以下、本発明による可変圧縮比内燃機関の空燃比制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る空燃比制御装置(以下、「本制御装置」とも称呼する。)が適用される可変圧縮比内燃機関10の概略断面図である。この機関10は、多気筒(直列4気筒)・ピストン往復動型・火花点火式・ガソリン内燃機関である。また、この機関10は実圧縮比を例えば11〜12程度以下に抑えながら、膨張比を26程度にまで高められる「超高膨張比サイクル」にて運転可能な機関である。なお、図1は特定の気筒の断面を示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
機関10は、クランクケース11、オイルパン12、シリンダブロック13及びシリンダヘッド部14を含んでいる。
クランクケース11は、クランクシャフト11aを回転可能に支持している。オイルパン12は、クランクケース11の下方(下部)においてクランクケース11に固定されている。オイルパン12は、クランクケース11とともに、クランクシャフト11a及び潤滑油等を収容する空間を形成している。
シリンダブロック13は、クランクケース11の上方に配置されている。シリンダブロック13は、中空円筒状のシリンダ(シリンダボア)13aを複数個(4気筒分)備えている。ピストン13bは略円筒形であり、シリンダ13aに収容されている。ピストン13bは、コネクティングロッド13cによってクランクシャフト11aに連結されている。シリンダブロック13は、後述するように、クランクケース11に対してシリンダ13aの軸線CC方向(以下、「上下方向」とも称呼する。)に移動することにより、機関10の機械圧縮比を変更するようになっている。なお、機械圧縮比は、「ピストン13bが上死点(圧縮上死点)位置にあるときの燃焼室容積に対するピストン13bが下死点(吸気下死点)位置にあるときの燃焼室容積の比」として定義される。
シリンダヘッド部14は、シリンダブロック13の上方に配置され、シリンダブロック13に固定されている。シリンダヘッド部14には、燃焼室の上面を形成するシリンダヘッド下面14a、燃焼室に連通する吸気ポート14b、及び、燃焼室に連通する排気ポート14cが形成されている。
更に、シリンダヘッド部14は、吸気ポート14bを開閉する吸気弁14d、吸気弁14dを駆動するインンテークカムを備えるインテークカムシャフト14e、可変吸気タイミング装置14f、排気ポート14cを開閉する排気弁14g、排気弁14gを駆動するエグゾーストカムを備えるエグゾーストカムシャフト14h、点火プラグ14i及びイグニッションコイルを含むイグナイタ14j等を収容している。イグナイタ14jは、後述する電気制御装置からの点火指示信号に応答して燃焼室内に露呈した点火プラグ14iの火花発生部に点火用の火花を発生させるようになっている。シリンダヘッド部14の上部には、ヘッドカバー14kが固定されている。
可変吸気タイミング装置14fは、例えば、特開2007−303423号公報(上記特許文献3)等に記載されているように周知の装置である。以下、図2を参照しながら簡単に説明する。
図2は、吸気弁14dを駆動するためのインテークカムシャフト14eの端部に取付けられた可変吸気タイミング装置14f(可変バルブタイミング機構)を示している。この可変吸気タイミング装置14fは、タイミングプーリ14f1、円筒状ハウジング14f2、回転軸14f3、複数個の仕切壁14f4及び複数個のベーン14f5を備えている。
タイミングプーリ14f1は、機関10のクランク軸11aにより図示しないタイミングベルトを介して矢印A1の方向に回転せしめられるようになっている。円筒状ハウジング14f2は、タイミングプーリ14f1と一体的に回転するようになっている。回転軸14f3は、インテークカムシャフト14eと一体的に回転し且つ円筒状ハウジング14f2に対して相対回転可能となっている。仕切壁14f4は、円筒状ハウジング14f2の内周面から回転軸14f3の外周面まで延びている。ベーン14f5は、互いに隣接する二つの仕切壁14f4の間において回転軸14f3の外周面から円筒状ハウジング14f2の内周面まで延びている。このような構造により、各ベーン14f5の両側には、進角用油圧室14f6と遅角用油圧室14f7とが形成されている。進角用油圧室14f6及び遅角用油圧室14f7は、一方に作動油が供給されたとき他方から作動油が排出されるようになっている。
進角用油圧室14f6及び遅角用油圧室14f7への作動油の供給制御(給排)は図示しない作動油供給制御弁及び油圧ポンプによって行われる。この作動油供給制御弁は、電磁駆動式であって電気制御装置からの指示信号に応答して作動油の供給制御を行う。即ち、インテークカムシャフト14eのカムの位相を進角すべきとき、作動油供給制御弁は、進角用油圧室14f6に作動油を供給するとともに遅角用油圧室14f7内の作動油を排出する。このとき回転軸14f3は円筒状ハウジング14f2に対して矢印A1の方向に相対回転せしめられる。これに対し、インテークカムシャフト14eのカムの位相を遅角すべきとき、作動油供給制御弁は、遅角用油圧室14f7に作動油を供給するとともに進角用油圧室14f6内の作動油を排出する。このとき回転軸14f3は円筒状ハウジング14f2に対して矢印A1と反対の方向に相対回転せしめられる。
更に、作動油供給制御弁が進角用油圧室14f6及び遅角用油圧室14f7への作動油の給排を停止すると、円筒状ハウジング14f2に対する回転軸14f3の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸14f3はそのときの相対回転位置に保持される。このように、可変吸気タイミング装置14fは、インテークカムシャフト14eのカムの位相を所望の量だけ進角及び遅角させることができる。更に、本例において、吸気弁14dが開弁している期間(開弁クランク角度幅)は一定である。従って、可変吸気タイミング装置14fにより吸気弁開弁時期が所定角度だけ進角又は遅角させられると、吸気弁14dの閉弁時期も同所定角度だけ進角又は遅角させられる。
