JP2009209404A - ボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法 - Google Patents

ボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】磁気特性が優れるだけでなく樹脂バインダーと混練したとき組成物の流動性が大きいボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供。
【解決手段】燐酸を含む有機溶剤(第1の溶液)中で希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程と、得られたスラリーを固液分離する工程と、分離された磁石微粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥する工程を含むボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法であって、さらに、得られた磁石微粉末は、前記加熱乾燥工程の後で、0.1mol/L〜0.5mol/Lの燐酸を含む有機溶剤(第2の溶液)と混合・撹拌し、150℃以上の温度で加熱乾燥することにより、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜を形成することを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法によって提供。
【選択図】なし

Description

本発明は、ボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関し、より詳しくは、磁気特性が優れるだけでなく樹脂バインダーと混練したとき組成物の流動性が大きいボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法に関する。
希土類−鉄−窒素系磁石は、従来より磁気特性の優れた磁石として知られている。この磁石は、希土類酸化物、鉄、カルシウムを混合して還元拡散処理を行うことにより作製した希土類−鉄系合金粉末を窒化処理する方法などによって製造されている。
現在、この磁石は、一般電化製品から、通信機器、音響機器、医療機器、一般産業機器に至る幅広い分野に利用されているが、用いられる機器等の小型・軽量化に伴い、磁石自身の大きさや形状も制限を受けており、水分や塩分が存在すると磁石の特性が低下する等の理由から、さらなる改良が要求されている。
そこで、磁石の耐候性を高めるために、燐酸中に磁石粉末を入れて処理し、表面に燐酸塩皮膜を形成することが行われている(特許文献1)。この方法では、粉砕された磁石微粉を0.1〜10重量%の無機燐酸を含む有機溶媒中で処理し、60〜100℃で乾燥させるので、形成される燐酸塩皮膜は比較的軟弱であることから、耐候性を長時間保持することができない。
一方、より耐候性に優れ、湿度環境下で保磁力の低下を抑制するために、本出願人は、燐酸を添加した有機溶剤中で磁石合金粉を粉砕することを提案している(特許文献2参照)。この方法では、磁石合金粉の粉砕中に、磁石合金粉の質量に対して0.1mol/kg以上2mol/kg未満の燐酸を添加して、所定の時間処理することにより磁石合金粉表面に保護皮膜を形成させている。
しかしながら、希土類−鉄−窒素系磁石粉末は、元来酸化され易い性質があり粉砕条件によっては酸化を抑え切ることができず、現在求められている高い磁気特性が達成できない場合があった。
また、ボンド磁石用の樹脂バインダーとして、ポリアミドやポリフェニレンサルファイド(PPS)などの熱可塑性樹脂が用いられているが、磁石粉末を多量に充填すると、流動性が著しく悪化することがあった。
そこで、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石を製造する際、組成物の流動性と磁気特性を向上させるため、熱可塑性樹脂の構造を変えたり特別な添加剤を用いたりすることが行われている。
例えば、特許文献3には、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基及び末端アミノ基の少なくとも1種が封止されたポリアミド樹脂を樹脂バインダーとして用いることが提案されている。これにより流動性や磁気特性が向上するが、末端基を封止するためにメタクリル酸を添加してオートクレーブで処理した後に粉砕するという、特殊な処理が必要である。
また、特許文献4は、磁石微粉末と熱可塑性樹脂に対して炭素数10〜32の脂肪酸のアルカリ金属を特定量添加することを提案している。これによってコンパウンドの流動性が改善されるものの、混練時に着色が生じることがあり、磁気特性については充分な向上が見られない。
このような状況下、熱可塑性樹脂を特殊な構造に変えることなく、あるいは混練時に着色が生じるような添加剤(流動性向上剤)を用いずとも、組成物の流動性と磁気特性を向上できる磁石粉末が必要とされている。
特開2000−260616号公報 特開2002−124406号公報 特開平10−256017号公報 特開2000−68116号公報
