JP2010106088A - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents

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伸一郎 落合
Sadayuki Kobayashi
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Abstract

【課題】
ポリカーボネート樹脂が本来有する、優れた透明性、耐衝撃性を損なうことなく、成形性や耐薬品性に優れ、特にアルコールやサラダ油に対する耐薬品性が著しく優れた熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体(c)を0.01〜3重量部を配合した熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造を形成することが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂およびα,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体を配合してなる熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、優れた成形性、耐薬品性、透明性、耐衝撃性を活かして、各種成形品として有用に使用されるものである。
ポリカーボネート樹脂は、透明性および耐衝撃性に優れていることから、電気電子部品関連用途、情報産業関連用途、食品関連用途、光学部門関連用途、包装材用途、農業関連用途、包装材用途、建材部門用途などの広い用途で使用されている。
しかし、ポリカーボネート樹脂は成形性、耐薬品性に劣るという問題を有しているので、その使用が制限されているのが現状である。
そこで、ポリカーボネート樹脂の成形性や耐薬品性を改良する目的で、ポリブチレンテレフタレート樹脂などとの熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
特許文献1にはポリカーボネート樹脂と、ポリエステル樹脂およびスチレン系重合体を含む樹脂組成物により、透明性の高い易引裂き性フィルムが得られるとの記載がある。しかしながら、該公報にはスチレン系重合体を樹脂組成物全体に対し5〜50重量%程度含んでおり、本発明者らの検討によれば、スチレン系重合体を5重量%以上含むと、耐薬品性、耐衝撃性が低下し、さらには成形品の厚みが1mm以上である場合に、透明性が低下する問題があった。
特許文献2には少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる透明成形品の表面での構造が、構造周期0.001以上0.4μm未満の両相連続構造、または粒子間距離0.001以上0.4μm未満の分散構造を有すことで、成形性、耐薬品性に優れ、更に、熱処理後も安定した透明性を有する透明成形品を得られるとの記載がある。しかしながら、該公報中では優れた透明性を得るため、スクリュー回転数を300rpmと高速回転させており、溶融混練中に一部の樹脂が剪断発熱により分解することで、低分子量体が生成し、アルコールやサラダ油に対する耐薬品性が十分ではなかった。
特許文献3には芳香族ポリエステル樹脂および芳香族ポリカーボネート樹脂、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する滑剤を含んでなる樹脂組成物が示されている。しかしながら、該公報中には透明性に関する記載は一切無く、さらに本発明者らの検討によれば、該公報中に記載の滑剤では透明性は向上されなかった。
特開平09−52966号公報(第2頁、第5頁、) 特開2005−336408号公報(第1頁、第2頁、第11頁、第13頁) 特開2002−105295号公報(第2頁、第8頁)
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する、優れた透明性、耐衝撃性を損なうことなく、成形性や耐薬品性に優れ、特にアルコールやサラダ油に対する耐薬品性が著しく優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することをその課題とするものである。
本発明者らは、優れた耐衝撃性、耐薬品性、成形性、透明性を有する材料を提供すべく鋭意検討した結果、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体(c)を0.01〜3重量部を配合することで、ポリカーボネート樹脂が本来有する、透明性、耐衝撃性を損なうことなく、成形性、耐薬品性を改良することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、
(1)(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体(c)を0.01〜3重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物、
(2)前記α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体がα,β−不飽和カルボン酸無水物である前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(3)前記α,β−不飽和カルボン酸無水物が無水マレイン酸である前記(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(4)前記その他の1種以上のビニル系単量体がアクリルビニル系単量体、および芳香族ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造を形成していることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、
(7)成形品が射出成形品、フィルムまたはシートである前記(6)に記載の成形品である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の本来有する、透明性、耐衝撃性を損なうことなく、耐薬品性、成形性に優れた成形品を得ることができるため、これらの特性を活かした各種成形品として有用に用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形し、得られた厚み1mm、縦幅50mm、横幅12mmの試験片の縦幅の片側10mm部分までを固定し、逆側10mm部分に12mmの板を挟んだ状態で、24時間、アルコールまたはサラダ油に浸漬し、浸漬後、試験片を縦方向に180℃折り曲げても、成形品に割れが発生しない成形品を得ることができ、耐薬品性が必要な用途に好適に使用することができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いる(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし重縮合反応によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲において共重合成分を含んでも良く、共重合成分の共重合量は全単量体に対して20モル%以下であることが好ましい。
これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合して用いても良い。
