JP2010010668A - 軟磁性体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 金属ガラス粉が溶射により積層された、下記特性を有する軟磁性体。
保磁力:150A/m以下
酸素濃度:0.3質量%以下
鉄濃度:30質量%以上
金属ガラスの過冷却液体温度領域ΔTx:30℃以上
【選択図】 図7
Description
以上のような要求に答える材料として金属ガラスが注目されている。
例えば、金属ガラス粉の焼結体からなる軟磁性材(特許文献1)、金属ガラスリボンをトロイダル状に巻回した積層鉄心(特許文献2)、或いは金属ガラス粉末を溶射により筒状体に積層させて得た鉄心(特許文献3)などが知られている。
しかしながら、金属ガラス自体は優れた磁気特性を有するものの、圧粉成形体、或いは焼結体としたような場合には磁気特性の低下が認められ、またリボン(箔材)を用いた場合には適用形状等の面で限界があり、金属ガラスが本来有する優れた磁気特性を発揮できないでいた。
金属ガラス粉が溶射により積層された、下記特性を有するものである。
保磁力:150A/m以下
酸素濃度:0.3質量%以下
鉄濃度:30質量%以上
金属ガラスの過冷却液体温度領域ΔTx:30℃以上
また、前記軟磁性体において、酸素濃度が0.2質量%以下であり、且つ保磁力100A/m以下であることが好適である。
また、前記軟磁性体において、金属ガラスがFe・Si・B・P系であり、Pはガラス形成能を高める元素として含まれることが好適である。さらに、金属ガラスがFe・Si・B・P・C系であり、Cはガラス形成能を補助的に高める元素として含まれることが好ましい。ここで、金属ガラスはFe76Si5.7B9.5P5C3.8であることが好適である。
また、前記軟磁性体において、金属ガラスはFe・Si・B・P・C・M系であり、溶射による酸化を防止するための酸化防止元素としてMを含み、前記MはCr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Moのいずれかの元素であることが好適である。さらには、金属ガラスがFe76―XMXSi5.7B9.5P5C3.8であり、Xが0.5以上、10以下であることが好適である。
また、前記軟磁性体において、被膜厚は50μm以上であることが好適である。
また、軟磁性体は、高速フレーム溶射法もしくはプラズマ溶射法で形成されていることが好ましい。
1.金属ガラス
1960年代に開発されたFe−P−C系の非晶質合金以降、多くのアモルファス合金が製造され、例えば(Fe,Co,Ni)−P−B系、(Fe,Co,Ni)−Si−B系非晶質合金、(Fe,Co,Ni)−M(Zr,Hf,Nb)系非晶質合金、(Fe,Co,Ni)−M(Zr,Hf,Nb)−B系非晶質合金などが知られている。これらは磁性を有しているので、非晶質磁性材料としての応用が期待されてきた。
金属ガラスは、(1)3元系以上の金属からなる合金で、且つ(2)過冷却液体温度領域を有する合金と定義されており、耐食性、耐摩耗性等に極めて高い性能を有し、また構成元素によっては優れた磁気特性を有し、さらにより緩慢な冷却によってアモルファス固体が得られるなどの特徴を有する。最近では、金属ガラスはナノクリスタルの集合体との見方もされており、金属ガラスのアモルファス状態における微細構造は従来のアモルファス金属のアモルファス状態とは異なると考えられている。
すなわち、金属ガラスをDSC(示差走査熱量計)を用いてその熱的挙動を調べると、温度上昇にともない、ガラス転移温度(Tg)を開始点としてブロードな広い吸熱温度領域が現れ、結晶化開始温度(Tx)でシャープな発熱ピークに転ずる。そしてさらに加熱すると、融点(Tm)で吸熱ピークが現れる。金属ガラスの種類によって、各温度は異なる。TgとTxの間の温度領域△Tx=Tx−Tgが過冷却液体温度領域であり、△Txが10〜130℃と非常に大きいことが金属ガラスの一つの特徴である。△Txが大きい程、結晶化に対する過冷却液体状態の安定性が高いことを意味する。従来のアモルファス合金では、このような熱的挙動は認められず、△Txはほぼ0である。
これに対して、従来のアモルファス合金では、過冷却液体状態の安定性が非常に低く、融点以下で凝固せずに過冷却液体状態で存在し得る時間は非常に短い。このため、溶融状態から非常に急速にガラス遷移温度以下にまで冷却しなければ結晶相を生じて凝固してしまう。従来のアモルファス合金において、アモルファス固体は薄帯状、線状、粉状などでしか得られない。
