上記の特許文献1に開示されたシートベルト装置は、シートに着座した乗員の近傍でタングホルダに保持されるので、ウエビングベルトを装着するに際してはタングを掴み易い。しかしながら、乗員が降車する際等、バックルから外されたタングをタングホルダに一々収納して保持させなくてはならず、その作業が煩わしい。
本発明は、上記事実を考慮して、ウエビングベルトを外した後に煩わしい作業を行なわなくても、ウエビングベルトを装着する際の装着作業性のよいシートベルト装置を得ることが目的である。
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置は、座席の幅方向一方の前記座席の下方で前記座席又は車体に取り付けられたアンカに先端側が係止されて、長手方向中間部よりも先端側が前記座席の上方から下方へ延びるウエビングベルトと、前記ウエビングベルトに沿って移動可能に設けられ、前記座席に着座した乗員に前記ウエビングベルトが装着される際には、前記座席の幅方向他方に設けられたバックルに保持されるタングと、前記座席の幅方向一方における前記アンカよりも上方側で前記座席の座部の側部に設けられ、前記座部の側面との間を前記ウエビングベルトの中間部が通過すると共に、前記座部の側面との間に前記タングの入り込みが可能とされ、前記座部の側面との間に入り込んだ前記タングを下方から支持するタング収納手段と、を備えている。
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置では、長尺帯状のウエビングベルトの中間部よりも先端側が座席の幅方向一方の側で座席の上方から下方に伸び、更に、その先端側が座席や車体に取り付けられたアンカに係止される。座席に着座した乗員がウエビングベルトの中間部と先端部との間に設けられたタングを、座席の幅方向他方の側に設けられたバックルに装着すると、乗員の身体の前側でウエビングベルトが乗員の身体に掛け回される。これにより、乗員の身体に対するウエビングベルトの装着状態になり、乗員の身体はウエビングベルトに拘束される。
ところで、座席の幅方向一方の側におけるアンカよりも上方では、座席の座部の側部にタング収納手段が設けられており、このタング収納手段をウエビングベルトが通過している。タングはウエビングベルトに沿って移動可能であるため、バックルから取り外されたタングがウエビングベルトに沿ってウエビングベルトの先端側へ移動することでタングがタング収納手段に入り込み、これにより、タングがタング収納手段に収納される。
タング収納手段は座部の側部に設けられるので、タング収納手段に収納されたタングもまた座部の側部、すなわち、座席に着座した乗員の手元近傍に設けられることになる。これにより、乗員が再度ウエビングベルトを装着する際に後方へ振り向くように乗員が身体を捻らなくても、タングを簡単に掴んでバックルの側へ移動させることができる。
このように、ウエビングベルトを装着しない状態では、タング収納手段にタングが収納されるので、見栄えもよく、また、車両走行時の振動や加減速の際にタングが大きく揺れるようなこともない。
また、上記のように、タングはウエビングベルトに案内されてウエビングベルトの先端側へ移動することによりタング収納手段に入り込んで収納されるので、タング収納手段へのタングの収納作業が簡単である。しかも、ウエビングベルトは、その長手方向中間部よりも先端側が座席の上方から下方に伸びているので、タングはその自重でウエビングベルトに沿って落下し、これにより、タング収納手段にタングが入り込んで収納されるようにすることも簡単であるので、このような構成にすれば、タング収納手段へのタングの収納が更に簡単になる。
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1に記載の本発明において、前記アンカよりも前方側に前記タング収納手段を設けている。
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、タング収納手段はアンカよりも座席の前方側に設けられる。このため、アンカからタング収納手段へ向けてウエビングベルトの長手方向は座席の上方に対して前方へ傾斜した向きとなる。
ここで、所謂三転式シートベルト装置の場合、タングをバックルに装着した状態では、ウエビングベルトのうちアンカとタングとの間が乗員の腰部を拘束するラップベルトとなり、乗員の腰部を前方から拘束する。このため、アンカからタング収納手段へ向けてウエビングベルトの長手方向が座席の上方に対して前方へ傾斜した向きとなることで、乗員の身体にウエビングベルトが装着された状態でのラップベルトの長手方向にアンカとタング収納手段との間でのウエビングベルトの長手方向が沿うようになり、タング収納手段を通過するウエビングベルトに対するタング収納手段の大きな干渉を防止又は抑制できる。