またこれら重合体および共重合体は、成形性、機械的特性の観点からo−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60、特に0.52〜1.25の範囲にあるものが好適であり、さらには0.6〜1.0の範囲にあるものが最も好ましい。
本発明で用いる(b)ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA、つまり2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた1種以上のジヒドロキシ化合物を主原料とするものが好ましく挙げられる。なかでもビスフェノールA、つまり2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主原料として製造されたものが好ましい。具体的には、上記ビスフェノールAなどをジヒドロキシ成分として用い、エステル交換法あるいはホスゲン法により得られたポリカーボネートが好ましい。さらに、上記ビスフェノールAは、これと共重合可能なその他のジヒドロキシ化合物、例えば4,4’−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどと併用することも可能であり、その他のジヒドロキシ化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物の総量に対し、10モル%以下であることが好ましい。
また上記ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性と成形性の観点から、ポリカーボネート樹脂0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定したときの比粘度が0.1〜2.0、特に0.5〜1.5の範囲にあるものが好適であり、さらには0.8〜1.5の範囲にあるものが最も好ましい。
また、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)は、99/1〜20/80の範囲であり、耐薬品性、透明性、成形性の点から、80/20〜20/80であることが好ましく、より好ましくは70/30〜20/80である。
本発明で用いる(c)ビニル系重合体は、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体である。
(c)ビニル系重合体を構成するα,β−不飽和カルボン酸無水物 およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体には特に制限はなく、α,β−不飽和カルボン酸無水物 としては、例えば、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、メチル無水マレイン酸、メチル無水フマル酸、無水メサコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物 、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物 、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物 などを挙げることができる。また、α,β−不飽和カルボン酸無水物 の誘導体としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、クロトン酸モノメチル、クロトン酸モノエチル、メチルマレイン酸モノメチル、メチルフマル酸モノメチル、メサコン酸モノメチル、シトラコン酸モノメチル、グルタコン酸モノメチル、テトラヒドロフタル酸モノメチル、およびこれら誘導体の金属塩などを挙げることができる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。α,β−不飽和カルボン酸無水物 およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体としては、α,β−不飽和カルボン酸無水物 がより好ましく、中でも無水マレイン酸が特に好ましい。
(c)ビニル系重合体を構成するその他の1種以上のビニル系単量体としては、アクリルビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、カルボン酸ビニルエステル系単量体などを挙げることができ、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性の観点から、芳香族ビニル系単量体、アクリルビニル系単量体が好ましく用いられる。
アクリルビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル、アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなどのアミノ基を有するアクリル系ビニル単位を形成する原料モノマーなどが挙げられ、中でも、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、さらにアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましく、より好ましくはメタクリル酸メチルである。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン,o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、1−ビニルナフタレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンなどが挙げられ、中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましく、より好ましくはスチレンである。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
カルボン酸ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、酢酸1−ブテニル、ピバル酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニルおよびシクロヘキサンカルボン酸ビニルなどの単官能脂肪族カルボン酸ビニル、安息香酸ビニルおよび桂皮酸ビニルなどの芳香族カルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニルおよびソルビン酸ビニルなどの多官能カルボン酸ビニルなどが挙げられ、中でも、酢酸ビニルが好ましい。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
本発明における(c)ビニル系重合体の重量平均分子量は特に制限はないが、例えば、(c)ビニル系重合体5mgを溶媒テトラヒドロフラン10mlに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:Shodex KF−806L及びKF−804Lを直結,昭和電工社製)を用いて測定することができる。なお、カラム温度30℃であり、検出器は紫外線検出器を用い、重量平均分子量はポリスチレン換算である。この場合の(c)ビニル系重合体の重量平均分子量は好ましくは10000〜1000000の範囲であり、より好ましくは12000〜500000の範囲であり、さらに好ましくは12000〜400000の範囲である。
