JP2010168645A - 犠牲防食被膜、水素非侵入防食被膜、鋼材、および鋼材の製造方法 - Google Patents

犠牲防食被膜、水素非侵入防食被膜、鋼材、および鋼材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】新規な犠牲防食被膜、および新規な水素非侵入防食被膜を提供することを目的とする。
【解決手段】犠牲防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にある。水素非侵入防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にある。ここで、Mgは7〜9質量%の範囲にあり、Siは4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にあることが好ましい。また、Feは3質量%以下の範囲にあることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規な犠牲防食被膜に関する。
また、本発明は、新規な水素非侵入防食被膜に関する。
また、本発明は、これらの被膜を有する鋼材に関する。
また、本発明は、これらの被膜を有する鋼材の製造方法に関する。
現在主流となっているめっき鋼板(表面処理鋼板)の大部分は亜鉛めっきであり、その多くは溶融した亜鉛または亜鉛合金に加熱した鋼板をくぐらせてめっきしている。また、溶融したAlまたはAl-Si合金をめっきした鋼板も一部作製されている。
亜鉛めっき鋼板は優れた耐食性と犠牲防食性を有し大量生産に向いていることから、自動車、家電、建材等に広く使用されている。しかしながら、亜鉛資源は生産国が偏在し、中国での需要の伸びから長期的にはその安定的な確保が懸念されている。さらに、亜鉛めっきを高張力鋼に適用した場合、その犠牲防食電位が-1.0V近傍にあり水素の侵入による鋼材の水素脆化が心配される。
一方、AlおよびAl-Si合金めっき鋼板は、高い耐食性と耐高温酸化特性を持つことから、自動車用マフラー材などに使用されているが、犠牲防食作用はほとんどないために自動車等の鋼板としてはほとんど使用されていない。
また、鋼板の表面に、金属間化合物被覆層を形成し、この金属間化合物被覆層の表面に、Al、Mg、Siを含有する被覆層を形成することにより、耐食性に優れた溶融アルミめっき鋼板が作製されている(例えば、特許文献1参照。)。本技術は、従来に比べて飛躍的に耐食性に優れ、かつ端面からも地鉄の錆が発生し難い溶融アルミめっき鋼板を提供している。
また、Mg、Siを含有する溶融Al-Mg-Si系めっき層を鋼板表面に形成した溶融Al基めっき鋼板であって、このめっき層が、少なくともAl相、Mg2 Si相からなる金属組織を有する高耐食性めっき鋼板が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。このAl-Si-Mg系合金めっきを用いることによって、優れた耐食性を発揮するめっき鋼板が提供できる。
また、Mg、Siを含有するAl-Mg-Si系合金めっき層を有する溶融Al-Mg-Si系合金めっき鋼線が報告されている(例えば、特許文献3参照。)。このAl-Mg-Si系合金めっき鋼線は、耐食性に極めて優れ、特に塩水環境だけでなく淡水環境でも優れた耐食性を有している。
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
特開平2000−239820号公報 特許第4199404号公報 特許第4153631号公報
「Al-Mg-Si合金およびめっき鋼板の犠牲防食特性」,電気化学会第76回大会講演要旨集,3D27,p.91(2009.3,京都),電気化学会 「Al-Mg-Siめっき鋼板の腐食特性と犠牲防食特性」,材料と環境2009講演集,B-308,p.249,(2009,5,東京),腐食防食協会 "Corrosion Resistance of Al-Mg-Si PVD Coatings on Steel Substrate",材料と環境2009講演集,B-307,p.247,(2009,5,東京),腐食防食協会
しかしながら、従来の技術では、犠牲防食作用と水素脆化防止を同時に実現することはできないという問題がある。また、従来の技術では、犠牲防食作用の特性をより向上させるのが困難であるという問題がある。
そのため、このような課題を解決する、新規な犠牲防食被膜、新規な水素非侵入防食被膜、これらの被膜を有する鋼材、およびこれらの被膜を有する鋼材の製造方法の開発が望まれている。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な犠牲防食被膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な水素非侵入防食被膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、これらの被膜を有する鋼材を提供することを目的とする。
また、本発明は、これらの被膜を有する鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の犠牲防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある。
ここで、限定されるわけではないが、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgは7〜9質量%の範囲にあり、Siは4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。
本発明の水素非侵入防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある。
ここで、限定されるわけではないが、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgは7〜9質量%の範囲にあり、Siは4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。
本発明の鋼材は、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を、有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある。
ここで、限定されるわけではないが、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を、有する鋼材であって、Mgは7〜9質量%の範囲にあり、Siは4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。
本発明の鋼材は、Al、Mg、Siを含有する水素非侵入防食被膜を、有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある。
ここで、限定されるわけではないが、Al、Mg、Siを含有する水素非侵入防食被膜を、有する鋼材であって、Mgは7〜9質量%の範囲にあり、Siは4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にあることが好ましい。また、限定されるわけではないが、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。
