以下、本発明による可変圧縮比内燃機関の制御装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態に係る制御装置(以下、「第1制御装置」とも称呼する。)が適用される可変圧縮比内燃機関10の概略断面図である。
この機関10は、多気筒(直列4気筒)・ピストン往復動型・火花点火式・ガソリン内燃機関である。また、この機関10は機械圧縮比を変更するための機械圧縮比変更機構15を備えている。なお、図2は特定の気筒の断面を示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
機関10は、クランクケース11、オイルパン12、シリンダブロック13及びシリンダヘッド部14を含んでいる。
クランクケース11は、クランクシャフト11aを回転可能に支持している。オイルパン12は、クランクケース11の下方(下部)においてクランクケース11に固定されている。オイルパン12は、クランクケース11とともに、クランクシャフト11a及び潤滑油等を収容する空間を形成している。
シリンダブロック13は、クランクケース11の上方に配置されている。シリンダブロック13は、中空円筒状のシリンダ(シリンダボア)13aを複数個(4気筒分)備えている。ピストン13bは略円筒形であり、シリンダ13aに収容されている。ピストン13bは、コネクティングロッド13cによってクランクシャフト11aに連結されている。シリンダブロック13は、後述するように、クランクケース11に対してシリンダ13aの軸線CC方向(以下、「上下方向」とも称呼する。)に移動することにより、機関10の機械圧縮比を変更するようになっている。なお、機械圧縮比は、「ピストン13bが上死点(圧縮上死点)位置にあるときの燃焼室容積に対するピストン13bが下死点(吸気下死点)位置にあるときの燃焼室容積の比」として定義される。
シリンダヘッド部14は、シリンダブロック13の上方に配置され、シリンダブロック13に固定されている。シリンダヘッド部14には、燃焼室の上面を形成するシリンダヘッド下面14a、燃焼室に連通する吸気ポート14b、及び、燃焼室に連通する排気ポート14cが形成されている。
更に、シリンダヘッド部14は、吸気ポート14bを開閉する吸気弁14d、吸気弁14dを駆動するインンテークカムを備えるインテークカムシャフト14e、可変吸気タイミング装置14f、排気ポート14cを開閉する排気弁14g、排気弁14gを駆動するエキゾーストカムを備えるエキゾーストカムシャフト14h、点火プラグ14i及びイグニッションコイルを含むイグナイタ14j等を収容している。イグナイタ14jは、後述する電気制御装置からの点火指示信号に応答して燃焼室内に露呈した点火プラグ14iの火花発生部に点火用の火花を発生させるようになっている。シリンダヘッド部14の上部には、ヘッドカバー14kが固定されている。
可変吸気タイミング装置14fは、例えば、特開2007−303423号公報(上記特許文献3)等に記載されているように周知の装置である。可変吸気タイミング装置14fは、図示しない作動油供給制御弁及び図示しない油圧ポンプを備え、これらによって作動油が給排されることにより、インテークカムシャフト14eに対するインテークカムの位相を所望の量だけ進角及び遅角させることができる。
機関10は機械圧縮比を変更するための機械圧縮比変更機構15を備えている。この機械圧縮比変更機構15は、例えば、特開2003−206771号公報(上記特許文献2)、特開2007−303423号公報(上記特許文献3)、特開2007−321589号公報及び特開2004−218522号公報等に開示された機構と同様の周知の機構である。以下、図2乃至図5を参照しながら簡単に説明する。
機械圧縮比変更機構15は、ケース側軸受形成部15aと、ブロック側軸受形成部15bと、軸状駆動部15cと、を含んでいる。ケース側軸受形成部15aは、図3に示したように、複数の第1軸受形成部15a1と複数の第2軸受形成部15a2とにより構成される。第1軸受形成部15a1のそれぞれは、クランクケース11の左右の縦壁部に形成されている。第1軸受形成部15a1のそれぞれは、半円形の凹部を形成している。互いに隣接する第1軸受形成部15a1の間には、縦壁部を貫通する縦長孔15a3が形成されている。
第2軸受形成部15a2のそれぞれは、第1軸受形成部15a1が形成する半円形の凹部と同径の半円形の凹部を備えている。第2軸受形成部15a2のそれぞれは、第1軸受形成部15a1の半円形の凹部と第2軸受形成部15a2の半円形の凹部とが互いに対向するように、第1軸受形成部15a1のそれぞれにボルトにより固定されるキャップである。
複数の第1軸受形成部15a1及び複数第2軸受形成部15a2は、図2に示した円柱状の軸受孔(カム収納孔)H1を複数形成する。複数の軸受孔H1の中心軸は一つの直線上に配列される。その軸受孔H1の軸線は、クランクケース11の上部にシリンダブロック13が配置された状態において、複数のシリンダ13aの配列方向に平行な方向に延びる。
ブロック側軸受形成部15bのそれぞれは、図2乃至図4に示したように、略直方体であり、円柱状の軸受孔H2を備える部材である。ブロック側軸受形成部15bは、クランクケース11の上部にシリンダブロック13が配置された状態において、クランクケース11の縦壁部に形成された縦長孔15a3内に収容される。ブロック側軸受形成部15bは、シリンダブロック13の左右の側壁部にボルト固定される。このような構成により、軸受孔H1及び軸受孔H2は、シリンダ13aの配列方向に沿って交互に配列される。
縦長孔15a3のシリンダ軸線CC方向の長さは、ブロック側軸受形成部15bのシリンダ軸線CC方向の長さより長く設定されている。これにより、ブロック側軸受形成部15bは、シリンダブロック13と一体的となってクランクケース11に対してシリンダ軸線CC方向に移動可能となっている。
総てのブロック側軸受形成部15bがシリンダブロック13に固定されたとき、ブロック側軸受形成部15bのそれぞれが備える軸受孔H2の中心軸は一つの直線上に配列される。その軸受孔H2の軸線は、複数のシリンダ13aの配列方向に平行な方向に延びている。シリンダブロック13の左の側壁部に形成される軸受孔H2の軸線とシリンダブロック13の右の側壁部に形成される軸受孔H2の軸線との距離は、クランクケース11の左側に形成される軸受孔H1の軸線とクランクケース11の右側に形成される軸受孔H1の軸線との距離と同一である。
一方、軸状駆動部15cは、軸受孔H1及び軸受孔H2に挿通される。軸状駆動部15cは、図3及び軸状駆動部15cの断面図である図5に示したように、小径の軸部15c1と、固定円筒部15c2と、回転円筒部15c3と、を備えている。
