JP2010126607A - 内燃機関用潤滑剤組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】新規な内燃機関用潤滑組成物の提供。
【解決手段】油性媒体と、該油性媒体中に分散及び/又は溶解している少なくとも1種の下記式(I)で表される化合物とを含む内燃機関用潤滑組成物である。
Figure 2010126607

【選択図】なし

Description

本発明は、新規な内燃機関用潤滑剤組成物に関する。また、本発明は、現行の潤滑油が高荷重下での潤滑性発現に必要としている、リン、硫黄、窒素、ハロゲン及び重金属といった環境負荷元素を必要とせずに、省燃費性能、及び高耐久性を発現し得る環境調和型の内燃機関用潤滑剤組成物に関する。
潤滑油は様々な摩擦摺動場の摩擦係数を低減し、摩耗を抑制するために、あらゆる産業機械に用いられてきた。
一般的に、現行の潤滑油は、穏和な摩擦条件(流体潤滑条件)下ではその摺動間隙に流体膜を形成し、低摩擦係数を発現する低粘性の油(すなわち基油)と、厳しい摩擦条件下においてその低粘性基油が破断した後に界面同士が直接的に接することを防止するために、その界面(例えば鉄界面)と反応して強靭で且つ柔軟な低摩擦係数を与える境界潤滑膜を形成可能な薬剤とを含んでいる。薬剤は、基油に溶解しているが、界面素材(通常は鋼鉄)との反応により、経時で、その界面に集積してくる。しかし、同時に、摺動には直接的に関わっていない面の大部分にもその薬剤が反応し、集積が起こり、その貴重な薬剤が消費されることになる。さらに、薬剤が消費されても、基油から消失するのではなく、実際には様々な分解物となって残存し、多くの場合には、それが潤滑油自体の劣化を促進する。また、薬剤からなる境界潤滑膜自体も、厳しい条件下での摩擦摺動により剥離し、また界面基材自体も剥離し、上記の反応分解物とともに浮遊したり、沈積したりして、潤滑油の潤滑能を損ない、その所期性能を劣化させる一因になる。これを防止するため、潤滑剤には、通常、酸化防止剤、分散剤、清浄剤などが添加されている(特許文献1)。
この様に、現行の潤滑油の多くには、極めて厳しい条件(境界潤滑条件)下での摩擦低減という目的のため、並びに添加した薬剤の副作用の低減及び抑止という目的のために、さらに新たな薬剤が添加されている。また、磨耗によって界面自体から生じた微小摩耗粉、及び薬剤の分解浮遊物によって潤滑機能が低下するのを軽減するために、さらに新たな薬剤が添加さている。そして、潤滑油中で、種々の薬剤の機能が関連しあっているために、それぞれの薬剤の消耗及び劣化によって、潤滑油全体として機能し及び最良の潤滑効果を発揮できる期間が、短くなることは必然であって、避けられない。これは、ある種の悪循環であるといえる。従って、現行の潤滑油の性能を改善することは容易ではない。
ところで、摩擦の機構は、上記した穏和な流体潤滑機構と厳しい境界潤滑機構との間に弾性流体潤滑機構があることが知られている。この弾性流体潤滑機構の理論的研究は、1882年に発表されたHertzの真実接触面形状と発生圧力の研究に始まり、1951年のPetrosevichのEHL弾性流体潤滑理論のまとめで確立され、1968年のDowson/Higginsonの弾性変形を考慮した油膜形成理論によって実践的な理論となった。
この弾性流体潤滑機構が働く領域は、例えば数トン/cm2、即ち数百MPa程度、の高圧力での摩擦の領域である。一見すると過酷な条件であるが、実は、その程度の圧力範囲であると鉄が弾性変形し始めるので、油膜を介して接する鉄界面の真実接触面の面積が増加し、実質的な圧力は低くなる。即ち、この領域に入ると、鉄の弾性限界か油膜切れが起こらない限り、摩擦係数が増加しなくなり、摺動界面にとっては「恵みの領域」といえるのである。また、同時にこの領域では、鉱物油など一般的な潤滑油の油膜なら常圧時の1000倍程度の高粘性になるが、素材の化学構造によっては500倍程度の低粘性にしかならない場合がある。Barusは、この現象を液体の粘度の圧力依存性を下式(VII)で表し、圧力に対する物質固有の粘性の増加率αが関係していることを示した(非特許文献1)。
η=η0exp(αP) (VII)
但し、αは粘度圧力係数、及びη0は常圧粘度である。
また、Doolittleは、液体の粘性が、液体の体積中に占める分子の占有体積と液体の熱膨張によって生じる自由体積の比によって決定されるという自由体積モデルの考え方を提唱した(非特許文献2)。
η= Aexp( BV0 / Vf ) (VIII)
但し、ηは粘度,V0 は分子の占有体積,Vf は自由体積を表す。
このDoolittleの式(VIII)とBarusの式(VII)とを比較すると、粘度圧力係数αが分子の自由体積に逆比例する関係にあることがわかる。すなわち、粘度圧力係数が小さいことは、分子の自由体積が大きいことを示唆している。従って、液体の粘度の圧力依存性は、素材の化学構造の最適化で制御することが可能であり、即ち化学構造を最適化すれば、同一の高荷重・高圧力下で、鉱物油や合成油より低粘性な素材が提供できることが分かる。例えば、通常潤滑油として用いられている鉱物油やポリ−α−オレフィンなどのような炭化水素系化学合成油の粘度圧力係数αの半分程度である素材によって、真実接触部の油膜が形成されるなら、この弾性流体潤滑領域は、さらに穏和な条件になる。即ち、通常の潤滑油なら境界潤滑領域に入るような高荷重であっても、界面の弾性変形と高圧下低粘性油膜によって、真実接触部位の低圧力、低粘性、さらに油膜による冷却効果が加わることで、実質的に境界潤滑領域を回避し、流体潤滑だけの理想的な潤滑機構が実現されることが期待される。
最近、比較的長い炭素鎖を放射状に複数配した円盤状化合物及びそれを含む潤滑油(即ち金属系素材を含まない潤滑油)が、弾性流体潤滑領域で低摩擦係数を示すことが開示されている(例えば、特許文献2〜特許文献4)。これらの円盤状化合物は、円盤状のコアと、当該円盤状のコアから放射状に伸びた側鎖を有していて、必然的に扇形の自由体積を高配列状態においても確保できていることが予測される。従って、側鎖を放射状に有する円盤状又は平板状化合物は、その占有体積に比べて、共通して多くの自由体積を有し、それゆえに小さな粘度圧力係数を示す。即ち、高圧下でも粘度が相対的に小さく、高圧下でより低粘性及びより低摩擦性を示すことが期待される(非特許文献3)。
しかし、これらの素材に共通していることは、その粘性が、通常潤滑油に用いられる鉱物油及び化学合成油の粘性と比較して一桁近く大きいことであり、そのような素材を大量に、安価に、しかも低粘性の基油の代わりに用いることは到底できない。
即ち、高圧下の粘性は、上記式(VII)に示す通り、粘度η0と粘度圧力係数αで規定されるが、現実的に低粘性の基油を用いると弾性流体潤滑領域では既に破断し始め、高圧下では粘性が無い状態すなわち弾塑性体になる。この潤滑油膜の破断のし易さは、流体分子の集合状態、すなわち潤滑油分子のパッキング状態と相関しており、粘度圧力係数αと圧力Pとの積αPで評価できることが明らかにされている(非特許文献4)。
一般的に、潤滑油膜は、積αPが13以下であると粘性流体、13〜25であると粘弾性流体、25以上であると弾塑性体として挙動する。或る圧力Pで、同一粘度ηの2種類の潤滑油膜が存在する場合、その粘度圧力係数をそれぞれα1及びα2、常圧粘度をそれぞれη1及びη2とすると、
lnη=lnη1+α1・P=lnη2+α2・P
が成立する。
18=α1・P<α2・P=24 すなわちα1:α2=18:24の場合、粘度圧力係数α2の膜は、あと少し圧力Pが増加すると弾塑性体となり、同じ圧力下、同じ粘性であってもより破断し易いことがわかる。
従って、流体潤滑領域でも使用可能な程度の比較的大きなη0の基油を利用しても、基油を構成する鉱物油などの鎖状炭化水素の粘度圧力係数αが大きいので、結局、高圧下での粘度ηが大きくなる傾向があり、流体潤滑下で低摩擦係数を与える低η0と弾性流体潤滑下で低摩擦係数を与える低αとを同時に持った、粘弾性液体領域の広い基油及び有機化合物はこれまで存在しない。
仮に、その制約をクリアする素材が開発できたとしても、大量供給性及び低コストという基油の必要条件を考慮すると、全てを同時に満足する素材の提供は困難であるといえる。それ故に、低燃費の達成のためには低粘性であることが必須のエンジンオイルには、弾性流体潤滑を有効に利用するという発想自体が無かったという歴史的背景があると思われ、現在の低粘性基油と境界潤滑膜を形成する微量薬剤との組合せに素材開発が収束したことは、必然的な結果であったと言える。
内燃機関や、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの駆動系機器、ギヤなどには、その作動を円滑にするために潤滑油が用いられている。
しかし、内燃機関や自動変速機等に使用される潤滑油に対しては、省燃費のための低粘性化の要求があると同時に、近年の資源有効利用、廃油の低減、潤滑油ユーザーのコスト削減等の観点から、潤滑油のロングドレイン化に対する要求が一層高まっている。特に内燃機関用潤滑油(エンジン油)には、内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の苛酷化等に伴い、より高度な性能が要求されている。
特に内燃機関用潤滑油は、主として、ピストンリングとシリンダライナ;クランク軸、コネクティングロッドの軸受;カムとバルブリフタを含む動弁機構;等各種摺動部分の潤滑に用いられている。また、エンジン内の冷却や燃焼生成物の清浄分散、さらには錆や腐食を防止するなどの作用を果している。このように、内燃機関用潤滑油には多様な性能が要求され、しかも近年、内燃機関の高性能化、高出力化、運転条件の過酷化などに伴い、高度な性能が要求されてきている。したがって、内燃機関用潤滑油には、このような要求性能を満たすために、例えば摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤などの種々の添加剤が配合されている。内燃機関用潤滑油の基本的機能として、特にあらゆる条件下で機関を円滑に作用させ、摩耗、焼付き防止を行うことが重要である。エンジン潤滑部は、大部分が流体潤滑状態にあるが、動弁系やピストンの上下死点などでは境界潤滑状態となりやすく、このような境界潤滑下における摩耗防止性は、一般に、ジチオりん酸亜鉛やジチオカルバミン酸亜鉛等の添加によって付与されている。
ところで、内燃機関では、潤滑油が関与する摩擦部分でのエネルギー損失が大きいために、摩擦損失低減や燃費低減対策として、摩擦調整剤をはじめ、各種の添加剤を組み合わせた潤滑油が使用されている。自動車の内燃機関は、広範囲の油温度、回転数、負荷で運転されており、したがって、さらに燃費を向上させるためには、内燃機関潤滑油は広範囲の使用条件下での摩擦特性に優れる必要がある。
従来、摩擦係数を低くするために、エンジン油に摩擦緩和剤(FM)を添加する方法が用いられてきた。摩擦緩和剤の中ではモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)や硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)等の有機モリブデン化合物が効果が高いことが知られている。
しかし、これらの有機モリブデン化合物を添加した潤滑油は、中低油温かつ低速回転の運転条件下では、十分な低摩擦係数が得られないという問題があった。さらに、これらの有機モリブデン化合物は、エンジン油を使用するのに伴い、酸化されて減少してゆく。そのため、新油の時点において省燃費性が優れていたとしても、良好な摩擦緩和効果を長時間維持できず、使用時間の経過と共にエンジン油の省燃費性が失われていくという問題があった。これを改善するために、新油時において、有機モリブデン化合物の添加量を増量することが考えられるが、有機モリブデン化合物の添加量を単に増量すると、製品コストが高くなるので、経済的に好ましくない。
また、内燃機関における燃焼ガスは、その一部がピストンとシリンダとの間からブローバイガスとしてクランクケース内に漏洩する。燃焼ガス中には窒素酸化物ガスが、かなりの高濃度で含まれていて、これがブローバイガス中の酸素と共に内燃機関用潤滑油を劣化させる。近年における内燃機関の高性能化により、クランクケース内に漏洩する窒素酸化物ガスの濃度が増加する傾向にある。したがって、内燃機関用潤滑油には、上記の要求性能を満たし、窒素酸化物ガス含有空気雰囲気下においても劣化を生じさせないことが要求される。
摩擦緩和剤として一般的に使用される有機モリブデン化合物、脂肪酸エステル、アルキルアミンなどは、使用開始初期には添加効果が認められるが、空気中の酸素による酸化劣化を受けるとその効果を喪失し、特に窒素酸化物ガスの存在下ではその効果の低減が著しい。また、モリブデンジチオカーバメートなどの摩擦緩和剤は、潤滑油基油への溶解度が低く、低温での長期保存により沈殿を生じるためにその添加量が制限される。さらに、有機モリブデン系化合物のような摩擦調整剤を用いた内燃機関用潤滑油は、高温酸化安定性、特に、ILSAC(International Lubrican t Standardization and Approval Committee)で制定されたガソリンエンジンオイル規格(GF−2)で規定されている窒素酸化物の存在下における高温デポジット防止性能、すなわち、TEOSTデポジット防止性能が低下するという問題が生じることが知られている。 高温デポジット防止性能は、内燃機関のターボ軸受のコーキング性の評価基準として利用されるものであり、低燃費潤滑油にとって重要な要求品質である。よってこれを充足することが低燃費性能を有する高性能潤滑油の今後の開発にとって重要な課題である。従来、潤滑油の酸化安定性は、基油に含有される硫黄化合物等のナチュラルインヒビターの作用に加え、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤の添加により対応している。例えば、アミン系酸化防止剤としてアルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、P,P’−ジアルキルジフェニルアミン、フェノチアジン等が使用され、また、フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルパラクレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が用いられている。しかしながら、これらの酸化防止剤のみでは、上記の苛酷な条件下での高温デポジット防止性能の改善は極めて小さいものであり、低燃費性能を損なうことなく、高温デポジット防止性能を有する低燃費潤滑油は現在未だ開発されるに至っていない。
ところで、環境問題を背景に1978年に国内において自動車排気ガス規制が導入され、ガソリンエンジンを有する自動車には排気ガス浄化触媒が装着されるようになった。この排気ガス浄化触媒は、上記規制導入初期に使用された酸化触媒、1980年代中頃より主流となっているペレットタイプの三元触媒、そして最近主流となっているモノリスタイプの三元触媒(ペレットタイプの耐久性を改良したもので、触媒の担体をハニカム状に成型し、一体型としたもの)へと変遷している。また、三元触媒は酸素が存在しない状態、すなわち、理論空燃比で燃焼した場合に効果的に作用するため、理論空燃比を維持するために酸素センサーが併用されている。一方、内燃機関用潤滑油には酸化防止性能及び耐摩耗性能を付与させるために、1950年頃からジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)が一般に用いられており、現在も必須の添加剤として認識されているが、ZDTPは上記のような排気ガス浄化触媒や酸素センサーに対して悪影響を及ぼすことが明らかになっている。例えば、エンジン油中のZDTPに起因するリンが酸化触媒に付着することが原因で排気ガス浄化率が著しく低下することや、エンジン油中のリンによる三元触媒の被毒や、酸素センサー上にリンが堆積することで酸素センサー出力に悪影響を与えること、また、最近のモノリスタイプの三元触媒であってもZDTP中のリンが触媒に付着して悪影響を与えること等が明らかにされている。更に、リンは触媒被毒のみならず排出されると環境にも悪影響を与えるため、最近では、なるべくリンの含有量が少ないエンジン油が望ましいとされている。このような背景から、ILSAC(International Lubricant Standard and Approval Committee)では、エンジン油中のリン濃度を規制している。例えば、ILSACのGF−1規格ではエンジン油中のリン濃度は0.12%以下、最新のGF−2規格では0.10%以下と規定されている。一方、近年の地球温暖化対策や石油資源の有効活用の観点から二酸化炭素の排出量を低減する必要があり、自動車に対して更なる燃費の向上が求められている。エンジン油においては、低粘度化や、ジチオリン酸モリブデンあるいはリンを含まないジチオカルバミン酸モリブデン等のモリブデン化合物を配合した省燃費型エンジン油の研究が活発に行われ、多くの成果をあげてきた。ガソリンエンジンにおいては、燃費向上効果の高い希薄燃焼(リーンバーン)方式や直噴方式のエンジンが注目されており、直噴方式のエンジンに至っては1996年より国内で市販されている。しかしながら、これらの方式のエンジンは排気ガス中の酸素濃度が高いため、従来の三元触媒では窒素酸化物(NOx)の還元浄化が困難であった。
それに対し、ディーゼルエンジンにおいては、特にNOxとPM(Particulate Matter)の排出規制が強化傾向にあり、様々な排気ガス後処理装置が研究、開発されている。しかしながら、酸化触媒に対しては前述のZDTPに由来するリンだけでなく、エンジン油に起因する灰分が触媒表面を覆ってしまい触媒の浄化効率低下や、背圧上昇の原因となることが明らかにされている。また、排気ガス中のPMを補足し、燃焼除去させるDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)についても、上記灰分によってフィルタが目詰まりを起こす傾向にあるため、灰分量の少ないエンジン油が好ましいとされている。なかでも、SiCを担体としたDPFにおいては灰分がSiCの腐食の原因となるため、やはり灰分の少ないエンジン油が要求されている。
金属系清浄剤はピストンやピストンリング等のエンジン部品を清浄に保つためにエンジン油に最も一般的に使用されているが、これはリンによる触媒被毒をある程度緩和することが知られている。しかしながら、金属系清浄剤は灰分の原因となり、上述のような問題を生じる可能性があるほか、燃焼室デポジット(CCD;Combustion Chamber Deposit)等の原因となる。また、金属系清浄剤の中で最も一般的に使用されているアルカリ土類金属スルホネートや、硫黄による分子架橋されたアルカリ土類金属フェネートあるいはアルカリ土類金属サリシレートには硫黄も含まれるため、おのずとその使用量は限定せざるを得ない。しかしながら、低灰化は動弁系の摩耗量の増大につながり、低灰化にもおのずと限界があった。
このような状況の中、上記のような課題を解決するために多くの検討がなされ、これまでにZDTPを低減した低リン油やこれを使用しない無リン油、あるいは低灰油が開示されているが、本質的にリンを含有しない内燃機関用潤滑油組成物は未だに存在せず、排気ガス浄化触媒及び/又はディーゼルエンジン用排気ガス後処理装置におけるリン被毒を抑制し、更には灰分の堆積を抑制するとともに、耐摩耗性、スラッジ防止性、酸化安定性、ピストン清浄性に優れた内燃機関用潤滑油組成物は未だに提供されていない。
前述したように、自動車の燃費の改善は重要な技術課題となっており、潤滑油による省燃費対策としては、(1)流体潤滑下における摩擦損失の低減を意図した低粘度化、並びに(2)混合潤滑下および境界潤滑下における摩擦損失の低減を意図した摩擦低減剤の添加等が検討されている。潤滑油における摩擦特性を改善するものとして液晶が従来から検討されており、例えばアイデンシンクルドルフは液晶のサーモトロピック液晶相とアイソトロピック相間の転移を利用して、可変摩擦下での機械部分に使用する流体有機体として、液晶を潤滑油組成物として使用することを提案している(特許文献5)。この他に、基油と液晶と摩擦調整剤とを含む潤滑油組成物が知られているが(特許文献6)、この潤滑油組成物は摩擦特性を改善する効果はあるものの、摩擦係数の絶対値が高いという問題がある。
ところで、以上述べてきた潤滑は、内燃機関を例にとると、燃焼室以外の部分の潤滑及び潤滑組成物に関するものである。しかし、燃焼室の潤滑に関しても、実際に、大きな課題がある。即ち、燃焼室の燃料導入口に生じる付着物の低減、またそれらによる摩擦、磨耗の低減を、燃料への微量添加物によって制御(防止又は減少)する研究も長年続けられている。
特に、最近は排出ガス規制の観点から、燃料組成物の低硫黄濃度化が必須となりつつあるが、それによって潤滑性が低下し、カム、バルブを含む動弁機構の耐久性の低下が懸念されており、ここにも従来の摩擦、磨耗低減に寄与する元素を見直す必要に迫られている。
すなわち、境界潤滑膜形成に必須の元素でありながら、同時に存在自体が問題となっている硫黄、リン、重金属の低減化が求められている。潤滑油は、現在の産業機械自体を支える材料であり、容易には換えられないとしても、真剣に、潤滑油の組成、及びその背景にある潤滑機構自体を、150年以上経った最新の科学技術と機能性素材技術によって見直さなければならない時期に来ている。
特表2005−516110号公報 特開2006−328127号公報 特開2007−92055号公報 特開2006−257383号公報 特開平2−503326号公報 特開平6−128582号公報 C.Barus:Am.J.Sci.,45(1893)pp87. A.K.Doolittle J.Appl.Phys.,22(1951) 1471. 濱口正法、大野信義、立石賢司、河田憲、トライボロジー会議予稿集(東京、2005−11)、175頁. 大野信義、桑野則行、平野冨士夫、潤滑、33、12(1988)922;929.