本発明の鋼材は、少なくとも片面に、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にあり、犠牲防食被膜の組織がAl-Mg2Si擬2元系の共晶組織を含むものである。
ここで、限定されるわけではないが、犠牲防食被膜は、Al-Mg2Si-鉄系擬3元系の共晶組織を含むことが好ましい。また、限定されるわけではないが、共晶組織の中に塊状のMg2Si析出物を有する場合、塊状Mg2Siの長径が5μm未満であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その数密度は10個/mm2未満であることが好ましいと推定される。また、限定されるわけではないが、犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その面積率は0.2%未満であることが好ましいと推定される。
本発明の鋼材の製造方法は、溶融めっき法で前記いずれかの鋼材を製造するに際して、めっき後に50K/sを超える急速冷却を行う方法である。
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明の犠牲防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあるので、新規な犠牲防食被膜を提供することができる。
本発明の水素非侵入防食被膜は、Al、Mg、Siを含有する被膜であって、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあるので、新規な水素非侵入防食被膜を提供することができる。
本発明の鋼材は、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を、有する鋼材であって、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあるので、新規な鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材は、Al、Mg、Siを含有する水素非侵入防食被膜を、有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にあるので、新規な鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材は、少なくとも片面に、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にあり、犠牲防食被膜の組織がAl-Mg2Si擬2元系の共晶組織を含むので、新規な鋼材を提供することができる。
本発明の鋼材の製造方法は、溶融めっき法で前記いずれかの鋼材を製造するに際して、めっき後に50K/s以上の急速冷却を行うので、新規な鋼材の製造方法を提供することができる。
Al-Mg-Si合金の0.5M NaCl水溶液中におけるアノード分極曲線を示す図である。 Al-8.2Mg-4.8Siめっき鋼板に5mm×5mmのクロスカットの傷を与え、0.5M NaCl 溶液に浸漬したときの腐食電位の経時変化を示す図である。 クロスカットを付したAl-8.2Mg-4.8Si合金めっき鋼板を0.5M NaCl 水溶液に浸漬した場合の腐食状況を示す図であり、(a)浸漬3日後、(b)浸漬7日後である。 973Kのめっき浴に鋼板を5秒間浸漬した場合に下地鋼板とめっき層との界面に形成するAl-Fe合金相(反応層)を示す図であり、(a)純Alめっき浴に浸漬した場合、(b)Al-8.2Mg-4.8Si合金めっき浴に浸漬した場合である。 溶融Alおよび溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鋼板を浸漬した場合のAl-Fe合金相(反応層)厚さの浸漬時間による変化を示す図である。 Al-Fe合金の0.5M NaCl水溶液中におけるアノード分極曲線を示す図である。 合金組織の変化を示す図であり、(A)溶融Al-Mg-Si合金を金型鋳造した場合、(B)溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成した場合である。 溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)浸漬時間が5sの場合、(B)浸漬時間が30sの場合、(C)浸漬時間が60sの場合である。 溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)浸漬時間が30sかつ浸漬浴温度が973Kの場合、(B)浸漬時間が60sかつ浸漬浴温度が973Kの場合、(C)浸漬時間が30sかつ浸漬浴温度が923Kの場合、(D)浸漬時間が60sかつ浸漬浴温度が923Kの場合である。 溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鋼板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)浸漬後に空冷した場合、(B)浸漬後に水冷した場合、(C)(B)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。 溶融Al-Mg-Si合金を金型鋳造した場合の合金組織の変化を示す図である。 溶融Al-Mg-Si-Fe合金を金型鋳造した場合の合金組織の変化を示す図である。 合金組織の変化を示す図であり、(A)鉄系化合物の数密度と面積率に対する冷却速度の影響を示す図、(B)走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。 Al-8.2Mg-4.8,7Siおよび異なる冷却速度のAl-8.2Mg-4.8Si-1.2Feのアノード分極曲線を示す図である。
以下、犠牲防食被膜、水素非侵入防食被膜、および鋼材にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
犠牲防食被膜およびこの被膜を有する鋼材について説明する。
犠牲防食被膜はAl、Mg、およびSiを含有する被膜であり、Al、Mg、およびSiの含有量は所定の範囲内にある。鋼材は、この犠牲防食被膜を有する鋼材である。
犠牲防食被膜は、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあることが好ましい。また、犠牲防食被膜は、Mgが7〜9質量%の範囲にあり、Siが4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.5〜2.7の範囲にあることがさらに好ましい。
Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあると、微細なα-AlとMg2Siの共晶組織が得られるという利点がある。Mgが7〜9質量%の範囲にあり、Siが4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.5〜2.7の範囲にあると、この効果がより顕著になる。
犠牲防食被膜は、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。Feが3質量%以下の範囲にあると、AlとFeの化合物の析出量が抑制され、被膜の不均一な溶解を防止できるという利点がある。
犠牲防食被膜の厚さは5〜200μmの範囲内にあることが好ましい。犠牲防食被膜の厚さは10〜200μmの範囲内にあることがより好ましい。犠牲防食被膜の厚さが5μm以上であると、十分な耐食性と犠牲防食性を保ちながら鋼材の加工性を損なわないという利点がある。犠牲防食被膜の厚さが10μm以上であると、この効果がより顕著になる。犠牲防食被膜の厚さが200μm以下であると、無塗装で屋外に曝されても長期間の耐食性と犠牲防食性を保つという利点がある。
