JP2004068075A - 加工性および耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物の組成になる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を、表面に有する鋼板であって、該めっき層は、Zn相、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属化合物相からなり、前記Zn相の素地中に、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属間化合物相のいずれか1種または2種以上が、長径:10nm以上1μm未満の粒子状に分散し、かつ該分散粒子の存在しないZn相の素地は長径が3μm以下であるものとする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、加工性と耐食性に優れる溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶融5mass%Al−Znめっき鋼板は、溶融Znめっき鋼板に比べて、加工性、耐食性、端面耐錆性に優れているため、近年、住宅や倉庫などの建材分野での代替需要が伸びている。さらに、この溶融Zn−Alめっき鋼板に、1〜5mass%のMgを含有させると耐食性が大幅に改善することが、米国特許第3505043号に開示されて以来、組成および組織に関する改善技術が報告されている。
【0003】
これまでに開示されている溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、基本的にいずれも母相が[Al/Zn/Zn2Mg]からなるラメラー構造の三元共晶組織(以下、単に三元共晶組織と略す)となっていることが特徴である。
【0004】
このうち、特開平10−226865号公報には、Zn11 Mg2を抑制し母相中にZn2Mgを析出させることにより、おもに表面外観の改善を目的とした技術が開示されている。また、特開2000−104154号公報には、Al含有量を高め、Siを微量添加することによって、さらなる耐食性改善を目的とした技術が開示されている。しかし、かかるめっき鋼板は、従来の溶融5%Al−Znめっき鋼板と比べると、確かに耐食性は改善しているが、曲げ加工性は大幅に劣化し、加工性がそれほど良好とは言えない溶融Znめっき鋼板と比べても劣るものであった。
【0005】
一方、特開2001−64759号公報には、Mg系金属間化合物相を長径1μm以上のサイズで分散させることによって、耐亀裂性を劣化させることなく耐傷つき性を改善させることを目的とした技術が開示されている。しかし、かかるめっき層は、線材の巻き付け加工のような比較的軽度の加工には耐えることができても、例えばサイディングや屋根のハゼ部の曲げ加工の際の、0T曲げ(密着曲げ)のような厳しい加工では、クラックが明瞭に観察され、加工性改善はなお不十分であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、耐食性に優れ、しかも溶融5mass%Al−Znめっき鋼板と同等レベルの優れた曲げ加工性を示す溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板とその製造方法について提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、従来の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の曲げ加工試験を行い、加工部のめっき層の断面組織を詳細に観察した結果、クラックが入るのは大部分がMg−Zn系金属間化合物相であることを見出した。次いで、めっき浴組成、めっき後の冷却速度を様々に変化させた、めっき実験を行った結果、めっき層の組織をZn相の素地中に、長径が10nm以上1μm未満のサイズのAlおよびAl−Mg系、Mg−Zn系金属間化合物粒子の1種類以上を分散させ、該分散粒子の存在しないZn相素地の長径を3μm以下とすれば、加工性および加工部の耐食性が著しく改善すること、また、かかるめっき層の組織を得るためには、めっき層が凝固するまでの間を、めっき浴温T(℃)に関する式で規定される冷却速度で冷却すればよいことを見出し、この発明を完成するに至った。
【0008】
この発明の要旨構成は、次の通りである。
(A)Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物の組成になる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を、表面に有する鋼板であって、該めっき層は、Zn相、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属化合物相からなり、前記Zn相の素地中に、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属間化合物相のいずれか1種または2種以上が、長径:10nm以上1μm未満の粒子状に分散し、かつ該分散粒子の存在しないZn相の素地は長径が3μm以下である、加工性および耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【0009】
(B)めっき浴に浸漬して得た溶融Zn−Al−Mg系めっき層の組成が、Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物となる、浴組成に調整した溶融Zn−Al−Mg系めっき浴に、鋼板を浸漬した後、前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層で被覆された鋼板をめっき浴から引き上げ、次いで下記式(1)を満足する冷却速度Vc(℃/s)にて冷却する、加工性および耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
記
Vc≧0.1T−10 −−−−(1)
ここで、T:めっき浴温(℃)