本発明の目的は、磁気特性が優れるだけでなく樹脂バインダーと混練したとき組成物の流動性が大きいボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、希土類−鉄−窒素系磁石の粗粉末を、燐酸が添加された有機溶剤中にて湿式微粉砕し、得られたスラリーを固液分離して、分離された粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥させる方法において、得られた磁石微粉末を、さらに燐酸を含む有機溶剤中に入れて撹拌した後に加熱乾燥することにより、得られた磁石微粉末は、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜が形成されるので、これを用いるとボンド磁石用組成物の流動性が向上し、磁気特性が優れたボンド磁石を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、燐酸を含む有機溶剤(第1の溶液)中で希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程と、得られたスラリーを固液分離する工程と、分離された磁石微粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥する工程を含むボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法であって、得られた磁石微粉末は、前記加熱乾燥工程の後で、さらに、0.1mol/L〜0.5mol/Lの燐酸を含む有機溶剤(第2の溶液)と混合・撹拌し、150℃以上の温度で加熱乾燥することにより、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜を形成することを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、第1の溶液中の燐酸含有量が、0.1mol/L〜2mol/Lであることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、磁石粗粉末の粉砕時間が、30〜180分間であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、加熱乾燥が、真空中または不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、加熱乾燥の時間が、30〜300分間であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、有機溶剤が、エタノールまたは2−プロパノール(IPA)から選ばれた1種以上のアルコールを含むことを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、磁石微粉末の平均粒径が、1〜5μmであることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、燐酸塩皮膜の厚さが、平均で5〜200nmであることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
本発明によれば、燐酸を含む有機溶剤(第1の溶液)中で磁石粗粉末を微粉砕し、得られたスラリーを固液分離した後、分離された微粉末を加熱乾燥し、次いで燐酸を含む有機溶剤(第2の溶液)中で表面処理するので、高い磁気特性を有する磁石微粉末となり、磁気特性を大幅に改善することができる。
また、この磁石微粉末は、樹脂バインダーと混練してボンド磁石用組成物を調製する際、組成物の流動性が優れており、それを成形したボンド磁石の磁気特性も優れたものとなる。
従って、本発明に係る磁石粉末は、例えば、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において極めて有用であるため、その工業的価値は非常に高い。
以下、本発明のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末を製造する方法、得られる希土類−鉄系磁石粉末について詳しく説明する。
1.希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法
本発明は、燐酸を含む有機溶剤(第1の溶液)中で希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程と、得られたスラリーを固液分離する工程と、分離された磁石微粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥する工程を含むボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法であって、得られた磁石微粉末は、前記加熱乾燥工程の後で、さらに、0.1mol/L〜0.5mol/Lの燐酸を含む有機溶剤(第2の溶液)と混合・撹拌し、150℃以上の温度で加熱乾燥することにより、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜を形成することを特徴とする。
本発明において、原料となる希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末は、希土類元素と鉄を主成分として含む磁石粉末(以下、単に磁石粉ともいう)であれば特に制限は無い。
希土類元素としては、例えば、Sm、Gd、Tb、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。なお、本発明の磁石粉末の原料としては、酸化し易く高温に弱いネオジムよりも耐食性や熱安定性に優れているサマリウムが好ましい。
希土類元素としてSmが含まれる場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上であるとより高い保磁力が得られる。希土類−鉄−窒素系磁石合金粉末には、Feの一部をCoで置換した組成の希土類−鉄−コバルト−窒素系磁石合金粉末も挙げられる。
