JP2010090441A - 部材加工後の化成処理性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents

部材加工後の化成処理性に優れた鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】部材加工後の化成処理性に優れた鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】好ましくは質量%で、C:0.05%以上、Si:0.7%超え、Mn:0.8%以上を含有する鋼材の表面に、めっき付着量が10mg/m以下の軽度の金属めっきを施す。これにより、Siを0.7%超えて含有しても、化成処理性の低下はなく、また、表面歪で2%を超える加工を施されても、加工による化成処理性の低下を防止できる。金属めっきとしては、Ni、Cu、Mo等のめっきとすることが好ましい。軽度の金属めっき層は、下地鋼材を部分的に覆うように、不連続に形成され、化成結晶が析出する際の、カチオン・ポイントとして機能し、緻密でかつ微細な化成結晶の形成が可能となる。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車部材用として好適な鋼材に係り、とくに、表面歪で2%超えの加工を施されて部材とされる鋼材の、部材加工後の化成処理性の向上に関する。なお、ここでいう「鋼材」には、鋼板、鋼帯、鋼管、棒鋼等を含み、好ましくは質量%で、Siを0.7%超え含む組成を有し、引張強さTS:590MPa以上を有するものとする。
近年、地球環境の保護の観点から、自動車車体の軽量化を図り、自動車の燃費向上を目指す取り組みが進められている。そして、この自動車の燃費向上は、法律でも義務づけられるようになってきた。また最近では、自動車車体用材料を高強度材としてゲージダウン(板厚減少)による軽量化を図るとともに、さらに閉断面構造として部材の高剛性化を図ることも検討されている。自動車部材の高剛性化に対応して、例えば高強度鋼管等の、高強度材を使用した閉断面構造の鋼材の利用も始まっている。
このような使途に用いられる高強度鋼材には、原則として、加工しやすいこと、および、化成処理性に優れていることが要求される。一般に、高強度鋼材では、高強度と高加工性を兼備させるために、Siを凡そ、0.7%以上も含有させることを基本として、設計されていることが多い。しかし、Si含有は、化成処理性を著しく低下させるという問題を必然的に伴う。Siを多量に含有した鋼材の化成処理性が低下する機構については、現在までに、ある程度明らかになっており、次のように考えられている。
Siを含有すると、鋼材の表層には、Si系酸化物が濃化する。このSi系酸化物が、化成処理時に、下地鋼材からFeがFe2+となり一様に溶けることを妨げ、アノード・カソード反応に基づくリン酸鉄亜鉛(化成結晶)の形成を阻害するため、鋼材の表面に緻密かつ微細な化成結晶が形成されなくなる。化成処理を施すことにより、高Si含有鋼では、例えば、図1に示すように、粗大でかつ疎らで、結晶が形成されない部分(スケ)が見られる化成結晶が形成される。これに対し、Si含有量の低い一般軟鋼(SPCC)では、図2に示すように、非常に緻密な化成結晶が形成される。
例えば、冷延鋼板では、冷間圧延前に熱延鋼板を酸洗するため、ある程度、Si酸化物が除去されている。しかし、冷延鋼板は、冷間圧延後に、連続焼鈍やバッチ焼鈍等の焼鈍工程が施されるため、炉内の露点が非常に低い場合でも、必然的に、Si系酸化物が再度、板表層で濃化する。このため、冷延鋼板においても、化成処理性が低下する場合が多い。また、焼鈍工程において、炉内環境がゆっくりと変動する場合があるうえ、さらに鋼中の成分バラツキや、製造条件のバラツキ等により、Si系酸化物の形成が、コイル単位、コイルの長さ方向およびコイルの幅方向で場所に応じて、ばらつく場合が多い。したがって、化成処理性の良否は、プロセス・パラメータだけからは、判断できないのが実状である。
そのため、従来では、製造された鋼板に対して、機械的方法で表面を研削したり、酸洗等の化学的方法で表面を溶かして、化成反応を阻害するSi系酸化物自体を取り除くことが行われてきた。
例えば、特許文献1には、酸素分圧を特定範囲に制御した雰囲気中で焼鈍を行い、ついで特定温度範囲を急冷する冷却を行ったのち、さらに表面を研削しさらに酸洗を行い酸化膜を除去する、りん酸塩被膜処理性に優れた高Si含有高張力鋼板の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、(Si含有量)/(Mn含有量)を0.4以上とする冷延鋼板を、露点が−20〜0℃の雰囲気中で軟化焼鈍し、Si基酸化物の表面被覆率が20%以下、Si基酸化物の直径が円相当径で5μm以下とし、その後に、水焼入れ、焼戻しを施したのち塩酸あるいは硫酸に浸漬する酸洗を施す、化成処理性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法が記載されている。
しかし、研削や酸洗は、それ自体が、工数が掛かり、しかも、完全に、Si濃化層を削りとるのは困難であるうえ、Si系酸化物自体はガラスであり、塩酸や硫酸などの一般的な酸には溶解しない。酸洗では、Si系酸化物だけを選択的には除去できないため、Si系酸化物を除去するためには、下地鋼板を多く溶解することが必要となる。
また、特許文献3には、鋼材を、まず硫酸イオン濃度および弗化水素濃度が特定範囲の硫弗化酸中に浸漬したのち、塩化物イオン濃度が特定範囲の塩酸中に浸漬する鋼材表面の処理方法が記載されている。フッ酸系の薬剤を使用して酸洗すれば、Si系酸化物を完全除去することができるが、やや危険度が増すなどの問題がある。
上記したように表層を除去された鋼板は、地鉄が露出し、錆びやすくなるため、防錆を目的とした、Niフラッシュめっき等の軽度なめっきが施される場合が多い。この軽度なめっきは、化成処理性を向上することが知られている。例えば、特許文献4には、酸洗、研磨、研削等により表面を清浄化された、表面高清浄度冷延鋼板の表面に、Ti、Mn、Ni、Co、Cu、Mo、Wの中から選ばれた1種又は2種以上の金属を0.001〜0.5g/m析出させる燐酸塩処理性に優れた冷延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献4に記載された技術では、鉄表面に析出している鉄以外の遷移金属析出層が不連続であることが必要であり、遷移金属析出層が連続であると化成処理性を向上させる効果はないとしている。
特開2003−226920号公報 特開2004−323969号公報 特開2004−256896号公報 特公昭56−116887号公報
