JP2010110223A - コショウオイル、その製造方法および食品 - Google Patents

コショウオイル、その製造方法および食品 Download PDF

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Abstract

【課題】爽快なコショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いコショウオイル、およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係るコショウオイルの製造方法は、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記コショウホールを砕く第3の工程と、前記混合物からコショウオイルを分離する第4の工程と、を含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、コショウオイル、その製造方法および食品に関する。
コショウは、α−ピネン、β−ピネン、l−α−フェランドレン、β−カリオフィレン、リモネン、ピペロナール等の爽快な芳香成分と辛味成分を有する香辛料である。一般に、コショウは、ミルで挽く等して粉末状にし、種々の料理の香り付けに使用されている。コショウホールを挽くことにより、上述の芳香成分が急激に発散して香りが生じるが、挽いた後のコショウ粉末は香りの持続性が低く、経時的に香りが消失してしまうため、一般的に料理の仕上げ段階で挽き立てのコショウを加えて香り付けすることが行われている。しかしながら、食品工業的に加工食品を大量生産しようとする場合、挽き立てのコショウを加えようとすると工程が煩雑になり製造コストが増大する。そのため、予め粉末化された粉末コショウの製品が用いられているが、この粉末コショウの製品は香りが弱く、挽き立てのコショウの香りを充分に食品に付与できないという問題があった。更に、保存を目的とする容器詰め食品等に粉末コショウの製品で香り付けしても、経時的に香りが消失し喫食時には香りが弱くなってしまうという問題があった。
容器詰め食品等の香り付けに用いることができる香料としては、コショウからヘキサンまたは含水アルコール等の溶剤で芳香成分や辛味成分を抽出した後、溶剤を除去することにより得られたコショウ抽出物等が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような溶剤抽出物は、溶剤を除去する際に芳香成分や辛味成分の一部も除去されてしまい、ナチュラルな挽き立ての香りのオイルが得られず、また香りの持続性の観点からも充分でないという問題があった。
特開昭59−129296号公報
本発明の目的は、爽快なコショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いコショウオイル、およびその製造方法を提供することにある。
本発明に係るコショウオイルの製造方法は、
コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、
前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、
前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記コショウホールを砕く第3の工程と、
前記混合物からコショウオイルを分離する第4の工程と、
を含む。
本発明に係るコショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内に供給する前記混合物の温度が0℃〜60℃であることができる。
本発明に係るコショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内の温度を0℃〜100℃に保持することができる。
本発明に係るコショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内には、前記混合物を押し流すためのスクリューが設けられており、前記圧搾装置内において前記混合物を押し流すにつれて、該混合物にかかる圧力を増加することができる。
本発明に係るコショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理する時間が2分〜15分であることができる。
本発明に係るコショウオイルの製造方法において、前記圧搾装置内に設けられた固液分離フィルターの間隙が0.2mm〜2mmであることができる。
本発明に係るコショウオイルは、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離されたものである。
本発明に係る食品は、上記のコショウオイルの製造方法によって製造されたコショウオイルが配合されたものである。
