御室R1内が所定圧力に維持される。上記所定圧力は、上記リークがなかった場合の圧力よりも若干低いものの、カムリング4を揺動させるのに十分なモーメントMaを発生できる大きさである。
カムリング4の外周における制御室R1を除く部分(背圧室R2)は、吸入孔22と連通し、大気開放されている。よって、絞り部から作動油がリークし、上記部分(背圧室R2)に流入しても、カムリング4に余計な油圧力が作用することが抑制される。また、絞り部からリークした作動油は背圧室R2(吸入ポート23)に吸入され、回収されて再びポンプVPに供給されるため、ポンプVPの効率がよい。また、カムリング4の揺動中(領域(イ)〜(エ))は、機関に供給される作動油量が過剰な状態であるため、機関の潤滑にとって、上記リークによる影響はない。
尚、カムリング4の外周面401には、絞り形成部431からアーム部42に至る範囲で、上記リークした作動油により所定の液圧が作用する。この液圧は、カムリング4の揺動量を増大させる方向(偏心量を減少させる方向)の力のモーメントを若干発生する。言い換えると、上記リークによる液圧は、カムリング4が初期セット位置から揺動を開始した後、制御圧によるモーメントMaをアシストして、領域(イ)(エ)における(機関回転数に対する)吐出圧の勾配を若干小さくするように作用する。
一方、機関回転数が領域(ア)から(イ)へ移行してカムリング4が揺動を開始する際、カムリング4の当接面430がハウジング本体1の当接面140から離れるため、制御室R1を隔成する部分が、ストッパ部から絞り部へと変化・交替する。よって、制御室R1に面するカムリング4の外周面401の面積、すなわち吐出圧(制御圧)の受圧面積が、当接面430の面積分だけ、急に増加する。このため、制御圧によるモーメントMaは、受圧面積の上記増加分だけ急に増大し、瞬間的に付勢部材8の荷重W1によるモーメントMb1よりも大きくなって、カムリング4が急速に揺動する。すなわち、制御室R1の受圧面積が変化しない場合に比べて、ポンプ容量が急に減少し、図10における吐出圧の勾配は、回転数が領域(ア)から(イ)へ切り替わる際、瞬間的に、((イ)での他の回転数におけるよりも)急変する(瞬間的に勾配が小さくなる)。しかし、この瞬間でも吐出圧の大きさはP1*以上となるように設定されているため、問題はない。
以上のように、本実施例1のポンプVPは、シール部材を別途設けなくても、カムリング4の揺動状態に関わらず制御室R1を隔成することができるため、組付性を向上し、コストを低減できる。例えば特許文献1に記載のポンプのように、制御室と背圧室をシールするためのシール部材として、ハウジングの内周面に摺接するシール材と、このシール材をハウジングの内周面に向けて付勢し、シール材を上記内周面に密着させるための弾性部材とを設けた場合、これらの組付けは容易でないだけでなく、組付け不良が発生するおそれがあり、製品の品質が不安定である。また、部品点数が増加してコストアップしてしまう。ここで、シール部材の組付性を向上し、品質を安定化するためには、特許文献1に記載のポンプのように、カムリングの揺動支点となるピボットピンをカムリング等とは別体に設け、シール部材を組付けた後にピボットピンを組付けることが簡便である。しかし、この場合、部品点数がさらに増加し、組付け工数も増加するため、コスト低減が困難である。これに対し、本実施例1では、シール部材を別途設けることなく絞り部により制御室R1を隔成することで、組付性を向上して品質を安定化しつつ、(部品点数や組付性の面で)コストを大きく低減できる。また、ピボットピンを別途設ける必要がなく、カムリングと一体に揺動支点(ピボット部41)を形成することが可能であるため、上記効果をより向上できる。
絞り部(絞り形成面150,431)は、揺動支点Qを中心とした同心(かつ略同じ曲率)の円弧状であり、カムリング4の揺動軌跡に沿った形状を有している。このため、カムリング4が揺動しても、絞り部の流路断面積(図9における隙間CLの面積)はL×Hのままであり、ほとんど変化しない。よって、カムリング4の揺動量(絞り部の流路長Dの変化)に対する絞り部の抵抗(制御室R1の液圧に対する絞り部における作動油の流れにくさ)の変化を一定(線形)に維持することができる。したがって、ポンプ作動時に絞り部から流出する作動油量を容易に計算することができ、ポンプVPの特性の設定が容易である。
カムリング4(突起部43)における揺動支点Qに近い側にストッパ部(当接面430)が設けられ、支点Qから離れた側に絞り部(絞り形成面431)が設けられている。よって、揺動前にはストッパ部(当接面430)の当接によりストッパ機能を発揮するとともにシール性を確保し、揺動後には絞り部(絞り形成面431)の絞り効果によりシール性を確保することができる。
ストッパ部(突起部14, 当接部43a)と絞り部(絞り形成部15,43b)は隣接して配置されている。具体的には、カムリング4から突起部43が略三角形状に突出しており、そのうちの一側面(当接部43aの当接面430)がハウジング本体1の突起部14(の当接面140)に当接するとともに、突起部43の他側面に絞り形成部43b(絞り形成面431)が設けられ、ハウジング本体1の絞り形成部15(絞り形成面150)との間で絞り部を形成している。
