本発明に係る層状無機化合物を含有する固体材料の製造方法は、以下のステップ:(1)不純物を含んでもよい、分散媒に分散した層状無機化合物の分散液を少なくとも液晶相と非液晶相とに相分離させるステップ;(2)上記分散液から液晶相を分取するステップ;及び(3)分取された液晶相を乾燥させて固体材料を得るステップ;を含む。本発明において用いる層状無機化合物は、水を典型とする分散媒に分散したコロイドの状態で少なくとも一部が液晶転移現象を発現して液晶相を形成するものであり、かつ典型的には単層〜数十層まで分散媒中でへき開(剥離)できるものである。層状無機化合物としては、粘土鉱物、層状ポリケイ酸、層状ケイ酸塩、層状複水酸化物、層状リン酸塩、チタン・ニオブ酸塩や六ニオブ酸塩もしくはモリブデン酸塩といった層状遷移金属酸素酸塩、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物等を挙げることができる。なかでも、粘土鉱物、層状ニオブ酸塩等が液晶相を形成しやすいという点で好ましい。入手のしやすさや合成のしやすさ、及び層状無機化合物を構成するナノシートが単層もしくは数層〜数十層積層した状態にまでへき開して水を典型とする分散媒に分散しうるという点からは、粘土鉱物がとりわけ好ましい。
粘土鉱物は、天然粘土でも合成粘土でもよく、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトが好ましく、もしくは、マガディアイト、ハイドロタルサイト、カリオナイト、ハロイサイトも使用できる。しかし、本発明に係る固体材料の透明性を向上させるためには合成粘土の利用が好ましく、合成サポナイト、合成ヘクトライト、合成スチーブンサイト、合成雲母、合成カリオナイト、合成ハイドロタルサイト等が好ましい。
液晶転移の発現のしやすさという点で、層状無機化合物としては、動的散乱法によって計測したときの平均アスペクト比が、分取直後の液晶相において200以上であるものが好ましく、例えばスメクタイト族に属する粘土もしくは溶融法によって合成されたヘクトライトや合成雲母が好ましい。また、ナノシートの端部が、フッ素等、水酸基以外のものになっている粘土鉱物が好ましい。そのような層状無機化合物としては、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライト(例えば、NHTゾルB2、トピー工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化雲母(例えば、NTS−5、トピー工業株式会社製)、高純度のタルクを珪フッ化ナトリウムや珪フッ化リチウムとともに熱処理して変性させて得た膨潤性雲母(例えば、ME−100もしくはMEB−3、コープケミカル株式会社製)等を挙げることができる。特に、液晶相と非液晶相の分離の進みやすさ、及び層剥離の進みやすさの点からは、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトもしくは溶融法によって合成されたフッ素化雲母が好ましい。
なお、層状無機化合物の平均アスペクト比が大きいほど、得られる固体材料においては特にガスバリア性が一般に奏されるが、本発明においては、液晶相において計測される平均アスペクト比が200以上であることは必須ではなく、上記の好適な層状無機化合物において液晶相が発現しやすくなる(液晶相にある層状無機化合物を抽出しやすくなる)平均アスペクト比の代表値である。
なお、これら層状無機化合物(ナノシート及び層間イオン)の組成は、公知の文献に記載されている組成式で表されるが、それらは理想的な組成を示しているものであって、本発明に用いる各種の層状無機化合物の組成は、文献における組成式と厳密に一致している必要はない。
本発明における液晶相とは、層状無機化合物が分散液中で液晶転移することにより、層状無機化合物の分散しているナノシートの向きが、分散媒中でナノシートの面を一にしてある程度揃った集団の集まりとして挙動する相を示す。層状無機化合物は、一般にナノシートの面内方向と厚み方向とで屈折率の異方性を有するため、ある程度ナノシートの面を一にして揃った集団の集まりにおいては複屈折性が発現する。このため、液晶相では、倍率100倍以下の偏光顕微鏡による観察において、液晶に特徴的な様々なテクスチャや干渉色が確認される。対して、ナノシートの向きが揃っておらず、各々のナノシートがばらばらの方向を向いて分散もしくは凝集して集まり存在している非液晶相では、前記の屈折率の異方性がキャンセルされて全体としては屈折率も等方性を示す。従って、分散液が液晶相か非液晶相かの判断は、倍率100倍以下の偏光顕微鏡による観察において、液晶に特徴的な様々なテクスチャや干渉色が確認されるかどうかで判断することができる。
ここで、本発明で用いられる層状無機化合物の平均粒子径Xと、前述の平均アスペクト比Zについて説明する。
平均アスペクト比Zは、本発明で用いられる層状無機化合物を所望の分散媒に分散した分散液を動的光散乱法によって測定することで得られた平均粒子径をXとしたときに、層状無機化合物のナノシートの単位厚みdとZ=X/dなる関係で示されるものと定義する。
単位厚みdは、層状無機化合物のみの粉末、もしくは測定に際して基材の影響が十分排除できる基材(例えば平滑な樹脂基板やシリコンウェハ等)上へ層状無機化合物のみを固形分として含有する分散液を滴下した後、十分乾燥させた後に得られた薄膜に対して、X線回折法等の公知の測定方法により得られる値であり、スメクタイト族や雲母族の粘土であれば、通常、0.93nm〜1.04nm程度であることが知られている。層間イオンをナトリウムイオンからリチウムイオンに交換した後、600℃程度で加熱して水分を除去したある種の粘土(モンモリロナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト)では、ナノシート同士が理論的な限界まで密接するようになるが、その際に上記測定方法によって得られる単位厚みdは0.95nmであるため、そのような層状無機化合物では、ナノシートの単位厚みdは0.95nmであると考えてよい。
動的光散乱法によって得られる前述の平均粒子径Xについて説明する。分散媒中での層状無機化合物の平均粒子径の測定は、その形が板状粒子であることもあり定義も測定方法も極めて困難で、現状でも確定した手法は存在しないが、粘度と粒子間距離の影響を十分考慮した上で動的光散乱法を用い、コンベンショナルな粒子径分布算出アルゴリズムによって算出された平均粒子径及びその粒子径分布データが妥当性の比較的高いものと考えられる。
ただし、分散液の濃度が高すぎる、もしくは分散液中の粒子密度が高すぎる場合には、分散液のマクロ的な特性として、その分散媒と比較して粘度が上昇する、もしくはチクソトロピー的な挙動が発現しやすく、その場合、動的光散乱法によって算出される平均粒子径は実際の板状粒子の長手方向のサイズより大きく見積もられやすい。
また同様に、粒子が分散液中で近接して存在せざるを得ず、その近接距離が測定に用いる光の波長領域と同程度もしくはより近いような濃度の分散液に対して、動的光散乱法による測定はそれら近接した2つ以上の粒子を1つの大きな粒子として認識する可能性があり、結果、平均粒子径が大きく見積もられることがある。
従って、動的光散乱法による測定で妥当性の高い平均粒子径を得るためには、可能な範囲低濃度まで含めて複数の濃度の分散液で測定を行い、分散液の各濃度に対して得られる平均粒子径の値がほとんど濃度に依存しない状態で測定することが好ましい方法の1つであると考えられる。よって、本明細書における平均粒子径Xは、上記状態に対応するある濃度での測定結果(3回以上測定した平均が好ましい)に対する、その濃度の2倍の濃度での測定結果(同様に3回以上測定した平均が好ましい)の差が±20%以内、好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内である状態で得られたものとする。
このような測定を行うに際して好ましい分散液の濃度は層状無機化合物の種類や分散状態及び装置の感度等によって異なるため一義的に決めることは困難であるが、測定装置が十分な精度で測定可能な濃度範囲であることを前提とした上で、固形分として層状無機化合物のみを含有する分散液の固形分濃度として0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲が好ましく、より好ましい範囲は0.01質量%以上0.7質量%以下、最も好ましい範囲は0.02質量%以上0.5質量%以下である。なお、アスペクト比が大きくなると一般には散乱強度が大きくなるため、より濃度の低い分散液で測定することが一般に必要である。
