JP2009268477A - イヌリン定量法および定量試薬 - Google Patents

イヌリン定量法および定量試薬 Download PDF

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Abstract

【課題】平均分子量の違いに影響されることなくイヌリンを短時間で簡便かつ正確に定量することができるイヌリンの定量法および定量試薬を提供する。
【解決手段】平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが下式の関係にあるイヌリンの定量法。特に、イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程における反応液中の、または定量試薬中の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上であるイヌリンの定量法または定量試薬。
【数1】
Figure 2009268477

【選択図】なし

Description

本発明は、イヌリンを短時間で正確に定量するためのイヌリンの定量法およびイヌリンの定量試薬に関する。
腎機能の一指標である糸球体濾過値(GFR:glomerular filtration rate)は、一般に、クレアチニン等の内因性物質、チオ硫酸ナトリウム・イヌリン・放射性のEDTAやイオタラム酸等の外因性物質を用いたクリアランス試験によって測定される。
クレアチニンクリアランスは、クレアチニンが内因性物質であるため被験者への侵襲が少ないメリットはあるが、測定の正確性に関して、尿細管からの分泌があること、クレアチニン産生量が食事や運動等の影響をうけること、等の問題点の指摘がある。また、チオ硫酸ナトリウムクリアランスは、チオ硫酸ナトリウムが、強く陰性に帯電している近位尿細管腔において水素イオンの多量分泌を促し、GFRに影響を与える可能性が指摘されている。また、イオタラム酸をはじめとする放射性物質を用いたクリアランスは、放射性物質の取り扱いに資格を要すること、放射性負荷に対する配慮が必要であること等に問題点の指摘がある。これらに対し、イヌリンは完全に糸球体により濾過されるのでクリアランス測定に理想的な物質とされている。
イヌリンクリアランスを測定する際には、一般に、被験者の静脈にイヌリンを投与し、その前後で経時的に単回または複数回採取した被験者の血液(例えば血漿、血清等)および/または尿について、イヌリン濃度を下記に示すいずれかの方法で測定する。
イヌリンの定量法には、従来、イヌリンを強酸で加熱して産生するフルフラールをアンスロン等と反応させて発色させる方法が多用されてきた。しかし、強酸での加熱操作が煩雑で危険性が高く、また自動分析機等への適用が困難なことから迅速性、安全性に欠ける点が指摘されている。また、反応が非特異的でグルコース等他の糖類の影響を受けること等の正確性に欠ける点が指摘されている。このことから、クリアランスに好適な物質としてのイヌリンの長所を損なうことになる。
そこで、これら問題点に対しイヌリンを簡便でより正確に定量する方法として、下記に示す種々の酵素法が開発されてきた。これらは、イヌリンを一般にイヌリナーゼ等と呼ばれる酵素を用いて単糖に分解し、生じたフルクトースを種々の方法で測定するものである。
例えば、フルクトースをヘキソキナーゼ・ホスホグルコイソメラーゼ・グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼと共役反応させNADPHの上昇を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、フルクトースをソルビトールデヒドロゲナーゼと共役反応させNADHの減少をレート法で測定する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、フルクトースをフルクトキナーゼ・ホスホグルコイソメラーゼ・グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼと共役反応させNADPHの上昇を測定する方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。また、フルクトースを酸素の存在下でNADまたはNADPを電子受容体としないフルクトースデヒドロゲナーゼおよび電子受容体と反応させ、生成する5−ケト−D−フルクトースまたは還元型電子受容体の増加あるいは酸化型電子受容体または酸素の減少を測定する方法が開示されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
酵素法では内因性グルコースの影響を受けずにイヌリンの定量をすることが可能となり、また、反応時間を20分以上に設定可能な特定の自動分析機であれば適用が可能となることが確認されている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、これらの酵素法においても、なお、反応時間は予備加温時間も含めて26分以上を要し、未だ汎用自動分析機への適用はできない問題がある。その理由は、主として、イヌリナーゼの酵素活性が、イヌリンを短時間で単糖に分解するには不十分であることによると考えられる。しかし、酵素活性を高めるために酵素添加量を増加させることはコストの点で問題がある。また、酵素添加量を増加させると酵素中に含まれる夾雑物質、夾雑酵素も増加し、当該夾雑物質、夾雑酵素が、フルクトースを測定するための追随酵素の反応を阻害したり、または当該酵素を含有する測定試薬の保存中に、当該測定試薬に濁りを生じさせたり、もしくは当該測定試薬に含まれる他構成成分の劣化を招いたりするため、反応性、保存安定性の点で問題がある。
