以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、この発明のインクジェットヘッドの第1実施形態である斜視図を示している。図2は、図1におけるA−A’断面図を示す。図3は、インクジェットヘッドのノズルプレートを外した状態を示す。図1〜図3に示すように、このインクジェットヘッド100は、圧電基板1とノズルプレート2とホルダ部3とを備える。
上記圧電基板1は、一方向(X軸方向)に延在し互いに間隔を空けて平行に配列された複数の隔壁20を有する。この隣り合う隔壁20の間に個別インク溝6を形成する。
この各個別インク溝6は、一方向(X軸方向)に延在して両端が開口している。上記複数の個別インク溝6は、上記一方向に直交する他方向(Y軸方向)に互いに間隔をおいて平行に配列されている。上記個別インク溝6の両端は、上記圧電基板1の両端面に開口している。なお、分かりやすくするため、個別インク溝6の数や深さ等は、正確に図示してはいない。
上記圧電基板1の上記一方向(X軸方向)の長さは、上記個別インク溝6の長さであるため、例えば、上記個別インク溝6の長さが5mmの場合には、上記圧電基板1の上記一方向(X軸方向)の長さは5mmあればよい。上記圧電基板1の上記他方向(Y軸方向)の長さは、上記個別インク溝6の数や幅やピッチによって異なる。
上記圧電基板1には、上記個別インク溝6の深さ方向における略中央にて分極方向が相反する2枚の圧電材料があらかじめ接着剤で貼りあわされている。この構成により、外部より電圧を印加した際に、個別インク溝6の2枚の圧電材料が互いに反対方向に変形することにより、個別インク溝6とノズルプレート2とで囲まれた領域である圧力発生室の容積を変えることによって、インクを吐出する。つまり、このインクジェットヘッドは、シェアモード型のインクジェットヘッドである。
上記ホルダ部3は、凹部を有し、この凹部に、上記圧電基板1が取り付けられる。上記圧電基板1は、接着剤を介して、上記ホルダ部3に接着固定されている。ここで、上記接着剤とは、例えば、弾性接着剤、瞬間接着剤、エポキシ系接着剤やUV接着剤などである。
上記ホルダ部3は、第1部材3aと第2部材3bとからなる。上記ホルダ部3は、第1共通インク溝11および第2共通インク溝21を有する。上記第1共通インク溝11は、上記複数の個別インク溝6の一端側において上記複数の個別インク溝6と連通する。上記第2共通インク溝21は、上記複数の個別インク溝6の他端側において上記複数の個別インク溝6と連通する。
上記ノズルプレート2は、上記隔壁20の上面に接触して、上記複数の個別インク溝6、上記第1共通インク溝11および上記第2共通インク溝21を上側から覆うように配置され、上記複数の個別インク溝6と共に複数の個別インク室6aを定義し、上記第1共通インク溝11と共に第1共通インク室11aを定義し、上記第2共通インク溝21と共に第2共通インク室21aを定義する。つまり、上記ノズルプレート2は、上記ホルダ部3の凹部を密閉する大きさである。上記ノズルプレート2は、上記個別インク溝6に対応する位置にノズル孔8を有する。
上記ホルダ部3の上記ノズルプレート2の接触面側端部は、上記圧電基板1の上記隔壁20の上面よりも、突出していない必要がある。これは、上記ホルダ部3の端部と上記隔壁20の上面とが、同時に、上記ノズルプレート2に接着するため、もし、上記ホルダ部3の端部が突出していた場合、上記ノズルプレート2が上記ホルダ部3によって持ち上げられて、上記ノズルプレート2が上記隔壁20の上面に接着できない、つまり、上記個別インク室6aの連通状態の領域が発生する。そして、上記個別インク室6aに連通した領域があると、インクが行き来することで、効率良くインクを吐出できず速度低下等の原因になる。
上記ホルダ部3は、上記第1共通インク室11aに連通する第1流路口13aと、上記第2共通インク室21aに連通する第2流路口13bとを有する。上記第1流路口13aおよび上記第2流路口13bは、それぞれ、一つ設けられている。上記第1流路口13aは、インクの流入口であり、上記第2流路口13bは、インクの流出口である。上記ホルダ部3は、上記第1流路口13aが開口端である第1配管5aと、上記第2流路口13bが開口端である第2配管5bとを有する。
そして、上記インクジェットヘッド100では、(図示しない)供給タンクから上記第1配管5aを介して上記第1共通インク室11aにインクが供給され、このインクは、上記各個別インク室6aを通って、上記第2共通インク室21aに流入し、上記第2配管5bを介して廃液タンクへ流れる。
一方、インクの吐出において、上記個別インク溝6の第1の電極部に印加された電圧により、上記隔壁20がせん断変形し、上記個別インク室6aの容積が変形して、上記ノズル孔8からインクが吐出される。
ここで、上記インクジェットヘッド100は、例えば、上記ノズル孔8を下向き(重力方向)に配置して上記ノズル孔8からインクを下向きに吐出するように、使用される。つまり、上記インクジェットヘッド100は、Z軸方向を下向きにして、使用される。
上記ノズル孔8は、上記個別インク溝6の長手方向(X軸方向)における中心に位置する。これは、上記ノズル孔8が上記個別インク溝6の長手方向における中心に位置したときが、外部電圧印加機構により上記個別インク溝6に電圧を印加した際に、上記個別インク溝6による圧力波の伝搬効率が最良となり、低い吐出電圧でインクを吐出できるからである。
図4に示すように、上記圧電基板1の端面には、上記各個別インク溝6に対応するように、第2の電極部(電極引き出し部)9が形成されている。この第2の電極部9は、上記個別インク溝6の内面に設けられた第1の電極部7に、電気的に接続している。上記第2の電極部9には、フレキシブルケーブル4が接続されている。なお、図4中、上記第1の電極部7および上記第2の電極部9を、斜線にて、示している。
図2と図4に示すように、上記隔壁20は、互いに異なる分極方向をもつ上部圧電部1aおよび下部圧電部1bを積層して、形成される。上記上部圧電部1aは、例えば、0.15mmの薄板の圧電材料からなる。上記下部圧電部1bは、例えば、1.85mmの厚板の圧電材料からなる。上記上部圧電部1aと上記下部圧電部1bとは、接着部1cにより、貼りあわされている。
上記隔壁20の上面には、段差部19が設けられている。この段差部19は、上記隔壁20の上面よりも低くかつ上記個別インク溝6の底面よりも高くに位置する。上記段差部19は、上記ノズルプレート2から離隔する。上記段差部19は、上記隔壁20の幅方向の全部を切り欠いている。上記隔壁20の幅方向とは、上記隔壁20の配列方向(Y軸方向)をいう。
上記段差部19は、上記圧電基板1における上記第2の電極部9が設けられた端面に、設けられている。上記段差部19および上記第2の電極部9は、上記圧電基板1の上記両端面のそれぞれに、設けられている。上記圧電基板1の一方の端面に設けられている全ての上記段差部19は、上記個別インク溝6の長さ方向(X軸方向)に対して直交する方向(Y軸方向)に、配列されている。
上記隔壁20における上記段差部19の深さ方向に対応する全領域には、上記上部圧電部1aおよび上記下部圧電部1bが存在する。つまり、上記隔壁20における上記段差部19の深さ方向に対応する全領域には、上記接着部1cが存在する。
上記フレキシブルケーブル4は、図2に示すように、上記第1部材3aと上記第2部材3bとの接合面に位置している。つまり、上記第2部材3bの接合面には、上記フレキシブルケーブル4を嵌め込む凹部を有する。
上記第2の電極部9は、外部から上記フレキシブルケーブル4を介して、電圧を印加され、印加された電圧は、上記第2の電極部9と導通している上記個別インク溝6の第1の電極部7に伝わる。この第1の電極部7に印加された電圧により、上記圧電基板1の上記個別インク溝6の壁面がせん断変形し、上記個別インク室6aの容積が変形して、押し出されたインクがノズル孔8から吐出される。
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
まず、図5Aの斜視図、図5Bの平面図および図5Cの側面図に示すように、個別インク溝形成工程を行い、圧電基板に、一方向に延在し互いに間隔を空けて平行に配列された複数の隔壁を形成して、この隣り合う隔壁の間に両端が開口する個別インク溝を形成する。つまり、アクチュエータ部材である圧電基板1にダイシングブレードを複数回一定方向(X軸方向)に走査して複数の個別インク溝6を形成する。
ここで、大きな圧電基板から、ダイシングマシンによって四辺を切り出すことにより任意の大きさの圧電基板1とする。ダイシングマシンは、高い精度の直交度および平行度を有しているため、切り出した圧電基板1も高い直交度と平行度を有している。また、圧電基板1の厚さは2mmである。上部圧電部1aは、厚みがおよそ0.15mmであり、下部圧電部1bは、厚みがおよそ1.85mmであり、接着部1cは、厚みがおよそ10μmである。上部圧電部1aと下部圧電部1bとは、共に、圧電材料であるが、分極方向が逆向きである。
また、圧電基板1の大きさは、5mm×50mmである。個別インク溝6の深さは、およそ300μm、幅は100μmとし、個別インク溝6のピッチは、約200μmで、個別インク溝6の数は200本とした。個別インク溝6の幅は、使用するダイシングブレードの厚みで変えることができ、個別インク溝6の深さは、ダイシングブレードの切り込み量を変えることにより変更することができる。
また、個別インク溝6の深さは、接着部1cを個別インク溝6の深さ方向におけるおよそ中心に位置させるものである。上部圧電部1aと下部圧電部1bとは、分極方向が逆向きの圧電材料であるため、電圧を印加することにより逆向きに変形する。この変形により個別インク溝6の容積が変化して、インクを吐出することができる。接着部1cの位置が個別インク溝6の深さ方向におけるおよそ中心位置にあるのは、最も吐出効率がよいためであるが、これに限られるものではない。
その後、図6Aの平面図および図6Bの側面図に示すように、導電膜形成工程を行い、上記圧電基板1の上記個別インク溝6の内面に上記第1の電極部7としての導電膜を形成すると共に、上記圧電基板1における上記個別インク溝6の両端が開口する両端面に、導電膜を形成する。
この実施の形態では、銅をスパッタ法により成膜した。なお、図中、導電膜を、斜線にて、示している。この実施形態におけるスパッタ法による導電膜形成工程では、圧電基板1の個別インク溝6を形成した面の裏側の面を除く全面に導電膜が形成されるため、目的以外の部分にも導電膜が形成される。
このとき、接着部1cを覆っている部分の膜厚は、0.3μmであり、圧電基板1の両端面を覆っている部分の膜厚は、1μmである。個別インク溝6の内面に成膜された銅の膜厚と、個別インク溝6が開口する圧電基板1の端面に成膜された銅の膜厚とが、異なるのは、形状による銅のつきまわりの違いによるものである。
そして、図7Aの平面図、図7Bの側面図および図7Cの要部拡大斜視図に示すように、除去工程を行い、圧電基板1の個別インク溝6を形成した面における不要な導電膜を除去する。この除去工程では、例えば、圧電基板1の上部表面をダイシングブレードで複数回走査することで行うことができる。このとき、圧電基板1の個別インク溝6形成面において隣接する個別インク溝6同士が確実に絶縁するように、ダイシングブレードにより圧電基板1の表面もわずか(数μm)に研削する。わずかな量のみ研削するのは、接着部1cが個別インク溝6の深さのおよそ中心に位置させたままとするためである。除去工程後の圧電基板1には、個別インク溝6の内面に第1の電極部7と、圧電基板1の端面に導電膜とが、形成される。
