JP2004106458A - インクジェットヘッドおよびその製造方法 - Google Patents

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Hitoshi Isono
磯野 仁志
Koji Matoba
的場 宏次
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Abstract

【課題】圧電材料のシェアモード変形を行なうインクジェットヘッドにおいて、圧電材料を含むチャンネル壁に生じる不要な静電容量を低減し、さらに、チャンネル壁の上面が拘束されない領域で発生する不要なシェアモード変形を抑制する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、チャンネル壁2において電極4にはさまれた領域に、内部空間を含む。好ましくは、この内部空間はチャンネル壁2の側面と平行であって、チャンネル壁2の上面に形成された静電容量低減溝5であり、カバー部材6とチャンネル壁2の上面が接合される領域を避けて形成される。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリンタなどに用いられるインクジェットヘッドに関する。より詳しくは、圧電材料を含む壁によって区画されたインク室の内部に貯まったインクを、この圧電材料に電圧を印加して変形させ、インク室内に圧力変動を生じさせることによって、噴出させる方式のインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要なインク滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0003】
しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難であり、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
【0004】
このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモードを利用したインクジェット方式が提案されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用してインク滴を吐出するものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0005】
図17から図19を参照して、このようなシェアモードを利用したインクジェットヘッドの構造について説明する。このインクジェットヘッドは、図17において、上下方向のうち一つの向きに分極処理を施した圧電材料に複数のチャンネル溝3が形成されたベース部材1と、インク供給口15と切欠き部7が形成されたカバー部材6と、ノズル孔17が開口されたノズル板16とを張り合わせることで、インクチャンネルを形成している。「インクチャンネル」とは、チャンネル溝3の内部の空間を利用して形成される圧力室の部分をいう。チャンネル壁2には、電界を印加するための電極4が上半分のみに形成されている。以下、ベース部材1において、ノズル板16が接合される端部を前端部30とし、これと反対側を後端部31とする。このインクジェットヘッドの場合、ベース部材1の前端部30から後端部31に向かって、比較的深いチャンネル溝3が形成され、チャンネル溝加工時に使用されるダイシングブレードの直径に対応した円弧状部を介して浅溝部19が形成されている。浅溝部19は外部との電気的接続のための電極引出し部となり、同じくダイシングブレードにより加工されている。浅溝部19に形成された電極4は、後端部31において、たとえばフレキシブルプリント基板11の外部電極12とボンディングワイヤ18によって接続されている。
【0006】
インクの吐出に必要な圧力は、チャンネル壁2の側面に電極4が形成されている区間のうち、チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接着固定されている区間で発生する。この区間におけるシェアモード変形の例を図18に示す。図18は中央2つのチャンネル壁2を駆動させた例であり、中央2つのチャンネル壁2に注目する。図18(a)は駆動前の状態を示す図である。中央のチャンネル溝3の両側面に互いに対向するように配置される電極4同士は同電位である。中央2つのチャンネル壁2において、内側となる2つの電極4と外側となる2つの電極4との間で異なる電圧が印加されると、これら2つのチャンネル壁2は図18(b)に示すようにシェアモード変形する。変形の向きは、チャンネル壁2内部の電界の向きと圧電材料の分極の向きとに依存する。図18(b)は中央のチャンネル溝3の容積が小さくなるように変形したものであり、この時に中央のチャンネル溝3の位置に対応させたノズル孔17からインクが吐出される。
【0007】
このような構造のインクジェットヘッドでは、インク吐出に必要なシェアモード変形を行なうために、チャンネル壁2の上面が拘束されていることと電極4が形成される領域はチャンネル壁2の側面の一部であることが必要である。よって、チャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合されない領域である切欠き部7における領域と浅溝部19における領域とではインク吐出に寄与しない。また、ダイシングブレードの円弧の形状が残った円弧状部もチャンネル溝3の深さが徐々に浅くなるに伴って、シェアモードの変形量も小さくなるためにインクの吐出に寄与しているとはいえない部分である。
【0008】
一方で、電極4がチャンネル壁2を挟み、互いに異なる電圧が印加される構造となっていることから、チャンネル壁2の電極4に挟まれた領域にコンデンサの機能が発生する。この静電容量の大きさに応じて、消費電力が増加したり、高周波制御で行なう印字の高速化やインク滴サイズの変調制御が困難になるなどの弊害が生じていた。図17のインクジェットヘッドにおいては、円弧状部の領域に加えて、細溝部19の領域は静電容量の増加の原因になっている。さらに、インク吐出圧力を発生しない領域については無用に圧電材料を使用していることにもなる。