このような細心の注意を払うことで、妥当性のある平均粒子径X及び平均アスペクト比Zを得ることができるが、平均アスペクト比Zは本明細書中の定義としての平均粒子径Xを用いており、必ずしも分散液中における層状無機化合物の実際の分散状態に対応する真の値ではない。
本発明においては、液晶転移を起こす層状無機化合物を分散媒に分散させ、もしくは分散液として予め調製されている分散液を用いて、それらを液晶相と非液晶相とに分離した後、液晶相を分散液から分取する。層状無機化合物を分散させる分散媒は、典型的には水のみ又は水を主成分とするものであるが、有機溶媒を主成分とするものであってもよい。液晶相は、分散しているナノシートの向きが分散媒中である程度面を一にして揃った集団の集まりとして存在しているため非液晶相より密度が高く、かつ液晶相中に存在する層状無機化合物は、以下の非液晶相中に存在する層状無機化合物よりも平均アスペクト比が大きい。対して、非液晶相は分散しているナノシートの向きが揃っておらず、各々のナノシートがばらばらの方向を向いていると考えられ、液晶相より密度が低く、かつ非液晶相中に存在する層状無機化合物の平均アスペクト比は相対的に小さい。従って、液晶相と非液晶相とに相分離させた状態で液晶相中に存在する層状無機化合物を選択的に抽出すれば、平均アスペクト比が大きく、かつ配向特性に優れた層状無機化合物を選択的に得ることが可能である。これにより、長手方向の平均長さがより大きい(すなわち平均粒子径が大きい)層状無機化合物を用いたにも関わらず透明性に優れる固体材料が得られる。
理論に拘束されるものではないが、液晶相におけるナノシートは、分散媒中である程度面を一にして配向しやすいことから、分散媒を除去して固体材料を得る際も、ナノシートが互いの面を一にして高度に配向しやすいと考えられ、結果、配向不良による内部の欠陥発生が抑制されて材料の透明性が向上すると考えられる。さらに、液晶相におけるナノシートは相対的に平均アスペクト比が大きなものが集まっているため、公知の層状無機化合物における知見より、ガスバリア性、機械的強度、耐熱性等の物性が向上すると考えられる。
液晶相は非液晶相より密度が高いため、重力加速度の方向に対して下層に分離して得られることが多い。よって、重力がかかる環境中に静置しておくことで、液晶相と非液晶相とに相分離することができる。分離に要する時間は層状無機化合物の種類、濃度、平均アスペクト比及び粘度等によって異なるが、数時間で十分に分離できる場合もあり、数日放置しておくと一般には良好に分離する。
後述する公知のへき開(微分散)処理を行うと、上記液晶相と非液晶相との分離性は向上する。また、遠心分離法等、密度差を利用する公知の分離方法を用いて、分散液を液晶相と非液晶相とに分離する速度を上げることができる。液晶相と非液晶相それぞれの体積分離比は様々な因子で大きく変わるが、本発明では極僅かでも液晶相と非液晶相とに分離でき、液晶相にある層状無機化合物を選択的に抽出できればよい。
分散液の濃度が高い場合、分散液が液晶相と非液晶相とに分離せず、全体が液晶相となることがある。この場合、液晶相と非液晶相とに分離できる条件であればアスペクト比が小さく非液晶相に移行すべきナノシートの成分が液晶相に混入してしまうため、平均アスペクト比が相対的に大きく、かつ配向特性に優れた層状無機化合物を選択的に得ることができない。
そのような場合には、分散液に水をさらに添加する等して、分散液の固形分濃度を低下させることが好ましい。分散液を液晶相と非液晶相とに分離するために好ましい固形分濃度は層状無機化合物の種類、濃度、平均アスペクト比及び粘度等によって異なるが、一般的には1.5質量%超6質量%未満であり、好ましくは1.5質量%超5質量%未満であって、より好ましくは2質量%超4.5質量%未満である。ただし、上記の範囲以外であっても、遠心分離法等によって大きな重力加速度を引加して分離性を向上させた場合はこの限りではなく、より広い固形分濃度範囲において分散液を液晶相と非液晶相とに分離させることが可能である。
本発明に係る固体材料の透明性を向上させ、さらに水を典型とする分散媒に分散したコロイド状態を液晶転移状態とするためには、層状無機化合物を構成するナノシートをできるだけ単層に近い状態にまで剥離してへき開した分散状態とする工程を設けることが好ましい。そのために、公知の微分散装置、例えば、振とう装置、超音波分散、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等によって機械的な力を加える機械的処理により剥離・へき開を促進することが、層状無機化合物の分散を進め、単位層であるナノシートまでへき開して分散した状態に近づける意味で好ましい。
なかでも微分散装置として、超音波分散、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザーを用いることがより好ましい。
高圧分散装置としては、例えば、Microfluidics Corporation社製超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等が挙げられる。好ましい圧力としては、高圧、特に、100kgf/cm2以上の圧力下の分散処理が挙げられる。高圧にすると層状無機化合物が破砕されて微細化し、平均アスペクト比が小さくなる結果、固体材料のガスバリア性が低下する場合があり、固体材料を膜状にした場合には成膜特性や機械的強度の低下が起こる場合もあるので、100kgf/cm2以下の圧力下において分散処理した方が好ましい場合もある。
なお、高圧下や超音波により分散させることで層状無機化合物が破砕されて微細化する特徴を逆に利用して、平均アスペクト比が大きすぎるためにへき開・分散しにくい層状無機化合物を、高圧分散処理もしくは超音波処理等することで、分散しやすく、かつガスバリア性等の物性低下が顕著とならない平均アスペクト比まで破砕しながら分散させてもよい。
特に、溶融法によって合成されたヘクトライトや合成雲母、及びタルクから変性させた合成雲母は平均アスペクト比が大きいため、よりへき開を進めるために上記のような破砕による微細化処理を実施することが好適な場合が多い。しかし、微細化処理をしすぎると粒子数の増大を主要因として分散液の粘度が上昇し、結果、液晶相と非液晶相とに分離することが困難になることもあるため注意が必要である。そのような現象は、特にナノシートの永久電荷量が大きい雲母系の層状無機化合物で発生しやすい傾向がある。
層状無機化合物のへき開のためには、上記の機械的処理に代えて又はこれと併用して化学的処理を用いてもよい。化学的処理としては、例えば、比較的低分子量のポリアクリル酸ナトリウムやポリアクリル酸といった公知のアニオン系に代表される分散剤を極僅か、具体的には層状無機化合物に対して0.5質量%未満程度、好ましくは0.15質量%程度、分散液中に添加することで分散を進める方法が挙げられ、本発明に好適である。しかし、それら分散剤を多く入れすぎると、溶媒除去後、それらが層状無機化合物の層間にインターカレーションし、層間距離を広げて固体材料のガスバリア性を低下させたり耐熱性を低下させる要因となるため注意が必要である。
分散液における液晶転移及びそれに伴う液晶相と非液晶相との相分離現象はある一定以上の固形分濃度で発現するが、上記のような微細化処理によって平均アスペクト比を小さくすると、液晶転移が発現するための分散液の最低固形分濃度が上昇する場合がある。これによって、破砕処理前は分散液が液晶相と非液晶相とに分離せず、全体が液晶相となってしまっていたものを、同一の固形分濃度で液晶相と非液晶相とに分離できるようになるか、もしくは低い希釈倍率で(すなわちあまり固形分濃度を低下させずに)液晶相と非液晶相とに分離することが可能となる。
本発明において分散液は不純物を含んでもよく、この場合には非液晶相及び含まれうる不純物から液晶相を分取すればよい。不純物は、典型的には入手時の層状無機化合物又はその分散液に含まれる、分散液中で沈降する不純物であり、これは例えば遠心分離法等の大きな重力加速度を引加する手法によって除去することが好適である。特に、溶融法で合成されたヘクトライトや雲母ではガラス質の成分が、天然タルクを変性させて得た雲母では天然物由来の不純物が、僅かながら含まれているため、これらを除去して用いることは透明性向上や液晶転移発現に好結果を与える。また、後述するイオン交換樹脂やイオン交換膜等を用いた手法によって、分散液中に含まれる余剰な不純物イオン(層間イオン以外に含まれているイオン)、特にカードハウス構造等のゲル化を促進させる会合構造を形成する大きな要因である陰イオン(特に含有されやすいフッ素イオン及び硫酸イオン)を除去してから液晶相と非液晶相に分離してもよい。