(c)ビニル系重合体を構成する単量体単位の量は、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体単位の含有量は0.05〜60重量%、好ましくは0.1〜50重量%であり、より好ましくは0.5〜40重量%、さらに好ましくは1.5〜35重量%、特に好ましくは3〜30重量%である。(c)ビニル系重合体に含有されるその他の1種以上のビニル系単量体単位の含有量は40〜99.95重量%、好ましくは50〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜99.5重量%、さらに好ましくは65〜98.5重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。
なお、(c)ビニル系重合体にα,β−不飽和カルボン酸無水物の誘導体単位を共重合する場合、この誘導体単位はα,β−不飽和カルボン酸無水物の誘導体の重合により導入されるほか、α,β−不飽和カルボン酸無水物がいったん共重合した後、その後の共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸無水物が加水分解等の反応により変換された、マレイン酸モノメチルやマレイン酸などに代表されるα,β−不飽和カルボン酸無水物の誘導体であってもよい。ここで、α,β−不飽和カルボン酸無水物単位およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体単位が0.05重量%未満の場合には、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂との反応性、あるいは反応性および親和性が乏しくなるため、耐衝撃性が低下する傾向にある。60重量%を超えると最終組成物の成形加工性が低下するため好ましくない。
(c)ビニル系重合体を得る方法については特に制限はないが、付加重合、中でもラジカル重合が好ましく用いられ、この場合の重合方法については、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合、または塊状懸濁重合などの重合法の組み合わせを用いることができ、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合または沈殿重合をより好ましく用いることができる。また、回分式、連続式のいずれも好ましく用いることができる。
また、重合時の各単量体の仕込み方法に関しては、特に制限はなく、初期に一括添加してもよく、またビニル系重合体の組成分布の生成を防止するために仕込み単量体の一部または全部を連続仕込みまたは分割仕込みしながら重合してもよいが、得られる熱可塑性樹脂組成物の表面外観の観点から、仕込み単量体の一部または全部を連続仕込みまたは分割仕込みしながら重合する方がより好ましい。また、配合する(c)ビニル系重合体としては、別々に重合した(c)ビニル系重合体の2種以上をブレンドして用いることも可能である。
また、(c)ビニル系重合体の配合量は、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の範囲であり、好ましくは0.05〜2.5重量部の範囲、より好ましくは0.1〜2.5重量部の範囲、さらに好ましくは0.5〜2.5重量部の範囲である。(c)ビニル系重合体が0.01重量部未満では、相溶化剤としての添加効果に乏しく、得られる組成物の透明性に劣る傾向にあり、3重量部を超えると耐薬品性、耐衝撃性が低下する傾向にある。さらに、3重量部を越えると1mm以上の厚みがある成形品において透明性が低下する傾向にある。
本発明では、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、(c)ビニル系重合体を0.01〜3重量部を配合することで、溶融混練中のスクリュー回転数が50〜250rpmの低剪断速度時にも、熱可塑性樹脂組成物が構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有するものとすることができ、透明性、耐薬品性を向上できる。
かかる構造周期をもつ樹脂組成物を得るためには、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂、およびビニル系重合体が、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることが好ましい。
一般に、2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物には、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
さらに3成分以上からなる熱可塑性樹脂組成物の場合は、3成分以上のいずれもが相溶である系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶な相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が半相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる半相溶系に分配される系などがある。本発明で好ましいポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ビニル系重合体を含む3成分以上からなる熱可塑性樹脂組成物の場合、ビニル系重合体が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合熱可塑性樹脂組成物の構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物で代表して説明する。
上記非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発することが可能であり、それには、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の剪断下で一旦相溶化し、その後非剪断下とすることにより相分解するいわゆる剪断場依存型スピノーダル分解により相分離する。この剪断場依存型スピノーダル分解様式の基本部分については、上述の一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解と同様であることから、以下一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解について説明した後、本発明に特徴的な部分を付記する形で説明する。
一般にスピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図において、スピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指す。一方、核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶な場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂ 2 ΔGmix/∂φ 2 )が0となる曲線のことである。スピノーダル曲線の内側では、∂ 2 ΔGmix/∂φ 2 <0の不安定状態であり、スピノーダル曲線の外側では∂ 2 ΔGmix/∂φ 2 >0である。
またバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶な領域と非相溶な領域の境界の曲線のことである。
ここで相溶状態とは、分子レベルで均一に混合している状態のことである。具体的には異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成していない場合を指す。また、非相溶状態とは、相溶状態でない場合のことである。すなわち異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成している状態のことを指す。ここで、0.001μm以上の構造物とは、例えば、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造や粒子間距離0.001〜1μmの分散構造などのことである。相溶か否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,MunichViema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶化した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速に変化させた場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts] −1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
ここで両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
上記剪断場依存型スピノーダル分解では、剪断を賦与することにより相溶領域が拡大する。つまりはスピノーダル曲線が剪断を賦与することにより大きく変化するため、スピノーダル曲線が変化しない上記一般的なスピノーダル分解に比べて、同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなる。その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の構造周期を小さくすることが容易となる。
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行する。本発明においては、本発明で規定する範囲内の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には本発明で規定する範囲内の所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
ここで分散構造とは、片方の相が連続相であるマトリックスの中に、もう片方の相である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち、最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。さらには熱可塑性樹脂組成物が相溶状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、その熱可塑性樹脂組成物中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。
またスピノーダル分解による構造を固定化する方法としては、急冷等により、相分離相の一方または両方の相の構造を固定する方法や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用する方法、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用する方法が挙げられる。中でも結晶性樹脂を用いた場合、結晶化による構造固定が好ましく用いられる。
一方、核生成と成長により相分離する系では、その初期から海島構造である分散構造が
形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001μm〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造を形成させることは困難である。
かかる両相連続構造、もしくは分散構造が得られていることを確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。そのためには、例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることを確認する。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造が存在することの証明であり、その周期Λm は、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θm を用いて次式
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
により計算することができる。
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。本発明の(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
かかる熱可塑性樹脂組成物の具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
また、上記熱可塑性樹脂組成物に、さらに熱可塑性樹脂組成物を構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどの第3成分の樹脂を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましい。この場合、通常、かかるコポリマーなどの第3成分の樹脂は、それを除く2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物の各相に分配されるため、2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物同様に取り扱うことができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を本発明の目的を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリ乳酸、ポリスチレン等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の添加量は、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂の合計量100重量部に対し3重量部以下であることが好ましい。添加量が3重量部を越えると耐薬品性、透明性、耐衝撃性が低下する場合が多く、好ましくない。
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を配合する際に同時に添加する方法や、予め(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を溶融混練した後に添加する方法や、始めに(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体のうち、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂または(b)ポリカーボネート樹脂に添加し、溶融混練後、残りを配合する方法等が挙げられる。