図3は、排気弁14g及び吸気弁14dのリフト量のクランク角に対する変化を示した図である。図3において曲線EXは排気弁14gのリフト量を示している。実線の曲線INadは可変吸気タイミング装置14fによってインテークカムシャフト14eのカムの位相が最も進角されている場合の吸気弁14dのリフト量を示している。更に、破線の曲線INrdは可変吸気タイミング装置14fによってインテークカムシャフト14eのカムの位相が最も遅角されている場合の吸気弁14dのリフト量を示している。従って、吸気弁14dの開弁期間は、図3において曲線INadにより示す範囲と曲線INrdにより示す範囲との間で任意に設定され得る。その結果、圧縮作用の開始時期である「吸気弁14dの閉弁時期」は、図3において矢印Cにより示す範囲内の任意のクランク角に設定され得る。
換言すると、可変吸気タイミング装置14fは、実際の圧縮作用の開始時期を変更することにより、「ピストン13bが上死点位置にあるときの燃焼室容積」に対する「圧縮作用の開始時期(吸気弁閉弁時期)における燃焼室容積」の比である実圧縮比を変更する実圧縮比変更手段を構成している。なお、インテークカムシャフト14e及び可変吸気タイミング装置14fは、電磁コイルと、吸気弁14dに連結された磁性移動体と、を備え、電気制御装置からの駆動信号に応答してその移動体をその電磁コイルが発生する磁力により移動させ、以って、吸気弁14dの開弁時期及び閉弁時期を任意のクランク角に設定することができる「電磁式動弁機構」に置換されてもよい。
以下において、可変吸気タイミング装置14fにより吸気弁開弁時期が最も遅角側にある場合を基準とし、その基準から実際に制御されている吸気弁開弁時期までのクランク角度を吸気弁進角角度VVTと称呼する。従って、吸気弁進角角度VVTは吸気弁閉弁時期である圧縮作用の開始時期に応じた値となる。
再び、図1を参照すると、機関10は機械圧縮比を変更するための機械圧縮比変更機構15を備えている。この機械圧縮比変更機構15は、例えば、特開2003−206771号公報(上記特許文献2)、特開2007−303423号公報(上記特許文献3)、特開2007−321589号公報及び特開2004−218522号公報等に開示された機構と同様の周知の機構である。以下、図1と、図4乃至図6と、を参照しながら簡単に説明する。
機械圧縮比変更機構15は、ケース側軸受形成部15aと、ブロック側軸受形成部15bと、軸状駆動部15cと、を含んでいる。
ケース側軸受形成部15aは、図4に示したように、複数の第1軸受形成部15a1と複数の第2軸受形成部15a2とにより構成される。
第1軸受形成部15a1のそれぞれは、クランクケース11の左右の縦壁部に形成されている。第1軸受形成部15a1のそれぞれは、半円形の凹部を形成している。互いに隣接する第1軸受形成部15a1の間には、縦壁部を貫通する縦長孔15a3が形成されている。
第2軸受形成部15a2のそれぞれは、第1軸受形成部15a1が形成する半円形の凹部と同径の半円形の凹部を備えている。第2軸受形成部15a2のそれぞれは、第1軸受形成部15a1の半円形の凹部と第2軸受形成部15a2の半円形の凹部とが互いに対向するように、第1軸受形成部15a1のそれぞれにボルトにより固定されるキャップである。
各第1軸受形成部15a1及び各第2軸受形成部15a2は、図1に示した円柱状の軸受孔(カム収納孔)H1を複数形成する。複数の軸受孔H1の中心軸は一つの直線上に配列される。その軸受孔H1の軸線は、クランクケース11の上部にシリンダブロック13が配置された状態において、複数のシリンダ13aの配列方向に平行な方向に延びる。
ブロック側軸受形成部15bのそれぞれは、図1、図4及び図5に示したように、略直方体であり、円柱状の軸受孔H2を備える部材である。ブロック側軸受形成部15bは、クランクケース11の上部にシリンダブロック13が配置された状態において、クランクケース11の縦壁部に形成された縦長孔15a3内に収容される。ブロック側軸受形成部15bは、シリンダブロック13の左右の側壁部にボルト固定される。このような構成により、軸受孔H1及び軸受孔H2は、シリンダ13aの配列方向に沿って交互に配列される。
縦長孔15a3のシリンダ軸線CC方向の長さは、ブロック側軸受形成部15bのシリンダ軸線CC方向の長さより長く設定されている。これにより、ブロック側軸受形成部15bは、シリンダブロック13と一体的となって、クランクケース11に対してシリンダ軸線CC方向に移動可能となっている。
総てのブロック側軸受形成部15bがシリンダブロック13に固定されたとき、ブロック側軸受形成部15bのそれぞれが備える軸受孔H2の中心軸は一つの直線上に配列される。その軸受孔H2の軸線は、複数のシリンダ13aの配列方向に平行な方向に延びている。シリンダブロック13の左の側壁部に形成される軸受孔H2の軸線とシリンダブロック13の右の側壁部に形成される軸受孔H2の軸線との距離は、クランクケース11の左側に形成される軸受孔H1の軸線とクランクケース11の右側に形成される軸受孔H1の軸線との距離と同一である。
一方、軸状駆動部15cは、軸受孔H1及び軸受孔H2に挿通される。軸状駆動部15cは、図4及び軸状駆動部15cの断面図である図6に示したように、小径の軸部15c1と、固定円筒部15c2と、回転円筒部15c3と、を備えている。
固定円筒部15c2は、軸部15c1の中心軸に対して偏心した状態にて軸部15c1に固定されている。固定円筒部15c2は、軸部15c1よりも大径であって且つ軸受孔H1と同一径の正円形のカムプロフィールを備えた円筒状部材である。固定円筒部15c2は、クランクケース11のケース側軸受形成部15aに設けられた軸受孔H1に収容される。固定円筒部15c2は、その中心軸回りに軸受孔H1の壁面に当接しながら回転する。
回転円筒部15c3は、軸部15c1の中心軸に対して偏心した状態で軸部15c1に回転可能に取り付けられている。回転円筒部15c3は、軸部15c1及び固定円筒部15c2よりも大径であって軸受孔H2と同一径の正円形のカムプロフィールを備えた円筒状部材である。回転円筒部15c3は、シリンダブロック13に固定されたブロック側軸受形成部15bに設けられた軸受孔H2に収容される。回転円筒部15c3は、軸受孔H2の壁面に当接しながら回転する。なお、左右一対の軸状駆動部15c、左右の軸受孔H1及び左右の軸受孔H2は、複数のシリンダ軸線CCを通る平面に関して互いに鏡像の関係を有している。
更に、軸状駆動部15cのそれぞれは、図4に示したように、その軸線方向中央位置近傍にギア15c4を備えている。ギア15c4は、軸部15c1の中心軸に対して偏心し、且つ、固定円筒部15c2(従って、軸受孔H1)と同軸となるように軸部15c1に固定されている。即ち、ギア15c4の回転中心軸は固定円筒部15c2の中心軸と一致している。一対のギア15c4のそれぞれには、図示しない一対のウォームギアのそれぞれが噛合している。そのウォームギアはクランクケース11に固定された図示しない単一のモータ(図7に示したモータ15Mを参照。)の出力軸に取り付けられている。一対のウォームギアは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。従って、一対の軸状駆動部15cは、モータを回転させたとき、各固定円筒部15c2の中心軸周りに互いに逆方向に回転するようになっている。