上記の遠心分離法やイオン交換等の不純物除去操作は、分散液を液晶相と非液晶相とに分離させる前に行ってもよいし、該分離の後に行ってもよい。ただし、大きな重力加速度を引加して不純物を除去する操作は、分散液を液晶相と非液晶相とに分離させる前に行うほうが一般には好ましい。一般に、遠心分離法等で大きな重力加速度を引加して不純物を沈降除去させると、分散液が液晶相と非液晶相とに相分離しやすくなるため、不純物除去と相分離の促進が同時に行えるため好都合である。
また、前述の微細化処理や分散剤の添加は、分散液を液晶相と非液晶相とに分離させる前に行ってもよいし、該分離の後に行ってもよいが、前述の理由より、液晶相と非液晶相との分離性が向上する場合(同一濃度でも分離しやすくなる場合)は、上記分離の前に行う方が好適である。ただし、微細化処理によって平均アスペクト比が小さくなることによるガスバリア性等の物性低下の影響を十分考慮することが必要である。
本発明では、分散液中に存在する交換性のイオンを所望の無機イオンへ交換し、その分散液より得た層状無機化合物を含有する固体材料を製造してもよい。分散液中に存在する交換性のイオンとしては、ナノシートの電荷を補償している交換性の層間イオンのほかに、いわば不純物や余剰イオンといった形で層状無機化合物が含有している他のイオンがある。特に、層間イオンと反対の電荷を有するイオンを所望のイオンに交換する、もしくは除去することが好ましい。
本発明の製造方法では、ナノシートの永久電荷が負である層状無機化合物を用いる場合、交換性の層間イオン(陽イオン)の少なくとも50%以上をナトリウムイオン以外の無機イオン、特にリチウムイオン、カリウムイオン、バリウムイオン、セシウムイオン、鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、水素イオン及び原子番号19以上の金属のイオンから選ばれる少なくとも1種に交換することが好ましく、リチウムイオンもしくはアンモニウムイオンに交換することがとりわけ好ましい。また、ナノシートの電荷を補償する量を超えて存在する、いわば不純物の1つとしてみなせる余剰イオンとしての陽イオン(事実上、そのような余剰イオンとナノシートの電荷補償に必要な層間イオンとは分散液中では区別できずに存在している)も上記の陽イオンに交換することが好ましい。
上記の余剰イオンとしての陽イオンが存在すれば、その電荷を保証する形で、陰イオンがまた、いわば不純物の1つとしてみなせる余剰イオンの形で存在する。その主なものは、硫酸イオン、水酸化物イオン、フッ素イオン、塩素イオン等である。特に硫酸イオン(SO4 2−)を有する硫酸塩は天然の粘土鉱物にも合成された粘土鉱物にも含まれており、とりわけ水熱法によって合成された合成スメクタイトには硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウム等の硫酸塩の形で、硫酸ナトリウムに換算して0.05〜4質量%の硫酸塩が含まれていることが多い。また、ナノシートの八面体層の水酸基がフッ素化された層状無機化合物では、合成時に用いたフッ素原料がフッ素イオンとして残留していることが多い。本発明では、それらの余剰イオンとしての陰イオンも、可能な限り所望のイオンに交換する、もしくは除去することが好ましい。
余剰の陰イオンは、1価の陰イオンに交換することが好ましいが、最も好ましいものは水酸化物イオンに交換することである。この場合、余剰の陽イオンはアンモニウムイオンもしくは水素イオンに交換しておくことが好ましい。その場合には、上記の交換に伴って発生した余剰のアンモニウムイオンもしくは水素イオンと余剰の水酸化物イオンとが反応し、水が生成して、事実上、水を主体とする分散液から余剰イオンが除去されることになる。
分散液中の陽イオンを水素イオンに交換すると、通常、同時に層間イオンに対応するイオンも水素イオンに交換されてしまう。この場合、層間イオンが水素イオンに保たれているのならば、液性は酸性となっている。層間イオンを水素イオンとする場合はこの状態でよいが、この状態でアルカリ陽イオンを添加することで、層間イオンを水素イオン以外の所望のイオンに交換することができる。
例えば、層間イオンをカリウムイオンとしたい場合には、層間イオンが水素イオンになっている状態で、水酸化カリウム(KOH)を、液性が中性となるまで添加することで、層間イオンとして存在していた水素イオンと添加された水酸化物イオンとが中和反応を起こして水となり、残ったカリウムイオンが層間イオンへと置き換わることで、層間イオンをカリウムイオンとすることができる。同様に、層間イオンをリチウムイオンとしたい場合には水酸化リチウム(LiOH)を、アンモニウムイオンとしたい場合にはアンモニア水を、分散液が中性となるよう、上記と同様に添加すればよい。
なお、層間イオンを水素イオンに交換すると、層状無機化合物の種類によっては水素イオンによって層状無機化合物が分解され、層間イオンが分解して生じたほかのイオンに置き換わってしまう場合があり、特にアスペクト比の小さな合成サポナイトや合成ヘクトライトでこの反応が起こりやすい。この場合、水素イオンによる分解を抑制するために、水素イオンへの交換及び上記の中和反応を冷却しながら行う等の工夫が必要となる。さらに上記の中和反応後、水素イオンによって層状無機化合物が分解して発生したイオン種を、さらにイオン交換処理を行うことで目的のイオン種へ交換することで除去してもよい。
前述のいわば不純物の1つとしてみなせる余剰イオンを可能な限り上記のように交換もしくは除去することで、本発明の効果はより大きく奏される。具体的には、上記のイオン交換もしくは除去により、層状無機化合物のへき開が進む、凝集が抑制される、分散液の粘性が低下する、さらには水含有溶媒ばかりでなく有機溶媒中でも層状無機化合物が高度に分散する等の効果が得られる。特に、有機カチオンやシラン処理で層状無機化合物の一部を変性(修飾)する処理等をせずとも、有機溶媒(特に含水率の低い有機溶媒)中で凝集やゲル化等を起こさず、高度に分散する効果が得られる。そのため、従来の有機化処理等の耐熱性を低下させうる上記変性のような処理をせずとも、水分があると析出等によって容易に均一に混合し得ない水に難溶な樹脂等の添加物とも混合することができ、結果、吸湿率が低く耐水性に優れ、かつ、層状無機化合物由来の耐熱性や寸法安定性、さらにはガスバリア性、特に水蒸気に対するバリア性等が付与された固体材料を得ることができる。さらにそのような固体材料は前述のように高度に分散している分散液を経由して(分散媒を除去して)形成されるため、凝集粒子による光の散乱が抑制され、前述の効果と透明性とを兼ね備えることが可能となる。
余剰イオン除去後の好ましい硫酸イオン及びフッ素イオンの占める割合の合計は、固体材料における層状無機化合物の割合をk質量%としたときに好ましくは0.001k質量%以下であり、より好ましくは0.0008k質量%以下であり、特に好ましくは0.0005k質量%以下であり、最も好ましくは0.0003k質量%以下である。その中でも、特に硫酸イオンの割合としては0.0001k質量%以下が特に好ましく、最も好ましくは0.00005k質量%以下である。
イオン交換を行う方法としては、公知のイオン交換樹脂やイオン交換膜、もしくは半透膜を用いる方法が好適である。陽イオンと陰イオンとの交換の順序はいずれが先でもよいが、粒子の凝集抑制の点からは、陰イオンを先に交換した後、陽イオンを交換する方がよい場合が多い。
イオン交換を行う場合、イオン交換に供する被処理分散液の粘度は、分散液が流動すれば、任意の濃度でよい。しかし、あまりにも分散液の固形分濃度が高いと粘性が増大してイオン交換の効率が低下するもしくはイオン交換樹脂を詰めたカラムを分散液が通過できなくなる場合がある。また、分散液における液晶性が消失する程度まで分散液の固形分濃度を下げて行った方がイオン交換効率が向上する場合もある。しかし、あまりにも分散液の固形分濃度が低いと分散媒を除去する際の分散媒の除去量が多くなって除去に時間がかかり、また乾燥等で除去する場合には乾燥にエネルギーを多量に必要とする場合がある。
従って、イオン交換を行う際の被処理分散液の固形分濃度の好ましい範囲としては、一般に0.05質量%以上20質量%以下の範囲であり、より好ましくは0.1質量%以上15質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.2質量%以上12質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは0.3質量%以上10質量%以下の範囲であり、最も好ましくは0.4質量%以上8質量%以下の範囲である。