例えば、特開平3−158446号公報には、過冷却液体温度領域の温度幅が広く、加工性に優れるアモルファス合金として、XaMbAlc(X:Zr,Hf、M:Ni,Cu,Fe,Co,Mn、25≦a≦85、5≦b≦70、0≦c≦35)が記載されている。
メタル−メタロイド系金属ガラス合金は、△Txが35℃以上、組成によっては50℃以上という大きな温度間隔を有していることが知られている。本発明において、さらには△Txが40℃以上の金属ガラスが好ましい。
メタル−メタル系金属ガラス合金の例としては、Fe、Co、Niのうちの1種又は2種以上の元素を主成分とし、Zr、Nb、Ta、Hf、Mo、Ti、Vのうちの1種又は2種以上の元素とBを含むものが挙げられる。
上記の金属ガラス組成は非常に優れた強磁性と高い強度を示すとともに、安定なアモルファス相の金属ガラス層を形成することができる。
溶射は、燃焼炎または電気エネルギーを用いて線状、棒状、粉末状などの溶射材料を加熱し、その溶射粒子を基材表面に吹き付けて被膜を形成する方法であり、大気圧プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF)、アーク溶射、コールドスプレーなどがある。例えば、高速フレーム溶射では、ガスフレーム内に溶射材料粉末を投入して粉末粒子を加熱及び加速する。また、近年においては、作動ガスを高圧で送給することにより高速フレーム溶射に匹敵する粒子飛行速度が得られる大気圧プラズマ溶射も開発されている。
本発明においては、高速フレーム溶射などの高速溶射プロセスが高密度アモルファス相被膜を得る上で特に優れている。
また、過冷却液体温度領域が比較的低温な金属ガラス合金においては、コールドスプレーも利用できる。
燃料としては、灯油、アセチレン、水素、プロパン、プロピレン等を用いることができる。
また、基材は、溶射被膜との接合性を高めるために、通常はブラスト処理など公知の方法により基材表面の粗面化処理を施して使用する。
本発明の金属ガラス積層体は、基材表面にアモルファス相の金属ガラス層が形成されたものであり、金属ガラス層には層を貫通する連続空孔(ピンホール)がない。このような緻密なアモルファス金属ガラス層により、優れた磁気特性を得ることができる。空孔が大量に存在する場合には磁気特性に悪影響を与える恐れがあり、また耐食性、耐磨耗性等の機能の点からも不利である。金属ガラス層の厚みは1μm以上、好ましくは50μm以上である。厚み上限は特に制限されず、目的に応じて決定できる。
金属の被膜形成方法としては圧着、めっき、蒸着などがあるが、本発明の金属ガラス積層方法としては、特に溶射が好適である。溶射は、過冷却液体状態での成膜制御性に優れる。
また、前記DSC測定でも見られるように、アモルファス相の金属ガラスは加熱過程においても過冷却液体状態となることができる。
また、スプラットは過冷却液体状態のまま冷却されるので、結晶相を生成せず、アモルファス相のみが得られる。
従って、本発明の方法によれば、均一な金属ガラスのアモルファス固体相からなり、且つ気孔がほとんどない緻密な被膜を溶射により得ることができ、基材の表面改質(耐摩耗性、耐熱性、耐食性など)、クラッド材としての高機能化、傾斜機能材料の作成等に非常に有用である。
よって、本発明においては、金属ガラス粒子の少なくとも一部が溶融状態あるいは過冷却液体状態で基材表面において凝固及び積層することにより、基材表面に金属ガラス層を形成することができる。
金属ガラス層の断面や表面(基材側あるいは非基材側)を電子顕微鏡等で観察した場合、円形〜楕円形に薄くつぶれたスプラットの積層が金属ガラス層中に認められる。これは、金属ガラス粒子が過冷却液体状態で基材表面に衝突したものと考えられる。
また、円形〜楕円形に薄くつぶれたコアを中心部に有し、コアの周囲には別の薄く広がるスプラッシュ様部分を有するスプラットの積層が認められることもある。これは、金属ガラス粒子の表面が溶融状態であり、中心部が過冷却液体状態で基材表面に衝突したものと考えられる。
これに対して、本発明の溶射被膜は極めて緻密であり、従来の溶射における問題点をも解決するものである。
これに対して、特開平8−176783号公報にはメカニカルアロイングにより鉄、ニッケル、コバルトのいずれか少なくとも一種を含むアモルファス粉末原料を調製し、これを溶射することにより成膜する方法が開示されている。大きな改善は期待されるものの、これもまた溶射により基板表面での急冷によりアモルファス層の形成を行っており、溶射層が積層する場合には急冷が困難であり、緻密膜の形成及び界面における接合は十分とは言えない。
