JP2010116388A - 消化管溶性剤型 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヒアルロン酸の新規薬理効果を提供すること及び当該薬理効果を効果的に付与するための新規剤型を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒアルロン酸を含有する核周囲に腸溶性ポリマーと卵殻を含有する被覆層を形成させた剤型を経口投与することによって、ヒアルロン酸の新規薬理効果である消化管蠕動運動促進作用及びアトピー性皮膚炎治療及び改善作用を、標的器官である上部消化管に効率的に付与することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、所望の消化管領域において薬剤を作用させることのできる消化管溶性剤型に関する。
ヒアルロン酸(HA: Hyaluronic Acid)は、哺乳動物の結合組織に広く分布するグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種であり、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの二糖が直鎖状に重合した構造を有する。分子構造内に多数のヒドロキシル基を有するために親水性が非常に高く、多量の水を吸着し、保持できるとされている。そのような性質により、体内では非常に粘ちょうな溶液又はゲルを形成し、細胞間質として組織構造の維持及び水分保持、並びに関節軟骨における潤滑剤として働く他、細菌の感染を防御し、創傷治癒の促進をすることが知られている(非特許文献1)。
ヒアルロン酸の臨床応用としては、高分子量のヒアルロン酸が眼科手術補助剤(ヒーロン:ファルマシア社)としてFDA(米国食品医薬局)により承認されている。また、国内では高分子量ヒアルロン酸が変形性膝関節症に適用するための関節機能改善剤として又は内視鏡的粘膜切除術補助剤として、承認されている。また、ヒアルロン酸又はその誘導体は、例えば、特許文献1又は2のように肌の弛み、シワ又は肌荒れを改善し、皮膚に潤いや張りをもたらす経口用の皮膚美容促進剤の成分として又は、例えば、特許文献3のように軟骨細胞の活性酸素による酸化損傷の改善、若しくは特許文献4のように変形性関節症治療剤としても多数開示されている。
このように、従来ヒアルロン酸における薬理効果は、そのほとんどが皮膚や粘膜の保湿効果に基づく皮膚改善及び目の保湿、並びに潤滑効果や創傷治癒効果に基づく関節やその機能の改善を目的とするものが主であった。
特開2007-320891 特開2007-063177 特開2007-314531 特開2007-291133
奥山隆、堀江克之(1982)フレグランスジャーナル、No.56、p39-42
本発明は、ヒアルロン酸の新規薬理効果を提供することを目的とする。また、本発明は、有効成分、特にヒアルロン酸を標的とする消化管領域において効果的に作用させるための剤型を提供することを目的とする。
本発明者らは、ヒアルロン酸の新規薬理効果を探索すべく鋭意研究を行った結果、従来知られていなかった消化管の蠕動運動促進作用及びアトピー性皮膚炎を軽減若しくは治療する作用を見出した。これらの作用は、ヒアルロン酸を十二指腸等の上部消化管に直接投与した場合には少量であってもその効果が有意に観察された。ところが、通常の剤型で経口投与した場合には十分な効果が得られなかった。これは、少量経口投与では大部分のヒアルロン酸が胃粘膜表面に捕捉されてしまうため標的消化管にまで有効量が達し得ないことが原因と考えられた。一方、公知技術の腸溶性ポリマーでコーティングした剤型は、通常、小腸以降で作用することから、上部消化管において有効量のヒアルロン酸を作用させることはできない。それ故、少量、かつ経口投与でヒアルロン酸の前記新規薬理効果を付与するためには、新たな剤型を同時に開発する必要があった。
そこで、本発明者らは、この課題を解決すべくさらなる研究を行った結果、薬剤を含有する核周囲に腸溶性ポリマーと卵殻を含有する被覆層を形成させることによって、標的消化管において効果的に該薬剤を作用させることのできる消化管溶性剤型を発明するに至った。当該剤型により、少量で、かつ経口投与であっても、前記ヒアルロン酸の新規薬理効果を効率的に付与することに成功した。本発明は、上記研究結果に基づいて成されたものであり、すなわち、以下を提供するものである。
(1)薬剤及び製薬上許容可能な担体を含有する核と、卵殻及び腸溶性ポリマーを含有し、前記核の周囲を被覆する被覆層とを含む消化管溶性剤型。
(2)腸溶性ポリマーがセラックである、(1)に記載の剤型。
(3)前記被覆層が複数の層からなる、(1)又は(2)に記載の剤型。
(4)被覆層が前記核の0.5重量%〜10重量%の範囲内にある、(1)〜(3)のいずれかに記載の剤型。
(5)前記薬剤がヒアルロン酸及び/又はその塩である、(1)〜(4)のいずれかに記載の剤型。
(6)ヒアルロン酸又はその塩の分子量が1〜1300kDaである、(5)に記載の剤型。
(7)蠕動運動を促進するためのものである、(5)又は(6)に記載の剤型。
(8)アトピー性皮膚炎を治療するためのものである、(5)又は(6)に記載の剤型。
本発明の消化管溶性剤型によれば、薬剤を標的とする消化管で効果的に作用させることができる。
本発明の消化管溶性剤型によれば、薬剤にヒアルロン酸を用いることで、ヒアルロン酸の新規薬理効果である消化管の蠕動運動促進作用及び/又はアトピー性皮膚炎の軽減若しくは治療作用を付与することができる。
消化管諸組織におけるヒアルロン酸の局在 消化液処理した消化管溶性剤型からの薬剤溶出試験の結果(1) 消化液処理した消化管溶性剤型からの薬剤溶出試験の結果(2) 経口投与及び十二指腸内投与におけるヒアルロン酸の腸管炭末輸送能の比較試験結果 アトピー性皮膚炎モデルマウスに対するヒアルロン酸の給水投与における影響 ヒアルロン酸投与マウス血清中のIgE量変化 胃腸症状の改善結果(1-2錠群) 胃腸症状の改善結果(2-3錠群) 排便回数の調査結果 ヒアルロン酸を含有する本発明の消化管溶性剤型の服用によるアトピー性皮膚炎の改善効果
1.消化管溶性剤型
本発明は、核及び被覆層を含む消化管溶性剤型である。
「消化管溶性」とは、動物の消化管内において消化液の作用により被覆層が溶解され、核含有成分が徐放されることをいう。
本明細書において、動物とは、脊椎動物を意味する。好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