上記コショウオイルの製造方法によれば、爽快なコショウ本来の挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いコショウオイルを製造することができる。
上記のコショウオイルの製造方法によって製造されたコショウオイルを、例えば種々の容器詰め食品等に配合すると、製造後喫食されるまでに時間が経過しても、従来にはない爽快なコショウ本来の挽き立ての香りを有する容器詰め食品等を提供することができる。これにより、容器詰め食品等の需要拡大が期待される。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
1.コショウオイルの製造方法
本実施形態に係るコショウオイルの製造方法は、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記コショウホールを砕く第3の工程と、前記混合物からコショウオイルを分離する第4の工程と、を含む。まず、本実施形態に係るコショウオイルの製造方法に用いる圧搾装置について説明し、それから各工程について説明する。
1.1 圧搾装置
以下に、圧搾装置の一例を説明する。図1は、本実施形態に係るコショウオイルの製造方法において使用される圧搾装置100の概略を示す図である。
まず、圧搾装置100の構成の概略を説明する。圧搾装置100は、エキスペラーとも呼ばれている。圧搾装置100は、所定の架台(図示せず)に据え付けられている圧搾ケース38と、スクリュー駆動部50と、スクリュー支持部52と、を含む。圧搾装置100は、さらに圧搾ケース38内に配置された固液分離フィルター36およびスクリュー20を含む。
スクリュー20は、固液分離フィルター36の内部に配置されており、固液分離フィルター36の内周とスクリュー20の外周との間に圧搾空間22が形成される。スクリュー20は、シャフト10およびその周囲に設けられた螺旋羽根11を有する。
シャフト10は、円柱形状を有しており、その外径は、第1の工程で得られた混合物(以下、単に「混合物」ともいう。)の送出方向(矢印24方向)に徐々に大きくなっていることが好ましい。これにより、シャフト10の外周と固液分離フィルター36の内周との間隔が矢印24方向にいくにつれて小さくなることから、混合物にかける圧力を徐々に増加させることができる。なお、シャフト10の外形は、段階的に大きくなっていてもよい。
シャフト10の側面には、螺旋羽根11が設けられている。シャフト10および螺旋羽根11は、スクリュー駆動部50のモータ(図示せず)によって回転させられる。螺旋羽根11が旋回することにより、圧搾空間22内において混合物を移動させ、圧搾処理を行うことができる。
螺旋羽根11は、シャフト10の側面に形成され、螺旋形状を有する。螺旋羽根11は、複数設けられていてもよく、そのピッチは、シャフト10の軸方向に変化していてもよい。螺旋羽根11のピッチは、例えば図1に示すように、混合物の送出方向(矢印24方向)に狭くなっていることが好ましい。これにより、送出方向に移動するにつれて混合物にかける圧力を増加させることができる。
螺旋羽根11の外周部分は、固液分離フィルター36の内周と接していてもよい。これにより、混合物を固液分離フィルター36の内壁付近に止まらせることなく、効率的に押し流すことができる。
圧搾ケース38は、固体および液体を密閉し、その形状は特に限定されないが、例えば円筒状であることができ、長手方向の両端部付近において、所定の架台に支持される。スクリュー駆動部50およびスクリュー支持部52は、双方がスクリュー20の一端および他端を支持し、一方がスクリュー20の他端を支持する。
圧搾装置100は、さらに供給口30と固液分離フィルター36との間に配置された送出部31を含む。送出部31は、例えば固液分離フィルター36と同軸の略円筒形状を有し、側端部(上部)に供給口30を接続するための貫通穴36cが設けられている。この貫通穴36cから固液分離フィルター36内部に混合物が供給される。送出部31の内部にはスクリュー20が配置されており、供給口30から供給された混合物を固液分離フィルター36方向に送出することができる。
固液分離フィルター36は、圧搾空間22内において圧搾された混合物中の液体成分であるコショウオイルのみを外側に排出し、固体成分であるコショウホールの残渣を内側に保持し、固液分離する。固液分離フィルター36の詳細については、図1〜図3を参照しながら説明する。図2は、図1の圧搾装置100におけるA−A断面を示す図である。図3は、図2における領域Bの拡大図である。
固液分離フィルター36は、例えば略円筒形状を有する。固液分離フィルター36の端面36bは、送出部31と反対側に設けられ、開口しており、この端面36bからコショウホールの残渣を排出することができる。