よって、カムリング4の外周において一箇所に突起を作るだけでストッパ部と絞り部を同時に形成することができるため、構成を簡素化できるとともに、作成が簡単であり加工コストを低減することが可能である。また、スペースを節約してポンプVPのサイズを抑制することが可能である。さらに、突起部43の形状を略三角形とすることで、作成がより容易であるだけでなく、ハウジング本体1の突起部14(当接面140)と当接する際に力が作用する突起部43の根元部分の剛性を高く確保できる。
また、ストッパ部と絞り部を互いに離れた位置に配置した場合、カムリング4が揺動を開始してストッパ部の両当接面が離間するとき、制御室において、(当接面の面積分だけでなく)ストッパ部から絞り部までの範囲の面積分だけ、カムリング4の外周における受圧面積が瞬間的に増加することとなる。これに対し、本実施例1のように両者を隣接して配置すれば、カムリング4が揺動を開始するときの制御室R1における受圧面積の急変を(当接面140, 430の面積分だけに)抑制することができる。
ストッパ部(当接面140, 430)と絞り部(絞り形成面150,431)は、角度をもって配置されている。すなわち、カムリング4の当接面430と絞り形成面431は、z軸方向から見て角度βをもった山形状である。同様に、ハウジング本体1の当接面140と絞り形成面150は、突起部14と絞り形成部15とに挟まれた略三角形状の凹部の側面に形成されており、z軸方向から見て角度βをもった谷形状である。よって、カムリング4が揺動を開始する際(開始した直後)、当接面140, 430の間で僅かな隙間が発生するところ、この隙間により形成される絞り流路と、これに隣接する絞り部の流路との間に上記角度βが付けられる。この流路の折曲がりによって、全体としての流路抵抗が増大し、揺動開始時(開始直後)のシール性能を向上することができる。
ハウジング内周面に形成された当接面140と絞り形成面150の境界は、切り欠き溝18により、ハウジング内周面(当接面140)とカムリング外周面(当接面430)が互いに離間する方向(当接面140,430に対して垂直な方向であるx軸正方向側かつy軸正方向側)に切り欠かれている。このように「逃がし」を作ることで、より確実に両当接面140,430を面接触させることができる。すなわち、切り欠き溝18を設けることで、ストッパ部において、ハウジング本体1の当接面140とカムリング4の当接部43a(当接面430)との干渉を防止し、浮き上がり(両当接面140,430の間の隙間の発生)等によるシール性の低下を防止できる。また、カムリング4の側でも、当接面430と絞り形成面431との境界部位Vにアールを設け、ハウジング内周面(当接面140)とカムリング外周面(当接面430)が互いに離間する方向に当接面430を落ち込ませているため、上記効果をより確実に得ることができる。
最大偏心状態(図2、図7の初期セット状態)で、ストッパ部の当接面積Dc×Hよりも絞り部の対向面積Da×Hの方が大きくなるように設けられている。すなわち、絞り形成面150の周方向長さDaを、ストッパ部(当接面140)の周方向長さDcに対して長く設定している。よって、カムリング4の揺動時、絞り形成部150,431が互いにずれたとしても、その重なり、すなわち絞り部の流路長を十分に確保し(≧Db)、絞り部におけるシール性を確保できる。一方、ストッパ部は少なくともストッパ機能を有していれば足りるため、小型化してもよい。よって、ストッパ部の当接面積(両当接面140,430の周方向長さ)を、(初期セット状態における)絞り部の対向面積よりも小さく設定して、ポンプVPを小型化している。
カムリング4の外周部において制御室R1を除く部分(背圧室R2)に、揺動支点Qの設置側と反対側の位置に、付勢部材8を配置している。よって、付勢部材8の付勢力により揺動支点Qの周りで発生するモーメントMbのアームが(支点Qの設置側と同じ側に付勢部材8を配置した場合よりも)長くなる。これにより付勢部材8の付勢力Fsを小さく設定することができる。すなわち、付勢力Fsを小さくしても十分な大きさのモーメントMbを発生することができる。具体的には、カムリング4の内周面中心Pに関して点Qと略対称の位置、すなわち点Qから最も離れた位置でカムリング4(アーム部42)を付勢するように付勢部材8をばね室170内に配置しているため、モーメントMbが最大となる。よって、付勢力Fsを可及的に小さくして付勢部材8を小型化することが可能であり、これによりポンプVPの全体を小型化してレイアウト性を向上できる。
(軸受給油溝の作用)
リアカバー2に軸受給油溝26を形成し、この溝26により軸受孔20へ作動油を積極的に導くようにしたため、軸受孔20を円滑に潤滑し、軸受部2bの耐久性を向上することが可能である。ここで、軸受給油溝26は吐出ポート24と連通しており、吐出ポート24からの高圧の作動油が軸受孔20へ供給されるため、供給油量を十分に確保し、軸受部2bをより円滑に潤滑することができる。