本明細書において、消化管とは、口から肛門に至る管腔をいう。動物が哺乳動物である場合、本発明の消化管は、特に胃、十二指腸、小腸(空腸、回腸を含む)及び/又は大腸(盲腸、結腸及び直腸を含む)を指す。また、消化液とは、消化管から分泌される分泌液であって、通常、消化酵素や酸等を含有する。例えば、胃において分泌され、ペプシン及びリパーゼ等の消化酵素、並びに塩酸を含有する胃液、十二指腸において分泌され、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ等の消化酵素を含有する膵液、小腸の空腸において分泌され、マルターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ等の消化酵素を含有する腸液が挙げられる。後述するように、本発明において被覆層の溶解は、胃液(特にそれに含有される塩酸)及び腸液の作用によるところが大きいと考えられている。
上記性質から、本発明の消化管溶性剤型は、経口投与型剤型として使用される。
1−1.消化管溶性剤型の構成
1−1−1.核
消化管溶性剤型の「核」とは、本発明の剤型の概ね中心部に位置し、薬剤及び製薬上許容可能な担体を含有する部分を言う。
「薬剤」とは、本発明の剤型における有効成分をいう。例えば、医薬物、特定保健用食品、栄養機能食品及び健康食品が該当する。具体的には、低分子化合物(例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラト硫酸、ヘパラン硫酸等の硫酸化多糖、各種ビタミン、ミネラル、グルコサミン)、高分子化合物(例えば、ヒアルロン酸、核酸アプタマー)、タンパク質(例えば、酵素(例えば、リパーゼ、アミラーゼ、アミロプシン、アミノペプチダーゼ、カリクレイン)、酵素阻害剤(例えば、アプロチニン、カベキサート、α1アンチトリプシンインヒビター))、乳酸菌のような有用な腸内細菌又はそれらの組み合わせを含む。核は、同様の又は異なる薬効を有する複数の薬剤を包含していてもよい。
一の実施形態で、前記薬剤をヒアルロン酸及び/又はその誘導体とすることができる。ヒアルロン酸は、一般に、低分子量のものから高分子量のものまで知られている。本発明において有効成分として使用するヒアルロン酸又はその誘導体の分子量は、通常は1〜1300kDa、好ましくは5〜1000kDa、より好ましくは10〜300kDaである。
後述する実施例で示すように、本発明者らは、ヒアルロン酸を投与することによって、これまで知られていなかった消化管の蠕動運動を促進する効果及びアトピー性皮膚炎を治療若しくは軽減する効果が得られることを見出した。
「消化管の蠕動運動を促進する効果」とは、主として胃、小腸及び大腸の蠕動運動を促すことにより、便通又は膨満感を改善する整腸効果をいう。実施例で示すように、ヒアルロン酸の投与により便通回数が増加し、膨満感を解消し得ることが明らかとなった。したがって、ヒアルロン酸を便秘の改善又は整腸用に利用することができる。
「アトピー性皮膚炎を治療若しくは軽減する効果」とは、アトピー性皮膚炎の症状を治療、緩和又は進行抑制する効果をいう。アトピー性皮膚炎は、アレルギー性皮膚疾患の一種で、アトピー体質や皮膚過敏症の人が種々のアレルゲン又は機械的刺激に曝されることにより発症する。先進国における発症率が近年増加傾向にあるものの発症原因及び発症機序に関しては未だに不明な点が多い疾患である。アトピー性皮膚炎の治療薬には、一般に、ステロイド系外用剤が使用される。しかし、ステロイド系外用剤の連続的使用は、真菌や細菌による皮膚感染症の悪化又は皮膚萎縮、毛細血管拡張による発赤、紫斑、若しくは色素沈着等の皮膚の変化等の様々な副作用を伴う。一方、ヒアルロン酸は、前述のように哺乳動物の生体内に元来広く、かつ多量に存在しているため、連続的投与や経口投与を行っても深刻な副作用を生じないとされている。それ故、本発明により安全性の高いアトピー性皮膚炎改善経口治療薬を提供することができる。また、アトピー性皮膚炎は、便秘により症状が悪化することから、両疾患の関連性が以前から示唆されてきた。本発明のヒアルロン酸の新規薬理作用である消化管の蠕動運動促進効果によれば、同時に便秘も改善し得るため、より効果的にアトピー性皮膚炎を治療若しくは軽減できると考えられる。
前記ヒアルロン酸の新規薬理効果は、ヒアルロン酸を100mg/kg体重で上部消化管、特に十二指腸に直接投与した場合には有意に観察された。一方、経口投与で等量のヒアルロン酸を投与した場合には十分な効果が得られなかった。後述の実施例1で示すように、ヒアルロン酸は、胃酸による酸性下で分子間・分子内の立体的相互作用と自己結合により拡散性が低下し、さらに粘膜組織の陽イオン性物質と複雑な結合をすることが予想される。それ故、経口投与した場合、前記投与量ではそのほとんどが胃粘膜表面で捕捉されてしまい、標的とする上部消化管にまで有効量が到達できないと考えられる。
しかし、本発明の消化管溶性剤型によれば、後述する被覆層の作用により新規薬理効果を得る上で必要な最低有効量のヒアルロン酸を所望する上部消化管において作用させることができる。したがって、ヒアルロン酸における前記2つの新規薬理効果を効果的に得るためには、ヒアルロン酸を薬剤として本発明の消化管溶性剤型にて投与することが好ましい。
前記ヒアルロン酸の新規薬理効果を得るための有効量は、ヒトに投与する場合、通常、動物実験から得られたデータに基づいて策定される。最終的にヒトに対して投与する量は個々の被験者に応じて医師の判断により決定され、調整される。その際、被験者における症状の進行度、若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性及び治療に対する耐性等が勘案される。ヒアルロン酸やヒアルロン酸以外の薬剤の投与量は、薬剤の種類によって変化し得る。一般的には、例えば、一投与単位(例えば、1錠)あたり1mg〜100mgである。具体例として、30kDaのヒアルロン酸であれば、体重60kgの成人男性で、通常、1日あたり10〜80mg、好ましくは10〜60mg、より好ましくは10〜40mg服用すれば、本発明の新規薬理効果を得ることができる。
「製薬上許容可能な担体」とは、例えば、製薬上許容される、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤又は滑沢剤をいう。
賦形剤としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、或いはそれらの組み合わせが挙げられる。