固液分離フィルター36の側面36dは、複数のバレルバー(略直方体部材)36aおよび複数の固定部材39によって構成される。この複数のバレルバー36aとスクリュー20とによって、圧搾空間22に収容された混合物に圧力が加えられて混合物を圧搾し、前記混合物中のコショウホールを砕くことができる。圧搾された混合物中のコショウオイルは、図3に示すように、複数のバレルバー36aの隙間から外側(矢印37方向)に送出される。この隙間は、圧搾後のコショウホールが通過できない程度の大きさである。
固液分離フィルター36の内径は、図1に示すように長手方向に変化していてもよい。固液分離フィルター36の内径は、スクリュー20の螺旋羽根11のピッチに合わせて設定される。具体的には、固液分離フィルター36は、スクリュー20のシャフト10の外周に接する程度の内径の領域を複数箇所に有する。これにより、複数の圧搾空間22が設けられることになる。この複数の圧搾空間22は、混合物の送出方向(矢印24方向)にいくにしたがって小さくなることが好ましい。これにより、送出方向にいくにつれて、圧搾空間22ごとに混合物にかける圧力を増加させることができる。
固液分離フィルター36の間隙は、0.2〜2mmであることができる。固液分離フィルター36の間隙が0.2mm未満であると、圧搾された混合物中のコショウオイルがバレルバーの隙間から外側に送出され難くなる。一方、固液分離フィルターの間隙が2mmを超えると、圧搾により砕かれたコショウホールの残渣の一部がバレルバーの隙間から外側に送出されコショウオイルに混入しやすくなる。
1.2 第1の工程
第1の工程は、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る工程である。
まず、コショウホールと植物油脂を準備する。
コショウとは、コショウ科(Piperaceae)コショウ属(Piper)に属する植物であり、例えばコショウ(Piper nigrum)が挙げられる。
本発明に使用されるコショウホールとは、上述したコショウの乾燥果実をいい、例えば未熟果を乾燥したブラックペッパーホール、完熟果の果皮を除去して乾燥したホワイトペッパーホール、緑色の未熟果を短時間乾燥して緑色が保持されたグリーンペッパーホール、赤く色付いた果実を短時間乾燥して赤紅色が保持されたピンクペッパーホール等が挙げられる。このようなコショウホールは一般的に市販されており、本発明においてもこれらの市販品を用いればよい。一般的に市販されているコショウホールの水分含量は11〜13%、脂質含量は5〜8%である。
本発明においては、後述するように前記コショウホールと特定量の植物油脂とを混合したものを圧搾処理して、前記混合物中のコショウホールを砕くことにより、挽き立てのナチュラルな香りを有し、香りの持続性が高く、香りの強いコショウオイルを得ることができる。また、コショウホールと特定量の植物油脂とを混合して圧搾処理することにより、圧搾処理工程中に処理物の温度が急上昇して高温となることを防止し、挽き立てのさわやかな芳香成分が減少することを防止できる。
コショウホールには、直径4〜6mm程度の略球形の乾燥果実の他、採取や乾燥等の処理工程等で生じた略球形の乾燥果実の破片を含んでいてもよいが、あまり粒度の小さい破片を多く含みすぎていても、後述する圧搾処理工程においてコショウホールに充分な圧力がかからずコショウホールが砕かれ難くなり、ナチュラルな香りを充分に含んだオイルが得られ難くなる傾向がある。したがって、コショウホールの粒度は、全体の好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上が10メッシュオンの粒度であることが好ましい。なお、粒度の測定に使用するふるいのメッシュ番号は、Tyler規格「JISZ8801」に対応したものであり、前記メッシュは目開き1.7mmであることを意味する。
本発明に使用される植物油脂とは、植物から得られる油脂をいう。植物油脂は、コショウホールと混合させやすくする観点から、上昇融点が0℃以下であることが好ましい。上昇融点とは、ガラスキャピラリーに植物油脂を充填後固化させ、一定温度で上昇させたときの融解温度のことをいう。上昇融点は、例えば基準分析試験法(I)(1996年版「日本油化学会」)に準じて測定できる。上昇融点が0℃以下の植物油脂としては、特に限定されないが、例えば菜種油、コーン油、サフラワー油、綿実油、大豆油、米油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ゴマ油、これらを精製したサラダ油等の植物性油脂;MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等のような化学的または酵素的処理して得られる油脂等が挙げられる。