また、希土類−鉄−窒素系合金粉末の製造方法には、鋳造法や還元拡散法などがある。本発明においては、いずれの方法でも構わないが、Sm−Fe−N系の場合は特に還元拡散法が適している。
還元拡散法によりSm−Fe−N系の磁石粗粉末を製造するには、例えば原料粉末混合工程→還元拡散工程→水素処理工程→湿式処理工程→窒化処理工程を経て得られた希土類−鉄−窒素系合金粉末を粉砕する。
まず、原料である希土類酸化物粉末および鉄粉末に還元剤としてカルシウムを加えてから、不活性ガス雰囲気中において、例えば、900〜1180℃で3〜5時間還元拡散処理を行い、得られた還元拡散物を、不活性ガス雰囲気中で500℃以下に冷却した後、不活性ガスの少なくとも一部を排出してから水素含むガスを供給して該還元拡散物に水素を吸収させ崩壊させる。さらに、この水素を吸収して崩壊した反応生成物を水中に投入した後、酢酸などを加え、撹拌しながら酸化カルシウムを除き、真空中において50〜200℃で数時間乾燥させて希土類−鉄系合金粉末とする。このように、還元拡散物を窒化する前に水素処理することが好ましいが、水素処理前に窒化しても構わない。
次に、この希土類−鉄系合金粉末を、例えば、120〜480℃で加熱処理し、さらにアンモニアガス:3〜5L/min、水素ガス:3〜5L/minの条件で280〜400分間アンモニアと水素を含有する混合ガス中で昇温し、350〜500℃で窒化処理することにより、希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末とすることができる。
(1)磁石合金粗粉末の微粉砕
次いで、燐酸を含む有機溶剤中において上記希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を微粉砕処理する。この磁石合金粗粉末の微粉砕処理には、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕できる粉砕装置が使用でき、特に限定されない。その中でも、磁石粉の組成や粒子径を均一にしやすい点で、アトライター、ビーズミル(以下、媒体攪拌ミルともいう)が好適である。
また、本発明においては、燐酸の種類は、特に制限が無く市販の燐酸を使用することができる。たとえば、燐酸をはじめ、亜燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、直鎖状のポリ燐酸、環状のメタ燐酸などの燐酸系化合物が含まれる。また、燐酸アンモニウム、燐酸アンモニウムマグネシウムなど、更には磁石粉末表面でホパイト、フォスフォフェライト等を形成する燐酸亜鉛系、ショルツァイト、フォスフォフィライト、ホパイト等を形成する燐酸亜鉛カルシウム系、マンガンヒューリオライト、鉄ヒューリオライト等を形成する燐酸マンガン系、ストレンナイト、ヘマタイト等からなる燐酸鉄系などの被膜を形成する化合物が挙げられる。上記燐酸は、通常、キレート剤、中和剤等と混合して処理剤とされる。
これに対して、粉砕時に燐酸を用いないと、粉砕された希土類−鉄−窒素系合金粉末の粒径が不揃いになったり、あるいは粉末表面に欠陥が生じたりして、高品質の磁石粉末を製造することができない。
燐酸の添加量は、粉砕後の磁石粉の粒径、表面積等に関係するので一概には言えないが、通常は、溶液全量に対して0.1〜2mol/Lであり、より好ましくは0.15〜1.5mol/Lであり、さらに好ましくは0.2〜0.4mol/Lとすることが好ましい。0.1mol/L未満であると磁石粉の表面処理が十分に行なわれないために耐候性が改善されず、また大気中で乾燥させると酸化・発熱して磁気特性が極端に低下する。2mol/Lを超えると磁石粉との反応が激しく起きて磁石粉が溶解する。
燐酸の添加方法は、特に限定されず、例えば、媒体撹拌ミル等で粉砕するに際し、溶剤の有機溶剤に燐酸を添加する。燐酸は、最終的に所望の濃度になれば良く、粉砕開始前に一度に添加しても粉砕中に徐々に添加しても良いが、粉砕で生じた新生面が直ちに処理されるように、常に溶液中に燐酸を存在させなければならない。好ましくは、粉砕末期に所望の燐酸濃度となるように粉砕溶剤の有機溶剤に燐酸を添加して粉砕する。粉砕装置には不活性ガスを供給して磁石粉末が酸化されにくい雰囲気とすることが望ましい。
粉砕に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できるが、安全性などの観点から特にエタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
粉砕時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、所定の燐酸濃度の粉砕溶剤内では0.1〜3時間、好ましくは0.1〜2時間とする。0.1時間未満では、磁石粉の表面が充分な厚さの燐酸塩皮膜が形成されず、3時間を超えると磁石粉が凝集しやすくなり好ましくない。本発明の方法においては、磁石合金粉の粉砕時に燐酸を適量添加することで磁石粉表面にメカノケミカル的な作用で皮膜が形成されるために乾燥時間の短縮が可能となる。
こうして得られた磁石粉末は、燐酸塩皮膜の形成が不十分であるため、ボンド磁石時に樹脂バインダーと混練されると、凝集していた磁石粉末が混練による剪断力で一部解砕され、皮膜のない活性な粉末表面が露出する。このため、斯かる磁石粉末を成形して得られたボンド磁石は、実用上重要な湿度環境下で容易に腐食が生じ、磁気特性が低下する。特に、サマリウム−鉄−窒素系合金のような核発生型の保磁力発現機構を示す磁石粉末では、一部にこのような領域が生じると著しく保磁力が低下してしまう。
(2)スラリーの固液分離