しかも、バックルに装着されていない状態のタングは、座席の前後方向に沿った後方側に位置しているよりも前方側に位置している方が座席に着座している乗員には掴み易い。このため、上記のように、アンカよりも前方側にタング収納手段が設けられることで、タングが掴み易くなり、バックルへのタングの装着が容易になる。
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記座席の前後方向に沿った前記タング収納手段の前端部を、前記座席の前後方向に沿って前記ウエビングベルトの通過が可能に前記座部の側面から離間させると共に、前記タング収納手段の前端部と前記座部の側面との間を通過する前記ウエビングベルトに対して干渉可能に前記タング収納手段及び前記座部の側面の少なくとも何れか一方に設けられ、前記ウエビングベルトが干渉を回避することで、前記タング収納手段と前記座部の側面との間への前記ウエビングベルトの出入りが可能となる干渉部を備えている。
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、座席の前後方向に沿ったタング収納手段の前端部が座部の側面から離れており、このタング収納手段の前端部と座部の側面との間を座席の前後方向に沿ってウエビングベルトの通過することで、タング収納手段と座部の側面との間に対してウエビングベルトが出入りする。
このため、座席に予めタング収納手段を一体成形したり、又は、予め座席にタング収納手段を取り付けたりした後に、タング収納手段と座部の側面との間にウエビングベルトを通すことができる。
但し、タング収納手段及び座部の側面の少なくとも何れか一方には干渉部が設けられ、上記のように、タング収納手段の前端部と座部の側面との間をウエビングベルトが通過しようとすると、干渉部がウエビングベルトに干渉する。このため、タングやウエビングベルトを不用意に引っ張ったりしても、タング収納手段と座部の側面との間からウエビングベルトが不用意に抜け出ることがない。
しかも、干渉部の干渉を意図的に回避するようにタング収納手段の前端と座部の側面との間にウエビングベルトを通過させれば、タング収納手段と座部の側面との間をウエビングベルトが出入りできるので、座席に予めタング収納手段を一体成形したり、又は、予め座席にタング収納手段を取り付けたりした後に、タング収納手段と座部の側面との間にウエビングベルトを通すことができるという効果を損なわない。
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の本発明において、前記ウエビングベルトが通過する通過孔が形成された基部と、前記基部から延出されて前記バックルに挿し込まれる挿込部と、を含めて前記タングを構成し、更に、前記基部側が前記挿込部側よりも前記座席の下方を向くように重心位置及び前記通過孔の位置の少なくとも何れか一方を設定している。
請求項5に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、タングを構成する基部に形成された通過孔をウエビングベルトが通過しており、これにより、タングはウエビングベルトに沿って移動できる。また、タングの基部からは挿込部が延出されており、この挿込部をバックルに挿し込むことでバックルにタングが装着される。
ここで、通過孔にウエビングベルトが通過するタングは、基部の側が挿込部の側よりも座席の下方を向くように、タング全体の重心位置及び通過孔の位置の少なくとも何れか一方が設定される。このように、基部の側が挿込部の側よりも座席の下方を向いていることで、座席の上方からウエビングベルトに案内されて下降したタングは、その基部からタング収納手段に収容され、挿込部がタング収納手段の上側を向く。このようにタングがタング収納手段に収容されることで、タングの挿込部が持ち易くなる。
以上説明したように、本発明に係るシートベルト装置は、ウエビングベルトを外した後に煩わしい作業を行なわなくても、ウエビングベルトを装着する際の装着作業性がよい。
<本実施の形態の構成>
図1には、本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置10の要部の構成が斜視図により示されている。なお、本実施の形態に係るシートベルト装置10は、シート12が所謂「右ハンドル車」ならば運転席、所謂「左ハンドル車」ならば助手席等、車両の幅方向中央よりも右側に設定されたシート(座席)12に対応している。したがって、本実施の形態を説明するにあたり、車両の幅方向外方(外側)又はシート12の幅方向外側は車両の左右方向右方(右側)を示し、車両の幅方向内方(内側)又はシート12の幅方向内側は車両の左右方向左方(左側)を示すものである。