次に、コショウホールに植物油脂を加えて混合物を得る。コショウホールに加える植物油脂の量は、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部であり、好ましくはコショウホール100部に対して植物油脂5〜25部であり、より好ましくはコショウホール100部に対して植物油脂5〜20部である。コショウホール100部に対して植物油脂の量が3部未満であると、植物油脂の量が少なすぎることにより後述する圧搾処理工程(第3の工程)において温度が急上昇することがあり、ナチュラルな挽き立ての香りを有するコショウオイルが得られない。一方、コショウホール100部に対して植物油脂の量が25部を超えると、植物油脂の量が多すぎることによりコショウホールから香り成分を植物油脂に移行させても香りの強いコショウオイルが得られ難いばかりでなく、後述する圧搾処理工程においてコショウホールに充分な圧力がかからずコショウホールが砕かれ難くなって香りをコショウオイルに移行させ難くなる。
コショウホールおよび植物油脂の混合処理は、コショウホールと植物油脂とが略均一に混合されていればよい。混合処理は、例えば撹拌装置付き混合タンク等の撹拌混合機等により行うことができる。
1.3 第2の工程
第2の工程は、第1の工程で得られた混合物を圧搾装置に供給する工程である。第2の工程では、第1の工程で得られた混合物を供給口30を介して固液分離フィルター36に流し込む(矢印32方向)。
従来の方法であれば、採油効率を高めるために、原料となる油糧種子を加熱処理(クッキング)したものを圧搾装置に供給していた。例えば、菜種油を採取する場合には、菜種を105℃〜110℃程度で加熱処理したものを圧搾装置に供給する。
一方、本実施形態に係るコショウオイルの製造方法では、上述したような加熱処理は行わない。加熱処理を行うと、ナチュラルな挽き立ての香りを有するコショウオイルが得られ難くなるからである。圧搾装置に供給する際の混合物の温度は、室内の温度があまり高くならないようにして、好ましくは0℃〜60℃、より好ましくは0℃〜40℃程度に保つ必要がある。
1.4 第3の工程および第4の工程
第3の工程は、上述した圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記コショウホールを砕く工程である。第4の工程は、前記混合物からコショウオイルを分離する工程である。第3工程および第4工程について、図1を参照しながら説明する。
シャフト10および螺旋羽根11が旋回することによって、混合物は、固液分離フィルター36内を螺旋状に回転しながら矢印24方向に押し流される。このときに、圧搾装置100は、混合物にかける圧力を増加させながら圧搾して前記混合物中のコショウホールを砕く。圧搾された混合物中のコショウオイルは、固液分離フィルター36から排出部40に集められる。そして、矢印42方向に送出させて貯留部(図示せず)にコショウオイルを回収する。
第3の工程では、圧搾装置内における混合物の滞留時間、つまり混合物を圧搾処理する時間が2〜15分となるように調整する。圧搾装置内における混合物の滞留時間は、好ましくは2〜10分である。圧搾装置内における菜種やゴマ等の滞留時間は、数十秒程度である。40%以上の脂質含量を有し、硬さが比較的やわらかい菜種やゴマ等は、数十秒程度の滞留時間で多量のオイルを搾ることができるからである。一方、わずか5〜8%程度の脂質含量しか有さず、硬さが比較的硬いコショウホールは、圧搾装置内で所定時間圧力がかかった状態で砕かれながら保持されることによって、はじめてナチュラルな挽き立ての香りを含んだコショウオイルを得ることができる。圧搾装置内における混合物の滞留時間が2分未満であると、コショウホールから香り成分を充分に植物油脂に移行させることができず、ナチュラルな挽き立ての香りを充分に含んだコショウオイルが得られない場合がある。一方、圧搾装置内における混合物の滞留時間が15分を超えると、製造効率が悪くなる。
滞留時間は、以下のようにして測定することができる。まず、圧搾処理開始時に空の圧搾装置100内に第1の工程で得られた混合物を供給口30に供給して圧搾処理し、圧搾装置100の固液分離フィルターの端面36bから残渣が押し出されるまでに圧搾装置100内に投入された前記混合物の量を測定し圧搾装置100内の容量A(kg)を求める。次に、連続稼働中に単位時間当たりに圧搾装置100内に吸い込まれる前記混合物の量を測定し、処理能力B(kg/時)とする。滞留時間(分)は、下記一般式(1)により求めることができる。
滞留時間(分)=60/(B/A) …(1)