図6は、クランクケース11及びシリンダブロック13の前面Pf側からみて右側に位置する軸状駆動部15cの動きを概念的に示した図である。例えば、図6の(A)に示したように、固定円筒部15c2の中心c2、軸部15c1の中心c1及び回転円筒部15c3の中心c3が、この順に同一直線上に位置している場合、クランクケース11(軸受孔H1の中心)とシリンダブロック13(軸受孔H2の中心)との距離Dは距離D1となって、最大の距離となる。従って、ピストン13bが上死点位置にあるときの燃焼室の容積は大きくなる。この結果、内燃機関10の機械圧縮比は低く(小さく)なる。
図6の(A)に示した状態からモータが駆動されることにより固定円筒部15c2及び軸部15c1が固定円筒部15c2の中心軸周りに回転すると、図6の(B)に示した状態となる。このとき、前記距離Dは距離D2となる。更に、図6の(B)に示した状態からモータが同一回転方向に駆動されることにより固定円筒部15c2及び軸部15c1が固定円筒部15c2の中心軸周りに回転すると、図6の(C)に示した状態となる。このとき、前記距離Dは距離D3となる。距離D3は距離D2より小さく、距離D2は距離D1より小さい。従って、図6の(B)に示した状態にあるときの機械圧縮比は図6の(A)に示した状態にあるときの機械圧縮比よりも高く(大きく)なる。図6の(C)に示した状態にあるときの機械圧縮比は図6の(B)に示した状態にあるときの機械圧縮比よりも高く(大きく)なる。
このような構造を備える機械圧縮比変更機構15は、後述する電気制御装置からの電動モータ15M(圧縮比変更機構のアクチュエータ)への駆動信号に応じて、シリンダブロック13とクランクケース11との距離を変更し、機関10の機械圧縮比を変更するようになっている。
再び、図1を参照すると、機関10は燃料噴射弁(インジェクタ)16を複数個(4個)備えている。各燃料噴射弁16は、インテークマニホールド21の枝部に固定されている。燃料噴射弁16は燃料噴射指示信号に応答して、その噴射指示信号に含まれる指示噴射量の燃料を吸気ポート14b内に噴射するようになっている。
更に、機関10は、図7に示したように、燃焼室にガソリン混合気を供給するための吸気系統20と、燃焼室からの排気ガスを外部に放出するための排気系統30とを含んでいる。
吸気系統20は、前述したインテークマニホールド21、吸気管(吸気ダクト)22、エアフィルタ23、スロットル弁24及びスロットル弁アクチュエータ24aを備えている。
インテークマニホールド21は、複数の枝部21aとサージタンク21bとからなっている。各枝部21aの一端は各吸気ポート14bに接続され、各枝部21aの他端はサージタンク21bに接続されている。吸気管22はサージタンク21bに接続されている。インテークマニホールド21及び吸気管22は吸気通路を構成している。エアフィルタ23は吸気管22の端部に設けられている。スロットル弁24は吸気管22に回動可能に設けられ、回動することにより吸気管22が形成する吸気通路の開口断面積を変更するようになっている。スロットル弁アクチュエータ(スロットル弁駆動手段)24aは、DCモータからなり、電気制御装置50からの指示信号に応答してスロットル弁24を回転駆動するようになっている。
排気系統30は、エキゾーストマニホールド31、エキゾーストパイプ(排気管)32及び触媒33を備えている。
エキゾーストマニホールド31は、各排気ポート14cに接続された複数の枝部31aと、それらの枝部31aが集合した集合部31bと、を備えている。エキゾーストパイプ32は、エキゾーストマニホールド31の集合部31bに接続されている。エキゾーストマニホールド31及びエキゾーストパイプ32は排気経路を構成している。なお、本明細書において、エキゾーストマニホールド31の集合部31bとエキゾーストパイプ32とが形成する排ガスを通過させるための経路を、便宜上「排気通路」と称呼する。
触媒33は、セラミックからなる担持体に「触媒物質である貴金属」及び「セリア(CeO2)」を担持する三元触媒(排気浄化用触媒)である。触媒33は、所定の活性温度に到達して活性状態になると、「未燃物(HC、CO等)と窒素酸化物(NOx)とを同時に浄化する触媒機能」及び「過剰な酸素を吸蔵し且つ過剰な未燃物にその吸蔵した酸素を供給する酸素吸蔵機能」を発揮する。
更に、本制御装置は、熱線式エアフローメータ41、スロットルポジションセンサ42、機関回転速度センサ43、ストロークセンサ44、空燃比センサ45及びアクセル開度センサ46を備えている。
エアフローメータ41は、吸気管22内を流れる吸入空気の質量流量を検出し、その質量流量(機関10の単位時間あたりの吸入空気量)Gaを表す信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ42は、スロットル弁24の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
機関回転速度センサ43は、インテークカムシャフトが5°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともにインテークカムシャフトが360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。機関回転速度センサ43から出力される信号は電気制御装置50により機関回転速度NEを表す信号に変換されるようになっている。更に、電気制御装置50は、機関回転速度センサ43及び図示しないカムポジションセンサからの信号に基いて、機関10のクランク角度(絶対クランク角)を取得するようになっている。
ストロークセンサ44は、クランクケース11(例えば、クランクケース11の上端)とシリンダブロック13(例えば、シリンダブロック13の下端)との距離を計測し、その距離STを表す信号を出力するようになっている。距離STにより機関10の実際の機械圧縮比εmactを取得することができる。