結合剤としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム又はそれらの塩が挙げられる。
充填剤としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
このような担体は、主として前記薬剤の核形成を容易にし、また形成された核及び薬剤効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。また、上記物質以外にも所望であれば、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、可溶化剤、吸収促進剤、保湿剤、吸着剤、増量剤、付湿剤、防腐剤、抗酸化剤、緩衝剤等を担体に添加することもできる。
核の形状は、特に限定はしない。しかし、一般に剤型の形状は核の形状を反映することから、本発明の剤型の製造においては、核の形状は、後述する本発明の剤型の形状と概ね同一の形状にすればよい。すなわち、所望する剤型形状を先に決定した上で、核の形状をそれに合わせてもよい。
核のサイズは、必要量の薬剤を包含できる当該分野で公知の剤型サイズにすればよく、特に限定しない。後述する最終産物である剤型のサイズを先に定め、その剤型サイズから、所望の被覆層の厚さ分だけ減じることで定めてもよい。
1−1−2.被覆層
本明細書において「被覆層」とは、卵殻及び腸溶性ポリマーを含有し、前記核の表面を被覆するように形成された層をいう。
本明細書において「卵殻」とは、結晶化した炭酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウム等を含有する卵の殻をいう。通常、卵殻は、炭酸カルシウムを主成分とするが、一般的な炭酸カルシウムの結晶とは異なり、胚がガス交換するための直径約0.1〜0.5μmの気孔をその表面に無数に形成した多孔構造を有する。この気孔は、胃液の浸透を促し、それより多孔部壁面の希薄な部位から卵殻が順次溶解して被覆層にさらなる微細孔を多数生じさせる。その結果、剤型を崩壊させることなく瀰漫的に核に含有される薬剤を溶出させることができる。
卵の由来となる生物種は、特に限定はしない。例えば、鳥類、爬虫類(カメ目、ワニ目及びヤモリ科を含む)が挙げられる。複数種の卵殻の混合物であっても構わない。好ましくは、鶏卵の卵殻である。安定的に、かつ多量に、また比較的安価に入手可能だからである。
卵殻は、通常、採取時に卵殻膜が付着しているが、この卵殻膜はアレルゲンとなり得るため除去されていることが好ましい。卵殻は、薬剤、加熱、焼成、ガンマ線照射等による殺菌処理を施したものを使用する。焼成処理は、殺菌と共に前記卵殻膜も焼却できるので好ましい。
本発明において卵殻は、粉末状態のものが使用される。粒径は、通常0.8μm〜40μmの範囲内、好ましくは1μm〜20μmの範囲内、より好ましくは1μm〜10μmの範囲内にあればよい。各粒子の粒径差が小さいこと、すなわち粒が揃っていることが望ましい。卵殻から卵殻膜を除去し、粉末化したものは卵殻カルシウムと呼ばれ、安全性が高いカルシウムサプリメントとして、カマボコや麺類のコシを強くするため又はスナック菓子類の歯応えを良くするための食品添加物として、化粧品若しくはヘヤケア商品の原料として又は土壌改良剤として、様々な用途に利用されている。しかし、剤型の被覆層に用いられた例はこれまでに知られていない。卵殻カルシウムは市販されており、それらを利用することもできる(例えば、太陽化学株式社、キューピータマゴ株式会社より入手可能)。
「腸溶性ポリマー」とは、一般的に耐酸性を有することから胃液に対しては難溶(耐胃液性)で、アルカリ性の小腸内において溶解する(腸液崩壊性)高分子物質をいう。この性質を利用して、製剤において主に腸溶性剤型のコーティング剤として利用されている。本発明では、公知の腸溶性ポリマーを使用することができる。具体的には、限定はしないが、エチルセルロース、セルロースエステル及びその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、フタル酸酢酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸酢酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、フタル酸酢酸ポリビニル、メタクリル酸エステルの共重合体(例えば、pH感受性メタクリル酸メタクリレートコポリマー)、セラックが該当する。好ましくは、セラックである。
「セラック」(shellac:シェラック)は、ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質(シードラック)を精製して得られる天然熱硬化性樹脂であり、アレウリチン酸及びシェロール酸又はアレウリチン酸及びジャラール酸等の樹脂酸のエステルを主成分とする。セラックは、光沢性、耐油性、耐摩耗性、皮膜形成性に優れるため、天然塗料として利用される他、無味、無臭で、人体に対しても無毒なことから、安全性の高い可食性皮膜剤として医薬品や食品等のコーティング剤に広く利用されており、本発明の被覆層における腸溶性ポリマーにも好適である。
本発明の被覆層は、腸溶性ポリマー及び卵殻に加えて製薬上許容可能な添加剤を含有することができる。製薬上許容可能な添加剤は、例えば、乳化剤、油類(植物性油類、動物性油類を含む)、医薬用色素、糖、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール又は二酸化チタン等を含む。乳化剤には、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。植物性油類には、例えば、菜種油、パーム油、綿実油、大豆油、コーン油、紅花油、ゴマ油、亜麻仁油、ひまし油などが挙げられる。動物油類には、牛脂、豚脂、鯨油、サメ油等が挙げられる。
