JP2004292684A - 内燃機関用潤滑油基油およびそれを含有する組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れた内燃機関用潤滑油基油および該基油を含む内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油であって、該飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、そして、該エステルの100℃における動粘度が1〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下である内燃機関用潤滑油基油。
【選択図】 なし
【解決手段】ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油であって、該飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、そして、該エステルの100℃における動粘度が1〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下である内燃機関用潤滑油基油。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用潤滑油基油およびそれを含有する組成物に関する。特に、低粘度かつ高粘度指数であり、低温流動性、低揮発性、潤滑性が良好であり、熱酸化安定性および低燃費性に優れた内燃機関用潤滑油基油およびそれを含有する組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の地球環境問題および石油資源の枯渇問題に対応して、自動車産業においては、二酸化炭素をはじめとする排気ガスの削減および自動車の燃費改善が強く求められている。
【0003】
これらの中で、燃費改善のためには、潤滑油を低粘度化すること;および高温下においても粘度の下がりにくい(粘度指数の高い)潤滑油を用いて、潤滑性を維持することが有効であることが知られている(例えば、非特許文献1)。エンジン始動時の低温状態と運転時の高温状態とで粘度変化が小さいと、つまり粘度指数が高いと、十分な潤滑性が維持され、内燃機関および駆動系機器への動力負荷が減少し、そのことにより燃料消費が抑えられる。
【0004】
このような潤滑油の基油として種々の鉱物油および合成油が検討されている。
【0005】
鉱物油としては、従来から減圧蒸留精製によるLVI(Low Viscosity Index:低粘度指数)基油が用いられてきた。その後、上述の粘度改善を目的として、種々の鉱物油基油が開発されている。例えば、次のような基油が知られている:溶剤精製により芳香族成分を取り除いたHVI(High Viscosity Index:高粘度指数)基油;水素化処理により芳香族成分を飽和し、他の不純物も取り除くことによって、酸化安定性を向上させたHHVI(High High Viscosity Index:高高粘度指数)基油;高温高圧下で芳香族成分を水素化分解し、高温での熱安定性を向上させたVHVI(Very High Viscosity Index:極高粘度指数)基油;およびXHVI(Extremly High Viscosity Index:超高粘度指数)基油など。
【0006】
しかしながら、これらの鉱物油基油は、LVI基油に比較して、高温での粘度低下は抑えられているものの、依然として、粘度指数は高いとはいえず、低温流動性および潤滑性が十分ではなく、燃費改善の点でも満足のいくレベルにまで到達していない。
【0007】
一方、合成油としては、ポリα−オレフィン(PAO)、種々のエステル油などが提案されている。 これらのうち、PAOは、粘度指数および潤滑性の点で不十分である。エステル油でなる合成油、あるいはエステル油を含む合成油としては、以下の技術が知られている。
【0008】
特許文献1には、ネオペンチルポリオールと炭素数4〜20の脂肪酸とのエステルを基油とした潤滑油が記載されている。しかし、脂肪酸の一部に、分岐脂肪酸が含まれるため、潤滑性が劣り、粘度指数および省燃費性の点で不十分である。
【0009】
特許文献2には、PAO、ジエステルなどの合成油および鉱物油のうちの少なくとも一方を基油としたエンジン油組成物が記載されているが、粘度が高く、粘度指数の点でも不十分である。
【0010】
特許文献3には、PAOとネオペンチルポリオールエステルとを混合した潤滑油が記載されている。しかし、これらの組み合わせでなる潤滑油は、粘度指数が低く、燃費改善は実現できない。
【0011】
特許文献4には、アルキレンオキサイドを1〜10モル付加した2〜6価のネオペンチルポリオールと炭素数が4〜22の脂肪酸とから得られるポリエーテルポリオール脂肪酸エステルを含有する潤滑油が記載されている。例えば、この文献の実施例では、エチレンオキサイドを付加したトリメチロールプロパンまたはプロピレンオキサイドを付加したネオペンチルグリコールと炭素数が8〜20の直鎖1価カルボン酸とから得られるエステルでなる潤滑油が開示されている。しかし、このような潤滑油は、高温下(100℃)において動粘度が高く、粘度指数も低い。したがって、省燃費性を満足するものではない。さらに、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸を用いた場合には、流動点も高く、エンジン油として実際に使用するにあたっては不都合が生じる。
【0012】
特許文献5には、多価アルコールの脂肪酸部分エステルのアルキレンオキサイド付加物、あるいはポリエチレングリコールを脂肪酸で一部エステル化したエステル化合物が記載されている。しかし、このエステル化合物には、末端水酸基が残存するため、その影響から、粘度指数が低く、熱酸化安定性も劣り、耐久性に問題がある。
【0013】
さらに、合成油と鉱物油との混合物についても検討されている。例えば、特許文献6には、特定のビニル系共重合物と鉱物油とを混合した潤滑油が記載されている。しかし、この潤滑油は、粘度が高く、粘度指数が低いため、十分な潤滑性能が得られない。さらに揮発性が高いという問題もある。したがって、燃費改善効果も得られない。
【0014】
【非特許文献1】
低粘度型低燃費エンジンオイルの動向、潤滑経済、2002年4月号、46〜49頁
【非特許文献2】
自動車用潤滑油の展望 ガソリンエンジン油、出光トライボレビューNo.20、4〜11頁
【特許文献1】
特開昭54−64264号公報
【特許文献2】
特開昭59−122595号公報
【特許文献3】
特開平1−79299号公報
【特許文献4】
特開平7−305079号公報
【特許文献5】
特開2001−139978号公報
【特許文献6】
特開平7−228642号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れた内燃機関用潤滑油基油を提供することにある。本発明の他の目的は、該基油を含む内燃機関用潤滑油組成物を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドが特定の割合で付加されたネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物と、特定の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油が、上記の諸性能を全て満足することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油であって、該飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、そして、該エステルの100℃における動粘度が1〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下である。
【0018】
好ましい実施態様においては、上記飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が、80モル%以上の割合で含有される。
【0019】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記内燃機関用潤滑油基油を主成分とし、酸化防止剤を0.05〜10重量%、清浄分散剤を0.05〜10重量%、そして粘度指数向上剤を0.01〜30重量%の割合で含有する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「内燃機関用潤滑油基油」とは、内燃機関およびそれに付随する駆動系に用いられる潤滑油の基油である。具体的には、2サイクル、4サイクルなどの内燃機関;マニュアルトランスミッション、オートマティックトランスミッション、パワーステアリングなどの駆動系機器;ディファレンシャルギヤなどに用いられる潤滑油の基油である。
【0021】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる。
【0022】
(1)ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物
本発明の基油であるエステルの原料となるネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物(以下、付加物という場合がある)は、上述のようにネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られる。このネオペンチル構造を有するジオールとは、ネオペンチル構造(以下にその構造を示す)を有するジオールである。
【0023】
【化1】
【0024】
ネオペンチル構造を有するジオールとしては、例えば、次の化合物が挙げられる:ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブチル−1,3−プロパンジオールなど。上記ジオールを用いることにより、得られるエステルが適度の粘度を有するため、適度な潤滑性が得られ、さらに低燃費性が見込まれる。3価以上のネオペンチルポリオールを有する付加物を用いると、得られるエステルが高粘度となり、低燃費は望めない。3価以上のネオペンチルポリオールを用いた付加物から低粘度化したエステルを得ようとすると、短鎖のモノカルボン酸を使用せざるを得なくなり、そのようなエステルは潤滑性が悪くなる。