その後、図8Aの平面図、図8Bの側面図、図8Cの正面図および図8Dの要部拡大斜視図に示すように、段差部形成工程を行い、上記隔壁20の上面に、この上面よりも低くかつ上記個別インク溝6の底面よりも高い位置に、段差部19を形成する。つまり、圧電基板1の両端部に、除去工程と同様にダイシングブレードを走査して、圧電基板1の両端面および上面が切り欠かれるように、段差部19を形成する。圧電基板1の一方の端面において、個別インク溝6の長さ方向(X軸方向)に対して直交する方向(Y軸方向)に、段差部19を配列している。
隔壁20の長さ方向(X軸方向)における段差部19の長さは、300μmであり、全ての隔壁20に、段差部19が設けられている。つまり、段差部19は、圧電基板1における個別インク溝6の並ぶ方向の両側面に開口している。また、段差部19の深さは、隔壁20の上面から80μmである。
その後、図9Aの平面図、図9Bの側面図、図9Cの要部拡大斜視図および図9Dの全体斜視図に示すように、分離工程を行い、上記圧電基板1の上記両端面に形成された導電膜を、上記各個別インク溝6に対応するように分離して、第2の電極部9とする。つまり、圧電基板1の両端面に形成されている導電膜に対してダイシングブレードを複数回一定方向(Z軸方向)に走査して、分離溝12を形成する。この分離工程により、個別インク溝6にそれぞれ対応した第2の電極部9を形成する。このように、上記第2の電極部9は、上記圧電基板1の両端面に、設けられている。隣接する上記第2の電極部9は、分離溝12によって、電気的に分断されている。 個別インク溝6の内面に形成された第1の電極部7と第2の電極部9とは、個別インク溝6が開口する圧電基板1の端面において電気的に接続されている。
この実施形態では、分離溝12の深さを10μm、幅を50μmとして、個別インク溝6が開口する圧電基板1の端面にそれぞれ分離工程を行った。また、分離溝12を形成した部分は、個別インク溝6の間であり、隣接する個別インク溝6の間で電気的に導通することがない位置としている。このような分離工程を、個別インク溝6が開口する圧電基板1の端面の両側に行った。両側に分離工程を行うことにより、圧電基板1は対称形となるため、後工程において方向を間違うことはない。また、片側の第2の電極部9に損傷があった場合には、反対側の第2の電極部9を使用することができるため歩留まりを向上できる。
このようにして加工を施した圧電基板1の第2の電極部9に、外部から電圧が印加される導電部材を接続する。図10の斜視図に示すように、この実施の形態では、導電部材としてのフレキシブルケーブル4を用い、第2の電極部9との接続は、ACF(異方性導電フィルム;Anisotropic Conductive Film)接続を用いた。
フレキシブルケーブル4の他方の端部は、インクを吐出するために、直接または他部材を介して、外部電圧印加機構と接続される。本実施形態において、導電部材としてフレキシブルケーブルを使用するのは、フレキシブルケーブルは変形が容易であるため後工程においてプロセス上使用しやすく歩留まりの低下を抑制できるからであるが、必ずしもフレキシブルケーブルである必要はない。
そして、図11に示すように、ホルダ部3の第1部材3aに圧電基板1を接着する。第1部材3aと圧電基板1との接着面に上記接着剤を塗布して圧電基板1に押し当てた。
その後、図3に示すように、第1部材3aと第2部材3bとの接着面に、同様に、上記接着剤を塗布して、第1部材3aに第2部材3bを押し当てた。この状態を室温にて24時間保持して接着した。
つまり、取付工程を行い、上記ホルダ部3に上記圧電基板1を取り付けて、上記複数の個別インク溝6の一端に連通する上記第1共通インク溝11および上記複数の個別インク溝6の他端に連通する上記第2共通インク溝21を、上記ホルダ部3に形成する。
上記ホルダ部3は、上記第2の電極部9と上記フレキシブルケーブル4との接続部を、上記第1共通インク溝11および上記第2共通インク溝21に露出しないように覆っている。つまり、第2部材3bには、フレキシブルケーブル4と第2の電極部9との接続部分がインクに曝されないようにカバーが設けられている。
その後、図1に示すように、上記個別インク溝6、上記第1共通インク溝11および上記第2共通インク溝21を覆うようにノズルプレート2を接着して、インクジェットヘッドを完成する。
具体的に述べると、まず、圧電基板1の上面とホルダ部3の上面とに、粘度が400cP程度のエポキシ接着剤を塗布した。このとき、圧電基板1の段差部19には、接着剤を塗布しない。段差部19は、圧電基板1の最上面ではないため、通常の方法、例えばローラーなどを使用して接着剤を塗布すれば、段差部19に接着剤が塗布されることはない。本実施形態ではPETフィルム上に接着剤を1cc程度のせ、金属製のローラーで充分引き伸ばすことによりローラー表面に接着剤を付着させ、圧電基板1の上面とホルダ部3の上面とに、ローラーを転がすことで接着剤を塗布した。このとき、塗布した接着剤の厚さは、およそ5μmである。
そして、圧電基板1上面およびホルダ部3上面の上方に位置するCCDカメラで、段差部19の境界位置を複数点観察して基準位置とし、個別インク溝6の長さ方向における中心位置を算出した。この中心位置が、ノズル孔8が位置するべき位置である。ノズル孔8の位置が、圧電基板1の個別インク溝6の長手方向における中心位置となるように接着するのは、ノズル孔8が個別インク溝6の長手方向における中心に位置したときが、外部電圧印加機構により電圧を印加した際の圧力波の伝搬効率が最良で、低い吐出電圧でインクを吐出できるからである。
続いて、このCCDカメラを用いてノズルプレート2に形成されたノズル孔8を確認した。このCCDカメラは自動XYステージに積載されており、自由に位置を移動することができる構成となっている。段差部19とノズル孔8の位置をそれぞれ確認することにより、個別インク溝6の長さ方向における中心位置とノズル孔8のオフセット量を算出することができる。
このようにして求めたオフセット量をもとに、真空吸着によりノズルプレート2をXYZ方向に自由に運搬することができるアームを用いて、ノズルプレート2を、ノズル孔8の位置が個別インク溝6の中心位置となるように運搬して、圧電基板1とホルダ部3に押し当て、室温で24時間放置して接着した。
次に、上記構成のインクジェットヘッドの吐出試験について説明する。
ここで、上記構成(本実施形態)のインクジェットヘッドをインクジェットヘッドAとし、このインクジェットヘッドAを5個作製した。
一方、比較例として、インクジェットヘッドBを、5個作製した。このインクジェットヘッドBは、本実施形態のインクジェットヘッド製造方法のうち、段差部形成工程を行わない以外は、全く同じ構成と方法で作製した。このインクジェットヘッドBでは、段差部がない構成となっているため、圧電基板の大きさは個別インク溝の長さ方向が4.4mm、個別インク溝が並ぶ方向が50mm、厚みが2mmとした。ただし、ノズルプレートを接着する工程において、インクジェットヘッドBは段差部がないため、個別インク溝の長さ方向における端部を基準位置として、個別インク溝の中心位置を算出し、ノズル孔の位置とした。
5個のインクジェットヘッドAと5個のインクジェットヘッドBにインクを充填し、外部電圧印加装置からフレキシブルケーブル4を介して、第1の電極部7および第2の電極部9に、10V程度の電圧を印加し、インクが吐出することを確認した。
このとき用いたインクは、アルコールとグリコールを混合したインクを用い、粘度はおよそ10cPに調整したものを使用した。以下の各実施形態において使用したインクは、第1実施形態と同様のものであるため、以下記載を省略する。
また、飛翔するインクの吐出速度は、インクの吐出に同期させたストロボを一定周波数で発光させ、飛翔状態をCCDカメラで観察して算出する方法を用いた。インクジェットヘッドAおよびインクジェットヘッドBの各チャンネル間のインクの吐出速度の平均はおよそ8m/sであり、吐出速度ばらつきはいずれも±10%以内であった。ここで、チャンネルとは、個別インク溝6と連通しインクを吐出することができるノズル孔8を指している。
ただし、圧電基板1の個別インク溝6が並ぶ方向における両端のチャンネルから吐出されたインクに関しては、その吐出速度を測定していない。本構造において、個別インク溝6は、ピッチ約200μmで200本形成されているため、個別インク溝6の幅は、100μmであるため、個別インク溝6間の隔壁は、幅100μmである。また、個別インク溝6は、200本を形成してあるため、個別インク溝6を形成した領域は、個別インク溝6が並ぶ方向におよそ40mmである。つまり、個別インク溝6が形成されていない領域は、圧電基板1の個別インク溝6が並ぶ方向にそれぞれ約5mmずつ存在する。
よって、両端の個別インク溝6の圧電基板1の端部側の5mmの厚さの隔壁20と、他の個別インク溝6間の100μmの厚さの隔壁20とでは、5mmの厚さの隔壁20が非常に厚いため、この5mmの厚さの隔壁20に形成された第1の電極部7に電圧を印加してもほとんど変形しない。このため、両端のチャンネルから吐出されたインクの吐出速度は遅いため、測定するチャンネルからあらかじめ除外している。
続いて、吐出周波数100KHzにてインクの連続吐出試験を行い長期信頼性の確認を行った。吐出滴数が5×109滴を超えた時点で再度吐出速度を確認したところ、段差部19のないインクジェットヘッドBの5個のうち3個で、吐出速度がおよそ半分に低下するチャンネルが全体の10%程度発生した。インクの吐出速度の低下が発生しなかった2個のインクジェットヘッドBについても、吐出滴数5×1010滴まで吐出を行った後、吐出速度を測定したところ、インクの吐出速度が低下するチャンネルがおよそ10〜15%発生した。これらのインクの吐出速度が低下する吐出滴数の差についてはインクジェットヘッドBの個体差によるものである。
インクジェットヘッドAの5個は液滴数5×1010滴まで吐出を続けたのちに吐出速度を測定したが、全てのインクジェットヘッドAで吐出速度の低下するチャンネルは発生しなかった。
この吐出速度の低下の原因について以下に説明する。図12Aに、インクジェットヘッドBにおける個別インク溝106が開口した圧電基板101の側面を示す。インクジェットヘッドBでは、隔壁120が、上部圧電部101aと下部圧電部101bと接着部101cとから構成されている。上部圧電部101a上面とノズルプレート2とは、接着されている。上部圧電部101aと下部圧電部101bとは、分極方向が逆方向であり、図12Bに示すように、電圧を印加した際に、隔壁120は、上部圧電部101aと下部圧電部101bの間にある接着部101cを節として、逆方向に変形する。
このように、外部から電圧を印加することによって、圧力室(個別インク室106aのことであるが、ここではあえて圧力室と表現する)が変形して圧力波が発生する。この発生した圧力波は圧力室内を伝播していく。その際に、段差部のない隔壁120は、上下共に拘束されているため、接着部101c部分が最も変形量が大きくなる。これは、接着部101cが柔らかいことと、接着部101cが隔壁120の高さ方向における中央に位置している構造的な要因とによるものである。
そして、吐出回数の増加に従って隔壁120の変形を繰り返すことにより、個別インク溝106の内面を覆っている第1の電極部107が、接着部101cの部分で、断線して、上部圧電部101aと下部圧電部101bとが絶縁されてしまう。この絶縁により、圧力室の変形が、例えば下部圧電部1bのみとなって、圧力室の変形量が小さくなるため、吐出速度の低下や吐出量の減少など、吐出特性が劣化する。