後述する実施例2及び3で示すように、本発明の剤型における被覆層は、消化管内において以下の機序により溶解されるものと考えられる。まず、投与後、胃において被覆層内の卵殻多孔部に胃液が浸透する。胃液中に含まれる塩酸(胃酸)の作用によって、多孔部内部壁面の希薄な部位から卵殻粒子が徐々に溶解され、その結果、被覆層全体に無数の微細孔(0.1〜0.5μm)が形成される。また、おそらくは被覆層自体も薄層化する。一方、腸溶性ポリマーは、耐胃液性であることからこの時点において剤型が崩壊することはなく、被覆層が維持されたままで前記形成された微細孔から核に含有された薬剤の一部が上部消化管である胃後部及び十二指腸に溶出される。その後、空腸内に到達した剤型は、腸液によるアルカリ環境下で腸溶性ポリマーの溶解を開始する。卵殻の溶解により形成された無数の微細孔により、被覆層内の腸溶性ポリマーが腸液に曝露される表面積は著しく増大している。そのため、腸溶性ポリマーは、腸液によって速やかに溶解される。その結果、被覆層は比較的短時間で崩壊し、核内に残った薬剤全てが空腸内において放出される。このように、本発明の消化管溶性剤型によれば、被覆層は、胃液による酸性環境下において第一段階の溶解が起こり、続いて、腸液によるアルカリ性環境下において第二段階の溶解が起こる二段階溶解性を有すると考えられる。被覆層中に含まれる卵殻の含有率を増加させることにより、胃液の作用で生じる微細孔数やその大きさが増大するため、被覆層の溶解速度をより早くすることもできる。
一方、小腸回腸部〜大腸にかけての下部消化管領域で本発明の消化管溶性剤型に含有される薬剤を作用させたい場合には、逆に卵殻の含有率を低くし、必要に応じて被覆層の厚さを厚くするか又は被覆層を重畳構造にすればよい。胃液による被覆層の一部溶解(微細孔形成)を弱めることにより、被覆層構造をより遠位の消化管まで維持させることができる。
被覆層における卵殻と腸溶性ポリマーとの混合比は、本発明の消化管溶性剤型の標的とする消化管領域により定まる。本発明の消化管溶性剤型を胃後部〜空腸前部の上部消化管において作用させる場合には、一般的に卵殻の比率を高くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比が重量比で1:30〜1:10、好ましくは1:25〜1:15の範囲内にあればよい。一方、本発明の消化管溶性剤型を主として空腸〜回腸内において作用させる場合には、卵殻の比率を前記混合比よりも低くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比が重量比で1:40〜1:31の範囲内にすればよい。さらに、本発明の消化管溶性剤型を回腸〜大腸の下部消化管において作用させる場合には、卵殻の比率をさらに低くすればよい。例えば、卵殻:腸溶性ポリマーの混合比を重量比で1:50〜1:41の範囲内にすればよい。このように、本発明の消化管溶性剤型は、被覆層の卵殻と腸溶性ポリマーの混合比及び/又は被覆層自体の厚さ(後述する核に対する被覆層の重量%)を変えることにより、核に含まれる薬剤の消化管における作用部位を制御することが可能となる。
本発明の消化管溶性剤型における被覆層の厚さは、核の重量に対する被覆層の重量比(重量%)として定めることができる。この重量比は、通常、被覆層の最終重量(すなわち、製造時における溶媒を包含する重量ではなく剤型製造後に溶媒が揮発して核表面に残る固形成分の重量)が0.5重量%〜10重量%の範囲内になるように核にコーティングすればよい。この重量比は、標的とする消化管部位によって異なる。一般に、上部消化管を標的とする場合には、通常は0.5重量%〜4.0重量%の範囲内、好ましくは1.5重量%〜4.0重量%の範囲内、より好ましくは2.5重量%〜4.0重量%の範囲内、さらに好ましくは2.5重量%〜3.8重量%の範囲内、一層好ましくは2.8重量%〜3.7重量%の範囲内に設定される。また、下部消化管を標的とする場合には、通常は3.5重量%〜10重量%の範囲内、好ましくは4.0重量%〜10重量%の範囲内に設定される。また、この重量比は、前記被覆層における卵殻と腸溶性ポリマーの混合比によっても左右され、同じ消化管部位を標的とする場合でも、卵殻の比率が高ければ前記重量%を高めに設定することができる。
被覆層は、複数の層を重畳した構造を有してもよい。この場合、いずれの層も腸溶性ポリマー及び卵殻を含有するが、各層の成分組成及び構成成分含有率は、異なっていても構わない。例えば、外観を良くする目的で、最外層にのみ製薬上許容される色素を含有させてもよいし、それぞれの層における卵殻の含有率を変えることもできる。また、各層の厚さは、特に限定しない。例えば、同一であっても又はそれぞれ異なっていても構わない。
1−2.本発明の消化管溶性剤型の形状、サイズ
1−2−1.消化管溶性剤型の形状
本発明の消化管溶性剤型の形状は、経口錠剤又は丸剤として公知の形状であればよく、特に限定はしない。例えば、(半)球形平板形状、(半)楕円平板形状、略方形平板形状、(半)球形状、(半)楕円体形状であればよい。この形状は、通常、核の形状と相関関係にある。
1−2−2.消化管溶性剤型のサイズ
本発明の消化管溶性剤型のサイズは、投与する生物個体のサイズに左右されるが、成人に投与する場合であれば、通常、最大長が3〜15mm、好ましくは5〜10mmの範囲内にあればよい。より具体的な例としては、球形平板形状剤型の場合、直径が5〜10mmの範囲内、かつ最大厚が2〜5mmの範囲内にあればよい。
2.本発明の消化管溶性剤型の製造方法
本発明の消化管溶性剤型は、基本的には当業者に公知の製剤化方法を用いて作製することができる。例えば、本発明の消化管溶性剤型における核は、素錠として、薬剤を適当な担体と共に、混合、造粒後、打錠して調製すればよい。
剤型製造の際には被覆層を可溶化する必要があるが、溶媒の種類は、公知の経口剤型において製薬上許容される溶媒であれば、特に限定はしない。安全面から、エタノールが好ましい。被覆層成分を前記溶媒で可溶化して被覆層溶液を調製する場合、被覆層成分は溶媒に対して通常10%(w/v)〜40%(w/v)、好ましくは20%(w/v)〜38%(w/v)、より好ましくは30%(w/v)〜35%(w/v)あればよい。10%(w/v)を下回る濃度の場合、被覆層が形成される時間が長くなり、また40%を越える濃度では、被覆層形成後の剤型表面が荒くなり及び/又は気泡混入による被覆層の機密性が失われる可能性が高くなるからである。
本発明の消化管溶性剤型における被覆層は、前記素錠化した核に溶剤で可溶化した被覆層溶液を噴霧器により吸着乾燥させて形成してもよいし又は被覆層溶液に浸漬した後、乾燥させて形成することもできる。本発明の消化管溶性剤型の製造には、Remington's Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載の方法を使用することもできる。
以下の実施例で、本発明の実施形態を具体的に例示するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>ヒアルロン酸と消化管組織との親和性の検証