【0025】
ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物は、上記のネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドが付加されている。
【0026】
エチレンオキサイドの付加モル数は1〜4、好ましくは、1〜3、より好ましくは1〜2である。付加モル数が4を超えると、得られるエステルの粘度が高くなり、低温時の負荷トルクが増大するため、低温始動性の悪化を招いたり、熱酸化安定性が劣る恐れがある。したがって、このようなエステルからなる内燃機関用潤滑油は、長期間の使用に耐えられない。一方、付加モル数が0の場合、得られるエステルは、実用上、問題が生じる。例えば、反応させる飽和脂肪族モノカルボン酸として、短中鎖アルキルモノカルボン酸を用いると、得られるエステルは、粘度指数が低く、さらに、粘度が低くなりすぎるため、油膜破断を起こす。そのため、このようなエステルでなる基油を使用する内燃機関などに摩耗および焼き付きが生じる恐れがある。長鎖アルキルモノカルボン酸を用いると、低温下でエステルが結晶化する恐れがある。エチレンオキサイドではなく、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのエチレンオキサイド以外のアルキレンオキサイドを付加する場合、側鎖アルキルの影響によって、得られるエステルに種々の問題が生じる。すなわち、低温下では、分子間の抵抗・相互作用が大きくなり高粘度になる。一方、高温下では、分子運動が活発となり、上記相互作用の影響がほとんどなくなり、低粘度となる。つまり、粘度指数の低いエステル基油となり、燃費の向上が見込まれない。
【0027】
(2)飽和脂肪族モノカルボン酸
本発明に用いられるカルボン酸は、上述のように、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸である。飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは5〜12、より好ましくは6〜12、さらに好ましくは8〜12である。炭素数が3以下の飽和脂肪族モノカルボン酸を用いると、得られるエステルを潤滑油とした場合、耐摩耗効果が十分ではない。一方、炭素数が12を超える飽和脂肪族モノカルボン酸を用いると、得られるエステルの低温流動性が悪い。さらに、粘性が高くなりすぎるため、省燃費性に劣る恐れがある。
【0028】
本発明に用いられる飽和脂肪族モノカルボン酸としては、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、分岐飽和脂肪族モノカルボン酸が50モル%未満の割合で含有されていてもよい。直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0029】
上記分岐飽和脂肪族モノカルボン酸は、低温流動性という点においては好ましい。特に、耐加水分解性の点から、カルボン酸のβ位の炭素原子に分岐を有する飽和脂肪族モノカルボン酸を含むことが好ましい。但し、分岐脂肪酸の割合が多くなると粘度指数が低下するため、粘度指数を阻害しない範囲で適宜用いられ得る。
【0030】
上記直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸などが挙げられる。
【0031】
分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、次の化合物がある:2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−メチル−2−エチルブタン酸、2,2,3−トリメチルブタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、3−メチルヘキサン酸、4−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、イソヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、3−メチルヘプタン酸、4−メチルヘプタン酸、2−プロピルペンタン酸、イソオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2,2,4,4−テトラメチルペンタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−メチルオクタン酸、2−エチルヘプタン酸、3−メチルオクタン酸、イソノナン酸、ネオノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−メチル−2−エチルヘプタン酸、2−メチル−2−プロピルヘキサン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸、イソドデカン酸など。
【0032】
上記以外に飽和脂肪族モノカルボン酸として、該飽和脂肪族モノカルボン酸の誘導体も利用可能であり、例えば、これらのカルボン酸の酸クロライド、メチルエステル、酸無水物などが挙げられる。 これらの中で、メチルエステルや酸無水物を用いることが好ましい。酸クロライドは、腐食性を有する塩素化合物がエステル合成の際に副生する恐れがあるので取扱いに注意を要する。
【0033】
このような飽和脂肪族モノカルボン酸を用いることによって、得られるエステルは、熱酸化安定性に優れる。不飽和脂肪族カルボン酸では、得られるエステルの熱酸化安定性が劣るため、本発明には用いられない。
【0034】
(3)内燃機関用潤滑油基油
本発明の内燃機関用潤滑油基油の必須成分であるエステルは、上記付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とを任意の割合で反応させることによって得られる。好ましくは、該付加物1モルに対して、飽和脂肪族モノカルボン酸が2〜5モル程度、より好ましくは2.1〜4モル程度の割合で反応させることにより得られる。
【0035】
本発明に用いられるエステルは、常法により製造され得る。上記ネオペンチル構造を有するジオールとエチレンオキサイドとの反応による付加物の調製、および該付加物からのエステルの調製の一例を以下に具体的に説明する。まず、ネオペンチル構造を有するジオールと触媒(例えば、水酸化アルカリ、アルコールのアルカリ金属塩、アルカノールアミンなどのアルカリ触媒または四塩化スズ、三フッ化ホウ素などの酸触媒)とを加圧反応器に仕込み、系内を窒素などの不活性ガスで置換する。必要に応じて、副生物の生成を抑制する目的で、攪拌しながら系内を80〜120℃に昇温して減圧下で系中の水分を除去する。次に、系内を100〜150℃に昇温した後、所定量のエチレンオキサイドを徐々に圧入し、反応させる。 反応終了後、必要に応じて、減圧とし、または不活性ガスを通じることによって、未反応のエチレンオキサイドを除去する。得られた反応生成物に含まれるアルカリ成分を吸着剤で除去、あるいは酸で中和し、必要に応じて、系内を80〜120 ℃、減圧下に保持して系中の水分を除去する。さらに、吸着剤および析出した塩をフィルター等で除去する。このようにして、ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物が得られる。この化合物の末端は、実質的にすべて水酸基である。
【0036】
次いで、上記付加物に所定量の飽和脂肪族モノカルボン酸を加え、無触媒またはブレンステッド酸、ルイス酸などの酸性触媒存在下で、必要に応じて共沸溶剤とともに、140〜240℃に昇温して脱水縮合反応を行う。反応終了後、未反応の1価カルボン酸および反応副生成物を除去する目的で、ストリッピング、蒸留、アルカリ水による中和、さらに、必要に応じて、アルミナ、マグネシア、活性白土、活性炭、酸性白土、ゼオライト、イオン交換樹脂などを用いた吸着操作;液体クロマトグラフィーなどにより、エステルの精製および分離を行う。
【0037】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、上記で得られるエステルからなる。このエステルは、1種あるいは2種以上の化合物であり得る。このような内燃機関用潤滑油基油は、以下に示すように特定の動粘度、粘度指数、および全酸価を有する。
【0038】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、100℃における動粘度が、1〜5mm2/sである。好ましくは2〜5mm2/s、より好ましくは3〜5mm2/sである。動粘度が1mm2/sより低い場合、該基油を用いて駆動を行うと、油膜厚さが低下し、油膜破断によって、軸受摩耗、焼付きなどが生じる恐れがある。動粘度が5mm2/sより高いと、粘性抵抗による動力損失が大きくなるため、低温始動性が劣り、低燃費効果が得られない。
【0039】
上記基油の粘度指数は、140以上である。好ましくは145以上、より好ましくは150以上である。
【0040】
基油の全酸価は、腐食防止性、耐摩耗性および安定性を考慮して0.5mgKOH/g以下とされる。好ましくは0.3mgKOH/g以下、より好ましくは0.1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.05mgKOH/g以下である。
【0041】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、さらに、熱酸化安定性、吸湿性、低揮発性および耐久性の点から、水酸基価が5.0mgKOH/g以下であることが好ましく、3.0mgKOH/g以下がより好ましく、1.0mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0042】
(4)内燃機関用潤滑油組成物
