JP5790540B2 - 鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 - Google Patents
鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP5790540B2 JP5790540B2 JP2012036154A JP2012036154A JP5790540B2 JP 5790540 B2 JP5790540 B2 JP 5790540B2 JP 2012036154 A JP2012036154 A JP 2012036154A JP 2012036154 A JP2012036154 A JP 2012036154A JP 5790540 B2 JP5790540 B2 JP 5790540B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- chemical conversion
- steel
- steel material
- conversion treatment
- treatment
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Active
Links
Landscapes
- Chemical Treatment Of Metals (AREA)
Description
Siを含有すると、鋼材の表層には、Si系酸化物が濃化する。このSi系酸化物が、下地鋼材からFeがFe2+となり一様に溶けることを妨げ、化成処理時にアノード・カソード反応に基づくリン酸鉄亜鉛(化成結晶)の形成を阻害する。このため、鋼材表面に緻密かつ微細な化成結晶が形成されにくくなる。Si含有量の少ない一般軟鋼材では、非常に緻密な化成結晶が形成されるのに対し、とくに高Si含有鋼材表面に、化成処理を施すと、場合によっては形成される化成結晶は、粗大でかつ疎らで、さらに結晶が形成されない部分(スケ)が見られる化成結晶となることがある。
また、特許文献2には、鋼材を、まず硫酸イオン濃度および弗化水素濃度が特定範囲の硫弗化酸中に浸漬したのち、塩化イオン濃度が特定範囲の塩酸中に浸漬する鋼材表面の処理方法が記載されている。このように、フッ酸系の薬剤を使用して酸洗すれば、Si系酸化物を完全に除去することができるが、やや危険度が増すなどの問題がある。
特許文献3には、Si、Mn含有量をSi/Mn比で0.4以下に調整した引張強さが550MPa以上のフェライト−マルテンサイト系の複合組織鋼板であって、MnとSiの原子比(Mn/Si)が0.5以上の微細なMn−Si複合酸化物が表面と直交する断面で表層(表面からの深さが2μmで表面長さが10μmの領域)に10個以上存在し、かつ表面に占める割合が10%以下である、塗膜密着性に優れた高強度冷延鋼板が記載されている。
また、特許文献7には、質量%で、Siを0.5〜2.5%含有する組成で、CとTiを特定関係を満足するように含有させ、平均結晶粒径を3.0μm以下、表面粗さRaで1.5μm以下に調整した、化成処理性と耐食性に優れる高張力熱延鋼板が記載されている。特許文献7に記載された技術では、結晶粒径を細かくしかつ表面を滑らかにすることにより、化成処理性が向上するとしている。
また、最近、表面歪の付与により高Si含有鋼板の化成処理性を改善する技術が提案されている。例えば、特許文献8には、化成処理性に優れた高加工性高強度薄鋼板の製造方法が記載されている。特許文献8に記載された技術は、質量%で、C:0.05%以上、Si:0.7%超え、Mn:0.8%以上を含有する組成の薄鋼板に、表層に付加される表面歪の絶対値の和が公称歪で5%以上となるように調整して加工工程を施し、化成処理性を改善する技術である。特許文献8に記載された技術によれば、酸洗、研削を施すことなく、良好な化成処理性を具備する高Si含有高強度鋼板が得られるとしている。
鋼材を化成処理液に浸漬しながら、浸漬電位を測定すると、浸漬電位は、浸漬と同時に、−0.56〜−0.58Vまで急激にマイナス側に振れ、その後、浸漬時間の経過とともに、ほぼ一定値(−0.59〜−0.60V)(自然浸漬電位)に収斂していく。この鋼材の浸漬電位の変化挙動の一例を図1に示す。本発明者らは、各種薬液について、鋼材の浸漬電位の変化挙動を調査した結果、浸漬する薬液により収斂する値(電位)が若干相違する程度で、鋼材の浸漬電位の変化挙動は、浸漬する薬液によらず共通することを知見した。そして、更なる検討により、浸漬開始から所定の電位(自然浸漬電位)まで収斂する時間が、鋼材の化成処理性とよく対応することを見出し、この時間が鋼材の化成処理性の指標となることに想到した。