固定円筒部15c2は、軸部15c1の中心軸に対して偏心した状態にて軸部15c1に固定されている。固定円筒部15c2は、軸部15c1よりも大径であって且つ軸受孔H1と同一径の正円形のカムプロフィールを備えた円筒状部材である。固定円筒部15c2は、クランクケース11のケース側軸受形成部15aに設けられた軸受孔H1に収容される。固定円筒部15c2は、その中心軸回りに軸受孔H1の壁面に当接しながら回転する。
回転円筒部15c3は、軸部15c1の中心軸に対して偏心した状態で軸部15c1に回転可能に取り付けられている。回転円筒部15c3は、軸部15c1及び固定円筒部15c2よりも大径であって軸受孔H2と同一径の正円形のカムプロフィールを備えた円筒状部材である。回転円筒部15c3は、シリンダブロック13に固定されたブロック側軸受形成部15bに設けられた軸受孔H2に収容される。回転円筒部15c3は、軸受孔H2の壁面に当接しながら回転する。なお、左右一対の軸状駆動部15c、左右の軸受孔H1及び左右の軸受孔H2は、複数のシリンダ軸線CCを通る平面に関して互いに鏡像の関係を有している。
更に、軸状駆動部15cのそれぞれは、図3に示したように、その軸線方向中央位置近傍にギア15c4を備えている。ギア15c4は、軸部15c1の中心軸に対して偏心し、且つ、固定円筒部15c2(従って、軸受孔H1)と同軸となるように軸部15c1に固定されている。即ち、ギア15c4の回転中心軸は固定円筒部15c2の中心軸と一致している。一対のギア15c4のそれぞれには、図示しない一対のウォームギアのそれぞれが噛合している。そのウォームギアはクランクケース11に固定された図示しない単一のモータ(図6に示したモータ15Mを参照。)の出力軸に取り付けられている。一対のウォームギアは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。従って、一対の軸状駆動部15cは、モータを回転させたとき、各固定円筒部15c2の中心軸周りに互いに逆方向に回転するようになっている。
図5は、クランクケース11及びシリンダブロック13の前面Pf側からみて右側に位置する軸状駆動部15cの動きを概念的に示した図である。例えば、図5の(A)に示したように、固定円筒部15c2の中心c2、軸部15c1の中心c1及び回転円筒部15c3の中心c3が、この順に同一直線上に位置している場合、クランクケース11(軸受孔H1の中心)とシリンダブロック13(軸受孔H2の中心)との距離Dは距離D1となって、最大の距離となる。従って、ピストン13bが上死点位置にあるときの燃焼室の容積は大きくなる。この結果、内燃機関10の機械圧縮比は低く(小さく)なる。
図5の(A)に示した状態からモータが駆動されることにより固定円筒部15c2及び軸部15c1が固定円筒部15c2の中心軸周りに回転すると、図5の(B)に示した状態となる。このとき、前記距離Dは距離D2となる。更に、図5の(B)に示した状態からモータが同一回転方向に駆動されることにより固定円筒部15c2及び軸部15c1が固定円筒部15c2の中心軸周りに回転すると、図5の(C)に示した状態となる。このとき、前記距離Dは距離D3となる。距離D3は距離D2より小さく、距離D2は距離D1より小さい。従って、図5の(B)に示した状態にあるときの機械圧縮比は図5の(A)に示した状態にあるときの機械圧縮比よりも高く(大きく)なる。図5の(C)に示した状態にあるときの機械圧縮比は図5の(B)に示した状態にあるときの機械圧縮比よりも高く(大きく)なる。
このような構造を備える機械圧縮比変更機構15は、後述する電気制御装置からの電動モータ15M(機械圧縮比変更機構のアクチュエータ)への駆動信号に応じて、シリンダブロック13とクランクケース11との距離を変更し、機関10の機械圧縮比を変更するようになっている。
機関10は、図2に示したように、燃料噴射弁(インジェクタ)16を備えている。燃料噴射弁16は、インテークマニホールド21の枝部に固定されている。燃料噴射弁16は燃料噴射指示信号に応答して、その噴射指示信号に含まれる指示噴射量の燃料を吸気ポート14b内に噴射するようになっている。図6に示したように、燃料噴射弁16は各気筒毎に設けられている。
機関10は、図6に示したように、燃焼室にガソリン混合気を供給するための吸気系統20と、燃焼室からの排気ガスを外部に放出するための排気系統30と、を含んでいる。
吸気系統20は、前述したインテークマニホールド21、吸気管(吸気ダクト)22、エアフィルタ23、スロットル弁24及びスロットル弁アクチュエータ24aを備えている。
インテークマニホールド21は、複数の枝部21aとサージタンク21bとからなっている。各枝部21aの一端は各吸気ポート14bに接続され、各枝部21aの他端はサージタンク21bに接続されている。吸気管22はサージタンク21bに接続されている。インテークマニホールド21及び吸気管22は、各吸気ポート14bとともに吸気通路を構成している。エアフィルタ23は吸気管22の端部に設けられている。スロットル弁24は吸気管22に回動可能に設けられ、回動することにより吸気管22が形成する吸気通路の開口断面積を変更するようになっている。スロットル弁アクチュエータ(スロットル弁駆動手段)24aは、DCモータからなり、電気制御装置50からの指示信号に応答してスロットル弁24を回転駆動するようになっている。
排気系統30は、エキゾーストマニホールド31、エキゾーストパイプ(排気管)32及び触媒33を備えている。
エキゾーストマニホールド31は、各排気ポート14cに接続された複数の枝部31aと、それらの枝部31aが集合した集合部31bと、を備えている。エキゾーストパイプ32は、エキゾーストマニホールド31の集合部31bに接続されている。エキゾーストマニホールド31及びエキゾーストパイプ32は、各排気ポート14cとともに排気経路を構成している。なお、本明細書において、エキゾーストマニホールド31の集合部31bとエキゾーストパイプ32とが形成する排ガスを通過させるための経路を、便宜上「排気通路」とも称呼する。
触媒33は、ジルコニア等のセラミックからなる担持体に「触媒物質である貴金属(白金及びロジウム等)」及び「セリア(CeO2)等の酸素吸蔵物質」を担持する三元触媒である。触媒33は、その貴金属の温度が活性温度以上である場合(即ち、触媒が活性化している場合)、機関10から排出され且つ触媒33に流入する未燃物(HC,CO等)と窒素酸化物(NOx)との酸化還元反応を促進する。従って、触媒33が活性化していて且つ機関の排ガスの空燃比(即ち、触媒33に流入するガスの空燃比)が理論空燃比であるとき、触媒33は排ガス中の未燃物及び窒素酸化物を同時に高い浄化率にて浄化することができる。上記貴金属の活性温度は触媒33の活性温度(許容温度)とも称呼され、例えば600℃程度である。
更に、第1制御装置は、図6に示したように、熱線式エアフローメータ41、スロットルポジションセンサ42、機関回転速度センサ43、ストロークセンサ44、上流側空燃比センサ45、下流側空燃比センサ46、アクセル開度センサ47、水温センサ48及び触媒温度センサ49を備えている。