ここで、イヌリンはチコリ等の塊茎に含まれる、グルコースをターミナルとしてフルクトースがn=2〜60で直鎖に結合した多糖類で定義される。通常、試薬あるいは製剤等として用いるイヌリンは一般にはチコリ等の塊茎より精製して得られるが、その起源または製法の違いにより平均分子量が異なる。これに対し、イヌリン分解反応に対するイヌリン分解酵素の酵素活性は、イヌリンの平均分子量の違いによる影響を受ける。イヌリン分解酵素であるイヌリナーゼは、末端から1単糖ずつ分解していくエキソ型(エキソイヌリナーゼ)と糖鎖の真ん中を切断するエンド型(エンドイヌリナーゼ)の2タイプに大別されるが、これらの混合物を用いる場合、エキソ型、エンド型比率にロット間差があると反応性差がさらに大きくなると考えられる。また、迅速性を上げるため反応時間を短くするとイヌリンの平均分子量の違いがイヌリン測定誤差の要因になり、クリアランス測定にも悪い影響を与え、正確性を欠く可能性がある。さらには、注射用製剤のイヌリンとキャリブレータのイヌリンの平均分子量の違いがイヌリン測定誤差の要因になり、クリアランス測定にも悪い影響を与える可能性がある。
一方、イヌリンから食品用途のフルクトースを製造する目的で、イヌリンをフルクトースに完全に分解するためのイヌリン分解酵素のエキソ型とエンド型の混合比が検討されている(非特許文献3参照)。しかし、当該混合比は72時間反応させた場合について検討したものであり、当該文献には、イヌリンの平均分子量の違いに影響されることなくイヌリンを短時間で正確に定量するという目的は記載されていない。
特開昭62−205799号公報 特公昭59−35592号公報 特開2002−119298号公報 特開2002−142798号公報
入江章子他、「臨床化学」、1981年3月、第10巻、第1号、p.64−69 杉田収他、「臨床化学」、1994年6月、第23巻、第2号、p.164−169 L. Zittan, Bagsvaerd、「スターチ(Starch)」(ドイツ)、1981年、第33巻、第11号、p.373−377
本発明は、上記イヌリンの定量法の問題点を解消し、イヌリンの平均分子量の違いに影響されることなくイヌリンを短時間で簡便かつ正確に定量することができるイヌリンの定量法およびイヌリンの定量試薬を提供することを目的とし、ひいては、当該定量法あるいは当該定量試薬により得られたイヌリン測定値を用いて、より正確性の高いクリアランスの評価方法を提供しようとするものである。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究したところ、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値(本明細書において最大値L、または単にLという。)から最小値(本明細書において最小値S、または単にSという。)を差し引いた差(以下感度の差ともいう)を低減することにより、イヌリンを短時間で簡便かつ正確に定量できることを見出した。特に、イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含むイヌリンの定量法であって、当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素のエキソイヌリナーゼ活性が後述の特定の範囲となるようにするか、またはエキソイヌリナーゼ活性およびエンドイヌリナーゼ活性がそれぞれ後述の特定の範囲となるようにすることで、上記感度の差を低減でき、イヌリンを短時間で簡便かつ正確に定量できることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成させた。本発明によれば、試料中のイヌリンを反応時間を長くとることができない汎用自動分析機においても正確に定量でき、その結果、汎用自動分析機を用いた正確性の高いクリアランス評価が可能になる。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
Figure 2009268477
の関係にあるイヌリンの定量法、
(2)平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
Figure 2009268477
の関係にあるイヌリンの定量法、
(3)平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
Figure 2009268477
の関係にあるイヌリンの定量法、
(4)イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のイヌリンの定量法、
(5)イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上であるイヌリンの定量法、
(6)イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程に続いて、得られたフルクトースを測定する工程を含む、上記(4)または(5)に記載のイヌリンの定量法、
(7)フルクトースを測定する工程において、フルクトースをヘキソキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を測定する、上記(6)記載のイヌリンの定量法、
(8)フルクトースを測定する工程において、フルクトースとNADHとをソルビトールデヒドロゲナーゼを用いてソルビトールとNAD+とし、当該NADHの減少を測定する、上記(6)記載のイヌリンの定量法、
(9)フルクトースを測定する工程において、フルクトースをフルクトキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を測定する、上記(6)記載のイヌリンの定量法、
(10)フルクトースを測定する工程において、フルクトースに、酸素の存在下でフルクトースデヒドロゲナーゼおよび酸化型電子受容体を作用させて、5−ケト−D−フルクトースおよび還元型電子受容体とし、当該5−ケト−D−フルクトースまたは当該還元型電子受容体の増加あるいは当該酸化型電子受容体または当該酸素の減少を測定する、上記(6)記載のイヌリンの定量法、
(11)測定試料が血液中または尿中イヌリンである、上記(1)〜(10)のいずれかに記載のイヌリンの定量法、