そのため、こうして微粉砕された磁石粉末と燐酸及び有機溶剤を含むスラリーは、次いで大部分の液体を除去するために固液分離装置に供給される。このスラリーは、固液分離装置内で処理されて、例えば含液率が5〜30wt%の希土類−鉄系磁石合金粉ケーキとなる。
固液分離装置としては、ヌッチェ式ろ過機や遠心ろ過機等のフィルター式ろ過機、デカンタ型遠心分離機を使用できるが、フィルター式ろ過機では、ろ過性に対する粉体性状の影響が大きく、装置パラメータとして含液率を制御しにくい場合がある。また、希土類−鉄系磁石合金粉スラリーは、ろ過性が非常に悪いためにフィルターによるろ過に多大な時間がかかり、低含液率とすることが困難なことが多い。これらの事情を考慮して固液分離装置を選択する必要がある。
ここで、得られる磁石合金粉ケーキの含液率は、5〜30wt%、好ましくは、10〜30wt%に調整することが望ましい。含液率が30wt%を超えると、次の工程で加熱処理する時に磁石粉が凝集して塊状になってしまい、別途それらを解砕する処理が必要となる。加えて、加熱処理において処理時間が長くなり、生産効率が低下するので好ましくない。また、含液率が5wt%未満であると、大気中で発火したり、酸化し発熱したりして磁気特性が低下することがある。
(3)加熱乾燥
次に、磁石合金粉ケーキを加熱処理装置に移送し、引き続き、特定の排気速度で排気しながら、真空に保持して、特定の温度範囲で加熱処理する。
この加熱処理には、ミキサー型乾燥機、処理物静置型の箱型乾燥機などを用いることができる。
本発明においては、上記のようにして磁石粉に真空中又は不活性ガス中、150℃以上の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましい。150〜200℃、特に160〜180℃の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましい。150℃未満で加熱処理を施すと、磁石粉の乾燥が十分進まずに磁石粉に取り込まれた水素が十分に抜けないため磁気特性が低下し、また、200℃を超える温度で加熱処理を施すと、磁石粉が熱的なダメージを受けるためか、やはり磁気特性が低下するという問題がある。
この際、処理槽内を1.33×10Pa以下、好ましくは6.66×10Pa以下の真空度に保持することが望ましい。真空度がこれよりも小さいと、磁気特性が低下する場合がある。これは、真空度が小さい場合には加熱処理時間を長くしなければならないので、磁石粉表面の酸化が進行する影響が大きくなるためと考えられる。
加熱処理時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、なるべく短いほうが望ましい。例えば容積100リットルの攪拌型乾燥機にて磁石粉50kgを処理する場合は2時間以内、特に90分間以内とする。加熱処理時間が長くなるほど磁気特性が低下する。ただし、10分よりも短いと安定な燐酸塩皮膜が形成されない場合がある。
(4)磁石微粉末の表面処理
本発明においては、加熱乾燥された磁石微粉末は、さらに燐酸を加えた有機溶剤(第2の溶液)に入れて攪拌する。磁石合金粗粉は、前記燐酸を加えた有機溶剤(第1の溶液)中で粉砕され、表面に燐酸塩の皮膜が形成されているが、まだ必ずしも充分とはいえず、磁石微粉末が磁力などによって互いに凝集しているため流動性が悪い。そのため、燐酸を加えた有機溶剤(第2の溶液)で処理して、磁石粉末の接触面に被膜処理を行うのである。以下、この工程を再処理ともいう。
再処理に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できるが、安全性などの観点から特にエタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
燐酸の種類は、前記磁粉の粉砕時に用いたものと同じく、特に制限が無く市販の燐酸を使用することができる。燐酸の添加量は、粉砕後の磁石粉末の粒径、表面積等に関係するので一概には言えないが、通常は、溶液全量に対して0.1〜0.5mol/Lであり、より好ましくは0.15〜0.3mol/Lが好ましい。0.1mol/L未満であると磁石粉末の表面処理が十分に行なわれないためにコンパウンドの流動性が改善されない。ただし、0.5mol/Lを超えるとボンド磁石の磁気特性が低下することがある。
処理時間は、所定の燐酸濃度の粉砕溶剤内では1〜60分間、好ましくは5〜30分間とする。1分未満では、磁石粉の表面が充分な厚さの燐酸塩皮膜で均一に被覆されず、60分間を超えても流動性が大きくは改善されないので好ましくない。
次に、磁石合金粉ケーキを加熱処理装置に移送し、引き続き、特定の排気速度で排気しながら、真空に保持して、特定の温度範囲で加熱処理する。
この加熱処理には、前記と同様にミキサー型乾燥機、処理物静置型の箱型乾燥機などを用いることができる。
本発明においては、上記のようにして磁石粉に真空中又は不活性ガス中、150℃以上の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましい。150〜200℃、特に160〜180℃の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましい。150℃未満で加熱処理を施すと、磁石粉の乾燥が十分進まずに磁石粉に取り込まれた水素が十分に抜けないため磁気特性が低下し、また、200℃を超える温度で加熱処理を施すと、磁石粉が熱的なダメージを受けるためか、やはり磁気特性が低下するという問題がある。
