上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
上記の車両用シートベルト装置において、上記リトラクタは、上記第1シートベルト及び上記第2シートベルトの巻き取り軸を構成するスプールと、上記スプールをベルト巻き取り方向に付勢するベルト巻き取り機構と、を有し、
上記第1シートベルトは、上記タングが取付けられたベルト先端部とは反対側のベルト基端部において上記スプールに連結され、上記第2シートベルトは、上記バックルが取付けられたベルト先端部とは反対側のベルト基端部において上記スプールに連結されているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、第1シートベルトがスプールから引き出されて最も伸長した状態になるまでタングを引っ張り、また第2シートベルトがスプールから引き出されて最も伸長した状態になるまでバックルを引っ張ることが可能になる。
上記の車両用シートベルト装置において、上記第1シートベルトの上記ベルト基端部と上記第2シートベルトの上記ベルト基端部とが互いに重ねられて接合されているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、2つのシートベルトは、互いに重ねられた状態で、ベルト巻き取り機構によるベルト巻き取り方向の巻き取り荷重にしたがってリトラクタのスプールに巻き取られる一方で、この巻き取り荷重に抗してリトラクタのスプールから引き出される。この場合、2つのシートベルトを互いに重ねた状態でスプールに巻き取ることができるため、スプールを小型化できる。
上記の車両用シートベルト装置において、上記リトラクタは、上記スプールを収容し且つ車両シートのシートクッションに対して固定されるケースを有し、
上記ケースは、上記スプールから上記第1シートベルトを引き出すための第1引出穴と、上記スプールから上記第2シートベルトを引き出すための第2引出穴と、を有し、上記シートクッションに対して固定された状態で上記第1引出穴及び上記第2引出穴が当該ケースの左右方向の両側に配置されるように構成されているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、車両シートのシートクッションに対してリトラクタのケースが固定されたとき、スプールに巻き取られている第1シートベルトをこのケースの第1引出穴を通じて左右方向の一方へ引き出すことができ、またスプールに巻き取られている第2シートベルトをこのケースの第2引出穴を通じて左右方向の他方へ引き出すことができる。このため、車両シートに着座した乗員に対して2つのシートベルトを左右から引き回すことができる。
上記の車両用シートベルト装置において、上記ケースは、上記シートクッションに対して固定された状態で上記第1引出穴と上記第2引出穴との位置が当該ケースの上下方向について異なるように構成されているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、リトラクタのケースにおいて第1引出穴と第2引出穴との上下方向の位置を異ならせることによって、スプールに巻き取られている2つのシートベルトをそれぞれ左右逆方向に円滑に引き出すことができる構造を提供できる。
上記の車両用シートベルト装置において、上記ケースは、プレート部材を介して上記シートクッションの下面に固定されており、上記プレート部材には、上記ケースの上記第1引出穴から引き出された上記第1シートベルトが通る第1挿通穴と、上記ケースの上記第2引出穴から引き出された上記第2シートベルトが通る第2挿通穴と、が設けられているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、リトラクタのケースの第1引出穴から左右方向の一方へ引き出された第1シートベルトを、プレート部材の第1挿通穴を通じてシートクッションの上面側までガイドできる。また、リトラクタのケースの第2引出穴から左右方向の他方へ引き出された第2シートベルトを、プレート部材の第2挿通穴を通じてシートクッションの上面側までガイドできる。このため、リトラクタのケースをシートクッションに固定するのに用いるプレート部材を、2つのシートベルトのそれぞれをガイドするための手段として兼用できる。
上記の車両用シートベルト装置において、上記プレート部材は、上記シートクッションの上記下面に固定された状態で前端側が後端側よりも低くなるように傾斜する傾斜部を有し、上記傾斜部に上記ケースが固定されるとともに、上記ケースの上記第1引出穴よりも前方に上記第1挿通穴が配置され、且つ上記ケースの上記第2引出穴よりも前方に上記第2挿通穴が配置されるように構成されているのが好ましい。