なお、本実施の形態に係るシートベルト装置10は、車両の幅方向中央よりも右側に設定されたシート(座席)12に対応しているが、本発明が適用されるシート(座席)が車両の幅方向中央よりも右側に設定されるものに限定されるものではない。但し、例えば、シートベルト装置10が車両の幅方向中央よりも左側に設定されたシート(座席)12に対応しているのであれば、車両の幅方向外方(外側)又はシート12の幅方向外側は車両の左右方向左方(左側)を示し、車両の幅方向内方(内側)又はシート12の幅方向内側は車両の左右方向右方(右側)を示すことになる。
図1に示されるように、本シートベルト装置10はウエビング巻取手段としてのウエビング巻取装置14を備えている。ウエビング巻取装置14はシート12の幅方向外側でシート12の下端側に配置されたフレーム16を備えている。フレーム16は、例えば、車両のセンターピラー(図示省略)の下端部近傍に配置されており、ボルト等の締結手段によって車両の車体を構成する骨格部材や補強部材等に一体的に固定されている。フレーム16は平面視で車両の幅方向内方側(又は外方側)へ向けて開口した凹形状に形成されている。
このフレーム16の内側にはスプール18が配置されている。スプール18は車両の前後方向を軸方向とする軸周りに回動自在にフレーム16に直接又は間接的に支持されている。このスプール18には長尺帯状に形成されたウエビングベルト20の長手方向基端部近傍が係止されている。スプール18が自らの軸周りの一方である巻取方向に回転すると、ウエビングベルト20はその長手方向基端側からスプール18の外周部に巻き取られ、ウエビングベルト20をその先端側へ引っ張ると、スプール18に巻き取られているウエビングベルト20が引き出されると共にスプール18が巻取方向とは反対の引出方向に回転する。
また、フレーム16の側方ではフレーム16にスプリングケース22が設けられている。このスプリングケース22の内側には渦巻きばね等のスプリングを含めて構成されたスプール付勢手段(図示)が収容されている。このスプール付勢手段はその一部がスプリングケース22やフレーム16に直接又は間接的に係止されており、他の一部が上記のスプール18に直接又は間接的に係合している。スプール付勢手段はスプール18の引出方向への回転に応じて付勢力が増し、その付勢力でスプール18を巻取方向へ付勢する。
上記のウエビング巻取装置14の上方側、すなわち、センターピラーの上端部近傍にはスルーアンカ24が設けられている。スルーアンカ24は、概ねシート12の幅方向を軸方向とする軸周りに回動可能に車体を構成する骨格部材や補強部材等に一体的に支持されている。スルーアンカ24には概ね車両の幅方向に貫通したスリット状の通過孔26が形成されている。
上記のように長手方向基端側がスプール18に係止されたウエビングベルト20は、スプール18から車両の上方へ引き出され、通過孔26を通過して下方に折り返されている。このように下方に折り返されたウエビングベルト20の先端部はアンカ28に係止されている。アンカ28はシート12の幅方向外側でシート12の下端側に配置されており、ウエビング巻取装置14のフレーム16と同様に車体を構成する骨格部材や補強部材等に取り付けられているか、又は、シート12を下方から支持する支持体(図示省略)に取り付けられている。
ウエビングベルト20のスルーアンカ24とアンカ28との間にはタング30が設けられている。図3に示されるように、タング30は基部32を備えている。基部32は金属平板により形成された芯金部を合成樹脂材によりモールドすることで形成されている。この基部32にはウエビング挿通孔34が形成されている。ウエビング挿通孔34は長手方向寸法がウエビングベルト20の幅方向寸法よりも大きなスリット状とされている。ウエビング挿通孔34は基部32を貫通しており、ウエビングベルト20がウエビング挿通孔34を通過している。また、基部32の外周端には挿込部としての挿込片36が形成されている。挿込片36は基部32を構成する合成樹脂材のモールドに埋設された芯金の一部とされ、基部32の外周端から芯金が突出することで形成されている。