製品として出荷された鋼板等の鋼材は、さらにプレス加工や曲げ加工といった加工が施されて部材とされ、さらに化成処理、塗装等を施されて使用に供される。最近の鋼材は、高強度化指向の影響のためか、Si含有量を高くする傾向があり、Si系酸化物が表面に濃化して、鋼材(母材)自体の化成処理性が低下する傾向を示している。しかし、このような鋼材でも、特許文献4に記載された技術のように、Niフラッシュめっき等の軽度のめっきを施すことにより、母材となる鋼材自体の化成処理性は問題ないレベルに維持することができる。しかし、鋼材自体の化成処理性が問題ないレベルに維持された鋼材でも、該鋼材にさらにプレス加工や曲げ加工といった加工を施し部材とすると、化成処理性が低下し、必ずしも良好な化成処理性を有している部材とは言い難い場合がある。
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、部材加工後の化成処理性に優れた鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに詳しくは、本発明は、質量%で0.7%を超えるSiを含有し、とくにSi系酸化物が高濃度に表層に濃化しやすい鋼材を対象とし、該鋼材を母材とし、母材に表面歪で2%以上の加工を施されてなる部材の化成処理性の向上を目的とする。なお、ここでいう「加工」には、プレス加工、曲げ加工、さらには鋼管におけるハイドロフォーミング加工等が例示できるが、本発明では、これに限定されることはなく、その他の加工方法をも含むことは言うまでもない。
本発明者らは、上記した目的を達成するため、部材加工後の化成処理性に影響する各種要因について鋭意検討した。その結果、Niフラッシュめっき等の軽度の金属めっき層を、鋼材が受ける加工度合に応じた適正めっき付着量に調整して鋼材表面に付着させることにより、部材加工後の化成処理性が顕著に向上するという知見を得た。
軽度の金属めっきを施された鋼材に加工を施し部材とすると、めっき付着量が多い場合に部材の化成処理性が顕著に低下する理由は、現在までに完全に説明できるまでに至っていないが、本発明者らはつぎのように考えている。
鋼材表面に形成された軽度の金属めっき層は、下地鋼材を部分的に覆うように、不連続に形成されるため、化成結晶が析出する際の、カチオン・ポイントとして機能し、緻密でかつ微細な化成結晶が形成できる。軽度の金属めっき層は、溶融亜鉛めっきのような下地鋼材を完全に覆うように、連続的に形成されることはない。しかし、表面に軽度の金属めっき層を形成した鋼材に加工を施すと、化成結晶の析出核となる、上記したカチオン・ポイントが合体するため、緻密でかつ微細な化成結晶が形成されにくくなる。このため、部材加工後の化成処理性が顕著に低下する。なお、金属めっき層がカチオン・ポイントとして作用するためには、金属めっき層のめっき種は、下地鋼材よりも貴な金属とすることが必要である。
上記した考えに従い、更なる研究を行った結果、部材の母材である鋼材の表面に施す金属めっきのめっき付着量には、加工度合に応じた最適値が存在することを見出し、そして、めっき付着量を、加工度合に応じた最適範囲に調整することにより、部材加工後の化成処理性が顕著に向上することを知見した。
まず、本発明者らが行った基礎的実験結果について説明する。
表1に示す組成と、表2に示す引張特性を有する鋼板(試験板No.1〜No.10)を準備した。これら鋼板は、酸洗処理ずみの熱延鋼板(熱延酸洗板)、あるいは連続焼鈍(CAL)ずみの冷延鋼板(冷延焼鈍板)である。なお、一部の鋼板から試験板を採取し、これら試験板にさらに表2に示すめっき付着量の金属めっき(Niめっき又はCuめっき)を施し、めっき試験板(試験板No.11〜No.24)とした。ついで、これらめっき試験板にさらに表2に示す条件で冷間圧延を施し、冷延試験板(試験板No.27〜No.49)とした。これら試験板について、化成処理性を調査した。化成処理性の評価は次の通りとした。
試験板から、幅方向70mm×圧延方向150mmの大きさの試験片を採取し、該試験片に、脱脂→水洗→表面調整→化成処理→カチオン電着塗装を順次施した。なお、カチオン電着塗装を施さず、化成処理ままの試験片も作製した。
脱脂処理は、日本ペイント製薬液:EC90MおよびEC90L-2の混合液を使用し、温度:42℃として、試験片表面に120s間吹き付ける処理とした。また、表面調整処理は、日本ペイント製薬液:5N-10を使用し、該薬液に室温環境で、30s間浸漬する処理とした。化成処理は、日本ペイント製薬液:SD2500を用い、液温:43±3℃として、TA(全リン酸濃度):20〜26pt.、FA(遊離酸度):0.7〜0.9pt. 、AC(促進剤濃度):2.8〜3.5pt.の条件で、該薬液に120s間浸漬した後、170℃×20minで焼成する処理とした。また、塗装後耐食性の評価を行う場合に、上記した化成処理後に行うカチオン電着塗装処理は、日本ペイント製薬液:V-50を用い、液温:28℃、付加電圧:180V、処理時間:180sの条件で、凡そ膜厚:20〜25μmの塗膜を形成する処理とした。
カチオン電着塗装まで施された試験片に、図3(a)に示すように、表面にクロスカットを入れ、端部5〜10mm程度をテープでマスキングしたのち、該試験片を5%NaCl水溶液(液温:55℃)中に、10日間浸漬するSDT試験を実施した。浸漬終了後、試験片表面にセロハンテープを貼りつけ、テープ剥離を行って、図3(b)に示すようにクロスカット部からの最大片側フクレ幅を測定した。最大片側フクレ幅が2.5mm以下の場合を化成処理性が良好(OK)と判断した。最大片側フクレ幅が2.5mmを超える場合を化成処理性が不良(NG)とした。
また、化成処理までを施された試験片について、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて化成結晶を観察した。化成結晶が緻密な「均一粒」で、かつ「スケなし」の場合を化成処理性良好(OK)と判断とした。
なお、ここでいう「均一粒」とは、見た目で均質に見えるものについては、平均結晶粒径の±20%以内であるか、見た目で明らかに粗大粒と微小粒が混ざっている場合には、粗大粒の粒径が、微小粒の粒径の3倍以下である場合をいう。
またここでいう「スケ無し」とは、異常部分を除くランダムな部分を倍率:1000倍で2視野以上観察し、「スケ」が見られない場合をいう。「スケ」とは、通常、化成結晶がついていない部分のことを指す。しかし、拡大して観察すると、全く化成結晶がついてないと見做せる部分と、周りの化成結晶サイズに対して、非常に小さな化成結晶が疎らに、非常に薄い密度で付いてある部分もある。このため本発明では、「スケ」とは、化成結晶が均一粒(平均結晶粒径に対して、±20%以内)の場合には、化成結晶粒径(直径)の3倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいい、化成結晶が粗大粒と微小粒との混粒の場合には、粗大粒の粒径(直径)の5倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいうものとする。