本発明におけるイオン交換は、典型的には使用する分散媒の凝固点よりも高く沸点よりも低い温度において実施することができる。
なお、イオン交換や液晶相と非液晶相との分離に支障のない範囲内で、液晶相と非液晶相とを分離する前の分散液、又は分取された液晶相、又は該液晶相の希釈液、又は該液晶相若しくはその希釈液に含まれる分散媒(典型的には水)の少なくとも一部を有機溶媒に置換して得た分散液に、高分子、高分子前駆体、相溶化剤、分散剤、界面活性剤、安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、架橋剤、化学修飾剤、滑剤、結晶核剤、着色剤、複屈折制御剤等の添加物を1種類以上添加してもよい。添加物は固体として添加してもよいし、加熱等で溶融させた状態で添加してもよいし、任意の溶媒に溶解もしくは分散させた溶液状態で添加してもよい。上記添加物が疎水性である場合には、分取された液晶相中又はその希釈液中の分散媒(典型的には分散媒の65質量%以上)を有機溶媒に置換した後で、上記添加物を添加することが好ましい。例えば、液晶相の分取後、希釈後又は希釈なしでの陽イオン交換及び陰イオン交換、有機溶媒への溶媒置換、疎水性添加物の添加をこの順で行うことができる。なお疎水性の添加物とは、上記した添加物のうち添加温度及び添加濃度において水中に溶解又は分散させることができないものをいう。以下本明細書において、分取された液晶相に含まれる層状無機化合物を少なくとも分散させた分散液、典型的には上記希釈液、有機溶媒への上記置換によって得た分散液、液晶相に直接又は上記希釈及び/若しくは置換とともに上記のような添加物が添加されてなる分散液、を総称して「液晶相由来分散液」ともいう。液晶相由来分散液は液晶状態でも非液晶状態でもよい。
また、層間イオンを、上述したように無機イオンに変換することに代え、アンモニウム塩、フォスフォニウム塩、イミダゾリウム塩等の有機カチオンへ公知の方法によりイオン交換してもよい。また、シランカップリング剤等で主としてナノシートの端部をシラン処理してもよい。しかし、この場合には前述したとおり層状無機化合物の表面が有機物で有機修飾されるため、ガスバリア性や耐熱性の低下が懸念される。
前記のような手法によって交換性の層間イオンを交換する場合の、所望の無機イオンへの交換率は好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上であり、100%に可能な限り近いことが望まれる。
本発明において、液晶相と非液晶相とに分離し、また必要に応じてイオン交換を行う際の分散液における分散媒が少なくとも水を含み、通常好適には水もしくは水を主成分とするものである理由としては、液晶転移を起こしやすい溶媒として水を挙げることができること、水膨潤性の層状無機化合物を高度に分散させた分散液を作製しやすいこと、無機イオンへのイオン交換率が高いこと、イオン交換樹脂やイオン交換膜もしくは半透膜等からの溶出の問題が少ないこと、等が挙げられる。
この分散液に、必要に応じてさらに高分子、高分子前駆体、その他の任意の添加剤等を混合した後、加熱乾燥等によって分散媒を除去することで、分散液に含まれる層状無機化合物の平均アスペクト比が大きく、かつ透明性が高いという特徴を生かした固体材料を得ることができる。本発明におけるそのような材料は、高水蒸気濃度環境下においても酸素及び水蒸気のガスバリア性が高い、寸法安定性が良い、耐熱性が高い等の好ましい特徴を有する。
本発明においては、分取された液晶相を、直接又は液晶相由来分散液とした後の分散媒除去によって乾燥させ、液晶相中に存在する層状無機化合物を含有する固体材料を形成することができる。本発明の製造方法においては、特に液晶相又は液晶相由来分散液を液膜等の静置状態とした後、分散媒を除去することで、ナノシートの層を高度に配向させて積層することが可能である。その配向積層状態を確認する手法としては、X線回折装置によるX線回折スペクトルの分析、及びTEMによる積層状態の直接観察が有効である。従来より、X線回折測定によって、ガラス基板等の支持体上に形成された膜の配向積層状態や粘土を含むナノコンポジット体におけるナノシートの分散や剥離状態等の様々な研究・評価が行われており、一般的には層状無機化合物の001面の一次回折によってX線回折スペクトルに生じる主ピーク(最も低2θ側にある底面反射ピーク)の強度、位置、及び低2θ領域におけるX線回折スペクトルのバックグラウンドの持ち上がり等によって、ナノシートの積層状態(層の平均間隔)や分散状態を知ることができる。
本発明に係る固体材料において、特に層状無機化合物の含有割合が10質量%以上100質量%以下の場合、分散液を塗り広げて液膜状とした後に分散媒を除去して得られ、かつナノシートの配向がよく揃った膜状の材料における平均層間距離は、気温20℃から28℃、相対湿度25%から80%の範囲内の環境下、好ましくは気温25℃相対湿度50%で測定されたX線回折スペクトルにおける001面の一次回折ピークの2θの位置から換算される値として、10nm以下が好ましく、より好ましくは7nm以下、さらに好ましくは4nm以下、最も好ましくは2nm以下である。さらに、1.8nm以下では好適なガスバリア特性が発現し、1.6nm以下であるとさらに高いガスバリア性能が発現する。
上記の好ましい平均層間距離は、前述の一次回折ピークのトップ位置(2θの値)に換算すると、一般的な銅のKα線である1.54Åの波長を用いた場合、ナノシートの1枚の層の厚みが約1nmであるスメクタイト族の粘土や合成雲母族の粘土からなる膜においては、2θで通常、0.8以上9.5以下の領域に対応する。
なお、膜におけるナノシートの平均層間距離が上記の好ましい範囲にあるか否かは、TEMによる観察で直接層間距離を測長することでも確認することができる。
本発明の製造方法においては、層状無機化合物に加え、必要に応じてさらに高分子、高分子前駆体、任意の添加剤等といった添加物を混合してよいが、固体材料における層状無機化合物の含有割合は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であると、層状無機化合物由来の特性が強く発現するため非常に好ましい。特に、ガスバリア性を飛躍的に向上させるためには、固体材料における層状無機化合物の含有割合が10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、よりさらに好ましくは70質量%以上である。一方、層状無機化合物の含有割合が95質量%超100質量%以下でもよいが、その場合には柔軟性や機械的強度が低下してクラックが入る場合があり、そこからガスが漏れてしまう可能性があるため、層状無機化合物の含有割合が95質量%超100質量%以下の場合には、強度向上に効果的な平均アスペクト比が特に大きなのものを使う等の工夫が望ましい。
本発明においては、コロイドの状態での液晶相と非液晶相との分離は典型的には水もしくは水を主体とする分散液で行い、層間イオン及び余剰イオンの所望のイオンへの交換を行う場合には、通常、好適には同様に水を主体とする分散液を用いて行う。従って、上記過程を経て得た分散液の分散媒の主たる成分は水であり、当該分散液に何らかの添加物を加えた後に分散媒を除去して得られる固体材料においては耐水性や高水蒸気濃度環境下でのガスバリア性が低下する場合がある。
上記の場合、加熱、光照射等の任意の方法により、加えた添加物における、分子内、分子間、もしくは添加物と層状無機化合物との間において、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、新たな化学結合を生じさせることにより、固体材料の耐水性や高水蒸気濃度環境下でのガスバリア性を向上させてもよい。しかし、本来的に水可溶性である添加物を前述の処理により完全に疎水化することは一般に困難であるため、耐水性、高水蒸気濃度環境下でのガスバリア性の観点から、添加物は疎水性で水への溶解性が低いものを用いることがより好ましい。
疎水性で水への溶解性が低い添加物を用いるためには、分散液中の分散媒(特に水)を、有機溶媒を主とするものに変換した後に添加物を混合することが望ましい。例えば、液晶相と非液晶相との分離後(イオン交換を行う場合にはイオン交換後)の液晶相又はその希釈液に、水と親和性の高い、具体的には水と相溶性の高い有機溶媒を混合する方法を用いることができる。