ここで、図4に示されるように、タング30でのウエビング挿通孔34の貫通方向は、タング30の厚さ方向一方の側でのウエビング挿通孔34の開口端よりも、タング30の厚さ方向他方の側でのウエビング挿通孔34の開口端の方が、挿込片36の側に位置するようにタング30の厚さ方向に対して傾いており、図4に示されるように、シート12に対してシート12の幅方向外側にタング30が配置されている状態では、シート12の幅方向外方を向くウエビング挿通孔34の開口端よりもシート12の幅方向内方を向くウエビング挿通孔34の開口端の方が挿込片36から離れている(すなわち、シート12の幅方向外方から内方へ向けてウエビング挿通孔34はシート12の下方へ傾いている)。
しかも、本シートベルト装置10では、タング30の重心が基部32に設定されているので、上記のウエビング挿通孔34をウエビングベルト20が通過しタング30は、特にタング30が引っ張られない限り基部32よりも挿込片36の側がシート12の上方を向く。さらに、シート12の上方から下方へ伸びているウエビングベルト20は、挿込片36がシート12の上方へ向いたタング30に対し、ウエビング挿通孔34よりも上側ではタング30よりもシート12の幅方向外側を通り、シート12の幅方向外方へ向けて開口したウエビング挿通孔34の開口端からウエビング挿通孔34に入り込んでシート12の幅方向内方へ向けて開口したウエビング挿通孔34の開口端から抜け出ている。さらに、ウエビング挿通孔34から抜け出たウエビングベルト20は、タング30よりもシート12の幅方向内側を通ってアンカ28に係止されている。
タング30に対応してシート12のアンカ28とは反対側にはバックル(図示省略)が車体を構成する骨格部材や補強部材等に取り付けられているか、又は、シート12を下方から支持する支持体(図示省略)に取り付けられている。シート12に着座した乗員がウエビングベルト20を装着する際には、ウエビングベルト20が乗員の身体の前方に掛け回された状態でタング30は挿込片36がバックルに装着される。これにより、ウエビングベルト20は、タング30のウエビング挿通孔34における折り返し部分よりもスルーアンカ24の側がショルダベルトとされ、乗員の肩部から胸部がショルダベルトにより拘束される。これに対して、ウエビングベルト20のうちウエビング挿通孔34における折り返し部分よりもアンカ28の側はラップベルトとされ、乗員の腰部がラップベルトによって拘束される。
一方、図1及び図2に示されるように、本シートベルト装置10はタング収納手段としてのタングポケット50を備えている。タングポケット50は正面壁52を備えている。正面壁52は厚さ方向がシート12の幅方向に沿った板状に形成されており、上述したアンカ28よりもシート12の前後方向に沿った前方側に設けられている。また、正面壁52は、シート12を構成するシートクッション(座部)54においてクッション56を支持するシートクッションフレーム58のうち、シート12の幅方向外方を向く側面に対向している。
タング30の図示を省略した図5に示されるように、シート12の前後方向に沿った正面壁52の後端部からは、シートクッションフレーム58の側へ向けて後壁60が連続して形成されている。後壁60はシートクッションフレーム58の側面に突き当てられた状態で、図示しないボルト等の締結手段や、合成樹脂材により形成されたクリップ等の連結手段、又は、接着剤等の接着手段によりシートクッションフレーム58に一体的に固定されている。このように、後壁60がシートクッションフレーム58に突き当てられることで、正面壁52とシートクッションフレーム58との間には、少なくとも、ウエビングベルト20の厚さ寸法と基部32の厚さ寸法との和よりも充分に大きな空隙が確保されている。
シート12の上下方向に沿った正面壁52の中間部にはタング支持壁62が形成されている。タング支持壁62は正面壁52のシートクッションフレーム58と対向する側の面からシートクッションフレーム58の側へ向けて延出されている。このタング支持壁62には平面視で鉤状に屈曲した周壁64が形成されている。周壁64は、タング支持壁62の正面壁52側の端部、及び、後壁60に繋がったタング支持壁62の後端部(シート12の前後方向に沿ったタング支持壁62の後端部)を除くタング支持壁62の外周部からシート12の上下方向上方へ立設されている。
タング支持壁62の上側で正面壁52、後壁60、及び周壁64に囲まれた平面視略矩形(長方形)の空間はタング収容部66とされている。シート12の幅方向に沿ったタング収容部66の内幅寸法は、基部32の厚さ寸法よりも充分に大きく、また、シート12の前後方向に沿ったタング収容部66の内幅寸法は、ウエビングベルト20の幅方向及びタング30の厚さ方向の双方に対して直交する向きに沿った基部32の幅寸法よりも充分に大きく設定されている。このため、基部32の幅方向を概ねシート12の前後方向に沿わせ、且つ、基部32の厚さ方向をシート12の幅方向に沿わせた状態では、基部32をタング収容部66の内側に収容できる。