得られた結果を表2に示す。
試験板No.1〜10(原板)についての比較から、Si含有量が0.50%以下の場合は化成処理性は良好(OK)であるが、Si含有量がそれより多くなり、0.7%を超えて多くなるほど、化成結晶は均一粒からはずれ、スケが多くなり、また、最大片側フクレ幅も大きくなり、化成処理性が不良(NG)となる傾向を示していることがわかる。
しかし、例えば、試験板No.3〜7の比較から、化成処理性は、Si含有量のみに依存しているわけではなく、鋼板製造時のプロセスパラメータの変動の影響を受けて、Si系酸化物の表面濃化が変動し、化成処理性にバラツキが生じる場合があると考えられる。したがって、Si含有量が化成処理性劣化の原因のひとつであるが、それのみで化成処理性の劣化が生じるとはいえない。なお、製造プロセスの条件変動に伴い、表層でのSiの濃化具合が変化するため、0.7質量%超えのSiを含有する場合には、例えば表2中の試験板No.5〜No.8の比較から明らかなように、表面に軽度な金属めっきを施すことが鋼材の化成処理性向上には有効な手段であるといえる。
また、試験板No.3(原板)と試験板No.15〜No.19の比較から明らかなように、化成処理性が低下している原板(試験板No.3)に、酸洗後Niフラッシュめっき(金属めっき)を施すことにより、化成処理性が良好となっている。また、10mg/mを超えるNiめっき層を表面に付着させても、付着量が100 mg/m未満であれば化成処理性は問題のないレベルに留まっている。しかし、試験板No.19にみられるように、過剰のNiめっき層を付着させると、化成処理性が低下してくる。これは、めっき付着量が過剰に多くなると、有効なカチオン・ポイントが減少し、化成結晶が微細に析出しなくなるためと考えられる。
さらに、表面に、各種めっき付着量のNiめっき(金属めっき)層を付着させ、各種加工量の冷間圧延を施すと、加工なしの場合には化成処理性が問題ないレベルの試験板でも、加工量の増加に伴い、例えばフクレ幅で代表される化成処理性が低下する傾向を示す。なお、加工量が表面歪で0.5%程度までであれば、化成処理性の低下は問題のないレベルに留まっているが、加工量が表面歪で2%を超えると、化成処理性が顕著に低下する。また、試験板No.31〜No.44の比較から明らかなように、めっき付着量が少ないほうが、加工による化成処理性低下の程度が少ないことがわかる。
また、表面に付着させるめっき層は、Niめっきに代えて、CuめっきとしてもNiめっきと同様な効果があることが、試験板No.20〜No.21、試験板No.45〜46の結果から明らかである。なおCuめっきでも、めっき付着量が35 mg/mと多い場合(試験板No.46)には、加工による化成処理性低下の程度が大きく、化成処理性が劣化していることがわかる。なお、試験板No.47〜No.49のように、めっき付着量が10 mg/mを超える場合でも、加工歪を2%超えとしても、部材加工後の化成処理性が良好な場合があることも知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)表面歪で2%超えの加工を施されてなる部材用の鋼材であって、該鋼材の表面にめっき付着量δが10mg/m以下の金属めっき層を有することを特徴とする部材加工後の化成処理性に優れた鋼材。
(2)(1)において、前記鋼材の組成が、質量%で、C:0.05%以上、Si:0.7%超え、Mn:0.8%以上を含有する組成であることを特徴とする鋼材。
(3)(1)または(2)において、前記金属めっき層が、Feより貴な金属のめっき層であることを特徴とする鋼材。
(4)(3)において、前記Feより貴な金属のめっき層が、Niめっき層、Cuめっき層、またはMoめっき層であることを特徴とする鋼材。
(5)(1)請求項1ないし4のいずれかに記載の鋼材を母材として、該母材に加工を施してなる化成処理性に優れた部材。
(6)(5)において、前記加工が、各方向の表面歪の絶対値の和で2%超えであることを特徴とする部材。
(7)下地鋼材の表面に軽度の金属めっきを施すに当たり、前記軽度の金属めっきを、めっき付着量δが10mg/m以下である金属めっきとすることを特徴とする、部材加工後の化成処理性に優れた鋼材の製造方法。
(8)(7)において、前記下地鋼材に前記軽度の金属めっきを施す前に、該下地鋼材に、酸洗および/または表面研削を施すことを特徴とする鋼材の製造方法。
(9)(7)または(8)において、前記金属めっきが、Feより貴な金属のめっきであることを特徴とする鋼材の製造方法。
(10)(9)において、前記Feより貴な金属めっきが、Niめっき、Cuめっき、またはMoめっきであることを特徴とする鋼材の製造方法。
(11)(7)ないし(10)のいずれかにおいて、前記下地鋼材の組成が、質量%で、C:0.05%以上、Si:0.7%超え、Mn:0.8%以上を含有する組成であることを特徴とする鋼材の製造方法。
(12)(7)ないし(11)のいずれかに記載の鋼材の製造方法で得られた鋼材を母材として、該母材に所定量α(%)の加工を施して所定形状の部材とする部材の製造方法であって、前記所定量αが、各方向の表面歪の絶対値の和で2%超えであることを特徴とする化成処理性に優れた部材の製造方法。
(13)表面にめっき付着量δの金属めっき層を有する鋼材を母材として、該母材に所定量α(%)の加工を施して所定形状の部材とする部材の製造方法であって、前記めっき付着量δと、前記加工の所定量αとが、次(1)〜(4)式
α≦2 かつ δ≦10 ‥‥(1)
α>2 かつ δ≦10 ‥‥(2)
α≦2 かつ δ>10 ‥‥(3)
α>2、δ>10でかつ α ≦ −δ/4+8.5 ‥‥(4)
(ここで、δ:鋼材のめっき付着量(mg/m)、α:加工の所定量;各方向の表面歪の絶対値の和(%))
のうちのいずれかを満足することを特徴とする化成処理性に優れた部材の製造方法。
(14)(13)において、前記金属めっき層が、Feより貴な金属のめっき層であることを特徴とする部材の製造方法。
(15)(14)において、前記Feより貴な金属のめっき層が、Niめっき層、Cuめっき層、またはMoめっき層であることを特徴とする部材の製造方法。
(16)(12)ないし(15)のいずれかにおいて、前記加工の所定量αが、前記鋼材の製造時に付加された表面歪の絶対値の和と、加工により付加された表面歪の絶対値の和との合計であることを特徴とする部材の製造方法。