カムリング4の偏心状態によらず、任意の1つのベーン6がロータ5から出没しつつ軸受給油溝26(横溝26a)と重なる位置に回転移動した際、そのベーン6の少なくとも一部が横溝26aから外れるように設けられている。すなわち、ベーン6が面2aに対して摺動しつつ横溝26a上を通過する範囲は第1溝261と重なるように設けられているところ、第1溝261は、ロータ5の半径方向に対して傾斜しており、ベーン6の出没方向に対して角度が付けられている。このため、ベーン6が、第1溝261に重なる位置に回転移動してきた際、カムリング4の偏心状態に関わらず、ベーン6は第1溝261に対して(z軸方向から見て)交差する。上記交差する部位以外のベーン6の部分は、横溝26a(第1溝261)から外れて、(第1溝261近傍の)リアカバー2の面2a上に位置する。
よって、回転移動してきたベーン6が横溝26a(第1溝261)の内部に落ち込むことがない。したがって、ロータ5の円滑な回転、すなわちポンプVPの円滑な作動が実現される。また、ベーン6やリアカバー2が傷ついたり摩耗したりすることを防止でき、ポンプVPの耐久性を向上できる。特に、ポンプVPを高回転数領域まで用い、例えば倍速化したような場合には、より効果的である。また、ポンプ停止時等に、ベーン6が横溝26aに落ち込むことが予防されるため、ポンプ再始動時にベーン6が横溝26aに引っ掛かることを抑制でき、ベーン6やリアカバー2が傷ついたり摩耗したりすることを効果的に防止できる。
また、上記のように落ち込みを防止できるため、z軸方向から見て、横溝26aの溝幅(横溝26aが延びる方向に対して垂直方向での幅)を、ベーン6の幅(xy平面内でベーン6が延びる方向に対して垂直方向での幅)よりもある程度大きく設定してもよい。この場合、リアカバー2をアルミダイキャストにより成型する際、金型からの取出しが容易となる。
また、横溝26aは折れ曲がって形成されており、軸受孔20側の端部Jから端部Iまでロータ半径方向に延びる第2溝262と、端部Iから吐出ポート24側の端部Hまでロータ半径方向に対して傾斜して延びる第1溝261とを有している。このようにロータ半径方向に延びる第2溝262を設けることで、リアカバー2をアルミダイキャスト(金型)により成型する際、抜きテーパの関係で有利となる。特に、縦溝26bを成型する際、第2溝262を同時に成型することで、金型からの取り出しが容易になる。ここで、第1溝261の端部Iは、カムリング4の偏心状態に関わらず、ベーン6がロータ5から出没しつつ面2aに対して摺動する範囲(ベーン6の基端部の軌跡)よりも内径側の位置に設けられている。よって、上記摺動範囲内で、ベーン6a〜6gは、第2溝262と重ならない。したがって、横溝26aの折れ曲がり部位(端部I)とベーン6との干渉を防止し、摩耗等をより効果的に抑制できる。
ベーン6の摺動範囲(第2溝262の外径側)にある第1溝261は、駆動軸9の半径方向(第2溝262)に対して、駆動軸9の回転方向と反対側に傾斜している。このため、ベーン6が第1溝261と重なり始めた後、駆動軸9(ロータ5)の回転に応じて、ベーン6と第1溝261との交差点は内径側へ移動する。ベーン6に伴って連れ回る作動油は、まず第1溝261の外径側へ供給された後、上記交差点が内径側へ移動するにつれて、第1溝261内で、内径方向、すなわち第2溝262及び縦溝26b(軸受孔20)へ向かう方向へ押し出される。このように、第1溝261の傾斜構造により、ベーン6が横溝26aの上を摺動する際、横溝26aから軸受孔20へ作動油を積極的に導くことができる。特に、ポンプVPを高回転数領域まで用いた場合には、軸受孔20へ供給する作動油量をより容易に確保できるため、効果的である。
軸受孔20の内周面に形成された縦溝26bの底部263は、軸受孔20のハウジング内側(z軸正方向側)の端部Jから(z軸方向)所定位置までの範囲内に設けられている。よって、縦溝26bにより軸受孔20内を効果的に潤滑できるとともに、縦溝26bが軸受孔20のz軸方向全範囲にわたって設けられた場合と異なり、作動油が縦溝26bを通ってハウジング外部へ過度に漏れ出す事態が抑制され、制御室R1内の液圧(吐出圧)の低下を防止できる。一方、縦溝26bの底部263は、駆動軸9の外周面と軸受孔20の外周面との間の僅かな隙間を介して、軸受孔20のハウジング外側(z軸負方向側)端部と連通し、大気圧に開放されている。よって、上記隙間を介して、高圧の軸受給油溝26(縦溝26b)から低圧のハウジング外部へ向かう作動油の適度な流れができる。したがって、軸受給油溝26を通って軸受孔20へ向かう流量を確保して、軸受部2b(軸受孔20)を円滑に潤滑することができる。
軸受給油溝26は、ベーン6や駆動軸9等が摺動する面2aや軸受孔20のような精度や面粗度を必要としないため、リアカバー2を型成形する際に同時に成形される。よって、加工コストを低減できる。
[実施例1の効果]
以下、実施例1から把握される本発明の可変容量オイルポンプVPの効果を列挙する。