エアフローメータ41は、吸気管22内を流れる吸入空気の質量流量を検出し、その質量流量(機関10の単位時間あたりの吸入空気量)Gaを表す信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ42は、スロットル弁24の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
機関回転速度センサ43は、インテークカムシャフトが5°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともにインテークカムシャフトが360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。機関回転速度センサ43から出力される信号は電気制御装置50により機関回転速度NEを表す信号に変換されるようになっている。更に、電気制御装置50は、機関回転速度センサ43及び図示しないカムポジションセンサからの信号に基いて、機関10のクランク角度(絶対クランク角)を取得するようになっている。
ストロークセンサ44は、クランクケース11(例えば、クランクケース11の上端)とシリンダブロック13(例えば、シリンダブロック13の下端)との距離を計測し、その距離STを表す信号を出力するようになっている。電気制御装置50は、距離STに基づいて機関10の実際の機械圧縮比εmactを取得することができる。
上流側空燃比センサ45は、エキゾーストマニホールド31の集合部31bと触媒33との間の位置においてエキゾーストマニホールド31及びエキゾーストパイプ32の何れか(即ち、排気通路)に配設されている。上流側空燃比センサ45は、上流側空燃比センサ45が配設された排気通路内の部位を流れる排ガス(被検出ガス)の空燃比に応じた出力値を出力するようになっている。より具体的に述べると、上流側空燃比センサ45は限界電流式の酸素濃度センサである。上流側空燃比センサ45は、被検出ガスの空燃比A/Fが大きくなる(リーンとなる)ほど増大する出力値Vabyfsを出力するようになっている。電気制御装置50は、この出力値Vabyfsに基づいて検出空燃比abyfsを取得するようになっている。
下流側空燃比センサ46は、触媒33の下流においてエキゾーストパイプ32(主通路部)に配設されている。より詳細には、下流側空燃比センサ46は、触媒33の下流におけるエキゾーストパイプ32に配設されている。下流側空燃比センサ46は、下流側空燃比センサ46が配設された排気通路内の部位を流れる排ガス(即ち、触媒33から流出した排ガスである被検出ガス)の空燃比に応じた出力値Voxsを出力するようになっている。
より具体的に述べると、下流側空燃比センサ46は起電力式(濃淡電池式)の酸素濃度センサである。従って、下流側空燃比センサ46は、酸素濃度センサとも称呼される。下流側空燃比センサ46は、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きくリーン側の空燃比であるときに略0.1(V)、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりも大きくリッチ側の空燃比であるときに略0.9(V)、空燃比が理論空燃比のときは0.5(V)(=Vstoich)の電圧を出力するようになっている。更に、下流側空燃比センサ46は、被検出ガスの空燃比が理論空燃比近傍の空燃比であるとき、被検出ガスの空燃比がリッチからリーンに変化するに従って急激に減少する(略0.9(V)から略0.1(V)に向けて変化する)電圧を出力するようになっている。
アクセル開度センサ47は、運転者によって操作されるアクセルペダルApの操作量を検出し、アクセルペダルApの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
水温センサ48は、機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
触媒温度センサ49は、触媒33の温度を検出し、触媒温度TCSを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置50は、CPU、ROM、RAM、電源が投入された状態でデータを格納するとともに格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM、並びに、ADコンバータを含むインターフェース等からなる周知のマイクロコンピュータである。
電気制御装置50のインターフェースは、前記センサ41〜49と接続され、CPUにセンサ41〜49からの信号を供給するようになっている。更に、電気制御装置50のインターフェースは、CPUの指示に応じて、可変吸気タイミング装置14f、各気筒のイグナイタ14j、各気筒の燃料噴射弁16、スロットル弁アクチュエータ24a及び機械圧縮比変更機構15の電動モータ15M等に指示信号及び/又は駆動信号等を送出するようになっている。
次に、上記のように構成された第1制御装置の作動について説明する。
(制御の概要)
第1制御装置は、機関の運転状態を表すパラメータ(例えば、後述する筒内吸入空気量Mc)に基づいて基本目標機械圧縮比を決定する。通常運転時、この基本目標機械圧縮比が最終的な目標機械圧縮比に設定される。第1制御装置は、実際の機械圧縮比が「設定された目標機械圧縮比」に一致するように機械圧縮比変更機構15の電動モータ15Mに指示信号を送出する。
一方、第1制御装置は、「触媒33の温度(触媒温度)TempCが所定の許容温度TempCth(触媒33の貴金属の活性温度)以下である」と判定されたとき、機械圧縮比を、「触媒温度が許容温度以下であると判定されない」ときの機械圧縮比よりも低下させる低圧縮比運転を実行するように機械圧縮比変更機構15(電動モータ15M)に指示を与える。
更に、第1制御装置は、上記の「低圧縮比運転の実行中」において「機関に所定の加速要求が発生した」と判定されたとき、機械圧縮比を「加速要求が発生したと判定される直前」の機械圧縮比よりも上昇させるように機械圧縮比変更機構15に指示を与える。
機械圧縮比が低い場合の排ガス温度は、機械圧縮比が高い場合の排ガス温度よりも高い。従って、低圧縮比運転が実行されている期間、触媒33は温度が高められた排ガスにより加熱される。その結果、許容温度TempCth以下であると判定された触媒33の温度TempCが、低圧縮比運転の実行中において速やかに上昇する。これにより、触媒33の貴金属の温度が、速やかに活性温度に到達するか、又は、その活性温度に対して過度に低下しない。従って、機関のエミッションが良好となる。
更に、低圧縮比運転の実行中であっても、機関に対する加速要求が発生したときには、機械圧縮比を高めることで機関の出力トルクを応答性良く増大することができる。
(実際の作動)