(1)鋼材を化成処理液に浸漬し、該浸漬した前記鋼材の電位を浸漬開始から連続的に測定し、得られた前記鋼材の電位変化から鋼材の化成処理性を判定する鋼材の化成処理性の判定方法であって、前記鋼材の電位が浸漬開始から前記化成処理液における自然浸漬電位と同じになるまでに要する時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下である場合を化成処理性に優れた鋼材であると判定することを特徴とする鋼材の化成処理性の判定方法。
(2)(1)において、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下に代えて、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間の2/3以下とすることを特徴とする鋼材の化成処理性の判定方法。
(3)(1)または(2)において、前記鋼材が、質量%で、C:0.001〜0.40%、Si:0.5〜3.5%を含有する高Si含有鋼材であることを特徴とする鋼材の化成処理性の判定方法。
(4)鋼材を化成処理を施す部材向け製品とするに当たり、該鋼材から試験片を採取し、該試験片を化成処理液に浸漬し、該浸漬した前記試験片の電位を浸漬開始から連続的に測定し、前記試験片の電位が浸漬開始から前記化成処理液における自然浸漬電位と同じになるまでに要する時間を求め、該時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下である場合に、該鋼材を製品とし、前記時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間超えである場合には、さらに該鋼材に化成処理性を改善する処理を施すことを特徴とする化成処理性に優れた鋼材の製造方法。
(5)(4)において、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下に代えて、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間の2/3以下とすることを特徴とする鋼材の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記鋼材が、質量%で、C:0.001〜0.40%、Si:0.5〜3.5%を含有する組成の高Si含有鋼材であることを特徴とする鋼材の製造方法。
(7)(4)ないし(6)のいずれかにおいて、前記化成処理性を改善する処理が、前記鋼材に表面歪を付加する処理、前記鋼材の表面を研削または研磨する処理、前記鋼材の表面にショットブラストを施す処理、および前記鋼材に酸洗を施す処理のいずれかであることを特徴とする鋼材の製造方法。
本発明では、まず、評価しようとする鋼材1と、好ましくは白金Pt製の対極(対抗電極)2と、さらに参照電極6と、容器7に保持された薬液(化成処理液)3と、ポテンショスタット4とを用意する。なお、薬液3は一定温度に保持しておくことが必要で、恒温槽等に容器7ごと浸漬しておくことが好ましい。対極2、参照電極6は、予め薬液3中に配置しておいてもよい。
鋼材1が薬液3に浸漬された時間を起点(=0s)として、ポテンショスタット4で、鋼材1の浸漬電位を連続して測定し、図1に示すような浸漬電位−時間曲線を記録する。
なお、正確な測定を行うためには、鋼材1は、非電導性樹脂中に埋め込むなどして、測定面のみが露出した状態に調整し、測定面とは異なる箇所、好ましくは測定面の反対側に導線5を取り付けておくことが好ましい。また、測定面の裏側に薬液が回り込まないように、樹脂埋込に際して隙間をあけないように埋め込むことが肝要である。さらに、導線5は薬液3と接触させないように、テフロン(登録商標)等のチューブの内側に通すことが好ましい。これにより、測定精度が向上する。なお、対象とする鋼材1には、予め実際に化成処理を行う場合と同様の前処理を施しておくことは言うまでもない。
市販されている薬液としては、リン酸亜鉛系薬剤では、日本ペイント(株)製化成処理液「SD2800」(商品名)、日本パーカライジング(株)製化成処理液「バルボンド138」(商品名)が、また、リン酸マンガン系化成処理剤では、例えば、日本パーカライジング(株)製化成処理液「バルホスM5」(商品名)等がある。なお、薬液はこれらに限定されることはなく、市販の薬液がいずれも利用できる。また、市販の薬液に、製造装置、製造ラインに適合するように各種添加物を添加された薬液を用いてもよい。
ここでいう「緻密」なものとは、化成結晶が「均一粒」であり、同時に、「スケ無し」の場合である。したがって、「緻密」なものについては、とくに具体的な数値の限定を提示しない。また、「均一粒」とは、見た目で均質に見える場合には、化成結晶が、平均結晶粒径に対して±20%以内の粒径を有する場合であり、見た目で明らかに粗大粒と小さい粒が混ざっている場合には、粗大粒の粒径が、微小粒の粒径の2倍未満である場合をいう。