空燃比センサ45は、エキゾーストマニホールド31の集合部31bと触媒33との間の位置においてエキゾーストマニホールド31及びエキゾーストパイプ32の何れか(即ち、排気通路)に配設されている。空燃比センサ45は、空燃比センサ45が配設された排気通路内の部位を流れる排ガス(被検出ガス)の空燃比に応じた出力値を出力するようになっている。より具体的に述べると、空燃比センサ45は限界電流式の酸素濃度センサである。空燃比センサ45は、被検出ガスの空燃比A/Fが大きくなる(リーンとなる)ほど増大する出力値Vabyfsを出力するようになっている。電気制御装置50は、この出力値Vabyfsに基づいて検出空燃比abyfsを取得するようになっている。
アクセル開度センサ46は、運転者によって操作されるアクセルペダルApの操作量を検出し、アクセルペダルApの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置50は、CPU、ROM、RAM、電源が投入された状態でデータを格納するとともに格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM、並びに、ADコンバータを含むインターフェース等からなる周知のマイクロコンピュータである。
電気制御装置50のインターフェースは、前記センサ41〜46と接続され、CPUにセンサ41〜46からの信号を供給するようになっている。更に、電気制御装置50のインターフェースは、CPUの指示に応じて、可変吸気タイミング装置14f、各気筒のイグナイタ14j、各気筒の燃料噴射弁16、スロットル弁アクチュエータ24a及び機械圧縮比変更機構15のアクチュエータ15M等に指示信号及び/又は駆動信号等を送出するようになっている。
次に、上記のように構成された本制御装置の作動について説明する。
(圧縮比制御の概要)
本制御装置によって制御される機関10は、上述した「超高膨張比サイクル運転」と、「通常の膨張比運転(通常膨張比サイクル運転)」とを行う。そこで、先ず、これらのサイクルについて説明を行うために使用される用語である「機械圧縮比、実圧縮比及び膨張比」について図8を参照しながら説明する。
なお、図8の(A)、(B)及び(C)には、説明の便宜上、「ピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室容積Vc」が50mlであり、「ピストンの行程容積Vs1」が500mlである機関が示されている。
図8の(A)は、機械圧縮比εmについて説明するための図である。機械圧縮比εmは「圧縮行程時のピストンの行程容積Vs1」と「ピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室容積Vc」のみから定まる値である。即ち、機械圧縮比εmは、(Vc+Vs1)/Vcである。容積(Vc+Vs1)は、「ピストンが下死点に位置するときの燃焼室容積Vt1」ということもできる。図8の(A)に示された例において、機械圧縮比εmは(50ml+500ml)/50ml=11である。
図8の(B)は、実圧縮比εaについて説明するための図である。実圧縮比εaは「吸気弁が閉弁することにより実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積(圧縮開始後ピストン行程容積)Vs2」と「ピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室容積Vc」のみから定まる値である。即ち、実圧縮比εaは、(Vc+Vs2)/Vcである。容積(Vc+Vs2)は、「圧縮作用開始時における燃焼室容積Vt2」ということもできる。図8の(B)に示された例において、実圧縮比εaは(50ml+450ml)/50ml=10である。
図8の(C)は、膨張比εbについて説明するための図である。膨張比εbは「膨張行程時のピストンの行程容積Vs1」と「ピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室容積Vc」のみから定まる値である。即ち、膨張比εbは、(Vc+Vs1)/Vcである。従って、膨張比εbと機械圧縮比εmとは等しい。図8の(C)に示された例において、膨張比εbは(50ml+500ml)/50ml=11である。
次に、本制御装置がどのように機械圧縮比εm(従って、膨張比εb)及び実圧縮比εaを制御するかに関する基本的考え方について、図9を参照しながら説明する。
図9に示した実線は、実圧縮比と膨張比とがほぼ等しく維持された場合の膨張比εbに対する理論熱効率の変化を示している。この図9の実線から、膨張比εb及び実圧縮比εaが大きくなるほど理論熱効率が高くなることが理解される。従って、理論熱効率を高めるには膨張比εb及び実圧縮比εaを高くすればよいことになる。しかしながら、実圧縮比εaが高いとノッキングが発生するから、実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができない。従って、実圧縮比εaと膨張比εbとをほぼ等しく維持した場合、理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、図9に示した破線は、実圧縮比εaを一定値(本例において10)に固定した状態で膨張比εbを高くしていった場合の理論熱効率を示している。図9の破線と実線とを比較すると、「実圧縮比εaをノッキングが発生しない程度の一定値に維持した状態で膨張比εbを高くしたときの理論熱効率の上昇量(破線を参照。)」と、「実圧縮比εaも膨張比εbと共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量(実線を参照。)」との間には大きな差がないことが理解される。即ち、理論熱効率は、膨張比εbによって支配され、実圧縮比εaが変化しても殆ど変化しないと言える。
この理由は、次のように考えられる。
(1)膨張比εbを大きくすると、膨張行程時に「ピストンに対して押下げ力が作用する期間」が長くなり、従って、ピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って、理論熱効率は上昇する。
(2)実圧縮比εaを高くすると爆発力は高まるが、混合気を圧縮するために大きなエネルギーが必要となる。従って、理論熱効率は殆ど上昇しない。