一方、インクジェットヘッドAの個別インク溝6が開口した圧電基板1の側面を、図13Aに示す。段差部19を有するインクジェットヘッドAでは、段差部19部分は上部圧電部1aが小さく、上部圧電部1a上面とノズルプレート2とは、接着されていない。このように、段差部19の上側は拘束されていないため、圧力波の伝播により、図13Bに示すように、隔壁20の付け根部分が最も変形することになる。つまり、最も変形する部分は、隔壁20の付け根であり、この部分が断線したとしても、上部圧電部材1aと下部圧電部材1bとは導通したままである。よって、吐出特性には影響を及ぼさない。
段差部19で上部圧電部1aと下部圧電部1bとが電気的に接続されているため、段差部19を形成してない隔壁20の部分で断線しても、上部圧電部1aには電圧が印加されるため吐出速度が低下することはない。つまり、図14の模式図に示すように、隔壁20における段差部19のない領域Z2にて、上部圧電部1aと下部圧電部1bとが電気的に断線しても、隔壁20における段差部19のある領域Z1にて、上部圧電部1aと下部圧電部1bとが電気的に接続しているので、矢印に示すように、領域Z1を介して、上部圧電部1aに電流が流れる。
さらに、圧電基板1の両端面に第2の電極部9を形成している場合には、両側の段差部19において変形量が少ないため、より接着部1cにおける断線を抑制する効果があって、電気的な信頼性が向上する。
一部のチャンネルでインクの吐出速度が著しく低下することは、インクが吐出されてから、インクにより描画される媒体へ着弾するまでの時間に大きな差が生じることとなる。これは、例えば、インクジェットヘッドを走査しながらインクを吐出するような場合には、インクの着弾する位置が大きく異なることとなるため、着弾精度を著しく低下する。また、走査せずに静止させてインクを吐出する場合でも、吐出速度が遅いインクは、風などの外乱の影響を受けやすいため、インクの着弾精度を著しく低下させることがある。このように不具合がない、段差部19を有するインクジェットヘッドAは、長期信頼性に優れたインクジェットヘッドであることを確認した。
上記構成のインクジェットヘッドによれば、上記ホルダ部3は、上記複数の個別インク溝6の一端側において上記複数の個別インク溝6と連通する第1共通インク溝11を有すると共に上記複数の個別インク溝6の他端側において上記複数の個別インク溝6と連通する第2共通インク溝21を有するので、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の幅や深さを適宜調整することにより、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の流路抵抗を、上記個別インク溝6の流路抵抗に比べ、充分小さくできて、インクジェットヘッド内において上記個別インク溝6を経由したインク流れを、容易に促進できる。
また、上記圧電基板1の上記両端面のうちの少なくとも一方の端面には、上記第1の電極部7に電気的に接続する上記第2の電極部9が、上記各個別インク溝6に対応するように、設けられているので、上記圧電基板1における上記一方向の長さ(つまり、上記圧電基板1の上記両端面の間の長さ)を、上記個別インク溝6の上記一方向の長さのみの長さとすることができる。このように、上記圧電基板1を小型にできて、上記圧電基板1の高価な材料を抑えて、コストダウンを図ることができる。
また、上記隔壁20の上面には、この上面よりも低くかつ上記個別インク溝6の底面よりも高くに位置すると共に上記ノズルプレート2から離隔する段差部19が設けられているので、上記隔壁20における上記段差部19を形成した部分は、駆動電圧を印加しても、せん断変形が小さいため、上記個別インク溝6内面の上記第1の電極部7の断線を抑制することができる。
したがって、インクジェットヘッド内においてインクの循環が円滑に行なわれ、インクジェットヘッドチップの小型化を図ることができると共に、電気的に長期信頼性を得ることができる。
また、上記段差部19は、上記圧電基板1における上記第2の電極部9が設けられた端面に、設けられているので、上記第1の電極部7と上記第2の電極部9との接続部を、駆動電圧を印加した際の上記隔壁20のせん断変形が小さい領域に、位置できて、電気的に長期信頼性を向上できる。
また、上記段差部19は、上記圧電基板1の上記両端面のそれぞれに、設けられているので、上記第1の電極部7の断線を抑制する領域を、上記圧電基板1の両側に形成できて、電気的に長期信頼性を向上できる。
また、上記第2の電極部9は、上記圧電基板1の上記両端面のそれぞれに、設けられているので、上記第1の電極部7と上記第2の電極部9との接続部を、駆動電圧を印加した際の上記隔壁20のせん断変形が小さい領域に、位置できて、電気的に長期信頼性を向上できる。
また、上記隔壁20における上記段差部19の深さ方向に対応する全領域には、上記上部圧電部1aおよび上記下部圧電部1bが存在するので、上記隔壁20における上記段差部19の深さ方向に対応する全領域において、上記上部圧電部1aと上記下部圧電部1bとが電気的に接続されている。このため、電気的な信頼性を向上できる。
また、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法によれば、上記ホルダ部3に上記圧電基板1を取り付けて、上記複数の個別インク溝6の一端に連通する上記第1共通インク溝11および上記複数の個別インク溝6の他端に連通する上記第2共通インク溝21を、上記ホルダ部3に形成する取付工程を備えるので、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の幅や深さを適宜調整することにより、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の流路抵抗を、上記個別インク溝6の流路抵抗に比べ、充分小さくできて、インクジェットヘッド内において上記個別インク溝6を経由したインク流れを、容易に促進できる。
また、上記圧電基板1の上記少なくとも一方の端面に形成された導電膜を、上記各個別インク溝6に対応するように分離して、上記第1の電極部7に電気的に接続する上記第2の電極部9とする分離工程を備えるので、上記圧電基板1における上記一方向の長さ(つまり、上記圧電基板1の上記両端面の間の長さ)を、上記個別インク溝6の上記一方向の長さのみの長さとすることができる。このように、上記圧電基板1を小型にできて、上記圧電基板1の高価な材料を抑えて、コストダウンを図ることができる。
また、上記隔壁20の上面に、この上面よりも低くかつ上記個別インク溝6の底面よりも高い位置に、段差部19を形成する段差部19形成工程を備えるので、上記隔壁20における上記段差部19を形成した部分は、駆動電圧を印加しても、せん断変形が小さいため、上記個別インク溝6内面の上記第1の電極部7の断線を抑制することができる。
したがって、インクジェットヘッド内においてインクの循環が円滑に行なわれ、インクジェットヘッドチップの小型化を図ることができると共に、電気的に長期信頼性を得ることができる。
(第2実施形態)
図15Aおよび図15Bは、この発明のインクジェットヘッドの第2実施形態を示している。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第2実施形態では、段差部を形成する位置が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第2実施形態の圧電基板1Aでは、段差部19を、圧電基板1Aの端面に開口しない位置に、形成している。圧電基板1Aの端面から1mmはなれた箇所に、段差部19を形成している。個別インク溝6の長さ方向における段差部19の長さを300μmとし、圧電材料の積層方向における段差部19の深さを100μmとする。
このインクジェットヘッドにインクを充填し、インクの吐出速度のばらつきを測定したところ、吐出速度のばらつきは±10%以内であった。このとき、駆動電圧を調整し、吐出速度の平均がおよそ8m/sとなるようにした。続いて、長期信頼性を確認した。5×1010滴を吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生しなかった。
つまり、段差部19は、個別インク溝6の長さ方向における隔壁20の一部に形成されていれば、段差部19を形成した部分の個別インク溝6の変形が小さくなり、断線を抑制する効果があることを確認できた。
しかしながら、段差部19を、第2の電極部9を形成した側の圧電基板1Aの端面に形成することにより、第2の電極部9を形成した圧電基板1Aの端面も、駆動電圧の印加により変形が少なくなる領域となるため、第1の電極部7の断線の抑制に最も効果が高く適している。
また、この第2実施形態のように、個別インク溝6の長さ方向における隔壁20の一部に段差部19を形成した場合、段差部19の端部と圧電基板1Aの端面とに挟まれた領域は吐出に寄与しない不要な部分となるため、インクジェットヘッドの小型化には適していない。
このことから、段差部19は、圧電基板1Aの端面に形成することが最も好ましいことを確認した。
(第3実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第3実施形態を説明する。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第3実施形態では、段差部形成工程が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第3実施形態では、第1実施形態と同様に圧電基板の大きさは、個別インク溝の長さ方向が5mm、個別インク溝が並ぶ方向が50mm、厚さが2mmである。ノズルプレートを接着する工程において、塗布する接着剤の厚みは2μmとした。
この圧電基板に、個別インク溝の長さ方向における段差部の長さを30μm、50μm、150μm、500μmとした。個別インク溝は長さ方向が開口しているため、個別インク溝の長さは5mmである。段差部の長さが溝の長さに占める割合を段差部率とよぶこととし、この構成では段差部率は、0.6%、1%、3%、10%となる。段差部の深さは全て120μmとした。このように段差部の長さの異なるインクジェットヘッドをそれぞれ5個ずつ作製した。
はじめに、それぞれのインクジェットヘッドについて、第1実施形態と同様の方法を用いて初期のインクの吐出速度のばらつきを確認し、全てのインクジェットヘッドのインクの吐出速度のばらつきが±10%以内であることを確認した。
ただし、段差部の長さが異なるため、段差部を形成していない個別インク溝の長さも異なる。これは、個別インク溝の内壁の変形により圧力を発生させる領域の体積が異なることとなり、同じ電圧を加えたときのインクの吐出速度が異なることとなる。そのため、本実施形態では、印加する電圧をそれぞれのインクジェットヘッドによって変え、インクの吐出速度の平均がおおよそ同じ吐出速度となるように調整した。
続いて、第1実施形態と同様の方法を用いて長期信頼性を確認した。段差部の長さが30μm(段差部率0.6%)のインクジェットヘッドは5×109滴まで吐出した時点では、インクの吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは発生しなかった。しかしながら、5×1010滴まで吐出した後に確認したところ、インクの吐出速度が半分まで低下したチャンネルが、5個のインクジェットヘッドのうち3個のインクジェットヘッドで発生した。一方、段差部の長さが50μm(段差部率1%)以上のインクジェットヘッドでは、5×1010滴まで吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生しなかった。