また、正面壁52の上端部からタング支持壁62の上面までのシート12の上下方向に沿った寸法は、挿込片36の基部32とは反対側の端部から基部32の挿込片36とは反対側の端部までの長さ(すなわち、基部32の厚さ方向及び幅方向の双方に対して直交する向きに沿ったタング30の全長)よりも短く設定されており、図4に示されるように、基部32の挿込片36とは反対側の端部がタング支持壁62の上面に接した状態では、タング30の挿込片36側の一部が正面壁52の上端よりも上方に突出する。
さらに、図5に示されるように、シート12の幅方向に沿った周壁64のタング収容部66とは反対側の面とシートクッションフレーム58との間には、シート12の上下方向に貫通する空隙が形成され、この空隙はウエビング通過部68とされている。シート12の幅方向に沿ったウエビング通過部68の内幅寸法(すなわち、シート12の幅方向に沿った周壁64とシートクッションフレーム58との間隔)はウエビングベルト20の厚さ寸法よりも充分に大きく設定されており、概ねシート12の上下方向にウエビング通過部68をウエビングベルト20が通過している。
一方、正面壁52の後壁60とは反対側の端部には前壁70が形成されている。前壁70は正面壁52の後壁60とは反対側の端部からシートクッションフレーム58の側へ向けて形成されている。但し、後壁60とは異なり、前壁70の正面壁52とは反対側の端部とシートクッションフレーム58との間にはウエビングベルト20の厚さ寸法よりも充分に大きな空隙が形成されており、前壁70の正面壁52とは反対側の端部とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過できる。
また、前壁70とタング支持壁62との間には干渉部としての干渉壁72が設けられている。干渉壁72はシートクッションフレーム58から正面壁52の側へ突出するように形成されている。上記のように、前壁70の正面壁52とは反対側の端部とシートクッションフレーム58との間はウエビングベルト20の通過が可能であるが、単にシート12の前後方向にウエビングベルト20が移動して前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過しようとすると干渉壁72がウエビングベルト20に干渉する。このため、ウエビングベルト20を適宜に湾曲させる等をして、意図的に干渉壁72を迂回させなくては前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過できないようになっている。
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態に作用並びに効果について説明する。
本シートベルト装置10では、シート12に着座した乗員がタング30をバックルの側(すなわち、シート12の幅方向に沿ってシート12のウエビング巻取装置14とは反対側)へ引っ張ると、スプール18に巻き取られているウエビングベルト20が引き出されると共に、スプリングケース22内に収容されたスプール付勢手段の付勢力に抗してスプール18が引出方向に回転する。
このようにして引き出されたウエビングベルト20は、通過孔26(スルーアンカ24)とウエビング挿通孔34(タング30)との間が乗員の肩部から胸部へかけて掛け回され、タング30よりも先端側が乗員の腰部に掛け回される。この状態でタング30がバックルに装着されると、ウエビングベルト20における通過孔26(スルーアンカ24)とウエビング挿通孔34(タング30)との間がショルダベルトとなって乗員の肩部から胸部がこのショルダベルトにより拘束され、ウエビングベルト20のウエビング挿通孔34(タング30)よりも先端側がラップベルトとなって乗員の腰部がこのラップベルトにより拘束される。
一方、乗員が降車する場合等に、バックルからタング30が外されると、スプリングケース22内に収容されたスプール付勢手段の付勢力でスプール18が巻取方向へ回転する。これにより、ウエビングベルト20がその長手方向基端側からスプール18に巻き取られて収納されると、スルーアンカ24よりもウエビングベルト20の前端側は、その長手方向が概ねシート12の上下方向に沿う。