(12)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のイヌリンの定量法に用いるイヌリンの定量試薬、
(13)イヌリン分解酵素を含むイヌリンの定量試薬であって、当該試薬中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上であるイヌリンの定量試薬、
(14)上記(1)〜(11)のいずれかに記載のイヌリンの定量法に用いる、上記(13)記載のイヌリンの定量試薬。
本発明により、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lから最小値Sを差し引いた差(感度の差)を低減し、イヌリンを短時間に簡便かつ正確に定量することができる定量法およびイヌリンの定量試薬を提供するとともに、当該定量法あるいは当該試薬により得られたイヌリン測定値を用いて、より正確性の高いクリアランスの評価方法を提供することができる。
以下、本発明を詳述する。
本発明のイヌリンの定量法は、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
Figure 2009268477
の関係、好ましくは、式:
Figure 2009268477
の関係、さらに好ましくは、式:
Figure 2009268477
の関係にある。
感度は、吸光度(イヌリン水溶液を測定した時の吸光度から精製水を測定した時の吸光度を差し引いた吸光度)で表すことができる。本発明における感度を表す吸光度は、平均分子量2000〜7000のイヌリン(特に以下の製造法〔1〕〜〔3〕で製造したイヌリン)を使用し、該イヌリンよりイヌリン水溶液(5mg/dL)を調製して試料とし、該試料2.7μLに対し、イヌリン分解酵素を含む第一試液(組成(各濃度は第一試液中の濃度を示す):コハク酸緩衝液(pH5.0)0.05mol/L、フルクトースデヒドロゲナーゼ(FCD−301、東洋紡績株式会社製)60U/mL、1−メトキシ−PMS100mg/L)を180μL添加し酸素存在下で37℃にて10分間インキュベーションし、次に第二試液(組成(各濃度は第二試液中の濃度を表す):TES緩衝液(pH7.5)0.05mol/L、ペルオキシダーゼ(PEO−301、東洋紡績株式会社製)10U/mL、4−アミノアンチピリン0.1g/L、アニリン系トリンダー試薬(TOOS)1g/L、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスF−65、花王製)20g/L)を180μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とし、546nmにおける吸光度をエンドポイントで測定し、当該吸光度を、精製水を試料として同様に測定する時の吸光度(試薬ブランク)で補正して求める。
(イヌリン製造法)
〔1〕平均分子量4000のイヌリンの製法
食品用イヌリン(平均分子量5000;オラフティ社製)に80℃の温湯500mLを加えて10分間攪拌し、溶解を確認後、熱時に活性炭を投入し、更に液温を保持して10分間攪拌を継続する。この溶液を熱時に0.2〜0.5μmのメンブランフィルターにより濾過した後、40℃に冷却し、濾液に10重量倍のアセトンを加えて攪拌する。生じた沈殿を濾取し、風乾後40℃で減圧乾燥して精製イヌリンを得る。得られる精製イヌリンは平均分子量約4000である。
〔2〕平均分子量2000のイヌリンの製法
〔1〕の操作の0.2〜0.5μmのメンブランフィルターによる濾過後、この濾液にアセトンを攪拌しながら加え、1時間攪拌した後、析出物を濾過分離し濾液を得る。この濾液に対し再度アセトンを攪拌しながら加えた後、4℃にて一晩冷蔵放置し、生じた析出物を濾取する。得られた析出物を風乾後40℃で減圧乾燥して、精製イヌリンを得る。
〔3〕平均分子量7000のイヌリンの製法
〔1〕の操作の0.2〜0.5μmのメンブランフィルターによる濾過後、この濾液にアセトンを攪拌しながら加え、1時間攪拌した後、析出物を濾過分離し濾液を得る。この濾液を4℃にて一晩冷蔵放置し、生じた析出物を濾取し、この操作を2回実施し析出物を濾取する。得られた析出物を風乾後40℃で減圧乾燥して、精製イヌリンを得る。
本明細書において「感度(反応性)の差が20%」とは、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sの差(感度の差)を相対%で示したものが20%であることを示し、言い換えれば、式:(L−S)/L×100で算出した結果が20であることを示す。
本発明の測定対象であるイヌリンは、医薬品原料、または食品用として市販されているイヌリンまたはこれを精製して用いることができる。イヌリンは平均分子量は特に限定しないが好ましくは2000〜7000の範囲、更に好ましくは3000〜6000である。平均分子量2000〜7000の範囲であればイヌリンの製法は特に限定されない。本発明によれば、イヌリンの平均分子量の違いによる測定誤差が少ないので、平均分子量2000〜7000の範囲であれば、クリアランス測定時の注射用製剤とキャリブレータのイヌリンが同じ起源または製法である必要はない。尚、平均分子量はGPCクロマトグラフィーを用いて既知標準品プルランとの比較から求めることができる。イヌリンの製法としては、特に限定しないが、例えば一般的には、生化学実験講座4、糖質の化学(上)、東京化学同人社出版、1976年、p111に記載の方法がある。また、イヌリンの所定の分子量分画を得る方法として特開平9−324002号公報に記載された方法がある。また好ましい例としては、イヌリンを更に特開2002−161053号公報に記載の方法で精製して用いることができる。当該精製方法によると、再溶解性に優れ、安定で、取り扱いやすいイヌリンを得ることができる。イヌリンの純度は、特に限定されないが、通常90%以上、好ましくは94%以上である。
測定試料は、例えば血液(例えば血漿、血清等)中イヌリンまたは尿中イヌリン等が挙げられる。測定試料中のイヌリン濃度は、投与量または血液、尿等の試料種、または尿においてはその排出量により異なるが、通常0〜6000mg/dLであり、好ましくは0〜3000mg/dLである。