次に、圧電基板の大きさを変え、同様にインクジェットヘッドを製作した。圧電基板の大きさは、個別インク溝の長さ方向が8mm、個別インク溝が並ぶ方向が50mm、厚さが2mmである。個別インク溝の形状やピッチ、本数は変えていない。つまり本圧電基板では個別インク溝の長さが8mmである。
この圧電基板に対して、段差部を、40μm、80μm、120μmとしたインクジェットヘッドをそれぞれ作製した。全てのインクジェットヘッドのインクの吐出速度のばらつきが±10%以内であることを確認した後、長期信頼性を確認した。この際も印加する電圧をそれぞれ調整している。
段差部の長さが40μm(段差部率0.5%)のインクジェットヘッドは、5×109滴まで吐出した時点では、インクの吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは発生しなかった。しかしながら、5×1010滴まで吐出した後に確認したところ、インクの吐出速度が半分まで低下したチャンネルが、5個のインクジェットヘッドのうち4個のインクジェットヘッドで発生した。一方、段差部の長さが80μm(段差部率1%)以上のインクジェットヘッドでは、5×1010滴まで吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生しなかった。
段差部を形成した領域は、個別インク溝の内面の変形が小さい領域である。段差部の個別インク溝の長さ方向における長さが長いほど、個別インク溝の内面の変形が小さい領域が大きいため、接着部における第1の電極部の断線を抑制することができる。
本実施形態から、個別インク溝の長さに対して段差部の長さが1%未満の場合でも、効果があるが、個々のインクジェットヘッドの個体差の影響を無視できるほど充分ではなく、1%以上あることが好ましいことを確認できた。
また、段差部を形成していない領域の個別インク溝の長さを変えてしまうとインクジェットヘッドの吐出特性が変わってしまう。つまり、ある任意の吐出特性を有するインクジェットヘッドを作製する場合には、段差部を形成してない領域の個別インク溝の長さを変えることができないため、個別インク溝の長さ方向における、段差部の長さが長くなるほど、個別インク溝は長くなる。つまり圧電基板の大きさが大きくなり、圧電基板の大型化はコストの増大とインクジェットヘッドの大型化を招く。
このことから最適な段差部の長さは、個別インク溝の長さの1%以上で、かつ、インクジェットヘッドの構造にあわせて最適化することが好ましい。
要するに、一つの隔壁に設けられた全ての段差部の一方向(隔壁の長さ方向)における長さは、この一つの隔壁の長さ方向における長さの1%以上である。したがって、隔壁の変形による、個別インク溝内面の第1の電極部の断線を十分に抑制できる。
(第4実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第4実施形態を説明する。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第4実施形態では、段差部形成工程が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第4実施形態では、段差部の深さを10μm、20μm、50μmとした。これらの段差部は、圧電基板の両端面に形成した。段差部の個別インク溝の長さ方向における長さは、いずれも第1実施形態と同様に、300μmであり、両側に段差部を形成しているため、段差部率は、6%+6%=12%である。このようにして、段差部の深さを変えたインクジェットヘッドを、それぞれ5個ずつ作製した。
10μmの深さの段差部を形成したインクジェットヘッドでは、5×109滴のインクを吐出した後に、インクの吐出速度が半分まで低下するチャンネルが5個のうち3個で発生し、吐出速度が半分程度まで低下したチャンネルの数は、全体のおよそ15%であった。段差部の深さを10μmとしたインクジェットヘッドでは、段差部が接着剤で埋まり、ノズルプレートと接着されていたことにより段差部として機能しなかった。この段差部への接着剤の入り込みは、ノズルプレートを接着するに際の余剰の接着剤が、段差部に押し出され、押し出された余剰の接着剤が、毛細管力により広がったことが挙げられる。このとき、塗布した接着剤の厚さは、第1実施形態と同様でおよそ5μmであった。
このような2種類の段差部への接着剤の入り込みは、接着剤の量を最小限に減らすことにより抑制することも可能であった。例えば、ノズルプレートを接着する際の接着剤は、以下のように減らすことができる。
まず、ローラーに接着剤を転写するために、PETフィルムに乗せる接着剤の量を少なくし、PETフィルム上で、ローラーで接着剤を引き伸ばす回数と面積を増やすことにより、ローラーに転写される接着剤量を減らすことができる。
このようにして、塗布した接着剤の厚みを2〜5μmとして、ノズルプレートを接着し、段差部への接着剤埋まり方を確認した。接着剤の厚みを3μm以上としたときには、段差部は完全に接着剤で埋まって、圧電基板とノズルプレートは接着された。
しかしながら、接着剤の厚みがおよそ2μmのときに、段差部のおよそ7割まで接着剤で埋まり、3割は埋まらなかった。このように、接着剤量を制御して、10μmの深さの段差部の3割の長さが接着剤で埋まっていないインクジェットヘッドを製作し、吐出特性を確認したところ、初期の吐出速度のばらつきは±10%程度であり、5×1010滴吐出後にも、吐出速度が半分程度まで低下したチャンネルは発生しなかった。
つまり、段差部は接着剤などで埋まらない限り、深さ10μmでも充分効果があることを確認できた。このとき、接着剤によって埋まっていない、段差部として機能した部分の長さは、片側の段差部でおよそ90μmであり、段差部率は両側あわせて3.6%となる。
段差部を有するインクジェットヘッドを大量に生産する場合には、それぞれの部材の寸法精度や、圧電基板とホルダ部との間のギャップの制御など、製造工程において発生する個々のばらつきに対して、接着剤の塗布量だけで制御することは困難である。
また、塗布する接着剤の量を極力まで減らしたにもかかわらず、接着剤が段差部に入り込むことにより、段差部率が大きく下がるため好ましくない。この接着剤の入り込みによる段差部率の低下を避けるために、段差部の長さをあらかじめ長くすることは、インクジェットヘッドの大型化となるため好ましくない。
これに対し、段差部の深さを20μm以上としたインクジェットヘッドでは、ノズルプレートの接着のために塗布する接着剤の厚みを、2〜5μmとしても、段差部はほとんど埋まることはなかった。これは、段差部の深さが、塗布する接着剤の厚さに対して充分大きく、余剰の接着剤が、段差部へ入り込んでも、毛細管力によって広がることはほとんどなかった。つまり、段差部の深さを20μm以上とすることにより、接着剤の塗布量のばらつきに対して充分余裕があり、かつ、段差部の長さを必要以上に大きくする必要がないことを確認した。
段差部の深さを20μmおよび50μmとしたインクジェットヘッドについても、初期吐出特性と長期信頼性を確認し、5×1010滴吐出後も、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは、5個全てのインクジェットヘッドで発生しなかった。
本実施形態から、段差部への接着剤の埋まりが発生しない、段差部を形成するためには、段差部の深さの最も深い部分は、少なくとも20μm以上であることが好ましいことを確認した。
要するに、段差部における上面からの深さは、20μm以上である。したがって、段差部が他工程における接着剤などで完全に埋まって、段差部としての機能を低下させることを避けることができる。
(第5実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第5実施形態を説明する。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第5実施形態では、段差部の深さが相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第5実施形態では、段差部の深さを100μm、130μm、200μmとした。これらの段差部は、圧電基板の両端面に形成した。段差部の個別インク溝の長さ方向における長さは、いずれも、第1実施形態と同様に300μmであり、両側にあるため段差部率は、6%+6%で12%である。このようにして、段差部の深さを変えたインクジェットヘッドをそれぞれ5個ずつ作製した。
段差部の深さを100μm、130μmとしたインクジェットヘッドでは、段差部への接着剤の入り込みはほとんどなかった。このインクジェットヘッドについても、初期吐出特性と長期信頼性を確認した。初期における吐出速度のばらつきはすべて±10%以内であった。また、5×1010滴吐出後も、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは、段差部の深さを100μm、130μmとした全てのインクジェットヘッドで発生しなかった。
段差部の深さを200μmとしたインクジェットヘッドでも、接着剤の段差部への入り込みはほとんど確認されなかった。初期の吐出速度のばらつきも±10%であり問題なかったが、5×1010滴吐出後には、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルが約10%程度発生した。これは、段差部の深さが200μmと深いため、隔壁における段差部を形成した部分には、下部圧電部しかない。また、段差部を第2の電極部を形成した側の圧電基板の端部に形成しているため、第2の電極部を形成した圧電基板の端面においても上部圧電部と下部圧電部は電気的に接続されていない。つまり、圧電基板において、上部圧電部と下部圧電部とは、段差部を形成していない第1の電極部でのみ電気的に接続されている。この構造は、段差部を形成しない構造と同じか、もしくは、第2の電極部を形成した圧電基板の端面においても、上部圧電部と下部圧電部とが電気的に接続されていないため、段差部を形成しない構造よりも、上部圧電部と下部圧電部との電気的な接続箇所が減っている。この構造では、電圧を印加して個別インク溝の内面を変形させた際に、接着部において第1の電極部が断線したチャンネルは、インクの吐出速度が半分程度まで低下した。
つまり、段差部を形成する場合には、段差部を形成した部分の個別インク溝の内壁において、少なくとも一部が上部圧電部と下部圧電部が電気的に接続されている必要がある。特に、段差部を形成した部分の全領域において上部圧電部と下部圧電部が電気的に接続されていることが好ましい。
このように、上部圧電部と下部圧電部とが電気的に接続されるためには、段差部を形成した部分の個別インク溝の内壁が、分極方向が異なる圧電材料の接着界面を含む必要がある。また、段差部を形成した部分の個別インク溝の一部のみが分極方向が異なる圧電材料の接着界面を含むには、接着界面を含む領域の長さが、少なくとも個別インク溝の全長の1%以上なければ効果がないことを確認している。
つまり、本実施形態より、段差部を形成した部分の個別インク溝の内壁の少なくとも一部が、分極方向が異なる圧電材料の接着界面を含む必要があり、また、段差部を形成した部分の個別インク溝の内壁の全てが、分極方向が異なる圧電材料の接着界面を含むことが好ましいことを確認した。