本発明によれば、Siを、質量%で0.7%超え含有する鋼材に、加工を施し部材としたのちにおいても、良好な化成処理性を具備し、部材の生産性向上に顕著に寄与し、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、加工の度合に応じて、めっき付着量を適正範囲に調整した、軽度な、金属めっきを施すため、加工の程度によらず良好な化成処理性を具備した部材とすることができるという効果もある。また、本発明によれば、鋼材のめっき付着量が多少多めでも、めっき付着量とめっき付着以降の鋼材の製造時の加工量を含む加工量との関係が特定の関係を満足するように調整すれば、部材の化成処理性を良好のまま維持できるという効果もある。
本発明の鋼材は、表面に軽度な金属めっき層を有する鋼材である。本発明において鋼材表面に軽度な金属めっき層を付着させる目的は、化成処理性の向上と、防錆とにある。ここでいう「軽度な金属めっき」層とは、溶融亜鉛めっきのような、めっき種が鋼材の全面に形成されるような連続した金属めっき層ではなく、Niフラッシュめっき等のような、下地鋼材が部分的に露出した、不連続な金属めっき層をいう。この不連続な金属めっき層が、化成処理に際してカチオン・ポイントとして作用し、微細でかつ緻密な化成結晶の析出を促進するため、化成処理性が向上すると考えられる。なお、金属めっき層がカチオン・ポイントとして作用するためには、金属めっき層のめっき種は、下地鋼材よりも貴な金属とすることが必要である。金属めっき層のめっき種がFeより卑な金属である場合には、カチオン・ポイントを数多く作ったことにならず、そのため、化成結晶の析出核が微細に分散することにならないからである。
上記したような効果は、めっき付着量δが、1mg/m以上である軽度な金属めっき層で認められる。一方、めっき付着量δが10mg/mを超える金属めっき層では、部材に加工した後の化成処理性の劣化が著しくなる。このため、本発明ではめっき付着量を10 mg/m以下の軽度な金属めっき層に限定した。なお、好ましくは3〜8mg/mである。
金属めっき層のめっき付着量の測定には、化学的方法を用いることが好ましい。化学的方法は、めっきされた鋼材について、その重量と表面積とを測定した後、めっき層のみを溶解し下地鋼材を溶解しない薬液を利用して、めっき層のみを除去したのち、乾燥して重量を測定して、めっき付着量を算出する方法である。なお、予め、化学的方法で決定されためっき付着量について蛍光X線等による較正曲線等が求められている場合には、蛍光X線等を用いて求めてもよい。
軽度な金属めっき層として、本発明鋼材の表面に形成される金属めっき層は、Ni、Cu、Mo、Ti、W、Coのうちから選ばれた1種、なかでもNi、Cu、Moのうちの1種の金属めっき層とすることが好ましい。軽度な金属めっき層が、カチオン・ポイントとして、化成処理性を改善する作用を有効に発揮させるためには、めっき種金属を化成液と反応しない貴な金属とする必要がある。したがって、化成液、主にリン酸亜鉛系薬液、と反応するZnは、本発明のめっき種金属として不適当となる。このようなことから、めっき種の金属としては、Ni、Cu、Mo、Ti、W、Coのうちから選ばれた1種の金属に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、Ni、Cu、Moのうちの1種である。
なお、金属めっき層は、鋼材に直接形成しても、鋼材に酸洗あるいは研磨、研削等を施し表面の酸化被膜等を除去して表面を清浄化した後、形成してもよく、めっき層の形成時期はとくに限定されない。なお、本発明では、化成処理を施すことを前提としており、鋼材は、冷延鋼材か、あるいは酸化膜を除去した熱延鋼材に限定されることとなる。また、金属めっき層の形成方法は、電解液中で電解する方法、あるいは処理液中に浸漬する方法等の、常用の方法がいずれも好適に適用できる。
本発明になる鋼材の主たる使途は、表面歪で2%超えの加工を施される部材用の鋼材である。鋼材に、表面歪で2%超えの加工を施すと、化成処理性の劣化が認められるようになる。なお、5%以上の加工を施された場合には、ほとんどの鋼材で、化成処理性が劣化する傾向を示す。そこで、本発明では、表面歪で2%超えの部材加工を施される鋼材に限定した。本発明鋼材は、表面歪で2%超えの加工を施されても、加工歪量、めっき付着量が所定の範囲に調整することにより、また、加工歪量とめっき付着量が所定の関係を満足するように調整することにより、化成処理性に優れた部材とすることができる。
ここでいう「化成処理性に優れる」とは、化成結晶の組織と、塗装後の耐食性がともに良好である場合をいう。すなわち、化成結晶が、緻密な均一粒であって、スケがない組織を有し、かつ、塗装後の塗膜が、腐食環境に晒されたときアルカリブリスターとか、カソードフクレと呼ばれる現象の発生が軽微なレベルに留まる、優れた耐食性を有する場合をいう。なお、アルカリブリスターとか、カソードフクレと呼ばれる現象は、濡れた塗膜環境を前提として、クロスカット部がアノードとなり、最終的にフクレになる部分がカソードとなって、塗膜を含んでセルができることに基づく現象である。
なお、化成結晶組織における「均一粒」とは、見た目で均質に見えるものについては、平均結晶粒径の±20%以内であるか、見た目で明らかに粗大粒と小さい粒が混ざっている場合には、粗大粒の粒径が、微小粒の粒径の3倍以下である場合をいう。
また化成結晶組織における「スケ無し」とは、試験サンプルの中央付近で、異常部分を除くランダムな部分を倍率:1000倍で2視野以上観察し、「スケ」が見られない場合をいう。「スケ」とは、通常、化成結晶がついていない部分のことを指す。しかし、拡大して観察すると、全く化成結晶がついてないと見做せる部分と、周りの化成結晶サイズに対して、非常に小さな化成結晶が疎らに、非常に薄い密度で付いている部分もある。このため本発明では、「スケ」とは、化成結晶が均一粒(平均結晶粒径に対して、±20%以内)の場合には、化成結晶粒径(直径)の3倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいい、化成結晶が粗大粒と微小粒との混粒の場合には、粗大粒の粒径(直径)の5倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいうものとする。
また、塗装後の耐食性はつぎのように調査して判定するものとする。
試験材は、腐食試験の対象面積として、端部をテープでシールした残りの部分(露出した部分)が30mm×100mm以上のものを使うことを前提にする。なお、対象が鋼管である場合は半割りした試験材とする。また、試験材とする鋼管が小径すぎて、1つのサンプルで上記した露出面積を確保できない場合には、2個以上の試験片を用いて評価してもよい。