また、「スケ」とは、通常、化成結晶がついていない部分のことを指す。しかし、「スケ」と判定された領域を、拡大して観察すると、全く化成結晶がついてないと見做せる部分と、周りの化成結晶の大きさに対して、非常に小さな化成結晶が、疎らに非常に薄い密度で付いている部分とがある場合がある。そこで、「スケ無し」とは、SEMで、倍率:1000倍で観察した際に、サンプルの異常部分を外したランダムな部分(端部を外し、代表性のある部分)を1視野もしくは2視野観察し、スケが見られない場合をいうものとする。「スケ」がある場合の化成結晶の一例(走査型電子顕微鏡(SEM)組織写真)を図4に示す。
なお、本発明でいう化成処理性が「問題のない程度」とは、1000倍程度の倍率でSEM観察を行い、「スケ」が、化成結晶が均一粒(平均結晶粒径に対して±20%以内)の場合には、「スケ」があっても粒直径の3倍程度までであり、また、化成結晶が粗大粒と小さい粒の混粒の場合には、「スケ」が粗大粒の直径の3倍程度までである場合をいうものとする。
化成処理後にカチオン電着塗装を施した鋼板を試験材(大きさ:30mm×100mm以上)として行う。なお、試験材の端部(5〜10mm)は、テープでシールしておくことは言うまでもない。そして、試験材の観察対象面に、クロスカット、もくしは、クロスカットできないような小面積サンプルの場合には1本線状のカットを施した後、適切な腐食加速試験を実施する。なお、比較材として、一般軟鋼材(SPCC)についても同時に腐食加速試験を行うこととする。なお、腐食加速試験としては、CCT試験(Cyclic Corrosion Test)、SST試験(Salt Spray Test)が好適である。
腐食加速試験後に、試験材を軽く水洗し乾燥したのち、ガムテープ等の粘着力の強いテープで、塗膜を剥離し、クロスカット部からの片側フクレ幅を測定する。そして、この片側フクレ幅が、比較材に比べて、誤差を加味した上で同等あるいはそれ以下である場合を「化成処理性に優れる」と判定する。なお、この場合、通常部分(クロスカット部および隣接する部分以外)において、ピンプル、ブリスター、ふくれ、剥がれ、がないことは言うまでもない。
本発明が対象とする鋼材は、鋼板(薄鋼板、厚鋼板)、鋼帯、鋼管、棒鋼、条鋼、線材等を含めて、化成処理を施されることが想定される鋼材とする。このため、本発明が対象とする鋼材は、質量%で、C:0.001〜0.40%、Si:0.5〜3.5%を含有する組成の高Si含有鋼材とすることが好ましい。対象とする鋼材のC含有量は、化成処理を行うことが殆どない、グラファイトが晶出する鋳鉄系材料を除くという意味から、質量%で、0.001〜0.40%の範囲に限定した。また、本発明が対象とする鋼材は、Siを0.5質量%以上含有する鋼材とした。
Mn:0.7〜3.0%
Mnは、焼入れ性の増加を介して、鋼材の強度を増加させる作用を有する。また、MnはSと結合しMnSを形成して、Sの悪影響を抑制することができる。このような効果を得るとともに、所望の高強度を確保するために、0.7%以上含有することが望ましい。一方、3.0%を超える含有は、偏析が著しくなり、延性、靭性が低下する。このようなことから、Mnは0.7〜3.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、Mnは、Siほどではないが、鋼材表面に偏析する傾向を有するため、化成処理性を若干低下させる懸念があり、化成処理性改善の処置を必要とする場合がある。
P:0.02%以下
Pは、不純物として存在するが、鋼材の靭性や、溶接性を低下するという悪影響を及ぼすために、できるだけ低減することが望ましい。とくに、高強度鋼材の場合には、その悪影響を強く受ける。しかし、過度の低減は精錬コストを高騰させるため、Pは0.02%以下に限定することが好ましい。
Sは、鋼中では硫化物を形成し、延性、靭性、さらには耐食性を低下させる。とくに、高強度材の場合には、高靭性や高延性を確保するために、できるだけ低減することが望ましい。しかし、過度の低減は精錬コストを高騰させるため、Sは0.005%以下に限定することが好ましい。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、TiによりTiNとして窒素(N)が固定できない場合に、Nを窒化物をして固定し安定化させる作用を有する。このような効果を得るためには、0.003%以上含有することが望ましいが、0.01%を超える含有は、清浄度が低下し、延性、靭性、さらには耐食性が低下する。このため、Alは0.01%以下に限定することが好ましい。
Tiは、Alと同様に、Nを窒化物として固定し、安定化させる作用を有する。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.03%を超える含有は、窒素含有量にもよるが、靭性を低下させる悪影響を有する。このため、Tiは0.03%以下に限定することが好ましい。
Nは、不純物としてできるだけ低減することが望ましいが、0.01%程度まで許容できる。このため、Nは0.01%以下程度とすることが好ましい。