本発明の内燃機関用潤滑油基油組成物は、上記エステルを主成分とし、(i)酸化防止剤、(ii)清浄分散剤、および(iii)粘度指数向上剤を含有する。さらに必要に応じて、種々の添加剤を含有し得る。この添加剤としては、(iv)鉱油およびポリα−オレフィン(PAO)、ポリブテンなどの非エステル系合成油、(v)塩基性金属化合物、(vi)摩擦低減剤、(vii)耐摩耗剤、(viii)極圧剤、(ix)さび止め剤、(x)流動点降下剤、(xi)消泡剤、(xii)腐食防止剤、(xiii)金属不活性剤、(xiv)着色剤などがある。
【0043】
上記(i)の酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ジオクチルジフェニルアミン)、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤;2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤;ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト、硫化フェノールなどの硫黄系酸化防止剤;ホスファイトなどのリン系酸化防止剤;亜鉛、モリブデンなどのジアルキルジチオリン酸金属塩などが挙げられる。これらの中でも、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸金属塩が好ましい。
【0044】
酸化防止剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.05〜10重量%の割合で、好ましくは0.1〜5重量%の割合で含まれる。含有量が少なすぎると酸化防止効果が得られない。含有量が多すぎると添加量に見合う効果が得られないばかりでなく、場合によってはスラッジ生成の原因となるので好ましくない。これらの酸化防止剤は、上記含有量の範囲で組み合わせて使用してもよい。本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、高い酸化安定性を有する基油に酸化防止剤を含有するため、酸化安定性が極めて優れる。
【0045】
上記(ii)の清浄分散剤は、金属塩を含む金属系清浄剤および金属塩を含まない無灰分散剤のいずれであってもよい。 金属系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ナトリウムなどの金属を含むスルホネート系、フェネート系、サルシネート系、ホスホネート系などの金属系清浄剤が挙げられる。無灰分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド系化合物、アルケニルコハク酸アミド系化合物、アルケニルコハク酸エステル系化合物、アルケニルコハク酸エステル−アミド系化合物、ベンジルアミン系化合物、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどの化合物とアルキルメタアクリレートとの共重合物などが挙げられる。
【0046】
清浄分散剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.05〜10重量%の割合で、好ましくは0.1〜5重量%の割合で含まれる。含有量が少なすぎると、潤滑油中に生成するスラッジが沈積する恐れがある。含有量が多すぎても、該含有量に見合う効果が得られない。
【0047】
上記(iii)の粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系化合物、オレフィンコポリマー系化合物(ポリイソブチレン系化合物、エチレン−プロピレン共重合体系化合物)、ポリアルキルスチレン系化合物、スチレン−ブタジエン水素添加共重合体系化合物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系化合物、星状イソプレン系化合物などが挙げられる。これらの中で、エステル基油への溶解性の観点から、ポリメタクリレート系化合物が好ましい。ここで用いられるポリメタクリレートの分子量は、重量平均で10万以上(GPC分析においてポリスチレン換算量)が特に好ましい。
【0048】
粘度指数向上剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.01〜30重量%の割合で含まれる。好ましくは0.1〜20重量%含まれる。含有量が少なすぎると、粘度指数の改善が図れず、燃費の向上が実現できない。含有量が多すぎると、含有量に見合う効果が得られないばかりでなく、粘度指数向上剤のポリマー分子が機械的せん断により分断され、粘度が低下するため、粘度指数が向上しない恐れがある。
【0049】
上記(iv)〜(xiv)の各種添加剤は、内燃機関およびそれに付随する駆動系の駆動にあたり潤滑油として、必要に応じて、多様な性能を確保するために含有される。
【0050】
上記(iv)の鉱油および非エステル系合成油は、上記エステルでなる潤滑油基油に加えて用いられる油成分であり、該潤滑油基油の上記所定の動粘度、粘度指数、および全酸価の範囲内において、適宜配合することができる。したがって、鉱油および非エステル系合成油は、後述のように所定の動粘度および粘度指数を有することが好ましい。
【0051】
上記鉱油および非エステル系合成油の100℃における動粘度は、1〜10mm2/s、好ましくは1〜5mm2/s、より好ましくは2〜5mm2/s、さらに好ましくは3〜5mm2/sである。動粘度が1mm2/sより低い場合には、上記潤滑油組成物の潤滑性能が不足し、また蒸発減量が多いという不都合がある。動粘度が10mm2/sより高い場合、潤滑油組成物の粘度が高くなり、粘性抵抗による動力損失が大きくなるため、燃費向上効果が劣る。
【0052】
鉱油および非エステル系合成油の粘度指数は、90以上であることが好ましく、100以上がより好ましい。90未満の場合には、潤滑油組成物の粘度指数が低くなり、燃料消費が大きくなる。
【0053】
用いられ得る鉱油としては、HVI基油、HHVI基油、VHVI基油およびXHVI基油が好ましく、VHVI基油およびXHVI基油がより好ましく、XHVI基油がさらに好ましい。
【0054】
PAOは、炭素数が2〜16、好ましくは6〜12の1種または2種以上のα−オレフィンを重合あるいは共重合することによって得られる。PAOの平均重合度は、2〜10が好ましく、2〜7がより好ましい。
【0055】
α−オレフィンとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1などが挙げられる。ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、およびドデセン−1が好ましい。
【0056】
PAOは、例えば、チーグラー触媒、ラジカル触媒、塩化アルミニウム触媒、またはフッ化ホウ素とアルコールとからなる触媒を用いる方法などにより製造され得る。
【0057】
上記(v)の塩基性金属化合物は、腐食性の酸を中和し、酸による腐食を防止する目的で使用し得る。塩基性金属化合物としては、例えば、過塩基性のカルシウム、マグネシウムなどを含むスルホネート系化合物、フェネート系化合物などの塩基性金属化合物が挙げられる。 塩基性金属化合物は、組成物中に0.05〜5重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0058】
上記(vi)の摩擦低減剤は、摺動部の金属部表面に強い吸着膜を作り、そのことにより摩擦を低下させ、摺動部の金属融着を防止する機能を有すると考えられる。このような摩擦低減剤は、1分子中に長鎖アルキル基と極性基とを有する化合物が用いられる。例えば、次の化合物または材料が挙げられる:オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの高級カルボン酸類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコールなどの高級アルコール類;ひまし油、なたね油などの油脂;メチルオレート、ブチルステアレートなどのカルボン酸エステル類;牛脂アミンなどのカルボン酸アミン類;およびジチオリン酸モリブデン類、ジチオカルバミン酸モリブデン類などの有機モリブデン化合物。摩擦低減剤は、組成物中に0.05〜3重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0059】
上記(vii)および(viii)の耐摩耗剤および極圧剤は、摩擦金属表面上に保護膜を形成し、該金属の摩耗を低減し、焼き付きを防止する。耐摩耗剤および極圧剤としては、次の化合物がある:ジアルキルジチオリン酸亜鉛類;ジチオリン酸モリブデン類、ジチオカルバミン酸モリブデン類などのモリブデン化合物;トリクレジルホスフェート、ラウリルアシッドホスフェートなどのリン酸エステル類;トリオレイルホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイトなどの亜リン酸エステル類;リン酸エステルアミン塩;ジアルキルジサルファイド、硫化油脂、ジアルキルポリサルファイド、硫化オレフィンなどの硫黄化合物;クロロパラフィン、塩素化カルボン酸メチルエステルなどの塩素化合物類など。これらの中で、塩素を含有する化合物は、廃棄処理時に焼却した際にダイオキシンなどの有毒塩素化合物を発生するため注意を要する。耐摩耗剤および極圧剤は、組成物中に0.05〜10重量%の割合で含まれることが好ましい。特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類を用いる場合、亜鉛濃度として0.02〜1.2重量%となるように含有されることが好ましい。
【0060】