マウスに蛍光標識したヒアルロン酸を経口投与又は十二指腸内投与し、ヒアルロン酸の消化管内壁への結合性について検証した。
(方法)
2.7mgヒアルロン酸(平均分子量30kDa)と0.3mgの蛍光標識したヒアルロン酸(フルオレセインアミン標識ヒアルロン酸ナトリウムFAHA-L1;岩井化学薬品、加熱処理により分子量を約30kDaに調製)を0.3 mlの生理食塩液に溶解させた溶液を24時間絶食させたICR系マウス(オス;体重30g)に経口投与した。また、他のICR系マウス(オス;体重30g)をエーテル麻酔下で腹部を小切開し、前記経口投与と等量のヒアルロン酸を十二指腸内に投与した。投与3時間後、放血により屠殺した。それぞれの個体から胃、十二指腸及び回腸を摘出した後、各組織を10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定した。固定後、胃部、幽門部、十二指腸及び回腸の凍結切片を作製し、蛍光光顕微鏡(Eclipe E600、Nicon;励起フィルター:450〜490nm、吸収フィルター:520nm)を用いて観察した。
(結果)
経口投与の場合、胃部及び幽門部の表層粘膜上皮、基底膜層及び平滑筋層において強い蛍光が認められた。しかし、十二指腸及び回腸では絨毛から陰窩の上皮細胞に瀰漫的に弱い蛍光が認められるに過ぎなかった。一方、十二指腸内投与の場合、胃部及び幽門部の表層粘膜上皮、基底膜層及び平滑筋層においては微弱な蛍光が認められるに過ぎなかった。しかし、十二指腸及び回腸では、絨毛から陰窩の上皮細胞において強い蛍光が認められた。また、粘膜固有層の紡錘形細胞及び円形細胞、基底膜層及び平滑筋層にも蛍光が認められた。ただし、杯細胞での蛍光は陰性であった。この結果から、十二指腸及び回腸の粘膜表面にもヒアルロン酸は結合し得るが、経口投与をした場合には、その上部の胃粘膜細胞及び幽門部の粘膜細胞にその大部分が結合してしまい、十分なヒアルロン酸が十二指腸まで到達し得ないことが明らかになった。これは、後述する実施例5で示すように、ヒアルロン酸を十二指腸等の上部消化管に直接投与した場合には少量であっても本発明で開示の新規薬理効果が得られるが、経口投与した場合にはその効果が弱くなるという結果とよく符合する。したがって、本発明におけるヒアルロン酸の新規薬理効果を付与するためには、胃粘膜表面及び幽門粘膜表面を被覆する以上のヒアルロン酸を投与するか、従来にない新たな剤型を開発する必要があることが示唆された。
<実施例2>ヒアルロン酸を薬剤として用いた消化管溶性剤型の製法
(1)核成分組成
30kDaヒアルロン酸用組成:N1 (Nuclear 1)
一核あたりヒアルロン酸(30kDa;紀文フードケミファ)10mg/乳糖(SUPER-TAB:旭化成)152mg/結晶セルロース(SEOLUS-ST-02:旭化成)80mg/微粒二酸化ケイ素(カープレックス:ジャパン株式会社)4mg/ショ糖脂肪酸エステル(リョウトーS-370F:三菱化学フーズ)4mg(計250mg/錠)
100kDaヒアルロン酸用組成:N2
一核あたりヒアルロン酸(100kDa;同上)10mg/乳糖(SUPER-TAB:旭化成)152mg/結晶セルロース(SEOLUS-ST-02:旭化成)80mg/微粒二酸化ケイ素(カープレックス:ジャパン株式会社)4mg/ショ糖脂肪酸エステル(リョウトーS-370F:三菱化学フーズ)4mg(計250mg/錠)
1,000kDaヒアルロン酸用組成:N3
一核あたりヒアルロン酸(1,000kDa;同上)1mg/乳糖(同上)161mg/結晶セルロース(同上)80mg/微粒二酸化ケイ素(同上)4mg/ショ糖脂肪酸エステル(同上)4mg(計250mg/錠)
(2)核の形成
核の調製は100倍散(100錠分)で行った。まず、前記核成分をそれぞれ100倍に調製し、プラスチックバック内で十分に混合した。その後、静圧打錠機(HT-P22A型;畑製作所製)を用いて、250mgを正確に計り取り、一錠ごとに厚さ約4mm、径9mmで素錠化した。
(3)被覆層溶液組成
本発明の被覆層用溶液:C1(Coating1)
精製セラック(岐阜セラック製造所)2g/パーム油(J−オイルミルズ)0.1g/ショ糖脂肪酸エステル(リョウトーS-370F:三菱化学フーズ)0.01g/卵殻カルシウム(太陽化学)0.1gをエタノール(和光純薬)5.79gで溶解したもの(計8g)
対照用被覆用溶液1:C2
精製セラック(岐阜セラック製造所)2g/パーム油(J−オイルミルズ)0.1g/ショ糖脂肪酸エステル(リョウトーS-370F:三菱化学フーズ)0.01gをエタノール(和光純薬)58gで溶解したもの(計8g)
対照用被覆用溶液2:C3
精製セラック(岐阜セラック製造所)2gをエタノール(和光純薬)6gで溶解したもの(計8g)
(4)被覆層の形成
素錠化した核を、被覆層溶液に浸漬し、素早く取り出した後、ドライヤーにて乾燥した。この操作により、被覆層溶液中のエタノールが揮発によって除かれ、核表面上に被覆層が形成された。本方法によれば、1核(250mg)あたりの被覆層の重量は約7.5mgであった。したがって、核に対する被覆層の重量%は、約3.0重量%となる。通常は、約3.0重量%の被覆層を用いたが、必要に応じて、浸漬時間及び/又は浸漬回数により2.8重量%〜4.2重量%の範囲で調整した。
本明細書においては、例えば、前記分子量30kDaのヒアルロン酸を含有する核N1に本発明の被覆層C1を形成させた剤型をN1/C1で表す。
<実施例3>消化液中における本発明の消化管溶性剤型の崩壊試験
(方法)
試験温度を室温とし、N1〜N3の核にC1〜C3のそれぞれの被覆層を形成させた消化管溶性剤型を18錠ずつ局方第1液又は第2液中浸漬し、崩壊試験器(富山産業製NT-1HM)において1秒当たり1ストロークで上下動させて崩壊性を検証した。ここで、局方第1液は、塩化ナトリウム2g/塩酸7g/水1LからなるpH約1.2の溶液であり胃液に近いpHを有する。また局方第2液は、0.2M NaH2PO4 250ml/0.2M NaOH 118ml/水1LからなるpH約6.8の溶液であり、腸液に近いpHを有する。
(結果)
核の組成、すなわちN1〜N3とは無関係に、C1の被覆層を有する剤型(本発明の消化管溶性剤型)では、第1液中において30分で1〜2錠、45分で4〜6錠、60分で5〜7錠が崩壊した。また、第2液中では、10〜30分で全ての剤型が崩壊した。一方、N1〜N3とは無関係に、C2又はC3の被覆層を有する剤型(対照剤型)は、本崩壊試験では、局方第1液及び第2液のいずれにおいても全く崩壊しなかった。この結果から本発明の消化管溶性剤型の被覆層に含まれる卵殻が第1液の酸性下において一部溶解し、被覆層全体に微小孔が形成されて脆くなった結果、一部剤型は第1液で崩壊したものと考えられる。