以下、第1制御装置の実際の作動について説明する。
第1制御装置の電気制御装置50のCPUは、図7乃至図10にフローチャートにより示した各ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行するようになっている。
より具体的に述べると、CPUは所定のタイミングにて図7のステップ700から処理を開始し、ステップ710に進んで暖機完了フラグ(機関暖機完了フラグ)XWUPCの値が「0」であるか否かを判定する。暖機完了フラグXWUPCは、その値が「0」であるとき、機関10の暖機が完了していないことを示す。暖機完了フラグXWUPCは、その値が「1」であるとき、機関10の暖機が完了していることを示す。更に、暖機完了フラグXWUPCの値は、図示しないイグニッション・キー・スイッチがオフからオンに変更されたときに実行されるイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
いま、機関10の温度が低い状態にて機関10が始動(冷機始動)された直後であると仮定する。この仮定に従えば、暖機完了フラグXWUPCの値は「0」である。従って、CPUはステップ710にて「Yes」と判定し、ステップ720に進んで「冷却水温THWが閾値温度THWth以下であるか否か」を判定することにより、機関10の暖機が完了したか否かを判定する。この閾値温度THWthは、機関10が冷機始動された後において冷却水温THWが閾値温度THWthに到達した時点にて触媒33がその活性温度に到達すると判断できる温度に設定されている。
冷機始動の直後において、冷却水温THWは閾値温度THWth以下である。従って、CPUはステップ720にて「Yes」と判定し、ステップ730に進んで暖機完了フラグXWUPCの値を「0」に設定する。なお、暖機完了フラグXWUPCの値は、前述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。従って、この場合、このステップ730の処理は確認のために実行される。
次に、CPUはステップ740に進んで圧縮比低下フラグXDの値を「1」に設定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。圧縮比低下フラグXDは、その値が「1」であるとき、機関10の運転状態が上述した「低圧縮比運転」を実行すべき状態であることを示す。圧縮比低下フラグXDは、その値が「0」であるとき、機関10の運転状態が上述した「低圧縮比運転」を実行すべきでない状態であることを示す。なお、圧縮比低下フラグXDの初期値は、前述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
更に、CPUは、所定のタイミングにて図8のステップ800から処理を開始してステップ810に進み、暖機完了フラグXWUPCの値が「1」であるか否かを判定する。現時点(即ち、冷機始動直後)において、暖機完了フラグXWUPCの値は「0」に設定されている。従って、CPUはステップ810にて「No」と判定してステップ820に進み、触媒温度低下時間タイマT1(以下、「タイマT1」とも称呼する。)を「0」に設定する。その後、CPUはステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、タイマT1の初期値は、前述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
更に、CPUは、所定のタイミングにて図9のステップ900から処理を開始してステップ905に進み、暖機後圧縮比低下フラグXAの値が「1」であるか否かを判定する。暖機後圧縮比低下フラグXAは、その値が「0」であるとき、機関10の暖機が完了しており且つ低圧縮比運転が実行されていないことを示す。暖機後圧縮比低下フラグXDは、その値が「1」であるとき、機関10の暖機が完了しており且つ低圧縮比運転が実行されていることを示す。なお、暖機後圧縮比低下フラグXAの初期値は、前述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
現時点は冷機始動直後であり、暖機後圧縮比低下フラグXAの値は前述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されたままである。従って、CPUはステップ905にて「No」と判定し、ステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPUは、所定のタイミングにて図10のステップ1000から処理を開始してステップ1010に進み、筒内吸入空気量Mcと基本目標機械圧縮比εmtgtbとの関係を予め定めた基本目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtb(Mc)に、現時点の筒内吸入空気量Mcを適用することにより、現時点における基本目標機械圧縮比εmtgtbを決定する。
この基本目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtb(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが所定の筒内吸入空気量Mc1よりも小さいとき(即ち、機関10の負荷が低負荷であるとき)、基本目標機械圧縮比εmtgtbは最大目標機械圧縮比εmMaxに設定される。更に、この基本目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtb(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが所定の筒内吸入空気量Mc1以上であるとき(即ち、機関10の負荷が高負荷であるとき)、基本目標機械圧縮比εmtgtbは筒内吸入空気量Mcが増大するにつれて「最大目標機械圧縮比εmMaxから最小目標機械圧縮比εmMinに次第に減少する」ように設定される。
次いで、CPUはステップ1020に進んで、圧縮比低下フラグXDの値が「1」であるか否かを判定する。現時点において、圧縮比低下フラグXDの値は図7のステップ740にて「1」に設定されている。従って、CPUはステップ1020にて「Yes」と判定してステップ1030以降に進み、低圧縮比運転を実行する。具体的には、CPUはステップ1030において、「上述したステップ1010にて決定されている基本目標機械圧縮比εmtgtbから変化量Δεm1(Δεm1>0)を減じた値」を、最終的な目標機械圧縮比εmtgtとして設定する。