(1)実施例1のポンプVPは、回転駆動されるロータ5と、ロータ5の外周に出没自在に設けられた複数のベーン6と、ロータ5及びベーン6を内周に収容し、軸方向両側面に側壁(リアカバー2及びフロントカバー3)が配置されることにより複数の作動油室(ポンプ室r1〜r7)を隔成すると共に、揺動支点Qを中心に揺動することによりロータ5の回転中心Oと内周面400の中心Pとの偏心量が変化するカムリング4と、カムリング4を内部に収容し、ロータ5の回転中心Oとカムリング内周面400の中心Pとが偏心した際に容積が減少する作動油室(吐出室r5〜r7)に側壁(リアカバー2)から開口する吐出部(吐出ポート24)と、ロータ5の回転中心Oとカムリング内周面400の中心Pとが偏心した際に容積が増大する作動油室(吸入室r1〜r3)に側壁(リアカバー2)から開口する吸入部(吸入ポート23)が設けられたハウジングHSGと、ロータ5の回転中心Oとカムリング内周面400の中心Pとの偏心量が大きくなる方向にカムリング4を付勢する付勢部材8と、カムリング4が付勢部材8によって付勢されることによってカムリング4の外周面(当接面430)と当接する当接面(当接面140)と、カムリング外周で当接面(当接面140)とカムリング4の揺動支点Q(ピボット設置部133、ピボット部41)とによって隔成されると共に、吐出部の圧力が導かれることによりカムリング4を付勢部材8の付勢力に抗して揺動させる制御室R1と、カムリング4の外周側(外周面401)に形成され、カムリング4が揺動しても制御室R1を所定圧力に維持する絞り部(絞り形成面431)と、を備えた。
よって、シール部材を別途設けなくても制御室R1を隔成しつつ所定圧力に維持することができるため、部品点数を削減し、組付性を向上して、コストを低減できる。また、制御室R1が当接面(当接面140)により隔成されるため、カムリング4の揺動開始前におけるシール性能を向上し、これによりポンプ性能(吐出性能)を確保することができる。
(2)ロータ5は内燃機関によって回転駆動される。
よって、ポンプVPの回転数は機関回転数に同期する。機関回転数に応じてポンプ容量を可変とすることで、燃費を向上できる。
また、ポンプVPは機関に必要な作動油を供給する。一般に、内燃機関用の可変容量オイルポンプの性能としては、カムリング4の揺動開始前の吐出性能を確保できればよく、揺動開始後にはそれほど高い吐出性能が要求されない。よって、上記(1)の効果を有するポンプVPを機関に適用すれば、機関に要求されるポンプ性能を満たしつつ、コストを低減できる等の効果を得ることができる。
(3)制御室R1を除くカムリング外周部(背圧室R2)は、吸入部(吸入ポート23)と連通している。
よって、絞り部から作動油がリークしても、カムリング4に余計な油圧力が作用することが抑制され、また、ポンプVPの効率がよい。
(4)制御室R1を除くカムリング外周部(背圧室R2)に、カムリング4の揺動支点Qの設置側と反対側の位置に付勢部材8が配置されている。
よって、付勢部材8を小型化することが可能であり、これによりポンプVPを小型化してレイアウト性を向上できる。
(5)揺動支点Q(ピボット設置部133、ピボット部41)は軸方向全範囲にわたって設けられている。
よって、支点Qにおける液密性を向上して、制御室R1のシール性を向上できる。
(6)当接面(当接面140)はカムリング4の外周面(当接面430)と軸方向全範囲にわたって当接する。
よって、当接面における液密性を向上して、制御室R1のシール性を向上できる。
(7)カムリング4の外周面401には平面(当接面430)が設けられ、当接面(当接面140)は上記平面(当接面430)と面接触する平面で構成されている。
よって、接触面積を増大して、シール性能を向上できる。
(8)当接面(当接面140)は、カムリング4よりも柔らかい材料で形成されている。
よって、カムリング4の形状に合わせて当接面140の形状が変化し、両者の密着度が向上するため、当接部(ストッパ部)におけるシール性を向上できる。
(9)当接面(当接面140)は、ハウジングHSG(ハウジング本体1)の内周面(突起部14の側面)に形成されている。
よって、ハウジング側の当接部(ストッパ部)のために別部材を設ける必要がないだけでなく、作成が簡単であり、組付性を向上し、コストを低減できる。
(10)当接面(当接面140)は、アルミ系金属材料で成形されたハウジング(ハウジング本体1)の内周面に形成され、カムリング4は、鉄系金属材料で成形されている。
よって、上記(8)(9)の効果を得ることができる。
(11)絞り部(絞り形成面431,150の間で形成される隙間CL)は、カムリング4が揺動したとしても流路断面積が変化しない。
よって、絞り部からのリーク量を容易に計算することができ、ポンプ特性の設定が容易である。
(12)カムリング外周における付勢部材8によって付勢されて偏心する方向側であって、当接部(ストッパ部)とカムリング4の揺動支点Qとの間に設けられ、吐出部が開口する制御室R1と、カムリング4の外周面401における付勢部材8によって付勢されて偏心する方向側に形成され、カムリング4の揺動軌跡に沿った形状を有する絞り部(絞り形成面431)と、を備えた。
よって、カムリング4が揺動しても、絞り部の流路断面積がほとんど変化しないため、上記(11)の効果を得ることができる。