鋼材としては、一般の炭素鋼、低合金鋼、高張力鋼に適用可能であり、また、板材および鋼管材、型鋼材などに適用することができる。
犠牲防食被膜が、犠牲防食性に優れている理由としては、微細に晶出したα-AlとMg2Siの共晶組織が均一に、また鋼材よりも優先的に溶解するためであると考えられる。
犠牲防食被膜を有する鋼材の用途としては、塗装および無塗装の状態で自動車用、家電製品用および建設材料用の鋼材などを挙げることができる。
水素非侵入防食被膜およびこの被膜を有する鋼材について説明する。
水素非侵入防食被膜はAl、Mg、およびSiを含有する被膜であり、Al、Mg、およびSiの含有量は所定の範囲内にある。鋼材は、この水素非侵入防食被膜を有する鋼材である。
水素非侵入防食被膜は、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあることが好ましい。また、水素非侵入防食被膜は、Mgが7〜9質量%の範囲にあり、Siが4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.5〜2.7の範囲にあることがさらに好ましい。
Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあると、微細なα-AlとMg2Siの共晶組織が得られるという利点がある。Mgが7〜9質量%の範囲にあり、Siが4〜6質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.5〜2.7の範囲にあると、この効果がより顕著になる。
水素非侵入防食被膜は、Feが3質量%以下の範囲にあることが好ましい。Feが3質量%以下の範囲にあると、AlとFeの化合物の析出量が抑制され、被膜の不均一な溶解を防止できるという利点がある。
水素非侵入防食被膜の厚さは5〜200μmの範囲内にあることが好ましい。水素非侵入防食被膜の厚さは10〜200μmの範囲内にあることがより好ましい。水素非侵入防食被膜の厚さが5μm以上であると、十分な耐食性と犠牲防食性を保ちながら鋼材の加工性を損なわないという利点がある。水素非侵入防食被膜の厚さが10μm以上であると、この効果がより顕著になる。水素非侵入防食被膜の厚さが200μm以下であると、無塗装で屋外に曝されても長期間の耐食性と犠牲防食性を保つという利点がある。
鋼材としては、一般の炭素鋼、低合金鋼、高張力鋼に適用可能であり、また、板材および鋼管材、型鋼材などに適用することができる。
水素非侵入防食被膜が、鋼材の水素脆化を防止できる理由としては、犠牲防食作用時の鋼材の腐食電位が-0.8V(銀/塩化銀電極基準)以上の高い電位にあるため、通常の環境では腐食に伴う水素の発生反応がほとんど起こらないことが考えられる。
水素非侵入防食被膜を有する鋼材の用途としては、塗装および無塗装の状態で自動車用、家電製品用および建設材料用の鋼材のほか、高張力鋼に被覆したボルトや建材などを挙げることができる。
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、Al-Mg2Si擬2元系の共晶組成およびその近傍の組成を選択することによって、腐食に対して活性なMg2Siが微細で均一に分散した金属組織を得ることができる。
また、共晶組織のアノード分極による溶解は、ほぼ均一な溶解であり、不均一な溶解あるいは局部腐食を防止できる。溶融めっき鋼板は、不均一な溶解が抑制され、従来の亜鉛めっき鋼板と同程度の犠牲防食性を得ることができる。
また、Al-Mg-Si合金で鋼材を犠牲防食している電位はほぼ-0.8V〜-0.7Vで、亜鉛による場合の-1.0Vよりかなり高い電位にすることができ、高張力鋼においても水素脆化の危険性を軽減できる。
また、AlあるいはAl-Mg合金の溶融めっきでは、溶融したAlと接触した鋼板は、Alとの反応によってFe-Al合金相(反応層)がめっきと下地鋼板の界面に成長し、めっきした鋼材の機械的性質が著しく劣化するが、Al-Mg-Si合金とすることによって、Al-Fe合金相(反応層)の成長を抑制し、鋼材の機械的性質を大幅に改善できる。
つぎに、鋼材、および鋼材の製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
鋼材は、少なくとも片面に、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を有する鋼材であって、前記犠牲防食被膜のMg、Siの含有量が所定の範囲内にあり、前記犠牲防食被膜が共晶組織を含むものである。
鋼材の製造方法は、溶融めっき法で前記鋼材を製造するに際して、めっき後に所定の速度を超える急速冷却を行う方法である。
犠牲防食被膜は、Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあることが好ましい。Mgが6〜10質量%の範囲にあり、Siが3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siが1.1〜3.0の範囲にあると、α-AlとMg2Siの微細な共晶組織、および(または)α-Al、Mg2Siと鉄系化合物の微細な共晶組織が得られるという利点がある。
犠牲防食被膜の組織は、Al-Mg2Si擬2元系の共晶組織を含むことが好ましい。Al-Mg2Si擬2元系の共晶組成を用いることによって、腐食に対して活性なMg2Siが微細で均一に分散した金属組織を得ることができる。また、共晶組織のアノード分極による溶解は、ほぼ均一な溶解であり、不均一な溶解あるいは局部腐食を防止できる。溶融めっき鋼板は、不均一な溶解が抑制され、従来の亜鉛めっき鋼板と同程度の犠牲防食性を得ることができる。
犠牲防食被膜は、Al-Mg2Si-鉄系化合物の擬3元系の共晶組織を含んでもよい。Al-Mg2Si-鉄系化合物の擬3元系の共晶組織が生成することによって、腐食に対して活性なMg2Siと鉄系化合物が微細で均一に分散した金属組織を得ることができる。また、共晶組織の溶解はほぼ均一な溶解であり、不均一な溶解あるいは局部腐食を防止できる。溶融めっき鋼板は、不均一な溶解が抑制され、従来の亜鉛めっき鋼板と同程度の犠牲防食性を得ることができる。
犠牲防食被膜は、共晶組織以外に塊状のMg2Si析出物を有する場合、塊状Mg2Siの長径が5μm未満であることが好ましい。塊状Mg2Siの長径が5μm未満であると、腐食に対して活性なMg2Siが微細で均一に分散した金属組織を得ることができる。溶融めっき鋼板は、不均一な溶解が抑制され、従来の亜鉛めっき鋼板と同程度の犠牲防食性を得ることができる。
犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その数密度は10個/mm2未満であることが好ましいと推定される。鉄系化合物は腐食を促進する。鉄系化合物は腐食反応のカソードとなりその周りの溶解を促進する。実験結果から推定すると、数密度が10個/mm2未満であると、耐食性に悪影響を及ぼす鉄系化合物が微細で均一に分散した金属組織を得ることができ、鉄系化合物の影響を小さく抑えることができると考えられる。
犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その面積率は0.2%未満であることが好ましいと推定される。実験結果から推定すると、面積率が0.2%未満であると、耐食性に悪影響を及ぼす鉄系化合物が微細で均一に分散した金属組織を得ることができ、鉄系化合物の影響を小さく抑えることができると考えられる。