従って、本制御装置は、実圧縮比εaをノッキングが発生することがない程度に維持しながら、膨張比εbをできるだけ高くする。具体的に述べると、例えば、従来の機関においては実圧縮比εaと膨張比εbとが略同じであるために、ノッキングの制約から実圧縮比が11程度にまでしか高められず、その結果、膨張比も11程度にまでしか高められない(図9の点P1を参照。)。これに対し、本制御装置が適用される機関は、実圧縮比を例えば10程度に維持しながら、膨張比を26程度にまで上昇させる(図9の点P2を参照。)。この結果、機関の理論熱効率を大きく改善することができる。
図10は、このような基本的考え方に基づく本制御装置の作動の一例を示す図である。この図10に示したように、本制御装置は、低負荷領域において(即ち、負荷率KLが低側負荷閾値KLlo以下であるとき)、膨張比εbを最大として熱効率を高めるために機械圧縮比εmを最大機械圧縮比εmmax(例えば、26)に維持するとともに、吸入空気量を小さくするために吸気弁閉弁時期を遅角限界値INcmaxに維持する。これにより、実圧縮比εaは最小実圧縮比εaminに維持される。このとき、更に吸入空気量を小さくする必要があるので、スロットル弁開度TAを負荷率KLが小さいほど小さくする。
本制御装置は、中負荷領域において(即ち、負荷率KLが低側負荷閾値KLloと高側負荷閾値KLhiとの間にあるとき)、膨張比εbを最大として熱効率を高めるために機械圧縮比εmを最大機械圧縮比εmmaxに維持する。一方、本制御装置は、スロットル弁24による吸気抵抗に起因するポンピングロスを小さくするために、スロットル弁開度TAを最大値Maxに維持する。同時に、本制御装置は、吸入空気量を負荷率KLの増大とともに増大させるように、負荷率KLが大きくなるほど吸気弁閉弁時期を「圧縮比上死点から吸気下死点に向けて」次第に進角させる。この結果、高い膨張比εbが得られるので熱効率が高い値に維持される。実圧縮比εaは負荷率KLの増大とともに次第に増大する。但し、実圧縮比εaはノッキングが発生しない程度の値に設定される。この中負荷領域の運転が、超高膨張比サイクル運転である。
本制御装置は、高負荷領域において(即ち、負荷率KLが高側負荷閾値KLhi以上であるとき)、スロットル弁開度TAを最大値Maxに維持した状態にて吸入空気量を増大させるように負荷率KLが大きくなるほど吸気弁閉弁時期を更に圧縮上死点から吸気下死点に向けて進角させる。このとき、本制御装置は、吸入空気量(即ち、混合気量)の増大に伴って発生するノッキングを回避するために、実圧縮比εaを最大実圧縮比εamaxに維持させながら、負荷率KLの増大とともに機械圧縮比εmを低下させる。即ち、吸気弁閉弁時期の進角に伴って上記圧縮開始後ピストン行程容積Vs2が増大するために上昇しようとする実圧縮比εaを、機械圧縮比εmを低下させてピストンが圧縮上死点位置にあるときの燃焼室容積Vcを増加させることにより一定値(最大実圧縮比εamax)に維持する。この高負荷領域の運転が、通常膨張比サイクル運転である。以上が、本制御装置の圧縮比に関する制御の概要である。
本制御装置は、上述した圧縮比に関する制御を行う。従って、本制御装置は、機械圧縮比εm及び実圧縮比εaをそれぞれ変化させるので、触媒が非活性状態である場合、HC及びNOx等の大気への排出量が増大する虞がある。そこで、本制御装置は、以下に述べるように、触媒非活性時において機関に供給される混合気の空燃比(実際には、目標空燃比abyfr)を制御する。
(空燃比制御の概要)
ところで、機械圧縮比εmが増大された場合、機械圧縮比εmが増大される前に比べ、圧縮上死点における燃焼室の容積Vcは、圧縮上死点における燃焼室の表面積Sよりも大きな割合で減少する。即ち、機械圧縮比εmが増大される前の圧縮上死点における燃焼室の容積及び面積をそれぞれVbefore及びSbeforeと置き、機械圧縮比εmが増大された後の圧縮上死点における燃焼室の容積及び面積をそれぞれVafter及びSafterと置くと、下記の(1)式が成立するので、下記(2)式が成立する。
Vafter/Vbefore<Safter/Sbefore …(1)
(Vbefore/Vafter)・(Safter/Sbefore)>1 …(2)
一方、機関から排出されるHCの量は、実圧縮比εaが一定であるとするならば、機械圧縮比εmが大きくなるほど増加する。この理由は次のように考えられる。即ち、機関から排出されるHCの量は、圧縮上死点における燃焼室内の混合気の濃度(燃料の濃度)Dと圧縮上死点における燃焼室の表面積Sとの積(D・S)が大きいほど多くなる。この濃度Dは、体積に反比例するから、機械圧縮比εmの増大変更前後において、(Vbefore/Vafter)倍となる。従って、上記(2)式から、濃度Dの増大割合(Vbefore/Vafter)に対して燃焼室の表面積Sの減少割合(Safter/Sbefore)が小さく、機械圧縮比εmを増大すると機関から排出されるHCの量は増大する。
他方、上述したように、触媒が非活性状態であると、触媒はHCを高い浄化率にて浄化することができない。従って、機関から排出され且つ触媒に流入するHCの量が増大すると、大気中に放出されるHCの量も増大する。
そこで、本制御装置は、触媒が非活性状態にある場合、機械圧縮比εmが大きくなるほど機関に供給される混合気の空燃比を大きくする(機関の空燃比をよりリーン側の空燃比に制御する)。これにより、機械圧縮比εmが大きくなっても、機関から排出され且つ触媒に流入するHCの量が増大しないか又はHCの増大量を小さくできるので、触媒非活性時において大気中に放出されるHCの量が増大することを回避することができる。
なお、実圧縮比εaが一定に維持されながら機械圧縮比εmが増大されたとき、圧縮作用による混合気温度の上昇分はさほど変化しない。従って、燃焼温度が高い場合により多く発生する傾向にあるNOxの機関からの排出量はさほど変化しない。但し、機械圧縮比εmの増大に伴って機関に供給される混合気の空燃比を過大(リーン)にしすぎると、機関から排出されるNOxの量が若干増大する。従って、制御装置は、機関から排出されるNOxの量が過大にならない範囲において、機械圧縮比εmが大きくなるほど機関に供給される混合気の空燃比を大きくする。
また、上述したように、機関から排出されるNOxの量は混合気の燃焼温度が高いほど増大する。燃焼温度は、実質的な圧縮作用が混合気に対して大きく働くほど、即ち、実圧縮比εaが大きいほど高くなる。更に、前述したように、触媒が活性化していないとき、触媒はNOxを高い浄化効率にて浄化することができない。