(13)当接面(当接面140)と絞り部(絞り形成面431)は隣接して配置されている。
よって、カムリング4が揺動を開始するときの制御室R1における受圧面積(制御圧による力のモーメントMa)の急変を抑制し、安定したポンプ特性を得ることができる。
(14)当接面(当接面140, 430)と絞り部(絞り形成面150,431)は角度をもって配置されている。
よって、揺動開始時において流路抵抗を増大させてシール性能を向上することができる。
(15)当接面(当接面140)と絞り部(絞り形成面150)は、ハウジング内周面に形成され、当接面と絞り部の境界は、ハウジング内周面とカムリング外周面(当接面430)が互いに離間する方向に切り欠かれている。
このように「逃がし」を作ることで、上記(13)(14)のように当接面(当接面140)と絞り部(絞り形成面150)を隣接して角度をもって配置した場合でも、より確実に当接面(当接面140)をカムリング外周面(当接面430)に接触させることができ、浮き上がり等によるシール性の低下を防止できる。
(16)カムリング4には、外周側に突出する突起(突起部43)が設けられており、突起に当接部(ハウジング本体1の当接面140)が当接する。
よって、カムリング側の当接部(突起部43)の作成が簡単であり、コストを低減できる。
(17)突起(突起部43)は略三角形状に突出しており、そのうちの一側面(当接部43aの当接面430)が当接部(ハウジング本体1の当接面140)と当接し、他側面(絞り形成部43b)に絞り部(絞り形成面431)が設けられている。
よって、上記(13)(14)(16)の効果を得ることができるほか、カムリング4の外周において一箇所に突起を作るだけで、カムリング側の当接部(ストッパ部)と絞り部を同時に形成することができるため、構成を簡素化でき、加工コストを低減することが可能である。また、スペースを節約してポンプVPのサイズを抑制することが可能である。さらに、突起(突起部43)の形状を略三角形とすることで、作成がより容易であるだけでなく、当接部(ハウジング本体1の当接面140)と当接する突起の剛性を高くできる。
(18)カムリング4(突起部43)における揺動支点Qに近い側(当接部43a)が当接部(当接面140)と当接し、揺動支点Qから離れた側(絞り形成部43b)に絞り部(絞り形成面431)が設けられている。
よって、揺動開始前には揺動支点Qに近い側(当接部43a)の当接によりストッパ機能を発揮するとともに制御室R1のシール性を確保し、揺動開始後には揺動支点Qから離れた側(絞り形成部43b)の絞り効果により制御室R1のシール性を確保することができる。
(19)カムリング4がロータ5に対して最大に偏心している(初期セット)状態で、カムリング4の外周面(当接面430)と当接部(当接面140)の当接面積Dc×Hより絞り部の(対向)面積Da×Hの方が大きい。
よって、カムリング4の揺動時、絞り部におけるシール性を確保しつつ、当接部(ストッパ部)を小型化できる。
実施例11のポンプVPでは、軸受給油溝26(横溝26a)が、駆動軸9の回転方向側に傾斜した部分(第1溝263)を有している。他の構成は実施例1と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
図28は、実施例11のリアカバー2をz軸正方向から見た正面図である。軸受給油溝26は、横溝26aと縦溝26bを有している。横溝26aは、折れ曲がった「く」の字状に形成されており、三日月状溝24aのy軸負方向側に接続する端部H''からx軸負方向かつy軸正方向に直線状に延びて端部Iに至る第1溝263と、端部Iからx軸負方向に延びて端部Jに至る、実施例1の第2溝262と同様の第2溝264と、を有している。第1溝263の長さは、実施例1の第1溝261と同様に設けられ、第2溝264の長さは、実施例1の第2溝262と同様に設けられている。縦溝26bの構成は実施例1と同様である。
第1溝263は、第2溝264(駆動軸9の半径方向ないしベーン6の出没方向)に対して、駆動軸9の回転方向側(図28の時計回り方向側)に傾斜している。ここで第1溝263は、吐出ポート24(三日月状溝24a)と軸受孔20との間で、ベーン6が摺動する範囲である吐出ポート24側(第2溝264よりも外径側)に設けられている。よって、この第1溝263が「駆動軸9の回転方向側に傾斜する」とは、駆動軸9の半径方向に沿って外径側へ向かい、軸受孔20(中心O)から遠ざかるにつれて、第1溝263が、駆動軸9の半径方向に対し、駆動軸9の回転方向の側にオフセットするように傾斜することをいう。言い換えると、第1溝263は、第2溝264に対して、駆動軸9の回転方向側に所定の角度θが付けられている(0°<θ<90°)。第1溝263と第2溝264は、中心Oの周りの回転方向で見たとき、駆動軸9の逆回転方向(図28の反時計回り方向)に凸の横溝26aを構成している。角度θの大きさは実施例1の角度η(図4参照)と同様である。