なお、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに各種の添加剤を含有させることもできる。これらの添加剤としては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、ケイ砂、ワラステナイト、ガラスビーズなどの強化材、非板状充填材、あるいは酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、エステル交換反応抑制剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を配合する際に同時に添加する方法や、予め(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体を溶融混練した後に添加する方法や、始めに(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂および(c)ビニル系重合体のうち、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂または(b)ポリカーボネート樹脂に添加し、溶融混練後、残りを配合する方法等が挙げられる。
本発明における好ましい成形方法としては、任意の方法が可能であり、好ましくは射出成形法、フィルム成形法、シート成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法等により、特に好ましくは射出成形法、フィルム成形法、シート成形法により、射出成形品、フィルム、シート等にすることができる。また、フィルムまたはシートの積層や、波板状の加工や、表面コートなどの後加工を施すことにより得られる成形品であることも好ましい。
射出成形法での好ましい方法は、高剪断を付与することのできる2軸押出機内で、上記熱可塑性樹脂組成物の項において説明した製造方法と同様に十分な程度の剪断応力下で一旦相溶化させ、それを押出機から吐出後直ぐに冷却することによって、2成分の樹脂が相溶状態で構造が固定されたペレットか、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.1μm以下の両相連続構造のペレットを製造した後、このペレットを射出成形し、その射出成形の過程においてスピノーダル分解をさらに進行させ、成形品の表面で構造周期が0.001μm〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造となったところで構造を固定して射出成形品を製造する方法である。本方法の場合、構造周期、または粒子間距離が0.5μm未満となり、耐薬品性、透明性に優れた成形品となる。
フィルム成形法、またはシート成形法の好ましい成形法は、上記熱可塑性樹脂組成物の項において説明した製造方法と同様に十分な程度の剪断応力下で一旦相溶化させ、それを押出機から吐出後直ぐに冷却することによって、2成分の樹脂が相溶状態で構造が固定されたペレットか、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.1μm以下の両相連続構造のペレットを製造した後、このペレットを用いて押出成形し、その押出成形の過程においてスピノーダル分解をさらに進行させ、Tダイから吐出し、吐出後冷却して構造を固定することによりフィルム、またはシートの表面で構造周期が0.001μm〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの範囲の分散構造を有するフィルム、またはシートを形成させる方法である。本方法で得られた成形品は、耐薬品性、透明性の高いものとなる。より具体的には、吐出後にキャストドラムで冷却固化して構造を固定化する方法や、吐出後2つのロール間で成形するポリッシング法や、カレンダーリング法等があるが、ここでは特に限定されるものではない。またキャストドラムにキャストする際、溶融樹脂をキャストドラムに密着させるには、静電印加を与える方法、エアーナイフを用いる方法、キャストドラムに対向する押さえのドラムを用いる方法等を用いることもできる。またキャストドラムにキャストする場合は、キャストドラムを吐出口直下に設置し、急冷することでポリブチレンテレフタレート樹脂が微結晶化するためより好ましい。
また得られたフィルムまたはシートを延伸することも可能である。延伸する方法は、特に制限はなく、逐次2軸延伸、同時2軸延伸のいずれでも構わない。また延伸倍率は2〜8倍の間、延伸速度は500〜5000%/分の間が多く用いられる。さらに延伸時の熱処理温度は、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上、すなわちポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス転移温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。熱可塑性樹脂組成物が相溶状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のガラス転移温度間にある場合には、熱可塑性樹脂組成物中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。また該熱処理温度をポリブチレンテレフタレート樹脂の昇温結晶化温度以下とすることは、結晶性樹脂の結晶化による延伸の阻害を受けにくくする観点から好ましい。このようにして得られる延伸フィルムは、さらに熱処理することにより、延伸時での残留歪みを緩和させ、その構造を安定化させて用いることが好ましい。この安定化のための熱処理温度は、通常熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられるが、相分離が進行しつつある状態で熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のガラス転移温度間にある場合、その熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。またこの延伸フィルムは、延伸により、構造周期または粒子間距離を増大させることができる。かかる延伸フィルム中で熱可塑性樹脂組成物が構造周期0.001μm〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造を有することが優れた透明性を得られることから好ましい。
本発明の透明成形品は、耐衝撃性、透明性、成形性、耐薬品性に優れることから、筆記具用途、機械関連のカバー用途、食品関連用途、包装材用途、医療品関連用途、農業関連用途、建材部門用途、電気電子部品関連用途、情報産業関連用途、光学部門関連用途として好適に用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
[実施例1〜6][比較例1〜5]