この際、処理槽内を1.33×10Pa以下、好ましくは6.66×10Pa以下の真空度に保持することが望ましい。もし、これより低い真空度で加熱処理を行うと、磁気特性が低下する場合がある。このような状態になるのは、真空度が低状況では、必然的に加熱処理時間を長くしなければならず、それによって磁石粉表面の酸化が進行する影響が大きくなるためと考えられる。
加熱処理時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、なるべく短いほうが望ましい。例えば容積100リットルの攪拌型乾燥機にて磁石粉50kgを処理する場合は2時間以内、特に90分間以内とする。加熱処理時間が長くなるほど磁気特性が低下する。ただし、10分よりも短いと安定な燐酸塩皮膜が形成されない場合がある。
2.希土類−鉄−窒素系磁石粉末
本発明に係る希土類−鉄−窒素系磁石粉末は、上記の製造方法によって得られ、表面が充分な厚さの燐酸塩皮膜で均一に被覆され、安定化された磁石合金粉である。
この磁石粉は、平均粒径が1〜5μm、好ましくは2〜4μmである。平均粒径が1μm未満では製造コストが高くなり、5μmを超えると磁気特性が低下するので好ましくない。
また、磁石粉の表面は、充分な厚さの燐酸塩皮膜で均一に被覆され、安定化されている。ここで、均一に被覆されるとは、通常は磁石粉表面の90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは全面が燐酸皮膜で覆われることをいう。磁石粉表面を保護するために必要な燐酸塩皮膜の厚さは、通常、平均で5〜200nmである。好ましい厚さは10〜150nmである。燐酸塩皮膜の平均厚さが5nm未満であると十分な耐候性が得られず、また、200nmを越えると磁気特性が低下すると共にボンド磁石を作製する際の混練性や成形性が低下する。
なお、磁石粉の構成成分は、磁石粉の成分である希土類元素(R)、鉄などの遷移金属元素(T)及び窒素(N)と、燐酸塩皮膜の成分であるリン(P)、酸素(O)を必須成分とし、これらに製造途上で不可避的に混入する不純物(T)である水素(H)を含有したものということができる。前記のとおり、磁石粉の成分としてコバルト、燐酸塩皮膜の成分として、亜鉛、銅、マンガンなどの遷移金属元素(T)がさらに含まれていてもよい。
燐酸塩皮膜の成分であるP(リン)の含有量は0.5〜3.0重量%、好ましくは0.8〜1.5重量%である。Pが0.5重量%未満では磁石粉の耐候性や耐熱性に劣り、3.0重量%を超えるとその残留磁化が低下するので好ましくない。
また、O(酸素)は1.0〜8.0重量%、好ましくは1.5〜5.0重量%である。Oが1.0重量%未満では磁石粉表面の燐酸塩皮膜が十分に形成されていないので、耐候性や耐熱性が劣るのに加えて、表面活性が高いため大気中で取り扱ったとき発火のおそれがある。一方、8.0重量%を超えると残留磁化が低下するので好ましくない。
さらに、不可避的に混入する任意成分のH(水素)は0〜0.3重量%、好ましくは0.1重量%以下である。Hは耐候性に悪影響を及ぼし、0.3重量%を超えると耐候性が低下すると共に、保磁力も低下するので極力排除するのが望ましい。
3.ボンド磁石用組成物
本発明に係るボンド磁石用組成物は、上記希土類−鉄系磁石合金粉を樹脂バインダーと混合してなる希土類−鉄系ボンド磁石用組成物である。
樹脂バインダーの種類は、特に限定されることはなく、各種熱可塑性樹脂単体または混合物、あるいは各種熱硬化性樹脂単体あるいは混合物であり、それぞれの物性、性状等も所望の特性が得られる範囲でよく特に限定されることはない。
熱可塑性樹脂は、磁石粉のバインダーとして働くものであれば、特に制限なく、従来公知のものを使用できる。その具体例としては、6ナイロン、6−6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6−12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性した変性ナイロン等のポリアミド樹脂、直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出各樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品等が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂の溶融粘度や分子量は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で低い方が望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石粉と均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石粉100重量部に対して、通常5〜50重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜15重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5重量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなり、流動性が低下して磁石の成形が困難となり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。本発明の目的を損なわない範囲で、ボンド磁石用組成物の加熱流動性等を向上させるために、各種カップリング剤、滑剤や種々の安定剤等を配合することができる。
