JP2013010662A - 層状無機化合物分散液 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い平均アスペクト比のナノシートが良好に分散している分散液の提供、及び、このような分散液から得られる、透明性、ガスバリア性及び耐熱性を兼ね備える固体材料の提供。
【解決手段】層状無機化合物のへき開物であるナノシートが分散媒中に分散した分散液であって、(1)分散液が液晶相状態を示し、(2)動的光散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均アスペクト比が1000以上4000以下であり、かつ(3)分散液の固形分濃度が1.5質量%以上5質量%以下である、分散液。
【選択図】なし

Description

本発明は、高アスペクト比のナノシートを含有する分散液に関する。さらに本発明は、該分散液から分散媒を除去して形成される固体材料に関する。
ガスバリアという機能は幅広く産業上で利用されている。そのなかで、スメクタイト族粘土及び雲母族粘土に代表される粘土鉱物等の層状無機化合物を用いることで、ガスバリア性を向上させる検討が行われてきた。層状無機化合物は安価で、かつ水への分散性に優れる種が多い等の点で様々な用途に好適に用いられている(例えば非特許文献1を参照)。
層状無機化合物は、単位構造としてのナノシートと呼ばれる板状の無機結晶から成る。ナノシートの大きさ、形状及び組成は層状無機化合物の種類によって様々であるが、代表的な粘土鉱物では、ナノシートの厚みが約1nmである。これに対して、ナノシートの長手方向の平均長さは、一般には、例えば、水熱法によって合成されたスメクタイトで40〜50nm、天然のモンモリロナイトで200〜400nm、溶融法によって合成された雲母及びヘクトライトで0.1〜10μm、天然の雲母又はハイドロタルサイトの合成品で特に大きなものでは数十μmと、産地及び合成手法等によって様々である。
ナノシートの多くは永久電荷を有し、その電荷を補償するために、多くの場合、無機イオンがナノシートの層の間に存在して電気的中性を保持している。以降、本明細書ではこのナノシートの永久電荷を補償する役割を担っているイオンを層間イオンといい、また、断りが無い限り、その層間イオンは固体状態にあるナノシートの層の間に存在するイオンを意味するものとする。
上記のような粘土鉱物をはじめとする層状無機化合物を樹脂に添加して得られる材料について幅広い研究がなされる。このような材料は、一例として、膜状に形成したガスバリアフィルムとして実用化されている(例えば非特許文献2を参照)。
しかしながら、従来のそれら材料の多くは、疎水性樹脂及び有機溶媒に対する分散性の向上のため、長手方向の平均長さが40〜50nmと小さいナノシートを用いている。(特許文献1を参照)。
ナノシートの長手方向の平均長さが小さい場合、気体が材料を透過する際のガスの拡散経路を長くすることが難しく、結果、高いガスバリア性が発現しにくい。気体が材料を透過する際の気体の移動経路を長くしてガスバリア性を向上させるために、ナノシートの長手方向の平均長さが大きい層状無機化合物として、天然モンモリロナイト、溶融法によって合成された合成雲母又は合成ヘクトライトを用いる検討が行われてきた。しかし、ナノシートの長手方向の平均長さが大きい層状無機化合物を用いて透明な材料を得ようとする場合、層状無機化合物を単層又は2層程度までに剥離・分散させる必要がある。そのため、強い条件での分散処理、例えば長時間の超音波照射等を行うことが提案されている(特許文献2を参照)。
特開2006−37079号公報 特開2010−155752号公報
須藤談話会編,「粘土科学への招待−粘土の素顔と魅力−」,三共出版,p.6(2000) 中條澄編,「ポリマー系ナノコンポジットの製品開発」,フロンティア出版,p.25〜90(2004)
しかし、強い条件での分散処理は、機械的分散によってナノシートが破砕され、ナノシートの長手方向の平均長さが小さくなってしまう問題があった。すなわち、従来は、ナノシートの長手方向の平均長さが大きい層状無機化合物を効率よく用い、透明性及びガスバリア性能を高い次元で両立できる、層状無機化合物含有材料を形成することが困難であった。
本発明は、高い平均アスペクト比のナノシートが良好に分散している分散液の提供を目的とする。本発明はまた、このような分散液から得られる、透明性、ガスバリア性及び耐熱性を兼ね備える固体材料の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の構成を有する。
[1] 層状無機化合物のへき開物であるナノシートが分散媒中に分散した分散液であって、
(1)分散液が液晶相状態を示し、