また、上記した組成に加えてさらに、Cr:1%以下、Ni:0.1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Ni:0.1%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Cu:0.5%以下、および/または、Nb:0.1%以下、および/または、Ca:0.01%以下、REM合計:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有してもよい。
Cr:1%以下、Ni:0.1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Ni:0.1%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、
Cr、Mo、V、Ni、Bは、Si、Mnと同様で、焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて1種または2種以上、選択して含有できる。しかし、多量の含有は、溶接接合部(HAZを含む)の健全性に悪影響を与える危険性がある。このため、含有する場合には、Cr:1%以下、Ni:0.1%以下、Mo:1%以下、V:0.1%以下、Ni:0.1%以下、B:0.01%以下に限定することが好ましい。
Cuは、耐遅れ破壊特性、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、靭性を低下させ、表面清浄性を低下させる。
Nb:0.1%以下
Nbは、結晶粒の微細化に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.1%を超える含有は、靭性を低下させる。
Ca 、REMはいずれも、硫化物の形状を制御する作用を有し、靭性、延性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種を含有できる。このような効果を得るためには、それぞれCa:0.001%以上、REM:0.01%以上含有することが望ましいが、Ca:0.01%、REM合計:0.01%を超える多量の含有は、介在物量を増加させて、清浄度を低下させる。
上記した組成を有する溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の通常公知の鋳造方法でスラブ等の鋼素材(鋳片)とする。なお、得られた鋳片は、熱間圧延を施され鋼片(鋼素材)として鋼素材としてもよい。これら鋼素材は、熱間圧延、あるいはさらに冷間圧延、連続焼鈍等の所定の製造工程を経て、所望の寸法形状の鋼材(鋼板(薄鋼板、厚鋼板)、鋼帯、鋼管、棒鋼、条鋼等)とする。製造工程は、通常公知の製造工程がいずれも適用でき、製造工程をとくに限定する必要はない。
すなわち、化成処理を施す部材向け製品とする鋼材から、試験片を採取する。そして、採取した試験片を、図2に示す構成の測定装置に組み込み、当該鋼材(試験片)の電位(浸漬電位)を、浸漬開始時から連続的に測定して、浸漬電位−時間曲線を求める。得られた浸漬電位−時間曲線から、当該鋼材(試験片)の電位(浸漬電位)が、浸漬開始から一定値(自然浸漬電位)に収斂するまで、すなわち薬液(化成処理液)における自然浸漬電位と同じになるまで、に要する時間tNを求める。そして、得られた時間tNと、使用した薬液(化成処理液)ごとに予め決められた処理時間(適正処理時間)tSとを比較する。本発明では、得られた時間tNが、当該薬液の適正処理時間tSの2/3以下である場合を化成処理性に優れた鋼材と評価する。また、得られた時間tNが、当該薬液の適正処理時間tS以下である場合も、化成処理性は若干悪くなるが、問題ない程度であると評価する。
一方、得られた時間tNが、当該薬液の適正処理時間tSを超える鋼材には、さらに、化成処理性を改善する処理を施す。
鋼材の化成処理性を改善する処理としては、つぎの例えば、
(1)鋼材に表面歪を付加する処理、
(2)鋼材の表面を研削または研磨する処理(物理的な除去処理)、
(3)鋼材の表面にショットブラストを施す処理、
(4)鋼材に酸洗を施す処理(化学的な除去処理)
が考えられるが、これに限定されるものではない。要するに、鋼材表面に存在する化成処理性を劣化させる因子を取り除く、例えば、上記したような処理を施せばよい。化成処理性を劣化させる因子としては、Si濃化層に限らず、表面に形成された酸化物、ごみ、汚れ、濃化元素等がある。
熱延鋼帯(熱延薄鋼板)でいえば、Si濃化層は、熱延工程および焼鈍工程で生じる。例えば、熱延鋼帯(熱延薄鋼板)では、化成処理を施される使途に使用される場合には、通常、酸洗処理を施され、ある程度、表層の黒皮が除去された状態で出荷されるのが一般的である。したがって、酸洗時に、ある程度、Si濃化層が除去された状態となっているが、しかし、Si濃化層の除去のされ方は、鋼板ごとに、バラツキがある。