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ラジカル重合反応性を有する不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂などの樹脂が挙げられる。このほかに、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂を使用できる。これらの中でも、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂が好ましい。また、重合度や分子量に制約されないが、150℃以下の温度では液状であり、25℃における粘度が5000mPa・s以下である樹脂が成形性の面から好適である。
不飽和ポリエステル樹脂は、多価アルコールと飽和多塩基酸及び/又は不飽和多塩基酸との重縮合反応により得られる不飽和ポリエステルと、当該エステルと共重合可能なモノマーよりなる熱硬化性樹脂である。
ここで、多価アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールF、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールFプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSなどが挙げられ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジブロムネオペンチルグリコール、ペンタエリスリットジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これら多価アルコール類は、一種類のみを用いても構わないし、二種類以上を混合して用いてもよい。本発明においては、分子構造の少なくとも一部にビスフェノール骨格を有する多価アルコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFなどを含有するものがより好ましい。
飽和多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸などが挙げられる。不飽和多塩基酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これら二塩基酸類は一種類のみを用いても構わないし、二種類以上を混合して用いてもよい。
また、ビニルエステル樹脂は、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とを付加反応させて得ることができる。ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物は、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラックタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物でもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。本発明においては、この中でもビスフェノール骨格を有する多価アルコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFなどを少なくとも含有するものがより好ましい。
不飽和一塩基酸としては、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸、メタアクリル酸、桂皮酸、クロトン酸等が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸等のハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルミチン酸等の飽和一価カルボン酸や、フタル酸等の飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。
熱硬化性樹脂には、反応開始剤として有機過酸化物を含んでいる。このほかに、可使時間を改善するためのN−オキシル類化合物や、フェノール、重合禁止剤、低収縮化剤などを配合できる。また、これらの不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などには、共重合可能なモノマーを配合することができる。共重合可能なモノマーとしては、例えば、(I)スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルモノマー類、(II)ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、トリアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテトラブロムフタレート等のアリルモノマー類、(III)フェノキシエチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。また、これらの共重合可能なモノマーは1種類でもよく、2種類以上を適宜混合して使用しても構わず、当該モノマーの添加量は、特に制限はない。
磁石合金粉と樹脂バインダー等を混合、混練するには各種ミキサー、ニーダー、押出機を用いることができる。
本発明に係るボンド磁石用組成物は、流動性に優れている。なお、流動性は、JIS K 7210〔プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法〕に基づいて測定され、得られた流動性の数値が0.1ml/s以上であるボンド磁石用組成物は実用上好ましいものであるといえる。
4.ボンド磁石