溶融めっき法で前記鋼材を製造するに際して、めっき後に50K/sを超える急速冷却を行うことが好ましい。また、めっき後に55K/s以上の急速冷却を行うことがさらに好ましい。めっき後に50K/sを超える急速冷却を行うと、耐食性に悪影響を及ぼす塊状Mg2Siと鉄系化合物が微細で均一に分散した金属組織を得ることができ、塊状Mg2Siと鉄系化合物の影響を小さく抑えることができるという利点がある。また、めっき後に55K/s以上の急速冷却を行うと、この効果がさらに顕著になる。
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、溶融めっき後に水冷、ロール冷却などの方法により冷却速度を大きくすることによって、めっき層の性質を向上させることができ、その作製と使用の範囲を広げることができる。
溶融めっきを急冷することによって、めっき層内での塊状Mg2Siと鉄系化合物の晶出・析出および結晶の粗大化の抑制が可能となる。これらは、めっき層の不均一な溶解(孔食等)を抑制する。また、急冷によって結晶粒が微細化され、不均一腐食を抑制できる。急冷によって、溶融めっき浴に不可避的に混入するFeが、鉄系化合物としてめっき層内で粗大に晶出・析出することなく、微細に分散させることができる。急冷によって、めっき層の金属組織が微細となり、犠牲防食性が向上する。
溶融めっきの急冷によって、めっき層と下地鋼板との間に形成する反応層の厚さを抑制でき、めっき後の機械加工等においてめっき層の剥離を防止することが可能となり、めっき鋼板の機械的性質を向上させることができる。
二相鋼(マルテンサイトとフェライト)などの高強度鋼を下地鋼材として使用する場合に、めっき後の急冷は下地鋼材の焼入れと同時に処理することが可能となり、製造プロセスを簡略化することが可能となる。
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
つぎに、本発明にかかる第1の実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
<Al-Mg-Si合金のアノード分極曲線の測定>
アノード分極曲線の測定には、めっき合金とほぼ同一の組成と金属組織を持つバルク合金材を使用した。バルク合金材の作製は、純Al、純MgおよびAl-25質量%Si母合金を正確に秤量し、973〜1023Kで溶融し、冷却速度が金属組織に与える影響を調べるために楔形の金属鋳型に鋳造した材料から切り出した試料を埋め込み樹脂に埋め込み、研磨により10mm×10mmが電極面になるように加工したものを試料電極として用いた。なお、以下「質量%」を単に「%」とする。
MgとSiの合金組成が異なるAl-Mg-Si合金を0.5M NaCl水溶液中で電位走査法によりアノード分極曲線を測定した。分極にはポテンショスタット(北斗電工(株)、HA-1510)を使用し、合金試料電極を作用極として、参照電極には銀/塩化銀電極(SSE)、対極にはPt板を使用した。以下、電位は全てこの電極基準で記述されている。試料電極を0.5M NaCl水溶液に浸漬し、浸漬電位から1mV/sの電位走査速度でアノード分極し電流の変化を測定した。
アノード分極曲線を測定した結果は図1に示すとおりである。Al-Mg2Si擬2元系のほぼ共晶組成であるAl-8.2%Mg-4.8%Si合金では、不働態域が広く電流値が大きく、-0.9V前後から緩やかな電流増加が起こり均一な溶解が起こる。Si濃度が低い合金0%Siおよび1%Si合金ではこの電位近傍で電流の急激な増加が見られ、合金の局部的な溶解が起こった。これらのことから、合金組成としてSiは3%以上が必要であることがわかる。
これらの分極曲線で、Siを含まない合金では容易に不働態化するために不働態電流は数mA/cm2ときわめて小さいが、金属組織にAl2Mg3が針状に析出するため、その界面を起点とする孔食が発生・成長し、被膜が不均一に溶解する。0%および1%Si合金で-0.9V付近からの電流の急増は孔食の発生・成長を示す電流変化であり、かなり低い電位で孔食が起こることを示している。一方、3%および4.8%Si合金では、アノード電流が急激に増加する電位が-0.7V以上とかなり高く、孔食発生前の電位領域では100mA/cm2程度のアノード電流が見られるが、この領域では均一溶解である。3%および4.8%Si合金ではやや大きな均一溶解電流が流れることが、下地の鋼材を犠牲防食する重要な特性である。
<腐食電位、犠牲防食電流密度、防食率、および腐食状態の測定>
溶融した973KのAl-Mg-Si合金に鋼板を浸漬・引き上げ・冷却することによって、Al-Mg-Si合金めっき鋼板を作製した。また、ガルバニック腐食試験については、金型鋳造で作製しためっき合金とほぼ同一の金属組織を持つバルク合金材を使用した。
Arガス雰囲気で溶融した973KのAl-Mg-Si合金に25mm×50mm×2mmまたは0.85mmの鋼板を浸漬し、一定時間後に引き上げ、冷却することによってAl-Mg-Si合金めっき鋼板を作製した。浸漬時間の長短・引き上げ速度によってめっきの付着量(めっき厚さ)を制御することができる。
Al-Mg-Si合金のバルク材の作製方法は上述した方法と同様である。また、対比のために、市販の溶融亜鉛めっき鋼板(JFEスチール製)を使用した。
組成の異なるAl-Mg-Si合金、Al-8.2%Mg-4.8%Si合金めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板と裸の鋼板と電気的に接続し、鋼板をガルバニック・カップルによって犠牲防食したときの腐食電位、犠牲防食電流密度、防食率、鋼板への赤錆の発生状態、合金およびめっき鋼板の腐食状態を表1にまとめた。ここで、合金およびめっき鋼板と裸の鋼材の面積比は3:1、犠牲防食電流密度は鋼板の面積について表示した。実験期間は1週間である。
腐食電位はポテンショスタット(北斗電工、HA-1510)の浸漬電位モード、犠牲防食電流の測定はポテンショスタットの無抵抗電流計モードで測定した。ガルバニック・カップルは組成の異なるAl-Mg-Si合金、Al-8.2%Mg-4.8%Si合金めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板と裸の鋼板とを無抵抗電流計で接続し、両者の間を流れる電流を鋼板の面積で割ったものを犠牲防食電流密度とした。防食率は、防食されていない裸の鋼板の試験前後の質量変化(腐食減量)ΔWnと防食された裸の鋼板の腐食減量ΔWpの比を1から差し引いたものの百分率で、100%で完全な防食状態、0%で全く防食されていない状態に対応する。
表1より、犠牲防食電流が0になった場合を除いて、接続した鋼板側には赤錆の発生は確認されなかった。防食率は57%から96%で、鋼板表面のごく一部に変色が見られる程度であった。また、合金およびめっき表面の腐食状態はほとんどの場合は均一腐食であり、一部の組成で不均一な腐食が見られたが、極端な孔食や局部的な腐食は確認されなかった。
表1において、本発明の範囲外であるAl-4.7MgおよびAl-6.8Mg-7Si合金(Mg/Si<1.1)では、時間とともに犠牲防食電流が減少して電流0となり、防食率もきわめて低く鋼材の表面には赤錆が発生した。一方、本発明の範囲内の組成の合金(Al-8.2Mg-3〜7Si)およびめっき鋼板では防食率が57〜96%で裸の鋼板のごく一部に変色が見られる程度でほぼ完全に防食できていた。また、めっき層および合金の表面はほぼ均一な溶解で極端な孔食や局部腐食は確認されなかった。対照とした亜鉛めっき鋼板でもほぼ同様の防食率が得られた。