要するに、隔壁における段差部の深さ方向に対応する全領域には、上部圧電部および下部圧電部が存在する。したがって、隔壁における段差部の深さ方向に対応する全領域において、上部圧電部と下部圧電部とが電気的に接続されている。このため、電気的な信頼性を向上できる。
(第6実施形態)
図16Aおよび図16Bは、この発明のインクジェットヘッドの第6実施形態を示している。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第6実施形態では、圧電基板の四隅に段差部がない点が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第6実施形態の圧電基板1Bでは、第1実施形態と同様に、段差部19を形成した後、隣接する個別インク溝6の間にある隔壁20以外の部分に形成された段差部19を、封止部材22で接着剤を介して封止している。なお、わかりやすくするため、この封止部材22をハッチングにて示している。
この圧電基板1Bを使用して作製したインクジェットヘッドを、インクジェットヘッドCとする。また、比較例として、封止部材22で封止を行わず、第1実施形態と同じ製造方法で作製したインクジェットヘッドAを用意した。
いずれのインクジェットヘッドでも、初期および5×1010滴のインク吐出後も共に、インクの吐出速度が初期の半分程度まで低下するチャンネルは発生しなかった。つまり、個別インク溝6が並ぶ方向における圧電基板1の両端には段差部19は必要なく、隣接する個別インク溝6の間の隔壁20にのみ形成されていれば、接着部1cで発生する第1の電極部7の断線を抑制することができることを確認した。
しかし、封止部材22で封止を行わずに作製したインクジェットヘッドAに、はじめにインクを充填した際に、最端の段差部19に気泡が残存することがあった。ここで、最端の段差部19とは、図16Bにおいて、封止部材22で封止した部分をいう。
この最端の段差部19は、段差部19とノズルプレート2とホルダ部3とで囲まれた袋小路構造となっている。このような袋小路構造では、インクの動きが少ないため、この袋小路構造部分にひとたび気泡が残存すると、除去することが困難である。
インクジェットヘッド内部に残存した気泡は、電圧を印加することにより発生した圧力をロスするため、インクの吐出量の減少やインクの不吐出の原因となるため好ましくない。
よって、インクジェットヘッドAにインクを初期充填する際には、この袋小路構造部分に気泡が残存しないように、注意深くインクを充填する必要性があった。また、微粒子が分散したインクを用いた場合には、このようなインクの動きの少ない袋小路部分に、粒子が沈降する虞もあるため袋小路構造は好ましくない。
一方、封止部材22を用いて封止したインクジェットヘッドCでは、このような気泡の残存が見られなかった。これは、封止部材22により、あらかじめ袋小路構造となる部分を封止していることによる。このように、個別インク溝6を形成した部分にのみ段差部19を形成することにより、接着部1cにおける第1の電極部7の断線を抑制し、かつ、初期にインクを充填する際の気泡の残存を抑制することができることがわかった。
要するに、この第6実施形態の圧電基板1Bでは、段差部19は、隣り合う個別インク溝6の間に位置する隔壁20にのみ、設けられている。したがって、複数の隔壁20の配列方向の最端にある隔壁20には、段差部19がない。このため、混入した気泡は、最端の隔壁20に、残存しない。
なお、本実施の形態では、段差部形成工程をダイシングマシンによって行った後、封止部材22で一部を封止したが、この加工方法に限らない。つまり、あらかじめ個別インク溝6の間の隔壁20にのみ、段差部19を形成することができる加工方法を用いればよい。
(第7実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第7実施形態を説明する。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第7実施形態では、圧電基板の加工工程が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第7実施形態では、第1実施形態と同様に、ダイシングマシンにより大きな圧電基板から10.5mm×50mmの大きさの圧電基板を切り出した。これは、およそ第1実施形態で使用した圧電基板のほぼ2個分の大きさである。圧電基板の厚さも第1実施形態と同様で2mmであり、上部圧電部、下部圧電部および接着部は、第1実施形態と同様の厚さを有している。
続いて、第1実施形態と同様に導電膜形成工程を行った。本実施形態における導電膜も銅であり、接着部1c部分における銅の膜厚は0.3μmとした。さらに,第1実施形態と同様に除去工程を行った後、個別インク溝の長さ方向における中央部分で、それぞれが5mm×50mmとなるように2分割した。この工程を分断工程と呼ぶ。
分断工程はダイシングマシンを用いた。はじめに5mm×50mmの2個分である10mm×50mmよりもわずかに大きいサイズとしたのは、ダイシングマシンによる分断する際のブレードの厚み分を含んでいるためである。分割された圧電基板のひとつひとつがインクジェットヘッドで使用する圧電基板となる。
このように、あらかじめ大きな基板に個別インク溝形成工程と導電膜形成工程を行った後、分断工程を追加することにより、圧電基板の一方の端面にだけ導電膜が形成された圧電基板を2個用意することができる。このように、除去工程後に大きな圧電基板をいくつかに分断することによって、効率よくインクジェットヘッド用の圧電基板の加工において、タクトタイムを短縮することができる。
この後、第1実施形態と同様の工程を行い、インクジェットヘッドを作製した。ただし、分断工程を行った圧電基板では、個別インク溝が開口する端面のうち片側にしか導電膜が形成されていない。よって、分離工程は導電膜が形成された圧電基板の側面にのみに対して行った。また、段差部形成工程では、圧電基板の両端面に段差部を形成したものと、第2の電極部を形成した一方の端面にのみ段差部を形成したものとを、2種類作製した。
一方の端面にのみ段差部を形成したインクジェットヘッドの段差部率は6%であり、圧電基板の両端面に段差部を形成したインクジェットヘッドの段差部率は12%である。
段差部が一方の端面にのみ形成されているインクジェットヘッドと、段差部が両端面に形成されているインクジェットヘッドとでは、初期状態におけるインク吐出速度ばらつきは、±10%以内であり違いはなかった。また、5×1010滴を吐出した後に吐出速度を再度測定しても、いずれのインクジェットヘッドも吐出速度が半分程度まで低下したチャンネルは発生せず差はなかった。
よって、分断工程を追加することにより、インクジェットヘッドを製造するタクトタイムを短縮することができることを確認した。
要するに、段差部および第2の電極部は、圧電基板の一方の端面に、設けられている。したがって、例えば、大きな圧電基板をいくつかに分断することによって、圧電基板を効率よく製造できて、タクトタイムを短縮することができる。
(第8実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第8実施形態を説明する。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第8実施形態では、導電膜形成工程で成膜した導電膜の厚さが相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第8実施形態では、導電膜形成工程に、第1実施形態と同様に、スパッタ法を用いて銅を成膜し、成膜した銅の個別インク溝の内面における膜厚を、接着部を覆っている部分で1μm、3μm、5μmの3種類とした。成膜した銅の膜厚は、スパッタによる成膜時間を変えることで任意の膜厚とすることができる。
まず、段差部を有し、これら導電膜の異なる5種類のインクジェットヘッドをそれぞれ1個ずつ作製した。これらのインクジェットヘッドを、導電膜が薄い順にインクジェットヘッドA’−1からインクジェットヘッドA’−3と呼ぶ。また、比較例として、段差部がない以外はインクジェットヘッドA’と同じで、導電膜の厚さが1μm、3μm、5μmの3種類のインクジェットヘッドをインクジェットヘッドB’−1から インクジェットヘッドB’−3と呼ぶこととする。
それぞれのインクジェットヘッドに電圧を印加して初期の飛翔するインクの状態を観察し、全てのインクジェットヘッドで、初期段階における飛翔するインクの吐出速度のばらつきが±10%以内であることを確認した。
続いて、長期信頼性を確認するため、それぞれのインクジェットヘッドを100KHzで5×1010滴吐出させ、飛翔するインクの吐出速度の変化を確認した。段差部を有するインクジェットヘッドA’−1からインクジェットヘッドA’−3では、吐出速度がおよそ半分まで低下したチャンネルはなく、段差部の効果を確認することができた。しかしながら、インクジェットヘッドA’−3では、インク吐出速度のばらつきがやや大きくなり、±15%程度であった。
一方、インクジェットヘッドB’−1とインクジェットヘッドB’−2では、インクの吐出速度が半分程度に低下したチャンネルが全体のおよそ10%発生した。最も厚い導電膜を有するインクジェットヘッドB’−3では、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは発生しなかったが、インクジェットヘッドA’−3と同様に吐出速度のばらつきは、±16%程度と低下した。
インクジェットヘッドB’−3は、接着部における第1の電極部の厚みが5μmと厚いことにより、変形による応力によって、第1の電極部が断線することはなく、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルは発生しなかった。
しかしながら、インクジェットヘッドA’−3とインクジェットヘッドB’−3は、第1の電極部が厚いため剛性が高くなり、個別インク溝の内壁が変形しにくい。このため、個別インク溝の内壁を変形させるためには高い電圧を印加する必要がある。高い吐出電圧を印加する場合、連続吐出による発熱の影響が増大し、インクジェットヘッドの温度上昇が大きくなる。これは、インクジェットヘッドに使用している圧電基板の圧電特性の劣化やインク室内のインクが温度上昇して、粘度や表面張力に変化を生じるなどして、インク吐出速度や吐出体積のばらつきを大きくなるため好ましくない。
つまり、長時間の連続吐出には吐出電圧を抑えることが必要であり、かつ、接着部における断線の発生を抑制して長期信頼性を有するインクジェットヘッド構造には、段差部を有するインクジェットヘッド構造が適していることを確認した。
(第9実施形態)
図17Aおよび図17Bは、この発明のインクジェットヘッドの第9実施形態を示している。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第9実施形態では、段差部の形状が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第9実施形態の圧電基板1Cでは、段差部19Aは、この深さが圧電基板1Cの端面に向かって次第に増大するように、形成されている。つまり、この段差部19Aは、テーパ面に形成されている。なお、この段差部を、凹曲面状に形成するようにしてもよい。