(2)動的光散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均アスペクト比が1000以上4000以下であり、かつ
(3)分散液の固形分濃度が1.5質量%以上5質量%以下である、分散液。
[2] 小角X線散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均層間隔が30nm以上120nm以下である、上記[1]に記載の分散液。
[3] 層状無機化合物の主たる層間イオンがアンモニウムイオンである、上記[1]又は[2]に記載の分散液。
[4] 層状無機化合物が、スメクタイト族又は雲母族の粘土鉱物を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の分散液。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載の分散液から分散媒を除去することによって得られる、固体材料。
本発明が提供する分散液においては、平均アスペクト比が大きいナノシートが良好に分散している。このような分散液を用いて固体材料を形成することによって、固体材料に、優れた透明性、ガスバリア性及び耐熱性を付与することができる。
<分散液>
本発明の一態様は、層状無機化合物のへき開物であるナノシートが分散媒中に分散した分散液であって、(1)分散液が液晶相状態を示し、(2)動的光散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均アスペクト比が1000以上4000以下であり、かつ(3)分散液の固形分濃度が1.5質量%以上5質量%以下である、分散液を提供する。
本発明において用いる層状無機化合物は、水を典型とする分散媒に分散したコロイドの状態で少なくとも一部が液晶転移現象を発現して液晶相を形成するものであり、かつ典型的には単層〜数層まで分散媒中でへき開(剥離)できるものである。層状無機化合物としては、粘土鉱物;層状ポリケイ酸;層状ケイ酸塩;層状複水酸化物;層状リン酸塩;チタン・ニオブ酸塩、六ニオブ酸塩、モリブデン酸塩等の層状遷移金属酸素酸塩;層状マンガン酸化物;層状コバルト酸化物等を挙げることができる。なかでも、粘土鉱物、及び層状ニオブ酸塩等が液晶相を形成しやすいという点で好ましい。入手のしやすさ、合成のしやすさ、及び層状無機化合物を構成するナノシートが単層又は2層程度にまでへき開して水を典型とする分散媒に分散しうるという点からは、粘土鉱物がとりわけ好ましく、なかでも、スメクタイト族及び雲母族の粘土鉱物が最も好適である。本発明においては、よりへき開しやすく、かつ高い平均アスペクト比を有するものを得やすいという観点から、層状無機化合物が、スメクタイト族又は雲母族の粘土鉱物を含むことが好ましい。すなわち、層状無機化合物が、スメクタイト族又は雲母族の粘土鉱物の組成を少なくとも有することが好ましい。
粘土鉱物は、天然粘土でも合成粘土でもよく、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、ハイドロタルサイト、カリオナイト、及びハロイサイトを好ましく使用できる。しかし、本発明に係る固体材料の透明性をより良好に得るためには合成粘土の利用が好ましく、合成サポナイト、合成ヘクトライト、合成スチーブンサイト、合成雲母、合成カリオナイト、合成ハイドロタルサイト等が好ましい。
層状無機化合物は、種々の層間イオン(すなわち、ナノシートの永久電荷を補償する役割を担っているイオン)を有することができる。しかし、層状無機化合物を含む固体材料を形成した際、その吸湿率を低下させ材料の耐水性を向上させるという観点から、主たる層間イオン(すなわち、全層間イオンの少なくとも50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上を構成するイオン種)がアンモニウムイオンであることが好ましい。層間イオンの種類は例えばイオンクロマトグラフィーを用いたイオン種の定量分析方法により確認される。
本発明に係る分散液は、液晶相状態を示す。ここで、分散液が液晶相状態を示すとは、分散液が液晶相として挙動することを意味する。本発明の分散液においては、水を典型とする分散媒に層状無機化合物が分散した状態で、層状無機化合物が液晶転移した状態となり、分散液が液晶相として挙動する。また、液晶相として挙動するとは、層状無機化合物が分散液中で単層又は2層程度にまでへき開されてナノシートの状態を形成し、かつ、ナノシートの向きが、分散液中で該ナノシートの面を一にして揃ったドメインを複数形成することによって、分散液が流動性と結晶性とを併せ持って挙動することを意味する。分散液が液晶相状態を示すことにより、このような分散液を用いて形成される固体材料に良好な透明性を与えることができる。