亜鉛めっきによる犠牲防食では、腐食電位がほぼ-1.0Vである。腐食に伴う鋼材への水素の侵入は、-0.85V〜-0.9Vから急増し、電位低下とともに指数関数的に増加することが知られている。表1に示されるように、Al-Mg-Si合金およびそのめっき鋼板では、犠牲防食時の腐食電位は-0.8V〜-0.7Vであり、水素の侵入がほとんど起こらない電位であることがわかる。すなわち、高張力鋼に本発明のめっきを施した場合でも、腐食、犠牲防食による水素の侵入が起こらず、高張力鋼の防食と水素脆化の軽減が可能となる。
Figure 2010168645
本発明の範囲外の合金(Al-4.7MgおよびAl-6.8Mg-7Si)で赤錆が発生したのは、不働態が安定であり、時間の経過とともに合金表面が不働態化して犠牲防食のためのアノード電流が流れなくなったためと考えられる。一方、本発明の範囲内の合金およびめっき鋼板では、微細に分散したα-AlとMg2Siの共晶組織がほぼ均一に溶解を継続するため、長期間の犠牲防食作用を継続することができたものといえる。また、犠牲防食された電位は、亜鉛めっき鋼板では亜鉛の溶解の電位が-1.0V付近で亜鉛の分極はきわめて小さいためその腐食電位は-1.0Vからほとんど変化しないが、本発明の合金では、アノード分極曲線において-0.9〜-0.7Vの範囲でアノード電流が緩やかに増加して均一な溶解を起こすために、腐食電位が-0.8〜-0.7Vの電位範囲に落ち着くといえる。
<クロスカットを付しためっき鋼板の腐食電位および腐食状態の測定>
溶融Al-8.2Mg-4.8Si合金めっきを施した鋼材に下地鋼板に達する5mm×5mmの傷を与えた試料を使用した。溶融Al-Mg-Si合金めっき鋼板の作製法は上述したものと同様である。溶融した合金に鋼板を浸漬するとFeが合金中に溶け出し、めっきの繰返し数が増加するとめっき中に含まれる不純物としてのFe量が増加する。めっきの繰返し数が1回目、5回目、20回目のめっき鋼板を試料とした。一般の亜鉛めっき鋼板のクロスカット試験と同様に、鋭利なカッターナイフによって下地鋼板に達する5mm×5mmのX字状の傷を与えためっき鋼板を試料として使用した。
試料を0.5M NaCl水溶液に1週間浸漬して腐食電位を測定した。浸漬開始3日後と1週間後に表面写真を撮った。試料を0.5M NaCl水溶液に浸漬し、ポテンショスタット(北斗電工、HA-1510)の浸漬電位モード腐食電位の時間変化を1週間にわたって計測した。浸漬開始3日後と1週間後に試料を溶液から取り出し、傷をつけた表面をディジタルカメラで撮影した。
腐食電位の変化を図2に示す。犠牲防食状態での腐食電位はほぼ-0.7Vであり、水素侵入がほとんど起こらない電位であった。3個の異なる試料の腐食電位の経時変化を示した。犠牲防食状態での腐食電位はほぼ-0.7Vであり、初期を除いてきわめて安定な電位を示した。サンプル1、2、3はめっきの繰返し数1、5、20回目の試料であり、不純物として含まれるFeの影響はこの試験の範囲では受けていないことがわかる。
サンプル1について、浸漬開始3日後と1週間後の表面写真をそれぞれ図3(a)および(b)に示す。鋼材表面の傷の部分には赤錆の発生は見られず、犠牲防食作用が十分に発揮されていることが確認された。めっきの表面の腐食の状態はほぼ均一な腐食で、局所的な溶解や孔食・局部腐食は確認されなかった。
これらの結果は、表1のガルバニック・カップル試験から予測されたものと一致し、めっき層がほぼ均一に溶解することによって犠牲防食が長期間有効に働いたと言える。
<Al-Fe反応層厚さの測定>
純Alの溶融浴に鋼板を浸漬した試料、およびAl-Mg-Si合金の溶融浴に鋼板を浸漬した試料を使用した。973Kで溶融した純Al浴と923K、973Kで溶融したAl-8.2Mg-4.8Si合金浴に25mm×50mm×0.85mmの鋼板を異なる時間浸漬し、引き上げ、冷却することによってめっき鋼板を作製した。めっき鋼板を樹脂に埋め込み、断面を走査型電子顕微鏡(JEOL、JXA-8100)によって金属組織を観察した。
めっき層と下地鋼板との界面にはAl-Fe合金相が形成され(以下、「反応層」という)、走査型電子顕微鏡の反射電子像のコントラストの違いによって容易に識別することができる。反応層の厚さは走査型電子顕微鏡像の写真から反応層の厚さを多数測定し、その平均値を反応層の厚さとした。
溶融AlあるいはAl-Mg-Si合金に鋼板を浸漬した場合には、反応層が下地鋼板とめっきの界面に生成・成長し、鋼板の加工の際に剥離等の問題を生じる。図4-(a)は純Alの溶融浴に鋼板を浸漬した場合の断面組織で、界面にかなりの厚さの反応層が形成する。一方、図4-(b)はAl-8.2Mg-4.8Si合金の溶融浴に浸漬した場合の断面組織であり、反応層の厚さが著しく減少しているのがわかる。図5は浸漬時間の増加に伴う反応層厚さの変化を示したもので、Siを含む合金を使用することによって、反応層の厚さを大幅に抑制できることがわかる。
純Al浴では、Al3FeおよびAl5Fe2を主体とする反応層がきわめて速い速度で生成・成長することが知られている。しかしながら、Siを含む合金浴では、初期にSiを含むAl-Si-Fe系の合金相が鋼板の表面を覆い、AlおよびFeの拡散障壁となってAl-Fe合金の成長を抑制するものと考えられる。
<Al-Fe合金のアノード分極曲線を測定>
1、3、7.2%のFeを含むAl-Fe合金を作製した。純AlとAl-Fe母合金を正確に秤量し、1%および3%Feは1023Kで溶融し、7.2%Feは1123Kで溶融して金属鋳型に鋳込んだ。適当に切断した試料を樹脂に埋め込み、10mm×10mmの表面が電極面になるように加工し、機械研磨した。
Al-Fe合金のアノード分極曲線を測定した。0.5M NaCl水溶液中でのアノード分極曲線の測定法および装置等は上述したものと同様である。
溶融めっき過程では、溶融金属・合金に鋼板が接することによって鋼板からFeが溶解し、めっき被膜中にFeが混入する。混入したFeがめっき被膜の犠牲防食性に与える影響を調べるために、1、3、7.2%のFeを含むAl-Fe合金のアノード分極曲線を測定した。測定結果を図6に示す。図6より、Al-7.2Fe合金ではFeAl3の大きな初晶が晶出し、そこを起点に孔食が発生することが確認された。一方、1%および3%FeではAl-Mg-Si合金とほぼ同じ分極曲線となり、-0.65V以下の電位範囲では不働態化しておりその電流はAl-Mg-Si合金より小さい。また、電流が急増して不均一な腐食を起こす電位は鉄鋼の腐食電位とほぼ等しく、犠牲防食においてもめっき被膜が不均一腐食を起こさないことを示している。これらのことから、Al-Mg-Si合金に3%程度までFeが不純物として溶解しても、犠牲防食性の劣化は起こらないといえる。
Al-1%Feは亜共晶組成であることから、α-Alの初晶に続いてAl3Feが微細に分散した共晶組織となる。Al-Feの共晶組成は1.9%Feとされているが、3%Feでは共晶組成に近く初晶のAl3Feは大きく成長していない。これらの組成範囲では、微細に分散したAl3Feは均一に溶解したり不働態化して犠牲防食特性に悪影響を与えていない。一方、7.2%Feでは、初晶の針状のAl3Feが大きく成長しており、その界面から孔食や局部溶解が観察され、アノード分極曲線でもかなり低い電位から電流が増加し、しかも不均一な溶解を示唆して不安定な電流を示している。