本発明のイヌリンの定量法は、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが前記の関係にあるイヌリンの定量法であれば特に限定されないが、簡便性、正確性の観点から、イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素のエキソイヌリナーゼ活性、またはエキソイヌリナーゼ活性およびエンドイヌリナーゼ活性が後述の特定の範囲である定量法が好ましく、当該工程に続いて得られたフルクトースを測定する工程を含む定量法がさらに好ましい。
以下本発明のイヌリンの定量法を、イヌリン分解酵素を用いてイヌリンをフルクトースに分解する工程を含み、当該工程に続いて得られたフルクトースを測定する工程を含むイヌリンの定量法を例に挙げて詳細に説明する。
(A)イヌリン分解酵素を用いてイヌリンをフルクトースに分解する工程
本工程は、イヌリンとイヌリン分解酵素とを反応液中に共存させることにより行うことができる。
イヌリン分解酵素は、イヌリンをフルクトースに分解する能力があるものであれば特に限定されないが、具体的には、エキソイヌリナーゼ(EC3.2.1.80)、エンドイヌリナーゼ(EC3.2.1.7)、これらの混合物等が例示される。このうちエキソイヌリナーゼは単独で用いることができるが、平均分子量2000〜7000の範囲のイヌリンに対する反応速度の差を低減する目的において、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを共に用いることが好ましい。このとき、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを含む混合物を用いることもできるが、更に好ましくは定量試薬の反応性のロット間差を低減する目的で、エキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを分離精製し、各々の活性値を元にエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを一定の範囲、一定の比率で混合して用いることもできる。エキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼの純度は、特に限定されないが、通常蛋白あたりの活性値として0.1U/mg・protein以上、好ましくは1U/mg・protein以上である。エキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼの分離精製法はBIOTECHNOLOGY AND APPLIED BIOCHEMISTRY 11,105-117(1989)、Int.J.Biol.Macromol.Volume17 Number5,247-250(1995)、澱粉化学,Vol36,No.2,103-111(1989)に記載がある。エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼは、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、キリベロマイセス(Klyveromyces)属等の微生物等より得ることができる。また、例えばこれらの遺伝子を他の微生物に組み込まれた遺伝子組換え微生物より製造されたもの等があり、また遺伝子的に性質を改変したものも用いられる。
本発明では、反応液中のイヌリン分解酵素のエキソイヌリナーゼ活性、またはエキソイヌリナーゼ活性およびエンドイヌリナーゼ活性が以下の(i)、(ii)または(iii)のいずれかの範囲であることが好ましい。これらのうち、反応時間短縮の点からはエキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを組み合わせる(ii)または(iii)が特に好ましい。
(i)エキソイヌリナーゼ活性が通常15U/mL以上、好ましくは20U/mL以上、更に好ましくは40U/mLである。この場合、エキソイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下である。
(ii)通常エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上、好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上、さらに好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が3U/mL以上である。この場合、エキソイヌリナーゼ、エンドイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下であり、エンドイヌリナーゼ活性が通常20U/mL以下、好ましくは10U/mL以下である。
(iii)通常エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上、好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が10U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上である。この場合、エキソイヌリナーゼ、エンドイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下であり、エンドイヌリナーゼ活性が通常20U/mL以下、好ましくは10U/mL以下である。
本工程の反応溶媒は特に限定されないが、例えば水、DMSOなどの水溶性有機溶媒を含む水溶液等を用いることができる。反応溶媒の使用量はイヌリン1mgに対して、通常0.54〜5.4L、好ましくは0.9〜4Lである。反応温度は自動分析機で設定され得る温度であれば特に限定されないが、通常25〜37℃、好ましくは30〜37℃である。反応液のpHはイヌリン分解酵素の反応至適pHによるが、通常4〜7.5、好ましくは4.5〜6である。反応時間は通常5〜22分、好ましくは10〜15分である。