分散液が液晶相として挙動しているか否かは、小角X線散乱法(SAXS)を用いた解析によって評価することが可能であり、また、偏光顕微鏡によるクロスニコル観察において、液晶相に特徴的な透過光の量の差が認められるか否かによって概ね判断することもできる。
ナノシートの平均層間隔は、SAXSによって測定したときに、典型的には30nm以上120nm以下であり、より典型的には40nm以上110nm以下であり、更に典型的には45nm以上100nm以下である。SAXSにおける<00n>(n=1,2,3・・・)の回折ピークの位置と強度とから、分散液中のナノシートの平均層間隔を算出できる。本発明の分散液では、分散液の固形分濃度が1.5質量%以上5質量%以下である。そして、液晶相状態が形成されていれば、上記濃度範囲において、SAXSにおける回折ピークは、ナノシートの平均層間隔が30nm以上120nmの位置に対応して現れることになる。すなわち、SAXSにおける回折ピークが、ナノシートの平均層間隔が30nm以上120nmの位置に対応して現れることは、分散液が液晶相状態を形成できることを示す。SAXS測定において、上記の平均層間隔の範囲に明瞭な回折ピークが存在しない分散液は、液晶相状態をとっておらず、ナノシート間の配向が乱れていることを示す。そして、液晶相状態を示さない分散液は本発明の分散液とは区別される。
特に、分散液中の塩濃度が高い場合、及び、ナノシートのアスペクト比が小さい場合には、ナノシートが液晶相に良好に転移できず、上記の平均層間隔の範囲に明瞭な回折ピークを与えない傾向がある。
一方、偏光顕微鏡によるクロスニコル観察において、液晶相と非液晶相とでは、同じ液膜厚でも透過光の量に差がある。液晶相では複屈折性が発現するからである。層状無機化合物は、一般にナノシートの面内方向と厚み方向とで屈折率の異方性を有するため、複屈折性を有する。
これに対して、ナノシートの向きが揃っておらず、各々のナノシートがばらばらの方向を向いて分散又は凝集して集まった状態で存在している非液晶相では、前記の屈折率の異方性がキャンセルされて、ナノシートの集まり全体としては屈折率が等方性を示す。この場合、偏光顕微鏡によるクロスニコル観察において、透過光の量に差は発生しない。すなわち、偏光顕微鏡によるクロスニコル観察において透過光の量の差を評価することによって、液晶相と非液晶相とを区別できる。
本発明の分散液の固形分濃度は、1.5質量%以上5質量%以下である。固形分濃度は、好ましくは1.8質量%以上4.6質量%以下、より好ましくは2.0質量%以上4.2質量%以下である。固形分濃度が1.5質量%以上であれば、分散液から分散媒を除去して固体材料を形成する際に分散媒の除去が容易であり、5質量%以下であれば、分散液が塗工等に必要な適度な流動性を有している。分散液の固形分濃度は、例えば分散液の重量を予め測定し、150℃で2時間以上分散液を加熱して分散媒を除去した際の、重量減少を計測する方法で確認できる。
本発明の分散液において、動的光散乱法によって測定されるナノシートの平均アスペクト比は1000以上4000以下であり、好ましくは1400以上3500以下、より好ましくは1800以上3000以下、特に好ましくは2200以上2600以下、最も好ましくは2400以上2500以下である。本発明の分散液の特性である液晶相への転移の発現のしやすさという点、更に、ガスバリア性及び耐熱性に優れる固体材料を与えることができる点で、ナノシートは、動的光散乱法によって計測された平均粒子径から求めた平均アスペクト比1000以上を有する。平均アスペクト比1000以上のナノシートを与える層状無機化合物としては、溶融法によって合成されたヘクトライト及び合成雲母が好ましい。より具体的には、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライト(例えば、NHTゾルB2及び分級NHT、トピー工業株式会社製)、溶融法によって合成されたフッ素化雲母(例えば、NTS−5、トピー工業株式会社製)、高純度のタルクを珪フッ化ナトリウム又は珪フッ化リチウムとともに熱処理して変性させて得た膨潤性雲母(例えば、ME−100及びMEB−3、コープケミカル株式会社製)等を挙げることができる。特に、溶融法によって合成されたフッ素化ヘクトライトが好ましい。
なお、ナノシートの平均アスペクト比が大きいほど、分散液を用いて得られる固体材料において、一般的に、特にガスバリア性が良好になる。しかし、液晶相として分散媒中に分散できる平均アスペクト比の上限としては、層状無機化合物(特に、合成された層状無機化合物)の特性上、一般に4000以下である。