つぎに、本発明にかかる第2の実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
<めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化>
本実施例ではAl-Mg-Si合金浴で純鉄の浸漬実験を行い、めっきによる凝固組織の変化について検討した。
実験方法について説明する。供試材は純鉄板(99.8%)を用いた。純鉄板を40×20×1.0 mm3 の短冊状に切り出し、表面を耐水性研磨紙(〜#800)で研磨の後、超音波洗浄し、浸漬実験の試料とした。めっき浴は表2に示すAl-Mg-Si合金を用いた。Arガスフロー雰囲気下(1L/min)、973Kにおいて、Al-Mg-Si合金浴に5sの浸漬実験を行った。冷却方法は空冷とした。観察面を耐水性研磨紙、バフ(0.06μmコロイダルシリカ)を用いて研磨した。組織観察には光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(JXA-8100,加速電圧15kV)を用いた。
実験結果について説明する。図7は合金組織の変化を示す図であり、(A)が溶融Al-Mg-Si合金を金型鋳造した場合、(B)が溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合である。図7(A)に示すように、金型鋳造したAl-Mg-Si合金の凝固組織は全面がα-Al相とMg2Si相の共晶組織によって構成されていた。この時の冷却速度は一般的な金型鋳造の冷却速度の10K/sとほぼ同等になっていると考えられる。一方、図7(B)に示すように、このAl-Mg-Si合金がめっき層として鉄板の上に反応層を介して凝固すると、黒いコントラストで示される塊状のMg2Si相や灰色のコントラストで示される鉄系化合物相が確認できた。この時の冷却速度は冷却時の温度測定の結果から7K/sと判断された。合金の凝固組織は冷却速度に大きく依存するが、本実験の条件ではほぼ同程度の冷却速度であることから、両者を比較検討することが可能である。この結果、めっき層として凝固したときに観察される変化は鉄の溶出による影響であることが分かった。
Figure 2010168645
<めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の浸漬時間、浸漬浴温度に伴う組織変化>
本実施例では Al-Mg-Si合金浴で純鉄の浸漬実験を行い、浸漬浴温度および浸漬時間がめっき層の組織形態に及ぼす影響について検討した。 実験方法は、浸漬浴温度または浸漬時間を除き、上述の実施例と同様である。
図8は、溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)は浸漬時間が5sの場合、(B)は浸漬時間が30sの場合、(C)は浸漬時間が60sの場合である。浸漬浴温度は973Kであり、冷却方法は空冷である。
図9は、溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)は浸漬時間が30sかつ浸漬浴温度が973Kの場合、(B)は浸漬時間が60sかつ浸漬浴温度が973Kの場合、(C)は浸漬時間が30sかつ浸漬浴温度が923Kの場合、(D)は浸漬時間が60sかつ浸漬浴温度が923Kの場合である。冷却方法は空冷である。
これらの結果から、浸漬時間が長いほど、また、浸漬浴温度が高いほど、めっき層に観察される塊状のMg2Siの量および大きさはともに増大することが分かった。
また、浸漬時間が長いほど、また、浸漬浴温度が高いほど、めっき層に観察される鉄系化合物の量および大きさはともに増大することが分かった。これは、浸漬浴温度が高いほどFeの溶解速度および拡散速度が大きく、また、浸漬時間が長いほどFeの溶解量と各元素の拡散量が大きいためであると考えられる。
実験結果では、めっき層に鉄系化合物が存在している。めっき浴のFe濃度は0.05%と非常に小さいので、めっき層のFeがすべて、めっき浴に起因するとは考えにくい。鉄板をめっき浴に浸漬すると、鉄板からFeが溶け出す。一定時間後、鉄板をめっき浴から引き上げると、鉄板の表面に溶け出したFeを含むめっき合金が残る。このため、めっき浴中のFeよりも高濃度のFeがめっき層に存在することになると考えられる。したがって、めっき浴中にFeが存在しても存在しなくても、めっき層中にFeが存在することになると考えられる。
<めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の冷却速度に伴う組織変化>
本実施例では Al-Mg-Si合金浴で純鉄の浸漬実験を行い、冷却速度がめっき層の組織形態に及ぼす影響について検討した。 実験方法は、冷却方法を除き、上述の実施例と同様である。冷却方法としては、空冷と水冷の場合について検討した。水冷の方法はめっきした鉄板を常温の水槽に投入するものである。
図10は、溶融Al-Mg-Si合金めっき浴に鉄板を浸漬してめっき層を形成した場合の合金組織の変化を示す図であり、(A)が浸漬後に空冷した場合、(B)が浸漬後に水冷した場合、(C)が(B)の走査型電子顕微鏡(SEM)反射電子像でほぼ同一の倍率である。(A),(B)ともに、浸漬時間は60sであり、浸漬浴温度は973Kである。(C)において、鉄系化合物と共晶組織からなる凝固組織は冷却方向に沿って(図中の右下から左上の方向に)成長している。鉄系化合物は共晶組織の外周部に微細に晶出しているのが分かる。
これらの結果から、溶融めっき後急冷することによって、めっき層内に塊状Mg2Siと鉄系化合物の析出および結晶の粗大化の抑制が可能となる。急冷によって、めっき層の金属組織が微細となり、全面にAl-Mg2Siの共晶組織と微細な鉄系化合物が生成する。なお、水冷の場合の冷却速度については後述する。急冷によって微細な共晶組織と鉄系化合物が生成する機構については、冷却速度が大幅に大きい場合には、状態図におけるカップルドゾーンの大小から、共晶組織の晶出が優先的に起こり、鉄系化合物の晶出が抑制されるためであるとされている。
Feの溶出現象を調べるため、浸漬時間に伴うめっき浴の溶湯の凝固組織の変化を観察した。浸漬前および440,4000sの浸漬後の凝固組織を観察すると、鉄系化合物の増加が認められた。電子線マイクロアナライザー(EPMA)による分析の結果から鉄系化合物相にはMgがほとんど含まれず、また、塊状のMg2Si相にはAlやFeはほとんど含まれていない。従って、一方の化合物相の晶出よって濃度偏析が容易に起こり、その結果、もう一方の化合物相が晶出するものと考えられる。鉄系化合物相と塊状のMg2Si相の存在位置がきわめて近いことが認められた。これは、鉄系化合物相および塊状Mg2Si相の構成元素の局所的な濃度変化が生じることによるものと考えることができる。
めっき浴の溶湯の組成分析結果を表3に示す。繰り返し浸漬を行うと、総浸漬時間の増加に伴ってめっき浴中に溶出するFeが増える。Fe原子の拡散は浸漬中にめっき層形成に持ち出される厚さよりも長い距離になるものと推測される。浸漬前、440s、4000sと総浸漬時間が長くなるにつれ、Fe濃度が0.8%付近になるが、Al-Fe-Si (8%Mg)の計算状態図から973KにおいてFeは約2.5%溶解するため、総浸漬時間が4000sよりさらに長くなると、Fe濃度はさらに高くなる可能性はある。
Figure 2010168645
つぎに本実施例では、Al-Mg-Si系擬2元共晶合金の凝固組織に及ぼすFeおよび冷却速度の影響について検討した。