このように、エンドイヌリナーゼ活性の存在により、エキソイヌリナーゼ活性が低減できる理由として、発明者らは次のように解釈する。すなわち、エンドイヌリナーゼ活性は一般的にフルクトース側の末端より三糖単位で切断し、最終的にフルクトースが3つ結合したもの、およびケストース、ニストース、フルクトフラノシルニストース等が生成される。該反応はイヌリンのフルクトース鎖長が長くとも反応速度がほとんど変わらない。一方、エキソイヌリナーゼ活性は、フルクトース鎖長が長いほど反応速度が遅くなる。しかし、エンドイヌリナーゼにより分解された生成物に対してはイヌリンに対して約2〜3倍程度反応速度が速い。このことから、エンドイヌリナーゼおよびエキソイヌリナーゼを組み合わせ、緩衝液、pH、反応温度、反応時間等の各条件にあわせて、これら酵素の濃度を調整することにより、イヌリン分解効率を向上させることができる。
本発明のイヌリンの定量法では、特に、イヌリン分解酵素のエンドイヌリナーゼ活性とエキソイヌリナーゼ活性を上記した特定の範囲とすることで、酵素添加量を低減することができ、その結果コストダウンにつながり、また酵素中に含まれる夾雑物質、夾雑酵素を低減できる。また、エキソイヌリナーゼ活性単独で用いる場合においても、エキソイヌリナーゼ活性で平均分子量2000〜7000までのイヌリンに対する反応性の差のない酵素濃度を設定できることから、酵素添加量の低減ならびにその管理の省力化が可能である。また、本発明のイヌリンの定量法では、イヌリン分解酵素のエキソイヌリナーゼ活性、またはエキソイヌリナーゼ活性およびエンドイヌリナーゼ活性を上記した特定の範囲とすることで、イヌリン測定完了までの所要時間を25分以内、さらには汎用自動分析機で通常使用される所要時間10分まで短縮することができる。
(B)前記工程で得られたフルクトースを測定する工程
本発明のイヌリンの定量法においては、上記のイヌリン分解工程(A)の後に、任意の単糖(フルクトース)測定方法が組み合わされる。以下(1)〜(4)にその事例を示すが、本発明はこの事例に限定されるものではない。また、これらのフルクトース測定工程は上記のイヌリン分解工程(A)と同時に行うこともできる。
(1)イヌリン分解により生成したフルクトースをヘキソキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を、例えばエンドポイント法、レート法等で測定する方法。
(2)イヌリン分解により生成したフルクトースとNADHとをソルビトールデヒドロゲナーゼを用いてソルビトールとNAD+とし、当該NADHの減少を、例えばエンドポイント法、レート法等で測定する方法。
(3)イヌリン分解により生成したフルクトースをフルクトキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を、例えばエンドポイント法、レート法等で測定する方法。
(4)イヌリン分解により生成したフルクトースに、酸素の存在下でフルクトースデヒドロゲナーゼ(特にNADまたはNADPを電子受容体としないフルクトースデヒドロゲナーゼ)および酸化型電子受容体を作用させて、5−ケト−D−フルクトースおよび還元型電子受容体とし、当該5−ケト−D−フルクトースまたは当該還元型電子受容体の増加あるいは当該酸化型電子受容体または当該酸素の減少を、例えばエンドポイント法またはレート法等で測定する方法。
さらに詳しくは、上記(4)の方法では、例えば1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルスルフェート(1−メトキシ−PMS)が電子受容体である場合、これを介して酸素との反応により生成する過酸化水素の増加を例えばエンドポイント法またはレート法等で測定することができる。
過酸化水素の増加は、4−アミノアンチピリンとアニリン系トリンダー試薬がペルオキシダーゼで触媒されカップリングして生成するキノン色素の増加等で測定することができる。アニリン系トリンダー試薬には特に限定はないが、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)は酸化縮合したときのモル吸光係数感度が高い・呈色が安定している等の理由から適している。また、テトラゾリウム塩が電子受容体である場合、反応により生成するホルマザン色素の増加を例えばエンドポイント法またはレート法等で測定することができる。過酸化水素の増加を測定する際にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスF−65(花王製)、ニューレックスペーストH(日本油脂製)、ルノックス100(東邦化学工業株式会社製)等)等のフルクトースデヒドロゲナーゼの作用を阻害する物質を作用させることもできる。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の添加によりフルクトースからの過酸化水素の生成が停止するので、イヌリンの分解が停止していなくても、その後のイヌリン分解によるフルクトースの増加が測定吸光度を変動させることはない。
上記(1)〜(4)の測定方法の測定条件(例えば反応溶媒、反応温度、反応液のpH、反応時間等)等は、従来公知の方法、例えばそれぞれ前記特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、特許文献2〜4に記載の方法の測定条件等に従えばよい。得られた測定値から、既知濃度のイヌリン溶液を測定して作成した検量線等を用いて、試料中のイヌリンを定量することができる。