従って、機械圧縮比εmが一定である場合に実圧縮比εaが増大されると、機関から排出され且つ触媒にて浄化されることなく大気中に放出されるNOxの量が増大する。そこで、本制御装置は、触媒が非活性状態にある場合、実圧縮比εaが大きくなるほど機関に供給される混合気の空燃比を小さくする(機関の空燃比をよりリッチ側の空燃比に制御する)。これにより、機関から排出され且つ触媒に流入するNOxの量が増大しないか又はNOxの増大量を小さくできるので、触媒非活性時において実圧縮比εaが増大されるにつれて大気中に放出されるNOxの量が増大することを回避することができる。
但し、この場合にも、機関に供給される混合気の空燃比を過小(リッチ)にしすぎると、機関からの排出されるHCの量が増大する。従って、制御装置は、機関から排出されるHCの量が過大にならない範囲において、実圧縮比εaが大きくなるほど機関に供給される混合気の空燃比を小さくする。
更に、機械圧縮比εm及び実圧縮比εaに応じてHC及びNOxの排出量のバランスは変化する。一方、触媒は、活性状態にあれば、その触媒に流入するガスの空燃比が理論空燃比であるときに未燃物(HC,CO等)及び窒素酸化物(NOx)を同時に高い浄化率にて浄化することができる。従って、本制御装置は、触媒が活性化している場合、機械圧縮比εm及び/又は実圧縮比εaに関わらず、機関に供給される混合気の空燃比を理論空燃比に制御する。これにより、大気中に放出されるHC及びNOxの量を極めて小さくすることができる。
(実際の作動)
以下、本制御装置の実際の作動について説明する。電気制御装置50のCPUは、図11にフローチャートにより示した機関制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは図11のステップ1100から処理を開始し、以下に述べるステップ1110乃至ステップ1170の処理を順に行ってステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1110:CPUは、機関回転速度NE及びアクセルペダル操作量Accpと、目標スロットル弁開度TAtgtと、の関係を予め定めた目標スロットル弁開度テーブルMapTAtgtに、現時点の機関回転速度NE及び現時点のアクセルペダル操作量Accpを適用することにより、現時点における目標スロットル弁開度TAtgtを決定する。この目標スロットル弁開度テーブルMapTAtgtは上述した図10に示した考えに基づいて予め適合されている。なお、機関回転速度NE及びアクセルペダル操作量Accpにより目標となる負荷率が定まる。
ステップ1120:CPUは、機関回転速度NE及びアクセルペダル操作量Accpと、目標吸気弁閉弁時期INclosetgtと、の関係を予め定めた目標吸気弁閉弁時期テーブルMapINclosetgtに、現時点の機関回転速度NE及び現時点のアクセルペダル操作量Accpを適用することにより、現時点における目標吸気弁閉弁時期INclosetgtを決定する。この目標吸気弁閉弁時期テーブルMapINclosetgtも上述した図10に示した考えに基づいて予め適合されている。
ステップ1130:CPUは、目標吸気弁閉弁時期INclosetgtと、目標吸気弁進角角度VVTtgtと、の関係を予め定めた目標吸気弁進角角度テーブルMapVVTtgtに、上記ステップ1120にて決定された目標吸気弁閉弁時期INclosetgtを適用することにより、現時点における目標吸気弁進角角度VVTtgtを決定する。この目標吸気弁進角角度テーブルMapVVTtgtによれば、目標吸気弁閉弁時期INclosetgtに吸気弁開弁期間θopenを加えた角度θ(目標吸気弁閉弁時期INclosetgtを吸気弁開弁期間θopenだけ進角したクランク角θ)と、吸気弁開弁時期が最も遅角側に設定される場合のクランク角θ0との差(θ−θ0)が目標吸気弁進角角度VVTtgtとして設定される。
ステップ1140:CPUは、機関回転速度NE及びアクセルペダル操作量Accpと、目標機械圧縮比εmtgtと、の関係を予め定めた目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtに、現時点の機関回転速度NE及び現時点のアクセルペダル操作量Accpを適用することにより、現時点における目標機械圧縮比εmtgtを決定する。この目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtも上述した図10に示した考えに基づいて予め適合されている。
ステップ1150:CPUは実際のスロットル弁開度が目標スロットル弁開度TAtgtに一致するようにスロットル弁アクチュエータ24aを制御する。
ステップ1160:CPUは実際の吸気弁進角角度が目標吸気弁進角角度VVTtgtに一致するように可変吸気タイミング装置を制御する。なお、ステップ1120、ステップ1130及びステップ1160は、機関の運転状態に応じて実圧縮比変更手段(可変吸気タイミング装置14f)を作動させることにより機関の実圧縮比を変更する実圧縮比制御手段を構成している。
ステップ1170:CPUは実際の機械圧縮比が目標機械圧縮比εmtgtに一致するように圧縮比変更機構のアクチュエータ15Mを制御する。なお、ステップ1140及びステップ1170は、機関の運転状態に応じて機械圧縮比変更機構15(モータ15M)を作動させることにより機械圧縮比を変更する機械圧縮比制御手段を構成している。但し、機械圧縮比変更機構15を作動させるときに実圧縮比が変化する場合には、ステップ1140及びステップ1170は、ステップ1120、ステップ1130及びステップ1160とともに実圧縮比制御手段を構成していることになる。
更に、CPUは、図12にフローチャートにより示した目標空燃比決定ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUは図12のステップ1200から処理を開始してステップ1210に進む。CPUはステップ1210にて、冷却水温THWと基本目標空燃比abyfrbとの関係を予め定めた基本目標空燃比テーブルMapabyfrbに実際の冷却水温THWを適用することにより、現時点における基本目標空燃比abyfrbを決定する。
この基本目標空燃比テーブルMapabyfrbによれば、基本目標空燃比abyfrbは、冷却水温THWが第1冷却水温THW1より低い場合、理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であって、冷却水温THWが高くなるほど理論空燃比に向けて大きくなる(リーン側の空燃比となる)ように決定される。第1冷却水温THW1は、機関10の暖機が完了したときの冷却水温THWに設定されている。更に、この基本目標空燃比テーブルMapabyfrbによれば、基本目標空燃比abyfrbは、冷却水温THWが第1冷却水温THW1以上である場合、理論空燃比となるように設定される。