本発明に係るボンド磁石は、上記の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を含むボンド磁石用組成物を射出成形法、押出成形法、又は熱間圧縮成形法のいずれかにより成形してなるものである。これらの中では、特に射出成形法、熱間圧縮成形法が好ましい。なお、射出成形法には、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が含まれる。また、成形時に磁場を印加することで異方性のボンド磁石を製造することができる。
上記のボンド磁石用組成物が熱可塑性樹脂を樹脂バインダーとする場合、組成物を樹脂の溶融温度で加熱溶融した後、所望の形状を有する磁石に成形する。射出成形法では、熱可塑性樹脂と磁石合金粉を含む組成物を250℃以上の温度で溶融し、金型のキャビティー内に供給し、その後、冷却して成形体を取り出す。この場合、樹脂バインダーとしては、前記のとおり、例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、液晶樹脂、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂が使用可能である。また、熱硬化性樹脂と磁石合金粉を含む組成物を用いる場合は、流動性のある状態で組成物を金型のキャビティー内に供給し、その後、樹脂の熱硬化温度以上に加熱し、得られた成形体を常温で取り出す。
射出成形法においては、一般に、表面被膜を付与しない希土類−鉄−窒素系磁石粉を使用した場合、磁石合金粉と特定の樹脂バインダーとを混練して射出成形する際に混練トルクが高くなり、成形が困難となることがあるが、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉を使用した場合は、問題なく成形することができる。そして、本発明においては、優れた磁気特性を引き出すために微粉化された磁石粉自体が燐酸塩皮膜で均一に被覆され、安定化されているためである。
樹脂バインダーは、各構成成分を含めた状態で、磁石粉100重量部に対して、2〜50重量部の割合で添加されるが、3〜20重量部、さらには10〜15重量部添加することが好ましい。樹脂バインダーの添加量が磁石粉100重量部に対して2重量部未満の場合は、著しい成形体強度の低下や成形時の流動性の低下を招く。また、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。
また、圧縮成形法により成形を行う場合には、溶剤等で液状化した熱硬化性樹脂を本発明の磁石合金粉と攪拌しながら混合して得られるボンド磁石用組成物を用いる。樹脂バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂等ほか、不飽和ポリエステルやビニルエステルなども使用可能である。樹脂バインダーの使用量は、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉に対して、通常、0.5〜15重量%であり、好ましくは、0.7〜10重量%である。樹脂バインダーが多すぎると、得られるボンド磁石の磁気特性が不満足なものとなり、また、少なすぎるとボンド磁石の強度が不満足なものとなる。
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例や比較例によって得られるボンド磁石用組成物、希土類−鉄系ボンド磁石の評価方法は、以下の通りである。
[流動性]
流動性は、東洋精機(株)製メルトインデクサーを用いて、JIS K 7210によって、以下の条件で測定した。測定温度:250℃、荷重:21.6kg、ダイスウェル:直径2.lmm×厚さ8mm。なお、測定値が、0.1ml/s以上であれば合格と評価した。
[磁気特性]
得られた希土類−鉄系ボンド磁石の磁気特性を東英工業製直流自記磁束計にて測定した。
(実施例1)
酸化サマリウム粉末1976g、鉄粉4221g、カルシウム801.5gを混合して1150℃で270分間還元拡散処理を行い、さらに水素気流中で室温、20時間保持して還元拡散物を得た。その後、還元拡散物を水中に入れ、酢酸を加えて4重量%酢酸溶液とした後、撹拌しながら酸化カルシウムを除去し、希土類−鉄系合金粉末を得た。
次に、得られた希土類−鉄系合金粉末を450℃において、アンモニアガス4.7L/min、水素ガス9.3L/minの混合ガスを用いた条件で350分間窒化処理した。
得られた希土類−鉄−窒素系合金粉末(平均粒径20μm)を、エタノールと0.3mol/Lの燐酸(85%濃度水溶液)を含む溶液中に入れてスラリー化し、媒体撹拌ミル(三井鉱山(株)製、ボールの材質SUJ2、直径4.8mm)を用いて、回転数200(rpm)で1時間かけて微粉砕を行った。
次に、粉砕後の磁石粉末を含んだスラリーをろ過装置に移送して固液分離し、含液率を15wt%に調整した。その後、脱液された磁石粉末ケーキを乾燥装置に供給し、1.33×10Pa以下の真空度に保持し、160〜180℃で2時間乾燥させて磁石粉末を製造した。
その後、得られた磁石粉末をエタノールと0.15mol/Lの燐酸(85%濃度水溶液)を含む溶液中に入れて10分間攪拌してから乾燥装置に供給し、1.33×10Pa以下の真空度に保持し、160〜180℃で2時間乾燥させて磁石粉末を製造した。磁石粉末の粒径は、2.2μm、燐酸塩の膜厚は平均6nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.8重量%、Oの含有量は、2.0重量%、Hの含有量は、0.08重量%であった。
この磁石粉末91.3wt%とポリアミド樹脂8.7wt%を東洋精機製ラボプラストミルで混練を行ってコンパウンドを作製した。流動性を測定した結果を表1に示す。