水と相溶性の高い有機溶媒としては、極性の高い有機溶媒を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、ジアセトンアルコール、フリフリルアルコール、アセト酢酸エチル、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アセトン、アセトニルアセトン、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、酢酸、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N,N−テトラメチル尿素、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、カルバミド酸メチル、γブチルラクトン、トリアセチン、ギ酸イソプロピル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル等を挙げることができる。その中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等は好適な溶媒である。
上記の有機溶媒は1種類のみ用いてもよく、異なる複数の種類を混合してもよい。異なる複数の種類の有機溶媒を混合する場合には、水を主体とする分散液に順次有機溶媒を添加してもよいし、予め所定の割合に混合した有機溶媒を添加してもよいし、その両方の方法を併用してもよい。また、分取された液晶相若しくはその希釈液を攪拌しながら、又は前述の微分散処理を行いながら有機溶媒を添加してもよい。
特に、分散液に順次有機溶媒を添加する方法、例えばメタノール等の低分子のアルコール類に代表される極性活性剤や、ドナー数とアクセプター数が共に大きなホルムアミドやN−メチルホルムアミド等の浸透性膨潤作用の大きな溶媒等を添加した後、別の溶媒を添加する方法は、層状無機化合物の分散性を維持向上もしくは凝集を抑制させる作用を発現しうるので有用な場合がある。
なお、前記のような有機溶媒を混合する際には、有機溶媒を主とする分散液を得るために、事前に分散液中の水の量を減少させて、分散液の固形分濃度を上げておいてもよい。そのような方法としては、例えば、分散液を常圧もしくは減圧下で加熱して、水を蒸発させる方法が挙げられる。
本発明において、疎水性で水への溶解性が低い添加物と液晶転移性を有する層状無機化合物とを融合させた固体材料を形成する最も好適な方法は、液晶相状態にある分散液を、必要に応じて希釈し液晶転移状態を消失させた後、前述のイオン交換を実施し、所望の有機溶媒と混合後、分散液中の水の割合を減少させて、分散液中の分散媒に占める有機溶媒の割合を増加させる方法である。この方法により、分散媒から水を大部分除去して、分散媒の大部分を有機溶媒とすることができ、かつ、そのような状態でも高い分散性を発現させることができる。そのような方法としても、例えば、分散液を常圧もしくは減圧下で加熱して、水を蒸発させる方法が挙げられるが、有機溶媒と混合後に分散液中の水の割合を減少させるには、加えた有機溶媒の沸点が水よりも高いことが好ましい。
そのほかにも、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、ソーダ石灰、硫酸マグネシウム、ある種のイオン交換樹脂等の水吸着剤を用いて分散媒中の水の量を減少させてもよい。もしくはテトラエトキシシランやテトラメトキシシランのようなシラン化合物、マグネシウムエチラート等を用いて加水分解反応によって水を除去してもよい。また、上記のような方法を複数併用してもよい。例えば、減圧下で加熱することによって大部分の水を除去した後、モレキュラーシーブによってさらに水を除去してもよい。
本発明においては水と有機溶媒の両方を含んだ分散液から分散媒を同時に除去、例えば加熱乾燥等させてもよいが、沸点や蒸気圧が異なる水と有機溶媒とを含んだ分散媒を同時に除去して固体材料を得る場合は、層状無機化合物と添加物との混合状態の均一性が低くなる傾向がある。一方、例えば十分に減圧した状態で攪拌しながら加熱すること等で、ほとんどの水を除去し、実質的に有機溶媒中に層状無機化合物が分散した分散液を得ることもできる。この場合、分散媒における水の残留割合を好ましくは35質量%以下にする(すなわち分散媒の65質量%以上を有機溶媒に置換する)ことができ、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは7質量%以下にすることができる。このように分散媒における水の残留割合を減らすことで、水が存在すると溶解できずに析出してしまうような疎水性の樹脂等の添加物を用いた場合にも、該添加物と層状無機化合物とが均一に混合・分散した分散液を調製することが可能になり、結果、固体材料の疎水性等様々な物性を大きく向上させることができる。
さらに、層状無機化合物の種類や交換する層間イオンの種類及び分散させる有機溶媒の種類によっては、上記のように水を十分に除去することで、さらに層状無機化合物の分散性が向上する。具体的には、分散液の透明性が向上したり、層状無機化合物のへき開の進行に伴う粒子数の増加に伴うと考えられる粘性の増大等が観測されることもある。
本発明においては、水分散液中で液晶相状態にある層状無機化合物の多くは、前述のような有機溶媒への分散処理によって、有機溶媒中では非液晶状態での分散形態を形成する場合がある。その場合、分散液の透明性はさらに向上し、粘性が増大する場合が多い。そして、このような有機溶媒中での非液晶状態での分散状態は、ナノシートが分散液中で均一に分散していることに対応するため、疎水性の樹脂等の添加物を導入した場合でも、それらとナノシートとが均一に混合・分散し、結果、分散液から分散媒を除去した際の固体材料においても添加物とナノシートとが均一に分散した固体材料を得ることが可能となる。この効果により、本発明に係る固体材料のガスバリア性、透明性及び耐熱性等を大きく向上させることが可能となる。上記の効果は、層状無機化合物の余剰イオンの残留量によって大きく変化するため、一般には、余剰イオンを十分に除去することで、有機溶媒中においてより良好な分散状態が得られる。
さらには、前記のような方法によって得た、有機溶媒を主な分散媒とする液晶相由来分散液に、さらにより疎水性の高い、すなわち水と相溶しにくい有機溶媒を加えてもよい。そのような有機溶媒として、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等)、エーテル類(エチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル等)、ケトン類(ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン等)、ニトリル類(プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、プロピオン酸メチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、サリチル酸メチル等)、アセトフェノン、ベンゾフェノン、メチルセロソルブ、ベンジルアルコール、シリコーンオイル等を挙げることができる。これによって、分散液に添加できる添加物の種類をさらに拡大することができ、分散媒除去後の形成体の物性や機能をより高めることが可能となる。
前述のようにして得られた、液晶相と非液晶相とに分離する前の分散液又は分取された液晶相に対し、直接又は希釈及び/若しくは溶媒置換等とともに添加物としての高分子もしくは高分子前駆体添加物を加える場合、そのような高分子もしくは高分子前駆体は、分散媒の種類に応じ、水、水と有機溶媒との混合溶媒、及び有機溶媒に溶解もしくは微分散して分散するものであれば特に限定されず、下記に示すような公知の任意の高分子もしくは高分子前駆体を用いることができる。好ましくは、疎水性が高いものである。また、1種類以上から成る高分子もしくは高分子前駆体添加物を加熱して溶融した状態のものと前述のようにして得られた分散液とを混合して、固体材料を形成してもよい。
例えば、ポリビニルアルコール系樹脂及びその誘導体、変性ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、酸化でんぷん、エーテル化でんぷん等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、セルロース繊維、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸、ポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、透明ポリイミド樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等の、熱硬化性、熱可塑性樹脂、もしくは光硬化性樹脂を用いることができる。
