(実施の形態1)
図1および図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドについて説明する。
(構成)
実施の形態1におけるインクジェットヘッドの斜視図を図1に示す。図1は分かりやすくするため、各部を分解した状態を示している。図1のインクジェットヘッドでは、図43に示した従来の技術によるインクジェットヘッドと同様に、ベース部材1とカバー部材6とノズル板16とACF10とフレキシブルプリント基板11とマニホールド13とを備える。ベース部材1は圧電材料からなり、ノズル板16が取付けられる前端部30とその反対側である後端部31とを有する。ベース部材1には複数のチャンネル溝3が前端部30から後端部31まで貫通して形成されている。それぞれのチャンネル溝3が等間隔になるように、また、それぞれが平行であって、溝の幅も同一になるように形成されている。
複数本形成されたチャンネル溝3はベース部材1の一部であるチャンネル壁2によって隔てられている。チャンネル壁2の側面、すなわちチャンネル溝3の内壁の高さ方向全域にわたって、チャンネル壁2をシェアモード変形させるために電極4が薄く形成されている。電極4はアルミニウムなどの金属材料から形成されている。圧電材料は、チャンネル壁2の高さ方向の略中央で分極方向が相反するように分極処理が施されており、電極4に電圧が印加されるとチャンネル壁2のうち電極4に挟まれた領域が自発的にシェアモード変形する。
チャンネル溝3の後端部31の近傍には、後端部31に到達するように導電性樹脂9が充填されている。導電性樹脂9には、たとえば、熱硬化型のエポキシ系樹脂に銀のフィラーを混練したものが使用される。各チャンネル溝3の両側面に形成される電極4は、導電性樹脂9によって互いに接続されているために同電位となるが、各チャンネル壁2の両側面に形成される電極4はそれぞれ電気的に分離されている。電極4は導電性樹脂9とACF10とを介在してフレキシブルプリント基板11表面の外部電極12と電気的に接続されている。
カバー部材6は、ベース部材1と同様に前端部32と後端部33とを有する。カバー部材6に形成され、本発明における特徴部分である第1凹部20については後述する。カバー部材6には、第1凹部20に連通してなおかつ後端部33に達するように、共通インク室8を形成するための第2凹部21が形成されている。第2凹部21は従来の技術によるインクジェットヘッドの切欠き部7(図43参照)に相当する。マニホールド13は、内側にマニホールド空間14を備え、側板に開口したインク供給口15を有する。外部からのインク供給は、インク供給口15から行なわれる。
前端部30,32にはノズル板16が接着固定されている。インクチャンネルで加圧されたインクはノズル孔17から対象物に向けて吐出され、印刷が行なわれる。
図2(a)は、このインクジェットヘッドをノズル板16側から見た正面図であり、図2(b)はインクジェットヘッドをチャンネル溝3の中心線においてチャンネル溝3の長手方向と平行な平面で切断した断面図である。チャンネル溝3は複数形成されており、それぞれのチャンネル溝3の位置に対応させてノズル孔17が形成されている。各部材を結合すると、カバー部材6の第2凹部21とマニホールド13のマニホールド空間14とを合わせた共通インク室8が形成される。図1および図2(b)において領域Aは、チャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合される領域であり、アクティブ領域である。インク吐出に寄与するシェアモード変形は主にこの領域Aで発生する。すなわち、領域Aにおいて、与えられた電気信号に応じてインク吐出のための加圧を行なったり、インクをインクチャンネルに供給するための減圧を行なったりする。領域Bはインクチャンネルに供給されるべきインクを一時的に保持しておく共通インク室8の一部を形成する領域である。
このような従来の構成に加えて、本発明に基づくインクジェットヘッドは、領域Aと領域Bとの間に、間隙部を含んでいる。図2(a)に示すように、間隙部とは第1凹部20とチャンネル壁2の上面を含む面とに挟まれる空間である。第1凹部20は第2凹部21と連通してカバー部材6の下面に形成されている。第1凹部20は第2凹部21と同様に、各インクチャンネルを接続するように形成されている。チャンネル壁2の上面と第1凹部20の下面(カバー部材)との間の距離は、チャンネル壁2の上面と第2凹部21の下面(カバー部材)との間の距離より短くなるように形成されている。以下、チャンネル壁2の上面とカバー部材6の第1凹部20における下面との距離を間隙部の深さという。
インク供給口15から供給されたインクは、共通インク室8に溜められてチャンネル溝3に随時インクを供給し、チャンネル溝3に流入したインクはシェアモード変形によってノズル孔17からインクが吐出される。間隙部が形成されている領域Cと共通インク室8の一部である領域Bとは、チャンネル壁2の上面がカバー部材と接合しておらず、インク吐出にはあまり寄与しない領域である。インクを溜めておく役割を担うのは、主に領域Bを含む共通インク室8である。しかし、本実施の形態においては、間隙部が形成されている領域Cも若干ではあるがインクを溜めておく機能を有する。
図2(b)に示すように、領域Bの第2凹部21は、第1凹部20の近傍に曲面としての円弧形状を有している。また、図2(a)に示すように、第1凹部20および第2凹部21の側壁はともに曲面としての円弧形状を有している。このように本来は角となるべき箇所を円弧形状(曲面)にすることによって、共通インク室8からインクチャンネルに流れるインクの流れが滑らかになり、インクの気泡の滞留を防止することができる。
(作用・効果)
チャンネル壁2は上下方向に分極処理が施されており、外部電極12、導電性樹脂9を通じて電極4に印字データに応じた電圧が印加されると、分極方向と垂直な方向に電界が発生して、このチャンネル壁2にシェアモード変形が発生する。インクチャンネルの容積
が大きくなるように、インクチャンネルの両側に存在するチャンネル壁2が変形すると、共通インク室8および第1凹部20を通じてインクチャンネルにインクが供給される。逆に、インクチャンネルの容積が小さくなるように、チャンネル壁2が変形すると、インクチャンネル内のインクが加圧されてノズル孔7を通じてインクが吐出される。
インクが吐出されるのと同時に、インクチャンネルのアクティブ領域A内で生じた圧力波は、インクの供給の向きとは逆向きに間隙部を経由して共通インク室8の方向へ進行していく波と、チャンネル壁2に挟まれた空間と間隙部との界面で反射する波と、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8との界面で反射する波とに分かれる。本実施の形態においては、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8および間隙部との界面で反射してアクティブ領域Aに戻る圧力波は少ない。大部分の圧力波が間隙部を通過して共通インク室8へと向かう。圧力波は、間隙部を通過する際に、インクの大きな粘性抵抗により吸収、減衰しながら共通インク室8へと進行する。したがって、圧力波の残留振動を抑制することができ、印字データに忠実な高速かつ高品質な印字が可能となる。
このように、インクの吐出に伴って生じる圧力波を間隙部によって吸収、減衰させることができるため、後続するインク吐出に影響するような圧力波の残留振動の発生を抑制することができる。また、間隙部をカバー部材への簡単な加工によって設けることができるため、従来のように振動吸収体を付加する方法などに比べて構造が簡単であり、生産性を低下させることがなく、安価で生産が行なえるという利点を有する。
圧力波を減衰させる際に、間隙部の深さが圧力波を減衰させる効果に大きく影響を与えることが予想される。そこで、間隙部の深さを変化させて実験を行ない、間隙部の深さが残留振動に与える影響を検討した。実験においては、アクティブ領域Aの長さおよびチャンネル壁の長手方向に沿った間隙部の長さ(第1凹部の長さ)を一定にして、間隙部の深さ(第1凹部の深さ)のみを変化させたインクジェットヘッドを作成した。評価は、インクの吐出状況を観察することによって残留振動の影響を判定することで行なった。その結果を以下の表1に示す。
実験には、室温での粘度が7×10-3Pa・sのインクを使用している。間隙部の深さが浅いほど、圧力波の残留振動の影響が小さくなる傾向があり、間隙部の深さが40μm以上になると、インクチャンネルと間隙部との界面で反射する圧力波が多くなり、従来構造のインクジェットヘッドと同様にインクの吐出特性に悪影響を及ぼしている。この結果より、間隙部の深さは30μm以下であることが好ましい。より好ましくは、間隙部の深さを20μm以下の深さに設定する。
本実施の形態では、圧力波が伝播する経路において、アクティブ領域と共通インク室との間に間隙部を配置することによって、インクの吐出の際にインクチャンネルから共通イ
ンク室に向かう圧力波を、急速に減衰させることができる。従来技術によるインクジェットヘッドにおいて共通インク室である領域の一部を間隙部にすると、アクティブ領域は従来通り十分な大きさを維持して、十分なインクの加圧が可能である。この場合、インク吐出への悪影響はなく残留振動のみを低減することができる。したがって、後続するインク吐出がスムーズになり、高品質な印字が可能になる。
(実施の形態2)
図3〜図6を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドについて説明する。
(構成)
図3〜図5に本実施の形態における第1のインクジェットヘッドを示す。本実の形態におけるインクジェットヘッドの分解斜視図を図3に、インクジェットヘッドを前端部側から見た正面図を図4(a)に、図4(a)におけるIVB−IVB線に関する矢視断面図を図4(b)に示す。本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、ベース部材1、カバー部材6、マニホールド13、ノズル板16を備えるなど、基本的な構成は実施の形態1と同様である。チャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合されているアクティブ領域Aにおいて、主にインク吐出に寄与する圧力を発生することも実施の形態1と同様である。実施の形態1と異なるのは、間隙部と共通インク室の構成である。実施の形態1では間隙部をカバー部材6に形成した。これに対して、本実施の形態におけるインクジェットヘッドは間隙部がベース部材1に形成されていることを特徴とする。
チャンネル壁2の上面には、チャンネル壁2の一部を削った第1段差部22と第2段差部23とが形成されている。残留振動を抑制する間隙部は、この第1段差部22の上面を含む面とカバー部材6の下面とから形成されている。図3および図4(b)においてCで示す領域が当該間隙部を有する領域である。図4(a)に示すように第1段差部22は複数の全てのチャンネル壁2の上面に形成されている。図4(b)において、Bに示す領域は第2段差部23が形成された領域であり、共通インク室8の一部となる領域である。共通インク室8は、マニホールド空間14および第2段差部23の上面を含む面とカバー部材6の下面とで挟まれる空間で構成されている。また、第2段差部23は長手方向において大部分が平面状であるが、第1段差部22との境界付近では円弧形状を有している。また、領域Cと領域Aとの境界である第1段差部22の端部も断面が円弧状になるように形成されている。この円弧形状によって、インクの流れがスムーズとなって気泡の滞留を防止するインクジェットヘッドとすることができる。
図4(b)におけるVA−VA線に関する矢視断面図を図5(a)に、VB−VB線に関する矢視断面図を図5(b)に示す。図5(a)に示すように、アクティブ領域Aでは、全てのチャンネル壁2の上面とカバー部材6の下面とが接合しており、図5(b)に示すように領域Cでは、第1段差部22の上面とカバー部材6の下面との間に隙間が形成されている。一方でカバー部材6に注目すると、実施の形態1においては、凹部を有していたが、本実施の形態におけるカバー部材6に凹部はなく、平板状である。本実施の形態においては、第1段差部22の上面とカバー部材6の下面との距離が間隙部の深さとなる。間隙部は、若干ではあるがインクを一時的に溜めておく機能があり、共通インク室の補助的な役割を果たす。インクはインク供給口15から供給され、共通インク室8に一時的に保持されて、連続的にインクチャンネルにインクを供給する。
図6に本実施の形態における第2のインクジェットの断面図を示す。図6はチャンネル溝の幅方向の略中央を通り、チャンネル溝の長手方向に切断した断面図である。図3〜図5に示した第1のインクジェットヘッドと比較すると、チャンネル壁2の長手方向に見たときに、間隙部を構成する第1段差部22が長く、共通インク室8を構成する第2段差部
23が短い。また、第2段差部23については、カバー部材6の下面と平行な領域がなく断面が円弧状である。また、領域Cと領域Aの境界である第1段差部22の端部においては、断面が円弧状ではなく、角がほぼ直角の階段状になるように形成されている。
図6に示す第2のインクジェットヘッドはチャンネル溝3の底面にも電極が形成されている(図示せず)。チャンネル溝の底面に形成された電極は、チャンネル壁2の駆動には寄与せず、また、インク吐出性能に対して悪影響を与えるものでもなく、形成されていても形成されていなくてもよい。その他の構成については、第1のインクジェットヘッドと同様である。
また、上述した実施の形態1と異なる構成以外の構成については、実施の形態1と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
(作用・効果)
実施の形態1と同様に、チャンネル壁2はチャンネル壁2の高さ方向に分極処理が施されている。外部電極12、導電性樹脂9を通じて電極4に印字データに応じた電圧が印加されると、分極方向と垂直な方向に電界が発生し、このチャンネル壁2がシェアモード変形する。主にインク吐出に寄与するシェアモード変形する領域はチャンネル壁2の上面がカバー部材6と接合されているアクティブ領域Aである。チャンネル壁2に発生させる電界の向きを変化させることにより、インク吐出のための加圧や、インク供給のための減圧を行なうことも実施の形態1と同様である。
インクが吐出されるのと同時にインクチャンネルのアクティブ領域A内で生じた圧力波は、インクの供給方向とは逆に間隙部を通って共通インク室8の方向へ進行して行く波、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8との界面で反射する波、チャンネル壁2に挟まれた空間と間隙部との界面で反射する波の3つに分かれる。本実施の形態においては、アクティブ領域Aで発生した圧力波の大部分が間隙部を通過して、連通する共通インク室8に向かって伝播していく。この際に、間隙部において、インクの大きな粘性抵抗によって、圧力波は吸収、減衰しながら共通インク室8へと進行して行く。したがって、アクティブ領域Aで発生した圧力波が、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8との界面、または、チャンネル壁2に挟まれた空間と間隙部との界面で反射してアクティブ領域Aに戻ることを抑制して、圧力波の残留振動を抑制することができる。なお、領域Bにおいては、チャンネル壁2の剛性が非常に小さくなっており、電極4に高周波の電圧を印加しても、振動はするものの実質的に圧力波を発生させることはない。
本実施の形態においては、間隙部を共通インク室8の一部となる領域Bとアクティブ領域Aとの間に形成することによって、インクの吐出の際にインクチャンネルで発生する圧力波を、急速に減衰させることができる。したがって、圧力波の残留振動が少なく、後続するインク吐出がスムーズになり高品質、高速な印字が可能となる。また、第2のインクジェットヘッドにおいては、図6に示したように、間隙部が形成された領域Bを長くすることによって、残留振動を抑制する効果を大きくすることができ、また、ベース部材1の製造において第2段差部23の形成も容易になる。
間隙部と共通インク室となるべき第2段差部とをベース部材に設けることで、カバー部材は平板状となって加工が容易になる。その結果、製造の指示の誤りなどに起因した製造時間の損失、いわゆる製造時間のダウンタイムを防止することができ、さらに生産コストを低減することができる。
(実施の形態3)
図7を参照して、本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッドについて
説明する。図7は、チャンネル溝の幅方向の中央を通りチャンネル溝の長手方向に切断した断面図である。
(構成)
実施の形態3におけるインクジェットヘッドについて、実施の形態2におけるインクジェットヘッドと比較しながら説明する。ベース部材1にチャンネル壁2が形成され、チャンネル壁2の側壁全体にわたって電極4が形成されていることや、チャンネル壁2の上面とカバー部材6が接合しているアクティブ領域Aにおいて、主にインク吐出に寄与する圧力を発生することは実施の形態2と同様である。間隙部がチャンネル壁2を加工して形成されていることも実施の形態2と同様である。実施の形態2のインクジェットヘッドと異なるのは、間隙部の形状、構成である。
実施の形態3におけるインクジェットヘッドの間隙部は、チャンネル壁2の長手方向と垂直な方向に複数の溝が、間隔をおいて形成されていることを特徴とする。図7に示すように、チャンネル壁2の上面に複数の貫通溝19が形成されている。貫通溝19はチャンネル壁2の一の側面から他の側面に貫通するように形成されている。すなわち、隣り合うインクチャンネルを連通するように形成されている。この貫通溝19が間隙部を形成する。本実施の形態においては、一定間隔で一定幅の貫通溝19が形成されている。領域Cについては、チャンネル壁2の上面とカバー部材6の下面とが接合されているが、十分な吐出圧力を確保できれば接合されていなくてもよい。また、本実施の形態においての貫通溝19はチャンネル壁2の上面に形成されているが、チャンネル壁2の上面に形成する代わりにそれぞれのインクチャンネルを連通させるようにカバー部材に形成されていてもよい。または、チャンネル壁とカバー部材との両方に貫通溝が形成されていてもよい。
共通インク室8は実施の形態2と同様に、マニホールド空間14および第2段差部23の上面を含む面とカバー部材6の下面とで挟まれる空間から構成される。インクはインク供給口15から供給され、共通インク室8に一時的に保持されて、連続的にインクチャンネルにインクを供給する。第2段差部23において、領域Cの近傍を実施の形態2と同様に円弧形状としてもよい。その他、各部品の基本的な構成は実施の形態1および実施の形態2と同様であるのでここでは説明を繰返さない。
(作用・効果)
実施の形態1および実施の形態2と同様に、チャンネル壁2は高さ方向に分極処理されている。外部電極、導電性樹脂9を通じて電極4に印字データに応じた電圧が印加されると、分極方向と垂直な方向に電界が発生して、チャンネル壁2がシェアモード変形する。主にインク吐出に寄与する領域はアクティブ領域Aである。インク吐出に大きく寄与するためには、チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接合されていて、チャンネル溝3の上面が閉鎖されている必要がある。実施の形態1と実施の形態2とでは、間隙部が形成されている領域Cにおいては、チャンネル溝3の上面が閉鎖されておらず、間隙部を通って圧力が共通インク室8へと逃げているが、本実施の形態においては、領域Cにおいても離散的にチャンネル壁2の上面が閉鎖されている。このために、領域Cにおいても部分的にインク吐出に寄与するシェアモード変形を行なう。
チャンネル壁2の上面に形成された貫通溝19によって、アクティブ領域Aで発生する圧力波を減衰して残留振動を低減する。貫通溝19の幅、深さ、ピッチ、溝の数を適宜設定することで、残留振動を抑制する特性を変化させることが可能である。インクジェットヘッドの小型化を図る場合には本実施の形態の構成が有効である。実施の形態2においては間隙部である第1段差部22(図3参照)もわずかではあるがインクを供給する共通インク室8の補助的役割を担っていたのに対して、本実施の形態においては、間隙部は共通インク室8の補助的役割はなく、圧力波による残留振動抑制の役割のみを果たす。
(実施の形態4)
図8〜図11を参照して、本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッドについて説明する。
(構成)
図8は本実施の形態における第1のインクジェットヘッドの斜視図である。図8に示すように、ベース部材1、カバー部材6、マニホールド13およびノズル板16を備えるなど、基本的な構成は実施の形態1と同様である。実施の形態1と異なるのは、間隙部と共通インク室の構成である。実施の形態1では間隙部をカバー部材6に形成した。これに対して、本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、間隙部としての連通孔50がチャンネル壁2に形成されていることを特徴とする。
本実施の形態における第1のインクジェットヘッドについて、ノズル板16が配置された側から見た正面図を図9(a)に、図9(a)のIXB−IXB線における矢視断面図を図9(b)に示す。
間隙部としての連通孔50は、チャンネル壁2の両側を挟むようにそれぞれ隣接するチャンネル溝3同士が接続されるように、チャンネル壁2に貫通する穴が形成されている。連通孔50は全てのチャンネル壁2に形成されている。カバー部材6には間隙部となるべき溝加工などは行なわれておらず、切欠き部7のみが形成されている。共通インク室8は切欠き部7とマニホールド空間14とで構成される。切欠き部7は領域Bに形成されており、実施の形態1における第2凹部21と同等の機能を有する。
本実施の形態における連通孔50は、チャンネル壁2の長手方向に平面的な形状となるように形成されている。換言すると、連通孔50は断面が略長方形をしていて、チャンネル壁2の高さ方向の長さよりチャンネル壁2の長手方向の長さの方が非常に長く形成されている。また、略長方形の一辺が、チャンネル壁2の上面と平行になるように、チャンネル壁2の長手方向におけるほぼ中央に形成されている。
チャンネル壁2の上面はインク吐出に大きく寄与するアクティブ領域Aにおいて、カバー部材6と接着固定されている。連通孔50は領域Aより後端部31側に形成されている。換言すると、連通孔50は、チャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合する領域Aに比べて、インクが吐出される側からより遠い側に形成されている。
図8に示すように、本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、矢印40,41で示すように、チャンネル壁2の高さ方向の略中央で分極方向が対向するように、ベース部材1が形成されている。ベース部材1は2枚の圧電材料を接着剤で貼り合わせた圧電体基板に加工を行なって形成されている。よって、チャンネル壁2は2つの部材同士が接着剤で互いに固定された構成を有しており、本実施の形態における連通孔50はこの2つの部材の境界に形成されている。
連通孔50はチャンネル壁2に設けられ、隣り合うチャンネル溝同士は、接続されてインクが通るように形成されているが、インクがインクジェットヘッドの外部には漏れないように、ベース部材6の内部のみに形成され、インクジェットヘッドの外に連通しないように形成されている。
電極4はチャンネル壁2の側面全面にわたって形成されているが、連通孔50の内部には、電極4は形成されておらず、チャンネル壁2の両側面の電極4同士は電気的に絶縁されている。
図10に本実施の形態における第2のインクジェットヘッドの説明図を示す。図10(a)は本実施の形態における第2のインクジェットヘッドの正面図であり、図10(b)は図10(a)のXB−XB線に関する矢視断面図である。図10における間隙部としての連通孔50は、断面が略長方形の連通孔50が複数個チャンネル壁内に形成されている。図9に示した平面状の連通孔とは異なり、同じ形状、大きさを有する複数の連通孔50が等間隔で形成されている。チャンネル壁は2つの部材から形成され、その境界面に連通孔50が形成されており、2枚の部材のうち下方の部材に連通孔50が形成されている。また、全てのチャンネル壁2について、連通孔50が形成されている。
図10に示すインクジェットヘッドは、ベース部材1の後端部31付近の上面に断面が円弧状の窪み部66を有しているが、図9に示すように窪み部66がなくベース部材1の上面が平面状であってもよい。
本実施の形態における第3のインクジェットの説明図を図11に示す。図11(a)は本実施の形態における第3のインクジェットヘッドの正面図であり、図11(b)は図11(a)のXIB−XIB線に関する矢視断面図である。図11における間隙部としての連通孔50は、断面が略三角形である。全ての連通孔50は同一形状であり、それぞれ等間隔に形成されている。連通孔50がチャンネル壁内に複数個形成されていることや、2枚の部材のうち境界面に連通孔50が形成されており、下方の部材に加工が行なわれて連通孔50が形成されていることは、図10に示したインクジェットヘッドと同様である。
上述の通り、本実施の形態に関し、3つの連通孔の形態を示したが、それぞれについて、連通孔はチャンネル壁の片方の部材に溝加工が施されて形成されているが、反対側の部材に溝加工が行なわれて形成されていてもよいし、2つの部材それぞれに溝が形成され、2つの部材を貼り合わすことによって連通孔が形成されていてもよい。またチャンネル壁の2つの部材の境界面に限られず、任意の位置に連通孔が形成されていてもよい。さらに、複数の連通孔が一列に等間隔で形成されているが、等間隔には限らない。
上述した実施の形態1と異なる構成以外の構成については、実施の形態1と同様であるので説明を繰返さない。
(作用・効果)
実施の形態1と同様に、チャンネル壁2はチャンネル壁の高さ方向に分極処理が施されている。外部電極12、導電性樹脂9を通じて電極4に印字データに応じた電圧が印加されると、分極方向と垂直な方向に電界が発生し、このチャンネル壁2がシェアモード変形する。主にインク吐出に寄与するシェアモード変形する領域は、チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接合されているアクティブ領域Aである。チャンネル壁2に発生させる電界の向きを変化させることにより、インク吐出のための加圧や、インク供給のための減圧を行なうことも実施の形態1と同様である。
図9に示す本実施の形態におけるインクジェットヘッドにおいて、インクが吐出されるのと同時にインクチャンネルのアクティブ領域A内で生じた圧力波は、インクの供給方向とは逆に間隙部を通って後端部31側に向かい共通インク室8へ進行して行く波、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8との界面で反射する波、およびチャンネル壁2に挟まれた空間と間隙部との界面で反射する波に分かれる。本実施の形態においては、アクティブ領域Aで発生した圧力波の大部分が間隙部である連通孔50を通過して、共通インク室8に向かって伝播していく。この際に、連通孔においてインクの大きな粘性抵抗によって、圧力波は吸収、減衰しながら共通インク室8へと進行して行く。したがって、アクティブ領域Aで発生した圧力波が、チャンネル壁2に挟まれた空間と共通インク室8と
の界面、または、チャンネル壁2に挟まれた空間と間隙部との界面で反射してアクティブ領域Aに戻ることを抑制して、圧力波の残留振動を抑制することができる。したがって、後続するインク吐出がスムーズになり高品質な印字が可能となる。また、振動を吸収する機能を有する連通孔を、基板同士の貼り合わせ面への簡単な加工によって設けることができるため、従来の技術のように振動吸収体などの部材を付加する方法に比べ、生産性を低下させることがなく、製造コストの上昇を抑えることができる。したがって、安価で印字データに忠実かつ高速な印字が可能であるインクジェットヘッドを提供することができる。
本実施の形態におけるインクジェットヘッドの連通孔は、チャンネル壁の長手方向において、アクティブ領域Aより後端部側に配置されている。すなわち、連通孔は、チャンネル壁の上面とカバー部材とが接合する領域に比べて,インクが吐出される側から遠い側に形成されている。この構成を採用することによって、インクの吐出に伴って生じた後端部に向かう圧力波は、共通インク室に達するまでに大部分が他のインク室と連通した狭隙部を通過し、吸収、減衰しながら共通インク室へと進行して行くようになる。よって、直接インク吐出に寄与する圧力波は減衰させずに、不要な圧力波の残留振動を効果的に減衰させることができる。
図10および図11に示す複数の連通孔50を有するインクジェットヘッドの効果についても同様であり、連通孔50を形成することによって発生する圧力波を急激に減衰させることができる。また、連通孔50を小さくして、複数個形成することによって、連通孔50の幅、高さ、ピッチ(隣り合う間隔)、連通孔50の数などを適宜変更することで、残留振動の抑制効果を調整することができる。また、残留振動のクロストークを抑制することが可能である。特にインクジェットヘッドの小型化を行なう場合には、複数個の連通孔を形成することが好ましい。
チャンネル壁2は2枚の基板が接着剤で固定されたものを加工して形成されているが、2枚の接着に使用された接着剤の厚さは5μm以下が好ましい。この構成を採用することにより、2枚の基板を接着する際に連通孔50に接着剤が入って断面形状や連通孔の大きさが変わり、残留振動の抑制効果のばらつきが生じることを防止できる。また、カバー部材の切り欠き部の一部は円弧形状を有していおり、この円弧形状を形成によって、インクの流れがスムーズとなって気泡の滞留を防止することができる。
圧力波を減衰させる際に、間隙部の大きさが圧力波を減衰させる効果に大きく影響を与えることが予想される。そこで、間隙部の深さを変化させて実験を行ない、間隙部の深さが残留振動に与える影響を検討した。実験においては、図8および図9に示した平面状の連通孔を有するインクジェットヘッドを対象に行なった。アクティブ領域Aの長さおよびチャンネル壁の長手方向に沿った間隙部の長さ連通孔の長さを一定にして、間隙部の深さ(連通孔におけるチャンネル壁の高さ方向の長さ)のみを変化させたインクジェットヘッドを作成した。評価は、インクの吐出状況を観察することによって残留振動の影響を判定することで行なった。その結果を以下の表2に示す。
実験には、室温での粘度が7×10-3Pa・sのインクを使用している。間隙部の深さが浅いほど、圧力波の残留振動の影響が小さくなる傾向があり、間隙部の深さが40μm以上になると、インクチャンネルと間隙部との界面で反射する圧力波が多くなり、従来構造のインクジェットヘッドと同様にインクの吐出特性に悪影響を及ぼしている。この結果より、間隙部の深さは30μm以下であることが好ましい。より好ましくは、間隙部の深さを20μm以下の深さに設定する。また、間隙部の長さが長い方が、圧力波の残留振動を抑制する効果が大きいことも確認した。
なお、上述した実施の形態において述べた様々な構成を必要に応じて適宜組み合わせてもよい。たとえば、連通孔の形状は図9に示した平面状のものと図10に示した複数個の連通孔を形成したものとを併用してもよい。また、インクを供給する部位は、インクジェットヘッドの裏面に配置したマニホールドに限らず、インクジェットヘッドの上面、すなわち、カバー部材に貫通する穴を形成してインクを供給してもよい。また、上述した説明では圧電方式を利用したインクジェットヘッドについて述べた。しかし、インクの吐出方式が異なる他の方式(たとえば、サーマルインクジェット方式など)のインクジェットヘッドについても、インクチャンネルなどのインク流路の基本構成が同じであれば本発明の適用が可能である。
(実施の形態5)
図12〜図14を参照して、本発明に基づく実施の形態5におけるインクジェットヘッドの製造方法について説明する。本実施の形態で製造されるインクジェットヘッドは、実施の形態1に例示したインクジェットヘッドである。図12〜図14は実施の形態1の特徴部分であるカバー部材を形成する工程を説明した図であり、カバー部材についてベース部材と接合される面を図中の上側として示した斜視図である。
カバー部材はベース部材と接着されることから、ベース部材の材料となる圧電体基板と熱膨張率を合わせたほうが好ましく、加工を行なう観点からも圧電体基板と大差ないものが好ましい。カバー部材の材料となるカバー基板としては、快削性セラミックス、圧電体基板などが好適である。図12は第1凹部形成工程を説明する図である。はじめに、カバー基板27の主表面の中央部から後端部33まで第1凹部20を形成する。第1凹部の形成は、ダイシングブレードを用いて、カバー基板27の主表面に垂直な一の平面内でダイシングブレードを移動させて形成する。ダイシングブレードを回転軸に平行に移動させ、この研削を繰返す。また、必要に応じて、ダイシングブレードの向きを変えて同様の研削を繰返すことによって、第1凹部20を形成する。
次に、第2凹部21を同じくダイシングブレードによって形成する。この第2凹部形成工程で形成されたカバー基板27を図13に示す。第2凹部21は後端部33側から前端部32に向かって、第1凹部形成工程で形成した凹部の長さより短く形成される。第2凹
部21の形成は第1凹部20の形成方法と同様にダイシングブレードを用いて、カバー基板27の主表面に垂直な一の平面内でダイシングブレードを移動させる研削を繰返し行なう。
次に、図14に示すように、ダイシングブレード25の回転軸と前端部32および後端部33を結ぶ矢印46の向きとが、平行になるように、ダイシングブレード25の向きを定める。第2凹部21の幅方向にある2つの側面のうち、一の側面付近に移動して、矢印42の方向にダイシングブレード25を移動させて研削を行なう。1回の加工で研削されるのは、ダイシングブレード25の幅に対応した幅である。以下、このように、ダイシングブレードを一の方向に移動させて、加工を行なう方法を「チョッパ加工」という。チョッパ加工を行なうとダイシングブレードの外周の形状に対応して、研削面が円弧形状になる。矢印46の方向にダイシングブレード25を一定量移動させた後、再度チョッパ加工を行なう工程を繰り返し、第2凹部21の2つの側面のうち一の側面全体を円弧形状にする。同様の研削を第2凹部21の他の側面についても行なって、円弧形状を形成する。
次に、ダイシングブレード25の回転軸と第2凹部21の幅方向である矢印43とが平行になるように向きを変えて、第2凹部21と第1凹部20の境界付近に、ダイシングブレード25を移動する。その後に矢印42の方向にダイシングブレード25を移動させてチョッパ加工を行ない、第2凹部21のうち第1凹部20との境界付近に円弧形状を形成する。1回のチョッパ加工で研削される幅は、ダイシングブレードの幅に対応した幅であるので、矢印43の方向にダイシングブレード25を移動してチョッパ加工を繰返す。同様に、第1凹部20において、カバー基板の主表面との境界付近に円弧形状を形成してカバー部材6を完成させる。
上記の説明においては、チョッパ加工は図14において説明する工程のみで行なっている、図12および図13に説明する第1凹部形成工程と第2凹部形成工程において、チョッパ加工を含んでもよい。この場合、図14の工程の一部を省略することができて、工程の短縮化を図ることができる。
この方法を採用することにより、たとえばベース部材1の加工に使用するダイシング装置と同じ装置を用いて第1凹部および第2凹部を形成することができ、新たな加工装置は不要である。また、第1凹部と第2凹部とで深さが異なるが、ダイシング装置の加工プログラムを変更するのみで深さを変化させることができる。チョッパ加工についても1次元的に移動しながら加工を行なうプログラムと加工位置の変更を行なうプログラムとを加工プログラムに含めることで容易に加工を行なうことができる。チョッパ加工によって形成された円弧形状では、角ばった形状に比べて気泡が溜まりにくいという利点を有する。
図12および図13に示す2つの凹部を形成する方法には、上記のダイシングブレードによる加工方法の他にも、エッチングによる方法、サンドブラストによる方法などのカバー基板の一部を除去する方法、あるいは成膜による形成方法がある。それぞれの加工方法を以下に説明する。
エッチングによる加工方法とは、カバー基板27にレジストをパターニングした後に、王水でエッチングすることによって凹部を形成する方法である。第1凹部20と第2凹部21との異なる深さの凹部を形成する必要があるため、レジストのパターンを変えて2回エッチングを行なう。すなわち1回目のエッチングで図12に示すように第1凹部20を形成して、2回目のエッチングで図13に示すように第2凹部21を形成する。この方法は、他の加工方法と比較して一度に大量に生産するバッチ処理が行ないやすく、量産に適している。
サンドブラストによる加工方法とは、カバー基板27にドライフィルムレジストをパターニングし、SiC、Al2O3などの粒子を対象となる面に高圧力で吹き付けることで凹部を形成する方法である。第1凹部20と第2凹部21との異なる深さの凹部をそれぞれ形成する必要があるため、ドライフィルムレジストのパターンを変えてサンドブラストを2回行なう。エッチングによる加工方法と同様に、1回目のサンドブラストで図12に示すように第1凹部20を形成して、2回目のサンドブラストで図13に示すように第2凹部21を形成する。この方式は他の除去による加工方法と比較して加工速度が速いという利点を有する。
成膜による形成方法とは、上記のカバー基板の一部を除去して凹部を形成する方法と異なり、材料となる平板状のカバー基板27の表面に凸部となる薄膜を形成する方法である。つまり、凹部となるべき領域以外に成膜を行なって、凹部を形成する方法である。カバー基板27にレジストをパターニングした後に、第1凹部20と第2凹部21以外の部分に薄膜を形成する。薄膜としては、成膜速度が速くて圧電体基板との熱膨張の大きさが同程度の材料が好ましい。たとえば、Al2O3、SiO2などを材料として用いるのが好ましい。第1凹部20と第2凹部21とのように異なる深さの凹部を成膜によって形成するのは非常に困難であることから、上記のエッチング、サンドブラスト、ダイシングブレードによる研削加工などを併用するのが好ましい。成膜による形成方法は除去による方法の代わりに成膜を行なうため、高精度に膜厚の管理を行なうことが可能であり、残留振動抑制のばらつきの低減に有効である。圧電体基板と熱膨張率が比較的近い材料を選定すると、成膜による圧電体基板との熱膨張率の差による反りも抑止することができる。
間隙部をカバー部材側に設けたことに注目すると、カバー部材より加工工程が比較的多いベース部材に対する追加の加工を一切必要としないので、本発明の適用によって製造歩留まりを低下させることはない。カバー部材に間隙部を形成する工程についても、第1凹部を形成する簡単な加工を追加するのみでよく、ベース部材とカバー部材とのそれぞれの製造時間の差を短縮することができる。
間隙部における振動抑制効果は、間隙部の深さと密接な関係がある。最適な間隙部の深さは一定でなく、インクチャンネルの間隔や深さ、圧電体材料やインクの種類、インクジェットヘッド駆動方法などの変更があった場合に、最適な間隙部の深さが変化することがありうる。このような場合に、既にチャンネル溝、電極、間隙部などの形成が完了している圧電体基板は、できる限り有効に利用する必要がある。しかしながら、間隙部が既に深く形成された圧電体基板の修正などは困難である。仮に、追加の加工により修正可能であっても、修正加工装置への再度の設置、正確な位置決め、修正加工量の正確な管理、加工に伴って生じる屑の処理などを厳密に行なわなければならない。また、加工に伴って生じる屑がチャンネル溝などに混入する問題を解決するために、間隙部をチャンネル溝に先だって形成することが必要となってくるが、間隙部を形成する工程の順序が固定されることとなり、複数の工程間で工程の順序を選ぶ自由度が小さくなるという問題が生じる。よって、ベース部材やカバー部材を作り置きしておくことは好ましくない。このような観点からも、両者の製造速度をできる限り同程度とすることが好ましい。
以上の方法によってカバー基板に形成された第1凹部と第2凹部について、図14に示すようにダイシングブレード25によってチョッパ加工を行ない、円弧形状を凹部に付加して、カバー部材が完成する。その他のベース部材などの製造方法やインクジェットヘッドの組立て方法については、従来の技術によって行なうことができるので、ここでは説明を省略する。
(実施の形態6)
図15〜図20を参照して、本発明に基づく実施の形態6におけるインクジェットヘッ
ドの製造方法について説明する。本実施の形態で製造されるインクジェットヘッドは、実施の形態2において図4に示したインクジェットヘッドである。図15〜図20は実施の形態2の特徴部分であるベース部材を形成する工程を説明した図であり、ベース部材についてカバー部材と接合される面を図中の上側とした斜視図である。
初めに図15に示すように、完成時にチャンネル壁となるべき領域において、チャンネル壁の高さの略中間点で分極方向が相反するように、分極処理を施した圧電体基板26を準備する。もしくは、一方向に分極処理を施した圧電体の基板2枚を、分極方向が相反するように貼り合わせて圧電体基板26を形成してもよい。
準備した圧電体基板26に、図16に示すように圧力波を吸収、減衰させる間隙部となる第1段差部22の加工を行なう。この工程を第1段差部形成工程という。この加工方法については、実施の形態5の第1凹部形成工程で説明した方法と同様に、エッチングによる方法、サンドブラストによる方法、ダイシングブレードによる方法などの基板の一部を除去する加工方法のほか、成膜による形成方法を用いることができる。特に、ダイシングブレードを用いたチョッパ加工による加工方法を含んだ場合、ダイシングブレードの移動方向にはダイシングブレードの外形と略同一の円弧形状が形成されるため、後述するドライフィルムレジストのラミネートの際に、圧電体基板26とドライフィルムレジストとの間に気泡を巻き込みにくいという利点がある。第1段差部22はわずかながら共通インク室を補助する役割も兼ね備えるため、チャンネル溝の幅方向となるべき方向に沿った第1段差部22の長さは、複数のチャンネル溝が形成される全長と同じかそれよりも長く形成されることが好ましい。
次に、図17に示すように第1段差部22を形成した圧電体基板26の上面にドライフィルムレジスト28をラミネートする。圧電体基板26を約80℃に加熱した状態で、ドライフィルムレジスト28を貼りつける。貼りつけはゴムローラを移動させながら加圧して行なう。ドライフィルムレジスト28は、フィルムの厚さが第1段差部22の深さ以上の厚みを有するものを使用することで、第1段差部22の外周の段差についても問題なくラミネートすることが可能である。本実施の形態においては、第1段差部22の深さを10μmとし、前端部30と後端部31とを結ぶチャンネル溝に平行となるべき方向において、第1段差部22の長さを1.35mmとした。
次に、図18に示すように圧電体基板26の上面に等間隔、同一幅のチャンネル溝3を、ダイシングブレードにより形成する。チャンネル溝3は、前端部30から後端部31まで貫通するように形成される。このチャンネル溝3を形成する工程をチャンネル溝形成工程という。この工程の後にチャンネル溝3の内壁、すなわち、チャンネル壁2の側壁の高さ方向全域にわたって電極4を形成する。電極4の形成には2方向からの斜め蒸着やスパッタ法、メッキ法などによって行なう。電極の材質はAl、Cuなどが好適である。この状態では、チャンネル壁の側壁のみならず、ドライフィルムレジスト28の上面にも電極材料の薄膜が形成されている。次に、圧電体基板26の上面にラミネートしたドライフィルムレジスト28を剥離する。この工程によって、ドライフィルムレジスト28の上面にも形成された電極の材料の薄膜を、ドライフィルムレジスト28とともに除去することができる。
次に、図19に示すように、チャンネル溝3において後端部31に、ディスペンサなどを使用して導電性ペーストからなる導電性樹脂9を充填して、加熱硬化させる。この工程を樹脂充填工程という。図19に示す例では導電性樹脂9の帯を形成するように一筆書きの要領で導電性樹脂9を充填している。この状態では全てのチャンネル溝3同士が互いに導通している。導電性樹脂9の充填に関しては、それぞれのチャンネル溝3に対して個別に導電性樹脂9を充填してもよい。
次に、第2段差部23をダイシングブレードによって形成する。図20に示すように、チャンネル壁2の長手方向と垂直な方向にダイシングブレード25の回転軸を向けるようにダイシングブレード25を配置する。この向きで、ダイシングブレード25を矢印44および矢印45を含む平面内で移動させて、チャンネル溝3内に導電性樹脂9を充填した圧電体基板26に第2段差部23を形成する。1回で研削される形状はダイシングブレード25の幅に対応する溝の形状であるが、ダイシングブレード25の中心軸の方向に移動して同様の研削を繰返す。この工程を第2段差部形成工程という。この際、第1段差部に近接する領域においては、ダイシングブレード25を矢印45の方向に上下させてダイシングブレード25の外周の形状を圧電体基板に転写させる加工(チョッパ加工)によって第2段差部23を形成する。第2段差部形成工程によって導電性樹脂9とチャンネル壁2の一部を除去して第2段差部23を形成するとともに、それぞれのチャンネル溝3同士の絶縁性を確保する。すなわち、第2段差部23の形成と余分な導電性樹脂の除去とを同時に行なってベース部材1が完成する。このように第2段差部の形成、円弧形状の形成、余分な導電性樹脂の除去とを工程を分けずに一つの工程で行なうことができるため、工程数の削減に寄与する。本実施の形態においては、第2段差部の深さを150〜200μm程度とした。
第1段差部と第2段差部とにチョッパ加工を含んで研削を行なう場合、共通インク室の一部となる第2段差部の領域のうち第1段差部との接続点付近と、第1段差部のうち前端部側においてダイシングブレードの外周面に対応する円弧形状を容易に形成することができる。この構造を有するインクジェットヘッドはインク流路において、角となる部分が減少してインクの流れがスムーズとなる。よって、気泡の滞留を防止することができて、インクチャンネルへの良好なインク供給が可能となる。
もう一つの特徴的な形状を有するカバー部材については、その形状が平板状であり、特別な加工を必要としないのでここでは説明を省略する。ノズル板やカバー部材などのその他の部品の製造方法についても、従来の技術によって製造することができるのでここでは説明を省略する。
間隙部をベース部材に設けることに注目すれば、間隙部の加工をチャンネル溝の加工と同一の装置で行なうことができるため、新たな設備投資の必要はない。また、カバー部材を凹部のない平板状とすることができて、カバー部材の大幅なコストダウンが可能であるという利点を有する。特に、カバー部材を外部から調達している場合には、カバー部材の製造工程に変更がないので、発注ミスに起因した製造時間のロスなどを防止することができる。
完成したベース部材1とノズル板16とは接着剤によって接着されることや、ベース部材1の後端部31には、チャンネル壁2の側面に形成された電極4と外部電極を導通させるためにACFを介して接続するなどの組立て方法については従来の技術によって行なうことができるので、ここでは説明を省略する。
上述した実施の形態5および実施の形態6においては、主に、カバー基板または圧電体基板の一部を除去して間隙部を形成する方法を説明した。一部を除去する工程において、間隙部に該当する第1凹部もしくは第1段差部の深さを形成されるべき間隙部の深さより深く形成しておき、インクジェットヘッドの組立ての際にパリレン膜などの有機保護膜をインクジェットヘッドの内部に成膜することで間隙部の大きさを調整することが可能である。この方法によって、カバー部材やベース部材の製造時には、間隙部となる第1凹部や第1段差部を本来必要な深さより深く形成することができる。よって、カバー部材とベース部材との接着時などにおいて接着剤が間隙部に流入して間隙部が埋まってしまったり、
間隙部の大きさが要求寸法より小さくなったりすることを防止できる。この結果、カバー部材とベース部材とを接着する工程において、接着剤の量を高精度に管理する必要がなくなり、製造工程の簡略化や高速化が可能となる。さらには、間隙部の大きさを調整する薄膜として、パリレン膜などの有機保護膜を採用すると、有機保護膜自身に制振作用があるために、圧力波を吸収して残留振動の減衰にも寄与する。
上記のインクジェットヘッドおよびその製造方法については、個別の実施の形態を例示したが、これらについてはそれぞれ独立したものではなく、複合させてもよい。たとえば、実施の形態1の第1凹部と実施の形態3の貫通溝とを併用して残留する圧力波を減衰させてもよい。
その他、インクの供給口については、インクジェットヘッドの後端部に接合されるマニホールドに形成されているが、カバー部材を貫通する穴などであってもよい。また、間隙部の形成は、1個ずつインクジェットヘッドを製造する場合について説明したが、ベース部材あるいはカバー部材を一括して複数個製造するバッチ処理に適用することもできる。また、チャンネル壁に対する分極処理は、チャンネル壁の高さ方向の略中央で分極方向が相反するように施されているが、チャンネル壁の高さ方向に対して一方向に分極処理が施されており、チャンネル壁の高さ方向に対して上半分の領域に電極が形成されているインクジェットヘッドでもよい。さらに、上述の圧電材料を用いたシェアモード変形を行なう方式のインクジェットヘッドに限られず、たとえばサーマルジェット方式などの、インクの吐出原理が異なる方式を採用したインクジェットヘッドについても、インクの流路の基本構成(インクチャンネルなど)が同じであれば本発明を適用することができる。
(実施の形態7)
図21から図34を参照して本発明に基づく実施の形態7におけるインクジェットヘッドの製造方法を説明する。本実施の形態における製造方法は、本願発明のインクジェットヘッドのうち実施の形態2において図6に示したインクジェットヘッドの製造方法である。
本発明におけるインクジェットヘッドの間隙部の深さは、吐出性能に対して非常に敏感であり、間隙部の深さの管理が求められる。実施の形態2におけるインクジェットヘッドについて具体的に例示すると、第1段差部の深さは5μm以上20μm以下の範囲内であって、その深さの許容精度が10μm以下、より望ましくは許容精度が5μm以下であることが求められる。製造時においては、間隙部についての高精度な生産管理を行なう必要がある。さらに、この許容精度を維持しつつ、大量生産が可能で製造費の増大につながらない方法を確立する必要があった。本実施の形態における製造方法は、高精度なインクジェットヘッドを安価に製造することができる方法である。以下に本発明に基づくインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
図21に示すように、初めにベース部材となるべき圧電体基板26を準備する。圧電材料からなる厚板51と薄板52とを、矢印40,41に示すように互いに分極方向が対向するように接着剤で接合して圧電体基板26を形成する。薄板52を貼りつけた側がベース部材の上側となるべき側である。薄板52には、後に形成されるチャンネル壁の高さの半分と、後の工程において研削される厚さとを足し合わせた厚さのものを使用する。厚板51には、後に形成されるチャンネル壁の高さの半分より十分に大きな厚さを有するものを使用する。
図22に示すように、インクチャンネルを構成するチャンネル溝3を薄板52の側から形成する。圧電体基板26の薄板52の側から、高速回転させている溝加工用ダイシングブレード60を押し当てて研削を行なう。研削する深さは一定にして、溝加工用ダイシン
グブレード60を矢印70の方向(図22中に示すX方向)に相対的に移動させてチャンネル溝3を形成する。圧電体基板26の一方の端面から対向する他方の端面まで連続してチャンネル溝3を形成する。以下、本明細書においては、研削対象物に対して一定の高さ(Z方向の位置)を維持しながら、ダイシングブレードを相対的に研削方向に移動させて研削を行なう方法を「水平送り加工」という。一つのチャンネル溝3が形成されたら、チャンネル溝3の長手方向に垂直な方向(図22中に示すY方向)に、所望のピッチの分のみ移動させ、再び同様の水平送り加工を行なうことにより、2つ目のチャンネル溝3を形成する。
以後、同様のダイシング加工と移動とを繰返すことにより、圧電体基板26に等間隔のチャンネル溝3を複数形成する。本実施の形態においては、説明の便宜上、チャンネル溝3を5本形成しているのみだが、実際には、より多く形成されていてもよい。チャンネル溝3が形成されると同時にチャンネル壁2も形成される。本実施の形態においては、ダイシング装置DAD562(株式会社ディスコ製)を用いて、厚さ70μmのダイシングブレードを40000rpmで回転させながら、相対研削速度30mm/s、チャンネル溝のピッチ169μmで水平送り加工を行なった。以下、チャンネル壁の長手方向を「X方向」、X方向に垂直な方向であって圧電体基板の主表面に平行な方向を「Y方向」、チャンネル壁の高さ方向を「Z方向」という。
次に、チャンネル溝3の側面に電極を成膜する。電極となる電極材53の成膜は、真空蒸着による斜め蒸着法、スパッタリング法、無電界メッキ処理法、スパッタリングとメッキとを併用する方法などの既存技術で形成することができる。本実施の形態においては、RF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いて、チャンネル壁2の高さ方向(図22中に示したZ方向のうち図中の上から下への向き)に銅をスパッタリング法により成膜する(図示せず)。チャンネル壁2の駆動に必要な電極材は、チャンネル壁2の側面のみであるが、チャンネル壁2の側面のほかにチャンネル壁2の上面およびチャンネル溝3の底面にも、電極材53が成膜される。チャンネル壁2の上面の電極材53は、チャンネル壁2の駆動に対して不要であるために後に除去される。スパッタリングに際して、雰囲気ガスはアルゴン、雰囲気圧は1.33Pa(10mTorr)、スパッタレート約5Å/sの条件下で成膜を行なった。チャンネル壁2上面は約3μm、チャンネル溝3の側面の上方には厚さ約1μm、チャンネル溝3の側面の下方およびチャンネル溝の底面には約0.3μmの銅膜が成膜される。
次に、チャンネル溝3の側面に形成した電極材53を外部電極と電気的に接続するための導電性樹脂9をチャンネル溝3に配置する。図23に示すように、インクジェットヘッドの後端部となるべき部分に、ディスペンサー54を用いて、矢印71に示すように、Y方向に導電性樹脂9を配置する。本実施の形態においては、導電性樹脂9として銀ペースト(数〜十数μm粒の銀フィラーをエポキシ系接着剤中に混練したもの)を用いている。チャンネル溝3の内部に導電性樹脂9を沈降させたのち、オーブンを用いて100℃程度に加熱して焼成硬化させる。硬化した銀ペーストは導電性を有するものになる。なお、図23はチャンネル溝3が5本形成されたインクジェットヘッドのベース部材となるべき圧電体基板26が示されており、後に導電性樹脂が充填された位置で切断されて、その切断面がインクジェットヘッドの後端部となる。
ここまでの工程によって、チャンネル溝3が形成され、電極材53と導電性樹脂9が配置された圧電体基板26は反りが生じている。この反りは、後述する間隙部となるべき第1段差部の形成工程において、第1段差部の加工誤差を大きくする原因となり、間隙部の精度を悪くする。図24に圧電体基板26の反りの状態を時系列的に説明する図を示す。図24は圧電体基板26について、チャンネル溝3の長手方向に垂直な平面(YZ平面)で切断した断面図であり、(a)はチャンネル溝3の形成後、(b)は電極材53の配置
後、(c)は導電性樹脂9の配置後の図をそれぞれ模式的に表したものである。圧電体基板26は、チャンネル溝3の加工側が凹となるように反りを生じている。チャンネル溝3の形成後において反りはほとんど発生していないが、電極材53の配置後において反りが発生し、導電性樹脂9の配置後にはさらに反りが大きくなっている。
電極材53の形成工程においては、チャンネル壁2の上面に形成される電極材53およびチャンネル壁の側面に形成される電極材53の冷却時に、膜応力が収縮方向に働くため、図24(b)に示すようにチャンネル溝3の加工側が凹になるように圧電体基板26が反る。さらに、導電性樹脂9の配置の工程においては、PZT(チタンジルコン酸鉛)からなる圧電体基板26に比べて、銀ペーストからなる導電性樹脂9の熱膨張係数が大きいため、また、導電性樹脂9の硬化収縮が生じるため、図24(c)に示すように、さらに反りが大きくなる。この中で、特に、チャンネル壁2の上面に形成された電極材53の圧縮応力とチャンネル壁の上面を含む面より上方に配置された導電性樹脂9の圧縮応力とが大きく作用して、圧電体基板26が反る。この反り量は、圧電体基板26の厚さ、導電性樹脂9の材料や焼成温度、導電性樹脂9の埋め込み方法、または電極材の厚さなどに依存するが、概ね数十〜数百μmである。
反り以外の問題として、圧電体基板に厚さのむらが生じる問題がある。厚さのむらも、第1段差部の形成において加工精度を悪化させる要因になる。圧電体基板26の厚さのむらを説明する図を図25に示す。図25(a)および(b)はチャンネル溝3を形成した圧電体基板26の断面図である。厚板51および薄板52の板厚は、それぞれ(a)と(b)とで同一であるが、接着層55の厚さが異なることに起因して、圧電体基板26の厚さの製作誤差99が生じている。特に、薄板52を百〜二百μm程度の厚さにすると、厚板51と薄板52との接着時に薄板52自体が割れる恐れがあるために、2枚の基板同士を十分に圧縮して接着することができないという問題がある。よって、厚さの精度の高い厚板51と薄板52とを準備しても、接着層55の厚さのむらによって、圧電体基板26の厚さにもむらが生じることがある。この厚さのむらは圧電体基板26の主表面の面積が大きくなるほど大きくなり、接着層55の厚さのむらに応じて数〜十数μmまでになる場合がある。
圧電体基板26の厚さにむらが発生すると、以下のような不具合が発生する。
すなわち、チャンネル溝3は図22に示したようにダイシングブレードを用いて形成するが、この際、基板裏面56を真空チャックで固定して、基板裏面56を基準としてチャンネル溝3の加工深さを決定する。よって、図25に示した圧電体基板26の厚さの製作誤差99が直接チャンネル溝3の深さの製作誤差となる。たとえば、図25においては、(a)に示す圧電体基板26より(b)に示す圧電体基板26の方が厚いために、チャンネル溝3の深さは(b)に示す圧電体基板26の方が深くなる。インクの吐出性能に関わるチャンネル壁2の高さは、チャンネル溝3の底面からカバー部材が接合される基板表面57までの長さであるために、製作誤差99が直接チャンネル壁2の高さの誤差となり、インクの吐出性能に影響する。
また、後の工程において、間隙部となるべき第1段差部をダイシングブレードで形成するが、チャンネル溝3の形成と同様に基板裏面56を基準にしてチャンネル壁2を研削すると、圧電体基板26の厚さのむらが第1段差部の深さに直接影響して、間隙部の残留振動を抑制する効果に悪影響を与える場合がある。たとえば、図25においては、(a)に示す圧電体基板26より(b)に示す圧電体基板26の方が厚いために、基板裏面26を基準に研削を行なうと、後に形成される第1段差部の深さは(b)に示す圧電体基板26の方が深くなり、それぞれのインク吐出性能が異なるインクジェットヘッドとなる。
このような、圧電体基板の反りの問題と厚さのむらの問題とを解決するために、本発明
に基づく製造方法では、圧電体基板の反りを真空チャックで矯正した状態で、不要な電極材を除去する第1研削工程と、圧電体基板を所望の厚さに全面研削を行なうとともに間隙部となる第1段差部を形成する第2研削工程とに工程を分けている。換言すると、必要な研削すべき厚さに対して、研削の工程を2段階に分けて第1研削工程で研削する深さは小さくなるように研削を行なう。さらに間隙部の深さは全面研削を行なった際のダイシングブレードの高さを基準に定める。以下に製造方法を詳細に説明する。
第1研削工程においては、不要な導電性樹脂を研削するとともに第2段差部を形成し、さらに、圧電体基板の上面の不要な電極材を除去する。本来、電極はチャンネル壁の側面のみに必要であり、チャンネル溝の底面およびチャンネル壁の上面を含む面の電極材は不要である。除去する電極材は、圧電体基板の上面であったチャンネル壁の上面を含む面に形成された電極である。図26および図27に第1研削工程の説明図を示す。図26および図27はチャンネル壁2の幅方向の中心点において、チャンネル壁2の長手方向に切断した断面図である。
まず、圧電体基板26の下面を真空チャックで固定して、生じていた反りを矯正する。真空チャックによる固定は、第1研削工程から第2の研削工程までの全ての研削工程において行なわれる。矯正が行なわれて圧電体基板26の下面が平面になるような状態が保持される。図26に示すように、チャンネル壁2の側面と第2ダイシングブレード61の側面とが平行になるように向きを定める。矢印72に示すように、導電性樹脂9の真上から、Z方向に第2ダイシングブレード61を圧電体基板26に押し当てて研削を行なう。この際、チャンネル壁2の高さ方向のみダイシングブレードを移動させて、圧電体基板26の不要な電極材53の一部と導電性樹脂9の一部とを除去する。すなわちチョッパ加工を行なって不要な電極材53の一部と導電性樹脂9とを除去する。この際に、後に共通インク室を構成する第2段差部23が同時に形成される。研削するZ方向の深さは導電性樹脂9の一部が除去されて圧電体基板26の一部が研削される深さである。
第2ダイシングブレード61をZ方向に上昇させたのち、Y方向(チャンネル壁2の長手方向と垂直な方向)に第2ダイシングブレード61を移動して、同様の研削を繰り返す。導電性樹脂9が形成されている領域全体にわたって研削を行なう。図23および図26に示す圧電体基板26のように、複数列の導電性樹脂9が充填されている場合、一の列の導電性樹脂9の研削が完了したら、X方向(チャンネル壁2の長手方向)に第2ダイシングブレード61を移動したのち、他の列の導電性樹脂9の研削を行なう。図23および図26においては、一枚の圧電体基板に2列の導電性樹脂9が形成されており、それぞれの列について研削を行なう。本実施の形態においては、研削を行なう際のZ方向の速度は1mm/sとした。
次に図27に示すように、チャンネル壁2の側面と第2ダイシングブレード61の側面が平行になるようにダイシングブレードを配置して、一定のZ方向の高さを維持しながら、矢印73に示すように圧電体基板26の一の端面から他の端面までX方向に水平送り加工を行って、チャンネル壁2の上面を含む面に配置されている電極材53を除去する。この後、Y方向に、ダイシングブレードを移動させ、同様の水平送り加工を繰返して、チャンネル壁2の上面を含む圧電体基板26上面全体を研削する。水平送り加工においては、圧電体基板26と第2ダイシングブレード61との相対移動速度は20mm/s、Y方向のピッチを2mmとして圧電体基板26の上面を複数回走査させた。このように、チャンネル壁上面の電極材料を除去する工程においては、チャンネル壁の長手方向に垂直な方向に研削を行なうより、チャンネル壁の長手方向に研削を行なう方が、研削面に発生するチッピングを抑制して研削速度を上げることができ、製造効率を向上させることができる。
第1研削工程を行なうことにより、圧電体基板の上面にある不要な電極材53および不
要な導電性樹脂9は除去されて、図24を用いて説明したような導電性樹脂9の圧縮応力とチャンネル壁2の上面に形成された電極材53の圧縮応力とによって発生した圧電体基板26の圧縮応力は減少し、圧電体基板26の反りは非常に小さくなる。特に、導電性樹脂9による圧縮応力は他の応力に比べて非常に大きく、導電性樹脂9の一部を除去した後に、圧電体基板26の上面全体の研削を行なうことが好ましい。この方法を採用することによって、圧電体基板26の圧縮応力が小さくなった状態で不要な電極材53の除去を行なうことができ、研削の加工精度を向上させることができる。
また、ダイシング装置で真空チャックを行なうことによって、圧電体基板26は真空チャック面に沿った状態に矯正されるが、圧電体基板26の全ての位置において、真空チャック面に完全に沿っている訳ではなく、圧電体基板の加工表面は数〜数十μmのうねりが生じている。しかし、圧電体基板26の上面の全面を研削することによって、このうねりも除去してチャンネル壁上面を高精度に平面状にすることができる。
また、予め圧電体基板のうち薄板の上面にドライフィルムレジストなどによりマスキングを行ない、電極材を形成後、アセトンなどの有機溶剤や金属腐食系無機溶剤を用いてチャンネル壁上面の電極剤を除去する方法と比較して、本発明の製造方法は、マスキング材の貼りつけやその剥離が不要であり、工程が比較的容易である。マスキング材を剥離するための有機溶剤は環境に有害であるが、本実施の形態における製造方法においては、剥離が不要であるので有機溶剤を用いる必要はない。また、マスキングを剥離するための金属腐食系無機溶剤は、チャンネル壁上面の不要な電極材を腐食するばかりでなく、チャンネル壁側面の必要な電極材の一部を腐食する恐れがあるが、本実施の形態の製造方法においては、チャンネル壁上面の不要な電極材のみを確実に除去することができる。さらに、マスキングを行なう方法は、マスキング材の剥離の際に剥離片がチャンネル溝もしくはチャンネル壁の上面に残って製品不良となり、歩留まりが低下する恐れがあるが、本実施の形態においては、不要な電極材の除去を乾式で行なうために、研削片がインクジェットヘッド内に残る可能性は非常に小さい。このようにチャンネル壁上面の電極材をダイシングブレードで研削して除去することによって、安価で歩留まりが向上したインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
本実施の形態の、第1研削工程で用いたダイシング加工には、ダイシング装置DAD562(株式会社ディスコ製)を使用して、第2ダイシングブレードとして、厚さ2mm、粒度#600のダイシングブレードを5000rpmで回転させて研削加工を行っている。第1研削工程においては、金属である電極材53を研削するため、目詰まりが生じやすい。一方で、第2ダイシングブレードに表面粗さが粗いものを使用するとチッピングが発生し易くなる。ダイシングブレードの粒度を変化させて、ダイシングブレードの粒度に対する目詰まりおよびチッピングの発生の関係を調査した結果を表3に示す。
調査結果より粒度を下げていくと♯200でチッピングが発生する。よって、第2ダイシングブレードの粒度は♯400以上が好ましい。逆に粒度を上げていくと♯1000以上で目詰まりが発生する。よって、第1研削工程に用いる第2ダイシングブレードの粒度は、♯800以下が好ましい。これらの条件を満足する♯400以上♯800以下のダイ
シングブレードを用いることによって、目詰まりを抑制してツルーイング作業回数を少なくすることができ、なおかつ、研削面に生じるチッピングを抑制することができる。
第1研削工程においては、金属物質を研削するために、ダイシングブレードは5〜10μm程度摩耗する。ダイシングブレードが摩耗しながら加工するために、圧電体基板の厚さに差が生じるが、第1研削工程においては、圧電体基板上の不要な電極を除去することが主目的であり、厚さに差が生じていても、次の第2研削工程で厚さを調整するため差し支えない。なお、第1研削工程を、ダイシング装置の自動プログラムによって、一連の研削を自動で行なうことも可能である。
次に、表面粗さが第2ダイシングブレードより細かい第3ダイシングブレードを用いて第2研削工程を行なう。第2研削工程は、圧電体基板の上面を再度研削し、圧電体基板の厚さを微調整するとともに、真空チャックしている基板裏面に対して平行度の高い基板表面を形成する工程と、研削された基板表面を基準として間隙部となるべき第1段差部をチャンネル壁の上面に形成する工程とを含む。
圧電体基板26を真空チャックで矯正したまま、図28に示すように、第3ダイシングブレードの側面とチャンネル壁2の側面とが平行になるようにして、X方向に第3ダイシングブレード62を移動させる水平送り加工を行なう。圧電体基板26の一の端面から他の端面まで研削が完了したら、Y方向に一定量のみ移動させ、同様の水平送り加工を繰返す。研削は基板表面の全面にわたって行ない、圧電体基板26が所望の厚さになるように研削を行なう。この際、チャンネル壁2の長手方向に垂直なY方向に水平送り加工を行なう方法もあるが、チャンネル壁2の長手方向に平行な方向に水平送り加工を行なった方が、研削面のチッピングの発生が少なく、さらに、チャンネル壁2にマイクロクラックなどの損傷を起こすことも少ない。よって、高速で精度の高い研削加工が可能であり、チャンネル壁2の長手方向に研削を行なう方が好ましい。本実施の形態では、圧電体基板26と第3ダイシングブレード62との相対移動速度は20mm/s、Y方向へのピッチ(Y方向への1回の移動量)を2mmとして圧電体基板上面の全面を研削した。この工程において研削した圧電体基板の上面の一部が、後にカバー部材と接合される接合面となる。
この方法を採用することにより、圧電体基板同士の接着層の厚さのむらに対してもチャンネル壁の高さを一定にすることができ、吐出性能のばらつきを抑制したインクジェットヘッドを製造することができる。
上面研削工程が完了した圧電体基板26の斜視図を図29に示す。圧電体基板26には、チャンネル溝3が形成され、チャンネル溝3のベース部材の後端部となるべき位置に導電性樹脂9が充填され、チャンネル壁2の側面には電極4が形成されている。圧電体基板26の厚さは高精度に設計値と同一の厚さになっており、圧電体基板26の上面には、第2段差部23が形成されている。
次に、前の工程にて形成した圧電体基板26の上面(全面研削を行なった面)に対して、間隙部となるべき第1段差部を形成する。間隙部は、ベース部材の後端部となるべき位置を基準に所望の長さのみ形成する。図30は、第1段差部を形成する工程の説明図であり、圧電体基板26をYZ平面で切断した断面図である。本実施の形態においては、前の工程と同じ第3ダイシングブレード62を用いて研削を行なう。第3ダイシングブレード62の側面が、Y方向と平行になるように(チャンネル壁2の長手方向と垂直になるように)研削を行なう。初めに矢印74に示すように、チャンネル壁2の高さ方向に第3ダイシングブレード62を移動させ、チャンネル溝3が形成されていない圧電体基板26の周辺部に押し当てる。すなわち圧電体基板26周辺部においてチョッパ加工を行なう。所望のZ軸の高さまで研削を行ないながら、第3ダイシングブレード62を下降させたのち、
矢印75に示すようにY方向に水平送り加工を行なって、圧電体基板26の反対側の周辺部まで研削を行なう。この研削面が第1段差部となり、研削高さは、全面研削を行なった面を基準として定められる。その後、矢印76に示すようにZ方向に第3ダイシングブレード62を移動させて、圧電体基板26から遠ざける。
矢印74,75,76に示す研削が完了したら、第1段差部の大きさに応じて、X方向に第3ダイシングブレード62を移動させ、同様の研削を繰返して第1段差部を形成する。本実施の形態においては、圧電体基板と第3ダイシングブレードの相対移動速度は5mm/sとして第1段差部を形成した。このように、チョッパ加工と水平送り加工とを組み合わせることにより、第1段差部の上面におけるチッピングの発生を抑制することができ、研削速度を上げた加工によって生産性を向上させることができる。また、インクジェットヘッド毎またはインクチャンネル毎に第1段差部の形状が異なることを防止して、高精度な吐出性能を有するインクジェットヘッドを製造することができる。
第1段差部は後にカバー部材をチャンネル壁の上面に貼り合わせることにより、間隙部となる。第1段差部を形成する際の、第3ダイシングブレード62の研削深さ(図30におけるZ方向の高さ)は間隙部の深さに直接影響する。本実施の形態においては、第1段差部を形成する際の第3ダイシングブレード62のZ方向の高さは、図28に示す前の工程におけるチャンネル壁の上面全面を形成した第3ダイシングブレード62のZ方向の高さを基準として、第1段差部の深さのみ第3ダイシングブレード62を下降させて、研削を行なっている。
このように、第1段差部を形成する際に、圧電体基板上面の全面研削を行なった研削面をZ軸方向の高さの基準として、相対的にダイシングブレードを移動させて第1段差部を形成することにより、間隙部の深さを定めるチャンネル壁の高さと第1段差部の深さとを精度よく形成することができる。具体的には、圧電体基板上面全体の研削と第1段差部の形成とを同一のダイシング装置を用いて行ない、上面研削工程における基板裏面(真空チャックステージ)からの高さが設定されているZ軸の高さの設定値Zaと、第1段差部の研削工程におけるZ軸の高さの設定値Zbとの差、|Za−Zb|が第1段差部深さとブレード摩耗の補正値との和になるようにダイシング装置の高さの設定値を定める。接合面である全面研削面を基準面にして第1段差部を形成することにより、間隙部の深さの加工精度は機械装置の精度にのみ依存するため、再現性よく間隙部の深さを管理することが可能となる。よって、インクチャンネル毎または、インクジェットヘッド毎の吐出性能のばらつきを低減した、高品位な印刷を行なえるインクジェットヘッドを製造することができる。
なお、本実施の形態では、全面研削後に間隙部の研削を行っているが、先に第1段差部の研削を行なって、後に圧電体基板の上面の全面研削を行っても同様の効果が得られる。すなわち、圧電体基板の上面全体を第3ダイシングブレードで研削してから、チャンネル壁の上面を基準にして第1段差部を形成したが、先に第1段差部を形成したのちに、第1段差部の上面を基準面にして、第3ダイシングブレードの高さを定め、圧電体基板上面全体の研削を行なっても同様の効果が得られる。
また、第2研削工程においては、同一のダイシング装置(研削装置)を用いており、ダイシングブレードの高さを第1段差部の深さの分のみダイシング装置の設定を変更して研削を行なっている。この方法を採用することにより、後に間隙部となる第1段差部の深さの製作誤差は、ダイシング装置の動作誤差のみとして、深さが高精度な間隙部を形成することができる。さらに、第2研削工程を通じて同一の装置で研削を行なうことより、設備費用が少ない上に製造時間を短縮することが可能である。よって、吐出性能のばらつきを抑制した高品位印刷が可能なインクジェットヘッドを安価で製造することができる。以上
の工程により、圧電体基板から第1段差部の深さの精度が高いベース部材を製造することができる。
第1段差部22が形成された圧電体基板26の拡大斜視図を図31に示す。第1段差部22は第2段差部23がその中央に配置されるように形成されている。また、水平送り加工にチョッパ加工を組み合わせることによって、Y方向に第1段差部22が貫通しないように形成する。第1段差部がY方向に貫通しないように形成することにより、インクジェットヘッド内部のインクが間隙部を通じて外部へ漏れることを防止する。
ベース部材を大量生産する場合には、1枚の圧電体基板26から多くのベース部材を製造する。たとえば、図32に示すように、1枚の圧電体基板にチャンネル溝3を多く形成し、さらに導電性樹脂9を複数列形成する。図32は、チャンネル溝3が5本形成されたベース部材を製造するための圧電体基板を製造例として挙げてあり、図32に示す圧電体基板1枚から16個のベース部材が形成される。この圧電体基板に対して第1段差部を形成する工程の説明図を図33に示す。図33はチャンネル壁の長手方向に垂直な平面で切断した断面図である。図30で説明した研削方法と同様の研削加工を2回繰返している。すなわち、矢印74に示すようにチョッパ加工で研削を開始し、矢印75に示すように水平送り加工で第1段差部を形成し、矢印76に示すように第3ダイシングブレードを遠ざける。その後、矢印77に示すようにY方向に移動して、隣のベース部材となるべき領域にも同様の方法で第1段差部を形成する。その後に、X方向(図33においては、紙面に垂直な方向)に移動して同じ研削を繰返して第1段差部を形成する。このように、多くのベース部材を得るための大きな圧電体基板に対しても、連続して第1段差部を形成することが可能である。
第1研削工程においては、金属物質に起因する圧電体基板の反りを矯正した状態で不要な導電性樹脂を除去して膜応力を緩和し、膜応力が緩和された状態で圧電体基板の下面を基準に上面の機械研削を行なうことができ、圧電体基板の厚さを均一にすることができる。また、薄板と厚板とを接着した際に生じた圧電体基板の厚さのむらなども同時に除去することができる。第2研削工程においては、カバー部材と接着されるべき圧電体基板の上面の再研削と、圧電体基板の上面を研削高さの基準とした第1段差部の研削とを行なうことによって、深さのばらつきが少ない高精度な間隙部を形成することができ、インクの吐出のばらつきが少ない高性能なインクジェットヘッドを製造することができる。
第1段差部22を形成する際の水平送り加工は、チャンネル溝3の長手方向に直交するY方向にダイシングブレード62を移動させて行なっている。(図30参照)インクを吐出する圧力波は、チャンネル壁の上面とカバー部材とが接合されるアクティブ領域にて発生する。よってアクティブ領域の長手方向の長さはインク吐出の性能に直接関与するために、精度よく定める必要がある。第1段差部が形成される領域はアクティブ領域外であり、製造工程においては第1段差部の長さに従属して、アクティブ領域の長さが定まる。よって、第1段差部の長手方向の長さは精度よく加工する必要がある。
チャンネル壁の長手方向に水平送り加工を行なって第1段差部を形成した場合、チャンネル壁の長手方向に第3ダイシングブレードの外周形状(円弧形状)を転写した断面となる。このような形状の第1段差部でも残留振動の低減には同等の効果を発揮するが、チャンネル壁の長手方向に垂直な方向(Y方向)に水平送り加工を行なうほうが、より厳密に第1段差部のチャンネル壁の長手方向に平行な長さを定めることができる。詳しくは、チャンネル壁の長手方向に垂直な方向に水平送り加工を行なうことにより、アクティブ領域Aと領域Cの境界の形状を急峻な段差(階段状)にしたインクジェットヘッドとすることができる(図6参照)。よって、領域Cのチャンネル壁の長手方向に平行な長さを精度よく加工することができ、それに伴って、アクティブ領域Aのチャンネル壁の長手方向に平
行な長さの精度も向上する。このように、インク吐出に寄与するアクティブ領域Aの長さが均一で、さらに、インクチャンネル毎の残留振動を低減する性能が均一な高性能のインクジェットヘッドを提供することができる。
本実施の形態においては、第3ダイシングブレードとして、ダイシング装置DAD562(株式会社ディスコ製)を使用して、厚さが2mm、粒度が#1000のダイシングブレードを5000rpmで回転させた状態で研削加工を行なった。なお、第2研削工程で使用するダイシングブレードは、機上修正(たとえば放電修正)を行ない、真空チャック面に対するダイシングブレード外周面の平行度が高いことが望ましい。
アクティブ領域Aとなるチャンネル壁の上面は第2研削工程において形成され、圧電体基板26の全面研削が行なわれた面がカバー部材との貼り合わせ面となる。この貼り合わせ面の粒度は、研削を行なう第3ダイシングブレードの粒度によって異なり、カバー部材との接着層厚さに影響してインクの吐出性能に影響を与える。この観点からは、第3ダイシングブレードの粒度は大きく表面粗さは細かい方が好ましい。さらに、第1段差部を形成する工程において、チャンネル壁の上部にチッピングが発生することがあった。チッピングは、ダイシングブレードの粒度が小さく表面粗さが粗いほど発生しやすく、研削速度が大きい程多く発生する傾向がある。この観点からも、ダイシングブレードの粒度は大きく表面粗さは細かい方が好ましい。しかし、ダイシングブレードの表面粗さを細かくするとダイシングブレードの目詰まりが生じ易くなるという問題がある。第2研削工程において使用する第3ダイシングブレードの粒度を変更させて、吐出性能、ブレードの目詰まり、チッピングが発生する速度の限界を調査した結果を表4に示す。
ダイシングブレードの粒度が♯400以下においては、インクの吐出性能が不十分であり、また、研削速度を下げてもチッピングが発生した。ダイシングブレードの粒度が♯600の場合は、インクの吐出性能は確保でき、目詰まりも起こらなかったが研削速度が低速でもチッピングが発生した。ブレード粒度を大きくしていくと、研削結果は良好であったが、#3000以上では部分的に目詰まりが発生していた。この調査の結果から、第2研削工程で用いるダイシングブレードの粒度は#800以上が好ましく、より好ましくは略#1000である。粒度が♯1000程度のダイシングブレードを選定することにより、吐出性能、ダイシングブレードの目詰まりの防止およびチッピングの抑制に対して優れた効果を発揮することができる。
このように本実施の形態においては、研削方法として機械的な研削を行なっている。機械的な研削加工方法以外に、サンドブラストによる加工方法や、ケミカルエッチングによる加工方法などがある。しかし、機械的な研削加工方法と比較して、サンドブラストによる加工方法は、最適条件で加工を行なわないと基板にひびが入る、および、加工の深さの
精度を一定にすることが難しいなどの欠点を有する。ケミカルエッチングによる加工方法は王水を用いるため処理設備が複雑になる、および、エッチングを行なう範囲を超えた領域も腐食してインクジェットヘッドの特性を劣化させる可能性があるなどの欠点を有する。機械的な研削加工を行なうことによって、精度よく容易に圧電体基板などを除去する加工を行なうことができる。
本実施の形態においては、不要な導電性樹脂および不要な電極材を除去する第1研削工程と、圧電体基板の上面全体を再研削してチャンネル壁の高さの調整を行なってさらに第1段差部を形成する第2研削工程とに分けて研削を行なっている。第1研削工程では金属物質を研削するためにダイシングブレードの目詰まりや摩耗が大きい。よって、表面粗さの大きいダイシングブレードを用いた方が有利である。それに対して第2研削工程においては、第1段差部およびチャンネル壁の上面となるべき面を形成するために、表面粗さの小さいダイシングブレードを用いる方が有利である。研削を第1研削工程と第2研削工程とに分けることによって、それぞれの工程に最適なダイシングブレードを用いることができる。また、全ての研削工程にダイシングブレードを用いることによって、上面研削工程や、第1段差部を形成する工程など全ての研削を同一のダイシング装置で行なうことができる。したがって、新たな設備を必要とせず、低コストでインクジェットヘッドを製造することができる。また、加工が容易で、簡単な設備で加工を行なうことができる。よって、生産コストを抑え、なおかつ、生産歩留まりを向上させることができる。さらに、圧電体基板に大きなものを採用すると、多くのベース部材を一度に製造することができ、大量生産も可能である。
圧電体基板26への加工が完成したら、圧電体基板26にカバー部材6を接着固定したのち、所望の大きさに切断して、インクジェットヘッドチップ(以下、ベース部材とカバー部材とを接合した部品を「インクジェットヘッドチップ」という。)を形成する。図34は、図31に示した圧電体基板26にカバー部材6を取付けた状態を示す図である。カバー部材6を圧電体基板26の上面にエポキシ系接着剤を用いて貼り合わせて加熱硬化させる。加熱硬化後、所望のサイズとなるように、ダイシングブレードを用いて切断面95で切断加工を行なって、インクジェットヘッドチップを形成する。導電性樹脂9の略中央が切断面となるように切断して導電性樹脂9が露出した面がベース部材の後端部となる。または、導電性樹脂9同士に挟まれた中間点で切断した面がベース部材の前端部となる。このように、図29に示す圧電体基板26を用いた場合には4個のインクジェットヘッドチップを形成することができる。
以上の製造工程は説明のしやすさから主に比較的小型の圧電体基板について説明したが、前述の通り大きな主表面の面積を有する圧電体基板およびカバー部材を用いることにより、一度の多くのインクジェットヘッドチップを製造するバッチ処理も可能である。また、説明の便宜上、本実施の形態において形成したチャンネル溝は1つのインクジェットヘッド当たり5本であるが、任意の数のチャンネル溝を形成することができる。
得られたインクジェットヘッドチップに対して、図6に示した完成品のように、ノズル板16、マニホールド13などを取りつける。厚さが50μmのポリイミドシートに直径20μmの孔(ノズル孔17)がチャンネル溝と略等ピッチで形成されているノズル板16をベース部材1の前端部30にエポキシ系接着剤を用いて接着する。ベース部材1の後端部31には、異方性導電フィルム10およびフレキシブルプリント基板11とを押えこむようにマニフォールド13をエポキシ系接着剤によって接着する。チャンネル溝3と略等ピッチで外部電極12が形成されているフレキシブルプリント基板11を、異方性導電フィルム10を介してベース部材1に固定することにより、ベース部材1の後端面31に露出している導電性樹脂9と外部電極12とが電気的に接続される。外部電極12は図示しない外部駆動用ICに接続され、発信される電気信号に応じてチャンネル壁2が駆動し
てインクが吐出される。最後に、インクの漏れが生じないように、インクジェットヘッドの周囲部分を封止剤(図示せず)により封止する。以上の工程によりインクジェットヘッドは完成する。
(実施の形態8)
図35〜図42を参照して、本発明に基づく実施の形態8におけるインクジェットヘッドの製造方法について説明する。本実施の形態における製造方法は、実施の形態4に示したインクジェットヘッドのうち、図10に示した複数個の連通孔が等間隔に形成されたインクジェットヘッドについての製造方法である。説明の便宜上、形成されるチャンネル溝は10本としているが、チャンネル溝の本数については限定されるものではない。
図35に示すように、矢印40の方向に分極処理を施した圧電材料からなる厚板51を準備する。次に、連通溝用ダイシングブレード65の側面が厚板51の主表面と垂直になるように配置して、矢印80の向きに回転している連通溝用ダイシングブレード65を降下させて研削を行なう。すなわちチョッパ加工を行なう。次に、矢印81に示すように、連通溝用ダイシングブレード65の回転軸が厚板51の主表面と平行になるように移動して、1本の連通溝67を形成する。すなわち、形成される連通溝67が厚板51の前端部30および後端部31になるべき端面と平行になるように連通溝用ダイシングブレード65を移動して、厚板51に対する水平送り加工を行なう。その後、矢印82に示すように、厚板51の主表面に垂直な方向に連通溝用ダイシングブレード82を移動して、厚板51から遠ざける。このように1本の連通溝67を形成する。
次に、連通孔の間隔(ピッチ)となる分のみ、連通溝用ダイシングブレード65を移動して、矢印80から矢印82で示した同じ研削を繰返して複数の連通溝67を形成する。本実施の形態の場合、連通溝67は一定間隔で形成している。
連通溝67の長手方向の端部においては、連通溝形成用ダイシングブレード65の外周形状に沿った円弧形状が形成されるが、端部以外においては連通溝67の深さは矢印81に示す水平送り加工によって一定である。連通孔に大きさのバラツキがあると、残留振動を抑制する効果にもばらつきが出てくるため、ダイシングブレード65の外周の形状に沿った円弧形状となる両端部分には、後にチャンネル壁が形成されないように、十分に長い連通溝67を形成する。ただし、連通溝67は後に連通孔となり、厚板51は後にベース部材の一部となるために、連通溝67が、その長手方向において厚板51の端面にまで到達していると、インクがインクジェットヘッドの外部に漏れ出る。これを避けるため、連通溝67が厚板51の端面に到達しないように研削を行なう。
このように、ダイシングブレードを一の基板の主表面に垂直な方向に移動させて研削を行なう工程と、一の基板の主表面に平行な方向に移動させて研削を行なう工程を採用することにより、容易に連通孔となるべき連通溝を形成することができる。
次に、図36に示すように、矢印41に示す分極処理を施した圧電材料からなる薄板52を準備して、厚板51の連通溝67が形成された面に薄板52を接着剤で接着固定して圧電体基板を形成する。このとき、分極方向が対向するように接着固定する。また、接着剤が連通溝67の内部に入り込み、連通溝67の深さや断面形状が変わる可能性があるため、接着剤の厚さは薄くする。接着剤の塗布には、予め、平板上にローラで接着剤を薄く引き延ばしておき、ローラ上に薄く配置された接着剤を厚板51の主表面に転写する方法を採用する。この方法を採用することによって、接着剤の厚さを薄くすることができ、接着剤が連通溝67の内部に充填されることを防止する。接着剤の厚さが5μm以上の場合は接着剤が連通溝67の内部に充填される場合があり、残留振動の抑制の効果にバラツキが生じる。よって、接着剤の厚さは5μm以下が好ましく、接着剤の厚さが5μm以下で
あれば接着剤が連通溝67の内部に充填されることを防止できる。このようにして厚板51と薄版52とを含む圧電体基板を形成する。
次に、圧電体基板のうち薄板の上面にドライフィルムレジストをラミネートする(図示せず)。ラミネート方法としては、圧電体基板を約80℃に加熱した状態で、ドライフィルムレジストをゴムローラなどで加圧しながら移動させることでラミネートを行なう。
次に、図37に示すように、圧電体基板26のうち、ドライフィルムレジスト28が形成された薄板52の主表面にチャンネル溝3となる溝を形成する。チャンネル溝3は溝加工用ダイシングブレード60を用いて、前端部30から後端部31まで溝の深さが一定になるように水平送り加工を行なう。矢印83に示すように回転している溝加工用ダイシングブレード60の軌跡が圧電体基板26の主表面と平行になるように移動しながら研削を行なって、チャンネル溝3を形成する。一のチャンネル溝3の形成が完了したら、チャンネル溝3の間隔(ピッチ)の分のみ、矢印84の方向に溝加工用ダイシングブレード60を移動する。その後、同じ研削加工を繰返し行なって、複数のチャンネル溝3を形成する。チャンネル溝3の深さは、厚板51と薄版52との板境界面96がチャンネル壁2の高さ方向の略中央になるように形成する。この際に前の工程で形成した連通溝が、チャンネル溝3の形成と同時にチャンネル壁2に形成された連通孔となる。
次に、図38に示すようにチャンネル溝3が形成された圧電体基板26に対して、2方向からの斜め蒸着により、チャンネル壁2の両側面にAl、Cuなどの電極材53を配置する。この方法を採用することによって、チャンネル壁2の上面およびチャンネル溝3の側方の圧電体基板26上面には電極材53が蒸着されるが、チャンネル壁2に形成された連通孔の内部には、シャドーイング効果で電極材が配置されないようにすることができる。よって、連通孔を通じて隣合うチャンネル壁の側面の電極同士が導通することを防止できる。次に、ドライレジストフィルム28を剥離して、チャンネル壁2の上面およびチャンネル溝3の側方の圧電体基板26の主表面に配置された電極材53を除去する(図示せず)。
次に、チャンネル溝の後端部を含むように、ディスペンサ等を用いて導電性ペーストからなる導電性樹脂を塗布する。チャンネル溝の後端部付近に完全に充填させたのち、導電性樹脂を加熱硬化させる(図示せず)。この状態では各チャンネル溝同士が電気的に導通した状態である。
次に、図39に示すように、チャンネル溝3の後端部31付近に導電性樹脂9を充填させた圧電体基板26に対して、ダイシングブレード25を矢印85に示すように上下させて、圧電体基板26の主表面を含む面より上方にある導電性樹脂9を研削する。すなわちチョッパ加工を行なう。その後、矢印84の方向にダイシングブレード25を移動して、同様のチョッパ加工を繰返して、導電性樹脂9の一部と圧電体基板26の一部の除去加工を行って、チャンネル壁2の側面に形成された電極4同士を絶縁する。このように図40に示すように、圧電体基板26からベース部材が形成される。圧電体基板26の表面にチャンネル溝3が形成され、チャンネル溝には側面に電極4が配置されて後端部31付近には導電性樹脂9が形成されている。圧電体基板の後端部付近にはチョッパ加工を行なった際のダイシングブレードの外周形状に対応した曲面である窪み部66が形成されている。また、断面が略長方形の複数の連通孔が、チャンネル壁2に形成されている。
次に、図41に示すようにカバー部材を形成する。カバー部材はベース部材と接着され、カバー部材とチャンネル溝とによってインクチャンネルが構成されるために、ベース部材の材料である圧電体基板と熱膨張率を合わせたほうがよく、また、加工性についても圧電体基板と大差ないものが好ましく、通常は快削性セラミクス、圧電材料などを材料とし
て形成される。カバー部材6は、ベース部材と接着された時に共通インク室を構成するための切欠き部7が形成されており、圧電材料などからなるカバー基板にエッチング法、サンドブラスト法、ダイシングブレード等による研削などの加工を施して形成されている。次に、図42に示すように、カバー部材6とベース部材1とを接着してインクジェットヘッドチップを形成する。
最後に、実施の形態7と同様に、図10に示すように、ベース部材1の前端部30側に、ノズル孔17が形成されたノズル板16を接着剤によって接着し、後端部31側に、異方性導電フィルム10及びフレキシブルプリント基板11を挟んで、マニホールド13を接着固定するなどの工程を経てインクジェットヘッドが完成する。
本実施の形態においては、連通孔となる連通溝を要求される深さまで直接的に形成する方法を説明したが、連通溝の深さを設計値より深く形成しておいて、後に有機膜をインクジェットヘッドの内部に成膜することで連通孔10の深さを調整することもできる。この方法を採用することにより、連通溝を設計値より深く形成することができるため、厚板と薄版との接着時などに接着剤が連通溝に侵入し、連通孔が埋まってしまうことを防止でき、薄板と厚板との接着工程での接着剤量の高精度な管理の必要がなくなり、工程の簡略化が可能となる。さらに好ましくは、有機膜としてパリレン膜などを使用すると、有機膜自体に制振作用があるので、さらに残留振動抑制の効果が増加する。
以上の製造方法によって、圧電体基板に連通溝を形成するという比較的容易な方法によって、残留振動を抑制する連通孔をチャンネル壁に形成することができる。
上述のインクジェットの製造方法は、一つのインクジェットヘッドを製造する場合について説明したが、これに限ることはなく、一度に多数の製造を行なうバッチ処理を行なうことも可能である。すなわち、一枚の大きな圧電基板にチャンネル溝などを形成し、同様にカバー部材を一括して形成して圧電体基板に貼り合わせ、後に切断して多くのインクジェットヘッドチップを製造することなどが可能である。その他にも、カバー部材の形成方法や連通溝の形成方法をダイシングブレードによる研削とは異なる加工方法によって行なってもよい。
上述の実施の形態における研削加工は、それぞれのダイシングブレードと圧電体基板などが相対的に移動すればよく、どちらかが固定されている場合に限定されるわけではない。また、各ダイシングブレードによる研削加工は、ダイシング装置の加工プログラムの変更のみで深さなどを変えることができ、連続する加工を一度に行なうことが可能である。
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
1 ベース部材、2 チャンネル壁、3 チャンネル溝、4 電極、6 カバー部材、7 切欠き部、8 共通インク室、9 導電性樹脂、10 異方性導電フィルム、11 フレキシブルプリント基板、12 外部電極、13 マニホールド、14 マニホールド空間、15 インク供給口、16 ノズル板、17 ノズル孔、19 貫通溝、20 第1凹部、21 第2凹部、22 第1段差部、23 第2段差部、25 ダイシングブレード、26 圧電体基板、27 カバー基板、28 ドライフィルムレジスト、30 前端部、31 後端部、32 前端部、33 後端部、40,41,42,43,44,45,46 矢印、50 連通孔、51 厚板、52 薄板、53 電極材、54 ディスペンサ、55 接着層、56 基板裏面、57 基板表面、60 溝加工用ダイシングブレード、61 第2ダイシングブレード、62 第3ダイシングブレード、65 連通溝用ダイシングブレード、66 凹み部、67 連通溝、70,71,72,73,74,75,76,77,80,81,82,83,84,85 矢印、90 水平面、91,92 研削面、95 切断面、96 板境界面、99 製作誤差。