また、吐出ポート24(三日月状溝24a)と連続する第1溝263の端部H'' に対して駆動軸9の回転方向側で隣接するリアカバー2の部分は、縁部28である。縁部28が第1溝263と三日月状溝24aの内周縁241とに挟まれてなす角κは鈍角(90°<κ<180°)である。角κの大きさは、実施例1の角ρ(図4参照)との関係で見ると、κ≒(180°−ρ)である。また、第2溝264と連続する第1溝263の端部Iに対して、駆動軸9の回転方向側で隣接するリアカバー2の部分は縁部29である。縁部29が第1溝263と第2溝264とに挟まれてなす角λは鈍角(90°<λ<180°)である。
第1溝263は、ロータ5の半径方向に対して傾斜しており、ベーン6の出没方向に対して角度が付けられている。このため、ベーン6が、面2aに対して摺動しつつ、第1溝263に重なる位置に回転移動してきた際、カムリング4の偏心状態に関わらず、ベーン6は第1溝263に対して(z軸方向から見て)交差し、ベーン6の少なくとも一部が横溝26a(第1溝263)から外れる。よって、回転移動してきたベーン6が横溝26a(第1溝263)の内部に落ち込むことが防止され、実施例1と同様の効果を得ることができる。
さらに本実施例11の第1溝263は、駆動軸9の回転方向側に傾斜している。これにより、ベーン6が横溝26aの上を摺動しつつ通過する際、横溝26aの駆動軸回転方向側の縁部とベーン6との干渉が抑制されるため、上記干渉による摩耗を防止しつつポンプVPの作動を円滑にすることができる。
すなわち、対比のために説明すると、実施例1では、第1溝261は、ベーン6の摺動範囲(第2溝262の外径側)で、駆動軸9の回転方向と反対側に傾斜している。このため、ベーン6がロータ5の回転に応じて回転移動し、第1溝263の端部Hを通過した直後に横切るリアカバー2の部分は縁部27である。リアカバー2の面2aに摺接してきたベーン6の側面が第1溝263の端部Hと重なったとき、この重なり部位においてベーン6が僅かに(z軸方向で)傾き、第1溝263(端部H)内に若干ずれ込んだような場合、ベーン6の当該部位は、縁部27の(駆動軸9の逆回転方向側の)先端と接触しうる。縁部27のなす角ρは鋭角(0°<ρ<90°)であり上記先端は肉薄であるため、ベーン6が上記先端と接触した場合、縁部27における接触圧力が比較的高くなる。
これに対し、本実施例11では、第1溝263は、ベーン6の摺動範囲(第2溝264の外径側)で、駆動軸9の回転方向に傾斜している。このため、ベーン6が第1溝263の端部H''を通過した直後に横切るリアカバー2の部分は縁部28である。実施例1と同様、面2aに摺接するベーン6の側面は、縁部28の(駆動軸9の逆回転方向側の)先端と接触しうる。しかし、縁部28のなす角κは鈍角であり上記先端は肉厚であるため、ベーン6が上記先端と接触した場合であっても、縁部28における接触圧力が比較的低くなる。よって、衝撃を分散できるため、縁部28が欠けたり摩耗したりすることを防止できる。
また、例えば、第2溝264を実施例1の第2溝262より長くして、端部Iを実施例1よりも外径側(中心Oから離れた位置)に設けた場合、端部Iはベーン6の摺動範囲内となりうる。このとき、ベーン6が端部Iを通過した直後に横切るリアカバー2の部分は縁部29である。面2aに摺接するベーン6の側面は、縁部29の(駆動軸9の逆回転方向側の)先端と接触しうる。しかし、縁部29のなす角λは鈍角でありその先端は肉厚であるため、ベーン6が上記先端と接触した場合であっても、縁部29における接触圧力が低くなる。よって、縁部29が欠けたり摩耗したりすることを防止できる。言い換えると、第2溝264の長さを短くするには限界があり、所定の長さが必要であるところ、カムリング4の揺動位置によっては端部Iが(ロータ5から出没する)ベーン6の基端部と干渉しうる外径側に配置されてしまう場合であっても、上記干渉による影響を小さくすることができる。
以上のように、本実施例11では、ベーン6との接触・干渉による影響が大きくなる鋭角部分を横溝26aからなくし、さらに、横溝26aの折れ曲がり部位(端部I)を鈍角とした。よって、ベーン6との干渉を効果的に抑制し、摩耗等をより防止できる。特に、ポンプVPを高回転数領域まで用いた場合には効果的である。すなわち、実施例1では、駆動軸9の回転方向と反対側への第1溝261の傾斜構造により、軸受孔20へ作動油を積極的に導くことができるという利点があるのに対し、本実施例11では、駆動軸9の回転方向側への第1溝263の傾斜構造により、ベーン6とリアカバー2との干渉をより効果的に抑制できるという利点がある。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、各実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、各実施例では、本発明をベーンポンプに適用したが、ベーンタイプ以外の可変容量オイルポンプに適用してもよい。
各実施例では、ポンプVPが供給する流体は油であることとしたが、他の流体、例えば(機関や電動モータ、インバータ等の冷却などに用いる)水を供給することとしてもよい。
各実施例では、ポンプVPを自動車に用いることとしたが、他の機械装置に用いることとしてもよい。