なお、上記で列挙した層状無機化合物(ナノシート及び層間イオンで構成される)の組成は、公知の文献に記載されている組成式で表すことができるが、それらは理想的な組成を示しているものであって、本発明に用いる各種の層状無機化合物の組成は、文献における組成式と厳密に一致している必要はない。
ここで、ナノシートの平均粒子径Xと、前述のナノシートの平均アスペクト比Zとについて説明する。
平均粒子径Xは、本発明で用いられる層状無機化合物を所望の分散媒に分散した分散液を動的光散乱法によって測定することで得られる。そして、平均アスペクト比Zは、平均粒子径Xと、ナノシートの単位厚みdとから、Z=X/dなる関係により導かれる値と定義する。なお、本発明における平均アスペクト比を算出するために、ナノシートの単位厚みdとしては、公知の文献(スメクトンSA(スメクトンは、サポナイト構造を有する合成層状無機化合物である))技術資料No.5、クニミネ工業株式会社)に記載されるX線回折の底面反射から得られた0.95nmを採用するものとする。
動的光散乱法によって得られる前述の平均粒子径Xについてより詳しく説明する。ナノシートは板状粒子形状であるため、分散媒中でのナノシートの平均粒子径の測定に際しては、平均粒子径の定義及び測定がいずれも極めて困難であり、現状では確定した手法は存在しない。分散液の粘度及びナノシートの粒子間距離の影響を十分考慮した上で動的光散乱法を用い、コンベンショナルな粒子径分布算出アルゴリズムによって算出された平均粒子径及び粒子径分布のデータは、比較的妥当性が高い値と考えられる。
動的光散乱法による、ナノシートの平均アスペクト比の評価に際しては、後述する理由で、できる限り低い固形分濃度の分散液を測定に用いることが好ましい。本明細書に記載する平均アスペクト比の値は、得られた分散液を分散媒によって希釈する方法によって本発明の分散液を固形分濃度0.105±0.01質量%の範囲に調整し、得られた試料液について平均粒子径を3回測定し、その平均値を用いて平均アスペクト比を算出することによって得られる値である。
分散液の固形分濃度が高すぎる場合、又は分散液中の粒子密度が高すぎる場合には、分散液のマクロ的な特性、すなわち、分散媒単独と比較して分散液の粘度が高いこと、及び分散液においてはチクソトロピー的な挙動が発現しやすいこと、に起因して、動的光散乱法によって算出される平均粒子径は実際の板状粒子の長手方向のサイズより大きく見積もられやすい。
また、粒子が分散液中で近接して存在せざるを得ないような固形分濃度の分散液においては、近接した粒子間距離が、測定に用いる光の波長領域と同程度又はより小さい場合がある。この場合、動的光散乱法による測定は、それら近接した2つ以上の粒子を1つの大きな粒子として認識する可能性があり、結果として平均粒子径が大きく見積もられる可能性がある。
従って、動的光散乱法による測定で妥当性の高い平均粒子径を得るためには、可能な限り低い固形分濃度の分散液で測定を行うことが好ましい。すなわち、分散液の各固形分濃度に対して得られる平均粒子径の値を比較したときの測定値の濃度依存性ができるだけ小さくなるような固形分濃度範囲で測定することが好ましい。
固形分濃度0.105±0.01質量%の範囲で測定された平均粒子径Xは、固形分濃度の増大に伴い若干の正の依存性を示す(すなわち、固形分濃度が高くなると平均粒子径Xの測定値が若干高くなる)。しかし、上記の濃度範囲で測定された平均粒子径Xを用いて算出された平均アスペクト比Zは、本発明の分散液の測定において妥当性の高い値を与える。
高いアスペクト比の層状無機化合物は、高密度の液晶相を形成できる。本発明において、液晶相状態を示す分散液を調製する方法としては、様々なアスペクト比の粘土が混合されている一般的な粘土分散液から、密度差を利用して、高アスペクト比の層状無機化合物を分離抽出することによって、所望の液晶相を得る方法が好ましく例示できる。
液晶相は非液晶相より密度が高いため、重力加速度の方向に対して下層に分離して得られる。よって、液晶相と非液晶相とが混在する分散液を重力がかかる環境中に静置しておくことで、目的の液晶相を、他の不要な成分からなる相と分離することができる。これにより、目的の液晶相を抽出することができる。具体的には、遠心分離法等、密度差を利用する公知の分離方法を用いることが好適である。
液晶相の抽出に際しては、偏光顕微鏡等によるクロスニコル観察では複屈折性を示すが、透明性が高く固形分濃度が1.5質量%未満である相(以下、透明液晶相ともいう)が生じる場合がある。このような相は、液晶相ではあるが、本発明の分散液が示す液晶相状態とは異なる。すなわち、本発明の分散液が示す液晶相状態は、平均アスペクト比1000以上4000以下のナノシートが、固形分濃度1.5質量%以上5質量%以下の固形分濃度の分散液中で形成する、一般に粘性を帯び白濁した液晶相の状態であるのに対し、上記透明液晶相は、固形分濃度が1.5質量%未満であり、また平均アスペクト比が小さい(具体的には1000未満である)ナノシートによって形成されている。透明液晶相は、本発明の分散液の特性を有する液晶相の上層に分離して形成される。本発明の分散液はこのような透明液晶相を含まないことが好ましいため、分散液の製造に際しては、目的の分散液をこのような透明液晶相から、両者の界面を境にして分離、抽出することが好ましい。
