JP2010043335A - 金属板、マグネシウム合金板とその圧延製造方法および圧延製造装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、難加工性の金属板、マグネシウム合金板の提供を目的とする。
【解決の手段】 板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【解決の手段】 板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、難加工性材料の金属板、マグネシウム合金板とその圧延製造方法および圧延製造装置に関し、特に板材の温間圧延工程における板縁割れの発生を防止して圧延の持続性と生産性を高めることにより、低コスト、高品質の製品板材の提供を目的とする。
近年、地球温暖化に伴う省エネルギー技術への投資が盛んになり、新たな開発の鍵技術として難加工性材料の加工プロセスが見直されつつある。
運輸機械では内燃機関から電動モーターへの移行が着実に進んでおり、モーターや電源装置のエネルギー変換効率を向上する鍵技術としてエネルギー損失の少ない電磁鋼板の開発が進められている。その成果として燃料消費の少ないハイブリッドカーが世界的に好評を得て量産されている。
また、エネルギー源として燃料電池が注目されているが、高エネルギー密度の電池の実用化を目指す上で電池内部のセパレータ材として安価で高耐食性の高合金板の需要が顕在化してきた。
家電製品においても、鉄鋼やアルミ合金などの実用材料に比べて比強度が高く、意匠性のあるマグネシウム(Mg)合金のプレス成形用板材が開発されている。プレス成形により携帯パソコンのケースが作成され、このケースを用いたパソコンは高付加価値製品として安価な量販製品に対する差別化に成功した。
これらの材料は何れも硬くて脆い難加工性材料であり、鉄鋼やアルミ合金などの実用材料に比べて、以下の特徴がある。(1)製品特性を極限近くまで向上する必要があり、相対的に加工性が犠牲にされる傾向にある。(2)限られた用途で生産量が少ないが、多品種少量生産になるので小額の設備投資しか出来ない場合が多い。(3)製品の寸法形状によって種々の加工工程が使い分けられ、それらの異種技術間のコスト競争が厳しい。(4)生産は小規模企業が主体であり、産学官で連携して技術開発が進められる。(5)企業の開発技術は秘匿化される傾向であり、大学など公的研究機関の基礎研究成果が公表される。
難加工性材料の金属板の圧延による製造は、1990年代に新素材開発が盛んであった頃に、ラボレベルでの新プロセスが提案された。特に常温で加工すると割れが生じて製品が得られない問題に対して、素材を加熱して割れを防止する温間圧延が適用され、素材や工具の加熱装置が圧延ラインに組み込まれた。特許文献1には温間圧延プロセスが開示された。鉄鋼圧延の素材スラブ幅端部の局所加熱で実績のあった電磁誘導加熱を用いて被圧延板幅全体をオンライン加熱するアイディアであり、近年鉄鋼の熱延でシードバーヒーターとして実用化された。特許文献2ではオンラインの加熱装置と熱処理装置を利用するリバース式のコイル圧延技術が開示された。
近年の技術開発のポイントは、これらの既存技術の最適化を進めて板材の温間圧延工程で発生する板縁割れ発生を防止し圧延の持続性と生産性を高めることである。従って、大学などでは素材特性調査や潤滑などの基盤研究がなされ、製造業では基盤研究をベースにした工程最適化により、低コスト、高品質の製品板材を供給する技術開発が実施された。
ここで、『圧延の持続性』とは発明者が説明を容易にするために用いた表現であり、リバース式のコイル圧延など多パス圧延を途中で中断することなく連続的に実施できる圧延のロバスト性または安定性に関する工程能力を意味する。
鉄鋼やアルミニウムなど実用材料の最適化された圧延工程では、圧延の持続性が工程技術として開発済みであり既に組み込まれている場合が殆どである。そのため、ビルトインされた技術を圧延技術者が意識することは稀であるが、難加工性材料の場合は圧延の持続性を確保することが至難であり、その実現を常に念頭において開発を行う必要がある。
特に、難加工性材料のリバース圧延では、一方向の圧延で被圧延板が加工硬化して展伸性が劣化したり、板縁割れが発生して圧延で作用する張力により板破断し易くなる。圧延の持続性を確保するには一方向の圧延前後で被加工材にダメージが蓄積せず、たとえ一方向の圧延の中間段階でダメージが一時的に蓄積してもその終了時にダメージが解消されることが必要である。任意のパスで圧延の持続性が確保できれば、これを多数回繰り返すリバース圧延の最初と最後でもダメージが蓄積されず、正常な圧延が成立する。
歴史の比較的浅い難加工性材料では、圧延の持続性を確保して工程にビルトインすることにより、はじめて実用工程が実現できる。そのためには圧延の持続性に関する工程能力の最適化が重要であることを最初に強調しておく。
非特許文献1で、高比強度部材であるMg合金のプレス成形用板材の温間リバースコイル圧延が実施されたが、詳細技術は開示されていない。板厚4.5mm、板幅320mmの熱延板を0.3mmまで圧延する。非特許文献1の著者らによる特許文献3では、熱間圧延として180℃から440℃の広い板温度範囲で多パス圧延する技術が開示された。この場合、蓄積された圧下率が60%を越えると焼鈍を実施して軟化させることにより延性を回復する。焼鈍によりリバース圧延が途中で中断されるので、圧延の持続性に劣る。加工割れを防止する観点から1パス当りの圧下率が小であるため生産性に劣る基本的な問題があった。
尚、鉄鋼材料では変態点温度を境に熱間域と温間域を明確に区別するが、マグネシウム合金の場合には、特許文献3のように熱間と温間の区別が曖昧である。発明者はマグネシウム合金の熱間圧延では板厚が大で途中焼鈍が不用であり、温間圧延では板厚が減少して温度低下を生じるため途中焼鈍が必要になると解釈している。
非特許文献2で鑓田らはマグネシウム合金板の温間コイル圧延で問題となるロール焼き付きを防止するために、温間圧延潤滑システムを最適化して表面性状の安定化を図る研究を実施した。マグネシウム合金AZ31の熱間圧延板を温間切り板圧延する際に、無潤滑、鉱物油および合成エステルのニート潤滑による圧延特性の差を調査した。圧延速度は4.2mpmと低速でありロールとの接触による温度低下を緩和するためにロールを加熱した。無潤滑圧延では60%程度の圧下が可能であったが、ロール表面に被圧延板の表面が凝着して焼き付きが発生するため、板表面の品質の確保が困難であった。ニート潤滑圧延ではロールスリップを生じない安定通板の圧下率が40%弱であったが、ロール表面に焼き付きは発生しなかった。そのため、ロール潤滑は圧延の持続性を向上する効果が期待される。
非特許文献3および非特許文献4で宇都宮らはロール加熱とロール表面の潤滑を省略して、高速圧延機を利用して幅30mm、長さ300mm程度のマグネシウム合金AZ31の高速大圧下温間切り板圧延を実施し、圧下率が60%程度で強度・延伸バランスに優れる厚さ1mm程度の圧延まま切り板を1パスで得た。開示された最適条件では200℃程度の素材加熱で不均一せん断帯の発生を防止し、無潤滑のロールによる大ひずみを導入することで2μm程度の微細な動的再結晶組織を得る。
非特許文献5では高速大圧下温間切り板圧延をマグネシウム合金AZ80に適用して、圧延加工性の向上を図った。この合金は温間圧延の加熱温度が250℃を超えて15min程度保持すると結晶粒界に硬くて脆い金属間化合物が析出する。そのため、高速大圧下圧延を適用しても板縁割れが伝播して鋏割れと称する激しい粒界割れを生じる。鋏割れを防止する有効な技術が開示されていないため、高速大圧下圧延では板縁割れまたは鋏割れにより健全な板を製造できない問題があった。
高速大圧下圧延は鉄鋼のTMCP(サーモメカニカルコントロールプロセスまたは制御圧延・制御冷却)による超微細粒鋼の製造技術の延長線上にあり、鉄鋼材料を軽金属材料に置き換えたものと解釈することができる。鉄鋼材料用の圧延試験機を用いて、大きな加工ひずみを生じる状態で転位密度を高めて動的再結晶による制御圧延の可能性を検証した。動的再結晶は結晶組織の微細化と転位密度の低減により、圧延の持続性を向上することが期待される。
但し、圧延材の良好な機械的特性が得られる200℃加熱条件では板幅端部の板縁割れの発生を解消出来ないため、張力が作用する実機のコイル圧延への適用は困難であった。板縁割れは圧延の持続性に対する重大な障害のひとつである。そのため、高速大圧下圧延を実際にマグネシウム合金のコイル圧延に適用した例は報告されていない。
一方、鉄鋼において、1パス大圧下の検討は古くから実施され、組織の微細化による製品特性向上などが知られているものの、工具損耗が激しいなどで実用化は見送られていた。工具の損耗は圧延の持続性に対する障害である。
特許文献4で藤岡らはタンデム状に配置した2台の圧延機と強力な冷却装置からなる1パス大圧下と同等以上の特性を目指したプロセスを提案し、パス間時間を最適化することにより、直径数μm程度の超細粒厚板の製造原理を確認した。
但し、普通鋼圧延では圧延の持続性が既にビルトインされているので、暗黙の了解の元に圧延の持続性を意識することは殆どない。Mg合金では圧延の持続性の確保が困難であり、圧延割れの制限条件下で張力の作用するコイル圧延に特許文献4の技術が適用できるかは全く不明であった。
非特許文献3でマグネシウム合金の展伸材の使用が限られる理由として、素材がhcp構造(稠密六方晶格子)で加工性が低く、200℃以下の低温では、底面すべりしか活動しないためであるとした。板材は通常300℃以上の圧延によって製造されるが、その場合においても縁割れや材料の破断を防止するため、低圧下率の多パス圧延が採用される。さらに加工性を維持するため、パス間焼鈍やロールの加熱もしばしば行われる。従って、マグネシウム合金板の生産性は低い。また、1パス圧下率を広範囲に変化させられないこと、再結晶温度以上での圧延が必須であることから、組織制御を行うことが困難であるとした。これらの指摘は圧延の持続性を確保するための技術課題と解釈することができる。
特許文献5で浅川らは熱間圧延と温間圧延を交番的に繰り返しながら圧延方向も変化させることにより、結晶組織を微細化する組織制御方法を開示した。鉄鋼の厚板圧延では長手方向圧延と幅出し圧延を行うことが一般的であり、この機構を応用したものと推定される。しかしながら、リバース式のコイル圧延では圧延の持続性が確保されておらず、その検討が必要であった。
特許文献6で佐藤らは温間圧延材の集合組織を限定することで、材質特性を安定化している。しかしながら、リバース式のコイル圧延では非特許文献1と同様の理由から圧延の持続性が確保されておらず、その検討が必要であった。
特許文献7で杉本らはマグネシウム合金溶湯を板厚3〜10mmの帯状板に連続鋳造した後、均質化熱処理を施し、その後、熱間および温間、または熱間もしくは温間でクロスロール圧延を行うことで、マグネシウム合金圧延板の異方性を低減した。しかしながら、特許文献7を適用したリバース式のコイル圧延では非特許文献1と同様の理由から圧延の持続性が確保されておらず、その検討が必要であった。
特開平5−293530号公報
特開2004−107743号公報
特開2003−126943号公報
特開2000−96137号公報
特開2007−131915号公報
特開2005−298885号公報
特開2008−161879号公報
『Mg合金の板圧延とその利用』、佐藤雅彦 塑性と加工第48巻第556号(2007)19.
『展延性マグネシウム合金板の変形・負荷挙動に及ぼす温間圧延条件の影響』、鑓田ほか2名、塑性と加工第47巻第549号(2006)67.
『マグネシウム合金板の高速大圧下圧延』、宇都宮裕ほか2名、第56回塑性加工連合講演会講演論文集(2005、那覇市)9
『高速大圧下圧延されたAZ31マグネシウム合金板の組織と機械的性質』、南口智史ほか3名、第56回塑性加工連合講演会講演論文集(2005、那覇市)11
『高速圧延によるAZ80マグネシウム合金板の圧延加工性向上』、左海哲夫ほか2名、塑性加工春季講演会講演論文集(2007、名古屋市)45
マグネシウム合金板の温間コイル圧延では板縁割れを防止することが最も重要な制約条件である。また、マグネシウムは大気中で酸素と反応して激しく燃焼することを考えると、圧延の延伸で工具との接触界面に生成される新生面は極めて活性であるから工具と焼き付きを生じ易い。焼き付きを防止するために工具表面の潤滑を実施することが重要な制約条件である。更に、多パス圧延では圧延ひずみが転位密度の上昇として蓄積されるので延伸限界が発生するため、再結晶により延性の回復を図ることが制約条件になる。これらの制約条件を全てクリアすることにより、圧延の持続性が確保される。
非特許文献1では温間リバースコイル圧延が採用された。非特許文献3ではこの温間リバースコイル圧延を対象に、低生産性と組織制御の困難性の2つの技術課題を指摘した。1パス当りの圧下率を25%と仮定すると初期板厚4.5mmから0.3mmまで板厚を1/15倍にするのに約10パス程度必要になる。10回コイルに巻き出しと巻き戻しを繰り返すことになるので、温間圧延が生産性を支配する。また、加工硬化により圧延途中で延伸限界に達する場合は中間焼鈍を必要とするので、複数の工程の調整が必要になり工程が複雑化する。これらは製造コストを大幅に増加させる要因になり、競争力が低化する可能性がある。よって、圧延の持続性に劣ることが自明である。
非特許文献3ではその解決策として高速大圧下圧延が提案されたが、前記の制約条件のうち、板縁割れ防止と焼き付き防止の条件を意識的に無視したので、温間コイル圧延に適用できない問題があった。即ち、焼き付き防止のために潤滑を実施すると1パスで40%程度しか圧下できないので、動的再結晶組織の体積率が不足する。また、図2に示すように組織制御に最適な加熱温度200℃では縁割れの発生を防止できないので、後続の多パス圧延で割れが拡大して板破断を生じ易い。高速大圧下圧延は切り板圧延でしか実現出来ない問題があった。よって、圧延の持続性に劣ることが自明である。
特許文献5で開示されたマグネシウム高合金板のTMCP圧延技術は、鉄鋼の厚板の圧延工程で既に実績のあるTMCP圧延技術を継承した技術と見なすことができる。そのため厚板を製造するのに適するが、薄板コイルを製造するには交叉方向の圧延が困難であり事実上適用できない問題があった。よって、圧延の持続性に劣ることが自明である。
特許文献6も鉄鋼材料の圧延技術を継承する技術と見なすことができる。ニアネット鋳造材をクロス圧延機で圧延してせん断ひずみによる結晶粒の微細化で材質改善を図る。簡単な幾何学的考察から実験目的の狭幅材で効果があっても、実用の広幅材では効果が発揮し難いことが理解できる。従って、事実上適用できない問題があった。よって、圧延の持続性に劣ることが自明である。
即ち、現状は圧延の持続性に劣る非特許文献1の技術しか利用できないので、本質的に生産性に劣るため製造コストが高く、圧延技術の適用が依然として少ない問題があった。
難加工性材料の温間板圧延では多パスで加工しなければ所望の薄板を得ることができない。TMCPは圧延加工ひずみと被圧延板材の温度を制御することで、微細な材料組織を創製する技術である。従来は主に最終製品の機械特性を向上する目的で適用された。
発明者は各往復圧延においてTMCPを適用して結晶組織を微細化することで、中間製品である被加工材の加工特性を向上させることを発案した。特に、短時間内に一定以上のひずみを負荷することにより動的再結晶またはポストダイナミック再結晶が生じて圧延直後直ちに微細な結晶粒を持つ組織が得られると同時に、加工により蓄積した転位密度が急速に低下して組織が軟化することに着目した。これは本質的に圧延の持続性に優れる技術である。
各往復圧延の1サイクル内に加工硬化と加工軟化を連続して生じることにより、中間焼鈍を省略して所望の板厚の製品を得る条件を鋭意検討して、最適な条件があることを知見し、以下の発明を成したものである。
即ち、前記の課題を解決するため、この出願が提案する発明は以下の通りである。
第1の発明は、板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であることを特徴とする。
また、第2の発明は、板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であり、板縁部分の{0001}極点図の集合組織の集積度が板幅中央部の{0001}極点図の集合組織の集積度に比べて低いことを特徴とする。
さらに、第3の発明は、該板縁部分の{0001}極点図がRD軸上に2つのピークを持つダブルピーク型の集合組織を示し、該ピークはNDから±12°〜±30°RDへ傾斜することを特徴とする。
また、第4の発明は、圧延に引き続き、再結晶温度以上の温度に加熱されて再結晶したことおよび/または板縁部が切断除去されたことを特徴とする。
さらに、第5の発明は、単位圧延作業が被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する第1温度制御工程、引き続き被圧延板の板縁部分を第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する第2温度制御工程、板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する転位蓄積圧延工程、引き続き第2の圧下率、好ましくは動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶が発生する第2の圧下率で延伸する再結晶圧延工程、所望により板縁部分の平均温度を粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する第3温度制御工程からなり、圧延後の板厚が設定の板厚になるまで単位圧延作業を繰り返すことを特徴とする。
また、第6の発明は、連続する転位蓄積圧延工程と再結晶圧延工程の開始時間の時間間隔が10sec以下、好ましくは2sec以下であり、各圧延のひずみ速度が0.05〜40/secであり、転位蓄積圧延工程と再結晶圧延工程の総圧下率が動的再結晶限界ひずみ以上であることを特徴とする。
さらに、第7の発明は、単位圧延作業の工程の前にコイルから素材を巻き出すアンコイル工程、単位圧延作業の工程の後に圧延後の素材を巻き取るリコイル工程からなるリバース圧延を実施する。
また、第8の発明は、被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する第1温度制御装置、引き続き被圧延板の板縁部分を第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する第2温度制御装置、板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する転位蓄積圧延装置、引き続き第2の圧下率、好ましくは動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶が発生する第2の圧下率で延伸する再結晶圧延装置、所望により板縁部分の平均温度を粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する第3温度制御装置からなり、圧延後の板厚が設定の板厚になるまで単位圧延作業を繰り返すことを特徴とする。
さらに、第9の発明は、単位圧延作業の前にコイルから素材を巻き出すアンコイル装置、単位圧延作業の後に圧延後の素材を巻き取るリコイル装置からなり、アンコイル装置およびリコイル装置間で被圧延板の張力を制御しながらリバース圧延が実施出来ることを特徴とする。
また、第10の発明は、第1温度制御装置がボックス炉、トンネル炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかであり、第2温度制御装置がトンネル炉、赤外線エッジヒーター、電磁誘導エッジヒーター、レーザー加熱装置、プラズマ加熱装置の何れかであり、第3温度制御装置が冷却ロール、冷媒スプレー、冷却金型の何れかであり、転位蓄積圧延装置および/または再結晶圧延装置のワークロールがボックス炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかの外部加熱装置および/またはバーヒーター、通電加熱装置、カートリッジヒーター、バンドヒーターの何れかの内部加熱装置を有することを特徴とする。
さらに、第11の発明は、転位蓄積圧延装置および/または再結晶圧延装置が板クラウン変更による形状制御機能および/またはロール表面の潤滑機能を有するとともに、コイル圧延の張力制御装置を有することを特徴とする。
先ず、第1の発明に関して詳細に説明する。
難加工性材料は生産量が少ないためロットがまとまらず、設備費の高い多スタンドのタンデム圧延機は利用できない。この場合は一般的に1台の圧延機の前後に巻き取り装置を設けて、素材コイルを巻き出して圧延機に被圧延板材を供給しながら圧延するとともに出側でコイルに巻き取ることにより、所定の板厚が得られるまで圧延方向を交番的に変化させる温間リバースコイル圧延を実施する。
圧延を中断することなく持続するためには、(1)板縁割れの防止、(2)焼き付き防止、(3)延伸限界の回復の3つの処理を各往復圧延の1サイクル毎にオンライン処理する必要がある。一般に温間リバース圧延を実施すると経験することであるが、パス数が増加して板厚が減少すると板縁割れが発生し難くなる。温間リバース圧延の主な目的は熱延板の板厚を製品板厚まで減少することであり、板厚が厚い熱延板よりも板厚がより薄い温間圧延を適用した中間製品において板縁割れが少ないので、圧延加工が割れ発生防止に有効であることを意味する。
即ち、圧延の持続性を早期に確保するには圧延を施した中間製品を次パスの圧延で板縁割れが生じにくいように結晶組織の最適化を実施すれば良い。従って、中間製品としてリバース圧延の各巻き取り時における被圧延板の横断面(板の長手方向に垂直な断面)において、組織分布を最適条件に規定する必要がある。
非特許文献2および非特許文献3のマグネシウム合金AZ31の切り板温間圧延の割れ観察から、板縁割れは板幅端部の表面から発生した微小欠陥またはき裂が板幅内側に伝播して拡大することで生じる。板幅端部は板幅中央部に比べて温度が低化し易く、延性が減少する。また、非特許文献1に開示のように熱延板を幅中央で左右に切断して板幅調節を行った後、温間圧延の素材として供することがあり、熱間圧延や切断処理方法の精密さの程度によりボイド、マイクロクラック、微小段差、加工硬化表面層などの応力集中源が板幅中央部に比べて格段に多く発生し易い。一旦、欠陥やクラックが発生すると内部クラックに比べて板縁割れの応力拡大係数が大きいため、割れが拡大し易い。
また、板圧延のクラウン制御理論からロールクラウンが適切でない場合に、板縁部分に割れを助長する圧延方向引っ張り応力が作用する。そのため、応力集中源にせん断変形などで発生したマイクロクラックが伝播して有害な板縁割れに成長し易い。板縁割れはロールと被圧延板が接触するロールバイトの長手方向の寸法に関係した周期き裂となることが多い。従って、板縁割れはロールバイト内において被圧延板の板縁部分表面近傍で発生し成長する。
また、非特許文献3の温間切り板圧延の板縁割れが発生した被圧延板の外観観察から、被圧延板の温度を150℃以上に設定すれば局部的なせん断帯の発生が防止できる。150℃以上の温間圧延条件では被圧延板の端部表面近傍以外の部分で割れが発生することは殆ど無い。このことから、被圧延板の端部表面近傍で板縁割れを防止すれば、非特許文献3で開示の200℃程度の温間圧延が成立する。板縁割れが発生しないようにするには、板縁部分の圧延条件を板中央部と異なる割れが発生し難い圧延条件に変更して設定すれば良い。
そこで、図1に示すように、板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で被圧延板の端部表面近傍を定義する。板端表面から幅方向の長さを板厚の2倍以下としたのは、せん断帯の長さが板厚程度であるから割れは高々その2倍程度までの深さの位置に存在する欠陥で生じるためである。また、板幅の10%以下としたのは、板中央部に比べて異なる圧延条件の板幅端部領域をこれ以上増加すると製品の歩留まりが許容限度より低化するからである。
図2は非特許文献3および非特許文献4のマグネシウム合金AZ31の切り板温間圧延において開示された複数の結果を発明者がまとめた図である。横軸の板温度が150℃未満ではせん断帯が発生する領域枠内の条件になるので、この領域を避けるために温間圧延の板温度を150℃以上に設定する。特に、板縁割れを生じる危険性のある板縁部分に対して、図2の右下の三角形領域内の条件で圧延すれば板縁割れ発生限界以下の圧下であるから、板縁割れは発生しない。また、三角形の上側の斜線部の領域は動的再結晶が生じる下限の圧下率を越えるので圧延の持続性を確保するためには好ましい領域である。即ち、斜線部に相当する条件では圧延中に動的再結晶が発生して被圧延板材の結晶組織が微細化および軟化され、次の圧延で割れが発生し難くなる。
転位蓄積圧延で板幅中央部の被圧延板の温度を非特許文献3で最適とされた200℃、圧下率を非特許文献2で開示されたニート潤滑条件で安定な40%で実施した。この場合、図2より板中央部は動的再結晶が殆ど生じないので結晶粒径は圧延前とほぼ同様であり、加工により各結晶粒が扁平変形する。被圧延板の板縁部の温度を350℃にすると圧下率40%では動的再結晶が生じて結晶粒の一部が微細化され、4.6μm程度になり、板縁割れは発生しなかった。
引き続く再結晶圧延で圧下率をニート潤滑条件で安定な35%として圧延した。転位蓄積圧延と再結晶圧延をタンデム圧延で短時間のうちに行えば、転位蓄積圧延で被圧延材に蓄積された転位は引き続く圧延まで殆ど回復せず、そのため再結晶圧延では加工硬化した被圧延板に更に転位を導入して図2の圧下率61%の状態とほぼ同じ状態になった。その結果、板幅中央部は再結晶圧延中に動的再結晶が横断面全体に発生し、再結晶圧延直後に生じるポストダイナミック再結晶の効果もあって直ちに平均結晶粒径が3.1μmになった。この中間製品圧延板材の再結晶組織は転位密度が低いので柔らかく延性を回復するので、次パスの圧延で割れ発生を防止する効果に優れる。
再結晶圧延後の被圧延板の板縁部分は再結晶組織が全体に広がり、総圧下率が板縁割れの発生限界線内となるので、板縁割れは観察されなかった。そして、板縁部分の平均結晶粒径は4.8μmとなり、蓄積された転位密度は微細な等軸晶の粒界に変換されてほぼ消滅した。そのため、組織の硬度も圧延前の被圧延板材とほぼ同様のレベルで軟化した。この場合、板縁部分の結晶粒径は板幅中央部の約1.5倍であり、板幅全体の平均結晶粒径は3.5μmで割れの無い健全な組織であった。
図2のマグネシウム合金板AZ31以外にも種々の難加工性の金属板で調査した結果、板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上で顕著な板縁割れ防止効果が認められる場合があった。しかし、安定的に効果を得るには1.5倍以上であることが好ましい。
板縁部分の動的再結晶の平均結晶粒径が板中央部分に比べて大きいのはより高温の熱間圧延状態に近づくことを意味し、そのため動的再結晶が容易に生じて板縁割れをより効果的に防止出来ると考えられる。より高温の被加工板の温度設定が可能であれば溶融脆化が生じない範囲で板縁部分の高温圧延を実施できる。この場合、板縁部分は事実上の熱間圧延の変形状態であり、圧延で導入された転位が再結晶により直ちに回復するので縁割れは生じない。また、再結晶の生じる温度が高温であるから必然的に結晶粒径は温間圧延の再結晶粒径に比べて大きくなる。
また、板縁部分の少なくとも体積率30%以上の結晶粒が動的再結晶またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶の場合に顕著な板縁割れの防止効果を発揮する場合があった。しかし、安定的な効果を期待するには体積率50%以上の結晶粒が動的再結晶またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であることが好ましい。動的再結晶またはポストダイナミック再結晶により再結晶圧延後では板幅全体の結晶組織が直ちに等軸晶に変化して、加工組織の大部分が消滅するので、板縁割れを防止する効果が高い。
板の平均結晶粒径が加工性に及ぼす影響は大であり、特に粗大な結晶粒の場合は板縁割れが発生し易いので、平均結晶粒径は小さい方が有利である。しかしながら、熱延板材を温間圧延する場合に、最初の1パス目は受け入れ材の結晶粒径であるから、粗大な結晶粒径の条件も含まれる可能性がある。最初のパスとして受け入れ可能な結晶粒径を調査した結果、板の平均結晶粒径が15μm以下の場合に板縁割れが発生せずに機械的特性の改善効果を発揮することが判明した。
但し、平均結晶粒径が15μmの場合に総圧下率60%で圧延した後の結晶組織は再結晶により平均粒径が5μm以下の等軸晶に変化した。また、この圧延後の板は次パスの圧延でも板縁割れ発生が無く図2に示す1パス目の場合よりも板縁割れ無し限界の圧下率が増加する傾向であった。従って、より安定的な効果を期待するには平均結晶粒径は5μm以下であることが好ましい。
尚、圧延直後に強制水冷して凍結した板材の組織観察から、結晶粒径の減少と等軸晶化が観察された。この結果から、圧延により転位密度が臨界に達して動的再結晶またはポストダイナミック再結晶が発生したものと結論された。総圧下率が60%程度の圧延では再結晶組織が板の体積全体に等軸晶が観察され、転位密度は減少して軟化が生じた。
また、非特許文献2で開示されたように、ロール表面を潤滑しない場合は圧延後の板の表面に焼き付き疵が発生して製品にならなかった。この場合、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍よりも大きく板厚方向に結晶寸法が分布した。ロール表面をニート潤滑した場合には板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下となり、表面焼き付きの発生も防止された。潤滑剤として耐熱性に優れる合成エステルを使用した場合にはロール表面をニート潤滑した場合には板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.1倍以下となり、板表面の性状が最も良好であった。また、この中間製品は強度・延伸バランスに優れることが判明した。
図2では圧延試験データが比較的豊富なマグネシウム合金AZ31を用いた。本発明はマグネシウム合金以外の一般金属にも適用できる。即ち、圧延加工に供する金属の切り板を準備し、非特許文献3および非特許文献4に開示の試験方法で図2と同様のデータを採取する。板端近傍の板縁割れ条件を防止する板端部温度と、強度・延伸バランスに優れる板中央部温度およびバルク全体が十分に再結晶する転位蓄積圧延の圧下率と引き続く再結晶圧延の圧下率を決定する。
非特許文献3に開示に1パスの温間切板圧延試験は比較的簡単な試験で広範な金属材料に適用出来るので、その材料で温間圧延が可能か否かを迅速に判定できる。金属の種類によっては、上記の条件を満足しない場合がある。この場合は、温間圧延に不適な材料であるから、金属の化学成分や結晶組織を変化させて圧延条件を満足するように冶金的な対策をすればよい。または鋳造などの圧延以外の成形方法の適用を検討すべきである。
次に、第2の発明に関して詳細に説明する。
マグネシウム合金板のリバース温間圧延の場合には、第1の発明に開示した条件に加えて、更に次の条件を満足させることで板縁割れを効果的に防止できる。
図3は非特許文献4に開示された、温間圧延後の板の{0001}極点図の集合組織の集積度Imaxを示すグラフであり、横軸に被圧延板の温度、縦軸にImaxをとり示す。全体が右肩下がりの直線で近似できることが分かる。板縁部分の被圧延板の温度を350℃、板幅中央部の被圧延板温度を200℃と設定すれば、{0001}極点図の集合組織の集積度Imaxは板縁部分の5.5方が板幅中央部の6.9に比べて1.5小さい値を示す。
板縁割れが発生する場合は板縁部分と板中央部分で{0001}極点図の集合組織の集積度Imaxを調べて、板縁部分の集積度Imaxが板幅中央部に比べて小さくなるように圧延条件を変更することにより、割れ発生を改善することができる。特に圧延温度が測定できない場合でもこの方法で割れ発生を改善が出来る。
次に、第3の発明に関して詳細に説明する。
マグネシウム合金板のリバース温間圧延の場合には、第1および第2の発明に開示した条件に加えて、更に次の条件を満足させることで板縁割れを効果的に防止できる。
板縁割れを防止するには、板縁部分を動的再結晶が容易に生じる条件で圧延加工すればよい。非特許文献4に開示のように動的再結晶が生じているか否かはX線回折による集合組織の発展を調べれば確認できる。圧延により動的再結晶が発生した場合は、板縁部分の{0001}極点図がRD軸上に2つのピークを持つダブルピーク型の集合組織を示し、ピークはNDから±12°〜±30°RDへ傾斜する。ここで、RDは圧延方向であり、NDは被加工板の表面の法線方向である。
従って、結晶組織観察が困難な場合でも、非接触式のX線回折試験を行ってダブルピークを持つか否かで再結晶の発生を測定することが出来る。即ち、オンラインの材質制御における重要な測定データとして利用することができる。
次に、第4の発明に関して詳細に説明する。
圧延工程では粗圧延と仕上げ圧延に大別される。リバースコイル圧延の場合には板厚を大きく変化させる圧延が粗圧延で、製品板厚に近づく最後の圧延が仕上げ圧延に相当する。仕上げ圧延では製品の板厚だけでなく平面形状を仕上げる必要があるため、圧下率を粗圧延の半分程度以下に制限する必要がある。圧下率が小さい仕上げ圧延の場合、図2のグラフから板幅全体に再結晶組織を生じることが困難な場合がある。この場合、仕上げ圧延後の製品に加工組織が残存するので、製品に必要な強度・延伸バランスを得られない可能性がある。そこで、仕上げ圧延後に引き続き、再結晶温度以上の温度に加熱して残存する加工組織を再結晶組織に変換することができる。
また、圧延条件が板端部とその他の部分で異なることから、板端部の製品特性が規格から外れることがある。この場合は圧延後に再結晶熱処理を実施して結晶組織の均一化を図るか、または板縁部分をシャーやレーザー溶断で切断除去することが可能である。これらの処理により結晶組織が均一な製品を製造することができる。特に、板縁部分を板幅の1/10以下に限定するので板縁部分を切断除去しても8割程度の高い歩留まり率を維持できる。
次に、第5の発明に関して詳細に説明する。
難加工性材料を温間圧延するには圧延の持続性を工程にビルトインしなければならない。図4は制約条件である(1)板縁割れの防止、(2)焼き付き防止、(3)延伸限界の回復の主要な制約条件を考慮した温間圧延工程の流れ図である。設備費用が比較的安価なリバース圧延を前提とし、一方向の圧延作業を単位圧延作業とする。単位圧延作業は以下の工程から成り立つ。
第1温度制御工程は被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する。ここで局部変形とは圧延方向に周期的なせん断帯が発生するなど、ロールバイト内で不均一なひずみが発生することを意味する。非特許文献2および非特許文献3でマグネシウム合金AZ31の切り板を150℃未満の温度で圧延した場合に板全体に周期的なせん断帯が発生し、板縁のせん断帯から板縁割れが発生することが確認された。従って、マグネシウム合金AZ31の温間圧延の場合には第1の温度は150℃以上が目安であり、非特許文献3の推奨値は200℃である。加熱温度が分布すると圧延後の結晶組織がばらつくので、均一組織を得るためには板幅全体を均一に加熱することが重要である。
第2温度制御工程は引き続き被圧延板の板縁部分を第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する。マグネシウム合金AZ31の場合には図2の板縁割れの発生限界内で再結晶が生じる斜線部の圧延条件とするために350℃程度の高温が選択できる。板縁部分を選択的に加熱すれば良いので、短時間に高エネルギー密度で加熱可能な内部加熱が利用できる。ロールバイト入り口前で板縁部分を内部加熱で急速加熱した後、そのまま圧延に供することで板縁部分に限定した高温圧延が可能になる。
転位蓄積圧延工程は板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する。マグネシウム合金AZ31の場合には図2の350℃の板縁割れの発生限界から1パス当り60%の圧下を越えると微細な板縁割れが発生する。マグネシウム合金AZ31の場合はロール表面の焼き付き発生を防止するために、非特許文献2に開示のようにロール表面をニート潤滑する。その場合は圧下率を高く設定するとロールスリップが発生して圧延ができないので、40%程度の圧下率に制限する。
40%圧下率の場合は図2から板縁部分は動的再結晶が開始して板縁割れの発生が防止されるが、板幅中央部は200℃に設定した場合には動的再結晶が殆ど発生しない。負荷されたひずみの大部分は転位密度の上昇として蓄積され加工硬化が発生する。
再結晶圧延工程は引き続き第2の圧下率で延伸する。図2で転位蓄積圧延と再結晶圧延の総圧下率が60%程度の圧下率になると、200℃に設定した場合の板幅中央部は動的再結晶が板全体に発生して微細な等軸晶の組織に変化する。そのため、蓄積された高密度の転位は結晶粒界に変化して消滅し、軟化する。第2の圧下率を35%に設定すると、ほぼこの条件となることが簡単計算で得られる。
板縁部分は350℃程度の設定の場合は、ほぼ熱間圧延状態なので再結晶が進行して等軸晶の軟化した組織が得られる。そのため、板縁割れは防止される。
再結晶圧延工程で圧下率は35%の場合は、導入される転位密度は圧下率60%と同様で高いため、圧延負荷が大きくなる。そのため、圧延機の容量を大きめに設計する必要がある。
第3温度制御工程は板縁部分の平均温度を粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する。 圧延後の板縁部分はその他の部分と比べて相対的に高温であるから、熱拡散により隣接する部分を高温にする場合がある。これを防止するためには、圧延直後に板縁部分を選択的に冷却することにより防止すればよい。
また、非特許文献5に開示のマグネシウム合金AZ80の板材は250℃以上の温度に15min程度保持すると結晶粒界に金属間化合物が析出する。従って、圧延直前に板縁部分を第2の温度に短時間加熱して転位蓄積圧延と再結晶圧延を行った後、短時間の内に粒界析出しにくい200℃程度まで冷却する。板幅中央部は組織制御に最適な温間圧延を実施し、板縁部は割れ発生を回避する短時間高温圧延が可能になる。これにより、圧延の持続性を確保することが可能になる。圧延後の板厚が設定の板厚になるまで往復圧延により単位圧延作業を繰り返すことができるので、圧延の持続性を確保することが可能になる。
第5の発明の圧延工程を適用することにより、第1から第4の発明の金属板およびマグネシウム合金板を比較的容易に製造できる。
次に、第6の発明に関して詳細に説明する。
第5の発明では転位蓄積圧延工程と再結晶圧延工程の総圧下率を図2などの材料特性データに基づき被圧延板の全体で動的再結晶が発生する圧下率に設定する。しかしならが、非特許文献1に開示のように1台の圧延機によるリバースコイル圧延ではパス間の時間が数minになるので蓄積した転位が動的再結晶に十分利用できない。そのため、パス間時間を短縮して蓄積転位の殆どを動的再結晶に有効利用する。連続する該転位蓄積圧延工程と再結晶圧延工程の開始時間の時間間隔が10sec以下、好ましくは2sec以下に設定することで蓄積された転位を再結晶に利用することが可能であった。
また、各圧延のひずみ速度を0.05〜40/secに設定することで工具と被圧延板の接触時間が短くなり、被圧延板の温度低下が緩和される。上限として40/secと規定したのは、これ以上大きく設定すると圧延機の所要動力が過大になって設備コストが増大するためである。また、ひずみ速度が小さいと転移蓄積圧延で転位密度が十分大きくならないため、後続の再結晶圧延で再結晶率が不足して加工組織が残存することがある。これを防止するためにも各圧延のひずみ速度を0.05〜40/secに設定することが好ましい。
リバース圧延の1サイクルにおける転位蓄積圧延工程と後続の再結晶圧延工程の総圧下率が図2のような材料データから得られる動的再結晶限界ひずみ以上であれば、動的再結晶による等軸晶の軟化した組織が得られる。特に、総圧下率が60%程度になると板全体が等軸晶に変化して軟化するため、次のパスでの加工性が良好になる。そのため動的再結晶またはポストダイナミック再結晶が板の全体に発生するように、第1の圧下率と第2の圧下率を最適化することが重要である。
次に、第7の発明に関して詳細に説明する。
非特許文献1に開示のように実工程では温間リバースコイル圧延工程が適用される。第5および第6の発明の工程を温間リバースコイル圧延工程に適用すれば圧延の持続性を確保して生産性を向上することが期待できる。
即ち、単位圧延作業の工程の前にコイルから素材を巻き出すアンコイル工程を設け、単位圧延作業の工程の後に圧延後の素材を巻き取るリコイル工程を設けることによりリバースコイル圧延を実施する。動的再結晶により圧延の持続性を確保するには転位蓄積圧延工程と引き続く再結晶圧延工程のパス間時間を10sec以下、好ましくは2sec以下に設定する必要がある。
1台の圧延機によるリバース圧延ではパス間時間を10sec以下に設定することは困難である。この場合は1スタンドで複数のロールバイトを有する特殊な巻き付け圧延機を利用することが出来る。最初のロールバイトを転移蓄積圧延工程、引き続くロールバイトを再結晶圧延工程に対応させることにより、パス間時間の短縮が可能である。また、2スタンドのタンデム圧延機とすればより最適なパススケジュールを設定できるので好ましい。3スタンド以上のタンデム圧延機も利用できるが、設備コストが増加することと操業条件の最適化が困難化する問題がある。
次に、第8の発明に関して詳細に説明する。
難加工性材料を温間圧延するには圧延の持続性を設備にビルトインしなければならない。図5は主な制約条件である(1)板縁割れの防止、(2)焼き付き防止、(3)延伸限界の回復を考慮した温間圧延装置の流れ図である。設備費用が比較的安価なリバース圧延を前提にする。
図6は温間リバースコイル圧延の装置の構成を示す説明図である。被圧延板1の両端に図示しないダミー板が溶接され、ダミー板の端部がコイラー2のスリットに固定される。コイラーは保温カバー3に囲まれており、巻き取ったコイル状の被圧延板の幅端部を保温する。リバース圧延では板を巻き取って蓄積された方のコイラーが巻き出し側となり、他方のコイラーが巻き取り側になる。一対のコイラーの間で被圧延板は所定のパスラインに沿ってほぼ真直に通材され、その間に一対の圧延機4、加熱装置5、冷却装置6および図示しない温度センサーが加熱装置および冷却装置の後に設置され図示されない制御装置で温度制御に利用される。通常パスラインの長手方向の中央に対して対称に各装置が配置されて、リバース圧延の各サイクルで装置の役割が交番的に変化する。
温間リバースコイル圧延では熱延コイルを初期材料として圧延を開始するので、熱延コイルをコイラーに巻き取って加熱する必要がある。図6の場合に熱延コイルを図示しないアンコイル装置から巻き出してパスラインに沿って通材しながらコイラー2’に巻き取る。その際に加熱装置5、5’’、5’で板幅全体を加熱することにより第1の温度に加熱する。目標温度に達しない場合は、リバースしてコイラー2に巻き取りながら同様に加熱する。説明のため第1の温度に加熱された被圧延板がコイラー2に蓄積され、図6の矢印の方向に被圧延板1が通材する場合を仮定する。
第1温度制御装置は被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する。ここでは既に前パスの巻き取りの際に加熱装置で第1の温度に加熱されてコイラー2に巻き取られて保温カバー3で覆うことにより大気中放冷による温度低下を緩和できる。また、コイラーに比較的長時間蓄積されるのでその間に熱拡散により均熱されるので好ましい。さらに熱間圧延のSteckelミルのようにコイラーを加熱炉内に設置して積極的に温度制御することも考えられる。従って、第1温度制御装置は加熱装置5、コイラー2、保温カバー3の複数の装置を連携して構成することにより、より柔軟な温度制御を実施できる。第1の温度として図2のマグネシウム合金AZ31では200℃程度が設定される。
第2温度制御装置は引き続き被圧延板の板縁部分に対して加熱装置5を用いて第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する。図2のマグネシウム合金AZ31では熱間圧延状態に近づけるために350℃程度の高温に加熱する。板縁部分だけを加熱すれば板縁割れを防止できるので、急速加熱が可能な内部加熱式のエッジヒーターを用いることが可能である。また、レーザーやプラズマなどの高密度エネルギービームを板縁部分に照射することでピンポイントの加熱が可能になり、好ましい。更に、これらの種々の加熱を組み合わせることも温度制御性を向上するために好ましい。
転位蓄積圧延装置は圧延機4を用いて板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する。但し、工具表面の焼き付きを防止するために図示しない潤滑装置によりワークロールの表面をニート潤滑する場合には、圧延スリップが生じないように圧下率を40%程度に設定する。圧下率は入り側の板厚を測定して圧延機のワークロールの間隙を調整することにより設定する。
被加工板の温度が低下した場合には加熱装置5’’を用いて目標温度に加熱することが出来る。次に、再結晶圧延装置は圧延機4’を用いて引き続き第2の圧下率で延伸する。転位蓄積圧延装置と引き続く再結晶圧延装置の総圧下率が図2のマグネシウム合金AZ31では60%程度に設定すると被加工板全体に微細な動的再結晶組織が発生して、強度・延伸バランスに優れる等軸晶組織が得られる。この場合は再結晶圧延装置の圧下率は35%程度であるが、転位の蓄積により60%圧下と同等の圧延負荷が発生するので、圧延機の剛性を十分余裕のある大き目の設計が必要である。この場合もワークロールの表面を潤滑して、焼き付き疵の発生を防止する。
第3温度制御装置は冷却装置6’を用いて板縁部分の平均温度を粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する。これはマグネシウム合金AZ80のように250℃以上の高温に15min程度保持すると結晶粒界に硬くて脆い金属間化合物が析出して粒界割れを発生し易い場合に利用できる。ロールバイト入り側での急速加熱と圧延後の急速冷却で高温状態の時間を数secに減少する。そのため、リバース圧延の各サイクルでTMCP圧延による組織制御が可能になるため、板縁割れや極端な加工硬化を防止して、圧延の持続性を確保できる。圧延後の板厚が設定の板厚になるまで単位圧延作業を繰り返すことができる。
圧延後の被圧延板1の巻き取り温度を次パスの第1の温度に設定するには、冷却装置6’および加熱装置5’の何れかを用いて温度調節を実施すればよい。この単位圧延作業を必要な回数繰り返すことができる。
尚、図6ではコイル圧延で説明したが、切板圧延の場合にはコイラー2および2’は用いず、送りテーブル上でリバース圧延を行うことができる。
次に、第9の発明に関して詳細に説明する。
図6は温間リバースコイル圧延の装置の構成を示す説明図である。図6でアンコイル装置はコイラー2であり、単位圧延作業の前にコイルから被圧延板1を巻き出す。リコイル装置はコイラー2’であり、単位圧延作業の後に圧延後の素材を巻き取る。
アンコイル装置およびリコイル装置間で被圧延板の張力を制御しながらリバース圧延が実施出来る。コイル圧延では前方張力および後方張力を最適化することで蛇行発生の防止、潤滑圧延時の圧下率の向上、薄板になった場合の延伸の確保などが可能になる。第2の温度に加熱することにより圧延で板縁割れが発生しないので、板破断の危険がほとんど無く所望の張力を付与できる。張力はユニットテンションが変形抵抗の5%程度を基準とし、蛇行の発生やロールスリップなどに応じてコイラーの回転速度を通じて制御する。
次に、第10の発明に関して詳細に説明する。
第8の発明では板縁部分を熱間圧延、その他の部分を温間圧延の板温度に設定することを特徴とする。また、温間リバース圧延では板厚が減少して冷え易いので、所定の温度で圧延するためには温度制御が重要である。圧延温度解析を実施することにより温度工程能力として定量化してパススケジュールの設定で考慮する。板厚および送り速度に応じて最適な温度制御の位置や付与する熱エネルギーの量が変化する。要求される機能をもとに、各装置の仕様を検討した。
第1温度制御装置は板全体を均一に加熱することを目的とする。そのため、ボックス炉、トンネル炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかを利用することが可能である。外部加熱式の場合は時間をかけて加熱するので均熱性を得易い反面、生産性が低化する。内部加熱式では加熱時間は短いが均熱性を得ることが難しい。両者を同時に利用することで相互補完が可能になる場合がある。
第2温度制御装置は板縁部分を加熱すれば良い。従って、トンネル炉、赤外線エッジヒーター、電磁誘導エッジヒーター、レーザー加熱装置、プラズマ加熱装置の何れかが利用できる。
第3温度制御装置が冷却ロール、冷媒スプレー、冷却金型の何れかであり、板縁部分の高温部を板中央部の温度程度に急速冷却する。
温間圧延では圧延速度によりロールバイトで工具と被加工板材の表面が接触する時間が変化する。圧延速度を大きくすれば接触時間が短くなり工具への熱移動が減少するので有利である。一方、高速圧延では圧延機が大型化してコスト増加に繋がるため、低速の圧延機が利用されることも多い。この場合にはワークロール表面を加熱して、熱移動を防止することができる。
転位蓄積圧延装置および/または再結晶圧延装置のワークロールがボックス炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかの外部加熱装置および/またはバーヒーター、通電加熱装置、カートリッジヒーター、バンドヒーターの何れかの内部加熱装置を有することで、ワークロールの温度制御が可能になる。特に、板縁部分と接触するロール表面近傍を局部的に加熱、冷却することが可能である。これにより被圧延板の板縁部分を目標温度に制御して、板縁割れの防止を可能にする。
次に、第11の発明に関して詳細に説明する。
温間圧延では被加工板材の板厚が大幅に減少する場合が多く、製品板厚に近づく仕上げ圧延では幅方向の圧延厚下率が分布すると延伸が分布して形状が乱れやすい。また、ロールクラウンを変化させることにより、板縁部分の張力を制御できる。そこで、板厚の変化に応じて適正なロールクラウンを適用できると便利である。転位蓄積圧延装置と再結晶圧延装置は板クラウン変更による形状制御機能を有することが好ましい。
また、ロール表面の焼き付きを防止するためにロール表面の潤滑機能を有することが好ましい。温間圧延の場合はエマルション潤滑では温度制御が困難になるので、ロール表面をニート潤滑する。非特許文献2に開示の方法が利用できるが、熱間圧延の板縁部分に接触するワークロールの幅方向位置とその他の位置で潤滑剤を変更することも有効である。板縁部分では耐熱性の潤滑剤が好ましい。更に、潤滑によるロールスリップの発生を緩和するためにもコイル圧延の張力制御装置を有することが好ましい。
本発明は、難加工性材料の金属板、マグネシウム合金板とその圧延製造方法および圧延製造装置に関する。難加工性材料の薄板圧延では板縁割れの発生を防止するために高温圧延の適用が好ましい。また、製品特性を得るためには温間圧延による制御圧延が必要である。更に、製品板の表面性状を確保するには潤滑圧延の適用が必要になる。これらの条件を全て満足する温間圧延を実施することにより、圧延の持続性を確保して安価で高品質の板材を製造する。
図6は最良の形態に基づく製造工程の一例を示す模式図であり、リバースコイル圧延の1対のコイラー2および2’の間に2台のスタンド4および4’とその前後に温度制御装置5、5’ ’、5’および6、6’がタンデム状にほぼ対称に配設される。コイラー2および2’は温度制御式の保温カバー3および3’と図示しない温度制御式のマンドレルを有し、張力制御と送り速度制御が可能である。被圧延板の蛇行を防止するために変形抵抗の5%以上のユニットテンションを作用させる。圧延機4および4’は2段式または4段式で最大圧延速度が200mpmまで利用出来る。ワークロールは埋め込み式のヒーターでロール表面を最大200℃まで加熱できる。ロール表面は超硬であり、コーターロールが接触して鉱物油が塗布されることによりニート潤滑が可能である。ワークロール径はロール扁平による圧下限界とロール磨耗による交換頻度から最適な径を選択するが、250mmを選択した。また、板縁部分が接触する部分は高温で安定な合成エステル系の潤滑油を塗布することも可能である。圧延機の圧下率は噛み込み限界まで十分圧下できる能力を有し、各圧延方向で先に噛み込む方が転移蓄積圧延工程、続いて噛み込む方が再結晶圧延工程とする。
圧延コイルは被圧延板の先後端に鋼鈑のダミー材を溶接して作成し、鋼鈑をコイラーに直接巻き付けることにより曲げによる割れを防止した。また、リバース圧延ではパス間でロール間隙を調整する最中に被圧延材は停止するので、少なくとも停止中にパスライン上で放冷される被圧延材の部分がダミー材となるようにした。また、圧延開始後の送り速度が小さい場合にはロールとの接触時間が増加するため温度低下を生じやすいので、温度低下が許容限界を外れる部分がダミー材になるように設定することが好ましい。
難加工性材料では被圧延材1の温度制御が最も重要であり、板縁割れの発生を防止して微細な再結晶粒径に制御しなければならないが、図2から両者を同時に満足する圧延条件は見つからない。マグネシウム合金板AZ31の場合は板縁割れの発生を防止するために熱間圧延に近い高温圧延が必要であり、再結晶で微細組織を得るには200℃で短時間の内に60%の圧下を行う必要がある。最良の形態として板幅全体で第1の温度として200℃に加熱し、引き続き第2の温度として板縁部分のみを選択的に350℃に加熱した。その直後に第1の圧下として40%、2sec以内に第2の圧下として35%、付与し、板縁部分を200℃程度に冷却してコイルに巻き取った。
順方向圧延、逆方向圧延、順方向圧延と3回実施して素材板厚2.5mmから0.975mm、0.38mm、0.15mmまで圧延した。また、最終の順方向圧延で0.38mmから0.3mmに仕上げ圧延も行った。
マグネシウム合金AZ80は温間圧延の加熱で結晶粒界に硬くて脆い金属間化合物が析出し易いので、本発明の圧延工程を適用して急速加熱、2パス連続圧延による再結晶、急速冷却により、順方向圧延、逆方向圧延、順方向圧延と3回実施して素材板厚2.5mmから0.975mm、0.38mm、0.15mmまで圧延を実施した。
また、代表的な難加工性材料である6%珪素鋼鈑の金属板の圧延製造工程に、本発明の圧延工程を適用して、圧延パス回数の削減効果を検討した。
マグネシウム合金AZ31、板厚4.5mm、幅300mmの帯板を第1の温度200℃に均一加熱した後、板縁部分(両側の板端から各3mmの幅)を第2の温度(200℃、250℃、●350℃)に加熱した。その後、潤滑条件(無潤滑、●鉱物油ニート潤滑)で転位蓄積圧延と再結晶圧延をパス間時間(●2sec、10sec,120sec)で総圧下率(10%、30%、●60%、65%)でリバース圧延し、仕上げ板圧を0.15mmに圧延した。
表1は圧延条件設定を●で示す基準条件に対して変更した場合に、設定のパススケジュールで圧延できた場合は○、出来なかった場合は×として、その事由を記載した。
番号1および番号2では第2の温度、即ち板縁部分の温度を基準条件より低く設定した。この場合再結晶圧延後に板縁部分の長手方向に周期的な微細割れが発生し、次パスでこの部分が拡大して板破断を生じた。番号3の基準条件では正常に圧延を完了した。
番号4では潤滑をせずに圧延したが、ロールと被圧延板の表面が凝着して焼き付いたため製品にならなかった。番号5の基準条件でニート潤滑を行った場合には焼き付きを生じなかったため圧延を完了した。
番号6および番号7はパス間時間を基準条件と限界条件に設定した場合であり、いずれの場合にも正常に圧延を完了した。番号8はパス間時間が基準条件の60倍と長かったため、再結晶が不足して加工硬化を生じたためパス間焼鈍を実施しなければならなかった。
番号9および番号10は転移蓄積圧延と引き続きの再結晶圧延の総圧下率が10%と30%で小さい場合に、再結晶圧延後の再結晶が不足して加工硬化を生じたためパス間焼鈍を実施しなければならなかった。番号10と番号11は総圧下率が60%と65%で基準条件と若干大き目の条件であり、正常に圧延を完了した。
尚、圧延を正常に完了した圧延条件では、順方向または逆方向の圧延が完了した被圧延板の横断面を採取し、結晶組織を調査した。板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の約1.5倍であった。板縁部分の50%以上の結晶粒が動的再結晶かポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であった。横断面内の平均結晶粒径は何れも5μm以下であった。
板縁部分の{0001}極点図の集合組織の集積度が板幅中央部の{0001}極点図の集合組織の集積度に比べて低いことが判明した。
板縁部分の{0001}極点図がRD軸上に2つのピークを持つダブルピーク型の集合組織を示し、該ピークはNDから±12°〜±30°RDへ傾斜したことが判明した。
従って、正常に圧延が完了した場合の中間製品板は本発明の条件を満足するので、圧延の持続性が確保できたことが判明した。
最終の順方向圧延で0.38mmから0.3mmの仕上げ圧延として表1と同様の比較を行った。表1の比較例は全て表1と同様の事由で圧延を完了できなかった。発明の例では、圧延を完了することが出来た。但し、最終の順方向圧延で総圧下率が21%と小さいため再結晶が不足し、強度が増加、引っ張り伸びが減少した。
コイルをボックス炉で焼鈍することにより、引っ張り伸びを増加させることが出来た。
マグネシウム合金AZ80は温間圧延の加熱で結晶粒界に硬くて脆い金属間化合物が析出し易い。図6に示す本発明の2スタンドの圧延工程を適用して第1の温度として200℃、次いで第2の温度を350℃として板縁部分を急速加熱した。その後直ちに圧下率40%の転移蓄積圧延、パス間時間を2sec以下として圧下率35%の再結晶圧延を実施した。圧延直後に200℃の冷却パッドに接触させて板縁部分を急速冷却して230℃まで下げた後、コイラーに巻き取った。コイラーは保温カバーにより200℃の雰囲気に保たれるので、コイルは巻き取られた温度をほぼ維持する。この処理を単位処理として、順方向圧延、逆方向圧延、順方向圧延の計3回実施して素材板厚2.5mmから0.975mm、0.38mm、0.15mmまで圧延を実施した。
比較例として、1スタンドの圧延工程を適用して、200℃および350℃の温間圧延を実施した。
本発明の工程を利用した場合には、板縁割れが発生せず計画のパススケジュールで正常な圧延を完了した。一方、比較例では200℃の温間圧延において1パス目の圧延で周期的な板縁割れを発生したので、圧延を途中終了した。また、350℃の温間圧延では高温に15分保持して均熱にした場合に1パス目の圧延で鋏割れが発生して深いき裂が発生したので圧延を途中終了した。
難加工性材料としてSiを6%含有する珪素鋼鈑の熱延板2.5mmを0.2mm程度に仕上げ圧延する場合について、被圧延板の第1の温度を200℃、第2の温度を350℃に設定した本発明の図6に示す2スタンドの場合と、比較例として被圧延板の温度を200℃に設定した通常の1スタンドの場合のパス数を調査した。
比較例である1スタンドの場合は、パス間時間が2minで大きかったため再結晶不足であり、各パスで板縁の温度が割れ発生限界に近いため1パス当たりの圧下率を20%程度しかとれなかった。そのため12パスの圧延が必要であった。
本発明の2スタンドの場合では、板縁部分の温度が高いため40%程度の圧下を付与しても板縁割れが防止されたので、2スタンドの総圧下率を60%程度と大きく設定することが出来た。そのため、順方向、逆方向、順方向の圧延で2.5mmから0.15mmに圧延することが可能であった。
本発明の圧延製造工程では、予め図2に示す温間切板圧延による最適加工条件のデータを採取する。素材の融点により最適な第1の温度および第2の温度の絶対値は大きく異なる。非特許文献3および非特許文献4に開示の方法を用いることにより、基礎データを得ることが出来る。これらの基本データを採取できる金属材料を以下に示す。
リードフレーム材料、セラミックス/アルミ複合材料、チタン合金(Ti-3Al-5V合金)、βrichチタン合金、β型チタン合金、Cr-Ni耐熱合金(45%Cr30%Ni合金)、インコネルインコネル600(Ni-16%Cr-9%Fe合金)、金属間化合物Ni3Alの一方向凝固板、Ni鉄合金系(78パーマロイ、45パーマロイ、50鉄ニッケル、42鉄ニッケル、アンバー、スーパーアンバー、コバール)、Ni系ステンレス合金鋼、Cr系ステンレス合金鋼である。これらのデータに基づいて、本発明の圧延製造工程を最適化出来る。従って、種々の難加工性金属板の温間圧延に適用することが出来る。
以上の実施例からも分かるように、本発明の技術を用いることによって、板材の温間圧延工程における板縁割れ発生を防止して圧延の持続性と生産性を高めることにより、低コスト、高品質の製品板材を提供できる。
1 被圧延板
2 コイラー
2’ コイラー
3 保温カバー
3’ 保温カバー
4 圧延機
4’ 圧延機
5 加熱装置
5’ 加熱装置
5’’ 加熱装置
6 冷却装置
6’ 冷却装置
2 コイラー
2’ コイラー
3 保温カバー
3’ 保温カバー
4 圧延機
4’ 圧延機
5 加熱装置
5’ 加熱装置
5’’ 加熱装置
6 冷却装置
6’ 冷却装置
Claims (11)
- 板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であることを特徴とする金属板。
- 板幅端から板幅内側方向に板厚の2倍または板幅の10%の何れか小なる範囲で定義される板縁部分の平均結晶粒径が板幅中央部の平均結晶粒径の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上であり、板の体積の30%以上、好ましくは50%以上の結晶粒が動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶に起因する等軸晶であり、板の平均結晶粒径が15μm以下、好ましくは5μm以下であり、板幅中央の板厚中央部分の平均結晶粒径が板幅中央の板表面の平均結晶粒径の1.5倍以下、好ましくは1.1倍以下であり、該板縁部分の{0001}極点図の集合組織の集積度が板幅中央部の{0001}極点図の集合組織の集積度に比べて低いことを特徴とするマグネシウム合金板。
- 該板縁部分の{0001}極点図がRD軸上に2つのピークを持つダブルピーク型の集合組織を示し、該ピークはNDから±12°〜±30°RDへ傾斜することを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム合金板。
- 圧延に引き続き、再結晶温度以上の温度に加熱されて再結晶したことおよび/または該板縁部が切断除去されたことを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の金属板またはマグネシウム合金板。
- 単位圧延作業が被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する第1温度制御工程、引き続き該被圧延板の該板縁部分を該第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する第2温度制御工程、該板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する転位蓄積圧延工程、引き続き第2の圧下率、好ましくは動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶が発生する第2の圧下率で延伸する再結晶圧延工程、所望により該板縁部分の平均温度を該粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する第3温度制御工程からなり、圧延後の板厚が設定の板厚になるまで該単位圧延作業を繰り返すことを特徴とする金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造方法。
- 連続する該転位蓄積圧延工程と該再結晶圧延工程の開始時間の時間間隔が10sec以下、好ましくは2sec以下であり、各圧延のひずみ速度が0.05〜40/secであり、該転位蓄積圧延工程と該再結晶圧延工程の総圧下率が動的再結晶限界ひずみ以上であることを特徴とする請求項5に記載の金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造方法。
- 該単位圧延作業の工程の前にコイルから素材を巻き出すアンコイル工程、該単位圧延作業の工程の後に圧延後の素材を巻き取るリコイル工程からなるリバース圧延を実施することを特徴とする請求項5および請求項6に記載の金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造方法。
- 被圧延板の幅全体を局部変形発生の限界の温度より高い第1の温度に加熱する第1温度制御装置、引き続き該被圧延板の該板縁部分を該第1の温度よりも高い第2の温度に加熱する第2温度制御装置、該板縁部分の割れ無し限界圧下率以下の第1の圧下率で延伸する転位蓄積圧延装置、引き続き第2の圧下率、好ましくは動的再結晶および/またはポストダイナミック再結晶が発生する第2の圧下率で延伸する再結晶圧延装置、所望により該板縁部分の平均温度を該粒界析出の下限温度より低い第3の温度に設定する第3温度制御装置からなり、圧延後の板厚が設定の板厚になるまで該単位圧延作業を繰り返すことを特徴とする金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造装置。
- 該単位圧延作業の前にコイルから素材を巻き出すアンコイル装置、該単位圧延作業の後に圧延後の素材を巻き取るリコイル装置からなり、該アンコイル装置および該リコイル装置間で該被圧延板の張力を制御しながらリバース圧延が実施出来ることを特徴とする請求項8に記載の金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造装置。
- 該第1温度制御装置がボックス炉、トンネル炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかであり、該第2温度制御装置がトンネル炉、赤外線エッジヒーター、電磁誘導エッジヒーター、レーザー加熱装置、プラズマ加熱装置の何れかであり、該第3温度制御装置が冷却ロール、冷媒スプレー、冷却金型の何れかであり、該転位蓄積圧延装置および/または該再結晶圧延装置のワークロールがボックス炉、赤外線ヒーター、電磁誘導ヒーターの何れかの外部加熱装置および/またはバーヒーター、通電加熱装置、カートリッジヒーター、バンドヒーターの何れかの内部加熱装置を有することを特徴とする請求項8および請求項9に記載の金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造装置。
- 該転位蓄積圧延装置および/または該再結晶圧延装置が板クラウン変更による形状制御機能および/またはロール表面の潤滑機能を有するとともに、コイル圧延の張力制御装置を有することを特徴とする請求項8ないし請求項10に記載の金属板またはマグネシウム合金板の圧延製造装置。
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-
2008
- 2008-08-16 JP JP2008209394A patent/JP2010043335A/ja active Pending
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