各実施例では、ポンプVPを内燃機関の潤滑等に用いることとしたが、パワーステアリング装置の駆動源等に用いることとしてもよい。
各実施例では、ポンプVPを可変動弁装置を備えた内燃機関に用いることとした。可変動弁装置として、バルブタイミング制御装置以外に、例えば油圧により作動してバルブリフト量を可変制御する装置等を用いてもよい。また、可変動弁装置を備えない内燃機関にポンプVPを用いることとしてもよい。
各実施例では、ポンプVPを内燃機関により駆動することとしたが、(車両駆動用の)電動モータ等、内燃機関以外の動力源により回転駆動してもよい。また、内燃機関に同期して回転駆動しなくてもよい。
各実施例ではベーン(ないしポンプ室)の数を7としたが、他の数であってもよく、特に限定しない。
側壁(リアカバー及び/又はフロントカバー)とハウジング本体は一体であってもよい。また、フロントカバーに吸入孔及び/又は吐出孔が開口することとしてもよい。
各実施例では、吸入ポートや吐出ポートを、リアカバーのみに設けることとしたが、リアカバーとフロントカバーの両者、又はフロントカバーのみに設けることとしてもよい。また、軸受給油溝をリアカバーのみに設けることとしたが、リアカバーとフロントカバーの両者、又はフロントカバーのみに設けることとしてもよい。
各実施例では、カムリングの揺動支点を設ける方法として、カムリングから突出して設けられたピボット部をハウジング本体に設けられた凹部(ピボット設置部)に設置することとしたが、ハウジング本体から突出するピボット部を設け、これをカムリングに設けた凹部に設置してもよい。また、ピボットピンを用いてもよく、カムリングの外周面とハウジング本体の内周面に受け座(凹部)を形成し、これらの受け座の間にピボットピンを挟みこみ、ピボットピンを中心にカムリングを揺動させることとしてもよい。また、ピボットピンを挿入するための孔をカムリングに設けてもよい。
各実施例では、付勢部材(ばね室)をカムリング内周面中心を挟んで揺動支点と反対側に設けたが、ポンプ室の容積差が大きくなる方向にカムリングを付勢する位置であれば、付勢部材をカムリング外周部のどこに設けてもよい。例えば、カムリング内周面中心より揺動支点側に付勢部材を配置してもよい。
各実施例では、付勢部材として2重のコイルばねを用いたが、1つの(線形又は非線形の)コイルばねを用いてもよいし、コイルばね以外の弾性部材を用いてもよい。
各実施例では、ストッパ部の当接面を軸方向全範囲にわたって設けたが、初期セット状態におけるシール機能を損なわない限り、必ずしも軸方向全範囲に設けなくてもよく、例えば当接面の一部が切り欠かれ、当接状態で制御室と背圧室が部分的に連通していてもよい。
実施例1では、面接触する両当接面140,430を平面で構成したが、両当接面を、平面以外の形状、例えば互いに形状が噛み合う凹凸の曲面で構成し、これらを面接触させることとしてもよい。
各実施例では、ハウジング本体をアルミ系金属材料により形成し、カムリングを鉄系金属材料により形成したが、各部材をそれぞれ他の材料により形成してもよい。また、ハウジング本体とカムリングの材料を強度の点で変わらないものとしてもよいし、カムリングのほうをハウジング本体よりも柔らかい材料で形成して各実施例と同様の効果を得ることとしてもよい。
実施例1では、カムリングの外周面(当接面430)と当接する当接面を、ハウジング(ハウジング本体)の内周面に形成したが、上記当接面(を有する部材)をハウジングとは別部材として設けることとしてもよい。同様に、実施例9で、カムリング(アーム部)の外周面と当接する当接面(を有する部材)をハウジングとは別部材として設けることとしてもよい。
実施例1では、ハウジング(ハウジング本体)の当接部(当接面140)と当接する当接面430をカムリングの外周側に突出する突起部43に形成したが、例えば内径側に窪んだ凹部をカムリングの外周面に設け、この凹部の内周面とハウジングの当接部(当接面140)とを当接させることとしてもよい。
実施例1では、軸方向から見た突起部43の形状を略三角形状としたが、矩形状や円弧状など、他の形状としてもよい。
実施例1では、ストッパ部(当接面140, 430)と絞り部(絞り形成面150,431)の間に角度を設けたが、特に角度を設けないこととしてもよい。
実施例1では、絞り部(絞り形成面431等)をストッパ部(当接面140等)と隣接して配置したが、ストッパ部から離れた位置であってもよく、付勢部材によって付勢されて偏心する方向側であれば、カムリング外周側の任意の位置に絞り部を配置してもよい。
実施例1では、初期セット状態から最小偏心状態までの全状態において、ストッパ部の当接面積よりも絞り部の対向面積の方が大きいこととしたが、初期セット状態から最小偏心状態へ移行する間に両面積の大小が逆転し、揺動量が所定以上になると絞り部の対向面積がストッパ部の当接面積以下になるように設けてもよい。また、初期セット状態から最小偏心状態までの全状態において、ストッパ部の当接面積が絞り部の対向面積よりも大きいこととしてもよい。