次いで、CPUはステップ1220に進み、触媒33が活性化したか否かを判定する。具体的には、CPUは以下の活性条件1及び活性条件2が共に成立したとき、触媒33が活性化したと判定する。
<活性条件1>機関10の始動後の積算吸入空気量SGaが閾値積算吸入空気量SGath以上である。なお、CPUは、機関10の始動後から所定時間の経過毎に繰り返す図示しないルーチンを実行することにより、そのルーチンの実行時点において「エアフローメータ61により測定された吸入空気量Ga」を積算することにより積算吸入空気量SGaを算出している。
<活性条件2>冷却水温THWが閾値冷却水温THW2以上である。
なお、触媒33が活性化したか否かの判定は、上記方法に限定されない。例えば、CPUは、上記活性条件1又は上記活性条件2の何れか一方が成立したときに、触媒33が活性化したと判定してもよい。更に、CPUは、機関10の始動後から「機関10の負荷(負荷率)KL及び機関回転速度NEに基づいて排ガス温度Texを所定時間毎に推定し、その排ガス温度Texに基づいて触媒温度Tccroを推定するとともに、その推定された触媒温度Tccroが触媒33の活性化温度Tccroth以上となったとき、触媒33が活性化したと判定するように構成されていてもよい。
触媒温度Tccroの推定は、所定時間の経過毎にCPUが実行する図示しないルーチンにおいて、CPUが下記(3)式の右辺に上記推定された排ガス温度Texを適用することによりなされる。なお、(3)式においてγは0より大きく1より小さい所定の定数、Tccro(k)は更新される前の触媒温度、Tccro(k+1)は更新後の触媒温度である。
Tccro(k+1)=γ・Tccro(k)+(1−γ)・Tex …(3)
更に、CPU91は、上述した機関の負荷率KLを、下記(4)式に従って求める。この(4)式において、Mcは現時点において吸気行程の直前にある気筒に吸入される筒内吸入空気量である。筒内吸入空気量Mcは、エアフローメータ61により測定される現時点の吸入空気量Gaと、機関回転速度センサ43により検出される機関回転速度NEと、関数f(テーブルMapMc)と、に基づいて算出される。筒内吸入空気量Mcは機関10の吸気通路における空気の挙動をモデル化した周知の空気量推定モデル(空気モデル)を用いて求められてもよい。(4)式において、ρは空気密度(単位は(g/l))、Lは機関10の排気量(単位は(l))、4は機関10の気筒数である。排気量Lは、ストロークセンサ44によって測定される距離STに基づいて修正される。
KL={Mc/(ρ・L/4)}・100(%)…(4)
いま、触媒が活性化していない(非活性である)と仮定する。このとき、CPUはステップ1220にて「No」と判定し、以下に述べるステップ1230乃至ステップ1260の処理を順に行い、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1230:CPUは、クランクケース11とシリンダブロック13との距離STと実際の機械圧縮比εmactとの関係を予め定めた機械圧縮比テーブルMapεmactに、ストロークセンサ44により計測される実際の距離STを適用することにより、現時点における実際の機械圧縮比εmactを取得する。この機械圧縮比テーブルMapεmactによれば、実際の機械圧縮比εmactは距離STが大きいほど小さくなるように算出される。
ステップ1240:CPUは、クランクケース11とシリンダブロック13との距離ST及び吸気弁進角角度VVT(或いは、目標吸気弁閉弁時期INclosetgtである圧縮作用の開始時期)と、実際の実圧縮比εaactと、の関係を予め定めた実圧縮比テーブルMapεaactに、ストロークセンサ44により計測される実際の距離ST及び図11のステップ1130にて決定された目標吸気弁進角角度VVTtgt(又は図11のステップ1120にて決定された目標吸気弁閉弁時期INclosetgt)を適用することにより、現時点における実際の実圧縮比εaactを取得する。この実圧縮比テーブルMapεaactによれば、実際の実圧縮比εaactは、距離STが大きいほど小さくなり、且つ、吸気弁進角角度VVTにより一義的に定まる吸気弁閉弁時期が吸気下死点から遠ざかるほど(圧縮上死点に近づくほど)小さくなるように決定される。
ステップ1250:CPUは、実際の機械圧縮比εmact及び実際の実圧縮比εaactと、補正係数(目標空燃比補正値)kと、の関係を予め定めた補正値テーブルMapkに、上記ステップ1230にて取得された実際の機械圧縮比εmact及び上記ステップ1240にて取得された実際の実圧縮比εaactを適用することにより、現時点における補正係数kを取得する。
この補正値テーブルMapkによれば、補正係数kは、実際の機械圧縮比εmactが大きくなるほど大きくなるように決定される。更に、この補正値テーブルMapkによれば、補正係数kは、実際の実圧縮比εaactが大きくなるほど小さくなるように決定される
ステップ1260:CPUは、下記(5)式に従い、上記ステップ1210にて取得した基本目標空燃比abyfrb及び上記ステップ1250にて取得した補正係数に基づいて最終的な目標空燃比abyfrを決定する。
abyfr=k・abyfrb …(5)
この結果、目標空燃比abyfrは、実際の機械圧縮比εmactが大きくなるほど大きくなる(リーン側の空燃比になる)とともに、実際の実圧縮比εaactが大きくなるほど小さくなる(リッチ側の空燃比になる)ように決定される。
<燃料噴射制御>
CPUは、図13にフローチャートにより示した燃料噴射制御ルーチンを任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°)に一致する毎に繰り返し実行するようになっている。このクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度に一致して吸気行程を迎える気筒は、以下「燃料噴射気筒」とも称呼される。
任意の気筒のクランク角度が上記所定クランク角度になると、CPU71は図13のステップ1300から処理を開始し、以下に述べるステップ1310乃至ステップ1330の処理を順に行い、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1310:CPUは、吸入空気量Ga及び機関回転速度NEと、筒内吸入空気量Mcと、の関係を定める関数f(テーブルMapMc)に、現時点の吸入空気量Ga及び現時点の機関回転速度NEを適用することにより、現時点の筒内吸入空気量Mcを取得する。