供試材としてAl-8.2Mg-4.8Si共晶合金およびこれにFeを約1.3%加えたFe添加合金を用いた。これらの合金をくさび形状の金型に鋳造し、くさび形状鋳塊を得た。くさび型形状にすることにより鋳塊の厚さが異なり、各部位により冷却速度が異なることになる。金型内にくさびの先端から20,50,90mmの距離に熱電対を設置し、冷却速度を求めた。これらの位置から試料を採取し、光学顕微鏡により組織観察を行った。
共晶合金およびFe添加合金における冷却速度とくさびの位置の関係についてみると、いずれの合金でもくさび型の底部から距離が離れるにつれ、冷却速度は小さくなる。共晶合金およびFe添加合金両者で冷却速度とくさびの位置の関係はほぼ類似していることが認められた。
図11は、溶融Al-Mg-Si合金を金型鋳造した場合の合金組織の変化を示す図である。左側は低倍、右側は高倍の組織を示す。共晶合金は基本的にはα-Al相とMg2Si相がセル状に成長した均一組織となる。冷却速度が大きくなるにつれ、セルサイズは小さくなり、また、α-Al相とMg2Si相のラメラー間隔は小さくなる。
図12は、溶融Al-Mg-Si-Fe合金を金型鋳造した場合の合金組織の変化を示す図である。Fe添加合金ではコントラストの異なる2種類の多角形の塊状晶出物が観察される。コントラストの濃い方はMg2Si相であり、薄い方は鉄系化合物相である。共晶部においてはα-Al相とMg2Si相の共晶のほかに、セル境界にもFeを含む多元共晶が観察される。またα-Al相とMg2Si相の間隔は共晶合金同様、冷却速度が大きくなるにつれ小さくなる。
これらの塊状化合物について組成分析(波長分散型X線分析法(WDS)による分析)を行った。分析の結果、コントラストの濃い方はMg2Siと確認した。一方、コントラストの薄い方の鉄系化合物はAl6.9-9.6Fe1.7-2.1Siの組成を持つためAlFeSiまたはAl7FeSiであると推定される。
Feを含まないAl-8.2Mg-4.8Siは、擬二元共晶点でα-AlとMg2Siの共晶組織となるのに対し、Al-8.2Mg-4.8Si-1.3Feの組織は、Fe-Al合金相と塊状のMg2SiさらにAlとMg2Siの擬二元共晶からなっている。また、Al-8.2Mg-4.8Si-1.3Fe合金の金属組織は冷却速度によって異なり、冷却速度が速い試料(図12(C))ではFe-Al合金相はAlとFeAl3の共晶組織になり大きな塊状のMg2Siの晶出量は少ない。一方、冷却速度が遅い試料(図12(A))では、AlとFeAl3の共晶組織の割合が減少し、塊状のAlFeSiまたはAl7Fe2Siが晶出する。そのため母相中のAlが不足し大きな塊状のMg2Siの晶出量が多くなる。また、冷却速度に関係なく、Fe添加により母相中のAlが不足し塊状のMg2Si が晶出する傾向が見られた。塊状のMg2Siが晶出することから、Al-8.2Mg-4.8Si-1.3Fe合金の組織はFeを含まないAlとMg2Si擬二元系のSi側過共晶に類似した組織になる。
鉄系化合物相に及ぼす冷却速度の影響を検討した。図13は合金組織の変化を示す図であり、(A)が鉄系化合物の数密度と面積率に対する冷却速度の影響を示す図であり、(B)が走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図13(A)において、冷却速度の値は図12での結果を示すものであり、それぞれ12K/s,42K/s,55K/sである。また、図13(B)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、図12(C)の高倍(右側)と同一であり、冷却速度は55K/sである。
塊状の鉄系化合物の面積率は冷却速度増大に伴い、徐々に減少する。一方、数密度はある程度の冷却速度までは変化せず、高冷却速度において著しく減少する。これは高冷却速度になると鉄系化合物は塊状ではなく、3元共晶(α-Al-Mg2Si-鉄系化合物3元共晶)に取り込まれることによると考えられる。
数密度は、200倍の光学顕微鏡写真10枚から塊状鉄系化合物を数え上げ、スケールバーから写真1枚の面積(mm2)を求め、数密度を単位面積当たりの個数とした。一方、面積率は、200倍の光学顕微鏡写真3枚から画像編集ソフトPhotoshop6.0を用い、塊状鉄系化合物を抜き出し、明度のヒストグラムより抜き出した塊状鉄系化合物の面積率(%)が求め、3枚分の結果を平均した。なお、析出物の数密度および面積率は、写真倍率や閾値の計測条件の選び方により、変動することはもちろんである。
図13(B)および図12(c)から分かるように、塊状Mg2Siの長径は、ほとんどの粒子が5μm未満であり、最大長径は5μm以上あるものが観察された。ここで、長径は、1000倍の光学顕微鏡写真3枚の画面における析出物の最大幅を計測した値である。また、最大長径は、計測された長径のうち最大の値である。なお、腐食に対して活性なMg2Siが微細で均一に分散した金属組織を得ることを目的とする場合、塊状Mg2Siの最大長径は5μm未満であることが好ましいと考えられる。
上述したように、図13(B)の合金組織は冷却速度が55K/sである。これに比較して、図10(B)の水冷した場合の合金組織は、めっき層内に塊状Mg2Siと鉄系化合物の晶出・析出および結晶の粗大化が大幅に抑制されている。急冷によって、めっき層の金属組織が微細となり、全面にAl-Mg2Siの共晶組織と微細な鉄系化合物が生成する。これらの結果から、水冷における冷却速度は55K/sよりも格段に大きいと考えられる。
<Al-Mg-Si合金およびAl-Mg-Si-Fe合金のアノード分極曲線の測定>
アノード分極曲線の測定には、試料としてバルク合金材を使用した。試料はAl-8.2Mg-4.8Si-1.2Feの組成を持つバルク材で、鋳造時の冷却速度が異なる試料について比較した。バルク合金材の作製は、純Al、純Mg、Al-Si母合金およびAl-Fe母合金を正確に秤量し、溶融し、冷却速度が金属組織に与える影響を調べるためにくさび形の金属鋳型に鋳造した材料から切り出した試料を用いた。また、比較のためにAl-8.2Mg-4.8SiおよびAl-8.2Mg-7Siの組成を持つバルク材を作製し試料とした。試料を埋め込み樹脂に埋め込み、研磨により10mm×10mmが電極面になるように加工したものを試料電極として用いた。
合金試料を0.5M NaCl水溶液中で電位走査法によりアノード分極曲線を測定した。分極にはポテンショスタット(北斗電工(株)、HA-1510)を使用し、合金試料電極を作用極として、参照電極には銀/塩化銀電極(SSE)、対極にはPt板を使用した。以下、電位は全てこの電極基準で記述されている。試料電極を0.5M NaCl水溶液に浸漬し、浸漬電位から1mV/sの電位走査速度でアノード分極し電流の変化を測定した。
図14は、Al-8.2Mg-4.8,7Siおよび異なる冷却速度のAl-8.2Mg-4.8Si-1.2Feのアノード分極曲線を示す図である。アノード分極曲線から、Feを添加したことでAl-8.2Mg-4.8Si(擬二元共晶)やAl-8.2Mg-7Si (Si側過共晶)よりAl-8.2Mg-4.8Si-1.2Feの浸漬電位は貴にシフトしているが、不働態保持電流密度と-0.8Vおよび-0.7V付近で起こる電流密度の増加はAl-8.2Mg-7Si (Si側過共晶)のアノード分極曲線に電流増加の様子が類似している。また、冷却速度が速い場合と遅い場合とを比べると、前者では塊状のMg2Siの晶出量が少ないためAl-8.2Mg-4.8Si(擬二元共晶)に近い挙動を示している。以上から、Al-Mg-Si系合金にFeを含む場合、めっき層内への鉄系化合物の晶出によりそれに隣接して塊状のMg2Siが晶出することで電気化学特性に大きな影響を及ぼすことがわかった。