光硬化性樹脂としては、例えば、潜在性光陽イオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂等やシリコーン樹脂等が挙げられる。なお、上記光硬化性樹脂を硬化させる場合には、光照射と同時に熱を加えてもよい。
また、本発明において熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂と併用して硬化剤、硬化触媒等を用いてもよいが、それらは熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の硬化に一般的に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては、多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂が挙げられ、硬化触媒の具体例としては、イミダゾール等が挙げられる。これらの硬化剤及び硬化触媒は単独又は2種以上混合して使用することができる。また、ラテックスやエマルジョンといった、水分散系の材料を用いてもよい。
前述の樹脂のなかでも、ポリエーテルスルホン(ポリエーテルサルフォン)系樹脂は、耐熱性の点から好適である。ポリエーテルスルホン等の難溶性樹脂は分散液中に水が存在すると析出しやすいため、十分に水を除去した有機溶媒を分散媒とする分散液と混合する必要がある。また、ガスバリア性の観点からは、ポリビニルアルコール系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(エバール)、もしくはエポキシ樹脂のような熱もしくは光等による硬化反応性を有する樹脂も好適である。光学特性、耐水性及び水蒸気ガスバリア性といった点からは、環状オレフィン系樹脂も好適である。さらに、前述した樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、本発明に係る固体材料の透明性を向上させるためには、上記の高分子もしくは高分子前駆体も透明もしくは着色が少ないことが好ましい。また、固体材料に耐熱性、例えば着色温度が高いことが要求される場合には、高分子もしくは高分子前駆体もそのような耐熱性を有していることが好ましい。
分散剤としては、例えばラウリル酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアミド化合物、ポリラウリルアミン、ポリビニルアミン、ステアリルアミン等のアミン化合物、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、酸変性樹脂、アミド樹脂等の極性樹脂、アミノシラン等を挙げることができる。
加熱時の酸化劣化を抑制する酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、リン系もしくはイオウ系の酸化防止剤等を、燃えにくくする難燃剤としては三酸化アンチモンのような無機系難燃剤を挙げることができる。
化学修飾剤としては、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基等を含有するシランカップリング剤、特にオルガノアルコキシシランを挙げることができ、特に高分子もしくはその前駆体との架橋を考慮して、エポキシ基、アミノ基又はビニル基を有する、例えばビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,p−スチリルトリメトキシシラン,3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を好適に挙げることができる。
複屈折制御剤は形成体の複屈折率を調整する分子であり、例えば分子内に剛直なメソゲン基を含む分子が挙げられ、例えばフルオレン、ナフタレン、カルバゾール、ビフェニル、4−ビフェニルカルボン酸、4−ヒドロキシビフェニル、2−ヒドロキシビフェニル、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、スチルベン、ジフェニルアセトン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、ベンズアルデヒドアジン、4−ベンゾイルビフェニル、カルコン、1,3−ジフェノキシベンゼン、フェナントレン、トラン等を挙げることができる。
上述の各種添加物は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また該添加物は、分散媒除去後の材料中にそのままの状態もしくは化学反応等によって何らかの形に変化した状態で存在でき、分散媒除去時もしくは形成体形成後等に、加熱や光照射等によって形成体より除去してもよい。
上記の添加物を分散液と混合するタイミングは任意でよく、添加物を分散液と混合した後、前述のような別の溶媒(例えば有機溶媒)を添加してもよいし、分散液に別の溶媒を添加後、それらの添加物を分散液と混合してもよいし、水を含む分散液に別の有機溶媒を添加して大部分の水を除去した後にそれらの添加物を混合してもよい。添加物は固体として添加してもよいし、加熱等で溶融させた状態で添加してもよいし、任意の溶媒に溶解もしくは微分散させた溶液状態で添加してもよい。
さらに、上記の添加物の混合時もしくは混合後、攪拌もしくは前述の微分散処理を行って、層状無機化合物と前述の添加物とがより均一に混合された分散液とすることが好ましい。
なお、そのような、攪拌もしくは前述の微分散処理を行うこと等で分散液中に気体成分が混入している場合には、真空脱泡、超音波照射、もしくは遠心分離等の処理によって気体成分を脱気することが好ましい。それらの処理は攪拌もしくは前述の微分散処理後に行ってもよいし、それらの処理中に同時に行ってもよい。特に、ガスバリア材料や光学材料を形成する場合には、混入している気体成分由来の気泡や空隙が生じ、ガスバリア性や透明性を低下させる要因になるため、分散媒除去前に十分な脱気をすることが極めて重要である。
上記のような過程を経て製造された液晶相を、直接又は液晶相由来分散液とした後の分散媒除去によって乾燥させることにより、所望の固体材料を製造することができる。上記のような過程を経て製造された液晶相又は液晶相由来分散液の固形分濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上であれば乾燥時間がより短縮されるため、もしくは乾燥温度を下げることができるため極めて好ましい。液晶相又は液晶相由来分散液の固形分濃度は、混合、脱泡等が可能であればよく、非常に粘度の高いペースト状であってもよい。分散媒を除去する方法としては、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、不活性ガス雰囲気下放置、及び加熱蒸発法が好ましい。あるいは、これらの方法のうち、複数を組み合わせてもよい。
加熱蒸発法の場合、分散媒除去の具体例としては、例えば強制送風式オーブン等において、30℃以上250℃以下、好ましくは40℃以上200℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下の温度条件下で、10秒以上24時間以下、好ましくは1分以上10時間以下、より好ましくは3分以上5時間以下、さらに好ましくは5分以上3時間以下で乾燥し、所望の材料を得る方法が挙げられる。しかし最適な乾燥時間は、材料の形状、液晶相又は液晶相由来分散液の固形分濃度、用いる溶媒、そして液晶相又は液晶相由来分散液の液量等に依存して変動する。
前述の添加物を添加した場合、加熱、光照射、電子線照射等の任意の方法により、添加物分子内、添加物分子間、添加物と層状無機化合物との間において、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、新たな化学結合を生じさせることにより、形成体の耐水性や水蒸気に対するガスバリア性を向上させてもよい。それらは分散媒除去前に行ってもよいし、分散媒除去時に並行して行ってもよいし、分散媒除去後に行ってもよい。