このため、スルーアンカ24とタングポケット50との間でウエビングベルト20がウエビング挿通孔34を通過しているタング30は、その自重でウエビングベルト20にガイドされるように降下する。上記のように、ウエビング挿通孔34の形状やタング30の重心位置の関係上、タング30は基部32に対する挿込片36の突出方向がシート12の上方を向く。したがって、この姿勢でウエビングベルト20にガイドされるように下降したタング30は、基部32の挿込片36とは反対側からタングポケット50の内側に入り込む。
ここで、上記のように、基部32に対する挿込片36の突出方向がシート12の上方を向いた状態では、ウエビング挿通孔34よりも下側ではウエビングベルト20が基部32よりもシート12の幅方向内方側を通過しているため、タングポケット50にタング30が入り込むと、ウエビング通過部68に対してシート12の幅方向外方側に形成されているタング収容部66に基部32が当接し、基部32がタング収容部66によって下方から支持される。このようにして、タングポケット50にタング30が収容される。
図2に示されるように、タングポケット50は、アンカ28よりもシート12の前後方向に沿った前方側で、シートクッションフレーム58の幅方向外側の側面に設けられているので、シート12に着座した乗員は、身体を後方へ捻ったりしなくても、自然な状態のままタング30を掴むことができる。このため、乗員がウエビングベルト20を装着する際の操作性がよく、簡単にウエビングベルト20を装着できる。
一方、シート12に着座した乗員の腰部をウエビングベルト20のラップベルトが拘束した状態では、乗員の腰部近傍からアンカ28までは、シート12の上下方向下方に対して、シート12の前後方向後方へ傾斜する。ここで、タングポケット50のウエビング通過部68にはウエビングベルト20が通過しているが、タングポケット50がアンカ28よりもシート12の前後方向に沿った前方側に設けられている。このため、乗員の身体にウエビングベルト20が装着された状態でも、乗員の腰部近傍からアンカ28までの間が大きくタングポケット50に干渉されることなくウエビング通過部68を通過できるので、ウエビングベルト20を乗員が装着する際にも、タングポケット50が大きな抵抗になることはない。
さらに、上記のように、スプール18にウエビングベルト20を巻き取らせて格納した際には、タング30が自重でタングポケット50に収納されるので、乗員がタングポケット50にタング30を収納する作業を行なわなくてもよく、この意味でも操作性がよい。しかも、乗員がタングポケット50にタング30を収納する作業を行なわなくてもタングポケット50にタング30が収納されるので、ウエビングベルト20を使用していない状態では基本的にタングポケット50にタング30が収納されている。このため、乗員がウエビングベルト20を装着するためにタング30を掴むに際して、タング30を目視したり、手探りでタング30を探したりしなくても簡単にタング30を掴むことができる。
また、このように、スプール18にウエビングベルト20を巻き取らせて格納した際にはタング30がタングポケット50に収納されることから、ウエビングベルト20を使用しない場合にもタング30がウエビングベルト20にぶら下がっているような状態にならない。このため、車両の停止中は元より、車両の走行中にも大きく揺れ動くこともないので見栄えがよい。
さらに、上記のように、ウエビングベルト20を適宜に湾曲させる等をして、意図的に干渉壁72を迂回させれば前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過できるので、ウエビング巻取装置14等のシートベルト装置10の構成部品のメンテナンスを行なうにあたり、タングポケット50をシート12から取り外さなくてもよい。また、タングポケット50をシート12に装着した状態でも、意図的に干渉壁72を迂回させれば前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過できるので、車両にシートベルト装置10を搭載するにあたり、予めシート12にタングポケット50を組み付けておき、この状態で、ウエビング通過部68にウエビングベルト20を通すこともできる。
しかも、ウエビングベルト20を湾曲させるなどして意図的に干渉壁72を迂回させなければ、前壁70とシートクッションフレーム58との間を通過しようとするウエビングベルト20に干渉壁72が干渉して、前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20は通過できない。このため、不用意にウエビング通過部68からウエビングベルト20が抜け出てしまうことがない。