本発明は、新規な内燃機関用潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、環境負荷元素であるリン、硫黄、重金属を利用せずに、潤滑性能を発現し得る新規な内燃機関用潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、低荷重下では低粘性の油性媒体が流体潤滑領域で優先的に機能し、高荷重下では弾性流体潤滑領域で低粘性を発現する微量薬剤が油脂得媒体中から摺動界面に効率的に蓄積するという、新規な潤滑機構を経由して機能する内燃機関用潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、内燃機関、ギヤ、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどに好適に用いることができる内燃機関用潤滑組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、高温デポジット防止性能、耐NOx酸化安定性、材料適合性、剪断安定性に優れる内燃機関用潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために手段は、以下の通りである。
[1] 油性媒体と、該油性媒体中に分散及び/又は溶解している少なくとも1種の下記式(I)で表される化合物とを含む内燃機関用潤滑組成物:
Figure 2010126607
式(I)中、Cは炭素原子を表し、R0は水素原子又は置換基を表し、X1〜X3はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;n1〜n3はそれぞれ0〜5の整数であり;Y1〜Y3はそれぞれ単結合又は二価の連結基を表し;R1〜R3はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、置換もしくは無置換のC2以上のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
[2] R1〜R3がそれぞれ、下記式(Ia)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする[1]の内燃機関用潤滑剤組成物:
Figure 2010126607
式(Ia)中、Cは炭素原子を表し、Oは酸素原子を表し、Laは、単結合又は二価の連結基を表し;Xa1及びXa2はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し、na1は1〜4の整数であるが、na1が2以上のとき、複数のXa1及びXa2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;na2は1〜35の数であり、Raは置換もしくは無置換のC12以上のアルキル基である。
[3] R1〜R3がそれぞれ、下記式(Ib)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする[1]の内燃機関用潤滑剤組成物:
Figure 2010126607
式(Ib)中、式(Ia)中と同一の符号は同義であり、Alkはそれぞれ同一でも異なっていてもよいC1〜C4のアルキル基を表し;nbは2〜20の数を表す。
[4] R1〜R3がそれぞれ、下記式(Ic)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする[1]の内燃機関用潤滑剤組成物:
Figure 2010126607
式(Ic)中、式(Ia)中と同一の符号は同義であり、ncは1〜20の数を表し、mは1〜12の数を表し、nは1〜4の数を表す。
[5] Laが、単結合、又はカルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、スルフィド基、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリ−レン基及び複素環基から選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基であることを特徴とする[1]又は[2]の内燃機関用潤滑剤組成物。
[6] 式(I)で表される化合物が、下記式(II)で表されるペンタエリスリト−ル誘導体であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物:
Figure 2010126607
式(II)中、式(I)中と同一の記号については、同義であり、Y4は単結合又は二価の連結基であり、X4はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;R4は、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、置換もしくは無置換のC2以上のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
[7] 式(I)で表される化合物が、下記式(III)で表されるオリゴペンタエリスリト−ル誘導体であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物:
Figure 2010126607
式(III)中、式(I)中と同一の記号については、同義であり、X4、X11〜X14、及びX21〜X24はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;Y11、Y12及びY21〜Y23はそれぞれ、単結合又は二価の連結基を表し;R11、R12及びR21〜R23はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、C2以上の置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表し;mは0〜8の整数である。
[8] Y1〜Y4、Y11、Y12及びY21〜Y23がそれぞれ、単結合、カルボニル基(−C(=O)−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、又は式中のO(酸素原子)と結合するカルボニル基(−C(=O)−)もしくはスルホニル基(−S(=O)2−)を含む二価の基であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[9] R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23が、末端にC12以上のアルキル基を有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[10] 式(I)で表される化合物の40℃における粘度圧力係数が、20GPa-1以下であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[11] 油性媒体が、鉱物油、ポリ−α−オレフィン、ポリオ−ルエステル、(ポリ)フェニルエ−テル、イオン液体、シリコ−ン油、フッ素油のいずれか又はその混合物であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[12] 油性媒体が、燃焼機関用燃料であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[13] 構成元素が、炭素、水素、酸素及び窒素だけからなることを特徴とする[1]〜[12]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[14] 液晶性であることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[15] 40℃での粘性が30mPa・s以下であることを特徴とする[1]〜[14]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[16] 不透明状態から透明状態に転移する透明点が常圧で70℃以下であることを特徴とする[1]〜[15]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
[17] 金属系清浄剤、無灰系分散剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤、防錆剤及び消泡剤からなる添加剤群から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]〜[16]のいずれかの内燃機関用潤滑剤組成物。
本発明によれば、新規な内燃機関用潤滑剤組成物を提供することができる。本発明の内燃機関用潤滑剤組成物は、低荷重条件では低粘性の油性媒体が流体潤滑に寄与し、高荷重条件では偏析した素材が弾性流体潤滑膜として有効に機能するものである。したがって、本発明の組成物によれば、従来の環境負荷元素を含む極圧剤がなくても、広い圧力・温度範囲で低摩擦を達成することができる。
さらに、本発明によれば、
・ 弾性流体潤滑素材が粘度指数向上剤としての機能を発現し、低温でも低粘性な油性媒体との組合せで省燃費が図れ、
・ 基本的には界面との反応を利用していないので、鋼鉄以外の合金、樹脂、セラミックの界面でも、モリブデン含有オイルを凌駕する低摩擦性を発現し、原理的に消耗しないので、耐久性の向上が図れ、
・ 現行の潤滑油では必須の硫黄、リン、重金属などの環境負荷元素を含まないので、排気ガスや廃油
のリサイクルの観点でも好ましく、
・ 内燃機関、ギヤ、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの潤滑油、特に内燃機関用潤滑油
として好適に用いることができ、
・ 従来の内燃機関用潤滑油の課題であった、高温デポジット防止性能、耐NOx酸化安定性、材料適合性、及び剪断安定性を改善できる。
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明は、油性媒体と、該油性媒体中に分散及び/又は溶解している少なくとも1種の下記式(I)で表される化合物とを含む内燃機関用潤滑剤組成物に関する。
1. 式(I)で表される化合物
Figure 2010126607
式(I)中、Cは炭素原子を表し、R0は水素原子又は置換基を表し、X1〜X3はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;n1〜n3はそれぞれ0〜5の整数であり;Y1〜Y3はそれぞれ単結合又は二価の連結基を表し;R1〜R3はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、C2以上の置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
式(I)中、R0が表す置換基の例には、置換もしくは無置換の炭素原子数1〜50のアルキル基(例えば、メチル、エチル、以後いずれも直鎖状もしくは分枝鎖状の、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、又はテトラコシル);炭素原子数2〜35のアルケニル基(例えば、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル);炭素原子数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル);炭素原子数6〜30の芳香族環基(例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリル、アントラセニル)、複素環基(窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含む複素環の残基であるのが好ましく、例えば、ピリジル、ピリミジル、トリアジニル、チエニル、フリル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアジアリル、オキサジアゾリル、キノリル、イソキノリル);又はそれらの組み合わせからなる基を表す。これらの置換基は、可能な場合はさらに1以上の置換基を有してもよく、該置換基の例には、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、エ−テル基、アルキルカルボニル基、シアノ基、チオエ−テル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基などが挙げられる。
また、R0が−CX4 2−O−Y4−R4である下記式(II)のペンタエリスリト−ル誘導体、及び多量体構造を有する下記式(III)で表されるオリゴペンタエリスリト−ル誘導体も好ましい。
Figure 2010126607
Figure 2010126607
式(I)〜(III)中、X1〜X4、X11〜X14、及びX21〜X24はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子(たとえば、フッ素原子、塩素原子)、又は置換基を表す。該置換基の例は、R0が表す置換基の例と同様である。中でもアルキル基が好ましい。X1〜X4、X11〜X14、及びX21〜X24はそれぞれ、水素原子又はハロゲン原子であるのが好ましい。
式(I)中、n1〜n3はそれぞれ0〜5の整数である。−(CX13)n1〜3の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、クロロエチレン基、及びテトラフルオロエチレン基などが挙げられる。
式(III)中、mは0〜8の整数であり、好ましくは0〜2の整数である。
式(I)〜(III)中、Y1〜Y4、Y11、Y12及びY21〜Y23はそれぞれ、単結合又は二価の連結基を表す。該二価基の例には、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のイミノ基、スルフィド基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及びアリ−レン基、又はそれらから選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基が含まれる。式(I)〜(III)中、Y1〜Y4、Y11、Y12及びY21〜Y23はそれぞれ、単結合、カルボニル基(−C(=O)−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、又は式中のO(酸素原子)と結合するカルボニル基(−C(=O)−)もしくはスルホニル基(−S(=O)2−)を含む二価の基であるのが好ましい。より具体的には、単結合、−C(=O)−、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)NHCH2−、−C(=O)CH2−、−C(=O)C48−、−S(=O)248−、−C(=O)C24−C(=O)−、−C(=O)C64−C(=O)−、−C(=O)C22−C(=O)−などが好ましい。中でも、下記式で表される二価基がさらに好ましい。
Figure 2010126607
式中、*は式中の酸素原子(O)と結合する部位を示し、**は式中のR1〜R4、R11、R12及びR21〜R23とそれぞれ結合する部位を示す。Z1及びZ2はそれぞれ炭素原子又はS(=O)を表し、炭素原子であるのが好ましい。Xは、単結合、直鎖状もしくは分岐鎖状の、置換もしくは無置換の、C1〜C8のアルキレン基、C2〜C8のアルケニレン基、もしくはC2〜C8のアルキニレン基(但し、炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい);置換もしくは無置換の、C3〜C15のシクロアルキレン基、シクロアルケニレンもしくはシクロアルキニレン基;置換もしくは無置換のC6〜C10のアリ−レン基;置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族の複素環基;−NH−;−NH−Alk−NH−(但し、AlkはC1〜C4のアルキレン基);−O−;−S−;又はそれらの一つ以上の組合せを表す。アルキレン基等の置換基の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が含まれる。Xの好ましい例としては、単結合、メチレン、エチレン、プロピレン、メチレンオキシメチレン、ビニレン、イミノ、テトラフルオロエチレン、イミノヘキシレンイミノ等の二価の基が挙げられる。
式(I)〜(III)中、R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C2以上のパ−フルオロアルキル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、置換もしくは無置換のC2以上の置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23の末端に存在するC8以上のアルキル基は、C12以上のアルキル基であるのが好ましい。また、C30以下のアルキル基であるのが好ましく、C24以下のアルキル基であるのがさらに好ましい。該アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。具体的には、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、オクタコシル、トリアコンチル、ペンタトリアコンチル、テトラコンチル、ペンタコンチル、ヘキサコンチル、オクタコンチル、デカコンチルが挙げられる。これらのアルキル基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子及び塩素原子)、水酸基、アミノ基、アルキルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アルコキシ基、シアノ基等が含まれる。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23の末端に存在するC1以上のパ−フルオロアルキル基は、C1〜C10のパ−フルオロアルキル基であるのが好ましく、C1〜C6のパ−フルオロアルキル基であるのがさらに好ましく、C1〜C4のパーフルオロアルキル基であるのがよりさらに好ましく、C1〜C2であるのが特に好ましい。例えば、トリフルオロメチル基、パ−フルオロエチル基、パ−フルオロプロピル基、パ−フルオロブチル基、パ−フルオロペンチル基、パ−フルオロヘキシル基、パ−フルオロヘプチル基、及びパ−フルオロオクチル基が挙げられる。
また、R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23の末端に存在するパーフルオロエーテル基は、−(Cn2n−O)nc−Cm2m+1で表され、n、n1、及びmはそれぞれ1以上の整数であり、nは1〜4の整数、ncは1〜20の整数、mは1〜10の整数であるのが好ましい。mは1〜6であるのがより好ましく、1〜4であるのがさらに好ましく、1〜2であるのが特に好ましい。ncは、1〜8であるのがより好ましく、3〜8であるのがさらに好ましい。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23の末端に存在する有機ポリシロキサン基は、Si3〜Si15の有機ポリシロキサン基であるのが好ましく、Si5〜Si10の有機ポリシロキサン基であるのがより好ましい。Siに結合している有機基は、メチル、エチル等のC1〜C4のアルキル基であるのが好ましい。有機ポリシロキサン基の例には、−(Si(Alk)2O)nSi(Alk)3(但し、AlkはC1〜C4のアルキル基であり、互いに同一でも異なっていてもよく、nは2〜20の数である)が含まれる。また、ノナメチルテトラシロキシ基、トリデシルメチルヘキサシロキシ基などが挙げられる。
また、R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ有する、置換もしくは無置換のC2以上のアルキレンオキシ基の例には、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、メチルエチレンオキシ、及びパ−フルオロエチレンオキシが含まれる。中でも、エチレンオキシ基の単位からなるオリゴエチレンオキシ基が好ましい。R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23はそれぞれ、これらのアルキレンオキシ基を1単位以上含む。4〜35単位含むのが好ましく、8〜25単位含むのがより好ましい。また、これらのオリゴエチレンオキシ基は、鎖長に分布をもっていてもよく、その場合は、単位の繰り返し数の平均が15〜25であることが好ましい。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ有する複数のアルキレンオキシ基は互いに異なっていてもよく、例えば、アルキレン部の鎖長が異なる複数種類の単位を含んでいてもよいし、及び/又はアルキレン部が無置換の単位と置換されている単位との双方を含んでいてもよい。アルキレンオキシ基のアルキレン部は、置換基を有していてもよく、置換基の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が含まれる。例えば、R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23が末端にC1以上のパ−フルオロアルキル基を有する場合は、一部の水素原子がフッ素原子で置換されているフッ素置換アルキレンオキシ基の単位(例えば、−CF2CF2O−、−CH2CF2O−、−CF2−CH2O−)を含んでいるのが好ましく、少なくとも末端のパ−フルオロ基に結合するアルキレンオキシ基の単位は、全部又は一部の水素原子がフッ素原子で置換されているのが好ましい。より具体的には、−(CF2CF2O)n−CmF2m+1(但し、nは1〜10の整数であり、mは2〜4の整数である)等を末端部に有しているのが好ましい。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23のそれぞれにおいて、末端の基と、複数のアルキレンオキシ単位とは、直接結合していても、二価の連結基を介して結合していてもよい。連結基の例には、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のイミノ基、スルフィド基、C1〜C6のアルキレン基、C6〜C16のシクロアルキレン基、C2〜C8のアルケニレン基、C2〜C5のアルキニレン基、及びC6〜C10のアリ−レン基、C3〜C10の複素環基から選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基であるのが好ましい。複数の組合せからなる連結基の例には、−CONH−、−CO−シクロへキシレン−、−CO−Ph−(但しPhはフェニレン基であり、以下同様である)、−CO−C≡C−Ph−、−CO−CH=CH−Ph−、−CO−Ph−N=N−Ph−O−、−Cn2n−NR−、(nは1〜4のアルキル基であり、Rは水素原子又はC1〜C4のアルキル基であり、右側が末端側に結合するものとする)、−N,N’−ピラジリジレン−が含まれる。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ表す有機基の一例は、下記式(Ia)で表され有機基である。
Figure 2010126607
式(Ia)中、Cは炭素原子を表し、Oは酸素原子を表し、Laは、単結合又は二価の連結基を表し;Xa1及びXa2はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し(好ましくは水素原子又はフッ素原子であり、より好ましくは水素原子である)、na1は1〜4の整数であるが、na1が2以上のとき、複数のXa1及びXa2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;na2は1〜35(好ましくは4〜20、より好ましくは4〜10)の数であり、Raは置換もしくは無置換のC12以上(好ましくはC8〜C30、より好ましくはC8〜C24である)のアルキル基である。
aはそれぞれ、単結合、又はカルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のイミノ基、スルフィド基、C1〜C6のアルキレン基、C6〜C16のシクロアルキレン基、C2〜C8のアルケニレン基、C2〜C5のアルキニレン基、及びC6〜C10のアリ−レン基、C3〜C10の複素環基から選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基であるのが好ましい。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ表す有機基の他の例は、下記式(Ib)で表される有機基である。
Figure 2010126607
式(Ib)中、式(Ia)中と同一の符号については同義であり、好ましい範囲も同様である。AlkはC1〜C4のアルキル基であり、互いに同一でも異なっていてもよい。nbは2〜20の数であり、好ましくは3〜10である。
1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ表す有機基の他の例は、下記式(Ic)で表される有機基である。
Figure 2010126607
式(Ic)中、式(Ia)中と同一の符号については同義であり、好ましい範囲も同様である。ncは1〜20の数であり、好ましくは3〜8である。mは1〜8の数であり、好ましくは1〜4である。nは1〜4の数である。
また、式(Ic)の好ましい一例は、以下の式(Ic’)で表される基である。
Figure 2010126607
式(Ia)及び(Ic)中と同一の符号については同義であり、好ましい範囲も同様である。nc1は1〜2であり、好ましくは1である。
式(I)〜式(III)で表される化合物はいずれも好ましいが、合成の観点からは、式(II)で表されるペンタエリスリト−ル誘導体が好ましい。
以下に、式(I)〜(III)でそれぞれ表される化合物の具体例を示すが、これら限定されるものではない。
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
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Figure 2010126607
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Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