<実施例4>擬似消化液処理した消化管溶性剤型からの薬剤溶出試験(1)
(方法)
実施例2で調製した本発明の消化管溶性剤型(N1〜N3/C1)6錠を用いた。
・N1/C1:核=30kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック/パーム油/卵殻含有
・N2/C1:核=100kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック/パーム油/卵殻含有
・N3/C1:核=1,000kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック/パーム油/卵殻含有
それぞれの剤型を37℃の恒温水槽に置いた1000mlの局方第1液中で120分間攪拌した。120分後に、攪拌翼の上端と液面の中間位置から第1液を1ml採取し、遠心分離した後、その上清を試験溶液1とした。その後、第1液を濾過して前記6錠を回収し、37℃の恒温水槽に置いた1000mlの第2液中に入れて、60分間攪拌した。撹拌開始15分、30分及び60分後に、第1液と同様に攪拌翼の上端と液面の中間位置から第1液を1ml採取し、遠心分離した後、その上清を試験溶液2とした(それぞれ、試験溶液215、230及び260と呼ぶ)。各試験溶液中のヒアルロン酸濃度は、ヒアルロン酸結合蛋白質の阻害法を用いたヒアルロン酸キット(生化学バイオビジネス)を用いて測定した。
また、各試験溶液での処理完了時(試験溶液1:120分、試験溶液2:60分=260)における各試験溶液のヒアルロン酸濃度から、ヒアルロン酸の回収率、すなわち未処理剤型のヒアルロン酸含有量に対する試験溶液中に溶出したヒアルロン酸量を算出した。なお、N1/C1、N2/C1及びN3/C1剤型における6錠中のヒアルロン酸総量をそれぞれ60μg、54.2μg、4.7μgとした。
(結果)
各試験溶液中における各分子量のヒアルロン酸濃度の推移
N1/C1、N2/C1及びN3/C1剤型の局方第1液におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ6μg/ml、5.3μg/ml及び0.3μg/mlであった。また、N1/C1剤型の試験溶液215、230及び260におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ7μg/ml、16μg/ml及び33μg/mlであった。さらに、N2/C1剤型の局方第2液、215、230及び260におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ4.4μg/ml、8.6μg/ml及び32μg/mlであった。そして、N3/C1剤型の第2液、215、230及び260におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ0.4μg/ml、0.9μg/ml及び3.1μg/mlであった。したがって、いずれ分子量であっても本発明の被覆層を有するヒアルロン酸は、試験溶液1中では120分間経過後であっても僅かに溶出する程度であるが、続く第2液では比較的短時間で、時間経過と共に溶出量が増大することが明らかとなった。すなわち、本発明の剤型によれば、30kDaの低分子ヒアルロン酸から1,000kDaの高分子のヒアルロン酸まで第2液で、くまなく溶出することができる。
各試験溶液中での各分子量のヒアルロン酸の回収率
結果を図2に示す。第1液の処理完了時における1000ml中のヒアルロン酸回収率は、N1/C1、N2/C1及びN3/C1剤型でそれぞれ10%((0.006mg/ml×1000ml)/60mg×100)、9.8%、6.4%であった。また、第2液の処理完了時(260)における1000ml中のヒアルロン酸回収率は、N1/C1、N2/C1及びN3/C1剤型でそれぞれ61%({(0.033mg/ml×1000ml)/(60mg−6mg)}×100)、65%、70%であった。すなわち、いずれの剤型においても第1液では先ず10%弱のヒアルロン酸が溶出し、続く第2液で60〜70%が溶出した。この結果は、本発明の消化管溶性剤型を経口投与した場合、胃で核中のヒアルロン酸の一部が溶出し、回腸上部で残るヒアルロン酸の大部分が溶出するという二段階の溶解特性を有することを示唆している。これにより、本発明の消化管溶性剤型を用いれば、経口投与であっても少量のヒアルロン酸を胃粘膜表面に捕捉されることなく、所望する回腸上部に確実に送達することができる。
<実施例5>擬似消化液処理した消化管溶性剤型からの薬剤溶出試験(2)
(方法)
被覆層の組成を変えて実施例2で調製した消化管溶性剤型(N1/C1〜C3)6錠を用いて、前記実施例4と同様の方法で消化管溶性剤型からのヒアルロン酸の溶出試験を行った。
・N1/C1:核=30kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック/パーム油/卵殻含有
・N1/C2:核=30kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック/パーム油含有
・N1/C3:核=30kDaヒアルロン酸含有/被覆層=セラック含有
(結果)
各試験溶液中における各分子量のヒアルロン酸濃度の推移
N1/C1、N1/C2及びN1/C3剤型の試験溶液1におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ6μg/ml、0μg/ml及び0μg/mlであった。また、N1/C1剤型の試験溶液215、230及び260におけるヒアルロン酸濃度は、それぞれ7μg/ml、16μg/ml及び33μg/mlであった(実施例4に同じ)。さらに、N1/C2及びN1/C3剤型の試験溶液215、230及び260におけるヒアルロン酸濃度は、いずれも0μg/mlであった。
各試験溶液中での各分子量のヒアルロン酸の回収率
結果を図3に示す。試験溶液1の処理完了時における1000ml中のヒアルロン酸回収率は、N1/C1剤型では10%であったが、N1/C2及びN1/C3剤型では全く回収できなかった。また、また、試験溶液2の処理完了時(260)における1000ml中のヒアルロン酸回収率は、N1/C1型では61%であった。しかし、N1/C2及びN1/C3剤型では全く回収できなかった。すなわち、本実施例において前記被覆層の条件でヒアルロン酸の溶出が確認できたのは卵殻を含有する本発明の消化管溶性剤型の被覆層のみであった。以上の結果から、被覆層における卵殻の存在が本発明の消化管溶性剤型における薬剤の二段階溶解特性、徐放性に寄与することが判明した。