本発明においては、層状無機化合物ができるだけ単層に近い状態まで剥離してへき開されているナノシートを用いることが好ましい。しかし、層状無機化合物をできるだけ単層に近い状態まで剥離するために、公知の微分散装置、例えば、超音波分散、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモミキサー、ウルトラミキサー、ディスパーミキサー、貫通型高圧分散装置、衝突型高圧分散装置、多孔型高圧分散装置、だまとり型高圧分散装置、(衝突+貫通)型高圧分散装置、超高圧ホモジナイザー等を用いると、層状無機化合物が破砕されて微細化し、平均アスペクト比が小さいナノシートが生じる傾向がある。その結果、所望の液晶相状態及びナノシートの所望の平均アスペクト比を有する分散液が得られない場合がある。
よって、層状無機化合物のへき開のために、化学的処理を用いることが有利である。化学的処理としては、例えば、比較的低分子量のポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリル酸等の公知のアニオン系分散剤に代表される分散剤を、分散液中に極僅か、具体的には層状無機化合物100質量%に対して0.5質量%未満程度、好ましくは0.15質量%程度の量で添加する方法が挙げられる。このような化学的処理によって、層状無機化合物の分散媒への分散性を高めることができるため、へき開が良好に進む。よって化学的処理によるへき開は本発明において好適である。分散液中に添加する分散剤の量が多すぎると、分散媒除去後、分散剤が層状無機化合物の層間にインターカレーションし、層間距離を広げる場合がある。この場合、固体材料のガスバリア性及び耐熱性が良好に得られない場合がある。よって、分散剤の使用量としては、上記層間距離に悪影響を与えないような量を選択することが好ましく、この観点から層状無機化合物100質量%に対して0.5質量%未満であることは好ましい。
本発明の分散液の製造に際しては、目的の液晶相を分離・抽出する前の原料分散液が不純物を含んでもよい。不純物は、例えば遠心分離法等の、大きな重力加速度を引加する手法によって、沈降させて除去することが好適である。特に、溶融法で合成されたヘクトライト及び雲母にはガラス質の成分が不純物として僅かに含まれており、また天然タルクを変性させて得た雲母では天然物由来の不純物が僅かに含まれている。これらの不純物を除去することによって得られる分散液は、本発明の分散液として好適である。
また、分散液中に含まれる余剰な不純物イオン(すなわち、ナノシートの電荷を補償する層間イオン以外の余剰な陽イオン、及び、その余剰な陽イオンの電荷を補償する陰イオン)を除去することも、層状無機化合物の剥離及び分散性を高める上で好適である。不純物イオンは、例えば、イオン交換樹脂、イオン交換膜等を用いた手法によって除去できる。
<固体材料>
本発明の別の態様は、上述した本発明の分散液から分散媒を除去することによって得られる、固体材料を提供する。本発明の固体材料は、平均アスペクト比が1000以上4000以下であるナノシートが分散した液晶相状態の分散液から製造されることによって、良好な透明性、ガスバリア性及び耐熱性を併せ持つことができる。固体材料は、例えば以下の方法で製造できる。本発明の分散液は、典型的には、水を主たる分散媒とする(すなわち分散媒の50質量%超が水である)分散液である。このような分散液から固体材料を製造する方法の例について以下に説明する。
まず、分散媒中でナノシートが凝集するのを抑制する目的で、必要に応じて、分散液中に存在する交換性のイオンを所望の無機イオン又は有機イオンへ交換する。また、水に難溶な添加物を均一に分散液に溶解又は分散させる目的で、必要に応じて、水を主成分とする分散媒から有機溶媒を主成分とする(すなわち、全分散媒の50質量%超が有機溶媒である)分散媒に置換する。上記の分散媒の置換は、主たる分散媒が水である分散液から水を除去しながら有機溶媒を添加することによって、又は主たる分散媒が水である分散液に有機溶媒を添加することによって、行うことができる。
固体材料の製造においては、分散液から分散媒を除去する前に、必要に応じて分散液に任意の有機物及び/又は無機物を添加してもよい。具体的には、例えば本発明に係る分散液を用い、特開2010−95440号公報に示されているような方法で、イオン交換樹脂を用い、分散液中の陰イオンを水酸化物イオンへ交換した後、陽イオンをアンモニウムイオンへ交換することにより、余剰な不純物イオンを除去してもよい。