分散媒除去時、熱による強い対流現象や分散媒の沸騰、もしくは機械的な攪拌等がない場合、ナノシートの板状形状により、得られる形成体中でナノシートは規則正しく整列する傾向がある。特に、分散液を面状の支持体上で静置・乾燥させることで形成された膜状の固体材料においては、支持体面、すなわち膜面に対して層状無機化合物のナノシートがなるべく膜面と平行になるようにして積み重ねられた、ナノシートが配向して積層した構造を一般に形成することができる。そのような膜は、層状無機化合物が分散した分散液を用いる、層状無機化合物を含有する膜の公知の製造方法(例えば特開2003−276124号公報及び特開2007−63118号公報等)に基づいて作製することができる。
本発明に係る固体材料を用いて例えば膜状の形成体を形成する場合、透明性が高い、ガスバリア性が高い、耐熱性が高いという利点以外にも、寸法安定性が良い、高温での貯蔵弾性率の低下が小さい等の効果が得られる。
温度変化に対する寸法安定性は線膨張係数によって評価することができる。本発明に係る形成体の例である膜の線膨張係数は、50℃から少なくとも160℃付近までの、好ましくは50℃から200℃付近までの、より好ましくは50℃から260℃付近までの平均の線膨張係数の絶対値として、30ppm以下が好ましく、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下であり、最も好ましくは3ppm以下のものを得ることも可能である。
なお、乾燥時に用いる前述の支持体は平面であっても曲面であっても良く、材質も特に限定されない。また、そのような膜状の材料は、前述の支持体上に固定したまま用いてもよいし、支持体より剥離して用いてもよい。
支持体上に固定(付着)したまま用いる場合には、支持体から膜を剥離しにくくするために、支持体の表面に、アンカーコート層を設けてもよい。上記アンカーコート層の形成に使用されるアンカーコート剤としては、公知のものが特に制限されず使用できる。例えば、イソシアネート系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、ポリオレフィン系、アルキルチタネート系等のアンカーコート剤が挙げられ、例えば特許第3984791号に記載の公知の好適なアンカーコート剤を適宜選択して用いることができる。もしくは、支持体の表面を、コロナ処理、フレームプラズマ処理、オゾン処理、電子線処理等しても良い結果が得られることがある。
膜を支持体より剥離して用いる場合には、支持体の表面を易剥離処理しておくとよい。易剥離処理としては、例えば紫外線照射処理、電子線照射処理、イオンビーム照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理(例えばリモートプラズマ処理,フレームプラズマ処理)、物理的処理(例えば接触面積が少なくなるように表面を加工する機械処理)が挙げられる。また、シリコーン樹脂のような密着性を低下させる樹脂を塗布すること、光,熱等の物理的刺激を受けて柔らかさやヤング率が変化し、又は発泡することによって密着性を低下させる剥離性付与剤を塗布すること等によって易剥離層を設けてもよい。またこれらの処理のうち複数を組み合わせてもよい。
なお、本発明に係る形成体を支持体より剥離して自立膜として利用するためにはある程度以上の機械的強度を有する必要がある。そのためには取り扱い上、ある程度以上の膜厚が必要である。膜厚としては、一般的には5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは40μm以上である。膜厚の上限を規定する要因はあまりないが、透明性、コストの観点から、20000μm以下が好ましく、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
本発明に係る形成体を支持体上に付着した膜として用いる場合には、膜の膜厚を規定する要素は特にないが、ガスバリア層としての機能を発現させる場合、良好なガスバリア性を有するために、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.8μm以上であることがさらに好ましく、1μm以上であることが特に好ましく、2μm以上であることが最も好ましい。ただし、あまり厚くしすぎると、応力の発生によって膜が反ってしまったり界面の剥離を起こしたりする場合があるため、膜厚は500μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm未満であることがさらに好ましく、より好適には10μm未満である。
なお、本発明に係る膜状の形成体は前述のように分散液の塗布によって形成できるため、支持体上の凸凹や異物に対する被覆性が高く、またナノシートが数千〜数十万枚積層した構造故にピンホール欠陥が原理上は発生しないため、従来の樹脂フィルム上に蒸着法で無機薄膜を形成して作られたガスバリア膜と比較し、大面積に亘って均一な性能のガスバリア膜を安定的に形成できるという効果を有する。
層状無機化合物として、合成された層状無機化合物を用いることは、得られる形成体の透明性をより良好にできる点で好適である。本発明において、透明であるとは、当該材料を通過する光の光路長が3μm超の場合においても全光線透過率が80%以上であるもの、好ましくは上記光路長が20μm超の場合においても全光線透過率が80%以上であるもの、又は、波長400nmにおける直線光の透過率が、上記光路長が3μm超の場合においても70%以上であるもの、の少なくともいずれかの特性を満たしているものを意味する。
上記全光線透過率は、上記光路長が20μm超の場合において好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、最も好ましくは90%以上である。また、上記波長400nmにおける直線光の透過率は上記光路長3μm超の場合において好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、最も好ましくは85%以上である。
層状無機化合物に着色がないか、又は着色の程度が軽微であれば、着色がない材料を得ることが可能であり、透明性向上の観点からも好適である。本発明において着色がない材料とは、当該材料を通過する光の光路長が3μm超の場合においても、紫外可視分光光度計にて測定される波長380nmから780nmまでの範囲における材料の光透過率が全波長領域において10%以上、かつ光透過率の最大値と最小値との差が30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内、さらに好ましくは15%以内、最も好ましくは10%以内であるものを示す。
さらに、ヘイズ(曇度)の値は小さい方がより透明な材料であり、一般的には好ましい場合が多い。ヘイズは材料内部の構造と材料表面の凸凹との2つの要因に起因するため、材料を任意の形状に加工・形成した場合には、その形成工程が大きく影響する。一般的に好ましいヘイズは、当該材料を通過する光の光路長が3μm超の場合においても、15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に1%以下であれば非常に良好な透明性ということができる。ただし、光を透過させかつ拡散させる必要がある用途の場合には、ヘイズが大きい方が良い場合もある。
上述の本発明に係る固体材料を用いて構成要素の少なくとも1つが形成された、本発明に係る形成体において、典型的には、該固体材料を通過する光の光路長が3μm超であるときの全光線透過率が80%以上である。又は、典型的には、該固体材料を通過する光の光路長が3μm超であるときの波長400nmにおける直線光の透過率が70%以上である。形成体は、例えば本発明に係る固体材料と他材料とからなる複合体であることができ、該複合体としては例えば多層膜等が挙げられる。
本発明において、層状無機化合物の層間陽イオンをナトリウムイオン以外の所望の無機イオンに交換した場合には、アルカリ金属、特にナトリウムをほとんど含まないか、もしくはアルカリ金属がナノシートの層間に強く固定されて移動し難い材料が得られる。このような材料は、特にフィルム、シート等の膜状、もしくは接合部のシール等の形態にして使用される場合、アルカリ金属を嫌う電子デバイス、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーの基板、封止膜、光学フィルム等の用途に好適であると考えられる。
本発明に係る固体材料は、添加物の種類と割合を選ぶことで高耐熱、低線膨張、ハイガスバリア、高透明、柔軟性といったディスプレイ用途に必須な要求物性を複数同時に満たすことが可能であるため、例えばバックプレーンとなるアクティブマトリックス駆動回路を、フィルム状の固体材料に高温下で直接形成することが可能となる。上記のようなプロセスによって、ガラス基板等の耐熱性のある支持体上に駆動回路を形成した後に樹脂フィルムに転写する等の従来方法を用いる必要がなくなり、ディスプレイの製造工程を少なくすることができ、次世代のフレキシブルディスプレイ用材料として好適であるばかりでなく、重量やコスト的にも優位である。