<実施例6>経口投与と十二指腸内投与におけるヒアルロン酸の腸管炭末輸送能の比較試験
(方法)
ICR系マウス(オス;体重33〜35g)5匹を24時間絶食させた後、平均分子量30kDaのヒアルロン酸を30mg/kg(体重1gあたりの投与量μg)及び100mg/kgで経口投与した。また、十二指腸投与は、エーテル麻酔下でマウスの腹部を小切開し、確実に十二指腸内にヒアルロン酸を100mg/kgで投与した。
また、ヒアルロン酸の比較物質としてコンドロイチン硫酸(コンドロン注3%:科研製薬)、デルマタン硫酸(生化学バイオビジネス)及びケラタン硫酸(生化学バイオビジネス)を前記と同様に各群5匹ずつ24時間絶食させたICR系マウス(オス;体重33〜35g)の十二指腸内に100mg/kgで投与した。コンドロイチンは、ヒアルロン酸と同じムコ多糖の1種であり、ヒアルロン酸同様、体内では粘ちょうな溶液又はゲルを形成し、細胞間質として組織構造の維持及び水分保持、並びに関節軟骨への潤滑作用に働くことが知られている。
対照群として、24時間絶食させたICR系マウス(オス;体重33〜35g)5匹に生理食塩液をそれぞれ経口投与又は十二指腸投与した。
ヒアルロン酸等の投与2時間後に、5%の炭素粉末(炭末)懸濁液(5%アラビアゴム溶液を溶媒とする)をマウス1匹あたりに0.25ml経口投与した。懸濁液投与の30分後にマウスを麻酔下で安楽死させ、消化管を摘出した。胃幽門部から盲腸の間における炭末の移動距離を測定し、個々の個体における炭末移行率(%)を算出した。各個体の炭末移行率について、群平均及び標準誤差を算出した。炭末移行率に関しては、Bartlett検定によって分散の一様性が認められたため、パラマトリックDunnett検定を用いて、対照群との比較を行った。
(結果)
結果を図4に示す。経口投与では対照の生理食塩水とヒアルロン酸投与個体群間で炭末移行率に有意差はみられなかった(図4a)。これに対して、十二指腸内投与をした場合、ヒアルロン酸投与個体群(図4b:HA)の炭末移行率は、対照(図4b:対照)と比較して有意に(p<0.05)高かった。一方、コンドロイチン硫酸(図4b:CS)、デルマタン硫酸(図4b:DS)及びケラタン硫酸(図4b:KS)の各投与個体群と対照個体群(図4b:対照)間の炭末移行率に有意差はみられなかった。
以上の結果から、十二指腸内投与をした場合、ヒアルロン酸投与個体群のみが有意に消化管蠕動運動を促進することが明らかとなった(図4b)。すなわち、ヒアルロン酸は、従来知られていなかった消化管蠕動運動促進作用を有することが判明した。しかし、この作用効果は、ヒアルロン酸を直接経口投与した場合、弱められることも判明した(図4a)。
<実施例7>アトピー性皮膚炎モデルに対するヒアルロン酸の影響
(方法)
NC/Ngaマウス(オス;体重29〜30g)を剃毛後、オリーブオイルで可溶化した5%ピクリルクロリドを胸部、腹部、足掌に塗布した。4日後、0.8%ピクリルクロリドを耳及び背中にも塗布した。その後1週間毎に1回で8週間、同様の塗布を繰り返した。
皮膚炎症評価は、0.8%ピクリルクロリド塗布開始後週2回、掻痒感、発赤・出血、浮腫、擦創・糜爛及び茄皮形成・乾燥の5症状をそれぞれ0:無症状、1:軽度改善、2:中等度改善、3:高度改善の評価基準でスコアリングを行い、総合スコアを算出した。
検査個体群には、分子量60kDaのヒアルロン酸を0.2mg/ml(n=4)又は2mg/ml(n=3)で混ぜた飲料水を0.8%ピクリルクロリド塗布4週間目に与えた。対照個体群(n=5)には、通常の水のみの飲料水を与えた。なお、実験に使用したマウスは、いずれも4週間目で同程度の皮膚炎症症状を有していた個体である。なお、1日あたりに摂取する水分量は、いずれの個体においてもほぼ等しいと仮定した。
(結果)
結果を図5に示す。ヒアルロン酸投与開始時(4週間目)の各マウスには、軽度の掻痒感、発赤・出血、中等度の擦創・糜爛、茄皮形成・乾燥等の擬似アトピー性皮膚炎症状がみられた。ヒアルロン酸を投与した4週間後(8週間目)では、0.2mg/ml群では対照群と比較してほとんど差はみられなかったものの、2mg/ml群では投与2週後より明らかに各症状の改善が観察され、皮膚炎症スコアが有意に低下した。すなわち、マウスを用いた2mg/mlのヒアルロン酸投与個体群では、アトピー性皮膚炎モデルに対する改善作用が確認できた。これにより、ヒアルロン酸は、従来知られていなかったアトピー性皮膚炎治療・改善作用を有することが判明した。
<実施例8>ヒアルロン酸投与マウス血清中のIgE量変化
(方法)
実施例6の各個体群から3匹を選択し、本実験で使用した。ヒアルロン酸含有水投与開始前と投与2週間後の各マウス個体群から採血した。抗マウスIgE抗体を使用したELISAキット(マウスIgE測定キット;ヤマサEIA)で血清IgE量を測定し、ヒアルロン酸の抗アレルギー性作用を検証した。
(結果)
結果を図6に示す。0.2mg/ml投与個体群では投与前後で、ほとんど差はみられなかった(図示せず)。しかし、2mg/ml投与個体群ではIgE量の減少傾向が認められた。したがって、2mg/mlヒアルロン酸の飲料給水には抗アレルギー性作用があることが示唆された。
<実施例9>ヒアルロン酸の経口投与毒性試験
(方法)
投与方法は、ヒアルロン酸(平均分子量30kDa:紀文フードケミファ)を16〜18時間絶食させたSlc:SD系ラット(雄162〜172g、雌123〜130g)に2g/kg体重で単回経口投与した。対照は生理食塩液とした。症状観察は14日間、また体重測定は1、3、6、10及び14日目に行った。14日後に剖検を行った。
(結果)
ヒアルロン酸投与群において、投与当日には異常は認められなかった。しかし、投与翌日に全例で軟便がみられた。この症状は、本発明のヒアルロン酸における新規薬理効果である蠕動運動促進作用の効果を示唆する症状の発現と考えられる。実際、個体に対する有害な影響はなく、投与後2日目にはいずれの個体も消失し、以降の観察期間中、異常は認められなかった。一方、対照個体群では全期間を通じて異常は見られなかった。また、全個体は、順調な体重推移を示し、剖検においても異常は認められなかった。
以上より、ヒアルロン酸を2000mg/kgの用量でSlc:SD系ラットの雌雄に単回経口投与した時、ヒアルロン酸投与に起因する毒性は何ら認められず、無毒性量は2000mg/kgを上回るものと推察された。