本発明では、「鋼材の化成処理性の判定方法」を利用して、鋼材ごとに、当該鋼材の化成処理性の劣化程度を判定し、その判定結果に基づき、すなわち、化成処理性の劣化程度に応じて、化成処理性を改善する処理を施す。
また、(3)鋼材の表面にショットブラストを施す処理、(4)鋼材に酸洗を施す処理(化学的な除去処理)の場合も同様で、ショットブラストの程度、あるいは酸洗の程度は、当該鋼材の化成処理性の判定結果、すなわち、劣化の程度に応じて、予め求められた関係式等に基づいて、適宜決定すればよい。
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について説明する。
表1に示す組成の鋼材を対象とした。
また、鋼材Hは、Si:1.6質量%含有の高Si含有冷延焼鈍鋼板(板厚:1.6mm)で、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍の各工程を経て、連続焼鈍炉で再結晶されて製造されたものである。
そして、サンプルの少なくとも10mm角の表面(測定面)が薬液と接触可能なように、非電導性樹脂を用いて、サンプルを埋込むか、あるいはサンプルを被覆した。非電導性樹脂としては、テクノビット3040樹脂またはベークライト系樹脂を用いた。
なお、薬液3はリン酸亜鉛系化成処理液である日本ペイント(株)製サーフダイン「SD2800」とし、液温は43℃とした。また、脱脂は、容器に日本ペイント(株)製サーフクリーナー「SD250」を満たし、液温:43℃で120s間浸漬したのち、流水洗(容器に水を注ぎ続ける状態)することにより行った。なお、浸漬中はサンプルを上下させた。
なお、容器7は、恒温槽(図示せず)に浸漬した状態とし、薬液3の温度を一定とした。また、容器7内の薬液3に、対極2、参照電極6を浸漬したままにした。また、ポテンショ・スタット4に対して、あらかじめ対極2は結線したままにしておいた。
得られた結果を表2に示す。
化成処理用サンプルには、前処理として脱脂−表面調整からなる処理を施したのち、化成処理を施したのち、化成処理を施す一連の処理を施して、化成皮膜を形成した。なお、脱脂−表面調整、化成処理は、自然浸漬電位を測定した場合と同じ処理とした。
なお、上記した処理時間は、タクト時間を含まないため、ラックが薬液槽、水洗槽に入る時間、抜ける時間が、ラックに引っ掛ける位置によって実浸漬時間が若干異なるが、処理時間に多くても10秒程度の差がプラスされる。上記したようにして化成結晶を形成されたサンプルについて、走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:1000倍)を用いて、ランダムな1視野について二次電子像を観察し、スケの存在の有無で、化成処理性を判断した。スケの無い場合を化成処理性が良好と判断し、○と評価した。一方、スケのある場合を化成処理性が不良であると判断し、×と評価した。
つぎに、化成結晶の形成状態と、塗装耐食性との関係を確認するため、化成処理皮膜を形成した一部の鋼材について、さらに、塗装を施し、塗膜の耐食性(塗装耐食性)について調査した。
塗装耐食性の評価は、汎用的な軟質鋼板(JIS規格のSPCC材)を比較材として、同一タイミングで試験し、塗装耐食性を評価した。SPCC材は、積極的なSi添加がなく、かつ、その他の合金元素も殆ど添加されていないので、もともと化成処理性が良好である。
電着塗装条件は、PN−150グレーを使い、温度:28℃、電圧:180V、塗装時間:180sとした。これにより、片面で約20〜25μm厚さの塗膜が形成された。
塗膜を形成された試験板は、片面のみを評価対象面として、非対象面には、全面をテープでマスキングした。また、試験板の端部5〜10mm程度をテープでマスキングした。なお、評価対象面にはクロスカットを入れて、腐食加速試験を実施した。
(実施例2)
表1に示す組成を有する鋼材I〜Kは鋼管である。鋼材A(汎用的な軟質系冷延焼鈍板(SPCC材))を素材とした電縫鋼管である鋼材A2および鋼材I〜Kについて、リン酸マンガン系化成処理液を用いた場合の化成処理を実施例1と同様に調査した。鋼管を冷牽する際には、表面にカジリが生じる場合があるため、潤滑性確保のために、リン酸マンガン系化成処理皮膜を形成する場合が多い。
上記した各鋼材から、サンプルを切出し、管外側が露出するように、実施例1と同様にサンプルを非電導性樹脂を用いて樹脂埋込した、脱脂−流水洗−表面調整を行ったのち、薬液(化成処理液)に浸漬して浸漬電位を測定した。
なお、脱脂は、日本パーカライジング(株)製ファインクリーナー「E6400」(商品名)を用い、60℃で600s間浸漬したのち、フィルターをとおした上水を投入しながら流水洗することにより行った。また、表面調整は、日本パーカライジング(株)製「プレバレンVM」(商品名)を用い、45℃で90s間浸漬することにより行った。