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前記式(I)〜(III)で表される化合物は、基本的にグリセロール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールと側鎖構造体との連結により形成されるが、通常はエステル反応を用いることが多い。例えば、多価アルコールと側鎖カルボン酸の酸塩化物や側鎖構造のイソシアナート、または側鎖構造のハロゲン化アルキルとの縮合反応か、多価アルコールと無水コハク酸やメルドラム酸による開環型のエステル化によってカルボン酸を形成し、その酸塩化物と側鎖構造体のアルコールのエステル化等の種々の反応を組み合わせることで製造することができる。また側鎖構造部分は、長鎖アルキルアルコールやカルボン酸にエチレンオキサイドガスを付加させて得られるアルコールを用いるか、それにコハク酸、メルドラム酸、ハロカルボン酸を用いることで容易に製造することができる。
前記式(I)〜(III)で表される化合物の粘度圧力係数が小さいほど、高圧下での粘性は相対的に小さい。前記化合物の40℃における粘度圧力係数が、20GPa-1以下であるのが好ましい。15GPa-1以下であることはさらに好ましく、10GPa-1以下であることが特に好ましい。粘度圧力係数が小さいほど好ましいが、その分子の自由体積との相関関係があることが明らかにされており、有機化合物の上記条件の粘度圧力係数の下限値は5GPa-1程度と推察される。
前記式(I)、(II)及び(III)で表される化合物は、以下の式(IV)で表される化合物と構造上、共通の特徴がある。
A−{(D)−(E)q−(B)m−Z2−R}p (IV)
Aはp本以上の側鎖を有するp価のアルコ−ル残基を表す。pは2以上の整数を表す。Aの例には、ペンタエリスリト−ル、グリセロ−ル、オリゴペンタエリスリト−ル、キシリト−ル、ソルビト−ル、トリメチロ−ルプロパン、ジトリメチロ−ルプロパン、ネオペンチルグリコ−ル、ポリグリセリンなどが含まれる。
Dはそれぞれ、カルボニル基又はスルホニル基を表す。
Eはそれぞれ、置換もしくは無置換の、アルキレン基(好ましくはC1〜C10のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン)、シクロアルキレン基(好ましくはC3〜C8のシクロアルキレン基であり、例えばシクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン)、アルケニレン基(好ましくはC2〜C7のアルケニレン基であり、例えばエテン、プロペン、ブテン、ペンテン)、アルキニレン基(好ましくはC2〜C6のアルキニレン基であり、例えばエチン、プロピン、ブチン、ペンチン)及びアリ−レン基(好ましくはC6〜C10のアリーレン基であり、例えばフェニレン)、二価の複素芳香族環基、複素非芳香族環基、及び置換もしくは無置換のイミノ基、オキシ基、スルフィド基、スルフェニル基、スルホニル基、ホスホリル基、アルキル置換シリル基から選ばれる一つ以上の組合せからなる二価の基を表す。
qは0以上の整数を表し、qが2以上のとき、互いに異なっていてもよい。
Bは置換もしくは無置換の、メチレンオキシ基、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基又はブチレンオキシ基等のアルキレンオキシ基であり、複数個の連結するBは互いに異なっていてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が挙げられる。
mは、1以上の自然数である。
Rは、置換もしくは無置換のC8以上のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基又は有機ポリシロキサン基である。好ましい例は、前記式(I)〜(III)中の、R1〜R4、R11、R12及びR21〜R23がそれぞれ表す有機基中のこれらの基の好ましい例と同様である。
2は単結合、又はカルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、スルフィド基、アルケニレン基、アルキニレン基及びアリーレン基から選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基を表す。
前記式(IV)で表される化合物、及び前記式(I)〜(III)の化合物は、その共通する化学構造上の特徴により、油性媒体中に分散されると、高荷重、高圧力、高剪断場で次第に偏析し、高濃度化する過程で被膜を形成し、弾性流体潤滑領域では相対的に従来の潤滑素材に比較し、低粘度圧力係数(低α)であるがゆえに低摩擦性を示す。さらに、これらの化合物は、同様の理由(低α)で、粘弾性膜を維持する圧力範囲が広く、摺動面が接触するのを防止することができ、結果的に耐摩耗性を実現するものと推測している。
本発明者はこの現象を、トライボロジーの分野において弾性流体潤滑領域の評価を行なうための点接触EHL評価装置という機器の点接触している部分近傍をスペクトル的に観察することによって、その高荷重、高剪断場での物質濃度の変化を定量的に捉えることに成功した。具体的には、以下の通りの方法で観察した。まず、前記化合物を油性媒体中に分散して試料を調製する。別途、回転している鋼鉄球を、その回転軸を平行にして、ダイアモンド(硬質平面)板に設置し、軸に荷重をかけて、圧力下接触させる。調製した試料を供給して、回転している鋼鉄球とダイヤモンド板との間隙及びその近傍に流す。
鋼鉄球がダイアモンド板に点接触している部分には光学的な干渉模様であるニュートンリングが形成されるが、ダイアモンド板を介して鋼鉄球と逆側から赤外光を照射すると鋼鉄球に反射することで、ニュートンリング近傍の試料の薄膜のIRスペクトルが測定できる。この方法は、石川潤一、七尾英孝、南一郎、森誠之、トライボロジー会議予稿集(鳥取、2004−11)、243頁に記載されているトライボロジー分野での微小部分の解析方法であり、特別なものではないが、鋼鉄球の回転速度、回転軸への負荷、試料の温度を変えることで、様々な弾性流体潤滑条件での挙動を、その場観察することができ、有効な方法である。
測定に用いる試料の調製に用いる油性媒体として、鉱物油やポリ−α−オレフィンを用いると、これらは炭化水素であるから、C−C及びC−H以外の特性吸収がない。よって、前記化合物が、例えば、エステル結合のカルボニル基、シアノ基、エチニル基、パーフルオロアルキル基、及びシロキサン基等の明瞭で高強度の特性吸収帯を示す官能基を有すると、その特性吸収帯の強度から、濃度の変化を定量的に検出できる。
上記の装置を用いて観察したところ、ニュートンリングが形成されるいわゆる高圧力、高剪断場であるヘルツ接触域において、試料の流れが隔てられてできたろうそくの炎のかたちの、例えば後方20〜400μmの間の領域に、前記化合物が徐々に偏析してくることが分かった。温度などの条件によって異なるが、測定温度:40℃、線速度:0.15m/sec.Hertz圧力:0.3GPaの条件下、ほぼ5分から2時間ほどで、凡そ一定濃度に達することが多い。
上記の点接触EHL評価装置は、高圧力、高剪断条件下のヘルツ接触域すなわち真実接触部位のモデルであり、実際の摩擦接触域は、そのような真実接触域が密集しているような領域であるから、油性媒体中に前記化合物を含む本発明の組成物は、そのような摩擦接触域の多数の真実接触域近傍で、前記化合物を蓄積させることになると考えられる。
従って、油性媒体より高粘性の前記化合物が摺動部に偏析し、高剪断力により平滑膜を形成することで、その間隙が通常よりさらに狭まるため、これら低粘性油性媒体がより薄膜化することで流体潤滑の低摩擦化に寄与し、流体潤滑領域では、その駆動機械はエネルギー的に高効率に駆動する。そして、高荷重、高圧力場では、恐らく低粘性な油性媒体が弾塑性体膜から破断する前に、次第に前記化合物が蓄積するので低粘性な油性媒体に分散された前記化合物の粘度圧力係数αが小さい場合には、相対的により低粘性になり、その摩擦部位では、当該化合物による低粘性な弾性流体潤滑膜によって低摩擦係数が発現する。このような高荷重条件下では界面素材の弾性歪みによって接触面積が増大し、その部分の圧力も低化するため、一層穏和な条件が実現し、現行潤滑油では、既に境界潤滑領域に入る条件でも、前記化合物の低粘性の弾性流体潤滑膜によって両方の界面がほとんど接触しない良好な潤滑領域が維持されることになる。その結果、省燃費に繋がることになる。
モリブデン系有機金属錯体を含む最近の省燃費型エンジンオイルは、40℃の粘性が30mPa・s以下の低粘性を示し、0W−20などのマルチグレード低粘性油として上市されている。しかし、上記した通り、本発明の組成物では、前記化合物が、低粘性基油が破断する前に弾性流体潤滑膜を形成することで、高温での高圧力、高剪断条件下、同様の低摩擦、耐摩耗性の効果を発現させることができる。また、この厳しい条件でも実質的な低粘性は弾性流体膜によって発現され、穏和な条件では低粘性基油が優先的に機能するため、現行潤滑剤のような粘度指数向上剤に起因する中〜低温での粘性の増加が起こらない。
また、本発明の組成物の皮膜形成性は、界面との反応を基本的に利用していないので、界面の材質には制限されない。さらに、前記化合物は、基本的に、熱に強く、化学的にも安定であるために、相対的に顕著に高耐久性である。また、その摩擦部分が高荷重条件でなくなり、高温になれば、再び油性媒体中に分散することになり、総量は常に維持されることになる。必要なところに、必要なだけ蓄積し、低摩擦を発現し、要らなくなればまた油性媒体に分散されるという、極めてインテリジェントな潤滑剤組成物である。
一方、前記化合物が高αを示す場合は、クラッチなどの摩擦によって動力を伝達するような部位に用いられるトラクションオイルとして、有効に機能する。従来の高機能トラクションオイルは、そのオイル全てが高粘度圧力係数であるような、剛直な構造の炭化水素が用いられてきたが、その欠点はそれ自身の常圧粘度も相対的に高くならざるを得ない点である。それは通常の状態の駆動効率を下げることになる。ところが、前記化合物のうち、高粘度圧力係数の素材を低粘性の油性媒体に分散させた組成物は、燃費効率と動力の効率的伝達の両立を可能にする。トランスミッションオイルの大部分を占める低粘性の油性媒体が、駆動力の伝達部分以外の領域の粘性による摩擦ロスを有効に低減できる。接触する部分にのみ高摩擦係数を発現する物質が蓄積するので、油性媒体と本発明の化合物の物性の様々な組合せが可能であり、トランスミッションの多くの要請を満足する組合せを安価に提供することが可能になる。
2. 油性媒体
本発明において、「油性媒体」とは、一般的に「油」とよばれている媒体の全てを意味するものである。但し、室温又は使用される温度において、液状であることは必要とせず、液体以外にも固体及びゲル等のいずれの形態の材料も利用することができる。本発明において利用する油性媒体については特に制限はなく、用途に応じて種々の油から選択することができる。より具体的には、潤滑油のベースオイルに用いられる鉱物油や食用油まで含めた動物性・植物性の油脂化合物;並びに、ポリオレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、ビフェニル油、ジフェニルアルカン油、ジ(アルキルフェニル)アルカン油、エステル油、ポリグリコール油、ポリフェニルエーテル油、フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油、及びイオン流体等の各種化学合成油;等の種々の油から選択することができる。本発明の組成物を潤滑油の代替として利用する態様では、摩擦特性の点から、鉱物油、ポリオレフィン油、及びシリコーン油が好ましく用いられる。
以下、それぞれについて詳細に説明する。
鉱物油としては、石油精製業の潤滑油製造プロセスで通常行われている方法により得られる鉱物油を利用することができる。より具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、及び白土処理等から選択される1種又は2種以上の精製手段を適宜組み合わせて精製することによって得られる、パラフィン系又はナフテン系等の鉱物油を用いることができる。
また、油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、ひまわり油、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、あるいはこれらの水素添加物等を用いることができる。
生分解性油としては、例えば、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油などの、植物の果実や種子などから採取される、生分解性を有する種々の植物油又は合成油を利用することができる。また、特開平6−1989号公報に開示されているポリオールエステル油が好適に使用される。合成油であっても、生分解性の評価法であるCEC(欧州規格諮問委員会)規格L−33−T82に規定された方法に準じて、通常21日後の生分解率が67%以上(好ましくは80%以上)の生分解性を示すものは、生分解性油として利用することができる。
また、ポリオレフィン油は、炭素原子数2〜12のオレフィンを1種又は2種以上重合させて得られるものから選択されるのが好ましい。また、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、又は炭素原子数5〜12の直鎖状末端オレフィン(以下、α−オレフィンと呼ぶ)を1種又は2種以上重合させたものがより好ましい。
これらの中でも、エチレンとプロピレンとの共重合体;エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンとの共重合体;ポリブテン、ポリイソブテン、又は炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体が好ましく、エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンの共重合体、炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体がより好ましい。本明細書において、「エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンとの共重合体」とは、エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィン1種、もしくは2種以上が重合した共重合体をいい、炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体とは、炭素原子数5〜12のα−オレフィン1種が重合した単独重合体、もしくは2種以上が重合した共重合体をいう。
上記のエチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンとの共重合体及び炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体の平均分子量は500〜4000であることが好ましい。
また、シリコーン油は、種々の有機ポリシロキサンから選択することができる。シリコーン油として使用可能な有機ポリシロキサンの例には、下記一般式、
Figure 2010126607
(但し、式中、R51及びR52はそれぞれ、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表わし、R1とR2は同一であっても、異なっていてもよい。)で示される繰り返し単位を有するポリマーが含まれる。該繰り返し単位の一種のみからなる、いわゆるホモポリマー型有機ポリシロキサンであってもよいし、二種以上の組み合せによるランダム型、ブロック型もしくはグラフト型のコポリマー型有機ポリシロキサンであってもよい。シリコーン油としては、常温で液体もしくはペースト状である直鎖状ポリシロキサン、例えば、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、エチルポリシロキサン、エチルメチルポリシロキサン、エチルフェニルポリシロキサン、ヒドロキシメチルポリシロキサン、アルキルポリジメチルシロキサン及び、環状ポリシロキサン、例えばオクタメチルシクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、あるいはこれらの混合物より選択されることが好ましい。
パーフルオロポリエーテル油は、脂肪族炭化水素ポリエーテルの水素原子をフッ素原子で置換した化合物から選択することができる。そのようなパーフルオロポリエーテル油の例には、下記式(X)及び(XI)で示される側鎖を有するパーフルオロポリエーテル、及び下記式(XII)〜(XIV)で示される直鎖状のパーフルオロポリエーテルが含まれる。これらの1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合して使用することもできる。なお、下記式中、m及びnは整数である。
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
上記式(X)の市販品としてはフォンブリンY(モンテジソン社商品名)を、(XI)の市販品としてはクライトックス(デュポン社商品名)やバリエルタJ オイル(クリーバー社商品名)を、(XII)の市販品としてはフォンブリンZ(モンテジソン社商品名)を、(XIII)の市販品としてはフォンブリンM(モンテジソン社商品名)を、(XIV)の市販品としてはデムナム( ダイキン社商品名)等をそれぞれ例示できる。
芳香族エステル油は、好ましくは下記一般式(XV)で表されるトリメリット酸エステル油から選択される。
Figure 2010126607
式中R54、R55、及びR56はそれぞれ、炭素原子数が6〜10の炭化水素基であり、R54、R55、及びR56は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、「炭化水素基」は、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐アルキル基を意味する。
また、芳香族エステル油は、下記一般式(XVI)で表されるピロメリット酸エステル油から選択されるのも好ましい。
Figure 2010126607
式中、R57、R58、R59、及びR60はそれぞれ、炭素原子数が6〜15の炭化水素基であり、R57、R58、R59、及びR60は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、「炭化水素基」は、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐アルキル基を意味する。
耐熱性に優れた基油としては、ポリフェニルエーテル油、シリコーン油、フッ素油等が知られているが、ポリフェニルエーテル油、フッ素油、及びシリコーン油は高価であり、フッ素油やシリコーン油は一般的に潤滑性が悪い。これに対して上記トリメリット酸エステル油やピロメリット酸エステル油のような芳香族エステル油は耐熱性、耐酸化性、耐摩耗性に優れた特性を有する。特に、上記一般式(XV)又は(XVI)で表される芳香族エステル油は流動点も低く、粘度指数も高いので、極低温から高温まで使用環境を要求される自動車電装補機用転がり軸受には好適に使用される。尚且つ、安価であり、入手も容易である。
このようなトリメリット酸エステルとして、花王(株)製「トリメックスT−08」、「N−08」、旭電化工業(株)製「アデカプルーバーT−45」、「T−90、PT−50」「UNIQEMA E MKARATE8130」、「EMKARATE9130」、「EMKARATE1320」等を市場から入手できる。また、ピロメリット酸エステルとして、旭電化工業(株)製「アデカプルーバーLX−1891」、「アデカプルーバーLX−1892」、Cognis社製「BISOLUBETOPM」等を市場から入手できる。これらは、流動点が低く、本発明に好適に使用できる。
下記式のジフェニルエーテル油も好ましい。該ジフェニルエーテル油を用いることにより、耐熱性及び耐久性に優れた(例えば、160℃を越える高温でも優れた潤滑性を長期に維持できる)潤滑剤組成物を調製することができる。特に、自動車電装部品や自動車エンジン補機等の高温高速で使用される部位に好適に使用できる。
Figure 2010126607
前記式中、R61及びR62はそれぞれ、同一又は異なる、直鎖もしくは分岐鎖パーフルオロアルキル基、又はその部分置換体を表す。ここで、パーフルオロアルキル基の部分置換体とは、フッ素原子又は水素原子の一部が塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水酸基、チオール基、アルコキシ基、エーテル基、アミノ基、ニトリル基、ニトル基、スルホニル基、スルフィニル基あるいはエステル基、アミノ基、アシル基、アミド基、カルボキシル基等のカルボニル含有基等の置換基で置換されたもの、あるいは主鎖の一部がエーテル構造のものである。
また、R61及びR62中の炭素原子数は、1〜25であり、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3である。炭素原子数が25より多くなると、原料の入手あるいは合成が困難となる。
更に、R&1及びR62中のフッ素原子数/炭素原子数の比は、0.6〜3、好ましくは1〜3、より好ましくは1.5〜3である。
前記式中、R63、R64、及びR65中の1つは、水素原子で、残りの2つは同一又は異なる分岐アルキル基を表す。また、炭素原子数は10〜26、好ましくは12〜24である。炭素原子数が10未満では蒸発量が多くなり、26より多くなると低温での流動性が乏しくなり、使用上問題になる。具体的には、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ナノデシル基、エイコシル基等が挙げられ、これらの分岐を有するものでもよい。
油性媒体中に、上記式で表されるジフェニルエーテル油を、50〜100質量%利用してもよく、60〜80質量%利用してもよい。上記範囲であると耐熱性がより改善される。ジフェニルエーテル油と併用する油としては、エステル系合成油及びポリα−オレフィン油が好ましい。
トラクションオイル用基油として利用されている材料を、油性媒体として利用することができる。トラクションオイル用基油は、通常炭化水素から選択される。シクロヘキサン環、デカリン環、ビシクロヘプタン環、ビシクロオクタン環等の環状構造を分子内に有する炭化水素が好ましい(特開2000−109871号公報参照)。
例えば、シクロヘキサン環を有する飽和炭化水素化合物の例には、特公平3−80191号、特公平2−52958号、特公平6−39419、特公平6−92323号等の各公報に記載の化合物が含まれ;デカリン環を有する飽和炭化水素化合物の例には、特公昭60−43392号、特公平6−51874公報の各公報に記載の化合物が含まれ;ビシクロヘプタン環を有する飽和炭化水素化合物の例には、特公平5−31914号、特公平7−103387号等の各公報に記載の化合物が含まれ、より具体的には、1−(1−デカリル)−2−シクロヘキシルプロパン;1−シクロヘキシル−1−デカリルエタン;1,3−ジシクロヘキシル−3−メチルブタン;2,4−ジシクロヘキシルペンタン;1,2−ビス(メチルシクロヘキシル)−2−メチルプロパン;1,1−ビス(メチルシクロヘキシル)−2−メチルプロパン;2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンが含まれる。また、ビシクロオクタン環を有する飽和炭化水素化合物の例には、特開平5−9134号等公報に記載の化合物が含まれる。
イオン性液体(イオン液体)は難燃性・不揮発性・高極性・高イオン伝導性・高耐熱性などの性質を有している。これらの性質から、環境に優しいグリーンケミストリー用反応溶媒や安全で高性能の次世代電解質としての用途が期待されている。本発明では、当該イオン性液体を油性媒体として利用することができる。イオン性液体(イオン液体)にはさまざまな種類があるが、アンモニウム塩、コリン塩、リン酸塩、ピラゾリン塩、ピロリジン塩、イミダゾリウム塩、ピリジン塩等の含窒素複素環化合物の四級塩、スルホニウム塩などがあげられる。
本発明に用いる油性媒体は、一般に、燃料として用いるに有用な石油炭化水素、例えば内燃機関の場合のガソリンなどを用いることができる。そのような燃料は、典型的に様々な種類の炭化水素の混合物であり、その成分の例には、直鎖及び分岐鎖パラフィン、オレフィン、芳香族及びナフテン系炭化水素、及び火花点火ガソリンエンジンに用いられるに適する他の液状炭化水素系材料が含まれる。
このような組成物はいろいろな等級、例えば無鉛及び鉛含有ガソリンなどとして供給され、典型的には、通常の精製方法及びブレンド方法、例えば直留分溜、熱分解、水素化分解、接触分解及びいろいろな改質方法を利用して、石油の原油から誘導される。ガソリンは、ASTM D86蒸留方法で測定した時の初期沸点が、約20〜60℃の範囲で、最終沸点が約150〜230℃の範囲の液状炭化水素もしくは炭化水素−酸素化物の混合物として定義されるであろう。この酸素化物としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、及びC1〜C5混合アルコール等のアルコール;例えば、メチル−t−ブチルエーテル、t−アミルエチルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル、及び混合エーテル等のエーテル;ならびに例えばアセトン等のケトン;が含まれる。
本発明では、油性媒体として、上記例示した油の1種を単独で使用してもよいし、2種以上の異なるものを混合して使用してもよい。
また、鉱油は、樹脂製部材に対する濡れ性が不十分な場合があり、樹脂製部材に対する潤滑性や低摩擦性等の観点では、鉱油以外の油を油性媒体として用いるのが好ましく、具体的には、ポリオレフィン油、シリコーン油、エステル油、ポリグリコール油、ポリフェニルエーテル油が好ましい。
また、エステル油は、樹脂製部材やゴム製部材に悪影響を与える場合があり、樹脂製部材やゴム製部材に対する悪影響を防止するという観点では、エステル油以外の油を油性媒体に用いることが好ましく、具体的には、鉱油、ポリオレフィン油、シリコーン油、ポリグリコール油、ポリフェニルエーテル油が好ましい。
双方の観点では、ポリオレフィンが好ましく、中でも、エチレンとプロピレンとの共重合体;エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンとの共重合体;ポリブテン、ポリイソブテン、又は炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体がより好ましく、エチレンと炭素原子数5〜12のα−オレフィンの共重合体、炭素原子数5〜12のα−オレフィンの重合体が更に好ましい。