【0009】
そこで、静電容量を低減できるインクジェットヘッドとして、ダイシングブレードにより加工される円弧状部をなくす構造が、特開平9−94954号公報(特許文献1参照)に開示されている。しかしながら、同公報に開示されているインクジェットヘッドは、チャンネル壁の電極を外部に取り出す際に、ベース基板の底面から接続するので、チャンネル壁に形成された電極を外部に取出す際に、ベース部材の後端部を直角に曲がって電極が形成されることになり、この部分で断線しやすいという問題があった。また、接続用の電極も互いに分離するためのレーザー加工が必要であるなど、工程が複雑であるという問題があった。
【0010】
静電容量を低減して、さらに、チャンネル壁からの電極の引出しが容易な構造のインクジェットヘッドとして、図19に示すようなインクジェットヘッドの構造が提案されている。図17と同一の部分についての詳細な説明は省略する。このインクジェットヘッドでは、チャンネル溝3を、一定の深さでベース部材1の前端部30から後端部31まで貫通するように設けられていることを特徴とする。この構造においては、チャンネル溝3の円弧状部の領域をなくすことができ、余分な静電容量を低減できる。また、圧電材料の使用量も削減できる。チャンネル溝3の後端部31には導電性樹脂9を充填することによって、一のチャンネル溝3を挟んで互いに対向する電極4が同電位になるように電気的な接続が行なわれている。導電性樹脂9はチャンネル溝3の後端部31にまで達しており、ベース部材1の後端部31には、異方性導電フィルム(以下、「ACF」という。)10を挟みこむようにしてフレキシブルプリント基板11が接合されている。フレキシブルプリント基板11の表面の外部電極12と導電性樹脂9とは、ACF10を挟み込んで厚み方向に圧迫することによって、電気的に接続されている。この際、ACF10の特性により、各インクチャンネルごとに電気的な独立は保たれている。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−94954号公報(0007−0015段落、第1−4図)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のとおり、不要な静電容量の低減に関する改善がなされているものの、従来型のインクジェットヘッドでは、まだなお、不要な静電容量が存在する。図19においては、カバー部材6にインクを供給するための切欠き部7が設けられている。インク吐出に寄与する領域はカバー部材6とチャンネル壁2の上面とが接合するAの領域であり、その他のBの領域についてはチャンネル壁2の上面が拘束されておらず、インク吐出に必要な圧力の発生に寄与しない。Bの領域における電極4は、外部電極12とAの領域における電極4とを電気的に接続するため使用されている。しかしながら、チャンネル壁2を電極4が挟む構造となっているので、Bの領域においても電極4の面積に比例した静電容量を有することになり、不要な静電容量の増加を招いている。別の観点からは、Bの領域でもチャンネル壁2の両側の電極4に電圧がかかり、チャンネル壁2の内部に電界が生じると圧電材料の特性により自発的にシェアモード変形する。このBの領域においてはチャンネル壁2の上面が拘束されていないために、生じるシェアモード変形はインク吐出のための加圧を妨げる変形であり、Aの領域とBの領域とでは生じる圧力波変動が異なってインク吐出が不安定になる。特に駆動周波数を高くするとBの領域の圧力波変動がより大きくなりインク吐出はより不安定になるという問題が生じていた。
【0013】
本発明の目的は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、チャンネル壁に生じる不要な静電容量を低減し、さらに、不要なシェアモード変形を抑制することができるインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に基づくインクジェットヘッドは、少なくとも一部が圧電材料であるチャンネル壁に隔てられるようにしてチャンネル溝が形成されたベース部材と、上記チャンネル壁の側面の少なくとも一部において上記圧電材料の部分を挟むように形成された電極とを備えるインクジェットヘッドであって、上記チャンネル壁は上記電極にはさまれた領域に内部空間を含む。一部に上記圧電材料が含まれた上記チャンネル壁は、上記圧電材料が上記電極に挟まれた領域においてシェアモードで変形する。この領域に溝や穴などの空間を形成することにより、上記内部空間を有する領域においての静電容量は小さくなり、上記インクジェットヘッド全体の上記静電容量を低減することができる。さらに、上記チャンネル壁の上面がカバー部材と接合されていない領域においては、上記内部空間が形成されることによって、上記圧電材料からなる上記チャンネル壁の分極方向と直交する方向に印加される電界が非常に小さくなり、この領域で発生する不要なシェアモード変形を抑制してインクの吐出能力の低下を防止することができる。
【0015】
上記発明において好ましくは、上記内部空間は、上記チャンネル壁の側面と平行であって、上記チャンネル壁の上面に形成された静電容量低減溝である。この構成を採用することにより、上記チャンネル壁表面から掘り下げる形で上記内部空間を形成することができ、加工が容易になって生産性が向上する。
【0016】
上記発明において好ましくは、上記静電容量低減溝の幅は、20μm以上であって上記チャンネル壁の幅より30μm以上狭い。上記静電容量低減溝の幅が20μmより広いことで上記チャンネル溝の内部に気泡が巻きこまれた場合にも容易に上記気泡を排出することができる。また、ダイシングブレードを用いて加工することが可能になり上記静電容量低減溝の形成が容易になる。しかし、あまり上記静電容量低減溝の幅が大きすぎると、上記チャンネル壁の強度が弱くなり、上記インクジェットを製造する過程で上記チャンネル壁が破壊される可能性があるので、上記チャンネル壁の幅より30μm以上狭いことが好ましい。
【0017】
上記発明において好ましくは、上記静電容量低減溝は、上記チャンネル壁の幅方向において中央に配置される。この構成を採用することにより、上記チャンネル壁の幅方向において、上記空間が形成されていない厚みが左右対称に存在するので、左右の上記電極に異なる電圧が印加されて上記チャンネル壁が一の向きに変形したときの形状と逆の電圧が印加されて逆の向きに変形したときの形状とを対称にすることができる。
【0018】
上記発明において好ましくは、インク供給のための切欠き部を含み、上記チャンネル壁の上面の少なくとも一部に接合される上記カバー部材を備え、上記チャンネル壁の長手方向に関して、上記チャンネル壁と上記カバー部材とが接合される区間のうち、上記静電容量低減溝の長さの占める割合が20%未満である。上記静電容量を低減する観点からは、上記静電容量低減溝は上記チャンネル溝の長手方向において長く形成される方がその効果も大きくなるが、上記チャンネル壁と上記カバー部材とが接合される領域はインク吐出の圧力発生に寄与する変形を行なう領域であり、十分なシェアモード変形を発生させる必要がある。この構成を採用することにより、上記カバー部材と上記チャンネル壁が接合されている区間のうち、上記静電容量低減溝が形成されている長さの占める割合が20%未満であれば、残りの80%以上の区間においてインクチャンネルを加圧するシェアモード変形が発生するので十分な吐出圧力を確保することができる。
【0019】
上記発明において好ましくは、上記静電容量低減溝は、上記カバー部材と上記チャンネル壁とが接合された領域を避けて形成される。この構成を採用することにより、上記チャンネル壁と上記カバー部材が接合されている領域は従来技術と同一であり、インク吐出に必要なシェアモード変形は変えることなく、静電容量の低減と不要な変形の抑制とを行ない、安定したインク吐出能力を供給することができる。また、上記インクの吐出圧力を大きくすることができる。
【0020】
上記発明において好ましくは、上記ベース部材は、インクを吐出する側の端部である前端部とその反対側の後端部とを含み、上記静電容量低減溝は、上記後端部に達するように形成される。この構成を採用することにより、上記後端部には、上記静電容量低減溝が形成されており、加工が容易となり生産性が向上する。
【0021】
上記発明において好ましくは、上記静電容量低減溝は、上記後端部側から上記前端部側に向かって浅くなるように連続的に深さが変化する区間を含む。この構成を採用することにより、上記静電容量低減溝に気泡が巻き込まれた場合であっても、連続的に深さが変化しているために、上記気泡が容易に移動して上記気泡の排出が容易になる。
【0022】
上記発明において好ましくは、上記電極は、上記チャンネル壁の上端に達するように形成されており、上記静電容量低減溝の深さは、上記電極によって挟まれる領域の深さ以下である。上記静電容量は、上記電極に挟まれた領域において発生するので、上記電極を上端に達するように形成することで、上記静電容量低減溝の効果を上記上端から上記静電容量低減溝の深さの領域まで最大限に生かすことができる。また、上記電極に挟まれた領域においては、上記静電容量低減溝を深くする方がその効果は大きいが、上記電極が形成される深さより深い領域では、上記静電容量の低減には寄与しない。この構成を採用することにより、無用な上記静電容量低減溝の加工を排除して、上記静電容量低減溝の加工時間を短くすることができる。さらに上記静電容量低減溝による無用な上記チャンネル壁の強度低下を抑制することができる。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明に基づくインクジェットヘッドの製造方法の局面では、少なくとも一部が圧電材料であるチャンネル壁に隔てられるようにしてチャンネル溝が形成されたベース部材と、上記チャンネル壁の側面の少なくとも一部において上記圧電材料の部分を挟むように形成された電極とを備えるインクジェットヘッドの製造方法であって、ダイシング加工によって、上記チャンネル壁の上面に静電容量低減溝を形成する工程を含む。ダイシングブレードを用いて、溝を形成することを「ダイシング加工」という。上記静電容量低減溝は細くて加工が難しい。たとえば、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザー加工によって上記静電容量低減溝を加工することが考えられるが、熱の影響があるために実用化は困難と考えられられる。しかし、この方法を採用することにより、上記チャンネル溝の形成を行なう従来の装置と同様の装置を用いて、容易に上記静電容量低減溝を形成することができる。
【0024】
上記発明において好ましくは、上記チャンネル溝のうちインクを吐出する側と反対側の端において、導電性樹脂を充填する樹脂充填工程と、上記導電性樹脂の一部を除去して、上記各チャンネル壁両面において上記チャンネル壁を挟んで互いに対向する上記電極同士の間を絶縁する絶縁工程とを備え、上記絶縁工程は、上記静電容量低減溝を形成することによって上記電極同士の間を絶縁する。従来の方法を踏襲すると、上記樹脂充填工程の後に上記チャンネル壁の上面の上記導電性樹脂を完全に除去してから、上記静電容量低減溝を形成する2つの工程を行なうことになるが、この方法を採用することにより、上記電極間の絶縁と上記静電容量低減溝の形成が一度に行なえて、製造工程を簡略化することができ生産性が向上する。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図1から図3を参照して、本発明に基づく、実施の形態1に係るインクジェットヘッドについて説明する。
【0026】
(構成)
本発明に基づく、実施の形態1に係るインクジェットヘッドの斜視分解図を図1に示す。図1は分かりやすくするため、各部を分解した状態を示している。
【0027】
図1のインクジェットヘッドでは、図19に示した従来型のインクジェットヘッドと同様に、ベース部材1とカバー部材6とノズル板16とACF10とフレキシブルプリント基板11とを備える。ベース部材1は圧電材料からなり、ノズル板16が取付けられる前端部30とその反対側である後端部31とを有する。ベース部材1の上面には複数のチャンネル溝3が前端部30から後端部31まで貫通して、それぞれのチャンネル溝3が平行になるように形成されている。
【0028】
複数本形成されたチャンネル溝3はベース部材1の一部であるチャンネル壁2によって隔てられている。チャンネル壁2の側面、すなわちチャンネル溝3の内面のほぼ上半分には、チャンネル壁2をシェアモード変形させるための電極として電極4が薄く形成されている。電極4はアルミニウムなどの金属材料であって、本実施の形態では1.0μmの厚みを有する。
【0029】
圧電材料は、チャンネル壁2において矢印33に示すように下向きに分極処理が施されており、チャンネル壁2のうち電極4に挟まれた領域が、シェアモード変形してインクを吐出するための駆動源となる。
【0030】
チャンネル溝3の後端部31の近傍には、後端部31に到達するように導電性樹脂9が充填されている。導電性樹脂9には、たとえば、熱硬化型のエポキシ系樹脂に銀のフィラーを混練したものが使用される。それぞれのチャンネル溝3の両側面に形成される電極4は導電性樹脂9の機能によって同電位となるが、チャンネル壁2の両側面に形成される電極4はそれぞれ電気的に分離されている。電極4は導電性樹脂9とACF10とを介在してフレキシブルプリント基板11表面の外部電極12と電気的に接続されている。
【0031】
カバー部材6には共通インク室8を形成するための切欠き部7が設けられている。本実施の形態においては、カバー部材6として、分極処理を施していない圧電体基板を用いて、サンドブラスト加工により切欠き部7を形成している。カバー部材6は、圧電体基板の他にセラミック基板などを材料とすることができ、フライス加工などによって切欠き部7を形成してもよい。マニホールド13は、内側にマニホールド空間14を備え、側板に開口したインク供給口15を有する。ベース部材1とカバー部材6とを貼り合せ、後端部31においてACF10とフレキシブルプリント基板11とを挟持するようにマニホールド13を接合する。
【0032】
前端部30にはノズル板16を接合する。本実施の形態においては、ノズル板16を厚さ50μmのポリイミドフィルムを材料として、ノズル孔17をエキシマレーザ加工によって穿設しているが、たとえば、ノズル板16の材料としてポリエチレンの高分子樹脂を用いることもできる。その他、金属材料であるステンレス板などに、パンチング加工を行なうことによって、ノズル板16を形成してもよい。インクチャンネルで加圧されたインクはノズル孔17から対象物に向けて噴射され、印刷が行なわれる。
【0033】
図2(a)は、このインクジェットヘッドをチャンネル溝3の中心線においてチャンネル溝3の長手方向と平行に切断した断面図である。
【0034】
各部材を結合すると、カバー部材6の切欠き部7とマニホールド13のマニホールド空間14とを合わせた共通インク室8が形成される。インク供給口15から供給されたインクは、共通インク室8に溜められてチャンネル溝3に随時インクを供給し、チャンネル溝3に流入したインクはシェアモード変形によってノズル孔17からインクが噴射される。Aの領域はチャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合されることによって、チャンネル壁2の上面が拘束される領域であり、インク吐出に寄与するシェアモード変形がAの領域において発生する。
【0035】
このような従来の装置の構造に加えて、本実施の形態1においては、チャンネル壁2の上面に静電容量低減溝5が形成されていることを特徴とする。図1に示すように、静電容量低減溝5は、チャンネル壁2の側面に平行に、後端部31から前端部30に向かって形成されている。
【0036】
図2(b)は、このインクジェットヘッドを静電容量低減溝5の中心線においてチャンネル溝3の長手方向と平行に切断した断面図である。
【0037】
本実施の形態では、静電容量低減溝5は、カバー部材6とチャンネル壁2の上面とが結合しない領域であるBの領域のみにおいて形成されている。静電容量低減溝5は、円弧の形状を有して、後端部31に近づくほど溝が深くなるように形成されている。本実施の形態では、Aの領域の長さは1.1mm、Bの領域の長さは2.8mmである。また、静電容量低減溝5は後端部31において最も深く、その深さは150μmである。
【0038】
本実施の形態においては、静電容量低減溝5がBの領域にのみ形成されているが、静電容量低減溝5を長く形成すればするほど、より静電容量を低減することができるので、静電容量低減溝5は、チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接合しているAの領域にまで形成されていてもよい。Aの領域にまで形成される場合、インクチャンネルを加圧する領域が減少してインクの吐出能力が低下してしまうので、Aの領域において、長手方向の80%以上の区間は静電容量低減溝5が形成されずにチャンネル壁2とカバー部材6とが接合されていることが好ましい。換言すれば、Aの領域において、長手方向で静電容量低減溝5の長さの占める割合が20%未満であることが好ましい。
【0039】
図3にベース部材1とカバー部材6とを接合したときの後端部31の断面図を示す。静電容量低減溝5はチャンネル壁2の中央に形成され、本実施の形態では、その深さは、チャンネル壁2の側面に配置される電極4の深さとほぼ同じであるが、この深さに限定される訳ではない。
【0040】
本実施の形態では、チャンネル溝3は300μmの深さで、幅が79μm、ピッチは169μm、チャンネル壁2の幅は90μmである。静電容量低減溝5の幅は25μmであるが、数μmあれば実質的な効果を有する。しかし、20μm未満にすると、機械加工で形成することが困難になることから20μm以上とするのが好ましい。逆に、静電容量低減溝5の幅を広くしすぎると、チャンネル壁2の上部においてチャンネル壁2の幅方向における両側の肉厚が薄くなり、静電容量低減溝5を形成する際に、機械的強度が保てず破損するおそれがある。チャンネル壁2の上面において、静電容量低減溝5の幅方向における両側の肉厚がそれぞれ15μmより厚ければ、機械加工の際に破損するおそれはない。よって、静電容量低減溝5の幅は、チャンネル壁2の幅より30μm以上狭いことが好ましい。本実施の形態では、静電容量低減溝5が形成されていない幅方向の長さが65μm存在し、チャンネル壁2の幅方向における両側の肉厚は32.5μmであって機械的強度を保っている。
【0041】
(作用・効果)
従来のインクジェットヘッドの構成に加えてチャンネル壁2の内部または表面に空間を形成することによって、チャンネル壁2の側面に形成された電極に起因する不要な静電容量を低減することが可能となる。本実施の形態では、この空間は溝状に形成され、チャンネル壁2の上面に配置されている。チャンネル壁2の両側面に配置される電極4によってチャンネル壁2の内部に静電容量が発生するが、溝を形成することによって、誘電率は減少して不要な静電容量を低減することができる。静電容量低減溝5は電極4に挟まれた領域に多く形成されるほどその効果が大きくなるが、たとえ浅くても、電極4に挟まれる領域に空間を形成することになり、静電容量の低減に寄与する。本実施の形態においての静電容量低減溝5は、円弧状に形成されている区間全てにおいて、静電容量の低減に寄与する。静電容量低減溝5の形状が円弧状であることから、後端部31における静電容量低減溝5の深さをより深くすると、電極4に挟まれる領域のうち静電容量低減溝5が形成されている領域が多くなるために、より多くの静電容量低減の効果を得ることができる。しかし、電極4に挟まれる領域より深い領域においての静電容量低減溝5は無用の空間となる。よって本実施の形態においては、後端部31における静電容量低減溝5の深さを電極に挟まれる領域の深さと同じにしている。
【0042】
本実施の形態においては、静電容量低減溝5は、チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接合していない領域であるBの領域に設けられている(図2(b)参照)。チャンネル壁2の上面とカバー部材6とが接合するAの領域では、チャンネル壁2のシェアモードでの駆動が行なわれるので、このような配置にすると、従来のインクジェットヘッドに比べてインク吐出の効率を低下させることなく、静電容量を低減することができる。
【0043】
チャンネル壁2の上面がカバー部材6と接していないBの領域においても、分極した圧電材料を電極4で挟む構造となっているために、この領域も自発的にシェアモード変形が発生する。Bの領域ではチャンネル壁2の上面が拘束されずに自由端であるため、インクを吐出する動作時において、逆にインクチャンネルが大きくなるように変形する。チャンネル壁2に静電容量低減溝5が形成されていることで、チャンネル壁2の分極方向と直交する方向に印加される電界が非常に小さくなり、チャンネル壁2とカバー部材6とが接合しない領域での変形量が小さくなって、インク吐出量を多くすることができる。さらに、不要な変形が少なくなって、インクを安定して吐出させることができる。
【0044】
静電容量低減溝5はチャンネル壁2の幅方向の中央に形成されている。静電容量を低減する観点からは中央以外であっても効果を有する。しかし、静電容量低減溝5の幅方向における両側の肉厚が異なると、シェアモード変形を行なう際に、チャンネル壁2の変形の形状が幅方向で対称とならなくなる。ある電位を電極4にかけると、シェアモード変形は図18(b)に示すように起こり、逆の電界をかけると、チャンネル壁2は逆の向きに曲がる。この2つの変形モードにおいて、チャンネル壁2の剛性が幅方向で異なると、曲がる形状が非対称となり変形の大きさが異なることとなる。よって、静電容量低減溝5は、チャンネル壁2の幅方向の中央に形成されていることが好ましい。また、静電容量低減溝が幅方向のどちらかに偏ると、偏った方の肉厚が薄くなることとなり、機械的加工の際に破損する恐れがある。このことからも、静電容量低減溝5はチャンネル壁2の幅方向の中央に形成されることが好ましい。
【0045】
(実施の形態2)
図4から図6を参照して、本発明に基づく、実施の形態2に係るインクジェットヘッドについて説明する。
【0046】
(構成)
図4に、実施の形態2に係るインクジェットヘッドの斜視分解図を示す。各部の名称、構成など実施の形態1と同一である部分についての説明は省略する。実施の形態1と異なるのは、チャンネル壁2と電極4の部分である。実施の形態1においては、チャンネル壁2は1方向に分極した圧電材料を用いてチャンネル壁2を形成したが、本実施の形態においては、矢印33と矢印34とに示すように、チャンネル壁2の上半分と下半分とで分極方向が異なる構造を有し、チャンネル壁2の高さ全体にわたって電極4が形成される。このチャンネル壁2は、たとえば、分極方向が互いに異なる圧電体基板同士を貼り合わせた基板を加工して形成される。
【0047】
図5(a)は、このインクジェットヘッドをチャンネル溝3の中心線においてチャンネル壁2の長手方向と平行に切断した断面図である。電極4はチャンネル壁2の高さ方向の全体にわたって形成される。電極4は上部と下部とを区別しない同一電位の電極である。
【0048】
図5(b)は、このインクジェットヘッドを静電容量低減溝5の中心線においてチャンネル壁2の長手方向と平行に切断した断面図である。チャンネル壁2は、壁の高さの中央で矢印33および34に示すように分極方向が相反しており、かつ、チャンネル壁2の高さ全体にわたって電界を生じ、その電界は同一方向であるために、上半分と下半分において異なる向きにシェアモード変形する。その際の形状は図18(b)と同様であるが、チャンネル壁2の上部のみならず下部も変形するためにその変形量は実施の形態1よりも大きくすることができる。
【0049】
静電容量低減溝5は、実施の形態1と同様に円弧状の形状を有しているが、最も深い後端部31における深さは、電極4が形成されるチャンネル壁2の上端からの深さに対応させて、チャンネル壁2の高さと同じ深さになっている。静電容量低減溝5の深さは後端部31で300μmであり、前端部30に向かって連続的に浅くなるように形成されている。本実施の形態におけるAの領域の長さは1.1mmでありBの領域の長さは4.8mmである。
ベース部材1にカバー部材6を接合した後端部31における断面図を図6に示す。本実施の形態では、チャンネル溝3の深さは300μmで、幅は79μm、ピッチは169μmである。
【0050】
(作用・効果)
本実施の形態におけるインクジェットヘッドは、チャンネル壁2の上部と下部とで互いに相反する方向に分極処理が施されたインクジェットヘッドに対して、静電容量低減溝を形成したものである。
【0051】
電極4が形成されている領域に静電容量低減溝5が形成されているので、静電容量を低減することができる。本実施の形態においては、電極4がチャンネル壁2の側面全体にわたって形成されるために、静電容量低減溝5は後端部31においてチャンネル壁2の高さと同じになるように形成されている。この深さより深くしても静電容量の低減効果は増加することや、この深さより浅くても効果があることは実施の形態1と同様である。その他、静電容量低減溝5がチャンネル壁2の上面の中央に形成されることが好ましいことについても実施の形態1と同様である。
【0052】
本実施の形態においては、不要な静電容量を排除するために、チャンネル壁4の上面に溝を形成したが、特に断面が円弧の溝に限られず、たとえば、断面が長方形であってもよいし、不規則的な形状を有していてもよい。また、チャンネル壁側面の電極に挟まれる領域に内部空間を有していさえすれば、不要な静電容量の低減に寄与できるので、溝の形状に限られずチャンネル壁の上面から電極に挟まれた領域に穴を形成してもよいし、チャンネル壁の内部に空洞を有する構造としてもよい。
【0053】
(実施の形態3)
図7から図14を参照して、本発明に基づく実施の形態3に係るインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0054】
図7から図13は、本実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法の工程を説明する断面図である。
【0055】
図7に示すように、圧電体材料からなる圧電体基板20の表面にドライレジストフィルム21をフィルムラミネーターを用いて接合する。圧電体基板20には、圧電材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いることができる。本実施の形態では、圧電材料を上下方向の一方向に分極処理を施した圧電体基板を用いている。ドライレジストフィルム21としては日本合成化学工業株式会社製のドライレジストフィルム(日合ALPHO(R) NIT625)を用い、膜厚は30μmである。次に、ドライレジストフィルム21が接合された圧電体基板20には、図8に示すように、ダイシングブレード23を用いてチャンネル溝3が形成される。本実施の形態においては、厚み74μm、直径φ52mmのダイヤモンドブレード(株式会社ディスコ製)をダイシングブレード23として用い、溝の深さが300μm、溝のピッチが169μmとなるようにチャンネル溝3を形成した。加工後のチャンネル溝3の幅は79μmである。ドライレジストフィルム21が接合され、チャンネル溝3の加工が施された圧電体基板20は、図9に示すように、斜方蒸着によって、チャンネル壁2の側面の上半分と上面とにAl金属膜が形成される。金属膜の材料としては、Alの他にCu、Ni、Tiなどの導電性材料を用いることもできる。圧電体基板20の上面は金属膜に覆われて、後に電極となる金属膜はチャンネル壁2の側面の片側と反対側とで、いまだ電気的に分離されていない状態である。
【0056】
次に、金属膜の一部とともにドライレジストフィルム21を引き剥がす(リフトオフする)ことによって、図10に示すように各チャンネル壁2の両側の側面のみに電極4が形成された圧電体基板20を得る。
【0057】
続いて、図11に示すように、ディスペンサー22を用いて、後端部31を含むようにチャンネル溝3の端に導電性樹脂9を充填する。ディスペンサー22は導電性樹脂9を充填しながら矢印35に示す向きに移動する。この工程において、各チャンネル壁2の両側に形成された電極4は、再び電気的に短絡した状態となる。導電性樹脂9が硬化後、図12に示すように、チャンネル壁2の上に形成された余分な導電性樹脂9を除去することで、各チャンネル壁2の側面に形成された電極4は、それぞれ電気的に分離される。導電性樹脂9はラップ盤を用いた研磨方法や研削ブレードによる研削加工法などで除去する。以下、導電性樹脂の充填完了後に、チャンネル壁の両側面に形成される電極の電気的な分離を行なう工程を「絶縁工程」という。
【0058】
図13に示すように、ダイシング加工によって、各チャンネル壁2の幅方向における中心に静電容量低減溝5が加工されてベース部材1の加工が終了する。本実施の形態においては、この静電容量低減溝5は、厚み15μm、直径φ50mmのダイヤモンドブレード(株式会社ディスコ製)をダイシングブレード24として用いて、深さが150μm、ピッチが169μmで加工を行なった。加工後の静電容量低減溝5の幅は20μmである。
【0059】
図14に静電容量低減溝5の形成方法の一形態を示す。この方法では一度に2つの静電容量低減溝5を形成する。図14の(a)から(c)は、静電容量低減溝5を形成する図13の工程以降の工程例を説明する断面図である。図14(a)に示すように、静電容量低減溝5は、ダイシング加工の際にダイシングブレード24を矢印36の方向に移動させることにより加工される。その結果、図14(b)に示すように、静電容量低減溝5はダイシングブレード24の円弧の形状となる。静電容量低減溝5が形成された圧電体基板20は、図14(c)に示すように、予め準備されたカバー部材6が接合され、A−A線およびB−B線の位置で切断される。A−A線とB−B線との間の領域が、ベース部材1とカバー部材6とを含む部品になる。A−A線の切断面が後端部31を含む端面になり、B−B線の切断面が前端部30を含む端面になる。この方法においては、図14(c)の切断によって2つの部品が製造される。
【0060】
以上のような静電容量低減溝5をダイシング加工により形成する方法を採用することにより、静電容量低減溝5の深さを容易に連続的に変化させることができる。この形状を有する静電容量低減溝5は、実施の形態1で説明したとおり、インクジェットヘッドの吐出動作時に静電容量低減溝5の内部に気泡が巻き込まれた場合でも、気泡の移動と排出とが容易となり、インクを安定して吐出することができる。
【0061】
本実施の形態では、ベース部材1のチャンネル壁2の上下方向のうち、一つの向きに分極処理が施された圧電体基板を用いたが、実施の形態2のように互いに異なる2つの向きに分極処理を施した圧電体基板を用いる場合でも、本実施の形態の製造方法を用いることができる。
【0062】
(実施の形態4)
図15および図16を参照して、本発明に基づく実施の形態4に係るインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
【0063】
本実施の形態においては、導電性樹脂の充填により電気的に接続された一のチャンネル壁の側面に対向するように配置された2つの電極について、電極の間をそれぞれ絶縁する方法に関するものであり、それ以外の方法については実施の形態3と同様であるのでここでは詳細な説明を省略する。
【0064】
図15は実施の形態3における図11の工程の次に行なう工程である。図11では、ディスペンサー35を用いてチャンネル溝3の後端部31を含むように導電性樹脂9を充填する工程を示している。この工程において、チャンネル壁2の両側に形成された電極4は、再び電気的に接続した状態となる。本実施の形態では、この状態において、チャンネル壁2の上に形成された導電性樹脂9を除去せずに、図15に示すようにダイシング加工によってチャンネル壁2の上面の中央に静電容量低減溝5を加工してベース部材1の加工が完了する。チャンネル溝3の上面が含まれる面より上の導電性樹脂9は除去されずに図15の工程が完了した状態のまま組立てられる。この工程により、チャンネル壁2の両面にある電極4は、電気的に分離される。本実施の形態においては、静電容量低減溝5は厚み15μm、直径φ50mmのダイヤモンドブレード(株式会社ディスコ製)をダイシングブレード24として用いて、深さが150μm、ピッチが169μmで加工を行なった。加工後のチャンネル溝3の幅は20μmである。
【0065】
図16(a)は、本実施の形態によって製造されたインクジェットヘッドをチャンネル溝3の中心線においてチャンネル溝3の長手方向と平行に切断した断面図である。チャンネル壁2の上面に残る余分な導電性樹脂9は、カバー部材6の切欠き部7によって形成される共通インク室8の内部に吸収される構造となる。
【0066】
図16(b)は、このインクジェットヘッドを静電容量低減溝5の中心線においてチャンネル溝3の長手方向と平行に切断した断面図である。チャンネル溝3の上方には、導電性樹脂9は残っておらず、絶縁が形成されている。静電容量低減溝5の形状は実施の形態3と同様であり、気泡を排出する効果も同様であるのでここでは説明を省略する。
【0067】
このように、本実施の形態によるインクジェットヘッドの製造方法は、チャンネル壁2の上面に形成されていた導電性樹脂9を除去せずに静電容量低減溝5を形成することによって、それぞれのチャンネル壁2の側面に形成された2つの電極4を電気的に分離することができるので、絶縁工程が簡略化され製造効率が向上する。また、余分な導電性樹脂の削除を行なう装置などが不要となってコストの低減にも寄与する。
【0068】
本実施の形態では、ベース部材1としてチャンネル壁2の上下方向のうち、一つの向きに分極処理が施された圧電体基板を用いているが、実施の形態2のように互いに異なる2つの向きに分極処理を施した圧電体基板を用いる場合でも、本実施の形態の製造方法を用いることができる。
【0069】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、チャンネル壁の不要な静電容量を低減できる。特にカバー部材とチャンネル壁の上面とが結合しない領域で生じる静電容量を低減できる。さらにこの領域においてのシェアモード変形も抑制できるインクジェットヘッドを提供することができ、不要な振動やインク吐出能力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの斜視分解図である。
【図2】(a)および(b)は本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1におけるインクジェットヘッドのベース部材とカバー部材とを接合した状態の断面図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの斜視分解図である。
【図5】(a)および(b)は本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドの断面図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態2におけるインクジェットヘッドのベース部材とカバー部材とを接合した状態の断面図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第1の工程を説明する図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第2の工程を説明する図である。
【図9】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第3の工程を説明する図である。
【図10】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第4の工程を説明する図である。
【図11】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第5の工程を説明する図である。
【図12】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第6の工程を説明する図である。
【図13】本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の第7の工程を説明する図である。
【図14】(a),(b)および(c)は、本発明に基づく実施の形態3におけるインクジェットヘッド製造方法の静電容量低減溝を形成する工程を説明する図である。
【図15】本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッド製造方法について、静電容量低減溝を加工すると同時に絶縁を形成する工程を説明する図である。
【図16】(a)および(b)は、本発明に基づく実施の形態4におけるインクジェットヘッド製造方法により製造したインクジェットヘッドの断面図である。
【図17】従来技術に基づく一のインクジェットヘッドの斜視分解図である。
【図18】(a)および(b)は、従来技術に基づくインクジェットヘッドの部分断面図であり、チャンネル壁のシェアモード変形を説明する図である。
【図19】従来技術に基づく他のインクジェットヘッドの斜視分解図である。
【符号の説明】
1 ベース部材、2 チャンネル壁、3 チャンネル溝、4 電極、5 静電容量低減溝、6 カバー部材、7 切欠き部、8 共通インク室、9 導電性樹脂、10 異方性導電フィルム、11 フレキシブルプリント基板、12 外部電極、13 マニホールド、14 マニホールド空間、15 インク供給口、16 ノズル板、17 ノズル孔、18 ボンディングワイヤ、19 浅溝部、20 圧電体基板、21 ドライレジストフィルム、22 ディスペンサー、23,24 ダイシングブレード、30 前端部、31 後端部、33,34,35,36 矢印。

Claims (11)

  1. 少なくとも一部が圧電材料であるチャンネル壁に隔てられるようにしてチャンネル溝が形成されたベース部材と、
    前記チャンネル壁の側面の少なくとも一部において前記圧電材料の部分を挟むように形成された電極と
    を備えるインクジェットヘッドであって、
    前記チャンネル壁は、前記電極にはさまれた領域に内部空間を含む、インクジェットヘッド。
  2. 前記内部空間は、前記チャンネル壁の側面と平行であって、前記チャンネル壁の上面に形成された静電容量低減溝である、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
  3. 前記静電容量低減溝の幅は、20μm以上であって、前記チャンネル壁の幅より30μm以上狭い、請求項2に記載のインクジェットヘッド。
  4. 前記静電容量低減溝は、前記チャンネル壁の幅方向において中央に配置されている、請求項2に記載のインクジェットヘッド。
  5. インク供給のための切欠き部を含み、前記チャンネル壁の上面の少なくとも一部に接合されるカバー部材を備え、
    前記チャンネル壁の長手方向に関して、前記チャンネル壁と前記カバー部材とが接合される区間のうち、前記静電容量低減溝の長さの占める割合が20%未満である、請求項2に記載のインクジェットヘッド。
  6. 前記静電容量低減溝は、前記カバー部材と前記チャンネル壁とが接合された領域を避けて形成される、請求項5に記載のインクジェットヘッド。
  7. 前記ベース部材は、インクを吐出する側の端部である前端部とその反対側の後端部とを含み、前記静電容量低減溝は、前記後端部に達するように形成された、請求項2に記載のインクジェットヘッド。
  8. 前記静電容量低減溝は、前記後端部側から前記前端部側に向かって浅くなるように連続的に深さが変化する区間を含む、請求項7に記載のインクジェットヘッド。
  9. 前記電極は、前記チャンネル壁の上端に達するように形成されており、前記静電容量低減溝の深さは、前記電極によって挟まれる領域の深さ以下である、請求項2に記載のインクジェットヘッド。
  10. 少なくとも一部が圧電材料であるチャンネル壁に隔てられるようにしてチャンネル溝が形成されたベース部材と、
    前記チャンネル壁の側面の少なくとも一部において前記圧電材料の部分を挟むように形成された電極と
    を備える、インクジェットヘッドの製造方法であって、
    ダイシング加工によって、前記チャンネル壁の上面に静電容量低減溝を形成する工程を含む、インクジェットヘッドの製造方法。
  11. 前記チャンネル溝のうちインクを吐出する側と反対側の端において、導電性樹脂を充填する樹脂充填工程と、
    前記導電性樹脂の一部を除去して、前記各チャンネル壁両面において前記チャンネル壁を挟んで互いに対向する前記電極同士の間を絶縁する絶縁工程と
    を備え、前記絶縁工程は、
    前記静電容量低減溝を形成することによって前記電極同士の間を絶縁する、請求項10に記載のインクジェットの製造方法。
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