得られた結果を表3に示す。
ついで、上記した鋼材A2、I〜Kから、鋼管のまま、半割り、あるいは1/4割した化成処理用サンプルを採取し、実施例1と同様に化成結晶をSEMで観察した。実施例1と同様に「スケ」の有無で化成処理性を評価し、「○」、「×」で表示した。なお、化成処理用サンプルは、脱脂−表面調整からなる前処理を施したのち、化成処理を施す一連の処理を施して、化成処理皮膜を形成した。なお、脱脂−表面調整、化成処理は、自然浸漬電位を測定した場合と同じ処理とした。
(実施例3)
実施例1、2で、本発明の判定方法で化成処理性に劣ると判断された鋼材について、さらに、本発明でいう「化成処理性を改善する処理」を施すことにより、化成処理性に優れた鋼材とすることができることについて説明する。
また、一部のサンプルでは、上記したように化成処理を施しさらに、実施例1と同様に電着塗装を施したのち腐食加速試験を実施し、実施例1と同様に塗装耐食性を調査した。
このように、本発明の化成処理性改善処理を施すことにより、化成処理性が劣化した鋼材といえども、軟質鋼材と同程度に化成処理性を改善することができる。本発明を適用すれば、高Si含有鋼材が、完全に化成処理性が劣化した材料であるとは言えないことになる。
(実施例4)
また、本発明の判定方法で化成処理性に劣ると判断された鋼材Fから試験材を採取し、これら試験材に、ショットブラスト処理を施し、サンプルとした。得られたサンプルについて、本発明の鋼材の化成処理性の判定方法を適用し、実施例1と同様にサンプルの化成処理性を判定した。なお、薬液は、リン酸亜鉛系化成処理液「SD2800」(商品名)とした。なお、化成処理性の判定は、ショットブラスト処理後直ちにと、3日間大気中に放置したのちに、行った。
また、一部のサンプルでは、上記したように化成処理を施したのち、さらに実施例1と同様に電着塗装を施したのち腐食加速試験を実施し、塗装耐食性を調査した。
(実施例5)
また、本発明の判定方法で化成処理性に劣ると判断された鋼材G,Hから試験材を採取し、これら試験材に、手研磨(#400仕上げ)、酸洗処理、あるいは2〜3%のスキンパスを施したのち酸洗処理を、それぞれ施した。なお、酸洗処理は、サンプルを濃塩酸に浸漬し、水素発生が一旦安定したのち、サンプルを掴んで撹拌しながら行った。
さらに、得られたサンプルに、実施例1と同様に、薬液をリン酸亜鉛系化成処理液「SD2800」(商品名)として、化成処理を施し、実施例1と同様に、得られた化成結晶について走査型電子顕微鏡観察を行い、スケの存在の有無で、化成処理性を判断した。
(実施例6)
本発明の判定方法で化成処理性に劣ると判断された鋼材I,J,Kから試験材を採取し、これら試験材に、ショットブラスト(ショット条件:スチールショット(#280)を圧力4.8kgf/cm2で300s間吹きつけ)、酸洗→ショットブラスト(ショット条件:スチールショット(#280)を圧力4.8kgf/cm2で300s間吹きつけ)、機械研削(約1μm削除)、手研磨(#180から順次仕上げて、最終#800仕上げ)、のいずれかを施した。
さらに、得られたサンプルに、実施例2と同様に、薬液をリン酸マンガン系化成処理液(「パルホスM5」(商品名))として、化成処理を施し、実施例1と同様に、得られた化成結晶について走査型電子顕微鏡観察を行い、スケの存在の有無で、化成処理性を判断した。
したがって、本発明になる鋼材の化成処理性の判定方法を適用して、鋼材の化成処理性を判定し、その結果に応じて、化成処理性改善処理を施せば、化成処理性に優れた鋼材を容易に安定して製造できる。
2 対極(対抗電極)
3 薬液(化成処理液)
4 ポテンショスタット
5 導線
6 参照電極
7 容器
Claims (7)
- 鋼材を化成処理液に浸漬し、該浸漬した前記鋼材の電位を浸漬開始から連続的に測定し、得られた前記鋼材の電位変化から鋼材の化成処理性を判定する鋼材の化成処理性の判定方法であって、
前記鋼材の電位が浸漬開始から前記化成処理液における自然浸漬電位と同じになるまでに要する時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下である場合を化成処理性に優れた鋼材であると判定することを特徴とする鋼材の化成処理性の判定方法。 - 前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下に代えて、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間の2/3以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の化成処理性の判定方法。
- 前記鋼材が、質量%で、C:0.001〜0.40%、Si:0.5〜3.5%を含有する高Si含有鋼材であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の化成処理性の判定方法。