そして、試験材に、化成処理を施し、さらに電着塗装させて塗膜を形成する。ついで、試験片表面にクロスカットを施し、腐食試験を実施して、クロスカットからの片側フクレ幅を測定する。この値が所定値に比べて小さい場合を塗装後耐食性が良好であるとする。なお、同時に一般軟鋼材(SPCC)についても腐食試験し、誤差の範囲を加味したうえで、一般軟鋼材と同等以上の耐食性を有し、かつクロスカットおよびクロスカットに隣接する部分以外の通常部分において、ピンプル、ブリスター、ふくれ、剥がれ等がないことを確認して、化成処理性良好と判断してもよい。なお、腐食試験の腐食条件は、温塩水浸漬試験、SST試験、乾湿繰り返し試験等、どの腐食試験を用いても良い。
また、ここでいう「加工」には、プレス加工、曲げ加工、さらには鋼管におけるハイドロフォーミング加工等の部材加工が例示できるが、本発明では、これに限定されることはなく、その他の加工方法をも含み、さらに、鋼材を製造する際の加工をも含むものとする。鋼材を製造する際の加工としては、スキンパス圧延が例示できる。
加工に際し、鋼材(部材)に導入される歪は、加工面(平面)の直交する2方向と、これらと直交する肉厚方向、との3方向の歪として表示できるが、本発明では加工により導入される歪は、表面歪のみに着目し、肉厚方向の歪については考慮しない。
というには、本発明では、表面に付着した軽度な金属めっき層は、主として、加工により導入される表面歪により、大きな影響を受けると推定していることによる。すなわち、軽度な金属めっき層は、加工により、除去されるのではなく、表面歪の導入により、引き伸ばされたりあるいは圧縮されて、カチオン・ポイントが一様に分布した状態から、合体あるいは分断されて一様でない分布状態に変化すると考えられる。そのため、化成処理に際し微細でかつ緻密な化成結晶の形成が困難となり、したがって、表面に軽度な金属めっき層を有する鋼材(部材)でも、化成処理性が低下する場合があると考えられる。
そこで、このような化成処理性と加工との関係を考慮して、本発明では、上記したように、軽度な金属めっき層のめっき付着量δを所定の範囲に限定することとした。すなわち、めっき付着量δと、加工の所定量αとが、次(2)式
α>2 かつ δ≦10 ‥‥(2)
を満足する場合である。
なお、めっき付着量が10 mg/mを超え、かつ加工歪が2%を超える場合にも、めっき付着量δと、加工の所定量αとが、次(4)式
α>2、δ>10でかつ α ≦ −δ/4+8.5 ‥‥(4)
(ここで、δ:鋼材のめっき付着量(mg/m)、α:加工の所定量;各方向の表面歪の絶対値の和(%))
を満足する場合であれば、化成処理性が良好に保たれる場合がある。その理由については、現在までのところ明確になったわけではないが、本発明者らは、加工歪量αとめっき付着量δが(4)式を満足する範囲内であれば、金属めっき層が加工によって変形しても、カチオン・ポイントとして作用するためと推測される。
なお、加工歪量αとめっき付着量δが(4)式を満足しない場合には、化成処理性が劣化する。また、めっき付着量δが100 mg/mを超えると、カチオン・ポイントとしての作用が低下するとともに、めっき層の剥離性が顕著となるため、めっき付着量δの上限は100 mg/mとすることが好ましい。
なお、加工の所定量αが表面歪で2%以下であれば、化成処理性の劣化は少ない。すなわち、めっき付着量δと、加工の所定量αとが、次(1)、(3)式
α≦2 かつ δ≦10 ‥‥(1)
α≦2 かつ δ>10 ‥‥(3)
を満足する場合である。
なお、本発明では、加工により導入される表面歪は、各方向の表面歪の絶対値の和で評価する。
加工により鋼材(部材)に導入される表面歪は、スキンパス圧延、単純な曲げ加工であれば、1軸の歪で表されるが、複雑な加工となると、2軸の表面歪として表すことになる。また、本発明では、導入される加工歪は、その方向を考慮せず、その絶対値で表す。2軸の加工歪が導入される場合には、それぞれの絶対値の和を、その加工により導入された加工歪(表面歪)と規定する。2軸の方向としては、最も加工された方向すなわち表面歪の主歪方向と、それに直交する方向とすることが好ましい。
さらに、加工が複数の工程で行われる場合には、各工程で導入された加工歪(表面歪)の絶対値を求めたうえ、それらの各工程の加工歪(絶対値)の和を、該加工で導入された加工歪(表面歪)と定義する。例えば、鋼板製造時に圧下率:0.5%のスキンパス圧延を施された薄鋼板に、さらにX方向歪:2%、Y方向歪:0.5%のプレス加工を施して部材とした場合には、該加工における加工歪は3%となる。
なお、本発明でいう表面歪(加工歪)の和は、各工程における公称歪の和とする。これは、加工による化成処理性の変化は、公称歪の和で十分に説明できるという、本発明者らの知見に基づく。なお、本発明における加工による表面歪(絶対値)の和は、軽度な金属めっき層の形成後の加工の各工程で導入された表面歪(絶対値)の和を指す。
つぎに、本発明鋼材の母材(下地鋼材)として使用する鋼材の好ましい組成について説明する。本発明鋼材は表面に軽度な金属めっき層を有するため、下地鋼板の組成はとくに限定する必要はないが、圧延ままあるいは酸洗、研磨、研削ままでは化成処理性が低下している高Si含有高強度鋼材では、表面に軽度な金属めっき層を形成することにより、化成処理性が向上することが期待される。なお、以下、とくに断らない限り、組成における質量%は単に%で記す。
C:0.05%以上
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、引張強さ:590MPa以上の高強度を確保するためには、0.05%以上の含有を必要とする。一方、Cの上限は限定しないが、通常の圧延等により製造される鋼板(鋼帯)、鋼管、条鋼等の鋼材では、1%程度が上限である。溶接等を施される使途では、0.5%以下とすることが好ましい。鋼管の場合、0.5%を超えるCの含有は、電縫溶接部の健全性が低下する。なお、より好ましくは0.3%以下である。
このため、Cは0.05%以上に限定することが好ましい。なお、Cの化成処理性に及ぼす影響は非常に小さい。
Si:0.7%超え
Siは、フェライトの安定化に寄与するとともに、固溶強化や焼入れ性向上を介して、鋼の強度を増加させるとともに、さらに加工性を向上させる作用も有する元素である。Siを多量に含有させると、一般的に、伸び値が高くなり加工性が向上するが、化成処理性が顕著に低下する。Siが0.7%以下の場合には、化成処理性の低下は、許容される範囲内で問題にならないレベルである。このため、本発明では、従来から化成処理性が顕著に低下すると言われている0.7%超えをSiの下限値とすることが好ましい。なお、さらに好ましくは1%以上である。Siを0.7%超え、さらには1%以上含有する場合には、とくに表層にSi系酸化物が濃化しやすく、鋼材(圧延まま、焼鈍まま)の化成処理性に問題を残している。本発明によれば、従来から化成処理性が顕著に低下すると言われているこのような範囲のSiを含有していても、優れた化成処理性を有する鋼材(部材)とすることができる。なお、本発明ではSi含有の上限は、とくに限定する必要はないが、材質の作り込みの観点から2.5%以下とすることが好ましい。