ステップ1320:CPUは、下記(6)式に示したように、筒内吸入空気量Mcを目標空燃比abyfrによって除すことにより燃料噴射量Finjを求める。
Finj=Mc/abyfr …(6)
ステップ1330:CPUは、燃料噴射量Finjの燃料を、燃料噴射気筒に対して備えられている燃料噴射弁16から噴射するように、その燃料噴射弁16に噴射指示信号を送出する。以上により、機関に供給される混合気の空燃比は目標空燃比abyfrに一致するように制御される。
一方、CPUが図12のステップ1220の処理を実行する時点において、ステップ1220の条件が満たされていると(即ち、触媒が活性化していると)、CPUはステップ1220にて「Yes」と判定してステップ1270に進み、目標空燃比abyfrに理論空燃比stoichを格納する。そして、CPUはステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、触媒が活性化すると、機関に供給される混合気の空燃比は理論空燃比に維持される。
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る可変圧縮比内燃機関の空燃比制御装置によれば、触媒33が非活性状態にある場合、目標空燃比abyfr(従って、機関に供給される混合気の空燃比)が、そのときの機械圧縮比が大きいほど大きくなるように制御されるとともに、そのときの実圧縮比が大きいほど小さくなるように制御される。従って、機関から排出されるHC及びNOxの量が増大することを回避できるので、触媒が非活性状態にある場合におけるHC及びNOxの大気中への放出量が増大することを回避することができる。また、触媒33が活性状態にある場合、目標空燃比abyfr(従って、機関に供給される混合気の空燃比)は、そのときの機械圧縮比及び実圧縮比に関わらず、理論空燃比に一致するように制御される。従って、機関10から排出されたHC及びNOxは触媒33により高い浄化効率にて浄化されるので、HC及びNOxの大気中への放出量を低減することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、機械圧縮比及び実圧縮比は機関の運転状態(例えば、機関回転速度NE及びアクセルペダル操作量Accp等)に応じて適宜変更されればよい。更に、本制御装置は、超高膨張比サイクル運転を実行しなくとも、機械圧縮比及び実圧縮比を変更できる機関であれば適用することができる。
加えて、機械圧縮比を変更する機構は上述した機械圧縮比変更機構15には限定されない。即ち、圧縮比変更機構は、クランクケースに対するシリンダブロックの傾斜角を変更させることにより機械圧縮比を変更する機構であってもよく、例えば、特開2008−28314号公報及び特開2007−247545号公報等に開示された機構であってもよい。
更に、上記実施形態において、ステップ1250にて使用される機械圧縮比εmactはストロークセンサ44が検出する距離STに基づいて取得されていた。これに代え、電気制御装置50から機械圧縮比変更機構15のアクチュエータ15Mに送出される指示信号(駆動信号)に基づいてステップ1250にて使用される機械圧縮比εmactを取得するように構成されてもよい。
同様に、上記実施形態において、ステップ1250にて使用される実圧縮比εaactはストロークセンサ44が検出する距離ST及び及び目標吸気弁進角角度VVTtgtに基づいて取得されていた。これに代え、電気制御装置50から機械圧縮比変更機構15のアクチュエータ15Mに送出される指示信号(駆動信号)と、電気制御装置50から可変吸気タイミング装置14fに送出される指示信号(駆動信号)とに基づいて、ステップ1250にて使用される実圧縮比εaactを取得するように構成されてもよい。
また、上記実施形態において、実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な機構として、可変吸気タイミング装置(実圧縮比変更手段)14fが採用されていたが、圧縮作用開始時期を変更できる機構であればいかなる形式の機構をも用いることができる。
更に、上記実施形態において、空燃比センサ45により検出される検出空燃比が目標空燃比abyfrと一致するように燃料噴射量Finjを増減する周知の空燃比フィードバック制御が行われてもよい。加えて、上記実施形態においては、基本目標空燃比abyfrbと補正係数(目標空燃比補正値)kとにより最終的な目標空燃比abyfrが決定されていた(ステップ1260を参照。)。これに代え、触媒が活性化していないと判定される場合、CPUは図14に示した「機械圧縮比εm及び実圧縮比εaと、目標空燃比abyfrと、の関係を定めるテーブル」から目標空燃比abyfrを直接決定してもよい。加えて、図10に示した吸気弁閉弁時期は、その吸気弁閉弁時期と吸気下死点との差のクランク角だけ吸気下死点から更に進角した時期に置換することもできる。
更に、上記制御装置は、上述したように推定される触媒温度Tccroが過熱温度閾値Tccroを超えるか否かを判定し、触媒温度Tccroが過熱温度閾値Tccroを超えたと判定された場合には、触媒温度Tccroが過熱温度閾値Tccroを超えていないと判定されている場合よりも、目標空燃比abyfr(従って、機関に供給される混合気の空燃比)を小さくするように構成されていてもよい。加えて、実圧縮比及び機械圧縮比の制御は、機関の特性及び状態により適宜変更されてもよい。
10…可変圧縮比内燃機関、11…クランクケース、13…シリンダブロック、13a…シリンダ、13b…ピストン、14…シリンダヘッド部、14b…吸気ポート、14c…排気ポート、14d…吸気弁、14e…インテークカムシャフト、14f…可変吸気タイミング装置、15…機械圧縮比変更機構、15a…ケース側軸受形成部、15b…ブロック側軸受形成部、15c…軸状駆動部、15M…圧縮比変更機構のアクチュエータ(電動モータ)、16…燃料噴射弁、20…吸気系統、21…インテークマニホールド、24…スロットル弁、24a…スロットル弁アクチュエータ、30…排気系統、32…エキゾーストパイプ、33…触媒、43…機関回転速度センサ、44…ストロークセンサ、46…アクセル開度センサ、50…電気制御装置。