【0010】
上記(B)において、上記式(1)に代えて冷却速度Vcが下記式(2)を満足することが好ましい。
記
Vc≧0.1T −−−−(2)
ここで、T:めっき浴温(℃)
【0011】
上記(B)において、上記式(1)に代えて冷却速度Vcが下記式(3)を満足することがさらに好ましい。
記
Vc≧0.1T+5 −−−−(3)
ここで、T:めっき浴温(℃)
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明について詳細に説明する。
この発明のめっき鋼板について、めっき層の組成から順に述べる。まず、溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物の組成になることが、肝要である。
すなわち、Alは、第一に耐食性の向上、第二にMgの酸化抑制を目的として添加する重要な元素であり、めっき層中の含有量を1〜60mass%とする。1mass%より少ないと、耐食性向上が十分ではない。さらに、Mgの酸化によるドロスが多量に発生するという問題も生じる。一方、60mass%より多いと、Al相がデンドライト状に成長して、粒子状に分散させることができなくなる。その結果、めっき層が硬くなり加工性が劣化する。この耐食性と加工性の観点で最も好ましい範囲は、4〜20mass%である。
【0013】
Mgは、少量で耐食性を向上させる効果が認められる元素であり、めっき層中の含有量を1〜10mass%とする。すなわち、1mass%より少ないと耐食性向上が十分ではない。一方、10mass%より多いと、Mg−Zn系の金属間化合物粒子が粗大化しやすくなり、加工性が劣化する。さらに、Alや他の酸化抑制元素(Ca、Be、Liなど)の添加によってもドロスの発生を抑えることがきわめて困難になる。最も好適な範囲は、3〜6mass%である。
【0014】
なお、Mgによるドロスを効果的に抑制する目的で、Ca、BeおよびLiのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.01mass%以下となるように添加することができる。
【0015】
次に、めっき層の組織を限定する理由について述べる。
ここに、図1に、従来の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板(Al:8mass%、Mg:4mass%、残部Zn)の断面の走査電子顕微鏡(SEM)による二次電子像の一例を示す。この試料のめっき層の組織は、特開平10−226865号公報に開示されているように、三元共晶組織、初晶Al、単相Zn、AlとZnの二元共晶組織およびMg−Zn系金属間化合物相から構成される。また、図2は曲げ加工部のめっき層の断面を示すSEM二次電子像である。発明者らの観察によれば、図2に示すように、クラックはMg−Zn系金属間化合物相で発生しているケースがきわめて多かった。なお、この領域にクラックが集中するのは、これ以外の領域に比べて硬度が著しく高いためであると考えられる。
【0016】
一方、この発明に従う構造のめっき層の断面のSEM二次電子像を、図3に示す。なお、化学分析から求めためっき層の平均組成は、図1とほぼ同等である。この発明に従う組織は、初晶Al相、Zn相、Mg−Al系およびMg−Zn系金属間化合物相から構成され、Zn素地(図3(b)において、明灰色領域)中に、長径が10nm以上、1μm未満のAl相(図3(b)において、やや明るい灰色粒子)と、Mg−Al系およびMg−Zn系金属間化合物粒子(図3(b)において、黒色粒子)とが存存し、該粒子が存在しない前記Zn素地の長径が3μm以下であることを特徴とする。
【0017】
ここで、Zn素地中に該粒子が存在しない領域とは、2万倍のSEM二次電子像で観察して、粒子が目視で確認できない領域のことをいう。ちなみに、図4は、Mg−Zn系金属間化合物粒子の一例を示す、透過電子顕微鏡観察写真とその電子線回折パターンである。この粒子の構造は、ε−MgZn(六方晶、格子定数a=2.558nm、c=1.815nm)であり、この組成のZn−Mg−Al系合金めっき層では初めて観察された相である。なお、金属間化合物粒子の構造としては、これ以外にη−Mg2Zn、θ−Mg2Zn11、β−Mg2Zn11、β−Mg2Al3などが存在する。
【0018】
そして、この金属間化合物粒子径の下限を10nmとする理由は、これより微細化させても加工性、耐食性の改善効果はほとんど認められないからである。一方、上限を1μmとする理由は、これより大きくするとクラックが発生し易くなり、曲げ加工部の耐食性も著しく劣化するからである。
【0019】
また、金属間化合物粒子の存在しないZn素地の上限を3μmとする理由は、この値より大きいとめっき層にクラックが発生しやすくなるためである。この原因は、粒子の存在しない領域の平均硬度が、粒子の存在する領域の平均硬度より低くなり、図1に示した三元共晶組織にMg−Zn系の金属間化合物相がまばらに分散する、従来のめっき層の組織に近くなるためであると考えられる。
【0020】
同様に、Al、Mg−Al系およびMg−Zn系金属間化合物粒子の分布に関する好適範囲は、該粒子の長径が10nm以上500nm以下、該粒子の存在しないZn素地の長径が1μm以下である。
【0021】
次に、製造方法について述べる。
この発明の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は、連続焼鈍めっき設備で製造が可能である。その際、めっき浴は、めっき浴に浸漬して得た溶融Zn−Al−Mg系めっき層の組成が、上記したAl:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物となるように、浴組成を調整したものであることが肝要である。なお、浴温は450〜650℃が好ましい。
【0022】
次いで、この溶融Zn−Al−Mg系めっき浴に、鋼板を浸漬した後、前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層で被覆された鋼板をめっき浴から引き上げて、
Vc≧0.1T−10