<クロスカットを付しためっき鉄板の腐食電位および腐食状態の測定>
本実施例では、めっき鉄板にクロスカットを付し、腐食電位および腐食状態を測定した。
試験方法について説明する。供試材は純鉄板(99.8%)を用いた。純鉄板を25mm×50mm×2mmまたは0.85mmの短冊状にし、表面を耐水性研磨紙(〜#800)で研磨の後、超音波洗浄し、実験の試料とした。めっき浴はAl-8.2%Mg-4.8%Si合金を用いた。Arガスフロー雰囲気下(1L/min)、973Kにおいて、Al-Mg-Si合金浴に30sの浸漬を行った。冷却方法は、空冷または水冷とした。一般の亜鉛めっき鉄板のクロスカット試験と同様に、鋭利なカッターナイフによって下地鉄板に達する5mm×5mmのX字状の傷を与えためっき鉄板を試料として使用した。
試料を0.5M NaCl水溶液に浸漬し、ポテンショスタット(北斗電工、HA-1510)の浸漬電位モード腐食電位の時間変化を1週間にわたって計測した。浸漬開始1週間後に試料を溶液から取り出し、傷をつけた表面を観察した。
試験結果は、表4に示すとおりである。水冷材では浸漬試験後のクロスカット部の鉄板表面は金属光沢を保ち腐食が起こらず、空冷材では金属光沢を失いやや黒ずんでいる部分もあったが、いずれも赤錆発生は見られなかった。また、いずれの試料でも腐食電位は−0.68Vから−0.76Vの範囲にあり、鉄板への水素の侵入はほとんど起こらない電位範囲であった。
Figure 2010168645
<ガルバニック・カップルによる腐食電位および腐食状態の測定>
本実施例では、めっき後に空冷または水冷しためっき鉄板について、腐食電位および腐食状態を測定した。
めっき鉄板の作製方法は、上述のクロスカット浸漬試験に用いた試料と同様であり、X字状の傷を与える前のものを用いた。
Al-8.2%Mg-4.8%Si合金めっき鉄板と裸の鉄板と電気的に接続し、0.5M NaCl水溶液中で、鉄板をガルバニック・カップルによって犠牲防食したときの腐食電位はポテンショスタット(北斗電工、HA-1510)の浸漬電位モードで測定し、鉄板の腐食の発生状態を観察した。ここで、めっき鉄板と裸の鉄板の面積比は10:1とした。実験期間は1週間である。
試験結果は、表5に示すとおりである。先に述べたクロスカット浸漬試験の場合と同様に、水冷しためっき鉄板と接続した鉄板は金属光沢を保ち腐食は見られなかった。また、空冷材と接続した鉄板はやや金属光沢が失われ表面に黒ずんだ部分が見られたが、いずれの場合も顕著な腐食や赤錆の発生は見られなかった。さらに、腐食電位もクロスカット浸漬試験結果とほぼ同様の電位を示し、鉄板への水素の侵入がほとんど起こらない電位範囲であった。クロスカット浸漬試験とガルバニック・カップル浸漬試験のいずれの場合にも、水冷材の犠牲防食性能が空冷材よりも優れていることが示されたが、これは水冷材のめっき層の金属組織が空冷材よりもはるかに微細で、塊状のMg2Siや鉄系化合物がほとんど見られず、めっき層がほぼ均一に溶解し続けることによるものと考えられる。
Figure 2010168645

Claims (18)

  1. Al、Mg、Siを含有する被膜であって、
    Mgは6〜10質量%の範囲にあり、
    Siは3〜7質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある
    犠牲防食被膜。
  2. Al、Mg、Siを含有する被膜であって、
    Mgは7〜9質量%の範囲にあり、
    Siは4〜6質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にある
    犠牲防食被膜。
  3. Feが3質量%以下の範囲にある
    請求項1または2記載の犠牲防食被膜。
  4. Al、Mg、Siを含有する被膜であって、
    Mgは6〜10質量%の範囲にあり、
    Siは3〜7質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある
    水素非侵入防食被膜。
  5. Al、Mg、Siを含有する被膜であって、
    Mgは7〜9質量%の範囲にあり、
    Siは4〜6質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にある
    水素非侵入防食被膜。
  6. Feが3質量%以下の範囲にある
    請求項4または5記載の水素非侵入防食被膜。
  7. Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を、有する鋼材であって、
    Mgは6〜10質量%の範囲にあり、
    Siは3〜7質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある
    鋼材。
  8. Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を、有する鋼材であって、
    Mgは7〜9質量%の範囲にあり、
    Siは4〜6質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にある
    鋼材。
  9. Feが3質量%以下の範囲にある
    請求項7または8記載の鋼材。
  10. Al、Mg、Siを含有する水素非侵入防食被膜を、有する鋼材であって、
    Mgは6〜10質量%の範囲にあり、
    Siは3〜7質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にある
    鋼材。
  11. Al、Mg、Siを含有する水素非侵入防食被膜を、有する鋼材であって、
    Mgは7〜9質量%の範囲にあり、
    Siは4〜6質量%の範囲にあり、
    Mg/Siは1.5〜2.7の範囲にある
    鋼材。
  12. Feが3質量%以下の範囲にある
    請求項10または11記載の鋼材。
  13. 少なくとも片面に、Al、Mg、Siを含有する犠牲防食被膜を有する鋼材であって、Mgは6〜10質量%の範囲にあり、Siは3〜7質量%の範囲にあり、Mg/Siは1.1〜3.0の範囲にあり、犠牲防食被膜の組織がAl-Mg2Si擬2元系の共晶組織を含むことを特徴とする鋼材。
  14. 犠牲防食被膜は、Al-Mg2Si-鉄系擬3元系の共晶組織を含むことを特徴とする請求項13に記載の鋼材。
  15. 共晶組織の中に塊状のMg2Si析出物を有し、塊状Mg2Siの長径が5μm未満であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の鋼材。
  16. 犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その数密度は10個/mm2未満であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載の鋼材。
  17. 犠牲防食被膜中に鉄系化合物が析出する場合、その面積率は0.2%未満であることを特徴とする請求項13〜16のいずれか一項に記載の鋼材。
  18. 溶融めっき法で請求項15〜17のいずれか一項記載の鋼材を製造するに際して、めっき後に50K/sを超える急速冷却を行うことを特徴とする鋼材の製造方法。
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