上記(ix)のさび止め剤は、金属表面に吸着して保護膜を形成し、あるいは酸類の中和によるさびの発生を防止する機能を有する。さび止め剤としては、次の化合物または材料が挙げられる:カルボン酸アミン、カルボン酸アマイド、アルキルイミダゾール、アルキルイミダゾリンなどのアミン類;ソルビタンモノオレート、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸テトラプロペニルエステルなどのエステル類;オレオイルザルコシンなどのカルボン酸塩類;石油スルフォン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、アルキルベンゼンスルフォン酸のアルカリ土類金属塩、アルキルナフタレンスルフォン酸のアルカリ土類金属塩などのスルフォン酸類;酸化パラフィン;アルキルポリオキシエチレンエーテルなど。さび止め剤は、組成物中に0.01〜3重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0061】
上記(x)の流動点降下剤は、パラフィンなどの結晶性物質の結晶表面に吸着し、該結晶性物質と共晶を形成することによって、3次元網目構造の形成を防止する機能を有する。その結果、連結凝集を防止する、すなわち凝固点を低下させると考えられる。流動点降下剤としては、例えば、ポリメタアクリレート、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンとの縮合物、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテートなどが挙げられる。好ましくは、ポリメタアクリレートであり、特に、ポリメタアクリレートは、平均分子量で10万前後のものが好ましい。塩素化パラフィンとアルキルナフタレンとの縮合物は、廃棄処理時に焼却した際にダイオキシンなどの有毒塩素化合物を発生するため注意を要する。 流動点降下剤は、組成物中に0.01〜5重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0062】
上記(xi)の消泡剤は、泡膜の表面張力を低下させ得る、あるいは泡膜内へ侵入して泡膜の破断を行う。特に、内燃機関の場合、クランクケース内の潤滑油の泡立ちを低減し得る。消泡剤としては、例えば、ジメチルシロキサン、ポリアクリレートなどが挙げられる。消泡剤は、組成物中にごく少量、例えば0.002重量%程度の割合で含有され得る。
【0063】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れる。本発明の内燃機関用潤滑油基油は、内燃機関およびそれに付随する駆動系に適用し得る。例えば、2サイクル、4サイクルなどの内燃機関;マニュアルトランスミッション、オートマティックトランスミッション、パワーステアリングなどの駆動系機器;ディファレンシャルギヤなどに好適に適用し得る。
【0064】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明がこの実施例に特に制限されないことはいうまでもない。なお実施例中の%は重量%を示す。
【0065】
以下に、本実施例および比較例で製造されたエステルの試験方法を記載する:
<全酸価> JIS K2283に準じて測定する。
<水酸基価> JIS K0070に準じて測定する。
<動粘度および粘度指数> JIS K2283に準じて、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて、40℃および100℃における動粘度を測定し、粘度指数を算出する。
<流動点> JIS K2269に準じて測定する。
<せん断粘度> JPI−5S−36−91に準じて、テーパードベアリングシュレーター法(TBS法)により測定する。測定温度は100℃とし、せん断速度が1×106/秒となるようにギャップ調整を行う。
<ホットチューブ試験>石油学会規格JPI−5S−55−99に準じて、以下の条件にて試験する:試験温度、300℃;試験時間、24時間;空気流量、10±0.5cc/分;試験油流量、0.30±0.01cc/分。
<SRV摩擦摩耗試験> SRV Lubricant and Material Test System(OPTIMOL社製)を用いて、以下の条件にて摩擦係数を測定する:試験温度、80℃;振動数、50Hz;振幅、1mm;および加重、500N。
【0066】
(実施例1)
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物として、ネオペンチルグリコールのエチレンオキサイド付加物(以下、NPG−EOという場合がある)(付加モル数:1)1185.2g(8.0mol)、そして飽和脂肪族モノカルボン酸として、カプリル酸2764.8g(19.2mol)を加え、窒素気流下、220℃で反応水を留去しつつ15時間常圧で反応を行った。反応後、5kPaの減圧下でストリッピングを行い、過剰のカプリル酸を留去して、エステル化粗生成物を得た。
【0067】
このエステル化粗生成物に、該エステル化粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。さらにこれを30分間静置して水層部を除去した。次いで、1000gのイオン交換水を加え、70℃で30分間攪拌した後、30分間静置して水層部を排出した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返し、エステル層を100℃、lkPaの条件下で減圧脱水した。
【0068】
これに、キョーワード500(協和化学工業(株))を30g入れて吸着処理した。吸着処理温度、圧力、および吸着処理時間は、それぞれ100℃、lkPa、および3時間とした。ろ過を行い、NPG−EO(付加モル数:1)のカルボン酸エステル3001.2gを得た。仕込み原料に対する収率は、76.0%であった。
【0069】
得られたエステルについて、上述の方法により、動粘度、粘度指数、全酸価、水酸基価、ならびに流動点を測定した。さらに熱酸化安定性を調べるためにホットチューブ試験を行った。このホットチューブ試験は、点数が高いほど熱酸化安定性に優れ、8点以上であれば潤滑油基油または潤滑油として実用性があると考えられる。これらの結果を表1に示す。後述の実施例2〜10および比較例1〜6の結果も併せて表1に示す。
【0070】
(実施例2〜10)
表1に示すネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物8.0molおよび飽和脂肪族モノカルボン酸19.2molを用いて、実施例1に準じて反応を行い、エステルの製造を行った。実施例5、8、および9においては、飽和脂肪族モノカルボン酸として2種の化合物を用いた。それらのモル比を表1中のかっこ内に示す。得られたエステルについて、実施例1と同様に試験を行った。
【0071】
(比較例1〜6)
表1に示すネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物8.0molおよび飽和脂肪族モノカルボン酸19.2molを用いて、実施例1に準じて反応を行い、エステルの製造を行った。比較例6においては、飽和脂肪族モノカルボン酸として2種の化合物を用いた。それらのモル比を表1中のかっこ内に示す。得られたエステルについて、実施例1と同様に試験を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果からわかるように、実施例1〜10のエステルは、いずれも100℃における動粘度が約2〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下であった。さらに、ホットチューブ試験の値も問題とならない程度に高かった。これらのエステルは、全酸価が低いため、熱安定性に優れ、内燃機関の駆動部分を腐食させたり摩耗させることがない。40℃における動粘度が低く、低温流動性に優れ、さらに粘度指数が高いため、広い温度範囲にわたり良好な潤滑性を有することがわかる。したがって、これらのエステルは、低燃費性に優れた潤滑油を得るために有用であることが明らかである。一方、比較例1、2、および5のエステルは、粘度指数が140未満であり、比較例3および6のエステルは、100℃における動粘度が高い。したがって、これらのエステルは、いずれも省燃費性を満足する内燃機関用潤滑油に用いられる基油ではない。比較例4のエステルは、全酸価が高い。さらに、比較例のエステルはいずれもホットチューブ試験の点数が低いため、実用上、用いることはできない。
【0074】
(実施例11)
実施例1で得られたエステルを基油とし、酸化防止剤として4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)およびジ(プライマリーn−オクチル)ジチオリン酸亜鉛、無灰分散剤としてコハク酸イミド、および粘度指数向上剤として分散型ポリメタクリレートをそれぞれ表2に示す割合で配合して潤滑油を調製した。得られた潤滑油の40℃および100℃の動粘度、粘度指数、および100℃におけるせん断粘度を測定した。さらに、ホットチューブ試験およびSRV摩擦摩耗試験を行った。結果を表2に示す。後述の実施例12および13、ならびに比較例7の結果も合わせて表2に示す。
【0075】
(実施例12および13)
実施例1で得られたエステルの代わりに、実施例2で得られたエステルを用い、表2に示す材料を表2に示す割合で配合して潤滑油を得た。得られた潤滑油について実施例11と同様の試験を行った。
【0076】
(比較例7)
市販のエンジン油0W−20(出光興産株式会社)について実施例11と同様の試験を行った。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果からわかるように、実施例11〜13の潤滑油は、せん断粘度が低かった。せん断粘度と燃費とは、相関関係にあることが報告されており(例えば、非特許文献2)、これらの潤滑油は、省燃費に寄与し得る。また、ホットチューブ試験でも優れた値が得られ、熱酸化安定性も良好であることがわかる。他方、比較例7の市販の潤滑油は、実施例の潤滑油に比べて粘度指数が低く、さらに100℃のせん断粘度も高く、実施例11〜13の潤滑油に比べて省燃費性に劣る。
【0079】