本発明の分散液を用いて製造される固体材料が例えば膜状の形成体である場合、該形成体に対し、高い透明性、高いガスバリア性、及び高い耐熱性という利点に加え、良好な寸法安定性、高温での貯蔵弾性率の低下が小さいこと等の利点が与えられる。
固体材料の適用態様としては、例えば固体材料を膜状に基材上に形成してなる物品を例示できる。このような物品としては、例えばポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートの基材上に本発明の固体材料で構成されるガスバリア膜が形成されたガスバリアシート、半導体デバイス等の水蒸気を嫌う製品又はそれらの製品を包んでいる容器に本発明の固体材料をコーティングして得られた高ガスバリア性皮膜等を例示できる。
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における分散液及び固体材料の物性は下記の方法により評価した。
(1)材料の透明性
透明性の指標として、全光線透過率及びヘイズを、日本電色工業株式会社製の濁度計「NDH2000」で測定した。なお、全光線透過率は、日本工業規格に規定されたプラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法JIS K 7361に準拠して求めた。また、ヘイズは、プラスチックの光学的試験方法JIS K 7105、プラスチック透明材料のヘイズの求め方JIS K 7136に準拠して求めた。全光線透過率に関してはJIS K 7361と、ヘイズに関してはJIS K 7105と、それぞれほぼ同じ値が得られるよう、「NDH2000における測定方法1」に従って測定した。
(2)ナノシートの平均粒子径及び平均アスペクト比
動的光散乱法によって分散液中の分散相の平均粒子径を決定した。装置としては、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELSZ−2を用い、液温25℃にて分散液の濃度を変化させ(すなわち水で希釈し)、ピンホール径直径50μm及びND値100%の状態において、固形分濃度0.105±0.01質量%の範囲の試料液で3回測定を実施して、キュムラント解析結果に基づく平均粒子径の平均値を分散液中のナノシートの平均粒子径とした。
得られた平均粒子径を、ナノシート厚み0.95nmで除して得た値を、ナノシートの平均アスペクト比とした。なお上記ナノシート厚みは、公知の文献(スメクトンSA技術資料No.5、クニミネ工業株式会社)に記載されるX線回折の底面反射の値を採用したものである。
(3)膜状の固体材料の膜厚
触針式表面形状測定器(DEKTAK 6M((株)アルバック社製))を用い、スキャン長さ2000μm、時間13秒、スタイラスフォース3mg、スタイラス径12.5μmにて基材と試料膜との厚み段差を測定することによって得た。
(4)ガスバリアシートの水蒸気ガスバリア性
差圧法にて、JIS K7126に準拠したGTRテック株式会社製のガス・水蒸気透過率測定装置GTR−30XAASを用い、透過面積50.24cm2、差圧1気圧で、酸素ガスをキャリアガスとして、40℃相対湿度90%において、300分積算(透過水蒸気の蓄積管への蓄積時間)にて測定した。
(5)小角X線散乱(SAXS)(ナノシートの平均層間隔)
株式会社リガク製NANO−VIEWERを用いてナノシートの平均層間隔を測定した。X線源は200kV,30mAのCuKα線源であり、ディテクターには2次元のCCDディテクターを用いた。サンプル−ディテクター間の距離(カメラ長)は700mmとした。サンプルはポリアセテート膜又はカプトン膜を窓材とする光路長2mmの組立型セル(金属製)に封入して、サンプルホルダ部分に設置した。測定時間は標準的には30分とした。得られたデータはディテクターの暗信号、溶媒及び窓材からの散乱、並びX線の透過率を考慮して補正した。
[実施例1]
層状無機化合物として、層間イオンが主としてナトリウムイオンである、溶融法によって合成された合成フッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、ロットNo.90998、トピー工業株式会社製、固形分濃度:7.03質量%の水分散液)を用いた。
上記の分級NHT水分散液262gを1Lのプラスチック容器に入れ、該容器に純水658gを添加した後、バイオシェーカーBR−180LF(タイテック株式会社製)により、300rpmで2時間、振とうして良く混ぜ合わせた。この液を同様の操作にて4本作製し、固形分濃度が2質量%である分級NHT水分散液3680gを準備した。