なお、本実施の形態では、タングポケット50をシートクッションフレーム58とは別体で構成して、ボルト等の締結手段や、合成樹脂材により形成されたクリップ等の連結手段、又は、接着剤等の接着手段によりタングポケット50をシートクッションフレーム58に一体的に固定した。しかしながら、上記のように、ウエビングベルト20を湾曲させるなどして意図的に干渉壁72を迂回させれば、ウエビングベルト20をタングポケット50の外側からウエビング通過部68に入り込ませたり、ウエビング通過部68からウエビングベルト20を抜き取ったりできるので、タングポケット50をシートクッションフレーム58に一体成形する構成としてもよい。
また、この点に関して更に補足すれば、タングポケット50をシートクッションフレーム58に対して着脱可能な構成とした場合には、前壁70とシートクッションフレーム58との間を通過しようとするウエビングベルト20に干渉壁72が干渉して、前壁70をシートクッションフレーム58に突き当てて、前壁70とシートクッションフレーム58との間をウエビングベルト20が通過できないようにしてもよい。
さらに、本実施の形態に係るシートベルト装置10では、ウエビング巻取手段としてのウエビング巻取装置14を車両のセンターピラー(図示省略)の下端部近傍に配置して車体に一体的に固定した構成であったが、ウエビング巻取装置の配置位置に関しては特に限定されるものではない。したがって、ウエビング巻取装置を車両のセンターピラーの上下方向中間部や上端部近傍に配置してもよいし、車両の天井等にウエビング巻取装置を設けてもよい。
このように、ウエビング巻取装置の配置位置に関しては何ら限定されないが、ウエビング巻取装置14のスプール18から引き出されたウエビングベルト20の少なくとも先端部、すなわち、アンカ28への係止部分よりも基端側(すなわち、ウエビングベルト20の中間部)がウエビングベルト20の先端部よりも上方に位置していれば、タング30はその自重でウエビングベルト20に案内されて下降してタングポケット50に収納される。
また、本実施の形態では、タング30の重心を基部32に設定したが、この基部32にタング30の重心を設定するに際しての具体的な態様に関しては何ら限定されるものではない。したがって、例えば、タング30の芯金部分のうち、基部32の側を重くすることで基部32にタング30の重心を設定してもよいし、芯金自体の重心はタング30の先端側に位置していても、基部32に施された合成樹脂材のモールドにより基部32にタング30の重心を設定してもよい。更には、基部32の側にタング30の重心位置を設定するために、ウエート(錘)をタング30に設ける構成としてもよい。
さらに、本実施の形態では、タング30に形成したウエビング挿通孔34の貫通方向を、上記のようにタング30の厚さ方向に対して傾けた構成であった。しかしながら、上記のようにタング30の重心位置を基部32の側に設定すれば、ウエビングベルト20にガイドされつつタング30がタングポケット50へ向けて降下する際、タング30は基部32の方から降下しようとするので、ウエビング挿通孔34の貫通方向をタング30の厚さ方向に対して傾けなくてもよい(すなわち、ウエビング挿通孔34の貫通方向をタング30の厚さ方向に沿わせてもよい)。
しかしながら、ウエビング巻取装置14のスプール18に巻き取られたウエビングベルト20はその張力で伸直しようとする。これに対して、ウエビング挿通孔34の貫通方向をタング30の厚さ方向に沿わせた場合には、タング30の厚さ方向が伸直したウエビングベルト20の長手方向に沿うことになる。このため、ウエビング挿通孔34の貫通方向をタング30の厚さ方向に沿わせた構成で、タング30の基部32が先端側よりも下側を向くと、ウエビング挿通孔34の開口縁部でウエビングベルト20が折り曲げられる。このようにウエビング挿通孔34の開口縁部でウエビングベルト20が折り曲げられると、ウエビング挿通孔34の開口縁部とウエビングベルト20との間の摩擦が大きくなる。
したがって、タング30をタングポケット50に収納させる際に、タング30を円滑に降下させることを考慮した場合、本実施の形態のように、ウエビング挿通孔34の貫通方向をタング30の厚さ方向に対して傾けることが好ましい。
また、本実施の形態では、タング30がタングポケット50に収納された状態で、タング30の先端側(基部32とは反対側)がタングポケット50から上方へ突出した構成、すなわち、タング30はその基部32側のみがタングポケット50に収納される構成であった。しかしながら、タング30の全てがタングポケット50に収納される構成であってもよい。
さらに、本実施の形態では、タングポケット50が前壁70を備える構成であったが、機能的な点から言えば前壁70はなくてもよい。