コンパウンドをタナベ工業(株)製磁場中射出成形機に投入し、配向磁場30A、射出圧1000kgf/cm、射出温度220℃、金型温度90℃の条件で、円柱状の成形体を成形した。得られた希土類−鉄−窒素系ボンド磁石を適宜選択して、上記の方法により、磁気特性を測定した結果を表1に示す。
(実施例2,3)
燐酸(第2の溶液)の添加量を0.1mol/kg、または0.5mol/kgに変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石粉末を製造した。
得られたコンパウンドの流動性と希土類−鉄−窒素系ボンド磁石の磁気特性を実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1に示す。実施例2では磁石粉末の粒径は、2.3μm、燐酸塩の膜厚は平均5nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.75重量%、Oの含有量は、1.8重量%、Hの含有量は、0.075重量%であった。実施例3では磁石粉末の粒径は、2.3μm、燐酸塩の膜厚は平均6nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.85重量%、Oの含有量は、2.3重量%、Hの含有量は、0.08重量%であった。
(比較例1)
再処理をしていない磁石粉末を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石粉末を製造した。磁石粉末の粒径は、2.3μm、燐酸塩の膜厚は平均0.4nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.32重量%、Oの含有量は、1.8重量%、Hの含有量は、0.05重量%であった。
(比較例2、3)
燐酸(第2の溶液)の添加量を0.05mol/kgまたは0.6mol/kgに変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石粉末を製造した。
比較例2では磁石粉末の粒径は、2.3μm、燐酸塩の膜厚は平均4nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.4重量%、Oの含有量は、1.9重量%、Hの含有量は、0.075重量%であった。比較例3では磁石粉末の粒径は、2.2μm、燐酸塩の膜厚は平均6nmであった。また、Pの含有量は、磁石粉末に対して、0.9重量%、Oの含有量は、2.5重量%、Hの含有量は、0.1重量%であった。
Figure 2009209404
表1に示す実施例1〜3の結果から、本発明によって磁石粉末を処理すれば、それを用いたコンパウンドの流動性とボンド磁石の磁気特性が向上することが分かる。これに対して、比較例1は、燐酸を含む有機溶剤中で粉砕したが、粉砕後に表面処理を行わなかったので、流動性、磁気特性が悪かった。比較例2は、燐酸を含む有機溶剤中で粉砕後に表面処理を行ったが、燐酸の添加量が少なかったので、流動性、磁気特性があまり改善されていない。比較例3は、燐酸を含む有機溶剤中で粉砕後に表面処理を行ったが、燐酸の添加量が多すぎたので、流動性は改善されたが、磁気特性があまり改善されていない。

Claims (8)

  1. 燐酸を含む有機溶剤(第1の溶液)中で希土類−鉄−窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程と、得られたスラリーを固液分離する工程と、分離された磁石微粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥する工程を含むボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法であって、
    得られた磁石微粉末は、前記加熱乾燥工程の後で、さらに、0.1mol/L〜0.5mol/Lの燐酸を含む有機溶剤(第2の溶液)と混合・撹拌し、150℃以上の温度で加熱乾燥することにより、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜を形成することを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  2. 第1の溶液中の燐酸含有量が、0.1mol/L〜2mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  3. 磁石粗粉末の粉砕時間が、30〜180分間であることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  4. 加熱乾燥が、真空中または不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  5. 加熱乾燥の時間が、30〜300分間であることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  6. 有機溶剤が、エタノールまたは2−プロパノール(IPA)から選ばれた1種以上のアルコールを含むことを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  7. 磁石微粉末の平均粒径が、1〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
  8. 燐酸塩皮膜の厚さが、平均で5〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄−窒素系磁石粉末の製造方法。
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