Siの化成処理性への悪影響は、Si系酸化物の表面濃化によるものであり、Si単体の表面濃化によるのではない。Si系酸化物の表面濃化は、熱間圧延時に起こりうるが、この場合は、その後の酸洗処理である程度は除去できる。また、焼鈍時にも、焼鈍炉内で、再度表面濃化する。Si系酸化物の濃化の程度を、鋼板製造時に制御するのは困難である。
Mn:0.8%以上
Mnは、Cと同様に、固溶強化、さらには焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の高強度を確保するために、本発明では0.8%以上の含有を必要とする。更にMnは、鋼中Sを、MnSとして固定し、Sを無害化する作用も有する。このようなことから、Mnは0.8%以上に限定することが好ましい。なお、引張強さ:780MPa以上を確保するためには、1.5%以上含有することが好ましい。一方、5%を超える過剰の含有は、延性を著しく低下させる。このため、Mnは5%以下に限定することが好ましい。
上記した成分が基本であるが、さらにAl:0.1%以下、N:0.010%以下を含む組成とすることが好ましい。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、NをAlNとして固定し、Nの悪影響を防止する作用を有する元素である。このような効果は0.01%以上の含有で顕著となる。一方、0.1%を超える含有は、Al系介在物量が増加し、鋼の清浄度を低下させる。このため、Alは0.1%以下に限定した。
N:0.010%以下
Nは、Cと同様に、固溶して鋼の強度を増加させる元素であるが、多量に含有すると、延性を低下させるとともに、時効硬化させる。このため、Nは0.010%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.0050%以下である。
上記した組成に加えて、さらにTi:0.03%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.1%以下、REM:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種、を必要に応じ選択して含有することができる。
Ti:0.03%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti、Nb、Vはいずれも、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止、さらには析出強化による強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。このような効果は、Ti:0.01%以上、Nb:0.005%以上、V:0.01%以上のそれぞれの含有で認められる。一方、Ti:0.03%、Nb:0.1%、V:0.1%、をそれぞれ超える含有は、延性の低下が著しくなる。そのため、含有する場合には、Ti:0.03%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下に限定することが好ましい。
Cr:1%以下、Mo:1%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cr、Mo、Ni、Cu、Bはいずれも、固溶強化あるいは焼入れ性向上を介して、鋼の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上を含有できる。このような効果は、Cr:0.03%以上、Mo:0.02%以上、Ni:0.03%以上、Cu:0.02%以上、B:0.001%以上の含有で認められる。また、Cuは耐食性、耐遅れ破壊性の向上にも寄与する。一方、Cr:1%、Mo:1%、Ni:1%、Cu:1%、B:0.01%を超える含有は、溶接性、電縫溶接部の健全性に悪影響を及ぼす。このため、含有する場合には、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、B:0.01%以下に、それぞれ限定することが好ましい。
Ca:0.1%以下、REM:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、介在物の形態を制御し、延性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種を含有できる。このような効果は、Ca:0.002%以上、REM:0.02%以上の含有で顕著となるが、Ca:0.1%、REM:0.05%を超える含有は、介在物量が過剰となり、かえって、延性を低下させる。このため、含有する場合には、Ca:0.1%以下、REM:0.05%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、P:0.02%以下、S:0.005%以下が許容できる。なお、P:0.02%、S:0.005%をそれぞれ超えて含有すると、靭性および溶接性の低下が著しくなる。
また、本発明鋼材の母材となる鋼材(下地鋼材)の組織はとくに限定されない。本発明では、フェライトを主体とした組織、冷延後の焼鈍時に急冷処理を施されて生成したマルテンサイトを主体とする組織、残留オーステナイトやベイナイトを含む組織、基地中に微細な析出物が分散した組織など、いかなる組織の鋼材も、本発明鋼材の母材(下地鋼材)として適用可能である。また、本発明鋼材の母材となる鋼材の製造方法はとくに限定されない。熱延鋼板、冷延鋼板、さらには焼鈍の有無等、いかなる製造方法の鋼材も、本発明鋼材の母材として適用可能である。
冷延鋼板は、熱延鋼板を酸洗、それに続く冷間圧延、あるいはさらには連続焼鈍等の焼鈍を施されて製造される。連続焼鈍等の焼鈍を施された場合には、焼鈍炉内の環境で、表面にSi系酸化物の濃化層(Si濃化層)が再度、形成される。Si濃化層の形成度合は、焼鈍炉の炉内環境、すなわち炉内雰囲気(露点等)、ライン速度、前後のライン停止タイミングや、炉内開放等の異常状況等に大きく影響され、プロセス・パラメータからは完全には推察できない。本発明では、このようなSiの濃化度合が異なる鋼材をも母材(下地鋼材)として適用可能である。なお、「Siの濃化」には、Si自体の濃化、Siを含んで他の元素の濃化、Si系酸化物の濃化、Siを含んでその他の元素の酸化物の濃化等、複合酸化物、共晶酸化物、包晶酸化物等を含む。