なお、上記の駆動回路は従来のシリコンをベースとした半導体技術によって構成してもよいが、ペンタセンやチオフェン類に代表される有機半導体やアモルファス無機半導体を用いてもよい。その際には回路形成にフォトリソグラフィー法を用いてもよいし、インクジェット法やナノインプリント法等の印刷法を用いてもよい。なお、有機ELディスプレイや電子ペーパーのバックプレーン、すなわち光を取り出す方向と反対方向であれば透明性は一般に不要であり、本発明に係る固体材料が有する透明性を生かして、特に、ディスプレイの視認側であるフロントプレーン側に、基材、特にガスバリア膜として用いることが好適である。
本発明に係る固体材料を適用可能な液晶ディスプレイの方式としては、TN、STN、VA、IPSといった種類のものが挙げられるが、複屈折制御剤を用いることで膜厚方向の複屈折を自由に調整することができるため、特に限定されるものではない。厚み及び複屈折制御剤によって複屈折を調整することで、位相差板に適用することも可能である。また、有機ELディスプレイも、トップエミッション型、ボトムエミッション型、双方に適用することができる。さらには、電子ペーパーとしても、例えば電気泳動駆動式、電子粉流体方式、液晶を用いた方式等、特に限定されず用いることができる。
上記のディスプレイを駆動する回路としても、パッシブマトリクス方式及びアクティブマトリクス方式の双方に用いることができる。利用形態としては、回路を形成するための基板として、もしくは外部からの酸素や水蒸気を遮断するためのガスバリア層として利用することが可能である。
その他には、絶縁性である特徴を生かして、本発明の固体材料からなるフィルムを電気回路のフレキシブル基板として広範囲に用いることもできる。電気回路の基板として利用する場合にも、電子部品を実装する際の位置合わせに画像処理を用いる事が多く、その場合には透明性が要求されるため、本発明の固体材料からなるフィルムは好適である。特に、基板上の導体部分を導電性インクの塗布又は印刷で形成したフレキシブルプリント基板においては、フィルムの耐熱性と低い線膨張係数を生かして導電性インクをより高温で焼成することが可能なため、塗布又は印刷で形成した導体部分の抵抗率をより低くすることが可能である。このようなフレキシブル基板及びフレキシブルプリント基板の好適な用途としては、RFIDタグの基板、銅張積層板等が挙げられる。
さらに全光線透過率の高い材料であれば、太陽電池のように光を通過する必要があるデバイスにも適用することができる。太陽電池用の基板、保護層、封止層、及びバックシートには高いガスバリア性能も求められるため、本発明の固体材料を膜状に加工したものは太陽電池用途にも好適である。さらに、CD−RやDVDといった電子記録媒体の情報記録部位を酸素や水蒸気から保護する保護膜としても有望である。
なお、前述したディスプレイ,フレキシブル基板,フレキシブルプリント基板,太陽電池、有機半導体又はアモルファス無機半導体を有する電子デバイス等に対して、本発明に係る固体材料からなるフィルムもしくは膜を適用する際には、それらをそのまま適用してもよいし、必要に応じて膜に別の機能を有する形成体(例えば主として無機材料からなるガスバリア膜、樹脂材料等からなる補強材、傷等を防ぐ保護層、表面を平滑化する平滑化層)等を付与して用いてもよい。特に、ガスバリア性能をさらに高めるために、公知の無機薄膜と本発明の固体材料からなるフィルムもしくは膜、及びそれらを保護するための主として樹脂材料からなる膜を積層させることは有効である。
例えば、任意の樹脂フィルム上に膜状に形成された本発明の固体材料の上に、さらに樹脂もしくは無機材料からなる、例えば膜状の材料を積層してもよく、それらを任意の組み合わせで多層積層してもよい。さらに、そのような多層積層した膜を、樹脂フィルムから剥がして用いてもよい。例えば、樹脂フィルム−アンカーコート層−{膜状の本発明の固体材料−樹脂もしくは無機材料からなる膜―}平滑化層―保護層、といった組み合わせが好適であって、上記括弧で示された膜状の固体材料と樹脂もしくは無機材料からなる膜の積層部分は1層ずつではなく、任意の組み合わせで多層積層されていてもよく、樹脂もしくは無機材料からなる膜、アンカーコート層、平滑化層、保護層はあってもなくても良く、それぞれ1層でも複数の層でもよい。
無機材料からなる膜を積層する場合には、無機材料として、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化アルミ、窒化アルミ、及びそれらの混合物等の、ガスバリア材料として公知の任意の薄膜層が好適である。
さらに、特開2007−63118号公報に開示があるような水膨潤性(吸湿性)を有する層状無機化合物を含有するガスバリア層を、前述したような本発明の固体材料からなる膜を含む積層体の内部にさらに積層することは、特開2007−22075号公報に開示があるように、水蒸気が存在する場合でも酸素や水蒸気に対する高いガスバリア性を発現させるために好適である。水膨潤性(吸湿性)を有する層状無機化合物を含有するガスバリア層と、本発明の膜状の固体材料とを組み合わせたガスバリア膜は、透明であり、水蒸気が多い環境でも高いガスバリア性を保持することが可能であり、かつ、ガスバリア膜によって封止した製品、例えば特開2007−42616号公報に開示があるように、有機EL素子等から発生した水分も吸着することができるため、非常に高いガスバリア特性が要求される有機EL素子、特に着色している乾燥剤を用いることのできないトップエミッション型の有機EL素子や、乾燥剤を入れることが困難な完全固体型の有機EL素子に特に好適である。ただし、この場合には前述のガスバリア層は、含まれている水分を加熱等により十分除去した後に有機EL素子に実装する。
有機EL素子の封止膜を実装する際を含め、本発明の固体材料を構成要素の1つとして有するガスバリア膜を基板等に実装する際等には、貼り合わせ面がある周辺端部からのガスの侵入が問題となることが多い。従来は貼り合わせ面の「のりしろ」を十分取る、貼り合わせに必要な接着剤の厚みを極力減らす等で、周辺端部の貼り合わせ部分からの酸素や水蒸気の侵入を抑制していた。
一方、本発明において用いる分散液を前述の端部(酸素や水蒸気の侵入部)を覆う形で充填被覆させた後、分散媒を除去する場合、本発明に係る固体材料が曲面に形成可能である点とガスバリア性を有する点により、酸素や水蒸気の侵入を抑制するシールを端部に形成することが可能となる。特に、前述した有機EL素子の封止形態と同様に、水膨潤性(吸湿性)を有する層状無機化合物を含有するガスバリアシールと、水蒸気バリア特性に優れたガスバリアシールを端部に積層形成することで、周辺端部からの酸素や水蒸気の侵入を効率よく阻止することが可能となる。
本発明における前述したような固体材料のガス透過量は、代表的な酸素ガスの場合で0.1cc・mm/(m2・day・atm)未満であることが好ましく、より好ましくは0.01cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、さらに好ましくは0.001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、さらに好ましくは0.0001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、さらに好ましくは0.00001cc・mm/(m2・day・atm)未満であり、0.000001cc・mm/(m2・day・atm)未満である場合には極めて好ましい。上記のガス透過量は、乾燥した酸素ガスの場合はもちろん、水蒸気を多く含む環境下においても同等であることが好ましい。特に、40℃で相対湿度90%の環境においても上記の透過量であることが好ましい。
同様に、飽和水蒸気の透過量は、1気圧における40℃で相対湿度90%の飽和水蒸気の、厚み1mmに換算した透過係数で、0.1g/(m2・day)未満であることが好ましく、より好ましくは0.01g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.001g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.0001g/(m2・day)未満であり、さらに好ましくは0.00001g/(m2・day)未満であり、0.000001g/(m2・day)未満である場合には極めて好ましい。