したがって、段差部19Aの深さは、圧電基板1Cの端面に向かって、次第に増大しているので、供給されるインクに気泡が混入していた場合に、インクの流れによって、段差部19Aで気泡を押しつぶして個別インク溝6に流すことができて、段差部19Aに気泡が残留することがない。この、気泡の残留は、不吐出や、個別インク溝6により発生した圧力波を減衰させるため、吐出特性の低下を招くが、気泡の排出性を高めることで、吐出特性を向上できる。なお、この原理については、後述の第10実施形態にて説明する。
(第10実施形態)
図18および図19は、この発明のインクジェットヘッドの第10実施形態を示している。上記第1実施形態と相違する点を説明すると、この第10実施形態では、圧電基板およびホルダ部の構成が相違する。なお、その他の構造は、上記第1実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
図18および図19に示すように、ホルダ部3Aは、第1共通インク溝11の底面に、第1配管5aの開口端である第1流路口13aが設けられ、第2共通インク溝21の底面に、第2配管5bの開口端である第2流路口13bが設けられている。
圧電基板1Dに設けられた段差部19Bの深さは、圧電基板1Dの端面に向かって、連続的に増大している。つまり、この段差部19Bは、テーパ面に形成されている。
言い換えると、上記段差部19Bの底面と、ノズルプレート2における隔壁20側の一面との成す角度は、鋭角である。隔壁20における段差部19Bの形成により切り欠かれた空間と、隔壁20が延在する一方向(X方向)に対して直交する仮想平面とが、交差する面積は、圧電基板1Dの端面に向かって、連続的に増大している。
圧電基板1Dの両端面に、段差部19Bが、設けられている。段差部19Bの底面に、第2の電極部9が、設けられている。
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
まず、上記第1実施形態(図5A〜図5C)と同じように、個別インク溝形成工程を行い、圧電基板1Dに、一方向(X方向)に延在し互いに間隔を空けて平行に配列された複数の隔壁20を形成して、この隣り合う隔壁20の間に両端が開口する個別インク溝6を形成する。
続いて、図20Aの平面図および図20Bの側面図に示すように、段差部形成工程を行い、隔壁20の上面に、この上面よりも低くかつ個別インク溝6の底面よりも高い位置に、段差部19Bを形成すると共に、この段差部19Bの深さを、圧電基板1Dの端面に向かって、増大させている。
上記段差部形成工程では、ダイシングマシンを使用して、ダイシングブレードを、隔壁20が延在する上記一方向に対して直交する方向(Y方向)に、走行することにより、段差部19Bを形成する。
図21Aに示すように、このダイシングブレード25Aは、ブレードの厚み方向にブレード径が異なっている。このダイシングブレード25Aの断面形状は、V型形状である。このダイシングブレード25AのV型の傾斜部分により、圧電基板1Dの端部を切削することで、段差部19Bの底面20aを斜面とすることができる。
ダイシングブレード25Aとしては、ブレード幅が1mmで、先端角度θが30度のものを使用した。このダイシングブレード25Aの端部から0.13mmまでの領域を使用することにより、角度30度の傾斜した段差部19Bを形成することができる。このとき形成された段差部19Bにおける圧電基板1Dの端面側の深さは、75μmとなる。
なお、図21Aのダイシングブレード25Aの代わりに、図21B〜図21Eに示すダイシングブレード25B〜25Eを使用することで、同様の段差部19Bを形成することができる。
その後、図22Aの平面図および図22Bの側面図に示すように、導電膜形成工程を行い、上記圧電基板1Dの上記個別インク溝6の内面に上記第1の電極部7としての導電膜を形成すると共に、上記圧電基板1における上記個別インク溝6の両端が開口する両端面と、段差部19Bの底面20aとに、導電膜を形成する。
この実施の形態では、銅をスパッタ法により成膜した。なお、図中、導電膜を、斜線にて、示している。この実施形態におけるスパッタ法による導電膜形成工程では、圧電基板1Dの個別インク溝6を形成した面の裏側の面を除く全面に導電膜が形成されるため、目的以外の部分にも導電膜が形成される。
このとき、接着部1cを覆っている部分の膜厚は、0.3μmであり、圧電基板1Dの両端面を覆っている部分の膜厚は、1μmである。個別インク溝6の内面に成膜された銅の膜厚と、個別インク溝6が開口する圧電基板1Dの端面に成膜された銅の膜厚とが、異なるのは、形状による銅のつきまわりの違いによるものである。
そして、図23Aの平面図、図23Bの側面図および図23Cの要部拡大斜視図に示すように、除去工程を行い、圧電基板1Dの個別インク溝6を形成した面における不要な導電膜を除去する。この除去工程では、例えば、圧電基板1Dの上部表面をダイシングブレードで複数回走査することで行うことができる。このとき、圧電基板1Dの個別インク溝6形成面において隣接する個別インク溝6同士が確実に絶縁するように、ダイシングブレードにより圧電基板1Dの表面もわずか(数μm)に研削する。わずかな量のみ研削するのは、接着部1cが個別インク溝6の深さのおよそ中心に位置させたままとするためである。除去工程後の圧電基板1Dには、個別インク溝6の内面に第1の電極部7と、圧電基板1Dの端面に導電膜とが、形成される。
その後、図24Aの平面図、図24Bの側面図および図24Cの要部拡大斜視図に示すように、分離工程を行い、上記圧電基板1Dの上記両端面に形成された導電膜と上記段差部19Bの底面20aに形成された導電膜とを、上記各個別インク溝6に対応するように分離して、第2の電極部9とする。つまり、圧電基板1Dの両端面と段差部19Bの底面20aに形成されている導電膜に対して、レーザーを照射して、分離溝12を形成する。本実施形態では、CO2レーザーを使用した。この分離工程により、個別インク溝6にそれぞれ対応した第2の電極部9を形成する。このように、上記第2の電極部9は、上記圧電基板1Dの両端面と両段差部19Bとに、設けられている。隣接する上記第2の電極部9は、分離溝12によって、電気的に分断されている。個別インク溝6の内面に形成された第1の電極部7と第2の電極部9とは、個別インク溝6が開口する圧電基板1Dの端面および段差部19Bにおいて電気的に接続されている。
この実施形態では、分離溝12の深さはおよそ0.5μm、幅を50μmとした。また、分離溝12を形成した部分は、個別インク溝6の間であり、隣接する個別インク溝6の間で電気的に導通することがない位置としている。圧電基板1Dの両端に分離工程を行うことにより、圧電基板1Dは対称形となるため、後工程において方向を間違うことはない。また、片側の第2の電極部9に損傷があった場合には、反対側の第2の電極部9を使用することができるため歩留まりを向上できる。
このようにして加工を施した圧電基板1Dの第2の電極部9に、図19に示すように、フレキシブルケーブル4を接続する。その後、取付工程を行い、図18に示すように、ホルダ部3Aに圧電基板1Dを取り付けて、複数の個別インク溝6の一端に連通する第1共通インク溝11および複数の個別インク溝6の他端に連通する第2共通インク溝21を、ホルダ部3Aに形成する。
ホルダ部3Aは、第2の電極部9とフレキシブルケーブル4との接続部を、第1共通インク溝11および第2共通インク溝21に露出しないように覆っている。つまり、第2部材3bには、フレキシブルケーブル4と第2の電極部9との接続部分がインクに曝されないようにカバーが設けられている。
その後、図1に示すように、個別インク溝6、第1共通インク溝11および第2共通インク溝21を覆うようにノズルプレート2を接着して、インクジェットヘッドを完成する。
次に、インクジェットヘッドの吐出試験を行った。吐出試験は、上記第1実施形態と同じである。
このインクジェットヘッドにインクを充填し、インクの吐出速度のばらつきを測定したところ、吐出速度のばらつきは±10%以内であった。このとき、駆動電圧を調整し、吐出速度の平均がおよそ8m/sとなるようにした。続いて、長期信頼性を確認した。5×1010滴を吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生しなかった。つまり、段差部19Bは斜面形状でもよく、個別インク溝6の長さ方向における隔壁20の一部に形成されていれば、個別インク室に電圧を印加したことにより発生した圧力波が伝播する際に、段差部19Bを形成した部分の個別インク溝6の、接着部1c部分における変形が小さくなり、接着部1c部分において発生する断線を抑制する効果があることを確認できた。
続いて、気泡排出性の試験を行った。
まず、比較例として、図25に示すように、上記第1実施形態のインクジェットヘッドによる試験を行った。このインクジェットヘッドにインクを充填したのち、このインクジェットヘッドへインクを供給している第1配管5aに、注射器を用いて3cc程度の気泡23を混入させた。このとき、第1配管5aにつながっていてインクを供給しているインクタンク内のインクに圧を加えて、第1配管5a内および第1配管5aを介してインクが供給されるインクジェットヘッド内にインクが常に流れている状態とした。このときインクの流体速度は、5cc/分程度となるように圧力を調整した。
このインクの流れにより気泡23は、第1配管5a内を流れ、第1共通インク室11aに流れこんだ。第1共通インク室11aに流れ込んだ気泡23の一部は、個別インク室6aを通って第2共通インク室21aに流れたが、第1共通インク室11a側の段差部19と個別インク室6aの境界(つまり、段差部19の底面とノズルプレート2との間)で留まるものがあった。このようにして残留した気泡23は、個別インク室6aの隔壁20の変形により発生した圧力波を減衰させるため吐出特性を低下させる。例えば、不吐出となったり、吐出速度を低下させたりする。インクの流体速度を10〜30cc/分まで高めてもこの気泡23を除去することができなかった。そこで、供給するインクに5気圧程度の圧力を加えることによって、残留する気泡23の大半を除去することが可能であった。しかしながら、完全に気泡23を除去するためにはこの作業を5〜10回繰り返す必要があった。このようなメンテナンス作業は、インクジェットヘッドを搭載した装置の稼働率を低下させるため好ましくない。
次に、図26に示すように、この第10実施形態のインクジェットヘッドによる試験を行った。段差部19Bを有するインクジェットヘッドでは、気泡23はインクの流れにより、第1配管5a内を流れ、第1共通インク室11aに流れこんだ後、段差部19Bで細かく押しつぶされ、段差部19Bで残留することなく個別インク室6a内を流れて第2共通インク室21aに達し、第2流路口13bを介して第2配管5bからインクジェットヘッドの外部に排出された。
気泡23の排出性が向上した理由は、段差部19Bの形状が、インクジェットヘッド内部に向かってZ方向の断面積が小さくなっていくことによる効果である。このような構成により、段差部19BのZ方向の断面積は、インクジェットヘッドの内部方向に向かって小さくなっていき、インクの流れに沿って、気泡23は、段差部19Bの底面とノズルプレート2とによって押しつぶされて、細かい気泡23となって、個別インク室6を通って排出側の第2共通インク室21aに排出することができる。
ここで、図24Aに示すように、圧電基板1DにおけるY方向における両端部においては、気泡の残留が見られた。これは、Y方向における圧電基板1Dの両端部では、個別インク溝6がないためである。