【発明の効果】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用潤滑油基油およびそれを含有する組成物に関する。特に、低粘度かつ高粘度指数であり、低温流動性、低揮発性、潤滑性が良好であり、熱酸化安定性および低燃費性に優れた内燃機関用潤滑油基油およびそれを含有する組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の地球環境問題および石油資源の枯渇問題に対応して、自動車産業においては、二酸化炭素をはじめとする排気ガスの削減および自動車の燃費改善が強く求められている。
【0003】
これらの中で、燃費改善のためには、潤滑油を低粘度化すること;および高温下においても粘度の下がりにくい(粘度指数の高い)潤滑油を用いて、潤滑性を維持することが有効であることが知られている(例えば、非特許文献1)。エンジン始動時の低温状態と運転時の高温状態とで粘度変化が小さいと、つまり粘度指数が高いと、十分な潤滑性が維持され、内燃機関および駆動系機器への動力負荷が減少し、そのことにより燃料消費が抑えられる。
【0004】
このような潤滑油の基油として種々の鉱物油および合成油が検討されている。
【0005】
鉱物油としては、従来から減圧蒸留精製によるLVI(Low Viscosity Index:低粘度指数)基油が用いられてきた。その後、上述の粘度改善を目的として、種々の鉱物油基油が開発されている。例えば、次のような基油が知られている:溶剤精製により芳香族成分を取り除いたHVI(High Viscosity Index:高粘度指数)基油;水素化処理により芳香族成分を飽和し、他の不純物も取り除くことによって、酸化安定性を向上させたHHVI(High High Viscosity Index:高高粘度指数)基油;高温高圧下で芳香族成分を水素化分解し、高温での熱安定性を向上させたVHVI(Very High Viscosity Index:極高粘度指数)基油;およびXHVI(Extremly High Viscosity Index:超高粘度指数)基油など。
【0006】
しかしながら、これらの鉱物油基油は、LVI基油に比較して、高温での粘度低下は抑えられているものの、依然として、粘度指数は高いとはいえず、低温流動性および潤滑性が十分ではなく、燃費改善の点でも満足のいくレベルにまで到達していない。
【0007】
一方、合成油としては、ポリα−オレフィン(PAO)、種々のエステル油などが提案されている。 これらのうち、PAOは、粘度指数および潤滑性の点で不十分である。エステル油でなる合成油、あるいはエステル油を含む合成油としては、以下の技術が知られている。
【0008】
特許文献1には、ネオペンチルポリオールと炭素数4〜20の脂肪酸とのエステルを基油とした潤滑油が記載されている。しかし、脂肪酸の一部に、分岐脂肪酸が含まれるため、潤滑性が劣り、粘度指数および省燃費性の点で不十分である。
【0009】
特許文献2には、PAO、ジエステルなどの合成油および鉱物油のうちの少なくとも一方を基油としたエンジン油組成物が記載されているが、粘度が高く、粘度指数の点でも不十分である。
【0010】
特許文献3には、PAOとネオペンチルポリオールエステルとを混合した潤滑油が記載されている。しかし、これらの組み合わせでなる潤滑油は、粘度指数が低く、燃費改善は実現できない。
【0011】
特許文献4には、アルキレンオキサイドを1〜10モル付加した2〜6価のネオペンチルポリオールと炭素数が4〜22の脂肪酸とから得られるポリエーテルポリオール脂肪酸エステルを含有する潤滑油が記載されている。例えば、この文献の実施例では、エチレンオキサイドを付加したトリメチロールプロパンまたはプロピレンオキサイドを付加したネオペンチルグリコールと炭素数が8〜20の直鎖1価カルボン酸とから得られるエステルでなる潤滑油が開示されている。しかし、このような潤滑油は、高温下(100℃)において動粘度が高く、粘度指数も低い。したがって、省燃費性を満足するものではない。さらに、炭素数が14以上の長鎖脂肪酸を用いた場合には、流動点も高く、エンジン油として実際に使用するにあたっては不都合が生じる。
【0012】
特許文献5には、多価アルコールの脂肪酸部分エステルのアルキレンオキサイド付加物、あるいはポリエチレングリコールを脂肪酸で一部エステル化したエステル化合物が記載されている。しかし、このエステル化合物には、末端水酸基が残存するため、その影響から、粘度指数が低く、熱酸化安定性も劣り、耐久性に問題がある。
【0013】
さらに、合成油と鉱物油との混合物についても検討されている。例えば、特許文献6には、特定のビニル系共重合物と鉱物油とを混合した潤滑油が記載されている。しかし、この潤滑油は、粘度が高く、粘度指数が低いため、十分な潤滑性能が得られない。さらに揮発性が高いという問題もある。したがって、燃費改善効果も得られない。
【0014】
【非特許文献1】
低粘度型低燃費エンジンオイルの動向、潤滑経済、2002年4月号、46〜49頁
【非特許文献2】
自動車用潤滑油の展望 ガソリンエンジン油、出光トライボレビューNo.20、4〜11頁
【特許文献1】
特開昭54−64264号公報
【特許文献2】
特開昭59−122595号公報
【特許文献3】
特開平1−79299号公報
【特許文献4】
特開平7−305079号公報
【特許文献5】
特開2001−139978号公報
【特許文献6】
特開平7−228642号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れた内燃機関用潤滑油基油を提供することにある。本発明の他の目的は、該基油を含む内燃機関用潤滑油組成物を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドが特定の割合で付加されたネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物と、特定の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油が、上記の諸性能を全て満足することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油であって、該飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、そして、該エステルの100℃における動粘度が1〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下である。
【0018】
好ましい実施態様においては、上記飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が、80モル%以上の割合で含有される。
【0019】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記内燃機関用潤滑油基油を主成分とし、酸化防止剤を0.05〜10重量%、清浄分散剤を0.05〜10重量%、そして粘度指数向上剤を0.01〜30重量%の割合で含有する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「内燃機関用潤滑油基油」とは、内燃機関およびそれに付随する駆動系に用いられる潤滑油の基油である。具体的には、2サイクル、4サイクルなどの内燃機関;マニュアルトランスミッション、オートマティックトランスミッション、パワーステアリングなどの駆動系機器;ディファレンシャルギヤなどに用いられる潤滑油の基油である。
【0021】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチルジオールエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる。
【0022】
(1)ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物
本発明の基油であるエステルの原料となるネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物(以下、付加物という場合がある)は、上述のようにネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られる。このネオペンチル構造を有するジオールとは、ネオペンチル構造(以下にその構造を示す)を有するジオールである。
【0023】
【化1】
【0024】
ネオペンチル構造を有するジオールとしては、例えば、次の化合物が挙げられる:ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジプロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブチル−1,3−プロパンジオールなど。上記ジオールを用いることにより、得られるエステルが適度の粘度を有するため、適度な潤滑性が得られ、さらに低燃費性が見込まれる。3価以上のネオペンチルポリオールを有する付加物を用いると、得られるエステルが高粘度となり、低燃費は望めない。3価以上のネオペンチルポリオールを用いた付加物から低粘度化したエステルを得ようとすると、短鎖のモノカルボン酸を使用せざるを得なくなり、そのようなエステルは潤滑性が悪くなる。
【0025】
ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物は、上記のネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドが付加されている。
【0026】