3. 本発明の組成物の調製方法
本発明の組成物は、前記式(I)〜(III)で表される化合物を、油性媒体中に添加し、溶解及び/又は分散させることで調製することができる。溶解及び/又は分散は、加温下で行ってもよい。前記式(I)〜(III)で表される化合物の添加量は、油性媒体の質量に対して、0.1〜10質量%程度で添加されるのが好ましい。但し、この範囲に限定されるものではなく、上記化合物が、摩擦低減作用を示すのに充分な量であれば、上記範囲外であっても勿論よい。
本発明の組成物は、上記式(I)〜(III)の化合物及び油性媒体とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、1種以上の添加剤を含有していてもよい。該添加剤の例には、分散剤、洗浄剤、抗酸化剤、担体流体、金属不活性化剤、染料、マーカー、腐食抑制剤、殺生物剤、帯電防止添加剤、抗力低下剤、抗乳化剤、乳化剤、曇り防止剤、氷結防止添加剤、アンチノック添加剤、アンチバルブシートセッション添加剤、潤滑添加剤、界面活性剤、及び燃焼向上剤が含まれる。また、潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
以下、いくつかの添加剤について、具体例を説明する。
磨耗防止剤:
内燃機関の潤滑油は、内燃機関のために適切な摩耗防止保護を提供するために摩耗防止剤及び/又は極圧(EP)添加剤の存在を必要とする。エンジン油のための仕様書は、油の摩耗防止特性の改善に関する傾向をますます示してきた。摩耗防止剤及びEP添加剤は、金属部品の摩擦及び摩耗を減少させることにより、この役割を果たす。異なる多くのタイプの摩耗防止剤が存在する一方で、数十年にわたって内燃機関のクランクケース油のための主たる摩耗防止剤は、一次金属成分が亜鉛又はジアルキルジチオ燐酸亜鉛(ZDDP)である金属アルキルチオホスフェート、特に金属ジアルキルジチオホスフェートである。ZDDP化合物は、一般に、式:Zn[Sn(S)(OR71)(OR72)]2(式中、R71及びR72は、C1〜C18アルキル基、好ましくはC2〜C12アルキル基である)の化合物である。これらのアルキル基は直鎖又は分岐であってもよい。ZDDPは、組成物中に、一般的には約0.4〜1.4質量%の量で用いられる。但し、この範囲に限定されるものではない。
しかし、これらの添加剤の燐が触媒コンバーター中の触媒に、及び自動車の酸素センサーにも有害な影響を及ぼすことが分かっている。この影響を最少にする一方法は、燐のない摩耗防止剤をZDDPの一部又は全部の代わりに用いることである。したがって、様々な非燐添加剤も摩耗防止剤として用いることができる。硫化オレフィンは摩耗防止剤及びEP添加剤として有用である。硫黄含有オレフィンは、約3〜30個の炭素原子、好ましくは3〜20個の炭素原子を含む脂肪族、アリール脂肪族又は脂環式オレフィン炭化水素を含む種々の有機材料の硫化によって調製することが可能である。オレフィン化合物は少なくとも一個の非芳香族二重結合を含む。こうした化合物は式:
7374C=CR7576によって定義される。
式中、R73〜R76の各々は独立して水素又は炭化水素基である。好ましい炭化水素基はアルキル基又はアルケニル基である。環式環を形成させるためにR73〜R76のいずれか二個が連結していてもよい。硫化オレフィン及び硫化オレフィンの調製に関する追加情報は米国特許第4,941,984号明細書中に記載があり、参照することができる。
チオ燐酸及びチオ燐酸エステルの多硫化物の潤滑油添加剤としての使用は、米国特許第2,443,264号明細書、米国特許第2,471,115号明細書、米国特許第2,526,497号明細書、及び米国特許第2,591,577号明細書に開示されている。摩耗防止剤、酸化防止剤及びEP添加剤としての二硫化ホスホロチオニルの添加は、米国特許第3,770,854号明細書で開示されている。モリブデン化合物(例えば、オキシモリブデンジイソプロピルホスホロジチオエートスルフィド)及び燐エステル(例えば、ジブチル水素ホスフィット)と組み合わせたアルキルチオカルバモイル化合物(例えば、ビス(ジブチル)チオカルバモイル)の潤滑油中の摩耗防止剤としての使用は米国特許第4,501,678号明細書で開示されている。米国特許第4,758,362号明細書には、改善された摩耗防止特性及び極圧特性を提供するためにカルバメート添加剤の使用が開示されている。摩耗防止剤としてのチオカルバメートの使用は、米国特許第5,693,598号明細書で開示されている。モリ−硫黄アルキルジチオカルバメートトリマー錯体(R=C8〜C12アルキル)などのチオカルバメート/モリブデン錯体も有用な摩耗防止剤である。
グリセロールのエステルを、摩耗防止剤として用いてもよい。例えば、モノオレエート、ジオレエート及びトリオレエート、モノパルミテート及びモノミリステートを用いてもよい。
ZDDPと他の摩耗防止剤とを組み合わせてもよい。米国特許第5,034,141号明細書には、チオジキサントゲン化合物(例えばオクチルチオジキサントゲン)及び金属チオホスフェート(例えばZDDP)の組み合わせが摩耗防止特性を改善できることが開示されている。米国特許第5,034,142号明細書には、ZDDPと組み合わせた金属アルキオキシアルキルキサンテート(例えばニッケルエトキシエチルキサンテート)及びジキサントゲン(例えば、ジエトキシエチルジキサントゲン)の使用が摩耗防止特性を改善することが開示されている。
好ましい摩耗防止剤には、ジチオ燐酸亜鉛及び/又は硫黄、窒素、硼素、モリブデンホスホロジチオエートなどの燐及び硫黄化合物、モリブデンジチオカルバメート、及びヘテロ環式化合物、例えば、ジメルカプトチアジアゾール、メルカプトベンゾチアジアゾール及びトリアジンなどを含む種々の有機モリブデン誘導体が挙げられ、脂環式化合物、アミン、アルコール、エステル、ジオール、トリオール及び脂肪酸アミンなども用いることが可能である。こうした添加剤は、約0.01〜6質量%、好ましくは約0.01〜4質量%の量で用いてもよい。
粘度指数向上剤:
粘度指数向上剤(VI向上剤、粘度調整剤及び粘度向上剤としても知られている)は、高温運転適性及び低温運転適性を組成物に与える。これらの添加剤は、高温での剪断安定性及び低温での許容可能な粘度を付与する。
適する粘度指数改善剤の例として、高分子量炭化水素、ポリエステル及び粘度指数向上剤と分散剤の両方として機能する粘度指数向上剤分散剤が挙げられる。これらのポリマーの典型的な分子量は、約10,000〜1,000,000の間、より典型的には約20,000〜500,000、なおより典型的には約50,000〜200,000の間である。
適する粘度指数向上剤の例には、メタクリレート、ブタジエン、オレフィン又はアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマーが含まれる。ポリイソブチレンは一般に用いられる粘度指数向上剤である。適するもう一種の粘度指数向上剤は、ポリメタクリレート(例えば、種々の鎖長のアルキルメタクリレートのコポリマー)であり、その一部の配合物は、流動点降下剤としても機能する。適する他の粘度指数向上剤には、エチレンとプロピレンのコポリマー、スチレンとイソプレンの水素添加ブロックコポリマー及びポリアクリレート(例えば、種々の鎖長のアクリレートのコポリマー)が挙げられる。特定の例には、分子量50,000〜200,000のスチレン−イソプレン系ポリマー又はスチレン−ブタジエン系ポリマーが挙げられる。
粘度指数向上剤は、約0.01〜8質量%、好ましくは約0.01〜4質量%の量で用いてもよい。
酸化防止剤:
酸化防止剤は、併用される油の酸化劣化を遅らせる作用がある。こうした劣化は、金属表面上の堆積物、スラッジの存在又は潤滑油の粘度増加を招きうる。潤滑油組成物中で有用な様々な酸化防止剤については、例えば、「クラマン潤滑剤及び関連製品(Klamann in Lubricants and Related Products)」、フロリダ州ディアフィールドビーチのフェアラークヘミー(Verlag Chemie(Deerfield Beach,FL)、ISBN0−89573−177−0)、並びに米国特許第4.798,684号明細書及び米国特許第5,084,197号明細書に記載があり、参照することができる。
有用な酸化防止剤には、ヒンダードフェノールが挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、無灰(無金属)フェノール系化合物あるいは特定のフェノール系化合物の中性金属塩又は塩基性金属塩であってもよい。典型的なフェノール系酸化防止剤化合物は、立体的に封鎖されたヒドロキシル基を含む化合物であるヒンダードフェノール化合物であり、これらには、ヒドロキシル基が互いにo−位置又はp−位置にあるジヒドロキシアリール化合物の誘導体が挙げられる。典型的なフェノール系酸化防止剤には、C6+アルキル基で置換されたヒンダードフェノール及びこれらのヒンダードフェノールのアルキレン連結誘導体が挙げられる。この種のフェノール系材料の例には、2−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール、2−t−ブチル−4−オクチルフェノール、2−t−ブチル−4−ドデシルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ドデシルフェノール、2−メチル−6−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール及び2−メチル−6−t−ブチル−4−ドデシルフェノールが挙げられる。有用な他のヒンダードモノフェノール系酸化防止剤には、例えば、ヒンダード2,6−ジ−アルキル−フェノール系プロピオン酸エステル誘導体を挙げることができる。ビス−フェノール系酸化防止剤も、本発明と組み合わせて有利に用いることが可能である。オルト連結フェノールの例には、2,2'−ビス(6−t−ブチル−4−ヘプチルフェノール)、2,2'−ビス(6−t−ブチル−4−オクチルフェノール)及び2,2'−ビス(6−t−ブチル−4−ドデシルフェノール)が挙げられる。パラ連結ビスフェノールには、例えば、4,4'−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)及び4,4'−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)が挙げられる。
使用可能な非フェノール系酸化防止剤には、芳香族アミン酸化防止剤を挙げることができ、これらは、それ自体単独又はフェノールと組み合わせてのいずれかで用いてもよい。非フェノール系酸化防止剤の典型的な例には、式:R787980N[式中、R78は脂肪族基、芳香族基又は置換芳香族基であり、R79は芳香族基又は置換芳香族基であり、R80はH、アルキル、アリール又はR81S(O)x82(ここで、R81はアルキレン、アルケニレン又はアラルキレン基であり、R82は、より高級のアルキル基又はアルケニル、アリール又はアルカリール基であり、xは0、1又は2である)]の芳香族モノアミンなどのアルキル化芳香族アミン及び非アルキル化芳香族アミンが挙げられる。脂肪族基R78は1〜約20個の炭素原子を含んでもよく、好ましくは約6〜12個の炭素原子を含む。脂肪族基は飽和脂肪族基である。好ましくは、R78とR79の両方は芳香族基又は置換芳香族基であり、芳香族基は、ナフチルなどの縮合環芳香族基であってもよい。芳香族基R78及びR79は、Sなどの他の基と合わせて連結してもよい。
典型的な芳香族アミン系酸化防止剤は、少なくとも約6個の炭素原子のアルキル置換基を有する。脂肪族基の例には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル及びデシルが挙げられる。一般に、脂肪族基は約14個を上回る炭素原子を含まない。本組成物中で有用なアミン系酸化防止剤の一般タイプには、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、フェノチアジン、イミドジベンジル及びジフェニルフェニレンジアミンが挙げられる。二種以上の芳香族アミンの混合物も有用である。高分子アミン酸化防止剤も用いることが可能である。本発明において有用な芳香族アミン酸化防止剤の特定の例には、p,p'−ジオクチルジフェニルアミン、t−オクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン及びp−オクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミンが挙げられる。
硫化アルキルフェノール及びそれらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩も有用な酸化防止剤である。低硫黄過酸化物分解剤は酸化防止剤として有用である。
本発明の組成物中に用いられる酸化防止剤のもう一つのクラスは油溶性銅化合物である。適するいかなる油溶性銅化合物も潤滑油中にブレンドしてもよい。適する銅酸化防止剤の例には、銅ジヒドロカルビルチオホスフェート又は銅ジヒドロカルビルジチオホスフェート及びカルボン酸の銅塩(天然又は合成)が挙げられる。適する他の銅塩には、銅ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート及びアセチルアセトネートが挙げられる。アルケニルコハク酸又は酸無水物から誘導された塩基性、中性又は酸性銅(I)及び/又は銅(II)塩は特に有用であることが知られている。
好ましい酸化防止剤には、ヒンダードフェノール、アリールアミン、低硫黄過酸化物分解剤及び他の関連成分が挙げられる。これらの酸化防止剤は、タイプ別に個々に、又は互いに組み合わせて用いてもよい。こうした添加剤は、約0.01〜5質量%、好ましくは約0.01〜1.5質量%の量で用いてもよい。
清浄剤:
清浄剤は潤滑油組成物中に一般的に用いられる。典型的な清浄剤は、分子の長鎖親油性部分及び分子のより小さいアニオン部分又は疎油性部分を含むアニオン材料である。清浄剤のアニオン部分は、典型的には、サルファ酸、カルボン酸、燐酸、フェノール又はそれらの混合物などの有機酸から誘導される。対イオンは、典型的には、アルカリ土類金属又はアルカリ金属である。
実質的に化学量論量の金属を含む塩は中性塩と表現され、0〜8の全塩基価(ASTMD2896によって測定されるTBN)を有する。多くの組成物は、過剰の金属化合物(例えば、金属水酸化物又は金属酸化物)と酸性ガス(二酸化炭素など)の反応によって達成される大量の金属塩基を含有して、過塩基化されている。有用な清浄剤は、中性であることが可能であるか、軽く過塩基化されうるか、又は非常に過塩基化されうる。
少なくとも多少の清浄剤が過塩基化されることが望ましい。過塩基化された清浄剤は、燃焼プロセスによってもたらされた酸性不純物を中和するのを助け、油中に閉じ込められることになる。典型的には、過塩基化された材料は、当量基準で約1.05:1〜50:1の清浄剤の金属イオン対アニオン部分の比を有する。より好ましくは、比は約4:1〜約25:1である。得られた清浄剤は、典型的には約150以上、多くの場合に約250〜450以上のTBNを有する過塩基化された清浄剤である。好ましくは、過塩基化するカチオンは、ナトリウム、カルシウム又はマグネシウムである。異なるTBNの清浄剤の混合物を本発明において用いることが可能である。
好ましい清浄剤には、スルフェート、フェネート、カルボキシレート、ホスフェート及びサリシレートのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられる。
スルホネートは、アルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化によって典型的に得られるスルホン酸から調製してもよい。炭化水素の例には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル及びそれらのハロゲン化誘導体(例えば、クロロベンゼン、クロロトルエン及びクロロナフタレン)のアルキル化によって得られるものが挙げられる。アルキル化剤は、典型的には約3〜70個の炭素原子を有する。アルカリールスルホネートは、典型的には約9〜約80個以上の炭素原子、より典型的には約16〜60個の炭素原子を含む。
潤滑油中の清浄剤及び分散剤として有用な、種々のスルホン酸の過塩基化された金属塩の多くが開示されている。分散剤/清浄剤として有用な過塩基性化されたスルホネートの多くが同様に開示されている。本発明にこれらを用いることもできる。
アルカリ土類金属フェネートは清浄剤のもう一つの有用なクラスである。これらの清浄剤は、アルカリ土類金属水酸化物又は酸化物(例えば、CaO、Ca(OH)2、BaO、Ba(OH)2、MgO、MG(OH)2)とアルキルフェノール又は硫化アルキルフェノールの反応によって製造することが可能である。有用なアルキル基には、直鎖又は分岐C1〜C30アルキル基、好ましくはC4〜C20アルキル基が挙げられる。適するフェノールの例には、イソブチルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、ノニルフェノール及び1−エチルデシルフェノールなどが挙げられる。出発アルキルフェノールが、それぞれ独立して直鎖又は分岐である1個を上回るアルキル置換基を含んでもよいことが注意されるべきである。非硫化アルキルフェノールを用いる時、硫化製品は技術上周知された方法によって得てもよい。これらの方法には、アルキルフェノールと硫化剤(元素硫黄及び二塩化硫黄などの硫黄ハロゲン化物などを含む)の混合物を加熱し、その後、硫化フェノールをアルカリ土類金属塩基と反応させることを含む。
カルボン酸の金属塩も清浄剤として有用である。これらのカルボン酸清浄剤は、塩基性金属化合物を少なくとも一種のカルボン酸と反応させ、反応生成物から遊離水を除去することにより調製してもよい。これらの化合物は、所望のTBNレベルをもたらすために過塩基化してもよい。サリチル酸から製造された清浄剤はカルボン酸から誘導された清浄剤の好ましい一つのクラスである。有用なサリチル酸には、長鎖アルキルサリシレートが挙げられる。組成物の有用な一つの系統は以下の式のものである。
Figure 2010126607
式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜約30のアルキル基であり、nは1〜4の整数であり、Mはアルカリ土類金属である。好ましいR基は、少なくともC11、好ましくはC13以上のアルキル鎖である。Rは、清浄剤の機能を妨げない置換基で任意に置換されてもよい。Mは、好ましくは、カルシウム、マグネシウム又はバリウムである。より好ましくは、Mはカルシウムである。
ヒドロカルビル置換サリチル酸は、コルベ反応によってフェノールから調製してもよい。これらの化合物の合成に関する追加的情報については、米国特許第3,595,791号明細書を参照することができる。ヒドロカルビル置換サリチル酸の金属塩は、水又はアルコールなどの極性溶媒中での金属塩の複分解によって調製してもよい。
アルカリ土類金属ホスフェートも清浄剤として有用である。
清浄剤は、単純清浄剤、あるいは混成(ハイブリッド)清浄剤又は複合清浄剤として知られている清浄剤であってもよい。後者の清浄剤は、別個の材料をブレンドする必要なしに2種の清浄剤の特性を提供することが可能である。例えば、米国特許第6,034,039号明細書を参照することができる。好ましい清浄剤には、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムサリシレート、マグネシウムフェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート及び他の関連成分(硼素化清浄剤を含む)が挙げられる。全清浄剤濃度は、典型的には約0.01〜約6.0質量%、好ましくは約0.1〜0.4質量%である。
分散剤:
エンジン運転中、油不溶性酸化副生物が生じる場合がある。分散剤は、これらの副生物を溶液中に保つのを助け、こうして金属表面上の副生物の堆積物を減らす。分散剤は、事実上、無灰又は灰生成性であってもよい。好ましくは、分散剤は無灰である。いわゆる無灰分散剤は、燃焼しても灰を実質的に全く生じない有機材料である。例えば、非−金属含有分散剤又は硼素化無金属分散剤は無灰と考えられる。それに反して、上で論じた金属含有清浄剤は燃焼すると灰を生成する。
適する分散剤は、典型的には、比較的高い分子量の炭化水素鎖に結合された極性基を含む。極性基は、典型的には、窒素、酸素又は燐の少なくとも一種の元素を含む。典型的な炭化水素鎖は50〜400個の炭素原子を含む。
分散剤の例には、フェネート、スルホネート、硫化フェネート、サリシレート、ナフテネート、ステアレート、カルバメート、チオカルバメート、燐誘導体が含まれる。分散剤として特に有用な材料は、長鎖置換アルケニルコハク酸化合物、通常は置換無水コハク酸とポリヒドロキシ化合物又はポリアミノ化合物の反応によって典型的に製造されたアルケニルコハク酸誘導体である。油への溶解度を付与する分子の親油部分を構成する長鎖基は、通常はポリイソブチレン基である。この種の分散剤の多くの例は商業的に且つ文献において周知されている。こうした分散剤を記載している代表的な米国特許は、米国特許第3,172,892号明細書、米国特許第3,215,707号明細書、米国特許第3,219,666号明細書、米国特許第3,316,177号明細書、米国特許第3,341,542号明細書、米国特許第3,444,170号明細書、米国特許第3,454,607号明細書、米国特許第3,541,012号明細書、米国特許第3,630,904号明細書、米国特許第3,632,511号明細書、米国特許第3,787,374号明細書、及び米国特許第4,234,435号明細書等である。他のタイプの分散剤は、米国特許第3,036,003号明細書、米国特許第3,200,107号明細書、米国特許第3,254,025号明細書、米国特許第3,275,554号明細書、米国特許第3,438,757号明細書、米国特許第3,454,555号明細書、米国特許第3,565,804号明細書、米国特許第3,413,347号明細書、米国特許第3,697,574号明細書、米国特許第3,725,277号明細書、米国特許第3,725,480号明細書、米国特許第3,762,882号明細書、米国特許第4,454,059号明細書、米国特許第3,329,658号明細書、米国特許第3,449,250号明細書、米国特許第3,519,565号明細書、米国特許第3,666,730号明細書、米国特許第3,687,849号明細書、米国特許第3,702,300号明細書、米国特許第4,100,082号明細書及び米国特許第5,705,458号明細書に記載されている。分散剤については、欧州特許出願第471071号明細書中にも記載がある。
ヒドロカルビル置換コハク酸化合物は普及している分散剤であり、本発明に用いることができる。炭化水素置換基中に好ましくは、少なくとも50個の炭素原子を有する炭化水素置換コハク酸化合物と、少なくとも1当量のアルキレンアミンとの反応によって調製されるコハク酸イミド、コハク酸エステル又はコハク酸エステルアミンは、特に有用である。
コハク酸イミドは、アルケニル無水コハク酸とアミンとの間の縮合反応によって形成される。モル比はポリアミンに応じて異なることが可能である。例えば、アルケニル無水コハク酸対TEPAのモル比は、約1:1から約5:1まで異なることが可能である。代表的な例は、米国特許第3,087,936号明細書、米国特許第3,172,892号明細書、米国特許第3,219,666号明細書、米国特許第3,272,746号明細書、米国特許第3,322,670号明細書、米国特許第3,652,616号明細書、米国特許第3,948,800号明細書、及びカナダ特許第1,094,044号明細書に示されている。
コハク酸エステルは、アルケニル無水コハク酸とアルコール又はポリオールとの間の縮合反応によって形成される。モル比は、用いられるアルコール又はポリオールに応じて異なることが可能である。例えば、アルケニル無水コハク酸とペンタエリスリトールの縮合製品は有用な分散剤である。
コハク酸エステルアミドは、アルケニル無水コハク酸とアルカノールアミンとの間の縮合反応によって形成される。例えば、適するアルカノールアミンには、エトキシル化ポリアルキルポリアミン、プロポキシル化ポリアルキルポリアミン及びポリエチレンポリアミンなどのポリアルケニルポリアミンが挙げられる。一例はプロポキシル化ヘキサメチレンジアミンである。代表的な例は、米国特許第4,426,305号明細書に示されている。
前パラグラフで用いられたアルケニル無水コハク酸の分子量は、典型的には800〜2,500の間の範囲である。上の製品は、硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、オレイン酸などのカルボン酸及びボレートエステル又は高度硼素化分散剤などの硼素化合物などの種々の試薬と後反応させることが可能である。分散剤は、分散剤反応製品モル当たり硼素約0.1〜約5モルで硼素化することが可能である。
マンニッヒ塩基分散剤は、アルキルフェノール、ホルムアルデヒド及びアミンの反応から製造される。米国特許第4,767,551号明細書の記載を参照することができる。加工助剤ならびにオレイン酸及びスルホン酸などの触媒も反応混合物の一部であることが可能である。アルキルフェノールの分子量は、800〜2,500の範囲である。代表的な例は、米国特許第3,697,574号明細書、米国特許第3,703,536号明細書、米国特許第3,704,308号明細書、米国特許第3,751,365号明細書、米国特許第3,756,953号明細書、米国特許第3,798,165号明細書及び米国特許第3,803,039号明細書に示されている。
本発明において有用な典型的な高分子量脂肪酸変性マンニッヒ縮合製品は、高分子量アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物又はHN(R)2基含有反応物から調製することが可能である。
高分子量アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の例は、ポリプロピルフェノール、ポリブチルフェノール及び他ポリアルキルフェノールである。これらのポリアルキルフェノールは、フェノールのベンゼン環上に平均で600〜100,000の分子量を有するアルキル置換基を与えるためにBF3などのアルキル化触媒の存在下で、高分子量ポリプロピレン、ポリブチレン又は他のポリアルキレン化合物によるフェノールのアルキル化によって得ることが可能である。