この分級NHT水分散液3200gを、500mlの透明な遠沈管8本に均等に分け、遠心分離装置KUBOTA7820(久保田商事株式会社製)を用い、4分45秒で8400rpm(加速度11990G)まで加速した後、10分15秒間、同回転速度で遠心分離処理をし、その後6分30秒かけて回転を停止させた後、遠沈管を取り出した。該作業は4本ずつ、2回に分けて行った。
得られた遠沈管においては、上部に透明な液相が体積で約7割、下部にやや凝集性のあるやや粘性を帯びた液晶相(本発明の分散液に相当する)が体積で約2割、最下部(すなわち最も加速度のかかる場所)に灰色の沈殿物が得られた。
チューブポンプ及びフレキシブルチューブを用い、各々の遠沈管について、上層の透明な液相を分離収集した。この液相の割合は、遠沈管中の全液量の71質量%であった。この上層の透明な液相の固形分濃度は0.22質量%であり、偏光板を2枚用いたクロスニコル観察からは液晶性が認められた。
ついで、15mlの大型のディスポスポイトを用い、各々の遠沈管について、遠沈管の最下部に沈んだ灰色の沈降物及び粘性の強い凝集体が入らないようにして、目的の液晶相を抽出し、計545gの液晶相状態を示す目的の分散液を得た。遠沈管中の全液量に対する目的の液晶相の抽出割合は17質量%であった。
抽出した上記の分散液約10gを、90℃6時間、さらに150℃24時間乾燥させて本発明の分散液を得た。この分散液の固形分濃度は、4.01質量%であった。
該分散液を固形分濃度0.111質量%に純水で希釈し、動的光散乱法による3回の測定にて得られた固形分の平均粒子径は2365nmであった。また、平均アスペクト比は2489と算出された。
[実施例2]
層状無機化合物として、層間イオンが主としてナトリウムイオンである、溶融法によって合成された合成フッ素化ヘクトライトの分散液(商品名:分級NHT、ロットNo.90393、トピー工業株式会社製、固形分濃度:7.06質量%の水分散液)を用いた。
上記の分級NHT水分散液260gを1Lのプラスチック容器に入れ、該容器に純水658gを添加した後、実施例1と同様にして、計590gの液晶相状態を示す本発明の分散液を得た。
該分散液を固形分濃度0.111質量%に純水で希釈し、動的光散乱法による3回の測定にて得られた固形分の平均粒子径は2330nmであった。また、平均アスペクト比は2453と算出された。
1Nの水酸化カリウムによって十分に水酸化物イオン型に調整した後に純水で十分に洗浄した陰イオン交換樹脂(アンバージェット4002(OH)−AG、オルガノ株式会社製)180mlをガラス製のカラムに詰めて、本発明の分散液を1.2質量%に純水で希釈した1020mlの分散液を、1秒毎に10mlの速度で、上記の陰イオン交換樹脂の詰まったカラムに通し、分散液中の陰イオン種が水酸化物イオンへ交換された分散液を得た。
続いて、1Nの塩化アンモニウム水溶液によって十分にアンモニウムイオン型に調整した陽イオン交換樹脂(アンバージェット1020(H)−AG、オルガノ株式会社製)約180mlを詰めたガラス製のカラムに、上記の水酸化物イオンへの陰イオン交換を行った分散液を、1秒毎に10mlの速度で連続的に通し、陽イオン種のアンモニウムイオンへの交換を行った。
得られた分散液をさらに、実施例1と同じ遠心分離装置によって実施例1と同条件で遠心分離し、わずかに発生した沈降物を分離除去した。得られた陰イオン及び陽イオン交換後の分散液の固形分濃度は1.04質量%であった。
このイオン交換後の分散液をロータリーエバポレーターにて約200〜45hPa,55℃の条件にて減圧加熱して、分散媒である水を除去し、固形分濃度が3.05質量%の、層間イオンの大部分がアンモニウムイオンである、液晶性を示す分散液を得た。この分散液を水で希釈することで、固形分濃度を2.9、2.5、2.0、及び1.5質量%と変化させ、SAXSにおける002回折ピーク位置から分散液中のナノシートの平均層間隔を測定したところ、それぞれ49、51、55、及び68nmに対応する位置に明瞭なピークを観測した。このことから、分散液中に分散しているナノシートが、ナノシートの面を一にして揃った集団の集まりとして挙動していることが示された。
[実施例3]
実施例2で得た、固形分濃度が1.04質量%である陰イオン及び陽イオン交換後の分散液500gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)300gとを混合し、ロータリーエバポレーターにて約160〜45hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒を除去し、DMFを主たる分散媒とする、固形分濃度が2.8質量%の透明な分散液182gを得た。ガスクロマトグラフィーによって分析された該分散液中の水の含有量は約4質量%であった。