つぎに、本発明鋼材の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成、組織を有する鋼材を下地鋼材として、該下地鋼材の表面に軽度の金属めっきを施す。軽度の金属めっきは、めっき付着量を10mg/m以下とする金属めっきとする。好ましい軽度の金属めっきとしては、Ni、Cu、Mo、Ti、W、Coのうちから選ばれた1種、なかでもNi、Cu、Moのうちの1種の金属めっきとすることが好ましい。
軽度の金属めっきは、下地鋼材表面に直接施しても、あるいは下地鋼材に酸洗あるいは研磨、研削等を施し表面の酸化被膜等を除去して表面を清浄化した後、施してもよい。また、軽度の金属めっきは、電解液中で電解する方法、あるいは処理液中に浸漬する方法等の、常用の方法がいずれも好適に適用できるが、めっき付着量を10mg/m以下とするか、あるいは加工量αが2%を超え、めっき付着量δが10mg/mを超えても、その後の部材の加工量αに応じて、めっき付着量δが前記(4)式を満足するように、調整することが肝要となる。
以下、さらに本発明を実施例に基づき詳しく説明する。
(実施例1)
表1に示す鋼No.Gの組成を有する鋼に、熱間圧延、冷間圧延さらに焼鈍を施したのち、インラインで酸洗、および表3に示すめっき付着量のNiめっきを施したのち、スキンパス圧延(圧下率:0.5%)を施し、試験板No.25、No.26(帯板)とした。
さらに、これら試験板No.25、No.26を母材として、ケージロール方式(CBR方式)で連続的に、オープン管形状にロール成形するロール成形工程と、該オープン管形状の両端面を加圧し、電縫溶接して管とする接合工程、および該管の断面形状をサイザー等で矯正する絞り矯正(サイジング)工程と、を施して、外径48.6mmφ×肉厚2mmの管材P1、P2とした。管の外表層および内表層に付加される曲げ歪(円周方向表面歪)は、管の肉厚tと外径Dから幾何学的に決まる歪で、t/D×100(%)で算出される。この歪は、管外側では引張歪、管内側では圧縮歪となるが、ここでは、歪の方向に関係なく、円周方向表面歪の絶対値を付加歪の指標とした。更に、接合工程、絞り矯正(サイジング)工程で付加される歪も計算し、それらの絶対値を、円周方向表面歪の絶対値に加算した。
得られた試験板、管材から、板材であれば、試験片(大きさ:幅方向70mm×圧延方向150mm)を採取し、管材であれば、半割り状で、圧延方向に100〜150mmの長さの試験片を採取した。ついで、該試験片に、脱脂→水洗→表面調整→化成処理→カチオン電着塗装を順次施した。なお、カチオン電着塗装を施さず、化成処理ままの試験片も作製した。
脱脂処理は、日本ペイント製薬液:EC90MおよびEC90L-2の混合液を使用し、温度:42℃として、試験片表面に120s間吹き付ける処理とした。また、表面調整処理は、日本ペイント製薬液:5N-10を使用し、該薬液に室温環境で、30s間浸漬する処理とした。化成処理は、日本ペイント製薬液:SD2500を用い、液温:43±3℃として、TA(全リン酸濃度):20〜26pt.、FA(遊離酸度):0.7〜0.9pt. 、AC(促進剤濃度):2.8〜3.5pt.の条件で、該薬液に120s間浸漬した後、170℃×20minで焼成する処理とした。また、塗装後耐食性の評価を行う場合に、上記した化成処理後に行うカチオン電着塗装処理は、日本ペイント製薬液:V-50を用い、液温:28℃、付加電圧:180V、処理時間:180sの条件で、凡そ膜厚:20〜25μmの塗膜を形成する処理とした。
カチオン電着塗装まで施された試験片に、図3(a)に示すように、表面にクロスカットを入れ、端部5〜10mm程度をテープでマスキングしたのち、該試験片を5%NaCl水溶液(液温:55℃)中に、10日間浸漬するSDT試験を実施した。浸漬終了後、試験片表面にセロハンテープを貼りつけ、テープ剥離を行って、図3(b)に示すようにクロスカット部からの最大片側フクレ幅を測定した。最大片側フクレ幅が2.5mm以下の場合を化成処理性が良好(OK)と判断した。最大片側フクレ幅が2.5mmを超える場合を化成処理性が不良(NG)とした。
また、化成処理までを施された試験片について、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)を用いて化成結晶を観察した。化成結晶が緻密な「均一粒」で、かつ「スケなし」の場合を化成処理性良好(OK)と判断とした。
なお、ここでいう「均一粒」とは、見た目で均質に見えるものについては、平均結晶粒径の±20%以内であるか、見た目で明らかに粗大粒と微小粒が混ざっている場合には、粗大粒の粒径が、微小粒の粒径の3倍以下である場合をいう。
またここでいう「スケ無し」とは、異常部分を除くランダムな部分を倍率:1000倍で2視野以上観察し、「スケ」が見られない場合をいう。「スケ」とは、通常、化成結晶がついていない部分のことを指す。しかし、拡大して観察すると、全く化成結晶がついてないと見做せる部分と、周りの化成結晶サイズに対して、非常に小さな化成結晶が疎らに、非常に薄い密度で付いてある部分もある。このため本発明では、「スケ」とは、化成結晶が均一粒(平均結晶粒径に対して、±20%以内)の場合には、化成結晶粒径(直径)の3倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいい、化成結晶が粗大粒と微小粒との混粒の場合には、粗大粒の粒径(直径)の5倍を超える領域に化成結晶が形成されていない箇所をいうものとする。
得られた結果を表3に示す。
試験板No.25、No.26は、軽度のNiめっきを施されたのち、スキンパス圧延により、0.5%の表面歪を付与されているが、歪量が少ないため、化成処理性は良好である。また、Niめっき付着量が多くなっても、試験板No.26におけるような程度のめっき付着量であれば、スキンパス圧延による付加歪量が少ないため、化成処理性の低下はほとんどない。
また、管材P1、P2は、試験板No.25、No.26を母材として、造管加工されたものであり、ロール成形工程で5.1%の表面歪が管外側、および管内側に付加されている。Niめっき付着量が10 mg/m程度であれば、この造管時の加工による化成処理性の低下は認められない。また、化成処理性は、管内側、管外側でとくに大きな相違は認められなかった。このことから、造管時のロールとの接触の有無が化成処理性に影響する決定的な要因であるとはいえない。
一方、Niめっき付着量が10 mg/mを超える、管材P2の場合には、造管加工時の付加歪が2%を超え、しかも加工量とめっき付着量の関係も(4)式を満足していないため、造管時の加工による化成処理性の低下が認められる。
ついで、上記した管材P1、P2を母材として、該母材にパイプ加工を施し、部材G1,G2とした。このパイプ加工は、表4に示すように、円周方向に圧縮の表面歪が、長手方向に引張の表面歪が導入される加工とした。