HN(R)2基含有反応物の例は、アルキレンポリアミン、主としてポリエチレンポリアミンである。マンニッヒ縮合製品の調製において用いるために適する少なくとも一個のHN(R)2基を含む他の代表的な有機化合物は周知されており、それらには、モノアミノアルカン及びジアミノアルカンならびにそれらの置換類似体、例えば、エチルアミン及びジエタノールアミン、芳香族ジアミン、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン、ヘテロ環式アミン、例えば、モルホリン、ピロール、ピロリジン、イミダゾール、イミダゾリジン及びピペリジン、メラミン及びそれらの置換類似体が挙げられる。
アルキレンポリアミド反応物の例には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ヘキサエチレンヘプタアミン、ヘプタエチレンオクタアミン、オクタエチレンノナアミン、ノナエチレンデカアミン及びデカエチレンウンデカアミンならびに前述した式:H2N−(Z−NH−)nH(前の式のZは二価エチレンであり、nは1〜10である)におけるアルキレンポリアミンに対応する窒素含有率を有するこうしたアミンの混合物が挙げられる。プロピレンジアミン及びジ−、トリ−、テトラ−、ペンタプロピレントリ−、テトラ−、ペンタ−及びヘキサアミンなどの対応するプロピレンポリアミンも適する反応物である。アルキレンポリアミンは、通常、アンモニアとジクロロアルカンなどのジハロアルカンの反応により得られる。従って、2〜11モルのアンモニアと、2〜6個の炭素原子及び異なる炭素上に塩素を有する1〜10モルのジクロロアルカンの反応から得られたアルキレンポリアミンは、適するアルキレンポリアミン反応物である。
有用なアルデヒド反応物の例には、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒド及びホルマリンとしても)などの脂肪族アルデヒド、アセトアルデヒド及びアルドール(b−ヒドロキシブチルアルデヒド)が含まれる。ホルムアルデヒド反応物又はホルムアルデヒド産出反応物は好ましい。
ヒドロカルビル置換アミン無灰分散剤添加剤は当業者に周知されている。例えば、米国特許第3,275,554号明細書、米国特許第3,438,757号明細書、米国特許第3,565,804号明細書、米国特許第3,755,433号明細書、米国特許第3,822,209号明細書及び米国特許第5,084,197号明細書を参照することができる。
好ましい分散剤には、モノコハク酸イミド、ビスコハク酸イミド及び/又はモノコハク酸イミドとビスコハク酸イミドの混合物から誘導されたものを含む硼素化コハク酸イミド及び非硼素化コハク酸イミドが挙げられる。ここで、ヒドロカルビルコハク酸イミドは、約500〜約5000、好ましくは約1000〜3000、より好ましくは約1000〜2000、なおより好ましくは約1000〜1600のMnを有するポリイソブチレンなどのヒドロカルビレン基又はこうしたヒドロカルビレン基の混合物から誘導される。好ましい他の分散剤には、コハク酸エステル及びアミド、アルキルフェノール−ポリアミン連結マンニッヒ付加体、それらの封止誘導体及び他の関連化合物が挙げられる。こうした添加剤は、約0.1〜20質量%、好ましくは約0.1〜8質量%の量で用いてもよい。
流動点降下剤:
流動点降下剤は、流体が流れるか、又は流体を流動させることができる最低温度を下げる作用がある。適する流動点降下剤の例には、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物の縮合製品、ビニルカルボキシレートポリマーならびにジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステル及びアリルビニルエーテルのターポリマーが挙げられる。米国特許第1,815,022号明細書、米国特許第2,015,748号明細書、米国特許第2,191,498号明細書、米国特許第2,387,501号明細書、米国特許第2,655,479号明細書、米国特許第2,666,746号明細書、米国特許第2,721,877号明細書、米国特許第2,721,878号明細書及び米国特許第3,250,715号明細書には、有用な流動点降下剤及び/又は流動点降下剤の調製が記載されている。こうした添加剤は、約0.01〜5質量%、好ましくは約0.01〜1.5質量%の量で用いてもよい。
腐食防止剤:
腐食防止剤は、組成物に接触している金属部品の劣化を減少させるために用いられる。適する腐食防止剤にはチアジアゾールが挙げられる。例えば、米国特許第2,719,125号明細書、米国特許第2,719,126号明細書及び米国特許第3,087,932号明細書の記載を参照することができる。こうした添加剤は、約0.01〜5質量%、好ましくは約0.01〜1.5質量%の量で用いてもよい。
シール適合剤:
シール適合剤は、流体中で化学反応又はエラストマー中で物理的変化を引き起こすことによりゴム弾性シールを膨潤させるのを助ける。適するシール適合剤には、有機ホスフェート、芳香族エステル、芳香族炭化水素、エステル(例えば、ブチルベンジルフタレート)及びポリブテニル無水コハク酸が挙げられる。こうした添加剤は、約0.01〜3質量%、好ましくは約0.01〜2質量%の量で用いてもよい。
消泡剤:
消泡剤は、安定した泡の生成を遅らせる作用がある。シリコーン及び有機ポリマーは典型的な消泡剤である。例えば、シリコン油などのポリシロキサン又はポリジメチルシロキサンは消泡特性を提供する。消泡剤は市販されており、抗乳化剤などの他の添加剤に加えて従来通り少量で用いてもよい。組み合わされたこれらの添加剤の量は、通常は1%未満、多くの場合に0.1%未満である。
錆防止添加剤(又は腐食防止剤):
錆防止添加剤(又は腐食防止剤)は、水又は他の異物による化学的浸食に対して潤滑された金属表面を保護する添加剤である。多様なこれらの錆防止添加剤は市販されている。こうした錆防止剤は、「クラマン潤滑剤及び関連製品(Klamann in Lubricants and Related Products)」、フロリダ州ディアフィールドビーチのフェアラークヘミー(Verlag Chemie(Deerfield Beach,FL)、ISBN0−89573−177−0に述べられている。
錆防止添加剤の一つのタイプは、金属表面を優先的に濡らし、よって油膜で金属表面を保護する極性化合物である。錆防止添加剤のもう一つのタイプは、油のみが金属表面に触れるように油中水エマルジョン中に錆防止添加剤を導入することにより水を吸収する。錆防止添加剤のなおもう一つのタイプは、金属に化学的に接着して非反応性表面をもたらす。適する添加剤の例には、ジチオ燐酸亜鉛、金属フェノレート、塩基性金属スルホネート、脂肪酸及びアミンが挙げられる。こうした添加剤は、約0.01〜5質量%、好ましくは約0.01〜1.5質量%の量で用いてもよい。
摩擦調整剤:
摩擦調整剤は、添加される組成物の摩擦係数を変えることができるあらゆる材料である。摩擦低減剤、摩擦係数を下げる摩擦調整剤は、本発明の組成物と組み合わせると特に有利である。摩擦調整剤は、金属含有化合物又は材料、及び無灰化合物又は材料、あるいはそれらの混合物を含んでもよい。金属含有摩擦調整剤は金属塩又は金属−配位子錯体を含んでもよい。ここで、金属はアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移群金属を含んでもよい。こうした金属含有摩擦調整剤は低灰特性も有してよい。遷移金属には、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、Zn及びその他を挙げることができる。配位子には、アルコール、ポリオール、グリセロール、部分エステルグリセロール、チオール、カルボキシレート、カルバメート、チオカルバメート、ジチオカルバメート、ホスフェート、チオホスフェート、ジチオホスフェート、アミド、イミド、アミン、チアゾール、チアジアゾール、ジチアゾール、ジアゾール、トリアゾールのヒドロカルビル誘導体、及び有効量のO、N、S又はPを個々に又は組み合わせて含む他の極性分子官能基を挙げることができる。特に、例えば、Mo含有ジチオカルバメート[Mo(DTC)]、Mo−ジチオホスフェート[Mo(DTP)]、Mo−アミン[Mo(Am)]、Mo−アルコレート、Mo−アルコール−アミドなどのMo含有化合物は特に有効でありうる。
無灰摩擦調整剤は、極性基を含む化合物であり、例えば、ヒドロキシル基含有ヒドロカルビル基油、グリセリド、部分グリセリド及びグリセリド誘導体なども含んでもよい。摩擦調整剤中の極性基は、有効量のO、N、S又はPを個々に又は組み合わせて含むヒドロカルビル基を含んでもよい。他の摩擦調整剤として、例えば、脂肪酸の塩(灰含有誘導体と無灰誘導体の両方)、脂肪アルコール、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、ヒドロキシル含有カルボキシレート、及び匹敵する合成長鎖ヒドロカルビル酸、アルコール、アミド、エステル及びヒドロキシカルボキシレートなどが挙げられる。場合によって、脂肪有機酸、脂肪アミン及び硫化脂肪酸は適する摩擦調整剤として用いてもよい。
摩擦調整剤の有用な濃度は、約0.01質量%〜15質量%の範囲であってもよく、多くの場合、好ましい範囲は約0.1質量%〜5質量%である。モリブデン含有材料の濃度は、Mo金属濃度に関して記載されることが多い。Moの有利な濃度は、約10ppm〜3000ppm以上の範囲であってもよく、多くの場合、好ましい範囲は約20ppm〜2000ppmであり、場合によって、より好ましい範囲は約30〜1000ppmである。すべてのタイプの摩擦調整剤は、単独で、又は本発明の材料との混合物中で用いてもよい。多くの場合、二種以上の摩擦調整剤の混合物、又は摩擦調整剤と別の表面活性材料の混合物も望ましい。
グリース組成物の添加剤:
本発明の組成物は、グリース組成物として調製してもよい。当該態様では、グリースの用途に適応した場合の実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、増ちょう剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。以下、グリース組成物として調製する際に添加可能な添加剤について説明する。
添加可能な増ちょう剤の例には、金属石けん、複合金属石けん等の石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア系増ちょう剤(ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等)の非石けん系増ちょう剤などのあらゆる増ちょう剤が使用可能である。これらの中でも、樹脂製部材を損傷させるおそれが小さいことから、石けん系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤が好ましく用いられる。
石けん系増ちょう剤としては、例えば、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が挙げられるが、これらの中でも、耐水性や熱安定性の点から、リチウム石けんが好ましい。リチウム石けんとしては、例えば、リチウムステアレートやリチウム−12−ヒドロキシステアレート等が挙げられる。
また、ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。
ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えば、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物(ジウレア化合物、トリウレア化合物及びテトラウレア化合物は除く)、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。好ましくはジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物が挙げられる。
固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、フラーレン、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、Mo−ジチオカーバメート、硫化アンチモン、アルカリ(土類)金属ほう酸塩等が挙げられる。
ワックスとしては、例えば、天然ワックス、鉱油系ないしは合成系の各種ワックスが例示でき、具体的にはモンタンワックス、カルナウバワックス、高級脂肪酸のアミド化合物、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス等が挙げられる。
その他、金属不活性化剤としてベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、チアジアゾールなどが知られていて、これらを添加することができる。
前記グリース組成物には、増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、例えば、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等が挙げられる。
ポリ(メタ)アクリレートは、寒冷地での冷時異音防止の効果も知られている。
一般に食品機械等の回転支承部には潤滑剤封入転がり軸受等が用いられる。しかしながら、これらの鉱油系グリース組成物は、機械運転中に飛散して食品に接触する可能性もあり、食品衛生上好ましいとは言えない。また、グリース中に細菌が混入するおそれもあり、食品に影響を与える可能性も十分に考えられる。このような問題を解決するグリース組成物として、抗菌剤として抗菌性ゼオライトを含有するグリース組成物等が知られている。また、安全性のために天然抗菌剤が好ましい。具体的には、キトサン類、カテキン類、孟宗竹、カラシ、ワサビ精油等が代表的である。その他、リンゴ、ブドウ、柑橘類に多く含まれるコロイド状のペクチン、必須アミノ酸であるL − リジンが直鎖状につながったポリリジン、サケ、マス、ニシン等の成熟精巣に含まれる塩基性のたんぱく質であるプロタミン、オランダビユの種実の抽出物、ローズマリー、セイジ、タイム等のシソ科植物の乾燥した葉部から得られる香辛料、ハトムギの疎水性有機溶媒抽出物、イリオモテアザミ根茎抽出エキス、ハチの巣から得られるプロポリス等多数の抗菌性物質が使用できる。
その中でも、各種の食中毒に効果が大きいカテキン類が好適である。その中でも茶葉に含まれる水溶性成分である、エピガロカテキン、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、カテキン等が好ましい。一般的にはこれらカテキン類は水溶性であるので、界面活性剤を少量添加して使用するのが好ましいが、グリース組成物の場合、増ちょう剤が界面活性剤としての役割も果たすため、さらに界面活性剤を添加する必要はない。
また、グリース組成物は、摺動部近傍に配置されるゴムに対しても高い適合性を有する。かかるゴムとしては、特に限定されないが、具体的には、ニトリル、クロロプレン、フッ素、エチレン−プロピレン、アクリル及びこれらの複合物等が挙げられる。
転がり軸受に起こる静電気は、その放射ノイズが複写機の複写画像に歪みなどの悪影響を及ぼすことが知られているが、導電性物質の共存はその抑制に効果的である。導電性物質は、グリース全量の2〜10質量%添加される。導電性物質の中でも、カーボンブラック及びグラファイトが好適であり、それぞれ単独で、あるいは両者を混合して使用することができる。混合して使用する場合は、合計量で上記の添加量とする。また、カーボンブラック及びグラファイトは、平均粒径10〜300nmのものが好ましい。
また、導電性物質は、極圧剤の項で述べた耐剥離剤としても効果があることが知られている。この導電性物質は、特開2002−195277号公報等に記載されているように、水素イオンが原因の白色剥離を抑える効果がある。
グリースの断熱性をあげるために、中空フィラーやシリカ粒子を加えたり、逆に伝熱、放熱性を促進するために銅などの金属粉を添加することも知られている。
難燃性が改善されたグリースとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩等の粉体をリチウム石けんグリースに添加したもの、シリコーングリースに炭酸カルシウムと白金化合物を添加したもの、グリースに吸水性ポリマーと水を含ませたものが知られている。
4. 本発明の組成物の性質
4.−1 透明点
本発明の組成物は、不透明状態から透明状態に転移する透明点を有するのが好ましい。上記式(I)、式(II)、式(III)で表される化合物の多くのものが、常圧・室温下では、油性媒体中に分散するので、本発明の組成物は、懸濁して見えることが多い。懸濁の程度は、化合物により、また油性媒体によって大きく変動するが、この状態の組成物を加熱すると、ある温度範囲で急峻に透明になる。この透明になる温度を、「透明点」というものとする。より具体的には、「透明点」とは、化合物の微粒子が、ミー散乱以下の粒子径になり、組成物が透明に見える状態に変化する温度をいう。ミー散乱する粒子の大きさは、可視光下で0.1ミクロン径前後であるので、言い換えれば、「透明点」とは、油性媒体中に分散している上記式(I)、式(II)、式(III)で表される化合物の粒子が、ほぼ0.1ミクロン径未満の粒径の粒子に変化する温度ともいえる。この粒子径の変化は、加熱顕微鏡下で観察することができる。従って、「透明点」とは、必ずしも溶媒和された単分子分散の溶解状態を意味するものではない。本発明の組成物では、上記化合物が、油性媒体中に分散及び/又は溶解しているが、この状態は、物理化学的定義に従った表現ではない。
本発明の組成物は、上記透明点を有しているのが好ましく、透明点が常圧で70℃以下であるのがより好ましい。透明点が前記範囲であると、組成物の摺動部における潤滑効果が高く、低摩擦係数を発現する温度範囲が広くなる傾向がある。透明点の下限値については特に制限はないが、室温で懸濁している場合は透明点はほぼ35〜40℃以上となる。
4.−2 粘性
本発明の組成物は、40℃での粘性が100mPa・s以下であるのが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましい。粘性は小さいほど低燃費に寄与し、好ましいが、使用する基油の粘度、本発明の化合物の構造、添加量、共存添加剤により大きく変化し、使用環境により適正な粘性が求められるため、それに合わせることが必要である。しかし、本発明は、現行技術における粘度指数向上剤による高温での基油の低粘性化の抑制を必要としないため、粘度指数向上剤の添加ゆえの低温での高粘性化は起こらないため、低粘性基油の効果が直接的に燃費に寄与することになることが特徴の一つでもある。
4.−3 元素組成
本発明の組成物は、構成元素が、炭素、水素、酸素及び窒素だけからなることが好ましい。前記一般式(I)〜(III)の化合物は、炭素、水素及び酸素のみからで構成することができる。また、油性媒体として用いる油も、炭素、水素及び酸素のみから構成される材料は種々ある。これらを組み合わせることにより、構成元素が、炭素、水素、酸素及び窒素だけからなる組成物を調製することができる。現行の潤滑油は、通常、リン、硫黄、重金属を含んでいる。燃料と共に潤滑油も燃焼する2ストロークエンジンに用いられる潤滑油は、環境負荷を配慮して、リンと重金属は含まれないが、硫黄は4ストロークエンジンに用いられる潤滑油の半分量程度含まれている。即ち、現行の潤滑技術では、最低でも硫黄分による境界潤滑膜の形成は必須であると推察されるが、硫黄元素を含んでいることによって、排気ガス浄化のための触媒への負荷は非常に大きい。この排気ガス浄化触媒には、プラチナやニッケルが使用されているが、リンや硫黄の被毒作用は大きな問題になっている。その点からも潤滑油の組成物を構成する元素が、炭素、水素、酸素及び窒素だけからなることのメリットは非常に大きい。さらに炭素、水素、酸素だけからなることはエンジンオイル以外の産業機械、特に食品製造関連機器の潤滑油には最適である。現行技術では、摩擦係数を犠牲にして環境に配慮した元素組成をとっている。これは、冷却のために大量の水を必要とする金属の切削・加工用潤滑油にも非常に好ましい技術である。それはどうしても潤滑油がミストとなって外気中に浮遊・揮散したり、処理廃液が自然系に排出される場合が多いため、潤滑性と環境保護の両立のためには、現行の潤滑油を、炭素、水素、及び酸素だけから構成される本発明の組成物に代替することは、非常に好ましい。
4.−4 液晶性
本発明の組成物は、液晶性を示すことが、潤滑性能の観点から好ましい。その理由は、組成物が液晶性を発現することで、摺動部分において分子が配向し、その異方性低粘性の効果で、さらに低摩擦係数を発現するからである(例えば、河田 憲、大野 信義 富士フイルム研究報告 No.51 2006年 PP80−85.参照のこと)。
液晶性については、式(I)、(II)、(III)で表される化合物が単独でサーモトロピックな液晶性を発現するものであってもよく、また油性媒体とともにリオトロピックな液晶性を発現してもよい。
5. 本発明の組成物の用途
本発明の組成物は、潤滑油として有用である。例えば、2つの摺動面間に供給され、摩擦を低減するために用いることができる。本発明の組成物は、摺動面に皮膜を形成し得る。摺動面の材質としては、鋼鉄では、具体的には、機械構造用炭素鋼、ニッケルクロム鋼材・ニッケルクロムモリブデン鋼材・クロム鋼材・クロムモリブデン鋼材・アルミニウムクロムモリブデン鋼材などの構造機械用合金鋼、ステンレス鋼、マルチエージング鋼などが挙げられる。
鋼鉄以外の各種金属、又は金属以外の無機もしくは有機材料も広く用いられる。
金属以外の無機もしくは有機材料としては、各種プラスチック、セラミック、カーボン等、及びその混合体などが挙げられる。より具体的には、鋼鉄以外の金属材料としては、鋳鉄、銅・銅−鉛・アルミニウム合金、その鋳物及びホワイトメタルが挙げられる。
有機材料としては、すべての汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリアミド、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂、四フッ化エチレン樹脂(PFPE)、ポリアリレート、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド、ポリピロメリットイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド(PI)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ等に適用される。
これらの樹脂は、各種部品や部材として成形品や樹脂層を形成し、これらが他の樹脂や金属と接触する個所にこのグリース組成物が適用される。具体的には、例えば電動パワーステアリング、ドアミラー等によって代表される自動車電装品の摺動部、軸受、樹脂ギヤ部、ラジカセ、VTR、CDプレーヤ等音響機器の樹脂ギヤ部、レーザービームプリンターによって代表されるプリンター、複写機、ファックス等のOA機器の樹脂ギヤ部、自動車用各種アクチュエータ、エアシリンダ内部の摺動部などを形成する樹脂材料と他の樹脂材料又は金属材料との接触個所に有効に適用される。
無機材料としては、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニア(ZrC)、窒化チタン(TiN)などのセラミックス;及びカーボン材料が挙げられる。またこれらの混合体として、プラスチックにガラス、カーボン又はアラミドなどの繊維を複合化した有機−無機複合材料、セラミックと金属の複合材料サーメットなどが挙げられる。
一部が鉄鋼以外の材料からなっている場合としては、鋼材の表面の少なくとも一部が、鉄鋼以外の金属材料、又は金属材料以外の有機もしくは無機材料からなる膜で被覆されていてもよい。被覆膜としては、ダイヤモンドライクカーボンの薄膜等の磁性材料薄膜、及び有機もしくは無機多孔質膜などが挙げられる。
また、前記二面の少なくとも一方の面に、多孔性焼結層を形成して、かかる多孔質層に本発明の組成物を含浸させて、摺動時に摺動面に潤滑剤組成物が適宜供給されるように構成してもよい。前記多孔質層は、金属材料、有機材料及び無機材料のいずれからなっていてもよい。具体的には、焼結金属、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合して形成されるような多孔質セラミックス、シリカとホウ酸系成分を熱的に相分離させることにより得られる多孔質ガラス、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結多孔質成形体、四フッ化エチレン等フッ素樹脂系多孔質膜、ミクロフィルターなどに用いられるポリスルホン系多孔質膜、予め成形体の貧溶媒とその成形体形成モノマーを重合時相分離を起こさせて形成される多孔質膜などが挙げられる。
金属又は酸化金属焼結層としては、銅系、鉄系又はTiO2系の粉末を焼結することに
より形成される多孔質層が挙げられる。銅系金属焼結層は、鋳鉄基板の上に銅粉末(例えば、88質量%)、スズ(例えば、10質量%)及び黒鉛(例えば、2質量%)の混合物を設置し、250MPaで圧縮形成したものを還元気流中で、高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、鉄系金属焼結層は、鋳鉄基板上に、鉄粉末に銅粉末(例えば、3質量%)及び化学炭素(0.6質量%)を添加した混合物を設置して、250MPaで圧縮成形したものを還元気流中で高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、TiO2焼結層は、Ti(OC817−n)(例えば、33質量%)、TiO2の微粉末(例えば、57質量%)及びPEO(分子量MW=3000)の混合物を、鋳鉄上に設置して、UV光を照射しつつ560℃に3時間加熱焼結することによって形成される。
なお、これらの多孔質層によって被覆される材料については特に限定されず、上述したセラミックス、樹脂、有機−無機複合材料や、勿論鋼鉄であってもよい。
前記ダイヤモンドライクカーボン薄膜等の磁性材料薄膜等の被膜は、表面処理によって形成することができる。表面処理の詳細については、日本トライボロジー学会編 トライボロジーハンドブック 第一版 (2001年)B編 第三章 表面改質 544−574頁に記載されていて、本発明の機械要素の作製にいずれも利用することができる。表面処理は、一般的に、表面改質によるトライボロジー特性の改善を目的になされるものであるが、機械要素の駆動には低摩擦や耐摩耗性だけでなく、駆動する環境の要請に応じて低騒音、耐食、化学安定、耐熱、寸法安定、低アウトガス、生体親和、抗菌など多様な材料特性が併せて要求されることが多く、従って、本発明においては、表面処理は、トライボロジー特性の改善を目的になされるものに限定されない。表面処理法としては、