この分散液をDMFで希釈することで、固形分濃度を2.8、2.5、及び2.0質量%と変化させ、SAXSにおける002回折ピーク位置から分散液中のナノシートの平均層間隔を測定したところ、それぞれ79、85、及び97nmに対応する位置に明瞭なピークを観測し、DMFが95質量%以上である分散媒中でも、分散しているナノシートの向きが、その面を一にして揃った集団の集まりとして挙動していることが示された。
また、この有機溶媒分散液を1滴取り出した後、十分にDMFで希釈し、新鮮な雲母のへき開面に塗布して、原子間力顕微鏡(AFM)にてナノシートの厚みを測定したところ、平均粒子径が数μmである高アスペクト比のナノシートを含め、測定されたナノシートの厚みはほぼ全て約1nmであり、ナノシートが有機溶媒中で単層にまで剥離して分散していることが示された。
[実施例4]
N,N’−ジベンジルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)0.2276gをDMFに溶かして1.1264gの溶液を得た。この溶液0.495gを、実施例3で得た、DMFを主たる分散媒とする固形分濃度が2.8質量%の透明な分散液14.606gに添加し、室温で2時間攪拌した後、攪拌しながらダイアフラムポンプで減圧脱気して、透明な塗工液を得た。
自動フィルムアプリケーター(BYK−ガードナー社製)の上に100ミクロン厚のPENフィルム(帝人・デュポンフィルム株式会社製)をセットし、その上に塗工膜厚可変型バーフィルムアプリケータ(YOSHIMITSU社製、YBA型ベーカーアプリケーター)を置き、塗工膜厚を25μmとして、この塗工液を約3mlバーフィルムアプリケータの前に流し込み、50mm/sの塗工速度で面状に塗工した。
その後、該塗工液が塗工されたPENフィルムを、セーフティクリーンオーブンSPHH−201(ESPEC社製)に入れ、50℃で10分間乾燥した後、1.08℃/分の条件で180℃まで昇温し、その後180℃で2時間ホールドした。以上により、PENフィルム上に層状無機化合物層が形成されてなるシートを得た。
このシート上の層状無機化合物層の膜厚を測定したところ、0.33μmであった。PENフィルムを含めたシート全体の全光線透過率は91.4%、ヘイズは2.7%であった。
差圧法によって測定された該シートの水蒸気の透過量は、0.0033g/m2・dayであった。
[比較例1]
前述の実施例1で分離収集した、遠沈管上層の透明な液相(固形分濃度0.22質量%)の分散液を固形分濃度0.108質量%に純水で希釈し、動的光散乱法による3回の測定にて得られた固形分の平均粒子径は670nmであった。また、平均アスペクト比は708と算出された。
この分散液をロータリーエバポレーターにて約200〜45hPa,55℃の条件にて減圧加熱して分散媒である水を除去し、固形分濃度が1.2質量%の分散液を得た。この固形分濃度が1.2質量%の分散液を用い、実施例2〜4と同様にして、PENフィルム上に層状無機化合物層が形成されてなるシートを得た。
差圧法によって測定された該シートの水蒸気の透過量は、0.013g/m2・dayであり、実施例4で得たフィルムより透湿量が多く、水蒸気バリア性に劣ることが示された。
本発明は、例えばディスプレイ用途等の電子材料、太陽電池の基板及びバックシート、レトルト食品用途等の包装材、ガソリン用途等のタンク、並びに輸送用のチューブ等に好適に適用できる。

Claims (5)

  1. 層状無機化合物のへき開物であるナノシートが分散媒中に分散した分散液であって、
    (1)分散液が液晶相状態を示し、
    (2)動的光散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均アスペクト比が1000以上4000以下であり、かつ
    (3)分散液の固形分濃度が1.5質量%以上5質量%以下である、分散液。
  2. 小角X線散乱法によって測定される分散液中のナノシートの平均層間隔が30nm以上120nm以下である、請求項1に記載の分散液。
  3. 層状無機化合物の主たる層間イオンがアンモニウムイオンである、請求項1又は2に記載の分散液。
  4. 層状無機化合物が、スメクタイト族又は雲母族の粘土鉱物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散液。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散液から分散媒を除去することによって得られる、固体材料。
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