- 鋼材を化成処理を施す部材向け製品とするに当たり、該鋼材から試験片を採取し、該試験片を化成処理液に浸漬し、該浸漬した前記試験片の電位を浸漬開始から連続的に測定し、前記試験片の電位が浸漬開始から前記化成処理液における自然浸漬電位と同じになるまでに要する時間を求め、該時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下である場合に、該鋼材を製品とし、前記時間が、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間超えである場合には、さらに該鋼材に化成処理性を改善する処理を施すことを特徴とする化成処理性に優れた鋼材の製造方法。
- 前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間以下に代えて、前記化成処理液を用いて鋼材の化成処理を行う際に予め決められた適正処理時間の2/3以下とすることを特徴とする請求項4に記載の化成処理性に優れた鋼材の製造方法。
- 前記鋼材が、質量%で、C:0.001〜0.40%、Si:0.5〜3.5%を含有する組成の高Si含有鋼材であることを特徴とする請求項4または5に記載の鋼材の製造方法。
- 前記化成処理性を改善する処理が、前記鋼材に表面歪を付加する処理、前記鋼材の表面を研削または研磨する処理、前記鋼材の表面にショットブラストを施す処理、および前記鋼材に酸洗を施す処理のいずれかであることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012036154A JP5790540B2 (ja) | 2012-02-22 | 2012-02-22 | 鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012036154A JP5790540B2 (ja) | 2012-02-22 | 2012-02-22 | 鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2013170305A JP2013170305A (ja) | 2013-09-02 |
JP5790540B2 true JP5790540B2 (ja) | 2015-10-07 |
Family
ID=49264444
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2012036154A Active JP5790540B2 (ja) | 2012-02-22 | 2012-02-22 | 鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP5790540B2 (ja) |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP6070917B1 (ja) * | 2015-06-25 | 2017-02-01 | 新日鐵住金株式会社 | 塗装鋼板 |
JP6803799B2 (ja) * | 2017-05-12 | 2020-12-23 | 日本製鉄株式会社 | 被覆鋼管の製造方法 |
-
2012
- 2012-02-22 JP JP2012036154A patent/JP5790540B2/ja active Active
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2013170305A (ja) | 2013-09-02 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
KR101935112B1 (ko) | 용융 아연 도금 강판 및 그 제조 방법 | |
TWI467027B (zh) | High strength galvanized steel sheet | |
KR101950618B1 (ko) | 용융 아연 도금 강판 | |
RU2554264C2 (ru) | Горяче-или холоднокатаный стальной лист, способ его изготовления и его применение в автомобильной промышленности | |
JP5499664B2 (ja) | 疲労耐久性に優れた引張最大強度900MPa以上の高強度冷延鋼板及びその製造方法、並びに、高強度亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 | |
TWI507535B (zh) | Alloyed molten galvanized steel sheet | |