次いで、CPUはステップ1040に進み、前記ステップ1030にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMin以下であるか否かを判定する。目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMinよりも大きい場合、CPUはステップ1040にて「No」と判定してステップ1060に直接進み、実際の機械圧縮比εmactが目標機械圧縮比εmtgtに一致するように機械圧縮比変更機構15の電動モータ15Mに指示信号を送出する。その後、CPUはステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これに対し、前記ステップ1030にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMin以下であると、CPUはステップ1040にて「Yes」と判定してステップ1050に進み、目標機械圧縮比εmtgtに最小目標機械圧縮比εmMinを設定する。次いで、CPUはステップ1060に進んで、実際の機械圧縮比εmactが目標機械圧縮比εmtgtに一致するように機械圧縮比変更機構15の電動モータ15Mに指示信号を送出する。その後、CPUはステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、CPUはステップ1040及びステップ1050の処理により、目標機械圧縮比εmtgtを最小目標機械圧縮比εmMin以下とならないように制御する。
以上に説明したように、冷機始動直後において圧縮比低下フラグXDの値は「1」に設定される。更に、圧縮比低下フラグXDの値が「1」に設定されるから、実際の機械圧縮比εmactが、「基本目標機械圧縮比テーブルMapεmtgtb(Mc)に基づいて求められる通常運転時の機械圧縮比から変化量Δεm1だけ低下した機械圧縮比」に一致させられる。即ち、圧縮比低下フラグXDの値が「1」である場合、上述した「低圧縮比運転」が実行される。
このように、冷却水温THWが閾値温度THWth以下であるとき、触媒33の温度は活性温度よりも低いと考えられるから、低圧縮比運転が実行される。この結果、低圧縮比運転を実行しない場合よりも排気温度が上昇するので、触媒33の温度は活性温度に向けて速やかに上昇する。
その後、機関10の運転が継続されると、冷却水温THWは閾値温度THWthに到達する。この場合、CPUは図7のステップ700からステップ710を経由してステップ720に進んだとき、そのステップ720にて「No」と判定し、ステップ750に進んで暖機完了フラグXWUPCの値を「1」に設定する。次いで、CPUはステップ760に進んで圧縮比低下フラグXDの値を「0」に設定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、この時点において暖機完了フラグXWUPCの値が「1」に設定されるから、以降、CPUはステップ710にて「No」と判定し、ステップ795に直接進んで図7のルーチンを直ちに終了するようになる。
この状態(暖機完了フラグXWUPCの値が「1」に設定された状態)において、CPUが図8のステップ800から処理を開始してステップ810に進むと、CPUはそのステップ810にて「Yes」と判定してステップ830に進む。そして、CPUはステップ830にて「筒内吸入空気量Mcが所定の低側負荷閾値McthL以下であるか否か」を判定する。低側負荷閾値McthLは、筒内吸入空気量Mcがこの低側負荷閾値McthL以下である場合に排気温度が低下することにより、触媒33の温度が活性温度よりも低下する可能性が高まる値に設定されている。
いま、筒内吸入空気量Mcは低側負荷閾値McthLよりも大きいと仮定する。この場合、CPUはステップ830にて「No」と判定し、前述したステップ820を経由してステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
この場合においても、暖機後圧縮比低下フラグXAの値は依然として「0」に維持されている。従って、CPUは図9のステップ900に続くステップ905にて「No」と判定し、ステップ995に直接進んで図9のルーチンを一旦終了する。
一方、現時点において、圧縮比低下フラグXDの値は図7のステップ760にて「0」に設定されている。従って、CPUは図10のステップ1000及びステップ1010に続くステップ1020にて「No」と判定し、ステップ1070に進んで最終的な目標機械圧縮比εmtgtに基本目標機械圧縮比εmtgtbを格納する。次いで、CPUはステップ1060に進み、実際の機械圧縮比εmactが目標機械圧縮比εmtgtに一致するように機械圧縮比変更機構15の電動モータ15Mに指示信号を送出する。この結果、機械圧縮比は通常時の機械圧縮比(基本目標機械圧縮比εmtgtb)に設定される。換言すると、低圧縮比運転は実行されない。従って、排気温度が過度に高くならないので触媒33の温度が過度に上昇せず、且つ、機関10は機関10の運転にとって理想に近い機械圧縮比にて運転される。
次に、機関の暖機が完了した後(暖機完了フラグXWUPCの値が「1」に設定された後)、筒内吸入空気量Mcが低側負荷閾値McthL以下の状態が継続すると仮定する。このような状態は、例えば、機関10が車両等に搭載された場合において、比較的穏やかな傾斜の長い降坂路を車両が通過するとき、及び、渋滞又は信号待ちのために機関10が長時間アイドリング運転されるとき等において発生する。
この場合、CPUは図8のステップ810からステップ830に進んだとき、そのステップ830にて「Yes」と判定する。そして、CPUはステップ840に進み、触媒温度低下時間タイマ増分ΔT1(以下、「タイマ増分ΔT1」とも称呼する。)を取得(決定)する。より具体的に述べると、CPUは、筒内吸入空気量Mcとタイマ増分ΔT1との関係を予め定めた触媒温度低下時間タイマ増分テーブルMapΔT1(Mc)に、現時点における筒内吸入空気量Mcを適用することにより、現時点におけるタイマ増分ΔT1を取得する。
この触媒温度低下時間タイマ増分テーブルMapΔT1(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが低側負荷閾値McthLよりも小さいとき(即ち、機関10の負荷が低負荷であるとき)、タイマ増分ΔT1は筒内吸入空気量Mcが減少するにつれて増加するように設定される。更に、この触媒温度低下時間タイマ増分テーブルMapΔT1(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが低側負荷閾値McthL以上であるとき(即ち、機関10の負荷が高負荷であるとき)、タイマ増分ΔT1はゼロに設定される。
次いで、CPUはステップ850に進み、下記の(1)式に従ってタイマT1を更新・決定する。(1)式において、T1(k+1)はステップ850の今回の処理により更新されるタイマT1を表し、T1(k)はステップ850の今回の処理により更新される直前のタイマT1を表す。即ち、CPUは、今回の処理によりタイマT1をタイマ増分ΔT1だけ増大する。