<実施例10>被覆層の厚さと健常人の消化管症状との関係
(方法)
核にヒアルロン酸(分子量30kDa)を含有し、かつ被覆層を核に対して2.8〜4.2重量%で表面に形成させた剤型(前記N1/C1)又は被覆層のない剤型、すなわち核のみの裸錠(被覆層0重量%;前記N1のみ)を、胃の膨満感や便秘気味の症状のあるボランティア8名に1回1〜3個で就寝前に3日間投与させて、症状の改善状態について検証した。また、同時に各被覆層の剤型又は裸錠を6個又は18個用いて、実施例3と同様の方法により局方第1液及び第2液で処理し、第1液において崩壊した剤型数(裸錠数を含む)及びその後第2液で処理したときの崩壊時間について調べた。
(結果)
結果を表1に示す。被覆層(0重量%)の裸錠は第1液で全て崩壊した。裸錠での胃腸における症状の改善は、8名中1名のみであり、本発明で開示されたヒアルロン酸の新規薬理効果を十分に得ることができないことが明らかとなった。これは、前記マウスを用いた実施例の結果ともよく一致する。一方、本発明の消化管溶性剤型の被覆層を核表面に形成させ、その重量%を増加(厚く)していくと、第1液での崩壊剤型数の低下と対応して、胃腸における症状の顕著な改善がみられた。しかし、被覆層が4.2%になると、第1液では剤型は全く崩壊せず、また第2液でも崩壊に2時間以上を要した(あるいは、第2液においても崩壊しなかった)。この被覆層の重量%で胃腸における症状の改善した者はいなかった。第2液環境下における2時間以上の曝露は、ヒトに経口投与した場合の下部消化管環境に相当する。したがって、ヒアルロン酸を下部消化管で投与しても、その新規薬理効果を得ることはできないことが示唆された。
以上の結果から、ヒトの場合にもヒアルロン酸の新規薬理効果を得るには上部消化管でヒアルロン酸を作用させる必要があり、それには本発明の剤型が有効であることが明らかとなった。また、上部消化管で薬剤を効率よく作用させるには、前記実施例2に記載の被覆層組成にあっては、核に対する被覆層重量%で2.8〜3.7%であることが好ましいことが示唆された。
Figure 2010116388
<実施例11>上部消化管の機能改善に関する調査
(方法)
胃及び/又は腸の消化管に軽度の異常を感じているボランティア21名に、ヒアルロン酸(分子量30kDa)を含有した被覆層3.4%の剤型を服用させて、胃症状(食欲感、膨満感、蠕動感)及び腸症状(蠕動感、排便回数、排便時爽快感)を評価した。服用数及び服用期間は、4名で1錠(ヒアルロン酸10mg/錠)を一週間服用後、2〜7日間休薬した後、2錠を一週間服用させ(1−2錠群とする)、また17名には2錠を一週間服用後、同様に休薬した後、3錠を一週間服用させた(2−3錠群とする)。各症状の評価は、各ボランティアへのアンケートにより剤型服用前との比較で、不変:-(0点)、±軽度改善(1点)、+改善(1.5点)とし、一週間の平均値をスコア化した。ただし、排便回数のみは、一週間の排便回数を平均値とした。
(結果)
1−2錠群のスコア結果を図7Aに、また同群排便回数を図8Aに、2−3錠群のスコア結果を図7Bに、また同群排便回数を図8Bにそれぞれ示す。
排便時爽快感については、1−2錠群では内服前と比較して若干の改善が見られたが、2−3錠群においては改善に有意な差が見られ、ヒアルロン酸を含有する本発明の消化管溶性剤型の服用により腸症状が改善することが明らかとなった(図7:排便回数を除く)。
また。排便回数については、1−2錠群及び2−3錠群のいずれにおいても内服前と比較して有意な差が見られ、ヒアルロン酸を含有する本発明の消化管溶性剤型の服用により便通が改善することが明らかとなった(図8)。
これらの結果は、ヒアルロン酸を含有する本発明の消化管溶性剤型の服用が、ヒトにおいても消化管の蠕動運動を促進することを示唆するものであり、これはマウスを用いた前記実施例6の結果とも一致する。
<実施例12>アトピー性皮膚炎の皮膚炎症症状改善効果
(方法)
インフォームドコンセントを行い、同意を得たアトピー性皮膚炎の症状を呈する3名の患者に、薬剤としてヒアルロン酸(30kDa)を含有する本発明の消化管溶性剤型を原則として朝食前と就寝前にそれぞれ2錠(ヒアルロン酸10mg/錠)投与し、該症状の改善について検証した。投与した剤型は、3.4重量%の被覆層を有する。投与方法は、朝食前及び就寝前に2錠ずつの服用とした。湿疹、掻痒感、発赤、乾燥感等の症状観察を行い、併用薬剤があれば継続投与とした。
(結果)
(1)症例1(25歳、女性)6〜12歳でアトピー症状発現し、症状に合わせた対症療法を行ってきた。本検査時において併用薬剤はなく、服用2週後より掻痒感及び乾燥感が減少し、約2ヶ月後から手指、首、前腕の湿疹が一部消失し、効果はその後2ヶ月間持続した(図9)。
(2)症例2(38歳、男性)併用薬剤(アレロック、リドメックスローション、デルモベート軟膏)継続使用中に前記消化管溶性剤型を服用した。2週後より体全体の乾燥感が減少した。2か月後より掻痒感が軽減し、顔、背中の皮膚症状が改善した。
(3)症例3(44歳、男性)併用薬剤(ステロイド内服薬、ステロイド軟膏)を症状悪化時に使用している。前記消化管溶性剤型を服用後1ヶ月で皮膚の乾燥感が減少し、顔、首等の湿疹程度が軽減した。
以上の結果から、ヒアルロン酸を含有する本発明の消化管溶性剤型は、アトピー性皮膚炎の症状を改善する効果があることが明らかとなった。

Claims (8)

  1. 薬剤及び製薬上許容可能な担体を含有する核、並びに
    卵殻及び腸溶性ポリマーを含有し、前記核の周囲を被覆する被覆層
    を含む消化管溶性剤型。
  2. 腸溶性ポリマーがセラックである、請求項1に記載の剤型。
  3. 前記被覆層が複数の層からなる、請求項1又は2に記載の剤型。
  4. 被覆層が前記核の0.5重量%〜10重量%の範囲内にある、請求項1〜3のいずれか一項に記載の剤型。
  5. 前記薬剤がヒアルロン酸及び/又はその塩である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の剤型。
  6. ヒアルロン酸又はその塩の分子量が1〜1300kDaである、請求項5に記載の剤型。
  7. 蠕動運動を促進するためのものである、請求項5又は6に記載の剤型。
  8. アトピー性皮膚炎を治療するためのものである、請求項5又は6に記載の剤型。
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