エチレンオキサイドの付加モル数は1〜4、好ましくは、1〜3、より好ましくは1〜2である。付加モル数が4を超えると、得られるエステルの粘度が高くなり、低温時の負荷トルクが増大するため、低温始動性の悪化を招いたり、熱酸化安定性が劣る恐れがある。したがって、このようなエステルからなる内燃機関用潤滑油は、長期間の使用に耐えられない。一方、付加モル数が0の場合、得られるエステルは、実用上、問題が生じる。例えば、反応させる飽和脂肪族モノカルボン酸として、短中鎖アルキルモノカルボン酸を用いると、得られるエステルは、粘度指数が低く、さらに、粘度が低くなりすぎるため、油膜破断を起こす。そのため、このようなエステルでなる基油を使用する内燃機関などに摩耗および焼き付きが生じる恐れがある。長鎖アルキルモノカルボン酸を用いると、低温下でエステルが結晶化する恐れがある。エチレンオキサイドではなく、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのエチレンオキサイド以外のアルキレンオキサイドを付加する場合、側鎖アルキルの影響によって、得られるエステルに種々の問題が生じる。すなわち、低温下では、分子間の抵抗・相互作用が大きくなり高粘度になる。一方、高温下では、分子運動が活発となり、上記相互作用の影響がほとんどなくなり、低粘度となる。つまり、粘度指数の低いエステル基油となり、燃費の向上が見込まれない。
【0027】
(2)飽和脂肪族モノカルボン酸
本発明に用いられるカルボン酸は、上述のように、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸である。飽和脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは5〜12、より好ましくは6〜12、さらに好ましくは8〜12である。炭素数が3以下の飽和脂肪族モノカルボン酸を用いると、得られるエステルを潤滑油とした場合、耐摩耗効果が十分ではない。一方、炭素数が12を超える飽和脂肪族モノカルボン酸を用いると、得られるエステルの低温流動性が悪い。さらに、粘性が高くなりすぎるため、省燃費性に劣る恐れがある。
【0028】
本発明に用いられる飽和脂肪族モノカルボン酸としては、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、分岐飽和脂肪族モノカルボン酸が50モル%未満の割合で含有されていてもよい。直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0029】
上記分岐飽和脂肪族モノカルボン酸は、低温流動性という点においては好ましい。特に、耐加水分解性の点から、カルボン酸のβ位の炭素原子に分岐を有する飽和脂肪族モノカルボン酸を含むことが好ましい。但し、分岐脂肪酸の割合が多くなると粘度指数が低下するため、粘度指数を阻害しない範囲で適宜用いられ得る。
【0030】
上記直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸などが挙げられる。
【0031】
分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、次の化合物がある:2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−メチル−2−エチルブタン酸、2,2,3−トリメチルブタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、3−メチルヘキサン酸、4−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、イソヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、3−メチルヘプタン酸、4−メチルヘプタン酸、2−プロピルペンタン酸、イソオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2,2,4,4−テトラメチルペンタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−メチルオクタン酸、2−エチルヘプタン酸、3−メチルオクタン酸、イソノナン酸、ネオノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−メチル−2−エチルヘプタン酸、2−メチル−2−プロピルヘキサン酸、イソデカン酸、ネオデカン酸、イソドデカン酸など。
【0032】
上記以外に飽和脂肪族モノカルボン酸として、該飽和脂肪族モノカルボン酸の誘導体も利用可能であり、例えば、これらのカルボン酸の酸クロライド、メチルエステル、酸無水物などが挙げられる。 これらの中で、メチルエステルや酸無水物を用いることが好ましい。酸クロライドは、腐食性を有する塩素化合物がエステル合成の際に副生する恐れがあるので取扱いに注意を要する。
【0033】
このような飽和脂肪族モノカルボン酸を用いることによって、得られるエステルは、熱酸化安定性に優れる。不飽和脂肪族カルボン酸では、得られるエステルの熱酸化安定性が劣るため、本発明には用いられない。
【0034】
(3)内燃機関用潤滑油基油
本発明の内燃機関用潤滑油基油の必須成分であるエステルは、上記付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とを任意の割合で反応させることによって得られる。好ましくは、該付加物1モルに対して、飽和脂肪族モノカルボン酸が2〜5モル程度、より好ましくは2.1〜4モル程度の割合で反応させることにより得られる。
【0035】
本発明に用いられるエステルは、常法により製造され得る。上記ネオペンチル構造を有するジオールとエチレンオキサイドとの反応による付加物の調製、および該付加物からのエステルの調製の一例を以下に具体的に説明する。まず、ネオペンチル構造を有するジオールと触媒(例えば、水酸化アルカリ、アルコールのアルカリ金属塩、アルカノールアミンなどのアルカリ触媒または四塩化スズ、三フッ化ホウ素などの酸触媒)とを加圧反応器に仕込み、系内を窒素などの不活性ガスで置換する。必要に応じて、副生物の生成を抑制する目的で、攪拌しながら系内を80〜120℃に昇温して減圧下で系中の水分を除去する。次に、系内を100〜150℃に昇温した後、所定量のエチレンオキサイドを徐々に圧入し、反応させる。 反応終了後、必要に応じて、減圧とし、または不活性ガスを通じることによって、未反応のエチレンオキサイドを除去する。得られた反応生成物に含まれるアルカリ成分を吸着剤で除去、あるいは酸で中和し、必要に応じて、系内を80〜120 ℃、減圧下に保持して系中の水分を除去する。さらに、吸着剤および析出した塩をフィルター等で除去する。このようにして、ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物が得られる。この化合物の末端は、実質的にすべて水酸基である。
【0036】
次いで、上記付加物に所定量の飽和脂肪族モノカルボン酸を加え、無触媒またはブレンステッド酸、ルイス酸などの酸性触媒存在下で、必要に応じて共沸溶剤とともに、140〜240℃に昇温して脱水縮合反応を行う。反応終了後、未反応の1価カルボン酸および反応副生成物を除去する目的で、ストリッピング、蒸留、アルカリ水による中和、さらに、必要に応じて、アルミナ、マグネシア、活性白土、活性炭、酸性白土、ゼオライト、イオン交換樹脂などを用いた吸着操作;液体クロマトグラフィーなどにより、エステルの精製および分離を行う。
【0037】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、上記で得られるエステルからなる。このエステルは、1種あるいは2種以上の化合物であり得る。このような内燃機関用潤滑油基油は、以下に示すように特定の動粘度、粘度指数、および全酸価を有する。
【0038】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、100℃における動粘度が、1〜5mm2/sである。好ましくは2〜5mm2/s、より好ましくは3〜5mm2/sである。動粘度が1mm2/sより低い場合、該基油を用いて駆動を行うと、油膜厚さが低下し、油膜破断によって、軸受摩耗、焼付きなどが生じる恐れがある。動粘度が5mm2/sより高いと、粘性抵抗による動力損失が大きくなるため、低温始動性が劣り、低燃費効果が得られない。
【0039】
上記基油の粘度指数は、140以上である。好ましくは145以上、より好ましくは150以上である。
【0040】
基油の全酸価は、腐食防止性、耐摩耗性および安定性を考慮して0.5mgKOH/g以下とされる。好ましくは0.3mgKOH/g以下、より好ましくは0.1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.05mgKOH/g以下である。
【0041】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、さらに、熱酸化安定性、吸湿性、低揮発性および耐久性の点から、水酸基価が5.0mgKOH/g以下であることが好ましく、3.0mgKOH/g以下がより好ましく、1.0mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0042】
(4)内燃機関用潤滑油組成物
本発明の内燃機関用潤滑油基油組成物は、上記エステルを主成分とし、(i)酸化防止剤、(ii)清浄分散剤、および(iii)粘度指数向上剤を含有する。さらに必要に応じて、種々の添加剤を含有し得る。この添加剤としては、(iv)鉱油およびポリα−オレフィン(PAO)、ポリブテンなどの非エステル系合成油、(v)塩基性金属化合物、(vi)摩擦低減剤、(vii)耐摩耗剤、(viii)極圧剤、(ix)さび止め剤、(x)流動点降下剤、(xi)消泡剤、(xii)腐食防止剤、(xiii)金属不活性剤、(xiv)着色剤などがある。
【0043】
上記(i)の酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ジオクチルジフェニルアミン)、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤;2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤;ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト、硫化フェノールなどの硫黄系酸化防止剤;ホスファイトなどのリン系酸化防止剤;亜鉛、モリブデンなどのジアルキルジチオリン酸金属塩などが挙げられる。これらの中でも、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸金属塩が好ましい。