を満足する冷却速度Vc(℃/s)にて冷却する。ここで、Tはめっき浴温である。すなわち、AlおよびMg−Al系並びにMg−Zn系金属間化合物粒子をZn素地中に、上記した範囲で分散析出させるためには、めっき凝固までの冷却速度を上式を満足するVc(℃/s)に制御しなければならない。なぜなら、冷却速度が(0.1T−10)℃/sより小さいと、該粒子が粗大化し、上記範囲を満たす組織が得られなくなる。より好ましくはVc≧0.1T、さらにはVc≧0.1T+5である。
【0023】
ここで、冷却速度Vcを変化させてAl相、Mg−Zn系金属間化合物およびAl−Mg系金属間化合物相の粒子の最大径について調べた結果を、図5に示す。表1に示すめっき層組成を有する、溶融Zn−Al−Mg系めっき(試料A、B)を、表1に示す浴温でめっき処理を行い溶融めっき層を形成した。
図5に示す通り、Vc≧0.1T−10を満たすことにより、上記各相粒子の最大径を1μm以下に制御することが可能となり、Vc≧0.1Tを満たすことにより500nm以下、Vc≧0.1T+5を満たすことにより300nm以下とすることができる。このようにして、上記各相の粒子径を小さくすることにより、加工性および耐食性を効果的に改善することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
【実施例】
板厚0.4〜0.8mmの極低炭素冷延鋼板を、酸洗、電解脱脂後、露点−30℃、15%H2−N2雰囲気中で810℃、20s焼鈍後、温度450〜650℃の溶融Zn−Al−Mgめっき浴に2s浸漬し、ガスワイピングでめっき層厚を25μm(片面)に調節した後、ガス流量と噴出圧を様々に変化させて冷却した。ここで、冷却速度に関して、放射温度計で板温を測定し、めっき擬固までの平均値を求めた。
【0026】
かくして得られた、めっき鋼板について、AlおよびMg−Al系、Mg−Zn系金属間化合物粒子の分散状況を踏査した。すなわち、めっき層の断面をSEM観察し、ランダムに20視野撮影した2万倍の二次電子像における、最大と最小の粒子サイズと、粒子の存在しないZn素地のうち最大領域の長径と、を測定した。
【0027】
また、加工性はJIS Z 2248に準拠した密着曲げ試験を行い、曲げの外側となる加工部のクラック面積率で評価した。クラック面積率は、曲げ加工部の50倍の反射電子像を撮影後、曲げ線を挟む幅50mm(曲げ試験片では1mmの区間)および長さ220mm(曲げ試験片では4.4mmの区間)の領域のクラックをトレースし、画像解析装置を用いて、その面積率を求めた。評点は、以下に示す1〜5ランクで示し、4以上を合格とした。
ランク5:クラック面積率が5%未満
ランク4:クラック耐積率が5%以上10%未満
ランク3:クラック面積率が10%以上15%未満
ランク2:クラック面積率が15%以上20%未満
ランク1:クラック面積率が20%以上
【0028】
耐食性は、上記と同様に密着曲げ試験を行い、塩水噴霧2h、乾燥4h、湿潤2hを1サイクルとする腐食疲労試験(CCT)を行い、赤錆発生までの日数で評価した。評点は、以下に示す1〜5ランクで示し、4以上を合格とした。
ランク5:赤錆発生までの日数が180日以下
ランク4:赤錆発生までの日数が90日以上180日未満
ランク3:赤錆発牛までの日数が60日以上90日未満
ランク2:赤錆発生までの日数が30日以上60日未満
ランク1:赤錆発生までの日数が30日未満
【0029】
以上の各測定結果及び評価結果を、表2に示すように、この発明に従って、加工性並びに耐食性に共に優れるめっき鋼板が得られた。
【0030】
【表2】
【0031】
【発明の効果】
この発明によれば、耐食性に優れ、しかも溶融5mass%Al−Znめっき鋼板と同等レベルの優れた曲げ加工性を示す溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の断面の走査電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。
【図2】曲げ加工部のめっき層の断面を示すSEM二次電子像である。
【図3】この発明に従う構造のめっき層の断面のSEM二次電子像である。
【図4】Mg−Zn系金属間化合物粒子の一例を示す、透過電子顕微鏡観察写真とその電子線回折パターンである。
【図5】この発明における冷却速度と粒子最大径との関係を示す図である。
Claims (2)
- Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物の組成になる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を、表面に有する鋼板であって、該めっき層は、Zn相、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属化合物相からなり、前記Zn相の素地中に、Al相、Mg−Zn系金属間化合物相およびAl−Mg系金属間化合物相のいずれか1種または2種以上が、長径:10nm以上1μm未満の粒子状に分散し、かつ該分散粒子の存在しないZn相の素地は長径が3μm以下である、加工性および耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
- めっき浴に浸漬して得た溶融Zn−Al−Mg系めっき層の組成が、Al:1〜60mass%およびMg:1〜10mass%を含有し、残部がZnおよび不可避不純物となる、浴組成に調整した溶融Zn−Al−Mg系めっき浴に、鋼板を浸漬した後、前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層で被覆された鋼板をめっき浴から引き上げ、次いで下記式(1)を満足する冷却速度Vc(℃/s)にて冷却する、加工性および耐食性に優れた溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
記
Vc≧0.1T−10 −−−−(1)
ここで、T:めっき浴温(℃)
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