金属ガラス粒子の形状は特に限定されるものではなく、板状、チップ状、粒状、粉体状などが挙げられるが、好ましくは粒状あるいは粉体状である。金属ガラス粒子の調製方法としては、アトマイズ法、ケミカルアロイング法、メカニカルアロイング法などがあるが、生産性を考慮すればアトマイズ法によって調製されたものが特に好ましい。
また、本発明の金属ガラス層の密度は、金属ガラス真密度の80〜100%である。
なお、従来の一般的なプラズマ溶射法によって金属ガラス皮膜を形成する場合、第一の要件を満足する粒子速度を得ることが困難だった。しかし、発明者らは、高圧の作動ガスを利用することで溶射粒子を高速にできる大気圧プラズマ溶射に着目し、大気圧プラズマ溶射によって金属ガラス皮膜が形成できることを確かめた。
例えば、基材表面にマスキングをして非マスキング部分にのみ金属ガラス層を形成すれば、基材表面に金属ガラス層をパターン化して形成することができる。
また、基材表面に凹凸形状を形成し、この表面に金属ガラス層を形成することもできる。
また、後述するように、基材表面に金属ガラス層を形成した後、プレス等により金属ガラス層表面に凹凸形状や鏡面を転写形成することもできる。
このように、溶射条件を調整したりマスキングや加工を施すなどしたりして、様々な形状やパターンを有する金属ガラス軟磁性体を得ることができる。
また、基材表面に予め凹凸パターンを加工しておくことにより、積層体の接合強度やクラッド材としての特性を変化させることも可能である。
基材除去は、溶解や切削など公知の方法により可能であるが、基材と金属ガラス層との密着を予め阻害しておけば、積層体から基材を容易に剥離することができる。例えば、基材表面を鏡面近くまで平滑にしておくと、積層体にわずかな衝撃を加えだけで容易に基材を剥離することができる。また、基材と金属ガラスとの線膨張率の差などを利用して剥離することもできる。また、所定パターンの凹凸形状を基材表面に有する基材を用いて金属ガラスバルク体を製造すれば、凹凸形状が寸法精度よく転写されるので、金型として使用することも可能である。また、金属ガラスバルク体にもプレス等により凹凸形状や鏡面を転写形成することができる。
溶射被膜はHVOF装置を用いて作成した。厚さ約300μmのFe76Si5.7B9.5P5C3.8被膜は、約50×50×5mmのアルミニウム基板上に作成した溶射被膜を剥離して作成した。溶射被膜の構造(相同定)、断面ミクロ組織は、それぞれX線回折装置(XRD)、光学顕微鏡で調べた。
この結果、Fe76Si5.7B9.5P5C3.8溶射被膜は気孔がほとんどなく緻密なものであった(図4参照)。この溶射被膜の構造は、図5に示すように結晶の析出を示す回折ピークが見られず、また、図6に示すDSCの結果を参照しても、単相のガラス相であった。
溶射装置には、HVOF溶射装置およびプラズマ溶射装置を用いた。各溶射条件は以下の通りである。
<HVOF溶射条件>
HVOF溶射装置:PRAXAIR/TAFA社製 JP-5000
粉末搬送ガス :N2
燃料 :灯油(流量6.0GPH)
酸素流量 :1800SCFH
溶射粒子飛行速度:300m/sec以上
溶射距離 :355mm(溶射ガン先端から基材表面までの距離)
溶射ガン移動速度:600mm/sec
<プラズマ溶射条件>
プラズマ溶射装置:Sulzer Metco社製 3電極プラズマTriplexPro-200
電流 :450A
電力 :57kw
使用プラズマガス:Ar、He
溶射粒子飛行速度:300m/sec以上
溶射距離 :100mm(溶射ガン先端から基材表面までの距離)
溶射ガン移動速度:600mm/sec
同図より明らかなように、皮膜中の酸素濃度が保磁力に明らかに影響を与えており、特に好ましい保磁力150A/m以下とするためには、酸素濃度は0.3質量%以下であることが必要であった。さらに酸素濃度を0.2質量%以下にすることで、保磁力を100A/m以下にできることが明らかとなった。
詳細に検討を行った結果を各条件とともに次の表1、2に示す。ここで、試料1、2は、Fe・Si・B・P・C系の金属ガラスであり、ガラス形成能を高める元素としてPを含み、また、ガラス形成能を補助的に高める元素としてCを含んでいる。試料3〜8は、Fe・Si・B・P・C・M系の金属ガラスであり、溶射による酸化を防止するための酸化防止元素としてM(M=Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Mo)を含んでいる。具体的には、Fe76―XMXSi5.7B9.5P5C3.8の金属ガラスであり、元素Mの質量%であるXが0.5以上、10以下の範囲に設定されている。