1) 真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、イオン注入による物理蒸着(PhisicalVaporDeposition)法による、アルミニウム、銅、銀、金、クロム、モリブデン、タンタルまたその合金膜、窒化チタン、窒化クロム、炭化チタン、炭化クロム等のセラミックス、酸化アルミニウム、二酸化珪素、ケイ化モリブデン、酸化タンタル、チタン酸バリウム等の酸化膜の形成;
2) 熱、プラズマ、光などによる化学蒸着(ChemicalVaporDeposition)法を用いた各種金属、WC、TiC、B4Cなどの炭化物、TiN、Si34などの窒化物、TiB2、W23などのホウ化物、Al23、ZrO2などの酸化物膜、CrW、Ti金属を含有したアモルフォスカーボン膜、フッ素含有カーボン膜、プラズマ重合膜の形成;
3) 浸炭、窒化、浸硫、ホウ化処理などの拡散被覆法(化学反応法)による表層部分の耐摩耗性、耐焼きつき性などの特性を付与する方法;及び
4) 電気めっき、無電解めっきなどのめっき法による金属、複合金属膜などがあげられる。
本発明の組成物は、種々の用途に利用できる。例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、軸受油、油圧作動油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また各種グリース用潤滑油、磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等に利用することができる。また、組成物の元素組成を炭水化物とすることができるため、例えば、乳化、分散化、可溶化剤としてケーキミックス、サラダドレッシング、ショートニングオイル、チョコレート等に広く利用されている、ポリオキシエチレンエーテルを含むソルビタン脂肪酸エステルを食用油を基油とした組成物を潤滑油とすることで、全く人体に無害の高性能潤滑油を食品製造ラインの製造機器や医療機器部材の潤滑に用いることができる。
また、本発明の組成物を水系に乳化して分散したり、極性溶媒中に分散することで、切削油や圧延油として用いることができる。
また、本発明の組成物は、油性媒体に潤滑性を促進する化合物が分散されたものであるため、基本的に既存の潤滑油が用いられる形態、及び適用される機械要素に適用可能である。すなわち、すべり軸受、転がり軸受、伝達要素、密封要素及び特殊環境である。
すべり軸受としては、回転機械用動圧すべり軸受、エンジン用動圧すべり軸受、静圧軸受、容積型コンプレッサ用動圧すべり軸受、変速機やサスペンション、アクスル、ステアリング等の自動車駆動系等各種すべり軸受、またその他、含油軸受、プラスチック軸受、固体潤滑剤軸受、セラミック軸受、ほぞ軸受、ピボット軸受、宝石軸受、ナイフエッジ軸受および磁気軸受である。
転がり軸受としては、自動車ホイール用軸受、鉄道車両車軸軸受、HDDスピンドルモータ用玉軸受、圧延機用軸受、工作機械スピンドル用軸受、真空用軸受などである。
伝動要素としては、歯車、すべり・転がり等の運動ねじ、ウォーム-ラック、カム、クラッチ、ブレーキ、トラクションドライブCVTやベルトドライブCVTなどの機械式無段変速機、ベルト、チェーン、ワイヤロープ、軸継手、スプライン、セレーション、タイヤ、車輪とレール、超音波モータ、紙送りなどである。
密封要素としては、ガスケット、フランジシールの静止用シール、オイルシール、メカニカルシール、往復動シール、ワイパーブレード、ピストンリング、各種油圧ポンプ、モータ用シール等である。
特殊環境としては、HDD、半導体製造装置、冷媒圧縮機、人工関節などである。
以下に実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
1.例示化合物の合成例
1.−1 例示化合物II−2の合成例
1−ドコサニル メタンスルホナートの合成:
ベヘニルアルコール(1−ドコサノール)247.4gをテトラヒドロフラン640mLに溶解させ、メタンスルホニルクロリド116.1mLを徐々に添加し、水冷下、トリエチルアミン64.7mLを30分間で滴下した。1時間攪拌後、40℃に加熱し、さらに30分間攪拌した。これを氷水3.5L中に注ぎ、15分間超音波で分散し、さらに室温下で4時間攪拌した。減圧濾過し、2Lの水で結晶を洗った。その白色結晶をアセトニトリル1.5L中で1時間攪拌し、減圧濾過し、0.5Lのアセトニトリルで洗った。
それを減圧乾燥し、その白色結晶303.4gを得た。
テトラエチレングリコール モノ−1−ドコサニルエーテルの合成:
テトラエチレングリコール207mLに、1−ドコサニル メタンスルホナート 80.4gを添加し、110℃に加熱した。t−ブトキシカリウム40.0gを2時間かけて徐々に添加した。さらに3時間攪拌し、冷却後、氷水3L中に注ぎ、酢酸エチル2Lを添加し、1時間攪拌し、不溶物22.2gを濾過した。濾液から酢酸エチル相を抽出分離し、減圧濃縮後、アセトニトリル0.5Lを添加し、氷冷下、1時間攪拌した。減圧濾過し、0.2Lの冷アセトニトリルで洗い、白色結晶81.6gを得た。
3−(1−ドコサニルテトラエチレンオキシカルボニル)プロピオン酸の合成:
テトラエチレングリコール モノ1−ドコサニルエーテル25.0gをトルエン160mLに溶解し、無水コハク酸7.5gと濃硫酸2滴を加え、125℃で8時間加熱した。冷却後、アセトニトリル0.3Lを添加し、氷冷下、1時間攪拌し、減圧濾過した。冷アセトニトリル100mLで洗浄し、減圧乾燥後、白色結晶23.3gを得た。
例示化合物II−2の合成:
3−(1−ドコサニルテトラエチレンオキシカルボニル)プロピオン酸5.0gをトルエン20mLに溶解し、ジメチルホルムアミド2滴と塩化チオニル2mLを添加した。5分後、80℃に加熱し、さらに2時間攪拌し、冷却後、減圧下、トルエンと過剰の塩化チオニルを溜去した。これにトルエン15mLとペンタエリスリトール283mgを添加し、これに徐々にピリジン5mLを添加した。80℃で8時間加熱後、冷却し、メタノール200mLを注ぎ、2時間攪拌した。これを減圧濾過し、白色結晶4.8gを得た。
1.−2 例示化合物II−5の合成例
例示化合物II−5については、例示化合物II−2の出発原料である1−ドコサノールを1−ステアリルアルコールに代える以外は同様にして合成した。
1.−3 例示化合物II−8の合成例
例示化合物II−8については、例示化合物II−2の出発原料である1−ドコサノールを1−テトラデカノールに代える以外は同様にして合成した。
1.−4 例示化合物II−1の合成例
3−(1−ドコサニルポリエチレンオキシカルボニル)プロピオン酸の合成:
ポリエチレングリコール モノ1−ドコサニルエーテル(竹本油脂(株)製:エチレンオキシ基の平均重合度6.65)25.6gをトルエン160mLに溶解し、無水コハク酸8.0gと濃硫酸2滴を加え、125℃で8時間加熱した。冷却後、アセトニトリル0.3Lを添加し、氷冷下、1時間攪拌し、減圧濾過した。冷アセトニトリル100mLで洗浄し、減圧乾燥後、白色結晶22.3gを得た。
例示化合物II−1の合成:
3−(1−ドコサニルポリエチレンオキシカルボニル)プロピオン酸5.18gをトルエン10mLに溶解し、ジメチルホルムアミド2滴と塩化チオニル2mLを添加した。5分後、80℃に加熱し、さらに2時間攪拌し、冷却後、減圧下、トルエンと過剰の塩化チオニルを溜去した。これにトルエン14mLとペンタエリスリトール245mgを添加し、これに徐々にピリジン6mLを添加した。80℃で8時間加熱後、冷却し、メタノール200mLを注ぎ、2時間攪拌した。これを減圧濾過し、白色結晶4.69gを得た。
1.−5 例示化合物II−17の合成例
例示化合物II−17については、例示化合物II−1の出発原料であるポリエチレングリコール モノ1−ドコサニルエーテルの平均重合度6.65を平均重合度10.30に代える以外は同様にして合成した。
1.−6 例示化合物II−18の合成例
例示化合物II−18については、例示化合物II−1の出発原料であるポリエチレングリコール モノ1−ドコサニルエーテルの平均重合度6.65を平均重合度19.0に代える以外は同様にして合成した。
1.−7 例示化合物II−33の合成例
例示化合物II−33については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸をメルドラム酸に代える以外は同様にして合成した。
1.−8 例示化合物II−34の合成例
例示化合物II−34については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸を無水グルタル酸に代える以外は同様にして合成した。
1.−9 例示化合物II−36の合成例
例示化合物II−36については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸を無水マレイン酸に代える以外は同様にして合成した。
1.−10 例示化合物II−37の合成例
例示化合物II−37については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸を無水ジグリコール酸に代える以外は同様にして合成した。
1.−11 例示化合物II−38の合成例
例示化合物II−38については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸を無水フタル酸に代える以外は同様にして合成した。
1.−12 例示化合物II−40の合成例
例示化合物II−40については、例示化合物II−1で使用する無水コハク酸を無水3,3−ジメチルグルタル酸に代える以外は同様にして合成した。
上記方法と同様にして、種々の例示化合物を合成した。それらのいくつかについて、そのNMRスペクトルデータ、IRデータ及び融点を示す。
例示化合物II−1:
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(64H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,dd), 1.58(16H,t), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2924(s), 2853(s), 1739(s), 1465(s), 1350(s), 1146(s), 720(m)
融点:63.5−64.0℃
例示化合物II−2:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(64H,m), 3.44(8H,t), 2.65(12H,br), 1.57(8H,t), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2927(s), 2854(s), 1741(s), 1464(s), 1350(m), 1146(s), 720(w)
融点:64.7−65.2℃
例示化合物II−3:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(72H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,m), 1.57(16H,t), 1.26(144H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: (neat): 2924(s), 2852(s), 1738(s), 1465(s), 1350(s), 1140(b), 858(m), 720(m)
融点: 55.1-55.6℃
例示化合物II−4:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(64H,m), 3.44(8H,t), 2.63(16H,m), 1.57(8H,t), 1.25(128H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2932(s), 2859 (s), 1746(s), 1465(s), 1350(s),1156(b), 856(m), 720(w)
融点: 46.0-47.0℃
例示化合物II−5:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(64H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,s), 1.57(16H,t), 1.25(120H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2924(s), 2853(s), 1740(s), 1464(s), 1350(s), 1144(s), 718(m)
融点: 47.0-47.8℃
例示化合物II−6:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(80H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,d), 1.57(16H,br), 1.25(120H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2920(s), 2852(s), 1737(s), 1458(s), 1350(s), 1105(b), 862(m), 719(m)
融点 35.3-35.8℃
例示化合物II−7:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,br), 4.13(8H,s), 3.65(80H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,s), 1.57(8H,br), 1.26(96H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2854(s), 1740(s), 1465(m), 1350(m), 1253(s), 1147(s)
融点 室温でオイル
例示化合物II−8:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(60H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,s), 1.59(40H,br), 1.26(96H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2927(s), 2855(s), 1740(s), 1465(m), 1350(m), 1252(s), 1152(s), 1038(m), 859(w)
融点: 39.5-40.5℃
例示化合物II−14:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(64H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,m), 1.57(8H,t), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2928(s), 2854(s), 1742(s), 1465(m), 1351(s), 1250(s), 1150(s), 720(w)
融点: 63.6-64.4℃
例示化合物II−15:
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(104H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,m), 1.57(8H,t), 1.25(168H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2853(s), 1740(s), 1465(s), 1350(s), 1147(b), 865(m), 720(m)
融点: 61.9-62.9℃
例示化合物II−16:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.65(120H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,s), 1.57(8H,br), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2854(s), 2361(w), 1740(s), 1558(w), 1457(w), 1250(s), 1146(b)
融点: 59.3-60.3℃
例示化合物II−17:
1H NMR(400MHz, CDCl3): δ4.23(8H,t), 4.13(8H,s), 3.64(144H,m), 3.57(8H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,m), 1.57(8H,t), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2854(s), 1741(s), 1465(m), 1351(w), 1144(s)
融点: 55.6-56.3℃
例示化合物II−18:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.64(288H,m), 3.44(8H,t), 2.64(16H,m), 1.59(32H,br), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2924(s), 2854(s), 1738(s), 1459(s), 1349(s), 1250(s), 1109(b), 857(m)
融点: 43.8-47.1℃
例示化合物II−19:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.24(8H,t), 4.13(8H,s), 3.64(424H,m), 3.44(16H,t), 2.64(16H,m), 1.59(40H,br), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2856(s), 1739(s), 1460(m), 1350(s), 1296(s), 1251(s), 1119(b), 946(m), 857(m)
融点: 46.4-47.4℃
例示化合物II−33:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.30(8H,t), 4.21(8H,s), 3.65(72H,m), 3.45(16H,m), 3.24(8H,t), 1.57(8H,t), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 3481(b), 2924(s), 2853(s), 1739(s), 1648(m), 1559(w), 1465(s), 1266(b), 1129(b), 1041(s), 720(m)
融点: 65.5-66.5℃
例示化合物II−34:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.23(8H,m), 4.11(8H,s), 3.65(80H,m), 3.44(8H,t), 2.41(16H,t), 1.96(8H,tt), 1.59(8H,br), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 3495 (b), 2930(s), 2855(s), 1740(s), 1464(s), 1351(m), 1136(s), 720(w)
融点: 59.9-61.6℃
例示化合物II−36:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ6.88(4H,d), 6.84(4H,d), 4.33(16H,m), 3.64(64H,m), 3.44(16H,t), 1.57(8H,br), 1.25(160H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2923(s), 2853(s), 1728(s), 1465(s), 1351(m), 1292(s), 1254(s), 1146(s), 769(s), 720(m)
融点: 60.2-61.5℃
例示化合物II−37:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.32(8H,t), 4.27(16H,s), 4.23(8H,s), 3.72(8H,m), 3.65(80H,m), 3.44(8H,t), 1.57(8H,br), 1.25(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2926(s), 2854(s), 1758(s), 1465(s), 1351(m), 1204(s), 1138(s), 720(m)
融点: 60.6-63.8℃
例示化合物II−38:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ7.74(8H,m), 7.54(8H,m), 4.46(8H,t), 3.91(8H,s), 3.80(8H,t), 3.64(80H,m), 3.44(8H,t), 1.64(16H,br), 1.25(152H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2854(s), 1733(s), 1465(w), 1287(s), 1122(s), 743(w)
融点 64.7-65.7℃
例示化合物II−40:
1H NMR(400MHz,CDCl3): δ4.22(8H,m), 4.09(8H,s), 3.64(72H,m), 3.44(8H,t), 2.43(8H,t), 1.56(8H,br), 1.25(160H,m), 1.09(24H,s), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2924(s), 2853(s), 1737(m), 1465(m), 1287(m), 1123(s)
融点: 53.1-53.7℃
例示化合物II−41:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.50(8H,s), 4.35(8H,t), 3.67(96H,m), 3.48(8H,m), 1.58(8H,br), 1.25(160H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2927(s), 2855(s), 1780(s), 1465(m), 1246(m), 1178(s), 942(m)
融点: 56.2-57.0℃
例示化合物II−42:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ8.09(4H,t), 8.00(4H,s), 4.32(8H,m), 4.16(4H,t), 4.06(4H,t), 3.67(64H,m), 2.87(24H,t), 1.61(8H,br), 1.26(160H,br), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2854(s), 1780(s), 1734(s), 1465(s), 1258(s), 1153(b), 1028(s), 720(w)
融点: 58.2-59.2℃
例示化合物II−43:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.52(8H,s), 4.46(8H,t), 3.77(8H,t), 3.64(64H,m), 3.44(8H,t), 1.74(16H,br), 1.56(8H,t), 1.25(160H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2853(s), 1747(m), 1631(m), 1519(s),1479(s), 1396(s), 1323(s), 1214(b), 1119(s), 721(m)
融点: 55.4-56.4℃
例示化合物II−45:
1H NMR(300MHz,CDCl3): δ4.52(8H,s), 4.46(8H,t), 3.77(8H,t), 3.64(64H,m), 3.44(8H,t), 1.74(16H,br), 1.56(8H,t), 1.25(160H,m), 0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2925(s), 2853(s), 1747(m), 1631(m), 1519(s),1479(s), 1396(s), 1323(s), 1214(b), 1119(s), 721(m)
融点: 60.5-61.5℃
例示化合物II−58
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ8.00(8H,m),4.33(8H,t),4.24(4H,s),4.16
(8H,t), 3.65(64H,m),3.45(8H,t),2.58(16H,br),1.61(8H,m),1.26(80H,br),0.88(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: (neat): 2917(s), 2849(s), 1726(s), 1468(s), 1183(s), 1115(s), 720(w)cm-1
融点 60.5-61.1℃
例示化合物II−65:
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ4.24(8H,t),4.14(8H,s),3.64(88H,m),3.56(8H,t), 3.32(8H,d),2.64(16H,d),1.59(40H,br),1.26(84H,br),0.85(76H,m),0.75(12H,t)
IRテ゛ータ(neat) cm-1: 2955(s), 2926(s), 2858(s), 1737(s), 1460(s), 1378(s), 1349(s), 1248(s), 1105(s), 1038(s), 861(m)
融点 室温でオイル
2. 試験例1(化合物の評価)