このシートベルト装置によれば、ケースの第1引出穴から左右方向の一方へ引き出された第1シートベルトを、プレート部材の第1挿通穴を通じてシートクッションの上面側まで上向き斜め前方へガイドできる。また、ケースの第2引出穴から左右方向の他方へ引き出された第2シートベルトを、プレート部材の第2挿通穴を通じてシートクッションの上面側まで上向き斜め前方へガイドできる。このため、ベルト装着時において乗員の前方移動に対する拘束性に優れたシートベルト装置を提供できる。
上記の車両シートにおいて、上記シートクッションは、当該シートクッションの上下方向に上記第1シートベルト及び上記第2シートベルトをいずれも挿通可能に設けられた貫通穴を有し、
上記タングは、上記リトラクタから上記シートクッションの上記貫通穴を通じて上面側まで引き出された上記第1シートベルトに取付けられ、
上記バックルは、上記リトラクタから上記シートクッションの上記貫通穴を通じて上面側まで引き出された上記第2シートベルトに取付けられているのが好ましい。
この車両シートによれば、リトラクタのケースから引き出された2つのシートベルトはいずれも、シートクッションの貫通穴を通じて下面側から上面側までガイドされる。このため、2つのシートベルトをリトラクタのケースからシートクッションの上面側までガイドするためのガイド経路の長さを短く抑えることができる。
上記の車両シートにおいて、上記貫通穴は、上記シートクッションの下面側から上面側へと上斜め前方へと延びており、上記シートクッションの上面における開口部が上記リトラクタよりも前方に設けられているのが好ましい。
この車両シートによれば、リトラクタのケースから引き出された2つのシートベルトはいずれも、シートクッションの貫通穴を通じて下面側から上面側まで上斜め前方へとガイドされる。このため、ベルト装着時において乗員の前方移動に対する拘束性に優れた車両シートを提供できる。
上記の車両シートにおいて、上記貫通穴の上記開口部は、上記シートクッションの前後方向の仮想中心線よりも前方に設けられているのが好ましい。
この車両シートによれば、貫通穴の開口部をシートクッションの前後方向の中央部よりも前方に設けることによって、タング及びバックルをいずれもベルト装着前に乗員の大腿部の側方あたりに配置することができる。このため、背中に荷物を背負っていたり、肩や首から荷物を吊り下げていたり、荷物を抱えていたり、また隣の乗員との距離が近い状態で車両シートに窮屈な姿勢で着座している乗員であっても、この乗員は、身体を捩ったり斜め後方に向けたりすることなく、大腿部の側方に目線を下げることによってタング及びバックルを容易に見つけることができる。このため、ベルト装着時の乗員におけるタング及びバックルの視認性を向上させることができる。
上記の車両シートにおいて、上記シートクッションは、上記乗員の複数が横並びで着座可能に寸法設定されており、上記下面のうち各乗員の着座位置の下方に上記シートベルトモジュールが固定されているのが好ましい。
この場合、乗員の複数が横並びで着座可能な車両シートに設けられた車両用シートベルト装置の操作の容易化と構造の簡素化を両立することができる。
以下、車両に設けられる車両用シートベルト装置(以下、単に「シートベルト装置」ともいう。)の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
このシートベルト装置の説明のための図面において、特に断りのない限り、前方を矢印FRで示し、上方を矢印UPで示し、右方を矢印RHで示し、左方を矢印LHで示している。また、左右方向を矢印Xで示し、上下方向を矢印Yで示し、前後方向を矢印Zで示している。これらの向きや方向は、車両における当該向きや方向と一致している。
(実施形態1)
図1及び図2に示されるように、車両シート1は、車両としての幼児専用車のフロアFに装着されるものである。この車両シート1は、3名掛けのシートであり、乗員としての3名の幼児が横並びで着座可能に寸法設定されたシートクッション2と、各幼児の背もたれを構成するシートバック7と、を備えている。シートクッション2及びシートバック7はともに、フレーム8を介してフロアFに固定されている。
この車両シート1は、シートクッション2の1名あたりの幅寸法が一般車のものに比べて小さく、且つシートクッション2の前後方向Zの寸法に対するシートバック7の上下方向Yの寸法の比率が一般車のものに比べて大きい。また、互いに隣接する2つの車両シート1の前後方向の間隔が一般車のものに比べて狭い。
車両シート1は、シートクッション2の下面2bに固定される3つのシートベルト装置10を備えている。実施形態1のシートベルト装置10は、シートクッション2の下面2bのうち各幼児の着座位置の下方に固定されている。3つのシートベルト装置10はいずれも、シートクッション2の上面2aに着座した幼児を、2つのシートベルト17,18で拘束するためのシートベルトモジュールとして構成されている。
3つのシートベルト装置10は、左側の幼児の着座位置に対応したシートベルト装置10である第1シートベルト装置10Aと、中央の幼児の着座位置に対応したシートベルト装置10である第2シートベルト装置10Bと、右側の幼児の着座位置に対応したシートベルト装置10である第3シートベルト装置10Cと、に分類される(図1参照)。
各シートベルト装置10は、2つのシートベルト17,18と、これら2つのシートベルト17,18のそれぞれを引き出し可能に巻き取る兼用のリトラクタ12と、を備えている。即ち、1つのリトラクタ12が2つのシートベルト17,18に兼用されている。
一方の第1シートベルト17には、プレート形状を有する金属製のタング19が取付けられている。また、他方の第2シートベルト18には、タング19と係合及び係合解除が可能なバックル20が取付けられている。これら2つのシートベルト17,18はいずれも、長尺状のウェビングとして構成されている。バックル20には、タング19との係合解除操作のための操作ボタン21が押動可能に設けられている。
タング19は、挿入口20a(図2参照)に挿入されることによってバックル20と係合してロック状態になる。一方で、ロック状態のタング19は、バックル20の操作ボタン21が操作されることによってバックル20との係合が解除されて挿入口20aから抜き出されたロック解除状態になる。
なお、タング19及びバックル20は、幼児の手でも把持し易い大きさに寸法設定されるのが好ましい。また、タング19及びバックル20は、タング19をバックル20に挿入する操作と、バックル20の操作ボタン21を押圧する操作のいずれも、幼児であっても無理のない力で実行できるように構成されるのが好ましい。
ここで、シートクッション2は、当該シートクッション2の上下方向Yに2つのシートベルト17,18をいずれも挿通可能に設けられた4つの貫通穴3,4,5,6を有する。これらの貫通穴3,4,5,6は、左右方向Xに離間して配置され、且ついずれも前後方向Zの同一位置に設けられている。
図2には、貫通穴3のみが示されているが、これらの貫通穴3,4,5,6はいずれも、シートクッション2の下面2b側から上面2a側へと上斜め前方へと延びており、且つシートクッション2の上面2aにおける開口部(貫通穴3においては開口部3a)がリトラクタ12よりも前方に設けられている。特に、この開口部がシートクッション2の前後方向Zの仮想中心線Mよりも前方に設けられている。
第1シートベルト装置10Aにおいて、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴4を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト17にタング19が取付けられている。また、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴3を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト18にバックル20が取付けられている。
第2シートベルト装置10Bにおいて、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴5を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト17にタング19が取付けられている。また、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴4を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト18にバックル20が取付けられている。
第3シートベルト装置10Cにおいて、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴6を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト17にタング19が取付けられている。また、リトラクタ12からシートクッション2の貫通穴5を通じて上面2a側まで引き出されたシートベルト18にバックル20が取付けられている。
シートクッション2の貫通穴4は、第1シートベルト装置10Aのシートベルト17と第2シートベルト装置10Bのシートベルト18との両方を通すための貫通穴として兼用されている。また、シートクッション2の貫通穴5は、第2シートベルト装置10Bのシートベルト17と第3シートベルト装置10Cのシートベルト18との両方を通すための貫通穴として兼用されている。
なお、参考形態では、このような構造に代えて、第1シートベルト装置10Aのシートベルト17と第2シートベルト装置10Bのシートベルト18をそれぞれ別の貫通穴に通し、また第2シートベルト装置10Bのシートベルト17と第3シートベルト装置10Cのシートベルト18をそれぞれ別の貫通穴に通す構造を採用することもできる。
また、シートクッション2における貫通穴の数は、シートベルト装置10の設置数などに応じて適宜に変更することができる。
上記の3つのシートベルト装置10はいずれも同一の構造であるため、以下では、第1シートベルト装置10Aをシートベルト装置10として説明し、第2シートベルト装置10B及び第3シートベルト装置10Cについての説明を省略する。
図3に示されるように、各シートベルト装置10において、タング19は、シートベルト17のベルト先端部17aに取付けられており、バックル20は、シートベルト18のベルト先端部18aに取付けられている。
リトラクタ12は、スプール13と、ベルト巻き取り機構14と、ELR機構15と、ケース16と、を有する。
スプール13は、2つのシートベルト17,18の巻き取り軸を構成する円筒形状或いは円柱形状の部材であり、回転軸Lまわりに回転可能に構成されている。
ベルト巻き取り機構14は、巻き取りばねによってスプール13をベルト巻き取り方向(図4中のD1で示される方向)に常時に弾性付勢するように構成されている。このため、2つのシートベルト17,18はいずれも、外部荷重が解放された状態で巻き取りばねによる弾性付勢力にしたがって自動でスプール13に巻き取られるリトラクタ式ベルトとなる。
このようなリトラクタ式ベルトは、ベルト装着時に幼児の服装、荷物、体格などの違いに左右されることなくベルト長さを適正に調整でき、また離席時にベルトを自動で巻き取ることで邪魔になるのを防ぐことができる点で有利である。
ELR機構15は、衝突時などの緊急時にシートベルト17,18が強い衝撃を受けるとスプール13からのシートベルト17,18の引き出しを自動的にロックする機能を有する。このELR機構15によれば、平常時には幼児がシートベルト17,18によって強く拘束されない一方で、緊急時には幼児がシートベルト17,18によって強く拘束される。このようなELR機構15を有するリトラクタ12は、「緊急ロック式巻き取り装置」とも称呼される。
リトラクタ12のケース16は、スプール13を収容しており、プレート部材11を介して車両シート1のシートクッション2の下面2bに固定されるように構成されている。
プレート部材11には、ケース16の第1引出穴16a(図4参照)から引き出されたシートベルト17が通る第1挿通穴11aと、ケース16の第2引出穴16bから引き出されたシートベルト18が通る第2挿通穴11bと、が設けられている。このプレート部材11において、第1挿通穴11aはケース16の第1引出穴16aよりも前方に配置され、且つ第2挿通穴11bはケース16の第2引出穴16bよりも前方に配置されている。
このプレート部材11は、シートクッション2の下面2bに固定された状態で前端側が後端側よりも低くなるように傾斜する傾斜部11cを有し、この傾斜部11cの裏面にケース16が固定されている。このため、リトラクタ12がプレート部材11を介してシートクッション2の下面2bに固定されたとき、スプール13は前端側が後端側よりも低くなるように傾斜して配置され、回転軸Lが水平方向に対して傾いた状態に設定される。
図4に示されるように、ケース16は、スプール13からシートベルト17を引き出すための第1引出穴16aと、スプール13からシートベルト18を引き出すための第2引出穴16bと、を有する。
このケース16は、シートクッション2に対して固定された状態で第1引出穴16aと第2引出穴16bとの位置が当該ケース16の上下方向Yについて異なるように構成されている。即ち、このケース16では、第1引出穴16aが第2引出穴16bよりも上下方向Yの低所に配置されるようになっている。
なお、必要に応じて、このような配置を、第2引出穴16bが第1引出穴16aよりも上下方向Yの低所になるような配置に変更することもできる。
シートベルト装置10が初期状態P1にあるとき、スプール13はベルト巻き取り機構14によってベルト巻き取り方向D1に付勢されている。このとき、2つのシートベルト17,18は、互いに重ねられた状態でスプール13に巻き取られ、且つそれぞれがベルト巻き取り方向D1の引っ張り荷重を受けている。
このため、タング19はシートベルト17の張力によってシートクッション2の貫通穴4の近傍に保持され、バックル20はシートベルト18の張力によってシートクッション2の貫通穴3の近傍に保持される。
一方で、タング19がシートベルト17の張力に抗して外部荷重で引っ張られることによって、或いはバックル20がシートベルト18の張力に抗して外部荷重で引っ張られることによって、スプール13がベルト引き出し方向D2へ回転して2つのシートベルト17,18が引き出される。そして、シートベルト装置10を、図5に示されるような最大引き出し状態P2に設定することができる。
図5に示されるように、シートベルト17は、タング19が取付けられたベルト先端部17aとは反対側のベルト基端部17bにおいてスプール13に連結されている。また、シートベルト18は、バックル20が取付けられたベルト先端部18aとは反対側のベルト基端部18bにおいてスプール13に連結されている。
図6に示されるように、スプール13の外表面13aは、2つのシートベルト17,18のための巻き取り面となる。このスプール13の内部空間13bには、円柱形状の軸芯部材13cが収容されている。ここで、2つのシートベルト17,18は長尺状の一本のベルト部材によって構成されている。即ち、シートベルト17は、このベルト部材の一部である第1のベルト部分に相当し、シートベルト18は、このベルト部材の残部である第2のベルト部分に相当する。
このベルト部材は、内部空間13bにおいて、軸芯部材13cの周りに巻き回された状態で、シートベルト17のベルト基端部17bとシートベルト18のベルト基端部18bとが互いに重ねられて縫合によって接合されている。この場合、スプール13の内部空間13bに縫合部22が配置されている。
なお、スプール13の内部空間13bでは軸芯部材13cの周りにベルト部材を巻き回すのみとし、スプール13の外部でシートベルト17のベルト基端部17bとシートベルト18のベルト基端部18bとを互いに重ねて縫合するようにしてもよい。この場合、スプール13の外部に縫合部22が配置される。
また、シートベルト17のベルト基端部17bとシートベルト18のベルト基端部18bとを接合するための手段として、縫合に代えて或いは加えて、接着、リベット止めなどを用いることもできる。
また、2つのシートベルト17,18を、別体の2つのベルト部材によって構成し、各シートベルト(ベルト部材)をスプール13に独立して連結するようにしてもよい。この場合、シートベルト17のベルト基端部17bとシートベルト18のベルト基端部18bとを互いに重ねて縫合(接合)する構造を採用してもよいし、或いは各シートベルトをスプール13に連結するのみで他方のシートベルトと縫合(接合)しない構造を採用してもよい。また、2つのシートベルト17,18をスプール13に連結する構造については、必要に応じてその他の構造を採用することもできる。
次に、上記構成のシートベルト装置10のベルト装着状態P3について、図7〜図9を参照しながら説明する。
図7に示されるように、車両シート1のシートクッション2の上面2aに着座した幼児Cは、ベルト装着時にタング19とバックル20を互いに係合させる。これにより、シートベルト装置10がベルト装着状態P3になる。一方で、幼児Cがタング19とバックル20との係合を解除することによってベルト脱着状態になる。
幼児Cは、ベルト装着時の操作として、タング19とバックル20とを係合させる係合操作を行う。このとき、タング19を把持してバックル20との係合位置まで引っ張って係合させる操作(以下、「第1の係合操作」という。)と、バックル20を把持してタング19との係合位置まで引っ張って係合させる操作(以下、「第2の係合操作」という。)と、タング19とバックル20の双方を把持して互いに近づけるようにそれぞれを引っ張って係合させる操作(以下、「第3の係合操作」という。)の3つの係合操作のうちのいずれかが選択される。
例えば、第1の係合操作において、ベルト巻き取り機構14の巻き取りばねによる弾性付勢力に応じたベルト巻き取り方向D1の巻き取り荷重Fに抗してタング19がバックル20に向けて引っ張られる。そして、このタング19をバックル20に係合させたときには、スプール13から引き出されたシートベルト17が張られた状態になる一方で、スプール13から引き出されたシートベルト18は一時的に弛んだ状態になる。その後、タング19及びバックル20は、幼児Cによる把持から解放されることによって、シートベルト18の弛みを解消しながら幼児Cの身体の左右方向Xの中央部(腹部の前側)にセンタリングされる。
同様に、第2の係合操作において、上記の巻き取り荷重Fに抗してバックル20がタング19に向けて引っ張られる。そして、このバックル20をタング19に係合させたときには、スプール13から引き出されたシートベルト18が張られた状態になる。その後、タング19及びバックル20は、幼児Cによる把持から解放されることによって、シートベルト17の弛みを解消しながら幼児Cの身体の左右方向Xの中央部にセンタリングされる。
また、第3の係合操作において、上記の巻き取り荷重Fに抗してタング19とバックル20の双方が互いに近づくように引っ張られる。このとき、2つのシートベルト17,18のそれぞれの引き出しに要する荷重は実質的に巻き取り荷重Fの半分になる。そして、タング19とバックル20を互いに係合させたときには、スプール13から引き出された2つのシートベルト17,18はともに張られた状態になる。幼児Cの身体の中央部でタング19とバックル20を係合させたときには、これらタング19及びバックル20は、幼児Cによる把持から解放されても殆ど動くことなくその位置に留まる。
このように、2つのシートベルト17,18を1つのリトラクタ12で巻き取る構造を採用することによって、幼児Cが上記の3つの係合操作のいずれを選択した場合でも、互いに係合したタング19及びバックル20は、幼児Cの身体の左右方向Xの中央に自動でセンタリングされるように動く。
図8に示されるように、ベルト装着後において、シートベルト17及びタング19は、リトラクタ12のスプール13からベルト巻き取り方向D1の引っ張り荷重Faを受ける。また、シートベルト18及びバックル20は、リトラクタ12のスプール13からベルト巻き取り方向D1の引っ張り荷重Fbを受ける。2つの引っ張り荷重Fa,Fbはいずれも、実質的に上記の巻き取り荷重Fの半分になる。即ち、引っ張り荷重Faと引っ張り荷重Fbの和が巻き取り荷重Fの値に相当する。
図9に示されるように、ベルト装着後は、幼児Cの腹部がシートベルト17,18によって拘束される。ELR機構15が作動していない平常時は、幼児Cの身体の動きに応じてシートベルト17,18の引き出しが許容されるため、シートベルト17,18による幼児Cの拘束力は強くない。一方で、緊急時にELR機構15が作動してシートベルト17,18の引き出しがロックされると、シートベルト17,18による幼児Cの拘束力が強まる。
シートベルト装置10のベルト装着後は、バックル20が幼児Cの身体の中央部に位置する。この位置は、幼児Cが目線を下げると自然と視界に入る位置である。このため、幼児Cは目線を真下に向けることによって、ベルト装着であることを容易に認識できる。また、このときバックル20の操作ボタン21を視界に捉えることができ、ベルト脱着時に操作ボタン21を押圧するときに、目線を真下に向けた状態でこの操作ボタン21の操作を容易に行うことができる。
以下に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
上述の実施形態1によれば、車両シート1に固定されるシートベルト装置10において、2つのシートベルト17,18に対して1つのリトラクタ12が兼用されている。このため、シートベルト17,18に対するリトラクタ12の数を少なく抑えることができ、シートベルト装置10の構造を簡素化することができる。この場合、シートベルト装置10の低コスト化、軽量化及び省スペース化などを図るのに有利である。
このシートベルト装置10において、幼児Cは、ベルト装着時の操作を3つの係合操作の中から選択的に実行できる。従って、ベルト装着時の係合操作が1つに限られず自由度があるため、幼児Cは必要に応じてタング19やバックル20を操作し易い。特に、タング19とバックル20の双方を互いに近づけるように引っ張ることによって、幼児Cは腹部の前側でタング19とバックル20を見ながらこれらを容易に係合させることができる。例えば、ベルト装着時の操作に慣れていない幼児Cであっても、この操作を容易に行うことができる。
また、2つのシートベルト17,18を同時に引き出すことで、片側のシートベルトの引き出しに要する荷重が半分になる。この場合、幼児Cは2つのシートベルト17,18のそれぞれを低荷重で引き出すことができ引き出し操作がやり易い。
しかも、1つのリトラクタ12で2つのシートベルト17,18を巻き取る構造を採用することによって、タング19とバックル20との係合部分をリトラクタ12による巻き取り荷重にしたがって幼児Cの腹部の前側に自動で設定することができる。このため、ベルト脱着時に幼児Cは、身体を左右に捻ったり頭部を左右に動かしたりする必要がなく、腹部の前側でタング19とバックル20との係合解除操作を容易に行うことができる。例えば、ベルト脱着時の操作に慣れていない幼児Cであっても、この操作を容易に行うことができる。
以上のごとく、上述の実施形態1によれば、乗員の複数Cが横並びで着座可能な車両シート1に設けられたシートベルト装置10の操作の容易化と構造の簡素化を両立できる技術を提供することができる。
上記のシートベルト装置10によれば、シートベルト17がベルト基端部17bにおいてスプール13に連結され、シートベルト18がベルト基端部18bにおいてスプール13に連結されているため、シートベルト17がスプール13から引き出されて最も伸長した状態になるまでタング19を引っ張り、またシートベルト18がスプール13から引き出されて最も伸長した状態になるまでバックル20を引っ張ることが可能になる。
上記のシートベルト装置10によれば、2つのシートベルト17,18は、互いに重ねられた状態で、ベルト巻き取り機構14によるベルト巻き取り方向D1の巻き取り荷重Fにしたがってリトラクタ12のスプール13に巻き取られる一方で、この巻き取り荷重Fに抗してリトラクタ12のスプール13から引き出される。この場合、2つのシートベルト17,18を互いに重ねた状態でスプール13に巻き取ることができるため、スプール13を小型化できる。
上記のシートベルト装置10によれば、車両シート1のシートクッション2に対してリトラクタ12のケース16が固定されたとき、スプール13に巻き取られているシートベルト17をこのケース16の第1引出穴16aを通じて左右方向の一方へ引き出すことができ、またスプール13に巻き取られているシートベルト18をこのケース16の第2引出穴16bを通じて左右方向の他方へ引き出すことができる。このため、車両シート1に着座した幼児Cに対して2つのシートベルト17,18を左右から引き回すことができる。
上記のシートベルト装置10によれば、リトラクタ12のケース16において第1引出穴16aと第2引出穴16bとの上下方向の位置を異ならせることによって、スプール13に巻き取られている2つのシートベルト17,18をそれぞれ左右逆方向に円滑に引き出すことができる構造を提供できる。
上記のシートベルト装置10によれば、リトラクタ12のケース16の第1引出穴16aから左右方向の一方へ引き出されたシートベルト17を、プレート部材11の第1挿通穴11aを通じてシートクッション2の上面2a側まで上向き斜め前方へガイドできる。また、リトラクタ12のケース16の第2引出穴16bから左右方向の他方へ引き出されたシートベルト18を、プレート部材11の第2挿通穴11bを通じてシートクッション2の上面2a側まで上向き斜め前方へガイドできる。このため、リトラクタ12のケース16をシートクッション2に固定するのに用いるプレート部材11を、2つのシートベルト17,18のそれぞれをガイドするための手段として兼用できる。また、ベルト装着時において幼児Cの前方移動に対する拘束性に優れたシートベルト装置10を提供できる。
上記の車両シート1によれば、リトラクタ12のケース16から引き出された2つのシートベルト17,18はいずれも、シートクッション2の貫通穴3,4,5,6のいずれかを通じて下面2b側から上面2a側までガイドされる。このため、2つのシートベルト17,18をリトラクタ12のケース16からシートクッション2の上面2a側までガイドするためのガイド経路の長さを短く抑えることができる。
上記の車両シート1によれば、リトラクタ12のケースから引き出された2つのシートベルト17,18はいずれも、シートクッション2の貫通穴3,4,5,6のいずれかを通じて下面2b側から上面2a側まで上斜め前方へとガイドされる。このため、ベルト装着時において幼児Cの前方移動に対する拘束性に優れた車両シート1を提供できる。
上記の車両シート1によれば、貫通穴3,4,5,6のうちシートクッション2の上面2aにおける開口部を、シートクッション2の前後方向Zの中央部よりも前方に設けることによって、タング19及びバックル20をいずれもベルト装着前に幼児Cの大腿部の側方あたりに配置することができる。このため、背中に荷物を背負っていたり、肩や首から荷物を吊り下げていたり、荷物を抱えていたり、また隣の幼児Cとの距離が近い状態で車両シートに窮屈な姿勢で着座している幼児Cであっても、この幼児Cは、身体を捩ったり斜め後方に向けたりすることなく、大腿部の側方に目線を下げることによってタング19及びバックル20を容易に見つけることができる。このため、ベルト装着時の幼児Cにおけるタング19及びバックル20の視認性を向上させることができる。
次に、実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
(実施形態2)
図10に示されるように、実施形態2のシートベルト装置110では、リトラクタ112の構造についてのみ、実施形態1のシートベルト装置10のリトラクタ12の構造と相違している。
その他の構成は、実施形態1と同様である。
図10及び図11に示されるように、リトラクタ112を構成するスプール113は、互いに隣接した2つの巻き取り面113a,113bを有し、回転軸Lまわりに回転可能に構成されている。このリトラクタ112では、シートベルト17がスプール113の巻き取り面113aに引き出し可能に巻き取られ、またシートベルト18がスプール113の巻き取り面113bに引き出し可能に巻き取られるようになっている。
実施形態2のシートベルト装置110によれば、リトラクタ112のスプール113が2つの巻き取り面113a,113bを備えるため、2つのシートベルト17,18がスプール113から引き出されるときやスプール113に巻き取られるときに互いに干渉しにくい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
上述の実施形態では、2つのシートベルト17,18を1つのリトラクタ12で引き出し可能に巻き取る場合について例示したが、これに代えて、2つのシートベルト17,18に加えて1つ或いは複数のシートベルトの巻き取りをリトラクタ12で兼用することもできる。この場合、2つのシートベルト17,18を含む複数のシートベルトを1つのリトラクタ12で引き出し可能に巻き取ることができる。
上述の実施形態では、シートベルト装置10,110を3名掛けの車両シート1に固定する場合について例示したが、このシートベルト装置10,110を2名掛けなどの車両シートに固定することもできる。
上述の実施形態では、リトラクタ12のケース16の左右方向Xの両側に第1引出穴16a及び第2引出穴16bを設け、且つ第1引出穴16aと第2引出穴16bの上下方向Yの位置を異ならせる場合について例示したが、第1引出穴16a及び第2引出穴16bのそれぞれの位置はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更が可能である。
上述の実施形態では、プレート部材11に傾斜部11cを設ける場合について例示したが、これに代えて、この傾斜部11cを省略し、プレート部材11全体が水平面に沿って延在するような構造を採用することもできる。
上述の実施形態では、リトラクタ12のケース16がプレート部材11を介して車両シート1のシートクッション2の下面2bに固定される場合について例示したが、これに代えて、ケース16がシートクッション2の下面2bに直に固定される構造を採用することもできる。
また、リトラクタ12のケース16がシートクッション2の下面2bに固定される構造に代えて、このケース16がプレート部材11を介して或いは直にシートクッション2の側面に固定される構造を採用することもできる。
上述の実施形態では、車両シート1のシートクッション2に設けられた貫通穴3,4,5,6はいずれも、シートクッション2の下面2b側から上面2a側へと上斜め前方へと延びている場合について例示したが、これら貫通穴3,4,5,6の延びる方向はこれに限定されるものではなく、例えば上下方向Yに延びるように変更することもできる。
また、これら貫通穴3,4,5,6のシートクッション2の上面2aにおける開口部の位置は、仮想中心線Mよりも前方の位置のみに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更が可能である。
上述の実施形態では、幼児専用車の車両シート1に設けられるシートベルト装置10,110について例示したが、このシートベルト装置10,110の構造を、商用車の車両シートに設けられるシートベルト装置の構造に適用することもできる。