一方、軟磁性体のうち酸化防止元素Mを含むFe・Si・B・P・C・M系の金属ガラス(試料3〜8)については、いずれも高い飽和磁化を維持することが確認できた。
また、高周波特性に影響するパラメータのひとつである保磁力(Hc)については、リボン材(1.2A/m)と比較しやや上昇する傾向にあるが、図7にも示すように、これは溶射膜中の酸素濃度に起因すると考えられる。そして、高速フレーム溶射法でこの酸素濃度を0.3質量%以下とすることにより、保磁力についても150A/m以下を達成することができる。さらには、燃焼フレームを用いない高速なプラズマ溶射法により、酸素濃度を0.2質量%以下とすることで、保磁力を100A/m以下にすることができる。
さらに、高周波特性、特にトランスなどのエネルギー損失のひとつである渦電流を低減するための電気抵抗値については、溶射皮膜のほうがリボン材(1.0×10−6Ωm)と比較し3倍程度高くなる傾向にある。
以上のように本発明にかかる軟磁性体によれば、飽和磁束密度を低下させることなく、比較的低い保磁力、高い電気抵抗を得ることができる。これらの特性は溶射条件の変更により調整可能であり、各種の軟磁性体特性を得ることが可能となる。
また、溶射法はスパッタ法に比較し厚膜が作成しやすく、磁性厚膜コーティングが必要な母材に対して施工することができる。焼結法にくらべても、安価な材料上に磁性材料を溶射すればよく、材料のコスト削減を図ることができる。この点、焼結法では、母材上に焼結体を形成することは、接合の困難性から難しく、実用的ではない。
さらにリボン材を巻回しトロイダルコアを作成する場合と比較しても、工程が簡易化され、しかも大面積に施工が可能であり、製造効率が高い。
磁気特性あるいは密度は、焼結体にくらべて同等以上のものが作成可能であり、実用性はきわめて高い。
16 ガスフレーム
20 溶射粒子
22 基材
24 溶射被膜
Claims (9)
- 金属ガラス粉が溶射により積層された、下記特性を有する軟磁性体。
保磁力:150A/m以下
酸素濃度:0.3質量%以下
鉄濃度:30質量%以上
金属ガラスの過冷却液体温度領域ΔTx:30℃以上 - 請求項1記載の軟磁性体において、酸素濃度が0.2質量%以下であり、保磁力が100A/m以であることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項1及び2記載の軟磁性体において、前記金属ガラスはFe・Si・B・P系であり、Pはガラス形成能を高める元素として含まれることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項3記載の軟磁性体において、前記金属ガラスはFe・Si・B・P・C系であり、Cはガラス形成能を補助的に高める元素として含まれることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項4記載の軟磁性体において、前記金属ガラスはFe76Si5.7B9.5P5C3.8であることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項4記載の軟磁性体において、前記金属ガラスはFe・Si・B・P・C・M系であり、溶射による酸化を防止するための酸化防止元素としてMを含み、
前記Mは、Cr、Nb、Ta、W、Ni、Co、Hf、Moのいずれかの元素であることを特徴とする軟磁性体。 - 請求項6記載の軟磁性体において、前記金属ガラスはFe76―XMXSi5.7B9.5P5C3.8であり、Xが0.5以上、10以下であることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の軟磁性体において、被膜厚は50μm以上であることを特徴とする軟磁性体。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の軟磁性体は、高速フレーム溶射法もしくはプラズマ溶射法で形成されていることを特徴とする軟磁性体。
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