さらに、第3の工程では、圧搾装置内において前記混合物を0℃〜100℃に保持しながら圧搾することが好ましい。圧搾装置内において前記混合物を0℃〜100℃に保持するためには、コショウホールと特定量の植物油脂とを混合して圧搾処理することに加えて、冷却しながら圧搾処理すればよい。例えば、上述した圧搾装置100を用いる場合には、シャフト10の内部において、冷却水(所定温度の液体)によって満たされていてもよい。冷却水は、流動していることが好ましい。これにより、固液分離フィルター36内の温度を一定に保つことができる。具体的には、固液分離フィルター36内の温度は、0℃〜100℃であることが好ましい。
このように、混合物の圧搾時に固液分離フィルター36内の温度を0℃〜100℃という低温に保つことによって、コショウホールに含まれている低沸点の揮発成分が揮発するのを抑制し、ナチュラルな挽き立ての香りを有し、しかも香りの持続性の高いコショウオイルを得ることができる。
以上のように、第1ないし第4の工程を踏まえることにより、コショウホールの脂質含量や圧搾処理条件にもよるが、第1の工程で加えた植物油脂100部に対して80〜150部のコショウオイルが得られる。
2.コショウオイル
本実施形態に係るコショウオイルは、コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離されたものである。
上記のコショウオイルは、コショウからヘキサンや含水アルコール等の溶剤で抽出された抽出物と異なり、コショウのナチュラルな挽き立ての香りを有しており、しかもその香りの持続性が高い点で優れている。
コショウホールをミル等で挽いたコショウ粉末は、経時的に香りが消失して香りの持続性が低いが、上記本発明に係るコショウオイルは、ナチュラルな挽き立ての香りの持続性が高い点で優れている。
3.コショウオイルが配合された食品
本実施形態に係るコショウオイルは、コショウホールのナチュラルな挽き立ての香りを有し、しかもその香りの持続性が高いことから、種々の食品に配合することにより風味が格段に増して、食品の差別化を図ることができる。
本実施形態に係るコショウオイルが配合される食品としては、例えばソース、スープ、惣菜等の調理食品;ハム、ソーセージ、シュウマイ等の畜肉加工食品;かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の水産加工食品;中華麺、うどん、蕎麦等の麺類;タマゴサラダ、スクランブルエッグ、オムレツ等の卵加工食品;マヨネーズ、タルタルソース等の酸性水中油型乳化食品(pH3〜4.5);アイスクリーム、ソフトクリーム等の冷菓;ケーキ、クッキー等の洋菓子;煎餅、あられ等の米菓;スナック菓子、パン等が挙げられる。
さらに、上記のようなコショウオイルが配合された食品を容器に詰めて容器詰め製品とすることもできる。チルド流通、常温流通、あるいは冷凍流通される容器詰め製品は、従来のヘキサン抽出品を配合した場合にはナチュラルな挽き立ての香りを付与できないという問題があったが、本実施形態に係るコショウオイルを配合すると流通後に喫食する際にナチュラルな挽き立ての香りを充分に有する容器詰め製品が得られるため好ましい。特に、チルド流通品(0℃〜15℃)や冷凍流通品(−30℃〜0℃)であって喫食時に50℃〜100℃に温めて調理する容器詰め製品は、従来の粉末品やヘキサン抽出品を配合すると調理時に香りが消失しやすいという問題があったが、本実施形態に係るコショウオイルを配合すると調理後であってもナチュラルな挽き立ての香りを充分に有する容器詰め製品が得られるため好ましい。
本実施形態に係るコショウオイルの上記食品への配合量は、食品の種類によって適宜選択すべきであるが、好ましくは0.0001〜5%、より好ましくは0.005〜3%である。コショウオイルの配合量が上記下限値よりも少ないと、ナチュラルな挽き立ての香りを充分に有しない場合がある。一方、コショウオイルの配合量が上記上限値よりも多くしたとしても、配合量に応じた効果が期待し難く経済的でない。
4.実施例
次に、本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
4.1 コショウオイルの製造
4.1.1 実施例1
以下の工程により、実施例1に係るコショウオイルを製造した。
まず、コショウホール(ブラックペッパー、脂質含量6%、水分含量6%)100部、菜種油5部を撹拌混合機に投入し撹拌混合した。
次に、この混合物(品温20℃)を圧搾装置(固液分離フィルターの間隙が0.5〜1mm)に供給して圧搾処理し、搾り出たオイルをさらに20メッシュのフィルターで濾過することによりコショウオイルを3部得た。得られたコショウオイルは、ガラス瓶に入れ密封した。圧搾装置および圧搾処理条件は、以下の通りである。
圧搾装置:エキスペラー
圧搾装置の容量:2kg
処理量:20kg/時
滞留時間:6分
圧搾処理中の圧搾装置内の温度:70〜80℃
4.1.2 比較例1
比較例1に係るコショウオイルとして、コショウの水蒸気蒸留品を準備した。
4.1.3 比較例2
比較例2に係るコショウオイルとして、コショウのオレオレジン製剤を準備した。
4.2 試験例1