【0044】
酸化防止剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.05〜10重量%の割合で、好ましくは0.1〜5重量%の割合で含まれる。含有量が少なすぎると酸化防止効果が得られない。含有量が多すぎると添加量に見合う効果が得られないばかりでなく、場合によってはスラッジ生成の原因となるので好ましくない。これらの酸化防止剤は、上記含有量の範囲で組み合わせて使用してもよい。本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、高い酸化安定性を有する基油に酸化防止剤を含有するため、酸化安定性が極めて優れる。
【0045】
上記(ii)の清浄分散剤は、金属塩を含む金属系清浄剤および金属塩を含まない無灰分散剤のいずれであってもよい。 金属系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ナトリウムなどの金属を含むスルホネート系、フェネート系、サルシネート系、ホスホネート系などの金属系清浄剤が挙げられる。無灰分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド系化合物、アルケニルコハク酸アミド系化合物、アルケニルコハク酸エステル系化合物、アルケニルコハク酸エステル−アミド系化合物、ベンジルアミン系化合物、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどの化合物とアルキルメタアクリレートとの共重合物などが挙げられる。
【0046】
清浄分散剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.05〜10重量%の割合で、好ましくは0.1〜5重量%の割合で含まれる。含有量が少なすぎると、潤滑油中に生成するスラッジが沈積する恐れがある。含有量が多すぎても、該含有量に見合う効果が得られない。
【0047】
上記(iii)の粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系化合物、オレフィンコポリマー系化合物(ポリイソブチレン系化合物、エチレン−プロピレン共重合体系化合物)、ポリアルキルスチレン系化合物、スチレン−ブタジエン水素添加共重合体系化合物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系化合物、星状イソプレン系化合物などが挙げられる。これらの中で、エステル基油への溶解性の観点から、ポリメタクリレート系化合物が好ましい。ここで用いられるポリメタクリレートの分子量は、重量平均で10万以上(GPC分析においてポリスチレン換算量)が特に好ましい。
【0048】
粘度指数向上剤は、内燃機関用潤滑油組成物中に0.01〜30重量%の割合で含まれる。好ましくは0.1〜20重量%含まれる。含有量が少なすぎると、粘度指数の改善が図れず、燃費の向上が実現できない。含有量が多すぎると、含有量に見合う効果が得られないばかりでなく、粘度指数向上剤のポリマー分子が機械的せん断により分断され、粘度が低下するため、粘度指数が向上しない恐れがある。
【0049】
上記(iv)〜(xiv)の各種添加剤は、内燃機関およびそれに付随する駆動系の駆動にあたり潤滑油として、必要に応じて、多様な性能を確保するために含有される。
【0050】
上記(iv)の鉱油および非エステル系合成油は、上記エステルでなる潤滑油基油に加えて用いられる油成分であり、該潤滑油基油の上記所定の動粘度、粘度指数、および全酸価の範囲内において、適宜配合することができる。したがって、鉱油および非エステル系合成油は、後述のように所定の動粘度および粘度指数を有することが好ましい。
【0051】
上記鉱油および非エステル系合成油の100℃における動粘度は、1〜10mm2/s、好ましくは1〜5mm2/s、より好ましくは2〜5mm2/s、さらに好ましくは3〜5mm2/sである。動粘度が1mm2/sより低い場合には、上記潤滑油組成物の潤滑性能が不足し、また蒸発減量が多いという不都合がある。動粘度が10mm2/sより高い場合、潤滑油組成物の粘度が高くなり、粘性抵抗による動力損失が大きくなるため、燃費向上効果が劣る。
【0052】
鉱油および非エステル系合成油の粘度指数は、90以上であることが好ましく、100以上がより好ましい。90未満の場合には、潤滑油組成物の粘度指数が低くなり、燃料消費が大きくなる。
【0053】
用いられ得る鉱油としては、HVI基油、HHVI基油、VHVI基油およびXHVI基油が好ましく、VHVI基油およびXHVI基油がより好ましく、XHVI基油がさらに好ましい。
【0054】
PAOは、炭素数が2〜16、好ましくは6〜12の1種または2種以上のα−オレフィンを重合あるいは共重合することによって得られる。PAOの平均重合度は、2〜10が好ましく、2〜7がより好ましい。
【0055】
α−オレフィンとしては、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1などが挙げられる。ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、およびドデセン−1が好ましい。
【0056】
PAOは、例えば、チーグラー触媒、ラジカル触媒、塩化アルミニウム触媒、またはフッ化ホウ素とアルコールとからなる触媒を用いる方法などにより製造され得る。
【0057】
上記(v)の塩基性金属化合物は、腐食性の酸を中和し、酸による腐食を防止する目的で使用し得る。塩基性金属化合物としては、例えば、過塩基性のカルシウム、マグネシウムなどを含むスルホネート系化合物、フェネート系化合物などの塩基性金属化合物が挙げられる。 塩基性金属化合物は、組成物中に0.05〜5重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0058】
上記(vi)の摩擦低減剤は、摺動部の金属部表面に強い吸着膜を作り、そのことにより摩擦を低下させ、摺動部の金属融着を防止する機能を有すると考えられる。このような摩擦低減剤は、1分子中に長鎖アルキル基と極性基とを有する化合物が用いられる。例えば、次の化合物または材料が挙げられる:オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの高級カルボン酸類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコールなどの高級アルコール類;ひまし油、なたね油などの油脂;メチルオレート、ブチルステアレートなどのカルボン酸エステル類;牛脂アミンなどのカルボン酸アミン類;およびジチオリン酸モリブデン類、ジチオカルバミン酸モリブデン類などの有機モリブデン化合物。摩擦低減剤は、組成物中に0.05〜3重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0059】
上記(vii)および(viii)の耐摩耗剤および極圧剤は、摩擦金属表面上に保護膜を形成し、該金属の摩耗を低減し、焼き付きを防止する。耐摩耗剤および極圧剤としては、次の化合物がある:ジアルキルジチオリン酸亜鉛類;ジチオリン酸モリブデン類、ジチオカルバミン酸モリブデン類などのモリブデン化合物;トリクレジルホスフェート、ラウリルアシッドホスフェートなどのリン酸エステル類;トリオレイルホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイトなどの亜リン酸エステル類;リン酸エステルアミン塩;ジアルキルジサルファイド、硫化油脂、ジアルキルポリサルファイド、硫化オレフィンなどの硫黄化合物;クロロパラフィン、塩素化カルボン酸メチルエステルなどの塩素化合物類など。これらの中で、塩素を含有する化合物は、廃棄処理時に焼却した際にダイオキシンなどの有毒塩素化合物を発生するため注意を要する。耐摩耗剤および極圧剤は、組成物中に0.05〜10重量%の割合で含まれることが好ましい。特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類を用いる場合、亜鉛濃度として0.02〜1.2重量%となるように含有されることが好ましい。
【0060】
上記(ix)のさび止め剤は、金属表面に吸着して保護膜を形成し、あるいは酸類の中和によるさびの発生を防止する機能を有する。さび止め剤としては、次の化合物または材料が挙げられる:カルボン酸アミン、カルボン酸アマイド、アルキルイミダゾール、アルキルイミダゾリンなどのアミン類;ソルビタンモノオレート、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸テトラプロペニルエステルなどのエステル類;オレオイルザルコシンなどのカルボン酸塩類;石油スルフォン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、アルキルベンゼンスルフォン酸のアルカリ土類金属塩、アルキルナフタレンスルフォン酸のアルカリ土類金属塩などのスルフォン酸類;酸化パラフィン;アルキルポリオキシエチレンエーテルなど。さび止め剤は、組成物中に0.01〜3重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0061】
上記(x)の流動点降下剤は、パラフィンなどの結晶性物質の結晶表面に吸着し、該結晶性物質と共晶を形成することによって、3次元網目構造の形成を防止する機能を有する。その結果、連結凝集を防止する、すなわち凝固点を低下させると考えられる。流動点降下剤としては、例えば、ポリメタアクリレート、塩素化パラフィンとアルキルナフタレンとの縮合物、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテートなどが挙げられる。好ましくは、ポリメタアクリレートであり、特に、ポリメタアクリレートは、平均分子量で10万前後のものが好ましい。塩素化パラフィンとアルキルナフタレンとの縮合物は、廃棄処理時に焼却した際にダイオキシンなどの有毒塩素化合物を発生するため注意を要する。 流動点降下剤は、組成物中に0.01〜5重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0062】