本発明のイヌリンの定量法によると、平均分子量が2000〜7000の範囲であるイヌリンに対する感度の差を低減し、イヌリンを短時間で単糖に分解することができるので、イヌリンの測定における所要時間を短縮すること、具体的にはイヌリン測定完了までの所要時間を25分以内にすることができる。イヌリン測定における所要時間の短縮のためには、イヌリン分解酵素としてエキソイヌリナーゼ、エンドイヌリナーゼの混合物を用いる条件が好ましい。特に、エキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを分離精製し、各々の活性値を元にエキソイヌリナーゼまたはエンドイヌリナーゼを一定の範囲、一定の比率で混合して用いることにより、イヌリン測定における所要時間を短縮し、かつ測定試薬の反応性のロット間差を低減することができる。
本発明のイヌリンをフルクトースに分解する工程(A)またはフルクトースを測定する工程(B)における反応液には、それぞれ、必要に応じて上述したものに加えてさらにその他の添加剤を共存せしめても良い。当該添加剤としては、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルフォニックアシッド(略称:TES)等のグッド緩衝液や酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、コハク酸緩衝液をはじめとする各種緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のような界面活性剤、塩化ナトリウム等の塩類、アルブミンやポリエチレングリコール等の高分子化合物、アミノ酸類、糖類、シクロデキストリン類等のような安定化剤、抗生物質、アジ化ナトリウム等のような防腐剤、EDTA(またはその塩)等のようなキレート剤等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
本発明はまた、イヌリン分解酵素を含むイヌリンの定量試薬であって、当該試薬中のイヌリン分解酵素のエキソイヌリナーゼ活性、またはエキソイヌリナーゼ活性およびエンドイヌリナーゼ活性が以下の(i)、(ii)または(iii)のいずれかの範囲であるイヌリンの定量試薬に関する。これらのうち、反応時間短縮の点からは、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼを組み合わせる(ii)または(iii)が好ましい。本発明のイヌリンの定量試薬は、エキソイヌリナーゼとエンドイヌリナーゼとを予め混合したものでもよく、用時混合するものであってもよい。
(i)エキソイヌリナーゼ活性が通常15U/mL以上、好ましくは20U/mL以上、更に好ましくは40U/mLである。この場合、エキソイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下である。
(ii)通常エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上、好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上、さらに好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が3U/mL以上である。この場合、エキソイヌリナーゼ、エンドイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下であり、エンドイヌリナーゼ活性が通常20U/mL以下、好ましくは10U/mL以下である。
(iii)通常エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上、好ましくはエキソイヌリナーゼ活性が10U/mL以上かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上である。この場合、エキソイヌリナーゼ、エンドイヌリナーゼ中の夾雑物質、夾雑酵素の測定試薬への持込みを抑える点からは、エキソイヌリナーゼ活性が通常100U/mL以下、好ましくは50U/mL以下であり、エンドイヌリナーゼ活性が通常20U/mL以下、好ましくは10U/mL以下である。
本発明のイヌリンの定量試薬は、必要に応じて添加剤を共存せしめても良い。当該添加剤としては、ヘキソキナーゼ、ホスホグルコイソメラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ等の酵素、NADP、1−メトキシ−PMS等の電子受容体、TES等のグッド緩衝液や酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、コハク酸緩衝液をはじめとする各種緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のような界面活性剤、塩化ナトリウム等の塩類、アルブミンやポリエチレングリコール等の高分子化合物、アミノ酸類、糖類、シクロデキストリン類等のような安定化剤、抗生物質、アジ化ナトリウム等のような防腐剤、EDTA(またはその塩)等のようなキレート剤等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
本発明のイヌリンの定量試薬は、前述の本発明のイヌリンの定量法等に用いることができる。
本明細書におけるエキソイヌリナーゼ活性は以下の測定条件で測定するものである。
〈反応液〉(以下の各濃度は反応液中の濃度を表す)
50mM MES緩衝液 pH6.5
1% イヌリン(平均分子量約5000)
10mM 塩化マグネシウム
8mM NAD
3mM ATP
10U/mL グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6D-321 東洋紡績社製)
10U/mL ヘキソキナーゼ(HXK-311 東洋紡績社製)
10U/mL ホスホグルコイソメラーゼ(ロッシュ社製)
〈測定条件〉
上記反応液2.9mLを37℃でインキュベーションし、これに測定対象の酵素溶液0.1mLを添加混合し、37℃下340nmの吸光度変化を精製水を対照に3〜4分間モニタリングし、反応タイムコースよりその初期直線部分の1分間当りの吸光度変化率を求める。試薬ブランクは酵素溶液に変えて精製水を用いて同様に実施する。活性は、1分間当り、1マイクロモルのNADHを生成する活性を1Uとし、得られた吸光度から、式:活性値(U/ml)=(被検試料吸光度変化率−試薬ブランク吸光度変化率)×3/(6.22×0.1)で算出される。