T1(k+1)=T1(k)+ΔT1 ・・・(1)
次いで、CPUはステップ860に進み、タイマT1が所定の触媒温度低下閾値時間T1th以上(以下、「閾値時間T1th」とも称呼する。)であるか否かを判定する。現時点においてタイマT1は「0」からタイマ増分ΔT1だけ増大された直後である。従って、タイマT1は閾値時間T1thよりも小さいから、CPUはステップ860にて「No」と判定し、ステップ895に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
前述の仮定によれば、筒内吸入空気量Mcが低側負荷閾値McthL以下である状態が継続する。このため、図8のステップ850の処理が繰り返し実行されるので、タイマT1は次第に増大し、閾値時間T1thに到達する。このとき、筒内吸入空気量Mcが低側負荷閾値McthL以下であるが故に排気温度が低い状態が長時間に亘り、その結果、触媒33の温度が活性温度に対して過度に低下する虞がある。
そこで、CPUはステップ860にて「Yes」と判定してステップ870に進み、圧縮比低下フラグXDの値を「1」に設定する。この結果、CPUが図10のルーチンを実行することにより、低圧縮比運転が実行される。従って、排気温度が上昇させられるので、触媒33の温度が過度に低下することが回避され得る。
その後、CPUはステップ880に進んで暖機後圧縮比低下フラグXAの値を「1」に設定し、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
上述したように、暖機が完了した後において触媒33の温度が活性温度に対して過度に低下する虞がある場合、低圧縮比運転が実行されるとともに暖機後圧縮比低下フラグXAの値が「1」に設定される。暖機後圧縮比低下フラグXAの値が「1」に設定された場合、CPUは図9のステップ900に続くステップ905にて「Yes」と判定し、ステップ910以降に進む。そして、CPUは以下の条件1及び条件2の何れかが成立したか否かを判定し、それらの条件の何れかが成立したときに、圧縮比低下フラグXDの値を「0」に復帰させることにより低圧縮比運転を停止する。
(条件1)機関10に所定の加速要求(機関10の発生トルクの単位時間あたりの増大量を所定量以上とすることを要求する加速要求)が発生した場合。具体的には、アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダル操作量の時間微分値ΔAccpが所定のアクセルペダル操作量の時間微分閾値量ΔAccpthより大きくなった場合。
(条件2)機関10が所定負荷(第1負荷)以上の運転を所定時間(第1所定時間)以上継続した場合。具体的には、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthH以上である場合に増大される高負荷運転時間タイマT2が所定の高負荷運転閾値時間T2th以上となった場合。なお、高負荷運転時間タイマT2は「タイマT2」とも称呼され、高負荷運転閾値時間T2thは「閾値時間T2th」とも称呼される。以下、ステップ910以降の処理について、場合を分けて説明する。
−条件1が成立する場合−
CPUは図9のステップ910に進んだとき、そのステップ910にて「アクセルペダル操作量の時間微分値ΔAccpが所定のアクセルペダル操作量の時間微分閾値量ΔAccpthよりも大きいか否か」を判定する。条件1が成立する場合、このステップ910の判定条件は成立している。従って、CPUはステップ910にて「Yes」と判定し、ステップ915に進んで圧縮比低下フラグXDの値を「0」に設定する。次いで、CPUはステップ920に進んでタイマT2を「0」に設定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。この結果、CPUが図10のルーチンを実行することにより、低圧縮比運転が直ちに(加速要求の発生と同時に)停止される。従って、機関10のトルクは加速要求に応じて迅速に増大する。
−条件2が成立する場合−
この場合においても、条件1が成立していると、CPUはステップ910乃至ステップ920に進む。従って、圧縮比低下フラグXDの値が直ちに「0」に設定されるので、低圧縮比運転が直ちに停止される。
一方、条件1が成立していない場合、CPUは図9のステップ910に進んだとき、そのステップ910にて「No」と判定してステップ925に進む。そして、CPUはステップ925にて「筒内吸入空気量Mcが所定の高側負荷閾値McthH以上であるか否か」を判定する。高側負荷閾値McthHは、筒内吸入空気量Mcがこの高側負荷閾値McthH以上である場合、排気温度が相当に高く、触媒33の温度が活性温度に向けて上昇する値に設定されている。高側負荷閾値McthHは低側負荷閾値McthLよりも大きい。
条件2が成立するという上記仮定に従うと、筒内吸入空気量Mcは高側負荷閾値McthH以上である。従って、CPUはステップ925にて「Yes」と判定し、ステップ930に進んで高負荷運転時間タイマ増分ΔT2(以下、「タイマ増分ΔT2」とも称呼する。)を取得(決定)する。より具体的に述べると、CPUは、筒内吸入空気量Mcとタイマ増分ΔT2との関係を予め定めた高負荷運転時間タイマ増分テーブルMapΔT2(Mc)に、現時点における筒内吸入空気量Mcを適用することにより、現時点におけるタイマ増分ΔT2を取得する。
この高負荷運転時間タイマ増分テーブルMapΔT2(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthH以下であるとき(即ち、機関10の負荷が低負荷であるとき)、タイマ増分ΔT2はゼロに設定される。更に、この高負荷運転時間タイマ増分テーブルMapΔT2(Mc)によれば、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthHより大きいとき(即ち、機関10の負荷が高負荷であるとき)、タイマ増分ΔT2は筒内吸入空気量Mcが増大するにつれて増加するように設定される。
次いで、CPUはステップ935に進み、下記の(2)式に従ってタイマT2を更新・決定する。(2)式において、T2(k+1)はステップ935の今回の処理により更新されるタイマT2を表し、T2(k)はステップ935の今回の処理により更新される直前のタイマT2を表す。即ち、CPUは、今回の処理によりタイマT2をタイマ増分ΔT2だけ増大する。
T2(k+1)=T2(k)+ΔT2 ・・・(2)
次いで、CPUはステップ940に進み、タイマT2が所定の高負荷運転閾値時間T2th以上(以下、「閾値時間T2th」とも称呼する。)であるか否かを判定する。現時点においてタイマT2は「0」からタイマ増分ΔT2だけ増大された直後である。従って、タイマT2は閾値時間T2thよりも小さいから、CPUはステップ940にて「No」と判定し、ステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