付加された歪量は、予め試験板表面に付したスクライブドサークル(図4)を用いて、直交する2軸の各方向における変化を測定して評価した。なお、スクライブドサークルを消去する際には、有機溶剤を使用し、表面を擦らないように注意した。というのは、表面に付着した軽度なめっき層をのばしたり、除去しないためである。なお、それが難しい場合には、スクライブドサークルを付したものとしないものを用意し、スクライブドサークルが付されたもので加工歪を、印刷されていないもので化成処理性を評価した。得られた部材について、化成処理性を調査した。化成処理性の試験方法は上記した方法と同様とした。得られた結果を表4に示す。
Niめっき付着量が10 mg/m以下である、部材G1では、パイプ加工により多少フクレ幅が増大しているが、良好な範囲内であり、化成処理性の顕著な低下は認められない。一方、Niめっき付着量が10 mg/mを超える部材G2では、パイプ造管時の加工に加えて造管後のパイプ加工により、加工量とめっき付着量の関係も(4)式を満足していないため、化成処理性が顕著に低下している。
(実施例2)
表1に示す組成と、表2に示す引張特性を有する試験板No.5に酸洗および、表2に示すめっき付着量のNiめっきを施した、金属めっき板である試験板No.22、No.23を母材とした。なお、めっき付着後、スキンパス圧延を施した。そしてこれら母材に、表6に示す加工条件で張出し成形加工(2軸加工)を施し、部材E1〜E5とした。なお、張出し成形加工では、ブランクの形状を変化させて加工により付加される歪量を調整した。
また、表1に示す組成と、表2に示す引張特性を有する試験板No.6に酸洗および、表2に示すめっき付着量のNiめっきを施した、金属めっき板である試験板No.24を母材とした。なお、めっき付着後、スキンパス圧延を施した。そしてこれら母材に、表6に示す加工条件で曲げ加工を施し、部材F1、F2とした。
なお、付加された歪量は、予め表面にスクライブドサークル(図4)を付した試験板に曲げ加工を施し、スクライブドサークルを用いて、直交する2軸の各方向における変化を測定した。付加された歪量は、各方向で付加された表面歪の絶対値の和で評価した。
一方、スクライブドサークルを付さない試験板に同一の曲げ加工を施して部材としたものについて、化成処理性を調査した。化成処理性試験の試験方法は、実施例1と同様とした。得られた結果を表7に示す。
Niめっき付着量が10 mg/m以下である、部材E1〜E4、F1〜F2では、張出し加工、曲げ加工により多少フクレ幅が増大しているが、良好な範囲内であり、化成処理性の顕著な低下は認められない。また、Niめっき付着量が10 mg/mを超える部材E5では、部材の加工量(表面歪)が2%以下であるため、化成処理性は良好な範囲内に留まっている。
高Si鋼の化成処理後の表面組織を示す走査型電子顕微鏡写真である。 軟鋼の化成処理後の表面組織を示す走査型電子顕微鏡写真である。 塗装後の塗膜の耐食性を試験するSDT試験方法を模式的に説明する説明図である。 スクライブドサークルの一例を示す説明図である。

Claims (16)

  1. 表面歪で2%超えの加工を施されてなる部材用の鋼材であって、該鋼材の表面にめっき付着量δが10mg/m以下の金属めっき層を有することを特徴とする部材加工後の化成処理性に優れた鋼材。
  2. 前記鋼材の組成が、質量%で、
    C:0.05%以上、 Si:0.7%超え、
    Mn:0.8%以上
    を含有する組成であることを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記金属めっき層が、Feより貴な金属のめっき層であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材。
  4. 前記Feより貴な金属のめっき層が、Niめっき層、Cuめっき層、またはMoめっき層であることを特徴とする請求項3に記載の鋼材。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の鋼材を母材として、該母材に加工を施してなる化成処理性に優れた部材。
  6. 前記加工が、各方向の表面歪の絶対値の和で2%超えであることを特徴とする請求項5に記載の部材。
  7. 下地鋼材の表面に軽度の金属めっきを施すに当たり、前記軽度の金属めっきを、めっき付着量δが10mg/m以下である金属めっきとすることを特徴とする、部材加工後の化成処理性に優れた鋼材の製造方法。
  8. 前記下地鋼材に前記軽度の金属めっきを施す前に、該下地鋼材に、酸洗および/または表面研削を施すことを特徴とする請求項7に記載の鋼材の製造方法。
  9. 前記金属めっきが、Feより貴な金属のめっきであることを特徴とする請求項7または8に記載の鋼材の製造方法。
  10. 前記Feより貴な金属めっきが、Niめっき、Cuめっき、またはMoめっきであることを特徴とする請求項9に記載の鋼材の製造方法。
  11. 前記下地鋼材の組成が、質量%で、
    C:0.05%以上、 Si:0.7%超え、
    Mn:0.8%以上
    を含有する組成であることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
  12. 請求項7ないし11のいずれかに記載の鋼材の製造方法で得られた鋼材を母材として、該母材に所定量α(%)の加工を施して所定形状の部材とする部材の製造方法であって、前記所定量αが、各方向の表面歪の絶対値の和で2%超えであることを特徴とする化成処理性に優れた部材の製造方法。
  13. 表面にめっき付着量δの金属めっき層を有する鋼材を母材として、該母材に所定量α(%)の加工を施して所定形状の部材とする部材の製造方法であって、前記めっき付着量δと、前記加工の所定量αとが、下記(1)〜(4)式のうちのいずれかを満足することを特徴とする化成処理性に優れた部材の製造方法。

    α≦2 かつ δ≦10 ‥‥(1)
    α>2 かつ δ≦10 ‥‥(2)
    α≦2 かつ δ>10 ‥‥(3)
    α>2、δ>10でかつ α ≦ −δ/4+8.5 ‥‥(4)
    ここで、δ:鋼材のめっき付着量(mg/m)、
    α:加工の所定量;各方向の表面歪の絶対値の和(%)
  14. 前記金属めっき層が、Feより貴な金属のめっき層であることを特徴とする請求項13に記載の部材の製造方法。
  15. 前記Feより貴な金属のめっき層が、Niめっき層、Cuめっき層、またはMoめっき層であることを特徴とする請求項14に記載の部材の製造方法。
  16. 前記加工の所定量αが、前記鋼材の製造時に付加された表面歪の絶対値の和と、加工により付加された表面歪の絶対値の和との合計であることを特徴とする請求項12ないし15のいずれかに記載の部材の製造方法。
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