本明細書におけるエンドイヌリナーゼ活性は以下の測定条件で測定するものである。
〈反応液の調製〉
4.5%水酸化ナトリウム溶液300mLに、3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)の1%溶液880mLおよび酒石酸ナトリウムカリウム四水和物255gを加える。別に10%水酸化ナトリウム溶液22mLに結晶フェノール10gを加え、水を追加して溶解し、100mLとする。このアルカリ性フェノール液69mLに炭酸水素ナトリウム6.9gを加えてとかし、上記DNS液を注いで酒石酸ナトリウムカリウムが十分に溶解するまでかきまぜる。
〈測定条件〉
イヌリン(平均分子量約5000)を基質とし、エンドイヌリナーゼの作用により生成した還元糖を、さらに3,5−ジニトロサリチル酸に作用させ還元反応により生成した3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の生成量を500nmの吸光度を測定することによって酵素活性を測定する。マイクロチューブに0.4MBis−Tris緩衝液(pH7.1)50μL、1%SDS50μL、4%イヌリン溶液50μLを添加混合し37℃、10分間予備加温した後、測定対象の酵素溶液50μLを添加し37℃、20分間インキュベートする。その後上記反応液を600μL添加混合後、100℃で、10分間反応させる。その後、該反応混合液を精製水で31倍希釈し、2時間放置後500nmの吸光度を測定する(ODtest)。試薬ブランクは酵素溶液の代わりに酵素希釈液(20mMリン酸カリウム緩衝液,pH7.5)を50μL加え上記と同様に操作を行って吸光度を測定する(ODblank)。標準液は酵素溶液の代わりに66.6mmol/Lフルクトースを50μL加え上記同様に操作を行って吸光度を測定する(ODstd)。
得られた吸光度より下記計算式に基づきエンドイヌリナーゼの酵素活性を算出する。なお上記条件下で1分間に1マイクロモルの還元糖を生成する酵素量を1Uとする。還元糖量はフルクトース換算とする。
(計算式)
活性値(U/ml)=(ODtest−ODblank)/(ODstd−ODblank)×66.6÷20
上記式中66.6はフルクトース換算ファクターを示し、20は反応時間(分)を示す。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
(実施例1)
平均分子量2000、4900、6400および7000のイヌリン(純度98%以上)(株式会社富士薬品製造)を、105℃で、2時間乾燥し、それぞれ正確にイヌリン50mgを秤取り5mLの精製水に混合し70℃の熱湯で完全に溶解した後精製水で1000mLとし5mg/dLイヌリン水溶液(試料)を調製した。該イヌリン水溶液(試料)を下記第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性がそれぞれ15、20、25、30および40U/mLになるように調製した本発明のイヌリンの定量試薬を用いて下記の測定法により測定した。また、比較例として、下記第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性が5U/mLになるように調製した試薬でも同様に測定した。各試薬の平均分子量2000のイヌリン水溶液を測定した時の感度を100%とした時の相対感度(%)を表1に示す。
〈イヌリン測定試薬の調製〉
第一試液(以下の各濃度は第一試液中の濃度を表す)
コハク酸緩衝液(pH5.0) 0.05mol/L
エキソイヌリナーゼ(東洋紡績株式会社製)
フルクトースデヒドロゲナーゼ(東洋紡績株式会社製) 60U/mL
1−メトキシ−PMS 100mg/L
第二試液(以下の各濃度は第二試液中の濃度を表す)
TES緩衝液(pH7.5) 0.05mol/L
ペルオキシダーゼ(東洋紡績株式会社製) 10U/mL
4−アミノアンチピリン 0.1g/L
アニリン系トリンダー試薬(TOOS) 1g/L
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ネオペレックスF−65、花王製) 20g/L
〈測定法〉
日立7170形自動分析機を用いた。試料2.7μLに第一試液を180μL添加し酸素存在下で37℃にて10分間インキュベーションし、次に第二試液を180μL添加し5分間インキュベーションし第二反応とし、546nmにおける吸光度を測定した。各吸光度は試薬ブランクで補正しイヌリン測定感度とした。
Figure 2009268477
結果
表1に示すように、イヌリン平均分子量2000〜7000までの反応性(感度)の差はエキソイヌリナーゼ活性15U/mL(本発明)で約20%、20U/mL(本発明)で約10%、40U/mL(本発明)で約5%以下に低減することがわかる。エキソイヌリナーゼ活性5U/mL以下(比較例)では約37%の反応性(感度)の差があり正確ではない。この結果より、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを測定したときの測定誤差は、比較例に比べて本発明では小さいことが示される。
(実施例2)
実施例1の第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性を5U/mLとし、更にエンドイヌリナーゼ活性を0.5、0.75、1.5、3および4.5U/mLになるように調製した本発明のイヌリン測定試薬を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例1のイヌリン水溶液(試料)を測定した。また、比較例として、実施例1の第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性を5U/mLとし、更にエンドイヌリナーゼ活性を0.1U/mLになるように調製した試薬でも同様に測定した。各試薬の平均分子量2000のイヌリン水溶液を測定した時の感度を100%とした時の相対感度(%)を表2に示す。