その後、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthH以上である状態が継続すると、図9のステップ935の処理が繰り返し実行されるので、タイマT2は次第に増大し、閾値時間T2thに到達する。このとき、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthH以上であるが故に排気温度が高い状態が長時間に亘り、その結果、触媒33の温度が活性温度近傍にまで復帰したと判断することができる。そこで、CPUはステップ940にて「Yes」と判定してステップ945に進み、暖機後圧縮比低下フラグXAの値を「0」に設定する。次いで、CPUはステップ915にて圧縮比低下フラグXDの値を「0」に設定する。この結果、CPUが図10のルーチンを実行することにより、低圧縮比運転が停止される。その後、CPUはステップ920に進んでタイマT2を「0」に設定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
なお、CPUはステップ925に進んだとき、筒内吸入空気量Mcが高側負荷閾値McthHよりも小さければ、そのステップ925にて「No」と判定してステップ950に進む。CPUはステップ950にてタイマT2を「0」に設定した後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上、説明したように、第1制御装置は、
触媒33の温度が所定の許容温度以下であるか否かを判定する触媒温度状態判定手段(図8のステップ830乃至ステップ860を参照。)と、
前記触媒温度状態判定手段により前記触媒の温度が前記許容温度以下であると判定されたとき(図8のステップ860にて「Yes」と判定されることにより圧縮比低下フラグXDの値が「1」に設定された場合)、前記機械圧縮比を前記触媒の温度が前記許容温度以下であると判定されないときの機械圧縮比よりも低下させる低圧縮比運転を実行するように前記機械圧縮比変更機構に指示を与える機械圧縮比制御手段(図10のルーチンを参照。)と、
を備え、
前記機械圧縮比制御手段は、
前記機関の発生トルクの単位時間あたりの増大量を所定量以上とすることを要求する加速要求が発生したか否かを前記機関の運転状態パラメータに基づいて判定するとともに(図9のステップ910を参照。)、前記低圧縮比運転の実行中において同加速要求が発生したと判定した場合(図9のステップ910にて「Yes」と判定された場合)、前記機械圧縮比を同加速要求が発生したと判定する直前の機械圧縮比よりも上昇させるように前記機械圧縮比変更機構に指示を与える(図9のステップ915及び図10のルーチンを参照。)。
従って、第1制御装置は、触媒の温度が低い場合及び/又は触媒の温度が過度に低下する虞がある場合、機械圧縮比を低下させる。これにより、触媒の排気浄化性能を早期に発揮させるか或いは排気浄化性能の低下を回避することができる。更に、第1制御装置は、低圧縮比運転の実行中において機関に加速要求が発生したと判定されたとき、機械圧縮比を上昇させる。これにより、機関の出力トルクを応答性良く増大させることができる。
更に、第1制御装置において、
前記触媒温度状態判定手段は、
前記低圧縮比運転の実行中において前記機関が第1負荷以上の運転を第1所定時間以上継続した場合(図9のステップ925乃至ステップ940の処理によりステップ940にて「Yes」と判定される場合)、前記触媒の温度が前記許容温度よりも高くなったと判定するように構成される。
従って、第1制御装置は、低圧縮比運転の実行中において触媒の温度が許容温度よりも高くなったと判定できるとき、低圧縮比運転を停止する。これにより、低圧縮比運転が不必要な場合に実行されないので、機関の応答性及び燃費を良好にすることができる。
更に、前記触媒温度判定手段は、
前記機関の暖機が完了したか否かを判定する暖機状態判定手段(図7のステップ720を参照。)と、
前記機関が第2負荷以下の運転を第2所定時間以上継続したか否かを判定する低温運転条件判定手段(図8のステップ830乃至ステップ860を参照。)と、
を含む。
更に、第1制御装置は、
前記暖機状態判定手段により前記機関の暖機が完了したと判定され(図7のステップ720にて「No」と判定されることにより暖機完了フラグXWUPCの値が「1」に設定された場合)、その後に前記低温運転条件判定手段により前記機関が第2負荷以下の運転を第2所定時間以上継続したと判定された場合(図8のステップ860にて「Yes」と判定された場合)、前記触媒の温度が前記許容温度以下になったと判定するように構成される。
従って、第1制御装置は、機関の暖機が完了したと判定された後であっても、触媒の温度が許容温度以下となったと判定できる場合、低圧縮比運転を実行する。これにより、機関の暖機が完了したと判定された後においても、触媒の温度が過度に低下することによるエミッションの悪化を回避することができる。
なお、第1制御装置は、暖機完了判定前(暖機完了フラグXWUPC=0の時点)においても加速要求の発生の有無を判定し(アクセルペダル操作量の時間微分値ΔAccpが所定のアクセルペダル操作量の時間微分閾値量ΔAccpthより大きくなったか否かを判定し)、暖機完了判定前であっても加速要求が発生したと判定される場合には直ちに圧縮比低下フラグXDの値を「0」に設定し、もって、低圧縮比運転を直ちに停止するように構成されてもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る制御装置(以下、「第2制御装置」とも称呼する。)について説明する。第2制御装置は、そのCPUが図10の分岐点Aと分岐点Bとの間の処理に代わる図11にフローチャートにより示した処理を実行する点においてのみ、第1制御装置と相違している。従って、以下、この相違点を中心として説明を加える。
第2制御装置のCPUは、図10の分岐点Aと分岐点Bとの間の処理を、図11にフローチャートにより示した処理に置換して得られる機械圧縮比制御ルーチンを所定の時間毎に繰り返し実行するようになっている。第2制御装置の具体的な作動について、以下に記載する。
第2制御装置のCPUは、第1制御装置と同様、図7乃至図9ルーチンを所定の時間毎に繰り返し実行している。
ここで、圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した直後に図10の機械圧縮比制御ルーチンが実行されたと仮定する。このとき、CPUは図10のステップ1000から処理を開始し、ステップ1010に進んで現時点における基本目標機械圧縮比εmtgtbを決定する。