実施例4では、基底面141における突起142の配置として、ストッパ部と絞り部との接続部近傍(y軸正方向側の端)に突起142を設けることとしたが、例えば基底面141における反対側(y軸負方向側)の端の近傍に突起142を設けてもよく、特に限定しない。同様に、実施例5では、基底面432における突起433の配置として、(絞り形成面431に隣接する)y軸正方向側の端に突起433を設けることとしたが、例えば基底面432における中間位置に突起433を設け、これを当接面143におけるy軸負方向側の部位に当接させてもよく、特に限定しない。
また、実施例4において、突起142よりも内径側(y軸負方向側)における三角形状の突起部14は特に必要でなくなるため、省略することとしてもよい。同様に、実施例5において、突起433と当接する部位よりも内径側(y軸負方向側)における三角形状の突起部14は特に必要でなくなるため、省略することとしてもよい。すなわち、線接触させる構成とすれば、実施例1のように面接触させる場合と比べて、スペースを節約できる。
実施例6では、突起433と当接するハウジング側の面(当接面143)を平面としたが、z軸方向から見て突起433よりも曲率半径が大きい窪んだ円弧形状の凹曲面としてもよい。また、実施例6では、カムリング4の側に突起433を設けたが、実施例4と同様、ハウジング本体1の側に突起を設け、これをカムリング4に形成した当接面に当接させることとしてもよい。この場合、カムリング4に形成する当接面として、平面のほか、上記のように(突起よりも曲率半径が大きい円弧形状の)凹曲面を構成することもできる。
実施例7,8では、カムリング4の絞り形成面431を、揺動支点Qに対してオフセットした点Q'、点Q' ' を中心とする円弧状の曲面に形成することで、絞り部の流路断面積を変化させることとしたが、絞り形成面431を他の形状に適宜形成することで、絞り部の流路断面積の変化を所望の特性(例えば非線形特性)に設定することとしてもよい。
実施例9では、ストッパ部を構成する当接部19をハウジング本体1から突出して設けたが、カムリング4のアーム部42から当接部を突出させてもよい。実施例9では、軸方向から見て略三角形状の突起部14及び突起部43を設け、その側面により第1、第2絞り部を形成したが、突起部14及び突起部43の形状を、軸方向から見て矩形状や円弧状など、他の形状としてもよい。また、第1、第2絞り部を互いに離れた位置に形成してもよい。また、実施例7,8と同様、カムリング4の揺動状態に応じて第1、第2絞り部の流路断面積を変化させてもよい。さらに、第1絞り部を省略してもよい。
各実施例では軸受給油溝26を設けることとしたが、必ずしも軸受給油溝26を設けなくてよい。
実施例1,11において、横溝26aにおける角度η及びθは、第1溝261,263の溝幅等との関係でベーン6が横溝26aに落ち込まない範囲で、0°より大きく90°より小さい任意の値に適宜設定することができる。
実施例1,11では、横溝26aにおいて駆動軸9の半径方向に対して直線的に傾斜した部分(第1溝261,263)を設けることで、ベーン6と横溝26aを交差させることとしたが、直線的に傾斜した部分を設けることにとどまらず、横溝26aを例えば曲線状に曲げることでベーン6と交差させることとしてもよい。
実施例1,11では、横溝26aは、軸受部側端Jから所定位置Iまでは駆動軸9の半径方向に延び、所定位置Iから吐出部側端Hまで傾斜することとしたが、駆動軸9の半径方向に延びる部分(第2溝262,264)を設けず、軸受部側端から吐出部側端まで全て直線状に延び、かつ駆動軸9の半径方向に対して傾斜する横溝としてもよい。また、軸受部側端から所定位置までは駆動軸9の半径方向に対して傾斜し、上記所定位置から吐出部側端まで駆動軸9の半径方向に延びる横溝としてもよい。この場合、駆動軸9の半径方向に延びる部分がベーン6の(内径側の)基端部よりも外径側にあれば、ベーン6の一部(基端部)は横溝から外れるため、落ち込みをある程度防止できる。
実施例10では、横溝26aが延びる方向における全範囲の溝幅をベーンの厚みよりも狭くしたが、上記方向における一部分のみの溝幅をベーンよりも狭くしてもよい。例えば、ベーンが摺動しつつ通過する範囲における一部分をベーンよりも細くすれば、ベーンの落ち込みを防止できる。
各実施例では、軸受給油溝26(横溝26a)は吐出ポート24と軸受孔20を連通することとしたが、吸入ポート23と軸受孔20を連通することとしてもよい。また、各実施例において、横溝26aの端部Jを、軸受孔20の周方向における任意の位置に設けることができるし、端部H、H'、H''を、吐出ポート24(ないし吸入ポート23)における任意の位置に設けることができる。
各実施例では、縦溝26bを設けたが、特に縦溝26bを設けなくてもよい。また、縦溝26bに底部263を設けて袋状にしたが、底部263を設けずハウジングHSGの内外を連通する縦溝を設けることとしてもよい。
各実施例では、リアカバー2を型成形する際に軸受給油溝26を同時に成形することとしたが、ハウジング(リアカバー2)を型成形した後、切削加工等により軸受給油溝26を成形することとしてもよい。
各実施例の構成を適宜組み合わせることが可能である。