実施例1で得られたコショウオイルおよび比較対照品として挽き立てのコショウ粉末(実施例1で用いたコショウホールをミルで挽いた後、10メッシュのふるいに通したもの)について、下記の評価方法でコショウの香りの好ましさと香りの持続性を評価した。
実施例1で得られたコショウオイルを菜種油で10倍量に希釈したもの、および比較対照品である挽き立てのコショウ粉末を風味皿に載せ、20℃の室内で5時間保存した。これらの保存前後におけるコショウの香りの好ましさおよび香りの強さを下記の評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
コショウの香りの好ましさについては、以下の4段階で評価した。
A:挽き立てのコショウの香りと同等のさわやかな香りであり好ましい。
B:挽き立てのコショウの香りとほぼ同等のさわやかな香りであり好ましい。
C:挽き立てのコショウの香りとやや異なる香りである。
D:挽き立てのコショウの香りと全く異なる香りである。
コショウの香りの強さについては、1〜5の5段階で評価した。ここで、前記5段階評価に関し、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのコショウとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどコショウの香りがしないことを示す。
Figure 2010110223
表1によれば、実施例1に係るコショウオイルは、挽き立てのコショウと同様に挽き立てのコショウの大変好ましい香りを有していることが確認された。さらに、挽き立てのコショウは保管後の香りが弱くなっていたのに対し、実施例1に係るコショウオイルは香りが維持され香りの持続性が高いことが確認された。
4.3 試験例2
実施例1に係るコショウオイルおよび比較対照品として挽き立てのコショウ粉末(実施例1で用いたコショウホールをミルで挽いた後、10メッシュのふるいに通したもの)をそれぞれ配合した2種類の煎餅を以下のように製造して、コショウの香りの好ましさと香りの持続性について評価した。
常法により乾燥モチに醤油を塗布して焼成した1枚20gの煎餅を用意した。この煎餅の表面に、コショウオイル1部と菜種油9部との混合物、またはコショウ粉末をそれぞれ表面に1gずつ塗布して煎餅を得た。続いて、得られた煎餅を樹脂製パウチに容器詰めした。この容器詰めした煎餅を20℃で3日間保管した。保存前の煎餅および保存後の煎餅について、コショウの香りの好ましさおよび香りの強さを下記の評価基準により評価した。その結果を表2に示す。
コショウの香りの好ましさについては、試験例1と同様に4段階で評価した。コショウの香りの強さについては、1〜5の5段階で評価した。ここで、前記5段階評価に関し、数字の大きさが大きいほど、香りが強いことを示す。3は、製品として問題ない程度の香りを有していることを示す。
Figure 2010110223
表2によれば、実施例1に係るコショウオイルを用いた煎餅は、挽き立てのコショウを用いた比較対照品の香りと同様に挽き立てのコショウの大変好ましい香りを有していることが確認された。さらに、挽き立てのコショウを用いた比較対照品は保管後の香りが弱くなっていたのに対し、実施例1に係るコショウオイルが配合された煎餅は香りが維持され香りの持続性が高いことが確認された。
4.4 試験例3
以下の工程により、実施例1に係るコショウオイルを配合した中華ソースを製造した。
撹拌装置付きのニーダーに菜種油5部、ニンニク5部を投入して加熱しながら撹拌した。その後、さらに豆板醤10部、醤油2部、澱粉2部、コショウオイル(実施例1で製造したもの)0.5部、清水75部をニーダーに加えて加熱しながら撹拌することにより中華ソースを得た。続いて、得られた中華ソースを樹脂製パウチに容器詰めした。この容器詰め中華ソースを冷凍して冷凍中華ソースを製造し、冷凍保管前後における香りの強さを比較することにより香りの持続性を評価した。
すなわち、まず、得られた容器詰め中華ソースを−40℃にて急速凍結して容器詰め冷凍中華ソースを得た。この容器詰め中華ソースを−20℃で1ヶ月間保管した後、パウチごと流水(20℃)中に浸漬して解凍した。
冷凍保存前の中華ソースおよび保存後の中華ソースについて、コショウの香りの好ましさおよび香りの強さを試験例2と同様の方法により評価した。その結果を表3に示す。
Figure 2010110223
表3によれば、実施例1に係るコショウオイルが配合された中華ソースは、冷凍前および冷凍保存後のいずれにおいても挽き立てのコショウの香りと大変似た好ましい香りを有しており、冷凍保存後においてもその香りの強さをほぼ保持できることが確認された。
4.5 試験例4
「4.4 試験例3」で得られた凍結前の容器詰め中華ソースを加熱して温め、加熱前後における香りの強さを比較することにより香りの持続性を評価した。