そこで、図27に示すように、V型形状ダイシングブレード25Aを用いて、ダイシングマシンによりチョッパー加工を行って、個別インク溝6の近傍にのみ段差部19Cを形成するようにしてもよい。ここで、チョッパー加工とは、ダイシングブレードをZ方向に位置を変えながら操作することにより、基板の任意の領域のみを切削する加工をいう。
このようにして形成した圧電基板1Eの平面図を図28Aに示し、側面図を図28Bに示す。この圧電基板1Eを用いて、インクジェットヘッドを作製し、同様に気泡の排出性を試験した結果、気泡は全て個別インク溝6を通って第2共通インク室21aに流れ、第2流路口13bを介してインクジェットヘッドの外部へ排出されることを確認した。
上記構成のインクジェットヘッドによれば、段差部19B,19Cの深さは、圧電基板1D,1Eの端面に向かって、増大しており、段差部19B,19Cの底面20aと、ノズルプレート2における隔壁20側の一面との成す角度は、鋭角であり、または、隔壁20における段差部19B,19Cの形成により切り欠かれた空間と、隔壁20が延在する一方向に対して直交する仮想平面とが、交差する面積は、圧電基板1D,1Eの端面に向かって、増大しているので、供給されるインクに気泡が混入していた場合に、インクの流れによって、段差部19B,19Cで気泡を押しつぶして個別インク室6aに流すことができて、段差部19B,19Cに気泡が残留することがない。この、気泡の残留は、不吐出や、個別インク室6aにより発生した圧力波を減衰させるため、吐出特性の低下を招くが、気泡の排出性を高めることで、吐出特性を向上できる。
また、段差部19B,19Cの底面20aに、第2の電極部9が、設けられているので、電気的な接続信頼性を向上させることができる。
また、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法によれば、上記ホルダ部3Aに上記圧電基板1D,1Eを取り付けて、上記複数の個別インク溝6の一端に連通する上記第1共通インク溝11および上記複数の個別インク溝6の他端に連通する上記第2共通インク溝21を、上記ホルダ部3Aに形成するので、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の幅や深さを適宜調整することにより、上記第1共通インク溝11や上記第2共通インク溝21の流路抵抗を、上記個別インク溝6の流路抵抗に比べ、充分小さくできて、インクジェットヘッド内において上記個別インク溝6を経由したインク流れを、容易に促進できる。
また、上記圧電基板1D,1Eの上記少なくとも一方の端面に形成された導電膜を、上記各個別インク溝6に対応するように分離して、上記第1の電極部7に電気的に接続する上記第2の電極部9とするので、上記圧電基板1における上記一方向の長さ(つまり、上記圧電基板1の上記両端面の間の長さ)を、上記個別インク溝6の上記一方向の長さのみの長さとすることができる。このように、上記圧電基板1D,1Eを小型にできて、上記圧電基板1D,1Eの高価な材料を抑えて、コストダウンを図ることができる。
また、上記隔壁20の上面に、この上面よりも低くかつ上記個別インク溝6の底面よりも高い位置に、段差部19B,19Cを形成するので、上記隔壁20における上記段差部19B,19Cを形成した部分は、駆動電圧を印加しても、せん断変形が小さいため、上記個別インク溝6内面の上記第1の電極部7の断線を抑制することができる。
また、上記段差部19B,19Cの深さは、上記圧電基板1D,1Eの端面に向かって、増大しているので、供給されるインクに気泡が混入していた場合に、インクの流れによって、段差部19B,19Cで気泡を押しつぶして個別インク室6aに流すことができて、段差部19B,19Cに気泡が残留することがない。この、気泡の残留は、不吐出や、個別インク室6aにより発生した圧力波を減衰させるため、吐出特性の低下を招くが、気泡の排出性を高めることで、吐出特性を向上できる。
また、上記段差部19B,19Cの底面20aに、上記第2の電極部9が、設けられているので、電気的な接続信頼性を向上させることができる。
したがって、インクジェットヘッド内においてインクの循環が円滑に行なわれ、インクジェットヘッドチップの小型化を図ることができると共に、電気的に長期信頼性を得ることができる。
また、上記段差部形成工程では、ダイシングブレード25Aを、上記隔壁20が延在する上記一方向に対して直交する方向に、走行することにより、上記段差部19B,19Cを形成するので、1枚の圧電基板1D,1Eから複数の上記段差部19B,19Cを形成する際に、無駄になる部分がなく、取れ数を多くすることによりコスト低減の効果がある。
また、上記分離工程では、上記段差部19B,19Cの底面20aに形成された導電膜に対して、レーザーを照射することにより、上記段差部19B,19Cの底面20aに、上記第2の電極部9を形成するので、レーザー照射により段差部19B,19Cに形成された電極を分離することにより、容易に段差部19B,19Cに第2の電極部9を形成することができる。つまり、段差部19B,19Cでは隔壁20の高さが連続的に変化しており、段差部19B,19Cに形成された電極を機械加工により分断することは困難である。
なお、段差部19Bの深さは、圧電基板1Dの端面に向かって、段階的に増大するようにしてもよい。隔壁20における段差部19Bの形成により切り欠かれた空間と、隔壁20が延在する一方向(X方向)に対して直交する仮想平面とが、交差する面積は、圧電基板1Dの端面に向かって、段階的に増大するようにしてもよい。
また、上記第1実施形態と同様に、圧電基板1Dの端部側面に形成された第2の電極部9が接着部1cを含むように、段差部19BのZ方向における深さを決定することが望ましい。
さらに、上記第1実施形態と同様に、段差部19Bの長さは、隔壁20の長さの1%以上であることが望ましい。段差部19Bの底面20aとズルプレート2とが接着されないことにより、段差部19Bを形成した部分の隔壁20は、圧力波の伝播の際に隔壁20の付け根部分が倒れるため、接着部1cにおける断線を抑制することができる。しかしながら、段差部19Bを形成している部分が短いと、断線抑制効果が薄れる。このため、断線抑制の効果を充分発揮するためには、段差部19Bを形成している領域が、隔壁20の長さの1%以上であることが望ましい。
さらに、V型形状ダイシングブレード25Aを使用して段差部19Bを形成したが、これに限らずどのような形状の段差部19Bでも、段差部19Bを形成した後に導電膜を形成し、段差部19Bにも第2の電極部9を形成することにより、電気的信頼性を高めることができる。
なお、分離工程においてCO2レーザーを使用したが、これに限らず、エキシマレーザーやYAGレーザーを用いてもよい。また、電極を分離する方法としては、レーザー加工に限らず、例えば、ダイシングマシンによる切削などの機械加工により行っても良い。
(第11実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第11実施形態を説明する。上記第10実施形態と相違する点を説明すると、この第11実施形態では、段差部形成工程が相違する。なお、その他の構造は、上記第10実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第11実施形態では、段差部形成工程を、先端角度が45度、60度、75度であるダイシングブレードを用いて行った。なお、この先端角度とは、図21Aに示す角度θである。
このとき、個別インク溝6が開口する圧電基板1D端部における深さはいずれも75μmとした。段差部19Bの、個別インク溝6と平行方向における長さはそれぞれおよそ、75μm、45μm、20μmであった。
それぞれの形状の段差部19Bを有する圧電基板1Dを用いて、上記第10実施形態と同様の方法で作製したインクジェットに対して、気泡排出性試験を行った。全ての形状の段差部19Bにおいて、気泡が押しつぶされ、個別インク室6aを通って排出側の共通インク室に流れ、その後インクジェットヘッドの外部へ排出された。つまり段差部19Bには気泡が残留しないことを確認した。
続いて、これらのインクジェットヘッドに対して、吐出試験を行った。先端角度45度と先端角度60度のダイシングブレードで加工した段差部19Bを有するそれぞれのインクジェットヘッドでは液滴数5×1010滴まで吐出を続けたのちに吐出速度を測定したが、吐出速度の低下するチャンネルは発生しなかった。つまり接着部1cにおける断線を抑制していることを確認した。
しかしながら、先端角度75度のダイシングブレードで加工した段差部19Bを有するインクジェットヘッドでは、吐出滴数が5×109滴を超えた時点で吐出速度を確認したところ、吐出速度がおよそ半分に低下するチャンネルが全体の2%程度発生した。これは、個別インク溝6の全長5mmに対して、両端にそれぞれ20μmの長さ、つまり合計40μmの長さの段差部しか形成していなかったため、断線抑制効果が小さかったものによる。
そこで、個別インク溝6の長さを5mmとし、個別インク溝6の幅を130μm、深さを400μm、個別インク溝6のピッチを260μm、個別インク溝6の数を300として圧電基板1Dに個別インク溝6を形成した。
続いて、この圧電基板1Dに、先端角度75度のダイシングブレードを用いて段差部19Bを形成した。このとき、段差部19Bの長さが断線抑制効果を十分に発揮するためには、隔壁20の長さ5mmの1%以上、つまり50μmとなるように加工した。この場合、個別インク溝6が開口する圧電基板1Dの端部おける段差部19BのZ方向における深さは186μmであった。個別インク溝6の深さが400μmであるため、段差部19Bの深さが186μmでも、個別インク溝6が開口する圧電基板1Dの端部において、第2の電極部9には接着部1cが含まれる。
このようにして作製した圧電基板1Dを用いて、インクジェットヘッドを作製し、上記第10実施形態と同様に吐出試験および気泡排出性試験を行った。液滴数5×1010滴まで吐出を続けたのちに、吐出速度を測定したが、吐出速度の低下するチャンネルは発生せず、断線の抑制効果を確認できた。また、気泡も段差部19Bには残留せず、インクジェットヘッドの外部へ排出されることを確認した。
つまり、段差部19Bの底面20aと、ノズルプレート2における隔壁20側の一面との成す角度は、気泡の排出性から鋭角であることが望ましいことが分かった。
(第12実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第12実施形態を説明する。上記第10実施形態と相違する点を説明すると、この第12実施形態では、段差部を形成する方法が相違する。なお、その他の構造は、上記第10実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
この第12実施形態では、図29に示すように、ダイシングブレード25Fを、圧電基板1Fの隔壁20が延在する一方向(X方向)に、走行することにより、段差部19Dを形成する。つまり、個別インク溝6と平行方向にチョッパー加工を行うことにより段差部19Dを形成する。
まず、上記第10実施形態と同様に、圧電基板1Fに個別インク溝6を形成した後、個別インク溝6と平行な方向にチョッパー加工を行った。このとき用いたダイシングブレード25Fは、断面形状が長方形であり、ダイシングブレードの幅は、0.3mmである。チョッパー加工後の圧電基板1Fの概略斜視図を図30Aに示す。