Figure 2009268477
結果
表2に示すように、イヌリン平均分子量2000〜7000までの反応性(感度)の差はエンドイヌリナーゼ活性0.5U/mL(本発明)で約20%、1.5U/mL(本発明)で約10%、3U/mL(本発明)で約5%以下に低減することがわかる。エンドイヌリナーゼ活性0.1U/mL以下(比較例)では約26%の反応性(感度)の差があり正確ではない。この結果より、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを測定したときの測定誤差は、比較例に比べて本発明では小さいことが示される。
(実施例3)
実施例1の第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性を2.5、5、10、20、35および50U/mLとし、更にエンドイヌリナーゼ活性を1.5U/mLになるように調製した本発明のイヌリン測定試薬を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例1のイヌリン水溶液(試料)を測定した。また、比較例として、実施例1の第一試液中のエキソイヌリナーゼ活性を1.25U/mLとし、更にエンドイヌリナーゼ活性を1.5U/mLになるように調製した試薬でも同様に測定した。各試薬の平均分子量2000のイヌリン水溶液を測定した時の感度を100%とした時の相対感度(%)を表3に示す。
Figure 2009268477
結果
表3に示すように、イヌリン平均分子量2000〜7000までの反応性(感度)の差は、エンドイヌリナーゼ活性1.5U/mL存在下、エキソイヌリナーゼ活性2.5U/mL以上(本発明)で20%以下に、10U/mL以上(本発明)で10%以下に、20U/mL以上(本発明)で5%以下に低減することがわかる。エキソイヌリナーゼ活性1.25U/mL以下(比較例)では約21%の反応性(感度)の差があり正確ではない。この結果より、平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを測定したときの測定誤差は、比較例に比べて本発明では小さいことが示される。

Claims (14)

  1. 平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
    Figure 2009268477

    の関係にあるイヌリンの定量法。
  2. 平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
    Figure 2009268477

    の関係にあるイヌリンの定量法。
  3. 平均分子量2000〜7000の範囲においてイヌリンを定量した時の感度の最大値Lと最小値Sが式:
    Figure 2009268477

    の関係にあるイヌリンの定量法。
  4. イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のイヌリンの定量法。
  5. イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程を含み、当該工程における反応液中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上であるイヌリンの定量法。
  6. イヌリンをイヌリン分解酵素を用いてフルクトースに分解する工程に続いて、得られたフルクトースを測定する工程を含む、請求項4または5に記載のイヌリンの定量法。
  7. フルクトースを測定する工程において、フルクトースをヘキソキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を測定する、請求項6記載のイヌリンの定量法。
  8. フルクトースを測定する工程において、フルクトースとNADHとをソルビトールデヒドロゲナーゼを用いてソルビトールとNAD+とし、当該NADHの減少を測定する、請求項6記載のイヌリンの定量法。
  9. フルクトースを測定する工程において、フルクトースをフルクトキナーゼを用いてフルクトース−6−リン酸とし、得られたフルクトース−6−リン酸をホスホグルコイソメラーゼを用いてグルコース−6−リン酸とし、得られたグルコース−6−リン酸とNADPとをグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼを用いて6−ホスホグルコン酸とNADPHとし、当該NADPHの上昇を測定する、請求項6記載のイヌリンの定量法。
  10. フルクトースを測定する工程において、フルクトースに、酸素の存在下でフルクトースデヒドロゲナーゼおよび酸化型電子受容体を作用させて、5−ケト−D−フルクトースおよび還元型電子受容体とし、当該5−ケト−D−フルクトースまたは当該還元型電子受容体の増加あるいは当該酸化型電子受容体または当該酸素の減少を測定する、請求項6記載のイヌリンの定量法。
  11. 測定試料が血液中または尿中イヌリンである、請求項1〜10のいずれかに記載のイヌリンの定量法。
  12. 請求項1〜3のいずれかに記載のイヌリンの定量法に用いるイヌリンの定量試薬。
  13. イヌリン分解酵素を含むイヌリンの定量試薬であって、当該試薬中のイヌリン分解酵素の、(i)エキソイヌリナーゼ活性が15U/mL以上であるか、(ii)エキソイヌリナーゼ活性が5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が0.5U/mL以上であるか、または(iii)エキソイヌリナーゼ活性が2.5U/mL以上であり、かつエンドイヌリナーゼ活性が1.5U/mL以上であるイヌリンの定量試薬。
  14. 請求項1〜11のいずれかに記載のイヌリンの定量法に用いる、請求項13記載のイヌリンの定量試薬。
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