すなわち、まず、得られた容器詰め中華ソースを10℃の冷蔵庫で3日間保管した。この保管後の容器詰め中華ソースを開封して鍋に入れ、品温90℃まで加熱した。この加熱後の中華ソースを冷蔵庫で品温10℃まで冷却した。
加熱前の中華ソースおよび加熱後の中華ソースについて、コショウの香りの好ましさおよび香りの強さを試験例2と同様の方法により評価した。その結果を表4に示す。
Figure 2010110223
表4によれば、実施例1に係るコショウオイルが配合された中華ソースは、加熱前および加熱後のいずれにおいても挽き立てのコショウの香りと大変似た好ましい香りを有しており、加熱後においてもその香りの強さをほぼ保持できることが確認された。
4.6 試験例5
実施例1に係るコショウオイル、比較例1に係るコショウオイル、比較例2に係るコショウオイルをそれぞれ配合した3種類の中華ソースを「4.4 試験例3」と同様にして製造した。得られた3種類の各中華ソースについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法によりコショウオイルの香りの好ましさを評価した。その結果を表5に示す。
Figure 2010110223
表5によれば、実施例1に係るコショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのコショウの香りと大変似た好ましい香りを有している。これに対し、比較例1に係るコショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのコショウの香りとは全く異なる香りであった。比較例2に係るコショウオイルが配合された中華ソースは、挽き立てのコショウの香りとはやや異なる香りであった。
4.7 試験例6
コショウホールに加える植物油脂の量がコショウオイルの香りに与える影響を調べるために以下の実験を行った。
コショウホールに加える菜種油の量を、コショウホール100部に対して、1部、3部、5部、10部、20部、25部、30部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして7種類のコショウオイルを製造した。得られた7種類の各コショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、コショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
また、原料から充分に香りが搾り出されたどうかを評価するため、各コショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのコショウオイルとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどコショウの香りがしないことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、コショウホールから充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表6に示す。
Figure 2010110223
表6によれば、コショウホール100部に対して植物油脂を3〜25部加えた場合には、挽き立てのコショウの香りと似た好ましい香りを有するコショウオイルが得られ、その香りが強く感じられた。
コショウホール100部に対して植物油脂を1部加えた場合には、挽き立てのコショウの香りとはやや異なる香りを有するコショウオイルが得られた。
コショウホール100部に対して植物油脂を30部加えた場合には、挽き立てのコショウの香りと大変似た好ましい香りを有するコショウオイルが得られるが、その香りはあまり強いものではなく、残渣に香り成分が比較的多く残っていることが確認された。
4.8 試験例7
圧搾処理時の滞留時間がコショウオイルの香りに与える影響を調べるために、以下の試験を行った。
スクリューの1分間当たりの回転速度を変えて滞留時間を0.5分、2分、6分、8分、10分、15分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして6種類のコショウオイルを製造した。得られた6種類のコショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、コショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
また、原料から充分に香りが搾り出されたかどうかを評価するため、各コショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。5は、挽き立てのコショウオイルとほぼ同等の強さの香りを有していることを示す。1は、ほとんどコショウの香りがしないことを示す。コショウオイルの香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、コショウホールから充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表7に示す。