個別インク溝6と平行にチョッパー加工を行う場合には、ブレード断面形状が長方形で直径が50mmのダイシングブレードを用い、個別インク溝6と平行にチョッパー加工を行うことにより、ダイシングブレードのR形状が段差部19Dに転写される。このようにして、段差部19Dを形成した、段差部形成工程後の圧電基板1Fの平面図を図30Bに示し、側面図を図30Cに示し、要部拡大斜視図を図30Dに示す。
このようにして形成した段差部19Dの形状は、個別インク溝6が開口する圧電基板1Fの端部で深さが75μmであり、個別インク溝6が開口する圧電基板1Fの端部から、段差部19Dを形成していない隔壁20の上面までの長さは1.9mmである。つまり、このようにして作製した場合には、段差部19Dの、個別インク溝6と平行方向における長さが1.9mmと大きくなり、圧電基板1Fが大型化するが、特別な断面形状を有するダイシングブレードを使用する必要がないため容易に作製することができる。
この圧電基板1Fを用いてインクジェットヘッドを作製したのち、吐出特性を確認した。5×1010滴を吐出した後でも、吐出速度が半分程度まで低下するチャンネルはなく、断線の抑制効果を確認できた。さらに、気泡の排出性試験を行い、気泡が混入しても段差部19Dで気泡を押しつぶし、個別インク室6aを通って共通インク室21aに気泡は流れ、第2流路口13bを介してインクジェットヘッドの外部へ排出できることを確認した。
(第13実施形態)
次に、この発明のインクジェットヘッドの第13実施形態を説明する。上記第10実施形態と相違する点を説明すると、この第13実施形態では、ホルダ部の構成が相違する。なお、その他の構造は、上記第10実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
まず、比較例として、図31に示すように、上記第10実施形態で作製したインクジェットヘッドを用意して、このインクジェットヘッドで気泡排出試験を行った。このとき、気泡を、およそ10cc混入させた。インクの流体速度は、5cc/分とした。気泡排出試験の結果、インクの供給側である第1共通インク室11a側に形成された段差部19で押しつぶされた気泡が、個別インク室6aを通り、排出側である第2共通インク室21aに排出された。
第2共通インク室21aの気泡の大半は、第2流路口13bを介してインクジェットヘッドの外部に排出されたものの、一部の気泡は、第2共通インク室21aに残留した。ここで、インクジェットヘッドは、ノズルプレート2が下側を向くように配置して、使用される。第2共通インク室21aに排出された気泡の一部は、浮力によって、図31に示す部分に残留した。
インクの流体速度を10〜30cc/分として流れを発生させても、この第2共通インク室21aに残留した気泡は、除去できなかった。第2共通インク室21aに残留した気泡は、個別インク室6aとは大きく離れており、吐出にはほとんど影響しないが、第2共通インク室21aに排出される気泡が、極めて多い場合には、第2共通インク室21aに残留した気泡が成長し、第2流路口13bの一部を塞いで、インクの流れを阻害する可能性があるため好ましくない。この第2共通インク室21aに残留した気泡に関しても、上記第10実施形態と同様に5気圧程度の圧力を加えるメンテナンスを3〜5回繰り返すことにより完全に除去することができた。
次に、この第13実施形態のインクジェットヘッドの断面図を、図32Aに示す。この実施形態のホルダ部3Bでは、個別インク溝6からインクの排出を行う側の第2共通インク溝21に、インク排出用の第2流路口13bが設けられている。この第2流路口13bは、第2共通インク溝21において、ノズルプレート2から最も離れた位置にある。第2共通インク溝21の空間と、第2流路口13bの中心軸に対して直交する仮想平面とが、交差する面積は、第2流路口13bに向かって、連続的に減少している。第2共通インク溝21は、所謂、すり鉢型の構造となっている。
このとき、第2流路口13bの直径は1mm、第2共通インク溝21のZ方向における深さは、およそ2mm、第2共通インク溝21のX方向における幅は、3mmである。第2共通インク溝21のX方向における幅3mmの中心位置に、第2流路口13bの中心が配置されている。
第2共通インク溝21をすり鉢型とするための傾斜は、ノズルプレート2からZ方向に1.5mmはなれた部分から開始され、第2流路口13bと連結するように傾斜がつけられている。つまり、このときの傾斜角度θは、およそ26度である。
このインクジェットヘッドにインクを充填した。この際、すり鉢型構造の第2共通インク溝21がインクの排出側に、もう片方の第1共通インク溝11側をインクの供給側とした。
このインクジェットヘッドのインクの吐出速度のばらつきを測定したところ、吐出速度のばらつきは、±10%以内であった。このとき、駆動電圧を調整し、吐出速度の平均が、およそ8m/sとなるようにした。続いて、長期信頼性を確認した。5×1010滴を吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生せず、断線抑制の効果を確認できた。
さらに、このインクジェットヘッドに対して気泡の排出性を確認した。気泡排出試験に関しては、この実施形態の比較例と同様に行った。混入した気泡は、供給側である第1共通インク室11aの段差部19Bにより押しつぶされ、個別インク室6aを通って排出側の第2共通インク室21aに排出された。第2共通インク室21aに排出された気泡は、インクの流れと浮力によって、すり鉢型構造の最も狭くなっている第2流入口13bに集められ、第2配管5bを通って、インクジェットヘッドの外部に容易に排出されることを確認した。
次に、図32Bに示すように、圧電基板1Gの個別インク溝6が開口する端部のうち、片側のみに段差部19Bを形成した圧電基板1Gを用いて、上記第10実施形態と同様に、インクジェットヘッドを作製した。このときの段差部19Bの形状は、上記第10実施形態と同じである。
このインクジェットヘッドにインクを充填した。このとき、段差部19Bを形成した側の第1共通インク室11aを供給側とし、段差部19Bを形成していない側の第2共通インク室21aを排出側とした。つまり、段差部19Bは、インクの供給を行う側の第1共通インク溝11に面する圧電基板1Gの端面に、設けられている。
このインクジェットヘッドのインクの吐出速度のばらつきを測定したところ、吐出速度のばらつきは、±10%以内であった。このとき、駆動電圧を調整し、吐出速度の平均が、およそ8m/sとなるようにした。続いて、長期信頼性を確認した。5×1010滴を吐出した後にも、インクの吐出速度がおよそ半分まで低下するチャンネルは発生しなかった。つまり片側のみに段差部19Bを形成しても断線抑制の効果を確認できた。
さらに、このインクジェットヘッドに対しても同様に気泡の排出性を確認したところ、混入した気泡は、段差部19Bにより押しつぶされ、個別インク室6aを通って排出側の第2共通インク室21aに排出され、第2配管5bを通ってインクジェットヘッドの外部に容易に排出されることを確認した。
つまり、段差部19Bによる気泡の押しつぶしは、インクの流れと段差部19Bの形状によって起こるものであり、気泡の排出性の点では、少なくとも供給側に段差部19Bが形成されていれば良いことが確認できた。
さらに、排出側の第2共通インク室21aからインクジェットヘッド外部へ気泡を効率よく排出するためには、排出側の第2共通インク室21aにおいて、第2共通インク室21aの断面積が第2流路口13bに向かって連続的に狭まっているとともに、第2流路口13bがノズルプレート2から最も離れていることが望ましいことが確認できた。
第2共通インク溝21内の傾斜角度θが15度や45度であるホルダ部を使用して、同様の気泡排出性確認試験を行い、第2共通インク室21aから気泡をインクジェットヘッド外に容易に排出できることを確認した。傾斜角度θを変えた際は、第2流路口13bの形状は変えず、傾斜角度と傾斜開始位置を変えている。傾斜角度15度のときには、傾斜開始位置はノズルプレート2から1.6mm離れた位置であり、傾斜角度45度の時には、傾斜開始位置はノズルプレート2から0.5mm離れた位置である。
これは、気泡が浮力により、Z方向の上側に移動するため、完全に排出するためには、第2配管5bを接続する第2流路口13bは、ノズルプレートから最も離れている、つまり、第2共通インク室21aないで最もZ方向で高いところに位置していることが効果的であり、さらに、第2共通インク溝21は、気泡の残留するポイントのないすり鉢形状のような、第2流路口13bに向かって断面積が減少するような構成が最も好ましい。
なお、この発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、個別インク溝を、V字溝、台形溝、R形状がついた溝に、形成してもよい。また、ホルダ部は、一体型でもよく、または、3つ以上の部材から形成されていてもよい。また、一つの隔壁に、3つ以上の段差部を設けてもよい。
また、第1の電極部として銅を使用したが、導電性材料ならば何でもよい。さらに、導電膜形成工程をスパッタ法により行っているが、イオンプレーティング法や無電解めっき法でも、同様の導電膜を形成することができることを確認している。イオンプレーティング法は密着力良く導電膜を形成することができ、無電解めっき法では、複数の複雑な溝形状が形成されている圧電基板に対しても少ない膜厚ばらつきで導電膜を形成することができる。一方、気相成長法や蒸着法は、圧電基板の基板表面温度が上がりやすいため適していないことが分かった。これは、圧電材料の圧電特性が高温において劣化してしまうことによるものである。イオンプレーティング法、無電解めっき法を導電膜形成工程に用いて形成したインクジェットヘッドでも、スパッタ法で導電膜形成を行ったインクジェットヘッドと同等の吐出性能を有することを確認した。
また、本実施形態では、導電膜形成工程の後に除去工程を行ったが、導電膜形成工程の前にレジスト材料などで予め導電膜を成膜したくない部分を被覆しておき、導電膜形成工程後にレジスト材料を剥離して分離してもよい。
また、分離工程において、ダイシングブレードによる分離溝の形成を行っているが、ワイヤーソーなどのダイシングブレード以外の機械加工でもよい。さらには、ダイシングブレードによる分離ではなく、YAGレーザー照射により不要な部分の導電膜を除去して、第2の電極部を形成したインクジェットヘッドについても、ダイシングブレードで分離したインクジェットヘッドと同様の吐出性能、循環性能を持つことを確認した。レーザーの種類に関しては、YAGレーザーである必要はなく、例えば、CO2レーザーやエキシマレーザーを用いて、圧電基板の端面の導電膜を分離して第2の電極部を形成することができることを確認した。
また、第2の電極部と導電部材の接続方法は、本実施形態ではACF接続により行ったが、これに限るものではなく、銀ペーストやハンダなどの導電性ペーストを用いても接続できることを確認した。しかしながら、圧電基板の厚さが薄いときには第2の電極部に塗布した導電性ペーストやハンダが個別インク溝に流入する虞があるため、圧電基板の厚さから個別インク溝の深さを差し引いた長さ、つまり、第2の電極部にフレキシブルケーブルなどの導電部材を接続することができる長さががすくなくとも1.5mm以上のときにのみ導電性ペーストやハンダを用いることが好ましい。
また、本実施の形態に記載した工程は必要最小限の工程であり、必要に応じて前述した以外の工程を追加していてもよい。例えば圧電基板のどこかに加工の基準とするための目印として溝を加工する工程や、第1の電極部がインクに接することで腐食する場合などには第1の電極部を保護膜で覆うような工程を追加してもよい。