次いで、CPUはステップ1020に進んで「No」と判定し、分岐点Aを経由して図11のステップ1110に進んで現時点が圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した時点から所定時間以内であるか否かを判定する。現時点は圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した直後である。従って、CPUはそのステップ1110にて「Yes」と判定し、ステップ1120に進む。
CPUはステップ1120にて、「図10のステップ1010にて決定された基本目標機械圧縮比εmtgtbを変化量Δεm2だけ減じた値」を、最終的な目標機械圧縮比εmtgtとして設定する。この変化量Δεm2は、上述の機械圧縮比変化量Δεm1よりも小さい値となるように適宜決定されている(Δεm2<Δεm1)。変化量Δεm2は正の数に限られず、ゼロであっても負の数であってもよい。即ち、以下の(3)式が成立するように変化量Δεm2は設定されている。
εmtgtb−Δεm2>εmtgtb−Δεm1 ・・・(3)
次いで、CPUはステップ1130に進み、前記ステップ1120にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMin以下であるか否かを判定する。目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMin以下であるとき、CPUはステップ1130にて「Yes」と判定してステップ1140に進み、最小目標機械圧縮比εmMinを正の変化量Δεm3だけ増大させた値を目標機械圧縮比εmtgtに設定する。この変化量Δεm3は正の数である。ただし、変化量Δεm3は、最小目標機械圧縮比εmMinに変化量Δεm3を加えた値が最大目標機械圧縮比εmMax以上とならないように設定されている(Δεm3>0、且つ、εmMin+Δεm3<εmMax)。その後、CPUは分岐点Bを経由して図10のステップ1060に進む。
これに対し、ステップ1130の処理の実行時点において、前記ステップ1120にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最小目標機械圧縮比εmMinよりも大きいと、CPUはそのステップ1130にて「No」と判定して、ステップ1150に進む。
CPUは、ステップ1150にて前記ステップ1120にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最大目標機械圧縮比εmMax以上であるか否かを判定する。このとき、目標機械圧縮比εmtgtが最大目標機械圧縮比εmMaxよりも小さいと、CPUはステップ1150にて「No」と判定し、分岐点Bを経由して図10のステップ1060に進む。
一方、ステップ1150の処理の実行時点において、前記ステップ1120にて設定された目標機械圧縮比εmtgtが最大目標機械圧縮比εmMax以上であると、CPUはそのステップ1150にて「Yes」と判定してステップ1160に進み、最大目標機械圧縮比εmMaxを目標機械圧縮比εmtgtに設定する。次いで、CPUは分岐点Bを経由して図10のステップ1060に進む。
このようなステップ1120乃至ステップ1160のうちの適当なステップの処理は、CPUがステップ1110にて「No」と判定される時点まで継続する。従って、圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した時点から所定時間が経過するまで、目標機械圧縮比εmtgtは「圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した時点の直前の目標機械圧縮比εmtgt」よりも大きい値に設定される。この結果、CPUが図10のステップ1060の処理を実行することにより、実際の機械圧縮比εmactは、圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した時点から所定時間が経過するまで、圧縮比低下フラグXDの値が「1」から「0」に変化した時点の直前の機械圧縮比よりも増大させられる。
その後、圧縮比低下フラグの値が「0」である状態が続くと、CPUは図11のステップ1110にてNoと判定し、ステップ1170に進んで最終的な目標機械圧縮比εmtgtに基本目標機械圧縮比εmtgtbを格納する。次いで、CPUは分岐点Bを経由して図10のステップ1060に進む。この結果、低圧縮比運転は停止される。
以上、説明したように、第2制御装置は、
低圧縮比運転の実行中において所定の加速要求が発生したと判定した場合(図9のステップ910を参照。)、機械圧縮比を同加速要求が発生したと判定する直前の機械圧縮比よりも上昇させるように前記機械圧縮比変更機構に指示を与える(図9のステップ915、並びに、図10及び図11のルーチンを参照。)。
従って、第2制御装置は、第1制御装置と同様、低圧縮比運転の実行中において機関に加速要求が発生したと判定されたとき、機械圧縮比を上昇させる。更に、第2制御装置は、この機械圧縮比を上昇させるときの「上昇量(Δεm1−Δεm2)」を適当な値に設定する。これにより、第2制御装置は、加速要求の大きさ等に基づいて機械圧縮比の上昇量を調節することができ、もって、機関の応答性能を高めるとともに触媒温度を必要以上に低下させないよう制御することができる。
以上、説明したように、本発明の各実施形態によれば、触媒33の排ガス浄化率を高い値に極力維持するとともに機関10の加速応答性を確保することができる。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
例えば、上記各実施形態においては、機関の負荷を表す値として筒内吸入空気量Mcを採用した。これに代え、機関の負荷を表す値として、アクセルペダル操作量、スロットル弁開度及び充填率等の何れかに基づいて機関の負荷の大きさを採用してもよい。
更に、本発明の各実施形態に係るCPUは、触媒温度センサ49により検出された触媒温度TempCが許容温度以下から許容温度以上となったとき、冷却水温THWが閾値温度THWth以下から閾値温度THWth以上となったときと同様、機関10の暖機が完了したと判定して暖機完了フラグXWUPCの値を「1」に設定するように構成されてもよい。
また、上記各実施形態において、触媒温度低下時間タイマ増分ΔT1及び高負荷運転時間タイマ増分ΔT2は、負荷に応じて変化する値であったが、一定値であってもよい。
10…可変圧縮比内燃機関、11…クランクケース、11a…クランクシャフト、13…シリンダブロック、13a…シリンダ、13b…ピストン、14…シリンダヘッド部、14c…排気ポート、14g…排気弁、15…機械圧縮比変更機構、15M…アクチュエータ(電動モータ)、16…燃料噴射弁(インジェクタ)、20…吸気系統、30…排気系統、31…エキゾーストマニホールド、32…エキゾーストパイプ、33…触媒、50…電気制御装置。