Figure 2010110223
表7によれば、滞留時間を2分〜15分とした場合には、挽き立てのコショウの香りと似た好ましい香りを有するコショウオイルが得られ、その香りが強く感じられた。
4.9 試験例8
圧搾装置に供給するコショウホールおよび植物油脂の混合物の温度がコショウオイルの香りに与える影響を調べるために以下の実験を行った。
圧搾装置に供給するコショウホールおよび植物油脂の混合物の温度を、5℃、30℃、50℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして4種類のコショウオイルを製造した。得られた4種類の各コショウオイルについて菜種油で10倍量に希釈した後、コショウの香りの好ましさについて、「4.2 試験例1」と同様の評価方法により評価した。
また、原料から充分に香りが搾り出されたどうかを評価するため、各コショウオイルおよび残渣の香りの強さを1〜5の5段階で評価した。コショウオイルの香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど香りが強いことを示す。残渣の香りの強さでは、数字の大きさが大きいほど残渣に香りが残っており、コショウホールから充分に香りが搾り出されていないことを示す。その結果を表8に示す。
Figure 2010110223
表8によれば、圧搾装置に供給するコショウホールおよび植物油脂の混合物の温度を5℃または30℃とした場合には、挽き立てのコショウの香りと大変似た好ましい香りを有するコショウオイルが得られ、その香りが強く感じられた。
圧搾装置に供給するコショウホールおよび植物油脂の混合物の温度を50℃とした場合には、挽き立てのコショウの香りとほぼ同等の好ましい香りを有するコショウオイルが得られ、その香りが大変強く感じられた。
本実施形態に係るコショウオイルの製造方法において使用される圧搾装置100の概略を示す図である。 図1のA−A断面を示す図である。 図2の領域Bの拡大図である。
符号の説明
10…シャフト、11…螺旋羽根、20…スクリュー、22…圧搾空間、30…供給口、31…送出部、36…固液分離フィルター、36a…バレルバー、38…圧搾ケース、39…固定部材、40…排出部、50…スクリュー駆動部、52…スクリュー支持部、100…圧搾装置

Claims (8)

  1. コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物を得る第1の工程と、
    前記混合物を圧搾装置内に供給する第2の工程と、
    前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理して、前記コショウホールを砕く第3の工程と、
    前記混合物からコショウオイルを分離する第4の工程と、
    を含む、コショウオイルの製造方法。
  2. 請求項1において、
    前記圧搾装置内に供給する前記混合物の温度が0℃〜60℃である、コショウオイルの製造方法。
  3. 請求項1または請求項2において、
    前記圧搾装置内の温度を0℃〜100℃に保持する、コショウオイルの製造方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
    前記圧搾装置内には、前記混合物を押し流すためのスクリューが設けられており、
    前記圧搾装置内において前記混合物を押し流すにつれて、該混合物にかかる圧力を増加する、コショウオイルの製造方法。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
    前記圧搾装置内において前記混合物を圧搾処理する時間が2分〜15分である、コショウオイルの製造方法。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
    前記圧搾装置内に設けられた固液分離フィルターの間隙が0.2mm〜2mmである、コショウオイルの製造方法。
  7. コショウホール100部に対して植物油脂3〜25部を加えて混合物とし、前記混合物を圧搾装置に供給して圧搾処理することにより前記混合物から分離された、コショウオイル。
  8. 請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のコショウオイルの製造方法によって製造されたコショウオイルが配合された、食品。
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