表1記載の組成からなる原料を、シリンダー温度を270℃に設定し、ニーディングゾーンを2つ設けたスクリューアレンジとし、スクリュー回転数150rpmとした2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(尚ここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給し、ダイから吐出後のガットを10℃に温調した水を満たした冷却バス中を15秒間かけて通過させることで急冷し構造を固定した後ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
該ペレットを、ホッパ下から先端に向かって、250℃−255℃−260℃−260℃に設定した住友重機械工業(株)製射出成形機(SG−75H−MIV)で、金型温度30℃とし、保圧10秒、冷却時間15秒の成形サイクルで80mm四方の厚さ3mmの角板(フィルムゲート)および厚み1mm、縦幅50mm、横幅12mmの短冊を成形した。得られた成形品について以下の通り評価し、その結果を表1に記載した。
光線透過率:得られた80mm四方の厚さ1mmの角板(フィルムゲート)を用い、(株)島津製作所 分光光度計MPC3100により、波長400nmの光線透過率を測定した。
耐薬品性(エタノール):厚み1mm、縦幅50mm、横幅12mmの短冊を用い、縦幅の片側10mm部分までを固定し、逆側10mm部分に12mmの板を挟んだ状態で、エタノールに24時間浸漬後、短冊を縦方向に180℃折り曲げ、割れ、クレーズのないものを○、割れ、クレーズが生じたものを×として評価した。
耐薬品性(サラダ油):厚み1mm、縦幅50mm、横幅12mmの短冊を用い、縦幅の片側10mm部分までを固定し、逆側10mm部分に12mmの板を挟んだ状態で、サラダ油に24時間浸漬後、短冊を縦方向に180℃折り曲げ、割れ、クレーズのないものを○、割れ、クレーズが生じたものを×として評価した。
また、上記80mm四方の厚さ1mmの角板(フィルムゲート)の表面を、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察した。実施例1〜6は、透過型電子顕微鏡写真では黒色に染色されたポリカーボネート相と、白色のポリブチレンテレフタレート相が、互いに連続相を形成している両相連続構造、および粒子間距離の均一な分散構造が観察された。
また、上記の両相連続構造、および分散構造の構造周期を小角X線散乱で測定した。小角X線散乱においてピーク位置(θm)から下式で構造周期(Λm)を計算した結果を表1に記載した。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)。
比較例1〜5は、透過型電子顕微鏡写真ではポリカーボネート樹脂からなる平均分散粒径が1.0μm超の分散粒子がポリブチレンテレフタレート樹脂中に分散した相構造を有するものであった。
[比較例6]
表1記載の組成からなる原料を用い、スクリュー回転数を300rpmとする以外は実施例1〜6、比較例1〜5と同様にして溶融混練およびペレタイズを行い、ペレットを得た。このサンプルについても実施例1〜6、比較例1〜5と同様に成形品を作製し、実施例1〜6、比較例1〜5と同様に評価した結果を表1に記載した。
また、上記80mm四方の厚さ1mmの角板(フィルムゲート)の表面を、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出し、実施例1と同様に、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察した。透過型電子顕微鏡写真では黒色に染色されたポリカーボネート相と、白色のポリブチレンテレフタレート相が、互いに連続相を形成している両相連続構造、および粒子間距離の均一な分散構造が観察された。
また、上記の両相連続構造、および分散構造の構造周期を小角X線散乱で測定した。小角X線散乱においてピーク位置(θm)から下式で構造周期(Λm)を計算した結果を表1に記載した。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)。
Figure 2010106088
以上の結果から、(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体(c)を0.01〜3重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、スクリュー回転数を低くし、低剪断応力状態においても特定構造周期の両相連続構造物を形成することで、優れた透明性、耐薬品性を有することがわかる。
PBT−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂((東レ(株)製、“トレコン”1100S、固有粘度[η]0.85dl/g(o−クロロフェノール溶液を25℃で測定))
PC−1:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、“ユーピロン”E2000、ガラス転移温度151℃、0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定した時の比粘度1.18)
MAH−PS:無水マレイン酸変性ポリスチレン樹脂(ノバ・ケミカル・ジャパン(株)製、“ダイラーク”D332、無水マレイン酸含有量15重量%)
OX−PS:オキサゾリン変性ポリスチレン樹脂(日本触媒化学(株)製、RPS−1005)
滑剤:αオレフィン無水マレイン酸共重合ワックス(三菱化学(株)製、“ダイヤカルナ”PA30M)

Claims (7)

  1. (a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(b)ポリカーボネート樹脂との重量比(a)/(b)が99/1〜20/80である熱可塑性樹脂成分100重量部に対し、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体ならびにその他の1種以上のビニル系単量体を重合してなるビニル系重合体(c)を0.01〜3重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
  2. 前記α,β−不飽和カルボン酸無水物およびその誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のビニル系単量体がα,β−不飽和カルボン酸無水物である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記α,β−不飽和カルボン酸無水物が無水マレイン酸である請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
  4. 前記その他の1種以上のビニル系単量体がアクリルビニル系単量体、および芳香族ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
  5. 前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜0.5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001μm〜0.5μmの分散構造を形成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
  7. 成形品が射出成形品、フィルムまたはシートである請求項6に記載の成形品。
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