例示化合物及び比較例用化合物について、オプチモール社の往復動型摩擦摩耗試験機(SRV)を用いて、下記の条件で、潤滑特性を評価した。
往復動型(SRV)摩擦摩耗試験による評価及び測定法:
摩擦係数は、往復動型(SRV)摩擦摩耗試験機を用いて以下に示す試験条件で評価した。
・試験片(摩擦材) :SUJ−2
・プレート :24mm径×7mm厚、表面粗さ0.45〜0.65μm
・シリンダー :15mm径×22mm幅、表面粗さ〜0.05μm
・温度 :30〜150℃
・荷重 :50N、75N、100N、200N及び400N
・振幅 :1.5mm
・振動数 :50Hz
・温度および荷重の時間変化パターン
温度は、初期設定は90℃とし、一定時間保持したら、10分毎に10℃ずつ各素材の融点近傍まで降温した。その後、同様に150℃まで昇温し、さらに50℃まで降温した。
圧力(荷重)は、90℃で二回、120℃及び150℃で各一回、一分毎に50N→75N→100N→200N→400N→50Nと変化させた。
評価に用いた例示化合物は、II−1、2、17、18、45、及び65である。また、比較例用化合物として、潤滑剤として一般的に用いられている化合物であり、アルキレンオキシ基を有しないペンタエリスリトールテトラステアレート(C(CH2OCOC1735−n)4:比較例用化合物C−1)と、C{CH2O(C24O)6.52245−n}2(比較例用化合物C−2)とをそれぞれ用いた。
測定結果を、図1〜図4に示す。
図1〜図4に示す測定結果をみると、例示化合物II−1、II−2、II−17、II−18、II−45、及びII−65は、比較例用化合物C−1及びC−2と比較して、顕著に摩擦係数が小さいことが理解できる。
式(I)〜(III)の例示化合物II−1、II−2、II−17、II−18、II−45、及びII−65はいずれも、最初の降温時の融点近傍で急激に摩擦係数が上昇していることがわかる。これは、融点に近づき粘度が急に上昇することに起因する摩擦係数の上昇と推察され、また、その後の昇温及び降温過程では、摩擦係数があまり粘性の変化に依存していないことから、融点近傍の低温域では流体潤滑にあり、それ以上の温度では弾性流体潤滑領域にあると考えられる。
一方、比較例用化合物C−1及びC−2はいずれも、60℃以下に融点があり、その近傍で摩擦係数の上昇が見られ、それより高温での温度変化に摩擦係数が影響を受けておらず、これらの化合物も、上記例示化合物と同様に、流体潤滑から弾性流体潤滑領域で摩擦摺動が行われていると考えられる。
これらの中で、最も低粘性の例示化合物II−65には、摩擦係数が明瞭な正の温度依存性を示すことが理解でき、ストライベック曲線からは、II−65は、相対的に混合潤滑の寄与があることを示唆していると考えられる。
例示化合物II−65以外は、いずれも同様の融点を示すので、これらの粘性も類似していると考えて相違ない。とすれば、例示化合物II−1、II−2、II−17、II−18、II−45及びII−65の摩擦係数と、比較例用化合物C−1及びC−2の摩擦係数が顕著に相違することは、粘性の圧力依存性を表すBarusの式:η=η0exp(αP)から、弾性流体潤滑領域の高圧力下Pでの両者の粘性η、即ち、粘度圧力係数α、に大きな差異があると考えられる。これが本発明の化合物群の一つの特徴である。
また、各化合物の摩擦摺動試験後の試験片の摺動部の摩耗深さを、レーザ顕微鏡で評価した結果を以下に示す。
Figure 2010126607
表に示した結果から、以下のことが理解できる。
式(I)〜(III)の例示化合物を利用すると、摩耗深さは極めて浅く、摺動痕自体がほとんど見られなかった。一方、比較例用化合物を利用すると、いずれも明瞭な摺動痕が見られた。即ち、摩耗深さに関しても、例示化合物と比較例用化合物とでは、明瞭な差異を生じた。
3. 試験例2(油性媒体分散組成物の評価)
本発明の組成物、及び比較例用組成物について、オプチモール社の往復動型摩擦摩耗試験機(SRV)を用いて、以下の条件で、その潤滑特性を評価した。
往復動型(SRV)摩擦摩耗試験による評価及び測定法:
摩擦係数及び耐摩耗性は、往復動型(SRV)摩擦摩耗試験機を用いて評価し、以下に示す試験条件で摩擦摩耗試験を行った。
・潤滑剤組成物
油性媒体として鉱物油であるスーパーオイルN−32(新日本石油(株)製)を用い、これに例示化合物II−1を1.0質量%濃度になるように添加し、70℃に加熱して透明溶液とした後、10分間空冷後、この組成物について、以下の条件で試験を行った。この組成物は空冷時徐々に白濁した。
・試験片(摩擦材) :SUJ−2
・プレート :24mm径×7mm厚、表面粗さ0.45〜0.65μm
・シリンダー :15mm径×22mm幅、表面粗さ〜0.05μm
・温度 :25〜110℃
・荷重 :50N、75N、100N、200N及び400N
・振幅 :1.5mm
・振動数 :50Hz
・試験方法
プレート上のシリンダーが摺動する部分に、60mg程度の試料組成物をのせ、下記の工程に従い、摩擦摺動し各温度、各荷重での摩擦係数を評価し、ほぼ一定パターンになるまで、下記工程を繰り返した。終了後にプレートの摩耗深さをレーザ顕微鏡で評価した。
同様にして、油性媒体として鉱物油であるスーパーオイルN−32(新日本石油(株)製)を用い、これに例示化合物II−1の代わりに、1.0質量%濃度になるように添加し、摩擦係数の温度、圧力、経時時間の依存性を評価した。試験を行った試料組成物のうち、例示化合物II−1,3,4,5,6,7,8,14,16,17,18,19,33,34,36,37,38,40,41,42,43,45,58,及び65をそれぞれ用いて調製した試料組成物について、試験結果をグラフとして図5〜図16に示す。
また、比較例用化合物として、ペンタエリスリトール誘導体であるが、ポリアルキレンオキシ基を有さない化合物、具体的には、比較例用化合物C−3(C(CH2OCOC24CO22245−n)4)及び比較例用化合物C−6(C(CH2OCOC1735−n)4をそれぞれ用い、同様に組成物を調製し、該組成物をそれぞれ試験した。試験結果をグラフとして図17に示す。
また、参考例として、油性媒体として用いた鉱物油であるスーパーオイルN−32のみを、同様にして試験した結果を、グラフとして図18に示す。
例示化合物II-1を利用して調製した試料は、図5に示す通り、25℃の摩擦係数が0.05以下という、低い摩擦係数を示していることが理解できる。例示化合物II−1は、図1に示したとおり、単独では融点63.5〜64.0℃の結晶であるため、25℃ではその高粘性ゆえにSRVの摩擦係数は0.3以上となっていた。また、油性媒体として用いた鉱物油のスーパーオイルN−32は、単独では、図18に示す通り、25℃では0.07以上の摩擦係数を示している。これらのことから、例示化合物II−1は、スーパーオイルN−32中に、1.0質量%の濃度になるように分散している状態では、お互い単独ではなく、お互いがなんらかの相互作用をして、この小さな摩擦係数を発現しているものと考えられる。
一般的には、界面近傍に低粘性流体と高粘性流体が存在し、それが高剪断場であれば、高粘性流体がより固い界面近傍に剪断によって平滑な被膜を形成し、その両界面の間隙に低粘性流体が挟まれることで、より低い摩擦係数を発現することは潤滑の理に適っており、そのような現象が起こっている可能性が示唆される。
例示化合物II−1を含む試料は、温度の上昇とともに摩擦係数が0.09まで急激に上昇し、60〜110℃までは温度に全く依存せずにその摩擦係数を維持している。このことは、この潤滑状態が境界潤滑ではなく、弾性流体潤滑にあるものと推測できる。その理由は、より低粘性流体であるスーパーオイルN−32の摩擦係数が、図18に示す通り、明瞭な正の温度依存性を示していて、混合潤滑領域で摺動していることを強く示唆していることから、それより高粘性流体が共存する場で、急激に境界潤滑に入るとは考え難いからである。
他の例示化合物を利用して調製した試料についても、図5〜図16に示す通り、例示化合物II-1と同様の挙動が観察された。
一方、比較例用化合物C−3及びC−6を利用して調製した組成物は、いずれも摩擦係数が、例示化合物を利用して調製した組成物と比較して高いことが理解できる。
以下に、各試料の摩擦摺動試験後の摺動部の摩耗痕深さの測定値を示す。なお、比較例用化合物C−4は、C{CH2O(C24O)6.52245−n}2である。
Figure 2010126607
本発明の実施例の試料は、比較例と比較して、磨耗痕が格段に浅く、耐摩耗性に優れていることが理解できる。
なお、試験例1の摩耗痕深さと比較して、試験例2の結果は、総じて大きな値を示しているが、それは、試験例2では、試料として化合物を単独で用いているので、概ね厚い膜厚での弾性流体潤滑であったのに対して、本試験例では低粘性油スーパーオイルN−32中に、1質量%しか含まれていない状態であるので、至極当然の結果のように思われる。さらに、上記結果の中には、試験例1の非希釈条件と同様の結果を与える例もあるので、本発明の実施例の組成物は、耐摩耗性についても優れた性質をもっていることが理解できる。
4. 試験例3
油性媒体として、鉱物油 スーパーオイルN−32の代わりに、市販(新日本石油(株)製)ポリ−α−オレフィン、ポリオールエステル(POE)、市販イオン流体、及びN−メチルピロリドンをそれぞれ用い、これに例示化合物II−4を1.0質量%濃度になるように添加し、同様に組成物を調製し、試験例2と同様にして、摩擦係数の温度、圧力、経時時間の依存性を評価した。結果を図19〜図20に示す。
図19〜図20に示す結果から、油性媒体としていずれの材料を用いて調製した組成物であっても、低摩擦係数を示すことが理解できる。
5. 試験例4
往復動型(SRV)摩擦摩耗試験を下記条件で行った。但し、鋼鉄以外の素材として、樹脂であるポリエーテルエーテルケトン、及びセラミックスである酸化アルミニウム上で評価を行った。摩擦係数及び耐摩耗性を、往復動型(SRV)摩擦摩耗試験機を用いて評価し、以下に示す試験条件で摩擦摩耗試験を行った。
試料の調製:
基油として鉱物油であるスーパーオイルN−32(新日本石油(株)製)を用い、これに例示化合物II−1を1.0質量%濃度になるように添加し、温度70℃に加熱して、透明溶液とした後、10分間空冷して、試料用の分散組成物を得た。この試料は空冷時徐々に白濁した。
試験条件:
上記で調製した試料について、以下の条件で試験を行った。
・試験片(摩擦材) :SUJ−2
・シリンダー :15mm径×22mm幅、表面粗さ〜0.05μm
・プレート :24mm径×7mm厚、表面粗さ0.45〜0.65μm
・温度 :30〜180℃
・荷重 :50N、75N、100N、200N及び400N
・振幅 :1.5mm
・振動数 :50Hz
試験方法:
プレート上のシリンダーが摺動する部分に、上記試料を60mg程度のせ、下記の工程に従い、摩擦摺動し、各温度及び各荷重での摩擦係数を評価した。
(1) 30℃、50Nで、10分間の摩擦係数値の変動が0.01以下になるまで経時の摩擦係数を測定
(2) 50Nで、30℃から10℃毎昇温し、110℃まで加熱し、各温度での摩擦係数を測定
(3) 30℃まで冷却
(4) (冷却開始から30分後)30℃で、50N、75N、100N、200N及び400Nの摩擦係数を測定
(5) 30℃から10℃毎昇温し、110℃まで加熱し、各温度での摩擦係数を測定
但し、60℃及び90℃では、50N、75N、100N、200N及び400Nの摩擦係数を測定
(6) 70℃以上の摩擦係数が前回の値とほとんど差がなくなるまで、(3)〜(6)を繰り返す。
(7) 30℃まで冷却
(8) (冷却開始から30分後)、30℃から10℃毎昇温し、180℃まで加熱し、各温度での摩擦係数を測定
但し、60℃、90℃、120℃、150℃、及び180℃では、50N、75N、100N、200N及び400Nの摩擦係数を測定
(9) (5)及び(6)を行い、終了する。
その一定になった摩擦係数の温度、圧力依存性について、以下のプレートの材質を鋼鉄(SUJ−2)、鋼鉄の上にDLC薄膜をCVD法によって形成したプレート、ポリエーテルエーテルケトンのプレート、及び酸化アルミニウムのプレートについてそれぞれ評価した。
・プレート1:24mm径×7mm厚、材質はダイアモンドライクカーボンで、膜厚は35nm、表面粗さ 0.01μm以下
・プレート2:24mm径×7mm厚、材質はポリエーテルエーテルケトン、表面粗さ〜0.05μm
・プレート3:24mm径×7mm厚、材質は酸化アルミニウム、表面粗さ〜0.15μm
上記試験の結果を、図21に示す。図21に示す結果から、低い温度では、DLC(ダイヤモノドライクカーボン)<PEEK<Fe(SUJ−2)<酸化アルミニウム の順に摩擦係数が上昇することが理解できる。しかし、この領域では、例示化合物II−1の膜ははるかに硬く、基油として用いた鉱油のN−32が、例示化合物II−1の薄膜の間隙で流体潤滑を行なっていると推察される。この推察の通りとすると、この摩擦係数の差は、界面に存在する例示化合物II−1、ひいてはその下地の表面粗さに起因する鉱油N−32の流体膜の膜厚を反映したものではないかと考えられる。温度100℃を超えた辺りから、SUJ−2及び酸化アルミニウムプレートの摩擦係数の低下が見られるが、この領域では、例示化合物II−1が、弾性流体潤滑領域にあり、ここでも界面下地の表面粗さの影響が、弾性変形の効果とともに出ているものと推察される。ダイヤモノドライクカーボン被膜は、鋼鉄との密着性が十分にとれていなかったせいで、途中から剥離していた。しかし、いずれのものについても、現行の潤滑技術を用いるより低い摩擦係数を与えていることは明らかである。
6. 試験例5
本発明者は、本発明の例示化合物II−1が摺動部に偏析する現象を、トライボロジーの技術分野において、弾性流体潤滑領域の評価を行なうための点接触EHL評価装置を用い、機器の点接触している部分近傍をスペクトル的に観察することによって、その高荷重、高剪断場での物質濃度の変化を定量的に捉えることに成功した。具体的には、以下の通りの方法で観察した。
試料の調製:
まず、例示化合物II−1を油性媒体中に分散して試料を調製した。油性媒体として鉱物油であるスーパーオイルN−32(新日本石油(株)製)を用い、これに例示化合物II−1を1.0質量%濃度になるように添加し、70℃に加熱して透明溶液とした後、10分間空冷して、試料用の分散組成物を得た。その後、この試料について、以下の条件で試験を行った。なお、この試料は空冷時徐々に白濁した。
測定方法の概略:
図22は、この測定に用いた装置の概略図である。顕微FT−IRは、日本分光(株)製 FT−IR400に接続されたMICRO20を用い、そのカセグレン鏡のワーキングディスタンスに、点接触EHL評価装置の点接触部分がくるように装置の位置を決めた。回転している鋼鉄球を、その回転軸を平行にして、ダイアモンド(硬質平面)板に設置し、軸に荷重をかけて、圧力下接触させた。調製した試料を供給して、回転している鋼鉄球とダイヤモンド板との間隙及びその近傍に流すようにした。
鋼鉄球がダイアモンド板に点接触している部分には、光学的な干渉模様であるニュートンリングが形成されるが、ダイアモンド板を介して鋼鉄球と逆側から赤外光を照射すると鋼鉄球に反射することで、ニュートンリング近傍の試料の薄膜のIRスペクトルが測定できる。図23に、その点接触してできたニュートンリングの図を示す。図23中に示すニュートンリングの径は約200nmで、点線で囲った部分が160nm角に絞ったIR測定光である。
試料の調製時に油性媒体として、鉱物油やポリ−α−オレフィンを用いると、これらは炭化水素であるから、C−C及びC−H以外の特性吸収がない。よって、試料中の例示化合物II−1は、明瞭で高強度の特性吸収帯を示すエステル結合のカルボニル基を有するので、その特性吸収帯の強度から、濃度の変化を定量的に検出できる。
上記の装置を用いて観察したところ、ニュートンリングが形成されるいわゆる高圧力、高剪断場であるヘルツ接触域において、試料の流れが隔てられてできたろうそくの炎の形の、例えば、後方20〜400μmの間の領域に、例示化合物II−1が徐々に偏析してくることが分かった。
図24は、点接触してニュートンリングが形成されている部分、それに対して試料が流れ込む部分、及びその左右の部分の図である。
図25に、そのIRスペクトルを示す。図25に示す結果から、経時で、1750cm-1のカルボニル基の伸縮振動帯、及び1120cm-1のエステルC−O伸縮振動帯が増加していることが理解できる。
温度などの条件によって異なるが、測定温度:40℃、線速度:0.15m/sec.Hertz圧力:0.3GPaの条件下、ほぼ5分〜2時間ほどで、凡そ一定濃度に達することが多い。
図26は、吸光度の温度依存性を示すグラフである。明らかに、試料が透明点に近づく、即ち、例示化合物II−1の分散粒子径が小さくなるに従って、例示化合物II−1の偏析速度も小さくなり、透明点以上の温度において、この評価装置では測定限界以下の偏析量になっていることがわかる。
図27は、鋼球の回転速度、即ち、その潤滑油が点接触部分に送り込まれる量と偏析量の関係を示すグラフである。このグラフから、予想されたとおり、回転数が高いほど、即ち、点接触部に供給される分散組成物試料の量が多いほど、偏析量が増加していることが理解できる。
上記の点接触EHL評価装置は、高圧力、高剪断条件下のヘルツ接触域、即ち真実接触部位のモデルである。実際の摩擦接触域は、そのような真実接触域が密集しているような領域であるので、油性媒体中に例示化合物II−1を含む試料は、そのような摩擦接触域の多数の真実接触域近傍で、相対的に低粘性の基油(油性媒体)が少なくなり、前例示化合物II−1が蓄積されるものと考えられる。
従って、試料中に含まれる例示化合物II−1が1質量%程度の少量であっても、また、本来なら高温度で蓄積しないと懸念される条件でも、SRV評価装置での高温での摩擦係数が示すように、摺動部分で例示化合物II−1の濃度が増加すれば、高温度でも、当該化合物本来の弾性流体潤滑下での低粘性の効果を発現することが期待できる。
7. 試験例6
・ グリース組成物の性能評価
例示化合物II−18、I−64、II−37、I−71及びIII−1をそれぞれ用い、下記表に示す組成のグリース試料1〜5をそれぞれ調製した。また、下記表に示す組成の比較例用グリース試料C1〜C4をそれぞれ調製した。
摩擦試験を実施し、摩擦係数及び摩耗痕深さを測定した。なお、実施例における摩擦係数は、往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機)を用いて測定し、下記の試験条件で摩擦試験を行った。実施例のグリース試料1〜5の結果を下記表3に、比較例用グリース試料1〜の結果を下記表4に示した。
試験条件:
試験条件はボール−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
ボール:φ10mm
温度:70℃
荷重:100N
振幅:1.0mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始30分後を測定。
Figure 2010126607
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、本発明の実施例のグリース組成物試料は、その摩擦低減効果と摩耗抑制効果を顕著に示すことが理解できる。
8. 試験例7
基油(100ニュートラル油;100℃における粘度4.4mm/s2)に、下記表に示す4種類の例示化合物(I−8、II−1、II−18及びIII−1)のそれぞれを下記表に示す割合で、金属系清浄剤としてカルシウムスルホネート 2.0質量%、及び下記表に示す添加剤を下記表に示す割合で;混合し、潤滑油組成物を調製した。
調製した各潤滑油組成物について、摩擦係数を測定した。結果を下記表に示す。なお、潤滑油組成物の摩擦係数は、往復動すべり摩擦試験機[SRV摩擦試験機]を用い、振動数50Hz、振幅1.5mm、荷重50N、温度65℃、試験時間30分において測定した。
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、例示化合物を添加して調製した実施例の潤滑油組成物試料(7−1〜7−4)を用いた場合は、いずれも摩擦係数が低く、良好な摩擦特性を示していることが理解できる。一方、比較例の潤滑油組成物試料(7−C1〜7−C4)は、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)や硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)等の有機モリブデン化合物を添加して調製した試料であるが、いずれも摩擦係数が高く、摩擦特性が不十分であることが理解できる。
このことから、以下のことがいえる。
一般的に、モリブデン化合物は、摩擦面に強力に吸着して、摩擦を軽減する作用があるといわれている。一方、本発明の潤滑油組成物は摩擦鉄面に吸着する作用はないものの、中低油温で且つ低速回転の運転条件下でも、モリブデン化合物を含有する比較例用試料と同様に、又はそれ以上に摩擦係数を低減させる作用を有している。従って、本発明の潤滑油組成物は、自動車のエンジンなどの内燃機関用、ギヤ油、自動変速機液、ショックアブソーバ油などの自動車用潤滑油として好適に用いることができる。
9. 試験例8(耐久性試験)
4種の例示化合物I−4、I−16、II−32及びII−45をそれぞれ含有する試料を以下の通り調製し、それぞれについて以下の耐久性試験を行った。
まず、基油として下記表示す特性の鉱油1及び鉱油2のいずれかを用いた。
Figure 2010126607
添加剤としては、以下のものを用いた。
MoDTC:下記式(1)の化合物であって、Rが2−エチルヘキシル基である。
Figure 2010126607
硫黄系添加剤1:硫黄系添加剤とは、ポリサルファイド化合物を有する添加剤を指し、硫黄系添加剤1は、下記式のチアジアゾール型ポリサルファイド化合物を含有するものであり、添加剤中の硫黄分は36質量%である。Sx,Syはポリスルフィド基、R1及びR2はそれぞれ炭素原子数4〜10の飽和炭化水素の混合物を表す。
Figure 2010126607
硫黄系添加剤2:硫化油脂型ポリサルファイド化合物を含有する添加剤であり、添加剤中の硫黄分は10.5質量%である。
硫黄系添加剤3:ジベンジルジサルファイドを含有する添加剤であり、添加剤中の硫黄分は25.5質量%である。
ZnDTP1:前記一般式(2)の化合物であって、R’が2−エチルヘキシル基であり、プライマリィタイプのアルキル基の化合物である。
ZnDTP2:前記一般式(2)の化合物であって、R’がイソプロピル基の化合物、イソヘキシル基の化合物及び前記の両アルキル基を有する化合物の混合物であり、アルキル基が、セカンダリィタイプの化合物である。
Figure 2010126607
添加剤パッケージ:金属系清浄剤、無灰系分散剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤、防錆剤及び消泡剤よりなる。
下記表に示す通り、4種の例示化合物(I−4、I−16、II−32及びII−45)、上記鉱油1又は鉱油2、及び下記表に示す添加剤を、下記表に示す割合で混合して、エンジン油組成物試料をそれぞれ調製した。なお、下記表中、各数値は配合割合を「質量%」単位で示しているが、消泡剤についてppm単位で示している。
このようにして調製した実施例及び比較例の各エンジン油組成物試料について、摩擦特性及び動弁系の摩耗性能を、以下の方法で評価した。
(1)摩擦特性
新油及び劣化油について、SRV試験機を用いて、次の条件で、摩擦係数を測定した。
テストピース:直径10mmφ、材質SUJ−2のボール、及び材質SUJ−2のディスク
Figure 2010126607
摩擦係数は、本試験の最後の20分間の平均摩擦係数より求めた。また、劣化油は、下記のエンジンを用い、実車走行をシミュレートすることで得た。即ち、油温100℃、水温100℃のAMA走行モードで台上耐久試験を行い、160時間(4000km相当)、及び400時間(10000km相当)経過後にエンジン油を採取し、それぞれ劣化油として前記摩擦試験に供した。
(2)動弁系摩耗性試験
各エンジン油試料について、日本自動車技術会規定(JASO M328−91)に従って動弁系摩耗性試験を行い、ロッカアームのスカッフィングの評価及びカムノーズの摩耗量を測定した。
評価結果を下記表に示す。但し、下記表において、ロッカアームのスカッフィングの評価については、0〜10.0の間の評点を示し、10.0が良好であり、0が悪いことを示す。
Figure 2010126607
上記表中に示す結果について、実施例の試料と比較例の試料とを対比すると、実施例のエンジン油試料の摩擦係数は、いずれも低く、及び400時間劣化させた後でも、ほとんど上昇がないことが理解できる。一方、比較例の試料の摩擦係数は、新油については、実施例の試料と同等であったが、400時間劣化させた後では、明らかに上昇していることが理解できる。よって、本発明の実施例の試料は、長期間の使用後も摩擦係数及びカムノーズ摩耗量の変化が小さいことが理解できる。
本発明の組成物は、MoDTCやZnDTPを特に多量に添加しなくとも、長期間の使用に対して、低い摩擦係数を維持することができ、自動車に充填、使用し、省燃費及び環境保全に格別の効果を発揮する。
10. 試験例9(窒素酸化試験)
例示化合物II−2、II−18、II−37、及びII−58をそれぞれ含有する試料について、窒素酸化試験として、以下の条件の通り試験を実施した。
試料の調製に用いたモリブデン酸アミン塩は、下記一般式[1]で表される化合物であり、モリブデンジチオカーバメートは下記一般式[4]で表される化合物であり、モリブデンジチオフォスフェートは下記一般式[5]で表される化合物である。
Figure 2010126607
窒素酸化試験:
潤滑油組成物の摩擦係数は、往復動すべり摩擦試験機[SRV摩擦試験機]を用い、振動数50Hz、振幅1.5mm、荷重50N、温度75℃、試験時間30分において測定した。窒素酸化物ガス含有空気による酸化試験は、試験油150mLについて、温度130℃、窒素酸化物(NOx)濃度1容量%、流速2リットル/時、試験時間8時間で行った。沈殿の生成は、潤滑油組成物500mLをガラス容器に入れて密栓し、−10℃の低温恒温器中に24時間放置した後、目視により観察して判定した。
実施例試料9−1の調製:
温度100℃における粘度が4.0mm2/sのパラフィン系鉱油に、金属系清浄剤としてカルシウムスルホネートを2.0質量%、無灰分散剤としてコハク酸イミドを5.0質量%、酸化防止剤としてヒンダードフェノールを1.0質量%、及び例示化合物II−2を1.0質量%配合して、潤滑油組成物試料を調製した。
この潤滑油組成物試料の調製直後の摩擦係数は0.055、酸化試験後の摩擦係数は0.083であり、沈殿の生成は認められなかった。
比較例用試料9−C1の調製:
温度100℃における粘度が4.0mm2/sのパラフィン系鉱油に、金属系清浄剤としてカルシウムスルホネートを2.0質量%、無灰分散剤としてコハク酸イミドを5.0質量%、酸化防止剤としてヒンダードフェノールを1.0質量%、耐摩耗剤としてジチオリン酸亜鉛を1.0質量%、粘度指数向上剤としてポリアルキルメタクリレートを5.0質量%、モリブデン酸のジトリデシルアミン塩をモリブデン量が1,000ppm(質量比)となるように、硫化オキシモリブデン−N,N−ジオクチルジチオカーバメートをモリブデン量が500ppm(質量比)とになるよう配合して、潤滑油組成物を調製した。
この潤滑油組成物試料の調製直後の摩擦係数は0.09、酸化試験後の摩擦係数は0.10であり、沈殿の生成は認められなかった。
他の潤滑油組成物試料についても、上記と同様にして、ただし、下記表に示す組成に変更して、それぞれ調製した。各試料について、上記窒素酸化試験を行った。結果を下記表に示す。
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、本発明の実施例の潤滑油組成物試料は、優れた低摩耗性を有するとともに、高温かつ窒素酸化物ガスの存在下においても耐酸化性を発揮して良好な摩擦特性(低摩擦性)を持続することが理解できる。したがって、本発明の組成物は、内燃機関、自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの潤滑油、特に、内燃機関用潤滑油として好適に用いることができる。
11.試験例10(高温デポジット防止性能評価)
例示化合物をそれぞれ含む試料ついて、高温デポジット防止性能評価を、以下の条件で行った。
1) 高温デポジット防止性能(TEOST(Thermo-Oxidation Engine Oil Simulation Test))(SAE Paper 932837 参照):
酸化工程を反応室での酸化プリカーサーの生成とデポジットの折出の二つのセクションに区分し、次の試験条件を採用し、生成したデポジット生成量を測定する。デポジット生成量を高温デポジット防止性能の評価基準とする。
・ポンプ速度 : 0.45mL/分
・空気流量 : 3.6mL/分(水分含有)
・N2 O流量 : 3.6mL/分(水分含有)
・反応温度 : 100℃
・反応室油量 : 100mL
・鉄ナフテネート : 100ppm
・折出室温度 : 200℃〜480℃
・全試験時間 : 114分
2)摩擦低減効果:
往復動すべり摩擦試験機[SRV摩擦試験機]を用い、振動数50Hz、振幅1.5mm、荷重400N、温度100℃、試験時間30分の条件で摩擦係数を測定し、摩擦低減効果の評価基準とした。
内燃機関用潤滑油組成物試料10−1の調製:
下記表に示す溶剤精製油A 70.0質量%、及びワックス異性化油30.0質量%を含有し、100℃における動粘度が4.1cStであり、GCD 480℃残留重質成分が7.5質量%である鉱油系基油を調製した。なお、基油中、GCD 430℃残留重質成分の含有量は35.5質量%であり、このうち、GCD 450℃残留重質成分は、17.7質量%であった。上記基油に潤滑油組成物全重量基準で、例示化合物II−42を1.1質量%添加し、さらに下記表に記載の他の添加剤を同表に示す割合で添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物試料10−1を調製した。なお、「GCD」とは、「ガスクロマトグラフによる蒸留により測定した沸点範囲において」ということを意味する。
この試料について、上記高温デポジット防止性能試験(TEOST)及び上記摩擦試験(SRV)を行った。結果を下記表に示す。高温デポジット量が39.6mgであり、良好であった。
比較例用内燃機関用潤滑油組成物10−C1の調製:
下記表に示す溶剤精製油A 70.0質量%及びワックス異性化油30.0質量%を含有し、100℃における動粘度が4.1cStであり、GCD 480℃残留重質成分が7.5質量%である鉱油系基油を調製した。なお、基油中、GCD 430℃残留重質成分の含有量は35.5質量%であり、このうち、GCD 450℃残留重質成分は、17.7質量%であった。上記基油に潤滑油組成物全重量基準で硫化オキシモリブデンジチオカルバメートをモリブデン量として500ppm、カルシウムサリシレート 3質量%、アルケニルコハク酸イミド 3質量%、ジベンジルジサルファイドを硫黄量として 500ppm、及びジチオリン酸亜鉛をリン量として 0.1質量%添加し、さらに下記表に記載の他の添加剤を同表に示す割合で添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物試料10−C1を調製し、た。
この試料について、上記高温デポジット防止性能試験(TEOST)及び上記摩擦試験(SRV)を行った。結果を下記表に示す。高温デポジット量が59.1mgであった。
その他の試料についても、下記表に示す組成とした以外は、上記試料10−1及び10−C1と同様にして調製した。
なお、下記表中の基油の組成は以下の通りである。また、下記表中の各成分の「質量%」は、基油に関しては、基油全体中の質量%を意味し、添加剤に関しては、全組成物中の質量%を意味する。
Figure 2010126607
Figure 2010126607
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、例示化合物を含有する本発明の実施例の組成物は、従来の耐磨耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤を含有する比較例の組成物と比較して、高温デポジット量が少なく、高温デポジット防止性能に優れることが理解できる。
上記結果から、本発明の実施例の内燃機関用潤滑油組成物は、ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を1質量%以上含有する潤滑油成分を基油とするものであることが理解できる。したがって、本発明によれば、低燃費性能を損なうことなく、優れた高温デポジット防止性能を有し、将来的な品質要求に耐え得る高性能潤滑油を提供することができる。
12.試験例11(耐摩耗性、酸化安定性及び貯蔵安定性評価)
例示化合物I−43、I−71、II−18及びII−27をそれぞれ含有する組成物について、耐摩耗性、酸化安定性及び貯蔵安定性評価として、以下の条件の通り評価を行った。
下記表に示す組成の内燃機関用潤滑油組成物をそれぞれ調製した。これらの組成物について、以下に示す動弁系摩耗試験、NOx吹込み試験及び貯蔵安定性試験を行った、その結果を下記表に示す。比較のため、下記表に示す比較例用試料組成物について実施例と同様に試験を行った。その結果を下記表に示す。
1)動弁系摩耗試験:
JASO(日本自動車工業会)M328−95で規定されている「自動車用ガソリン機関用潤滑油の動弁系摩擦試験方法」従い、日産KA24Eエンジンを使用し、試料油を規定量充填し、100時間運転後のカムシャフトのカムノーズ摩耗量を測定した。本試験はエンジン油の摩耗防止性を評価するものであり、一般にカムノーズ摩耗量が10μm以下であれば、実用上問題ないとされている。
2)NOx吹き込み試験:
オイルバス中にて160℃に保持した試料油100gに、NOガス8000ppm(ベースガスは窒素)を100mL/分及び酸素を233mL/分の割合で吹き込み、48時間後の100℃における動粘度を測定し、新油時の動粘度に対する48時間後の試料の動粘度を動粘度比として算出した。動粘度比が1に近いほどエンジン内におけるスラッジ防止性、酸化安定性が良いとされている。
3)貯蔵安定性試験:
試料油を60℃で1週間、−5℃で1週間貯蔵するサイクルを1サイクルとし、6サイクル(3ヵ月)後の試料の濁り、沈殿の発生を目視評価した。
なお、下記表中の各成分の「質量%」は、基油に関しては、基油全体中の質量%を意味し、添加剤に関しては、全組成物中の質量%を意味する。なお、下記表中、新油性状動粘度とは、調製後の全組成物の動粘度を意味する。
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、本発明の組成物である実施例1〜4の組成物は、耐摩耗性、酸化安定性及び貯蔵安定性に優れていることが理解できる。
上記評価結果から、本発明の実施例の組成物はZDTPや金属系清浄剤を含有しないにもかかわらず、耐摩耗性、スラッジ防止性、酸化安定性、ピストン清浄性に極めて優れた性能を有する内燃機関用潤滑油組成物であることが理解できる。
13.試験例12(燃料消費率評価)
例示化合物I−15、II−8、III−10及びIII−26について、燃料消費率評価として、以下の条件の通り評価を行った。
潤滑油基油および添加剤として、次に掲げるものを使用した。
Figure 2010126607
添加剤 重量平均分子量
オレフィンコポリマー 1 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 4×104
オレフィンコポリマー 2 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 5×104
オレフィンコポリマー 3 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 1×105
オレフィンコポリマー 4 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 2.2×105
オレフィンコポリマー 5 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 3×105
オレフィンコポリマー 6 (エチレン−フ゜ロヒ゜レン共重合体) 3.5×105
ポリメタクリレート 2×105
添加剤 全塩基価(mgKOH/g)
Caサリシレート 1 50
Caサリシレート 2 70
Caサリシレート 3 400
Caスルホネート 4 300
添加剤 Mo含有量
硫化オキシモリフ゛テ゛ンシ゛n-オクチルシ゛チオカーハ゛メート(C8MoDTC) 4.1%
硫化オキシモリフ゛テ゛ンシ゛n-オクチルシ゛チオカーハ゛メート(C18MoDTC)/硫化オキシモリフ゛テ゛ンシ゛n-トリテ゛シルシ゛チオカーハメート(C13MoDTC)
4.5%
添加剤 P含有量
シ゛(フ゜ライマリーn-2-エチルヘキシル)シ゛チオリン 酸亜鉛(フ゜ライマリーC8ZnDTP) 6.5%
シ゛(セカンタ゛リーC3/C6アルキル)シ゛チオリン 酸亜鉛(セカンタ゛リーC3/C6ZnDTP) 8.0%
硫黄系添加剤
硫化エステル
チアジアゾール
ジサルファイド
ジチオカルバミン酸亜鉛
無灰ジチオカルバミン酸塩
無灰分散剤 平均分子量(ホ゜リスチレン換算)
ホウ素系アルケニルコハク酸イミド 1(ビス型) 4,000
ホウ素系アルケニルコハク酸イミド 2(ビス型) 1,000
酸化防止剤
4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)
各組成物試料について、下記の性能評価試験により評価した。
1)NOx酸化試験
組成物試料150mLに、油温130℃で12時間、1容量%NO2ガスを5リットル/時、酸素ガスを5リットル/時の流通速度で吹き込みNOx酸化処理を行なった。試作油の新油およびNOx酸化試験後の劣化油の摩擦係数は、オプチモル社製SRV往復動摩擦試験機により荷重400N、振動数50Hz,振幅1.5mmおよび油温120℃の条件で測定した。
2)燃料消費率測定試験
2,200cc容量のDOHCエンジンを用い、1000rpm×50N・m、油温90℃で45分間慣らし運転後、25ccの燃料を消費するのに必要な時間を計測した。この計測を約45回繰り返し、その平均値を燃料消費率(s/25cc)とした。
3)全塩基価測定法
サリチル酸のアルカリ土類金属塩および油中の全塩基価は、JIS K2501に定める電位差滴定法(HClO4 法)により測定した。
実施例の各試料には、下記表に示す例示化合物を下記表に示す割合で添加した。
実施例及び比較例用の試料のいずれについても、基油Aを使用し、及び全塩基価70mgKOH/gのカルシウムサリシレートを6質量%添加した。
比較例用の試料として、硫化オキシモリブデンジn−オクチルジチオカーバメート(C8 MoDTC)をモリブデン(Mo)量として500ppm、及びジ(セカンダリーC3/C6アルキル)ジチオリン酸亜鉛(セカンダリーC3/C6ZnDTP)1.2質量%を各々同量配合した2種を調製した。一方の比較例用試料(12−C1)では、重量平均分子量1×105のオレフィンコポリマー3を3質量%、他方の比較例用試料(12−C2)では、2.2×105のオレフィンコポリマー4を2質量%各々添加した。また、別途、比較例用試料(12−C3)として、硫化オキシモリブデンジn−オクチルジチオカーバメート(C9 MoDTC)をモリブデン(Mo)量として700ppm、及びジ(セカンダリーC3/C6アルキル)ジチオリン酸亜鉛(セカンダリーC3/C6ZnDTP)1.2質量%を各々添加した1種を調製し、オレフィンコポリマー1及び2を下記表に示す割合で添加した試料を調製した。
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、例示化合物をそれぞれ含有する本発明の組成物試料(12−1〜12−4)は、オレフィンコポリマーを添加した比較例用試料(12−C1〜12−C3)と比較して、優れた燃費性能を示した。
従って、本発明によれば、潤滑油基油と本発明化合物の組み合わせにより、燃費性能に優れた潤滑油組成物を提供することができる。
14.試験例13(清浄性評価)
例示化合物I−1、II−7、II−14及びII−18をそれぞれ含有する組成物について、清浄性評価を、以下の条件で行った。
ホットチューブ試験機を用いて、エンジン用潤滑油組成物試料(実施例用試料13−1〜13−4、比較例用試料13−C1〜13−C4)の清浄性を評価した。具体的には、一定温度に加温したガラス管内に予め劣化処理した各エンジンオイル試料及び空気を挿入し、エンジンオイルの劣化による汚れ成分の付着状態を観察し、ラッカー評点として評価した。
設定条件:
エンジンオイルの挿入量:6mL/16時間
空気の挿入量 :10mL/分
加熱部温度 :290〜320℃
エンジンオイルの劣化処理方法:
実際の運転時に混入する酸性物質(硫酸)、燃焼生成物(スス)、磨耗粉(鉄粉)を想定し、以下の条件で各エンジンオイルを予め処理した。即ち、カーボンブラック、鉄粉、硫酸を以下の割合でエンジンオイルに添加し、温度100℃で10分間攪拌混合したものを試験油として用いた。
カーボンブラック:エンジンオイルに対し0.2質量%
5μm以下の鉄粉:エンジンオイルに対し0.05質量%
硫酸 :エンジンオイルに対し0.8質量%
評価方法:
16時間試験後のガラス管を所定の標準色と照らし合わせて1〜10の評価点を付けた。
評価点1:ガラス管の汚れが最も多く、黒色に変色したもの(黒く炭化)。
評価点5:ガラス管の汚れ状態が中程度で淡黄色に変色したもの。
評価点10:ガラス管の汚れ状態が最も少なく、殆ど元のガラス管と同じ状態のもの。
(エンジンオイルの組成物)
(A)成分及びその他の成分を下記表に記載した組成で配合したものをエンジンオイルの試験油とした。尚、調製に使用した各種添加剤は以下の通りである。
極圧潤滑剤:金属系清浄剤:
市販カルシウムサリシレート (表中Ca−サリシレートと記載)=300 TBN
市販カルシウムスルホネート (表中Ca−スルホネートと記載)=320 TBN
市販カルシウムフェネート (表中Ca−フェネートと記載)=170 TBN
(*TBN: アルカリ価を示し、KOHmg/gで表示)
のいずれかを使用
極圧潤滑剤:
市販硫化オキシモリブデンジn−オクチルジチオカーバメート(C8MoDTCと記載)
市販ジ(セカンダリーC3/C6アルキル)ジンクジチオホスフェート(セカンダリーC3/C6ZnDTPと記載)を使用
無灰性分散剤:
市販ポリブテニルコハク酸イミドを使用
基油:
市販天然鉱物油(パラフィン系鉱物油;粘度=120mm2/s:40℃)を使用
Figure 2010126607
Figure 2010126607
上記表に示す結果から、実施例の各試料はいずれも、比較例の試料と比較して、清浄性に優れていることが理解できる。
例示化合物II−1及びII−2の試験例1の結果を示すグラフである。 例示化合物II−17及びII−18の試験例1の結果を示すグラフである。 例示化合物II−45及びII−65の試験例1の結果を示すグラフである。 比較例用化合物C−1及びC−2の試験例1の結果を示すグラフである。 例示化合物II−1及びII−3をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−4及びII−5をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−6及びII−7をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−8及びII−14をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−16及びII−17をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−18及びII−19をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−33及びII−34をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−36及びII−37をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−38及びII−40をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−41及びII−42をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−43及びII−45をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−58及びII−65をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 比較例用化合物C−3及びC−6をそれぞれ含む組成物の試験例2の結果を示すグラフである。 市販の鉱物油の試験例2の結果を示すグラフである。 例示化合物II−4と、市販ポリ−α−オレフィン及びポリオールエステルのそれぞれとを用いて調製した組成物の試験例3の結果を示すグラフである。 例示化合物II−4と、市販イオン流体及びN−メチルピロリドンのそれぞれとを用いて調製した組成物の試験例3の結果を示すグラフである。 例示化合物II−1を含む組成物の試験例4の結果を示すグラフである。 試験例5に用いた装置の概略図である。 試験例5において観測されたニュートンリングの顕微鏡写真である。 試験例5において観測されたニュートンリングの顕微鏡写真である。 試験例5において測定したIRスペクトルである。 試験例5において測定したIRスペクトルの吸光度の、温度変化に対する変動を示すグラフである。 試験例5において測定したIRスペクトルの吸光度の、鋼球の回転数変化に対する変動を示すグラフである。

Claims (17)

  1. 油性媒体と、該油性媒体中に分散及び/又は溶解している少なくとも1種の下記式(I)で表される化合物とを含む内燃機関用潤滑組成物:
    Figure 2010126607
    式(I)中、Cは炭素原子を表し、R0は水素原子又は置換基を表し、X1〜X3はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;n1〜n3はそれぞれ0〜5の整数であり;Y1〜Y3はそれぞれ単結合又は二価の連結基を表し;R1〜R3はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、置換もしくは無置換のC2以上のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
  2. 1〜R3がそれぞれ、下記式(Ia)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑剤組成物:
    Figure 2010126607
    式(Ia)中、Cは炭素原子を表し、Oは酸素原子を表し、Laは、単結合又は二価の連結基を表し;Xa1及びXa2はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し、na1は1〜4の整数であるが、na1が2以上のとき、複数のXa1及びXa2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく;na2は1〜35の数であり、Raは置換もしくは無置換のC12以上のアルキル基である。
  3. 1〜R3がそれぞれ、下記式(Ib)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑剤組成物:
    Figure 2010126607
    式(Ib)中、式(Ia)中と同一の符号は同義であり、Alkはそれぞれ同一でも異なっていてもよいC1〜C4のアルキル基を表し;nbは2〜20の数を表す。
  4. 1〜R3がそれぞれ、下記式(Ic)で表され、同一でも異なっていてもよい有機基であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用潤滑剤組成物:
    Figure 2010126607
    式(Ic)中、式(Ia)中と同一の符号は同義であり、ncは1〜20の数を表し、mは1〜12の数を表し、nは1〜4の数を表す。
  5. aが、単結合、又はカルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基、オキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、スルフィド基、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリ−レン基及び複素環基から選択される一つ以上の組合せからなる二価の連結基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  6. 式(I)で表される化合物が、下記式(II)で表されるペンタエリスリト−ル誘導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物:
    Figure 2010126607
    式(II)中、式(I)中と同一の記号については、同義であり、Y4は単結合又は二価の連結基であり、X4はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;R4は、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、置換もしくは無置換のC2以上のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表す。
  7. 式(I)で表される化合物が、下記式(III)で表されるオリゴペンタエリスリト−ル誘導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物:
    Figure 2010126607
    式(III)中、式(I)中と同一の記号については、同義であり、X4、X11〜X14、及びX21〜X24はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表し;Y11、Y12及びY21〜Y23はそれぞれ、単結合又は二価の連結基を表し;R11、R12及びR21〜R23はそれぞれ、末端に、C8以上の置換もしくは無置換のアルキル基、C1以上のパ−フルオロアルキル基、パーフルオロエーテル基、又は有機ポリシロキサン基と、該基とY1〜Y3のそれぞれとの間に、該基に直接又は連結基を介して結合している、C2以上の置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基の単位を1以上有する有機基を表し;mは0〜8の整数である。
  8. 1〜Y4、Y11、Y12及びY21〜Y23がそれぞれ、単結合、カルボニル基(−C(=O)−)、スルホニル基(−S(=O)2−)、又は式中のO(酸素原子)と結合するカルボニル基(−C(=O)−)もしくはスルホニル基(−S(=O)2−)を含む二価の基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  9. 1〜R4、R11、R12及びR21〜R23が、末端にC12以上のアルキル基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  10. 式(I)で表される化合物の40℃における粘度圧力係数が、20GPa-1以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  11. 油性媒体が、鉱物油、ポリ−α−オレフィン、ポリオ−ルエステル、(ポリ)フェニルエ−テル、イオン液体、シリコ−ン油、フッ素油のいずれか又はその混合物であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  12. 油性媒体が、燃焼機関用燃料であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  13. 構成元素が、炭素、水素、酸素及び窒素だけからなることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  14. 液晶性であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  15. 40℃での粘性が30mPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  16. 不透明状態から透明状態に転移する透明点が常圧で70℃以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
  17. 金属系清浄剤、無灰系分散剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤、防錆剤及び消泡剤からなる添加剤群から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の内燃機関用潤滑剤組成物。
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