上記(xi)の消泡剤は、泡膜の表面張力を低下させ得る、あるいは泡膜内へ侵入して泡膜の破断を行う。特に、内燃機関の場合、クランクケース内の潤滑油の泡立ちを低減し得る。消泡剤としては、例えば、ジメチルシロキサン、ポリアクリレートなどが挙げられる。消泡剤は、組成物中にごく少量、例えば0.002重量%程度の割合で含有され得る。
【0063】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れる。本発明の内燃機関用潤滑油基油は、内燃機関およびそれに付随する駆動系に適用し得る。例えば、2サイクル、4サイクルなどの内燃機関;マニュアルトランスミッション、オートマティックトランスミッション、パワーステアリングなどの駆動系機器;ディファレンシャルギヤなどに好適に適用し得る。
【0064】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明がこの実施例に特に制限されないことはいうまでもない。なお実施例中の%は重量%を示す。
【0065】
以下に、本実施例および比較例で製造されたエステルの試験方法を記載する:
<全酸価> JIS K2283に準じて測定する。
<水酸基価> JIS K0070に準じて測定する。
<動粘度および粘度指数> JIS K2283に準じて、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて、40℃および100℃における動粘度を測定し、粘度指数を算出する。
<流動点> JIS K2269に準じて測定する。
<せん断粘度> JPI−5S−36−91に準じて、テーパードベアリングシュレーター法(TBS法)により測定する。測定温度は100℃とし、せん断速度が1×106/秒となるようにギャップ調整を行う。
<ホットチューブ試験>石油学会規格JPI−5S−55−99に準じて、以下の条件にて試験する:試験温度、300℃;試験時間、24時間;空気流量、10±0.5cc/分;試験油流量、0.30±0.01cc/分。
<SRV摩擦摩耗試験> SRV Lubricant and Material Test System(OPTIMOL社製)を用いて、以下の条件にて摩擦係数を測定する:試験温度、80℃;振動数、50Hz;振幅、1mm;および加重、500N。
【0066】
(実施例1)
温度計、窒素導入管、撹拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物として、ネオペンチルグリコールのエチレンオキサイド付加物(以下、NPG−EOという場合がある)(付加モル数:1)1185.2g(8.0mol)、そして飽和脂肪族モノカルボン酸として、カプリル酸2764.8g(19.2mol)を加え、窒素気流下、220℃で反応水を留去しつつ15時間常圧で反応を行った。反応後、5kPaの減圧下でストリッピングを行い、過剰のカプリル酸を留去して、エステル化粗生成物を得た。
【0067】
このエステル化粗生成物に、該エステル化粗生成物の酸価の1.5倍当量に相当する10%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。さらにこれを30分間静置して水層部を除去した。次いで、1000gのイオン交換水を加え、70℃で30分間攪拌した後、30分間静置して水層部を排出した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返し、エステル層を100℃、lkPaの条件下で減圧脱水した。
【0068】
これに、キョーワード500(協和化学工業(株))を30g入れて吸着処理した。吸着処理温度、圧力、および吸着処理時間は、それぞれ100℃、lkPa、および3時間とした。ろ過を行い、NPG−EO(付加モル数:1)のカルボン酸エステル3001.2gを得た。仕込み原料に対する収率は、76.0%であった。
【0069】
得られたエステルについて、上述の方法により、動粘度、粘度指数、全酸価、水酸基価、ならびに流動点を測定した。さらに熱酸化安定性を調べるためにホットチューブ試験を行った。このホットチューブ試験は、点数が高いほど熱酸化安定性に優れ、8点以上であれば潤滑油基油または潤滑油として実用性があると考えられる。これらの結果を表1に示す。後述の実施例2〜10および比較例1〜6の結果も併せて表1に示す。
【0070】
(実施例2〜10)
表1に示すネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物8.0molおよび飽和脂肪族モノカルボン酸19.2molを用いて、実施例1に準じて反応を行い、エステルの製造を行った。実施例5、8、および9においては、飽和脂肪族モノカルボン酸として2種の化合物を用いた。それらのモル比を表1中のかっこ内に示す。得られたエステルについて、実施例1と同様に試験を行った。
【0071】
(比較例1〜6)
表1に示すネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物8.0molおよび飽和脂肪族モノカルボン酸19.2molを用いて、実施例1に準じて反応を行い、エステルの製造を行った。比較例6においては、飽和脂肪族モノカルボン酸として2種の化合物を用いた。それらのモル比を表1中のかっこ内に示す。得られたエステルについて、実施例1と同様に試験を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果からわかるように、実施例1〜10のエステルは、いずれも100℃における動粘度が約2〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下であった。さらに、ホットチューブ試験の値も問題とならない程度に高かった。これらのエステルは、全酸価が低いため、熱安定性に優れ、内燃機関の駆動部分を腐食させたり摩耗させることがない。40℃における動粘度が低く、低温流動性に優れ、さらに粘度指数が高いため、広い温度範囲にわたり良好な潤滑性を有することがわかる。したがって、これらのエステルは、低燃費性に優れた潤滑油を得るために有用であることが明らかである。一方、比較例1、2、および5のエステルは、粘度指数が140未満であり、比較例3および6のエステルは、100℃における動粘度が高い。したがって、これらのエステルは、いずれも省燃費性を満足する内燃機関用潤滑油に用いられる基油ではない。比較例4のエステルは、全酸価が高い。さらに、比較例のエステルはいずれもホットチューブ試験の点数が低いため、実用上、用いることはできない。
【0074】
(実施例11)
実施例1で得られたエステルを基油とし、酸化防止剤として4,4−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)およびジ(プライマリーn−オクチル)ジチオリン酸亜鉛、無灰分散剤としてコハク酸イミド、および粘度指数向上剤として分散型ポリメタクリレートをそれぞれ表2に示す割合で配合して潤滑油を調製した。得られた潤滑油の40℃および100℃の動粘度、粘度指数、および100℃におけるせん断粘度を測定した。さらに、ホットチューブ試験およびSRV摩擦摩耗試験を行った。結果を表2に示す。後述の実施例12および13、ならびに比較例7の結果も合わせて表2に示す。
【0075】
(実施例12および13)
実施例1で得られたエステルの代わりに、実施例2で得られたエステルを用い、表2に示す材料を表2に示す割合で配合して潤滑油を得た。得られた潤滑油について実施例11と同様の試験を行った。
【0076】
(比較例7)
市販のエンジン油0W−20(出光興産株式会社)について実施例11と同様の試験を行った。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果からわかるように、実施例11〜13の潤滑油は、せん断粘度が低かった。せん断粘度と燃費とは、相関関係にあることが報告されており(例えば、非特許文献2)、これらの潤滑油は、省燃費に寄与し得る。また、ホットチューブ試験でも優れた値が得られ、熱酸化安定性も良好であることがわかる。他方、比較例7の市販の潤滑油は、実施例の潤滑油に比べて粘度指数が低く、さらに100℃のせん断粘度も高く、実施例11〜13の潤滑油に比べて省燃費性に劣る。
【0079】
【発明の効果】
本発明の内燃機関用潤滑油基油は、低粘度であり、低温流動性に優れ、かつ粘度指数が高いため広い温度範囲にわたって良好な潤滑性を有し、さらに低揮発性であり、熱酸化安定性を有し、低燃費性に優れる。
Claims (3)
- ネオペンチル構造を有するジオールにエチレンオキサイドを1〜4モルの割合で付加して得られるネオペンチル構造を有するジオールのエチレンオキサイド付加物と、炭素数が4〜12の飽和脂肪族モノカルボン酸とから得られるエステルからなる内燃機関用潤滑油基油であって、
該飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が50モル%以上の割合で含有され、そして、
該エステルの100℃における動粘度が1〜5mm2/s、粘度指数が140以上、そして全酸価が0.5mgKOH/g以下である、
内燃機関用潤滑油基油。 - 前記飽和脂肪族モノカルボン酸中に直鎖カルボン酸が、80モル%以上の割合で含有される、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油基油。
- 請求項1または2に記載の内燃機関用潤滑油基油を主成分とし、酸化防止剤を0.05〜10重量%、清浄分散剤を0.05〜10重量%、そして粘度指数向上剤を0.01〜30重量%の割合で含有する、内燃機関用潤滑油組成物。
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