US10676804B2 (en) | Steel sheet provided with a coating providing sacrificial cathodic protection comprising lanthane | |
CN104040001B (zh) | 合金化热镀锌钢板 | |
JP5907320B1 (ja) | ステンレス冷延鋼板用素材およびその製造方法 | |
KR101720891B1 (ko) | 합금화 용융 아연 도금 강판 및 그 제조 방법 | |
JP6402830B2 (ja) | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 | |
WO2017090236A1 (ja) | 高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法、および高強度溶融亜鉛めっき鋼板 | |
JP5392116B2 (ja) | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 | |
EP4079922A2 (en) | Aluminum alloy-plated steel sheet, hot-formed member, and methods for manufacturing aluminum alloy-plated steel sheet and hot-formed member | |
US9758892B2 (en) | Steel sheet for electroplating, electroplated steel sheet, and methods for producing the same | |
WO2010041763A1 (ja) | 化成処理性に優れた高加工性高強度鋼管およびその製造方法 | |
JP5578116B2 (ja) | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 | |
JP4940813B2 (ja) | TS×Elの値が21000MPa・%以上である溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 | |
JP3631710B2 (ja) | 耐食性と延性に優れたSi含有高強度溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 | |
JP5790540B2 (ja) | 鋼材の化成処理性の判定方法および化成処理性に優れた鋼材の製造方法 | |
JP5309862B2 (ja) | 部材加工後の化成処理性に優れた鋼材およびその製造方法 | |
JP2007314858A (ja) | 合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法 | |
JP2007291445A (ja) | 濡れ性、ふくれ性に優れた高張力溶融亜鉛めっき熱延鋼板の製造方法 | |
JP6838665B2 (ja) | 高強度合金化電気亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 | |
JP5434040B2 (ja) | 化成処理性に優れた高加工性高強度薄鋼板の製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
RD03 | Notification of appointment of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7423 Effective date: 20130716 |
|
RD04 | Notification of resignation of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424 Effective date: 20140326 |
|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20140825 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20150113 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20150127 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20150707 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20150720 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 5790540 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |