JP2010013779A - セルロース混合エステル繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
高引張強度、高初期引張抵抗度を有し、かつ湿潤下における引張強度の低下が小さいセルロース混合エステル繊維の提供。
【解決手段】
セルロース混合エステルを主たる成分とする繊維であって、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴するセルロース混合エステル繊維。
(1)2.0≦引張強度[cN/dtex]≦4.0
(2)50≦初期引張抵抗度[cN/dtex]≦100
(3)75≦(湿潤引張強度/乾燥引張強度)×100≦100
【選択図】なし
Description
このようにセルロースエステル繊維の力学特性を改善する方法はいくつか提案されているものの、ビスコースレーヨン並の高強度、高初期引張抵抗度を有し、かつ湿潤下における引張強度の低下が小さいセルロース混合エステル繊維はなかった。
日本化学繊維協会編「繊維ハンドブック2008」p296
(2)50≦初期引張抵抗度[cN/dtex]≦100
(3)75≦(湿潤引張強度/乾燥引張強度)×100≦100
第2の発明は、可塑剤を含有したセルロース混合エステル繊維を、下記式(4)〜(5)の条件で湿潤緊張熱処理を行うことを特徴とするセルロース混合エステル繊維の製造方法である。
(5)0.05≦繊維に負荷される応力[cN/dtex]≦1.00
第3の発明は、セルロース混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする第2の発明に記載のセルロース混合エステル繊維の製造方法である。
(2)50≦初期引張抵抗度[cN/dtex]≦100
(3)75≦(湿潤引張強度/乾燥引張強度)×100≦100
繊維の引張強度は、2.0cN/dtex以上4.0cN/dtex以下であることが重要である。繊維の引張強度を2.0cN/dtex以上とすることで、製織や製編等の高次加工工程の通過性や取扱性が格段に良好となり、また加工速度の向上等工程の効率化がはかれる。更にはアウター用素材として単独で使用することも可能となり、またこれまで強力不足により展開が困難であった薄地織物などへの展開が可能となる。更には引張強度を必要とされる産業資材用途への利用も可能となる。良好な引張強度特性の観点から、引張強度は高ければ高いほど実用範囲が広がり各種用途に展開できるため好ましく、2.1cN/dtex以上であることがより好ましく、2.2cN/dtex以上であることが更に好ましい。なお引張強度の上限は、本発明者等の知見によれば、現状では4.0cN/dtexである。
上記式において、乾湿引張強度比が高ければ高いほど、湿潤状態における引張強度の低下が小さいことを指す。一般にセルロース系繊維は、湿潤下では繊維が膨潤してしまい、引張強度は低下し、例えばアセテート繊維やレーヨンの乾湿引張強度比は70%以下である。しかしながら本発明のセルロース混合エステル繊維の乾湿引張強度比は75%以上である。乾湿引張強度比を75%以上とすることで、水存在下での強度低下に起因して、染色工程で被る擦れにより著しくフィブリル化することや、洗濯時に被る擦れによるフィブリル化を避けることができる。乾湿引張強度比は、78%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。なお乾燥引張強度とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下において測定した値であり、湿潤引張強度とは、繊維試料を別に設けた容器に入れ、水(20±2℃)中に10分間浸漬して十分に膨潤させた後、温度20℃、湿度65%RHの環境下において測定した値である。
本発明のセルロース混合エステル繊維の伸度は3%以上であることが好ましい。伸度が3%以上である場合には、製織や製編時など高次加工工程において毛羽や糸切れが多発することがなく高次加工の工程通過性が良好となり、更には衣服等における最終製品形態において摩擦、摩耗等により繊維のフィブリル化を避けることができる。伸度は5%以上であることがより好ましく、7%以上であることが更に好ましい。
(5)0.05≦繊維に負荷される応力[cN/dtex]≦1.00
本発明における湿潤緊張熱処理とは、繊維を加熱された液体浴に浸漬させながら引張処理を行うことをいう。
A.セルロース混合エステルの平均置換度
80℃で8時間の乾燥したセルロース混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.引張強度、伸度、乾湿引張強度比
「JIS L 1013:1999化学繊維のフィラメント糸試験方法・8.5引張強さ及び伸び率」に準じて行った。
C.初期引張抵抗度
「JIS L 1013:1999化学繊維のフィラメント糸試験方法・8.10初期引張抵抗度」に準じて行った。すなわち引張強度・伸度の測定と同じ方法で試験を行って荷重−伸長曲線を描き、この図から原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点を求め、「JIS L 1013:1999化学繊維のフィラメント糸試験方法・8.10初期引張抵抗度」に記載の式によって初期引張抵抗度を算出した。なお測定回数は10回であり、その平均値を初期引張抵抗度とした。
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥し、CAP(アセチル基の平均置換度2.0、プロピオニル基の平均置換度0.7)を得た。このCAP80重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)19.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて235℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース混合エステル組成物ペレットを得た。
合成例1で製造した可塑剤としてPEG600を含有したセルロース混合エステル組成物を80℃、8時間の真空乾燥を行った後、二軸エクストルーダーにて260℃で溶融させ、紡糸温度260℃で紡糸パックに導入し、紡糸口金(孔径/孔長=0.25/0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(品種100デシテックス−36フィラメント−丸断面)。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度80℃、張力0.55cN/dtexの条件で10分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は99.2%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は2.70cN/dtex、初期引張抵抗度は79.8cN/dtex、伸度は4.6%であった。また湿潤下での引張強度は2.42cN/dtexであり、乾湿引張強度比は89.6%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水/エタノール(95/5)混合溶液にて温度55℃、張力0.13cN/dtexの条件で5分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は98.8%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は2.14cN/dtex、初期引張抵抗度は53.7cN/dtex、伸度は12.2%であった。また湿潤下での引張強度は1.67cN/dtexであり、乾湿引張強度比は78.0%であった。
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20、アセチル基置換度0.1、プロピオニル基置換度2.5)93重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)7重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース混合エステル組成物ペレットを得た。
合成例2で製造した可塑剤としてPEG600を含有したセルロース混合エステル組成物を80℃、8時間の真空乾燥を行った後、二軸エクストルーダーにて240℃で溶融させ、紡糸温度240℃で紡糸パックに導入し、紡糸口金(孔径/孔長=0.25/0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmの位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種90デシテックス−24フィラメント−丸断面)。
合成例1にて、可塑剤をグリセリンとする以外は同様に混練を行った。このセルロース混合エステル組成物を80℃、8時間の真空乾燥を行った後、二軸エクストルーダーにて255℃で溶融させ、紡糸温度255℃で紡糸パックに導入し、紡糸口金(スリット幅0.08mm、スリット長0.20mm、孔深度0.35mm、孔形:Y孔)を用い、吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmの位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種100デシテックス−36フィラメント−Y断面、異形値(外接円/内接円比=1.8))。
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB171−15、アセチル基平均置換度2.0、ブチリル基平均置換度0.7)85重量%と平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)14.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース混合エステル組成物ペレットを得た。
合成例3で製造した可塑剤としてPEG400を含有したセルロース混合エステル組成物を80℃、8時間の真空乾燥を行った後、二軸エクストルーダーにて255℃で溶融させ、紡糸温度255℃で紡糸パックに導入し、紡糸口金(孔径/孔長=0.25/0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1250m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(品種150デシテックス−48フィラメント−丸断面)。
実施例1で得た繊維を、130℃に設定された供給ローラーに6周回接触させ、延伸倍率を1.10倍にし、160℃に設定された延伸ローラーに6周回接触させて、300m/分で巻き取った。延伸糸の引張強度は1.40cN/dtex、伸度14.7%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度98℃、張力0.08cN/dtexの条件で10分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は99.3%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は2.04cN/dtex、初期引張抵抗度は53.4cN/dtex、伸度は15.2%であった。また湿潤下での引張強度は1.55cN/dtexであり、乾湿引張強度比は76.0%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度23℃、張力0.01cN/dtexの条件で15分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は99.7%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は1.66cN/dtex、初期引張抵抗度は35.9cN/dtex、伸度は20.6%であった。また湿潤下での引張強度は1.13cN/dtexであり、乾湿引張強度比は68.1%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度98℃、張力0.02cN/dtexの条件で15分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より可塑剤は99.5%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は1.83cN/dtex、初期引張抵抗度は40.9cN/dtex、伸度は17.3%であった。また湿潤下での引張強度は1.28cN/dtexであり、乾湿引張強度比は69.9%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度45℃、張力0.42cN/dtexの条件で15分間の湿熱緊張熱処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は99.0%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は1.93cN/dtex、初期引張抵抗度は48.6cN/dtex、伸度は14.0%であった。また湿潤下での引張強度は1.42cN/dtexであり、乾湿引張強度比は73.6%であった。
実施例1で紡糸して得た繊維を水中にて温度98℃、張力1.05cN/dtexの条件で15分間の湿熱緊張熱処理を行ったところ、処理開始直後に糸切れが発生した。
合成例1で製造したセルロース混合エステル88重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール11.9重量%およびホスファイト系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース混合エステル組成物ペレットを得た。このペレットを80℃、8時間の真空乾燥を行い、二軸エクストルーダーを用いて溶融させ、紡糸温度260℃とした紡糸パックに導入し、紡糸口金(孔径/孔長=0.23/0.3mm)より紡出した。この際の紡糸口金面温度は255℃であった。また加熱領域長さ20cmの加熱筒を加熱領域上端が口金下10cmの位置となるよう設置し、紡出糸条を加熱筒内部へ通過させた。なお加熱筒は口金下15cmの雰囲気温度が300℃となるよう調整した。加熱筒通過後の紡出糸条を20℃、風速0.5m/sの冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、1800m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介してワインダーにて巻き取った(品種155デシテックス−36フィラメント−丸断面)。
比較例5において紡糸して得た繊維を、水中にて温度98℃、張力0.81cN/dtexの条件で20分間の湿熱緊張処理を行った。処理前後の重量変化より、可塑剤は99.3%溶出されていることを確認した。得られた繊維の引張強度は3.40cN/dtex、初期引張抵抗度は97.4cN/dtex、伸度は3.1%であった。また湿潤下での引張強度は3.06cN/dtexであり、乾湿引張強度比は90.0%であった。
実施例1で得た繊維を、130℃に設定された供給ローラーに6周回接触させ、延伸倍率を1.10倍にし、160℃に設定された延伸ローラーに6周回接触させて、300m/分で巻き取った。延伸糸の引張強度は1.40cN/dtex、伸度14.7%であった。
Claims (3)
- セルロース混合エステルを主たる成分とする繊維であって、下記式(1)〜(3)を満たすことを特徴するセルロース混合エステル繊維。
(1)2.0≦引張強度[cN/dtex]≦4.0
(2)50≦初期引張抵抗度[cN/dtex]≦100
(3)75≦(湿潤引張強度/乾燥引張強度)×100≦100 - 可塑剤を含有したセルロース混合エステル繊維を、下記式(4)〜(5)の条件で湿潤緊張熱処理を行うことを特徴とするセルロース混合エステル繊維の製造方法。
(4)50≦処理温度[℃]≦100
(5)0.05≦繊維に負荷される応力[cN/dtex]≦1.00 - セルロース混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項2に記載のセルロース混合エステル繊維の製造方法。
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